説明

イオン的に安定化させた水性分散体

顔料の立体的な安定化を実質的に含まない、イオン的に安定化させた分散体が記載されている。それらのイオン的に安定化させた分散体は、親水性成分を最小限としたポリマー性分散剤から得られる。それらの安定化させた分散体は、インクジェットインキを調製するために使用することが可能であり、そのインキは、印刷した場合に、改良された光学密度および彩度を与える。このイオン的に安定化させた分散体の安定性は、インクジェットインキに使用するのに充分なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な、安定な水性顔料分散体、その安定な水性顔料分散体を作るためのポリマー性分散剤、顔料分散体の製造プロセス、およびインクジェットインキにおけるその使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料の水性分散体は当業者には公知であり、各種の用途、たとえば、印刷(特にインクジェット印刷)のためのインキ;車両、建築物、路面標識のための水系ペイントおよびその他の塗料配合;化粧品;医薬品調合;などにおいて、使用されてきた。顔料は典型的には、水性ビヒクル中には溶解しないので、ビヒクル中に顔料が安定に分散したものを製造しようとすると、分散剤たとえば、ポリマー性分散剤または界面活性剤を使用する必要があることが多い。
【0003】
本発明の用途は、筆記用具たとえば、水性ボールペン、万年筆およびフェルトペンなど;サーマルジェットタイプ、圧電タイプなどの、連続またはオンデマンドタイプのインクジェットプリンタ;およびそのインキを採用したインクジェット印刷方法などに有用な、インキ(印刷用液状物)に関する。
【0004】
水性顔料分散体は一般に、非イオン性またはイオン性技術によって安定化される。非イオン性技術を用いる場合には、典型的には、水媒体の中へ広がる非イオン性の親水性セクションを有するポリマーを用いる。その親水性セクションが、エントロピー的または立体的な安定性を与えて、それによって顔料粒子が水性ビヒクル中で安定化される。この目的のためには、ポリビニルアルコール、セルロース系材料、エチレンオキシド変性フェノール、およびエチレンオキシド/プロピレンオキシドポリマーを用いることができる。
【0005】
非イオン性技術は、pHの変化やイオンの混入の影響を受けにくいが、その反面、印刷した画像が水の影響を受けやすいという大きな難点がある。
【0006】
イオン性技術においては、イオン含有モノマー、たとえば中和させたアクリル酸、マレイン酸またはビニルスルホン酸のポリマーを使用して、顔料粒子を安定化させる。そのポリマーは、荷電二重層メカニズムによって安定性を与え、それによるイオン的な反発によって、粒子が凝集することが妨げられる。その中和成分は印刷した後には蒸発する傾向があるので、そのため、そのポリマーの水溶性が低下し、印刷された画像が水の影響を受けにくくなる。
【0007】
インクジェットインキ用途においては、より高品質で各種の性能インキに対する要望が依然として存在する。たとえば、写真やその他の高品質カラー印刷においては、改良されたインクジェットインキが求められている。ポリマー性分散剤における改良が、インクジェットインキの改良に顕著な寄与をしてきたが、現在使用されている分散剤では、新しいインクジェット用途において必要とされる光学密度および彩度を有するインキが、未だに得られていない。
【0008】
当業界においては、ランダムまたは構造化(たとえば、ブロックやグラフト)ポリマー構造を有する各種の分散剤が提案されてきた。たとえば、米国特許公報(特許文献1)には水性インキ分散体が開示されており、そこでは、イオン性親水性セグメントと顔料の表面に付着する芳香族の疎水性セグメントとを有するポリマーを用いて、顔料粒子を分散させている。米国特許公報(特許文献2)には、ABおよびBABブロックポリマー分散剤の使用が開示されていて、それらを感熱インクジェットプリンタ用の商品としてのインキに用いている。(特許文献3)には、酸基を含む親水性部分と、主としてスチレンおよび(メタ)アクリル酸のアルキルエステルからなる疎水性部分とを有する、ある種のグラフトコポリマーの使用が開示されている。
【0009】
米国特許公報(特許文献1)の中で提案されているような、ランダムポリマー性分散剤は、従来の重合方法を用いて容易に調製することが可能であるのに対して、米国特許公報(特許文献2)に教示されているような構造化ポリマー性分散剤は通常、より良好な分散安定性を与える。しかしながら、その構造化ポリマーは、製造するのがより困難で、高い純度の原料を必要とする。(特許文献3)において提案されているグラフトコポリマーは、手の込んだ多段プロセスにおいて調製され、一般には、マクロモノマーを最終的なグラフトコポリマーの合成に使用できるようにするには、精製工程を必要とする。
【0010】
それらの分散剤のそれぞれのタイプは、従来からの分散剤として分類することができる。すなわち、それらは、水系における顔料粒子を安定化させる機能は有するが、顔料の表面に恒久的な結合を形成することはなく、また、カプセル化された顔料粒子を作り出したり、分散剤によって顔料粒子をカプセル化させたりすることもない。
【0011】
顔料粒子をカプセル化することによって、改良されたインキを製造する手段が得られるということが報告されている。たとえば、(特許文献4)には、アニオン性マイクロカプセル化顔料分散体からの分散体が記載されている。そのマイクロカプセル化顔料は、分散剤を塩析するか、転相法によるか、または、架橋成分を使用することによって、ポリマー性分散剤に顔料をカプセル化させることによって、得られたと言われている。合成例3において、ポリマーをフリーラジカル法により製造しているが、そこでは、そのポリマーはメタクリル酸からの約6モルパーセントのイオン含量を有している。このポリマーを使用した、それに続くミクロカプセル化および分散体の調製において、不安定な分散剤が得られている。得られた顔料分散体の粒径は大きく、平均粒径が617nmであった。
【0012】
米国特許公報(特許文献5)においては、自己分散化顔料に限定された、改良されたカプセル化方法が記載されており、そのカプセル化された着色剤には、その着色剤を基準にして、1〜20重量%の範囲の含量で有機ポリマーを含んでいる。
【0013】
安定な顔料分散体を製造するためのまた別な方法には、顔料を改質して、それを自己分散性の顔料とする方法がある。この自己分散特性は、その顔料表面を改質した結果である。したがって、分散性の官能基(たとえばカルボキシレート基)を顔料に共有結合的に結合させて、自己分散性の改質を行っている。それらの自己分散性顔料系の例は、米国特許公報(特許文献6)、米国特許公報(特許文献7)、米国特許公報(特許文献8)、および(特許文献9)に記載がある。
【0014】
最近の米国特許公報(特許文献10)に記載された方法では、自己分散性顔料と分散剤を含む着色剤の両方を含むインキを製造することによって、より高い光学密度と彩度が達成されると主張している。
【0015】
さらに、(特許文献11)には、顔料粒子の表面、その近く、またはその上で分散剤を架橋させるような、インサイチュー反応によって、顔料粒子をカプセル化できるような条件を使用することが開示されている。
【0016】
米国特許公報(特許文献12)には、自己分散させたブラックインキと「ポリマーを用いて着色顔料を包み込んだ着色剤」とからなるインキセットが記載されている。その包み込みは、「ポリマーを用いて着色顔料を包み込む」と定義されている。この包み込みは、着色剤の存在下における重合、架橋剤の使用、およびその他の方法によって達成される。
【0017】
【特許文献1】米国特許第4597794号明細書
【特許文献2】米国特許第5085698号明細書
【特許文献3】特開平07−276806号公報
【特許文献4】特開平09−151342号公報
【特許文献5】米国特許第6511534号明細書
【特許文献6】米国特許第5718746号明細書
【特許文献7】米国特許第6524383号明細書
【特許文献8】米国特許第5554739号明細書
【特許文献9】国際公開第01094476号パンフレット
【特許文献10】米国特許第6440203号明細書
【特許文献11】米国特許第6262152号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2003/0078320号明細書
【特許文献13】米国特許第5022592号明細書
【特許文献14】米国特許第5026427号明細書
【特許文献15】米国特許第5310778号明細書
【特許文献16】米国特許第5891231号明細書
【特許文献17】米国特許第5679138号明細書
【特許文献18】米国特許第5976232号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2003/0089277号明細書
【特許文献20】米国特許第5571311号明細書
【特許文献21】米国特許第5609671号明細書
【特許文献22】米国特許第5672198号明細書
【特許文献23】米国特許第5698016号明細書
【特許文献24】米国特許第5707432号明細書
【特許文献25】米国特許第5747562号明細書
【特許文献26】米国特許第5749950号明細書
【特許文献27】米国特許第5803959号明細書
【特許文献28】米国特許第5837045号明細書
【特許文献29】米国特許第5846307号明細書
【特許文献30】米国特許第5851280号明細書
【特許文献31】米国特許第5861447号明細書
【特許文献32】米国特許第5885335号明細書
【特許文献33】米国特許第5895522号明細書
【特許文献34】米国特許第5922118号明細書
【特許文献35】米国特許第5928419号明細書
【特許文献36】米国特許第5976233号明細書
【特許文献37】米国特許第6057384号明細書
【特許文献38】米国特許第6099632号明細書
【特許文献39】米国特許第6123759号明細書
【特許文献40】米国特許第6153001号明細書
【特許文献41】米国特許第6221141号明細書
【特許文献42】米国特許第6221142号明細書
【特許文献43】米国特許第6221143号明細書
【特許文献44】米国特許第6277183号明細書
【特許文献45】米国特許第6281267号明細書
【特許文献46】米国特許第6329446号明細書
【特許文献47】米国特許第6332919号明細書
【特許文献48】米国特許第6375317号明細書
【特許文献49】米国特許出願公開第2001/0035110号明細書
【特許文献50】欧州特許出願公開第1086997A号明細書
【特許文献51】欧州特許出願公開第1114851A号明細書
【特許文献52】欧州特許出願公開第1158030A号明細書
【特許文献53】欧州特許出願公開第1167471A号明細書
【特許文献54】欧州特許出願公開第1122286A号明細書
【特許文献55】国際公開第01/10963号パンフレット
【特許文献56】国際公開第01/25340号パンフレット
【特許文献57】米国特許第5746818号明細書
【特許文献58】米国特許第6450632号明細書
【特許文献59】米国特許出願公開第20020044185号明細書
【特許文献60】欧州特許第1258510号明細書
【特許文献61】米国特許出願第10/755,630号明細書
【特許文献62】国際公開第01094476A2号パンフレット
【非特許文献1】「パウダーズ・ハンドリング・ディスパージョン・オブ・パウダーズ・イン・リキッズ(Powders,Handling,Dispersion of Powders in Liquids)」カーク−オスマー・エンサイクロペディア・オブ・ケミカル・テクノロジー(Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology)、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、2003
【非特許文献2】IS&T’sNIP18:2002、インターナショナル・カンファレンス・オン・デジタル・プリンティング・テクノロジーズ(International Conference on Digital Printing Technologies)、p.369
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
それらのシステムをベースとした水性分散体は、インクジェット印刷の多くの態様のための、改良されたインクジェットインキを与えるが、それでもなお、分散を改良できる可能性が残っている。1つの具体的な可能性としては、改良された光学密度および彩度を得ることである。顔料化された分散体の他の特性、たとえば分散安定性、ノズルの長寿命などを維持しながら、これらのことを達成させなければならない。
【0019】
上述の公刊物はすべて、すべての目的において、そのすべてを記載したかのように、本明細書に参照により援用するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
従来からのポリマー性分散剤を使用することは、粒子、特に顔料粒子の安定な分散剤を製造するための手段として、充分に確立された技術である。一般的に言って、それらの従来からの分散剤は、少なくとも中程度の水溶解性を有しており、この水溶解性がその分散安定性を予見する目安として使用されている。新規な改良されたポリマー性分散剤を鋭意検討する過程において、水溶解性または混和性がほとんどなく、親水性成分含量が極めて限られているが、新しい改良された性質を有する安定な水性分散体を製造するのに使用することが可能な、新しいタイプの分散剤が見出された。
【0021】
本発明において、新しいタイプの分散剤は、実質的に立体的な安定化を伴わずに、イオン的な安定化によって、安定な水性分散体を与えることが見出された。それらの分散体をインクジェットインキに使用した場合、そのインキを用いて印刷された画像は、光学密度、彩度ともに改良される。
【0022】
この新しいタイプの分散剤を含む分散体を、本明細書においては、イオン的に安定化させた分散体(ionically stabilized dispersion、ISD)と呼ぶこととする。分散剤自体は、ISDポリマー分散剤と呼ぶ。
【0023】
したがって、安定な水性分散体を得るための分散剤(ISDポリマー分散剤)、それらの分散剤を含む安定な水性分散体(ISD)、ISDの製造方法、ISDをベースとするインキ、少なくとも1種のISDをベースとしたインキを含むインキセット、および、ISDをベースとするインキおよびインキセットを使用したインクジェット印刷方法が提供される。
【0024】
本発明の1つの態様においては、水性ビヒクル中に、顔料およびポリマー性イオン性分散剤を含む水性顔料分散体が提供されるが、ここで:
(a)前記イオン性分散剤が、前記顔料に物理的に吸着され、
(b)前記ポリマー性イオン性分散剤が、前記水性ビヒクル中に前記顔料を安定して分散し、
(c)前記分散体の平均粒径が約300nm未満であり、そして
(d)前記水性顔料分散体を、以下の量:
(i)(前記分散体の全重量を基準にして)約10重量%以上の固形分の顔料分散体の場合で1滴、
(ii)(前記分散体の全重量を基準にして)約5〜10重量%の固形分の顔料分散体の場合で2滴、そして
(iii)(前記分散体の全重量を基準にして)約5重量%以下の固形分の顔料分散体の場合で3滴、
で約0.20モル濃度の塩の塩水溶液約1.5gに添加したときに、その添加の24時間後に観察したときに、前記顔料が前記塩水溶液から沈殿している。
【0025】
本発明のまた別な態様においては、水性ビヒクル中に、顔料およびポリマー性イオン性分散剤を含む水性顔料分散体が提供されるが、ここで:
(a)前記イオン性分散剤が、前記顔料に物理的に吸着され、
(b)前記ポリマー性イオン性分散剤が、実質的に立体的な安定化をともなわず、イオン的な安定化によって、前記水性ビヒクル中に前記顔料を安定して分散し、そして
(c)前記分散体の平均粒径が約300nm未満である。
【0026】
本発明のまた別な態様においては、水性ビヒクル中に、顔料およびポリマー性イオン性分散剤を含む水性インクジェットインキが提供されるが、ここで:
(a)前記イオン性分散剤が、前記顔料に物理的に吸着され、
(b)前記ポリマー性イオン性分散剤が、前記水性ビヒクル中に前記顔料を安定して分散し、
(c)前記分散体の平均粒径が約300nm未満であり、そして
(d)前記水性インクジェットインキを、以下の量:
(i)(インクジェットインキの全重量を基準にして)約10重量%以上の固形分の水性インクジェットインキの場合で1滴、
(ii)(インクジェットインキの全重量を基準にして)約5〜10重量%の固形分の水性インクジェットインキの場合で2滴、そして
(iii)(インクジェットインキの全重量を基準にして)約5%以下の固形分の水性インクジェットインキの場合で3滴、
で約0.20モル濃度の塩の塩水溶液約1.5gに添加したときに、その添加の24時間後に観察したときに、前記顔料が前記塩水溶液から沈殿している。
【0027】
本発明のまた別な態様においては、上述のような水性顔料分散体を含む水性の顔料化インクジェットインキが提供されるが、それには、前記インキの全重量を基準にして約0.1〜約10重量%の顔料を有し、約0.5〜約6の、顔料の分散剤に対する重量比を有し、25℃において約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲の表面張力を有し、そして25℃において約30cPより低い粘度を有する。
【0028】
本発明のまた別な態様においては、上述の水性顔料分散体を製造するための方法が提供されるが、それには、顔料とイオン性ポリマー性分散剤とを水性キャリヤ媒体中において混合する工程と、それに続けて、その顔料を分散および/または解凝集させる工程とが含まれる。その分散および/または解凝集は、2本ロールミル法、メディアミル法(media milling)、および液状ジェット相互作用チャンバーの中で少なくとも5,000psiの液体圧力において、その混合物を複数のノズルを通過させる方法、からなる群より選択されるプロセスによって、達成されるのが好ましい。
【0029】
本発明のさらに別な態様においては、少なくとも1種のシアンインキ、少なくとも1種のマゼンタインキおよび少なくとも1種のイエローインキを含むインキセットが提供されるが、ここで、それらのインキの少なくとも1つは、先に説明し、以下においてさらに詳しく記述する、水性顔料化インクジェットインキである。
【0030】
本発明のさらに別な態様においては、基材の上にインクジェット印刷をするための方法が提供されるが、それには:
(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程;
(b)前記プリンタに、印刷される基材をローディングする工程;
(c)前記プリンタに、先に説明し、以下においてさらに詳しく記述するインキ、または先に説明し、以下においてさらに詳しく記述するインクジェットインキセットをローディングする工程;および
(d)前記インキまたはインクジェットインキセットを使用して、デジタルデータ信号に応答させて、前記基材の上に印刷する工程、が含まれる。
【0031】
本発明のさらに別な態様においては、ポリマー性添加剤をISDを含むインキに添加して、そのインキ性能を向上させることも可能である。
【0032】
本発明のこれらおよびその他の特徴と利点は、以下の詳細な説明を読むことによって、当業者にはより容易に理解しうるであろう。わかりやすくするために、ここまでおよびこの後、個別の実施態様の文脈において説明している本発明のある種の特徴は、単一の実施態様の中で組み合わせることにおいても、得られるであろうということは、認識されたい。逆に、簡潔さのために、単一の実施態様の文脈において説明している本発明の各種の特徴は、個別に、あるいは各種のより小さな組合せにおいても、得ることができる。さらに、文脈において特に断らないかぎり、単数での表現には複数の意味も含まれる(たとえば、「a」および「an」には、1つということを表すか、または1つまたは複数ということを表すことができる)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
有機ポリマー性分散剤を用いて安定な分散体を製造することに関する科学技術は、研究が進み、精力的に開発が行われてきた。この文献においては、各種のタイプの分散剤を、安定化についての認識されるメカニズムをベースにして、特徴づけている。したがって、ポリマー性分散体は、分散体を立体的な安定化および静電的な安定化によって安定させることができる。効果的な立体的または電子立体的な安定化を得るためには、その分散剤は、粒子の表面に付着して、分散媒体との間で相互作用を持たなければならない。二重の機能を有するポリマー性分散剤を用いることによって、その両方の要求を満足させることができるが、その特徴は、粒子表面に付着または相互作用を持つ、1つまたは複数の官能基またはセグメント、および分散媒体の中に延びていって、安定化のために必要なバリヤーを与えるセグメントまたは尾部とである。実際のところ、その二重官能性を最適化することによって、多くの改良された顔料分散体が得られる。この二重官能性は、親水性セグメントと疎水性セグメントとを有するポリマーを使用することによって、達成される。
【0034】
あるいは、ポリマー性分散剤が、イオンメカニズムによって顔料を安定化させることも可能である。すなわち、安定化のメカニズムは、荷電させた二重層メカニズムによって安定性を与えるポリマーに由来するものであって、そこでは、イオン的な反発が粒子の凝集を妨げていることを、上述のポリマー性分散剤系が示唆している(先に挙げた米国特許公報(特許文献2)を参照されたい)。
【0035】
ほとんどの場合において、ポリマー性分散剤は、立体的、電子立体的またはイオン的なメカニズムによって安定化に寄与しているとされているが、実際のところでは、現存のポリマー性分散剤系の全部とは言わないまでもほとんどは、その両方のメカニズムを組み合わせることによって、安定化しているように思われる。単一のメカニズムの文脈においてのみ記載されているようなそれらの安定化は、今や、立体的およびイオン的なメカニズムの組合せであると考えられる。
【0036】
本発明の文脈においては、実質的に立体的な安定化の機能を有さないポリマー性分散剤であってもなお、満足のいくレベルで分散体を安定化させることが可能である、ということが認識されるにいたった。
【0037】
したがって、特性の間の新しいバランスを有するポリマーの探索が行われた。ポリマーの疎水性が重要なのは、ほとんどの場合、それが顔料の表面に、ファンデルワールス力またはそれと類似の非結合性の力によって、付着することができるという点にある(顔料に対する物理的吸着)。本発明とこれまで説明されていたシステムとの間の大きな違いは、本発明による場合、ポリマーの親水性の部分が著しく少ないというところにある。さらに、そのポリマーの疎水性/親水性セグメントが、親水性成分の大きな分子領域を最小化するように、ポリマー中に分散されている。そのような高い密度で親水性基があると、望ましくない立体的な安定化が起きる。
【0038】
特性におけるこの新しいバランスによって、ポリマーの安定化が、ほとんど完全にイオン的な安定化に依存し、立体的な安定化はほとんどまたはまったく関与しないような、水性顔料分散体が得られる。(非特許文献1)に記載があるように、立体的な安定化の存在を調べるためのスペクトル的な手段が存在してはいるが、ISDポリマー分散剤を使用する、本発明に従う水性顔料ISDの特性を調べるためのよりルーチン的な方法が開発されている。その方法は、塩安定性試験(salt stability test)と呼ばれる。
【0039】
(塩安定性試験)
濃度の異なる一連の塩(典型的にはNaCl)の水溶液を調製する。それぞれの塩の溶液について、約1.5mL(約1.5g)を小型のガラスバイアルに入れる。
【0040】
顔料分散体「濃厚液(concentrate)」として、1滴を、その塩の溶液に加え、穏やかに混合する。(典型的な)全固形分約15重量%の顔料分散体濃厚液では、1滴は典型的には、全量で約0.04gとなる。インキ(これは濃厚液を希釈した形態と考えられる)についての試験も、その顔料分散体濃厚液の塩安定性試験と非常に類似したものであるが、ただし、インキの固形分含量が顔料分散体濃厚液の固形分含量よりも低く、そのため、その塩溶液に加えるインキの量を増やして、ほぼ同程度の量が含まれるようにする必要がある。全固形分が約5重量%の典型的なインキの場合で、(濃厚液に比較して)約3倍量のインキが必要である。
【0041】
上述の顔料分散体濃厚液の場合を取り上げれば、濃厚液からの固形物の重量は、塩の試験水溶液約1.5g中に約0.006gとなるか、または塩の試験水溶液の重量を基準にして約0.4重量%である。
【0042】
注意すべきは、上に挙げた0.4重量%という数字は、塩安定性試験を適用する際に決定的なものではなく、所望により標準的なレベルとして使用できるという数字である。塩安定性試験の結果は、固形分含量よりも塩の濃度に、より関連し、また、顔料分散体の固形分含量を正確に求めることが幾分困難でもあるので、測定の標準としては、以下のような慣用法を採用する:
濃厚液(固形分約10重量%以上)と考えられる顔料分散体に関しては、分散体の1滴を1.5mLの塩溶液とみなす;
もっと希釈した顔料分散体(たとえば、固形分が約5重量%以下のインキ)に関しては、分散体の3滴を1.5mLの塩溶液とみなす;そして、
中間程度の固形分含量の顔料分散体(固形分約5〜10重量%のインキおよび/または濃厚液)に関しては、分散体の2滴を1.5mLの塩溶液とみなす。
【0043】
上記の考え方をベースとして、顔料分散体の適切な量を塩溶液に添加して、穏やかに混合する。室温で24時間静置した後で、以下の基準に従ってサンプルの安定性を評価付けする:
・等級3:顔料が完全に沈降;上部は無色透明液体。
・等級2:無色透明な液体層はなし;バイアルを傾けるとバイアルの底部には明らかに沈降あり。
・等級1:無色透明な液体層はなし;バイアルを傾けると極めてわずかな沈降(少量の単離したスポット)が観察される。
・等級0:沈降の気配まったく無し。
【0044】
沈降が明らかに観察される(等級2または3)の塩濃度を、その顔料分散体の臨界凝集濃度とする。臨界凝集濃度が高いほど、ポリマーの(立体的)安定化の役割が大きくなって、静電安定化の安定化メカニズムにおける重要性が低下しているということを、この試験から推論することが可能である。
【0045】
本発明の要件を満たすISDポリマー分散剤は、0.2モル濃度の塩の場合に、等級が2または3であるような顔料分散体を与えるものである。すなわち、本発明のISDポリマー分散剤は、ISD中で顔料と組み合わせて、塩安定性試験によって試験した場合に、塩濃度が0.2モルのところで、試験溶液から沈殿するのが観察されるであろうということである。等級基準2および3は、それぞれ沈殿の基準に適合している。より好ましいのは、塩の濃度が約0.16モル以下において等級2または3となる顔料分散体である。さらにより好ましいのは、塩の濃度が約0.14以下において等級2または3となる顔料分散体である。
【0046】
その塩水溶液に好適な塩は、リチウム、ナトリウムまたはカリウム塩である。
【0047】
先に示し、またこの後で説明するように、塩安定性試験は、広い範囲の各種顔料分散体固形分含量に対して適用できる。しかしながら、その試験において使用する固形分が多すぎたり、少なすぎたりした場合には、上記の等級付けの文脈においてサンプルを評価するのは困難となろう。その試験のための1滴、2滴または3滴の定義が、添加した固形分の量を具体的に規定するものではないものの、この試験は、極めて融通が利くものであって、そのような一般性が、一貫した方法でサンプルを等級付けするには充分であることが判った。別の言い方をすれば、先に定義した試験は、試験する分散体の固形分含量が変動しても、首尾一貫した意味のある結果を与えるので、本発明の文脈においては定義として採用することになった。塩安定性試験についてのさらなる詳細と実際の応用(結果において、この首尾一貫性を具体的に表している)は、以下の実施例において示す。
【0048】
この試験に合格するであろう、分散顔料の大きな分類の1つは、自己分散性顔料(self−dispersing pigment、SDP)になるように加工された顔料である。しかしながらSDPは、非ポリマー性分散剤が系に含まれているという点において、本発明の基準には適合しない。SDPの存在を確認するためのインキまたは分散体の試験は、下記の通りである:
(a)インキ(または分散体)にHClを加えることにより、酸性化させる。このことによって、SDPおよび分散剤の上の水可溶性とするための成分、たとえばCOO、SO、ホスフェートなどを、その酸性化させた形態に転換させ、それにより、顔料および分散剤の水性媒体中の溶解性を低下させる。水混和性共溶媒および界面活性剤は、この工程においては、水相の中に可溶化されるべきである。得られた固形物を単離する。あるいは、カチオンベースのインキの場合、アンモニアを添加して、カチオン性安定化基を塩基化させることも可能である。
(b)テトラヒドロフラン(THF)を用いて、得られた固形物を抽出する。このことにより、単離された固形物からバインダーおよび分散剤が除去され、ポリマーを実質的に含まない顔料が残る。顔料に結合されたカプセル化剤は、顔料の上に残ってもよい。
(c)得られた固形分を乾燥させる。
(d)水を用いてその顔料を再分散させ、pHを約9に調節する。
(i)顔料が溶液の中に再分散することができる場合には、その顔料はSDPであって、その分散性の部分が顔料粒子に共役結合的に結合されている。
(ii)顔料分散されずに不溶のまま残る場合には、それはSDPでは無く、通常の顔料であるが、それは、工程(b)において除去されたポリマー性分によって安定な分散体に転化されたものである。
(e)得られた固形分を乾燥させる。
【0049】
顔料が、先に引用した米国特許公報(特許文献10)に記載されているような、分散剤を用いたSDPと通常の顔料との混合物である場合には、工程(e)で残っている顔料は、通常の顔料とみなすことができ、工程(c)と工程(e)の質量の差が、その顔料を構成しているSDPであるということになろう。
【0050】
本発明のISDポリマー分散剤は二重官能性を有している。ほとんどの部分は疎水性であって、顔料の表面への付着力を有している。親水性部分は限定されていて、得られる顔料分散剤が、立体的な安定化をほとんどまたはまったく有さず、また得られた顔料/ISDポリマー分散剤が、塩安定性試験によって試験したときに、0.2モルの塩溶液で沈殿するようにする。
【0051】
ISDポリマー分散剤は、疎水性モノマーおよび親水性モノマーを重合させることによって調製する。それらのモノマーを重合させるための手段には特に制限は無いが、ただし、最終的に得られるポリマーが、顔料と組み合わせたポリマー性分散剤として試験したときに、得られた顔料/ISDポリマー分散剤が、塩安定性試験によって試験した際に、0.2モルの塩溶液で沈殿するような、分散体になるようにする。
【0052】
ISDポリマー分散剤は、ランダムで直鎖状のコポリマーであっても、または、構造化ポリマーたとえば、ジブロック(A−B)もしくはトリブロック(A−B−AまたはB−A−B)ポリマーであっても、またはグラフトまたは分岐状のポリマーであってもよい。そのポリマーは、各種公知の重合方法のいずれを用いて製造してもよいが、そのような重合方法としては、フリーラジカル重合、イオン重合、グループトランスファー重合(GTP)、ラジカル付加フラグメンテーション(RAFT)、原子移行反応(ATR)などが挙げられる。そのような重合方法の一般的な反応条件と例については、先に挙げた参考文献の多くのものに開示されている。
【0053】
このポリマー分散剤は、疎水性モノマーおよび親水性モノマーのコポリマーである。前駆体モノマーについては、以下のような記号で表す:Aは疎水性セグメントのためのモノマーを表し、Bは親水性セグメントのためのモノマーを表し、XはAモノマーの上の疎水性置換基を表し、ZはBモノマーの上の親水性置換基を表す。モノマーの2種以上のタイプの内の1種が、それぞれのセグメントの中に存在することができる。
【0054】
【化1】

