説明

イオン注入装置

【課題】 基板に対する注入位置での長手方向(Y方向)のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させる。
【解決手段】 このイオン注入装置は、イオンビーム50を発生するイオン源100と、Y方向に走査される電子ビーム138を放出してプラズマ124を生成する電子ビーム源Gnと、それ用の電源114と、注入位置近傍におけるイオンビーム50のY方向のビーム電流密度分布を測定するイオンビームモニタ80と、制御装置90とを備えている。制御装置90は、モニタ80からの測定データに基づいて電源114を制御することによって、モニタ80で測定したビーム電流密度が大きいモニタ点に対応する位置での電子ビーム138の走査速度を大きくし、測定したビーム電流密度が小さいモニタ点に対応する位置での電子ビーム138の走査速度を小さくして、モニタ80で測定されるY方向のビーム電流密度分布を均一化する機能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リボン状のイオンビームを基板に入射させることと、基板をイオンビームの主面と交差する方向に移動させることとを併用して、基板にイオン注入を行うイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のイオン注入装置においては、基板に対するイオン注入の均一性を高めるために、リボン状(これはシート状または帯状と呼ばれることもある。以下同様)のイオンビームの長手方向(この明細書においてはY方向)のイオンビーム電流密度分布の均一性が良いことが重要である。
【0003】
リボン状のイオンビームの長手方向のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させる技術として、例えば特許文献1には、1次元で走査される電子ビームをイオン源のプラズマ生成容器内に入射して、この電子ビームによってガスを電離させてプラズマを生成させることによって、イオン源から引き出すイオンビームのビーム電流密度分布を向上させる技術が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−38689号公報(段落0006−0008、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、イオン源から引き出すイオンビームの均一性を向上させることができたとしても、イオンビームの輸送途中で均一性が悪化する場合があるので、注入位置でのイオンビーム電流密度分布の均一性が良いという保証はない。
【0006】
そこでこの発明は、基板に対する注入位置での長手方向(Y方向)のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させることができるイオン注入装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る第1のイオン注入装置は、イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを輸送してそれを基板に照射してイオン注入を行うイオン注入装置であって、
(a)ガスが導入されるプラズマ生成容器と、電子ビームを発生させてそれを前記プラズマ生成容器内へ放出して当該電子ビームによって前記ガスを電離させてプラズマを生成するものであって、当該電子ビームを前記プラズマ生成容器内においてY方向に走査する1以上の電子ビーム源と、前記プラズマ生成容器内で生成されたプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを有していて、Y方向の寸法が前記基板のY方向の寸法よりも大きい前記リボン状のイオンビームを発生させるイオン源と、
(b)前記イオンビームを前記基板に入射させる注入位置で、前記基板を前記イオンビームの主面と交差する方向に移動させる基板駆動装置と、
(c)前記各電子ビーム源に、前記電子ビームの発生量を制御する引出し電圧および前記走査用の走査電圧をそれぞれ供給する1以上の電子ビーム用電源と、
(d)前記注入位置またはその近傍において、Y方向における複数のモニタ点において前記イオンビームのY方向のイオンビーム電流密度分布を測定するイオンビームモニタと、
(e)前記イオンビームモニタからの測定データに基づいて前記電子ビーム用電源を制御することによって、前記各電子ビーム源から発生させる電子ビームの量を実質的に一定に保ちつつ、前記イオンビームモニタで測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの走査速度を相対的に大きくすることと、測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの走査速度を相対的に小さくすることの少なくとも一方を行って、前記イオンビームモニタで測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する機能を有している制御装置とを備えている。
【0008】
この第1のイオン注入装置においては、イオンビームモニタによって、注入位置またはその近傍におけるY方向のイオンビーム電流密度分布が測定される。そして、制御装置は、イオンビームモニタからの測定データに基づいて電子ビーム用電源を制御して、イオン源のプラズマ生成容器内における電子ビームの走査速度を制御して、当該電子ビームによって生成するプラズマの密度を制御する。具体的には、各電子ビーム源から発生させる電子ビームの量を実質的に一定に保ちつつ、イオンビームモニタで測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内位置での電子ビームの走査速度を相対的に大きくすることと、測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での電子ビームの走査速度を相対的に小さくすることの少なくとも一方を行って、イオンビームモニタで測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する制御を行う。これによって、注入位置でのY方向のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させることができる。
【0009】
