説明

イオン交換不織布及びその製造方法

【課題】 表面積が広く、イオン交換性能に優れるイオン交換不織布、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のイオン交換不織布は、イオン交換樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂とが混在する、平均繊維径が1μm以下のイオン交換繊維を含む。本発明のイオン交換不織布の製造方法は、紡糸液を吐出できる液吐出部を1箇所以上と、前記いずれの液吐出部よりも上流側に位置し、ガスを吐出できるガス吐出部1箇所とを有する紡糸装置を用いて、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維を含む前駆不織布を形成した後、アルカリ又は酸で処理する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン交換不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気体や液体などの流体中における不純物を除去又は回収するために、イオン交換繊維からなる不織布を使用したり、イオン交換樹脂を担持した不織布を使用したり、或いはイオン交換樹脂を成形し、固化させて使用している。このイオン交換繊維又はイオン交換樹脂の表面積が広ければ広いほど、イオン交換基量を多くすることができ、又はイオン交換速度を速くすることができるため、イオン交換繊維又はイオン交換樹脂の表面積は広いのが好ましい。これらの中でも、イオン交換繊維は表面積を広くすることができるとともに、イオン交換樹脂に比べて下流側への流出の心配がなく、取り扱いやすいというメリットがある。
【0003】
このようなイオン交換繊維からなるものとして、「エレクトロスプレー法により製造された、吸着性材料製の繊維及び/又は微粒子よりなる吸着構造体。」(特許文献1)が提案されている。このエレクトロスプレー法によれば、繊維径1μm以下の繊維を紡糸することができるため、イオン交換基量を多くすることができ、流体中における不純物の除去又は回収性能を高めることができる。なお、特許文献1においては、紡糸後にイオン交換基を導入することができることを開示している。
【0004】
【特許文献1】特開2006−334469号公報(請求項1、請求項7、段落番号0030〜0031など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、特許文献1と同様にエレクトロスプレー法により紡糸した後、アルカリ又は酸で処理することにより、イオン交換基を導入することを試み、そのイオン交換性能を確認しようとした。ところが、アルカリ又は酸で処理することによって、不織布の収縮や劣化が生じ、イオン交換不織布を得ることができないという問題が発生した。
【0006】
本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、表面積が広く、イオン交換性能に優れるイオン交換不織布、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「イオン交換樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂とが混在する、平均繊維径が1μm以下のイオン交換繊維を含むことを特徴とする、イオン交換不織布。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「紡糸液を吐出できる液吐出部を1箇所以上と、前記いずれの液吐出部よりも上流側に位置し、ガスを吐出できるガス吐出部1箇所とを有する下記条件を満足する紡糸装置の、1箇所以上の液吐出部から、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂とを含有する紡糸液を吐出し、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維を紡糸した後に集積して前駆不織布を形成した後、前記イオン交換基導入可能繊維をアルカリ又は酸で処理することによってイオン交換基を導入することを特徴とする、イオン交換不織布の製造方法。

(1)液吐出部を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有する
(2)ガス吐出部を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有する
(3)液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)とガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは近接している
(4)液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸とが平行である
(5)ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1にかかる発明は、平均繊維径が1μm以下という、細く、表面積の広いイオン交換繊維を含んでいるため、イオン交換性能に優れている。また、イオン交換繊維は耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂も含んでいるため、アルカリ又は酸で処理しても、不織布の収縮や劣化を抑制し、イオン交換基を導入して得ることのできるイオン交換不織布である。
【0010】
本発明の請求項2にかかる発明は、液吐出部から吐出された紡糸液とガス吐出部から吐出されたガスとはいずれも近接しており、平行であり、しかもいずれの紡糸液にもガスおよび随伴気流による剪断力が1本の直線状に作用するため、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維を紡糸でき、イオン交換基導入可能繊維が均一に分散した状態で集積し、前駆不織布を形成することができる。この前駆不織布をアルカリ又は酸で処理することによってイオン交換基を導入しているが、イオン交換基導入可能繊維はイオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有しているため、不織布の収縮、劣化を抑えて、イオン交換性能に優れるイオン交換不織布を製造することができる。
【0011】
また、ガスの作用によってイオン交換基導入可能繊維を紡糸しているため、紡糸液の吐出量を増やすことができ、生産性良くイオン交換不織布を製造することができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a) 紡糸装置の先端部を拡大した斜視図 (b) 平面Cでの切断図
【図2】別の紡糸装置の先端部を拡大した斜視図
【図3】(a) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の一例(図2のC平面での切断平面図) (b) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の他例 (c) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の他例 (d) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の他例 (e) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の他例
【図4】(a) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の一例 (b) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の他例 (c) ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時の切断平面図の他例
【図5】不織布製造装置の模式的断面説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のイオン交換不織布の製造方法について、まず説明するが、本発明のイオン交換不織布を構成するイオン交換繊維のもととなる、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維を紡糸することのできる紡糸装置について、紡糸装置の先端部を拡大した斜視図である図1(a)、及び図1(a)におけるC平面切断図である図1(b)をもとに説明する。
【0014】
