イオンモビリティ分光計
【課題】 真空系を必要としない小型の分析装置でありながら選択性の高いモニタリング装置を提供する。
【解決手段】 主として分子量関連イオンが生成される大気圧イオン源(非解離性大気圧イオン源)と、主として解離イオンが生成される大気圧イオン源(解離性大気圧イオン源)の2種類の大気圧イオン源をイオン移動度分光計に装備して非解離性イオン源と解離性イオン源との切り替え機構を設ける。また測定対象物質毎に非解離性イオン源により生成される分子量関連イオンと解離性イオン源により生成される解離イオンの特性値(イオン移動度またはそれに相関する値)を登録したデータベースを備える。非解離性イオン源と解離性イオン源の両モードでそれぞれデータベースと一致するイオンが検知された場合に、測定対象物質が検知されたと判定する。またこのとき、非解離性イオン源の動作中には解離イオンの有無を、逆に解離性イオン源の動作中には分子量関連イオンの有無をも調べて判定に資することにより、信頼性を向上する。
【解決手段】 主として分子量関連イオンが生成される大気圧イオン源(非解離性大気圧イオン源)と、主として解離イオンが生成される大気圧イオン源(解離性大気圧イオン源)の2種類の大気圧イオン源をイオン移動度分光計に装備して非解離性イオン源と解離性イオン源との切り替え機構を設ける。また測定対象物質毎に非解離性イオン源により生成される分子量関連イオンと解離性イオン源により生成される解離イオンの特性値(イオン移動度またはそれに相関する値)を登録したデータベースを備える。非解離性イオン源と解離性イオン源の両モードでそれぞれデータベースと一致するイオンが検知された場合に、測定対象物質が検知されたと判定する。またこのとき、非解離性イオン源の動作中には解離イオンの有無を、逆に解離性イオン源の動作中には分子量関連イオンの有無をも調べて判定に資することにより、信頼性を向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンモビリティ分光計に関する。
【背景技術】
【0002】
爆薬、化学剤(化学テロなどに使用される有毒物質)、麻薬などの不正薬物、種々の環境汚染物質などを探知するためのモニタリング装置への要求が高まっている。質量分析法は、分子量に関する情報が得られることから、種々の混合物の中から目的物質を高選択的に検出できる特長がある。そのため質量分析法に基づくモニタリング装置は誤報(擬陽性)が少ない特長がある。しかしながら、質量分析計は真空系を必要とする為に装置が大型であるという問題がある。質量分析計の選択性は質量分解能に依存し、分解能が高いほど選択性が高い。
しかし一般に質量分析計の分解能と装置サイズはトレードオフの関係にあり、分解能を上げようとすると装置が大型化する。またタンデム質量分析機能を装備することで分子の部分構造に関する情報が得られるために質量分析計の選択性が飛躍的に向上することが知られている。しかしタンデム質量分析を行なうには、イオンを衝突解離させるために真空装置内にターゲットガスを導入する必要がある。そのため真空排気能力を上げる必要があり、装置が大型化する。
【0003】
このような課題に対して質量分析計のサイズを据え置いたままで選択性を向上しようとする試みが成されている。例えば、特許文献1には、質量分析計を利用する化学剤探知方法が開示されている。これによれば、大気中でのコロナ放電により測定対象物質であるサリンをイオン化すると分子量関連イオンであるプロトン化分子(M+H)+が生成するが、その一部は真空装置内部の差動排気部において残留ガスとの衝突により解離し、解離イオンが生成される。分子量関連イオンと解離イオンの両方が検出された場合にサリンが検出されたと判定することにより、選択性が向上して誤報が低減する。
【0004】
一方、大気圧またはそれに近い圧力下でのイオン移動度の相違に基づいて物質を識別するイオンモビリティ分光計(IMS)が知られている。IMSは真空系を必要としないために装置を小型化しやすく、これを利用した手のひらサイズのモニタリング装置も市販されている。しかしながらIMSは一般に質量分析法に比べて選択性が低く、その結果として誤報が多い問題がある。そこで、IMSの選択性を向上しようとする試みが成されている。例えば、特許文献2には、麻薬物質を選択的にイオン化できるドーパントが開示されている。
【0005】
【特許文献1】日本国特許3787116号
【特許文献2】日本国特許3045655号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている質量分析計では、イオン源において測定対象物質の分子量関連イオンを生成し、分子量関連イオンとその一部が質量分析計の差動排気部で解離して生成された解離イオンの両方が検出された場合に測定対象物質が検出されたと判定することにより、選択性を向上している。しかしながら、質量スペクトル中で測定対象物質の分子量関連イオンとその解離イオンに該当する質量対電荷比のイオンが同時に観測されたというだけでは、一方が他方の解離イオンであるという保証にはならない。すなわち信頼性が十分とは言えず、その選択性の向上効果は限定的なものである。また、この技術は真空装置内部でのイオンとガス分子との衝突解離により解離イオンを生成する方法であり、真空系を必要とする質量分析計において実現するものである。そのため装置の小型化には不向きである。
【0007】
特許文献2には、真空系を必要としないIMSの選択性を向上する技術が開示されている。これによれば、アルカロイド系の麻薬物質を分析する際に、イオン源にアンモニアまたはニコチン酸アミドを添加することにより麻薬物質を選択的にイオン化できる。しかし、分析対象物質と類似の化学的性質を有する物質に対して同様の効果を有するため、その選択性は限定的である。また1台の装置で複数の物質を測定したい場合が一般的であるが、その場合には複数のドーパント物質を準備して、測定対象物質毎に切り替えて用いる必要があるので、装置が複雑化あるいは大型化してしまい、操作も煩雑となる。
本発明では、真空系を必要としない小型の分析装置でありながら選択性の高いモニタリング装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
分子量関連イオンが生成されるイオン源(非解離性イオン源)と、解離イオンが生成されるイオン源(解離性イオン源)の2種類のイオン源をIMSに装備して非解離性イオン源と解離性イオン源との切り替え機構を設ける。また、非解離性イオン源とは、主として分子量関連イオンが生成されるイオン源を意味する。また、解離性イオン源とは、主として解離イオンが生成されるイオン源を意味する。
【0009】
また測定対象物質毎に非解離性イオン源により生成される分子量関連イオンと解離性イオン源により生成される解離イオンの特性値(イオン移動度またはそれに相関する値)をデータベースに登録しておく。非解離性イオン源と解離性イオン源の両モードでそれぞれデータベースと一致するイオンが検知された場合に、測定対象物質が検知されたと判定する。またこのとき、非解離性イオン源の動作中には解離イオンの有無を、逆に解離性イオン源の動作中には分子量関連イオンの有無をも調べて判定に資することにより、信頼性を向上する。
【0010】
解離性、非解離性イオン源の切り替えはコロナ放電を利用した大気圧化学イオン化法において放電部を試料が流れる方向を切り替えることによって実現する。あるいは放射線源による大気圧イオン化とコロナ放電による大気圧化学イオン化との切り替えによっても実現される。解離性イオン源としては紫外線照射法も適用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高度な真空系を必要としない小型の分析装置でありながら、選択性の高いモニタリング装置を実現することができる。
【実施例1】
【0012】
図1に本発明のイオンモビリティ分光計の第一の構成を示す。本装置は大気中に含まれる分子状の有毒物質や危険物質の探知に用いることができる。本装置は大きく分けて、大気圧イオン源、大気圧イオン源で生成されたイオンをイオン移動度の相違に基づいて空間的に分離するための分離部(いわゆるドリフトチューブ)、および分離されたイオンを検出するための検出器から構成される。大気圧イオン源、分離部、検出器は制御部1により制御される。
【0013】