【0055】
AおよびBについては、ISD分散剤の中で得られる構造の例の内の好ましいものは、R〜Rのそれぞれが独立して、Hおよび、1〜20個の炭素を有するアルキル、アリールまたはアルキルアリール基からなる群より選択され、ここでXおよびZは以下に示すものである。1つの好ましい実施態様においては、R〜Rのそれぞれが、HおよびCHからなる群より選択される。また別な好ましい実施態様においては、R〜RおよびR〜RのそれぞれがHであり、RおよびRがそれぞれ独立してHおよびCHから選択される。
【0056】
ISDポリマー分散剤の親水性組成は、先に引用した参考文献の多くに記載されているような公知のポリマー性分散剤に比較して、最小限とする。ISDポリマー分散剤の親水性は、モノマーBの上のイオン性置換基(Z)に由来する。
【0057】
Z基は、アニオン性、カチオン性、両性または双生イオンの、親水性成分とすることができる。ノニオン性成分は、ポリマー性分散剤の中にも含まれていてもよいが、ただし、それらを含むことによって、充分な立体的な安定化が導かれ、それにより、顔料と組み合わせたポリマー性分散剤が、塩試験によって、先に挙げた基準に適合しなくなるようなことがあってはならない。非イオン性成分を有するポリマーの場合には、その塩試験は、どのような疎水性/親水性/ノニオン性バランスが、イオン濃度0.2モル以下における塩試験に「不合格」となる塩を得るのに必要であるかを求めるための手段を与える。Z基の例を挙げれば:
・アニオン性、たとえば、スルホネート、スルフェート、スルホスクシネート、カルボキシレート、ホスフェート、
・カチオン性、たとえば、アミン塩、たとえば第四級アミン塩、
・両性、たとえば、N−>O
・双生イオン、たとえば、ベタイン、N−C−CO、レシチンなど、がある。
【0058】
親水性モノマーには単一のZ置換基、またはZ基の組合せが含まれていてよい。Z基は、その水素置換した形態または塩として存在する。
【0059】
好適な親水性モノマーとしては、たとえば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、クロトン酸、クロトン酸モノエステル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸t−ブチルアミノエチル、アクリル酸t−ブチルアミノエチル、ビニルピリジン、N−ビニルピリジン、および2−アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸、などを挙げることができる。
【0060】
その他の親水性非イオン性モノマーが含まれていてもよい。好適な親水性モノマーとしては、たとえば、メタクリル酸エトキシトリエチレングリコール、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、およびアクリル酸ヒドロキシプロピルなどを挙げることができる。
【0061】
ISDポリマー分散剤の疎水性組成は、先に引用した参考文献の多くに記載されているような公知のポリマー性分散剤に比較して、最大限とする。ISDポリマー分散剤の疎水性は、モノマーAの上の疎水性置換基(X)に由来する。
【0062】
好ましい実施態様において、Xは下記からなる群より選択される:
(a)1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アリールおよびアルキルアリール基であって、それらの基には1個または複数のヘテロ原子がさらに含まれていてもよい、
(b)式C(O)ORの基、ここで、Rは、1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アリールおよびアルキルアリール基からなる群より選択され、それらの基には1個または複数のヘテロ原子がさらに含まれていてもよい、
(c)式C(O)NRの基、ここで、RおよびRはそれぞれ独立して、H、および1〜20個の炭素原子を含むアルキル、アリールおよびアルキルアリール基からなる群より選択され、それらの基には1個または複数のヘテロ原子がさらに含まれていてもよい。
【0063】
好適な疎水性モノマーを一般的に挙げれば、たとえば、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、エタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリロニトリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸p−トリル、メタクリル酸ソルビル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリロニトリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸p−トリル、アクリル酸ソルビル、スチレン、アルファ−メチルスチレン、置換スチレン、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、酢酸ビニル、酪酸ビニル、および安息香酸ビニル、などがある。
【0064】
A(疎水性)の好適な例はアクリルモノマーであって、ここで、Xは、C(O)OR、C(O)NRおよびCNからなる群より選択される。好適な1つの実施態様においては、Rは、1〜20個の炭素原子を有するアルキル、アリールおよびアルキルアリール基からなる群より選択され、それらの基には1個または複数のヘテロ原子がさらに含まれていてもよく;そして、RおよびRは独立して、H、および1〜9個の炭素原子を有するアルキル、アリールまたはアルキルアリール基からなる群より選択される。Aモノマーのポリマーセグメントは、少なくとも約300の数平均分子量を有し、水に不溶性であるのが好ましい。
【0065】
このリストは限定的なものではなく、ISDポリマー分散剤を製造する(すなわち、塩安定性試験を満足させるISDを製造する)ポリマーシステムが、本発明のポリマーの必要性を満たすものであればよい。
【0066】
モノマーAとBとを組み合わせてISDポリマー分散剤を製造するための重合法については、特に制限はない。重合方法の例を挙げれば、フリーラジカル法、グループトランスファー法(GTP)などがあるが、これらに限定される訳ではない。
【0067】
本発明の文脈において使用するのに適したISDポリマー分散剤の数平均分子量は、300より大きい、好ましくは800より大きい、約30,000より小さい、好ましくは約20,000より小さい、典型的には約1,000〜約6,000の範囲である。
【0068】
ISDポリマー分散剤は、イオン含量に対して限定される。ランダムで直鎖状のコポリマー、ジブロック、グラフトおよび分岐状のポリマーにおいては、親水性モノマーの限度は、すべてのモノマーを基準にして、約1モルパーセントから約20モルパーセント未満までである。別な方法においては、親水性モノマーの限度は、すべてのモノマーを基準にして、約2モルパーセントから約15モルパーセント未満までである。ABAトリブロックの場合には、その限度は約2モルパーセントから約38モルパーセント未満まで、場合によっては約25モルパーセント未満までである。BABトリブロックの場合には、その限度は約2モルパーセントから約25モルパーセント未満までである。これらのイオンの限度のそれぞれにおいて、顔料分散体またはインクジェットインキの塩安定性試験は、イオン含量に関しては決定要因となる。
【0069】
ISDポリマー分散剤の親水性含量が低いことから生じる結果の1つは、それらの水に対する溶解性が低いということである。当然のことながら、水はインクジェットインキのための好適な媒体である。したがって、ISDポリマー分散剤から安定な水性分散体を調製するためには、顔料とISDポリマー分散剤との最初の混合物に水混和性溶媒が含まれているのが好ましく、その溶媒がISDポリマー分散剤を充分に可溶化させ、それによって、分散剤と顔料の初期の物理的混合物が得られるようにする。次いで、このISDポリマー分散剤、顔料および溶媒の混合物を、通常の分散体処理方法により加工して、水性ビヒクル中に、安定なISDポリマー分散剤/顔料の組合せが形成されるようにする。したがって、この水性ビヒクルは、水と水混和性溶媒の組合せとすることができる。溶媒システムの候補を選ぶためには、公知の溶解パラメーター手法を用いて、ISDポリマー分散剤の溶解性を検討する。
【0070】
本発明のISDおよびインキ組成物は、当業者公知の方法を用いて調製することができる。ISDは一般に、濃厚液の形態で製造するのが好ましく、次いでそれを、所望の添加剤を含む適当な液状物を用いて希釈する。ISDは、選択した顔料およびISDポリマー分散剤を、水性キャリヤ媒体(たとえば水、および場合によっては水混和性溶媒)の中で予備混合することでまず調製し、次いで含量を分散または解凝集させる。分散工程を達成するには、2本ロールミル、メディアミル、水平ミニミル、ボールミル、アトリター、あるいは、液状ジェット相互作用チャンバーの内部で、少なくとも5,000psiの液体圧力を用いて混合物を複数のノズルを通過させることによって、水性キャリヤ媒体中に顔料粒子の均質な分散体を製造する方法(マイクロフルイダイザー)などの方法を用いることができる。あるいは、加圧下で、ポリマー性分散剤と顔料を乾式混合することによって、濃厚物を調製することも可能である。メディアミルのための媒体は、ジルコニア、YTZ、ナイロンなど、一般的に入手可能なものから選択する。これら各種の分散方法は、一般的な意味合いにおいては当業者には公知であり、たとえば、下記の特許に記載がある:米国特許公報(特許文献13)、米国特許公報(特許文献14)、米国特許公報(特許文献15)、米国特許公報(特許文献16)、米国特許公報(特許文献17)、米国特許公報(特許文献18)、および米国特許公報(特許文献19)。これらの文書はすべて、すべての目的において、そのすべてを記載したかのように、本明細書に参照により援用するものとする。好適なのは、2本ロールミル、メディアミル、および液状ジェット相互作用チャンバーの内部で、少なくとも5,000psiの液体圧力を用いて混合物を複数のノズルを通過させる方法である。
【0071】
ミル混合プロセスが終了したら、その顔料濃厚液を「レットダウン(let down)」させて、水性システムとすることができる。「レットダウン」という用語は、混合または分散によって濃厚液を希釈することを意味していて、その混合/分散の強度は通常は、通常の方法を用いてトライアルアンドエラー法によって求めるが、多くの場合、ポリマー性分散剤、溶媒および顔料の組合せに依存する。ポリマー性分散剤、溶媒および顔料のすべての組合せについて、充分なレットダウン条件を求めておく必要がある。
【0072】
ISDが調製できた後で、水混和性溶媒の量が、いくつかのインクジェット用途に用いうる量よりも多いこともあり得る。したがって、ISDのいくつかにおいては、水混和性溶媒の量を低下させるために、最終的な分散体を限外ろ過する必要があることもある。顔料分散体の安定性を改良し、粘度を低下させるために、約30℃〜約100℃に加熱することによって熱処理をしてもよく、好ましくは温度約70℃で約10〜約24時間加熱処理する。それ以上長く加熱しても、分散体の性能には影響はない。
【0073】
顔料を安定化させるために必要なポリマーISD分散剤の量は、具体的なISD分散剤、顔料およびビヒクルの相互作用に依存する。顔料のポリマーISD分散剤に対する重量比は、典型的には約0.5〜約6の範囲とする。約0.75〜約4の範囲とするのが好ましい。
【0074】
理論に捕らわれることなく言えば、ISDが改良されたインキ性能を与えるのは、次の手段によるものと考えられる。インキカートリッジに長寿命を与えたり、ノズルの閉塞の問題をほとんど無くしたりするためには、安定な水性分散体は、インクジェットインキにとって必須のものである。しかしながら、インキが印刷媒体の上にジェット噴射されたときにはインキが不安定となって、インキ中の顔料が(印刷媒体の内部に吸収されるのとは反対に)印刷媒体の表面上に「クラッシュアウト(crash out)」するのが好ましい。印刷媒体の表面上に顔料が存在することによって、そのインキの有利な性能を発揮することができる。
【0075】
このISDポリマー分散剤は、吐出させる前のインキ(たとえばカートリッジ中)を充分に安定化させるが、そのインキを紙の上にジェット噴射した場合には、その顔料系が不安定となり、印刷媒体の表面上に顔料が残るような、新規な分散剤を提供する。このことによって、インキの性能が改良される。
【0076】
ISDを用いて製造したインクジェットインキの疎水性によって、光学密度および彩度が顕著に改良される。(非特許文献2)における、顔料化インキについての最近の議論には、普通紙の上にジェット噴射した場合に、紙の表面に顔料が残存する疎水性顔料配合が記載されている。このように顔料が表面に堆積することによって、光学密度と彩度が改良される。本発明のISDは、さらに疎水性が高く、そのためにより良好なレベルの光学密度と彩度が達成される。
【0077】
(顔料)
各種広い範囲の有機および無機顔料を、単独または組合せとして選択して、ISDおよびインキを製造することができる。本明細書で使用するとき「顔料」という用語は、不溶性の着色剤を意味する。その顔料粒子は充分に小さくて、インクジェット印刷デバイス、特に通常約10ミクロン〜約50ミクロンの範囲の直径を有する吐出ノズルを通過して、インキが自由に流動できるようにする。粒径は顔料分散安定性にも影響があり、それはインキの寿命全体にわたって極めて重要である。微少な粒子のブラウン運動は、粒子が凝集することの防止に役立つであろう。色の濃さと光沢を最大とするためにも、小さな粒子を使用するのが望ましい。有用な粒径の範囲は典型的には、約0.005ミクロン〜約15ミクロンである。顔料の粒径は、約0.005〜約5ミクロンの範囲であるのが好ましく、約0.005〜約1ミクロンであれば最も好ましい。動的光散乱法によって測定した平均粒径は、約500nm未満、好ましくは約300nm未満である。
【0078】
選択した顔料を乾燥した形態または湿潤形態で使用することができる。たとえば、顔料は通常水性媒体の中で製造され、得られる顔料は、水湿潤プレスケーキとして得られる。プレスケーキの形態において、顔料は乾燥した形態にあるほどには、凝集されない。したがって、水湿潤プレスケーキの形態にある顔料は、乾燥形態の顔料ほどには、インキの調製プロセスにおいて解凝集させる必要がない。代表的な市販の乾式顔料は、先に挙げた米国特許公報(特許文献2)に記載がある。
【0079】
有機顔料の場合、インキには、インキの全重量を基準にして、最大約30%まで、好ましくは約0.1〜約25%、より好ましくは約0.25〜約10%の顔料を含むことができる。無機顔料を選択した場合には、そのインキは、有機顔料を用いた対応するインキよりも、より高い重量パーセントの顔料を含む傾向があり、場合によっては約75%もの高濃度とするが、その理由は、無機顔料は一般に有機顔料よりも比重が高いからである。
【0080】
ISDポリマー分散剤は、インキ組成物の全重量を基準にして、重量で、約0.1〜約20%の範囲、より好ましくは約0.2〜約10%の範囲、さらにより好ましくは約0.25%〜約5%の範囲で存在させるのが好ましい。
【0081】
(水性キャリヤ媒体)
水性キャリヤ媒体(水性ビヒクル)は水、または水と少なくとも1種の水混和性有機溶媒との混合物である。好適な混合物の選択は、具体的な用途における必要性、たとえば所望の表面張力および粘度、選択した顔料、顔料化させたインクジェットインキの乾燥時間、およびそのインキで印刷する紙のタイプ、などによって変わってくる。選択することが可能な、水溶性有機溶媒の代表例を挙げれば、(1)アルコールたとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソ−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、フルフリルアルコール、およびテトラヒドロフルフリルアルコール;(2)ケトンまたはケトアルコールたとえば、アセトン、メチルエチルケトンおよびジアセトンアルコール;(3)エーテルたとえば、テトラヒドロフランおよびジオキサン;(4)エステルたとえば、酢酸エチル、乳酸エチル、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネート;(5)多価アルコールたとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、およびチオジグリコール;(6)アルキレングリコールから誘導される低級アルキルモノ−またはジエーテルたとえば、エチレングリコールモノ−メチル(または−エチル)エーテル、ジエチレングリコールモノ−メチル(または−エチル)エーテル、プロピレングリコールモノ−メチル(または−エチル)エーテル、トリエチレングリコールモノ−メチル(または−エチル)エーテル、およびジエチレングリコールジ−メチル(または−エチル)エーテル;(7)窒素含有環状化合物たとえば、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、および1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;および(8)硫黄含有化合物たとえば、ジメチルスルホキシドおよびテトラメチレンスルホン、などがある。
【0082】
水と、多価アルコールたとえばジエチレングリコールとの混合物が、水性キャリヤ媒体としては好ましい。水とジエチレングリコールの混合物の場合、水性キャリヤ媒体には通常、約30%水/70%ジエチレングリコールから、約95%水/5%ジエチレングリコールまでのものが含まれる。好適な比率は、約60%水/40%ジエチレングリコールから約95%水/5%ジエチレングリコールまでである。パーセントは、水性キャリヤ媒体の全重量を基準にしたものである。水とブチルカルビトールとの混合物もまた、効果的な水性キャリヤ媒体である。
【0083】
インキ中の水性キャリヤ媒体の量は典型的には、インキの全重量を基準にして、約70%〜約99.8%の範囲、好ましくは約80%〜約99.8%の範囲である。
【0084】
