説明

イオン性化合物およびそれを含む樹脂

【課題】
本発明の目的は、反応時のアウトガス発生量が少なくかつ反応性、透明性に優れた新規の放射線重合開始剤を見出し、これを用いた樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】
カチオン部に水酸基及び/又はカルボン酸基を有し、アニオン部分が[化1]
[化1]
[BR-
([化1]中のRは同一でも別々でもよく、FまたはCFで置換されたフェニル基を表す。)であることを特徴とするイオン性化合物。好ましくは、アニオン部分が[B(C、[B(CCF、[(CBF、[CBF又は[B(Cである。また、これかななる放射線重合開始剤、樹脂組成物
である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性化合物に関し更に、それからなる放射線重合開始剤であり、それを含む樹脂組成物とその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
オニウム塩又は有機金属錯体塩は、エポキシ、ビニルエーテル、オキセタン等の官能基を含有するモノマー及び/又はポリマーの光カチオン重合開始剤として公知である。開始剤塩のアニオンがSbF6-である場合に優れた硬化性を発現する結果が確認されている。しかしながら、このタイプのアニオンを含有する開始剤塩には毒性の危険がある。
特許文献1には、光カチオン重合開始剤である新規オニウム硼酸塩又は有機金属錯体の硼酸塩にてSbF6-の求核性に近い求核性を持つアニオンであるテトラキス(ペンタフルオルフェニル)ホウ酸を使用することが提案されている。特許文献2には、新規な芳香族スルホニウム化合物、これからなる光酸発生剤およびこれを含む光重合性組成物について記載されている。しかし、光化学的手段によるか又は電子ビーム下での重合又は架橋反応時に対カチオンとして使用されているオニウム塩からのアウトガスが発生することによる環境問題および周辺部材への汚染性が問題となっている。
【特許文献1】特許公報第2557782号公報
【特許文献2】特開2000−186071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、反応時のアウトガス発生量が少なくかつ反応性、透明性に優れた新規の放射線重合開始剤を見出し、これを用いた樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、有用な新規な放射線重合開始剤を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、該開始剤において新規なイオン性化合物を見出し、新規なカチオン部分を使用することにより、反応時のアウトガス発生量が少なくかつ反応性、透明性に優れた新規の放射線重合開始剤を見出した。
【0005】
即ち、カチオン部に水酸基及び/又はカルボン酸基を有し、アニオン部分が[化1]
[化1]
[BR-
(化1中のRは同一でも別々でもよく、FまたはCFで置換されたフェニル基を表す。)であることを特徴とするイオン性化合物である。
また、アニオン部分が[B(C、[B(CCF、[(CBF、[CBF又は[B(Cであることが好ましいイオン性化合物である。更に カチオン部分が
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ-S+-[Φ-O-(CHOH]
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ-S+-[Φ-O-(CHCOOH]
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ、
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ、
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ、
[HO(CH-O-Φ]-S+
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ、
[HOOC(CH-O-Φ]-S+
HO(CH−O−Φ−I+−Φ、
HOOC(CH−O−Φ−I+−Φ、
[HO(CH2−O−Φ]
[HOOC(CH2−O−Φ]
であることが好ましいイオン性化合物である。
前記記載のイオン性化合物の製造方法は、カチオン部分の塩とアニオン部分のアルカリ金属塩との交換反応によって製造される。
また、前記記載のイオン性化合物からなる放射線重合開始剤である。
また、記載の放射線重合開始剤を含む樹脂組成物である。
更に、前記記載の樹脂組成物を含む接着剤及びコーティング剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、反応時のアウトガス発生量が少なくかつ反応性、透明性に優れた新規の放射線重合開始剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を詳細に説明する。
【0008】
〈イオン性化合物〉
本発明のイオン性化合物は、カチオン部分に水酸基及び/又はカルボン酸基を有し、アニオン部分が[化1]
[化1]
[BR-
([化1]中のRは同一でも別々でもよく、FまたはCFで置換されたフェニル基を表す。)である。
【0009】
カチオン部分
カチオン部分は水酸基及び/又はカルボン酸基を有する。
また、[化2]で表されるカチオン部分が好ましい。
【0010】
[化2] [(A)k(A+(R(R
化2中のAは、I、S、Se、N、Fe、Mn、Cr、Co、Mo、W及びReから選択さる1種類または複数の組み合わせでよく、Rはフェニル基であり、RはC〜C32の芳香環、複素環、脂環、アルキル基、アルコキシ基の組み合わせに水酸基及び/又はカルボン酸基を有する。kは0〜4の範囲の整数であり、lは1〜4の範囲の整数であり、mは0〜4の整数であり、nは2〜6の整数であり、A及びAはRを介して結合する。ここで、AはI又はSが好ましい。
【0011】
