説明

イオン注入シミュレーション方法、イオン注入シミュレータ、及びイオン注入シミュレーションプログラム

【課題】ゼロ度のチルト角を用いた高エネルギーイオン注入により半導体基板中に形成された砒素濃度プロファイルを解析モデル(Dual−ピアソン関数)を用いて高精度に予測する。
【解決手段】不純物濃度プロファイルのランダム成分を表す第1のピアソン関数の投影飛程と分散、及び重み付け係数は、現実の不純物濃度プロファイルの最大濃度部31の形状に基づいて抽出される。不純物濃度プロファイルのチャネリング成分を表す第2のピアソン関数の投影飛程と分散は、第1のピアソン関数の投影飛程及び分散を特定の割合で小さくすることで算出される。同一不純物が異なる注入エネルギーで注入された場合、投影飛程と分散は注入エネルギーの減少につれて減少する条件下で抽出され、歪度と尖度、及び重み付け係数は注入エネルギーの減少につれて増加する条件下で抽出される。歪度と尖度は現実の不純物濃度プロファイルのテール部32の形状に基づいて抽出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入シミュレーション方法、イオン注入シミュレータ、及びイオン注入シミュレーションプログラムに関し、特に、イオン注入法を用いてゼロ度のチルト角で、300keVから600keVの高エネルギーで不純物をシリコンに導入する際の不純物濃度プロファイルを予測するイオン注入シミュレーション方法、イオン注入シミュレータ、及びイオン注入シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に広く使用されているTSUPREM4(商品名)のようなプロセスシミュレータでは、半導体基板に導入された不純物の濃度分布(不純物濃度プロファイル)の予測に解析モデルが使用される。解析モデルは、ガウス関数やピアソン関数等の分布関数を用いて、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)等により実測した不純物濃度プロファイルを近似的に予測する。
【0003】
例えばピアソン関数は、数1〜数6に示すように、投影飛程Rp、分散ΔRp、歪度γ、及び尖度βの4つのパラメータ(以下、ピアソン関数パラメータという。)を用いて、基板表面から深さyの位置における不純物濃度プロファイルを表現する。なお、数1〜数6において、f(v)は、v=y−Rpの位置における不純物濃度を示す関数である。投影飛程Rpは不純物濃度プロファイルのピーク位置(最大濃度となる深さ)を示すパラメータである。分散ΔRpは投影飛程Rp近傍の不純物濃度プロファイルの広がりを示すパラメータである。歪度γは不純物濃度プロファイルの深さ方向の歪み具合(左右対称性)を示すパラメータである。尖度βは不純物濃度プロファイルの尖り具合(すそ引き具合)を示すパラメータである。
【0004】
【数1】

【0005】
【数2】

【0006】
【数3】

【0007】
【数4】

【0008】
【数5】

【0009】
【数6】

【0010】
また、実際のイオン注入では、特定の結晶軸に沿った方向に進む注入不純物も一部存在している。特定の結晶軸に沿った方向では、不純物は原子や電子と衝突することなく結晶格子の間を容易に通過できるため、通常よりも深い位置まで不純物が進入する。この現象はチャネリングと呼ばれ、通常の不純物プロファイルf1(y)とは別に、チャネリング成分による新たな不純物プロファイルf2(y)を生じさせる。そこで、数7に示す様に、2つのピアソン関数を重み付け係数Dで関連付けたDual-ピアソン関数f3(y)で不純物プロファイルを表現する手法が用いられている。
【0011】
【数7】

【0012】
上記ピアソン関数パラメータ(Rp、ΔRp、γ、β)は、注入材料ごとに注入エネルギーと対応づけられたデータテーブルとしてデータベース等に蓄積されている。イオン注入シミュレーション(不純物プロファイルの予測)を行なう場合、注入材料及び注入エネルギーに応じたピアソン関数パラメータがデータテーブルから読み出される。読み出されたピアソン関数パラメータは上記数1〜数6に代入される。その分布関数に注入ドーズ量を乗じることにより、不純物濃度プロファイルが演算される。このようなピアソン関数を用いた不純物注入シミュレーションの精度を高める手法として、ピアソン関数パラメータを不純物の注入ドーズ量に依存して変化させる手法等が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0013】
また、近年、フォトダイオードを備える固体撮像素子では、固体撮像素子に蓄積できる電荷数を向上させるため、フォトダイオード周辺部の比較的狭い領域に砒素のイオン注入を行なう構造が提案されている。当該構造では、300keVから600keVの注入エネルギーで砒素がイオン注入されている。また、当該イオン注入では、狭く限定されたシリコン単結晶基板の領域に効率良く砒素を注入するために、イオン注入時のシリコン単結晶基板のチルト角がゼロ度(シリコン単結晶基板表面に対する不純物の入射角が90度)に設定されている。シリコン単結晶基板へチルト角ゼロ度でイオン注入を行う場合、チャネリングが発生しやすい。特に、300keV〜600keVのような高注入エネルギーでイオン注入を行う場合には、チャリングが顕著に発生するため、チャネリング成分を無視することができない。したがって、所望の特性を得ることができる砒素のイオン注入条件をシミュレーションにより求めるためには、上記のようなDual-ピアソン関数f3(y)を用いて不純物濃度プロファイルシミュレーションを行うことが望ましい。
【特許文献1】特開平7−62533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のピアソン関数パラメータは、SIMS等で取得された現実の不純物濃度プロファイル(以下、実測値という。)を再現するように、注入材料及び注入エネルギーごとに校正(キャリブレーション)される。通常、ピアソン関数パラメータの校正は、ピアソン関数と実測値とが合致するように各ピアソン関数パラメータを数学的にフィッティングすることで行われる。そのため、ピアソン関数パラメータのデータテーブルを、全ての注入条件に対して準備することは困難である。また、チルト角ゼロ度でのイオン注入は、注入後の不純物プロファイルのばらつきが大きいため、通常の半導体装置の製造工程では採用されていない。すなわち、上記の固体撮像素子のような、半導体基板の狭い領域に、半導体基板表面と平行な方向に広がりをもたない不純物領域を形成する場合等の、チルト角ゼロ度でイオン注入をせざるを得ない場合のみに用いられている。その意味では、チルト角ゼロ度のイオン注入は、特殊な用途に相当するといえる。そのため、一般に広く使用されているTSUPREM4(商品名)のようなプロセスシミュレータでは、チルト角ゼロ度のイオン注入により形成される不純物濃度プロファイルを正確に表現することができるピアソン関数パラメータが準備されていない。
【0015】
また、プロセスシミュレータに一般に準備されているピアソン関数パラメータのデータテーブルも、それぞれの注入条件で形成された不純物濃度プロファイルごとに、独立して校正が行われている。すなわち、同一の注入材料を異なる注入エネルギーで半導体基板にイオン注入した場合であっても、各注入エネルギーにおけるピアソン関数パラメータは、対応する実測値に対して個別に校正されている。このため、ピアソン関数パラメータ間の注入エネルギー依存性に物理的な整合性がなく、ピアソン関数パラメータがその値になった物理的な根拠が希薄になっている。このような物理的な整合性を有しないピアソン関数パラメータを使用して演算された不純物濃度プロファイルでは、注入エネルギー依存性に基づいて定性的な評価を行うことが困難となる。
【0016】