(a)前記制御装置を、前記各電子ビーム用電源から前記各電子ビーム源に供給する前記走査電圧の元になる走査信号を前記各電子ビーム用電源に供給する機能と、前記イオンビームモニタで測定したY方向分布のイオンビーム電流密度と所定の設定イオンビーム電流密度との差であるY方向分布の誤差を算出する機能と、前記算出した誤差が所定の許容誤差より大きいモニタ点およびそのモニタ点での誤差の正負を決定する機能と、前記決定したモニタ点に対応する前記電子ビーム源およびその走査電圧を決定する機能と、前記決定した誤差の正負に基づいて、前記測定したイオンビーム電流密度の方が大きいモニタ点に対応する走査電圧時の前記電子ビームの走査速度を前記誤差の大きさに比例して増大させ、かつ、前記測定したイオンビーム電流密度の方が小さいモニタ点に対応する走査電圧時の前記電子ビームの走査速度を前記誤差の大きさに比例して減少させて、イオンビームが入射する実質的に全てのモニタ点で前記誤差が前記許容誤差以下になるように、前記走査信号の波形を整形する機能と、前記整形後の走査信号のデータを保存する機能とを有しているものとし、(b)前記各電子ビーム用電源を、前記制御装置から供給される走査信号を増幅して前記走査電圧を作る増幅器を有しているものとしても良い。
【0010】
この発明に係る第2のイオン注入装置は、イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを輸送してそれを基板に照射してイオン注入を行うイオン注入装置であって、
(a)ガスが導入されるプラズマ生成容器と、電子ビームを発生させてそれを前記プラズマ生成容器内へ放出して当該電子ビームによって前記ガスを電離させてプラズマを生成するものであって、当該電子ビームを前記プラズマ生成容器内においてY方向に走査する1以上の電子ビーム源と、前記プラズマ生成容器内で生成されたプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを有していて、Y方向の寸法が前記基板のY方向の寸法よりも大きい前記リボン状のイオンビームを発生させるイオン源と、
(b)前記イオンビームを前記基板に入射させる注入位置で、前記基板を前記イオンビームの主面と交差する方向に移動させる基板駆動装置と、
(c)前記各電子ビーム源に、前記電子ビームの発生量を制御する引出し電圧および前記走査用の走査電圧をそれぞれ供給する1以上の電子ビーム用電源と、
(d)前記注入位置またはその近傍において、Y方向における複数のモニタ点において前記イオンビームのY方向のイオンビーム電流密度分布を測定するイオンビームモニタと、
(e)前記イオンビームモニタからの測定データに基づいて前記電子ビーム用電源を制御することによって、前記各電子ビーム源から発生させる電子ビームの走査速度を実質的に一定に保ちつつ、前記イオンビームモニタで測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの発生量を相対的に少なくすることと、測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの発生量を相対的に多くすることの少なくとも一方を行って、前記イオンビームモニタで測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する機能を有している制御装置とを備えている。
【0011】
この第2のイオン注入装置においては、イオンビームモニタによって、注入位置またはその近傍におけるY方向のイオンビーム電流密度分布が測定される。そして、制御装置は、イオンビームモニタからの測定データに基づいて電子ビーム用電源を制御して、電子ビーム源からの電子ビームの発生量を制御して、当該電子ビームによってプラズマ生成容器内で生成するプラズマの密度を制御する。具体的には、各電子ビーム源から発生させる電子ビームのY方向における走査速度を実質的に一定に保ちつつ、イオンビームモニタで測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内位置での電子ビームの発生量を相対的に少なくすることと、測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での電子ビームの発生量を相対的に多くすることの少なくとも一方を行って、イオンビームモニタで測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する制御を行う。これによって、注入位置でのY方向のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させることができる。
【0012】
(a)前記制御装置を、前記各電子ビーム用電源から前記各電子ビーム源に供給する前記引出し電圧の元になる引出し信号を前記各電子ビーム用電源に供給する機能と、前記イオンビームモニタで測定したY方向分布のイオンビーム電流密度と所定の設定イオンビーム電流密度との差であるY方向分布の誤差を算出する機能と、前記算出した誤差が所定の許容誤差より大きいモニタ点およびそのモニタ点での誤差の正負を決定する機能と、前記決定したモニタ点に対応する前記電子ビーム源およびその走査電圧を決定する機能と、前記決定した誤差の正負に基づいて、前記測定したイオンビーム電流密度の方が大きいモニタ点に対応する走査電圧時の前記引出し電圧を前記誤差の大きさに比例して減少させ、かつ、前記測定したイオンビーム電流密度の方が小さいモニタ点に対応する走査電圧時の前記引出し電圧を前記誤差の大きさに比例して増大させて、イオンビームが入射する実質的に全てのモニタ点で前記誤差が前記許容誤差以下になるように、前記引出し信号の波形を整形する機能と、前記整形後の引出し信号のデータを保存する機能とを有しているものとし、(b)前記各電子ビーム用電源を、前記制御装置から供給される引出し信号を増幅して前記引出し電圧を作る増幅器を有しているものとしても良い。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜6に記載の発明によれば、上記のような構成を有しているので、基板に対する注入位置でのY方向のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させることができる。その結果、基板に対するイオン注入の均一性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略側面図である。この明細書および図面においては、イオンビーム50の進行方向を常にZ方向とし、このZ方向に実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。なお、Y方向は一定の方向であるが、X方向は絶対的な方向ではない。イオンビーム輸送系170はXZ平面内で曲がっている場合があり、その場合のX方向はイオンビーム50の経路上の位置によって変化する。またこの明細書において、イオンビーム50を構成するイオンは正イオンの場合を例に説明している。
【0015】
このイオン注入装置は、イオン源100からリボン状のイオンビーム50を発生させてそれを基板60まで輸送して基板60に照射して、基板60にイオン注入を施すよう構成されている。イオン源100から基板60までのイオンビーム50の経路は、図示しない真空容器内にあって、真空雰囲気に保たれる。
