説明

イオン交換樹脂の処理装置及び方法

【課題】使用済イオン交換樹脂を反応容器内で分解処理する際に、反応容器や配管の固形物による閉塞または腐食を防止できること。
【解決手段】イオン交換樹脂を高温高圧水で油化し、このイオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液Cと残存する固形物Dとを分離する油化・分離装置11と、前処理液を高温高圧水下で分解する反応容器12と、イオン交換樹脂を含むスラリーAを油化・分離装置へ輸送するスラリー輸送ライン13と、油化・分離装置からの前処理液を反応容器へ供給する前処理液供給ライン14と、イオン交換樹脂を油化するため使用する酸化剤を油化・分離装置へ供給する第1酸化剤供給ライン15と、前処理液を分解するために使用する酸化剤を反応容器へ供給する第2酸化剤供給ライン16と、反応容器にて生成された分解ガス及び分解液を冷却し減圧する分解済流体移動ライン17とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済イオン交換樹脂を分解処理するイオン交換樹脂の処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機物を含む廃棄物を処理する方法として、水の臨界点(温度374.2℃、圧力22.1MPa)を超える高温高圧状態の水(例えば超臨界状態の水)を用いる方法が注目されている。本方法は、超臨界状態の水(超臨界水)が高エネルギーを有するために、高速で有機物の結合を切断できるという特徴を生かしたものである。
【0003】
一方、超臨界水では、無機塩の溶解度が低下するという特徴がある。従って、超臨界水を満たした反応容器内で、原子力発電所の復水浄化系等から発生した使用済イオン交換樹脂を分解処理する場合、イオン交換樹脂は硫黄分や窒素分を含み、かつ酸化鉄が付着しているため、分解処理後、硫黄分や窒素分から生成する無機塩などの無機物や酸化鉄が反応容器の容器壁などに堆積し、反応容器内が閉塞したり、腐食が促進する問題が生じる。
【0004】
無機物等が堆積する問題を解決する方法として、例えば、「湿式酸化型プロセスにおける固形体分離方法及び装置」(特許文献1)では、臨界温度を超えるスーパーゾーンと臨界温度よりも低いサブゾーンで構成される縦型反応容器内に、水、有機物、無機物、酸素を含む物質を供給し、スーパーゾーンで反応させる。反応時に析出した無機物及び固形体等の固形物以外の分解ガス及び分解液は、スーパーゾーンで流れを反転させてから反応容器上側出口配管を通って反応容器外へ排出される。無機物及び固形体等の固形物はサブゾーンに移動し溶解されて、反応容器下側出口配管を通って反応容器外へ排出される。
【特許文献1】国際公開WO89/02874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献記載の手法では、無機物を多量に含む廃棄物、もしくは分解後に多量の無機物が析出される廃棄物を処理した場合、無機物及び固形体等の固形物の大きさが小さかったり、重量が軽いものであったりすると、無機物及び固形体等の固形物がサブゾーンに移動せず、分解ガス及び分解液の流れに同伴してしまう。その結果、反応容器上側出口配管内を無機物及び固形体が固体のまま移動し、同配管等を閉塞する恐れがある。
【0006】
このように、超臨界水を含む高温高圧状態の水(高温高圧水)中で、使用済イオン交換樹脂を反応容器内で処理する場合、無機塩の溶解度が低下するため、反応容器の壁などに無機塩(無機物)や、イオン交換樹脂に含まれる酸化鉄(固形体)等の固形物が析出し、その結果として、反応容器や配管が閉塞したり、腐食が促進する恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、使用済イオン交換樹脂を反応容器内で分解処理する際に、反応容器や配管の固形物による閉塞または腐食を防止できるイオン交換樹脂の処理装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置は、イオン交換樹脂を高温高圧水で油化し、このイオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液と残存する固形物とを分離する油化・分離装置と、前記前処理液を高温高圧水下で分解する反応容器と、イオン交換樹脂を前記油化・分離装置へ輸送するイオン交換樹脂輸送ラインと、前記油化・分離装置からの前処理液を前記反応容器へ供給する前処理液供給ラインと、イオン交換樹脂を油化するために使用する酸化剤を油化・分離装置へ供給する第1酸化剤供給ラインと、