本発明は、上記従来の事情を鑑みて提案されたものであって、チルト角ゼロ度、かつ高注入エネルギーで砒素のイオン注入を行う場合であっても、解析モデルを用いて高精度に不純物濃度プロファイルを予測することができるイオン注入シミュレーション方法、イオン注入シミュレータ、及びイオン注入シミュレーションプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段を採用している。本発明は半導体基板に、イオン注入により導入された不純物の濃度プロファイルを、少なくとも投影飛程と分散(投影飛程近傍の不純物濃度プロファイルの広がり)とをパラメータとする第1の分布関数f1及び第2の分布関数f2を、重み付け係数Dにより結合した合成分布関数f3=D×f1+(1−D)×f2に基づいて予測するイオン注入シミュレーション方法である。ここで、第1の分布関数は不純物濃度プロファイルのランダム成分を表現する分布関数であり、第2の分布関数は不純物濃度プロファイルのチャネリング成分を表現する分布関数である。
【0018】
まず、現実の不純物濃度プロファイルの最大濃度部の形状に基づいて、第1の分布関数の投影飛程と分散、及び重み付け係数を抽出する。ここで、最大濃度部とは最大濃度点近傍の領域を指す。また、投影飛程及び分散は、合成分布関数による分布を現実の不純物濃度プロファイルに一致するように数学的なフィッティングを行うことにより抽出することができる。
【0019】
次いで、第2の分布関数の投影飛程が、抽出された第1の分布関数の投影飛程に基づいて算出される。また、第2の分布関数の分散が、抽出された第1の分布関数の分散に基づいて算出される。
【0020】
以上により得られたパラメータ及び重み付け係数を適用した合成分布関数により不純物濃度プロファイルが演算される。
【0021】
上記構成では、チャネリング成分の分布関数(第2の分布関数)の投影飛程及び分散がランダム成分の分布関数(第1の分布関数)の投影飛程及び分散に基づいて算出されるため、ランダム成分の分布関数とチャネリング成分の分布関数との間に相関をもたせることができる。これにより、イオン注入された不純物の阻止能力はランダム成分に比べてチャネリング成分の方が小さいという物理的な整合性を、両分布関数の間にもたせることが可能となる。
【0022】
上記構成において、第2の分布関数の投影飛程は、対応する第1の分布関数の投影飛程を特定の割合で大きくすることにより算出することができる。各注入エネルギーにおける第2の分布関数の分散は、対応する第1の分布関数の分散を特定の割合で大きくすることにより算出することができる。このように、第1の分布関数及び第2の分布関数の投影飛程と分散とを一定の比率とすることにより、フィッティングを行うパラメータ数を減少させ、キャリブレーションを簡素化することもできる。
【0023】
また、同一の不純物が異なる注入エネルギーで注入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルに対して第1の分布関数の投影飛程及び分散の抽出を行う場合、各注入エネルギーに対する投影飛程及び分散は、注入エネルギーが小さくなるにつれて小さな値となる条件下で抽出される。これにより、投影飛程及び分散は、注入エネルギーと物理的な整合性を有する状態になる。このため、精度の高いイオン注入シミュレーションを行うことが可能となる。
【0024】
また、同一の不純物が異なる注入エネルギーで注入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルに対して重み付け係数の抽出を行う場合、各注入エネルギーに対する重み付け係数は、注入エネルギーが小さくなるにつれて大きな値となる条件下で抽出される。これにより、重み付け係数は、弾性衝突に起因する核阻止能が注入エネルギーの増大につれて小さくなる現象との物理的な整合性をもたせることも可能となる。このため、精度の高いイオン注入シミュレーションを行うことが可能となる。
【0025】
また、上記分布関数は歪度及び尖度をパラメータとしてさらに含んでもよい。この場合、第1の分布関数の歪度及び尖度は、上記得られた投影飛程、分散、及び重み付け係数を合成分布関数に適用した状態で、上記現実の不純物濃度プロファイルにおけるテール部の形状に基づいて抽出することができる。このとき、第2の分布関数の歪度及び尖度は、一定値とすることができる。これにより歪度及び尖度が考慮された、さらに精度の高いイオン注入シミュレーションを行うことが可能となる。同一の不純物が異なる注入エネルギーで注入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルに対して第1の分布関数の歪度及び尖度の抽出を行う場合、各注入エネルギーにおける歪度及び尖度は、注入エネルギーが小さくなるにつれて大きな値になる条件下で抽出されることが好ましい。これにより歪度及び尖度は、注入エネルギーと物理的な整合性を有する状態になるため、さらに精度の高いイオン注入シミュレーションを行うことが可能となる。なお、上記合成分布関数はDual−ピアソン関数を使用することができる。
【0026】
また、本発明に係る他のイオン注入シミュレーション方法は、イオン注入により導入された不純物の濃度プロファイルを、投影飛程、分散、歪度、及び尖度をパラメータとする、第1の分布関数f1及び第2の分布関数f2を、重み付け係数Dにより結合した合成分布関数f3=D×f1+(1−D)×f2に基づいて予測する。第1の分布関数は不純物濃度プロファイルのランダム成分を表現する分布関数であり、第2の分布関数は不純物濃度プロファイルのチャネリング成分を表現する分布関数である。
【0027】
このイオン注入シミュレーション方法では、まず、第1の分布関数の投影飛程と分散、及び重み付け係数が、異なる注入エネルギーで不純物が導入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルにおける最大濃度部の形状に基づいて、注入エネルギーが小さくなるにつれて小さな値になる条件下で注入エネルギーごとに抽出される。次いで、第2の分布関数の投影飛程が、各注入エネルギーに対して抽出された第1の分布関数の投影飛程を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより、注入エネルギーごとに算出される。第2の分布関数の分散は、各注入エネルギーに対して抽出された第1の分布関数の分散を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより、注入エネルギーごとに算出される。
【0028】
上記第1の分布関数の歪度及び尖度は、上記抽出された投影飛程、分散及び重み付け係数を合成分布関数に適用した状況下で、各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルにおけるテール部の形状に基づいて、注入エネルギーが小さくなるにつれて大きな値になる条件下で注入エネルギーごとに抽出される。
【0029】
予測要求のあった注入エネルギーにおける第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数は、以上により得られた各注入エネルギーにおける第1の分布関数のパラメータ、第2の分布関数のパラメータ、及び重み付け係数に基づいて算出される。この算出された各パラメータ及び重み付け係数が適用された合成分布関数により、要求された注入エネルギーにおける不純物濃度プロファイルが予測される。
【0030】
本構成では、ランダム成分の分布関数とチャネリング成分の分布関数とが物理的な整合性を有し、投影飛程、分散、歪度、尖度、及び重み付け係数が物理的な整合性を有する注入エネルギー依存性をもつ状態になる。したがって、さらに精度の高いイオン注入シミュレーションを行うことが可能となる。