【0016】
イオン源100から発生させて基板60まで輸送するイオンビーム50は、例えば図2に示すように、X方向の寸法WX よりもY方向の寸法WY が大きいリボン状をしている。即ちWY >WX である。イオンビーム50は、リボン状と言ってもX方向の寸法WX が紙や布のように薄いという意味ではない。例えば、イオンビーム50のX方向の寸法WX は30mm〜80mm程度、Y方向の寸法WY は、基板60の寸法にも依るが、300mm〜500mm程度である。このイオンビーム50の大きい方の面、即ちYZ面に沿う面が主面52である。
【0017】
イオン源100から基板60までのイオンビーム輸送系170は、直線状でも良いし、曲がっていても良い。イオンビーム輸送系170は、例えば、イオンビーム50の運動量分析(例えば質量分析)を行う分析電磁石を有していても良く、その場合のイオンビーム輸送系170はXZ平面内で曲がっている。イオンビーム輸送系170は、分析電磁石以外の要素、例えば分析スリット、イオンビーム50の加減速器等を有していても良い。
【0018】
このイオン注入装置は、基板60を保持するホルダ502を有していて、イオンビーム50を基板60に入射させる注入位置で、基板60をイオンビーム50の主面52(図2参照)と交差する方向に移動させる基板駆動装置500を備えている。この移動は、例えば、往復直線移動である。その移動方向の一例を図1中に矢印Cで示す。この移動方向は、X方向に平行な方向に限られるものではなく、X方向から所定の角度(注入角度に相当する角度)を持っていても良い。
【0019】
イオン源100は、Y方向の寸法WY が基板60のY方向の寸法TY よりも大きいリボン状のイオンビーム50を発生させる。例えば、寸法TY が300mm〜400mmであれば、寸法WY は400mm〜500mm程度である。このような寸法関係と、基板60を上記のように移動させることとによって、基板60の全面にイオンビーム50を照射してイオン注入を行うことができる。
【0020】
基板60は、例えば、半導体基板、ガラス基板、その他の基板である。その平面形状は円形でも良いし四角形でも良い。
【0021】
イオン源100は、プラズマ124を生成するためのプラズマ生成容器118と、プラズマ生成容器118内へY方向に走査される電子ビーム138を放出する1以上(この実施形態では三つ)の電子ビーム源Gnと、プラズマ生成容器118内で生成されたプラズマ124からイオンビーム50を引き出す引出し電極系126とを有している。
【0022】
プラズマ生成容器118は、ガス導入口119から所望のガス(蒸気の場合を含む)120が導入され、それを電子ビーム138による衝撃によって電離させてプラズマ124を生成するための容器である。ガス120は、所望の元素(例えば、B、P、As 等のドーパント)を含むガスである。より具体例を挙げれば、BF3 、PH3 、AsH3 、B26 等の原料ガスを含むガスである。
【0023】
ガス導入口119は、必要に応じて、Y方向に複数個設けても良い。そのようにすれば、プラズマ生成容器118内におけるガス濃度分布を均一化して、プラズマ密度分布を均一化することが容易になる。
【0024】
プラズマ生成容器118は、その前面部に、図3にも示すように、Y方向に伸びたスリット状のイオン引出し孔122を有している。但し、イオン引出し孔122を小孔として、それをY方向に複数(多数)個配列しても良い。このイオン引出し孔122の形状、配列等は、引き出すイオンビーム50の断面形状等に応じたものにすれば良い。後述する引出し電極系126のイオン引出し孔128も同様である。
【0025】
引出し電極系126は、上記イオン引出し孔122の下流側近傍に設けられていて、1枚以上(図示例では2枚)の電極を有している。各電極は、上記イオン引出し孔122に対応した形状、配置のイオン引出し孔128をそれぞれ有している。この引出し電極系126を構成する電極の枚数は図示例のものに限られるものではなく、1枚以上で任意である。
【0026】
プラズマ生成容器118は、この例では、イオン引出し孔122と反対側の面に、各電子ビーム源Gnから放出された電子ビーム138をプラズマ生成容器118内へそれぞれ入射させる電子ビーム入射口121を有している。電子ビーム入射口121の数は、電子ビーム源Gnの数と同数にすれば良い。
【0027】
各電子ビーム源Gnは、電子ビーム138を発生させてそれをプラズマ生成容器118内へ放出して、当該電子ビーム138による衝撃によってガス120を電離させてプラズマ124を生成するものであり、しかも、電子ビーム138をプラズマ生成容器118内においてY方向に1次元で走査するものである。
【0028】
各電子ビーム源Gnは、その一部または全部がプラズマ生成容器118内に位置していても良いけれども、この実施形態のように、プラズマ生成容器118の外側近傍に配置しておく方が、各電子ビーム源Gnとプラズマ124との相互干渉を避ける観点から好ましい。更にこの実施形態のように、各電子ビーム源Gnを、矢印Qに示すように、プラズマ生成容器118内とは別に真空排気される差動真空排気室130内に配置しておくのが好ましい。そのようにすると、各電子ビーム源Gn内の真空度を良くすることができるので、プラズマ生成容器118内に導入された上記ガス120によって各電子ビーム源Gnの機能が低下するのを防止することができる。
【0029】
各電子ビーム源Gnには、それに対応する電子ビーム用電源114から、電子ビーム138の発生量を制御する引出し電圧およびY方向走査用の走査電圧がそれぞれ供給される。電子ビーム源Gnおよびそれ用の電子ビーム用電源114の数は、この実施形態ではそれぞれ三つであるが、それに限られるものではなく、それぞれ一つでも良いし、三つ以外の複数でも良い。即ちどちらの数も1以上で任意であり、必要とするイオンビーム50のY方向の寸法WY 等に応じて適宜選定すれば良い。
【0030】
プラズマ生成容器118の周りに、プラズマ124の生成・維持のための多極磁場(マルチカスプ磁場)形成用の磁石を配置しておいても良い。そのような構造のイオン源は、バケット型イオン源(または多極磁場型イオン源)とも呼ばれる。
【0031】
各電子ビーム源Gnおよび各電子ビーム用電源114の構成の一例を図5に示す。
【0032】
各電子ビーム源Gnは、この実施形態では、電子(熱電子)を放出するフィラメント140と、当該電子を電子ビーム138として引き出す陽極144と、両者140、144間に配置されていて電子ビーム138のエネルギーを変えずに電子ビーム発生量を制御する引出し電極142と、外部に取り出す電子ビーム138をY方向に走査する一対の走査電極146とを有している。これらは金属製で筒状のケース148内に収納されている。このケース148および陽極144は、それらの電位を固定するために、この実施形態では、端子168を経由して、プラズマ生成容器118に電気的に接続されている。
【0033】