前処理液を分解するために使用する酸化剤を反応容器へ供給する第2酸化剤供給ラインと、前記反応容器にて生成された分解ガス及び分解液を冷却し減圧する分解済流体移動ラインと、を有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置方法は、イオン交換樹脂を油化・分離装置にて高温高圧水で油化し、このイオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液と残存する固形物とを分離した後、この前処理液を反応容器により高温高圧水下で分解処理することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置及び方法によれば、使用済イオン交換樹脂を反応容器内で分解処理する際に、油化・分離装置によって、イオン交換樹脂に付着または含有等された固形物が予め除去されるので、反応容器や、この反応容器に接続された配管が固形物により閉塞または腐食することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、各々の実施例を組み合せて実施することによって各々の発明の効果を得ることができる。
【0012】
[A]第1の実施の形態(図1)
図1は、本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第1の実施の形態を示す系統図である。この図1に示すイオン交換樹脂の処理装置10は、高温高圧水(高温高圧状態の水)を用いて使用済イオン交換樹脂を分解処理するものであり、油化・分離装置11、反応容器12、イオン交換樹脂輸送ラインとしてのスラリー輸送ライン13、前処理液供給ライン14、第1酸化剤供給ライン15、第2酸化剤供給ライン16及び分解済流体移動ライン17を有して構成される。
【0013】
スラリー輸送ライン13は、使用済イオン交換樹脂に水を混合させたスラリーAを油化・分離装置11へ輸送するものである。このスラリー輸送ライン13には、上流側から下流側へ向かって、ポンプなどのスラリー輸送機19、弁20が順次配設されて構成される。弁20の開操作時に、スラリー輸送機19の駆動によってスラリーAが油化・分離装置11へ供給される。
【0014】
油化・分離装置11は、使用済イオン交換樹脂を含むスラリーAを、高温高圧水と後述の酸化剤Bとを使用して油化し、使用済イオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液Cと固形物Dとを分離するものである。固形物Dとしては、使用済イオン交換樹脂に付着または含有した酸化鉄などである。この固形物Dを確実に分離するために、油化・分離装置11は、焼結フィルタまたは中空糸フィルタを備えることが好ましい。これらのフィルタにより、固形物Dは油化・分離装置11内に残留する。
【0015】
また、油化・分離装置11は、水の臨界圧力22.1Mpa以上の圧力で運転されることが好ましい。油化・分離装置11内が水の臨界圧力以上であれば、使用済イオン交換樹脂の油化速度が速くなり、且つ使用済イオン交換樹脂のほとんど全てが油化(液化)されるからである。更に、油化・分離装置11には、加温用のヒータ21が設置されている。
【0016】
第1酸化剤供給ライン15は、使用済イオン交換樹脂を油化するために使用する酸化剤Bを、油化・分離装置11へ供給するものである。酸化剤Bとしては、酸素、空気、過酸化水素、またはオゾンなどであるが、本実施の形態では過酸化水素が用いられる。
【0017】
この第1酸化剤供給ライン15には、上流側から下流側へ向かって、ポンプなどの酸化剤供給機22、弁23が順次配設されて構成される。弁23の開操作時に、酸化剤供給機22の駆動によって酸化剤Bが油化・分離装置11へ供給される。
【0018】
第1酸化剤供給ライン15から油化・分離装置11へ供給される酸化剤Bは、使用済イオン交換樹脂の油化に必要な量の1倍以上に設定される。例えば、乾燥重量1:1の陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂と、これらイオン交換樹脂の1/10重量の酸化鉄(III)と、酸化剤として、イオン交換樹脂に対してそれぞれ0〜1倍の過酸化水素とを約6cmの反応容器に入れて密封し、温度200℃で、そのまま2時間保持する油化試験を実施した。その結果、試験後に反応容器内から回収した処理液の分析結果は、過酸化水素の添加量に応じて表1に示す通りとなった。即ち、過酸化水素をイオン交換樹脂に対して当量添加することで、イオン交換樹脂を全て油化することが可能となる。
【表1】

【0019】
