説明

イオンポリマーゲル電解質およびその前駆体組成物

【課題】 イオン導電性が良好で、かつ耐熱性の高い固形状のポリマーゲル電解質、及びこれを注入やキャスト等の簡単な硬化操作により生成可能な前駆体組成物を提供する。
【解決手段】化学式Iに示す重合性のイオン対化合物(A)と、該イオン対化合物(A)との共重合が可能な不飽和基を2個以上有する架橋剤(B)と、非重合性のイオン対化合物(C)とからなる。ここで、R1〜6は水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基を、R7〜8は炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基。Xは、好ましくは、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、または(Rf2Y)2-Qである。Rf1は炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基、またはアリール基、Rf2はフッ素原子、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基またはアリール基、Yは―SO2―または−PO−Rf2、Qは−Hまたは−CO―Rf2
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトンおよびイオン導電体をなすポリマーゲル電解質、および、これを製造するための前駆体組成物に関する。詳しくは、電池、キャパシター、燃料電池、太陽電池、電気化学センサーなど、電気化学反応を利用する電気化学デバイスに好適に用いることが可能なポリマーゲル電解質およびその前駆体組成物に関する。ポリマーゲル電解質は、化学反応における固体化触媒、帯電防止材料や静電気シールド材料にも応用可能である。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池やキャパシターなどといった電気化学デバイスを高性能化し、または安全性を高めるために、従来用いられてきた液体の電解質に代えてゲル電解質や高分子固体電解質を応用する検討が数多くなされてきた。
【0003】
高分子固体電解質としては、アルキレンオキシドに過塩素酸リチウム、メタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)リチウムなどの電解質塩を添加する方法が検討されてきたが、アルキレンオキシドポリマーの熱運動性などが障害となり、室温(25℃)での良好なイオン伝導性はいまだ得られていない。また、このようなアルキレンオキシドポリマーは熱安定性に問題があり、180℃以上では分解を開始する。
【0004】
また、近年注目されてきたイオン性液体は液状状態では良好なイオン伝導率を示すものの、粘度の高いイオン性液体ではイオン導電率が低下する。さらには、高分子化合物との複合により固体化すると、その高分子鎖の運動の制約を受けてイオンの移動性が損なわれるために、さらにイオン密度が低下しイオン伝導性が低下する(特開平10-265673)。
【特許文献1】特開平10-265673
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、イオン導電性が良好で、かつ耐熱性の高い固形状の電解質を、注入やキャスト等の簡単な硬化操作により生成可能な前駆体組成物、およびこれにより得られるゲル電解質の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のイオンポリマーゲル電解質の前駆体組成物は、ポリマーを生成可能な重合性のイオン対化合物(A)と、該イオン対化合物(A)との共重合が可能な不飽和基を2個以上有する架橋剤(B)と、非重合性のイオン対化合物(C)とからなる。好ましい態様によると重合開始剤を含む。ここでの重合開始剤は、光重合開始剤(D)、熱重合開始剤(E)、レドックス重合開始剤(F)、またはその他のものであって、これらのうちの1種または2種以上の組み合わせである。
【0007】
本発明のイオンポリマーゲル電解質は、上記の前駆体組成物を、注入型へ注入するか、または適当な面上にコーティングする等の操作の後に硬化させることで容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前駆体組成物であると、簡単に注型・含浸・キャストすることが可能であり、UV照射や加熱などの簡単な操作でイオン伝導性の良好なゲル電解質を作成することが可能である。このゲル電解質は、電極間に配置するかまたは電極物質と混合して、電池、キャパシター、燃料電池、太陽電池、電気化学センサーなど電気化学反応を利用する電気化学デバイスに用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
重合によりポリマーを生じるイオン対化合物(A)は化学式(一般式)Iで示され、以下のカチオン群およびアニオン群よりそれぞれ1種以上選ばれてなるイオン対が例示される。
【化1】

【0010】
ここで、R1,R2,R3,R4,R5,R6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1から12のアルキル基またはアリール基を示し、R7,R8はそれぞれ独立に炭素数1から12のアルキル基またはアリール基を示す。
