説明

イオン化分析装置及びイオン化分析方法

【課題】燃焼ガスや大気中ガスの成分組成を測定する際に、オンサイト・リアルタイムでターゲット分子を異性体識別を含め、完全に特定してpptレベルの高感度で測定し、ほぼ同じタイミングで試料中に存在する他のターゲット分子群の質量数分布を把握することが可能な分析装置及び分析方法を提供する。
【解決手段】ターゲット分子群を一括して1光子でイオン化して分析するイオン化分析装置1は、イオン化部20、レーザー照射系30、分析検出部(質量分析部40、イオン検出部50)を具備し、イオン化部20は、レーザー照射系30の紫外レーザー光33及び真空紫外レーザー光34をほぼ同時に照射することにより、ターゲット分子の異性体識別を行いながら、所定のターゲット分子群をイオン化する。そして、イオン化部20によりイオン化されたイオンを、分析検出部で質量分析して検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化分析装置及びイオン化分析方法に関し、特に、試料中に含まれる全ターゲット分子を一光子過程でイオン化すると同時に、その中で注目すべき特定分子を共鳴多光子過程で選択的にイオン化して、オンサイト・リアルタイムに分析可能なイオン化分析装置及びイオン化分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機化合物の検出や同定には、質量分析(MS)が用いられている。質量分析は、原子、分子等を何らかの方法でイオン化し、真空中で運動させ電磁気力を用いてイオンを質量電荷比(m/z)ごとに分離してマススペクトルを記録するものである。その中でも特に有機化合物の測定法としてはガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法が一般的に用いられてきた。しかし、この方法は、多大な計測時間とコストを要するだけでなく、試料中に存在する分子を予測できない場合は適用が困難である。
【0003】
また、焼却炉や工場の排出ガス成分は時々刻々と変化するため、排出ガスの環境への影響を正確に評価・管理するためには、排出ガス成分を、オンサイト・リアルタイムで測定することが極めて重要である。しかし、GC/MS法では濃縮等の前処理が必要となるため、オンサイト・リアルタイム測定には適さない。
【0004】
イオン化のためのレーザー光として一波長の光を用いるSPI(1光子励起イオン化)分析法は、試料中に存在する分子群が未知であっても、それらを一括してイオン化検出できるため、未知分子群の質量数分布を得ることができる。また、オンサイト・リアルタイム測定も可能である。
【0005】
しかし、質量数だけでは分子を完全には特定できない。例えば、構造異性体のように同質量数で異なる分子の中には、人に対する毒性が全く異なることがままある。そのため、質量数の分布だけでなく、分子を完全に特定して、オンサイト・リアルタイム測定を行う必要がある。また、環境有害分子の多くは、人体への影響を考慮して数十ppbオーダーで規制されているため、そのような低濃度でも検出できる高感度の質量分析装置が必要となる。
【0006】
SPI分析法において、波長可変VUVレーザーを用いることにより、構造異性体のイオン化ポテンシャルの違いを利用して、それらを識別することも可能であるが(特許文献1)、オンサイト・リアルタイム測定は不可能である。
【0007】
Jet−REMPI分析法は、レーザー波長を分子に固有の電子励起準位へ共鳴させる多光子イオン化過程を利用するため、測定分子を完全に特定することができ、かつpptレベルの高感度が得られ、さらに、オンサイト・リアルタイム測定も可能である(特許文献2)。ただし、Jet−REMPI分析法による測定は、試料中に含まれる1種類の分子に限定され、複数の分子を同時に検出することはできない。
【0008】
有効な環境対策を講じる上で、焼却炉や工場等から排出される環境有害分子の生成機構を解明することが重要であり、例えば、有害分子の前駆体となる分子を特定することが有効である。そのためには、注目する環境有害分子を完全に特定して高感度で検出するだけでなく、同じタイミングで他のどのような分子が発生しているかをリアルタイムで測定できる分析法が必要となる。しかし、上述の通り、従来の分析手法ではそれらの要求を全て満たすことができないため、新しい分析法が切望されていた。
【0009】