更に、カチオン部分が、
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ-S+-[Φ-O-(CHOH]
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ-S+-[Φ-O-(CHCOOH]
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ、
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ、
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ、
[HO(CH-O-Φ]-S+
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ、
[HOOC(CH-O-Φ]-S+
HO(CH−O−Φ−I+−Φ、
HOOC(CH−O−Φ−I+−Φ、
[HO(CH2−O−Φ]
[HOOC(CH2−O−Φ]
であることが好ましい。
【0012】
アニオン部分
アニオン部分は、[BR- である。ここで、Rは同一でも別々でもよく、FまたはCFで置換されたフェニル基を表す。反応性の点で、アニオン部分が[B(C、[B(CCF、[(CBF、[CBF又は[B(Cであることが好ましく、[B(Cであることが更に好ましい。
【0013】
〈イオン性化合物の製造方法〉
本発明のイオン性化合物の製造方法は、カチオン部分の塩(塩化物、ヨウ化物等のようなハロゲン化物、ヘキサフルオロ燐酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、トシレート等)とアニオン部分のアルカリ金属塩(ナトリウム、リチウム又はカリウム塩)との交換反応によって製造することができる。所望のイオン性化合物は、固体状の場合には形成した沈殿のろ過によって、オイル状の場合には好適な溶媒を用いた抽出によって回収することが可能である。
【0014】
アニオン部分のアルカリ金属塩は、既知の方法で、ハロホウ酸塩化合物と所望の炭化水素基を有する有機金属化合物(マグネシウム、リチウム、錫等の化合物)との間の化学量論的量での交換反応及び必要に応じて続いてのアルカリ金属ハロゲン化物の水溶液を用いた加水分解によって製造することができる。この種の合成は、例えば「Journal of Organometallic Chemistry 」第178巻、第1〜4頁(1979年)に記載されている。
【0015】
〈放射線重合開始剤〉
本発明の放射線重合開始剤は、本発明のイオン性化合物からなる放射線重合開始剤である。ここで、放射線とは電磁波や粒子線であり、好ましくは波長400nm以下の紫外線、波長400nm〜800nmの可視光線、及び波長800nm以上の赤外線である。使用する放射線の種類は、放射線重合開始剤を配合する樹脂組成物の用途に応じて適宜選択すれば良い。本発明の放射線重合開始剤は、エポキシ、オキセタン、ビニルエーテル等のような官能基を有するモノマー及び/又はポリマーの重合又は架橋に用いることができる。有機金属錯体のホウ酸塩はさらに、熱重合開始剤として用いることもできる。
【0016】
〈樹脂組成物〉
本発明の樹脂組成物は、エポキシ、オキセタン、ビニルエーテル等のような光カチオン重合性を有する官能基を含有するモノマー及び/又はポリマーと本発明の放射線重合開始剤とからなる。更に、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤などのカップリング材料、炭酸カルシウム、シリカ、タルクなどの無機フィラーおよび有機フィラー、表面平滑性を付与するためのレベリング剤、塗布性を付与するための高分子エポキシ樹脂、アクリルポリマー、ポリエステル樹脂等の高分子材料を添加することも可能である。
【0017】
〈接着剤及びコーティング剤〉
本発明の接着剤及びコーティング剤は前記記載の樹脂組成物からなる。
接着剤及びコーティング剤の用途分野は、ガラスや金属などの無機化合物及びプラスチックなど有機化合物、更にそれらの表面に表面処理を施し、もしくは薄膜を形成したものを接着及び被覆するものであり。具体的には液晶ディスプレイや有機EL、電子ペーパーなどの電子ディスプレイ用途、CCDパッケージやプリント基板用レジスト、印刷用感光性樹脂など電子材料用途、CD及びDVDなど光ディスクの貼り合わせ様接着剤や表面コート剤、自動車塗装用途、缶やボトルなどの容器表面コート用途、光学レンズの表面コート及び固定用途、光ファイバーの接続やプリズムの接合などの光学用途、立体造型用途、その他塗料や表面改質剤、粘着剤、離型剤などの表面加工用途、オフセットや凸版、グラビア、シルクスクリーン、ジェット印刷などのパターニング用途等が挙げられるが、放射線硬化性を有する接着剤及びコーティング剤が使用できる用途であれば上記に限定するものでは無い。
【実施例】
【0018】
以下の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
合成例1
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ビス(4-(ジ(4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)-フェニル)スルフィド[HO(CH2-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ-S+-[Φ-O-(CHOH]の合成方法:
機械式撹拌機、水冷式還流冷却管、温度計及び滴下漏斗を備えた1000ミリリットルの四つ口丸底フラスコを用い、装置は前もってアルゴン雰囲気下で乾燥させた。メタスルホン31.71g(0.33モル)、五酸化リン3.41g(0.024モル)を仕込み、70℃に加熱し、3時間攪拌して得られた均一溶液を室温まで冷却した。この溶液に4,4’-ビスヒドロキシエトキシフェニルスルフィド26.3g(0.033モル)、ジフェニルスルフィド3.07g(0.0165モル)を仕込み室温で5時間攪拌した。