【0011】
カチオン群としては、ジアリルジメチルアンモニウム、ジアリルメチルエチルアンモニウム、ジアリルジエチルアンモニウム、ジアリルジプロピルアンモニウム、ジアリルメチルヘキシルアンモニウム、ジアリルメチルオクチルアンモニウム、ジアリルメチルラウリルアンモニウム、ジアリルメチルベンジルアンモニウム、アリルメタリルジメチルアンモニウム、アリルメタリルメチルエチルアンモニウム、アリルメタリルジエチルアンモニウム、アリルメタリルジプロピルアンモニウム、アリルメタリルメチルヘキシルアンモニウム、アリルメタリルメチルオクチルアンモニウム、アリルメタリルメチルラウリルアンニウム、ジメタリルジメチルアンモニウム、ジメタリルメチルエチルアンモニウム、ジメタリルジエチルアンモニウム、ジメタリルジプロピルアンモニウム、ジメタリルメチルヘキシルアンモニウム、ジメタリルメチルオクチルアンモニウム、ジメタリルメチルラウリルアンニウムなどが挙げられ、このなかでも、ジアリルジメチルアンモニウム、ジアリルメチルエチルアンモニウム、ジメタリルジメチルアンモニウム、ジアリルメチルプロピルアンモニウム、ジアリルメチルヘキシルアンモニウムが好ましく、ジアリルジメチルアンモニウムがコストの点から特に好ましい。
【0012】
アニオン群としては、Cl-、Br-、I-、AlCl4-、PF6-、BF4-、ビス(オキサラト)ホウ酸アニオン、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、及び(Rf2Y)2-Qが挙げられる。ここで、Rf1は炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基またはアリール基を示し、Rf2は、それぞれ独立にフッ素原子、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基、またはアリール基を示す。また、Yは、―SO2―、または−PO−Rf2を示し、Qは−Hまたは−CO―Rf2を示す。このアニオン群のなかでも、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、及び(Rf2Y)2-Qが好ましく、(CF3SO22-、(FSO22-、(NC)2-が特に好ましい。
【0013】
これら重合によりポリマーを生じるイオン性液体(A)は、重合時にその構造が環化重合することで、イオン性液体の研究からカチオン基として好ましいとされる、脂肪族の5員環または/および6員環アンモニウムを形成しているものと推察される。
【0014】
この、重合によりポリマーを生じるイオン対化合物(A)は前駆体組成物中に5重量部以上で配合されることが好ましく、20重量部以上で配合されることが特に好ましい。
【0015】
イオン対化合物(A)との共重合が可能な不飽和基を2個以上有する架橋剤(B)は、好ましくは、ビニル基、アリル基、メタリル基、アクリル基、及びメタクリル基よりなる群から選ばれる不飽和基を2個以上、好ましくは2個または3個有するモノマーである。このような架橋剤(B)としては、下記のカチオン群およびアニオン群よりそれぞれ一種以上選ばれてなるイオン対、および/または、下記の非イオン化合物群より選ばれる1種以上の非イオン化合物が挙げられる。
【0016】
カチオン群としては、トリアリルアミン、トリアリルメチルアンモニウム、トリアリルエチルアンモニウム、トリアリルプロピルアンモニウム、トリアリルブチルアンモニウム、トリアリルヘキシルアンモニウム、トリアリルベンジルアンモニウム、テトラアリルアンモニウム、ジアリルメタリルメチルアンモニウム、アリルジメタリルメチルアンモニウム、トリメタリルメチルアンモニウムなどが挙げられ、この中でもトリアリルメチルアンモニウム、トリアリルエチルアンモニウム、トリアリルプロピルアンモニウム、トリアリルブチルアンモニウム、トリアリルヘキシルアンモニウムが特に好ましい。
【0017】
アニオン群としては、Cl-、Br-、I-、AlCl4-、PF6-、BF4-、ビス(オキサラト)ホウ酸アニオン、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、及び(Rf2Y)2-Qが挙げられる。ここで、Rf1は炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基、またはアリール基を示し、Rf2は、それぞれ独立にフッ素原子、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基またはアリール基を示す。また、Yは、―SO2―、または−PO−Rf2を示し、Qは−Hまたは−CO―Rf2を示す。このアニオン群のなかでも、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、及び(Rf2Y)2-Qが好ましく、(CF3SO22-、(FSO22-、(NC)2-が特に好ましい。
【0018】