大気圧イオン源は、大気を通すための配管と、配管内部でコロナ放電を発生するためのコロナ放電部を有する。コロナ放電部は放電針3と対向電極4で構成される。コロナ放電部を挟んで両側にそれぞれ大気を流すためのファン5および6を備える。ファン5および6の送風方向は、一方のファンを動作させると放電針から対向電極に向かって大気が流れ、もう一方のファンを動作させると逆方向、すなわち対向電極4から放電針3に向かって大気が流れるように設定される。ここでは前者の流れの方向を順流、後者の流れの方向を逆流と呼ぶことにする。なお、大気中の粉塵あるいは水分などを低減するために、配管の両端にはフィルター7および8が装着される。
【0014】
ドリフトチューブおよび検出器15については、従来のIMSに採用されている種々の構成が適用できる。図1では最も簡単な構成のうちの一つを用いている。ドリフトチューブ内部にはリング状電極11と絶縁材12とをイオン源側から検出器側に向かう方向に交互に積層した電極スタック14が配置される。隣接するリング状電極は電気抵抗を介して電気的に接続される。電極スタック14のうちイオン源に最も近い側のリング状電極は開口部がグリッド状のグリッド電極13である。
【0015】
放電部では正イオンと負イオンの両方が生成される。正イオンを測定する正イオンモードにおいては、対向電極4に対して放電針3を正電位に設定してコロナ放電を発生する。このときグリッド電極13は対向電極4および隣接するリング状電極より低い電位に設定される。そうすることによってイオン源で生成された正イオンはドリフトチューブ内に進入し、グリッド電極13近傍に蓄積される。次にグリッド電極13の電位を対向電極4と隣接するリング状電極の中間電位に切り替えることによりグリッド電極13近傍に蓄積したイオンは一斉に検出器側に向かって移動し、イオン移動度の違いによってそれぞれ異なる時間に検出器に到達してイオン電流として検出される。グリッド電極の電位を高電位に切り替えてから検出器に到達するまでのイオンの飛行時間を横軸に、信号強度を縦軸にプロットすることによりイオン移動度スペクトルが得られる。
【0016】
負イオンを測定する負イオンモードにおいては、放電針3および各電極の電位が反転するほかは、正イオンモードの場合と同様のシーケンスでイオン移動度スペクトルが得られる。
【0017】
ドリフトチューブの内部には、イオンの進行方向と概略対向する方向、すなわち検出器側からイオン源側に向かう方向に対向ガスを流す。対向ガスの流れはファン9によって生成される。このときフィルター10によりガス中の不純物が取り除かれる。対向ガスを流すことにより、そうでない場合に比べてイオンの分離度が向上する。
【0018】
図2は、実験室大気に爆薬の1種であるトリニトロトルエン(TNT)を加えて図1のイオン源でイオン化した場合に生成されるイオンの種類を示す。この図は、図1のイオン源に質量分析計を接続して得られる質量スペクトルである。このときの試料の流れは逆流であり、イオンの極性は負である。図からm/z=227に主ピークが観測されることが分かる。このイオンはその質量対電荷比からTNTの分子イオン(M-)と考えられる。m/z=210およびm/z=197にもピークが観測され、それぞれTNTの解離イオンである(M-OH)-および(M-NO)-と考えられるが、分子イオンに比べて強度が弱い。イオン源を順流に切り替えた場合には、図3に示す質量スペクトルが得られる。逆流構成では観測されなかった多数のピークが観測され、その大半はそれぞれ図中に示されたようにTNTの解離イオンと考えられる。TNTの分子イオンも観測されるが、いくつかの解離イオンに比べて強度が弱い。このように、負イオンモードで逆流と順流とを切り替えることにより、TNTの分子イオンの生成と、解離イオンの生成とを制御できることがわかる。すなわち主として分子量関連イオンが生成される非解離性イオン源と主として解離イオンが生成される解離性イオン源の切り替えが実現される。
【0019】
爆薬の探知剤の1種であるo-ニトロトルエン(o-MNT)についてもTNTの場合と同様の実験を実施した。その結果を図4および図5に示す。図4は逆流の負イオンモードで生成されるイオンの種類を質量分析計で分析した結果である質量スペクトルを示す。o-MNTの分子イオンと考えられるm/z=137のイオンが強く観測され、解離イオンは殆ど観測されない。図5は順流の負イオンモードで生成されるイオンの種類を質量分析計で分析した結果である質量スペクトルを示す。分子イオンに加えてm/z=121、108、92にそれぞれo-MNTの解離イオンと考えられる(M-O)-、(M-NO+H)-および(M-NO2+H)-が明瞭に観測される。またm/z=153にはo-MNTの酸素付加イオンと考えられるピークも観測される。このように、負イオンモードで逆流と順流とを切り替えることにより、o-MNTについても分子イオンの生成と、解離イオンの生成とを制御できることがわかる。すなわち非解離性イオン源と解離性イオン源の切り替えが実現される。
【0020】
データベース2の構築にあたっては、実験室大気またはそれに類似した空気(例えば、純空気に水分を加えたもの)に測定対象物質のガスを混合し、イオン移動度スペクトルを取得する。非解離モードおよび解離モードのイオン源でそれぞれスペクトルを測定し、測定対象物質の分子量関連イオンとその解離イオンの飛行時間を調べる。これを測定対象物質ごとに実施して、それぞれの分子量関連イオンおよび解離イオンの飛行時間をデータベース2に格納する。
【0021】
図6に実運用における測定アルゴリズムの一例を示す。測定対象物質を指定して測定を開始する。次にイオン源を非解離モードに設定して分子量関連イオンの有無を調べる。ここでイオンの有無を調べるとは、データベース2に格納された当該イオンの飛行時間における信号強度と予め設定した閾値とを比較し、信号強度が閾値を超えた場合にそのイオンが存在し、そうでない場合に当該イオンは存在しないと判定することを指す。閾値はイオン化効率等を勘案して設定される。具体的には予め検量線を取得し、警報発報濃度での信号強度に基づいて決められる。非解離モードにて分子量関連イオンが検知された場合、すなわちその信号強度(M1)が閾値(X1)を越えた場合に、イオン源を解離モードに切り替えて解離イオンの有無を調べる。解離イオンが検知された場合、すなわちその信号強度(F1)が閾値(Y1)を超えた場合には、測定対象物質が検知されたと判定され、警報が表示される。もちろん、はじめに解離イオンモードに設定して解離イオンが検知された場合にイオン源を非解離モードに切り替えて分子量関連イオンの有無を調べても良い。図6およびその説明では簡略化のために測定対象物質が1種類である場合を想定したが、実運用では複数の物質を探知したい場合が殆どである。測定対象物質が複数の場合、図6のアルゴリズム中のA5において第一の測定対象物質の有無に加えて第二の対象物質の有無をも判定する。そのうちいずれか一方が存在する場合にはアルゴリズムのA6に進む。そしてアルゴリズムのA8では、A5において分子量関連イオンが検知された測定対象物質についてその解離イオンの有無を判定する。
【0022】
イオン移動度スペクトルの測定ではドリフトチューブ内部の電場の大きさと対向ガスの流速との関係によって決まるある範囲のイオン移動度を有するイオンを全て測定できる。従って測定対象物質が増えても、それらの分子量関連イオンおよび解離イオンが測定範囲内に入っているならば、測定時間は変わらない。またイオンの有無の判定に要する演算時間は、その他の時間に比べて無視できる程度である。従って測定時間を延ばさずに測定対象物質を増やすことが可能である。
【0023】
上述の運用方法において、非解離モードにおける解離イオンの信号強度および解離モードにおける分子量関連イオンの信号強度をも使用した判定ロジックを用いることにより、判定の確かさを向上できる。例えば、非解離モードにおいては分子量関連イオンが検知されて解離イオンは検知されず、かつ解離モードにおいて解離イオンが検知されて分子量関連イオンが検知されなかった場合に、測定対象物質が検知されたと判定する。なお、解離モードにおいて分子量関連イオンの有無を判定する際の閾値は、非解離モードで分子量関連イオンの有無を判定する際の閾値とは必ずしも同一でない。同様に非解離モードにおいて解離イオンの有無を判定する際の閾値は、解離モードで解離イオンの有無を判定する際の閾値と必ずしも同一でない。
【0024】