前処理液供給ライン14は、油化・分離装置11にて分離された、油化された使用済イオン交換樹脂を含む前処理液Cを反応容器12へ供給するものである。この前処理液供給ライン14には、上流側から下流側へ向かって、弁24、ポンプなどの前処理液輸送機25が順次配設されて構成される。
【0020】
第2酸化剤供給ライン16は、前処理液Cを分解するために使用する酸化剤を反応容器12へ供給するためのものである。この第2酸化剤供給ライン16は、第1酸化剤供給ライン15における酸化剤供給機22と弁23との間から分岐されており、弁26を有する。この弁26の開操作時に、酸化剤供給機22の駆動によって酸化剤Bが反応容器12へ供給される。反応容器12へ導かれた酸化剤も、酸素、空気、過酸化水素、またはオゾンなどである。
【0021】
反応容器12は、前処理液Cを、第2酸化剤供給ライン16から供給される酸化剤(例えば過酸化水素)の作用で、高温高圧水の条件下で分解して、分解ガス及び分解液(分解済流体E)とするものである。この反応容器12はヒータ27により加温される。
【0022】
分解済流体移動ライン17は、反応容器12にて生成された分解済流体(分解ガス、分解液)Eを冷却し、常圧まで減圧するものであり、上流側から下流側へ向かって冷却器27、減圧弁29を順次備えて構成される。
【0023】
次に、上述のように構成されたイオン交換樹脂の処理装置10の作用を説明する。
【0024】
このイオン交換樹脂の処理装置10では、油化・分離装置11において、スラリーA中の使用済イオン交換樹脂を、高温高圧水及び酸化剤Bの作用によって油化し、この使用済イオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液Cと、残存する酸化鉄などの固形物Dとを分離する。その後、前処理液Cを反応容器12へ導き、高温高圧水及び酸化剤Bの作用で分解する。以下に、本処理装置10の作用を具体的に説明する。
【0025】
弁20及び23を開操作し、弁24及び26を閉操作した状態で、スラリー輸送機19及び酸化剤供給機22を駆動して、スラリーA及び酸化剤Bを油化・分離装置11へ供給する。次に、スラリー輸送機19及び酸化剤供給機22を停止し、弁20及び23を閉操作して、油化・分離装置11を200℃で2時間保持する。2時間経過後、使用済イオン交換樹脂は、表1に示すように全て油化され、このイオン交換樹脂に付着または含有した酸化鉄は、固形物Dとして分離される。
【0026】
その後、弁24及び26を開操作し、酸化剤供給機22及び前処理液輸送機25を駆動して、油化・分離装置11内の前処理液Cを反応容器12へ供給すると共に、酸化剤Bを反応容器12へ供給する。このとき、固形物Dは油化・分離装置11内に残留する。反応容器12では、使用済イオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液Cが、高温高圧水と酸化剤Bの作用で分解されて、分解ガスとしての二酸化炭素と、分解液としての水に分解される。
【0027】
従って、上記実施の形態によれば、次の効果(1)〜(3)を奏する。
【0028】
(1)使用済イオン交換樹脂に含有または付着した酸化鉄などの固形物Dが、油化・分離装置11にて分離されて除去されるので、この油化・分離装置11にて油化された使用済イオン交換樹脂を含む前処理液Cを分解する反応容器12や、前処理液供給ライン14、分解済流体移動ライン17等の配管は、固形物Dにより閉塞または腐食することを防止できる。
【0029】
(2)油化・分離装置11では、使用済イオン交換樹脂に付着等した酸化鉄と共に、放射性物質が分離され除去されることから、使用済イオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液Cを分解する反応容器12内の放射能レベルが低下し、この反応容器12に施す放射能に対する対策を緩和することができる。
【0030】
(3)油化・分離装置11において使用済イオン交換樹脂を固体から液体(油)へ変換してから、この油を含む前処理液Cを前処理液供給ライン14を経て反応容器12へ供給することから、この前処理液供給ライン14における前処理液輸送機25に目詰まりが発生することがなく、前処理液Cを反応容器12へ安定して供給することができる。
【0031】
[B]第2の実施の形態(図1)
この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分には、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0032】