非イオン化合物群としては、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどの環化重合性に乏しい不飽和基を2個有するモノマー、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ネオペンチルグリコールテトラアリルエーテルなどの不飽和基を3個以上有する化合物が挙げられ、そのなかでもジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアリルエーテルなどアリル基を含有し、窒素原子および/または酸素原子を持つ化合物が他の成分との親和性の観点とコストの観点から好ましく、1重量部以上、50重量部以下で加えられることが好ましい。
【0019】
非重合性のイオン対化合物(C)としては、下記カチオン群およびアニオン群よりそれぞれ1種以上が選ばれてなるイオン対が挙げられる。
【0020】
カチオン群としては、プロトン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、水銀イオン、その他の遷移金属イオン、希土類元素のイオン、ジアゾニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、オキソニウムイオン、及び、一般式NuR+で表される有機カチオンを挙げることができる。なお、一般式NuR+において、Nuは、アンモニア、アルキルアミン、ピリジン、イミダゾール、アミジン、グアニジンまたはアルカロイドであり、Rは、炭素数1〜20のアルキル基もしくはオキシアルキル基、または炭素数6〜30のアリール基である。
【0021】
さらに好ましいカチオン群としては、リチウム、ナトリウムなどの金属イオンおよび/または化学式IIで示されるイミダゾリウム、および/または化学式IIIで示される第四級アンモニウムがあげられ、そのなかでもメチルエチルイミダゾリウム、メチルプロピルイミダゾリウム、メチルヘキシルイミダゾリウム、ジメチルジプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウムがコストの点で特に好ましい。
【化2】

【0022】
ここで、R1,2はそれぞれ炭素数1〜8までのアルキル基、アリール基またはアルコキシ基を示す。
【化3】

【0023】
ここで、R1,2,3,4はそれぞれ独立して炭素数1〜8までのアルキル基、アリール基またはアルコキシ基を示す。
【0024】
アニオン群としては、Cl-、Br-、I-、AlCl4-、PF6-、BF4-、ビス(オキサラト)ホウ酸アニオン、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、及び(Rf2Y)2-Qが挙げられる。ここで、Rf1は炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基またはアリール基を示し、Rf2は、それぞれ独立にフッ素原子、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基またはアリール基を示す。また、Yは、―SO2―、または−PO−Rf2を示し、Qは−Hまたは−CO―Rf2を示す。このアニオン群のなかでも、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、及び(Rf2Y)2-Qが好ましく、(CF3SO22-、(FSO22-、(NC)2-が特に好ましい。この非重合性のイオン対化合物(C)の配合量は特に限定されないが95重量部以下が好ましく、80重量部以下が特に好ましく、95重量部を超えて配合されると、ゲル体を形成できなくなる。
【0025】
光重合開始剤(D)としては特に限定されないが、2,2−ジメトキシ-2-フェニルアソトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フォスフィンオキシド類、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィノキシド、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]などから選ばれる1種以上が挙げられ、0.05重量部以上、5重量部以下で添加されることが好ましく、0.05重量部未満となるとゲル体が形成されなくなり、5重量部を超えて添加されると安全性が低下することやコストの点で不利となる。
【0026】
熱重合開始剤(E)としては特に限定されないが、メチルエチルケトンパーオキサイドやアセチルアセトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、イソブチリルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類、ジクミルパーオキシドやジブチルクミルパーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類、t−ブチルパーオキシピバレートやt−ブチルパーオキシイソブチレートなどのアルキルパーエステル類、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート類などから選ばれる1種以上が挙げられ、0.05重量部以上、5重量部以下で添加されることが好ましく、0.05重量部未満となるとゲル体が形成されなくなり、5重量部を超えて添加されると安全性が低下することやコストの点で不利となる。
【0027】
これら重合開始剤は、単独もしくは複合にて用いられる。
【0028】