この紡糸装置は、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有する紡糸液を吐出できる液吐出部Elを一方の端部に有する液吐出ノズルNlの外壁面と、ガスを吐出できるガス吐出部Egを一方の端部に有するガス吐出ノズルNgの外壁面とが当接し、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egが液吐出部Elよりも上流側となる位置にある。なお、液吐出ノズルNlは液吐出部Elを端部とする液用柱状中空部Hlを有し、ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egを端部とするガス用柱状中空部Hgを有している。また、前記液用柱状中空部Hlを延長した液仮想柱状部Hvlと前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも前記液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にある。更には、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外形と、液用柱状中空部Hlの切断面の外形のいずれも円形であり、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線Lを、1本だけ引くことができる状態にある(図1(b)参照)。
【0015】
そのため、図1のような紡糸装置の液吐出ノズルNlにイオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有する紡糸液を供給し、ガス吐出ノズルNgにガスを供給すると、紡糸液は液用柱状中空部Hlを通り、液吐出部Elから液用柱状中空部Hlの軸方向に吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部Hgを通りガス吐出部Egからガス用柱状中空部Hgの軸方向に吐出される。この吐出されたガスと吐出された紡糸液とは近接した状態にあり、液吐出部の直近においては、吐出ガスの中心軸Agと吐出紡糸液の中心軸Alとが平行関係にあり、しかもC平面上、吐出されたガスと吐出された紡糸液との最も近い点が1箇所であることから、つまり、紡糸液は1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受け、細径化しながら液用柱状中空部Hlの軸方向に飛翔し、同時に固化して、イオン交換基導入可能繊維を形成する。
【0016】
液吐出ノズルNlはイオン交換基導入可能樹脂、耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有する紡糸液を吐出できるものであれば良く、液吐出部Elの外形は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に作用を受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。つまり、液吐出ノズルNlの外形が円形であると、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線Lを、1本だけ引くことができる状態となりやすいため、吐出された紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
【0017】
液吐出部Elの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角をガス吐出ノズルNg側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくするのが好ましい。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができるように液吐出ノズルNlを配置すると、紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、安定して紡糸でき、液滴を生じにくくなる。したがって、ガス吐出部Egの形状が円形であれば、多角形状の液吐出部Elの辺をガス吐出ノズルNg側となるように配置することも可能である。
【0018】
また、液吐出部Elの大きさも特に限定するものではないが、0.01〜20mmであるのが好ましく、0.01〜2mmであるのがより好ましい。0.01mmよりも小さいと、粘度の高い紡糸液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mmを超えると、ガス及び随伴気流の作用を1本の直線状にするのが難しくなり、安定して紡糸できなくなる傾向があるためである。
【0019】
なお、液吐出ノズルNlは金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。液吐出ノズルNlが金属製であれば、液吐出ノズルNlに対して電圧を印加することによって、紡糸液に対して電界を作用させることができ、また、樹脂を加熱溶融させた紡糸液であっても使用することができる。更に、図1においては、円柱状の液吐出ノズルNlを図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出ノズル側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して繊維化できる。
【0020】
ガス吐出ノズルNgはガスを吐出できるものであれば良く、ガス吐出部Egの形状は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス吐出部に対して液吐出部をどのように配置しても、液吐出部から吐出された紡糸液に、ガス吐出部から吐出されたガスおよび随伴気流による剪断力をそれぞれ1本の直線状に作用させ、細径化した繊維を紡糸しやすいように、円形であるのが好ましい。なお、ガス吐出部Egの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角を液吐出ノズルNl側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすくなる。つまり、前述の通り、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線Lを、1本だけ引くことができる状態となるように液吐出ノズルNlを配置すると、紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
【0021】
また、ガス吐出部Egの大きさも特に限定するものではないが、0.01〜79mmであるのが好ましく、0.015〜20mmであるのがより好ましい。0.01mmよりも小さいと、吐出された紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難になり、安定して繊維化することが困難になる傾向があるためで、79mmを超えると剪断作用を働かせるために十分な風速が必要で、多量のガスが必要となって不経済であるためである。
【0022】
なお、ガス吐出ノズルNgは金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、ガス吐出ノズルに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。なお、金属製であれば、加熱ガスであっても吐出することができる。
【0023】
ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egが液吐出部Elよりも上流側(紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、液吐出部Elの周辺へ紡糸液が巻き上がるのを防止できる。そのため、液吐出部を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部Egと液吐出部Elとの距離は特に限定するものではないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると液吐出部Elにおけるガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部Egと液吐出部Elとの距離の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと液吐出部Elとが一致していなければ良い。
【0024】
液用柱状中空部Hlは紡糸液の通過経路であり、紡糸液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部Hgはガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。本発明においては、液用柱状中空部Hl、ガス用柱状中空部Hgのいずれも柱状の紡糸液又はガスを形成できるため、ガス及び随伴気流の剪断作用を紡糸液に十分に作用させ、繊維化することができる。
【0025】
なお、液用柱状中空部Hlを延長した液仮想柱状部Hvlは液吐出部Elから吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgはガス吐出部Egから吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgとの距離は液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当しているが、この距離は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
