説明

イオンプレーティング方法及び装置、及びイオンプレーティングによるガスバリア膜形成方法

【課題】高い生産性を保ちながら品質の高い膜を基材上に形成することができるイオンプレーティング方法および装置、およびイオンプレーティングによるガスバリア膜形成方法を提供する。
【解決手段】真空チャンバ12内に設置された被イオンプレーティング用基材13に対して蒸着材料20を蒸着するイオンプレーティング装置10は、蒸着材料20を収納するるつぼ19と、真空チャンバ12内に昇華ガス25を導入するガス導入部24と、昇華ガス25をプラズマ化させる圧力勾配型のプラズマガン11と、プラズマ化された昇華ガス25がるつぼ19に収納された蒸着材料20に照射されるよう磁場を発生させる磁場機構5とを備えている。このうちプラズマガン11はガス導入部24に設けられており、磁場機構5はプラズマガン11と真空チャンバ12との間に設けられている。また、昇華ガス25は、キセノンガス26とアルゴンガス27とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング方法に関する。また本発明は、イオンプレーティング方法を用いて被イオンプレーティング用基材上にガスバリア膜を形成するガスバリア膜形成方法に関する。さらに本発明は、真空チャンバ内に設置された被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品や医薬品等の包装材料において、内容物の品質を劣化させる要因である酸素及び水蒸気の侵入を防ぐため、プラスチックフィルム基材上にガスバリア膜を形成して得られたガスバリア性シートが用いられている。しかしながら、プラスチックフィルム基材表面に存在する凹凸のため、プラスチックフィルム基材表面をガスバリア膜により十分に被覆することができず、このためガスバリア性シートに十分なガスバリア特性を持たせることができないという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、特許文献1において、200μm×200μm以上の面積について測定された平均面粗さSRaが20nm以下である平滑表面を片面または両面に有する基材フィルムと、該基材フィルムの平滑表面に形成された無機化合物からなるガスバリア層とからなるガスバリアフィルムが提案されている。この特許文献1においては、基材フィルム中の添加剤を少なくし、かつフィルムを構成する樹脂成分を溶融させ、その後急冷することにより、表面平滑性に優れた基材フィルムが形成されている。この基材フィルム上にガスバリア層を形成することにより、ガスバリアフィルムのガスバリア特性を向上させている。
【0004】
また特許文献2において、基材の両面にスクラッチ防止層を設け、このスクラッチ防止層上に平坦化層およびバリア積層を積層したバリアアッセンブリが開示されている。このうちバリア積層はバリア層とポリマー層とを有しており、このような積層構造を採用することにより、23度、0%RHにおける酸素透過率が0.005cc/mday以下にまで低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−310412号公報
【特許文献2】米国特許第6,413,645号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来、ガスバリア性シートのガスバリア特性を高めるため、複数の層を積層させてガスバリア性シートが形成されている。このため、生産コストが高くなるという問題がある。
【0007】
ところで、基材の表面に被膜を形成する方法として、イオンプレーティングが知られている。イオンプレーティングは、イオン化した蒸着物質を電界で加速して基材表面に衝突させる方法である。イオンプレーティングは、真空蒸着やスパッタリングに比べて蒸着物質の運動エネルギーが大きいため、基材と蒸着物質との密着性が強いという特徴を有する。
【0008】
イオンプレーティングにおいては、プラズマガンによりイオン化された昇華ガスが、真空チャンバ内に設置された蒸着材料に対して照射される。従来のイオンプレーティングにおいて、一般に昇華ガスとしてアルゴンガスが用いられている。
【0009】
イオンプレーティングにより基材上にガスバリア膜を形成する場合、真空チャンバ内の真空度が高いほど、ガスバリア特性の良いガスバリア膜を得ることができる。しかしながら、真空チャンバ内の真空度が高いと、プラズマガンに放電電力を投入する際の電気抵抗値が高くなり、このため放電電流が小さくなると考えられる。放電電流が小さいと、基材上に形成されるガスバリア膜の成膜速度が遅くなり、このため生産性が落ちる。このように、イオンプレーティングにより基材上にガスバリア膜を形成する場合、ガスバリア膜のガスバリア特性と生産性はトレードオフの関係にある。なお、放電電圧を高くすることにより放電電流を大きくし、これによって生産性を高めることが考えられるが、しかしながら、放電電圧を一定値以上にすると異常放電が生じるため、放電電圧には上限がある。
【0010】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、高い生産性を保ちながら品質の高い膜を基材上に形成することができるイオンプレーティング方法および装置、およびイオンプレーティングによるガスバリア膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング方法において、真空チャンバ内に被イオンプレーティング用基材を設置する工程と、真空チャンバ内に蒸着材料を設置する工程と、真空チャンバのガス導入部に設けられたプラズマガンに、昇華ガス導入管を介して昇華ガスを導入する工程と、プラズマガンに放電電力を投入し、放電を生じさせ、当該放電により昇華ガスをプラズマ化させる工程と、プラズマ化した昇華ガスを真空チャンバ内の蒸着材料に向けて照射する工程と、プラズマ化した昇華ガスによって蒸着材料を昇華させるとともにイオン化させることにより、蒸着材料を基材に対して蒸着させる工程とを備え、昇華ガスはキセノンガスを含むことを特徴とするイオンプレーティング方法である。
【0012】
本発明によるイオンプレーティング方法において、昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブを制御してもよい。好ましくは、制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が0.5〜1.3Ωとなるようキセノン導入バルブを制御する。さらに好ましくは、制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が0.5〜0.9Ωとなるようキセノン導入バルブを制御する。
【0013】
本発明によるイオンプレーティング方法において、昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が所定値よりも大きい場合、電気抵抗値が所定値以下になるまでキセノンガスの導入量を増加させるようキセノン導入バルブを制御してもよい。
【0014】
本発明は、上記記載のイオンプレーティング方法を用いて、被イオンプレーティング用基材上にガスバリア膜を形成することを特徴とするガスバリア膜形成方法である。
【0015】
本発明は、真空チャンバ内に設置された被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング装置において、真空チャンバ内に設置され、蒸着材料を収納するるつぼと、真空チャンバに取り付けられ、真空チャンバ内に昇華ガスを導入する昇華ガス導入管を有するガス導入部と、ガス導入部に接続され、投入された放電電力によって発生する放電により昇華ガスをプラズマ化させるプラズマガンと、プラズマガンによってプラズマ化された昇華ガスがるつぼ内の蒸着材料に照射されるよう磁場を発生させる磁場機構とを備え、昇華ガスはキセノンガスを含むことを特徴とするイオンプレーティング装置である。
【0016】
本発明によるイオンプレーティング装置において、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流を計測するとともに、放電電圧と放電電流とに基づき電気抵抗を算出する検出機構を更に備え、昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、制御装置は、検出機構により算出された電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブを制御してもよい。好ましくは、制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が0.5〜1.3Ωとなるようキセノン導入バルブを制御する。さらに好ましくは、制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が0.5〜0.9Ωとなるようキセノン導入バルブを制御する。