【0031】
一方、他の観点では、本発明は、上述のイオン注入シミュレーション方法を実施するイオン注入シミュレータを提供することができる。すなわち、本発明に係るイオン注入シミュレータでは、パラメータ設定部が、第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数を、予測要求のあった任意の注入エネルギーに対して一義に設定する。プロファイル演算部は、一義に設定された第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数に基づいて、不純物濃度プロファイルを演算する。
【0032】
ここで、パラメータ設定部は、第1の分布関数の投影飛程及び分散を注入エネルギーが小さくなるにつれて小さくなる値に設定し、重み付け係数を注入エネルギーが小さくなるにつれて大きくなる値に設定することができる。また、パラメータ設定部は、各注入エネルギーにおける第2の分布関数の投影飛程及び分散を、対応する第1の分布関数の投影飛程及び分散を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくした値に設定することができる。また、パラメータ設定部は、第1の分布関数の歪度と尖度を、注入エネルギーが小さくなるにつれて大きくなる値に設定してもよい。このとき、第2の分布関数の歪度と尖度は、一定値とすることができる。さらに、他の観点では、本発明は、上記イオン注入シミュレーション方法をコンピュータに実行させるプログラムを提供することもできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、ランダム成分のプロファイルにおける分布関数の投影飛程とチャネリング成分における分布関数の投影飛程、及びランダム成分のプロファイルにおける分布関数の分散とチャネリング成分における分布関数の分散がそれぞれ相関を有している。これにより、イオン注入された不純物の阻止能力がチャネリング成分に比べてランダム成分の方が大きいという物理現象を解析モデルに組み込むことができる。このため、イオン注入された不純物の濃度プロファイルを高精度に予測することができる。
【0034】
また、投影飛程及び分散は注入エネルギーが減少するにつれて小さくなる値とし、重み付け係数は注入エネルギーの減少につれて大きくなる値として抽出されるため、不純物濃度プロファイルの注入エネルギー依存性に物理的な整合性をもたせることができる。これにより、本発明では、任意の注入エネルギーに対して不純物濃度プロファイルを一義に設定することができる。例えば、ゼロ度のチルト角で、600keVのような高い注入エネルギーでシリコン基板中にイオン注入を行なう場合にも、高精度に不純物濃度プロファイルを予測することができる。
【0035】
特に、ランダム成分における分布関数の投影飛程とチャネリング成分における分布関数の投影飛程との比、及びランダム成分における分布関数の分散とチャネリング成分における分布関数の分散との比が、注入エネルギーに関わらず同一であるとした場合、フィッティングを行う分布関数のパラメータ数を減少させることができ、キャリブレーションを簡素化することができる。
【0036】
さらに、ランダム成分における分布関数の歪度及び尖度を注入エネルギーが小さくなるにつれて大きくなるようにすることで、注入エネルギーが減少するにつれて、チャネリングの影響が相対的に大きくなり、同時に不純物の散乱が小さくなる、という物理現象との整合性をもたせることができる。これにより、不純物濃度プロファイルをより高精度に予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。以下ではシリコン基板中に砒素をイオン注入した際の不純物濃度プロファイルを演算する事例として本発明を具体化している。図1は、本実施形態のイオン注入シミュレータの概略機能ブロック図である。
【0038】
イオン注入シミュレータ10は、パラメータ設定部11と、パラメータ管理部12と、プロファイル演算部13とを備える。プロファイル演算部13は、第1のピアソン関数及び第2のピアソン関数にピアソン関数パラメータを代入することにより不純物濃度プロファイルを演算する。ここで、第1のピアソン関数は、単結晶基板に注入されたイオンが結晶格子との弾性衝突によりランダムな方向に散乱するランダム成分の不純物濃度プロファイルを表現し、第2のピアソン関数はチャネリング成分の不純物濃度プロファイルを表現する。このとき、第1のピアソン関数と第2のピアソン関数の総和が、注入ドーズ量と一致するように、それぞれの比重が上記数7に示した重み付け係数Dで表現される。
【0039】
不純物濃度プロファイル演算に用いるピアソン関数パラメータはパラメータ設定部11により設定される。パラメータ設定部11は、注入エネルギー、注入ドーズ量等の注入条件に応じてパラメータ管理部12からピアソン関数パラメータを読み出す。パラメータ管理部12には、注入条件ごとに第1のピアソン関数及び第2のピアソン関数の各パラメータ(投影飛程Rp、分散ΔRp、歪度γ、及び尖度β)、及び重み付け係数Dが対応づけられたデータベースが格納されている。以下では、第1のピアソン関数のピアソン関数パラメータをRp1、ΔRp1、γ1、β1と表記し、第2のピアソン関数のピアソン関数パラメータをRp2、ΔRp2、γ2、β2と表記し、重み付け係数をDと表記する。なお、パラメータ管理部12は、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置により構成される。
【0040】
イオン注入シミュレーションを行う場合、ユーザは、入力部21を介して直接あるいはイオン注入シミュレータ10が認識可能なファイルの状態で注入条件を入力する。入力された注入条件は、例えばメモリやHDD等により構成される条件格納部22に保持される。条件格納部22に注入条件が保持されると、パラメータ設定部11は条件格納部22から、ピアソン関数パラメータの設定に必要なデータ(ここでは、注入エネルギー、注入ドーズ量)を読み出す。パラメータ設定部11は、読み出したデータに基づいてパラメータ管理部12から、入力された注入エネルギーに対応する各ピアソン関数パラメータを読み出して保持する。
【0041】
プロファイル演算部13は、パラメータ設定部11に保持された各ピアソン関数パラメータを第1及び第2のピアソン関数(Dual−ピアソン関数)に代入することで、入力された注入エネルギーにおけるDual−ピアソン分布を演算する。プロファイル演算部13は、まず、第1のピアソン関数にピアソン関数パラメータ(Rp1、ΔRp1、γ1、β1)を代入する。そして、深さyがゼロから無限遠までの範囲の第1のピアソン関数の積分値C1を演算する。次いで、プロファイル演算部13は、第2のピアソン関数にピアソン関数パラメータ(Rp2、ΔRp2、γ2、β2)を、深さyがゼロから無限遠までの範囲の積分値C2がC1×D=1−C2×(1-D)を満足する条件下で代入し、規格化されたDual−ピアソン分布を算出する。当該Dual−ピアソン分布に注入ドーズ量を乗じることで、要求された注入条件での不純物濃度プロファイルを演算し、出力部23を介してディスプレイ表示や、データファイル出力等で出力する。プロファイル照合部14、投影飛程・分散算出部15及び実測値格納部16については後述する。
【0042】
パラメータ管理部12に格納されるピアソン関数パラメータは、従来同様、シミュレーションの実施に先立って、校正(以下、キャリブレーションという。)を行うことにより抽出される。図2は、本発明のイオン注入シミュレータ10において実施されるキャリブレーションの処理を示すフローチャートである。また、図3は、イオン注入により形成された不純物濃度プロファイルの模式図である。
【0043】
