説明

イグチ科ヌメリイグチ属担子菌の液体培地

【課題】
イグチ科ヌメリイグチ属担子菌の液体培養を行うに際し、菌体の生産量を飛躍的に向上させる液体培地を提供することを課題とする。
【解決の手段】
従来の液体培養組成物にモノテルペンを配合してイグチ科ヌメリイグチ属担子菌を培養することにより、菌体の生産量を飛躍的に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イグチ科ヌメリイグチ属担子菌の液体培養培地に関する。
【背景技術】
【0002】
イグチ科担子菌(Boletaceae)はハラタケ目(Agaricales)に属し、肉質で管孔を有する子実体を形成する。イグチ科担子菌のヌメリイグチ属(Suillus)は、ハナイグチ(Suillus grevillei)、ヌメリイグチ(Suillus luteus)、アミタケ(Suillus
bovinus)、チチアワタケ(Suillus granulatus)、シロヌメリイグチ(Suillus laricinus)、ヌメリツバイグチ(Suillus luteus)等が属する。これらヌメリイグチ属の担子菌の中には様々な生理活性効果を示すものがあり、例えばチロシナーゼ活性抑制作用、血管内皮細胞増殖促進作用、α−グルコシダーゼ阻害作用、COX-2活性阻害作用が知られている。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、および特許文献4参照。)
【0003】
しかし、その供給源としての天然の子実体は入手の時期が限定され、また入手した後も、子実体の個体差による有用性の変動や量産化等実用面での問題点が多い。そこで近年、イグチ科担子菌を含む外生菌根菌の菌糸体を人工的に培養する方法が提案されている(例えば、特許文献5)。この培養法は、多孔質担体に含水率が30〜40重量%となるように液体培地を含有させた後、培養槽内において該多孔質担体を密閉状態で滅菌し、次に、外生菌根菌の栄養菌糸を含む液体培地を該培養槽内に添加して該多孔質担体の含水率を65〜80重量%に調整し、無菌状態で多孔質担体を攪拌した後に静置状態とすることにより、外生菌根菌を培養することを特徴とする外生菌根菌の固体培養方法である。
【0004】
さらに特許文献6には、ハタケシメジの人工栽培に際して、人工栽培用培地におからを添加する方法が記載されている。しかしながら、該公報に記載された栽培用培地は、担子菌の子実体を発生させるための固体培養用の培地であり、本発明の液体培養培地ではない。一般に、担子菌の増殖に必要な栄養素と、子実体の形成に必要な栄養条件は大きく異なっている。加えて、子実体中の成分と、液体培養で得た菌糸体中の成分、さらに固体培養あるいは菌床培養で得た菌糸体中の成分は大きく異なっていることが多いため、栽培用培地、すなわち固体培養用培地に有効な栄養成分が、そのまま液体培養用培地にも有効であるとは限らない(例えば、特許文献7)。
【0005】
【特許文献1】特許3678832号公報
【特許文献2】特開2000−212059号公報
【特許文献3】特許3511231号公報
【特許文献4】特表2004−529079号公報
【特許文献5】特開2005−27546号公報
【特許文献6】特開2002−70号公報
【特許文献7】特開2006−271339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、イグチ科ヌメリイグチ属担子菌は菌糸の成長が遅く、従来のような液体培養方法では得られる菌糸体の収量が少なく、充分な菌糸体を得ることができないことである。
【課題を解決する手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、イグチ科ヌメリイグチ属担子菌の液体培養を行うに際し、従来の液体培養組成物にモノテルペンを配合してイグチ科ヌメリイグチ属の担子菌を培養することにより、菌糸体の生産量が飛躍的に向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、モノテルペンが添加された液体培地にイグチ科ヌメリイグチ属担子菌を接種し、これを液体培養することによりイグチ科ヌメリイグチ属担子菌菌糸体の増殖を飛躍的に増加させるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明によるイグチ科ヌメリイグチ属担子菌の液体培養方法によれば、モノテルペンを含有する液体培地の中で培養させることで、イグチ科ヌメリイグチ属担子菌菌糸体の収量を短期間で飛躍的に増加させることが可能である。
【0009】
本発明におけるモノテルペンは、テルペン一種である。テルペンは、イソプレンを構成単位とする一群の天然有機化合物の総称であり、不飽和炭化水素以外に、これらの酸化還元生成物(アルコール、アルデヒド、ケトン、酸等)や、炭素の脱離した化合物等が多くの植物および動物体内に見出されている。また、これらの化合物は、形式上2つ以上のイソプレン単位(C5)から構成されており、分子骨格のイソプレン単位の数に応じて、それぞれモノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン (C20)、セスタテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)、およびその他のポリテルペンに分類される。また、モノテルペンはモノテルペン合成酵素によってゲラニル二リン酸から生合成され、非環式と環式とに分類される。非環式のものとしては、ゲラニオール(C1018O)、リナロール(C1018O)、シトロネロール(C1020O)、ミルセン(C1016)等が例示され、環式のものとしては、l−メントール(C1020O)、チモール(C1014O)、アネトール(C1012O)、テルピネオール(C1018O)等が例示される。該モノテルペンは試薬特級または一級相当品であれば特に限定はなく、実施例では、和光純薬工業株式会社製の一級品を用いた。また配合量ついても有効量配合されていれば特に限定はないが、好ましくは液体培地物中0.0001〜0.02%
、更に好ましくは0.001〜0.01重量% である。配合量が0.0001重量%未満の場合には十分な効果を発揮させることができない為に好ましくなく、0.02重量%より多い場合には効果が平衡に達する。
【0010】
本発明の液体培養で用いられる基本培地には、イグチ科担子菌を含む外生菌根菌の培養に用いられるポテトデキストロース培地、改変メーリン・ノルクラン(MMN)培地、改変浜田培地が好適に示される。ポテトデキストロース培地は、例えばPotato−Dextrose Broth2.4gを精製水100mLに溶解させることで調製可能である。MMN培地は、例えばグルコース1.0