【0017】
本発明によるイオンプレーティング装置において、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流を計測するとともに、放電電圧と放電電流とに基づき電気抵抗を算出する検出機構を更に備え、昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、制御装置は、検出機構により算出された電気抵抗値が所定値よりも大きい場合、電気抵抗値が所定値以下になるまでキセノンガスの導入量を増加させるようキセノン導入バルブを制御してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング方法において、真空チャンバのガス導入部に設けられたプラズマガンに昇華ガス導入管を介して昇華ガスを導入した後、プラズマガンに放電電力を投入し、放電を生じさせ、この放電により昇華ガスをプラズマ化させる。このとき、プラズマガンに導入される昇華ガスは、キセノンガスを含んでいる。このため、昇華ガスにキセノンガスが含まれていない場合に比べて、プラズマガンに放電電力を投入する際の電気抵抗値を低下させることができる。従って、真空チャンバの真空度が高い場合であっても、異常放電が生じない範囲内の放電電圧において、大きな放電電流を得ることができる。このことにより、高い生産性を保ちながら、緻密な膜を被イオンプレーティング用基材上に形成することができる。従って、品質の高い膜、例えばガスバリア膜、導電膜、透明膜、及び高反射膜などを得ることができる。
【0019】
また本発明によれば、上記記載のイオンプレーティング方法を用いて被イオンプレーティング用基材上にガスバリア膜を形成することにより、高い生産性を保ちながら、ガスバリア特性の良いガスバリア膜を被イオンプレーティング用基材上に形成することができる。
【0020】
また本発明によれば、真空チャンバ内に設置された被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング装置において、真空チャンバに取り付けられ、真空チャンバ内に昇華ガスを導入する昇華ガス導入管を有するガス導入部と、ガス導入部に接続され、投入された放電電力によって生じる放電により昇華ガスをプラズマ化させるプラズマガンとが設けられている。このうちプラズマガンに導入される昇華ガスは、キセノンガスを含んでいる。このため、昇華ガスにキセノンガスが含まれていない場合に比べて、プラズマガンに放電電力を投入する際の電気抵抗値を低下させることができる。従って、真空チャンバの真空度が高い場合であっても、異常放電が生じない範囲内の放電電圧において、大きな放電電流を得ることができる。このことにより、高い生産性を保ちながら、緻密な膜を被イオンプレーティング用基材上に形成することができる。従って、品質の高い膜、例えばガスバリア膜、導電膜、透明膜、及び高反射膜などを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施の形態におけるイオンプレーティング装置を示す図。
【図2】図2は、本発明の実施の形態において、基材上に形成されたガスバリア膜を示す断面図。
【図3】図3は、本発明の第2の実施の形態において、制御装置による制御を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種種変形して実施することができる。
【0023】
第1の実施の形態
以下、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0024】
(イオンプレーティング装置)
はじめに図1を参照して、イオンプレーティング装置10について説明する。図1に示すように、真空チャンバ12内に設置された被イオンプレーティング用基材13に対して蒸着材料20を蒸着するイオンプレーティング装置10は、真空チャンバ12内に設置され、蒸着材料20を収納するるつぼ19と、真空チャンバ12に取り付けられ、真空チャンバ12内に昇華ガスを導入する昇華ガス導入管25aを有するガス導入部24と、ガス導入部24に接続され、投入された放電電力によって昇華ガス25をプラズマ化させる圧力勾配型のプラズマガン11と、プラズマガン11によってプラズマ化された昇華ガス25がるつぼ19内の蒸着材料20に照射されるよう磁場を発生させる磁場機構5とを備えている。
【0025】
このうちガス導入部24の昇華ガス導入管25aには、図1に示すように、キセノン導入管26aおよびアルゴン導入管27aが接続されており、昇華ガス導入管25aを介して真空チャンバ12内に導入される昇華ガス25は、キセノン導入管26aを介して供給されるキセノンガス26と、アルゴン導入管27aを介して供給されるアルゴンガス27とを含んでいる。真空チャンバ12内に導入される昇華ガス25中のキセノンガス26およびアルゴンガス27の導入量(流量)は、それぞれキセノン導入バルブ26bおよびアルゴン導入バルブ27bにより調整される。
【0026】
なお本実施の形態において、昇華ガス25とは、プラズマガン11によりプラズマ化され、その後、蒸着材料20に向けて照射された際、蒸着材料20を昇華させるとともに、昇華した蒸着材料20をイオン化させるという2つの役割を果たすガスのことである。
【0027】
次にプラズマガン11について説明する。図1に示すように、プラズマガン11は、放電電源14のマイナス側に接続された環状の陰極15と、放電電源14のプラス側に抵抗を介して接続された環状の第1中間電極16および第2中間電極17とを有している。陰極15側からプラズマガン11に昇華ガス25が供給されると、プラズマガン11に所定の放電電力を投入することにより放電が発生させられ、これによって昇華ガス25がプラズマ化される。プラズマ化された昇華ガス25は、プラズマ化昇華ガス流22として第2中間電極17から真空チャンバ12内に向けて流出させられる。
【0028】
また、前述の磁場機構5が、真空チャンバ12と第2中間電極17との間に設けられている。磁場機構5は、具体的には、真空チャンバ12と第2中間電極17との間の短管部12Aの外側において、短管部12Aを包囲するよう設けられた収束コイル18と、後述するるつぼ19の内部に設けられたるつぼ用磁石21とからなる。この場合、収束コイル18に発生させる磁場を制御することにより、真空チャンバ12におけるプラズマ化昇華ガス流22の行程、プラズマ化昇華ガス流22の収束などを制御することができる。本実施の形態において、真空チャンバ12内に向けて流出したプラズマ化昇華ガス流22が蒸着材料20に照射されるよう、制御装置60により収束コイル18に発生させる磁場が制御される。
【0029】
また真空チャンバ12には、真空チャンバ12内を減圧する排気ポンプ50が排気管49を介して接続されている。
【0030】
また真空チャンバ12内の下部には、前述のように、放電電源14のプラス側に接続された導電性材料からなるるつぼ19が配置されており、このるつぼ19上に蒸着膜31の材料となる蒸着材料20が収納されている。さらに前述のとおり、るつぼ19の内部にるつぼ用磁石21が設けられている。また、るつぼ19は真空チャンバ12およびアース55に対して電気的に浮遊状態となっている。
【0031】
また図1に示すように、短管部12A内には絶縁管1が突設されている。この絶縁管1は、プラズマ化昇華ガス流22の周囲を取囲むよう配置されており、また絶縁管1はプラズマガン11から電気的に浮遊状態となっている。また真空チャンバ12に連結された短管部12A内に、絶縁管1の外周側を取巻く電子帰還電極2が設けられている。電子帰還電極2は、放電電源14のプラス側に接続されており、このため電子帰還電極2の電位はプラズマガン11の真空チャンバ12側における電位よりも高い。前記絶縁管1としては、たとえば、セラミック製短管が採用される。
【0032】
また、真空チャンバ12の内面には、真空チャンバ12から電気的に浮遊状態となる防着板40が設けられている。この防着板40はSUS板からなり、後述するように、プラズマ化した昇華ガス25が蒸着材料20に照射された際に生じる反射電子流3が真空チャンバ12へ帰還して接地されるのを防止するために設けられている。なお、防着板40を設ける代わりに、真空チャンバ12内面に、反射電子流3が真空チャンバ12へ帰還することを防止するための絶縁コーティング膜(図示せず)を設けてもよい。
