説明

イオン液体の製造

イオン液体ならびにこれらを製造する方法および装置である。イオン液体は、低硫黄および低ハロゲン化物のカルボキシル化イオン液体であることができる。イオン液体は、少なくとも1種の中間カルボキシル化イオン液体の形成、およびその後該中間カルボキシル化イオン液体を少なくとも1つのアニオン交換プロセスに供することを経て製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
1.発明の分野
本発明は、概略的には、セルロースエステルおよび/またはイオン液体に関する。本発明の一側面は、セルロースエステルをイオン液体中で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
セルロースは、無水グルコースのβ−1,4−結合ポリマーである。セルロースは、典型的には、水および殆ど全ての一般的な有機溶媒において不溶の高分子量の多分散ポリマーである。木材中またはコットン製品(例えばハウジングまたは布帛工業品)中の非修飾セルロースの使用は周知である。非修飾セルロースはまた、種々の他の用途において、通常、フィルム(例えばセロハン(登録商標))として、繊維(例えばビスコースレーヨン)として、または薬剤用途において使用される粉末(例えば、微結晶セルロース)として利用されている。修飾セルロース、例えばセルロースエステルはまた、幅広い商業用途において利用されている。セルロースエステルは、一般的に、まずセルロースをセルローストリエステルに変換し、次いでセルローストリエステルを酸性水性媒体中で所望の置換度(「DS」)(これは、無水グルコースモノマー当たりのエステル置換基の平均数である)まで加水分解することにより得ることができる。単一種のアシル置換基を含有するセルローストリエステルを、これらの条件下で加水分解することは、最終DSに応じて最大8種の異なるモノマーからなることができるランダムコポリマーを与えることができる。
【0003】
イオン液体(「ILs」)は、実質的にアニオンおよびカチオンのみを含有する液体である。常温イオン液体(「RTILs」)は、標準温度および圧力で液体形状のイオン液体である。ILsに関連するカチオンは、構造的に多様であるが、一般的に、環構造の一部である1つ以上の窒素を含有し、そして4級アンモニウムに変換できる。これらのカチオンの例としては、ピリジニウム,ピリダジニウム,ピリミジニウム,ピラジニウム,イミダゾリウム,ピラゾリウム,オキサゾリウム,トリアゾリウム,チアゾリウム,ピペリジニウム、ピロリジニウム、キノリニウム、およびイソキノリニウムが挙げられる。ILsに関連するアニオンもまた、構造的に多様であり、そしてILsの種々の媒体中での溶解性に顕著な影響を与える可能性がある。例えば、疎水性アニオン(例えばヘキサフルオロホスフェートまたはトリフリミド(triflimide))を含有するILsは、水中で極めて低い溶解性を有する一方、親水性アニオン(例えばクロリドまたはアセテート)を含有するILsは、水中で完全に混和性である。
【0004】
イオン液体の名称は、一般的に略記できる。アルキルカチオンはしばしばアルキル置換基およびカチオンの文献によって命名され、これらは1組の括弧内に与えられ、次いでアニオンについて略記される。表現的には記載しないが、カチオンは正電荷を有し、そしてアニオンは負電荷を有すると理解すべきである。例えば、[BMIm]OAcは、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを示し、[AMIm]Clは、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを示し、そして[EMIm]OFは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートを示す。
【0005】
イオン液体はコスト高である可能性がある;よって、多くのプロセスにおいてのこれらの溶媒としての使用は実現できない場合がある。これにも関わらず、イオン液体を改質および/または再循環させる方法および装置は、従来十分でなかった。更に、イオン液体を製造するための多くのプロセスは、ハロゲン化物および/もしくは硫黄の中間体の使用、または、金属酸化物触媒の使用を含む。このようなプロセスは、高レベルの残留金属、硫黄および/またはハロゲン化物を有するイオン液体を生成する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
本発明の一態様は、カルボキシル化イオン液体を製造する方法に関する。この態様の方法は:アルキルアミンホルメートイオン液体を無水物と、該アルキルアミンホルメートイオン液体を該カルボキシル化イオン液体にアニオン交換を経て変換するのに十分な条件下で接触させること;を含む。該カルボキシル化イオン液体は、硫黄を200ppmw未満の量で、およびハロゲン化物を200ppmw未満の量で含有する。
【0007】
本発明の別の態様は、カルボキシル化イオン液体を製造する方法に関する。この態様の方法は:アルキルアミンホルメートイオン液体を少なくとも1種のカルボキシレートアニオン供与体と接触させることによって該カルボキシル化イオン液体を製造すること;を含む。該カルボキシル化イオン液体は、硫黄を200ppmw未満の量で、ハロゲン化物を200ppmw未満の量で、および遷移金属を200ppmw未満の量で含有する。
【0008】
本発明の更に別の態様は、複数のカチオンおよび複数のアニオンを含むイオン液体に関する。この態様において、該アニオンの少なくとも一部がカルボキシレートアニオンであり、該カルボキシル化イオン液体が硫黄を200ppmw未満の量で、ハロゲン化物を200ppmw未満の量で、および遷移金属を200ppmw未満の量で含有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、セルロースエステルをイオン液体中で製造する方法に含まれる主要なステップを示す単純化した図である。
【図2】図2は、セルロースエステルを製造する方法のより詳細な図であり、方法の全体的な効果および/または効率を向上させるための多数の追加/任意ステップを示す。
【図3】図3は、5質量パーセントセルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図4】図4は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解したセルロースの5モル当量の無水酢酸によるアセチル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図5】図5は、5質量パーセントセルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図6】図6は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解したセルロースの3モル当量の無水酢酸による80℃でのアセチル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図7】図7は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解したセルロースの3モル当量の無水酢酸および0.2モル当量のメタンスルホン酸による80℃でのアセチル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図8】図8は、5質量パーセントセルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図9】図9は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解したセルロースの3モル当量の無水酢酸および0.2モル当量のメタンスルホン酸による80℃でのアセチル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図10】図10は、10質量パーセントセルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図11】図11は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解したセルロースの3モル当量の無水酢酸および0.2モル当量のメタンスルホン酸による80℃でのアセチル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図12】図12は、15質量パーセントセルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図13】図13は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解したセルロースの3モル当量の無水酢酸および0.2モル当量のメタンスルホン酸による100℃でのアセチル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図14】図14は、15質量パーセントセルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図15】図15は、直接アセチル化によって製造されたセルロースアセテートのプロトンNMRスペクトルを示すNMRスペクトルである。
【図16】図16は、赤外スペクトル分光法によって評価される酢酸質量パーセント 対 時間のプロットである。
【図17】図17は、セルロースの溶解前の、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートからの水の除去を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図18】図18は、10質量パーセントセルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート中室温での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図19】図19は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート中に溶解したセルロースの5モル当量の無水酢酸および0.1モル当量の酢酸亜鉛によるアセチル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図20】図20は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートおよび1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートの赤外スペクトルを示すスペクトル分析であり、0.5モル当量の無水酢酸を1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートに添加した後のスペクトル、および別の0.5モル当量の無水酢酸を1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートに添加した後のスペクトルである。
【図21】図21は、0.5モル当量の無水酢酸の1回目および2回目の添加の際の、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートおよび1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートについての相対濃度 対 時間のプロットである。
【図22】図22は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートの赤外スペクトル、および1当量の無水酢酸を1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートに、2モル当量のメタノールの存在下で添加した後のスペクトルを示すスペクトル分析である。
【図23】図23は、2モル当量のメタノールの添加の際、および次いで1当量の無水酢酸の添加の際の、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートおよび1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートについての相対濃度 対 時間のプロットである。
【図24】図24は、セルロースの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート中80℃での溶解を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図25】図25は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート中に溶解したセルロースのエステル化を示す吸収 対 時間のプロットである。
【図26】図26は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート中に溶解したセルロースから得られたセルロースアセテートについての環プロトン共鳴(上のスペクトル)、および1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド中に溶解したセルロースから得られたセルロースアセテートについての環プロトン共鳴(下のスペクトル)を示すスペクトル分析である。
【図27】図27は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート中に溶解したセルロースから得られたセルロースアセテートについての水添加後(上のスペクトル)および水添加前(下のスペクトル)の環プロトン共鳴を示すスペクトル分析である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
図1は、セルロースエステルを製造するための単純化されたシステムを示す。図1のシステムは、概略的に、溶解ゾーン20、エステル化ゾーン40、セルロースエステル回収/処理ゾーン50、およびイオン液体回収/処理ゾーン60を含む。
【0011】
図1に示すように、セルロースおよびイオン液体(「IL」)は、溶解ゾーン20に、ライン62および64経由でそれぞれ供給できる。溶解ゾーン20において、セルロースは溶解してセルロースおよびイオン液体を含む初期セルロース溶液を形成できる。次いで、初期セルロース溶液は、エステル化ゾーン40に移送できる。エステル化ゾーン40において、溶解したセルロースを含む反応媒体は、セルロースを少なくとも部分的にエステル化するのに十分な反応条件に供することができ、これにより、初期セルロースエステルを生成できる。アシル化試薬をエステル化ゾーン4および/または溶解ゾーン20に添加して、溶解したセルロースのエステル化ゾーン40内でのエステル化の促進を助けることができる。
【0012】
図1に示すように、エステル化された媒体は、エステル化ゾーン40から、ライン80経由で取出し、その後、セルロースエステル回収/処理ゾーン50に移送することができ、ここで初期セルロースエステルを回収および処理し、これにより最終セルロースエステルを生成でき、これは回収/処理ゾーン50をライン90経由で出る。再循環流は、セルロースエステル回収/処理ゾーン50からライン86経由で生成される。この再循環流は、元は溶解ゾーン20内に導入されたイオン液体に由来する改変イオン液体を含むことができる。ライン86内の再循環流はまた、種々の他の化合物(上流のゾーン20,40,50内で生じる反応の副生成物または上流のゾーン20,40,50内で採用される添加剤等)を含むことができる。ライン86内の再循環流は、イオン液体回収/処理ゾーン60内に導入でき、これは分離および/または改質プロセスに供することができる。再循環されるイオン液体は、イオン液体回収/処理ゾーン60から生成でき、そして溶解ゾーン20にライン70経由で戻ることができる。図1のセルロースエステル製造システムに含まれる流れ、反応、およびステップの更なる詳細は、この直後に与えられる。
【0013】
溶解ゾーン20にライン62経由で供給されるセルロースは、セルロースエステルの製造において使用するために好適な当該分野で公知の任意のセルロースであることができる。一態様において、本発明において使用するために好適なセルロースは、針葉樹もしくは広葉樹から木材パルプの形状で、または一年草(例えばコットンもしくはコーン)から得ることができる。セルロースは、複数の無水グルコースモノマー単位を含むβ−1,4−結合ポリマーであることができる。本発明において使用するために好適なセルロースは、一般的に、以下の構造:
【0014】
【化1】

【0015】
を含むことができる。
【0016】
加えて、本発明において採用されるセルロースのα−セルロース量は、少なくとも約90質量パーセント、少なくとも約95質量パーセント、または少なくとも98質量パーセントであることができる。
【0017】
溶解ゾーン20にライン62経由で供給されるセルロースの重合度(「DP」)は、少なくとも約10、少なくとも約250、少なくとも約1,000、または少なくとも5,000であることができる。本明細書で用いる用語「重合度」は、セルロースおよび/またはセルロースエステルを意味する場合、セルロースポリマー鎖当たりの無水グルコースモノマー単位の平均数を意味するものとする。更に、セルロースの重量平均分子量は、約1,500〜約850,000の範囲、約40,000〜約200,000の範囲、または55,000〜約160,000の範囲であることができる。加えて、本発明において使用するために好適なセルロースは、シート、ハンマーミルされたシート、繊維、または粉末の形状であることができる。一態様において、セルロースは、平均粒子サイズ約500マイクロメートル(「μm」)未満、約400μm未満、または300μm未満の粉末であることができる。
【0018】
溶解ゾーン20にライン64経由で供給されるイオン液体は、セルロースを少なくとも部分的に溶解させることが可能な任意のイオン液体であることができる。本明細書で用いる用語「イオン液体」は、実質的にイオンのみを含有し、そして温度200℃以下の融点を有する任意の物質を意味するものとする。一態様において、本発明において使用するために好適なイオン液体はセルロース溶解性イオン液体であることができる。本明細書で用いる用語「セルロース溶解性イオン液体」は、少なくとも0.1質量パーセントセルロース溶液を形成するのに十分な量でセルロースを溶解させることが可能な任意のイオン液体を意味するものとする。一態様において、溶解ゾーン20にライン64経由で供給されるイオン液体は、イオン液体の融点よりも少なくとも10℃高い温度を有することができる。別の態様において、イオン液体は、約0〜約100℃の範囲、約20〜約80℃の範囲、または25〜50℃の範囲の温度を有することができる。
【0019】
一態様において、溶解ゾーン20にライン64経由で供給されるイオン液体は、水、窒素含有塩基、アルコール、またはカルボン酸を含むことができる。ライン64内のイオン液体は、約15質量パーセント未満の水、窒素含有塩基、アルコール、およびカルボン酸の各々;約5質量パーセント未満の水、窒素含有塩基、アルコール、およびカルボン酸の各々;または2質量パーセント未満の水、窒素含有塩基、アルコール、およびカルボン酸の各々を含むことができる。
【0020】
上記のように、イオン液体はイオンを含む。これらのイオンとしては、カチオン(すなわち正に荷電したイオン)およびアニオン(すなわち負に荷電したイオン)の両者が挙げられる。一態様において、本発明において使用するために好適なイオン液体のカチオンとしては、これらに限定するものではないが、イミダゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、1,2,4−トリアゾリウム、1,2,3−トリアゾリウムおよび/またはチアゾリウムのカチオンを挙げることができ、これらは以下の構造:
【0021】
【化2】

【0022】
に対応する。
【0023】
上記構造において、R1およびR2は、独立に、C1〜C8アルキル基、C2〜C8アルケニル基、またはC1〜C8アルコキシアルキル基であることができる。R3、R4およびR5は、独立に、ヒドリド、C1〜C8アルキル基、C2〜C8アルケニル基、C1〜C8アルコキシアルキル基、またはC1〜C8アルコキシ基であることができる。一態様において、本発明において使用されるイオン液体のカチオンは、アルキル置換されたイミダゾリウムカチオンを含むことができ、ここでR1はC1〜C4アルキル基であり、そしてR2は異なるC1〜C4アルキル基である。
【0024】
本発明の一態様において、セルロース溶解性イオン液体は、カルボキシル化イオン液体であることができる。本明細書で用いる用語「カルボキシル化イオン液体」は、1つ以上のカルボキシレートアニオンを含む任意のイオン液体を意味するものとする。本発明のカルボキシル化イオン液体において使用するために好適なカルボキシレートアニオンとしては、これらに限定するものではないが、C1〜C20の直鎖または分岐鎖のカルボキシレートアニオンまたは置換カルボキシレートアニオンが挙げられる。カルボキシル化イオン液体において使用するための好適なカルボキシレートアニオンの例としては、これらに限定するものではないが、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、バレレート、ヘキサノエート、ラクテート、オキサレート、またはクロロ−、ブロモ−、フルオロ−置換されたアセテート、プロピオネートもしくはブチレート等が挙げられる。一態様において、カルボキシル化イオン液体のアニオンは、C2〜C6直鎖カルボキシレートであることができる。更に、アニオンは、アセテート、プロピオネート、ブチレート、またはアセテート、プロピオネートおよび/もしくはブチレートの混合物であることができる。
【0025】
本発明において使用するために好適なカルボキシル化イオン液体の例としては、これらに限定するものではないが、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブチレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブチレートまたはこれらの混合物が挙げられる。
【0026】
本発明の一態様において、カルボキシル化イオン液体は、硫黄を、カルボキシル化イオン液体の総イオン量基準で100万分の200質量部(「ppmw」)未満、100ppmw未満、50ppmw未満、または10ppmw未満の量で含有できる。加えて、カルボキシル化イオン液体は、総ハロゲン化物量を、カルボキシル化イオン液体の総イオン量基準で200ppmw未満、100ppmw未満、50ppmw未満、または10ppmw未満で含有できる。更に、カルボキシル化イオン液体は、総金属量を、カルボキシル化イオン液体の総イオン量基準で、200ppmw未満、100ppmw未満、50ppmw未満、または10ppmw未満で含有できる。一態様において、カルボキシル化イオン液体は、遷移金属を、200ppmw未満、100ppmw未満、50ppmw未満、または10ppmw未満の量で含有できる。カルボキシル化イオン液体の硫黄、ハロゲン化物、および金属の量は、蛍光X線(「XRF」)スペクトル分光法で評価できる。
【0027】
本発明のカルボキシル化イオン液体は、少なくとも1つのカルボキシレートアニオンを有するイオン液体を製造するための当該分野で公知の任意の方法により形成できる。一態様において、本発明のカルボキシル化イオン液体は、まず中間イオン液体を形成することにより形成できる。中間イオン液体はアニオン交換反応にあずかることができる任意の公知のイオン液体であることができる。
【0028】
一態様において、中間イオン液体は、複数のカチオン,例えばイミダゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、1,2,4−トリアゾリウム、1,2,3−トリアゾリウムおよび/またはチアゾリウムのカチオン等を含むことができ、これらは以下の構造:
【0029】
【化3】