特許文献3には、真空紫外レーザーと紫外レーザーを2種類組み合わせた、多元素多成分を同時測定する方法が記載されている。しかしながら、特許文献3では、紫外レーザーは波長固定のレーザーを用いているため、異性体識別はできない。さらに、リアルタイム測定可能と記載してあるが、連続的にガスを導入するための、導入機構についての具体的記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−327929号公報
【特許文献2】特開2007−315847号公報
【特許文献3】特開2006−244717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術の現状に鑑みて、本発明は、燃焼ガスや大気中ガスの成分組成を測定する際に、オンサイト・リアルタイムでターゲット分子を完全に特定してpptレベルの高感度で測定でき、さらに、ほぼ同時のタイミングで試料中に存在する他のターゲット分子群の質量数分布を把握することを可能とするイオン化質量分析装置およびイオン化質量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決することを目的に開発した、ガスのイオン化分析装置およびイオン化分析方法に関するものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)ガス導入部、イオン化部、レーザー照射系および質量分析部を有し、前記ガス導入部から前記イオン化部に連続的に導入された試料中の特定分子群をイオン化し、生成されたイオンを前記質量分析部で分析するイオン化分析装置において、前記レーザー照射系が、真空紫外レーザー光源と紫外レーザー光源とを有し、前記真空紫外レーザー光源は、真空紫外レーザー光を前記試料に照射して前記特定分子群に含まれる全ての分子を1光子過程でイオン化し、前記紫外レーザー光源は、紫外レーザー光を前記試料に照射して前記特定分子群に含まれる1種類の分子を共鳴多光子過程でイオン化することを特徴とするイオン化分析装置。
(2)前記試料が連続的に導入されるとともに、前記真空紫外レーザー光源と前記紫外レーザー光源は、前記真空紫外レーザー光と前記紫外レーザー光を交互に照射し、xを正の実数として該真空紫外レーザー光と該紫外レーザー光の繰り返し周波数がxHzであるとき、100μs以上且つ(1000000/x−100)μs以下の遅延時間を置いて前記真空紫外レーザー光および前記紫外レーザー光を連続的に照射することにより、前記特定分子群に含まれる全ての分子を連続的に1光子過程でイオン化し、前記特定分子群に含まれる1種類の分子を連続的に共鳴多光子過程でイオン化することを繰り返すことを特徴とする(1)に記載のイオン化分析装置。
(3)前記レーザー照射系から照射される真空紫外レーザー光および/または紫外レーザー光が波長可変であることを特徴とする(1)または(2)に記載のイオン化分析装置。
(4)試料中の特定分子群を連続的にイオン化して分析するイオン化分析方法であって、試料ガスを導入する過程と、前記試料にレーザー光照射してイオン化する過程と、生成イオンを質量分析する過程と、を有し、前記イオン化する過程は、前記試料に真空紫外レーザー光を照射して前記特定分子群に含まれる全ての分子を1光子過程でイオン化する過程と、紫外レーザー光を照射して前記特定分子群に含まれる1種類の分子を共鳴多光子過程でイオン化する過程と、からなることを特徴とするイオン化分析方法。
(5)前記ガスを導入する過程において、前記試料を連続的に導入し、前記イオン化する過程において、前記真空紫外レーザー光と前記紫外レーザー光を交互に照射し、xを正の実数として該真空紫外レーザー光と該紫外レーザー光の繰り返し周波数がxHzであるとき、100μs以上且つ(1000000/x−100)μs以下の遅延時間を置いて真空紫外レーザー光および紫外レーザー光を連続的に照射することにより、前記特定分子群に含まれる全ての分子を連続的に1光子過程でイオン化し、前記特定分子群に含まれる1種類の分子を連続的に共鳴多光子過程でイオン化することを繰り返すことを特徴とする(4)に記載のイオン化分析方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃焼ガスや大気中ガスの成分組成を測定する際に、オンサイト・リアルタイムでターゲット分子を異性体識別を含め、完全に特定してpptレベルの高感度で測定し、ほぼ同時のタイミングで試料中に存在する他のターゲット分子群の質量数分布を把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のイオン化分析装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
【図2】本発明のイオン化分析装置の模式図である。
【図3】5種の試薬添加試料の質量スペクトルである。