【0033】
また真空チャンバ12内の被イオンプレーティング用基材13近傍に、被イオンプレーティング用基材13上に形成される蒸着膜31の形成速度を測定する成膜速度計41が設けられ、また成膜速度計41の下方に、真空チャンバ12内の真空度および成膜真空度を各々測定する真空計42が設けられている。さらに、真空チャンバ12内の圧力を調整するため、真空チャンバ12内のるつぼ19近傍に、圧力調整ガス28を導入する圧力調整ガス導入管28aが設けられている。圧力調整ガス28の流量は、圧力調整ガス導入管28aに設けられた圧力調整ガス導入バルブ28bにより調整される。なお圧力調整ガス28としては、キセノンガス26、アルゴンガス27などを用いることができる。
【0034】
さらにプラズマガン11には、プラズマガン11に投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流を計測するとともに、放電電圧と放電電流とに基づき電気抵抗を算出する検出機構61が接続されている。検出機構61は、図1に示すように、プラズマガン11における放電電圧を計測する放電電圧計45と、プラズマガン11における放電電流を計測する放電電流計46と、計測された放電電圧を計測された放電電流によって除することにより電気抵抗値を算出する演算部51とからなる。
【0035】
また電子帰還電極2には、図1に示すように、電子帰還電極電流を測定する電子帰還電極電流計47が接続されている。さらに真空チャンバ12とアース55との間には、真空チャンバ12からの接地電流を測定する接地電流計48が設けられている。
【0036】
なお、上述した放電電圧計45、放電電流計46、演算部51、電子帰還電極電流計47、接地電流計48、成膜速度計41、真空計42からの情報は制御装置60に収集される。
【0037】
なお、後に実施例において詳述するが、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合のプラズマガン11における電気抵抗値は、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合、例えば昇華ガス25がアルゴンガス27のみからなる場合のプラズマガン11における電気抵抗値に比べて小さくなる。このため、プラズマガン11に所定の放電電圧が印加されたとき、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合のプラズマガン11における放電電流は、昇華ガス25がアルゴンガス27のみからなる場合のプラズマガン11における放電電流よりも大きくなる。従って、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合、プラズマガン11の異常放電を発生させない放電電圧の範囲内で、より大きな放電電流を安定して発生させることが可能となる。また、放電電流が大きくなるほど、昇華ガス25のプラズマ化も促進される。このように、昇華ガス25がキセノンガス26を含み、これによってプラズマガン11における電気抵抗値を低下させることにより、プラズマ化した昇華ガス25を多量に発生させることが可能となる。
【0038】
昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合、昇華ガス25がアルゴンガス27のみからなる場合に比べてプラズマガン11における電気抵抗値が低下する理由は、例えば以下のように説明することができる。
一般にアルゴンやキセノン等の希ガスは、最外殻電子が閉殻構造をとるため、反応性はほとんど見られない。しかしキセノンは、その最外殻(5s5p)電子と原子核との間の距離がアルゴンに比べて大きいため、原子核と最外殻電子の間にある電子の遮蔽効果によって、原子核が最外殻電子を束縛する力がアルゴンの場合よりも小くなる。従って、キセノンはアルゴンよりもイオン化し易いと言える。このため、真空放電において抵抗の低いプラズマ状態を作り出すことが可能となる。ここで、抵抗の低いプラズマ状態を作り出すことが可能というのは、高電流・低電圧のプラズマを安定的に発生させることが可能ということを意味する。
【0039】
(蒸着膜)
次に、被イオンプレーティング用基材13上に形成される蒸着膜31について説明する。図2は、本実施の形態において、被イオンプレーティング用基材13上に形成された蒸着膜31を示す断面図である。
【0040】
蒸着膜31は、上述のように、イオンプレーティングにおける蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13上に蒸着して形成された膜である。蒸着材料20としては、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物を挙げることができる。例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ホウ素、酸化ハフニウム、酸化バリウム等の酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、空化ホウ素、空化マグネシウム等である。
【0041】
好ましくは、蒸着材料20は導電性材料をさらに含んでいる。これによって、後述するイオンプレーティング方法において、プラズマ化した昇華ガス25の照射が蒸着材料20に集中しやすくなるという利点がもたらされる。導電性材料としては、導電性を有する材料であれば特に制限はないが、体積抵抗率が1.4μΩ・cm以上かつ1kΩ・cm以下であることが好ましい。導電性材料として、例えば、アルミニウム、珪素、銅、銀、ニッケル、クロム、金、白金、インジウム、錫、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、セリウム、およびこれら金属の合金から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。
【0042】
本実施の形態において、蒸着材料20は、酸化珪素と導電性材料との化合物からなる。また蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13上に蒸着して形成された蒸着膜31の膜厚は10nm以上かつ500nm以下である。蒸着膜31の膜厚をこの範囲にすることにより、生産性を確保するとともに、柔軟性を実現することができ、かつ色味の調整も容易となる。
【0043】
(被イオンプレーティング用基材)
次に、被イオンプレーティング用基材13について説明する。被イオンプレーティング用基材13は、図2に示すように、基材33と、基材33の表面を平滑化するために適宜設けられる平坦化層32とからなる。基材33としては、主にはシート状やフィルム状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることもできる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよい。
【0044】
基材33を樹脂から構成する場合、ポリエチレンテレフタレート(P E T)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアグリレート、ポリエーテルサルフオン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等を用いることができる。この場合、好ましくは1 00度以上、さらに好ましくは150度以上の耐熱性を有する樹脂が使用される。本実施の形態においては、基材33としてPENを使用する。
【0045】
基材33の厚さについては特に制限はないが、可とう性及び形態保持性の観点から、好ましくは、6μm以上かつ400μm以下の基材33が用いられる。さらに好ましくは、12μm以上かつ25μm以下の基材33が用いられる。
【0046】
基材33の表面に対して、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、U V 照射処理、大気圧プラズマ処理、易接着化処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。
【0047】