キャリブレーションは、プロファイル演算部13が初期値となるピアソン関数パラメータを読み込んで演算した不純物濃度プロファイルを現実の不純物濃度プロファイルと照合することで行われる。このような照合は、例えばピアソン関数パラメータを変数とした最小2乗法により両者を一致させることで行うことができる。以下では、プロファイル演算部13により演算された不純物濃度プロファイルを予測値と表記し、現実の不純物濃度プロファイルを実測値と表記する。
【0044】
上述したように、第1及び第2のピアソン関数パラメータと重み付け係数Dとは、ピアソン関数パラメータは、注入エネルギーごとに求められる。本実施形態では、異なる注入エネルギーで砒素(As)をチルト角ゼロ度で注入したシリコン基板(以下、試料基板という。)により実測値を取得している。ここでは、3種の試料基板を使用している。各試料基板の条件(注入エネルギー、注入ドーズ量)は、それぞれ(300keV、2.1E12atoms/cm2)、(400keV、2.1E12atoms/cm2)、(600keV、2.1E12atoms/cm2)である。なお、実測値はSIMS等により計測され、入力部21を介して実測値格納部16(図1参照)に格納されている。
【0045】
キャリブレーション処理では、まず、第1のピアソン関数の投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dのキャリブレーションが行われる。不純物をイオン注入する場合、注入材料が同一であれば、注入エネルギーが減少するにつれて不純物濃度プロファイルのピーク深さ(投影飛程)は半導体基板表面に近づくと考えられる。また、これにともなって、イオン注入された不純物の散乱は小さくなり、投影飛程近傍の分布の広がりは小さくなると考えられる。このため、投影飛程Rp1、分散ΔRp1のキャリブレーションは、注入エネルギーが減少するにつれて投影飛程Rp1、分散ΔRp1が小さくなることを前提条件としている。
【0046】
また、半導体基板中にイオン注入された不純物イオンのエネルギーは、核阻止能と電子阻止能による損失により失われ、全エネルギーが失われた位置で不純物イオンが停止する。核阻止能は注入イオンと結晶格子(シリコン原子)との弾性散乱に起因するエネルギー損失であり、電子阻止能は注入イオンと電子雲(シリコン原子の電子雲)との相互作用(電子励起)に起因するエネルギー損失である。
【0047】
核阻止能は注入エネルギーが増大するにつれて次第に減少し、電子阻止能は注入エネルギーが増大するにつれて次第に増加する。すなわち、注入エネルギーが増大するにつれて、注入された全不純物イオンの内、弾性散乱によりエネルギーを失って停止する不純物イオンの割合は減少することになる。上述のように、第1のピアソン関数は、核阻止能により停止する不純物イオンの濃度分布を表現している。このため、重み付け係数Dのキャリブレーションは、注入エネルギーが増大するにつれて重み付け係数Dが小さくなることを前提条件としている。
【0048】
本実施形態では、上記試料基板群において、注入エネルギーが高い試料基板から降順で投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dのキャリブレーションを行う。これにより、上記前提条件を満足する投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dを抽出する。
【0049】
パラメータ設定部11は、最初に、第1のピアソン関数の各ピアソン関数パラメータ及び重み付け係数Dの初期値を設定する。このとき設定される初期値は、一般的に使用される値から逸脱しない値を用いる。例えば上述のプロセスシミュレータTSUPREM4のデフォルトパラメータ値を使用することができる。
【0050】
プロファイル演算部13は、パラメータ設定部11が設定した初期値を、第1のピアソン関数(上記数1から数6)と重み付け係数Dとを掛け合わせた関数に代入し、当該関数の予測値を演算する(図2 S21)。プロファイル照合部14の投影飛程・分散照合部141(図1参照)は、注入エネルギーが600keVである実測値と予測値との間の誤差(ここでは、平均2乗誤差)を算出する。誤差は、誤差算出範囲を限定する等により、特に現実の不純物濃度プロファイルの最大濃度部31について求められる。最大濃度部31とは図3に示すように最大濃度点近傍の領域である。
【0051】
次いで、パラメータ設定部11は、投影飛程・分散照合部141が算出した誤差に基づいて、投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dの値を変化させる(このとき、歪度γ1、尖度β1は固定)。プロファイル演算部13は、変化後のピアソン関数パラメータを用いて、再度、第1のピアソン関数と重み付け係数Dとを掛け合わせた関数により予測値を演算する。投影飛程・分散照合部141は、当該予測値と実測値との誤差を算出する。以上の処理を繰り返し、上記誤差が最小となる投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dが、注入エネルギー600keVの実測値を表現する最適値として抽出される。投影飛程Rp1、分散ΔRp1は最大濃度部31の形状を支配するパラメータである。したがって、最大濃度部31の誤差に基づいてキャリブレーションを行うことにより、主にテール部分のプロファイルを決定する歪度γ1と尖度β1の値とはほぼ無関係に投影飛程Rp1と分散ΔRp1の最適値を定めることができる(図2 S22)。
【0052】
次に、パラメータ設定部11は、注入エネルギーが400keVの場合の実測値に対するキャリブレーションを行う(図2 S23No→S21)。このとき、上記初期値を当該キャリブレーションの初期値とすることもできるが、ここでは上述の600keVの実測値に対して求められた投影飛程Rp1の最適値と分散ΔRp1の最適値と重み付け係数Dの最適値を初期値として使用する。歪度γ1、尖度β1については、上述の600keVの場合と同様に、一般的に使用される値から逸脱しない値を用いる。
【0053】
プロファイル演算部13は、パラメータ設定部11が設定した初期値により、第1のピアソン関数と重み付け係数Dとを掛け合わせた関数を用いて予測値を演算する。投影飛程・分散照合部141は、予測値と注入エネルギーが400keVの実測値との間の最大濃度部31における誤差を算出する。そして、注入エネルギーが600keVの場合と同様に、パラメータ設定部11が当該誤差に基づいて、投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dの値を変化させる(歪度γ1、尖度β1は固定)。このとき、パラメータ設定部11は、投影飛程Rp1と分散ΔRp1が600keVにおける最適値よりも小さい範囲で投影飛程Rp1と分散ΔRp1の値を変化させる。また、重み付け係数Dを、600keVよりも大きい範囲で変化させる。プロファイル演算部13は、変化後のピアソン関数パラメータを用いて、第1のピアソン関数と重み付け係数Dとを掛け合わせた関数により予測値を演算し、投影飛程・分散照合部141が予測値と実測値との誤差を算出する。それらの処理を繰り返し、上記誤差が最小となる投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dが、注入エネルギーが400keVの実測値を表現する最適値として抽出される(図2 S22)。
【0054】
以降、注入エネルギーが300keVである場合の実測値に対しても、投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dのキャリブレーションが同様に実施され、各注入エネルギーにおける投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dの最適値が求められる。このようにして求められた投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dは上述の前提条件を満足する。投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dの最適値は、注入エネルギーと対応づけられてパラメータ管理部12に記憶される。