本実施の形態におけるイオン交換樹脂の処理装置30が前記第1の実施の形態のイオン交換樹脂の処理装置10と異なる点は、反応容器12が水の臨界圧力22.1MPa以上の圧力で運転されるよう構成された点である。このとき、反応容器12内は、水の臨界温度(374.2℃)以上であっても以下であってもよく、374.2℃以上の場合には、反応容器12内の水は超臨界水となる。
【0033】
従って、本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0034】
(4)反応容器12が水の臨界圧力以上の圧力で運転されたことから、反応容器12内において使用済イオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液Cの分解速度を高めることができる。特に、反応容器12内が水の臨界圧力、温度以上となっているときには、超臨界水によって前処理液Cの分解速度をより一層高めることができる。
【0035】
[C]第3の実施の形態(図2)
図2は、本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第3の実施の形態を示す系統図である。この第3の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分には、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0036】
本実施の形態におけるイオン交換樹脂の処理装置40が前記第1及び第2の実施の形態のイオン交換樹脂の処理装置10、30と異なる点は、反応容器12が、外側に外容器42が設置されることで二重容器構造で構成され、この外容器42と反応容器12との隙間部43に、反応容器12内と同一圧力に加圧された均圧維持水Fが供給可能に構成された点である。
【0037】
均圧維持水Fは、均圧維持水供給ポンプ44を備えた均圧維持水供給ライン45によって隙間部43へ供給される。これにより、反応容器12内と隙間部43内とが同一圧力に維持される。また、隙間部43内の均圧維持水Fは、均圧維持水排出ライン46を経て、分解済流体移動ライン17における冷却器28の上流側へ排出され、分解済流体移動ライン17を流れる分解済流体Eと合流する。
【0038】
このイオン交換樹脂の処理装置40では、油化・分離装置11からの前処理液Cが前処理液供給ライン14を経て反応容器12内へ供給されると共に、この反応容器12と外容器42との間の隙間部43に、均圧維持水供給ライン45から均圧維持水Fが供給される。この状態で、反応容器12内で前処理液Cが分解されて二酸化炭素(分解ガス)及び水(分解液)が生成される。反応容器12において前処理液Cが分解されることで生成された分解済流体E(分解ガス及び分解液)は、分解済流体移動ライン17を流れる間に、隙間部43から均圧維持水排出ライン46を経て排出された均圧維持水Fと合流し、冷却され希釈される。
【0039】
従って、本実施の形態によれば、前記第1及び第2の実施の形態の効果(1)〜(4)と同様な効果を奏するほか、次の効果(5)を奏する。
【0040】
(5)反応容器12の外側の外容器42と反応容器12との間の隙間部43に、均圧維持水供給ライン45から均圧維持水Fが供給されて、隙間部43と反応容器12とが同一圧力に維持されることから、外容器42を耐圧材料で製作するものの、圧力容器12を耐圧材料で製作する必要がなく、耐腐食機能を備えた材料で製作すれば足りる。このように、反応容器12が耐圧性及び耐腐食性を兼ね備える必要がないので、コストを低減できる。
【0041】
[D]第4の実施の形態(図3)
図3は、本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第4の実施の形態を示す系統図である。この第4の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0042】
本実施の形態におけるイオン交換樹脂の処理装置50が前記第1及び第2の実施の形態のイオン交換樹脂の処理装置10、30と異なる点は、前処理液供給ライン14に前処理液輸送機25が設置されず、油化・分離装置11に水Gを供給する水供給ライン51が接続され、油化・分離装置11内の前処理液Cを、水供給ライン51から供給される水Gにより、前処理液供給ライン14を経て反応容器12へ圧送可能に構成された点である。
【0043】
水Gを油化・分離装置11へ供給する水供給ライン51には、ポンプなどの水供給機52と、この水供給機52の下流側に弁53を備える。弁53の開操作時に、水供給機52の駆動によって水Gが油化・分離装置11へ供給され、これにより油化・分離装置11内の前処理液Cが前処理液供給ライン14を経て反応容器12へ圧送される。