ある測定対象物質の解離イオンが複数存在する場合、そのうちの1種類のイオンだけをその測定対象物質の検知判定に使用しても良いが、複数の解離イオンの有無に基づいた種々の判定ロジックを組むことができる。例えば、2つの解離イオンがいずれも検知されることをその測定対象物質が検知されたと判定するための必要条件とすることもできるし、2つの解離イオンのいずれか1種類が検知されることを必要条件としても良い。例えば、爆薬探知のように検知漏れが生じた場合に致命的被害が生じる可能性がある場合には後者の判定ロジックを用いて探知漏れを低減し、麻薬探知など検知漏れが生じても被害が少ない場合には前者のロジックを用いて擬陽性を低減する、というように目的に応じて臨機応変に対応できる。
【0025】
なお、本発明において、分子量関連イオンは分子イオンに限定されるものではなく、分子にドーパントイオンなど他のイオンが付加した付加イオンであってもよい。また解離イオンは付加イオンが解離して生成された分子イオンまたは分子の解離イオンであってもよい。
【実施例2】
【0026】
図7に本発明のイオンモビリティ分光計の第二の構成を示す。本装置は大気圧イオン源、ドリフトチューブ、および検出器から構成される点で図1の装置と同じであるが、イオン源の構造が図1の装置と異なる。このイオン源は1本の配管と配管中を一方向に大気を通すための1個のファン21を備える。大気は配管の一端に装着されたフィルター22から吸引され、配管内部を通って配管の他端29から排出される。配管内部にはコロナ放電部が2箇所存在する。第一の放電部は大気の流れに対して上流側から放電針26と対向電極28とが順に配置されて順流モードの大気圧化学イオン源を構成する。第二の放電部は第一の放電部の下流側に位置し、大気の流れに対して上流側から対向電極27と放電針25とが配置されて逆流モードの大気圧化学イオン源を構成する。第一および第二の放電部の中間部、すなわち2枚の対向電極間において配管の側壁の一部が開放されており、ドリフトチューブに通じている。その開放部分にはメッシュ状電極24が配置されており、2枚の対向電極よりも低い電位に設定される。メッシュ電極の反対側の側壁には押し出し電極23が配置され、メッシュ状電極24よりも高い電位に設定されている。このような電位設定によって2枚の対向電極間に存在するイオンをドリフトチューブ内に導入するための電場が形成される。
【0027】
二つの放電部のいずれか一方のみを動作させることにより解離、非解離モードのいずれか一方が実現される。放電部の動作は放電針に印加する電圧設定により制御される。解離、非解離モードを切り替えて測定対象物質の検知判定を行なう方法は図1の装置の場合と同様であるため、説明は省略する。
【0028】
この装置では2個の放電部を同時に動作させることにより、解離モードおよび非解離モードで生成されるイオンを同時に測定することができる。この場合、スペクトルには分子量関連イオンと解離イオンの両方が観測されることになる。両方のイオンが検知された場合に測定対象物質が検知されたと判定する。この方法によれば、イオン源の切り替えが不要であるため、図1の構成の装置に比べて約半分の短時間に信頼性の高い判定が下せる利点がある。但し、この方法では、解離イオンと判定されたイオンが解離性イオン源由来のものであるか不明である。同様に、分子量関連イオンと判定されたイオンが非解離性イオン源由来のものであるか不明である。そこで、図8の測定アルゴリズムに示すように、アルゴリズムB5およびB6において分子量関連イオンと解離イオンがそれぞれ検知された場合に、アルゴリズムB7へ進み、解離モードの放電部のみを動作させて分子量関連イオンの有無を調べる。アルゴリズムB9において分子量関連イオンが検知されなかった場合に測定対象物質が検知されたと判定することにより、判定の確からしさが向上する。さらに、アルゴリズムB10に進んで非解離モードの放電部のみを動作させて解離イオンの有無を調べ、アルゴリズムB12において解離イオンが検知されないことをも条件として測定対象物質が検知されたと判定すれば、判定の確からしさがさらに向上する
【実施例3】
【0029】
図9に本発明のイオンモビリティ分光計の第三の構成を示す。本装置は大気圧イオン源、ドリフトチューブ、および検出器から構成される点で図1の装置と同じであるが、イオン源の構造が図1の装置と異なる。この装置では逆流の大気圧化学イオン化法を非解離性イオン源として使用し、解離性イオン源としては放射線源によるイオン化法を使用する。放射線源41としては63Niなどのフォイルを用い、これを配管内に貼付する。放射線源41からは高エネルギー電子が発生し、これにより大気中の酸素分子や水分子などがイオン化される。測定対象物質は電子との衝突によって直接イオン化される場合もあるが、多くは多量に存在する酸素分子イオンや水分子イオンとのイオン-分子反応によってイオン化される。ある種のイオンはさらに電子と反応してその解離イオンが生成することが知られている。
【0030】
イオン源を非解離モードで動作させる場合には、コロナ放電部を動作させた状態で第一の吸気口に装着したフィルター33から大気が吸引されるようにファン31を回転させる。吸引された大気の一部はコロナ放電部を対向電極4から放電針3に向かう方向、すなわち逆流方向に流れて排気口30から排気される。残りの大気は放射線源41部を通って吸排気口に装着されたフィルター32を通って大気中に排気される。このとき放射線源41で生成されるイオンも大気中に排気されるのでドリフトチューブには入り込まない。コロナ放電部で生成されたイオンは電場の力によってドリフトチューブ内に移動する。イオン源を解離モードで動作させる場合には、コロナ放電を停止させた上でファン31の回転方向を反転する。このとき、図中に示すように、吸排気口であるフィルター32から大気が吸引されて吸排気口であるフィルター33から排気される。このとき放射線源部においてイオンが生成される。生成されたイオンは配管を流れて対向電極とドリフトチューブ間に設けた電位差によりドリフトチューブ内に移動する。これとは別にコロナ放電部を通っても大気が吸引されるが、その大気中の成分はイオン化されることなく吸排気口であるフィルター33から排気される。この構成では、コロナ放電部を通った流れが放射線源部を通った流れに合流するため、放射線源部からの流れはドリフトチューブ側に押し付けられる。そのためドリフトチューブへのイオンの導入効率が向上する。
【実施例4】
【0031】
図10に本発明のイオンモビリティ分光計の第四の構成を示す。本装置は、大気圧イオン源、大気圧イオンフィルターおよび検出器で構成される。大気圧イオン源は図1と同じ構成であるので説明を省略する。大気圧イオンフィルターはFAIMS(High-Field Asymmetric Waveform Ion Mobility Spectrometry)の原理に基づくものである。2枚の並行平板電極51および52間に電源50により一定周期で数kV程度の高電圧と数V程度の低電圧とを交互に繰り返し印加し、かつ直流電圧(ここではフィルター電圧と呼ぶ)を重畳して印加する。これにより特定のイオン移動度を有するイオンのみがフィルターを通過して検出器に到達する。フィルターを通過するイオンのイオン移動度はフィルター電圧に依存する。そのためフィルター電圧を走査し、横軸にフィルター電圧、縦軸に信号強度をプロットすることによってイオン移動度スペクトルが得られる。
【0032】
データベース2の構築にあたっては、実験室大気またはそれに類似した空気(例えば、純空気に水分を加えたもの)に測定対象物質のガスを混合し、イオン移動度スペクトルを取得する。イオン源を非解離モードおよび解離モードに切り替えてそれぞれスペクトルを取得し、測定対象物質の分子量関連イオンとその解離イオンが検出されるフィルター電圧値を取得する。これを測定対象物質ごとに実施して、それぞれの分子量関連イオンおよび解離イオンに対応するフィルター電圧値をデータベース2に格納する。あるイオンの存在の有無を判定する場合、データベース2を参照してそのイオンがフィルターを通過するフィルター電圧値に設定する。このとき得られる信号強度がそのイオンに関して予め設定した閾値を越える場合に、そのイオンが存在するものと判定される。解離、非解離モードを切り替えて測定対象物質の検知判定を行なうロジックは図1の装置の場合と同様であるため、説明は省略する。イオンフィルターを用いると、図1に示すような飛行時間型の装置よりもデューティーサイクルが高くなるので高感度な測定が実施できる利点がある。
【0033】
図11に測定アルゴリズムの一例を示す。これは測定対象物質が1種類の場合であるが、複数の測定対象物質を測定する場合には、測定対象物質毎にフィルター電圧を変更する必要がある。そのため図11のアルゴリズムC3からC8を繰り返す。