水性キャリヤ媒体は、界面活性剤、または浸透剤たとえばグリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオールを加えることにより、速浸透性(速乾燥性)とすることができる。グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−イソ−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、およびジプロピレングリコールモノ−イソプロピルエーテルなどが挙げられる。1,2−アルカンジオールは、好ましくは1,2−C4〜6アルカンジオール、最も好ましくは1,2−ヘキサンジオールである。好適な界面活性剤を挙げれば、エトキシル化アセチレンジオール(たとえば、エア・プロダクツ(Air Products)からのスルフィノール(Surfynol,登録商標)シリーズ)、エトキシル化第一級アルコール(たとえば、シェル(Shell)からのネオドール(Neodol,登録商標)シリーズ)および第二級アルコール(たとえば、ユニオン・カーバイド(Union Carbide)からのテルギトール(Tergitol,登録商標)シリーズ)、スルホスクシネート(たとえば、サイテック(Cytec)からのアエロゾル(Aerosol,登録商標)シリーズ)、オルガノシリコーン(たとえば、ウィトコ(Witco)からのシルウェット(Silwet,登録商標)シリーズ)、およびフルオロ界面活性剤(たとえば、本願特許出願人からのゾニル(Zonyl,登録商標)シリーズ)などがある。
【0085】
添加するグリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオールの量は、適切に決めなければならないが、インキの全重量を基準にして典型的には約1〜約15重量%、より典型的には約2〜約10重量%の範囲である。界面活性剤は、インキの全重量を基準にして典型的には約0.01〜約5%、好ましくは約0.2〜約2%の量とする。
【0086】
(その他の添加剤)
その他の添加剤、たとえば殺虫剤、保湿剤、キレート剤および粘度変性剤などを、それらの通常の目的のためにインキに添加することができる。
【0087】
殺生物剤を使用して、微生物の成長を抑制することができる。
【0088】
金属イオン封鎖剤(すなわちキレート剤)たとえば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”、N”−ペンタ酢酸(DTPA)、およびグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸(GEDTA)ならびにそれらの塩、などを加えることによって、たとえば重金属不純物による悪影響を除去するなどの面で、有利となる。
【0089】
その他のポリマー添加剤は、使用するならば、可溶性または分散性のポリマーとすることができる。それらは各種適切なポリマーであってよく、たとえば、可溶性ポリマーとしては、直鎖状のホモポリマー、コポリマー、ブロックポリマーまたは天然ポリマーを挙げることができる。それらはまた、グラフトまたは分岐状のポリマー、スターポリマー、デンドリマーなどを含む、構造化ポリマーであってもよい。分散ポリマーとしては、ラテックス、ポリウレタン分散体などを挙げることができる。それらのポリマーは、各種公知の方法によって製造することが可能で、たとえば、フリーラジカル、グループトランスファー、イオン、RAFT、縮合およびその他のタイプの重合法が使用できるが、これらに限定される訳ではない。有用なポリマーのタイプとしては、たとえば、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ポリウレタン、およびアルギネートなどが挙げられる。これらその他のポリマー添加剤は、ISDポリマー分散剤として機能することが可能なポリマーから選択することができるが、そのままでは使用できない。
【0090】
それらのポリマー添加剤は、光学密度を犠牲にすることなく、光沢やその他の性質を改良するのに有効である。そのようなポリマー添加剤によって影響を受ける可能性があるその他の性質としては、たとえば、サーマルインクジェットの信頼性や画像耐久性などが挙げられる。
【0091】
(インキの性質)
液滴速度、液滴の分離長さ、液滴サイズ、流れ安定性は、インキの表面張力と粘度の影響を大きく受ける。インクジェットインキは典型的には、25℃で約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲の表面張力を有している。粘度は、25℃で約30cPもの高粘度とすることも可能ではあるが、典型的には幾分低めである。インキは、吐出条件および印字ヘッドの設計に適合させることが可能な物理的性質を有している。インキは、長期間にわたって優れた貯蔵安定性を有していて、インクジェット機器の中で顕著なレベルの閉塞を招かないようにするべきである。さらに、インキは、それが接触するインクジェット印刷デバイス部品を腐食させるようなことがあってはならず、また本質的に無臭、無毒でなければならない。
【0092】
いかなる具体的な粘度範囲また印字ヘッドに制限される訳ではないが、より低粘度のインキを使用することが可能で、また、ある種の用途ではその方が好ましい。したがって、(25℃における)インキの粘度は、約7cps未満、約5cps未満、さらには約3.5cps未満とすることができる。
【0093】
(インキセット)
本発明において使用するのに適したインキセットには、少なくとも3原色のインキである、シアンインキ、マゼンタインキおよびイエローインキ(CMY)が含まれるが、ここでそれらのインキの内の少なくとも1種(好ましくは3種すべて)がISDベースのものである。場合によっては、インキセットには他のインキ、特にブラックインキが含まれていてもよい(CMYKインキセットとなる)。
【0094】
そのインキセットがブラックインキを含む場合には、高い光学密度という観点から、顔料は一般にブラックであるのが好ましい。好適なブラック顔料は、カーボンブラック顔料、特にSDPブラックである。SDPブラックおよびそれをベースとしたインキの例は、以下の特許に見出すことができる:たとえば、米国特許公報(特許文献8)、米国特許公報(特許文献20)、米国特許公報(特許文献21)、米国特許公報(特許文献22)、米国特許公報(特許文献23)、米国特許公報(特許文献24)、米国特許公報(特許文献6)、米国特許公報(特許文献25)、米国特許公報(特許文献26)、米国特許公報(特許文献27)、米国特許公報(特許文献28)、米国特許公報(特許文献29)、米国特許公報(特許文献30)、米国特許公報(特許文献31)、米国特許公報(特許文献32)、米国特許公報(特許文献33)、米国特許公報(特許文献34)、米国特許公報(特許文献35)、米国特許公報(特許文献36)、米国特許公報(特許文献37)、米国特許公報(特許文献38)、米国特許公報(特許文献39)、米国特許公報(特許文献40)、米国特許公報(特許文献41)、米国特許公報(特許文献42)、米国特許公報(特許文献43)、米国特許公報(特許文献44)、米国特許公報(特許文献45)、米国特許公報(特許文献46)、米国特許公報(特許文献47)、米国特許公報(特許文献48)、米国特許公報(特許文献49)、(特許文献50)、(特許文献51)、(特許文献52)、(特許文献53)、(特許文献54)、(特許文献55)、(特許文献56)、および(特許文献9)(それらの開示は、すべての目的において、そのすべてを記載したかのように、本明細書に参照により援用するものとする)。
【0095】
SDPは、顔料の表面の上に官能基または官能基を含む分子をグラフトさせるか、物理的処理(たとえば真空プラズマ)によるか、あるいは化学的処理(たとえば、オゾン、次亜塩素酸などを用いた酸化反応)によるか、の方法を用いて調製することができる。単一のタイプまたは複数のタイプの親水性官能基を、1つの顔料粒子の上に結合させることができる。そのタイプと官能化の程度は、たとえば、インキ中での分散安定性、色濃度、およびインクジェットヘッド部の先端における乾燥特性などを考慮に入れて、適切に決めることができる。さらなる詳細は、先に引用した多くの公刊物を参照することにより、見出すことが可能である。
【0096】
1つの好ましい実施態様においては、SDP上の親水性官能基が主として、カルボキシル基、またはカルボキシル基とヒドロキシル基との組合せであり、さらにより好ましくは、SDP上の親水性官能基が直接結合していて、主としてカルボキシル基、またはカルボキシルとヒドロキシルとの組合せである。
【0097】
親水性官能基が直接結合している好適な顔料は、たとえば先に引用した(特許文献9)に記載されている方法により、製造することができる。その特許に記載されている方法により処理したカーボンブラックは、高い表面活性水素含量を有していて、塩基を用いてそれを中和することにより、水中で極めて安定な分散体が得られる。
【0098】
ブラックインキに加えて、インキセットには、1つまたは複数その他の着色インキ、たとえば、オレンジインキおよび/またはグリーンインキがさらに含まれていてもよい。
【0099】
インキセットにはさらに、定着液が含まれていてもよく、それによって、速乾性水性インキにおけるかぶりや裏抜けを低下させる点で有利となる。たとえば、米国特許公報(特許文献57)、米国特許公報(特許文献58)、米国特許公報(特許文献59)、(特許文献60)、および(特許文献61)(出願日2004年、1月12日、米国特許第仮出願第60/449,760号(出願日2003年2月25日)の優先権主張)などを参照されたい(それらの開示は、すべての目的において、そのすべてを記載したかのように、本明細書に参照により援用するものとする)。
【0100】
ここで本発明について、以下の実施例を用いてさらに説明するが、それは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0101】
(ポリマー性分散剤)
以下の合成例はすべてグループトランスファー重合(GTP)に基づくものであるが、同様のタイプのポリマーを生成させるのに、その他のタイプの重合法を使用することも可能である。ブロックポリマーの場合、反応中のブロックを少なくとも95%転化させた後に、次のブロックのためのモノマー混合物を添加した。すべての場合において、フィードサイクル方法を記述した。しかしながら、HPLCを用いた検出で、99%のポリマーが転化したところで、合成を終了させた。報告した分子量は(特に断らない限り)、理論的な考察に基づいたものである。ランダムで直鎖状のポリマーの場合、報告した比率は、最終的なポリマーの中のモノマー単位の重量比であり;トリブロックおよびその他のポリマーの場合には、その比はモノマー成分のモル比である。
【0102】
以下の実施例においては、標準的な実験室的方法を用いた。
【0103】
酸価は滴定により求め、mg/ポリマー固形分(グラム)として報告した。分子量はGPCにより求めた。GPCの分離は、2本の500Åおよび2本の100Åで30cm×内径7.8mmのマイクロスチラゲル(Microstyragel)カラム(マサチューセッツ州ミルフォード(Milford,MA)のウォーターズ(Waters)製)からなる、4本カラムセットを用いて実施した。ヒューレット・パッカード(Hewlett−Packard)(カリフォルニア州パロ・アルト(Palo Alto,CA))のモデル1090グラジエント液体クロマトグラフを用い、テトラヒドロフラン移動相を流量1.0mL/分で送った。溶出する化学種は、ヒューレット・パッカード(Hewlett−Packard)1047A示差屈折率検出器を使用して検出した。標準の狭い分子量範囲の低分子量ポリ(メタクリル酸メチル)を校正物質として用いた。粒径は、フロリダ州ラーゴ(Largo,Florida)のマイクロトラック・アナライザー(Microtrac Analyzer)を用いて、動的光散乱法により測定した。分散工程の多くにおいて、マサチューセッツ州ニュートン(Newton,MA)のマイクロフルイディクス・システム(Microfluidics system)モデル100FまたはYを用いた。
【0104】
注意してほしいのは、ポリマー組成物を表す場合に、ダブルスラッシュはブロックの間の分離を示し、シングルスラッシュはランダムコポリマーを表している。したがって、たとえば、BZMA/MAA(90/10)は、最終的なポリマー中に、約90重量%のメタクリル酸ベンジル(BZMA)と約10重量%メタクリル酸(MAA)単位を有するランダムコポリマーであり;そしてBZMA//MAA//BZMA(8//10//8)は、ABAトリブロックポリマーであって、最初のAブロックが平均8個のBZMA単位の長さ、Bブロックが平均10個のMAA単位の長さ、そして最後のAが平均8個のBZMA単位の長さとなっている。
【0105】
((1a)BZMA/MAA(90/10)ランダムで直鎖状のコポリマー)
5リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。テトラヒドロフラン(THF)、1715.1gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、1.2mL)を添加した。重合開始剤(1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン、51.33g(0.295モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、1.2mLおよびTHF、10.0g)を開始し、180分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、267.6g(1.69モル)およびメタクリル酸ベンジル(BZMA)、1305.6g(7.42モル))を0.0分に開始し、70分かけて添加した。
【0106】
173分のところで、60.5gのメタノールを上記の溶液に添加して、蒸留を開始した。蒸留の第一段階の間に、503.0gの物質を除去した。最終的なポリマー溶液では、固形分が51.5%であった。
【0107】
そのポリマーは、BZMA/MAA(90/10)の組成を有し;分子量(Mn)が5048;そして酸価が、全固形分を基準にして、1.24(ミリ当量/グラム(ポリマー固形分)であった。
【0108】
((1b)BZMA/MAA(90/10)ランダムで直鎖状のコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。テトラヒドロフラン(THF)、1200gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.75mL)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシリルオキシ)−2−メチルプロペン、42.5g(0.18モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.4mLおよびTHF、5g)を開始し、180分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、135.5g(0.86モル)およびメタクリル酸ベンジル、825.5g(4.69モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。
【0109】
125分のところで、70gのメタノールを上記の溶液に添加して、蒸留を開始した。蒸留の第一段階の間に、375gの物質を除去した。最終的なポリマー溶液では、固形分が48.5%であった。
【0110】
そのポリマーは、BZMA/MAA(90/10)の組成を有し;分子量(Mn)が4995、そして酸価が、全固形分を基準にして、1.22(ミリ当量/グラム(ポリマー固形分)であった。
【0111】
((1c)BZMA/MAA(90/10)ランダムで直鎖状のコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
2リットルのフラスコの中に、1000gのポリマー1aの溶液を加えた。その溶液を加熱還流させて、284gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、221gの2−ピロリドンを添加した。さらに156gの溶媒を留去し、266gの2−ピロリドンを添加して、固形分47%のポリマー溶液を作った。
【0112】
((2a)BZMA/MAA(92/8)ランダムで直鎖状のコポリマー)
調製法1aの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、213.2gのメタクリル酸トリメチルシリルと1334.5gのメタクリル酸ベンジルを用いた。これにより得られたのは、固形分51.7%のポリマー溶液で、その組成がBZMA/MAA(92/8)、分子量(Mn)が5047、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.99(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0113】
((2b)BZMA/MAA(92/8)ランダムで直鎖状のコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
5リットルのフラスコの中に、1449gのポリマー2a溶液を、412gの2−ピロリドンと共に加えた。その溶液を加熱還流させて、56gの溶媒を留去した。次いで、320.5gの2−ピロリドンを添加して、固形分45.7%のポリマー溶液を作った。
【0114】
((2c)BZMA/MAA(92/8)ランダムで直鎖状のコポリマー)
調製法1bの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、103.0gのメタクリル酸トリメチルシリル(0.65モル)、844gのメタクリル酸ベンジル(4.80モル)および55gのメタノールを使用し、354gの物質を除去した。最終的なポリマー溶液では、固形分が48.4%であった。
【0115】
そのポリマーは、BZMA/MAA(92/8)の組成を有し;分子量(Mn)が4999、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.98(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0116】
((2d)水酸化カリウムを用いたポリマー2bの中和)
以下の成分を組み合わせて撹拌した:
【0117】
【表1】