【図4】キシレンの共鳴多光子イオン化スペクトルである。
【図5】トルエン及びp−クロロフェノールの時間変化スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明のイオン化分析装置の構成を説明するための概略ブロック図である。なお、本発明のイオン化分析装置1は、イオン化部20が特徴的な部分であり、他に関しては特に図示例の構成に限定されるものではない。図1に示すように、イオン化分析装置1の主な構成は、ガス導入部10、イオン化部20、レーザー照射系30、質量分析部40、イオン検出部50からなる。
【0016】
ガス導入部10は、分析装置1で分析したい試料(ガス)を装置内に導入する部分である。本発明は、オリフィスノズルにより試料ガスを真空槽内に連続的に導入し、オンサイト・リアルタイムで試料中に含まれるターゲット分子を測定することを狙いとする。従来のイオン化分析装置では、前処理が必要なため、ガスクロマトグラフィ装置や液体クロマトグラフィ装置等がガス導入部に接続されていたが、本発明のイオン化分析装置1では、前処理が不要であるため、試料を直接導入すればよい。
【0017】
イオン化部20は、ガス導入部10から導入された試料をイオン化する部分である。本発明のイオン化部20は、分析したい注目分子や試料中に含まれるターゲット分子全てをイオン化できるように構成されている。すなわち、真空紫外レーザー光源32により試料中のターゲット分子全てを1光子過程でイオン化し、紫外レーザー光源31により注目分子を共鳴多光子過程でイオン化する。より具体的には、イオン化部20は、レーザー照射系30に接続され、レーザー照射系30は、注目分子が有するイオン化エネルギーよりも僅かに大きい光子エネルギーとなる波長の紫外レーザー光33を照射する紫外レーザー光源31、及び試料中に含まれるターゲット分子全てをイオン化する真空紫外レーザー光34を照射する真空紫外レーザー光源32を有している。真空紫外レーザー光34と紫外レーザー光33は交互に照射され、真空紫外レーザー光34と紫外レーザー光33の繰り返し周波数がxHzであるとき(xは0<x≦5000の実数)、100μs以上、(1000000/x−100)μs以下の遅延時間を置いて繰り返し照射する。最も一般的なケースでは、レーザーの繰り返し周波数が最も高いもので20Hzなので、直前に照射したレーザーの影響を受ける可能性が出てくる50ms以下の間隔にする必要がある。さらに、質量分析計が飛行時間型の場合、1回のイオンのフライトタイムは100μs以下である。そのため、紫外レーザー光源31と真空紫外レーザー光源32のタイミングを100μs以上49900μs以下に調整する。なお、紫外レーザー光源31は、分子認識を効率良く行うことができるように、注目分子の励起波長に応じて波長を変えることができる。より具体的には、紫外レーザー光源31は、波長可変紫外レーザーを用いるとよい。紫外レーザー光源31の波長の可変範囲は、注目分子の励起準位周辺に存在する他分子の励起波長に応じて、波長が選択できる範囲(前後1000cm−1程度)であることが好ましい。また、真空紫外レーザー光源32は、ターゲット分子の選択に応じて波長を変化させることが望ましい。より具体的には、波長可変真空紫外レーザーを用いてターゲット分子中でイオン化ポテンシャルが最も大きい分子のイオン化ポテンシャルをわずかに超える光子エネルギーとなる波長が出力できる範囲であることが好ましい。ここで、光子エネルギーεと光の波長λとの関係は、以下の式で表される。
ε=hc/λ
但し、hはプランク定数、cは光速度である。
【0018】
したがって、あるターゲット分子のイオン化ポテンシャルをIPとすると、光子エネルギーεは以下の式を満たすように設定される。
IP<ε
IP<hc/λ
【0019】
この条件を満たすとき、目的とするターゲット分子をイオン化することが可能となる。但し、光子エネルギーεがターゲット分子のイオン化ポテンシャルIP(イオン化エネルギー)よりも大き過ぎる場合には、そのイオン化ポテンシャルでイオン化してしまう他の分子の影響を受けるため、光子エネルギーεはターゲット分子のイオン化ポテンシャルよりも僅かだけ大きく設定することが好ましい。例えば、有害物質として検出する必要が多い二重結合や芳香環を有する分子がアルカン類の分子と混在する中で、これら二重結合や芳香環を有する分子を選択的にイオン化する場合、これらの分子に比べてアルカン類の分子の方がイオン化エネルギーがかなり高い。このため、二重結合や芳香環を有する分子がイオン化するのに必要なエネルギーを僅かに超える光子エネルギーで励起すれば、これらターゲットとなる分子のみがイオン化され、アルカン分子はイオン化されない。これにより、化学的な前処理を行うことなく、注目すべき有害分子のみを選択的に識別することも可能となる。