g 、モルトエキス0.3g、塩化カルシウム2水和物0.0066g、塩化ナトリウム0.0025g、リン酸2水素カリウム0.05g、リン酸水素2アンモニウム0.025g、硫酸マグネシウム7水和物0.015g、塩化鉄(III)1%溶液0.12mL、チアミン塩酸塩0.01mg を精製水100mLの水に溶解させることで調製可能である。改変浜田培地は、例えばグルコース2.0g、乾燥酵母0.5gを精製水100mLに溶解させることで調製可能である。基本培地には炭素源、窒素源などイグチ科担子菌菌糸体を培養する際の生育に必要な栄養素が含まれており、さらにビタミン類やミネラルを含むこともある。
【0011】
基本培地の炭素源としては、グルコース、キシロース、マンノース、ガラクトース等の単糖類、シュクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等の二糖類、デキストリン、デンプン、セルロース等の多糖類を用いることができる。
【0012】
基本培地の窒素源としては、イーストエキス、モルトエキス、ペプトン、ポリペプトン、カザミノ酸等の有機物、硝酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム等の窒素含有化合物を用いることができる。
【0013】
また、ビタミン類としては、例えばビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等を用いることができる。ミネラルとしては、例えばリン、窒素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、銅、モリブデン、塩素、ナトリウム、ヨウ素、コバルト等が挙げられ、これらの成分は例えば硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、塩化カリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、ホウ酸、硫酸銅、モリブデン酸ナトリウム、三酸化モリブデン、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等の化合物として用いることができる。
【0014】
前記以外の培地であっても、イグチ科ヌメリイグチ属担子菌菌糸培養に適している培地であれば、本発明に適用されるのは勿論である。
【0015】
本発明におけるイグチ科ヌメリイグチ属担子菌の液体培養法は、前述のモノテルペン(「豆乳および消泡剤」となってましたので修正しました)を添加した液体培地にイグチ科ヌメリイグチ属担子菌の種菌を接種し、室温約20〜30℃ の好気的条件下で約10〜20日間培養するのが望ましい。培養は、通気培養を行なっても良いし、振とう培養を行なっても良い。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、培養および操作方法は無菌的に行なうものとする。
【0017】
<実施例1>
グルコース1.0 g 、モルトエキス0.3g、塩化カルシウム2水和物0.0066g、塩化ナトリウム0.0025g、リン酸2水素カリウム0.05g、リン酸水素2アンモニウム0.025g、硫酸マグネシウム7水和物0.015g、塩化鉄(III)1%溶液0.12mL、チアミン塩酸塩0.01mg を100mLの水に添加して基本の液体培地を作った。オートクレーブを用いて高圧殺菌後、添加物として0.2μmメンブレンフィルターで除菌ろ過したモノテルペンを表1の量を添加して液体培地を調製した。
【0018】
上述の液体培地を室温まで放冷した後、Potato−Dextrose Broth(Difco社製)2.4%で培養したハナイグチ培養物(独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入、NBRC No.32786)を取り、ホモジネートしたものを10mLずつフラスコに接種した。接種後は24℃の条件下で振とう培養を行った。
【0019】
培養を開始して約12日後には液体培地に菌糸体が生育した。そこで、生育した菌糸体を収集し、これを水でよく洗浄したのち凍結乾燥した。
【0020】
前記収集した菌糸体の成長比を表1に示す。成長比は比較例1の基本培地で培養した時の収量を100とし、それに対する比計算によって算出した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1によれば、比較例1の基本培地で培養したものと比較して、ゲラニオールを培地全量の0.001〜0
.01重量%配合した場合に、顕著な増殖効果が認められたが、0.0005%添加した比較例2および0.02%添加した比較例3では増殖効果が見られなかった。また、l−メントールを添加した実施例4、リナロールを添加した実施例5においても増殖効果が認められた。以上の結果から、モノテルペン、特にゲラニオールまたはl−メントールまたはリナロールが、イグチ科担子菌の増殖に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。
【0023】
実施例と同様に、ヌメリイグチ(Suillus luteus)、アミタケ(Suillus bovinus)、チチアワタケ(Suillus granulatus)、シロヌメリイグチ(Suillus laricinus)、ヌメリツバイグチ(Suillus luteus)に対しても、モノテルペンの添加によって著しい増殖促進が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によるイグチ科担子菌菌糸体の液体培養方法によれば、モノテルペンを含有する液体培地の中で培養させることで、イグチ科担子菌菌糸体の収量を短期間で飛躍的に増加させることが可能であり、化粧料や医薬品、及び食品の各分野に広く応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノテルペンを培地全量の0.001〜0 .01重量%配合することを特徴とする請求項1記載の液体培養培地。
【請求項2】
モノテルペンが、ゲラニオール、l−メントール、リナロールであることを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の液体培養培地。
【請求項3】
イグチ科ヌメリイグチ属(Suillus)に属する担子菌が、ハナイグチ(Suillus grevillei)、ヌメリイグチ(Suillus luteus)、アミタケ(Suillus
bovinus)、チチアワタケ(Suillus granulatus)、シロヌメリイグチ(Suillus laricinus)、ヌメリツバイグチ(Suillus luteus)であることを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の液体培養培地。



【公開番号】特開2009−240276(P2009−240276A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93519(P2008−93519)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】