なお、イオンフィルターとしてはイオン移動度アナライザのように他方式を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、特に爆薬、化学剤(化学テロなどに使用される有毒物質)、麻薬などの不正薬物、種々の環境汚染物質などを探知するためのモニタリング装置に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のイオンモビリティ分光計の第一の構成。
【図2】TNTを逆流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図3】TNTを順流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図4】o-MNTを逆流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図5】o-MNTを順流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図6】測定アルゴリズムの一例。
【図7】本発明のイオンモビリティ分光計の第二の構成。
【図8】第二の構成のイオンモビリティ分光計の測定アルゴリズムの一例。
【図9】本発明のイオンモビリティ分光計の第三の構成。
【図10】本発明のイオンモビリティ分光計の第四の構成。
【図11】第四の構成のイオンモビリティ分光計の測定アルゴリズムの一例。
【符号の説明】
【0036】
1…制御部、2…データベース、3、25、26…放電針、4、27、28…対向電極、5、6、9、21、31…ファン、7、8、10、22、32、33…フィルター、11…リング状電極、12…絶縁材、13…グリッド電極、14…電極スタック、
15…検出器、23…押し出し電極、24…メッシュ状電極、29…排気口、
30…吸排気口、41…放射線源、50…電源、51、52…平行平板電極。
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンモビリティ分光計に関する。
【背景技術】
【0002】
爆薬、化学剤(化学テロなどに使用される有毒物質)、麻薬などの不正薬物、種々の環境汚染物質などを探知するためのモニタリング装置への要求が高まっている。質量分析法は、分子量に関する情報が得られることから、種々の混合物の中から目的物質を高選択的に検出できる特長がある。そのため質量分析法に基づくモニタリング装置は誤報(擬陽性)が少ない特長がある。しかしながら、質量分析計は真空系を必要とする為に装置が大型であるという問題がある。質量分析計の選択性は質量分解能に依存し、分解能が高いほど選択性が高い。
しかし一般に質量分析計の分解能と装置サイズはトレードオフの関係にあり、分解能を上げようとすると装置が大型化する。またタンデム質量分析機能を装備することで分子の部分構造に関する情報が得られるために質量分析計の選択性が飛躍的に向上することが知られている。しかしタンデム質量分析を行なうには、イオンを衝突解離させるために真空装置内にターゲットガスを導入する必要がある。そのため真空排気能力を上げる必要があり、装置が大型化する。
【0003】
このような課題に対して質量分析計のサイズを据え置いたままで選択性を向上しようとする試みが成されている。例えば、特許文献1には、質量分析計を利用する化学剤探知方法が開示されている。これによれば、大気中でのコロナ放電により測定対象物質であるサリンをイオン化すると分子量関連イオンであるプロトン化分子(M+H)+が生成するが、その一部は真空装置内部の差動排気部において残留ガスとの衝突により解離し、解離イオンが生成される。分子量関連イオンと解離イオンの両方が検出された場合にサリンが検出されたと判定することにより、選択性が向上して誤報が低減する。
【0004】
一方、大気圧またはそれに近い圧力下でのイオン移動度の相違に基づいて物質を識別するイオンモビリティ分光計(IMS)が知られている。IMSは真空系を必要としないために装置を小型化しやすく、これを利用した手のひらサイズのモニタリング装置も市販されている。しかしながらIMSは一般に質量分析法に比べて選択性が低く、その結果として誤報が多い問題がある。そこで、IMSの選択性を向上しようとする試みが成されている。例えば、特許文献2には、麻薬物質を選択的にイオン化できるドーパントが開示されている。
【0005】
【特許文献1】日本国特許3787116号
【特許文献2】日本国特許3045655号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている質量分析計では、イオン源において測定対象物質の分子量関連イオンを生成し、分子量関連イオンとその一部が質量分析計の差動排気部で解離して生成された解離イオンの両方が検出された場合に測定対象物質が検出されたと判定することにより、選択性を向上している。しかしながら、質量スペクトル中で測定対象物質の分子量関連イオンとその解離イオンに該当する質量対電荷比のイオンが同時に観測されたというだけでは、一方が他方の解離イオンであるという保証にはならない。すなわち信頼性が十分とは言えず、その選択性の向上効果は限定的なものである。また、この技術は真空装置内部でのイオンとガス分子との衝突解離により解離イオンを生成する方法であり、真空系を必要とする質量分析計において実現するものである。そのため装置の小型化には不向きである。
【0007】
特許文献2には、真空系を必要としないIMSの選択性を向上する技術が開示されている。これによれば、アルカロイド系の麻薬物質を分析する際に、イオン源にアンモニアまたはニコチン酸アミドを添加することにより麻薬物質を選択的にイオン化できる。しかし、分析対象物質と類似の化学的性質を有する物質に対して同様の効果を有するため、その選択性は限定的である。また1台の装置で複数の物質を測定したい場合が一般的であるが、その場合には複数のドーパント物質を準備して、測定対象物質毎に切り替えて用いる必要があるので、装置が複雑化あるいは大型化してしまい、操作も煩雑となる。
本発明では、真空系を必要としない小型の分析装置でありながら選択性の高いモニタリング装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
分子量関連イオンが生成されるイオン源(非解離性イオン源)と、解離イオンが生成されるイオン源(解離性イオン源)の2種類のイオン源をIMSに装備して非解離性イオン源と解離性イオン源との切り替え機構を設ける。また、非解離性イオン源とは、主として分子量関連イオンが生成されるイオン源を意味する。また、解離性イオン源とは、主として解離イオンが生成されるイオン源を意味する。
【0009】
また測定対象物質毎に非解離性イオン源により生成される分子量関連イオンと解離性イオン源により生成される解離イオンの特性値(イオン移動度またはそれに相関する値)をデータベースに登録しておく。非解離性イオン源と解離性イオン源の両モードでそれぞれデータベースと一致するイオンが検知された場合に、測定対象物質が検知されたと判定する。またこのとき、非解離性イオン源の動作中には解離イオンの有無を、逆に解離性イオン源の動作中には分子量関連イオンの有無をも調べて判定に資することにより、信頼性を向上する。
【0010】
解離性、非解離性イオン源の切り替えはコロナ放電を利用した大気圧化学イオン化法において放電部を試料が流れる方向を切り替えることによって実現する。あるいは放射線源による大気圧イオン化とコロナ放電による大気圧化学イオン化との切り替えによっても実現される。解離性イオン源としては紫外線照射法も適用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高度な真空系を必要としない小型の分析装置でありながら、選択性の高いモニタリング装置を実現することができる。
【実施例1】
【0012】
図1に本発明のイオンモビリティ分光計の第一の構成を示す。本装置は大気中に含まれる分子状の有毒物質や危険物質の探知に用いることができる。本装置は大きく分けて、大気圧イオン源、大気圧イオン源で生成されたイオンをイオン移動度の相違に基づいて空間的に分離するための分離部(いわゆるドリフトチューブ)、および分離されたイオンを検出するための検出器から構成される。大気圧イオン源、分離部、検出器は制御部1により制御される。
【0013】