【0026】
この液仮想柱状部Hvl、ガス仮想柱状部Hvgはいずれも内部充実した柱状である。例えば、円柱状の液仮想部を中空円柱状のガス仮想部で覆った状態、又は円柱状のガス仮想部を中空円柱状の液仮想部で覆った状態であると、ガス仮想柱状部Hvgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、液仮想部の切断面の外周とガス仮想部の切断面の内周、又はガス仮想部の切断面の外周と液仮想部の切断面の内周との距離が最も短い直線を無数に引くことができる結果、紡糸液の様々な点でガス及び随伴気流の剪断力が作用し、繊維化が不十分となり、液滴が多くなる。この「仮想柱状部」はノズルの内壁面を延長して形成される部分である。
【0027】
更に、液用柱状中空部Hlの吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行であるため、吐出された紡糸液に対してガス及び随伴気流が1本の直線状に作用し、安定して繊維を形成することができる。例えば、円柱状の液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不安定となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、液用柱状中空部の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部の吐出方向中心軸とが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは吐出部の中心と仮想柱状部の横断面における中心とを結んでできる直線である。
【0028】
本発明で使用できる紡糸装置は、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線Lを1本だけ引くことができる。このようなガス用柱状中空部Hgから吐出されたガス及び随伴気流は、液用柱状中空部Hlから吐出された紡糸液に対して1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
【0029】
なお、図1には図示していないが、液吐出ノズルNlには紡糸液供給装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)が接続されている。なお、紡糸液が樹脂を加熱溶融させたものである場合には、液吐出ノズルNlは樹脂を加熱溶融させる装置に接続されている。ガス吐出ノズルNgはガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されている。なお、ガスが加熱ガスである場合には、ガス吐出ノズルNgはガス加熱装置に接続されている。
【0030】
図1においては、1組の紡糸装置しか描いていないが、2組以上の紡糸装置を配置することができる。2組以上の紡糸装置を配置することによって、生産性を更に高めることができる。
【0031】
また、図1においては、液吐出ノズルNl及びガス吐出ノズルNgとを固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、図1の態様に限定されない。例えば、液吐出ノズルNlの液吐出部El及び/又はガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egの位置を自由に調整できる機構を備えていることができる。また、段差を有する基材に対して液用柱状中空部Hl及びガス用柱状中空部Hgを穿孔したものであっても良い。
【0032】
本発明のイオン交換不織布を構成するイオン交換繊維のもととなる、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維を紡糸することのできる別の紡糸装置について、紡糸装置の先端部を拡大した斜視図である図2、及び図2におけるC平面切断図である図3(a)をもとに説明する。
【0033】
この紡糸装置は、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有する紡糸液を吐出できる第1液吐出部Elを一方の端部に有する第1液吐出ノズルNlと、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有する紡糸液を吐出できる第2液吐出部Elを一方の端部に有する第2液吐出ノズルNlとが、ガスを吐出できるガス吐出部Egを一方の端部に有するガス吐出ノズルNgを挟むように外壁面が当接し、ガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egが第1液吐出部El、第2液吐出部Elのいずれよりも上流側となる位置にある。なお、第1液吐出ノズルNlは第1液吐出部Elを端部とする第1液用柱状中空部Hlを有し、第2液吐出ノズルNlは第2液吐出部Elを端部とする第2液用柱状中空部Hlを有し、ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egを端部とするガス用柱状中空部Hgを有している。また、前記第1液用柱状中空部Hlを延長した第1液仮想柱状部Hvlと前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、第1液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にあり、前記第2液用柱状中空部Hlを延長した第2液仮想柱状部Hvlと前記ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、第2液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも前記第1液用柱状中空部Hlの第1吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にあり、前記第2液用柱状中空部Hlの第2吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行である関係にある。更には、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外形が円形であり、液用柱状中空部Hl、Hlの切断面の外形がいずれも円形であり、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hl、Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができる状態にある(図3(a)参照)。
【0034】
そのため、図2のような紡糸装置の第1液吐出ノズルNl及び第2液吐出ノズルNlに、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有する紡糸液を供給し、ガス吐出ノズルNgにガスを供給すると、紡糸液は第1液用柱状中空部Hl、第2液用柱状中空部Hlをそれぞれ通り、第1液吐出部El、第2液吐出部Elから第1液用柱状中空部Hlの第1軸方向、第2液用柱状中空部Hlの第2軸方向にそれぞれ吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部Hgを通りガス吐出部Egからガス用柱状中空部Hgの軸方向に吐出される。この吐出されたガスと吐出された各紡糸液とはいずれも近接した状態にあり、各液吐出部の直近においては、吐出ガスの中心軸Agと各吐出紡糸液の中心軸Al、Alとがいずれも平行関係にあり、しかもC平面上、吐出されたガスと吐出された各紡糸液とは、いずれの組み合わせにおいても最も近い点が1箇所であることから、つまり、いずれの紡糸液も1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受け、細径化しながら第1液用柱状中空部Hlの第1軸方向、第2液用柱状中空部Hlの第2軸方向にそれぞれ飛翔し、同時にいずれの紡糸液も固化して、イオン交換基導入可能繊維を形成する。図2の紡糸装置は1つのガス流によって、2つの紡糸液を紡糸して繊維化することができ、少ないガス量で紡糸できるため、生産性良く紡糸できる。
【0035】
第1液吐出ノズルNl、第2液吐出ノズルNlは紡糸液を吐出できるものであれば良く、第1液吐出部El、第2液吐出部Elの外形は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に作用を受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。つまり、第1液吐出ノズルNl、第2液吐出ノズルNlの外形が円形であると、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hl、Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても1本だけ引くことができる状態となりやすいため、吐出されたいずれの紡糸液もガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。なお、第1液吐出部Elと第2液吐出部Elの外形は同じ外形であっても良いし、異なる外形であっても良いが、いずれも円形であるのが好ましい。