【0118】
((3a)BZMA/MAA(94/6)ランダムで直鎖状のコポリマー)
調製法1aの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、160.3gのメタクリル酸トリメチルシリルと1363.5gのメタクリル酸ベンジルを用いた。得られたのは固形分49.9%のポリマー溶液で、その組成がBZMA/MAA(94/6)、分子量(Mn)が5047、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.77(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0119】
((3b)BZMA/MAA(94/6)ランダムで直鎖状のコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
2bの場合と同様に調製して、最終的な溶媒として2−ピロリドンを含むポリマー3aの溶液を調製した。得られたものは、固形分含量が43.93%、THFが8.8%そして2−ピロリドンが47.27%であった。
【0120】
((3c)BZMA/MAA(94/6)ランダムで直鎖状のコポリマー)
調製法1bの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、69.9gのメタクリル酸トリメチルシリル(0.44モル)、862.0gのメタクリル酸ベンジル(4.90モル)および55gのメタノールを使用し、359gの物質を除去した。最終的なポリマー溶液では、固形分が49.0%であった。
【0121】
そのポリマーは、BZMA/MAA(94/6)の組成を有し、分子量(Mn)が4999、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.69(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0122】
((4a)BZMA//MAA//BZMA(8//10//8)トリブロックコポリマー)
5リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、1721.0gをそのフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、1.9mL)を添加した。重合開始剤(1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン、80.17g(0.46モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、1.8mLおよびTHF、16.92g)を開始し、210分かけて添加した。フィードII(BZMA、649.3g(3.69モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。フィードIIが完了してから30分後に(99%を超えるモノマーが反応済み)、フィードIII(メタクリル酸トリメチルシリル、726.7g(4.60モル))を開始し、30分かけて添加した。フィードIIIが完了してから150分後に(99%を超えるモノマーが反応済み)、フィードIV(BZMA、647.5g(3.68モル))を開始し、30分かけて添加した。
【0123】
500分のところで、300.0gのメタノールを上記の溶液に添加して、蒸留を開始した。750.0gの物質を除去して、テトラヒドロフラン中に固形分51.5%の最終的なポリマー溶液を製造した。
【0124】
そのポリマーは、組成がBZMA//MAA//BZMA(8//10//8)、分子量が3780、そして酸価が、全固形分を基準にして、2.88(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0125】
((4b)BZMA//MAA//BZMA(8//10//8)トリブロックコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
3リットルのフラスコに加熱用マントル、撹拌器およびコンデンサーを取り付けた。1000グラムのポリマー4aの溶液を、500gの2−ピロリドンと共に仕込んだ。そのフラスコを加熱還流させ、蒸留を始めて250.0gの溶媒を除去してから、追加の447.0の2−ピロリドンを添加した。蒸留を続けてさらに200gの溶媒を除去した。これにより、2−ピロリドン中固形分35.2%のポリマー溶液が残った。
【0126】
((5a)BZMA//MAA//BZMA(8//5//8)トリブロックコポリマー)
調製法4aの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、363.5gのメタクリル酸トリメチルシリルを使用した。これにより、固形分51.7%のポリマー溶液が得られたが、その組成はBZMA//MAA//BZMA(8//5//8)、分子量(Mn)が3350、そして酸価が、全固形分を基準にして、1.59(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0127】
((5b)BZMA//MAA//BZMA(8//5//8)トリブロックコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
調製法4bの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、ポリマー5aの溶液を使用した。これにより、2−ピロリドン中固形分が35.7%のポリマー溶液が作られた。
【0128】
((6a)BZMA//MAA(5//1)、B不足の(short B)ブロックコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、1000.6gをそのフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、4.0mL)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシロキシ)−2−メチルプロペン、232.7g(1.00モル))を注入した。フィードI(メタクリル酸ベンジル、881.0g(5.00モル))を0.0分に開始し、60分かけて添加した。
【0129】
190分のところで、64.2gのメタノールを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。457.7gの物質を除去して、固形分54.0%の最終的なポリマー溶液を作った。
【0130】
そのポリマーは、BZMA//MAA(5//1)の組成を有し、分子量(Mn)が886、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.90(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0131】
((6b)BZMA//MAA(5//1)、B不足のブロックコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
調製法4bの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、ポリマー6aの溶液を使用した。これにより、2−ピロリドン中固形分が43.75%のポリマー溶液を作った。
【0132】
((7a)BZMA/ETEGMA/MAA(84/10/6)ランダムで直鎖状のコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、1200gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.76mL)を添加した。重合開始剤(1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン、32g(0.18モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.76mLおよびTHF、10g)を開始し、300分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、99.4g(0.63モル)、メタクリル酸ベンジル、754.1g(4.28モル)、およびメタクリル酸エトキシトリエチレングリコール(ETEGMA)、92.1g(0.37モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。
【0133】
175分のところで、55gのメタノールを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。350.5gの物質を除去して、固形分49.1%の最終のポリマー溶液を作った。
【0134】
そのポリマーは、BZMA/ETEGMA/MAA(84/10/6)の組成を有し、分子量(Mn)が4994、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.79(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0135】
((7b)BZMA/ETEGMA/MAA(84/10/6)ランダムで直鎖状のコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
2リットルのフラスコの中に、1000gのポリマー7aの溶液を加えた。その溶液を加熱還流させて、256gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、224gの2−ピロリドンを添加した。さらに184gの溶媒を留去し、269gの2−ピロリドンを添加して、固形分47%のポリマー溶液を作った。
【0136】
((7c)BZMA/ETEGMA/MAA64/30/6ランダムで直鎖状のコポリマー)
調製法7aの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、576.1gのメタクリル酸ベンジル(3.27モル)および270.1gのメタクリル酸エトキシトリエチレングリコール(1.10モル)を使用した。最終的なポリマー溶液では、固形分が48.5%であった。
【0137】
そのポリマーは、BZMA/ETEGMA/MAA(64/30/6)の組成を有し、分子量(Mn)が4994、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.78(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0138】
((8a)BZMA/HEMA/MAA(78/16/6)ランダムで直鎖状のコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、1200gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.77mL)を添加した。重合開始剤(1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン、32g(0.18モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.39mLおよびTHF、5g)を開始し、150分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、99.4g(0.63モル)、メタクリル酸ベンジル、703.1g(3.99モル)、およびメタクリル酸2−(トリメチルシリルオキシ)エチル、223.1g(1.10モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。
【0139】
135分のところで、125gのメタノールおよび0.34gのジクロロ酢酸を上記の溶液に添加し、30分間撹拌した。次いで、505gの物質を蒸留により除去して、固形分50.8%の最終的なポリマー溶液を作った。
【0140】
そのポリマーは、BZMA/HEMA/MAA(78/16/6)の組成を有し、分子量(Mn)が4996、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.70(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0141】
((9)BZMA/ETEGMA/HEMA/MAA(82.5/7.5/4/6)ランダムで直鎖状のコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、1100gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.62mL)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシリルオキシ)−2−メチルプロペン、35g(0.15モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.32mLおよびTHF、5g)を開始し、150分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、96.2g(0.61モル)、メタクリル酸ベンジル、744.3g(4.22モル)、メタクリル酸エトキシトリエチレングリコール、67.6g(0.27モル)、およびメタクリル酸2−(トリメチルシリルオキシ)エチル、56.1g(0.28モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。
【0142】
135分のところで、70gのメタノールおよび0.34gのジクロロ酢酸を上記の溶液に添加し、30分間撹拌した。次いで、330gの物質を蒸留により除去して、固形分50.85%の最終的なポリマー溶液を作った。
【0143】
そのポリマーは、BZMA/ETEGMA/HEMA/MAA(82.5/7.5/4/6)の組成を有し、分子量(Mn)が6001、そして酸価が、全固形分を基準にして、0.86(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0144】
((10)BZMA//DMAEMA(13//3.4)ジブロックコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、540gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.69g)を添加した。重合開始剤(1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン、29.8g(0.17モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.35gおよびTHF、5g)を開始し、150分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、92.3g(0.59モル))を0.0分に開始し、30分かけて添加した。フィードIII(メタクリル酸ベンジル、390.8g(2.22モル))を60分に開始し、30分かけて添加した。
【0145】
135分のところで、11gのメタノールを上記の溶液に添加し、フィードIを停止した。蒸留を用いて48gの物質を除去して、固形分47.3%の最終的なポリマー溶液を得た。
【0146】
そのポリマーの組成は、BZMA//DMAEMA(13//3.4(モル比))、理論分子量(Mn)が2930、そしてアミン価が、全固形分を基準にして、1.18(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0147】
((10b)BZMA//DMAEMA(13//3.4)ジブロックコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
2リットルのフラスコの中に、950gのポリマー10(a)の溶液を加えた。その溶液を加熱還流させて、241gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、214gの2−ピロリドンを添加した。さらに183gの溶媒を留去し、258gの2−ピロリドンを添加して、固形分45.6%のポリマー溶液を作った。
【0148】
((10c)BZMA//DMAEMA(13//4.4)ジブロックコポリマー)
調製法10aの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、118.1gのメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル(0.75モル)を使用し、メタノールは、フィードの開始から170分後に添加した。そのポリマーの組成は、BZMA//DMAEMA(13//4.4(モル比))、理論分子量(Mn)が3080、そしてアミン価が、全固形分を基準にして、1.49(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0149】
((11a)BZMA/DMAEMA(85.5/14.5)ランダムで直鎖状のコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、552gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.37g)を添加した。重合開始剤(1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン、16.8g(0.096モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.19gおよびTHF、5g)を開始し、150分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、71.7g(0.46モル)およびメタクリル酸ベンジル、419.6g(2.38モル))を0.0分に開始し、30分かけて添加した。
【0150】
85分のところで、6.6gのメタノールを上記の溶液に添加し、フィードIを停止した。蒸留を用いて28.5gの物質を除去して、固形分47.8%の最終的なポリマー溶液を得た。
【0151】
そのポリマーの組成は、BZMA/DMAEMA(85.5/14.5(重量比))、理論分子量(Mn)が5370、そしてアミン価が、全固形分を基準にして、0.92(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0152】
((11b)BZMA/DMAEMA(85.5/14.5)、ランダムで直鎖状のコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
2リットルのフラスコの中に、950gのポリマー11aの溶液を加えた。その溶液を加熱還流させて、251gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、211gの2−ピロリドンを添加した。さらに162gの溶媒を留去し、253gの2−ピロリドンを添加して、固形分44.8%のポリマー溶液を作った。
【0153】
((12a)BZMA/DMAEMA(76.4/23.6)、ランダムで直鎖状のコポリマー)
調製法11aの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、376gのメタクリル酸ベンジル(2.13モル)および116.2gのメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル(0.74モル)を使用し、フィードの開始から53分後にメタノールを添加した。
【0154】
そのポリマーの組成は、BZMA/DMAEMA(76.4/23.6(重量比))、理論分子量(Mn)が5370、そしてアミン価が、全固形分を基準にして、1.6(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0155】
((12b)BZMA/DMAEMA(76.4/23.6)、ランダムで直鎖状のコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
2リットルのフラスコの中に、980gのポリマー12aの溶液を加えた。その溶液を加熱還流させて、263gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、217gの2−ピロリドンを添加した。さらに210gの溶媒を留去し、260gの2−ピロリドンを添加して、固形分45.8%のポリマー溶液を作った。
【0156】
((13)MMA/DMAEMA(85.5/14.5(重量比))、ランダムで直鎖状のコポリマー)
調製法11aの場合と同じ調製法を用いたが、ただし、16.4gの1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン(0.094モル)を使用し、メタクリル酸ベンジルに代えて419.6gのメタクリル酸メチル(4.19モル)を使用し、フィードの開始から93分後にメタノールを添加した。
【0157】
((14a)BZMA//MAA(13//3)、B不足のブロックコポリマー)
12リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、3866gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、1.2mL)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシリルオキシ)−2−メチルプロペン、281.1g(1.21モル))を注入した。フィードI(メタクリル酸トリメチルシリル、382.8g(2.42モル))を開始し、30分かけて添加した。117分のところで、フィードII(メタクリル酸ベンジル、2767.7g(15.73モル))を開始し、64分かけて添加した。240分のところで、232gのメタノールを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。1180gの物質を除去すると、固形分50.82%の最終的なポリマー溶液が得られた。
【0158】
そのポリマーの組成は、BZMA//MAA(13//3(モル比))、分子量(Mn)が2522、多分散性が1.26、そして酸価が、全固形分を基準にして、1.23(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0159】
((14b)BZMA//MAA(13//3)、B不足のブロックコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
12リットルのフラスコの中で、5300gのポリマー14aの溶液を加熱還流させ、1353gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、1188gの2−ピロリドンを添加した。さらに1190gの溶媒を留去し、1428gの2−ピロリドンを添加して、固形分46.31%のポリマー溶液を作った。
【0160】
((PA1a)ポリマー添加剤ETEGMA/MAA(74/26)、ランダムコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、760gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.82g)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシリルオキシ)−2−メチルプロペン、24.0g(0.10モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.4gおよびTHF、5g)を開始し、150分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、225.1g(1.42モル)およびメタクリル酸エトキシトリエチレングリコール(ETEGMA)、377.6g(1.53モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。250分のところで、100gのメタノールを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。441gの物質を除去すると、固形分49.7%のポリマー溶液が得られた。
【0161】
そのポリマーの組成はETEGMA/MAA(74/26、重量%)、分子量(Mn)が5800、多分散性が1.27、そして酸価が、全固形分を基準にして、3.05(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0162】
((PA1b)ポリマー添加剤ETEGMA/MAA(74/26)、ランダムコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
3リットルのフラスコの中で、838gのポリマーPA1aの溶液を加熱還流させ、216gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、187gの2−ピロリドンを添加した。さらに167gの溶媒を留去し、225gの2−ピロリドンを添加して、固形分48.40%のポリマー溶液を作った。
【0163】
((PA1c)ポリマー添加剤ETEGMA/MAA(74/26)、ランダムコポリマーの水酸化カリウムを用いた中和)
以下の成分を組み合わせて撹拌した:
【0164】
【表2】