また、本前駆体組成物は必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、酸化還元性物質、無機フィラーなどを加えることが出来る。また、硬化させてなるゲル電解質が成型体を維持できる範囲で、相溶可能な溶媒を添加することも出来る。
【0029】
さらに、本前駆体組成物には、ゲル電解質の強度改良や柔軟性改良などの目的に応じて、重合性モノマーをさらに追加することができる。追加できるモノマーとしては、本前駆体組成物との相溶性があれば特に限定されないが、例えば、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、酢酸アリル、ビニルホルムアミド、アクリル酸ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステルといった、不飽和基を1個有する極性モノマーが挙げられる。
【0030】
前駆体組成物の作成方法は特に限定されないが例示すると次のとおりである。攪拌可能な反応容器中に、重合によりポリマーを生成可能なイオン対化合物(A)と、これと共重合が可能な不飽和基を有する架橋剤(B)とを仕込んで混合した上で、非重合性のイオン対化合物(C)を添加する。これに、光重合開始剤(D)および/または熱重合開始剤を適宜溶解する。前駆体組成物の調製は、次のように行うこともできる。すなわち、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトニトリルなどの相溶可能な溶媒に、ポリマー重合性のイオン対化合物(A)と、これと共重合が可能な不飽和基を有する架橋剤(B)と、非重合性のイオン対化合物(C)と、重合開始剤とを随時添加し、溶解混合した後、溶媒を留去することで調製することも可能である。
【0031】
また、貯蔵安定性を高めるために、重合開始剤を添加していない前駆体組成物を作成しておき、ゲル電解質を作成する直前に重合開始剤を添加することも可能である。
【0032】
この、前駆体組成物よりゲル電解質を調製する方法は特に限定されないが、例えば、前駆体組成物を注型に流し込んだ後に、配合された開始剤に応じて、UV照射もしくは熱を加えて硬化させる。または、前駆体組成物をフィルム上にキャストし、上記と同様に硬化させフィルム状ゲル電解質を形成させることも可能である。
【0033】
こうして形成されたイオンポリマーゲル電解質は、非流動性のゲル状態を維持しながら、イオン伝導性の良好な電解質を形成している。その理由は、良好な環状アンモニウム基を持つイオン性ポリマーマトリックス中に固定化されていないアニオン基が存在し、さらに低温特性の良好なフリーのイオン対化合物からなるカチオンおよびアニオン成分が共存することであると推察される。
【実施例1】
【0034】
ジアリルジメチルアンモニウム−(FSO2)2-(45重量部)、プロピルメチルイミダゾリウム−(FSO2)2-(45重量部)、トリアリルメチルアンモニウム−(CF3SO2)2-(9.5重量部)、及びIrgacure651(チバスペシャリティケミカルズ製:0.5重量部)を混合し、ポリプロピレンフィルム上に0.5mmの厚みに塗布した。その後、ポリプロピレンの保護フィルムをかぶせ、15mW/cm2のUV照射を10分間加えゲル電解質フィルムを得た。インピーダンスアナライザーにより25℃でのこのフィルムのイオン伝導率を測定したところ、10.2mS/cmであった。また、このフィルムの熱重量分析を行ったところ熱減量開始温度はおよそ290℃であった。
【実施例2】
【0035】
ジアリルジメチルアンモニウム−(CF3SO2)2-(45重量部)、エチルメチルイミダゾリウム−(CF3SO2)2-(45重量部)、トリアリルイソシアヌレート(9.5重量部)、及びEsacure KTO46(Lamberti製:0.5重量部)を均一に混合し、支持体であるポリプロピレンのフィルム上に0.5mmの厚みに塗布した。その後、ポリプロピレンの保護フィルムをかぶせ、15mW /cm2のUV照射を10分間加えることにより、均一な、非流動性で、ピンセットで挟むことで自立できるゲル電解質フィルムを得た。このフィルムを直径1cmにカットし、インピーダンスアナライザーにより25℃でのイオン伝導率を測定したところ、13.1mS/cmであった。
【実施例3】
【0036】
ジアリルジメチルアンモニウム−(CF3SO22-(76重量部)、エチルプロピルイミダゾリウム−(CF3SO22N−(18重量部)、ジアリルフタレート(5重量部)、及びEsacure KTO46(Lamberti製:1重量部)を均一に混合し、支持体であるポリプロピレンのフィルム上に0.5mmの厚みに塗布した。その後、ポリプロピレンの保護フィルムをかぶせ、15mW /cm2のUV照射を10分間加えることにより、均一な、非流動性で、ピンセットで挟むことで自立できるゲル電解質フィルムを得た。このフィルムを直径1cmにカットし、25℃においてインピーダンスアナライザーでイオン伝導率を測定したところ、4.6mS/cmであった。
【実施例4】
【0037】