大気圧イオン源は、大気を通すための配管と、配管内部でコロナ放電を発生するためのコロナ放電部を有する。コロナ放電部は放電針3と対向電極4で構成される。コロナ放電部を挟んで両側にそれぞれ大気を流すためのファン5および6を備える。ファン5および6の送風方向は、一方のファンを動作させると放電針から対向電極に向かって大気が流れ、もう一方のファンを動作させると逆方向、すなわち対向電極4から放電針3に向かって大気が流れるように設定される。ここでは前者の流れの方向を順流、後者の流れの方向を逆流と呼ぶことにする。なお、大気中の粉塵あるいは水分などを低減するために、配管の両端にはフィルター7および8が装着される。
【0014】
ドリフトチューブおよび検出器15については、従来のIMSに採用されている種々の構成が適用できる。図1では最も簡単な構成のうちの一つを用いている。ドリフトチューブ内部にはリング状電極11と絶縁材12とをイオン源側から検出器側に向かう方向に交互に積層した電極スタック14が配置される。隣接するリング状電極は電気抵抗を介して電気的に接続される。電極スタック14のうちイオン源に最も近い側のリング状電極は開口部がグリッド状のグリッド電極13である。
【0015】
放電部では正イオンと負イオンの両方が生成される。正イオンを測定する正イオンモードにおいては、対向電極4に対して放電針3を正電位に設定してコロナ放電を発生する。このときグリッド電極13は対向電極4および隣接するリング状電極より低い電位に設定される。そうすることによってイオン源で生成された正イオンはドリフトチューブ内に進入し、グリッド電極13近傍に蓄積される。次にグリッド電極13の電位を対向電極4と隣接するリング状電極の中間電位に切り替えることによりグリッド電極13近傍に蓄積したイオンは一斉に検出器側に向かって移動し、イオン移動度の違いによってそれぞれ異なる時間に検出器に到達してイオン電流として検出される。グリッド電極の電位を高電位に切り替えてから検出器に到達するまでのイオンの飛行時間を横軸に、信号強度を縦軸にプロットすることによりイオン移動度スペクトルが得られる。
【0016】
負イオンを測定する負イオンモードにおいては、放電針3および各電極の電位が反転するほかは、正イオンモードの場合と同様のシーケンスでイオン移動度スペクトルが得られる。
【0017】
ドリフトチューブの内部には、イオンの進行方向と概略対向する方向、すなわち検出器側からイオン源側に向かう方向に対向ガスを流す。対向ガスの流れはファン9によって生成される。このときフィルター10によりガス中の不純物が取り除かれる。対向ガスを流すことにより、そうでない場合に比べてイオンの分離度が向上する。
【0018】
図2は、実験室大気に爆薬の1種であるトリニトロトルエン(TNT)を加えて図1のイオン源でイオン化した場合に生成されるイオンの種類を示す。この図は、図1のイオン源に質量分析計を接続して得られる質量スペクトルである。このときの試料の流れは逆流であり、イオンの極性は負である。図からm/z=227に主ピークが観測されることが分かる。このイオンはその質量対電荷比からTNTの分子イオン(M-)と考えられる。m/z=210およびm/z=197にもピークが観測され、それぞれTNTの解離イオンである(M-OH)-および(M-NO)-と考えられるが、分子イオンに比べて強度が弱い。イオン源を順流に切り替えた場合には、図3に示す質量スペクトルが得られる。逆流構成では観測されなかった多数のピークが観測され、その大半はそれぞれ図中に示されたようにTNTの解離イオンと考えられる。TNTの分子イオンも観測されるが、いくつかの解離イオンに比べて強度が弱い。このように、負イオンモードで逆流と順流とを切り替えることにより、TNTの分子イオンの生成と、解離イオンの生成とを制御できることがわかる。すなわち主として分子量関連イオンが生成される非解離性イオン源と主として解離イオンが生成される解離性イオン源の切り替えが実現される。
【0019】
爆薬の探知剤の1種であるo-ニトロトルエン(o-MNT)についてもTNTの場合と同様の実験を実施した。その結果を図4および図5に示す。図4は逆流の負イオンモードで生成されるイオンの種類を質量分析計で分析した結果である質量スペクトルを示す。o-MNTの分子イオンと考えられるm/z=137のイオンが強く観測され、解離イオンは殆ど観測されない。図5は順流の負イオンモードで生成されるイオンの種類を質量分析計で分析した結果である質量スペクトルを示す。分子イオンに加えてm/z=121、108、92にそれぞれo-MNTの解離イオンと考えられる(M-O)-、(M-NO+H)-および(M-NO2+H)-が明瞭に観測される。またm/z=153にはo-MNTの酸素付加イオンと考えられるピークも観測される。このように、負イオンモードで逆流と順流とを切り替えることにより、o-MNTについても分子イオンの生成と、解離イオンの生成とを制御できることがわかる。すなわち非解離性イオン源と解離性イオン源の切り替えが実現される。
【0020】
データベース2の構築にあたっては、実験室大気またはそれに類似した空気(例えば、純空気に水分を加えたもの)に測定対象物質のガスを混合し、イオン移動度スペクトルを取得する。非解離モードおよび解離モードのイオン源でそれぞれスペクトルを測定し、測定対象物質の分子量関連イオンとその解離イオンの飛行時間を調べる。これを測定対象物質ごとに実施して、それぞれの分子量関連イオンおよび解離イオンの飛行時間をデータベース2に格納する。
【0021】
図6に実運用における測定アルゴリズムの一例を示す。測定対象物質を指定して測定を開始する。次にイオン源を非解離モードに設定して分子量関連イオンの有無を調べる。ここでイオンの有無を調べるとは、データベース2に格納された当該イオンの飛行時間における信号強度と予め設定した閾値とを比較し、信号強度が閾値を超えた場合にそのイオンが存在し、そうでない場合に当該イオンは存在しないと判定することを指す。閾値はイオン化効率等を勘案して設定される。具体的には予め検量線を取得し、警報発報濃度での信号強度に基づいて決められる。非解離モードにて分子量関連イオンが検知された場合、すなわちその信号強度(M1)が閾値(X1)を越えた場合に、イオン源を解離モードに切り替えて解離イオンの有無を調べる。解離イオンが検知された場合、すなわちその信号強度(F1)が閾値(Y1)を超えた場合には、測定対象物質が検知されたと判定され、警報が表示される。もちろん、はじめに解離イオンモードに設定して解離イオンが検知された場合にイオン源を非解離モードに切り替えて分子量関連イオンの有無を調べても良い。図6およびその説明では簡略化のために測定対象物質が1種類である場合を想定したが、実運用では複数の物質を探知したい場合が殆どである。測定対象物質が複数の場合、図6のアルゴリズム中のA5において第一の測定対象物質の有無に加えて第二の対象物質の有無をも判定する。そのうちいずれか一方が存在する場合にはアルゴリズムのA6に進む。そしてアルゴリズムのA8では、A5において分子量関連イオンが検知された測定対象物質についてその解離イオンの有無を判定する。
【0022】
イオン移動度スペクトルの測定ではドリフトチューブ内部の電場の大きさと対向ガスの流速との関係によって決まるある範囲のイオン移動度を有するイオンを全て測定できる。従って測定対象物質が増えても、それらの分子量関連イオンおよび解離イオンが測定範囲内に入っているならば、測定時間は変わらない。またイオンの有無の判定に要する演算時間は、その他の時間に比べて無視できる程度である。従って測定時間を延ばさずに測定対象物質を増やすことが可能である。
【0023】
上述の運用方法において、非解離モードにおける解離イオンの信号強度および解離モードにおける分子量関連イオンの信号強度をも使用した判定ロジックを用いることにより、判定の確かさを向上できる。例えば、非解離モードにおいては分子量関連イオンが検知されて解離イオンは検知されず、かつ解離モードにおいて解離イオンが検知されて分子量関連イオンが検知されなかった場合に、測定対象物質が検知されたと判定する。なお、解離モードにおいて分子量関連イオンの有無を判定する際の閾値は、非解離モードで分子量関連イオンの有無を判定する際の閾値とは必ずしも同一でない。同様に非解離モードにおいて解離イオンの有無を判定する際の閾値は、解離モードで解離イオンの有無を判定する際の閾値と必ずしも同一でない。
【0024】