【0020】
さらに、イオン化後に生成したイオンの過剰エネルギーが大きい場合にフラグメンテーションが生ずるが、本発明のイオン化部20にレーザー照射系30の真空紫外レーザー光源32からの真空紫外レーザー光34を用いれば、レーザー光を波長可変して選択的にイオン化ポテンシャルを僅かに超えたエネルギーを与えることが可能となるため、生成イオンの過剰エネルギーは無駄に大きくならず、低く抑制できる。したがって、フラグメンテーションが生じにくいソフトイオン化が可能となり、マススペクトル解析において、雑音となり得るフラグメンテーションによる信号がほとんど生じないので、解析は極めて容易となる。
【0021】
イオン化部20でイオン化されたイオンは、質量分析部40において分離・選別され、イオン検出部50で検出される。これにより、ターゲットのマススペクトルが得られる。質量分析部40は、測定可能質量範囲内における質量電荷比の近いピークを区別するものであり、要求される特性によって、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型等、種々の方式のものが適用可能である。イオン検出部50は、質量分析部40で選別されたイオンを電子増倍管やマイクロチャンネルプレート等で増感して検出するものである。なお、本発明のイオン化分析装置は、イオン化部20でイオン化されたイオンを分析して検出するための分析検出部としては、上述の質量分析部40やイオン検出部50には限らず、イオンを分析可能なものであれば種々の装置、方式が適用可能である。
【0022】
なお、イオン化部20には、紫外レーザー光源31からの紫外レーザー光33と真空紫外レーザー光源32からの真空紫外レーザー光34が対向から同時に入射可能である。また、イオン化部20及び質量分析部40は、検出感度を上げるためにそれぞれ個別に排気してもよい。
【実施例1】
【0023】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0024】
本発明のイオン化分析装置を用いて、より具体的な分子を分析した場合の一例について、その分析結果のマススペクトルを示して説明する。図2は、分析に用いた本発明のイオン化分析装置全体のより具体的な一例を示した図である。この例では、真空紫外レーザー光を発生させるために、2つのレーザー光を希ガス(Xe又はKr)が導入されたガスセル内に入射した。第1レーザー光は、YAGレーザー(スペクトラフィジックス社製LAB−150)第2高調波(波長532nm)で励起した色素レーザー(Sirah社製Cobra−Stretchレーザー)の出力(636nm)を、BBO結晶(ダウ社製)によりSHG光(318nm)を発生させ、さらに、このSHG光と色素レーザーの出力を、S−BBO結晶(ダウ社製)による和周波発生で色素レーザーの3倍波(212nm)の紫外レーザー光に変換したレーザー光を用いた。また、第2レーザー光は、YAGレーザー(スペクトラフィジックス社製LAB−150)第3高調波(355nm)で励起した色素レーザー(Sirah社製Cobra−Stretchレーザー)の出力(450nm〜740nm)をそのまま用いた。第1レーザー光と第2レーザー光を同軸に調整し、希ガスが封入されたガスセルに入射する。すると、共鳴四波混合により真空紫外光(124nm〜139nm)が発生する。第1レーザー光も第2レーザー光も依然として存在しているので、それを分離するため、フッ化マグネシウム製のプリズム4枚により真空紫外光のみを分離し検出システムに導入した。5種類(トルエン、スチレン、キシレン、クロロベンゼン、クロロフェノール)の分子が混在しているガスを質量分析装置に導入し、133nmの波長の真空紫外レーザーを照射した際に得られた質量スペクトルを測定した。得られたマススペクトルを図3に示す。スチレンのイオン化ポテンシャルは8.46eV、クロロベンゼンのイオン化ポテンシャルは9.07eV、トルエンのイオン化ポテンシャルは8.82eV、キシレンのイオン化ポテンシャルはo−体で8.56eV、m−体で8.55eV、p−体で8.44eV、クロロフェノールのイオン化ポテンシャルはo−体で9.28eV、m−体で8.65eV、p−体で9.07eV、であることが知られている。したがって、133nmの波長の真空紫外レーザー光で照射すると、試料に与えられる光子エネルギーは9.3eVとなるため、全ての分子をイオン化することになる。