【0165】
((PA2a)ポリマー添加剤HEMA/MAA(74/26)、ランダムコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、1172gをフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.8mL)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシリルオキシ)−2−メチルプロペン、23.8g(0.10モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.4mLおよびTHF、5g)を開始し、130分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、225.9g(1.43モル)およびメタクリル酸2−(トリメチルシリルオキシ)エチル、587.1g(2.91モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。150分のところで、285gのメタノールを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。1234gの物質を除去した。
【0166】
そのポリマーの組成はHEMA/MAA(74/26、重量%)、分子量(Mn)が5695、多分散性が1.53、そして酸価が、全固形分を基準にして、2.77(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0167】
((PA2b)ポリマー添加剤HEMA/MAA(74/26)、ランダムコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
3リットルのフラスコの中で、850gのポリマーPA2aの溶液を加熱還流させ、155gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、421gの2−ピロリドンを添加した。さらに45gの溶媒を留去し、150gの2−ピロリドンと0.3gのジクロロ酢酸を添加した。さらに74gの溶媒を留去すると、固形分45.58%のポリマー溶液が得られた。
【0168】
((PA2c)ポリマー添加剤HEMA/MAA(74/26)、ランダムコポリマーの水酸化カリウムを用いた中和)
以下の成分を組み合わせて撹拌した:
【0169】
【表3】