【0036】
第1液吐出部El、第2液吐出部Elの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角をガス吐出ノズルNg側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくするのが好ましい。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl、第2液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線(図3(a)〜(e)におけるL1、L2)を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができるように第1液吐出ノズルNl、第2液吐出ノズルNlを配置すると、いずれの紡糸液もガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、安定して紡糸でき、液滴を生じにくくなる。したがって、ガス吐出部Egの形状が円形であれば、多角形状の第1液吐出部El、第2液吐出部Elの辺をガス吐出ノズルNg側となるように配置することも可能である(図3(e)参照)。
【0037】
また、第1液吐出部El及び第2液吐出部Elの大きさも特に限定するものではないが、いずれも0.01〜20mmであるのが好ましく、0.01〜2mmであるのがより好ましい。0.01mmよりも小さいと、粘度の高い紡糸液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mmを超えると、ガス及び随伴気流の作用を1本の直線状にするのが難しくなり、安定して紡糸できなくなる傾向があるためである。なお、第1液吐出部Elの大きさと第2液吐出部Elの大きさは同じであっても異なっていても良い。
【0038】
なお、第1液吐出ノズルNl及び第2液吐出ノズルNlは金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。第1液吐出ノズルNl又は第2液吐出ノズルNlが金属製であれば、第1液吐出ノズルNl又は第2液吐出ノズルNlに対して電圧を印加することによって、紡糸液に対して電界を作用させることができ、また、樹脂を加熱溶融させた紡糸液であっても使用することができる。更に、図2においては、円柱状の第1液吐出ノズルNl及び第2液吐出ノズルNlを図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出ノズル側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して繊維化できる。
【0039】
なお、図2においては、第1液吐出ノズルNlと第2液吐出ノズルNlの2本について図示しているが、液吐出ノズルは2本である必要はなく、3本以上であっても良い(図4参照)。この液吐出ノズルの本数が多ければ多いほど、ガスを効率的に利用し、生産性良く紡糸することができる。
【0040】
ガス吐出ノズルNgはガスを吐出できるものであれば良く、ガス吐出部Egの形状は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス吐出部に対して各液吐出部をどのように配置しても、各液吐出部から吐出された各紡糸液に、ガス吐出部から吐出されたガスおよび随伴気流による剪断力をそれぞれ1本の直線状に作用させ、細径化した繊維を紡糸しやすいように、円形であるのが好ましい。なお、ガス吐出部Egの形状が多角形である場合には、多角形の1つの角を第1液吐出ノズルNl側となり、もう1つの角が第2液吐出ノズルNl側となるように配置することにより、ガス及び随伴気流の剪断作用が働きやすくなる。つまり、前述の通り、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hl、第2液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線L1、L2を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができる状態となるように第1液吐出ノズルNl、第2液吐出ノズルNlを配置する(図3(c)〜(d)参照)と、各紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。
【0041】
また、ガス吐出部Egの大きさも特に限定するものではないが、0.01〜79mmであるのが好ましく、0.015〜20mmであるのがより好ましい。0.01mmよりも小さいと、吐出された各紡糸液全体に剪断作用を働かせることが困難になり、安定して繊維化することが困難になる傾向があるためで、79mmを超えると剪断作用を働かせるために十分な風速が必要で、多量のガスが必要となって不経済であるためである。
【0042】
なお、ガス吐出ノズルNgは金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。また、ガス吐出ノズルに替えて金属製や樹脂製のチューブを用いることもできる。なお、金属製であれば、加熱ガスであっても吐出することができる。
【0043】
ガス吐出ノズルNgはガス吐出部Egが第1液吐出部El及び第2液吐出部Elよりも上流側(各紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、第1液吐出部El及び第2液吐出部Elの周辺へ各紡糸液が巻き上がるのを防止できる。そのため、液吐出部を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部Egと第1液吐出部El又は第2液吐出部Elとの距離は特に限定するものではないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると第1液吐出部El又は第2液吐出部Elにおけるガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部Egと第1液吐出部El及び第2液吐出部Elとの距離の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと第1液吐出部El及び第2液吐出部Elとが一致していなければ良い。
【0044】
なお、ガス吐出部Egと第1液吐出部El又は第2液吐出部Elとの距離は同じであっても異なっていても良いが、同じであると、各紡糸液に対して同程度の剪断力を作用させることができ、安定して紡糸できるため好適である。
【0045】
第1液用柱状中空部Hl及び第2液用柱状中空部Hlは各紡糸液の通過経路であり、各紡糸液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部Hgはガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。本発明においては、第1液用柱状中空部Hl、第2液用柱状中空部Hl、ガス用柱状中空部Hgのいずれも柱状の紡糸液又はガスを形成できるため、ガス及び随伴気流の剪断作用を各紡糸液に十分に作用させることができ、繊維化することができる。
【0046】
なお、第1液用柱状中空部Hlを延長した第1液仮想柱状部Hvlは第1液吐出部Elから吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、第2液用柱状中空部Hlを延長した第2液仮想柱状部Hvlは第2液吐出部Elから吐出された紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgはガス吐出部Egから吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この第1液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgとの距離は第1液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当し、第2液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgとの距離は第2液吐出ノズルNlの壁厚とガス吐出ノズルNgの壁厚の和に相当しているが、これら距離は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
【0047】