上述のように、基材33のうち蒸着膜31が形成される側の表面の平坦度を高めるため、当該表面上に平坦化層32が適宜設けられる。平坦化層32の材料としては、例えば、ゾルーゲル材料、硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂、熱硬化型樹脂)、及びフォトレジスト材料等を挙げることができる。例えば、アクリレート系樹脂、エポキシ基をもつ反応性のプレポリマー、オリゴマー、及び/又は単量体を適宜混合したものである電離放射線硬化型樹脂である。また電離放射線硬化型樹脂に、必要に応じてウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、プチラール系、ビニル系等の熱可塑性樹脂を混合して液状とした樹脂を用いることもできる。このような液状樹脂は、分子中に重合性不飽和結合を有しており、紫外線(U V )や電子線(E B)を照射することにより架橋重合反応を起こして3次元の高分子構造に変化するという特性を示す。
【0048】
平坦化層32の厚さは、0.5μm以上かつ1 0μm以下であることが好ましい。これによって、基材33の表面の平滑性を確保することができる。
【0049】
なおガスバリア性シート30の構成は、上記の構成に限られるものではない。例えば、基材33と平坦化層32との間、または平坦化層32と蒸着膜31との間に、接着性の確保等の観点から、適宜他の層を挿入してもよい。また、基材33のうち蒸着膜31が形成される側とは反対側の表面に、他の層を適宜形成してもよい。こうした他の層としては、例えば公知のアンカーコート層、ガスバリア層、ハードコート層、反射防止層、防汚層、防眩層、及びカラーフィルタ等を挙げることができる。
【0050】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。ここでは、イオンプレーティングにより被イオンプレーティング用基材13上に蒸着膜31を形成する方法について説明する。
【0051】
(イオンプレーティング方法)
はじめに、真空チャンバ12内に、基材33と平坦化層32とを有する被イオンプレーティング用基材13を設置する。次に、酸化珪素と導電性化合物との混合物からなる蒸着材料20を真空チャンバ12のるつぼ19内に収納する。その後、真空チャンバ12のガス導入部24に設けられたプラズマガン11に、キセノンガス26とアルゴンガス27とを含む昇華ガス25を導入する。
【0052】
次に、プラズマガン11に放電電力を投入し、これによって放電を生じさせる。このことにより、昇華ガス25がプラズマ化し、この結果、プラズマガン11の第2中間電極17から真空チャンバ12内に向うプラズマ化昇華ガス流22が形成される。形成されたプラズマ化昇華ガス流22は、磁場機構5により生成される磁場に導かれて蒸着材料20に照射される。このとき磁場機構5の収束コイル18は、プラズマ化昇華ガス流22の横断面を収縮させる作用を行ない、また磁場機構5のるつぼ用磁石21は、プラズマ化昇華ガス流22の焦点合わせおよびプラズマ化昇華ガス流22を曲げる作用を行なっている。
【0053】
蒸着材料20にプラズマ化した昇華ガス25が照射されると、るつぼ19内の蒸着材料20が昇華し、同時に、昇華した蒸着材料20がプラズマ化した昇華ガス25によりイオン化される。イオン化した蒸着材料20は電界(図示せず)により加速されて被イオンプレーティング用基材13の下面に衝突する。このようにして、被イオンプレーティング用基材13の下面に蒸着材料20からなる蒸着膜31が形成される。なお前述のように、本実施の形態において蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に衝突する際の運動エネルギーは、真空蒸着またはスパッタリングにより蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に蒸着する際の運動エネルギーよりも大きい。このため、被イオンプレーティング用基材13との密着性が強く緻密な蒸着膜31を形成することができる。
【0054】
この間、プラズマガン11に導入された昇華ガス25には、キセノンガス26が含まれている。このため前述のとおり、プラズマガン11により昇華ガス25をプラズマ化させるとき、プラズマガン11における電気抵抗値が、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べて低くなる。このことにより、高電流・低電圧のプラズマ化した昇華ガス25を安定的に発生させることができる。このようなプラズマ化した昇華ガス25を真空チャンバ12内で蒸着材料20に照射することにより、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べて高い速度で蒸着材料20を昇華させることができる。このことにより、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べて、蒸着膜31を被イオンプレーティング用基材13上により大きな成膜速度で形成することができる。
【0055】
また、プラズマ化した昇華ガス25による電流が大きいため、すなわちプラズマ化昇華ガス流22の電子密度が高いため、昇華した後の蒸着材料20とプラズマ化した昇華ガス25との衝突頻度が、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べて高くなる。このため、蒸着材料20のイオン化やラジカル化(活性化)がより促進される。このため、単位時間あたりより多くの蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に到達する。このことにより、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合に比べて、蒸着膜31の成膜速度がより大きくなるとともに、より緻密な蒸着膜31を被イオンプレーティング用基材13上に形成することができる。
【0056】
ところで、キセノン26の原子量はアルゴン27の原子量の約3.3倍であり、このため、キセノンガス26はアルゴンガス27に比較して重いガスである。このため、キセノンガス26の方がアルゴンガス27よりも拡散しにくいと考えられる。従って、プラズマ化したキセノンガス26またはアルゴンガス27が真空チャンバ12内の磁場によりるつぼ19に収納された蒸着材料20に導かれるとき、キセノンガス26の方がアルゴンガス27よりもよりるつぼ19近傍に滞留すると考えられる。この場合、昇華した蒸着材料20が、るつぼ19近傍に滞留するプラズマ化したキセノンガス26により容易にイオン化される。このことにより、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合、蒸着材料20のイオン化やラジカル化(活性化)がさらに促進されると考えられる。
【0057】
また、蒸着材料20がよりるつぼ19近傍においてイオン化されるため、イオン化した蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13の下面に衝突する際の蒸着材料20の運動エネルギーがより大きくなると考えられる。このため、蒸着材料20と被イオンプレーティング用基材13との密着力が向上し、かつ被イオンプレーティング用基材13上における蒸着材料20のマイグレーションも促進されると考えられる。従って、蒸着材料20と被イオンプレーティング用基材13との間の密着が強固であるだけでなく、蒸着材料20同士の結合も強固となる。このことにより、被イオンプレーティング用基材13上に、緻密かつ平坦であって、異常粒成長による欠陥のない蒸着膜31を形成することができる。
【0058】
また、昇華ガス25がキセノンガス26を含むことによりプラズマガン11における電気抵抗値が低くなるため、より高い真空度においてプラズマ化昇華ガス流22を安定して発生させることが可能となる。このことによっても、形成される蒸着膜31をより緻密にすることができる。
【0059】
上述の理由により、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合、被イオンプレーティング用基材13上と蒸着膜31との間の密着性および蒸着膜31の緻密性を向上させ、かつ蒸着膜31中の欠陥を低減することができ、このことにより、蒸着膜31の品質を向上させることができる。
【0060】
なお、プラズマ化した昇華ガス25がるつぼ19内の蒸着材料20に照射されると、るつぼ19は真空チャンバ12およびアース55に対して電気的に浮遊状態となる。このため、プラズマ化した昇華ガス25が蒸着材料20から反射して反射電子流3が生じる。この場合、真空チャンバ12内面には真空チャンバ12から電気的に浮遊する防着板40が設けられており、このため、防着板40により反射電子流3の真空チャンバ12側への帰還を妨げることができる。このことにより、大部分の反射電子流3をプラズマ化昇華ガス流22の外側を通して電子帰還電極2側へ確実に帰還させることができる。