ある測定対象物質の解離イオンが複数存在する場合、そのうちの1種類のイオンだけをその測定対象物質の検知判定に使用しても良いが、複数の解離イオンの有無に基づいた種々の判定ロジックを組むことができる。例えば、2つの解離イオンがいずれも検知されることをその測定対象物質が検知されたと判定するための必要条件とすることもできるし、2つの解離イオンのいずれか1種類が検知されることを必要条件としても良い。例えば、爆薬探知のように検知漏れが生じた場合に致命的被害が生じる可能性がある場合には後者の判定ロジックを用いて探知漏れを低減し、麻薬探知など検知漏れが生じても被害が少ない場合には前者のロジックを用いて擬陽性を低減する、というように目的に応じて臨機応変に対応できる。
【0025】
なお、本発明において、分子量関連イオンは分子イオンに限定されるものではなく、分子にドーパントイオンなど他のイオンが付加した付加イオンであってもよい。また解離イオンは付加イオンが解離して生成された分子イオンまたは分子の解離イオンであってもよい。
【実施例2】
【0026】
図7に本発明のイオンモビリティ分光計の第二の構成を示す。本装置は大気圧イオン源、ドリフトチューブ、および検出器から構成される点で図1の装置と同じであるが、イオン源の構造が図1の装置と異なる。このイオン源は1本の配管と配管中を一方向に大気を通すための1個のファン21を備える。大気は配管の一端に装着されたフィルター22から吸引され、配管内部を通って配管の他端29から排出される。配管内部にはコロナ放電部が2箇所存在する。第一の放電部は大気の流れに対して上流側から放電針26と対向電極28とが順に配置されて順流モードの大気圧化学イオン源を構成する。第二の放電部は第一の放電部の下流側に位置し、大気の流れに対して上流側から対向電極27と放電針25とが配置されて逆流モードの大気圧化学イオン源を構成する。第一および第二の放電部の中間部、すなわち2枚の対向電極間において配管の側壁の一部が開放されており、ドリフトチューブに通じている。その開放部分にはメッシュ状電極24が配置されており、2枚の対向電極よりも低い電位に設定される。メッシュ電極の反対側の側壁には押し出し電極23が配置され、メッシュ状電極24よりも高い電位に設定されている。このような電位設定によって2枚の対向電極間に存在するイオンをドリフトチューブ内に導入するための電場が形成される。
【0027】
二つの放電部のいずれか一方のみを動作させることにより解離、非解離モードのいずれか一方が実現される。放電部の動作は放電針に印加する電圧設定により制御される。解離、非解離モードを切り替えて測定対象物質の検知判定を行なう方法は図1の装置の場合と同様であるため、説明は省略する。
【0028】
この装置では2個の放電部を同時に動作させることにより、解離モードおよび非解離モードで生成されるイオンを同時に測定することができる。この場合、スペクトルには分子量関連イオンと解離イオンの両方が観測されることになる。両方のイオンが検知された場合に測定対象物質が検知されたと判定する。この方法によれば、イオン源の切り替えが不要であるため、図1の構成の装置に比べて約半分の短時間に信頼性の高い判定が下せる利点がある。但し、この方法では、解離イオンと判定されたイオンが解離性イオン源由来のものであるか不明である。同様に、分子量関連イオンと判定されたイオンが非解離性イオン源由来のものであるか不明である。そこで、図8の測定アルゴリズムに示すように、アルゴリズムB5およびB6において分子量関連イオンと解離イオンがそれぞれ検知された場合に、アルゴリズムB7へ進み、解離モードの放電部のみを動作させて分子量関連イオンの有無を調べる。アルゴリズムB9において分子量関連イオンが検知されなかった場合に測定対象物質が検知されたと判定することにより、判定の確からしさが向上する。さらに、アルゴリズムB10に進んで非解離モードの放電部のみを動作させて解離イオンの有無を調べ、アルゴリズムB12において解離イオンが検知されないことをも条件として測定対象物質が検知されたと判定すれば、判定の確からしさがさらに向上する
【実施例3】
【0029】
図9に本発明のイオンモビリティ分光計の第三の構成を示す。本装置は大気圧イオン源、ドリフトチューブ、および検出器から構成される点で図1の装置と同じであるが、イオン源の構造が図1の装置と異なる。この装置では逆流の大気圧化学イオン化法を非解離性イオン源として使用し、解離性イオン源としては放射線源によるイオン化法を使用する。放射線源41としては63Niなどのフォイルを用い、これを配管内に貼付する。放射線源41からは高エネルギー電子が発生し、これにより大気中の酸素分子や水分子などがイオン化される。測定対象物質は電子との衝突によって直接イオン化される場合もあるが、多くは多量に存在する酸素分子イオンや水分子イオンとのイオン-分子反応によってイオン化される。ある種のイオンはさらに電子と反応してその解離イオンが生成することが知られている。
【0030】
イオン源を非解離モードで動作させる場合には、コロナ放電部を動作させた状態で第一の吸気口に装着したフィルター33から大気が吸引されるようにファン31を回転させる。吸引された大気の一部はコロナ放電部を対向電極4から放電針3に向かう方向、すなわち逆流方向に流れて排気口30から排気される。残りの大気は放射線源41部を通って吸排気口に装着されたフィルター32を通って大気中に排気される。このとき放射線源41で生成されるイオンも大気中に排気されるのでドリフトチューブには入り込まない。コロナ放電部で生成されたイオンは電場の力によってドリフトチューブ内に移動する。イオン源を解離モードで動作させる場合には、コロナ放電を停止させた上でファン31の回転方向を反転する。このとき、図中に示すように、吸排気口であるフィルター32から大気が吸引されて吸排気口であるフィルター33から排気される。このとき放射線源部においてイオンが生成される。生成されたイオンは配管を流れて対向電極とドリフトチューブ間に設けた電位差によりドリフトチューブ内に移動する。これとは別にコロナ放電部を通っても大気が吸引されるが、その大気中の成分はイオン化されることなく吸排気口であるフィルター33から排気される。この構成では、コロナ放電部を通った流れが放射線源部を通った流れに合流するため、放射線源部からの流れはドリフトチューブ側に押し付けられる。そのためドリフトチューブへのイオンの導入効率が向上する。
【実施例4】
【0031】
図10に本発明のイオンモビリティ分光計の第四の構成を示す。本装置は、大気圧イオン源、大気圧イオンフィルターおよび検出器で構成される。大気圧イオン源は図1と同じ構成であるので説明を省略する。大気圧イオンフィルターはFAIMS(High-Field Asymmetric Waveform Ion Mobility Spectrometry)の原理に基づくものである。2枚の並行平板電極51および52間に電源50により一定周期で数kV程度の高電圧と数V程度の低電圧とを交互に繰り返し印加し、かつ直流電圧(ここではフィルター電圧と呼ぶ)を重畳して印加する。これにより特定のイオン移動度を有するイオンのみがフィルターを通過して検出器に到達する。フィルターを通過するイオンのイオン移動度はフィルター電圧に依存する。そのためフィルター電圧を走査し、横軸にフィルター電圧、縦軸に信号強度をプロットすることによってイオン移動度スペクトルが得られる。
【0032】
データベース2の構築にあたっては、実験室大気またはそれに類似した空気(例えば、純空気に水分を加えたもの)に測定対象物質のガスを混合し、イオン移動度スペクトルを取得する。イオン源を非解離モードおよび解離モードに切り替えてそれぞれスペクトルを取得し、測定対象物質の分子量関連イオンとその解離イオンが検出されるフィルター電圧値を取得する。これを測定対象物質ごとに実施して、それぞれの分子量関連イオンおよび解離イオンに対応するフィルター電圧値をデータベース2に格納する。あるイオンの存在の有無を判定する場合、データベース2を参照してそのイオンがフィルターを通過するフィルター電圧値に設定する。このとき得られる信号強度がそのイオンに関して予め設定した閾値を越える場合に、そのイオンが存在するものと判定される。解離、非解離モードを切り替えて測定対象物質の検知判定を行なうロジックは図1の装置の場合と同様であるため、説明は省略する。イオンフィルターを用いると、図1に示すような飛行時間型の装置よりもデューティーサイクルが高くなるので高感度な測定が実施できる利点がある。
【0033】
図11に測定アルゴリズムの一例を示す。これは測定対象物質が1種類の場合であるが、複数の測定対象物質を測定する場合には、測定対象物質毎にフィルター電圧を変更する必要がある。そのため図11のアルゴリズムC3からC8を繰り返す。