この反応混合物を攪拌しながら3%テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸・ナトリウム水溶液(日本触媒化学製)380ml(0.0333モル)を少しずつ滴下し、室温で3時間攪拌した。析出した固体を濾別、乾燥し、次いでイソプロパノールに加熱(70℃)溶解し、次いで濾別、乾燥後、白色固体15.79g(0.011モル)得た。
【0019】
[実施例1]
ビスフェノールAジグリシジルエーテル8g(R−140;三井化学社製)と3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン2g(EOXA;東亞合成社製)の混合液に合成例1で合成したテトラキス(ペンタフルオルフェニル)ホウ酸ビス(4-(ジ(4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル)スルホニオ)-フェニル)スルフィド0.3gを60℃で溶解し樹脂液を作成した。
1.硬化性評価
紫外線照射装置(Lightingcure LC6;浜松ホトニクス社製)を使用して20mW/cm2の光強度を連続して照射し、タックフリーになる時間を指触で測定した。その結果を表1に示す。
2.アウトガス量の測定
樹脂液を20mLのバイアル瓶に1g計量し、栓で封止後、紫外線照射装置(Lightingcure LC6;浜松ホトニクス社製)を使用して10J/cm照射した。バイアル瓶を80℃1時間加熱後、室温に戻してバイアル瓶中の気相部分をガスクロマトグラフィーを使用してアウトガス量を測定した。その結果を表1に示す。
3.透明性評価
樹脂液をガラス板上に厚さ100μmになるようにアプリケーターを用いて塗布し、前述の紫外線照射装置を用いて10J/cmの紫外線を照射後、ガラス板より剥がして硬化物フィルムを得た。このフィルムの波長400nmにおける光線透過率をMultiSpec−1500(島津製作所製)を用いて測定した。
4.接着強度評価
接着強度は、1枚のガラス板に対し、もう1枚のガラス板を組み合わせて樹脂組成物(厚み20μm)ではさみ、前述の紫外線照射装置によって10J/cmの紫外線を照射することによって硬化して接着させた。これら2枚の基材を引き剥がすときの接着強度を引っ張り速度2mm/minで測定した。
【0020】
[比較例1]
光重合開始剤としてテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ジフェニルヨードニウム(RHODORSIL Photoinitiator 2074;ローディア社製)を使用して実施例同様の配合割合で樹脂液を作成し、硬化性、アウトガス量を測定した。その結果を表1に示す。
【0021】
[比較例2]
光重合開始剤としてジフェニルルヨードニウムPF塩(Irgacure 250;チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)を使用して実施例同様の配合割合で樹脂液を作成し、硬化性、アウトガス量を測定した。その結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の放射線重合開始剤は、反応時のアウトガス発生量が少なくかつ反応性、透明性に優れているので、電気・電子材料分野で使用される有機官能基を有するモノマー及び/又はポリマーの放射線下で重合又は架橋可能な樹脂組成物に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン部に水酸基及び/又はカルボン酸基を有し、アニオン部分が[化1]
[化1]
[BR-
([化1]中のRは同一でも別々でもよく、FまたはCFで置換されたフェニル基を表す。)であることを特徴とするイオン性化合物。
【請求項2】
アニオン部分が[B(C、[B(CCF、[(CBF、[CBF又は[B(Cであることを特徴とする請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項3】
カチオン部分が
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ-S+-[Φ-O-(CHOH]
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ-S+-[Φ-O-(CHCOOH]
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ、
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ-S-Φ、
[HO(CH-O-Φ]-S+-Φ、
[HO(CH-O-Φ]-S+
[HOOC(CH-O-Φ]-S+-Φ、
[HOOC(CH-O-Φ]-S+
HO(CH−O−Φ−I+−Φ、
HOOC(CH−O−Φ−I+−Φ、
[HO(CH2−O−Φ]
[HOOC(CH2−O−Φ]
であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン性化合物。
【請求項4】
請求項1に記載のイオン性化合物が、カチオン部分の塩とアニオン部分のアルカリ金属塩との交換反応によって製造されるイオン性化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のイオン性化合物からなる放射線重合開始剤。
【請求項6】
請求項5に記載の放射線重合開始剤と、光カチオン重合性を有する官能基を含有する樹脂とからなる樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂組成物を含む接着剤及びコーティング剤。


【公開番号】特開2006−36756(P2006−36756A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174107(P2005−174107)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】