説明

イソキノリンスルホニル誘導体を有効成分として含有する網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤

【課題】実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害の予防または治療剤を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物またはその塩は、マウス光障害モデルにおける、光受容体細胞死および/または視細胞死に対して抑制効果を有する。よって、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害の予防または治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のイソキノリンスルホニル誘導体またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、実質的に血管新生を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
後眼部組織における網脈絡膜変性疾患には難治性のものが多く、失明の原因となる重篤な症状を示すものが少なくない。その代表的なものとして加齢黄斑変性、網膜色素変性症などが挙げられ、特に、加齢黄斑変性は、日本、米国、欧州などの先進国での、壮年から老年期における失明の主要原因となっている。
【0003】
加齢黄斑変性は黄斑部の加齢に起因する疾患であり、高齢化社会となった現在、その患者数は増加の一途をたどっている。加齢黄斑変性は、脈絡膜からの新生血管を伴う滲出型(wet type)と脈絡膜から発生する新生血管を伴わない萎縮型(dry type)に大別され、前者の滲出型には、レーザー光凝固術、新生血管抜去術、中心窩移動術などによる治療が行われているが、それらの治療には限界がある。また、最近、血管新生阻害剤であるベバシズマブ[bevacizumab、商品名:Avastin]、ラニビズマブ[ranibizumab、商品名:Lucentis]などによる治療もなされている。しかし、後者の萎縮型には、現在のところ有効な治療方法はなく、新たな薬剤の開発が望まれている。
【0004】
一方、下記一般式(1)で表される化合物は、一般名でファスジル(Fasudil)と呼ばれており、脳機能障害の治療剤であるエリル(商品名)点滴静注液の有効成分として知られている。
【0005】
【化1】

【0006】
また、ファスジルを含むイソキノリンスルホンアミド誘導体が、哺乳動物の血管平滑筋に作用する、血管拡張剤、脳循環改善剤、狭心症治療薬、脳血管系の血栓症および高血圧症の予防または治療薬として有用であることが、米国特許第4678783号明細書(特許文献1)に記載されている。さらに、それらの誘導体の製法および血管拡張作用がChem.Pharm.Bull.,40(3) 770−773(1992)(非特許文献1)に、そのRhoキナーゼ阻害作用がAm.J.Physiol.Cell Physiol.,278:C57−C65(2000)(非特許文献2)に、その血管新生阻害作用がMol.Cancer Ther.,6(5) 1517−1525(2007)(非特許文献3)に、その緑内障、網膜症などの眼疾患治療薬として用途が、国際公開第97/23222号(特許文献2)に記載されており、その他にも種々の薬理作用を示すことが知られている。
【0007】
しかしながら、上記一般式(1)で表される化合物またはその塩における、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害の予防または治療効果については全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4678783号明細書
【特許文献2】国際公開第97/23222号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chem.Pharm.Bull.,40(3) 770−773(1992)
【非特許文献2】Am.J.Physiol.Cell Physiol.,278:C57−C65(2000)
【非特許文献3】Mol.Cancer Ther.,6(5) 1517−1525(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害の予防または治療効果を有する薬剤を見出すことは非常に興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症またはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害の予防または治療効果のある薬剤を見出す為に鋭意研究を行なった結果、イソキノリンスルホニル誘導体またはその塩が、マウス光障害モデルにおける、光受容体細胞死および/または視細胞死に対して抑制効果を有することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0012】
本発明は、下記式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤である。以下、下記式(1)で表される化合物またはその塩を「本発明化合物」と呼称する。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明における前記網脈絡膜変性疾患は、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、中でも、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明化合物は、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害など(好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害、特に好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性およびその疾患に伴う網脈絡膜障害)の予防または治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、下記一般式(1)で表されるイソキノリンスルホニル誘導体またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、実質的に血管新生を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤である。
【0017】
【化3】