このような構成によって、各電子ビーム源Gnは、電子ビーム138を発生させてそれをイオン源100のプラズマ生成容器118内へ放出して、当該電子ビーム138によってガス120を電離させてプラズマ124を生成することができる。かつ、当該電子ビーム138をプラズマ生成容器118内においてY方向に1次元で走査することができる。
【0034】
また、この例のように電子ビーム源Gnの構成要素(フィラメント140、引出し電極142、陽極144、走査電極146)をケース148内に収納して一体化しておくと、電子ビーム源Gnの数を増減することや、電子ビーム源Gnの交換等が容易になる。
【0035】
各電子ビーム用電源114は、フィラメント140を加熱するフィラメント電源150と、フィラメント140と引出し電極142との間に電子ビーム138の発生量を制御する直流の引出し電圧Veを印加する引出し電源152と、フィラメント140と陽極144との間に直流の陽極電圧Vaを印加するエネルギー制御電源154と、一対の走査電極146間にY方向走査用の走査電圧Vyを印加する増幅器156とを有している。フィラメント電源150は、この実施形態では直流電源であるが、交流電源でも良い。
【0036】
増幅器156は、後述する制御装置90から供給される走査信号Syを増幅(電圧増幅)して、上記走査電圧Vyを作る(出力する)。走査電圧Vyは、この例では、陽極144の電位を基準にして、±方向に振られる。このような構成によって、各電子ビーム用電源114は、それに対応する各電子ビーム源Gnに、電子ビーム138の発生量を制御する引出し電圧Ve、Y方向走査用の走査電圧Vy等をそれぞれ供給することができる。
【0037】
電子ビーム源Gnから取り出される電子ビーム138のエネルギーは、簡単に言えば、上記陽極電圧Vaの大きさによって決まり、当該エネルギーはVa[eV]となる。この電子ビーム138のエネルギーは、プラズマ生成容器118内において電子衝撃によって前記ガス120を電離させることができる大きさにしておく。例えば、ガス120が前述したような種類のガスである場合、500eV〜3keV程度に、より具体的には1keV程度にすれば良い。
【0038】
再び図1を参照して、このイオン注入装置は、イオンビーム50を基板60に入射させる注入位置またはその近傍において、かつY方向における複数のモニタ点において、イオンビーム50のY方向のビーム電流密度分布を測定して当該ビーム電流密度分布を表す測定データD1 を出力するイオンビームモニタ80と、このイオンビームモニタ80から与えられる測定データD1 に基づいて各電子ビーム用電源114を制御する制御装置90とを備えている。制御装置90は、この例では、走査電圧Vyの元になる上記走査信号Syを供給する機能を有している。
【0039】
イオンビームモニタ80は、例えば図1に示す例のように、注入位置の後方(換言すれば下流側)近傍に設けても良いし、注入位置の前方(換言すれば上流側)近傍に設けても良いし、注入位置へ移動させるようにしても良い。このイオンビームモニタ80と基板60およびホルダ502とは、相互に邪魔にならないようにすれば良い。例えば、イオンビームモニタ80を注入位置の後方近傍に設ける場合は、測定時には基板60およびホルダ502を測定の邪魔にならない位置に移動させれば良い。イオンビームモニタ80を注入位置の前方近傍に設ける場合は、注入時にはイオンビームモニタ80を注入の邪魔にならない位置に移動させれば良い。
【0040】
イオンビームモニタ80は、Y方向における複数のモニタ点においてイオンビーム50のY方向のイオンビーム電流密度分布を測定するものである。このイオンビームモニタ80は、例えば図4に示す例のように、Y方向に配列された複数(多数)のビーム電流測定器(例えばファラデーカップ)82を有している。この複数のビーム電流測定器82は、この例のように、Y方向に、イオンビーム50のY方向の寸法WY よりも幾分長く配列しておいても良い。そのようにすれば、イオンビーム50のY方向の全体を測定することができる。各ビーム電流測定器82が各モニタ点に相当する。
【0041】
各ビーム電流測定器82は、この例では、X方向に伸びた短冊状の形状をしている。その場合、各ビーム電流測定器82は、この例のように、そのX方向の寸法を、それに入射するイオンビーム50のX方向の寸法WX よりも大きくしておいて、X方向においてはイオンビーム50の全体を受けることができるようにしておいても良い。そのようにすれば、イオンビーム50のX方向におけるイオンビーム電流密度分布の影響を排除することができる。換言すれば、X方向においては平均のイオンビーム電流密度を測定することができる。前述したように基板60はX方向に沿って(X方向に平行とは限らない)移動させられるので、各ビーム電流測定器82を上記のようにしておくと、基板60に対する実際のイオン注入により近い状態で、イオンビーム50のイオンビーム電流密度分布を測定することができる。
【0042】
但し、ビーム電流測定器82の個数、形状、配列等は、図4に示すものに限られない。例えば、円形のビーム電流測定器82を複数個、Y方向に配列しても良い。
【0043】
また、イオンビームモニタ80は、一つのビーム電流測定器82を移動機構によってY方向に移動させる構造のものでも良い。
【0044】
なお、モニタ点は、この明細書においては、数学上の面積を有しない点のことではなく、イオンビーム50のY方向の寸法WY に比べてY方向の寸法が十分に小さい、所定の面積を有する小さな測定箇所のことである。
【0045】
各モニタ点の面積は予め分かっているから、各モニタ点でイオンビーム50のビーム電流をそれぞれ測定することと、各モニタ点でビーム電流密度を測定することとは、実質的に同じである。これは、各モニタ点で測定したビーム電流を上記面積で割ることによって、各モニタ点におけるビーム電流密度を得ることができるからである。
【0046】
制御装置90は、この実施形態では、CPU、記憶装置、入力用のAD変換器、出力用のDA変換器等を有するコンピュータから成る。この制御装置90は、次の(A)または(B)の制御を行う機能を有している。(A)、(B)両方の制御を同時に行うことはない。
【0047】
(A)電子ビームの走査速度制御
この場合の制御装置90は、イオンビームモニタ80からの測定データD1 に基づいて各電子ビーム用電源114を制御することによって、各電子ビーム源Gnから発生させる電子ビーム138の量を実質的に一定に保ちつつ、(a)イオンビームモニタ80で測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内(より具体的にはそのプラズマ生成容器118内。以下同様)位置での電子ビーム138の走査速度を相対的に大きくすることと、(b)測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での電子ビーム138の走査速度を相対的に小さくすることの両方を行って、イオンビームモニタ80で測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する機能を有している。