【0170】
((PA3a)ポリマー添加剤MA/AA(85/15)、ランダムコポリマー)
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。メチルエチルケトン(MEK)、850gをそのフラスコに仕込み、加熱還流させた。還流を20分させてから、フィードI(アクリル酸メチル(MA)、765.6g(8.9モル)およびアクリル酸(AA)、135.0g(1.9モル))を開始し、270分かけて添加した。フィードII(バゾ(Vazo,登録商標)52(本願特許出願人)、46.0g(0.19モル)およびMEK、250.2g)をフィードIと同時に開始し、300分かけて添加した。フィードIIが終了したら、その反応液をさらに60分間還流状態に保った。
【0171】
そのポリマーの組成は、MA/AA(85/15重量%)、分子量(Mn)が6649、多分散性が2.19、そして酸価が、全固形分を基準にして、1.99(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0172】
((PA3b)ポリマー添加剤MA/AA(85/15)、ランダムコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
3リットルのフラスコの中で、ポリマーPA3aの溶液を加熱還流させ、611gの溶媒を留去した。次いでそのフラスコに、460gの2−ピロリドンを添加した。さらに342gの溶媒を留去し、490gの2−ピロリドンを添加して、固形分46.1%のポリマー溶液を作った。
【0173】
((PA3c)ポリマー添加剤MA/AA(85/15)、ランダムコポリマーの水酸化カリウムを用いた中和)
以下の成分を組み合わせて撹拌した:
【0174】
【表4】

【0175】
((PA4a)ポリマー添加剤nBA/ETEGMA/MPEG100040/30/30ランダムコポリマー)
5リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。メタクリル酸エトキシトリエチレングリコール(ETEGMA)、60g(0.24モル)、アクリル酸n−ブチル(nBA)、80g(0.63モル)、バイソマー(Bisomer)S10WであるMPEG1000、120g(0.06モル)、およびイソプロピルアルコール(IPA)、790gをそのフラスコに仕込み、加熱還流させた。フィードI(ETEGMA、241g(0.98モル)およびnBA、320g(2.5モル))を開始し、180分かけて添加した。フィードII(バイソマー(Bisomer)S10WであるMPEG1000、480g(0.22モル))をフィードIと同時に開始し、180分かけて添加した。フィードIII(バゾ(Vazo,登録商標)52、10g(0.04モル)、メチルエチルケトン(MEK)、30g、およびIPA、30g)をフィードIおよびIIと同時に開始し、210分かけて添加した。フィードIIIが終了したら、フィードIV(バゾ(Vazo,登録商標)52、15g(0.06モル)、MEK、45g、およびIPA、45g)を開始し、10分かけて添加した。フィードIVの後、その反応液をさらに110分間還流状態に保った。
【0176】
そのポリマーの組成はnBA/ETEGMA/MPEG1000(40/30/30、重量%)、分子量(Mn)が6638、そして多分散性が3.11であった。
【0177】
((PA4b)ポリマー添加剤nBA/ETEGMA/MPEG1000(40/30/30)、ランダムコポリマー、最終溶媒として2−ピロリドンを含む)
5リットルのフラスコの中で、751gの2−ピロリドンを、ポリマーPA4aの溶液に添加した。その溶液を加熱還流させて、1086gの溶媒を留去した。次いで337gの2−ピロリドンをそのフラスコに添加して、固形分43.33%のポリマー溶液を作った。
【0178】
((CP1)比較例ポリマー1:ETEGMA//BZMA//MAA(3.6//13.6//10.8))
以下の記述は、イオン的な安定化と立体的な安定化の両方を有するブロックポリマーの作り方の例である。
【0179】
3リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、291.3gをそのフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.44mL)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシロキシ)−2−メチルプロペン、20.46g(0.0882モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、0.33mLおよびTHF、16.92g)を開始し、185分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、152.00g(0.962モル))を0.0分に開始し、45分かけて添加した。フィードIIが完了してから180分後に(99%を超えるモノマーが反応済み)、フィードIII(メタクリル酸ベンジル、211.63g(1.20モル))を開始し、30分かけて添加した。フィードIIIが完了してから40分後に(99%を超えるモノマーが反応済み)、フィードIV(メタクリル酸エトキシトリエチレングリコール、78.9g(0.321モル))を開始し、30分かけて添加した。
【0180】
400分のところで、73.0gのメタノールと111.0gの2−ピロリドンとを上記の溶液に添加して、蒸留を開始した。352.0gの物質を除去してから、さらなる2−ピロリドン、340.3gを添加し、さらに81.0gの物質を留去した。最後に2−ピロリドンを全部で86.9g添加した。最終的なポリマー溶液では、固形分が40.0%であった。
【0181】
そのポリマーの組成は、ETEGMA//BZMA//MAA(3.6//13.6//10.8)、分子量(Mn)が4200、そして酸価が、全固形分を基準にして、2.90(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0182】
(比較例ポリマー1の水酸化カリウムを用いた中和)
以下の成分を組み合わせて撹拌した:
【0183】
【表5】

【0184】
((CP2)比較例ポリマー2:BZMA//MAA(13//10))
以下の記述は、イオン的な安定化と立体的な安定化の両方を有するブロックポリマーの作り方の例である。その組成は、BZMA//MAA(13//10)であった。
【0185】
12リットルのフラスコに、機械的撹拌器、温度計、N入口、乾燥チューブ出口、および滴下ロートを取り付けた。THF、3750gおよびp−キシレン、7.4gをそのフラスコに仕込んだ。次いで、触媒(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、3.0mL)を添加した。重合開始剤(1,1−ビス(トリメチルシロキシ)−2−メチルプロペン、291.1g(1.25モル))を注入した。フィードI(m−クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル中1.0M溶液、3.0mL)を開始し、180分かけて添加した。フィードII(メタクリル酸トリメチルシリル、1975g(12.5モル))を0.0分に開始し、35分かけて添加した。フィードIIが完了してから100分後に(99%を超えるモノマーが反応済み)、フィードIII(メタクリル酸ベンジル、2860g(16.3モル))を開始し、30分かけて添加した。
【0186】
400分のところで、720gのメタノールを上記の溶液に添加し、蒸留を開始した。蒸留の第一段階の間に、1764.0gの物質を除去した。次いで追加のメタノール304.0gを添加し、2255.0gの物質をさらに留去した。最終的なポリマー溶液では、固形分が49.7%であった。
【0187】
そのポリマーは、BZMA//MAA(13//10)の組成を有し、分子量(Mn)が3200、そして酸価が、全固形分を基準にして、3.52(meq/グラム(ポリマー固形分))であった。
【0188】
(分散体の調製1:ブラック分散体(PD1))
水性ブラック顔料分散体を、充分な撹拌下に以下の成分を混合することにより調製した:
【0189】
【表6】

【0190】
これを混合してから、マイクロフルイディクス(Microfluidics)からのミルを使用して分散させた。次いで、183.3gの水を用いて、上記の混合物550gを希釈し、分散ミルを通して再び分散させると、平均粒径が157nmの7.5重量%顔料分散体が得られた。
【0191】
(分散体の調製2:マゼンタ分散体(PD2))
水性マゼンタ顔料分散体を調製するのに、まず2本ロールミルを用いて以下の成分を混練した。
【0192】
【表7】

【0193】
これを混練し、固形分89.7重量%のチップの形態のマゼンタ分散体を作った。次いでこれを、以下の成分をまず混合させることにより、レットダウンさせた:
【0194】
【表8】

【0195】
次いで、その分散体を、高速分散機中で3000rpmで4時間混合した。その後、500.0gの分散体を取り出し、53.75gのダウアノール(Dowanol,登録商標)DPMおよび253.75gの脱イオン水と混合した。次いでこの分散体を、メディアミル中で混練した。次いでその分散体を水で希釈し、限外ろ過法により過剰の溶媒を除去することにより精製すると、溶媒(水以外)が1.0重量%未満の、顔料固形分14.09重量%の分散体が得られた。
【0196】
(分散体の調製3:シアン分散体(PD3))
水性シアン顔料分散体を調製するのに、まず2本ロールミルを用いて以下の成分を混練した。
【0197】
【表9】

【0198】
これを混練し、固形分93.45重量%のチップの形態のシアン分散体を作った。次いでこれを、以下の成分をまず混合させることにより、レットダウンさせた:
【0199】
【表10】

【0200】
次いで、その分散体を高速分散機中4000rpmで3時間混合し、それに続けてメディアミル中で4時間混練した。次いで、341gの物質を、441gの脱イオン水を用いて希釈し、限外ろ過法により過剰の溶媒を除去することにより、その分散体を精製すると、溶媒(水以外)が1.0重量%未満で平均粒径が123nmの、顔料固形分13.65重量%の分散体が得られた。
【0201】
(分散体の調製4:イエロー分散体(PD4))
水性イエロー顔料分散体を調製するのに、まず2本ロールミルを用いて以下の成分を混練した。
【0202】
【表11】

【0203】
これを混練し、固形分89.16重量%のチップの形態のイエロー分散体を作った。次いでこれを、以下の成分をまず混合させることにより、レットダウンさせた:
【0204】
【表12】

【0205】
次いで、その分散体を、高速分散機(HSD)中3000rpmで4時間混合した。次いでそれを、メディアミル中で4時間混練した。次いで、281gの物質を、141gの脱イオン水を用いて希釈し、限外ろ過法により過剰の溶媒を除去することにより、その分散体を精製すると、溶媒(水以外)が1.0重量%未満で平均粒径が79nmの、顔料固形分18.37重量%の分散体が得られた。
【0206】
(分散体の調製5:マゼンタ分散体(PD5))
水性マゼンタ顔料分散体を、充分な撹拌下に以下の成分を混合することにより調製した:
【0207】
【表13】

【0208】
これにより、公称ポリマー固形分15%の中和したポリマー溶液が得られた。以下の成分を、HSDを用いて4000rpmで2時間混合することによって、分散体のバランス分を調整した:
【0209】
【表14】