【0018】
その詳細については後述の[薬理試験]の項で説明するが、本発明化合物は、マウス光障害モデルにおける、光受容体細胞死および/または視細胞死の抑制効果を有する。このような本発明化合物は、実質的に血管新生を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤として有用である。
【0019】
本発明化合物における「塩」とは、医薬的に許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩などが挙げられ、好ましくは、塩酸、臭化水素、硝酸、硫酸、リン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸(D体、L体、メソ体)、メタンスルホン酸との塩が好ましい。
【0020】
本発明化合物に水和物および/または溶媒和物が存在する場合は、それらの水和物および/または溶媒和物も本化合物の範囲に含まれる。
【0021】
なお、本発明化合物が塩の形態をとる場合、本発明化合物のフリー体と塩の構成比は、該塩が1価の無機酸または1価の有機酸である場合、1:1または1:2の構成比が、該塩が2価の無機酸または2価の有機酸である場合、2:1の構成比が、該塩が3価の無機酸または3価の有機酸である場合、3:1の構成比が好ましい。また、本発明化合物が水和物の形態をとる場合、本発明化合物のフリー体と塩と水の構成比は、該塩が1価の無機酸または1価の有機酸である場合、2:2:1または1:1:3の構成比が、該塩が2価の無機酸または2価の有機酸である場合、2:1:1または2:1:6の構成比が、該塩が3価の無機酸または3価の有機酸である場合、6:2:3または3:1:9の構成比が好ましい。
【0022】
本発明化合物に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明化合物の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が種々変化する場合の各段階における結晶形およびその過程全体を意味する。
【0023】
本発明化合物における好ましい具体例として、以下の化合物またはその医薬的に許容される塩を挙げることができる。
【0024】
・ヘキサヒドロ−1−(5−イソキノリンスルホニル)−1H−1,4−ジアゼピン(以下、「化合物A」ともいう)。
【0025】
なお、本発明化合物は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造できる。たとえば、米国4678783号特許明細書、Chem.Pharm. Bull.,40(3) 770−773(1992)などに記載された方法に準じて製造することができる。
【0026】
本発明における「実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患」とは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害などからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性およびその疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0027】
また、本発明の予防または治療剤は、必要に応じて、医薬的に許容される他の活性成分および/または添加剤を加えて、単独製剤および/または配合製剤として、汎用される技術を用いて製剤化することができる。
【0028】
本発明の予防または治療剤は、患者に対して経口的または非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与など)、静脈内投与、経皮投与などが挙げられ、必要に応じて、医薬的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、たとえば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤などが挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、たとえば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル剤、挿入剤などが挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本発明の予防または治療剤は、これらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアーなどのDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0029】
たとえば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖などの賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどの崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油などの滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ピロリドンなどのコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントールなどの矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0030】
注射剤は、塩化ナトリウムなどの等張化剤;リン酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの界面活性剤;メチルセルロースなどの増粘剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0031】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィンなどの汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0032】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸などの生体分解性ポリマーを本発明化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。
【0033】
眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、たとえばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロースなどの生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0034】
本発明の予防または治療剤の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜1000mgを1回または数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回または数回に分けて投与することができる。また、点眼剤または挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回または数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【0035】
以下に、薬理試験例および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
[薬理試験例]
1.マウス光障害モデルを用いた試験
マウス光障害モデルを用いて、化合物Aの二塩酸塩(以下、「化合物A’」ともいう)の薬理効果を評価した。なお、マウス光障害モデルは光照射により、網膜光受容細胞および/または視細胞の細胞死を誘発させたモデル動物であり、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症などのモデル動物として汎用されている(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2005; 46: 979−987)。
【0037】
(マウス光障害モデルの作製方法および評価方法)
化合物A’投与群および基剤投与群として、8週齢のBALB/c雄性マウスを、暗室にて暗順応を20時間施した後、白色蛍光灯で5000lux、2時間光照射を実施して、光障害を誘発した。その後、暗室にて暗順応を20時間施し、網膜電図(electroretinogram、以下、「ERG」ともいう)を測定した。得られた波形からa波およびb波の振幅(μV)を算出した。また、暗室にて暗順応を20時間施した後、光照射を行なわずにERGを測定した群を正常対照群とした。下記式1に従い、a波およびb波のそれぞれについて、振幅減弱抑制率(%)を算出した。なお、各群の例数は、2匹(4眼)である。
【0038】
[式1]
振幅減弱抑制率(%)=((Vx−V0)/(Vn−V0))×100
0:基剤投与群の振幅(μV)
n:正常対照群の振幅(μV)
x:化合物A’投与群の振幅(μV)
(投与方法)
1)光照射前の単回投与時
・化合物A投与群:1%(w/v)メチルセルロース水溶液に懸濁した化合物A’溶液を10mg/kgの用量で、光照射1時間前に1回、経口投与した。
【0039】
・正常対照群および基剤投与群:1%(w/v)メチルセルロース水溶液を、光照射1時間前に1回、経口投与した。
【0040】
(結果)
化合物A’を使用した場合の試験結果を以下の表1に示す。表1から明らかなように化合物A’は光照射によるERGのa波およびb波の減弱に対して、顕著な抑制作用を示した。
【0041】
【表1】

【0042】
(考察)
以上の結果から、化合物A’に代表される本発明化合物は、光受容体細胞死および/または視細胞死を抑制することが分かった。よって、本発明化合物は実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療効果を有する。
【0043】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0044】
(処方例1:錠剤)
100mg中
化合物A’ 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
化合物A’、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウムおよびヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、化合物A’の添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mgまたは50mgの錠剤を調製できる。
【0045】
(処方例2:眼軟膏)
100g中
化合物A’ 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリンおよび流動パラフィンに、化合物A’を加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。化合物A’の添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/w)、0.1%(w/w)、0.5%(w/w)または1%(w/w)の眼軟膏を調製できる。
【0046】
(処方例3:注射剤)
10ml中
化合物A’ 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
化合物A’および塩化ナトリウムを滅菌精製水に加えて注射剤を調製する。化合物A’の添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、10mgまたは50mgの注射剤を調製できる。
【0047】
(処方例4:点眼剤)
100ml中
化合物A’ 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物A’およびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)または1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の有効成分である化合物A’は網膜光受容体細胞死および/または視細胞死を抑制した。よって、本発明化合物は、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患、たとえば、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)、さらにはそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害など(好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害、特に好ましくは、萎縮型加齢黄斑変性およびその疾患に伴う網脈絡膜障害)の予防または治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物またはその医薬的に許容される塩の少なくとも一つを有効成分として含有する、実質的に新生血管を伴わない網脈絡膜変性疾患の予防または治療剤。
【化1】

【請求項2】
前記網脈絡膜変性疾患が、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、ぶどう膜炎(ベーチェット病、原田病)およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の予防または治療剤。
【請求項3】
前記網脈絡膜変性疾患が、萎縮型加齢黄斑変性、初期加齢黄斑変性、網膜色素変性症、脳回転状網膜脈絡膜萎縮症およびそれらの疾患に伴う網脈絡膜障害からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載の予防または治療剤。

【公開番号】特開2012−6918(P2012−6918A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118030(P2011−118030)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】