【0055】
投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dの最適値の取得が完了すると、第2のピアソン関数の各パラメータの投影飛程Rp2及び分散ΔRp2の設定が行われる(図2 S23Yes→S24)。ここでは、投影飛程Rp2は第1の分布関数の投影飛程Rp1に基づいて算出され、分散ΔRp2は第1の分布関数の分散ΔRp1に基づいて算出される。これにより、ランダム成分における分布関数の投影飛程とチャネリング成分における分布関数の投影飛程、及びランダム成分における分布関数の分散とチャネリング成分における分布関数の分散にそれぞれ相関をもたせることができる。ランダム成分は上述の核阻止能と電子阻止能との両方によりエネルギーが失われ、チャネリング成分は電子阻止能のみによりエネルギーが失われる。このため、ランダム成分はチャネリング成分に比べてイオン注入された不純物の阻止能力が大きい成分であると考えられる。本実施形態では、ランダム成分とチャネリング成分とでの投影飛程の比は注入エネルギーを低下させた場合でもほぼ一定であり、ランダム成分とチャネリング成分とでの分散の比は注入エネルギーを低下させた場合でもほぼ一定であると看做している。これは、投影飛程Rpと分散ΔRpが、注入エネルギーに対してほぼ線形的に変化するという物理現象に基づいている。このため、本実施形態では、Rp1=k1Rp2(0<k1<1)、ΔRp1=k2ΔRp2(0<k2<1)として、投影飛程Rp2、分散ΔRp2を定める。また、このように第2のピアソン関数の投影飛程及び分散を第1のピアソン関数の投影飛程及び分散に基づいて設定することで、フィッティングを行う分布関数のパラメータ数を減少させることができ、キャリブレーションを簡素化することもできる。
【0056】
このk1、k2の値は、以下のようにして設定することができる。まず、プロファイル演算部13が、特定の試料基板における投影飛程Rp1の最適値及び分散ΔRp1の最適値に基づいて、Rp1=k1Rp2(0<k1<1)、ΔRp1=k2ΔRp2(0<k2<1)として、第2のピアソン関数の初期値を設定する。投影飛程・分散照合部141が当該予測値と上記特定の試料基板のランダム成分における不純物濃度プロファイルとの誤差を算出する。本実施形態では、図3の最大濃度部31とテール部32の境界付近(プロファイルのテール部分が目立ちはじめる領域)の誤差を算出する。当該誤差に基づいて、パラメータ設定部11がk1及びk2の値を変化させる。パラメータ設定部11は、誤差が最小となるk1及びk2の値を最適値として投影飛程・分散算出部15(図1参照)に設定する。ここでは、k1=0.5であり、k2=0.3である。
【0057】
投影飛程・分散算出部15は、パラメータ管理部12に記憶されている各条件に対して求められた第1のピアソン関数の投影飛程Rp1の最適値を読み出す。読み出した投影飛程Rp1の最適値にk1を乗じることで、投影飛程・分散算出部15は第2のピアソン関数の投影飛程Rp2を算出する。算出された第2のピアソン関数の投影飛程Rp2は、パラメータ管理部12に注入エネルギーと対応づけて記憶される。同様に、投影飛程・分散算出部15は、パラメータ管理部12に記憶されている各条件に対して求められた第1のピアソン関数の分散ΔRp1の最適値にk2を乗じることで第2のピアソン関数の分散ΔRp2を算出する。算出された分散ΔRp2は、パラメータ管理部12に注入エネルギーと対応づけて記憶される。これにより、各注入エネルギーに対応する第2のピアソン関数の投影飛程Rp2と分散ΔRp2の最適値が求められる。
【0058】
以上のようにして、第2のピアソン関数の投影飛程Rp2及び分散ΔRp2の設定が完了すると、続いて、歪度γ1及び尖度β1のキャリブレーションが行われる。注入エネルギーが減少すると、チャネリングにより基板深くに進入する不純物の影響が相対的に大きくなる。これにより、不純物濃度プロファイルはすそを引いた形状になると考えられる。歪度γは分布がピーク位置を挟んで対称である場合に0になり、深い側にすそを引いている場合に正になる。このため、歪度γ1及び尖度β1のキャリブレーションでは、注入エネルギーが減少するにつれて歪度γ1が大きくなることを前提条件とする。また、注入エネルギーが減少すると、イオン注入時の基板中での不純物の散乱が小さくなり不純物濃度プロファイルがより尖った形状になると考えられる。尖度βは分布が鋭いほど大きな値になる。このため、歪度γ1及び尖度β1のキャリブレーションでは、注入エネルギーが減少するにつれて尖度β1が大きくなることも前提条件としている。本実施形態は、上記試料基板群において、歪度γ1及び尖度β1のキャリブレーションを注入エネルギーについて降順で行う。これにより、上記前提条件を満足する歪度γ1及び尖度β1を抽出する。なお、歪度γ1及び尖度β1のキャリブレーションでは、投影飛程Rp1、Rp2及び分散ΔRp1、ΔRp2は対応する上述の最適値に固定される。
【0059】
さらに、本実施形態では、第1のピアソン関数の歪度γ1及び尖度β1のキャリブレーションでは、第2のピアソン関数の歪度γ2及び尖度β2を一定値にしており、γ2>γ1、β2<β1としている。これはチャネリング成分が電子阻止能のみによりエネルギー損失を受ける成分であるため、注入エネルギーが異なる場合であってもブロードでテールを引いた様なプロファイルが維持されると考えられるためである。特に限定されるものではないが、本実施形態では、歪度γ2=1.7、尖度β2=3.5としている。
【0060】
パラメータ設定部11は、まず、歪度γ1及び尖度β1の初期値を設定する。設定される初期値には、一般的に使用される値から逸脱しない値が用いられる。このとき、投影飛程Rp1、Rp2と分散ΔRp1、ΔRp2、及び重み付け係数Dは対応する最適値、すなわち、600keVの実測値に対して求められた最適値に固定される。プロファイル演算部13は、パラメータ設定部11が設定した初期値により、Dual−ピアソン関数を用いて予測値を演算する(図2 S25)。プロファイル照合部14の歪度・尖度照合部142(図1参照)は、当該予測値と注入エネルギー600keVの実測値との間の誤差を算出する。誤差は、誤差算出範囲を限定する等により、特に現実の不純物濃度プロファイルのテール部について求められる。図3に示すように、テール部32とはシリコン基板の表面を基準として上記最大濃度部31よりも深い位置にあり、正規分布からのずれが生じる領域である。そのため、正規分布からのずれを表現する歪度及び尖度の誤差をテール部32より求めることができる。
【0061】
パラメータ設定部11は、歪度・尖度照合部142が算出した誤差に基づいて、歪度γ1と尖度β1の値を変化させる。プロファイル演算部13は、変化後のピアソン関数パラメータを用いて、Dual−ピアソン関数により予測値を演算する。歪度・尖度照合部142は、当該予測値と実測値との誤差を算出する。以上の処理を繰り返し、上記誤差が最小となる歪度γ1と尖度β1が、注入エネルギーが600keVの実測値を表現する歪度γ1と尖度β1の最適値として抽出される(図2 S26)。
【0062】
次に、パラメータ設定部11は、注入エネルギーが400keVの場合の実測値に対するキャリブレーションを行う(図2 S27No→S25)。このとき、上記初期値を当該キャリブレーションの初期値とすることもできるが、ここでは上述の600keVの実測値に対して求められた歪度γ1の最適値と尖度β1の最適値を初期値として使用する。投影飛程Rp1、分散ΔRp1、及び重み付け係数Dは、上述の600keVの場合と同様に、対応する最適値、すなわち、注入エネルギーが400keVの実測値に対して求められた最適値に固定される。