【0061】
次に反射電子流3の流れについてさらに詳述する。図1に示すように、電子帰還電極2はるつぼ19から離れた位置に設けられており、このため、るつぼ19上から昇華した蒸着材料20が電子帰還電極2に付着することはほとんどない。また、プラズマガン11から出たプラズマ化昇華ガス流22と電子帰還電極2との間に両者を遮る絶縁管1が設けられており、このため、プラズマ化昇華ガス流22が電子帰還電極2に入射し、これによって陰極15と電子帰還電極2との間で異常放電が発生するのを防止することができる。この場合、反射電子流3は、プラズマ化昇華ガス流22の外側であって、プラズマ化昇華ガス流22とは分離した経路に沿って電子帰還電極2まで延びるよう形成される。このことにより、プラズマ化昇華ガス流22を連続的かつ安定に持続させることができる。
【0062】
本実施の形態におけるプラズマ化昇華ガス流22の持続時間は、絶縁管1および電子帰還電極2を設けない場合に比べて倍以上となり、飛躍的に向上することが確認されている。また、絶縁管1を設けることにより異常放電の発生を防止し、これによってプラズマ化昇華ガス流22の電子帰還電極2への流れ込みによる電力ロスを減少させることができる。このため、絶縁管1および電子帰還電極2を設けない場合に比べて、蒸着膜31の成膜速度(材料昇華量)が約20%向上することが確認されている。また、電子帰還電極2を収束コイル18に近い位置に設けることにより、イオンプレーティング装置10全体が小型化されている。なお、るつぼ19が真空チヤンバ12およびアース55に対して電気的に浮遊状態となっているが、蒸着材料20が絶縁性のもの、たとえばMgOなどを用いた場合、成膜過程においてるつぼ19自体が絶縁性となるため、真空チャンバ12およびアース55に対して電気的に浮遊状態にしておかなくても結果として電気的に浮遊状態となり得る。
【0063】
このように本実施の形態によれば、被イオンプレーティング用基材13に対して蒸着材料20を蒸着するイオンプレーティング方法において、真空チャンバ12のガス導入部24に設けられたプラズマガン11に昇華ガス導入管25aを介して昇華ガス25を導入した後、プラズマガン11に放電電力を投入し、放電を生じさせ、当該放電により昇華ガス25をプラズマ化させる。このとき、プラズマガン11に導入される昇華ガス25は、キセノンガス26を含んでいる。このため、昇華ガス25にキセノンガス26が含まれていない場合に比べて、プラズマガン11に放電電力を投入する際の電気抵抗値を低下させることができる。従って、真空チャンバ12の真空度が高い場合であっても、異常放電が生じない範囲内の放電電圧において、大きな放電電流を得ることができる。このことにより、高い生産性を保ちながら、緻密な蒸着膜31を被イオンプレーティング用基材13上に形成することができる。このようにして得られた蒸着膜31は、高品質なガスバリア膜、導電膜、透明膜または高反射膜などとして用いられる。
【0064】
第2の実施の形態
次に図1乃至図3を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。ここで図3は、本発明の第2の実施の形態において、制御装置による制御を示すブロック図である。
【0065】
図1乃至図3に示す第2の実施の形態は、キセノン導入バルブおよびアルゴン導入バルブが制御装置により制御される点が異なるのみであり、他の構成は、図1および図2に示す第1の実施の形態と略同一である。図1乃至図3に示す第2の実施の形態において、図1および図2に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0066】
第1の実施の形態において説明したように、昇華ガス25がキセノンガス26を含む場合のプラズマガン11における電気抵抗値は、昇華ガス25がキセノンガス26を含まない場合、例えば昇華ガス25がアルゴンガス27のみからなる場合のプラズマガン11における電気抵抗値に比べて小さくなる。また、第1の実施の形態において説明したように、プラズマガン11における電気抵抗値が小さいほど、プラズマ化昇華ガス流22の電子密度を高くすることができる。このことにより、蒸着材料20のイオン化やラジカル化(活性化)を促進し、これによって、より緻密な蒸着膜31を被イオンプレーティング用基材13上に形成することができる。なお実施例において後述するが、蒸着膜31としてガスバリア膜31aを形成する場合、プラズマガン11における電気抵抗値が所定の値以下である場合にガスバリア膜31aのガスバリア特性が良好となるという結果が得られている。
【0067】
ところで、プラズマガン11における電気抵抗値は、真空チャンバ12内にキセノンガス26やアルゴンガス27を導入すればするほど、すなわち真空チャンバ12内の真空度が低いほど小さくなる。しかしながら前述のように、真空チャンバ12内の真空度が低いほど、形成される蒸着膜31の品質が劣化する。従って、真空チャンバ12内の真空度が所定値よりも低くならないよう真空チャンバ12内への昇華ガス25の導入量(流量)を制限する必要がある。真空チャンバ12内へのガスの導入量を制限する具体的な方法として、真空チャンバ12内の真空計42からの情報に基づいて真空度が一定値を超えないよう昇華ガス25の導入量を制御する方法、プラズマガン11における電気抵抗値が一定値を下回らないよう昇華ガス25の導入量を制御する方法などが考えられる。
【0068】
本実施の形態において、図3に示すように、検出機構61は、プラズマガン11における放電電圧を計測する放電電圧計45と、プラズマガン11における放電電流を計測する放電電流計46と、計測された放電電圧を計測された放電電流によって除することにより電気抵抗値を算出する演算部51とからなる。また図3に示すように、検出機構61の演算部51により算出された、プラズマガン11における電気抵抗値に関する情報は、制御装置60に送られる。本実施の形態において、制御装置60は、図3に示すように、プラズマガン11における電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブ26bおよびアルゴン導入バルブ27bを制御する。このことにより、イオンプレーティングにより形成される蒸着膜31の品質を良好に保つことができる。
【0069】
好ましくは、制御装置60は、プラズマガン11における電気抵抗値が0.5〜1.3Ωとなるようキセノン導入バルブ26bおよびアルゴン導入バルブ27bを制御する。さらに好ましくは、制御装置60は、プラズマガン11における電気抵抗値が0.5〜0.9Ωとなるようキセノン導入バルブ26bおよびアルゴン導入バルブ27bを制御する。このことにより、イオンプレーティングにより形成される蒸着膜31の品質をさらに良好に保つことができる。
【0070】
なお本実施の形態において、制御装置60により、検出機構61により算出されたプラズマガン11における電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブ26bおよびアルゴン導入バルブ27bが制御される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、制御装置60は、検出機構61により算出された電気抵抗値が所定値よりも大きい場合、電気抵抗値が所定値以下になるまでキセノンガス26の導入量を増加させるようキセノン導入バルブ26bを制御してもよい。この場合、キセノンガス26の導入量が増加するにつれて、プラズマガン11における電気抵抗値が低下する。そして、プラズマガン11における電気抵抗値が所定の値、例えば0.9Ω以下になると、制御装置60はその時点におけるキセノンガス26の導入量を保つようキセノン導入バルブ26bを制御する。このことにより、イオンプレーティングにより形成される蒸着膜31の品質を良好に保つことができる。
【0071】
また本実施の形態において、制御装置60により、検出機構61により算出されたプラズマガン11における電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブ26bおよびアルゴン導入バルブ27bが制御される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、制御装置60は、検出機構61により算出されたプラズマガン11における電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブ26bのみを制御してもよい。