【0044】
このイオン交換樹脂の処理装置50では、まず、弁20及び23を開操作し、弁24、26及び53を閉操作した状態で、スラリー輸送機19及び酸化剤供給機22を駆動して、スラリーAと酸化剤Bを油化・分離装置11へ供給する。次に、弁20及び23を閉操作して、油化・分離装置11を200℃で2時間保持する。2時間経過後、油化・分離装置11内で、スラリーA中の使用済イオン交換樹脂は、表1に示すように全て油化される。
【0045】
その後、弁24、26及び53を開操作し、水供給機52の駆動により水Gを油化・分離装置11へ供給して、この油化・分離装置11内の前処理液Cを、前処理液供給ライン14を経て反応容器12へ圧送する。と同時に、酸化剤供給機22の駆動により、酸化剤B(例えば過酸化水素)を第2酸化剤供給ライン16を経て反応容器12へ供給する。これにより、油化・分離装置11において、使用済イオン交換樹脂に付着などした酸化鉄等の固形物Dが油化・分離装置11に残存して除去され、この油化・分離装置11にて油化された使用済イオン交換樹脂が、反応容器12において分解されて、二酸化炭素(分解ガス)及び水(分解液)となる。
【0046】
従って、本実施の形態によれば、前記第1及び第2の実施の形態の効果(1)〜(4)と同様な効果を奏するほか、次の効果(6)を奏する。
【0047】
(6)油化・分離装置11内で油化された使用済イオン交換樹脂を含む前処理液Cが、水供給ライン11から供給される水Gにより、前処理液供給ライン14を経て反応容器12へ圧送され、前処理液供給ライン14に前処理液輸送機25が設置されないことから、この前処理液輸送機25に油が付着して腐食したり、前処理液輸送機25がガスの流入により作動不良となる事態を未然に回避することができる。
【0048】
[E]第5の実施の形態(図3)
この第5の実施の形態において、前記第1及び第4の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0049】
本実施の形態におけるイオン交換樹脂の処理装置60が前記第4の実施の形態のイオン交換樹脂の処理装置50と異なる点は、油化・分離装置11が、まず使用済イオン交換樹脂中の硫黄分を除去し、その後にイオン交換樹脂を油化するよう構成された点である。
【0050】
上述のように使用済イオン交換樹脂の脱硫と油化を別々に実施する本イオン交換樹脂の処理装置60について、実験結果と作用を以下に説明する。
【0051】
乾燥重量1:1の陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂と、これらイオン交換樹脂の1/10重量の酸化鉄(III)と、酸化剤として、イオン交換樹脂に対してそれぞれ0〜1倍の過酸化水素とを約6cmの反応容器に入れて密封し、温度200〜300℃で、そのまま2時間保持する油化試験を実施した。その結果、試験後に反応容器内から回収したサンプルの分析結果は、過酸化水素の添加量及び温度に応じて表2に示す通りとなった。即ち、300℃で過酸化水素なしの条件では、イオン交換樹脂中の炭素分、硫黄分がそれぞれ処理液へ11%、77%移行し、イオン交換樹脂は固形物として残存した。また、200℃で過酸化水素1倍の条件では、イオン交換樹脂中の炭素分、硫黄分がそれぞれ処理液へ43%、100%移行し、更にイオン交換樹脂は固形物として残存せず、全て油化されるという結果であった。
【表2】

【0052】
このイオン交換樹脂の処理装置60では、まず弁20のみを開操作し、弁23、24、26及び53を閉操作した状態で、スラリー輸送機19を駆動し、スラリーAを油化・分離装置11へ供給する。次に、弁20を閉操作して、油化・分離装置11を300℃で2時間保持する。2時間経過後、油化・分離装置11内の使用済イオン交換樹脂は油化されず、固形物として油化・分離装置11に残存し、使用済イオン交換樹脂中の硫黄分が、表2に示すように約80%脱硫される。
【0053】
上記2時間経過後に、弁24、26、53を開操作し、水供給機52を駆動して、水供給ライン51から供給される水Gにより、油化・分離装置11内の硫黄分を多量に含む前処理液Cを反応容器12へ圧送する。この圧送と同時に、酸化剤供給機22を駆動して、酸化剤Bを、第2酸化剤供給ライン16を経て反応容器12へ供給する。これにより、反応容器12内で使用済イオン交換樹脂から脱硫された硫黄分が分解される。
【0054】