この第1液仮想柱状部Hvl、第2液仮想柱状部Hvl、ガス仮想柱状部Hvgはいずれも内部充実した柱状である。例えば、円柱状の第1又は第2液仮想部を中空円柱状のガス仮想部で覆った状態、又は円柱状のガス仮想部を中空円柱状の第1又は第2液仮想部で覆った状態であると、ガス仮想柱状部Hvgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、第1又は第2液仮想部の切断面の外周とガス仮想部の切断面の内周、又はガス仮想部の切断面の外周と第1又は第2液仮想部の切断面の内周との距離が最も短い直線を無数に引くことができる結果、紡糸液の様々な点でガス及び随伴気流の剪断力が作用し、繊維化が不十分となり、液滴が多くなる。この「仮想柱状部」はノズルの内壁面を延長して形成される部分である。
【0048】
更に、第1液用柱状中空部Hlの第1吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行であり、また、第2液用柱状中空部Hlの第2吐出方向中心軸Alとガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが平行であるため、吐出された紡糸液に対してガス及び随伴気流が1本の直線状に作用し、安定して繊維を形成することができる。例えば、円柱状の第1又は第2液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の第1又は第2液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不安定となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、第1又は第2液用柱状中空部の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部の吐出方向中心軸とが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは吐出部の中心と仮想柱状部の横断面における中心とを結んでできる直線である。
【0049】
本発明で使用できる紡糸装置は、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第1液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線L1を1本だけ引くことができ、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と第2液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線L2を1本だけ引くことができる。このようなガス用柱状中空部Hgから吐出されたガス及び随伴気流は、第1液用柱状中空部Hlから吐出された紡糸液と第2液用柱状中空部Hlから吐出された紡糸液のいずれに対しても1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
【0050】
なお、図2には図示していないが、第1液吐出ノズルNl及び第2液吐出ノズルNlにはそれぞれ紡糸液供給装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)が接続されている。また、紡糸液が樹脂を加熱溶融させたものである場合には、第1液吐出ノズルNl及び/又は第2液吐出ノズルNlは樹脂を加熱溶融させる装置に接続されている。ガス吐出ノズルNgはガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されている。なお、ガスが加熱ガスである場合には、ガス吐出ノズルNgはガス加熱装置に接続されている。
【0051】
図2においては、1組の紡糸装置しか描いていないが、2組以上の紡糸装置を配置することができる。2組以上の紡糸装置を配置することによって、生産性を更に高めることができる。
【0052】
また、図2においては、第1液吐出ノズルNl、第2液吐出ノズルNl、及びガス吐出ノズルNgとを固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、図2の態様に限定されない。例えば、第1液吐出ノズルNlの第1液吐出部El、第2液吐出ノズルNlの第2液吐出部El、及び/又はガス吐出ノズルNgのガス吐出部Egの位置を自由に調整できる機構を備えていることもできる。また、段差を有する基材に対して第1液用柱状中空部Hl、第2液用柱状中空部Hl及びガス用柱状中空部Hgを穿孔したものであっても良い。
【0053】
次いで、本発明のイオン交換不織布のイオン交換基を導入する前の前駆不織布を製造することのできる、不織布製造装置について、不織布製造装置の模式的断面説明図である図5を参照しながら説明する。
【0054】
不織布製造装置は前述のような紡糸装置1に加えて、紡糸されたイオン交換基導入可能繊維を捕集できる捕集体3、捕集体3の下流側に存在し、紡糸されたイオン交換基導入可能繊維を吸引できるサクション装置4、捕集体3及びサクション装置4を収納できる紡糸容器5、紡糸容器5へ所定相対湿度のガスを供給できる容器用ガス供給装置、及び紡糸容器内のガスを排気できる排気装置を備えている。なお、紡糸装置1にはイオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を含有する紡糸液を液吐出ノズルNlへ供給できる紡糸液供給装置が接続され、ガスをガス吐出ノズルNgへ供給できる紡糸用ガス供給装置が接続されている。
【0055】
このような不織布製造装置の場合、紡糸液は紡糸液供給装置によって、液吐出ノズルNlへ供給されると同時に、紡糸用ガス供給装置によってガスがガス吐出ノズルNgへ供給される。そのため、液吐出ノズルNlから吐出された紡糸液はガス吐出ノズルNgから吐出されたガスの剪断作用によって延伸され、イオン交換基導入可能繊維を形成し、捕集体3へ向かって飛翔する。この飛翔するイオン交換基導入可能繊維は直接、捕集体3上に集積し、前駆不織布を形成する。
【0056】
この不織布製造装置においては、捕集体3の下流側にサクション装置4が配置されているため、イオン交換基導入可能繊維を集積する際に、ガス吐出ノズルNgから吐出されたガスや容器用ガス供給装置から供給されたガスは速やかに排出され、これらガスの作用によって前駆不織布が乱れるということがない。
【0057】
また、図5の不織布製造装置においては、紡糸装置1、捕集体3及びサクション装置4を紡糸容器5に収納し、閉鎖空間としているため、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸液から揮発した溶媒の飛散を防ぎ、場合によっては溶媒を回収して再利用することができる。
【0058】
なお、紡糸容器5に、サクション装置4とは別に紡糸容器5内のガスを排気できる排気装置を接続しているため、繊維径のバラツキを小さくすることができる。紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸を行っていると、紡糸容器内における溶媒蒸気濃度が次第に高くなり、溶媒の蒸発が抑制される結果、繊維径のバラツキが発生しやすく、また繊維化されにくくなる傾向があるが、排気装置によってガスを排気することによって抑制することができる。更に、紡糸容器5に温湿度を調整したガスを供給できる容器用ガス供給装置が接続されているため、紡糸容器内における溶媒蒸気濃度を安定させ、繊維径のバラツキを小さくできる。
【0059】
このように、図5の不織布製造装置によれば、前述の紡糸装置1を使用しているため平均繊維径が1μm以下に細径化したイオン交換基導入可能繊維を安定して紡糸でき、また、ガスの作用によってイオン交換基導入可能繊維を紡糸しているため、紡糸液の吐出量を増やすことができ、生産性良く前駆不織布を製造することができる。また、図5の不織布製造装置はガスの作用によってイオン交換基導入可能繊維を紡糸しているため、紡糸液の粘度が高い場合であっても安定して紡糸することができる。
【0060】
図5の不織布製造装置においては、捕集体3の下流側にサクション装置4を備えているため、サクション装置4の作用によってイオン交換基導入可能繊維は捕集体3へ誘導され、余分なガスが除去される。図5においては、コンベアからなる捕集体3であるが、捕集体3はイオン交換基導入可能繊維を直接集積できるものであれば良く、例えば、不織布、織物、編物、ネット、ドラム、ベルト或いは平板を捕集体として使用できる。また、図5においては、サクション装置4によってガスを吸引しているため、捕集体3は通気性であるが、サクション装置4を使用しない場合には、捕集体は通気性である必要はない。
【0061】
図5においては、捕集体3を紡糸装置1の液吐出ノズルNlからの吐出方向下側(重力の作用方向)に配置し、液吐出ノズルNlの吐出方向と捕集体3の捕集面とが直交する位置関係にあるが、液吐出ノズルNlからの吐出方向と捕集体3の捕集面とが平行である位置関係にあっても良い。なお、液吐出ノズルNlからの吐出方向は重力の作用方向と同じであっても、重力の作用方向と反対方向であっても、重力の作用方向と直交する方向であっても、重力の作用方向と交差する方向であっても良く、特に限定するものではない。