【0030】
に対応する。
【0031】
上記構造において、R1およびR2は、独立に、C1〜C8アルキル基、C2〜C8アルケニル基、またはC1〜C8アルコキシアルキル基であることができる。R3、R4およびR5は、独立に、ヒドリド、C1〜C8アルキル基、C2〜C8アルケニル基、C1〜C8アルコキシアルキル基、またはC1〜C8アルコキシ基であることができる。一態様において、本発明において使用される中間イオン液体のカチオンは、アルキル置換されたイミダゾリウムカチオンを含むことができ、ここでR1はC1〜C4アルキル基であり、そしてR2は異なるC1〜C4アルキル基である。一態様において、中間イオン液体のカチオンは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムまたは1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムを含むことができる。
【0032】
加えて、中間イオン液体は、複数のアニオンを含むことができる。一態様において、中間イオン液体は、複数のカルボキシレートアニオン,例えば、ホルメート、アセテートおよび/またはプロピオネートのアニオン等を含むことができる。
【0033】
一態様において、中間イオン液体は、アルキルアミンホルメートを含むことができる。アルキルアミンホルメートのアミンカチオンは、上記の置換または非置換のイミダゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、1,2,4−トリアゾリウム、1,2,3−トリアゾリウムおよび/またはチアゾリウムのカチオンのうち任意のものを含むことができる。一態様において、アルキルアミンホルメートのアミンは、アルキル置換イミダゾリウム、アルキル置換ピラゾリウム、アルキル置換オキサゾリウム、アルキル置換トリアゾリウム、アルキル置換チアゾリウムおよびこれらの混合物であることができる。一態様において、アルキルアミンホルメートのアミンは、アルキル置換イミダゾリウムであることができる。本発明において使用するために好適なアルキルアミンホルメートの例としては、これらに限定するものではないが、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−ペンチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、および/または1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートが挙げられる。
【0034】
本発明において有用な中間イオン液体は、少なくとも1種のアミンを少なくとも1種のアルキルホルメートと接触させることによって形成できる。本発明において使用するために好適なアミンとしては、これらに限定するものではないが、置換または非置換のイミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、トリアゾール、および/またはチアゾールが挙げられる。一態様において、アルキルアミンホルメートは、少なくとも1種のアルキル置換イミダゾールを少なくとも1種のアルキルホルメートに接触させることにより形成できる。中間イオン液体の形成において使用するために好適なアルキル置換イミダゾールの例としては、これらに限定するものではないが、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1−ヘキシルイミダゾールおよび/または1−オクチルイミダゾールが挙げられる。中間イオン液体の形成において使用するために好適なアルキルホルメートの例としては、これらに限定するものではないが、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、イソプロピルホルメート、ブチルホルメート、イソブチルホルメート、tert−ブチルホルメート、ヘキシルホルメート、オクチルホルメート等が挙げられる。一態様において、中間イオン液体の形成において使用されるアルキルホルメートはメチルホルメートを含むことができる。
【0035】
中間イオン液体が形成された時点で、中間イオン液体は、1種以上のカルボキシレートアニオン供与体と、中間イオン液体を上記のカルボキシル化イオン液体の少なくとも1種に少なくとも部分的に変換させるのに十分な接触時間、圧力、および温度で接触させることができる。このような相互変換は、カルボキシレートアニオン供与体と中間イオン液体との間のアニオン交換を経て実現できる。一態様において、アルキルアミンホルメートのホルメートの少なくとも一部を、アニオン交換を経て、1種以上のカルボキシレートアニオン供与体に由来するカルボキシレートアニオンと置換できる。
【0036】
本発明において有用なカルボキシレートアニオン供与体としては、少なくとも1つのカルボキシレートアニオンを供与することが可能な任意の物質を挙げることができる。本発明において使用するために好適なカルボキシレートアニオン供与体の例としては、これらに限定するものではないが、カルボン酸、無水物、および/またはアルキルカルボキシレートが挙げられる。一態様において、カルボキシレートアニオン供与体は、1種以上のC2〜C20の直鎖または分岐鎖のアルキルカルボン酸またはアリールカルボン酸、無水物、またはメチルエステルを含むことができる。加えて、カルボキシレートアニオン供与体は、1種以上のC2〜C12の直鎖アルキルカルボン酸、無水物、またはメチルエステルを含むことができる。更に、カルボキシレートアニオン供与体は、1種以上のC2〜C4の直鎖アルキルカルボン酸、無水物、またはメチルエステルを含むことができる。一態様において、カルボキシレートアニオン供与体は、少なくとも1種の無水物を含むことができ、これは、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸無水物、無水ノナン酸、無水ラウリン酸、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸、無水安息香酸、置換無水安息香酸、無水フタル酸、無水イソフタル酸およびこれらの混合物を含むことができる。
【0037】
本発明において有用なカルボキシアニオン供与体の量は、中間イオン液体の少なくとも一部をカルボキシル化イオン液体に変換するのに好適な任意の量であることができる。一態様において、カルボキシレートアニオン供与体は、中間イオン液体と、モル比約1:1〜約20:1の範囲のカルボキシレートアニオン供与体−対−中間イオン液体アニオン量、または、1:1〜6:1の範囲のカルボキシレートアニオン供与体−対−中間イオン液体アニオン量で存在できる。一態様において、アルキルアミンホルメートが中間イオン液体として存在する場合、カルボキシレートアニオン供与体は、アルキルアミンホルメート当たり1〜20モル当量の範囲、またはアルキルアミンホルメート当たり1〜6モル当量の範囲の量で存在できる。
【0038】
中間イオン液体とカルボキシレートアニオン供与体との間のアニオン交換は、少なくとも1種のアルコールの存在下で実現できる。本発明において有用なアルコールとしては、これらに限定するものではないが、アルキルまたはアリールアルコール,例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、フェノール等が挙げられる。一態様において、アルコールはメタノールであることができる。中間イオン液体の相互変換の間に接触混合物中に存在するアルコールの量は、イオン液体の約0.01〜約20モル当量の範囲、またはイオン液体の1〜10モル当量の範囲であることができる。
【0039】
一態様において、水は、中間イオン液体とカルボキシレートアニオン供与体との間のアニオン交換の間に接触混合物中に存在できる。中間イオン液体の相互変換の間に接触混合物中に存在する水の量は、イオン液体の約0.01〜約20モル当量の範囲、またはイオン液体の1〜10モル当量の範囲であることができる。
【0040】
上記のように、中間イオン液体のカルボキシル化イオン液体への相互変換は、中間イオン液体をカルボキシル化イオン液体に少なくとも部分的に変換させるのに十分な接触時間、圧力、および温度で行なうことができる。一態様において、相互変換は、約1分〜約24時間の範囲、または30分〜18時間の範囲の時間行なうことができる。加えて、相互変換は、21,000kPa以下、または10,000kPa以下の圧力で行なうことができる。一態様において、相互変換は、約100〜約21,000kPaの範囲、または100〜10,000kPaの範囲の圧力で行なうことができる。更に、相互変換は、約0〜約200℃の範囲または25〜170℃の範囲の温度で行なうことができる。
【0041】
一態様において、得られるカルボキシル化イオン液体は、置換または非置換のC1〜C20の直鎖または分岐鎖のカルボキシレートアニオンを含むカルボキシレートアニオンを含むことができる。一態様において、カルボキシレートアニオンは、C2〜C6直鎖カルボキシレートアニオンを含むことができる。加えて、カルボキシル化イオン液体は、カルボキシレートアニオン,例えば、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、バレレート、ヘキサノエート、ラクテートおよび/またはオキサレートを含むことができる。一態様において、カルボキシル化イオン液体は、少なくとも50パーセントのカルボキシレートアニオン、少なくとも70パーセントのカルボキシレートアニオン、または少なくとも90パーセントのカルボキシレートアニオンを含むことができる。別の態様において、カルボキシル化イオン液体は、少なくとも50パーセントのアセテートアニオン、少なくとも70パーセントのアセテートアニオン、または少なくとも90パーセントのアセテートアニオンを含むことができる。
【0042】
本発明の代替の態様において、上記のセルロース溶解性イオン液体は、ハロゲン化物イオン液体であることができる。本明細書で用いる用語「ハロゲン化物イオン液体」は、少なくとも1つのハロゲン化物アニオンを含有する任意のイオン液体を意味するものとする。一態様において、ハロゲン化物イオン液体のハロゲン化物アニオンは、フッ化物、塩化物、臭化物、および/またはヨウ化物であることができる。別の態様において、ハロゲン化物アニオンは塩化物および/または臭化物であることができる。加えて、上記のように、セルロース溶解性イオン液体のカチオンは、これらに限定するものではないが、イミダゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、1,2,4−トリアゾリウム、1,2,3−トリアゾリウムおよび/またはチアゾリウムのカチオンを含むことができる。ハロゲン化物イオン液体を製造するのに好適な当該分野で公知の任意の方法を本発明において採用できる。
【0043】
本発明において使用するために好適なハロゲン化物イオン液体の例としては、これらに限定するものではないが、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロリドまたはこれらの混合物が挙げられる。
【0044】
再び図1を参照し、溶解ゾーン20に供給されるセルロースの量の質量パーセントは、溶解ゾーン20に供給されるイオン液体の累積量(再循環されたイオン液体を含む)に対して、セルロースとイオン液体との組合せ質量基準で、約1〜約40質量パーセントの範囲、約5〜約25質量パーセントの範囲、または10〜20質量パーセントの範囲であることができる。一態様において、溶解ゾーン20内で形成される、得られる媒体は、他の成分,例えば水、アルコール、アシル化試薬、および/またはカルボン酸等を含むことができる。一態様において、溶解ゾーン20内で形成される媒体は、水を、媒体の全質量基準で約0.001〜約200質量パーセントの範囲、約1〜約100質量パーセントの範囲、または5〜15質量パーセントの範囲の量で含むことができる。加えて、溶解ゾーン20内で形成される媒体は、組合された濃度でアルコールを、媒体の全質量基準で約0.001〜約200質量パーセントの範囲、約1〜約100質量パーセントの範囲、または5〜15質量パーセントの範囲の量で含むことができる。
【0045】
溶解ゾーン20内で形成される媒体は、1種以上のカルボン酸を任意に含むことができる。溶解ゾーン20内で形成される媒体は、総濃度でカルボン酸を、溶解ゾーン20内で形成される媒体中のイオン液体の総濃度基準で約0.01〜約25質量パーセントの範囲、約0.05〜約15質量パーセントの範囲、または0.1〜5質量パーセントの範囲で含むことができる。本態様において有用な好適なカルボン酸の例としては、これらに限定するものではないが、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、2エチルへキサン酸、ノナン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、置換安息香酸、フタル酸、およびイソフタル酸が挙げられる。一態様において、溶解ゾーン20内で形成される媒体中のカルボン酸は、酢酸、プロピオン酸、および/または酪酸を含むことができる。
【0046】
図2を参照して以下でより詳細に説明するように、溶解ゾーン20内で形成される媒体中に存在するカルボン酸の少なくとも一部が、ライン70経由で導入される、再循環されたカルボキシル化イオン液体に由来することができる。理論に拘束されることを望まないが、発明者らは、予期しないことに、溶解ゾーン20内で形成される媒体中でのカルボン酸の使用が、セルロース/イオン液体溶液の粘度を低減でき、これにより、より容易に溶液を加工することが可能になることを見出した。加えて、溶解ゾーン20内の媒体中のカルボン酸の存在が、採用されるイオン液体の融点を低減し、これにより、イオン液体を予測よりも低温で加工することが可能になると考えられる。
【0047】
溶解ゾーン20内で形成される媒体は、以下でより詳細に議論するように、任意にアシル化試薬を含むことができる。任意のアシル化試薬は、溶解ゾーン20内にライン78経由で導入できる。一態様において、溶解ゾーン20内で形成される媒体は、アシル化試薬を、溶解ゾーン20内の媒体中のセルロースの総量基準で約0.01モル当量〜約20モル当量の範囲、約0.5モル当量〜約10モル当量の範囲、または1.8モル当量〜約4モル当量の範囲の量で含むことができる。
【0048】
溶解ゾーン20内で形成される媒体はまた、図2を参照して以下でより詳細に議論するように、再循環されたイオン液体を含むことができる。再循環されたイオン液体は、溶解ゾーン20内にライン70経由で導入できる。溶解ゾーン20内で形成される媒体は、再循環されたイオン液体を、溶解ゾーン20内のイオン液体の総量基準で約0.01〜約99.99質量パーセントの範囲、約10〜約99質量パーセントの範囲、または90〜98質量パーセントの範囲の量で含むことができる。
【0049】
一態様において、媒体は任意に非混和性または実質的に非混和性の共溶媒を含むことができる。このような共溶媒は、セルロース−イオン液体混合物と非混和性またはやや溶けにくい1種以上の共溶媒を含むことができる。驚くべきことに、非混和性またはやや溶けにくい共溶媒の添加は、セルロース−イオン液体混合物の接触時にセルロースの沈殿の原因とならない。しかし、アシル化試薬との接触時に、以下でより詳細に議論するように、セルロースがエステル化されることができ、これが、元は非混和性またはやや溶けにくかった共溶媒に関して、その時点でのセルロースエステル−イオン液体溶液の溶解性を変えることができる。従って、エステル化に続き、接触混合物は、セルロースエステル−イオン液体の共溶媒中での単一相または高度に分散した混合物となることができる。得られる単一相または分散相は、初期セルロース−イオン液体溶液よりも大幅に低い溶液粘度を有する。
【0050】
この発見は、従来の高度に粘稠なセルロース溶液が今やセルロースエステルの製造のために使用できることにおいて顕著である一方で、溶液を混合および加工する可能性をなお残している。発見はまた、高度に粘稠なセルロース−イオン液体溶液をより低い接触温度で加工するための実行可能な方法を与える。
【0051】
本発明において使用するために好適な非混和性またはやや溶けにくい共溶媒は、アルキルまたはアリールエステル、ケトン、ハロゲン化アルキル、疎水性イオン液体等を含むことができる。非混和性またはやや溶けにくい共溶媒の具体的な例としては、これらに限定するものではないが、メチルアセテート、エチルアセテート、イソプロピルアセテート、メチルプロピオネート、メチルブチレート、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、塩化メチレン、アルキルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、アルキルイミダゾリウムトリフリミド等が挙げられる。一態様において、非混和性またはやや溶けにくい共溶媒は、メチルアセテート、メチルプロピオネート、メチルブチレート、メチルエチルケトン、および/または塩化メチレンを含むことができる。非混和性またはやや解けにくい共溶媒の、セルロース−イオン液体混合物に対する質量比は、約1:20〜約20:1または1:5〜5:1の範囲であることができる。
【0052】
一態様において、溶解ゾーン20にライン62経由で入るセルロースは、初期にイオン液体中に分散させることができる。セルロースのイオン液体中での分散は、当該分野で公知の任意の混合手段によって実現できる。一態様において、セルロースの分散は、機械的混合,例えば1つ以上の機械的ホモジナイザーによる混合によって実現できる。
【0053】
セルロースをイオン液体中に分散させた後、セルロースの溶解ゾーン20内での溶解、更に混合物中の任意の揮発性成分の少なくとも一部の除去を、当該分野で公知の任意の方法を用いて実現できる。例えば、セルロースの溶解は、溶解ゾーン20内で初期に形成されるセルロース/イオン液体分散体の圧力を低下させることおよび/または温度を上げることにより実現できる。従って、セルロースがイオン液体中に分散した後、溶解ゾーン20内で圧力を低下させることができる。一態様において、溶解ゾーン20内の圧力は、約100ミリメートル水銀(「mmHg」)未満、または50mmHg未満に低下させることができる。従って、セルロース/イオン液体分散体は、温度約60〜約100℃の範囲、または70〜約85℃の範囲まで加熱できる。溶解後、得られる溶液を上記の温度および圧力で、約0〜約100時間、または約1〜約4時間の範囲の時間維持できる。溶解ゾーン20内で形成されるセルロース溶液は、セルロースを、溶液の全質量基準で約1〜約40質量パーセントの範囲、または5〜20質量パーセントの範囲の量で含むことができる。別の態様において、溶解ゾーン20内で形成されるセルロース溶液は、溶解したセルロースを、溶液の全質量基準で少なくとも10質量パーセントの量で含むことができる。
【0054】
溶解後、得られるセルロース溶液の少なくとも一部を溶液ゾーン20からライン66経由で除去し、そしてエステル化ゾーン40に送ることができる。一態様において、少なくとも1種のアシル化試薬をエステル化ゾーン40内に導入して、セルロースの少なくとも一部をエステル化できる。上記のように、別の態様において、少なくとも1種のアシル化試薬を溶解ゾーン20内に導入できる。加えて、アシル化試薬は、セルロースがイオン液体中で溶解した後に添加できる。任意に、セルロースをイオン液体中で溶解させる前に、アシル化試薬の少なくとも一部をイオン液体に添加できる。アシル化試薬をどこで添加するかに関わらず、エステル化ゾーン40内のセルロースの少なくとも一部をエステル化し、続いてアシル化試薬と接触させることができる。
【0055】
本明細書で用いる用語「アシル化試薬」は、少なくとも1つのアシル基をセルロースに供与することが可能な任意の化学化合物を意味するものとする。本明細書で用いる用語「アシル基」は、ヒドロキシル基の除去による有機酸に由来する任意の有機基を意味するものとする。本発明において有用なアシル化試薬は、1種以上のC1〜C20の直鎖または分岐鎖のアルキルまたはアリール無水カルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、ジケテン、またはアセト酢酸エステルであることができる。本発明におけるアシル化試薬として使用するために好適な無水カルボン酸の例としては、これらに限定するものではないが、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸無水物、無水ノナン酸、無水ラウリン酸、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸、無水安息香酸、置換無水安息香酸、無水フタル酸、および無水イソフタル酸が挙げられる。本発明におけるアシル化試薬として使用するために好適なカルボン酸ハロゲン化物の例としては、これらに限定するものではないが、アセチルクロリド、プロピオニルクロリド、ブチリルクロリド、ヘキサノイルクロリド、2−エチルヘキサノイルクロリド、ラウロイルクロリド、パルミトイルクロリド、およびステアロイルクロリドが挙げられる。本発明におけるアシル化試薬として使用するために好適なアセト酢酸エステルの例としては、これらに限定するものではないが、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、プロピルアセトアセテート、ブチルアセトアセテート、およびtert−ブチルアセトアセテートが挙げられる。一態様において、アシル化試薬は、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、2−エチルヘキサン酸無水物および無水ノナン酸からなる群から選択されるC2〜C9の直鎖または分岐鎖のアルキルカルボン酸無水物であることができる。
【0056】
エステル化ゾーン40内で形成される反応媒体は、セルロースを、反応媒体中のイオン液体の質量基準で約1〜約40質量パーセントの範囲、約5〜約25質量パーセントの範囲、または10〜20質量パーセントの範囲の量で含むことができる。加えて、エステル化ゾーン40内で形成される反応媒体は、イオン液体を、反応媒体の総質量基準で約20〜約98質量パーセントの範囲、約30〜約95質量パーセントの範囲、または50〜90質量パーセントの範囲の量で含むことができる。更に、エステル化ゾーン40内で形成される反応媒体は、アシル化試薬を、反応媒体の総質量基準で約1〜約50質量パーセントの範囲、約5〜約30質量パーセントの範囲、または10〜20質量パーセントの範囲の量で含むことができる。更に、エステル化ゾーン40内で形成される反応媒体は、窒素含有塩基およびカルボン酸の累積濃度を15質量パーセント未満、5質量パーセント未満、または2質量パーセント未満の量で有することができる。
【0057】
一態様において、エステル化ゾーン40内のセルロース-対-アシル化試薬の質量比は、約90:10〜約10:90の範囲、約60:40〜約25:75の範囲、または45:55〜35:65の範囲であることができる。一態様において、アシル化試薬は、エステル化ゾーン40内に、無水グルコース単位当たり5モル当量未満、4モル当量未満、3モル当量未満、または2.7モル当量未満の量で存在できる。
【0058】
本発明の一態様において、ハロゲン化物イオン液体をセルロース溶解性イオン液体として採用する場合、限定された過剰のアシル化試薬をセルロースのエステル化において採用して特定DSのセルロースエステルを実現できる。よって、一態様において、20パーセントモル過剰未満、10パーセントモル過剰未満、5パーセントモル過剰未満、または1パーセントモル過剰未満のアシル化試薬を、エステル化の間に採用できる。
【0059】
任意に、1種以上の触媒をエステル化ゾーン40内に導入して、セルロースのエステル化を助けることができる。本発明において採用される触媒は、エステル化ゾーン40内のエステル化の速度を増大させる任意の触媒であることができる。本発明において使用するために好適な触媒の例としては、これらに限定するものではないが、プロトン酸の型の硫酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、官能性イオン液体、および弱ルイス酸の型のMXn(式中、Mは、B,Al,Fe,Ga,Sb,Sn,As,Zn,MgまたはHgによって例示される遷移金属であり、そしてXは、ハロゲン,カルボキシレート,スルホネート,アルコキシド,アルキルまたはアリールである)が挙げられる。一態様において、触媒はプロトン酸である。プロトン酸触媒のpKaは、約−5〜約10の範囲、または−2.5〜2.0の範囲であることができる。好適なプロトン酸触媒の例としては、メタンスルホン酸(「MSA」)、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。一態様において、1種以上の触媒は、ルイス酸であることができる。触媒として使用するために好適なルイス酸の例としては、ZnCl2、Zn(OAc)2等が挙げられる。触媒が採用される場合、触媒をセルロース溶液にアシル化試薬の添加前に添加できる。別の態様において、触媒をセルロース溶液にアシル化試薬との混合物として添加できる。
【0060】
加えて、セルロースのエステル化の間に官能性イオン液体を触媒として採用できる。官能性イオン液体は、特定の官能基を含有するイオン液体,例えば、ハイドロゲンスルホネート、アルキルまたはアリールスルホネート、およびカルボキシレートであり、これはアシル化試薬によるセルロースのエステル化を効果的に触媒する。官能性イオン液体の例としては、1−アルキル−3−メチルイミダゾリウムハイドロゲンスルフェート、メチルスルホネート、トシレートおよびトリフルオロアセテートが挙げられ、ここでアルキルは、C1〜C10直鎖アルキル基であることができる。加えて、本発明において使用するための好適な官能性イオン液体は、官能基がカチオンに共有結合しているものである。よって、官能性イオン液体は、官能基を含有するイオン液体であることができ、そしてセルロースのアシル化試薬によるエステル化を触媒することが可能である。
【0061】
本発明において使用するために好適な共有結合した官能性イオン液体の例としては、これらに限定するものではないが、以下の構造:
【0062】
【化4】

【0063】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5基のうち少なくとも1つは(CHX)nY基で置換され、ここでXは水素またはハロゲン化物であり、nは1〜10の範囲の整数であり、そしてYはスルホンまたはカルボキシレートであり、そしてR1、R2、R3、R4、R5基の残りは、セルロース溶解性イオン液体として使用するために好適なカチオンに関して前記したものである)が挙げられる。本発明において使用される官能性イオン液体において使用するために好適なカチオンの例としては、これらに限定するものではないが、1−アルキル−3−(1−カルボキシ−2,2−ジフルオロエチル)イミダゾリウム、1−アルキル−3−(1−カルボキシ−2,2−ジフルオロプロピル)イミダゾリウム、1−アルキル−3−(1−カルボキシ−2,2−ジフルオロ−ブチル)イミダゾリウム、1−アルキル−3−(1−カルボキシ−2,2−ジフルオロヘキシル)イミダゾリウム、1−アルキル−3−(1−スルホニルエチル)イミダゾリウム、1−アルキル−3−(1−スルホニルプロピル)イミダゾリウム、1−アルキル−3−(1−スルホニルブチル)イミダゾリウム、および1−アルキル−3−(1−スルホニルヘキシル)イミダゾリウムが挙げられ、ここでアルキルはC1〜C10直鎖アルキル基であることができる。
【0064】
セルロースのエステル化を触媒するために用いる触媒の量は、採用する触媒の種類、採用するアシル化試薬の種類、イオン液体の種類、接触温度、および接触時間に応じて変えることができる。よって、採用される広い濃度の触媒が本発明によって意図される。一態様において、エステル化ゾーン40内で採用される触媒の量は、無水グルコース単位(「AGU」)当たり約0.01〜約30molパーセント触媒の範囲、AGU当たり約0.05〜約10molパーセント触媒の範囲、またはAGU当たり0.1〜5molパーセント触媒の範囲であることができる。一態様において、採用される触媒の量は、AGU当たり30molパーセント触媒未満、AGU当たり10molパーセント触媒未満、AGU当たり5molパーセント触媒未満、またはAGU当たり1molパーセント触媒未満であることができる。別の態様において、触媒が2元成分として採用される場合、採用される2元成分の量は、AGU当たり約0.01〜約100molパーセントの範囲、AGU当たり約0.05〜約20molパーセントの範囲、またはAGU当たり0.1〜5molパーセントの範囲であることができる。
【0065】
本発明者らは、セルロースのエステル化の間に触媒を2元成分として採用することに関連すると考えられる多くの驚くべきそして予期できない利点を発見した。例えば、本発明者らは、2元成分を含むことが、エステル化の速度を促進することを発見した。極めて驚くべきことに、2元成分はまた、溶解を改善して色を生成し、エステル化混合物のゲル化を防止し、採用するアシル化触媒の量との関係で増大したDS値を与える役割を有し、および/または、セルロースエステル生成物の分子量の低減を助けることができる。理論に拘束されることを望まないが、2元成分の使用は、溶解したセルロースエステルを含有するイオン液体のネットワーク構造の変化に作用すると考えられる。ネットワーク構造のこの変化は、2元成分を使用することの、観察される驚くべきそして予期できない利点を招来できる。
【0066】
上記のように、セルロースの少なくとも一部は、エステル化ゾーン40内でエステル化反応にあずかることができる。エステル化ゾーン40内で行なうエステル化反応は、セルロース上に含有されるヒドロキシル基の少なくとも一部のエステル基への変換を操作でき、これによりセルロースエステルを形成できる。本明細書で用いる用語「セルロースエステル」は、少なくとも1つのエステル置換基を有するセルロースポリマーを意味するものとする。一態様において、得られるセルロースエステル上のエステル基の少なくとも一部は、上記のアシル化試薬に由来することができる。よって、製造されるセルロースエステルは以下の構造:
【0067】
【化5】