【0210】
これを混合し、次いで、メディアミルを用いて4時間かけて分散させた。次いで上記の混合物200gを、100.0gの脱イオン水で希釈し、限外ろ過によって精製すると、平均粒径138nmの、固形分17.74重量%の顔料分散体が得られた。
【0211】
(分散体の調製6:ブラック分散体(PD6))
以下の配合を用いて分散体を調製した:
【0212】
【表15】

【0213】
これらの成分を充分に混合し、マイクロフルイディクス・システム(Microfluidics System)を用いて分散させると、平均粒径95nmの、固形分15重量%の顔料分散体が得られた。
【0214】
(分散体の調製7:ブラック分散体(PD7))
以下の配合を用いて分散体を調製した:
【0215】
【表16】

【0216】
リストアップした成分を充分に混合し、次いでマイクロフルイディクス(Microfluidics)システムを使用して分散させた。上記のものを次いで138gの水を用いて希釈し、再びマイクロフルイディクス(Microfluidics)システムを用いて分散させると、平均粒径が119nmの、固形分10重量%の顔料分散体が得られた。
【0217】
(分散体の調製8:ブラック分散体(PD8))
以下の配合を用いて分散体を調製した:
【0218】
【表17】

【0219】
リストアップした成分を充分に混合し、次いで、マイクロフルイディクス・システム(Microfluidics System)を用いて分散させると、平均粒径が200nmの、固形分10重量%の顔料分散体が得られた。
【0220】
(分散体の調製9:シアン分散体(PD9)
以下の配合を用いて分散体を調製した:
【0221】
【表18】

【0222】
サンファスト・ケミカル・サンファスト・ブルー(Sunfast Chemical Sunfast Blue)15:4をまずHSCの中で処理し、次いで、0.6〜0.8mmのジルコニア(ZrO)メディアを用いた水平メディアミルの中で磨砕した。分散が完了してから、その流体を限外ろ過して、溶媒を除去した。
【0223】
(分散体の調製10:マゼンタ分散体(PD10))
クラリアント・ホスタパーム・ピンク(Clariant Hostaperm Pink)E−WD(R−122)チップを、分散体の調製2と同様な方法で、調製した。そのチップをHSD中で15%ブチルカルビトールを使用し、固形分約20%で処理し、次いでジルコニアメディアを用いたメディアミル処理を行った。その分散体を水中でレットダウンさせて、固形分を下げた。得られた分散体を限外ろ過して、溶媒を除去した。
【0224】
(分散体の調製11:マゼンタ分散体(PD11))
水性マゼンタ顔料分散体を、充分な撹拌下に以下の成分を混合することにより調製した:
【0225】
【表19】

【0226】
これを、HSD中3000rpmで2時間かけて分散させた。49.1グラムのレットダウン水を添加した。その分散体を、0.5mmのナイロンメディアを用いたアイガー(Eiger)ミルの中でさらに分散させた。混練の間に60グラムの水を添加して、粘度と温度を調節した。130.9グラムのレットダウン水を使用した。その分散体を限外ろ過すると、顔料固形分12%の分散体が得られた。限外ろ過の後に、0.25%のプロクセル(Proxel,登録商標)GXLを添加した。
【0227】
(分散体調製12、13および14:ブラック分散体(PD12、PD13およびPD14))
以下の成分をHSDを用いて混合し、次いでマイクロフルイディクス(Microfluidics)メディアミルを用いて分散させると、下記に示す平均粒径を有する、固形分15重量%の顔料分散体が得られた。
【0228】
【表20】

【0229】
(比較例分散体の調製1:ブラック分散体(CDP1)
水性ブラック顔料分散体を、充分な撹拌下に以下の成分を混合することにより調製した:
【0230】
【表21】

【0231】
これを混合し、次いでマイクロフルイディクス(Microfluidics)からのミルを用いて分散させると、平均粒径が97nmの、固形分15.0重量%の顔料分散体が得られた。
【0232】
(比較例分散体の調製2:マゼンタ分散体(CDP2))
水性マゼンタ顔料分散体を調製するのに、まず2本ロールミルを用いて以下の成分を混練した。
【0233】
【表22】

【0234】
これを混練し、固形分90.0重量%のチップの形態のマゼンタ分散体を作った。次いでこれを、以下の成分をまず混合させることにより、レットダウンさせた:
【0235】
【表23】

【0236】
次いで、この分散体を高速分散機中3000rpmで4時間混合すると、固形分14.09重量%の顔料分散体が得られた。
【0237】
(比較例分散体の調製3:自己分散ブラック顔料(CDP3))
先に引用した(特許文献62)の実施例3に記載されている方法により、調製した。
【0238】
(インクジェットインキ例1)
インキは、下記の成分を充分に撹拌しながら混合することによって調製した:
【0239】
【表24】

【0240】
これにより、5.0重量%の顔料を含むインキが得られた。
【0241】
(インクジェットインキ例2)
インキは、下記の成分を充分に撹拌しながら混合することによって調製した:
【0242】
【表25】

【0243】
これにより、4.0重量%の顔料を含むインキが得られた。
【0244】
(インクジェットインキ例3)
インキは、下記の成分を充分に撹拌しながら混合することによって調製した:
【0245】
【表26】

【0246】
これにより、1.9重量%の顔料を含むインキが得られた。
【0247】
同様の手順を使用してその他のインクジェットインキを調製した。その組成は、以下においてISDの性質と印刷結果を記述した各表の脚注に記載した。
【0248】
(比較例インキ1)
インキは、下記の成分を充分に撹拌しながら混合することによって調製した:
【0249】
【表27】

【0250】
これにより、5.0重量%の顔料を含むインキが得られた。
【0251】
(塩安定性試験)
これらの実施例において使用されるポリマー性分散体およびインキを試験するための手順を以下に記す。
(a)脱イオン水を用いて、ストック溶液(たとえば0.2モル濃度のNaCl)を希釈することによって、塩溶液を調製する。
(b)ガラスバイアル(19mm×65mmバイアル、栓付き)に、使い捨てのトランスファーピペットを用いて、1.5g(mL)の塩溶液を加える(使用したピペットは、カリフォルニア州サン・フェルナンド(San Fernado,CA)のサムコ・サイエンティフィック・コーポレーション(Samco Scientific Corp.)製のサムコ・トランスファー・ピペット(SAMCO Transfer Pipette)、カタログ番号336B/B−PET)。
(c)トランスファーピペットを用いて、試験用液を加える。分散体濃厚液のためには、1滴を使用する。インキサンプルのためには、3滴を使用する。
(d)穏やかに振り混ぜながら、バイアルを完全に混合させる。
(e)混合物を室温で24時間、動かさずに静置させる。
(f)それぞれのサンプルについて目視による観察を記録する。
・等級3:顔料が完全に沈降;上部は無色透明液体。
・等級2:無色透明な液体層はなし;バイアルを傾けるとバイアルの底部には明かに沈降あり。
・等級1:無色透明な液体層はなし;バイアルを傾けると極めてわずかな沈降(少量の単離したスポット)が観察される。
・等級0:沈降の気配まったく無し。
【0252】
(試験サンプルの印刷)
試験サンプルの印刷は、特に断らない限り、以下の方法により実施した。ISDインキによる印刷は、公称解像度360ドット/インチのブラック印字ヘッドを用いたエプソン(Epson)980プリンタ(カリフォルニア州ロング・ビーチ(Long Beach,Calif.)のエプソン・アメリカ・インコーポレーテッド(Epson America Inc.)製)において実施した。その印刷は、ソフトウェア選択標準印刷モードで実施した。光学密度および彩度は、グレターク・マクベス・スペクトアイ(Greytag−Macbeth SpectoEye)測定器(スイス国レーゲンスドルフ(Regensdorf,Switzerland)のグレターク・マクベス・AG(Greytag−Macbeth AG)製)を使用して、測定した。普通紙ODの値は、3種の普通紙の上に印刷した印字からの読みの平均値であって、その3種とは、ハンマーミル・コピー・プラス(Hammermill Copy Plus)用紙、ヒューレット・パッカード・オフィス(Hewlett−Packard Office)用紙、およびゼロックス(Xerox)4024用紙である。光沢紙の結果は、エプソン・グロッシー・フォト・ペーパー(Epson Glossy Photo Paper)を使用した印刷物からのものである。光沢は、BYK−ガードナー・マイクロ−トリ−グロス(BYK−Gardner Micro−Tri−Gloss)光沢計(フロリダ州ポンパーノ・ビーチ(Pompano Beach,Florida)のガードナー・カンパニー(Gardner Co.)製)を用いて測定した。
【0253】
(ポリマー性分散体およびインキの試験)
ISDについては、親水性組成と疎水性組成の比を表の中に示している。それぞれの記載において、ポリマー性分散剤は、上述の実施例または極めてそれに類似した合成方法によって調製した。同様にして、分散体およびインキも上述の手順によって調製した。ランダムポリマーにおいては、モノマー成分の重量比を用い、ブロックポリマーにおいては、使用したモノマー成分のモル比を用いている。
【0254】
表1に、カーボンブラック顔料を用いたISDポリマー分散剤についての塩安定性試験を示している。これらのポリマー性分散剤のそれぞれにおいて、安定な分散体を、DP1に類似の方法によって調製した。顔料はカーボンブラックであった。SDP分散剤と、従来の分散剤を用いたインキについての結果もまた示している。
【0255】
【表28】

【0256】
表1の結果は、ブラック顔料を用いて配合した、5種のISDポリマーが、本発明の塩試験基準に適合していることを示している。90/10、92/8および94/6のISDを比較すると、このセットにおいては、親水性成分が少なくなるほど、塩安定性試験において、そのポリマー性分散剤がより低い塩濃度で沈殿することを示している。SDP材料はさらに、塩試験基準には適合するが、ポリマー性分散剤は存在していない。従来の分散剤は、インキのための顔料の典型的な市販品配合である。塩安定性試験においては、従来の分散剤が、本発明の基準に適合していないことに注目されたい。すなわち、塩濃度の高いところで、分散体が24時間後にも沈殿しない。
【0257】
インキについての塩安定性試験を使用して、ポリマー性分散剤を含むインキ系が、本発明の塩安定性基準を満たしていないことを示すことができる。セイコー・エプソン(Seiko Epson)からのインキおよびその他の一般的なインキの試験を行い、その結果を表2にまとめた。市販のインキは、そのままで使用した。その他の比較例分散体およびインキもまた、表の中に示した。
【0258】
【表29】

【0259】
そのマゼンタSDPインキは以下の組成を有していた:
【0260】
【表30】

【0261】
このバインダーは、BZMA/HEMA/MAA(64/30/6);Mn=5000;KOHを用いて85%中和;固形分20%。
【0262】
表2から、従来の分散剤を含む市販のインキは、塩安定性試験においては安定であることが判る。C82およびC80ブラックの項に関しては、これらはいずれも自己分散性であるとされているが、表にみられるように本発明の基準による塩安定性試験においては不合格であり、その理由はポリマー性分散剤を含んでいないからである。したがって、それらのSDPは、本発明の基準には適合しない。
【0263】
ISDはその他の顔料たとえばマゼンタと共に使用することもできる。それらを試験するための顔料分散体の配合は、DP2に示したのと類似したものであった。使用したマゼンタ顔料は、チバ(Ciba)より入手したRT355−Dであった。
【0264】
【表31】

【0265】
すべてのポリマー配合は「a」配合をベースとしたもので、すなわち、それぞれ、1a、2a、3a、6a、および5aである。
【0266】
顔料としてマゼンタを用いた、表3にリストアップしたISDはすべて、0.16モル濃度の塩溶液における塩安定性の等級が2以上である。したがって、これらの系はISDの発明の基準を満たしている。94/6と1//5の材料がほぼ同じ塩安定性等級であることに注目されたい。
【0267】
メディアミル法は、ISD分散体を製造する際に、場合によっては使用される混練方法である。表4に、メディアミル処理をした幾つかのISDポリマーについての結果を示す。使用した顔料はマゼンタ顔料である。
【0268】
【表32】

【0269】
すべてのポリマー配合は、2−ピロリドン配合をベースとしたもの、すなわち、それぞれ1c、2bおよび3bであった。
【0270】
メディアミル法は、ISD分散体を製造するための1つの選択肢である。
【0271】
ISDは、イエロー顔料と共に使用することも可能であり、また各種の顔料分散体調製条件下で使用できる。それらの分散体の塩安定性を、表5に示す。
【0272】
【表33】

【0273】
各種の条件下で調製したイエロー顔料のY−155は、塩安定性試験を用いて試験したときに、0.2モル濃度の塩溶液で沈殿する顔料分散体を与えた。Y−74顔料分散体は、この配合では、不思議なことには沈殿を示さなかった。
【0274】
ISDはシアン顔料と共に使用することもできる。シアン分散体の調製は、DP3と同様にして行った。最初の分散体をさらにUF(限外ろ過)、超音波、および炉(加熱処理)により処理した。表6に、シアン顔料についての塩安定性試験の結果を示す。
【0275】
【表34】

【0276】
これらシアン配合すべてについて、その塩安定性試験では、本発明の基準に適合する安定性を有している。UFも、超音波/炉も、塩安定性に多少の変化は与えるが、それでもなお本発明の基準に適合している。
【0277】
ジョンクリル(Joncryl,登録商標)611(ウィスコンシン州スターテバント(Sturtevant,WI)のジョンソン・ポリマーズ(Johnson Polymers)製)をISDとして使用した場合、その塩安定性は本発明の基準に適合する。DP2およびDP5に類似の配合において、2種のマゼンタ顔料と共にそれの試験を行った。この樹脂は、「中程度の分子量の樹脂で・・・溶媒系の流体インキおよびオーバープリントワニスに使用するために設計されている」と、ジョンソン・ポリマー(Johnson Polymer)では言っている。ジョンソン・ポリマーズ(Johnson Polymers)では、この樹脂を水性分散体に使用することは推奨していない。このジョンクリル(Joncryl,登録商標)の試料は、酸価が53、Mnが8100で、そのポリマーはアクリル樹脂から誘導されたものである。
【0278】
【表35】

