説明

イコライザシーブの設置装置

【課題】イコライザシーブを備えた移動式クレーンの分解輸送時における作業性を向上できるようにする。
【解決手段】移動式クレーンに備えられる上部旋回体2の前部に、前方に向かって高さが低くなる下り勾配を有する固定フレーム14を設け、移動式クレーンの分解時に上部旋回体2の上部に横置きに載置されるAフレーム5のAフレームヨーク6との間にワイヤ8が掛けられたイコライザシーブ7を、固定フレーム14上に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イコライザシーブを備えた移動式クレーンの分解輸送時における作業性を向上できるようにしたイコライザシーブの設置装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は移動式クレーンの一例であるクローラクレーンの側面図であり、クローラ式下部走行体1上には上部旋回体2が旋回自在に搭載されており、該上部旋回体2の前部にはブーム本体3が起伏自在に取り付けられており、上部旋回体2の中間部に設けた起伏ブーム4aと後部に設けたバックステー4bの上端を連結することによりAフレーム5を形成している。Aフレーム5の頂部には複数のシーブを備えたAフレームヨーク6が回動自在に取り付けられており、このAフレームヨーク6には複数のシーブを備えたイコライザシーブ7が取り付けられている。上記Aフレームヨーク6とイコライザシーブ7との間にはワイヤからなるブーム起伏ロープ8が巻回されており、イコライザシーブ7とブーム本体3の先端との間にはワイヤからなるブーム支持ロープ9が張られている。前記ワイヤ8は上部旋回体2に設けられたブーム起伏ドラムによる巻き取り、繰り出しが行われて、Aフレームヨーク6及びイコライザシーブ7間の距離を調節することによりブーム本体3の起伏を行うようになっている。図中2aは運転室である。
【0003】
ブーム本体3の先端にはワイヤからなる巻上げロープ10が掛けられており、このワイヤ10にはフック11が吊り下げられている。前記ワイヤ10は上部旋回体2に設けられた主巻きドラムによる巻き取り、繰り出しが行われて、フック11を上下動することにより荷の吊り上げ下げを行うようになっている。
【0004】
上記したようなクローラクレーンからなる移動式クレーンとしては特許文献1、2に示すようなものがある。
【0005】
図5及び特許文献1、2に示すような従来の移動式クレーンにおいては、公道を走行して移動することができない場合が多く、そのために、移動式クレーンを移動する際には、移動式クレーンを分解してトレーラ等により輸送することが一般に行われている。
【0006】
図5に示した移動式クレーンを分解して輸送する際には、図6に示すように、上部旋回体2のブームピン3aに取付られた前記ブーム本体3を取り外し、起伏ブーム4aとバックステー4bからなるAフレーム5を折り畳んで上部旋回体2上に横置きに固定し、そして、クローラ式下部走行体1を取り外した状態の下部構造体1aを、トレーラ12の荷台13上に載置している。
【0007】
又、前記ワイヤ9から切り離したイコライザシーブ7は、前記上部旋回体2上に横置きに固定したAフレーム5の上部に載置して固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−292472号公報
【特許文献2】特開2000−118950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図6に示すように、上部旋回体2上に横置きに固定したAフレーム5上にイコライザシーブ7を載置した場合には、イコライザシーブ7が上方に突出して輸送時の移動式クレーンの機高が高くなってしまい、輸送制限の高さを超過することによって輸送できない場合がある。
【0010】
このため、前記イコライザシーブ7を上部旋回体2の幅方向側部或いは前後部に設置することが考えられるが、幅方向側部へは車幅制限からイコライザシーブ7を設置することはできず、又、前後部にはイコライザシーブ7を設置できるような構成が備えられていないために設置することはできない。
【0011】
従って、上記したように上部旋回体2上にイコライザシーブ7を載置できない場合には、イコライザシーブ7をAフレームヨーク6から切り離して別個に輸送することが行われている。
【0012】
しかし、イコライザシーブ7をAフレームヨーク6から切り離すには、相互間に複数回掛け回されているワイヤからなるブーム起伏ロープ8を抜き取る作業が必要であるが、ワイヤ8には撚りがあるために作業が大変且つ重労働であり、切り離し作業に時間が掛かるという問題がある。又、移動式クレーンを輸送後に組み立てる際にも、前記イコライザシーブ7とAフレームヨーク6間にワイヤ8を掛け回す作業が必要であり、この作業が大変で長時間を要するという問題がある。
【0013】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなしたもので、イコライザシーブを備えた移動式クレーンの分解輸送時における作業性を向上できるようにしたイコライザシーブの設置装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、移動式クレーンに備えられる上部旋回体の前部に、前方に向かって高さが低くなる下り勾配を有する固定フレームを設け、移動式クレーンの分解時に上部旋回体の上部に横置きに載置されるAフレームのAフレームヨークとの間にワイヤが掛けられたイコライザシーブを、前記固定フレーム上に設置したことを特徴とするイコライザシーブの設置装置である。
【0015】