【0068】
(式中、R2、R3およびR6は、独立に水素(R2、R3およびR6の全てが同時に水素ではないことを条件とする)、または、エステル結合を介してセルロースに結合するC1〜C20の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアリール基であることができる)を含むことができる。
【0069】
一態様において、採用されるイオン液体がカルボキシル化イオン液体である場合、得られるセルロースエステル上のエステル基のうち1つ以上は、イオン液体(この中でセルロースが溶解している)に由来することができる。カルボキシル化イオン液体に由来する、得られるセルロースエステル上のエステル基の量は、少なくとも10パーセント、少なくとも25パーセント、少なくとも50パーセント、または少なくとも75パーセントであることができる。
【0070】
加えて、カルボキシル化イオン液体に由来するセルロースエステル上のエステル基は、アシル化試薬に由来するセルロースエステル上のエステル基と異なるエステル基であることができる。理論に拘束されることを望まないが、アシル化試薬がカルボキシル化イオン液体中に導入される場合、アシル化試薬に由来するカルボキシレートイオンがカルボキシル化イオン液体中のカルボキシレートアニオンの少なくとも一部を置換するようにアニオン交換が起きることができ、これにより置換イオン液体を形成できると考えられる。アシル化試薬に由来するカルボキシレートイオンがイオン液体のカルボキシレートアニオンと異種のものである場合には、置換イオン液体は、少なくとも2種の異なる種類のカルボキシレートアニオンを含むことができる。よって、カルボキシル化イオン液体からのカルボキシレートアニオンが、アシル化試薬で見出されるのとは異なるアシル基を含む限り、少なくとも2種の異なるアシル基はセルロースをエステル化することが可能である。例示として、セルロースが1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(「[BMIm]OAc」または「[BMIm]アセテート」)中に溶解し、そして無水プロピオン酸(「Pr2O」)アシル化試薬がカルボキシル化イオン液体に添加された場合、カルボキシル化イオン液体は、[BMIm]アセテートと[BMIm]プロピオネートとの混合物を含む置換イオン液体になることができる。よって、このプロセスを経るセルロースエステルの形成プロセスは、以下:
【0071】
【化6】