【0072】
また制御装置60は、検出機構61により算出されたプラズマガン11における電気抵抗値が所定範囲内に含まれ、かつ真空計42により計測された真空チャンバ12内の真空度が所定値以下になるようキセノン導入バルブ26bのみを制御してもよい。
【0073】
また制御装置60は、検出機構61により算出されたプラズマガン11における電気抵抗値が所定範囲内に含まれ、かつ成膜速度計41により算出された蒸着膜31の成膜速度が所定範囲内含まれるようキセノン導入バルブ26bを制御してもよい。
【0074】
また制御装置60は、電子帰還電極電流計47および接地電流計48からの情報を考慮してキセノン導入バルブ26bを制御してもよい。
【0075】
第3の実施の形態
次に図1乃至図3を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。
【0076】
図1乃至図3に示す第3の実施の形態においては、イオンプレーティング方法を用いて、被イオンプレーティング用基材上にガスバリア膜が形成される。第3の実施の形態において、他の構成は、図1および図2に示す第1の実施の形態、および図1乃至図3に示す第2の実施の形態と略同一である。第3の実施の形態において、図1および図2に示す第1の実施の形態、および図1乃至図3に示す第2の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0077】
(ガスバリア膜)
はじめに、ガスバリア膜31aについて説明する。本実施の形態においては、被イオンプレーティング用基材13上に形成される蒸着膜31としてガスバリア膜31aが形成される。図2に示すように、被イオンプレーティング用基材13と、被イオンプレーティング用基材13上に形成されたガスバリア膜31aとによりガスバリア性シート30が形成されている。
【0078】
蒸着材料20としては、図1および図2に示す第1の実施の形態において挙げた材料を用いることができる。とりわけ酸化珪素は、透明性を有するとともに高いガスバリア特性を有しており、本実施の形態における蒸着材料20として特に好ましい。また、第1の実施の形態において述べたように、蒸着材料20が導電性材料をさらに含むことが好ましい。従って本実施の形態において、蒸着材料20は酸化珪素と導電性材料との混合物からなる。
【0079】
ガスバリア膜31aの膜厚は、10nm以上かつ500nm以下である。ガスバリア膜31aの膜厚をこの範囲にすることにより、生産性を確保するとともに、ガスバリア特性、柔軟性を実現することができ、かつ色味の調整も容易となる。
【0080】
本発明のガスバリア膜31aを有するガスバリア性シート30を、食品や医薬品等の包装材料だけでなく、例えば、タッチパネル、ディスプレイ用フィルム基板、照明用フィルム基板、太陽電池用フィルム基板、及びサーキットボード用フィルム基板等、軽くて割れにくく、かつ曲げられる部材が好まれる分野において使用することもできる。
【0081】
(ガスバリア膜形成方法)
次に、イオンプレーティング方法を用いて、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成する方法について説明する。はじめに、好ましいイオンプレーティング装置10およびイオンプレーティング条件について説明する。
【0082】
イオンプレーティング装置10のプラズマガン11としては、圧力勾配型のプラズマガン11を用いることが好ましい。圧力勾配型のプラズマガン11を用いることにより、放電電圧が低い場合であっても昇華ガス25を十分にプラズマ化することができ、これによって、形成されるガスバリア膜31aのガスバリア特性を向上させることができる。
【0083】
イオンプレーティングを行う際の真空チャンバ12内の真空度としては、0.005〜0.5Pa、とりわけ0.03〜0.05Paの範囲内であることが好ましい。これによって、蒸着材料20にプラズマ化した昇華ガス25を照射し、るつぼ19内の蒸着材料20を昇華させる際、蒸着材料20の昇華を安定化することができる。一方、真空チャンバ12内の真空度が大きい、例えば大気に近い場合、異常放電が発生することが考えられる。また、真空チャンバ12内の真空度が非常に小さい、例えば超高真空の場合、放電電力を大きくしても放電が発生しないことが考えられる。
【0084】
昇華ガス25のキセノンガス26の導入量としては、12〜30sccmであることが好ましい。これによって、キセノンガス26を安定にプラズマ化することができる。一方、キセノンガス26の導入量が12sccmよりも小さい場合、キセノンガス26のプラズマ化が安定せず、これによって異常放電が発生し、この結果プラズマガン11が破壊されることが考えられる。また、キセノンガス26の導入量が30sccmよりも大きい場合、プラズマ化したキセノンガス26が蒸着材料20を昇華させるエネルギーが小さくなり、このため昇華した蒸着材料20の蒸気圧が小さくなることが考えられる。またキセノンガス26の導入量が30sccmよりも大きい場合、昇華した蒸着材料20のイオン化が抑制され、このため形成されるガスバリア膜31aのガスバリア特性が劣化することが考えられる。
【0085】
本実施の形態において、上記の条件の下でイオンプレーティングを行うことにより、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aが形成される。このとき、上述のように、プラズマガン11に導入される昇華ガス25はキセノンガス26を含んでおり、このため、昇華ガス25にキセノンガス26が含まれていない場合に比べて、プラズマガン11に放電電力を投入する際の電気抵抗値を低下させることができる。従って、真空チャンバ12の真空度が高い場合であっても、異常放電が生じない範囲内の放電電圧において、大きな放電電流を得ることができる。このことにより、高い生産性を保ちながら、ガスバリア特性の良いガスバリア膜31aを得ることができる。
【0086】
また本実施の形態によれば、イオンプレーティングにより得られたガスバリア膜31aにおいて、真空チャンバ12内に設置された蒸着材料20は酸化珪素と導電性化合物との混合物からなる。このため、後に実施例において詳述するように、形成されたガスバリア膜31aの膜厚が120nm以下の場合であっても、ガスバリア膜31aの水蒸気透過率を0.01g/mday以下にすることができる。また、形成されたガスバリア膜31aの膜厚がさらに薄く、例えば40nm以下の場合であっても、ガスバリア膜31aの水蒸気透過率を0.01g/mday以上かつ0.05g/mday以下にすることができる。
【0087】
なお、第2の実施の形態において述べたように、制御装置60は、プラズマガン11における電気抵抗値が0.5〜1.3Ωとなるようキセノン導入バルブ26bを制御してキセノンガス26の導入量を調整してもよい。このことにより、形成されるガスバリア膜31aのガスバリア特性を良好に保つことができる。
【0088】
また上記各実施の形態において、昇華ガス25にキセノンガス26とアルゴンガス27とが含まれる例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、昇華ガス25はその他のガスを含んでいてもよい。若しくは、昇華ガス25がキセノンガス26のみからなっていてもよい。
なお、後に実施例において示すように、昇華ガス25がキセノンガス26とアルゴンガス27とからなる場合、昇華ガス25中のキセノンガス26の比率が大きいほど、形成されるガスバリア膜31aのガスバリア特性が向上する。昇華ガス25中のキセノンガス26の比率は、所望のガスバリア特性、コストおよびプラズマガン11における電気抵抗値などを考慮して設定されるが、ガスバリア特性を考慮すると、昇華ガス25中のキセノンガス26の比率が50%以上であることが好ましい。
【0089】
また上記各実施の形態において、圧力調整ガス28が、圧力調整ガス導入管28aを介して真空チャンバ12内に導入される例を示した。しかしながら、これに限られることはなく、プラズマガン11からプラズマ化昇華ガス流22が安定して発生されている場合、圧力調整ガス28を真空チャンバ12内に導入しなくてもよい。
【実施例】
【0090】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