【0062】
サクション装置4は特に限定するものではないが、紡糸用ガス供給装置及び容器用ガス供給装置からのガス供給量、作製する前駆不織布の厚みによって風速条件を調整できるものが好ましい。サクション装置4により吸引されたガスは排気、または再び紡糸容器内に戻し、循環させることもできる。このように循環させる場合、容器用ガス供給装置を排気装置と兼用させることもできる。
【0063】
容器用ガス供給装置としては、例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、或いは送風機などを挙げることができる。なお、図5においては、紡糸容器5の上壁面からガスを供給しているが、側壁面からガスを供給することもできる。しかしながら、飛翔空間2へ効率的に、かつ繊維の集積状態に影響を与えないようにガスを供給できる位置から供給するのが好ましい。
【0064】
また、排気装置は特に限定するものではないが、例えば、排気口に設置されたファンであることができる。図5のように、容器用ガス供給装置によって紡糸容器5へガスを供給する場合には、単に排気口を設けるだけで供給量と同量のガスを排出することができるため、排気装置は必ずしも必要はない。なお、図5のように排気装置によって排気する場合、排気装置とサクション装置4の総排気量は紡糸用ガス供給装置及び容器用ガス供給装置からのガス供給量の総量と同じであるのが好ましい。総供給量と総排気量とが異なると、紡糸容器5内における圧力が変わることによって、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、溶媒の蒸発速度が変わり、繊維径のバラツキが生じやすいためである。また、図5に示す態様とは異なり、排気装置への排気口は紡糸容器5の底壁面ではなく、側壁面に設けることもできる。また、サクション装置4に排気装置を兼用させることもできる。
【0065】
なお、紡糸液供給装置としては、例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなどを挙げることができ、紡糸用ガス供給装置として、例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなどを挙げることができる。
【0066】
図5の不織布製造装置においては、紡糸装置1を1台だけ配置しているが、1台である必要はなく、2台以上配置することができる。2台以上配置することによって前駆不織布の生産性を高めることができる。また、図5の不織布製造装置においては、1本のガス吐出ノズルに対して1本の液吐出ノズルを配置した紡糸装置1を使用しているが、1本のガス吐出ノズルに対して2本以上の液吐出ノズルを配置した紡糸装置を使用することもできる。
【0067】
また、図5の不織布製造装置においては、前駆不織布を結合させるための装置を配置していないが、前駆不織布を結合するための装置を配置することができる。例えば、バインダーを付与し、乾燥する装置、繊維同士を融着させることのできる熱処理装置、繊維同士を絡合させることのできる絡合装置、などを配置することができる。
【0068】
更に、図5の不織布製造装置においては、ガス吐出ノズルから吐出されたガスの作用のみによって繊維化しているが、ガスの作用に加えて、電界を作用させることによって、繊維化を促進することができる。例えば、紡糸装置1の液吐出ノズルNlに電圧を印加するとともに、捕集体3をアースすることによって、液吐出ノズルNlと捕集体3との間に電界を形成すると、気体の剪断作用によって延伸されず液滴となりやすい紡糸液を、電界の作用によって引き伸ばして繊維化することができる。また、電界の作用によって、繊維が帯電し、互いに反発することによって、繊維同士が結着した繊維束を形成せず、個々の繊維が分散した状態で捕集できるため、繊維径の揃った前駆不織布を製造できる。なお、このように液吐出ノズルNlに電圧を印加する場合には、従来の静電紡糸法による電圧よりも低い電圧で良いため、静電紡糸法により形成した不織布よりも嵩高な前駆不織布とすることができる。
【0069】
なお、液吐出ノズルNlに電圧を印加できる電源としては、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を挙げることができる。また、印加極性は正であっても負であっても良い。なお、液吐出ノズルNlではなく、液吐出ノズルNl内に挿入したワイヤー等に印加しても良い。更には、捕集体3に対して印加し、液吐出ノズルNlをアースしても良い。或いは、液吐出ノズルNlと捕集体3との間に電界が形成されるように、双方に電圧を印加しても良い。また、コンベアの下流側に対向電極を配置し、対向電極をアース又は印加し、液吐出ノズルNlとの間に電界を形成することもできる。
【0070】
この液吐出ノズルNlと捕集体3との間に生じる電位差は、紡糸液の種類、液吐出ノズルNlと捕集体3との距離、温湿度などの紡糸条件によって変化するため、特に限定するものではないが、0.05〜1.5kV/cmであるのが好ましい。電位差が1.5kV/cmを超えると、ガスの剪断作用による紡糸よりも静電紡糸法と同様の電界による紡糸が支配的となるが、ガスの作用も受けて前駆不織布の地合いが悪くなる傾向があるためである。他方、0.05kV/cm未満であると、繊維の帯電が不十分あるいは弱いため、糸玉、繊維束、ショット、粒等、繊維以外のものも多く含む前駆不織布となる傾向があるためである。
【0071】
このような不織布製造装置を用いて前駆不織布を製造する場合、紡糸装置1のガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出するのが好ましい。ガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出することによって、液滴の発生を抑え、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維を紡糸しやすいためである。好ましくは流速150m/sec.以上のガスを吐出し、より好ましくは流速200m/sec.以上のガスを吐出する。なお、ガス流速の上限はイオン交換基導入可能繊維の平均繊維径を1μm以下とすることができる限り、特に限定するものではない。このような流速のガスを吐出するには、例えば、紡糸用ガス供給装置として圧縮機を使用し、ガス用柱状中空部Hgにガスを供給すれば良い。なお、ガスの種類は特に限定するものではないが、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどを使用することができ、これらの中でも空気は経済的である。また、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸液に対して親和性のない溶媒の蒸気をガスに含ませることができ、このような溶媒の蒸気量を調整することによって、紡糸液の固化を促進させることができる。更に、紡糸液が樹脂を加熱溶融させたものである場合、加熱したガスを使用することができ、このような加熱ガスを使用することによって、溶融樹脂を十分に引き伸ばしてより細い繊維を紡糸することができる。
【0072】
本発明で使用できる紡糸液は、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を溶媒に溶解させた紡糸液、又はイオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂を加熱溶融させた紡糸液である。
【0073】
例えば、イオン交換基導入可能樹脂として、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリルを50wt%以上含むアクリロニトリル共重合体、ポリスチレン、スチレン共重合体、ポリビニルピリジンなど1種又は2種以上の樹脂を使用することができる。なお、アクリロニトル共重合体の共重合成分としては、例えば、アクリル酸エステル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、メタリルスルホン酸、酸酢酸ビニル、アクリル酸、イタコン酸、アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0074】
耐アルカリ性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリオレフィン系、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体などのフッ素系、塩化ビニリデン系、ポリイミド、全芳香族ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどを挙げることができる。なお、「耐アルカリ性樹脂」とは、たて10cm、よこ10cm、厚さ30μmの樹脂フィルムを濃度5重量%、温度90℃の苛性ソーダに10分間浸漬した時に、浸漬前後における前記樹脂フィルムの面積収縮率が20%以内である樹脂を意味する。なお、本発明における収縮率(Sr(%))は次の式から算出される値である。