【0072】
のように示すことができる。
【0073】
示すように、[BMIm]アセテート中に溶解しているセルロースの溶液を無水プロピオン酸と接触させることは、アセテートエステル置換基とプロピオネートエステル置換基との両者を含むセルロースエステルの形成をもたらすことができる。よって、セルロースエステル上のエステル基の少なくとも一部はイオン液体に由来することができ、そしてエステル基の少なくとも一部はアシル化試薬に由来することができる。加えて、イオン液体によって供与されるエステル基の少なくとも1つはアシル基であることができる。一態様において、イオン液体によって供与されるエステル基の全てがアシル基であることができる。
【0074】
従って、一態様において、本発明の方法によって製造されるセルロースエステルは混合セルロースエステルであることができる。本明細書で用いる用語「混合セルロースエステル」は、単一のセルロースエステルポリマー鎖上に少なくとも2つの異なるエステル置換基を有するセルロースエステルを意味するものとする。本発明の混合セルロースエステルは、複数の第1の側鎖アシル基と複数の第2のアシル基とを含むことができ、ここで第1の側鎖アシル基はイオン液体に由来し、かつ第2の側鎖アシル基はアシル化試薬に由来する。一態様において、混合セルロースエステルは、少なくとも2つの異なるアシル側基のモル比、約1:10〜約10:1の範囲、約2:8〜約8:2の範囲、または3:7から7:3の範囲を含むことができる。加えて、第1および第2の側鎖アシル基は、アセチル基、プロピオニル基および/またはブチリル基を含むことができる。
【0075】
一態様において、第1の側鎖アシル基の少なくとも1つがイオン液体によって供与されることができ、または第2の側鎖アシル基の少なくとも1つがイオン液体によって供与されることができる。エステル化に関して本明細書で用いる用語「供与される(donated)」は、アシル基の直接の移転を意味するものとする。比較して、エステル化に関する用語「由来する(originated)」は、アシル基の直接の移転または直接でない移転のいずれも示すことができる。本発明の一態様において、上記の第1の側鎖アシル基の少なくとも50パーセントがイオン液体によって供与されることができ、または第2の側鎖アシル基の少なくとも50%がイオン液体によって供与されることができる。更に、得られるセルロースエステル上の全側鎖アシル基のうち少なくとも10パーセント、少なくとも25パーセント、少なくとも50パーセント、または少なくとも75パーセントが、イオン液体によるアシル基の供与によりもたらされることができる。
【0076】
一態様において、上記の混合セルロースエステルは、第1の側鎖アシル基の第1の部分を初期にアシル化試薬からカルボキシル化イオン液体に供与でき、次いで、同じアシル基をカルボキシル化イオン液体からセルロースに供与できる(すなわち、直接でなくアシル化試薬からセルロースにイオン液体経由で移転される)プロセスによって形成できる。加えて、第1の側鎖アシル基の第2の部分を、アシル化試薬からセルロースに直接供与することができる。
【0077】
図1を更に参照し、上記のエステル化プロセスの間のエステル化ゾーン40内の温度は、約0〜約120℃の範囲、約20〜約80℃の範囲、または25〜50℃の範囲であることができる。加えて、セルロースは、エステル化ゾーン40内での滞留時間、約1分〜約48時間の範囲、約30分〜約24時間の範囲、または1〜5時間の範囲を有することができる。
【0078】
上記のエステル化プロセスに続き、エステル化媒体をエステル化ゾーン40からライン80経由で取出すことができる。エステル化ゾーン40から取出されるエステル化媒体は、初期セルロースエステルを含むことができる。ライン80内の初期セルロースエステルは非ランダムセルロースエステルであることができる。本明細書で用いる用語「非ランダムセルロースエステル」は、NMRスペクトル分光法によって評価した場合に、置換モノマーの非ガウス分布を有するセルロースエステルを意味するものとする。加えて、上記のように、ライン80内の初期セルロースエステルは混合セルロースエステルであることができる。
【0079】
初期セルロースエステルの置換度(「DS」)は約0.1〜約3.0の範囲、約1.8〜約2.9の範囲、または2.0〜2.6の範囲であることができる。別の態様において、初期セルロースエステルのDSは、少なくとも2であることができる。加えて、初期セルロースエステルのDSは、3.0未満、または2.9未満であることができる。
【0080】
更に、本発明の方法によって製造されるセルロースエステルの重合度(「DP」)は、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、または少なくとも250であることができる。別の態様において、初期セルロースエステルのDPは、約5〜約1,000の範囲、または10〜250の範囲であることができる。
【0081】
ライン80内のエステル化媒体は、初期セルロースエステルを、イオン液体の質量基準で約2〜約80質量パーセントの範囲、約10〜約60質量パーセントの範囲、または20〜40質量パーセントの範囲の量で含むことができる。初期セルロースエステルに加えて、エステル化ゾーン40からライン80経由で取出されるエステル化媒体はまた、他の成分,例えば改変イオン液体、残留アシル化試薬、および/または1種以上のカルボン酸等を含むことができる。一態様において、ライン80内のエステル化媒体は、改変イオン液体の、溶解ゾーン20内に導入される初期イオン液体に対する比を、初期イオン液体の総量基準で約0.01〜約99.99質量パーセントの範囲、約10〜約99質量パーセントの範囲、または90〜98質量パーセントの範囲の量で含むことができる。加えて、ライン80内のエステル化媒体は、残留アシル化試薬を、約20質量パーセント未満、約10質量パーセント未満、または5質量パーセント未満の量で含むことができる。
【0082】
更に、ライン80内のエステル化媒体は、カルボン酸の総濃度を、約0.01〜約40質量パーセントの範囲、約0.05〜約20質量パーセントの範囲、または0.1〜5質量パーセントの範囲の量で含むことができる。別の態様において、ライン80内のエステル化媒体は、カルボン酸の総濃度、40質量パーセント未満、20質量パーセント未満、または5質量パーセント未満の量を含むことができる。ライン80内のエステル化媒体中に存在できるカルボン酸としては、これらに限定するものではないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、置換安息香酸、フタル酸、および/またはイソフタル酸が挙げられる。
【0083】
ライン80内のエステル化媒体は、セルロースエステル回収/処理ゾーン50に送ることができる。図2を参照して以下でより詳細に議論するように、セルロースエステルの少なくとも一部は、任意に、回収/処理ゾーン50内の少なくとも1つのランダム化プロセスに供することができ、これによりランダム化セルロースエステルを生成できる。加えて、図2を参照して以下でより詳細に議論するように、セルロースエステルの少なくとも一部を、エステル化媒体から沈殿させることができ、その後、その少なくとも一部を、得られる母液から分離できる。
【0084】
図1を更に参照し、回収/処理ゾーン50内で沈殿および回収したセルロースエステルの少なくとも一部を、ライン90経由で最終セルロースエステルとして取出すことができる。回収/処理ゾーン50をライン90経由で出る最終セルロースエステルの数平均分子量(「Mn」)は、約1,200〜約200,000の範囲、約6,000〜約100,000の範囲、または10,000〜75,000の範囲であることができる。加えて、回収/処理ゾーン50をライン90経由で出る最終セルロースエステルの重量平均分子量(「Mw」)は、約2,500〜約420,000の範囲、約10,000〜約200,000の範囲、または20,000〜150,000の範囲であることができる。更に、回収/処理ゾーン50をライン90経由で出る最終セルロースエステルのZ平均分子量(「Mz」)は、約4,000〜約850,000の範囲、約12,000〜約420,000の範囲、または40,000〜330,000の範囲であることができる。回収/処理ゾーン50をライン90経由で出る最終セルロースエステルの多分散性は、約1.3〜約7の範囲、約1.5〜約5の範囲、または1.8〜3の範囲であることができる。加えて、ライン90内の最終セルロースエステルは、ライン80内の初期セルロースエステルに関して上記したDPおよびDSを有することができる。更に、セルロースエステルは、以下で図2を参照して更に詳細に議論するように、ランダムまたは非ランダムであることができる。更に、ライン90内の最終セルロースエステルは、上記のような複数のエステル置換基を含むことができる。また、ライン90内の最終セルロースエステルは、任意に、上記の混合セルロースエステルであることができる。
【0085】
一態様において、ライン90内のセルロースエステルは、湿潤ケーキ形状であることができる。ライン90内の湿潤ケーキは、総液体量99質量パーセント未満、50質量パーセント未満、または25質量パーセント未満を含むことができる。更に、ライン90内の湿潤ケーキは、総イオン液体濃度、1質量パーセント未満、0.01質量パーセント未満、または0.0001質量パーセント未満を含むことができる。加えて、ライン90内の湿潤ケーキは、総アルコール量、100質量パーセント未満、50質量パーセント未満、または25質量パーセント未満を含むことができる。任意に、以下で図2を参照して更に詳細に議論するように、最終セルロースエステルを乾燥させて乾燥最終セルロースエステル生成物を製造できる。
【0086】
本発明の方法によって製造されるセルロースエステルは、種々の用途において使用できる。具体的な用途は、セルロースエステルの種々の特徴,例えばアシル置換基の種類、DS,分子量、およびセルロースエステルコポリマーの種類等に左右されることを当業者は理解するであろう。本発明の一態様において、セルロースエステルは、熱可塑性用途において使用でき、ここでセルロースエステルは、フィルムまたはモールド成形品を形成するために使用される。熱可塑性用途において使用するために好適なセルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはこれらの混合物が挙げられる。本発明の更に別の態様において、セルロースエステルはコーティング用途において使用できる。コーティング用途の例としては、これらに限定するものではないが、自動車、木材、プラスチック、または金属のコーティングプロセスが挙げられる。コーティング用途において使用するために好適なセルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0087】
本発明の更に別の態様において、セルロースエステルは、パーソナルケア用途において使用できる。パーソナルケア用途において、セルロースエステルは、適切な溶媒中に溶解または懸濁できる。次いで、セルロースエステルは、皮膚または毛髪に適用される際の構造化剤、デリバリ剤、および/またはフィルム形成剤として作用できる。パーソナルケア用途において使用するために好適なセルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースヘキサノエート、セルロース2−エチルヘキサノエート、セルロースラウレート、セルロースパルミテート、セルロースステアレート、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0088】
本発明の更に別の態様において、セルロースエステルは、薬物デリバリ用途において使用できる。薬物デリバリ用途において、セルロースエステルは、フィルム形成剤として、例えばタブレットまたは粒子のコーティングにおいて作用できる。セルロースエステルはまた、溶解性が乏しい薬物の非晶質混合物を形成するために使用でき、これにより薬物の溶解性および生体利用効率を改善できる。セルロースエステルはまた、制御薬物デリバリにおいて使用でき、ここで薬物は、外部刺激,例えばpHの変化に応答してセルロースエステルマトリクスから放出できる。薬物デリバリ用途において使用するために好適な好ましいセルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0089】
本発明の更に別の態様において、本発明のセルロースエステルは、フィルムの溶媒キャスト等の用途において使用できる。このような用途の例としては、写真用フィルムおよび液晶ディスプレイ用の保護フィルムが挙げられる。溶媒キャストフィルム用途において使用するために好適なセルロースエステルの例としては、セルローストリアセテート、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、およびセルロースアセテートプロピオネートが挙げられる。
【0090】
図1を更に参照し、セルロースエステル回収/処理ゾーン50内で生成される母液の少なくとも一部は、ライン86経由で取出すことができ、そしてイオン液体回収/処理ゾーン60に送ることができる。以下で図2を参照して更に詳細に議論するように、母液は、イオン液体回収/処理ゾーン60内で種々の処理を受けることができる。このような処理としては、これらに限定するものではないが、揮発分除去およびイオン液体の改質が挙げられる。イオン液体の改質としては、これらに限定するものではないが、(1)アニオン均質化、および(2)アニオン交換が挙げられる。従って、再循環イオン液体は、イオン液体回収/処理ゾーン60内で形成できる。
【0091】
一態様において、再循環イオン液体の少なくとも一部をイオン液体回収/処理ゾーン60からライン70経由で取出すことができる。ライン70内の再循環イオン液体は、例えば図1のライン64内のイオン液体に関して上記したような組成を有することができる。再循環イオン液体の生成および組成は、以下で図2を参照して更に詳細に議論する。上記したように、ライン70内の再循環イオン液体の少なくとも一部は、溶解ゾーン20に戻すことができる。一態様において、イオン液体回収/処理ゾーン60内で生成する再循環イオン液体の少なくとも約80質量パーセント、少なくとも約90質量パーセント、または少なくとも95質量パーセントを溶解ゾーン20に送ることができる。
【0092】
ここで図2を参照し、セルロースエステルの製造についてのより詳細な図を示し、これは、全体の有効性および/またはエステル化プロセスの効率を改善するための任意のステップを含む。図2に示す態様において、セルロースは、任意の改良ゾーン110内にライン162経由で導入できる。任意の改良ゾーン110に供給されるセルロースは、図1を参照して上記したライン62内のセルロースと実質的に同じであることができる。任意の改良ゾーン110内でセルロースは、少なくとも1種の改良剤(modifing agent)を採用して改良(modify)できる。
【0093】
上記の通り、水を改良剤として採用できる。よって、本発明の一態様において、水湿潤セルロースを任意の改良ゾーン110から取出し、そして1種以上のイオン液体を溶解ゾーン120内で添加することができる。一態様において、セルロースを水と混合し、次いで1種以上のイオン液体をスラリーとしてポンプで入れることができる。代替として、過剰の水をセルロースから取出し、そしてその後セルロースを1種以上のイオン液体に湿潤ケーキ形状で添加できる。この態様において、セルロース湿潤ケーキは、付随水(associated water)を、セルロースと付随水との組合せ質量基準で約10〜約95質量パーセントの範囲、約20〜約80質量パーセントの範囲、または25〜75質量パーセントの範囲の量で含有できる。
【0094】
理論に拘束されることを望まないが、水湿潤セルロースの添加は予期および予想せず、少なくとも3つの従来公知でない利益を与えることを見出した。第1に、水はセルロースの1種以上のイオン液体中での分散を増大できるため、セルロースの加熱中に水の除去が開始するとセルロースが1種以上のイオン液体中に迅速に溶解する。第2に、水は、通常室温では固体であるイオン液体の融点を低下させ、よってイオン液体の雰囲気温度での加工を可能にすると考えられる。第3の利益は、初期に水湿潤セルロースを用いて得られるセルロースエステルの分子量が、上記で議論するエステル化ゾーン40内でのエステル化の間に、初期に乾燥セルロースを用いて得られるセルロースエステルと比べて低下することである。
【0095】
この第3の利益は、特に驚くべきで有用である。典型的なセルロースエステル加工条件下では、セルロースの分子量は、溶解の間またはエステル化の間には低下しない。すなわち、セルロースエステル生成物の分子量は、初期セルロースの分子量に正比例する。セルロースエステルを得るために用いる典型的な木材パルプは、一般的には、DPが、約1,000〜約3,000の範囲である。しかし、セルロースエステルの望ましいDP範囲は、約10〜約500の範囲であることができる。よって、エステル化の間の分子量低下の不存在下では、セルロースをイオン液体中で溶解させる前、またはイオン液体で溶解させた後であるがエステル化の前、にセルロースを特別に処理しなければならない。しかし、水を、任意の改良剤のうち少なくとも1種として採用する場合、セルロースの前処理は必要でない。分子量低下がエステル化の間に生じるからである。従って、本発明の一態様において、エステル化に供される改良セルロースのDPは、改良に供される初期セルロースのDPから約10パーセント以内、約5パーセント以内、2パーセント以内、または実質的に同じであることができる。しかし、本発明の態様に従って製造されるセルロースエステルのDPは、エステル化に供される改良セルロースのDPの約90パーセント未満、約70パーセント未満、または50パーセント未満であることができる。
【0096】
図2を更に参照し、ライン166内の任意に改良されたセルロースは、溶解ゾーン120に導入できる。溶解ゾーン120内に入ると、任意に改良されたセルロースは図1中の溶解ゾーン20に関して上記したように1種以上のイオン液体中で分散できる。続いて、得られるセルロース/イオン液体混合物中の改良剤の少なくとも一部を除去できる。一態様においては、セルロース/イオン液体混合物から、全改良剤の少なくとも50質量パーセントを除去でき、全改良剤の少なくとも75質量パーセントを除去でき、全改良剤の少なくとも95質量パーセントを除去でき、または全改良剤の少なくとも99質量パーセントを除去できる。溶解ゾーン120内の1種以上の改良剤の除去は、液/液分離の分野で公知の任意の手段,例えば蒸留、フラッシュ蒸発等によって実現できる。除去された改良剤は溶解ゾーン120からライン124経由で取出すことができる。
【0097】
改良剤の除去後、溶解ゾーン120は、セルロース溶液を、図1を参照して上記したような溶解ゾーン20と実質的に同じ様式で生成できる。その後、セルロース溶液を溶解ゾーン120からライン176経由で取出すことができる。ライン176内のセルロース溶液は、イオン液体、セルロース、および残留濃度の1種以上の任意の改良剤を含むことができる。ライン176内のセルロース溶液は、セルロースを、イオン液体の質量基準で約1〜約40質量パーセントの範囲、約5〜約30質量パーセントの範囲、または10〜20質量パーセントの範囲の量で含むことができる。更に、ライン176内のセルロース溶液は、累積量の残留改良剤を、約50質量パーセント未満、約25質量パーセント未満、約15質量パーセン未満、約5質量パーセント未満、または1質量パーセント未満の量で含むことができる。
【0098】
図2の態様において、ライン176内のセルロース溶液の少なくとも一部をエステル化ゾーン140内に導入できる。エステル化ゾーン140は、図1を参照して上記したようなエステル化ゾーン40と実質的に同じ様式で操作できる。例えば、アシル化試薬をエステル化ゾーン140内にライン178経由で導入できる。エステル化ゾーン40内でのように、アシル化試薬は、エステル化ゾーン140内でセルロースの少なくとも一部をエステル化できる。加えて、上記のように、得られるセルロースエステルの少なくとも一部は、イオン液体に由来し、および/またはイオン液体により供与される1つ以上のエステル置換基を含むことができる。
【0099】
エステル化ゾーン140内でのエステル化の後、エステル化媒体をライン180経由で取出すことができる。ライン180内のエステル化媒体は、図1を参照して上記したようなライン80内のエステル化媒体と実質的に同じであることができる。よって、ライン180内のエステル化媒体は、初期セルロースエステルと他の成分,例えば改変イオン液体、残留アシル化試薬、1種以上のカルボン酸、および/または1種以上の触媒等を含むことができる。ライン180内のエステル化媒体中の初期セルロースエステルおよび他の成分の濃度は、図1を参照して上記したようなライン80内のエステル化媒体と実質的に同じであることができる。
【0100】
図2を更に参照し、上記したように、エステル化ゾーン140内で生成される初期セルロースエステルは非ランダムセルロースエステルであることができる。一態様において、ライン180内の初期セルロースの少なくとも一部は、任意に、ランダム化ゾーン151内に導入してランダム化させることができ、これによりランダムセルロースエステルを形成できる。初期セルロースのランダム化は、少なくとも1種のランダム化剤をランダム化ゾーン151内にライン181経由で導入することを含むことができる。加えて、以下で更に詳しく議論するように、ランダム化ゾーン151内に導入されるランダム化剤の少なくとも一部をライン194経由で導入できる。
【0101】
本発明において採用されるランダム化剤は、セルロースエステルのDSを、加水分解もしくはアルコール分解を経て、および/またはセルロースエステル上のアシル基の少なくとも一部をあるヒドロキシルから異なるヒドロキシルにマイグレーションさせることによって低下させ、これにより初期モノマーの分布を改変することが可能な任意の物質であることができる。好適なランダム化剤の例としては、これらに限定するものではないが、水および/またはアルコールが挙げられる。ランダム化剤として使用するために好適なアルコールとしては、これらに限定するものではないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、フェノール等が挙げられる。一態様において、メタノールを、ライン181経由で導入するランダム化剤として採用できる。
【0102】
ランダム化ゾーン151内に導入するランダム化剤の量は、ランダム化ゾーン151内の、得られるランダム化媒体の総質量基準で約0.5〜約20質量パーセントの範囲、または3〜10質量パーセントの範囲であることができる。ランダム化媒体は、ランダム化の所望のレベルを実現するために好適な、ランダム化ゾーン151内での任意の滞留時間を有することができる。一態様において、ランダム化媒体のランダム化ゾーン151内の滞留時間は、約1分〜約48時間の範囲、約30分〜約24時間の範囲、または2〜12時間の範囲であることができる。加えて、ランダム化の間のランダム化ゾーン151内の温度は、ランダム化の所望レベルを実現するのに好適な任意の温度であることができる。一態様において、ランダム化の間のランダム化ゾーン151内の温度は、約20〜約120℃の範囲、約30〜約100℃の範囲、または50〜80℃の範囲であることができる。
【0103】
当業者は、セルロースエステルランダムコポリマーのDSおよびDPは、セルロースエステル非ランダムコポリマーのものより小さいことができることを理解するであろう。従って、この態様において、ランダム化ゾーン151に入る非ランダムセルロースエステルは、任意に、ランダム化セルロースエステルの目的のDSおよび/またはDPよりも大きいDSおよび/またはDPを有することができる。
【0104】
本発明の一態様において、少なくとも部分的にアセトン中で可溶であるセルロースエステルを製造することが望ましい場合がある。従って、エステル化ゾーン140内で生成される初期セルロースエステルは、任意のランダム化ゾーン151を迂回でき、これにより最終非ランダムセルロースエステルを製造できる。本発明の方法によって得られる非ランダムセルロースエステルは、これらのDSが約2.1〜約2.4の範囲、約2.28〜約2.39の範囲または2.32〜2.37の範囲である場合、少なくとも部分的にアセトン中で可溶であることができる。一態様において、本発明に従って製造されるセルロースエステルは、3以下、2以下、または1のアセトン溶解性評定(以下の例15で規定するような)を有することができる。
【0105】
任意のランダム化の後、任意にランダム化された媒体は、ランダム化ゾーン151からライン182経由で取出すことができる。任意にランダム化された媒体は、ランダム化されたセルロースエステルおよび残留ランダム化剤を含むことができる。一態様において、ライン182内の任意にランダム化された媒体は、ランダム化されたセルロースエステルを、イオン液体の質量基準で約2〜約80質量パーセントの範囲、約10〜約60質量パーセントの範囲、または20〜40質量パーセントの範囲の量で含むことができる。加えて、任意にランダム化された媒体は、残留ランダム化剤を、得られるランダム化媒体の総質量基準で約0.5〜約20質量パーセントの範囲、または3〜10質量パーセントの範囲で含むことができる。
【0106】
加えて、ライン182内の任意にランダム化された媒体は、他の成分、例えばライン180内のエステル化媒体に関して、そして図1のライン80内のエステル化媒体に関して上記されるようなものを含むことができる。このような成分としては、これらに限定するものではないが、改変イオン液体、残留アシル化試薬、1種以上のカルボン酸、および/または1種以上の触媒が挙げられる。
【0107】
任意のランダム化に次いで、ライン182内のエステル化および任意にランダム化された媒体の少なくとも一部を、沈殿ゾーン152内に導入できる。沈殿ゾーン152は、エステル化および任意にランダム化された媒体からのセルロースエステルの少なくとも一部を沈殿させるように操作できる。セルロースエステルを沈殿させるために好適な当該分野で公知の任意の方法を、沈殿ゾーン152内で採用できる。一態様において、沈殿剤を沈殿ゾーン152内に導入でき、これにより、セルロースエステルの少なくとも一部を沈殿させることができる。一態様において、沈殿剤は、セルロースエステルの非溶媒であることができる。沈殿剤として採用できる好適な非溶媒の例としては、これらに限定するものではないが、C1〜C8アルコール、水、またはこれらの混合物が挙げられる。一態様において、沈殿ゾーン152内に導入する沈殿剤はメタノールを含むことができる。
【0108】
沈殿ゾーン152内に導入される沈殿剤の量は、セルロースエステルの少なくとも一部を沈殿させるのに十分な任意の量であることができる。一態様において、沈殿ゾーン152内に導入される沈殿剤の量は、沈殿ゾーン152に入る媒体の総体積基準で少なくとも約20体積、少なくとも10体積、または少なくとも4体積であることができる。得られる沈殿媒体は、所望レベルの沈殿を実現させるのに好適な沈殿ゾーン内152の任意の滞留時間を有することができる。一態様において、沈殿媒体の沈殿ゾーン152内の滞留時間は、約1〜約300分間の範囲、約10〜約200分間の範囲、または20〜100分間の範囲であることができる。加えて、沈殿の間の沈殿ゾーン152内の温度は、所望レベルの沈殿を実現するのに好適な任意の温度であることができる。一態様において、沈殿の間の沈殿ゾーン152内の温度は、約0〜約120℃の範囲、約20〜約100℃の範囲、または25〜50℃の範囲であることができる。沈殿ゾーン152内で沈殿するセルロースエステルの量は、沈殿ゾーン152内のセルロースエステルの総量基準で、少なくとも50質量パーセント、少なくとも75質量パーセント、または少なくとも95質量パーセントであることができる。
【0109】
沈殿ゾーン152内での沈殿後、セルロースエステルスラリーをライン184経由で取出しすことができ、これは最終セルロースエステルを含む。ライン184内のセルロースエステルスラリーの固形分量は、約50質量パーセント未満、約25質量パーセント未満、または1質量パーセント未満であることができる。
【0110】
ライン184内のセルロースエステルスラリーの少なくとも一部を分離ゾーン153内に導入できる。分離ゾーン153内で、セルロースエステルスラリーの液体量の一部を、固体部分から分離できる。スラリーから液体の少なくとも一部を分離するための、当該分野で公知の任意の固/液分離法を、分離ゾーン153内で用いることができる。本発明で用いるために好適な、好適な固/液分離法の例としては、これらに限定するものではないが、遠心分離、ろ過等が挙げられる。一態様において、セルロースエステルスラリーの液体部分の少なくとも50質量パーセント、少なくとも70質量パーセント、または少なくとも90質量パーセントを分離ゾーン153内で除去できる。
【0111】
更に、分離ゾーン153は、固液分離のために好適な任意の温度または圧力を有することができる。一態様において、分離の間の分離ゾーン153内の温度は、約0〜約120℃の範囲、約20〜約100℃の範囲、または25〜50℃の範囲であることができる。
【0112】
分離ゾーン153内での分離後、セルロースエステル湿潤ケーキを、分離ゾーン153からライン187経由で取出すことができる。ライン187内のセルロースエステル湿潤ケーキの総固形分量は、少なくとも1質量パーセント、少なくとも50質量パーセント、または少なくとも75質量パーセントであることができる。加えて、ライン187内のセルロースエステル湿潤ケーキは、セルロースエステルを少なくとも70質量パーセント、少なくとも80質量パーセント、または少なくとも90質量パーセントの量で含むことができる。加えて、以下でより詳細に議論するように、分離ゾーン153から分離された液体の少なくとも一部をライン186経由で取出すことができる。
【0113】
分離ゾーン153から取出した時点で、セルロースエステル湿潤ケーキからのセルロースエステル固体の少なくとも一部を、洗浄ゾーン154内で洗浄できる。湿潤ケーキを洗浄するために好適な当該分野で公知の任意の方法を洗浄ゾーン154内で採用できる。本発明において用いるために好適な洗浄技術の例としては、これらに限定するものではないが、多段階向流洗浄が挙げられる。一態様において、セルロースエステルの非溶媒である洗浄液体を洗浄ゾーン154内にライン188経由で導入してセルロースエステル固体の少なくとも一部を洗浄できる。このような洗浄液体としては、これらに限定するものではないが、C1〜C8アルコール、水、またはこれらの混合物が挙げられる。一態様において、洗浄液体はメタノールを含むことができる。加えて、以下でより詳細に記載するように、洗浄液体の少なくとも一部を洗浄ゾーン154内にライン194経由で導入できる。
【0114】
一態様において、洗浄ゾーン153内のセルロースエステル固体の洗浄は、任意の不所望の副生成物、および/または色体の少なくとも一部を、セルロースエステル固体および/またはイオン液体から除去するような様式で実施できる。一態様において、非溶媒洗浄液体は、漂白剤を、洗浄流体の総質量基準で約0.001〜約50質量パーセントの範囲、または0.01〜5質量パーセントの範囲で含有できる。本発明において使用するために好適な漂白剤の例としては、これらに限定するものではないが、クロライト,例えば亜塩素酸ナトリウム(NaClO2);ヒポハライト,例えばNaOCl、NaOBr等;パーオキサイド,例えば過酸化水素等;過酸,例えば過酢酸等;金属,例えばFe,Mn,Cu,Cr等;亜硫酸ナトリウム類,例えば亜硫酸ナトリウム(Na2SO3),ナトリウムメタビサルファイト(Na225),ナトリウムビサルファイト(NaHSO3)等;パーボレート,例えば過ホウ酸ナトリウム(NaBO3・nH2O、式中、n=1または4);二酸化塩素(ClO2);酸素;およびオゾンが挙げられる。一態様において、本発明において採用される漂白剤としては過酸化水素、NaOCl、亜塩素酸ナトリウムおよび/または亜硫酸ナトリウムを挙げることができる。洗浄ゾーン153内の洗浄は、副生成物および/または色体の総量の少なくとも50パーセント、少なくとも70パーセントまたは少なくとも90パーセントを除去するのに十分であることができる。
【0115】
洗浄ゾーン154内での洗浄の後、洗浄されたセルロースエステル生成物はライン189経由で取出すことができる。ライン189内の洗浄されたセルロースエステル生成物は湿潤ケーキ形状であることができ、そして固形分を少なくとも1質量パーセント、少なくとも50質量パーセント、または少なくとも75質量パーセントの量で含むことができる。加えて、ライン189内の洗浄されたセルロースエステル生成物は、セルロースエステルを、少なくとも1質量パーセント、少なくとも50質量パーセント、または少なくとも75質量パーセントの量で含むことができる。
【0116】
洗浄されたセルロースエステル生成物は、乾燥ゾーン155内で任意に乾燥できる。乾燥ゾーン155は、洗浄されたセルロースエステル生成物の液体量の少なくとも一部を除去するための当該分野で公知の任意の乾燥方法を採用できる。乾燥ゾーン155において使用するための好適な乾燥設備の例としては、これらに限定するものではないが、回転乾燥機、スクリュー型乾燥機、パドル乾燥機および/またはジャケット付乾燥機が挙げられる。一態様において、乾燥ゾーン155内での乾燥は、5質量パーセント未満、3質量パーセント未満、または1質量パーセント未満の液体を含む乾燥されたセルロースエステル生成物を生成するのに十分であることができる。
【0117】
乾燥ゾーン155内での乾燥後、最終セルロースエステル生成物をライン190経由で取出すことができる。ライン190内の最終セルロースエステル生成物は、図1を参照して上記したようなライン90内の最終セルロースエステル生成物と実質的に同じであることができる。
【0118】
図2を更に参照し、上記のように、分離ゾーン153内で生じた、分離された液体の少なくとも一部は、ライン186経由で再循環流として取出すことができる。ライン186内の再循環流は、改変イオン液体、1種以上のカルボン酸、残留改良剤、残留触媒、残留アシル化試薬、残留ランダム化剤、および/または残留沈殿剤を含むことができる。本明細書で用いる用語「改変イオン液体(altered ionic liquid)」は、予めセルロースエステル化ステップを経たイオン液体を意味し、イオン液体の少なくとも一部がアシル基の供与体および/または受容体として作用したものである。本明細書で用いる用語「改良イオン液体(modified ionic liquid)」は、上流プロセスステップにおいて予め別の化合物と接触したイオン液体を意味する。従って、改変イオン液体は改良イオン液体の部分集合であって、該上流プロセスステップがセルロースエステル化であるものである。
【0119】
一態様において、ライン186内の再循環流は、改変イオン液体、1種以上のカルボン酸、1種以上のアルコールおよび/または水を含むことができる。一態様において、ライン186内の再循環流は、改変イオン液体を、ライン186内の再循環流の総質量基準で約10〜約99.99質量パーセントの範囲、約50〜約99質量パーセントの範囲、または90〜98質量パーセントの範囲の量で含むことができる。一態様において、改変イオン液体は、少なくとも2種の異なるアニオン:第1アニオンおよび第2アニオンを有するイオン液体を含むことができる。上記のように、初期イオン液体に由来する改変イオン液体中の第1アニオンの少なくとも一部は、溶解ゾーン120内にライン164経由で導入される。加えて、上記のように、アシル化試薬に由来する改変イオン液体中の第2アニオンの少なくとも一部は、エステル化ゾーン140内に導入される。一態様において、改変イオン液体は、第1アニオンおよび第2アニオンを、約100:1〜約1:100の範囲、約1:10〜約10:1の範囲、または1:2〜約2:1の範囲の比で含むことができる。加えて、改変イオン液体は、複数のカチオン,例えば図1のライン68内の初期イオン液体を参照して上記したものを含むことができる。
【0120】
ライン186内の再循環流は、カルボン酸の総量を、ライン186内の再循環流中のイオン液体の総質量基準で約5〜約60質量パーセントの範囲、約10〜約40質量パーセントの範囲、または15〜30質量パーセントの範囲の量で含むことができる。ライン186内の再循環流が含む好適なカルボン酸の例としては、これらに限定するものではないが、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、2−エチルへキサン酸、ノナン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、置換安息香酸、フタル酸、およびイソフタル酸が挙げられる。一態様において、ライン186内の再循環流中のカルボン酸の少なくとも50質量パーセント、少なくとも70質量パーセント、または少なくとも90質量パーセントは、酢酸、プロピオン酸および/または酪酸である。
【0121】
更に、ライン186内の再循環流は、アルコールの総濃度を、再循環流の総体積基準で少なくとも20体積、少なくとも10体積、または少なくとも4体積の量で含むことができる。ライン186内の再循環流が含むことができる好適なアルコールの例としては、これらに限定するものではないが、C1〜C8の直鎖または分岐鎖のアルコールが挙げられる。一態様において、ライン186内の分離されたイオン液体中のアルコールの少なくとも50質量パーセント、少なくとも70質量パーセント、または少なくとも90質量パーセントはメタノールで構成される。更に、ライン186内の再循環流は、水を、再循環流の総体積基準で少なくとも20体積、少なくとも10体積、または少なくとも4体積の量で含むことができる。
【0122】
図2に示すように、ライン186内の再循環流の少なくとも一部を、イオン液体回収/処理ゾーン160内に導入できる。イオン液体回収/処理ゾーン160を操作して、ライン186からの再循環流の少なくとも一部を隔離および/または改質できる。一態様において、再循環流の少なくとも一部は、少なくとも1つのフラッシュ蒸発および/または蒸留プロセスを受けて、再循環流中の揮発性成分の少なくとも一部を除去できる。再循環流中の揮発性成分の少なくとも40質量パーセント、少なくとも75質量パーセント、または少なくとも95質量パーセントは、フラッシュ蒸発を経て除去できる。再循環流から除去される揮発性成分は、1種以上のアルコールを含むことができる。一態様において、揮発性成分はメタノールを含むことができる。蒸発後、得られる揮発性が欠失した再循環流は、アルコールの総量、約0.1〜約60質量パーセントの範囲、約5〜約55質量パーセントの範囲、または15〜50質量パーセントの範囲を含むことができる。
【0123】
一態様において、カルボン酸の少なくとも一部を再循環流から除去できる。これは、まずカルボン酸の少なくとも一部をカルボキシレートエステルに変換することにより達成できる。この態様において、再循環流の少なくとも一部を加圧反応器内に入れることができ、ここで、カルボン酸を再循環流中に存在するアルコールと反応させることによってカルボン酸の少なくとも一部をメチルエステルに変換するのに十分な温度、圧力および時間で、再循環流を処理できる。エステル化の間、加圧反応器の温度は、100〜180℃の範囲、または130〜160℃の範囲であることができる。加えて、エステル化の間の加圧反応器内の圧力は、約10〜約1,000ポンド毎平方インチゲージ(「psig」)、または100〜300psigの範囲であることができる。再循環流の加圧反応器内の滞留時間は、約10〜約1,000分の範囲、または120〜600分の範囲であることができる。上記のエステル化の前に、アルコールおよびカルボン酸は、再循環流中に、モル比、約1:1〜約30:1の範囲、約3:1〜約20:1の範囲、または5:1〜10:1の範囲(アルコール−対−カルボン酸)で存在できる。一態様において、カルボン酸の少なくとも5モルパーセント、少なくとも20モルパーセント、または少なくとも50モルパーセントを、上記のエステル化の間にエステル化できる。
【0124】
上記のように、カルボン酸の少なくとも一部は、酢酸、プロピオン酸、および/または酪酸であることができる。加えて、上記のように、再循環流中に存在するアルコールはメタノールであることができる。従って、上記のエステル化プロセスを操作して、メチルアセテート、メチルプロピオネート、および/またはメチルブチレートを生成できる。エステル化に続いて、得られるカルボキシレートエステルの少なくとも10質量パーセント、少なくとも50質量パーセント、または少なくとも95質量パーセントを、再循環流から、当該分野で公知の任意の方法によって除去できる。図2に示すように、上記のエステル化によって生成するカルボキシレートエステルの少なくとも一部をエステル化ゾーン140にライン196経由で送ることができる。エステル化ゾーン140内に導入されるカルボキシレートエステルは、上記のように、非混和性共溶媒として採用できる。別の態様において、カルボキシレートエステルの少なくとも一部は、CO挿入によって無水物に変換できる。
【0125】
本発明の別の態様において、再循環流中に存在する改変イオン液体の少なくとも一部は、改質を受けることができる。改変イオン液体の改質は、任意に、再循環流中のカルボン酸のエステル化と同時に実施できる。代替として、改変イオン液体の改質は、再循環流中のカルボン酸のエステル化に続いて実施できる。改変イオン液体の改質は、少なくとも1つのアニオン交換プロセスを含むことができる。
【0126】
一態様において、改変イオン液体の改質は、アニオン交換を経るアニオン均質化を含むことができ、これは改変イオン液体のアニオンの実質的に全てを同じ種類のアニオンに変換するようにする。この態様において、改変イオン液体の少なくとも一部を少なくとも1種のアルキルホルメートと接触させることができる。本発明において使用するために好適なアルキルホルメートとしては、これらに限定するものではないが、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、イソプロピルホルメート、ブチルホルメート、イソブチルホルメート、tert−ブチルホルメート、ヘキシルホルメート、オクチルホルメート等が挙げられる。一態様において、アルキルホルメートは、メチルホルメートを含むことができる。加えて、改変イオン液体の改質は、1種以上のアルコールの存在下で実施できる。本発明のこの態様において使用するために好適なアルコールとしては、これらに限定するものではないが、アルキルまたはアリールアルコール,例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、フェノール等が挙げられる。一態様において、改質の間に存在するアルコールはメタノールを含むことができる。
【0127】
改変イオン液体の改質の間の温度は、約100〜約200℃の範囲、または130〜約170℃の範囲であることができる。加えて、改変イオン液体の改質の間の圧力は、少なくとも700kPa、または少なくとも1,025kPaであることができる。更に、改変イオン液体の改質の反応時間は、約10分〜約24時間の範囲、または3〜18時間の範囲であることができる。
【0128】
上記のように、改変イオン液体の改質は、アニオン均質化を含むことができる。一態様において、得られる改質イオン液体は、少なくとも90パーセント、少なくとも95パーセント、または少なくとも99パーセントの均一アニオン量を有することができる。加えて、改質イオン液体は、アルキルアミンホルメートを含むことができる。一態様において、アルキルアミンホルメートのアミンは、イミダゾリウムであることができる。改質イオン液体として使用するために好適なアルキルアミンホルメートの例としては、これらに限定するものではないが、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムホルメート、および/または1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートが挙げられる。
【0129】
改質に次いで、改質イオン液体の揮発性成分の少なくとも一部を任意に、揮発性成分の除去のための当該分野で公知の任意の方法を経て除去できる。改質イオン液体から除去される揮発性成分としては、例えば、カルボキシレートエステル,例えば上記のカルボン酸エステル化プロセスを経て形成されるものを挙げることができる。その後、改質イオン液体の少なくとも一部は、少なくとも1つのアニオン交換プロセスを受け、改質イオン液体のアニオンの少なくとも一部を置換することによってカルボキシル化イオン液体を形成できる。一態様において、改質イオン液体を少なくとも1種のカルボキシレートアニオン供与体と接触させて少なくとも部分的にアニオン交換を実現させる。本態様において使用するために好適なカルボキシレートアニオン供与体としては、これらに限定するものではないが、1種以上のカルボン酸、無水物、またはアルキルカルボキシレートが挙げられる。加えて、カルボキシレートアニオン供与体は、1種以上のC2〜C20の直鎖または分岐鎖のアルキルまたはアリールカルボン酸、無水物またはメチルエステルを含むことができる。更に、カルボキシレートアニオン供与体は、1種以上のC2〜C12の直鎖アルキルカルボン酸、無水物またはメチルエステルであることができる。更に、カルボキシレートアニオン供与体は、1種以上のC2〜C4直鎖アルキルカルボン酸、無水物、またはメチルエステルであることができる。得られるカルボキシル化イオン液体は、図1のライン64内のカルボキシル化イオン液体を参照して上記したカルボキシル化イオン液体と実質的に同じであることができる。
【0130】
改質イオン液体を1種以上のカルボキシレートアニオン供与体と接触させる際、接触は、アルコールまたは水を更に含む接触混合物中で実施できる。一態様において、アルコールまたは水は、接触混合物中に、アルキルアミンホルメート当たり0.01〜20モル当量、またはアルキルアミンホルメート当たり1〜10モル当量の範囲で存在できる。一態様において、メタノールは、接触混合物中に、アルキルアミンホルメート当たり1〜10モル当量の範囲で存在できる。
【0131】
図2を更に参照し、一態様において、イオン液体回収/処理ゾーン160内で生成するカルボキシル化イオン液体の少なくとも一部は、少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種の残留カルボン酸、および/または水を更に含む処理イオン液体混合物中にあることができる。1種以上のアルコール、および/または残留カルボン酸は、ライン186内の再循環流を参照して上記したのと実質的に同じであることができる。処理イオン液体混合物は、少なくとも1つの液/液分離プロセスに供して1種以上のアルコールの少なくとも一部を除去することができる。このような分離プロセスは、当該分野で公知の任意の液/液分離プロセス,例えば、フラッシュ蒸発、および/または蒸留等を含むことができる。加えて、処理イオン液体混合物は、少なくとも1つの液/液分離プロセスに供して水の少なくとも一部を除去できる。このような分離プロセスは、当該分野で公知の任意の液/液分離プロセス,例えば、フラッシュ蒸発、および/または蒸留等を含むことができる。
【0132】
一態様において、アルコールおよび/または水の少なくとも50質量パーセント、少なくとも70質量パーセント、または少なくとも85質量パーセントを処理イオン液体混合物から除去することによって、再循環カルボキシル化イオン液体を生成できる。処理イオン液体混合物から分離されるアルコールの少なくとも一部を任意にイオン液体回収/処理ゾーン160からライン194経由で除去できる。ライン194内の1種以上のアルコールは、その後、任意に、図2に示す種々の他の点に送ることができる。一態様において、処理イオン液体混合物から除去されるアルコールの少なくとも50質量パーセント、少なくとも70質量パーセント、または少なくとも90質量パーセントを、図2に示すプロセスにおける種々の他の点に送ることができる。1つの任意の態様において、ライン194内のアルコールの少なくとも一部を、ランダム化剤として採用するためにランダム化ゾーン151に送ることができる。別の任意の態様において、ライン194内のアルコールの少なくとも一部を、沈殿剤として採用するために沈殿ゾーン152に送ることができる。更に別の任意の態様において、ライン194内のアルコールの少なくとも一部を、洗浄液体として採用するために洗浄ゾーン154に送ることができる。
【0133】
一態様において、処理イオン液体混合物から分離される水の少なくとも一部を、任意に、イオン液体回収/処理ゾーン160からライン192経由で除去できる。任意に、イオン液体回収/処理ゾーン160から除去される水の少なくとも一部を、改良剤として採用するために改良ゾーン110に送ることができる。処理イオン液体混合物から分離される水の少なくとも約5質量パーセント、少なくとも約20質量パーセント、または少なくとも50質量パーセントを、任意に、改良ゾーン110に送ることができる。加えて、ライン192内の水の少なくとも一部を任意に排水処理プロセスに送ることができる。
【0134】
アルコール、および/または水の除去後、上記の再循環されたカルボキシル化イオン液体は、残留カルボン酸を、再循環されたカルボキシル化イオン液体の全質量基準で、約0.01〜約25質量パーセントの範囲、約0.05〜約15質量パーセント、または0.1〜5質量パーセントの範囲の量で含むことができる。加えて、再循環されたカルボキシル化イオン液体は、硫黄を、200ppmw未満、100ppmw未満、50ppmw未満、または10ppmw未満の量で含むことができる。更に、再循環されたカルボキシル化イオン液体は、ハロゲン化物を、200ppmw未満、100ppmw未満、50ppmw未満、または10ppmw未満の量で含むことができる。更に、カルボキシル化イオン液体は、遷移金属を、200ppmw未満、100ppmw未満、50ppmw未満、または10ppmw未満の量で含むことができる。
【0135】
一態様において、イオン液体回収/処理ゾーン160内で生成する再循環されたカルボキシル化イオン液体の少なくとも一部は、任意に溶解ゾーン120に送ることができる。イオン液体回収/処理ゾーン160内で生成する再循環されたカルボキシル化イオン液体の少なくとも50質量パーセント、少なくとも70質量パーセント、または少なくとも90質量パーセントを溶解ゾーン120に送ることができる。
【0136】
溶解ゾーン120内で、再循環されたカルボキシル化イオン液体は、個別に、または溶解ゾーン120内にライン164経由で入るカルボキシル化イオン液体と組合せて、のいずれかで採用でき、これにより上記のセルロース溶解性イオン液体を形成できる。一態様において、再循環されたカルボキシル化イオン液体は、溶解ゾーン120内のセルロース溶解性イオン液体の約10〜約99.99質量パーセントの範囲、約50〜約99質量パーセントの範囲、または約90〜約98質量パーセントの範囲を構成できる。
【0137】
本発明は、その態様の以下の例によって更に説明できるが、これらの例は例示の目的のみで包含され、特記がない限り発明の範囲の限定を意図しないことが理解されよう。
【0138】