【0048】
(B)電子ビーム量の制御
この場合の制御装置90は、イオンビームモニタ80からの測定データD1 に基づいて各電子ビーム用電源114を制御することによって、各電子ビーム源Gnから発生させる電子ビーム138のY方向における走査速度を実質的に一定に保ちつつ、(a)イオンビームモニタ80で測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内位置での電子ビーム138の発生量を相対的に少なくすることと、(b)測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での電子ビーム138の発生量を相対的に多くすることの両方を行って、イオンビームモニタ80で測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する機能を有している。
【0049】
上記(A)、(B)いずれの場合も、制御装置90は、上記(a)、(b)の制御の内の少なくとも一方を行うものでも良いけれども、両方を行う方が、イオンビーム電流密度分布を均一化する制御は速くなるので好ましい。なお、上記「機能」は「手段」と言い換えることもできる。後述する他の機能についても同様である。
【0050】
上記(A)、(B)の制御のより具体例を以下に説明する。
【0051】
(A)電子ビームの走査速度制御
この場合は、電子ビーム用電源114には図5に示したものを用いる。そしてこの例では、引出し電源152から出力する引出し電圧Veを一定にしておいて、電子ビーム源Gnから発生させる電子ビーム量は一定にしておく。エネルギー制御電源154から出力する陽極電圧Vaも一定にしておいて、電子ビーム138のエネルギーも一定にしておくのが好ましいので、この実施形態ではそれらを一定にしておく。この場合に、制御装置90を用いて行う制御のフローチャートを図6、図7に示す。
【0052】
制御に先立ち、イオンビームモニタ80上のモニタ点Pyと、そのモニタ点Pyのイオンビーム電流密度を増減させるのを分担する電子ビーム源Gnおよびその電子ビーム源Gnに供給する走査電圧Vyとの対応関係を予め調べてそれを制御装置90内に保存しておく。但し、電子ビーム源Gnが1個の場合は、電子ビーム源Gnは一義的に決まっているので、分担する電子ビーム源Gnを調べて保存しておく必要はない。下記の対応関係に電子ビーム源Gnを含める必要もない。
【0053】
この対応関係は、イオンビームモニタ80上の任意のモニタ点Pyに着目すれば、そのモニタ点Pyのイオンビーム電流密度を増減させる電子ビーム源Gnはどれか、かつその電子ビーム源Gnに供給する走査電圧Vyはどんな値か、という関係であり、次の数1で表すことができる。添字のi,j,kは、より具体的な位置を表しており、それぞれ整数である。この対応関係は、例えば、どの電子ビーム源Gnのどんな走査電圧Vyのときに、どのモニタ点Pyのイオンビーム電流密度が増減するかを調べることによって決定することができる。この対応関係は、装置構成によって一義的に決まるので、装置構成に変更がない限り、一度決めれば良い。そして、この対応関係を表すデータを制御装置90(より具体的にはその記憶装置)内に格納しておけば良い。
【0054】
[数1]
Pyi ←→(Gnj ,Vyk
【0055】
それ以降を図6等を参照して説明する。基板60に照射するイオンビーム50の所望のイオンビーム電流密度Isetおよびその許容誤差εを制御装置90に設定する(ステップ600)。この設定したイオンビーム電流密度Isetを設定イオンビーム電流密度と呼ぶ。許容誤差εは、設定イオンビーム電流密度Isetに対して、実際のイオンビーム電流密度、具体的にはイオンビームモニタ80で測定するイオンビーム電流密度Imonがどの程度までずれるのを許容するかというものである。
【0056】
次に、制御装置90から各電子ビーム用電源114(より具体的にはその増幅器156)に、初期波形の走査信号Syを供給して、同波形の走査電圧Vyを出力させる(ステップ601)。この初期波形は、例えば、三角波である。周波数は、例えば10kHzであるが、これに限られるものではない。
【0057】
各電子ビーム源Gnは、上記初期波形でY方向に走査される電子ビーム138を発生させる。この電子ビーム138でガス120を電離させて、イオン源100内でプラズマ124を生成させて、イオンビーム50を引き出す(ステップ602)。そして、このイオンビーム50をイオンビームモニタ80で受けて、イオンビーム電流密度Imonを測定する(ステップ603)。この測定結果の概略例を図8Aに示す。大まかに言えば、AG1 〜AG3 は、それぞれ、第1〜第3の電子ビーム源Gn1 〜Gn3 の寄与領域である。但し、この図はあくまでも概略図である。
【0058】
次に、上記Y方向分布の測定イオンビーム電流密度Imonと設定イオンビーム電流密度Isetの差であるY方向分布の誤差Ierrを、例えば次式に従って算出する(ステップ604)。
【0059】
[数2]
Ierr=Imon−Iset
【0060】
次に、イオンビーム50が入射する全てのモニタ点Pyで、上記誤差の大きさ(絶対値)|Ierr|が上記許容誤差ε以下であるか否かを判定し(ステップ605)、以下でない点が一つでもあればステップ606に進み、そうでなければステップ607に進む。
【0061】
但し、この実施形態のようにイオンビーム50が入射する全てのモニタ点Pyについて判定するのが好ましいけれども、重要でない幾つかのモニタ点Pyについての判定を除外しても構わない。また、イオンビーム50が入射しないモニタ点Pyについて判定する必要はない。即ち、イオンビーム50が入射する実質的に全てのモニタ点について判定すれば良い。
【0062】
ステップ606は、電子ビーム走査速度制御サブルーチンであり、その中身を図7に示す。ここでは、まず、上記誤差の大きさ|Ierr|が許容誤差εより大きいモニタ点Pyの決定(換言すれば、特定。以下同様)と、その大きいモニタ点Pyでの誤差Ierrの正負とを決定する(ステップ620)。上記数2から分かるように、この例では、測定イオンビーム電流密度Imonが設定イオンビーム電流密度Isetより大の場合が正であり、小の場合が負である。図8Aも参照。上記のようにして決定されるモニタ点Pyの数は、制御の初期では通常は多く、制御が進むにつれて少なくなる。
【0063】
次に、上記決定した各モニタ点Pyに対応する電子ビーム源Gnおよびその走査電圧Vyを決定する(ステップ621)。これは、前述した対応関係(数1およびその説明参照)を用いて行うことができる。但し、電子ビーム源Gnが1個の場合は、電子ビーム源Gnは一義的に決まっているので、電子ビーム源Gnを決定する必要はない。