硫黄分を多量に含む前処理液Cを反応容器12へ圧送した後、弁23を開操作し、弁24、26、53を閉操作し、酸化剤Bを油化・分離装置11へ供給する。その後弁23を閉操作し、油化・分離装置11を200℃または300℃で2時間保持する。2時間経過後には、油化・分離装置11内で、使用済イオン交換樹脂(脱硫済み)は表2に示すように全て油化される。このとき、硫黄分も反応容器12内で分解される。
【0055】
その後、弁24、26、53を開操作し、水供給機52の駆動により水Gを油化・分離装置11へ供給して、この油化・分離装置11内の前処理液Cを、前処理液供給ライン14を経て反応容器12へ圧送する。この圧送と同時に、酸化剤供給機22の駆動により、酸化剤B(例えば過酸化水素)を第2酸化剤供給ライン16を経て反応容器12へ供給する。これにより、油化・分離装置11において、使用済イオン交換樹脂に付着した酸化鉄等の固形物Dが油化・分離装置11に残存して除去され、この油化・分離装置11にて油化された使用済イオン交換樹脂(脱硫済み)が、反応容器12において分解されて、二酸化炭素(分解ガス)及び水(分解液)となる。
【0056】
従って、本実施の形態によれば、前記第1、第2及び第4の実施の形態の効果(1)〜(4)及び(6)と同様な効果を奏するほか、次の効果(7)を奏する。
【0057】
(7)油化・分離装置11において、まず、使用済イオン交換樹脂中の硫黄分が除去され、その後に使用済イオン交換樹脂が油化されることから、この油化された使用済イオン交換樹脂(脱硫済み)を反応容器12において分解処理する際に、この反応容器12内が超臨界状態となっている場合にも、当該反応容器12内で硫黄分により生ずる無機塩(例えば硫酸アンモニウム)が析出することを防止できる。この結果、反応容器12、及び分解済流体移動ライン17が上記無機塩や酸化鉄などの固形物により閉塞し、腐食することを確実に防止できる。
【0058】
[F]第6の実施の形態(図4)
図4は、本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第6の実施の形態を示す系統図である。この第6の実施の形態において、前記第1及び第2の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0059】
本実施の形態におけるイオン交換樹脂の処理装置70が、前記第1及び第2の実施の形態のイオン交換樹脂の処理装置10、30と異なる点は、油化・分離装置11が複数台並列に設置され、それぞれの油化・分離装置11(油化・分離装置11A、11B、11C…)が時間差を設けて、油化及び分離処理を実施するよう構成された点である。
【0060】
つまり、ある1台の油化・分離装置11(例えば油化・分離装置11A)で使用済イオン交換樹脂の油化及び分離処理を終了し、生成された前処理液Cを反応容器12で分解処理している間に、他の油化・分離装置11(例えば油化・分離装置11B)で使用済イオン交換樹脂の油化及び分離処理を実施するものである。
【0061】
従って、本実施の形態によれば、前記第1及び第2の実施の形態の効果(1)〜(4)と同様な効果を奏するほか、次の効果(8)を奏する。
【0062】
(8)油化・分離装置11(油化・分離装置11A、11B、11C…)での油化及び分離処理と、反応容器12での分解処理とを並行して実施できるので、使用済イオン交換樹脂の処理を効率的かつ迅速に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第1の実施の形態を示す系統図。
【図2】本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第3の実施の形態を示す系統図
【図3】本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第4の実施の形態を示す系統図。
【図4】本発明に係るイオン交換樹脂の処理装置における第6の実施の形態を示す系統図。
【符号の説明】
【0064】
10 イオン交換樹脂の処理装置
11 油化・分離装置
11A、11B、11C 油化・分離装置
12 反応容器
13 スラリー輸送ライン(イオン交換樹脂輸送ライン)
14 前処理液供給ライン
15 第1酸化剤供給ライン
16 第2酸化剤供給ライン
17 分解済流体移動ライン
30 イオン交換樹脂の処理装置
40 イオン交換樹脂の処理装置
42 外容器
43 隙間部
45 均圧維持水供給ライン
50 イオン交換樹脂の処理装置
51 水供給ライン
60 イオン交換樹脂の処理装置
70 イオン交換樹脂の処理装置
A スラリー
B 酸化剤
C 前処理液
D 固形物
E 分解済流体
F 均圧維持水