例において用いた物質
以下の例で採用した商業グレードのイオン液体は、BASFによって製造されFlukaを経て得られた。これらのイオン液体は、例において説明するように、入手したまま、および精製後の両者で用いた。実験のアルキルイミダゾリウムカルボキシレートはまた、例において説明するように得た。セルロースはAldrichから得られた。Aldrichセルロースの重合度(DP 約335)は、銅エチレンジアミン(Cuen)を溶媒として用いてキャピラリー粘度測定により評価した。イオン液体中での溶解前に、セルロースを典型的には14〜18時間、50℃で5mmHgにて乾燥させた(セルロースが溶解前に水で改良された場合を除く)。
【0139】
例1−セルロースエステルの製造(比較)
三つ口の100mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ(Mettler−Toledo AutoChem,Inc.,Columbia,MD,USA)、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、61gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。[BMIm]Clを添加する前に、イオン液体を90℃で溶融させ、次いで、デシケーター内で保存した;[BMIm]Clは保存中液体のままであった。急速に撹拌しながら、3.21gの予め乾燥させた微結晶セルロース(DP 約335)の添加を小分割量で(3分間の添加)開始した。減圧適用前にスラリーを5分間撹拌した。約3時間25分後、殆どのセルロースは、数個の小片およびプローブに付着した1つの大片を除いて溶解した。5.5時間後、油浴温度を105℃に上げて残りのセルロースの溶解を加速した。溶液を105℃で1.5時間維持(47分加熱)した後で、溶液を室温まで冷やし(セルロース添加の開始から6時間25分)、そして1晩雰囲気温度に置いた。
【0140】
1晩置いた後、セルロース/[BMIm]Cl溶液は明澄で、IRスペクトルは全てのセルロースが溶解したことを示した。溶液を80℃まで加熱した後で、10.11g(5eq)のAc2Oを滴下(26分の添加)した。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて反応をサンプリングした。各アリコートからの固体を2Xで100mL分量のMeOHで洗浄し、次いで2Xで100mLの、8%の35wt%H22を含有するMeOHで洗浄した後で、60℃、5mmHgで乾燥させた。1つ目のサンプルは白色、2つ目のサンプルは褐色、そして3つ目のサンプルは茶色であった。反応過程の間、溶液は徐々に濃色になった。Ac2O添加の開始から約2時間45分後、反応混合物の粘度が突然増大し、次いで反応混合物が完全にゲル化した。油浴を低くして接触溶液を室温まで冷やした。
【0141】
図3は、例1についての吸収 対 時間のプロットであり、溶解過程の間のセルロースの溶解(1046cm-1)および残留水の混合物からの除去(1635cm-1)を示す。セルロース傾向線における急な山形は、プローブに付着し、撹拌動作により除去される大きなセルロースゲル粒子に起因する。セルロース粒子の表面が、分散が得られる前に部分的に溶解し、クランプおよび大きなゲル粒子を招来することによってクランプが生じる。傾向線における、6時間近傍の下落は、温度の80℃から105℃への上昇によりもたらされる。この図は、セルロースを80℃に予熱したイオン液体に添加する際、セルロースを完全に溶解させるために約6時間が必要であることを示す。
【0142】
図4は、例1についての吸収 対 時間のプロットであり、実験中の、セルロースのアセチル化(1756,1741,1233cm-1)、Ac2Oの消費(1822cm-1)、および酢酸の共生成(1706cm-1)を示す。図4中に示すDS値は、NMRスペクトル分光法によって評価し、そして接触時間の過程の間に取出した試料に対応する。示すように、始めの1時間の間に約75%のアセチル化が生じた(その後に反応速度は遅化した)。Ac2Oの添加の開始から約2時間45分で(DS=2.45)、溶液粘度が突然増大した後、接触混合物がゲル化した。この点で、何らの更なる反応も生じず、残りの接触溶液を上記のように加工した。ゲル化の時点でなお多量の過剰Ac2Oが存在したことに留意すべきである。更に、接触時間の過程の間、溶液は徐々により濃色になり、そして最終生成物の色は濃茶色であった。各試料のDSを評価することに加え、各試料の分子量を、GPCによって評価した(下記表1)。一般的に、Mwは、約55,000であり、そして多分散性は、3〜4の範囲であった。出発セルロースのDPに基づき、この分析は、セルロースポリマーの分子量が、接触時間の間、本質的に損なわれずに維持されたことを示す。
【0143】
例2−セルロースの水による改良
三つ口の100mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、64.3gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。[BMIm]Clを添加する前に、ILを90℃で溶融させ、次いで、デシケーター内で保存した;[BMIm]Clは保存中液体のままであった。急速に撹拌しながら、イオン液体に、3.4g(5wt%)の微結晶セルロース(DP 約335)を環境温度で添加してセルロースを分散させた。セルロースの添加から約12分後、予熱した80℃の油浴をフラスコまで上げた。80℃の油浴中約17分後、視覚的には、全てのセルロースは溶解したと思われた。80℃の油浴中約22分後、減圧の適用を開始した。水の完全な除去を確保するため、減圧の適用から50分後、油浴の設定を105℃まで上昇させ、そして溶液を2時間25分撹拌した後で、油浴を室温まで冷やした。
【0144】
明澄な琥珀色のセルロース溶液の温度を80℃に調整した後で、6.42gのAc2O(3eq)を滴下(5分の添加)添加した。6〜10gアリコートの接触混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて接触混合物をサンプリングした。各アリコートからの固体を1Xで100mLのMeOHで洗浄し、次いで2Xで、8wt%の35%H22を含有するMeOHで洗浄した。次いで試料を60℃、5mmHgで1晩乾燥させた。接触時間の過程で、溶液の色はより濃色になり、最終的には濃茶色になった。Ac2O添加の開始から約2時間10分後、溶液粘度が顕著に増大し;10分後、溶液は完全にゲル化し、そして撹拌軸を上り始めた。実験を中止してMeOHをフラスコに添加し、残りの生成物を沈殿させた。
【0145】
各アリコートからの沈殿および洗浄液体を組合せ、そして減圧下68℃で、減圧が24mmHgに落ちるまで濃縮し、54.2gの回収[BMIm]Clを与えた。1HNMRによる分析によって、この技術によって測定した場合、イオン液体が4.8wt%酢酸を含有したことが明らかになった。
【0146】
図5は、例2についての吸収 対 時間のプロットであり、溶解過程の間のセルロースの溶解(1046cm-1)および残留水の混合物からの除去(1635cm-1)を示す。分かるように、セルロースの溶解は極めて急速であった(例1の360分に対して17分)。これは、セルロースのイオン液体への室温での添加、良好な分散を得るための撹拌(より高い表面積)、そして溶解を達成するための加熱に起因した。通常、[BMIm]Clは固体であり、約70℃で溶融する。しかし、水またはカルボン酸を[BMIm]Clと混合させる場合、[BMIm]Clは室温で液体のままとなり、よってセルロースを雰囲気温度で導入できる。図5における水の損失から分かるように、[BMIm]Clは顕著量の水を含有していた。この例は、水のイオン液体への添加、次いでセルロースの添加、および良好な分散を得るための良好な混合がセルロースの急速溶解を与えることを示す。
【0147】
図6は、例2についての吸収 対 時間のプロットであり、実験中の、セルロースのアセチル化(1756,1741,1233cm-1)、Ac2Oの消費(1822cm-1)、および酢酸の共生成(1706cm-1)を示す。図6中に示すDS値は、NMRスペクトル分光法によって評価し、そして接触時間の過程の間に取出した試料に対応する。例1に対して、反応速度はより遅かった(例1,DS=2.44 165分にて;例2,DS=2.01 166分にて,下記表1参照)。例1で観察されたように、溶液粘度が突然増大し、続いて接触混合物がゲル化したが、例2では、ゲル化はより低いDSで生じた。より遅い反応速度およびより低温でのゲル化の両者は、より少ないAc2Oの使用への寄与であることができる。しかし、なお多量の過剰Ac2Oがゲル化の時点で存在したことに留意すべきである。例1でのように、接触時間の過程の間、溶液は徐々により濃色になり、そして最終生成物の色は濃茶色であった。各試料のDSを評価することに加え、各試料の分子量を、GPCによって評価した(下記表1)。一般的に、Mwは、約55,000であり、そして多分散性は、3〜6の範囲であった。出発セルロースのDPに基づき、この分析は、セルロースポリマーの分子量が、接触時間の間、本質的に損なわれずに維持されたことを示す。
【0148】
例3−MSA第2成分、水による改良なし
セルロース(3.58g,5wt%)を、68gの[BMIm]Cl中に、例2と同様の様式で溶解させた。セルロース溶液(接触温度=80℃)に対し、433mgのMSAと6.76gのAc2O(3eq)との混合物を滴下(8分)添加した。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて反応をサンプリングした。各アリコートからの固体を2Xで100mL分量のMeOHで洗浄し、次いで60℃、5mmHgで乾燥させた。固体試料は雪白色であった。約2時間後、全てのAc2OはIRによって消費されたと思われた。実験を中止して残りの試料を上記のように加工した。
【0149】
各アリコートからの沈殿および洗浄液体を組合せ、そして減圧下68℃で、減圧が24mmHgに落ちるまで濃縮し、64gの回収[BMIm]Clを与えた。例2とは異なり、1HNMRによる分析によって、この技術によって測定した場合、イオン液体は何ら酢酸を含有しないことが明らかになった。この結果は、MSAが、残留酢酸のイオン液体からの除去に、おそらく残留酢酸のメチルアセテートへの変換によって役立つことを示す。
【0150】
図7は、例3についての吸収 対 時間のプロットであり、実験中の、セルロースのアセチル化(1756,1741,1233cm-1)、Ac2Oの消費(1822cm-1)、および酢酸の共生成(1706cm-1)を示す。図7中に示すDS値は、NMRスペクトル分光法によって評価し、そして接触時間の過程の間に取出した試料に対応する。図7から明らかであることは、反応の速度が例2および3と比べて大幅に速いことである。例えば、例5について、55分が、例1−1におけるDS1.82への到達のために必要であった(下記表1)一方、10分が、例3−1におけるDS1.81への到達のために必要であるのみであった。同様に、166分が、例2−4におけるDS2.01への到達のために必要であった(下記表1)一方、20分が、例3−2におけるDS2.18への到達のために必要であるのみであった。加えて、図7は、実験の過程の間に何らのゲル化も生じなかったことを示す。実際、実験から、溶液粘度において何らの増大もなく、溶液色は初期溶液色から本質的に変化せず、そして接触混合物から単離された生成物は全て雪白色であった。最後に、下記表1において、例3の試料についてのMw(約40,000)は、例1および2についてのものより小さいこと、および多分散性(Mw/Mn)は、例1および2のもの(3〜6)よりも低くそして狭い(2〜3)ことに留意すべきである。例1および2と比べた場合、例3は、第2成分(例えばMSA)の接触混合物中の包含が、反応速度を加速し、溶液および生成物の色を顕著に改善し、接触混合物のゲル化を防止し、高DS値の実現を可能にする一方でアシル化試薬の使用を低減し、そしてセルロースエステル分子量の低下の促進を助けることを示す。
【0151】
【表1】

【0152】
例4−水による改良、MSA第2成分
三つ口の100mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、58.07gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。[BMIm]Clを添加する前に、ILを90℃で溶融させ、次いで、デシケーター内で保存した。フラスコを油浴中に配置して80℃まで加熱した。
【0153】
3.06g(5wt%)の微結晶セルロース(DP 約335)に、3.06gの水を添加した。スラリーを手動で混合し、約30分間置いた後で、スラリーを小分割量で[BMIm]Clに添加(5分の添加)した。これは濁った溶液を与え、ここでセルロースは驚くべきことに良く分散していた。スラリーを27分間撹拌した後で、減圧を適用した。視覚的に、減圧下28分後に、全てのセルロースが溶解し、これはIRによって確認された。IRによれば、全てのセルロースが溶解した時点で、なお約3wt%の水が[BMIm]Cl中に存在していた。系を減圧下で80℃に維持して残りの水を除去した。試料を室温まで冷やし、次ステップまで置いておいた。
【0154】
セルロース溶液を80℃まで加熱した後で、5.78gのAc2O(3eq)と368mgのMSAとの混合物を滴下(8分)添加した。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて反応をサンプリングした。各アリコートからの固体を2Xで100mL分量のMeOHで洗浄し、次いで60℃、5mmHgで乾燥させた。単離された試料は雪白色であった。溶液色は、実験全体を通じて優れており、何らの粘度増大の兆候もなかった。約2時間25分後、赤外スペクトル分光は、全てのAc2Oが消費されたことを示した。実験を中止して残りの試料を上記のように加工した。
【0155】
図8は、例4についての吸収 対 時間のプロットであり、溶解過程の間のセルロースの溶解(1046cm-1)および残留水の混合物からの除去(1635cm-1)を示す。分かるように、水湿潤(活性化)セルロースの溶解は極めて急速(28分)であった(顕著量の水の存在に関わらず)。これは、従来技術を考慮すると驚くべきものである。水湿潤セルロースのイオン液体への添加により、殆どクランプなくセルロースの良好な分散を得ることが可能になる。水を除去するための減圧の適用時に、セルロースは、クランプして大きな粒子を形成することなく急速に溶解する。
【0156】
図9は、例4についての吸収 対 時間のプロットであり、実験中の、セルロースのアセチル化(1756,1741,1233cm-1)、Ac2Oの消費(1822cm-1)、および酢酸の共生成(1706cm-1)を示す。図9中に示すDS値は、NMRスペクトル分光法によって評価し、そして接触時間の過程の間に取出した試料に対応する。例3に対して、セルロースアセテートを生成するための反応速度は同様であった。しかし、セルロースアセテート試料の分子量(約33,000)(下記表2)は、例3において観察されたよりも著しく低く、そして例1および2(上記表1)で観察されたよりも大幅に低かった。加えて、例4の試料の多分散は全て2未満であり、例1,2および3の試料で観察されたよりも小さかった。
【0157】
この例は、水湿潤セルロースが、イオン液体中の良好なセルロース分散および急速なセルロース溶解を招来することを示す。セルロースアセテートの形成のための反応速度は急速である。驚くべきことに、水湿潤セルロースは、乾燥セルロースに対してより低い分子量のセルロースアセテート(低い多分散性のもの)を招来する。水湿潤セルロースから形成されたセルロースアセテートは、乾燥セルロースを用いる場合に対してより良好なアセトン溶解性を有する。
【0158】
例5−水による改良、MSA第2成分
三つ口の100mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、67.33gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。[BMIm]Clを添加する前に、ILを90℃で溶融させ、次いで、デシケーター内で保存した。フラスコを油浴中に配置して80℃まで加熱した。7.48g(10wt%)の微結晶セルロース(DP 約335)に、7.08gの水を添加した。セルローススラリーを手動で混合し、約60分間置いた後で、スラリーを小分割量で[BMIm]Clに添加(8分の添加)した。これは濁った溶液を与え、ここでセルロースは驚くべきことに良く分散していた。スラリーを10分間撹拌した後で、減圧を適用した。セルロース溶液を1晩撹拌し続けた。
【0159】
赤外スペクトル分光は、本質的に全てのセルロースが、減圧適用後50分以内に溶解したことを示した。約3.5時間が、水を除去するために必要であった。セルロース溶液に、14.13gのAc2O(3eq)と884mg(0.2eq)のMSAとの混合物を滴下(11分)添加した。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて反応をサンプリングした。各アリコートからの固体を2Xで100mL分量のMeOHで洗浄し、次いで60℃、5mmHgで乾燥させた。単離された試料は雪白色であった。溶液色は、実験全体を通じて優れており、何らの粘度増大の兆候もなかった。約2時間10分後、IRにより、全てのAc2Oが消費されたと思われた。実験を中止して残りの試料を上記のように加工した。
【0160】
図10は、例5についての吸収 対 時間のプロットであり、溶解過程の間のセルロースの溶解(1046cm-1)および残留水の混合物からの除去(1635cm-1)を示す。分かるように、水湿潤(活性化)セルロースの溶解は極めて急速(50分)であった(顕著量の水の存在および例4に対してのセルロース濃度の増大に関わらず)。
【0161】
図11は、例5についての吸収 対 時間のプロットであり、実験中の、セルロースのアセチル化(1756,1741,1233cm-1)、Ac2Oの消費(1822cm-1)、および酢酸の共生成(1706cm-1)を示す。図11中に示すDS値は、NMRスペクトル分光法によって評価し、そして接触時間の過程の間に取出した試料に対応する。セルロース濃度の増大にも関わらず、例3および4に対し、セルロースアセテートを生成するための反応速度は同様であった。セルロースアセテート試料の分子量(約22,000)(下記表2)は、例4において観察されたよりも著しく低く、そして例1,2および3(上記表1)で観察されたよりも大幅に低かった。例4について観察されたように、例5の試料の多分散は全て2未満であり、例1,2および3の試料で観察されたよりも小さかった。
【0162】
この例は、セルロース濃度が10wt%に増大している場合にも、水湿潤セルロースが、イオン液体中の良好なセルロース分散および急速なセルロース溶解を招来することを示す。セルロースアセテートの形成のための反応速度は急速である。驚くべきことに、水湿潤セルロースは、この濃度で、乾燥セルロースに対して、更により低い分子量のセルロースアセテート(低い多分散性のもの)を招来する。水湿潤セルロースから形成されたセルロースアセテートは、乾燥セルロースを用いる場合に対してより良好なアセトン溶解性を有する。
【0163】
例6−水による改良、MSA第2成分
三つ口の100mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、51.82gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。[BMIm]Clを添加する前に、ILを90℃で溶融させ、次いで、デシケーター内で保存した。フラスコを油浴中に配置して80℃まで加熱した。9.15g(15wt%)の微結晶セルロース(DP 約335)に、53.6gの水を添加した。手動混合後、セルロースを水中に50分間置いた後で、18.9gの湿潤セルロースケーキを与えるろ過を行なった。次いで、水湿潤セルロースを小分割量で[BMIm]Clに添加(5分の添加)した。2分以内に、セルロースはイオン液体中で微分散した。セルロースを[BMIm]Clに添加してから10分後、フラスコを減圧下に置いた。約1時間後、視認できるセルロース粒子は存在しなかった;溶液粘度は極めて高く、溶液は撹拌棒を上り始めた。溶液を1晩80℃で減圧下にて撹拌し続けた。
【0164】
赤外スペクトル分光は、セルロース溶解のために約1時間が必要であり、水を初期値まで揮散させるのに2時間が必要であったことを示した。17.28gのAc2O(3eq)と1.087g(0.2eq)のMSAとの混合物を滴下(8分)添加する前に、セルロース溶液を100℃まで加熱した。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて反応をサンプリングした。各アリコートからの固体を1Xで100mLのMeOHで洗浄し、次いで2Xで、8wt%の35%H22を含有するMeOHで洗浄した。次いで、固体試料を60℃、5mmHgで乾燥させた。約65分後、IRにより、全てのAc2Oが消費されたと思われた。実験を中止して残りの試料を上記のように加工した。
【0165】
図12は、例6についての吸収 対 時間のプロットであり、溶解過程の間の予浸漬水湿潤セルロースの溶解(1046cm-1)および残留水の混合物からの除去(1635cm-1)を示す。分かるように、水湿潤(活性化)セルロースの溶解は極めて急速(60分)であった(顕著量の水の存在および15wt%セルロースの使用に関わらず)。更により驚くべきことは、この高いセルロース濃度での水の急速な除去(約2時間)である。
【0166】
図13は、例6についての吸収 対 時間のプロットであり、実験中の、セルロースのアセチル化(1756,1741,1233cm-1)、Ac2Oの消費(1822cm-1)、および酢酸の共生成(1706cm-1)を示す。図13中に示すDS値は、NMRスペクトル分光法によって評価し、そして接触時間の過程の間に取出した試料に対応する。セルロース濃度の増大(15wt%)にも関わらず、無水酢酸は容易にセルロース溶液中に100℃で混合できた。より高い反応温度は、反応速度の増大を招来した。繰り返すが、セルロースアセテート試料の分子量(約22,000)(下記表2)は、例1,2および3(上記表1)(使用前にセルロースを乾燥させたもの)において観察されたよりも著しく低く;例6の試料の多分散も2未満である。
【0167】
この例は、セルロース濃度が15wt%に増大している場合にも、水湿潤セルロースが、イオン液体中の良好なセルロース分散および急速なセルロース溶解を招来することを示す。この例はまた、より高温(100℃)が、セルロースアセテートの形成のための反応速度を増大させることを示す。驚くべきことに、水湿潤セルロースは、この濃度で、乾燥セルロースに対して、更により低い分子量のセルロースアセテート(低い多分散性のもの)を招来する。水湿潤セルロースから形成されたセルロースアセテートは、乾燥セルロースを用いる場合に対してより良好なアセトン溶解性を有する。
【0168】
【表2】