【0064】
次に、誤差Ierrが正の各モニタ点Pyに対応する走査電圧Vyのときの電子ビーム138の走査速度を誤差の大きさ|Ierr|に比例して増大させ、かつ、誤差Ierrが負の各モニタ点Pyに対応する走査電圧Vyのときの電子ビーム138の走査速度を誤差の大きさ|Ierr|に比例して減少させるように、上記走査信号Syの波形を整形する(ステップ622)。これによって、走査信号Syの波形は、初期の三角波から幾らか変形したものとなる。簡単に言えば、走査速度を増減させる位置での傾きが、初期波形の三角波から増減したような波形となる。
【0065】
より精密な制御を行うためには、走査速度が異なる2点間の走査速度は、両点の走査速度を補間した走査速度にするのが好ましい。
【0066】
電子ビーム138の走査速度を増大させると、増大させた位置での電子ビーム138によるプラズマ124の生成は少なく(薄く)なり、そこから引き出されるイオンビーム50のビーム電流密度は小さくなる。電子ビーム138の走査速度を減少させると、減少させた位置での電子ビーム138によるプラズマ124の生成は多く(濃く)なり、そこから引き出されるイオンビーム50のビーム電流密度は大きくなる。
【0067】
なお、電子ビーム138の走査速度を増大させるということは、走査信号Syの時間変化率dSy/dtひいては走査電圧Vyの時間変化率dVy/dtを増大させ、走査速度を減少させるということは、同時間変化率dSy/dtひいてはdVy/dtを減少させるということである。
【0068】
電子ビーム138の走査速度を誤差の大きさ|Ierr|に比例して増減させるときの比例定数は、適宜決めれば良い。この比例定数を大きくすれば、制御は速くなるが収束しない恐れが高くなり、逆に小さくすれば制御は遅くなるが上記恐れはなくなるので、両者の兼ね合いで決めれば良い。
【0069】
そして、上記のようにして波形整形した後の走査信号Syを用いて、各電子ビーム源Gnから発生させる電子ビーム138を走査する(ステップ623)。即ち、波形整形後の走査信号Syを増幅器156で増幅して得られる走査信号Vyを用いて電子ビーム138を走査する。これによって、上記誤差Ierrは小さくなり、それが許容誤差εよりも大きいモニタ点Pyの数も減る。
【0070】
ステップ606の電子ビーム走査速度制御サブルーチン後は、ステップ605に戻っても良いけれども、上記波形整形の影響を受けてY方向分布の誤差Ierrが変化する場合があることを考慮するならば、より正確な制御を期するために、この例のように、ステップ604に戻るのが好ましい。そして、ステップ605でYESと判定されるまで上記制御を繰り返す。これによって、イオンビーム50が入射する全ての(または実質的に全ての)モニタ点Pyで誤差の大きさ|Ierr|が許容誤差ε以下となる。その状態の概略例を図8Bに示す。
【0071】
ステップ605でYESと判定されれば、上記波形整形後の走査信号Syのデータを、更に必要に応じてその他のデータを、制御装置90(より具体的にはその記憶装置)内に保存する(ステップ607)。これによって、制御装置90を用いてY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する制御は終了する。
【0072】
上記均一化制御の終了後は、必要に応じて、上記保存データを用いてイオン源100からイオンビーム50を引き出して、基板60に対するイオン注入を行えば良い。
【0073】
以上のようにこのイオン注入装置によれば、基板60に対する注入位置でのY方向のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させることができる。その結果、基板60に対すにイオン注入の均一性を高めることができる。
【0074】
(B)電子ビーム量の制御
この場合の例を、主として図9〜図11を参照して説明する。これらの図において、上記(A)の制御と同一または相当する部分には同一符号を付しており、以下においては上記(A)の制御との相違点を主体に説明する。
【0075】
この場合は、電子ビーム用電源114には図9に示すものを用いる。この電子ビーム用電源114は、前記直流の引出し電源152の代わりに、フィラメント140と引出し電極142との間に電子ビーム138の発生量を制御する引出し電圧Veを印加する増幅器162を有している。制御装置90は、この例の場合は、引出し電圧Veの元になる引出し信号Seを供給する機能を有しており、増幅器162は、制御装置90から供給される引出し信号Seを増幅(電圧増幅)して引出し電圧Veを作る(出力する)。また、前記増幅器156の代わりに、単純に三角波の走査電圧Vyを出力する走査電源166を有している。
【0076】
つまり、この例では、走査電圧Vyの波形および大きさを一定にしておいて、電子ビーム源Gnから発生させる電子ビーム138の走査速度を一定にしておく。エネルギー制御電源154から出力する陽極電圧Vaも一定にしておいて、電子ビーム138のエネルギーも一定にしておくのが好ましいので、この実施形態ではそれらを一定にしておく。走査電圧Vyの周波数は、例えば10kHzであるが、これに限られるものではない。
【0077】
この場合に制御装置90を用いて行う制御のフローチャートを図10、図11に示す。図10では、図6に示したステップ601をステップ608で置き換えており、ステップ606をステップ609で置き換えている。
【0078】
ステップ608では、制御装置90から各電子ビーム用電源114(より具体的にはその増幅器162)に、初期波形の引出し信号Seを供給して、同波形の引出し電圧Veを出力させる。この初期波形は、例えば、電圧値一定の直流電圧である。
【0079】
ステップ609は、電子ビーム量制御サブルーチンであり、その中身を図11に示す。ステップ620、621は図7のものと同じであるので重複説明を省略する。
【0080】
ステップ621に続くステップ624では、上記誤差Ierrが正の各モニタ点Pyに対応する走査電圧Vyのときの引出し電圧Veを、上記誤差の大きさ|Ierr|に比例して減少させ、かつ、誤差Ierrが負の各モニタ点Pyに対応する走査電圧Vyのときの引出し電圧Veを、上記誤差の大きさ|Ierr|に比例して増大させるように、上記引出し信号Seの波形を整形する。これによって、引出し信号Seの波形は、初期の一定値から幾らか変形したものとなる。簡単に言えば、電子ビーム量を増減させる位置での電圧値が、初期波形の一定値から増減したような波形となる。
【0081】
引出し信号Seひいては引出し電圧Veを増大させると、増大させた位置での電子ビーム量が増大し、その位置での電子ビーム138によるプラズマ124の生成は多く(濃く)なり、そこから引き出されるイオンビーム50のビーム電流密度は大きくなる。引出し信号Seひいては引出し電圧Veを減少させると、減少させた位置での電子ビーム量が減少し、その位置での電子ビーム138によるプラズマ124の生成は少なく(薄く)なり、そこから引き出されるイオンビーム50のビーム電流密度は小さくなる。