【0063】
プロファイル演算部13は、パラメータ設定部11が設定した初期値により、Dual−ピアソン関数を用いて予測値を演算する。歪度・尖度照合部142は、当該予測値と注入エネルギーが400keVの実測値との間のテール部32における誤差を算出する。そして、注入エネルギーが600keVの場合と同様に、パラメータ設定部11が当該誤差に基づいて、歪度γ1と尖度β1の値を変化させる。このとき、パラメータ設定部11は、歪度γ1と尖度β1が600keVにおける最適値よりも大きい範囲で歪度γ1及び尖度β1を変化させる。プロファイル演算部13は変化後のピアソン関数パラメータを用いて、Dual−ピアソン関数により予測値を演算し、歪度・尖度照合部142が予測値と実測値との誤差を算出する。以上の処理を繰り返し、上記誤差が最小となる歪度γ1と尖度β1が、注入エネルギーが400keVの実測値を表現する最適値として抽出される(図2 S26)。
【0064】
以降、注入エネルギーが300keVである実測値に対しても歪度γ1及び尖度β1のキャリブレーションが同様に実施され、各注入エネルギーにおける歪度γ1と尖度β1の最適値が求められる。このようにして求められた歪度γ1と尖度β1は上述の前提条件を満足する。歪度γ1と尖度β1の最適値は、注入エネルギーと対応づけてパラメータ管理部12に記憶される。そして、全ての実測値に対応する歪度γ1と尖度β1の最適値が抽出されると、キャリブレーションが完了する(図2 S27Yes)。
【0065】
以上のようにして得られたピアソン関数パラメータの最適値の一例を図4に示す。図4のパラメータテーブル41は、上記各試料基板に対して取得された各ピアソン関数パラメータを示している。図4に示すように、投影飛程Rp1、Rp2及び分散ΔRp1、ΔRp2は注入エネルギーの減少にともなって小さな値になっている。また、チャネリング成分の投影飛程Rp2、分散ΔRp2は、注入エネルギーに関わらず、ランダム成分の投影飛程Rp1、分散ΔRp1よりもそれぞれ一定の割合で大きくなっている。さらに、歪度γ1及び尖度β1の値は、注入エネルギーが減少するにつれて大きな値になっており、歪度γ2及び尖度β2の値は、注入エネルギーに関わらず一定値になっている。また、重み付け係数Dは注入エネルギーが減少するにつれて大きな値になっている。すなわち、注入エネルギーに対する連続性を有している各ピアソン関数パラメータが取得されている。
【0066】
図5〜図7は、300keV、400keV、600keVのそれぞれの注入エネルギーで、チルト角ゼロ度として砒素をイオン注入した試料基板の実測値及び図4に示したピアソン関数パラメータを用いてイオン注入シミュレータが演算した予測値を示す図である。図5〜図7において、不純物濃度プロファイルデータの深さ方向の原点は、イオン注入時のシリコン表面である。図5より、注入エネルギーが300keVの場合、実測値51に一致した予測値52が得られていることが理解できる。また、図6より、注入エネルギーが400keVの場合、実測値61に一致した予測値62が得られていることが理解できる。さらに、図7より、注入エネルギーが600keV場合にも、実測値71に一致した予測値72が得られていることが理解できる。
【0067】
以上のようにしてキャリブレーションが完了すると、図2に示したイオン注入シミュレータ10において、任意の注入条件(特に任意の高注入エネルギー条件)でのイオン注入シミュレーションを行うことが可能となる。図8は、イオン注入シミュレーションの際にイオン注入シミュレータ10が行う処理を示すフローチャートである。このとき、予測可能な注入エネルギーの範囲は、注入パラメータテーブルに記載されている範囲となる。本実施形態では、図4に示したように、最小のエネルギーである300keVから最大のエネルギーである600keVまでとなる。
【0068】
入力部21を介して注入エネルギー、注入ドーズ量等の注入条件が入力されると、当該注入条件は条件格納部22に保持される(図8 S81)。パラメータ設定部11は条件格納部22から、注入エネルギーを読み出す。読み出した注入エネルギーに一致するピアソン関数パラメータがパラメータ管理部12に記憶されている場合、パラメータ設定部11は当該パラメータをパラメータ管理部12から読み出して保持する(図8 S82Yes→S86)。
【0069】
読み出した注入エネルギーに一致するピアソン関数パラメータがパラメータ管理部12に記憶されていない場合、パラメータ設定部11は要求された注入エネルギーに前後するピアソン関数パラメータをパラメータ管理部12から読み出して保持する(図8 S82No→S83)。パラメータ設定部11は読み出した各パラメータの線形補間を行い、要求された注入エネルギーに対応するピアソン関数パラメータを算出して保持する(図8 S84)。
【0070】
以上のようにして予測要求された注入エネルギーに対応するピアソン関数パラメータがパラメータ設定部11に保持されると、プロファイル演算部13はパラメータ設定部11に保持された各ピアソン関数パラメータを数7に示すDual−ピアソン関数に代入し、入力された注入エネルギーにおける規格化されたDual−ピアソン分布を演算する。また、プロファイル演算部13は当該Dual−ピアソン分布に注入ドーズ量を乗じることで、要求された注入条件における不純物濃度プロファイルを演算し、出力部23に出力する。
【0071】
以上のように、本実施形態のイオン注入シミュレータ10によれば、パラメータ設定部11、パラメータ管理部12、プロファイル演算部13、プロファイル照合部14、投影飛程・分散算出部15、実測値格納部16により構成されるパラメータ規定部20により、第1及び第2のピアソン関数の各パラメータを、予測要求のあった任意の注入エネルギーに対して一義に設定することができる。また、本実施形態のイオン注入シミュレーション方法により取得されるピアソン関数パラメータ群を使用することにより、一般に広く使用されているTSUPREM4のような、ピアソン関数を用いてイオン注入後の不純物濃度プロファイルを予測する標準的なイオン注入シミュレータにおいても、予測要求のあった任意の注入エネルギーに対してピアソン関数パラメータを一義に設定することができる。
【0072】
なお、パラメータ設定部11、プロファイル演算部13、パラメータ照合部14、及び投影飛程・分散算出部15は、例えば、専用の演算回路や、プロセッサとRAMやROM等のメモリとを備えたハードウェア、及び当該メモリに格納され、プロセッサ上で動作するソフトウェア等として実現することができる。
【0073】
また、このようなイオン注入シミュレーションの手順をコンピュータに実行させるためのプログラムは、インターネットなどの電気通信回線を用いたり、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納したりすることで、関係者や第三者に提供することができる。例えばプログラムの指令を電気信号や光信号、磁気信号などで表現し、その信号を搬送波に載せて送信することで、同軸ケーブルや銅線、光ファイバのような伝送媒体でそのプログラムを提供することができる。またコンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、CD−ROMやDVD−ROMなどの光学メディアや、フレキシブルディスクのような磁気メディア、フラッシュメモリやRAMのような半導体メモリを利用することができる。
【0074】