Sr=[(10×10−L×W)/10×10]×100=100−LW
ここで、Lは浸漬後のたての長さ(cm)、Wは浸漬後のよこの長さ(cm)をそれぞれ意味する。
【0075】
また、耐酸性樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリオレフィン系、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合などのフッ素系、塩化ビニリデン系、ポリイミド、全芳香族ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどを挙げることができる。なお、「耐酸性樹脂」とは、たて10cm、よこ10cm、厚さ30μmの樹脂フィルムを濃度65重量%、温度90℃の硫酸に30分間浸漬した時に、浸漬前後における前記樹脂フィルムの面積収縮率が20%以内である樹脂を意味する。
【0076】
溶媒はこれらの樹脂を溶解させることができれば良く、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系などを1種類もしくは2種類以上混合して使用することができる。
【0077】
このように、紡糸液が樹脂を溶媒に溶解させたものである場合、紡糸液の紡糸時の粘度は10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向がある。したがって、常温で粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、常温で粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。本発明における「粘度」は、粘度測定装置を用い、紡糸時と同じ温度で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
【0078】
他方、紡糸液が樹脂を加熱溶融させたものである場合、樹脂の紡糸時の温度範囲は最も融点の低い樹脂の融点から融点より200℃高い温度までの範囲であるのが好ましく、融点より20℃高い温度から融点より100℃高い温度までの範囲であるのがより好ましい。温度依存性を示す樹脂の場合、融点より200℃高い温度よりも高い温度では、樹脂の熱分解が発生して紡糸が困難となるためである。また、紡糸時の樹脂にかかる剪断速度は、1〜10000s−1であるのが好ましく、剪断速度50〜5000s−1であるのがより好ましい。圧力依存性を示す樹脂の場合、剪断速度が1s−1未満であると、吐出が安定せず、10000s−1を超えると、高い吐出圧力が必要となり吐出が困難となる傾向があるためである。なお、上記の温度範囲および剪断速度範囲において、樹脂の紡糸時の粘度が10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向があるためである。したがって、溶融時に粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、溶融時に粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。
【0079】
この紡糸液におけるイオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂との質量比率は特に限定するものではないが、10:90〜90:10であるのが好ましい。耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂の質量比率が10%未満であると、アルカリ又は酸で処理した際の、前駆不織布の収縮や劣化を抑制することが難しくなる傾向があるためで、他方、イオン交換基導入可能樹脂の質量比率が10%未満であると、イオン交換性能に劣る傾向があるためである。
【0080】
なお、液吐出部からの紡糸液の吐出量は紡糸液の粘度やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、液吐出部1つあたり0.1〜100cm/時間であるのが好ましい。
【0081】
図5に示すような不織布製造装置を用いて前駆不織布を製造する場合、液吐出ノズルNlからイオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂とを含有する紡糸液を吐出することにより、繊維化され、捕集体に向かって飛翔し、集積することによって前駆不織布を製造することができる。
【0082】
なお、図5においては、液吐出ノズルNlの1つの液吐出ノズルを有する態様であるが、2つ以上の液吐出ノズルを有することもできる。この場合、紡糸の際の吐出条件は同じである必要はない。例えば、形の異なる液吐出部を使用する、液吐出部の大きさの異なるものを使用する、液吐出部のガス吐出部からの距離が異なるように配置する、液吐出部ごとに吐出量が異なるようにする、紡糸液の温度が異なるようにする、紡糸液の調製方法が異なる(例えば、溶媒に溶解させた紡糸液と加熱溶融させた紡糸液)、紡糸液に添加されている添加剤の種類及び/又は量が異なる、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂との混合比率が異なる、などのこれら1つ、又は2つ以上が異なる条件で吐出することができる。
【0083】
以上、前駆不織布の製造方法について、ガスの作用により紡糸する方法について説明したが、公知の静電紡糸法により前駆不織布を製造することもできる。
【0084】
次いで、前述の前駆不織布をアルカリ又は酸で処理することによって、イオン交換基導入可能繊維にイオン交換基を導入し、本発明のイオン交換不織布を製造することができる。本発明の前駆不織布においては、イオン交換基導入可能繊維中に耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂が混在していることによって、アルカリ又は酸で処理した場合の不織布の収縮や劣化を抑制することができるため、イオン交換性能に優れるイオン交換不織布を安定して製造することができる。
【0085】
このイオン交換基を導入するアルカリ処理は特に限定するものではないが、例えば、イオン交換基導入可能樹脂がアクリル樹脂の場合、濃度5重量%、温度90℃の苛性ソーダ浴中に浸漬し、ニトリル基を加水分解することにより、カルボキシル基(イオン交換基)を導入することができる。なお、必要量のイオン交換基を導入できるように、苛性ソーダの濃度、温度、又は浸漬時間は実験により確認し、適宜調整する。
【0086】
また、イオン交換基を導入する酸処理は特に限定するものではないが、例えば、イオン交換基導入可能樹脂がアクリル樹脂の場合、濃度60重量%、温度90℃の硫酸浴中に浸漬し、ニトリル基を加水分解することにより、カルボキシル基(イオン交換基)を導入することができる。なお、必要量のイオン交換基を導入できるように、硫酸の濃度、温度、又は浸漬時間は実験により確認し、適宜調整する。
【0087】
本発明のイオン交換不織布は、例えば、上述のような方法により製造することのできる、平均繊維径が1μm以下のイオン交換繊維を含む不織布である。本発明のイオン交換不織布は平均繊維径が1μm以下と非常に細く、表面積が広いため、イオン交換性能の優れるものである。また、イオン交換繊維は耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂も含んでいるため、前述の通り、アルカリ又は酸で処理しても、前駆不織布の収縮や劣化を抑制し、イオン交換基を導入して得ることのできるイオン交換不織布である。
【0088】
なお、本発明のイオン交換繊維はイオン交換に関与できるように、イオン交換樹脂が繊維表面に露出している。このように露出している状態としては、芯鞘型複合繊維のように、鞘成分として露出している状態、海島型複合繊維のように、海成分として露出している状態、サイドバイサイド型複合繊維のように、一方の成分として露出している状態、などを挙げることができる。
【0089】
本発明のイオン交換繊維のイオン交換基は特に限定するものではないが、例えば、カルボキシル基であることができる。また、イオン交換繊維の平均繊維径は小さければ小さい程、表面積が広く、イオン交換基導入量を多くでき、イオン交換性能に優れているため、0.8μm以下であるのがより好ましい。一方で、イオン交換繊維の平均繊維径が小さすぎると、アルカリ又は酸での処理中に損傷し、繊維形態を維持するのが困難になる傾向があるため、0.1μm以上であるのが好ましい。なお、本発明における「平均繊維径」は100箇所の繊維径の算術平均値を指し、「繊維径」は不織布表面における倍率10,000倍の電子顕微鏡写真をもとに計測した値をいう。
【0090】
本発明のイオン交換不織布はイオン交換性能に優れるものであるが、具体的にはイオン交換容量が0.01meq/g〜5meq/gであることができる。なお、イオン交換容量は次のように測定して得られる値をいう。