なお、イオンフィルターとしてはイオン移動度アナライザのように他方式を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、特に爆薬、化学剤(化学テロなどに使用される有毒物質)、麻薬などの不正薬物、種々の環境汚染物質などを探知するためのモニタリング装置に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のイオンモビリティ分光計の第一の構成。
【図2】TNTを逆流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図3】TNTを順流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図4】o-MNTを逆流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図5】o-MNTを順流モードの大気圧化学イオン源でイオン化した場合に生成される負イオンの質量スペクトル
【図6】測定アルゴリズムの一例。
【図7】本発明のイオンモビリティ分光計の第二の構成。
【図8】第二の構成のイオンモビリティ分光計の測定アルゴリズムの一例。
【図9】本発明のイオンモビリティ分光計の第三の構成。
【図10】本発明のイオンモビリティ分光計の第四の構成。
【図11】第四の構成のイオンモビリティ分光計の測定アルゴリズムの一例。
【符号の説明】
【0036】
1…制御部、2…データベース、3、25、26…放電針、4、27、28…対向電極、5、6、9、21、31…ファン、7、8、10、22、32、33…フィルター、11…リング状電極、12…絶縁材、13…グリッド電極、14…電極スタック、
15…検出器、23…押し出し電極、24…メッシュ状電極、29…排気口、
30…吸排気口、41…放射線源、50…電源、51、52…平行平板電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料分子をイオン化するための第一および第二のイオン源と、
該イオンの特性値と該イオンの信号量を測定する分析計と、
第一のイオン源で生成されたイオンの分析と第二のイオン源で生成したイオンの分析とを切り替える切り替え機構と、
試料分子の分子量関連イオンの特性値と該分子量関連イオンの有無を判定するための信号強度の閾値と、試料分子の解離イオンの特性値と該解離イオンの有無を判定するための信号強度の閾値とを格納したデータベースと、
前記試料分子の有無を判定するための演算部を備え、
前記第一のイオン源は分子量関連イオンを生成し、前記第二の大気圧イオン源は解離イオンを生成することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置であって、前記第一および第二のイオン源が大気圧イオン源であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一および第二のイオン源は、一対の放電針と対抗電極とで構成されるコロナ放電部と、前記放電部における試料ガスの流れ方向を順流と逆流とに切り替える切り替え機構を備えたことを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一の大気圧イオン源は、一対の放電針と対向電極とで構成されるコロナ放電部を有し、対向電極から放電針に向かって試料ガスが流れる逆流型の大気圧化学イオン源であり、前記第二の大気圧イオン源は、一対の放電針と対向電極とで構成されるコロナ放電部を有し、放電針から対向電極に向かって試料ガスが流れる順流型の大気圧化学イオン源であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項5】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一および第二の大気圧イオン源に置いてコロナ放電部を試料が流れる方向と、前記分析計において試料イオンが流れる方向とが概略直交することを特徴とする化学物質モ”ニタリング装置”。
【請求項6】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一の大気圧イオン源は、一対の放電針と対向電極とで構成されるコロナ放電部を有する大気圧化学イオン源であり、前記第二の大気圧イオン源は放射線源を有する大気圧化学イオン源であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
ニタリング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記分析計は、イオンの導入される方向と逆方向にガスを流すことを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知され、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の解離イオンが検知されたことをもって前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項9】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知され、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の分子量関連イオンは検知されずに該試料分子の解離イオンが検知されたことをもって、前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項10】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知されて該試料分子の解離イオンは検知されず、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の解離イオンが検知されたことをもって、前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知されて該試料イオンの解離イオンは検知されず、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の分子量関連イオンは検知されずに該試料分子の解離イオンが検知された場合に、前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項12】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、予め選択された複数の解離イオンがいずれも検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項13】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、予め選択された複数の解離イオンのうち少なくとも1種類の解離イオンが検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項14】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、予め選択された複数の解離イオンがいずれも検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムと、予め選択された複数の解離イオンのうち少なくとも1種類の解離イオンが検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムとを切り替え可能であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項15】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知された場合に前記第二の大気圧イオン源に切り替えるアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項16】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の解離イオンが検知された場合に前記第一の大気圧イオン源に切り替えるアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項17】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記分析計がイオン移動度分光計である、化学物質モニタリング装置。