【0279】
ISDを使用して調製したインキでは一般に、光学密度および彩度が改良される。ビヒクルおよび表8に記載したISDを使用して、ブラックインキを調製した。光学密度は、3種類のタイプの普通紙の上で試験した。すべてのポリマー配合は、2−ピロリドン配合をベースとしたもの、すなわち、それぞれ1c、2b、3bおよび4bであった。
【0280】
【表36】

【0281】
ISD配合のインキは、比較例のインキよりは顕著に良好な光学密度を有している。一連のISD90/10、92/8、および94/6において、親水性が低下するにつれて、光学密度が改良されている。92/8と94/6の両方のISDにおいては、3%および6%担持のいずれにおいても、光学密度がよくなっている。
【0282】
マゼンタ顔料を用いたISDをベースとしたインキ配合では、光学密度および彩度が改良されている。すべての分散体は、DP2と類似の方法により「a」のポリマー配合を用いて作った。
【0283】
【表37】

【0284】
ISD配合のインキは、比較例のインキよりは顕著に良好な光学密度および彩度を有している。一連のISD90/10、92/8、および94/6において、親水性が低下するにつれて、光学密度および彩度が改良されている。
【0285】
イエロー顔料を配合したISD92/8を用いてインキを調製し、試験した。インキのビヒクルは表9に示したものと同一である。分散体は、2本ロールミル(2RM)法により調製した。それらを、キャボット(Cabot)、エプソン(Epson)、キャノン(Canon)およびHPからの、市場で入手可能なカラー印刷材料と比較した。
【0286】
【表38】

【0287】
イエロー顔料を用いたISDは、市販のサンプルよりも、顕著に良好な彩度および光学密度を示した。顔料の担持量が増えるにつれて、彩度および光学密度のいずれもが改良された。
【0288】
92/8マゼンタインキ配合を、市場で入手可能な幾つかのインクジェットインキと共に試験した。ISD材料は、3種の顔料担持量で試験した。印刷した用紙について、光学密度と彩度を試験したが、その結果を表11に示す。インキのビヒクルは表9に示したものと同一である。
【0289】
【表39】

【0290】
マゼンタ顔料を用いたISDは、市販のサンプルよりも、顕著に良好な彩度および光学密度を示した。顔料の担持量が増えるにつれて、彩度および光学密度のいずれもが改良された。
【0291】
92/8シアンインキ配合を、市場で入手可能な幾つかのインクジェットインキと共に試験した。ISD材料は、3種の顔料担持量で試験した。印刷した用紙について、光学密度と彩度を試験した。インキのビヒクルは表9に示したものと同一である。
【0292】
【表40】

【0293】
シアン顔料を用いたISDは、市販のサンプルよりも、顕著に良好な彩度および光学密度を示した。顔料の担持量が増えるにつれて、彩度および光学密度のいずれもが改良された。
【0294】
ISD顔料分散体を限外ろ過することにより、最終的な分散体の性質の改質、ひいては、印刷性能の改良をすることができる。表13に、マゼンタ顔料を用いた3種のISDインキ配合の比較を示す。分散剤の「a」の形態を使用した。顔料担持量を変化させ、最終的な分散体の加工工程としての限外ろ過の使用/不使用で加工条件を変化させた。インキのビヒクルは表9に示したものと同一である。
【0295】
【表41】

【0296】
ISD配合を限外ろ過することによって、光学密度が改良された。顔料の担持量が約3重量%までは、担持量が高いほど彩度が改良されるが、それよりも担持量が増えると、いくらか低下する。
【0297】
ISD顔料分散体の安定性を、マゼンタ顔料を用いた92/8(2a)配合を試験することによって証明した。各種の安定性パラメーターを、分散体を炉の中70℃で7日間加熱することによって試験した。試験前後の結果を表14にまとめた。
【0298】
【表42】

【0299】
マゼンタの92/8配合は、この加速エージング試験では安定であると判定された。伝導度、粘度、表面張力、粒径およびpHにおける変化は、安定な分散体であることを示す範囲内であった。
【0300】
92/8分散体配合におけるイエロー顔料を、炉に入れ、定期的に分散体の性質を試験した。これは、DP4と類似の方法で調製したものである。顔料は、クラリアント・トナー(Clariant Toner)イエロー3GPであった。
【0301】
【表43】

【0302】
ほとんどの性質の変化は受容可能な変動範囲に入っているが、粘度は、分散体の熱処理につれて顕著に低下した。並行した検討において、アズテック(Aztech)CY−7480イエロー分散体の粘度は、1日の熱処理で、6.59cpsから2.96にまで低下した。マゼンタは、同様ではあるが穏やかな低下で、1日で7.36cpsから5.1へと低下した。シアンは、中間の粘度低下で、70℃1日で、17.8から6.14に低下した。
【0303】
カチオン性のISDを用いて製造した分散体も、塩安定性試験に合格した。
【0304】
【表44】

【0305】
分散剤2bを用いて、インキセットを調製した。分散体組成物、インキ組成物および印刷結果を、表17a、bおよびcにまとめた。
【0306】
【表45】

【0307】
【表46】

【0308】
【表47】

【0309】
これらのインキのそれぞれについて、インキの安定性試験を行ったが、いずれも試験の基準に適合していた。
【0310】
【表48】

【0311】
ポリマー添加剤を加えることによって、ISDから誘導されるインクジェットインキの性能を効果的に改良することができる。ポリマー添加剤を用いてインキを調製したが、それらはインキ実施例PAとして表示する。
【0312】
(インクジェットインキ実施例PA−1)
インキは、下記の成分を充分に撹拌しながら混合することによって調製した:
【0313】
【表49】

【0314】
(インクジェットインキ実施例PA−2)
同一の調製法を用いたが、ただし、PA1cに代えて6.7gのPA2cを使用した。
【0315】
(インクジェットインキ実施例PA−3)
同一の調製法を用いたが、ただし、PA1cに代えて6.7gのPA3cを使用した。
【0316】
(インクジェットインキ実施例PA−4)
同一の調製法を用いたが、ただし、PA1cに代えて2.3gのPA4cと4.4gの追加の水を使用した。
【0317】
(インクジェットインキ実施例PA−5)
同一の調製法を用いたが、ただし、PA1cに代えて6.7gのポリマー調製物2d(ポリマー固形分濃度15%)を使用した。これは、ISDポリマーを、分散用のポリマーとして、およびそれとは別に、インクジェットインキを改良するための添加剤として、の両方の目的で使用している例である。
【0318】
(インクジェットインキ実施例PA−6)
同一の調製法を用いたが、ただし、PA1cに代えて5gのKOHで中和した比較例ポリマー調製物1(ポリマー固形分濃度20%)および1.7gの追加の水を使用した。
【0319】
実施例PA1〜PA6の最終的なインキはそれぞれ、4.0%の顔料と1%のポリマー添加剤固形分とを含んでいた。それぞれのインキで、エプソン(Epson)980インクジェットプリンタのマゼンタ部分を使用し、ハンマーミル・コピー・プラス(Hammermill Copy Plus)オフィス用紙(HCP)および、エプソン・プレミアム・フォト・グロッシー・ペーパー(Epson Premium Photo Glossy Paper)(EPPGP)の上に、印刷した。インクジェットインキ実施例2について光学密度および光沢を測定したが、その結果を表19に示す。
【0320】
【表50】

【0321】
ポリマー添加剤のいずれにおいても、ポリマー性添加剤無しでISD分散体を使用した場合に比較して、光沢が改良された。
【0322】
ポリマー添加剤を使用することによって、感熱インクジェット(TIJ)の信頼性と耐久性を改良することも可能である。
【0323】
インキPA7を用いたインクジェットインキをインクジェットインキ3と比較した。
【0324】
(インクジェットインキ実施例PA−7)
インキは、下記の成分を充分に撹拌しながら混合することによって調製した:
【0325】
【表51】

【0326】
これにより、1.9%の顔料と1.7%のポリマー添加剤固形分を含むインキが得られた。それで、ヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)デスクジェット6122インクジェットプリンタのブラック部分を使用し、ハンマーミル・コピー・プラス(Hammermill Copy Plus)オフィス用紙(HCP)および、エプソン・プレミアム・フォト・グロッシー・ペーパー(Epson Premium Photo Glossy Paper)(EPPGP)の上に、印刷した。
【0327】
光学密度と光沢を表20に示す。
【0328】
【表52】

【0329】
ポリマー添加剤を加えることによる印刷信頼性への効果の証明として、7”×9”の記録数のベタカラーブロックの印刷が維持できなくなったノズルの数を、表21に示した。
【0330】
【表53】

【0331】
さらに、ポリマー添加剤の添加が画像耐久性に及ぼす影響の証明として、EPPGPの上に印刷したインキの(印刷5分間後および1時間後、乾燥した指を使った)ラビングに対する抵抗性を、表22に示す。
【0332】
【表54】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ビヒクル中に、顔料およびポリマー性イオン性分散剤を含む水性顔料分散体であって:
(a)前記イオン性分散剤が、前記顔料に物理的に吸着され、
(b)前記ポリマー性イオン性分散剤が、前記水性ビヒクル中に前記顔料を安定して分散し、
(c)前記分散体の平均粒径が約300nm未満であり、そして
(d)前記水性顔料分散体を以下の量:
(i)(前記分散体の全重量を基準にして)約10重量%以上の固形分の顔料分散体の場合で1滴、
(ii)(前記分散体の全重量を基準にして)約5〜10重量%の固形分の顔料分散体の場合で2滴、そして
(iii)(前記分散体の全重量を基準にして)約5重量%以下の固形分の顔料分散体の場合で3滴、
で、約0.20モル濃度の塩の塩水溶液約1.5gに添加したときに、その添加の24時間後に観察したときに、前記顔料が前記塩水溶液から沈殿していることを特徴とする水性顔料分散体。
【請求項2】
前記ポリマー性イオン性分散剤が親水性部分と疎水性部分とを有し、疎水性部分がほとんどの部分を占めていることを特徴とする請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項3】
前記ポリマー性イオン性分散剤が、1種または複数の親水性モノマーおよび1種または複数の疎水性モノマーのコポリマーであり、前記コポリマーが約300より大きく、約30,000より小さい数平均分子量を有することを特徴とする請求項2に記載の水性顔料分散体。
【請求項4】
顔料の、ポリマー性イオン性分散剤に対する重量比が約0.5〜約6であることを特徴とする請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項5】
前記水性ビヒクルが、水と、少なくとも1種の水混和性溶媒との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項6】
水性ビヒクル中に、顔料およびポリマー性イオン性分散剤を含む水性顔料分散体であって:
(a)前記イオン性分散剤が、前記顔料に物理的に吸着され、
(b)前記ポリマー性イオン性分散剤が、実質的に立体的な安定化をともなわず、イオン的な安定化によって、前記水性ビヒクル中に前記顔料を安定して分散し、そして
(c)前記分散体の平均粒径が約300nm未満である、
ことを特徴とする水性顔料分散体。
【請求項7】
前記水性顔料分散体を以下の量で:
(i)(前記分散体の全重量を基準にして)約10重量%以上の固形分の顔料分散体の場合で1滴、
(ii)(前記分散体の全重量を基準にして)約5〜10重量%の固形分の顔料分散体の場合で2滴、そして
(ii)(前記分散体の全重量を基準にして)約5重量%以下の固形分の顔料分散体の場合で3滴、
で、約0.20モル濃度より高い塩の塩水溶液約1.5gに添加したときに、その添加の24時間後に観察したときに、前記顔料が前記塩水溶液から沈殿していることを特徴とする請求項6に記載の水性顔料分散体。
【請求項8】
前記ポリマー性イオン性分散剤が親水性部分と疎水性部分とを有し、疎水性部分がほとんどの部分を占めていることを特徴とする請求項6に記載の水性顔料分散体。
【請求項9】
前記ポリマー性イオン性分散剤が、1種または複数の親水性モノマーおよび1種または複数の疎水性モノマーのコポリマーであり、前記コポリマーが約300より大きく、約30,000より小さい数平均分子量を有することを特徴とする請求項8に記載の水性顔料分散体。
【請求項10】
顔料の、ポリマー性イオン性分散剤に対する重量比が約0.5〜約6であることを特徴とする請求項6に記載の水性顔料分散体。
【請求項11】
前記水性ビヒクルが、水と、少なくとも1種の水混和性溶媒との混合物であることを特徴とする請求項6に記載の水性顔料分散体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の水性顔料分散体を含むことを特徴とする水性顔料化インクジェットインキ。
【請求項13】
前記インキが、前記インキの全重量を基準にして、約0.1〜約10重量%の顔料を有し、約0.5〜約6の、顔料の分散剤に対する重量比を有し、25℃において約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲の表面張力を有し、そして25℃において約30cPより低い粘度を有することを特徴とする請求項12に記載の水性顔料化インクジェットインキ。
【請求項14】
少なくとも1種のシアンインキ、少なくとも1種のマゼンタインキおよび少なくとも1種のイエローインキを含むインキセットであって、前記インキの少なくとも1種が、請求項12に記載の水性顔料化インクジェットインキであることを特徴とするインキセット。
【請求項15】
少なくとも1種のシアンインキ、少なくとも1種のマゼンタインキおよび少なくとも1種のイエローインキを含むインキセットであって、前記インキの少なくとも1種が、請求項13に記載の水性顔料化インクジェットインキであることを特徴とするインキセット。
【請求項16】
基材の上にインクジェット印刷するための方法であって:
(a)デジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程;
(b)前記プリンタに、印刷される基材をローディングする工程;
(c)前記プリンタに、請求項12に記載のインキをローディングする工程;および
(d)前記インキまたはインクジェットインキセットを使用して、デジタルデータ信号に応答させて、前記基材の上に印刷する工程、
を含むことを特徴とする、基材の上にインクジェット印刷するための方法。
【請求項17】
前記プリンタに、請求項14に記載のインキセットをローディングすることを特徴とする請求項16に記載の基材の上にインクジェット印刷するための方法。
【請求項18】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の水性顔料分散体を製造するための方法であって、顔料およびイオン性ポリマー性分散剤を水性キャリヤ媒体中において混合する工程、次いで前記顔料を分散または解凝集させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
前記分散が、2本ロールミル法、メディアミル法、および液状ジェット相互作用チャンバーの中で少なくとも5,000psiの液体圧力において、その混合物を複数のノズルを通過させる方法、からなる群より選択されるプロセスによって達成されることを特徴とする請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2006−527282(P2006−527282A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515156(P2006−515156)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/017586
【国際公開番号】WO2004/111140
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】