上記チルト角ゼロ度で行う砒素の高エネルギー注入は、例えば固体撮像素子の製造工程では、例えばシリコン基板表面側から高濃度P型不純物層、N型電荷蓄積層、シリコン基板あるいはウエルで構成されるP型層からなるフォトダイオード(受光部)のN型電荷蓄積層を形成するイオン注入に適用される。以上のシミュレーション方法により予測される不純物濃度プロファイルと、半導体基板に形成すべき所望の不純物濃度プロファイルとを比較することにより、所望の不純物プロファイルを形成可能なイオン注入条件を予測することができる。このため、予測された注入条件により不純物のイオン注入を行うことで、所望の特性を有する半導体装置を簡単に製造することができる。
【0075】
以上説明したように、本発明では、ランダム成分の分布関数の投影飛程とチャネリング成分の分布関数の投影飛程、及びランダム成分の分布関数の分散とチャネリング成分の分布関数の分散がそれぞれ相関を有している。これにより、イオン注入された不純物の阻止能力がチャネリング成分に比べてランダム成分の方が大きいという物理現象を解析モデルに組み込むことができる。また、重み付け係数Dは、注入エネルギーが増加するにつれて小さくなる値として抽出される。これにより、注入エネルギーを増加させるにつれて弾性散乱に起因する核阻止能が次第に減少し、電子阻止能の影響が次第に大きくなるという物理現象を解析モデルに組み込むことができる。このため、ゼロ度のチルト角を用いてイオン注入された不純物の濃度プロファイルを高精度に予測することができる。
【0076】
また、投影飛程及び分散は注入エネルギーが減少するにつれて小さくなる値として抽出されるため、不純物濃度プロファイルの注入エネルギー依存性に物理的な整合性をもたせることができる。これにより、本発明では、任意の注入エネルギーに対して不純物濃度プロファイルを一義に設定することができる。
【0077】
特に、ランダム成分の分布関数の投影飛程とチャネリング成分の分布関数の投影飛程との比、及びランダム成分の分布関数の分散とチャネリング成分の分布関数の分散との比が、注入エネルギーに関わらず同一であるとした場合、フィッティングを行う分布関数のパラメータ数を減少させることができ、キャリブレーションを簡素化することができる。
【0078】
さらに、歪度及び尖度を注入エネルギーが小さくなるにつれて大きくなるようにすることで、注入エネルギーが減少するにつれて、チャネリングの影響が相対的に大きくなり、同時に不純物の散乱が小さくなる、という物理現象との整合性をもたせることができる。これにより、不純物濃度プロファイルをより高精度に予測することができる。
【0079】
なお、上述した実施形態は本発明の技術的範囲を制限するものではなく、既に記載したもの以外でも、本発明の範囲内で種々の変形や応用が可能である。例えば、上記ではシリコン基板に砒素をイオン注入する事例を説明したが、注入材料、半導体基板の材質は任意である。対応するピアソン関数パラメータを予め求めておき、注入条件としてこれらの材料を指定する構成とすればよい。また、分布関数もピアソン関数に限らず、少なくとも投影飛程と分散とをパラメータとする他の分布関数を適用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、ゼロ度のチルト角を用いて、300keVから600keVの高エネルギーイオン注入により半導体基板中に形成された砒素の不純物濃度プロファイルを解析モデルを用いて高精度に予測することが可能であり、不純物濃度プロファイルを予測するシミュレーション方法やシミュレータとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態のイオン注入シミュレータを示す概略機能ブロック図
【図2】本発明の一実施形態のキャリブレーション処理を示すフローチャート
【図3】本発明の一実施形態のキャリブレーションを説明する模式図
【図4】本発明の一実施形態のピアソン関数パラメータのデータテーブルの一例を示す図
【図5】本発明の一実施形態により演算された予測値と対応する実測値を示す図
【図6】本発明の一実施形態により演算された予測値と対応する実測値を示す図
【図7】本発明の一実施形態により演算された予測値と対応する実測値を示す図
【図8】本発明の一実施形態のイオン注入シミュレーションを示すフローチャート
【符号の説明】
【0082】
10 イオン注入シミュレータ
11 パラメータ設定部
12 パラメータ管理部
13 プロファイル演算部
14 プロファイル照合部
15 投影飛程・分散算出部
16 実測値格納部
20 パラメータ規定部
21 入力部
22 条件格納部
23 出力部
31 最大濃度部
32 テール部
41 データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に、イオン注入により導入された不純物の濃度プロファイルを、少なくとも投影飛程と分散とをパラメータとする、不純物濃度プロファイルのランダム成分を表現する第1の分布関数f1及び不純物濃度プロファイルのチャネリング成分を表現する第2の分布関数f2を、重み付け係数Dにより結合した合成分布関数f3=D×f1+(1−D)×f2に基づいて予測するイオン注入シミュレーション方法において、
現実の不純物濃度プロファイルにおける最大濃度部の形状に基づいて、前記第1の分布関数の投影飛程と分散、及び前記重み付け係数を抽出するステップと、
前記抽出された第1の分布関数の投影飛程に基づいて、前記第2の分布関数の投影飛程を算出するステップと、
前記抽出された第1の分布関数の分散に基づいて、前記第2の分布関数の分散を算出するステップと、
得られたパラメータ及び重み付け係数を適用した合成分布関数により不純物濃度プロファイルを演算するステップと、
を有することを特徴とするイオン注入シミュレーション方法。
【請求項2】
前記第2の分布関数の投影飛程は、対応する第1の分布関数の投影飛程を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより算出され、前記第2の分布関数の分散は、対応する第1の分布関数の分散を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより算出される請求項1記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項3】
同一の不純物が異なる注入エネルギーで注入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルに対して前記第1の分布関数の投影飛程及び分散の抽出を行う場合、各注入エネルギーに対する投影飛程及び分散は、注入エネルギーが減少するにつれて小さな値となる条件下で抽出される請求項1または請求項2記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項4】
同一の不純物が異なる注入エネルギーで注入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルに対して前記重み付け係数の抽出を行う場合、各注入エネルギーに対する重み付け係数は、注入エネルギーが減少するにつれて大きな値となる条件下で抽出される請求項1または請求項2記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の分布関数が歪度及び尖度をパラメータとして含み、
前記得られた投影飛程、分散、及び重み付け係数を、前記合成分布関数に適用した状況下で、前記現実の不純物濃度プロファイルにおけるテール部の形状に基づいて、前記第1の分布関数の歪度及び尖度を抽出するステップをさらに有する請求項1または請求項2記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項6】
前記第2の分布関数の歪度及び尖度が一定値である請求項5記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項7】