蒸着材料として、SiO粉末(高純度化学製)とZnO粉末とを10:3の比で混合し、プレス後1000度で1時間焼成し作製した蒸着材料20を用いた。一方、被イオンプレーティング用基材13として、PENフィルムからなる基材33を有する被イオンプレーティング用基材13を用いた。
【0092】
真空チャンバ12内に被イオンプレーティング用基材13を設置し、真空チャンバ12内のるつぼ19に蒸着材料20を収納した後、真空引きを行った。真空度が1×10−4まで到達した後、昇華ガス25としてキセノンガス26を12sccm導入した。その後、プラズマガン11に放電電力を投入し、これによって144Aの放電電流、125Vの放電電圧を発生させ、昇華ガス25をプラズマ化した。なお、sccmとはstandard cubic per minuteの略であり、以下の実施例、比較例においても同様である。
【0093】
収束コイル18に所定の磁場を発生させることにより、プラズマ化した昇華ガス25からなるプラズマ化昇華ガス流22を所定方向に曲げ、これによってプラズマ化した昇華ガス25を真空チャンバ12内の蒸着材料20に向けて照射した。プラズマ化した昇華ガス25によって、蒸着材料20は、昇華するとともにイオン化した。イオン化した蒸着材料20が被イオンプレーティング用基材13上に堆積することにより、膜厚129.8nmのガスバリア膜31aが被イオンプレーティング用基材13上に形成された。なお、イオンプレーティングの実施時間は24秒間であった。
【0094】
形成されたガスバリア膜31aのガスバリア特性として、全光線透過率および水蒸気透過率を測定した。結果、全光線透過率は89%、水蒸気透過率は0.01g/mdayであった。なお全光線透過率の測定は、SMカラーコンピューターSM−C(スガ試験機製)を使用して行った。測定は、JIS K7105に準拠して実施した。また水蒸気透過率の測定は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製 TERMATRAN−W 3/31)を用いて、温度38度、湿度100%RHで行った。
【0095】
(実施例2)
プラズマガン11における放電電流が149A、放電電圧が123Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を6秒間としたこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は40nm、全光線透過率は90.5%、水蒸気透過率は0.05g/mdayであった。
【0096】
(実施例3)
プラズマガン11における放電電流が99A、放電電圧が110Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間としたこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は47.9nm、全光線透過率は90.5%、水蒸気透過率は0.03g/mdayであった。
【0097】
(実施例4)
プラズマガン11における放電電流が184A、放電電圧が97Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間としたこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は50.9nm、全光線透過率は90.7%、水蒸気透過率は0.01g/mdayであった。
【0098】
(実施例5)
プラズマガン11における放電電流が134A、放電電圧が105Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間とし、さらに、圧力調整ガス28としてアルゴンガスを20sccm真空チャンバ12内に導入したこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は80nm、全光線透過率は92.1%、水蒸気透過率は0.03g/mdayであった。
【0099】
(実施例6)
プラズマガン11における放電電流が135A、放電電圧が129Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間とし、さらに、圧力調整ガス28としてアルゴンガスを40sccm真空チャンバ12内に導入したこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は38nm、全光線透過率は90.0%、水蒸気透過率は0.12g/mdayであった。
【0100】
(実施例7)
プラズマガン11における放電電流が174A、放電電圧が102Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間とし、さらに、圧力調整ガス28としてキセノンガスを20sccm真空チャンバ12内に導入したこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は87nm、全光線透過率は92.7%、水蒸気透過率は0.03g/mdayであった。
【0101】
(実施例8)
プラズマガン11における放電電流が105A、放電電圧が136Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間とし、さらに、昇華ガス25としてキセノンガス6sccmとアルゴンガス6sccmとを混合して真空チャンバ12内に導入したこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は123nm、全光線透過率は89.4%、水蒸気透過率は0.03g/mdayであった。
【0102】
(実施例9)
プラズマガン11における放電電流が143A、放電電圧が98Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間とし、さらに、蒸着材料として、SiO粉末(高純度化学製、φ5mm)からなる蒸着材料20を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は185.8nm、全光線透過率は92.9%、水蒸気透過率は0.24g/mdayであった。
【0103】
(実施例10)
プラズマガン11における放電電流が114A、放電電圧が85Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間とし、さらに、蒸着材料として、SiO粉末(高純度化学製、φ5mm)からなる蒸着材料20を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は97.3nm、全光線透過率は93.0%、水蒸気透過率は0.29g/mdayであった。
【0104】
(比較例1)
プラズマガン11における放電電流が113A、放電電圧が162Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を12秒間とし、さらに、昇華ガス25としてアルゴンガス12sccmを真空チャンバ12内に導入したこと以外は、実施例1と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は52.0nm、全光線透過率は89.7%、水蒸気透過率は0.20g/mdayであった。
【0105】
(比較例2)
プラズマガン11における放電電流が77A、放電電圧が118Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を24秒間とし、さらに、昇華ガス25としてアルゴンガス12sccmを真空チャンバ12内に導入したこと以外は、実施例9と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は105.4nm、全光線透過率は92.8%、水蒸気透過率は1.08g/mdayであった。
【0106】
(比較例3)
プラズマガン11における放電電流が126A、放電電圧が144Vであり、かつイオンプレーティングの実施時間を12秒間とし、さらに、圧力調整ガス28としてアルゴンガスを40sccm真空チャンバ12内に導入したこと以外は、比較例2と同様にして、被イオンプレーティング用基材13上にガスバリア膜31aを形成した。得られたガスバリア膜31aの膜厚は161.5nm、全光線透過率は90.9%、水蒸気透過率は1.12g/mdayであった。
【0107】
表1は、実施例1〜10および比較例1〜3におけるプラズマガン11の放電電圧、放電電流および放電電圧および放電電流から算出した電気抵抗値、形成されたガスバリア膜31aの膜厚、全光線透過率および水蒸気透過率をまとめて示す表である。
【表1】