G 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を高温高圧水で油化し、このイオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液と残存する固形物とを分離する油化・分離装置と、
前記前処理液を高温高圧水下で分解する反応容器と、
イオン交換樹脂を前記油化・分離装置へ輸送するイオン交換樹脂輸送ラインと、
前記油化・分離装置からの前処理液を前記反応容器へ供給する前処理液供給ラインと、
イオン交換樹脂を油化するために使用する酸化剤を油化・分離装置へ供給する第1酸化剤供給ラインと、
前処理液を分解するために使用する酸化剤を反応容器へ供給する第2酸化剤供給ラインと、
前記反応容器にて生成された分解ガス及び分解液を冷却し減圧する分解済流体移動ラインと、を有することを特徴とするイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項2】
前記第1酸化剤供給ラインから油化・分離装置へ供給される酸化剤は、イオン交換樹脂の油化に必要な量の1倍以上に設定されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項3】
前記油化・分離装置は、水の臨界圧力以上の圧力で運転されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項4】
前記反応容器は、水の臨界圧力以上の圧力で運転されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項5】
前記反応容器は、水の臨界圧力、温度以上の圧力及び温度で運転されるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項6】
前記反応容器は、外側に外容器が設置された二重容器に構成され、前記外容器と前記反応容器との隙間部に均圧維持水が供給可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項7】
前記油化・分離装置には、水を供給する水供給ラインが接続され、前記油化・分離装置内の前処理液を前記水供給ラインから供給される水により、前処理液供給ラインを経て反応容器へ圧送可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項8】
前記油化・分離装置は、まず、イオン交換樹脂中の硫黄分を除去し、その後に、イオン交換樹脂を油化するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項9】
前記油化・分離装置が複数台並列に設置され、それぞれの油化・分離装置が時間差を設けて油化及び分離を実施するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項10】
前記油化・分離装置は、固形物分離のために焼結フィルタまたは中空糸膜フィルタを備えたことを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項11】
前記第1及び第2酸化剤供給ラインが供給する酸化剤は、酸素、空気、過酸化水素、またはオゾンの少なくとも一部材であることを特徴とする請求項1に記載のイオン交換樹脂の処理装置。
【請求項12】
イオン交換樹脂を油化・分離装置にて高温高圧水で油化し、このイオン交換樹脂から生成された油を含む前処理液と残存する固形物とを分離した後、
この前処理液を反応容器により高温高圧水下で分解処理することを特徴とするイオン交換樹脂の処理装置方法。
【請求項13】
前記油化・分離装置内の前処理液を、水供給ラインから当該油化・分離装置へ供給される水により、反応容器へ圧送することを特徴とする請求項12に記載のイオン交換樹脂の処理方法。
【請求項14】
油化・分離装置にて、まず、イオン交換樹脂中の硫黄分を除去し、その後に、当該油化・分離装置にてイオン交換樹脂を油化することを特徴とする請求項12に記載のイオン交換樹脂の処理方法。
【請求項15】
前記分解処理における前記高温高圧水は、超臨界水であることを特徴とする請求項12に記載のイオン交換樹脂の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−167239(P2009−167239A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4025(P2008−4025)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】