【0169】
例7−混和性共溶媒
三つ口の100mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、58.79gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。[BMIm]Clを添加する前に、ILを90℃で溶融させ、次いで、デシケーター内で保存した。フラスコを油浴中に配置して80℃まで加熱した。80℃に達した後、IRスペクトルの収集を始めた後で、1.82g(3wt%)の氷酢酸を添加した。混合物を12分間撹拌した後で、10.38g(15wt%)のセルロース(DP 335)を水湿潤セルロースケーキとして添加した(10.29gの水、セルロースを50分間過剰水中に浸漬することにより準備、9分添加)。混合物を約9分間撹拌してセルロースを分散させた後で、減圧を適用した。約65分後、赤外スペクトル分光は、全てのセルロースが溶解したことを示した(図14)。撹拌を更に70分間続けた後で、1.82gの氷酢酸(全6wt%)を添加した。溶液粘度を低減するために、酢酸を添加してから8分後に撹拌を止め、そして油浴温度を100℃まで上げた。100℃に達した(45分間)後、撹拌を再開した。赤外スペクトル分光は、撹拌再開時点で、酢酸がセルロース溶液と良好に混合されていたことを示した。最終溶液は明澄であり、何らのセルロース粒子も観察されなかった。10日間置いた後、セルロース溶液はなお明澄であり、そして手動で室温にて撹拌できた(これは、[BMIm]Cl中15wt%セルロース溶液で、酢酸不存在下ではできない)。
【0170】
この例は、顕著量の、セルロースアシル化と親和性の混和性共溶媒(例えばカルボン酸)が、セルロース−イオン液体試料と混合できる一方、セルロース溶解性をなお維持することを示す。共溶媒は、溶液粘度を低減させるという追加の利点を有する。
【0171】
例8−ランダム化
三つ口の250mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、149.7gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。フラスコを油浴中に配置して80℃まで加熱した。微結晶セルロース(12.14g、7.5wt% DP 約335)を、68.9gの水に添加した。手動混合後、セルロースを水中に45分間60℃で置いた後で、24.33gの湿潤セルロースケーキを与えるろ過を行なった。次いで、水湿潤セルロースを小分割量で[BMIm]Clに添加(5分の添加)した。セルロースを[BMIm]Clに添加してから約15分後、減圧を約120mmHgで開始して約1.4mmHgまで徐々に低くすることによってフラスコを減圧下に置いた。約85分後、何らの視認できるセルロース粒子も存在しなかった;IRスペクトル分光は、全てのセルロースが溶解したことを示した。溶液を1晩80℃にて減圧下で撹拌し続けた。
【0172】
80℃に加熱したセルロース溶液に、22.93gのAc2O(3eq)と1.427g(0.2eq)のMSAとの混合物を滴下(15分)添加した。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて反応をサンプリングした。各アリコートからの固体を3Xで100mL分量のMeOHで洗浄し、次いで60℃、5mmHgで乾燥させた。Ac2O添加の開始から192分でアリコートを取出した後、1.21gのMeOHを接触混合物に添加した。接触混合物を更に120分間撹拌した後で、1.95gの水を添加した。次いで、接触混合物を1晩80℃で(14時間40分)撹拌し、この時点で実験を中止して残りの試料を上記のように加工した。
【0173】
接触混合物から取出した、単離された試料についての接触時間、DSおよび分子量を以下で表3に纏める。
【0174】
【表3】

【0175】
接触時間の増大とともに、DSは増大し(水が添加されるまで)、そしてMwは低下した。接触時間の開始から57分後に、セルロースアセテート試料のDSは2.56、およびMwは21,736であった。MeOH/水を添加する前に、DSは2.73、およびMwは20,452であった。水接触時間の後、単離されたセルロースアセテートのDSは2.59、およびMwは21,005であり、DSが低下したがMwは変わらなかったことを示した。
【0176】
図15は、直接アセチル化によって製造されたセルロースアセテート(DS=2.56)およびランダム化後(DS=2.59)のプロトンNMRスペクトルを示す。無水グルコースモノマーに付いている環プロトンとアセチル置換基に付いているアセチルプロトンとの両者が示されている。図15は、これらの2種のセルロースアセテートが殆ど本質的に同じDSを有するとしても、これらは大幅に異なるモノマー量を有することを示す。
【0177】
例9−MSA第2成分、最少量のアシル化試薬
三つ口の100mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、60.47gの1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。フラスコを油浴中に配置して80℃まで加熱した。微結晶セルロース(9.15g、7wt%、DP 約335)を、27.3gの水に添加した。手動混合後、セルロースを水中に50分間60℃で置いた後で、9.44gの湿潤セルロースケーキを与えるろ過を行なった。次いで、水湿潤セルロースを小分割量で[AMIm]Clに添加(5分の添加)した。セルロースを[AMIm]Clに添加してから約15分後、減圧を約120mmHgで開始して徐々に低くすることによってフラスコを減圧下に置いた。約40分後、何らの視認できるセルロース粒子も存在しなかった;IRスペクトル分光は、全てのセルロースが溶解したことを示した。溶液を1晩80℃にて減圧下で撹拌し続けた。
【0178】
80℃に加熱したセルロース溶液に、8.58gのAc2O(3eq)と537mg(0.2eq)のMSAとの混合物を滴下(5分)添加した。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、反応時間全体を通じて反応をサンプリングした。各アリコートからの固体を3Xで100mL分量のMeOHで洗浄し、次いで60℃、5mmHgで乾燥させた。IRによって、全てのAc2Oが消費されたと思われた後、実験を中止して残りの試料を上記のように加工した。
【0179】
接触混合物から取出した、単離された試料についての接触時間、DSおよび分子量を以下で表4に纏める。
【0180】
【表4】

【0181】
反応開始から5分後、第1のセルロースアセテート試料のDSは1.74、およびMwは36,192であった。接触時間の増大とともに、DSは増大し、そしてMwは低下した。109分後に、DSは2.82、およびMwは30,808であった。この例は、例11(5eqのAc2O、6.5時間の接触時間)の従来方法と比べて、例9の方法が、より高いDSおよびセルロースアセテート分子量の顕著な低減を与えることを示す。例えば、従来方法の例11では、DS2.42およびMw50,839のセルロースアセテートを与えるために6.5時間が必要である一方、例9では、DS2.48およびMw31,811のセルロースアセテートは15分間で得られた。
【0182】
例10−従来のセルロースエステル製造(比較)
29.17gの[BMIm]Cl中に溶解したセルロースの溶液(5wt%)を油浴で80℃まで加熱した。溶液を、撹拌しながら2時間、減圧下(約7mmHg)で保持した。セルロース溶液に4.6g(5eq)のAc2Oを添加した(5分添加)。反応過程の間、溶液色は徐々により濃色(茶色)になった。2.5時間後、溶液はゲル化したため、接触溶液を室温まで冷やした。溶液を水に添加することによって生成物を単離し、次いでホモジナイズして分散ゲル/粉末を得た。混合物をろ過して水で広範囲に洗浄した。固体を減圧下で50℃にて乾燥させた後、2.04gのピンク色粉末を得た。これはアセトンに不溶であった。1HNMRによる分析は、試料のDSが2.52、およびMwが73,261であることを示した。
【0183】
例11−従来のセルロースエステル製造(比較)
三つ口の100mL丸底フラスコに、機械撹拌およびN2/減圧入口を付け、33.8gの1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロリドを添加した。急速に撹拌しながら、1.78gの乾燥セルロース粉末(DP 約335)を添加した。フラスコを減圧下(2mmHg)に置き、そして混合物を室温で撹拌してセルロースを確実に良く分散させた。15分後、セルロースは良く分散し、溶液粘度は上昇した。フラスコを油浴中に置いて80℃まで加熱した。40分後、全てのセルロースが溶解した。溶液を80℃で6.5時間維持した後で、溶液を室温まで冷やし、そして1晩置いた。
【0184】
粘稠な溶液を80℃まで加熱した後で、5.6g(5eq)のAc2Oを滴下(15分)添加した。5時間後、混合物を300mLのMeOH中に注ぐことによって生成物を単離した。MeOH/固体スラリーを約30分間撹拌した後で、ろ過して液体を除去した。次いで溶液を2つの200mL分量のMeOH中に取り上げ、そしてスラリーを約30分間撹拌した後で、ろ過して液体を除去した。固体を1晩55℃(6mmHg)で乾燥させ、これは濁ったアセトン溶液を与える2.27gの粉末を与えた。1HNMRおよびGPCによる分析は、試料のDSが2.42、およびMwが50,839であることを示した。
【0185】
例12−MSA第2成分、長鎖脂肪族セルロースエステル
[BMIm]Cl中に溶解したセルロースの溶液(5wt%)を油浴で80℃まで加熱した。溶液を、撹拌しながら4時間、減圧下(約2.5mmHg)で保持した。セルロース溶液に、10.88g(5eq)の無水ノナン酸および141mgのMSAの混合物を添加した(25分添加)。18.5時間後、溶液を室温まで冷やした後で、これを、80:20 MeOH:H2Oの溶液中に注いだ。ろ過後、85:15 MeOH:H2O、次いで95:5 MeOH:H2Oで固体を広範囲に洗浄した。試料を減圧下で乾燥させ、これは、イソドデカン中に可溶な3.7gの白色粉末を与えた。1HNMRによる分析は、生成物がDS2.49のセルロースノナノエートであることを示した。
【0186】
この例の方法によって高置換度のセルロースノナノエートを得ることは、DSが約1.5を超える長鎖脂肪族セルロースエステルはイオン液体中では製造できないという従来技術を考慮すれば驚くべきことである。
【0187】
例13−MSA第2成分、C3およびC4脂肪族セルロースエステル
[BMIm]Cl中に溶解したセルロースの溶液(5wt%)を油浴で80℃まで加熱した。溶液を、撹拌しながら1晩、減圧下(約6mmHg)で保持した。セルロース溶液に、7.91g(5eq)の無水酪酸と190mgのMSAとの混合物を添加した(25分添加)。2.6時間後、溶液を室温まで冷やした後で、これを水中に注いだ。固体を広範囲に水で洗浄した後で、減圧下で乾燥させ、アセトン中および90:10 CHCl3:MeOH中に可溶の2.62gの白色粉末を与えた。1HNMRによる分析は、生成物がDS2.59のセルロースブチレートであることを示した。
【0188】
この例は、高い置換度のC3およびC4脂肪族セルロースエステルが、この例の方法によって製造できることを示す。
【0189】
例14−セルロース溶液のホモジナイズ
1L平底ケトルに、193.6gの固体[BMIm]Clを添加した。三つ口の頂部をケトル上に配置して、ケトルにN2/減圧入口および機械撹拌を付けた。次いでケトルを80℃の油浴中に配置し、撹拌しながら[BMIm]Clを6mmHg減圧下で溶融させた。[BMIm]Clが完全に溶融した後、10.2gの予め乾燥させたセルロース(DP 約335)を添加して、混合物をHeidolph Silent Crusherでホモジナイズした。約3分間のホモジナイズ後、本質的に全てのセルロースが溶解した。溶液を減圧下(6mmHg)で更に1.5時間撹拌し、この時点で全てのセルロースが溶解した。
【0190】
この例は、強力な混合を用いてセルロースを分散(増大した表面積)させることができ、これが急速なセルロース溶解を招来することを示す。
【0191】
例15−アセトン溶解性
セルロースアセテートのアセトン中での溶解性を以下のように評価した:アセトン(Burdick&Jackson 高純度グレード)を、使用前に、4Aモレキュラーシーブス(Aldrichから購入し、オーブン内で125℃で貯蔵した)を用いて乾燥させた。全てのセルロースアセテートを、使用前に減圧オーブン(Eurotherm 91 e)内で60℃、5mmHgで少なくとも12時間乾燥させた。各セルロースアセテートを2つのドラムバイアル(100mg±1mg)中に量り入れ、そして次いで、1mL±5μlの乾燥アセトンをバイアルに添加した(バイアルはVWRから得た)。次いで、バイアルを超音波浴(VWR,モデル75HT)中に置いて、室温で30〜120分間超音波処理し、次いで、回収およびボルテックス(VWR minivortexer)を室温で速度設定10にて行なった。セルロースアセテートが溶解していると思われたが溶解速度が遅いと思われた場合には、バイアルをローラー上に置き、1晩雰囲気温度で混合(毎分約15回転)した。混合時間に次いで、各セルロースアセテートの溶解性を以下のように評定した:
【0192】
【表5】

【0193】
評定1のセルロースアセテートは、アセトン溶解性または関係する溶媒(例えば、フタル酸ジエチル)中での溶解性が決定的因子である全ての用途(例えば、アセテート繊維の溶媒紡糸または可塑化セルロースアセテートの溶融加工)において極めて有用である。評定2または3のセルロースアセテートは、不溶粒子を除去するための追加のろ過、および/またはこれらが実用性を有する前の共溶媒の使用を必要とする。評定4〜6のセルロースアセテートは、これらの用途において実用性を有さない。よって、評定1のセルロースアセテートが高度に所望される。
【0194】
例3−6,8,9において製造されるセルロースアセテートのアセトン中での溶解性を、例1,2におけるセルロースアセテートおよび従来方法によって製造されるセルロースアセテート(例15−1〜15−6)の溶解性と比較(下記表5)する。従来方法によって製造されるセルロースアセテートは、セルロースのアセチル化によって製造され、セルローストリアセテートを形成し、H2SO4触媒でのDS低減、ランダムコポリマーであるセルロースアセテートをもたらすことが公知のプロセスが続く。水の不存在下(乾燥アセトン)、これらのセルロースアセテートのアセトン溶解性は、狭い範囲(約2.48〜約2.52)に限られることが公知である。
【0195】
【表6】

【0196】
表5の注意深い試験によって、第2成分の存在下で、イオン液体中に溶解したセルロースのアセチル化によって製造されるDS約2.42〜約2.15のセルロースアセテート(例3−6,8,9)が全てアセトン溶解性評定1を有することが明らかである。すなわち、これらの試料の全てが、透明なアセトン溶液(この中に何ら視認できる粒子が存在しない)をもたらす。これに対し、第2成分の不存在下で、イオン液体中に溶解したセルロースのアセチル化によって製造されるセルロースアセテート(例1および2)は、DSに関わらずアセトン溶解性評定4〜5を有する。例えば、例1−2(第2成分なし)はDS2.25を有し、そしてこのセルロースアセテートはアセトン中でゲルを形成する一方、例8−3および9−2(第2成分を含む)はDS2.24を有し、これらのセルロースアセテートは透明なアセトン溶液をもたらす。従来方法によって製造されるセルロースアセテートについて公知であることと一致し、試験されたセルロースアセテートのうち1つのみ(15−1、DS=2.48)がアセトン溶解性評定1を有する。例15−3(DS=2.16)はアセトン溶解性評定3を有し、アセトン溶解性評定1を有する例4−3および8−2(DS=2.15)に反している。
【0197】
この例は、第2成分の存在下、イオン液体中に溶解したセルロースのアセチル化によって製造されるセルロースアセテートがDS約2.4〜約2.1を有し、透明なアセトン溶液をもたらすことを示す。第2成分の不存在下では、セルロースアセテートはいずれも透明なアセトン溶液をもたらさない。更に、第2成分の存在下、イオン液体中に溶解したセルロースのアセチル化によって製造されるセルロースアセテートを使用する場合に透明なアセトン溶液をもたらすDS範囲は、従来方法によって製造されるセルロースアセテートに対して、より広くかつ低い。理論に拘束されることを望まないが、証拠が、これらの溶解性の差異がコポリマー組成の差異を反映することを示す。
【0198】
例16−[BMIm]アセテートの精製
1Lの三つ口丸底フラスコに、360mLの水、1.30gの酢酸、および5.68gのBa(OH)2・H2Oを添加した。混合物を80℃まで加熱し、半透明の溶液を与えた。この溶液に、300gの工業[BMIm]OAcを滴下(1時間添加)添加した(XRFによる評価で0.156wt%の硫黄を含有)。溶液を更に1時間80℃で保持した後で、溶液を室温まで冷やした。反応の間に形成された固体を遠心分離により除去した後で、溶液を減圧下(60〜65℃、20〜80mmHg)で淡黄色液体に濃縮した。液体を2つの300mL分量のEtOAcで抽出した。液体をまず60℃、20〜50mmHgで、次いで90℃、4mmHgで濃縮して、297.8gの淡黄色油を得た。プロトンNMRにより、[BMIm]OAcの形成が確認され、これはXRFによれば0.026wt%の硫黄を含んでいた。
【0199】
例17−[BMIm]プロピオネートの製造
1Lの三つ口丸底フラスコに、400mLの水、62.7gの酢酸、および267gのBa(OH)2・H2Oを添加した。混合物を74℃まで加熱し、半透明の溶液を与えた。この溶液に、100gの工業[BMIm]HSO4を滴下(1.75時間添加)添加した。溶液を更に74〜76℃で30分間保持した後で、溶液を室温まで冷やし、1晩(約14時間)置いた。反応の間に形成された固体をろ過により除去した後で、溶液を減圧下で、濃縮中に形成された固体を含有する油に濃縮した。固体を遠心分離で除去して琥珀色液体を得た。更なる生成物が、固体をEtOH中でスラリー化して遠心分離することにより得られた。液体をまず60℃、20〜50mmHgで、次いで90℃、4mmHgで濃縮して、65.8gの琥珀色油を得た。プロトンNMRにより、[BMIm]OPrの形成が確認され、これはXRFによれば0.011wt%の硫黄を含んでいた。
【0200】
例18−[BMIm]ホルメートの製造
300mLのオートクレーブに、25gの1−ブチルイミダゾール、45.4g(3.75eq)のメチルホルメート、および21mLのMeOH(2.58eq)を添加した。オートクレーブを1035kPaに加圧した後で、溶液を150℃まで加熱した。接触溶液を150℃で18時間維持した。溶液を室温まで冷やした後で、揮発性成分を減圧下で除去した。粗反応混合物のプロトンNMRにより、1−ブチルイミダゾールの89%が[BMIm]ホルメートに変換されたことが明らかになった。精製[BMIm]ホルメートは、1−ブチルイミダゾールを粗生成物から蒸留によって除去することにより得た。
【0201】
例19−メチルアセテートを用いた[BMIm]ホルメートの[BMIm]アセテートへの変換
300mLのオートクレーブに、25gの[BMIm]ホルメート、50.3g(5.0eq)のメチルアセテート、および50mLのMeOH(9eq)を添加した。オートクレーブを1035kPaに加圧した後で、溶液を170℃まで加熱した。接触溶液を170℃で15.3時間維持した。溶液を室温まで冷やした後で、揮発性成分を減圧下で除去した。反応混合物のプロトンNMRにより、[BMIm]ホルメートの57%が[BMIm]アセテートに変換されたことが明らかになった。
【0202】
例20−無水酢酸を用いた[BMIm]ホルメートの[BMIm]アセテートへの変換
25mLの一つ口の丸底フラスコに、11.1gの[BMIm]ホルメートを添加した。無水酢酸(6.15g)を[BMIm]ホルメートに滴下添加した。添加の間、ガスの発生を記録し、更に溶液を加温(47℃)した。次いでフラスコを予熱された50℃の水浴中に45分間置いた後で、減圧(4mmHg)を適用して80℃まで加熱して揮発性成分を除去した。1HNMRによる、得られる液体の分析は、出発物質の[BMIm]アセテートへの100%変換を示した。
【0203】
例21−酢酸を用いた[BMIm]ホルメートの[BMIm]アセテートへの変換
300mLのオートクレーブに、25gの[BMIm]ホルメート、87.4g(6.3eq)の酢酸、および23.1gのMeOH(5.3eq)を添加した。オートクレーブを1035kPaに加圧した後で、溶液を150℃まで加熱した。接触溶液を150℃で14時間維持した。溶液を室温まで冷やした後で、揮発性成分を減圧下で除去した。反応混合物のプロトンNMRにより、[BMIm]ホルメートの41%が[BMIm]アセテートに変換されたことが明らかになった。
【0204】
例22−メチルホルメートを用いた[BMIm]アセテートの[BMIm]ホルメートへの変換
1Lのオートクレーブに、100.7gの[BMIm]アセテート、152.5g(5eq)のメチルホルメート、および200mLのMeOH(9.7eq)を添加した。オートクレーブを1035kPaに加圧した後で、溶液を140℃まで加熱した。接触溶液を140℃で18時間維持した。溶液を室温まで冷やした後で、揮発性成分を減圧下で除去した。反応混合物のプロトンNMRにより、[BMIm]アセテートの100%が[BMIm]ホルメートに変換されたことが明らかになった。
【0205】
例23−高硫黄および低硫黄の[BMIm]OAcの比較
23A:
100mLの三つ口丸底フラスコに、32.75gの工業高硫黄[BMIm]OAc(0.156wt%硫黄)および1.72gのセルロース粉末を添加した。この混合物を雰囲気温度で簡単にホモジナイズした後、フラスコを予熱した80℃油浴中に置いた。混合物を80℃、2mmHgで1.75時間撹拌し、セルロースを完全に溶解させるためには約15分が必要であった。わら色溶液を室温まで冷やし、減圧下で1晩(約14時間)置いた。
【0206】
機械撹拌された溶液に、メタンスルホン酸(MSA,210mg)および無水酢酸(5.42g,5eq/AGU)の溶液を滴下(23分)添加した。添加の終点で、接触混合物の温度は35℃であり、そして溶液は濃琥珀色であった。添加開始から1.5時間後、5.5gの接触混合物を取出して、生成物をMeOH中の沈殿により単離した。次いで、接触混合物を50℃まで加熱し(25分の昇温時間)、そして1.5時間撹拌した後で、6.5gの溶液を取出してMeOH中に注いだ。残りの接触溶液を80℃まで加熱し(25分の昇温)、そして2.5時間撹拌した後、MeOH中に注いだ。MeOH中の沈殿により得られた全ての固体をろ過によって単離し、MeOHで広範囲に洗浄し、そして1晩50℃、5mmHgで乾燥させた。
【0207】
23B:
23Aと同一の反応を、37.02gの低硫黄[BMIm]OAc(0.025wt%硫黄,例1参照)、1.95gのセルロース、6.14gの無水酢酸、および222mgのMSAを用いて並列で実施した。
【0208】
単離した生成物のグラムおよび各生成物の分析を下記表6に纏める。
【0209】
【表7】