【0091】
まず、10cm×10cmの大きさに裁断したイオン交換不織布(質量:M(g))を、0.1mol/Lの水酸化カリウム標準液(10ml)中に3時間以上浸漬する。
【0092】
次いで、滴定指示薬フェノールフタレイン液を加えた後、0.1mol/Lの塩酸を滴下して滴定し、滴定量[b(ml)]を量る。
【0093】
一方、イオン交換不織布を入れない空試験を同様に行い、滴定量[c(ml)]を量る。
【0094】
これらの結果から、次の式からイオン交換容量(Y(meq/g))を算出する。
Y={(c−b)×0.1}/M
【0095】
本発明のイオン交換不織布の目付や厚さは特に限定するものではないが、目付は5〜100g/mであることができ、厚さは20〜500μmであることができる。なお、目付は10cm角のイオン交換不織布の重量から、1mのイオン交換不織布重量を算出した値であり、厚さはマイクロメーターにより測定した値をいう。
【実施例】
【0096】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
(実施例1)
(イオン交換基導入可能樹脂含有紡糸液の調製)
アクリロニトリル共重合体(イオン交換基導入可能樹脂)とポリエーテルスルホン(耐アルカリ性樹脂)とを、60:40の質量比率で、ジメチルアセトアミドに濃度18mass%となるように溶解させて、紡糸液(粘度(温度:23℃):800mPa・s)を調製した。
【0098】
(不織布製造装置の準備)
図5のような、次の構成からなる不織布製造装置を用意した。
(イ) 次のような紡糸装置(図1と同様の紡糸装置)を10組、一直線状に配置した。
(1) 紡糸液供給装置:シリンジ
(2) 紡糸用ガス供給装置:圧縮機
(3) 液吐出ノズルNl:金属製
(3)−1 液吐出部El:0.33mm径(断面積:0.086mm)の円形
(3)−2 液用柱状中空部Hl:0.33mm径の円柱状
(3)−3 ノズル外径:0.64mm
(4) ガス吐出ノズルNg:金属製
(4)−1 ガス吐出部Eg:0.33mm径(断面積:0.086mm)の円形
(4)−2 ガス用柱状中空部Hg:0.33mm径の円柱状
(4)−3 ノズル外径:0.64mm
(4)−4 位置:ガス吐出部Egが液吐出部Elよりも3mm上流側に、ノズルの外壁面が当接するように配置
(5)−1 液仮想柱状部Hvlとガス仮想柱状部Hvgの距離:0.31mm
(5)−2 液吐出方向中心軸Alとガス吐出方向中心軸Ag:平行
(5)−3 ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hlの切断面の外周との距離が最も短い直線Lの本数:1本
【0099】
(ロ) 捕集体3:ネット(表面をフッ素樹脂でコーティングしたメッシュタイプのコンベアネット)の捕集面を紡糸液の吐出方向中心軸に対して直交するように配置
(1) 捕集体3の位置:紡糸装置1の液吐出ノズルNlからの吐出方向中心軸を基準として、重力方向に100mmの位置に捕集体3の捕集面が位置するように配置
(2)サクション装置4:サクションボックス(サクション口:80mm×350mm)、捕集体3の下流側に配置、排気装置を兼用
【0100】
(ハ) 紡糸容器5:高さ1010mm×幅1010mm×奥行1010mm
(1)紡糸装置1、捕集体3、サクション装置4を紡糸容器内に収納
(2)容器用ガス供給装置を紡糸容器5の上壁面に接続
【0101】
(前駆不織布の製造)
次の条件で、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂とが混在した、繊維断面が海島型のイオン交換基導入可能繊維を紡糸した後、捕集体3(ネット)上に集積させ、前駆不織布を製造した。
(イ) 各液吐出ノズルNlから紡糸液を3g/時間の量で吐出
(ロ) 空気吐出量:1.3L/min.
(ハ) 空気吐出流速:253m/sec.
(ニ) ネットの移動速度:2mm/min.
(ホ) サクションボックスの吸引条件:1.4m/min.
(ヘ) 容器用ガスの供給条件:温度28℃、湿度40%の空気を50L/min.で供給
【0102】
(イオン交換不織布の製造)
前記前駆不織布を濃度5wt%、温度90℃の苛性ソーダ浴中に10分間浸漬することによって、イオン交換基導入可能繊維にカルボキシル基を導入し、本発明のイオン交換不織布(目付:20g/m、厚さ:800μm、イオン交換容量:0.35meq/g)を製造した。なお、イオン交換繊維の平均繊維径は600nmであった。また、苛性ソーダ浴に浸漬しても前駆不織布の収縮は5%以下で、問題なくイオン交換不織布を製造することができた。
【0103】
(実施例2)
実施例1と同様にして製造した前駆不織布を濃度62%、温度90℃の硫酸浴中に25分間浸漬することによって、イオン交換基導入可能繊維にカルボキシル基を導入し、本発明のイオン交換不織布(目付:40g/m、厚さ:200μm、イオン交換容量:0.25meq/g)を製造した。なお、イオン交換繊維の平均繊維径は600nmであった。また、硫酸浴に浸漬しても前駆不織布の収縮は5%以下で、問題なくイオン交換不織布を製造することができた。
【0104】
(比較例1)
耐アルカリ性樹脂を混合せず、イオン交換基導入可能樹脂のみを溶解させた紡糸液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、前駆不織布を製造した。
【0105】
その後、前記前駆不織布を濃度5wt%、温度90℃の苛性ソーダ浴中に10分間浸漬することによって、イオン交換基導入可能繊維にカルボキシル基を導入し、イオン交換不織布を製造しようとしたが、前駆不織布の収縮が15%以上になり、シートとして取り扱うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のイオン交換不織布はイオン交換性能に優れているため、気体や液体などの流体中における不純物を除去又は回収できる濾過材として、或いはナトリウムなどの金属溶出物を除去できる超純水のファイナルフィルタとして好適に使用できる。
【符号の説明】
【0107】
Nl 液吐出ノズル
Nl 第1液吐出ノズル
Nl 第2液吐出ノズル
Ng ガス吐出ノズル
El 液吐出部
El 第1液吐出部
El 第2液吐出部
Eg ガス吐出部
Hl 液用柱状中空部
Hl 第1液用柱状中空部
Hl 第2液用柱状中空部
Hg ガス用柱状中空部
Hvl 液仮想柱状部
Hvl 第1液仮想柱状部
Hvl 第2液仮想柱状部
Hvg ガス仮想柱状部
Al 吐出方向中心軸(液)
Al 第1吐出方向中心軸(液)
Al 第2吐出方向中心軸(液)
Ag 吐出方向中心軸(ガス)
C ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面
外周間の距離が最も短い直線
L1 外周間の距離が最も短い直線
L2 外周間の距離が最も短い直線
1 紡糸装置
2 飛翔空間
3 捕集体
4 サクション装置
5 紡糸容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂とが混在する、平均繊維径が1μm以下のイオン交換繊維を含むことを特徴とする、イオン交換不織布。
【請求項2】
紡糸液を吐出できる液吐出部を1箇所以上と、前記いずれの液吐出部よりも上流側に位置し、ガスを吐出できるガス吐出部1箇所とを有する下記条件を満足する紡糸装置の、1箇所以上の液吐出部から、イオン交換基導入可能樹脂と耐アルカリ性樹脂又は耐酸性樹脂とを含有する紡糸液を吐出し、平均繊維径が1μm以下のイオン交換基導入可能繊維を紡糸した後に集積して前駆不織布を形成した後、前記イオン交換基導入可能繊維をアルカリ又は酸で処理することによってイオン交換基を導入することを特徴とする、イオン交換不織布の製造方法。

(1)液吐出部を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有する
(2)ガス吐出部を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有する
(3)液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)とガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは近接している
(4)液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸とが平行である
(5)ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−111689(P2011−111689A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266825(P2009−266825)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】