攪拌装置を備えた反応容器に、アセトニトリル(200重量部)を仕込み、Li−(CF3SO22-(17重量部)を溶解した。さらに、ジアリルジメチルアンモニウム−(CF3SO22-(45重量部)、エチルメチルイミダゾリウム−(CF3SO22-(25重量部)、トリアリルイソシアヌレート(12重量部)、及びEsacureKTO46(Lamberti製:1重量部)を均一に混合した。混合液は、60℃に加熱し、減圧下で溶媒のアセトニトリルを留去させ前駆体組成物を得た。得られた前駆体組成物は支持体であるポリプロピレンのフィルム上に0.5mmの厚みに塗布した。その後、ポリプロピレンの保護フィルムをかぶせ、15mW /cm2のUV照射を10分間加えることにより、均一な非流動性のゲル電解質フィルムを得た。このフィルムを直径1cmにカットし、インピーダンスアナライザーで25℃におけるイオン伝導率を測定したところ、8.1mS/cmであった。
【実施例5】
【0038】
ジアリルジメチルアンモニウム−(NC)2-(25重量部)、トリメチルブチルアンモニウム−(NC)2-(50重量部)、トリアリルイソシアヌレート(24重量部)、及びパーカドックス16(化薬アクゾ製:1重量部)を均一に混合し、直径3cmのガラス製サンプル瓶に注入し、その液中に伝導率測定用電極を挿入した。これを70℃で2時間に加熱しゲル状電解質を得た。インピーダンスアナライザーにより25℃でのイオン伝導率を測定したところ、10.5mS/cmであった。
【比較例1】
【0039】
ジアリルジメチルアンモニウム−(CF3SO22-(50重量部)、エチルメチルイミダゾリウム−(CF3SO22-(49重量部)、及びEsacure KTO46(Lamberti製:1重量部)を均一に混合し、支持体であるポリプロピレンのフィルム上に0.5mmの厚みに塗布した。その後、ポリプロピレンの保護フィルムをかぶせ、15mW /cm2のUV照射を10分間加え均一な非流動性の組成物を得たがペースト状であり、自立可能なゲル電解質フィルムを得ることが出来なかった。ただし、このペーストのイオン伝導率は15.1mS/cmを示した。
【比較例2】
【0040】
ジアリルジメチルアンモニウム−(CF3SO22-(4重量部)、エチルメチルイミダゾリウム−(CF3SO22-(95重量部)、トリアリルイソシアヌレート(0.5重量部)、及びEsacure KTO46(Lamberti製:0.5重量部)を均一に混合し、支持体であるポリプロピレンのフィルム上に0.5mmの厚みに塗布した。その後、ポリプロピレンの保護フィルムをかぶせ、15mW /cm2のUV照射を10分間加えたが、液状を維持しておりゲル電解質フィルムを作成することが出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性のイオン対化合物(A)と、該イオン対化合物(A)との共重合が可能な不飽和基を2個以上有する架橋剤(B)と、非重合性のイオン対化合物(C)とからなることを特徴とする、イオンポリマーゲル電解質の前駆体組成物。
【請求項2】
前記重合性のイオン対化合物(A)が、下記化学式Iで示される重合性モノマーであることを特徴とする請求項1のイオンポリマーゲル電解質の前駆体組成物。
【化1】

ここで、R1,R2,R3,R4,R5,R6は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1から12のアルキル基またはアリール基を示す。R7,R8は、それぞれ独立に炭素数1から12のアルキル基またはアリール基を示す。また、Xは、ハロゲン原子、AlCl4-、PF6-、BF4-、ビス(オキサラト)ホウ酸アニオン、Rf1SO3-、(NC)2-、(Rf2Y)2-、(Rf2Y)3-、及び(Rf2Y)2-Qよりなる群から選ばれる1種以上のアニオンである。なお、Rf1は炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基、またはアリール基を示し、Rf2は、それぞれ独立にフッ素原子、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基またはアリール基を示す。また、Yは、―SO2―、または−PO−Rf2を示し、Qは−Hまたは−CO―Rf2を示す。
【請求項3】
前記非重合性のイオン対化合物(C)におけるカチオン基が、プロトン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、水銀イオン、希土類元素のイオン、ジアゾニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、オキソニウムイオン、または、一般式NuR+で表される有機カチオンであることを特徴とする請求項1または2に記載のイオンポリマーゲル電解質。
なお、上記一般式NuR+において、Nuは、アンモニア、アルキルアミン、ピリジン、イミダゾール、アミジン、グアニジンまたはアルカロイドであり、Rは、炭素数1〜20のアルキル基もしくはオキシアルキル基、または炭素数6〜30のアリール基である。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の前駆体組成物を重合してなるイオンポリマーゲル電解質。

【公開番号】特開2006−32237(P2006−32237A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212276(P2004−212276)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】