【0210】
上記表6から分かるように、低硫黄[BMIm]OAcを溶媒として用いて形成されたCAと比べて、高硫黄[BMIm]OAcを溶媒として用いて形成されたCAのDSはより高く、そして分子量はより低い。上昇した温度およびより長い接触時間にも関わらず、DSは、いずれの[BMIm]OAcを溶媒として用いたかに関わらず、1.5時間の室温での接触時間の後に観察されたものよりも顕著には増大しなかった。この例の他の注目すべき特徴は、溶液および生成物の色であった。高硫黄[BMIm]OAc溶媒を含む接触溶液は全温度で黒色であった一方、低硫黄[BMIm]OAc溶媒を含む接触溶液は、無水物の添加前のこれらの溶液で典型的であるわら色を保持した。高硫黄[BMIm]OAc溶媒から得られたCA固体は茶色から黒色の外観であった一方、低硫黄[BMIm]OAc溶媒から得られたCA固体は白色であり、適切な溶媒中の溶解時には無色溶液を与えた。
【0211】
この例は、高硫黄[BMIm]OAc中の不純物(例えば硫黄またはハロゲン化物)が、[BMIm]OAc中に溶解したセルロースのエステル化における触媒として作用し得ることを示す。しかし、同じ不純物は、CAが実用的な値を有さないような様式で、生成物の分子量および品質に対して負に影響する。セルロースが、これらの不純物を全くまたは殆ど含有しない[BMIm]OAc中に溶解している場合には、高品質CAを得ることができる。適切な触媒の導入により、所望のDSを有する高品質CAを予測可能な様式で得ることができる。
【0212】
例24−高塩化物[EMIm]OAc中でのセルロースのアセチル化
セルロース(1.19g)を22.65gの工業[EMIm]OAc(これは、XRFによれば、0.463wt%の塩化物を含有していた)中に溶解させ、80℃への加熱前に混合物をホモジナイズしなかったことを除いて、例8で説明した一般的な手順に従った。
【0213】
機械撹拌された、80℃に予熱されたわら色の溶液に、MSA(141mg)および無水酢酸(3.76g,5eq/AGU)の溶液を滴下(10分)添加した。添加の終点までに、接触混合物は濃茶黒色になった。接触溶液を2.5時間撹拌した後で、H2O中に注いだ。得られた固体をろ過によって単離し、H2Oで広範囲に洗浄し、そして1晩50℃、5mmHgで乾燥させた。これにより、1.57gの茶黒色CA粉末が得られた。分析により、CAのDSが2.21、およびMwが42,206であったことが明らかになった。
【0214】
この例は、高レベルのハロゲン化物を含有する[EMIm]OAcが、セルロースのエステル化のための好適な溶媒ではないことを示す。
【0215】
例25−[BMIm]Clおよび[BMIm]OAc中でのセルロースのアセチル化
25A:
予め乾燥させたセルロース(13.2g)および固体[BMIm]Cl(250.9g,mp=70℃)をガラス瓶中で組合せた。ガラス瓶を予熱した40℃の減圧オーブン内に置き、そして80℃まで3時間かけて加熱した。試料を減圧下に80℃で約14時間置いた後、瓶を取出した。試料を直ちにホモジナイズし、セルロースの明澄な溶液を与えた。
【0216】
100mLの三つ口丸底フラスコに、上記で調製した33.6gのセルロース溶液を添加した。フラスコを予熱した80℃の油浴中に置き、そして減圧(7〜8mmHg)を適用した。次いで、溶液を21時間、80℃および減圧下で撹拌した。次いで、セルロース溶液を38℃まで冷やし;温度は、溶液粘度に起因してこれ以上は低くできなかった。無水酢酸(5.3g,5eq/AGU)を7分間かけて滴下添加した。次いで、接触混合物を32〜35℃で2時間撹拌した後、少量の溶液を取出してMeOH中に注ぎ、セルロースアセテートの沈殿を得た。次いで、残りの接触混合物を50℃まで加熱して、その温度で1.6時間保持した後で、少量の溶液を取出してMeOH中に注ぎ、セルロースアセテートを沈殿させた。次いで、残りの接触混合物を80℃まで加熱して、その温度で1.5時間保持した後で、溶液を冷やし、そして60mLのMeOHを添加してセルロースアセテートを沈殿させた。全3試料を広範囲にMeOHで洗浄し、次いで50℃で、5mmHgで1晩乾燥させた。
【0217】
25B:
100mLの三つ口丸底フラスコに、上記で調製した31.3gのセルロース溶液を添加した。先の反応と同じ一般的な手順を用い、38℃に冷やす前にZn(OAc)2(0.05eq/AGU)をセルロース溶液に添加したことを除いて従った。
【0218】
25C:
100mLの三つ口丸底フラスコに、27.41gの低硫黄[BMIm]OAc液(例16参照)および1.44gのセルロースを添加した。フラスコを予熱した80℃油浴中に置き、混合物を1晩(約14時間)2mmHg減圧下で撹拌した。
【0219】
溶液を室温(25.1℃)まで冷やした後、Ac2O(5eq/AGU)をセルロース溶液に滴下(25分添加)添加した。接触混合物を1.8時間室温で撹拌した後で、小分割量の溶液を取出してMeOH中に注ぎ、セルロースアセテートを沈殿させた。残りの接触混合物を50℃まで加熱してその温度で1.5時間保持した後で、小分割量の溶液を取出してMeOH中に注ぎ、セルロースアセテートを沈殿させた。残りの接触混合物を80℃まで加熱してその温度で2.5時間維持した後で冷やし、MeOH中に注いだ。全3試料を広範囲にMeOHで洗浄し、次いで50℃で、5mmHgで1晩乾燥させた。
【0220】
25D:
100mLの三つ口丸底フラスコに、25.55gの低硫黄[BMIm]OAc液(例16参照)および1.35gのセルロースを添加した。フラスコを予熱した80℃油浴中に置き、混合物を1晩(約14時間)2mmHg減圧下で撹拌した。先の反応と同じ一般的な手順を用い、室温に冷やす前にZn(OAc)2(0.05eq/AGU)をセルロース溶液に添加したことを除いて従った。
【0221】
これらの4つの比較反応(25A〜25D)によって単離されたセルロースアセテートの分析を下記表7に纏める。
【0222】
【表8】

【0223】
この比較例は、多くの重要な点を示す。[BMIm]Clの場合、セルロースアセテートのDSは、各接触時間−温度で0.57から2.27に増大する。DSが、各接触時間−温度で、触媒として作用するZn(OAc)2に起因してより高いことを除いて、同じ傾向が[BMIm]Cl+Zn(OAc)2で観察される。[BMIm]OAcの場合、Zn(OAc)2を伴いまたは伴わず、DSは、室温で増大した接触時間−温度で得られたものからは顕著には変化せず;総DSは、Zn(OAc)2の作用によって顕著に増大する。この予期しない観察は、[BMIm]OAc中に溶解したセルロースのアセチル化が、[BMIm]Cl中に溶解したセルロースのアセチル化において観察されたものに対して、より低温で大幅により速いことを示す。Znのような遷移金属が、イオン液体中に溶解したセルロースのアシル化を触媒または促進することにおいて極めて有効であることにも留意すべきである。最後に、[BMIm]OAc中に溶解したセルロースのアセチル化によって得られるセルロースアセテートの分子量が、セルロースが[BMIm]Cl中に溶解している場合に対して顕著により大きいことにも留意すべきである。
【0224】
例26−混合セルロースエステルの製造
以下の一般的な手順を用いてセルロース混合エステルを製造した。100mLの三つ口丸底フラスコに、所望量の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカルボキシレートを添加した。室温で撹拌しながら、5wt%セルロースをゆっくりイオン液体に添加した。セルロースをイオン液体中に分散させた後、フラスコを減圧下(2〜5mmHg)に置き、そして接触混合物を80℃まで加熱した。次いで、接触溶液を約2時間撹拌した後で、0.1eq/AGUのZn(OAc)2を添加した。接触溶液を約30分間撹拌した後で、溶液を室温まで冷やし、そして1晩(約14時間)置いた。
【0225】
接触溶液をN2下に置いた後で、5eq/AGUの所望の無水カルボン酸を滴下添加した。添加を完了させた時点で、フラスコを、予熱した40℃の油浴中に置いた。接触混合物を5時間撹拌した後で、溶液を冷やしてMeOH中に注いだ。得られた固体をろ過によって単離し、広範囲にMeOHで洗浄し、そして減圧中(50℃、5mmHg)で乾燥させた。生成物を1HNMRによって特性化した。結果を下記表8に纏める。
【0226】
【表9】

【0227】
表8において、比較の目的で、個別の置換基のDSを3.0に規格化したことに留意のこと。この例が示すように、セルロースがアルキルイミダゾリウムカルボキシレート中に溶解して、イオン液体のアニオンと異なる無水カルボン酸と接触された場合、生成物はセルロース混合エステルである。すなわち、セルロース置換基は、添加された無水物およびアルキルイミダゾリウムカルボキシレートに由来する。結果として、アルキルイミダゾリウムカルボキシレートは、アシル供与体として作用している。
【0228】
例27−カルボン酸の除去
in situ赤外プローブを備えた4容器Multimax高圧反応器の各容器に、予め乾燥させた[BMIm]OAc、イオン液体基準で1モル当量の酢酸、酢酸基準で異なるモル量のMeOH、および任意に触媒(2mol%)を添加した。各容器内の圧力を、5barまで3分間かけて増大させた後で、接触温度を140℃まで25分間かけて上げた。次いで、接触混合物を140℃で10〜15時間保持し、そして各容器内の反応を赤外スペクトル分光法によって監視した。容器を25℃まで30分間かけて冷やした。次いで、各容器の内容物を、減圧下で濃縮して、全ての揮発性成分を除去した後で、各試料をプロトンNMRによって分析した。図16は、赤外スペクトル分光法によって評価した場合の酢酸wt% 対 時間のプロットを示し;酢酸の最終濃度を1HNMRによって確認した。図16は、全ての場合で、反応が9〜10時間以内に完了したことを示す。反応の速度および範囲に影響する最も顕著な要素は、MeOHのモル当量の数であった。[BMIm]OAc中に残っている酢酸wt%は、7.4wt%〜2.2wt%の範囲であった。
【0229】
典型的な蒸留技術で、過剰のカルボン酸濃度を、カルボキシル化イオン液体基準で1モル当量未満で得るのは極めて困難である。[BMIm]OAc中の酢酸の場合、これは酢酸約23wt%に対応する。この例は、酢酸のメチルアセテート(これは大幅により容易に除去される)への変換によって、残留酢酸の量を23wt%未満まで良好に低減できることを示す。除去される酢酸の量は、初期に存在する酢酸の量、MeOHの濃度、接触時間および接触温度に左右される。この例において示すように、全ての残留カルボン酸を除去することは必要でなく;多くの場合、残留カルボン酸を有することが望ましい。
【0230】
例28−イオン液体中のセルロースの溶解性
異なる量の酢酸を含有する1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートの試料を、2オンス瓶中で、80℃±5℃、約3mmHgにて1晩(約14時間)乾燥させた。例28−1〜28−5は、例27の方法によって製造した。例28−6〜28−8は、公知量の酢酸をストレートの[BMIm]OAc(表)に添加することによって製造した。セルロース(5wt%,DP 335)を各[BMIm]OAc試料に添加し、各試料を簡単にホモジナイズした。各試料をマイクロ波反応容器に移し、次いでこれを気密蓋でキャップし、次いで48セルのマイクロ波ローター内に置いた。ローターを、Anton Paar Synthos 3000マイクロ波中に置いて、セルロース−[BMIm]OAc混合物を100℃まで3分ランプを用いて加熱し、10分間保持した後で120℃まで3分ランプを用いて加熱し、そして5分間保持した。各容器の検査により、各例におけるセルロースが[BMIm]OAc中に溶解したことが示された。
【0231】
【表10】