請求項2に係る発明は、前記固定フレームは、上部旋回体の前部に備えた固定ブラケットへの止めピンによる取り付けと上部旋回体の前面への当接とによって固定されることを特徴とする請求項1に記載のイコライザシーブの設置装置である。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記固定フレームには支持側目付プレートが設けられ、前記イコライザシーブには前記支持側目付プレートと一致する取付側目付プレートが設けられ、前記支持側目付プレートと取付側目付プレートにピンを挿通することによる連結と固定フレーム上へのイコライザシーブの載置とにより、イコライザシーブが固定フレームに設置されることを特徴とする請求項1に記載のイコライザシーブの設置装置である。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記上部旋回体の前部には、Aフレームヨークとイコライザシーブとの間に掛けられたワイヤが上部旋回体の側部外方へはみ出すのを防止するためのワイヤ係止部材を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のイコライザシーブの設置装置である。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記下り勾配を有する固定フレームの傾斜角度は水平面に対して25〜40゜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のイコライザシーブの設置装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のイコライザシーブの設置装置によれば、上部旋回体の前部に固定フレームを設けて、該固定フレーム上にイコライザシーブを設置するようにしたので、イコライザシーブを移動式クレーンに設置しても輸送時の移動式クレーンの機高を低く押えることができると共に、AフレームのAフレームヨークとの間にワイヤが掛けられた状態のイコライザシーブを設置できるために、移動式クレーンの輸送前におけるワイヤの抜取り作業及び輸送後のワイヤリング作業を省略でき、よって、移動式クレーンの分解輸送時における作業性を大幅に向上できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のイコライザシーブの設置装置を備えた移動式クレーンの一例を示す全体側面図である。
【図2】図1をII−II方向から見た正面図である。
【図3】図2をIII−III方向から見たイコライザシーブの設置装置の側面図である。
【図4】図3のIV−IV方向矢視図である。
【図5】移動式クレーンの一例であるクローラクレーンの側面図である。
【図6】図5の移動式クレーンを輸送する状態の従来例を示す全体側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0022】
図1は図5に示した移動式クレーンを分解して図6に示す従来の方法によってトレーラで輸送している場合に対応した本発明の構成を示す全体側面図、図2は図1をII−II方向から見た正面図、図3は図2をIII−III方向から見たイコライザシーブの設置装置の側面図、図4は図3のIV−IV方向矢視図であり、図1〜図4中、図5、図6と同一の構成部分には同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0023】
図1に示すように、上部旋回体2の前部に、前方に向かって高さが低くなる下り勾配を有する固定フレーム14を設ける。この固定フレーム14は、図2〜図4に示すように、左右に間隔を隔てて設けた略三角形の側部部材15(図3参照)と、該側部部材15の前側の1つのコーナ部15aの相互間を連結する支持連結材16と、該支持連結材16よりも後方で相互間を連結する連結ロッド17と、後方下部を連結する水平なプレート材18とにより組み立てられている。前記固定フレーム14は、前記側部部材15における上部後方のコーナ部15bから後方に突設した穴付きのブラケット19の穴を、上部旋回体2の前面に設けた穴付きの固定ブラケット20の穴に一致させて止めピン21を通すことで上部旋回体2に連結しており、側部部材15の下部後方のコーナ部15cを上部旋回体2の前面へ当接させることで、固定フレーム14は上部旋回体2に固定されている。
【0024】
前記固定フレーム14の側部部材15における前方に向かって高さが低くなる下り勾配を有する傾斜面22上には、複数のシーブ7aを内部に備えた扁平な形状のイコライザシーブ7が設置されている。前記固定フレーム14に備えられた支持連結材16の幅方向に間隔を隔てた位置には、支持側目付プレート23が上方へ突設しており、又、前記イコライザシーブ7の下端下面には前記支持側目付プレート23に対応して下方に突設した取付側目付プレート24が設けてあり、前記支持側目付プレート23と取付側目付プレート24にピン25を挿通することにより前記イコライザシーブ7の下端を固定フレーム14に連結している。又、前記側部部材15の傾斜面22には溝26が形成してあり、前記イコライザシーブ7の下面には前記溝26に嵌合する係止ピン27が突出しており、前記溝26に係止ピン27を嵌合させて位置決めした状態でイコライザシーブ7を傾斜面22上に載置することで、イコライザシーブ7は固定フレーム14に設置される。
【0025】
前記イコライザシーブ7が設置される固定フレーム14の側部部材15に備えた下り勾配を有する傾斜面22の水平面に対する傾斜角度α(図3参照)は25〜40゜の範囲であることが好ましい。
【0026】
又、上部旋回体2における前記固定フレーム14に近い前側位置には、前記固定フレーム14上に設置したイコライザシーブ7と、図1のように上部旋回体2上に横置きに載置したAフレーム5に備えられたAフレームヨーク6との間に掛け回されたワイヤ8が上部旋回体2の側部外方へはみ出すのを防止するためのワイヤ係止部材28を左右に設けている。図では、ワイヤ8を内側へ案内するように上端が外側に向かって曲げられた曲がりロッド28aと、相互間にガイドローラ29を備えた案内部材28bとを備えた場合を示している。
【0027】
次に、上記実施例の作動を説明する。