同一の不純物が異なる注入エネルギーで注入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルに対して前記第1の分布関数の歪度及び尖度の抽出を行う場合、各注入エネルギーに対する歪度及び尖度は、注入エネルギーが減少するにつれて大きな値となる条件下で抽出される請求項5または請求項6記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項8】
前記合成分布関数がDual−ピアソン関数である請求項5記載のイオン注入シミュレーション方法。
【請求項9】
半導体基板に、イオン注入により導入された不純物の濃度プロファイルを、投影飛程、分散、歪度、及び尖度をパラメータとする、不純物濃度プロファイルのランダム成分を表現する第1の分布関数f1及び不純物濃度プロファイルのチャネリング成分を表現する第2の分布関数f2を、重み付け係数Dにより結合した合成分布関数f3=D×f1+(1−D)×f2に基づいて予測するイオン注入シミュレーション方法において、
異なる注入エネルギーで不純物が導入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルにおける最大濃度部の形状に基づいて、前記第1の分布関数の投影飛程及び分散を、注入エネルギーが減少するにつれて小さな値になる条件下で注入エネルギーごとに抽出し、前記重み付け係数を、注入エネルギーが減少するにつれて大きな値になる条件下で抽出するステップと、
各注入エネルギーに対して抽出された第1の分布関数の投影飛程を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより、前記第2の分布関数の投影飛程を注入エネルギーごとに算出するステップと、
各注入エネルギーに対して抽出された第1の分布関数の分散を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより、前記第2の分布関数の分散を注入エネルギーごとに算出するステップと、
得られた投影飛程、分散及び重み付け係数を前記合成分布関数に適用するとともに、第2の分布関数の歪度及び尖度を一定値とした状況下で、各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルにおけるテール部の形状に基づいて、前記第1の分布関数の歪度及び尖度を、注入エネルギーが減少するにつれて大きな値になる条件下で注入エネルギーごとに抽出するステップと、
得られた各注入エネルギーにおける第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数に基づいて、予測要求のあった注入エネルギーにおける第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数を算出するステップと、
当該算出された各パラメータ及び重み付け係数が適用された合成分布関数により、要求された注入エネルギーにおける不純物濃度プロファイルを予測するステップと、
を有することを特徴とするイオン注入シミュレーション方法。
【請求項10】
半導体基板に、イオン注入により導入された不純物の濃度プロファイルを、投影飛程、分散、歪度、及び尖度をパラメータとする、不純物濃度プロファイルのランダム成分を表現する第1の分布関数f1及び不純物濃度プロファイルのチャネリング成分を表現する第2の分布関数f2を、重み付け係数Dにより結合した合成分布関数f3=D×f1+(1−D)×f2分布関数に基づいて予測するイオン注入シミュレータにおいて、
前記第1の分布関数の各パラメータ、前記第2の分布関数の各パラメータ、及び前記重み付け係数を、予測要求のあった任意の注入エネルギーに対して一義に設定する手段と、
前記一義に設定された第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数に基づいて、不純物濃度プロファイルを演算する手段と、
を備えたことを特徴とするイオン注入シミュレータ。
【請求項11】
前記設定手段は、前記第1の分布関数の投影飛程及び分散を注入エネルギーが小さくなるにつれて小さくなる値に設定し、前記重み付け係数を注入エネルギーが小さくなるにつれて大きくなる値に設定するとともに、各注入エネルギーにおける前記第2の分布関数の投影飛程及び分散を、対応する第1の分布関数の投影飛程及び分散を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくした値に設定する請求項10記載のイオン注入シミュレータ。
【請求項12】
前記設定手段は、前記第1の分布関数の歪度と尖度を、注入エネルギーが小さくなるにつれて大きくなる値に設定する請求項10または請求項11記載のイオン注入シミュレータ。
【請求項13】
前記合成分布関数がDual−ピアソン関数である請求項10記載のイオン注入シミュレータ。
【請求項14】
半導体基板に、イオン注入により導入された不純物の濃度プロファイルを、投影飛程、分散、歪度、及び尖度をパラメータとする、不純物濃度プロファイルのランダム成分を表現する第1の分布関数f1及び不純物濃度プロファイルのチャネリング成分を表現する第2の分布関数f2を、重み付け係数Dにより結合した合成分布関数f3=D×f1+(1−D)×f2分布関数に基づいて予測する処理をコンピュータに実行させるイオン注入シミュレーションプログラムにおいて、
前記コンピュータに、
異なる注入エネルギーで不純物が導入された各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルにおける最大濃度部の形状に基づいて、前記第1の分布関数の投影飛程及び分散を、注入エネルギーが小さくなるにつれて小さな値となるとともに、前記重み付け係数を、注入エネルギーが減少するにつれて大きな値になる条件下で注入エネルギーごとに抽出するステップと、
前記第2の分布関数の投影飛程を、前記抽出された第1の分布関数の投影飛程を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより、注入エネルギーごとに算出するステップと、
前記第2の分布関数の分散を、各注入エネルギーにおける前記抽出された第1の分布関数の分散を注入エネルギーに関わらず特定の割合で大きくすることにより、注入エネルギーごとに算出するステップと、
得られた投影飛程、分散及び重み付け係数を前記合成分布関数に適用するとともに、第2の分布関数の歪度及び尖度を一定値とした状況下で、各半導体基板の現実の不純物濃度プロファイルにおけるテール部の形状に基づいて、前記第1の分布関数の歪度及び尖度を、注入エネルギーが小さくなるにつれて大きくなる条件下で注入エネルギーごとに抽出するステップと、
得られた各注入エネルギーにおける第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数に基づいて、予測要求のあった注入エネルギーにおける第1の分布関数の各パラメータ、第2の分布関数の各パラメータ、及び重み付け係数を算出するステップと、
当該算出された各パラメータ及び重み付け係数が適用された合成分布関数により、要求された注入エネルギーにおける不純物濃度プロファイルを予測するステップと、
を実行させることを特徴とするイオン注入シミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−124075(P2008−124075A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303075(P2006−303075)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】