【0232】
この例は、イオン液体中の過剰の残留カルボン酸を例27の方法により低減でき、次いで、セルロースエステルを製造するために溶液が使用できるように、再循環されたイオン液体を、セルロースを溶解させるために使用できることを示す。この例はまた、セルロースが、約15wt%以下のカルボン酸を含有するイオン液体中に溶解できることを示す。
【0233】
例29−イオン液体の再循環
500mLの平底ケトルに、299.7gの[BMIm]OAcを添加した。四つ口の頂部をケトル上に置き、そしてケトルにN2/減圧入口、React IR 4000ダイヤモンドチップIRプローブ、熱電対、および機械撹拌を付けた。ケトル内容物を減圧下(約4.5mmHg)に置き、そして80℃まで油浴を用いて加熱した。[BMIm]OAcからの水の除去に赤外スペクトル分光を続けた(図17)。約16時間後、油浴を取外してケトル内容物を室温まで冷やした。
【0234】
イオン液体に、3.77gのZn(OAc)2を添加した。混合物を約75分間撹拌してZn(OAc)2を溶解させた後で、ゆっくり、33.3g(10wt%)の予め乾燥させたセルロース(DP 約335)を26分間かけて添加した。混合物を室温で約4時間撹拌し、この時点で何らの粒子または繊維も半透明溶液中で視認できなかった;赤外スペクトルは全てのセルロースが溶解したことを示した(図18)。溶液を80℃まで加熱した。温度が60℃に達する時点までに、半透明溶液は完全に明澄になった。80℃に達した後、溶液を室温まで冷やした。
【0235】
セルロース−[BMIm]OAc溶液に、104.9gのAc2O(5eq)を70分間かけて滴下添加した。Ac2O添加の間、接触温度は、初期値の21.4℃から最大値の44.7℃まで上がった。赤外スペクトル分光は、Ac2Oが、添加されたのと近い速さで消費されたことを示した(図19)。全てのAc2Oが添加された時点で、接触温度は直ちに下がり始め、接触混合物は流体液からフレーク状のゲルになった。撹拌を更に3.5時間続けたが、赤外スペクトル分光では何らの変化も観察されなかった。
【0236】
次いでゲルを800mLのMeOHに撹拌しながら添加し、白色粉末の沈殿を生じさせた。ろ過による分離後、次いで固体を3回約800mL分量のMeOHで、次いで1回、11wt%の35wt%H22を含有する約900mLのMeOHで洗浄した。次いで固体を40℃、3mmHgで乾燥させ、60.4gの白色固体を得た。プロトンNMRおよびGPCによる分析により、固体がセルローストリアセテート(DS=3.0)(Mw58,725を有するもの)であることが明らかになった。セルローストリアセテート(13.6wt%)は、90/10 CH2Cl2/MeOH中で完全に可溶であり、これから明澄なフィルムをキャストできる。このようなフィルムは、液晶ディスプレイの組立ておよび写真用フィルムベースにおいて有用である。
【0237】
セルローストリアセテート単離による沈殿および洗浄液体を、減圧下50℃で、減圧が約3mmHgに下がるまで濃縮し、376.6gの液体を得た。プロトンNMRは、該液体が、約17wt%の過剰酢酸を含有する[BMIm]OAcであったことを示した。1.8Lのオートクレーブに、376.8gの回収[BMIm]OAcおよび483.8gのMeOHを添加した。オートクレーブ内の圧力をN2で100psiに調整した後で、容器の内容物を140℃まで加熱し、そして9時間保持した。室温まで冷やした後、揮発性成分を減圧下で除去し、299.8gの液体を与えた。プロトンNMRは、液体が、2.6wt%の過剰な酢酸を含有する[BMIm]OAcであることを示した。初期[BMIm]OAcの質量を水の量について補正する場合、再循環[BMIm]OAcの量は、100%回収に対応する。
【0238】
この例は、セルローストリアセテートを、イオン液体中に溶解したセルロースから迅速に製造できることを示す。この例はまた、過剰のカルボン酸をイオン液体から除去でき、そして再循環されたイオン液体を高収率で回収できることを示す。次いで、再循環されたイオン液体が、セルロースを溶解させるために使用できることによって、溶液をセルロースエステルの製造のために再度使用できる。
【0239】
例30−カルボキシル化イオン液体を形成するためのアニオン交換
小さいマグネチック撹拌棒を収容するバイアルに、4.2gの[BMIm]ホルメートを添加した。iC10ダイヤモンドチップIRプローブをバイアル内に挿入することにより、反応をin situで赤外スペクトル分光法により監視できた。[BMIm]ホルメートに、0.5eqのAc2Oを1分量で添加した。図20および21が示すように、[BMIm]ホルメートの50%が直ちに[BMIm]OAcに変換された。追加のスペクトルを収集して系を安定化した後で、別の0.5eqのAc2Oを1分量で添加した。赤外スペクトル分光は、残りの[BMIm]ホルメートが直ちに[BMIm]OAcに変換されたことを示した。
【0240】
この例は、Ac2Oの添加で[BMIm]ホルメートが急速に[BMIm]OAcに変換されることを示す。反応速度があまりに急速であるため、ガス放出がなくなるまで[BMIm]ホルメートをAc2Oで滴定できる。
【0241】
例31−アニオン交換の間のMeOHの効果
小さいマグネチック撹拌棒を収容するバイアルに、3.15gの[BMIm]ホルメートを添加した。iC10ダイヤモンドチップIRプローブをバイアル内に挿入することにより、反応をin situで赤外スペクトル分光法により監視できた。[BMIm]ホルメートに、2eqのMeOHを添加した。系が温度的に安定した後、1eqのAc2Oを[BMIm]ホルメートに1分量で添加した。図22および23が示すように、赤外スペクトル分光は、[BMIm]ホルメートが直ちに[BMIm]OAcに変換されたことを示した。
【0242】
この例は、[BMIm]ホルメートとAc2Oとが[BMIm]OAcを形成する反応が、Ac2OとMeOHとがMeOAcを形成する反応よりも大幅に速いことを示す。よって、[BMIm]ホルメートを[BMIm]OAcに変換する前にMeOHを[BMIm]ホルメートから除去する必要はない。
【0243】
例32−水改良およびMSAの効果
三つ口の250mL丸底フラスコ(5つのポートを与える2つのダブルネックアダプターを取付けたもの)に、機械撹拌、iC10ダイヤモンドチップIRプローブ、およびN2/減圧入口を付けた。該フラスコに、62.37gの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを添加した。
【0244】
5.06g(7.5wt%)のセルロース(DP 約335)に、20.68gの水を添加した。手動混合後、セルロースを水中に65分間60℃で置いた後で、10.78gの湿潤セルロースケーキを与えるろ過を行なった。次いで、水湿潤セルロースを小分割量で[BMIm]OAcに添加(5分の添加)した。5分以内に、セルロースはイオン液体中で良く分散した(数個の小さいクランプが見られた)。混合物を7分間撹拌した後で、予熱した80℃の油浴をフラスコに上げた。次いで、混合物を28分間撹拌した後で(視覚的に、ほぼ全てのセルロースが溶解した)、フラスコの内容物を減圧下にブリード弁の補助にてゆっくり置いた(図24)。1.5時間後、減圧は1.9mmHgであった。次いで、明澄な混合物を減圧下で1晩80℃にて撹拌した。
【0245】
明澄な溶液を室温まで冷やした後で(セルロースの添加の点から15時間45分で)、12.11g(3.8eq)のAc2Oと600mgのMSAとの混合物を滴下添加(28分添加)した。Ac2Oの添加の間に達した最大温度は46℃であった。Ac2O添加の完了から8分後、予熱した50℃の油浴をフラスコに上げた。混合物を16分間撹拌した後で、1.46gの水をゆっくり溶液に添加した(2分添加)。次いで、溶液を17分間撹拌した後で、追加の0.47gの水を添加した。次いで溶液を5時間9分撹拌した後で、溶液を室温まで冷やした。6〜10gアリコートの反応混合物を取出して100mLのMeOH中に沈殿させることによって、接触時間全体を通じて反応をサンプリングした(図25)。各アリコートからの固体を1回、100mL分量のMeOHで洗浄し、次いで2回、8wt%の35wt%H22を含有する100mLのMeOHで洗浄した。次いで、試料を60℃、5mmHgで1晩乾燥させた。
【0246】
この例は、本明細書で採用する方法の多くの利点を示す。図24から分かるように、水湿潤セルロースは、顕著量の水がなおイオン液体中に残っている場合にも、カルボキシル化イオン液体中で容易に溶解できる。図25で示すように、カルボキシル化イオン液体中でのこのセルロースのアシル化における反応の速度は極めて急速であり;顕著な濃度のAc2Oが何ら観察されないことは、Ac2Oが、その添加と同じくらい速く消費されることを示す。反応の急速な速度は、他のイオン液体中で観察されるものに対して、大幅に異なるモノマー分布を招来できる。例えば、図26は、[BMIm]OAc中に溶解した(上のスペクトル)および[BMIm]Cl中に溶解した(下のスペクトル)セルロースから得られるセルロースアセテート(DS=2.56)の無水グルコース環に付いているプロトンのプロトン共鳴を比較する。上のスペクトルにおける主要な共鳴の中心は、5.04、5.62、4.59、4.29、4.04、3.73、および3.69の近傍であり、トリ置換モノマーに対応する。下のスペクトルにおいて、存在するこれらの共鳴は、他の種類のモノマー共鳴に対して大幅により小さい。この発見は、反応の急速な速度が、異なるレベルのブロックセグメントを有する非ランダムセルロースエステルコポリマーを製造するための手段を与える点で顕著である。ブロックセグメントの範囲およびサイズは、混合、セルロースの前水処理または水処理なし、触媒の濃度および種類、接触温度等の因子に左右されることになる。図24に示すように、水を添加する前に3つの試料を採取した。これらの3試料のDSの範囲は2.48〜2.56であり、アセトン中10wt%で、これらは可溶で若干濁った溶液を与えた(溶解性評定2)。これに対し、水添加後に採取した2試料(DS 約2.52)は、アセトン中で不溶であった(溶解性評定6)。図27は、水添加の前後で[BMIm]OAc中に溶解したセルロースから得られたセルロースアセテートについての環プロトン共鳴を比較する。上のスペクトルは水添加後のセルロースアセテート(DS=2.53)に対応し、そして下のスペクトルは水添加前のセルロースアセテート(DS=2.56)に対応する。これらの2つのスペクトルの間の差異は、コポリマー中の異なるモノマー組成と一致する。
【0247】
例33−セルローストリアセテートの製造
三つ口の100mL丸底フラスコに、機械撹拌、およびN2/減圧入口を付け、34.63gの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを添加した。急速に撹拌しながら、6.11g(15wt%)の乾燥セルロース粉末(DP 約335)を添加した。フラスコを90℃の油浴中に置き、そして混合物を10分間撹拌した後で、減圧(2mmHg)を適用した。50分後、油浴温度を100℃に上げた。2時間25分後、油浴を止めて、溶液を減圧下で1晩置いておいた。
【0248】
セルロース溶液に、731mgのMSAと19.24g(5eq)のAc2Oとの混合物を滴下添加した。初期に、溶液をゆっくり撹拌することにより、溶液は、撹拌軸の周りに隆起しなかった。Ac2Oを添加するに従い、溶液粘度が低下した;約5mLの添加後、溶液は容易に撹拌され、撹拌速度は増大した。添加の間、溶液粘度は増大せず、何らの局所的なゲルも、最後の数滴のAc2Oが添加されるまで(40分の添加)観察されなかった。この時点で全接触混合物が突然ゲル化した。添加の終点までに、接触温度は24.1℃から47.5℃に上がった。添加の間、溶液の色の変化は殆どなかった。反応がゲル化した後、11.54gの反応混合物をスパチュラで取出し、MeOH中での沈殿によって固体が得られた(試料1)。次いで、残りの反応混合物を収容するフラスコを、予熱した50℃の油浴中に置いた。50℃で20分後、ゲル軟化の何らの兆候もなかった。よって、ゲルを室温まで冷却して50mLのMeOHをフラスコに添加した。次いで、フラスコの内容物を400mLのMeOH中に投入し、これは白色沈殿物を与えた(試料2)。初期スラリーを約1時間撹拌することによって両画分を加工した後で、固体をろ過によって単離した。固体を300mLのMeOH中に取上げることによってこれらを洗浄し、そしてスラリーを約1時間撹拌した後で、固体をろ過によって単離した。固体を2回、300mLの12/1 MeOH/35%H22中に取上げ、そしてスラリーを約1時間撹拌した後で、固体をろ過によって単離した。次いで固体を1晩、50℃、約20mmHgで乾燥させた。
【0249】
試料1および2の組合せの収量は、10.2gの白色固体であった。1HNMRによる分析は、試料1および2が同一であり、そしてこれらがDS3.0のセルローストリアセテートであったことを示した。GPCにより、両試料は、Mw約54,000を有する。
【0250】
この例は、[EMIm]OAc中に溶解したセルロースからセルローストリアセテートを迅速に製造できることを示す。セルローストリアセテートは、液晶ディスプレイおよび写真用フィルムベースにおいて有用なフィルムを製造するために使用できる。
【0251】
例34−非混和性共溶媒(IL粘度の効果)
三つ口の50mL丸底フラスコに、機械撹拌、およびN2/減圧入口を付け、20.03gの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテートを添加した。急速に撹拌しながら、1.05gの乾燥セルロース粉末(DP 約335)を添加した。フラスコを減圧下(2mmHg)に置き、そして90℃に予熱した油浴中に置いた。1時間45分後、油浴温度を100℃に上げ、そして更に55分間撹拌(2時間40分の総接触時間)した後で、減圧下で溶液を雰囲気温度まで冷やした。
【0252】
セルロース溶液に20mLのメチルアセテートを添加して、2相反応混合物を得た。急速に撹拌しながら、131mgのMSAと4.63gのAc2Oとの混合物を滴下添加(10分)した。接触温度は23.3℃から35.4℃に上昇し、そして、添加の終了時に、接触混合物は単相であり、単相の粘度は、元のセルロース−[EMIm]OAc溶液のものよりも大幅に小さかった。添加開始から25分後、フラスコを予熱した50℃の油浴中に置いた。接触混合物を2時間50℃で撹拌した後で、接触混合物を雰囲気温度まで50分かけて冷却した。生成物を、350mLのMeOH中で沈殿させ、スラリーを約1時間撹拌した後で、固体をろ過により単離した。固体を300mLのMeOH中に取上げることによってこれらを洗浄し、そしてスラリーを約1時間撹拌した後で、固体をろ過によって単離した。固体を2回、300mLの12/1 MeOH/35%H22中に取上げ、そしてスラリーを約1時間撹拌した後で、固体をろ過によって単離した。次いで固体を1晩、50℃、約20mmHgで乾燥させ、1.68gの白色固体を得た。1HNMRによる分析により、固体がDS2.67のセルローストリアセテートであったことが明らかになった。GPCによる分析は、セルローストリアセテートのMwが51,428であり、Mw/Mnが4.08であったことを示した。
【0253】
この例は、イオン液体中のセルロース溶液が、非混和性またはやや溶けにくい共溶媒と、セルロースを沈殿させることなく接触できることを示す。アシル化試薬との接触時に、セルロースはエステル化され、その時点のセルロースエステル−イオン液体溶液の、前には非混和性であった共溶媒による溶解性が変化することによって、接触混合物が単相になる。得られる単相は、初期セルロース−イオン液体溶液よりも大幅に小さい溶液粘度を有する。この発見は、高度に粘稠なセルロース溶液を用いてセルロースエステルを形成できる一方、溶液を混合および加工する能力をなお維持する点で顕著である。発見はまた、高度に粘稠なセルロース−イオン液体溶液をより低い接触温度で加工するための手段を与える。セルロースエステル生成物は、新たな単相から従来の手段で単離できる。セルロースエステル生成物は、望ましい置換度、分子量、および溶媒(例えばアセトン)中での溶解性を有し、そして可塑剤(例えばフタル酸ジエチル等)で可塑化された場合には容易に溶融加工できる。
【0254】
例35−非混和性共溶媒(二相性から単相)
28.84gの、[BMIm]Cl中の5wt%セルロース溶液を収容する三つ口の100mL丸底フラスコに、機械撹拌、およびN2/減圧入口を付けた。フラスコを予熱した80℃の油浴中に置き、フラスコ内容物を減圧下(約7mmHg)に2時間置いた。溶液に、4Aモレキュラーシーブスで予め乾燥させた25mLのメチルエチルケトンを添加して、2つの良好に分かれた相を得た。二相混合物に4.54gのAc2Oを激しく撹拌しながら添加した。約75分後、接触混合物は均一と思われた。2.5時間後、接触混合物を室温まで冷やした。少量の水およびメチルエチルケトンを均一混合物に添加した場合にも相分離は生じなかった。接触混合物を200mLのMeOHに添加し、続いてろ過して固体を分離することにより、生成物を単離した。固体を2回、MeOHで洗浄し、そして3回水で洗浄した後で、これらを50℃、約5mmHgで乾燥させた。1HNMRおよびGPCによる分析によって、生成物はDS2.11およびMw50,157のセルロースアセテートであることが明らかになった。
【0255】
この例は、イオン液体(例えば[BMIm]Cl)中のセルロース溶液が、非混和性またはやや溶けにくい共溶媒(例えばメチルエチルケトン)と、セルロースを沈殿させることなく接触できることを示す。アシル化試薬との接触時に、セルロースはエステル化され、その時点のセルロースエステル−イオン液体溶液の、前には非混和性であった共溶媒による溶解性が変化することによって、接触混合物が単相になり、これからセルロースエステルをアルコールで沈殿させることにより単離できた。
【0256】
定義
本明細書で用いる用語"a," "an," "the," および "the"は1以上を意味する。
【0257】
本明細書で用いる用語「および/または」は、2つ以上の事項の列挙において用いる場合、列挙された事項のうち任意の1つを単独で採用でき、または列挙された事項のうちの2以上の任意の組合せを採用できることを意味する。例えば、組成物が、成分A、Bおよび/またはCを含有するように記載されている場合、該組成物は、A単独;B単独;C単独;AおよびBを組合せで;AおよびCを組合せで;BおよびCを組合せで:またはA,BおよびCを組合せで;含有できる。
【0258】
本明細書で用いる用語"comprising," "comprises," および "comprise" (含む)は、該用語の前に挙げられる主題から該用語の後に挙げられる1つ以上の要素への移行のために用いるオープンエンド移行用語であって、必ずしも、移行用語の後に列挙される単数または複数の要素のみが該主題を構成する要素ではない。
【0259】
本明細書で用いる用語"containing," "contains," および "contain" (含有する)は、上記で与えられる"comprising," "comprises," および "comprise"と同じオープンエンドの意味を有する。
【0260】
本明細書で用いる用語"having," "has," および "have" (有する)は、上記で与えられる"comprising," "comprises," および "comprise"と同じオープンエンドの意味を有する。
【0261】
本明細書で用いる用語"including," "include," および "included"(包含する)は、上記で与えられる"comprising," "comprises," および "comprise"と同じオープンエンドの意味を有する。
【0262】
数値範囲
本記載は、数値範囲を用いて本発明に関する特定パラメーターを定量化する。数値範囲が与えられる場合、このような範囲は、範囲の下側の値を挙げるのみの特許請求の範囲の限定、および範囲の上側の値を挙げるのみの特許請求の範囲の限定のための文言のサポートを与えるように構築するものであることを理解すべきである。例えば、開示される数値範囲10から100は、「10超」(上限なしで)を挙げる特許請求の範囲および「100未満」(下限なしで)を挙げる特許請求の範囲のための文言のサポートを与える。
【0263】
単一の態様に限定されない特許請求の範囲
上記した発明の好ましい形態は、例示としてのみ用いるものであり、本発明の範囲を解釈するために限定的な意味で用いるべきでない。上記の例示の態様に対する改良は、本発明の精神から逸脱することなく当業者によって容易になし得たものである。
【0264】
よって、本発明者らは、実質的には逸脱しないが特許請求の範囲に記載される発明の文言範囲の外である任意の機構に関する本発明の合理的で正当な範囲を評価および査定する均等の原理に依拠するという意図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル化イオン液体を製造する方法であって:アルキルアミンホルメートイオン液体を無水物と、前記アルキルアミンホルメートイオン液体を前記カルボキシル化イオン液体にアニオン交換を経て変換するのに十分な条件下で接触させること;を含み、前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄を200ppmw未満の量で、およびハロゲン化物を200ppmw未満の量で含有する、方法。
【請求項2】
前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄を50ppmw未満の量で、およびハロゲン化物を50ppmw未満の量で含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボキシル化イオン液体が、遷移金属を200ppmw未満の量で含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄およびハロゲン化物を含有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カルボキシル化イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブチレート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブチレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体のアミンが、アルキル置換されたイミダゾリウム,アルキル置換されたピラゾリウム,アルキル置換されたオキサゾリウム,アルキル置換されたトリアゾリウム,アルキル置換されたチアゾリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体のアミンが、アルキル置換されたイミダゾリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体が、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート,1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムホルメート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムホルメート,1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムホルメート,1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムホルメートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記接触の間に、前記アルキルアミンホルメートイオン液体のホルメートの少なくとも一部を、アニオン交換を経て、前記無水物に由来するカルボキシレートアニオンに置換する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記無水物が、無水酢酸,無水プロピオン酸,無水酪酸,無水イソ酪酸、無水吉草酸,無水ヘキサン酸,2-エチルへキサン酸無水物,無水ノナン酸,無水ラウリン酸,無水パルミチン酸,無水ステアリン酸,無水安息香酸,置換無水安息香酸,無水フタル酸,無水イソフタル酸およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体および前記無水物を、前記無水物をアルキルアミンホルメート当たり1〜20モル当量の範囲の量で含有する接触混合物中で接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体および前記無水物を、水またはアルコールをアルキルアミンホルメート当たり0.01〜20モル当量の範囲の量で含有する接触混合物中で接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記接触を、温度0〜200℃の範囲および圧力21,000kPa以下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体および前記無水物を、前記無水物をアルキルアミンホルメート当たり1〜6モル当量の範囲の量で含有する接触混合物中で接触させ、前記接触混合物が、メタノールを、アルキルアミンホルメート当たり1〜10モル当量の範囲の量で含有し、前記接触を、温度25〜170℃の範囲および圧力10,000kPa以下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1種のアミンを少なくとも1種のアルキルホルメートと接触させることによって前記アルキルアミンホルメートイオン液体を調製することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記アミンが、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、トリアゾール、チアゾールおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アルキルホルメートがメチルホルメートを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記アミンがイミダゾールである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
改変イオン液体をアルキルホルメートと接触させることによって前記アルキルアミンホルメートイオン液体を形成することを更に含み、前記改変イオン液体が、セルロースエステルを製造するためのプロセスに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記改変イオン液体が、少なくとも2種の異なる種類のアニオンを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アルキルホルメートがメチルホルメートを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
カルボキシル化イオン液体を製造する方法であって:アルキルアミンホルメートイオン液体を少なくとも1種のカルボキシレートアニオン供与体と接触させることによって前記カルボキシル化イオン液体を製造すること;を含み、前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄を200ppmw未満の量で、ハロゲン化物を200ppmw未満の量で、および遷移金属を200ppmw未満の量で含有する、方法。
【請求項23】
前記カルボキシレートアニオン供与体が、カルボン酸,無水物,アルキルカルボキシレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記カルボキシレートアニオン供与体が、C2〜C20のカルボン酸、無水物、メチルエステルおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄を50ppmw硫黄未満の量で、ハロゲン化物を50ppmw未満の量で、および遷移金属を50ppmw未満の量で含有する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄を10ppmw硫黄未満の量で、ハロゲン化物を10ppmw未満の量で、および遷移金属を10ppmw未満の量で含有する、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記接触の間に、前記アルキルアミンホルメートのホルメートの少なくとも一部を、アニオン交換を経て、前記カルボキシレートアニオン供与体に由来するカルボキシレートアニオンに置換する、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体および前記カルボキシレートアニオン供与体を、前記カルボキシレートアニオン供与体をアルキルアミンホルメート当たり1〜20モル当量の範囲の量で含有する接触混合物中で接触させる、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体および前記カルボキシレートアニオン供与体を、水および/またはアルコールをアルキルアミンホルメート当たり0.01〜20モル当量の範囲の量で含有する接触混合物中で接触させる、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
前記接触を、温度0〜200℃の範囲および圧力100〜21,000kPaの範囲で実施する、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
前記アルキルアミンホルメートイオン液体および前記カルボキシレートアニオン供与体を、前記カルボキシレートアニオン供与体をアルキルアミンホルメート当たり1〜6モル当量の範囲の量で含有する接触混合物中で接触させ、前記接触混合物が、メタノールをアルキルアミンホルメート当たり1〜10モル当量の範囲の量で含有し、前記接触を、温度25〜170℃の範囲および圧力100〜10,000kPaの範囲で実施する、請求項22に記載の方法。
【請求項32】
前記カルボキシレートアニオン供与体が無水物を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項33】
前記無水物が、無水酢酸,無水プロピオン酸,無水酪酸,無水イソ酪酸、無水吉草酸,無水ヘキサン酸,2-エチルへキサン酸無水物,無水ノナン酸,無水ラウリン酸,無水パルミチン酸,無水ステアリン酸,無水安息香酸,置換無水安息香酸,無水フタル酸,無水イソフタル酸およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記カルボキシル化イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブチレート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブチレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1種のアミンを少なくとも1種のアルキルホルメートと接触させることによって前記アルキルアミンホルメートイオン液体を調製することを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項36】
前記アミンが、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、トリアゾール、チアゾールおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記アルキルホルメートがメチルホルメートを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記アミンがイミダゾールである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
改変イオン液体をアルキルホルメートと接触させることによって前記アルキルアミンホルメートイオン液体を形成することを更に含み、前記改変イオン液体が、セルロースエステルを製造するためのプロセスに由来する、請求項22に記載の方法。
【請求項40】
前記改変イオン液体が、少なくとも2種の異なる種類のアニオンを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記アルキルホルメートがメチルホルメートを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
複数のカチオンおよび複数のアニオンを含み、前記アニオンの少なくとも一部がカルボキシレートアニオンであり、前記カルボキシル化イオン液体が硫黄を200ppmw未満の量で、ハロゲン化物を200ppmw未満の量で、および遷移金属を200ppmw未満の量で含有する、イオン液体。
【請求項43】
前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄を50ppmw硫黄未満の量で、ハロゲン化物を50ppmw未満の量で、および遷移金属を50ppmw未満の量で含有する、請求項42に記載のイオン液体。
【請求項44】
前記カルボキシル化イオン液体が、硫黄を10ppmw硫黄未満の量で、ハロゲン化物を10ppmw未満の量で、および遷移金属を10ppmw未満の量で含有する、請求項42に記載のイオン液体。
【請求項45】
前記カルボキシレートアニオンが、C2〜C20のカルボキシレートである、請求項42に記載のイオン液体。
【請求項46】
前記カルボキシレートアニオンが、ホルメート,アセテート,プロピオネート,ブチレート,バレレート,ヘキサノエート,ラクテート,オキサレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項42に記載のイオン液体。
【請求項47】
前記カチオンが:
【化1】

(式中、R1およびR2は、各々独立に、C1〜C8アルキル基、C1〜C8アルコキシアルキル基およびC1〜C8アルコキシ基からなる群から選択され、R3、R4およびR5は、各々独立に、ヒドリド基、C1〜C8アルキル基、C1〜C8アルコキシアルキル基またはC1〜C8アルコキシ基からなる群から選択される)
からなる群から選択される、請求項42に記載のイオン液体。
【請求項48】
前記カチオンの少なくとも一部が、アルキル置換されたイミダゾリウムを含む、請求項42に記載のイオン液体。
【請求項49】
前記カチオンが、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項42に記載のイオン液体。
【請求項50】
前記カルボキシル化イオン液体が、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート,1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブチレート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムプロピオネート,1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブチレートおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項42に記載のイオン液体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2010−518166(P2010−518166A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549622(P2009−549622)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/001975
【国際公開番号】WO2008/100577
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】