図3に示される通り、導入されている全ての分子がフラグメントなく測定されていることがわかる。このとき、キシレンはo−,m−,p−の3種類の異性体があるが、この質量スペクトルだけからは識別することができない。そこで、第3のレーザー光として、YAGレーザー(スペクトラフィジックス社製indi−10)第3高調波で励起した色素レーザー(Sirah社製Cobra−Stretchレーザー)の出力(535nm〜545nm)を発生させ、BBO結晶により倍波(267.5nm〜272.5nm)に変換した光を紫外レーザー光として用い、真空紫外レーザー光照射の100μs後に対向から紫外レーザー光を入射し、波長を掃引した。その結果、図4に示すように、紫外レーザー光波長がo−体に特有の共鳴励起波長(S0−S1:268.0nm)に一致したときのみに信号が観測された。この結果から、o−体のみがこのガスに導入されていることがわかる。
【実施例2】
【0025】
次に、真空紫外レーザー光として、YAGレーザー(スペクトラフィジックス社製LAB−150)第3高調波(355nm)をXe封入内のガスセルに入射し、3倍波つまりYAG基本波(1064nm)の9倍波(118nm)の光を発生させた。この真空紫外レーザー光をイオン化部に導入した。さらに、紫外レーザー光としてYAGレーザー(スペクトラフィジックス社製LAB−150)第3高調波で励起した色素レーザー(Sirah社製Cobra−Stretchレーザー)の出力(532nm〜534nm)を発生させ、BBO結晶により倍波(266nm〜267nm)に変換した光を発生させた。
【0026】
測定は被測定ガスに混合する希釈ガスとしてHeガスを導入し、標準ガスをHeガスでマスフローコントローラーを用いて2〜1000倍程度希釈し、真空紫外レーザー光を用いた測定結果からベンゼンの検量線を作成した。その結果、定量限界はトルエンでシングルppb程度であり、高い検出感度で測定できることが確認できた。
【0027】
この時、真空紫外レーザー光の対向から紫外レーザー光をイオン化部に導入し照射した。トルエン特有の共鳴励起波長(S0−S1:266.8nm)に紫外レーザー光の波長を選択するとpptオーダーの感度でトルエンが観測された。このように、真空紫外レーザーで観測できない感度の物質でも、ほぼ同時のタイミングで真空紫外レーザー光と交互に照射した紫外レーザー光にて、さらに高感度に測定できることを明らかにしている。
【実施例3】
【0028】
真空紫外レーザー光として、YAGレーザー(スペクトラフィジックス社製LAB−150)第3高調波(355nm)をXe封入内のガスセルに入射し、3倍波つまりYAG基本波の9倍波(118nm)の光を発生させた。この真空紫外レーザー光をイオン化部に導入した。さらに対向から、第1の紫外レーザー光として、YAGレーザー(スペクトラフィジックス社製LAB−150)第3高調波で励起した色素レーザー(Sirah社製Cobra−Stretchレーザー)の出力を発生させ、BBO結晶により倍波に変換した光を発生させ、イオン化部に導入した。さらに、第2の紫外レーザー光として、YAGレーザー(スペクトラフィジックス社製indi−10)第3高調波で励起した色素レーザー(Sirah社製Cobra−Stretchレーザー)の出力(624nm〜625nm)を発生させ、BBO結晶により倍波(312nm〜312.5nm)に変換した後、イオン化部に導入した。
【0029】
工場から出てくる排ガスを真空槽に導入し、この真空槽に真空紫外レーザー光と第1の紫外レーザー光を100μsの間隔を空けて連続的に照射した。真空紫外レーザーの波長は118nm、第1の紫外レーザー光の波長はp−クロロフェノールの共鳴波長(S0−S1:287.2nm)に調整した。その結果、質量数92,104,106,112,128の5本の信号を観測した。これら5つのピークは、トルエン、スチレン、キシレン、クロロベンゼン、クロロフェノールもしくはナフタレンと推測される。その際、第1の紫外レーザー光でイオン化された信号も観測されたことから、p−クロロフェノールが排ガス中に存在することを実証した。
【0030】
この排ガスは連続的に噴出しているため、真空紫外レーザー光及び第1の紫外レーザー光を連続的に照射し、トルエンとp−クロロフェノールの時間変化を調べた。その結果、図5に示すようにトルエンとp−クロロフェノールの信号挙動は必ずしも同期していないこと、その他の分子の挙動も秒単位で変化していることがわかった。以上のことは、多数の分子の挙動をオンサイト・リアルタイムで同時に把握することが必要であり、本発明によりそれが可能となったことを示唆している。
【0031】