【0028】
本発明では、図1〜図4に示すように、移動式クレーンの上部旋回体2の前部に、前方に向かって高さが低くなる下り勾配を有してイコライザシーブ7を設置するための固定フレーム14が固定されている。この固定フレーム14は、移動式クレーンが走行しても、又、上部旋回体2が旋回しても干渉するようなことがなく、更に、ブーム本体3が俯仰しても側部部材15の傾斜面22によって干渉することはない。
【0029】
図5に示した移動式クレーンを分解して輸送する際には、図1に示すように、上部旋回体2のブームピン3aに取付られた前記ブーム本体3を取り外し、起伏ブーム4aとバックステー4bからなるAフレーム5を折り畳んで上部旋回体2上に横置きに固定し、そして、クローラ式下部走行体1を取り外した状態の下部構造体1aを、トレーラ12の荷台13上に載置する。
【0030】
又、前記ワイヤ9から切り離したイコライザシーブ7は、前記固定フレーム14上に設置する。このとき、前記固定フレーム14の支持連結材16に備えた支持側目付プレート23に、イコライザシーブ7の下端下面に備えた取付側目付プレート24を位置決めしてピン25を挿通することにより前記イコライザシーブ7の下端を固定フレーム14に連結し、前記側部部材15の傾斜面22に設けた溝26にイコライザシーブ7の下面の係止ピン27を嵌合させて位置決めした状態でイコライザシーブ7を傾斜面22上に載置することで、イコライザシーブ7は固定フレーム14に設置される。
【0031】
前記イコライザシーブ7が設置される固定フレーム14の側部部材15に有する下り勾配の傾斜面22は、水平面に対して25〜40゜の傾斜角度αとしているので、前記干渉の問題を生じることがないと共に、前記Aフレーム5のAフレームヨーク6との間に掛け回されたワイヤ8が緊張するような問題を生じることなく、イコライザシーブ7を確実に保持することができる。
【0032】
又、上部旋回体2における前記固定フレーム14に近い前側位置にワイヤ係止部材28を設けたので、固定フレーム14上に設置したイコライザシーブ7と、上部旋回体2上に横置きに載置したAフレーム5に備えたAフレームヨーク6との間に掛け回されたワイヤ8が上部旋回体2の側部外方へはみ出すことを確実に防止することができる。
【0033】
上記実施例によれば、上部旋回体2の前部に固定フレーム14を設けて、該固定フレーム14上にイコライザシーブ7を設置するようにしたので、イコライザシーブ7を移動式クレーンに設置しても輸送時の移動式クレーンの機高が高くなることはなく、更に、Aフレーム5のAフレームヨーク6との間にワイヤ8が掛けられた状態のイコライザシーブ7を固定フレーム14に設置できるため、移動式クレーンの輸送前におけるワイヤ8の抜取り作業及び輸送後のワイヤリング作業を省略することができ、よって、移動式クレーンの分解輸送時における作業性が大幅に向上できるようになる。又、前記固定フレーム14は作業員が乗って作業台として利用することができると共に、物置台としても利用することができ、利便性を高めることができる。
【0034】
尚、本発明のイコライザシーブの設置装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、種々の移動式クレーンに適用できること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
2 上部旋回体
5 Aフレーム
6 Aフレームヨーク
7 イコライザシーブ
8 ブーム起伏ロープ(ワイヤ)
14 固定フレーム
20 固定ブラケット
21 止めピン
22 傾斜面
23 支持側目付プレート
24 取付側目付プレート
25 ピン
28 ワイヤ係止部材
α 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動式クレーンに備えられる上部旋回体の前部に、前方に向かって高さが低くなる下り勾配を有する固定フレームを設け、移動式クレーンの分解時に上部旋回体の上部に横置きに載置されるAフレームのAフレームヨークとの間にワイヤが掛けられたイコライザシーブを、前記固定フレーム上に設置したことを特徴とするイコライザシーブの設置装置。
【請求項2】
前記固定フレームは、上部旋回体の前部に備えた固定ブラケットへの止めピンによる取り付けと上部旋回体の前面への当接とによって固定されることを特徴とする請求項1に記載のイコライザシーブの設置装置。
【請求項3】
前記固定フレームには支持側目付プレートが設けられ、前記イコライザシーブには前記支持側目付プレートと一致する取付側目付プレートが設けられ、前記支持側目付プレートと取付側目付プレートにピンを挿通することによる連結と固定フレーム上へのイコライザシーブの載置とにより、イコライザシーブが固定フレームに設置されることを特徴とする請求項1に記載のイコライザシーブの設置装置。
【請求項4】
前記上部旋回体の前部には、Aフレームヨークとイコライザシーブとの間に掛けられたワイヤが上部旋回体の側部外方へはみ出すのを防止するためのワイヤ係止部材を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のイコライザシーブの設置装置。
【請求項5】
前記下り勾配を有する固定フレームの傾斜角度は水平面に対して25〜40゜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のイコライザシーブの設置装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144313(P2012−144313A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2637(P2011−2637)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000198293)IHI建機株式会社 (96)
【Fターム(参考)】