【0082】
引出し電圧Veを誤差の大きさ|Ierr|に比例して増減させるときの比例定数は、適宜決めれば良い。この比例定数を大きくすれば、制御は速くなるが収束しない恐れが高くなり、逆に小さくすれば制御は遅くなるが上記恐れはなくなるので、両者の兼ね合いで決めれば良い。
【0083】
そして、上記のようにして波形整形した後の引出し信号Seを用いて、各電子ビーム源Gnから電子ビーム138を発生させる(ステップ625)。これによって、上記誤差Ierrは小さくなり、それが許容誤差εよりも大きいモニタ点Pyの数も減る。
【0084】
ステップ609の電子ビーム量制御サブルーチン後は、ステップ605に戻っても良いけれども、上記波形整形の影響を受けてY方向分布の誤差Ierrが変化する場合があることを考慮するならば、より正確な制御を期するために、この例のように、ステップ604に戻るのが好ましい。そして、ステップ605でYESと判定されるまで上記制御を繰り返す。これによって、イオンビーム50が入射する全ての(または実質的に全ての)モニタ点Pyで誤差の大きさ|Ierr|が許容誤差ε以下となる。その状態の概略例は、図8Bに示したのと同様である。
【0085】
ステップ605でYESと判定されれば、上記波形整形後の引出し信号Seのデータを、更に必要に応じてその他のデータを、制御装置90(より具体的にはその記憶装置)内に保存する(ステップ607)。これによって、制御装置90を用いてY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する制御は終了する。
【0086】
この実施形態によっても、基板60に対する注入位置でのY方向のイオンビーム電流密度分布の均一性を向上させることができる。その結果、基板60に対するイオン注入の均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【図2】リボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図3】プラズマ生成容器のイオン引出し孔の一例を、イオンビーム引出し方向に見て示す正面図である。
【図4】図1に示したイオンビームモニタの構成の一例を示す概略正面図である。
【図5】図1に示した電子ビーム源および電子ビーム用電源の構成の一例を示す図である。
【図6】図1に示した制御装置を用いてY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する制御内容のより具体例を示すフローチャートである。
【図7】図6に示した電子ビーム走査速度制御サブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】図6に示した電子ビーム走査速度制御を経ることによって、Y方向におけるイオンビーム電流密度分布が均一化される過程を示す概略図である。
【図9】図1に示した電子ビーム源および電子ビーム用電源の構成の他の例を示す図である。
【図10】図1に示した制御装置を用いてY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する制御内容の他の具体例を示すフローチャートである。
【図11】図10に示した電子ビーム量制御サブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0088】
50 イオンビーム
60 基板
80 イオンビームモニタ
90 制御装置
100 イオン源
114 電子ビーム用電源
118 プラズマ生成容器
120 ガス
124 プラズマ
126 引出し電極系
Gn 電子ビーム源
138 電子ビーム
156、162 増幅器
500 基板駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを輸送してそれを基板に照射してイオン注入を行うイオン注入装置であって、
(a)ガスが導入されるプラズマ生成容器と、電子ビームを発生させてそれを前記プラズマ生成容器内へ放出して当該電子ビームによって前記ガスを電離させてプラズマを生成するものであって、当該電子ビームを前記プラズマ生成容器内においてY方向に走査する1以上の電子ビーム源と、前記プラズマ生成容器内で生成されたプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを有していて、Y方向の寸法が前記基板のY方向の寸法よりも大きい前記リボン状のイオンビームを発生させるイオン源と、
(b)前記イオンビームを前記基板に入射させる注入位置で、前記基板を前記イオンビームの主面と交差する方向に移動させる基板駆動装置と、
(c)前記各電子ビーム源に、前記電子ビームの発生量を制御する引出し電圧および前記走査用の走査電圧をそれぞれ供給する1以上の電子ビーム用電源と、
(d)前記注入位置またはその近傍において、Y方向における複数のモニタ点において前記イオンビームのY方向のイオンビーム電流密度分布を測定するイオンビームモニタと、
(e)前記イオンビームモニタからの測定データに基づいて前記電子ビーム用電源を制御することによって、前記各電子ビーム源から発生させる電子ビームの量を実質的に一定に保ちつつ、前記イオンビームモニタで測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの走査速度を相対的に大きくすることと、測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの走査速度を相対的に小さくすることの少なくとも一方を行って、前記イオンビームモニタで測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する機能を有している制御装置とを備えているイオン注入装置。
【請求項2】
(a)前記電子ビーム源および前記電子ビーム用電源の数は共に一つであり、
(b)前記制御装置は、
前記電子ビーム用電源から前記電子ビーム源に供給する前記走査電圧の元になる走査信号を前記電子ビーム用電源に供給する機能と、
前記イオンビームモニタで測定したY方向分布のイオンビーム電流密度と所定の設定イオンビーム電流密度との差であるY方向分布の誤差を算出する機能と、
前記算出した誤差が所定の許容誤差より大きいモニタ点およびそのモニタ点での誤差の正負を決定する機能と、
前記決定したモニタ点に対応する走査電圧を決定する機能と、
前記決定した誤差の正負に基づいて、前記測定したイオンビーム電流密度の方が大きいモニタ点に対応する走査電圧時の前記電子ビームの走査速度を前記誤差の大きさに比例して増大させ、かつ、前記測定したイオンビーム電流密度の方が小さいモニタ点に対応する走査電圧時の前記電子ビームの走査速度を前記誤差の大きさに比例して減少させて、イオンビームが入射する実質的に全てのモニタ点で前記誤差が前記許容誤差以下になるように、前記走査信号の波形を整形する機能と、