【0108】
実施例1〜4と比較例1との比較から分かるように、昇華ガス25としてキセノンガス26を用いた場合のプラズマガン11における電気抵抗値が、昇華ガス25としてアルゴンガス27を用いた場合の電気抵抗値よりも低下させ、かつ形成されたガスバリア膜31aの水蒸気透過率も低下させることができた。実施例1〜4に示されているように、膜厚が薄くなるにつれてガスバリア膜31aの水蒸気透過率が大きくなる傾向がみられる。しかしながら、昇華ガス25がキセノンガス26を含むことにより、ガスバリア膜31aの膜厚が40nmの場合であっても(実施例2)、0.05g/mdayの水蒸気透過率を実現することができた。
【0109】
実施例1、2、8と比較例1との比較から分かるように、プラズマガン11における電気抵抗値が1.3Ω以下となるよう昇華ガス25におけるキセノンガス26の導入量を制御することにより、ガスバリア膜31aの水蒸気透過率を0.05g/mday以下にすることができた。
【0110】
実施例9、10と比較例2,3との比較から分かるように、蒸着材料20が酸化珪素のみからなる場合であっても、昇華ガス25がキセノンガス26を含むことにより、形成されるガスバリア膜31aの水蒸気透過率を低下させることができた。
【0111】
実施例1、2、5〜7と比較例1との比較から分かるように、圧力調整ガス28としてアルゴンガスを真空チャンバ12内に導入することにより、プラズマガン11における電気抵抗値は低下したが、形成されたガスバリア膜31aの水蒸気透過率は悪化した。このことから、ガスバリア膜31aの水蒸気透過率を低くするためには、プラズマガン11における電気抵抗値を低くするだけでなく、真空チャンバ12内の真空度を低くすることが重要であることがわかる。
【符号の説明】
【0112】
1 絶縁管
2 電子帰還電極
3 反射電子流
5 磁場機構
10 イオンプレーティング装置
11 プラズマガン
12 真空チャンバ
12A 短管部
13 被イオンプレーティング用基材
14 放電電源
15 陰極
16 第1中間電極
17 第2中間電極
18 収束コイル
19 るつぼ
20 蒸着材料
21 るつぼ用磁石
22 プラズマ化昇華ガス流
23 電子帰還電極水冷用ジャケット
24 ガス導入部
25 昇華ガス
25a 昇華ガス導入管
26 キセノンガス
26a キセノン導入管
26b キセノン導入バルブ
27 アルゴンガス
27a アルゴン導入管
27b アルゴン導入バルブ
28 圧力調整ガス28
28a 圧力調整ガス導入管
28b 圧力調整ガス導入バルブ
30 ガスバリア性シート
31 蒸着膜
31a ガスバリア膜
32 平坦化層
32a 第1平坦化層
32b 第2平坦化層
33 基材
40 防着板
41 成膜速度計
42 真空計
43 酸素供給管
44 測定値収集ユニット
45 放電電流計
46 放電電圧計
47 電子帰還電極電流計
48 接地電流計
49 排気管
50 排気ポンプ
51 演算部
55 アース
60 制御装置
61 検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング方法において、
真空チャンバ内に被イオンプレーティング用基材を設置する工程と、
真空チャンバ内に蒸着材料を設置する工程と、
真空チャンバのガス導入部に設けられたプラズマガンに、昇華ガス導入管を介して昇華ガスを導入する工程と、
プラズマガンに放電電力を投入し、放電を生じさせ、当該放電により昇華ガスをプラズマ化させる工程と、
プラズマ化した昇華ガスを真空チャンバ内の蒸着材料に向けて照射する工程と、
プラズマ化した昇華ガスによって蒸着材料を昇華させるとともにイオン化させることにより、蒸着材料を基材に対して蒸着させる工程と、を備え、
昇華ガスはキセノンガスを含むことを特徴とするイオンプレーティング方法。
【請求項2】
昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、
制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング方法。
【請求項3】
制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が0.5〜1.3Ωとなるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項2に記載のイオンプレーティング方法。
【請求項4】
制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が0.5〜0.9Ωとなるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項3に記載のイオンプレーティング方法。
【請求項5】
昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、
制御装置は、プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流に基づき算出される電気抵抗値が所定値よりも大きい場合、電気抵抗値が所定値以下になるまでキセノンガスの導入量を増加させるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング方法。
【請求項6】
請求項1に記載のイオンプレーティング方法を用いて、被イオンプレーティング用基材上にガスバリア膜を形成することを特徴とするガスバリア膜形成方法。
【請求項7】
真空チャンバ内に設置された被イオンプレーティング用基材に対して蒸着材料を蒸着するイオンプレーティング装置において、
真空チャンバ内に設置され、蒸着材料を収納するるつぼと、
真空チャンバに取り付けられ、真空チャンバ内に昇華ガスを導入する昇華ガス導入管を有するガス導入部と、
ガス導入部に接続され、投入された放電電力によって発生する放電により昇華ガスをプラズマ化させるプラズマガンと、
プラズマガンによってプラズマ化された昇華ガスがるつぼ内の蒸着材料に照射されるよう磁場を発生させる磁場機構と、を備え、
昇華ガスはキセノンガスを含むことを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項8】
プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流を計測するとともに、放電電圧と放電電流とに基づき電気抵抗値を算出する検出機構を更に備え、
昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、
制御装置は、検出機構により算出された電気抵抗値が所定範囲内に含まれるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項7に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項9】
制御装置は、検出機構により算出された電気抵抗値が0.5〜1.3Ωとなるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項8に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項10】
制御装置は、検出機構により算出された電気抵抗値が0.5〜0.9Ωとなるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項9に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項11】
プラズマガンに投入された放電電力により生じる放電電圧と放電電流を計測するとともに、放電電圧と放電電流とに基づき電気抵抗を算出する検出機構を更に備え、
昇華ガスのうちキセノンガスの導入量は、昇華ガス導入管に設けられたキセノン導入バルブを介して制御装置により調整され、
制御装置は、検出機構により算出された電気抵抗値が所定値よりも大きい場合、電気抵抗値が所定値以下になるまでキセノンガスの導入量を増加させるようキセノン導入バルブを制御することを特徴とする請求項7に記載のイオンプレーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275618(P2010−275618A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132125(P2009−132125)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】