また、真空紫外レーザー光でイオン化されたピーク(質量数128)と同時に、第1の紫外レーザー光でイオン化されたピークが観測されない例も生じた。この場合、第1の紫外レーザー光で観測されないタイミングに第2の紫外レーザー光をナフタレンの共鳴波長に調整して照射したところ、信号が観測された。このように紫外レーザー光の波長を注目分子の励起波長に調整することにより分子の特定しながらオンサイト・リアルタイム測定ができることがわかった。
【0032】
このように、本発明により、排ガスに含まれる多数分子の挙動と同質量数の分子識別をオンサイト・リアルタイム測定が同じタイミングでできることが明らかになった。
【0033】
なお、本発明のイオン化分析装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、各種ガスのイオン化分析に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 イオン化分析装置
10 ガス導入部
20 イオン化部
30 レーザー照射系
31 紫外レーザー光源
32 真空紫外レーザー光源
33 紫外レーザー光
34 真空紫外レーザー光
40 質量分析部
50 イオン検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス導入部、イオン化部、レーザー照射系および質量分析部を有し、前記ガス導入部から前記イオン化部に連続的に導入された試料中の特定分子群をイオン化し、生成されたイオンを前記質量分析部で分析するイオン化分析装置において、
前記レーザー照射系が、真空紫外レーザー光源と紫外レーザー光源とを有し、前記真空紫外レーザー光源は、真空紫外レーザー光を前記試料に照射して前記特定分子群に含まれる全ての分子を1光子過程でイオン化し、前記紫外レーザー光源は、紫外レーザー光を前記試料に照射して前記特定分子群に含まれる1種類の分子を共鳴多光子過程でイオン化することを特徴とするイオン化分析装置。
【請求項2】
前記試料が連続的に導入されるとともに、前記真空紫外レーザー光源と前記紫外レーザー光源は、前記真空紫外レーザー光と前記紫外レーザー光を交互に照射し、xを正の実数として該真空紫外レーザー光と該紫外レーザー光の繰り返し周波数がxHzであるとき、100μs以上且つ(1000000/x−100)μs以下の遅延時間を置いて前記真空紫外レーザー光および前記紫外レーザー光を連続的に照射することにより、前記特定分子群に含まれる全ての分子を連続的に1光子過程でイオン化し、前記特定分子群に含まれる1種類の分子を連続的に共鳴多光子過程でイオン化することを繰り返すことを特徴とする請求項1に記載のイオン化分析装置。
【請求項3】
前記レーザー照射系から照射される真空紫外レーザー光および/または紫外レーザー光が波長可変であることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン化分析装置。
【請求項4】
試料中の特定分子群を連続的にイオン化して分析するイオン化分析方法であって、
試料ガスを導入する過程と、
前記試料にレーザー光照射してイオン化する過程と、
生成イオンを質量分析する過程と、を有し、
前記イオン化する過程は、前記試料に真空紫外レーザー光を照射して前記特定分子群に含まれる全ての分子を1光子過程でイオン化する過程と、紫外レーザー光を照射して前記特定分子群に含まれる1種類の分子を共鳴多光子過程でイオン化する過程と、からなることを特徴とするイオン化分析方法。
【請求項5】
前記ガスを導入する過程において、前記試料を連続的に導入し、
前記イオン化する過程において、前記真空紫外レーザー光と前記紫外レーザー光を交互に照射し、xを正の実数として該真空紫外レーザー光と該紫外レーザー光の繰り返し周波数がxHzであるとき、100μs以上且つ(1000000/x−100)μs以下の遅延時間を置いて真空紫外レーザー光および紫外レーザー光を連続的に照射することにより、前記特定分子群に含まれる全ての分子を連続的に1光子過程でイオン化し、前記特定分子群に含まれる1種類の分子を連続的に共鳴多光子過程でイオン化することを繰り返すことを特徴とする請求項4に記載のイオン化分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−251081(P2010−251081A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98566(P2009−98566)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】