前記整形後の走査信号のデータを保存する機能とを有しており、
(c)前記電子ビーム用電源は、前記制御装置から供給される走査信号を増幅して前記走査電圧を作る増幅器を有している、請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
(a)前記電子ビーム源および前記電子ビーム用電源の数は共に複数であり、
(b)前記制御装置は、
前記各電子ビーム用電源から前記各電子ビーム源に供給する前記走査電圧の元になる走査信号を前記各電子ビーム用電源に供給する機能と、
前記イオンビームモニタで測定したY方向分布のイオンビーム電流密度と所定の設定イオンビーム電流密度との差であるY方向分布の誤差を算出する機能と、
前記算出した誤差が所定の許容誤差より大きいモニタ点およびそのモニタ点での誤差の正負を決定する機能と、
前記決定したモニタ点に対応する前記電子ビーム源およびその走査電圧を決定する機能と、
前記決定した誤差の正負に基づいて、前記測定したイオンビーム電流密度の方が大きいモニタ点に対応する走査電圧時の前記電子ビームの走査速度を前記誤差の大きさに比例して増大させ、かつ、前記測定したイオンビーム電流密度の方が小さいモニタ点に対応する走査電圧時の前記電子ビームの走査速度を前記誤差の大きさに比例して減少させて、イオンビームが入射する実質的に全てのモニタ点で前記誤差が前記許容誤差以下になるように、前記走査信号の波形を整形する機能と、
前記整形後の走査信号のデータを保存する機能とを有しており、
(c)前記各電子ビーム用電源は、前記制御装置から供給される走査信号を増幅して前記走査電圧を作る増幅器を有している、請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項4】
イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、X方向の寸法よりもY方向の寸法が大きいリボン状のイオンビームを輸送してそれを基板に照射してイオン注入を行うイオン注入装置であって、
(a)ガスが導入されるプラズマ生成容器と、電子ビームを発生させてそれを前記プラズマ生成容器内へ放出して当該電子ビームによって前記ガスを電離させてプラズマを生成するものであって、当該電子ビームを前記プラズマ生成容器内においてY方向に走査する1以上の電子ビーム源と、前記プラズマ生成容器内で生成されたプラズマからイオンビームを引き出す引出し電極系とを有していて、Y方向の寸法が前記基板のY方向の寸法よりも大きい前記リボン状のイオンビームを発生させるイオン源と、
(b)前記イオンビームを前記基板に入射させる注入位置で、前記基板を前記イオンビームの主面と交差する方向に移動させる基板駆動装置と、
(c)前記各電子ビーム源に、前記電子ビームの発生量を制御する引出し電圧および前記走査用の走査電圧をそれぞれ供給する1以上の電子ビーム用電源と、
(d)前記注入位置またはその近傍において、Y方向における複数のモニタ点において前記イオンビームのY方向のイオンビーム電流密度分布を測定するイオンビームモニタと、
(e)前記イオンビームモニタからの測定データに基づいて前記電子ビーム用電源を制御することによって、前記各電子ビーム源から発生させる電子ビームの走査速度を実質的に一定に保ちつつ、前記イオンビームモニタで測定したイオンビーム電流密度が相対的に大きいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの発生量を相対的に少なくすることと、測定したイオンビーム電流密度が相対的に小さいモニタ点に対応するイオン源内位置での前記電子ビームの発生量を相対的に多くすることの少なくとも一方を行って、前記イオンビームモニタで測定されるY方向のイオンビーム電流密度分布を均一化する機能を有している制御装置とを備えているイオン注入装置。
【請求項5】
(a)前記電子ビーム源および前記電子ビーム用電源の数は共に一つであり、
(b)前記制御装置は、
前記電子ビーム用電源から前記電子ビーム源に供給する前記引出し電圧の元になる引出し信号を前記電子ビーム用電源に供給する機能と、
前記イオンビームモニタで測定したY方向分布のイオンビーム電流密度と所定の設定イオンビーム電流密度との差であるY方向分布の誤差を算出する機能と、
前記算出した誤差が所定の許容誤差より大きいモニタ点およびそのモニタ点での誤差の正負を決定する機能と、
前記決定したモニタ点に対応する走査電圧を決定する機能と、
前記決定した誤差の正負に基づいて、前記測定したイオンビーム電流密度の方が大きいモニタ点に対応する走査電圧時の前記引出し電圧を前記誤差の大きさに比例して減少させ、かつ、前記測定したイオンビーム電流密度の方が小さいモニタ点に対応する走査電圧時の前記引出し電圧を前記誤差の大きさに比例して増大させて、イオンビームが入射する実質的に全てのモニタ点で前記誤差が前記許容誤差以下になるように、前記引出し信号の波形を整形する機能と、
前記整形後の引出し信号のデータを保存する機能とを有しており、
(c)前記電子ビーム用電源は、前記制御装置から供給される引出し信号を増幅して前記引出し電圧を作る増幅器を有している、請求項4記載のイオン注入装置。
【請求項6】
(a)前記電子ビーム源および前記電子ビーム用電源の数は共に複数であり、
(b)前記制御装置は、
前記各電子ビーム用電源から前記各電子ビーム源に供給する前記引出し電圧の元になる引出し信号を前記各電子ビーム用電源に供給する機能と、
前記イオンビームモニタで測定したY方向分布のイオンビーム電流密度と所定の設定イオンビーム電流密度との差であるY方向分布の誤差を算出する機能と、
前記算出した誤差が所定の許容誤差より大きいモニタ点およびそのモニタ点での誤差の正負を決定する機能と、
前記決定したモニタ点に対応する前記電子ビーム源およびその走査電圧を決定する機能と、
前記決定した誤差の正負に基づいて、前記測定したイオンビーム電流密度の方が大きいモニタ点に対応する走査電圧時の前記引出し電圧を前記誤差の大きさに比例して減少させ、かつ、前記測定したイオンビーム電流密度の方が小さいモニタ点に対応する走査電圧時の前記引出し電圧を前記誤差の大きさに比例して増大させて、イオンビームが入射する実質的に全てのモニタ点で前記誤差が前記許容誤差以下になるように、前記引出し信号の波形を整形する機能と、
前記整形後の引出し信号のデータを保存する機能とを有しており、
(c)前記各電子ビーム用電源は、前記制御装置から供給される引出し信号を増幅して前記引出し電圧を作る増幅器を有している、請求項4記載のイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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