【請求項18】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記イオン移動度分光計が、飛行時間型のイオン移動度分光計であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項19】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記イオン移動度分光計がイオンフィルター型のイオン移動度分光計であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項1】
試料分子をイオン化するための第一および第二のイオン源と、
該イオンの特性値と該イオンの信号量を測定する分析計と、
第一のイオン源で生成されたイオンの分析と第二のイオン源で生成したイオンの分析とを切り替える切り替え機構と、
試料分子の分子量関連イオンの特性値と該分子量関連イオンの有無を判定するための信号強度の閾値と、試料分子の解離イオンの特性値と該解離イオンの有無を判定するための信号強度の閾値とを格納したデータベースと、
前記試料分子の有無を判定するための演算部を備え、
前記第一のイオン源は分子量関連イオンを生成し、前記第二の大気圧イオン源は解離イオンを生成することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置であって、前記第一および第二のイオン源が大気圧イオン源であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一および第二のイオン源は、一対の放電針と対抗電極とで構成されるコロナ放電部と、前記放電部における試料ガスの流れ方向を順流と逆流とに切り替える切り替え機構を備えたことを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一の大気圧イオン源は、一対の放電針と対向電極とで構成されるコロナ放電部を有し、対向電極から放電針に向かって試料ガスが流れる逆流型の大気圧化学イオン源であり、前記第二の大気圧イオン源は、一対の放電針と対向電極とで構成されるコロナ放電部を有し、放電針から対向電極に向かって試料ガスが流れる順流型の大気圧化学イオン源であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項5】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一および第二の大気圧イオン源に置いてコロナ放電部を試料が流れる方向と、前記分析計において試料イオンが流れる方向とが概略直交することを特徴とする化学物質モ”ニタリング装置”。
【請求項6】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記第一の大気圧イオン源は、一対の放電針と対向電極とで構成されるコロナ放電部を有する大気圧化学イオン源であり、前記第二の大気圧イオン源は放射線源を有する大気圧化学イオン源であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
ニタリング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記分析計は、イオンの導入される方向と逆方向にガスを流すことを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知され、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の解離イオンが検知されたことをもって前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項9】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知され、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の分子量関連イオンは検知されずに該試料分子の解離イオンが検知されたことをもって、前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項10】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知されて該試料分子の解離イオンは検知されず、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の解離イオンが検知されたことをもって、前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知されて該試料イオンの解離イオンは検知されず、かつ前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に該試料分子の分子量関連イオンは検知されずに該試料分子の解離イオンが検知された場合に、前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項12】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、予め選択された複数の解離イオンがいずれも検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項13】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、予め選択された複数の解離イオンのうち少なくとも1種類の解離イオンが検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項14】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、予め選択された複数の解離イオンがいずれも検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムと、予め選択された複数の解離イオンのうち少なくとも1種類の解離イオンが検知された場合に前記試料分子が検知されたと判定するアルゴリズムとを切り替え可能であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項15】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第一の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の分子量関連イオンが検知された場合に前記第二の大気圧イオン源に切り替えるアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項16】
請求項8に記載の化学物質モニタリング装置において、前記演算部は、前記第二の大気圧イオン源を動作させた場合に試料分子の解離イオンが検知された場合に前記第一の大気圧イオン源に切り替えるアルゴリズムを有することを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項17】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記分析計がイオン移動度分光計である、化学物質モニタリング装置。
【請求項18】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記イオン移動度分光計が、飛行時間型のイオン移動度分光計であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【請求項19】
請求項1に記載の化学物質モニタリング装置において、前記イオン移動度分光計がイオンフィルター型のイオン移動度分光計であることを特徴とする化学物質モニタリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−2815(P2009−2815A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164486(P2007−164486)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]