説明

イソシアネートの製造で生じる残渣を処理する方法

イソシアネートの製造で生じる残渣の後処理方法であって、以下の工程:a)前記残渣を、水により加水分解する工程、b)工程a)で生じた反応生成物を、伝熱面を有する混合機に導入する工程、c)工程b)で生じた生成物からアミン及び水を分離する工程、d)水とアミンを分離する工程、を含む後処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン、イソシアネートの製造において生じる残渣、特にトリレンジイソシアネート(TDI)又はヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の製造において生じる蒸留残渣等のイソシアネート付加物を後処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート付加物は産業において廃棄物質として大量に得られる。例えば、ポリウレタンフォームであり、その例は、製造における切り屑あるいは余剰の電化製品、自動車又は家具から得られるフォームである。
【0003】
イソシアネート付加物の更なる種類は、製造廃棄物、特に、ポリイソシアネート、特にトリレンジイソシアネート(TDI)又はヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の製造で生じる蒸留残渣である。特に、最も使用されるポリイソシアネートの一つであるTDIの製造では大量の残渣が得られる。
【0004】
TDIはポリウレタン、特に軟質ポリウレタンフォームを製造するために大量に使用される。TDIの製造はトリレンジアミン(TDA)とホスゲンを反応させることによって行われるのが一般的である。この方法は以前から知られており、多くの文献に記載されている。
【0005】
このため、慣用の2段階のホスゲン化においてTDAをホスゲンと反応させるのが通常である。
【0006】
合成の最後において通常、高沸点の副生成物からTDIを分離する蒸留工程を行う。技術的理由のため、例えば残渣のポンプ送出性(pumpability)を確保するために、残渣にはまだ70%以下、好ましくは50%以下、特に好ましくは30%以下のTDIが含まれ得る。このため、年間最大10万メートルトンの生産量を有する現代の「世界規模の工場」の場合、残渣中の物質を利用するための重要な経済的要因が存在する。
【0007】
蒸留残渣に含まれるTDIの少なくとも一部を回収するために、例えば押出機を用いて、残渣からより多くのTDIを除去する方法がよく用いられている。好適な装置は、例えListドライヤーである。これは、イソシアネートの製造において頻繁に使用されるList社のパドルドライヤーである。蒸留残渣中のTDIの量は、この方法で顕著に減少させることができる。しかしながら、この方法は通常固体状の残渣が生成し、その結果、方法の収率が低下する。これまでこの残渣は通常焼却していた。
【0008】
蒸留残渣を利用する他の方法はその材料を使用することである。そのための種々の方法が知られている。
【0009】
そのような利用のために行える方法は、加水分解として知られる残渣と水との反応である。このような方法は文献に多く記載されている。残渣の加水分解は塩基又は酸で促進する。アミンもまた加水分解を促進させる。例えば特許文献1に記載のように、加水分解はTDI蒸留残渣を変性させるために用いることができる。更に、ホスゲンと再度反応し、TDIを生成するTDAを回収することも可能である。この方法は、例えば特許文献2〜4に記載されている。
【0010】
特許文献5には、オートクレーブでのバッチ式又は管型反応器での連続式で行うことができる加水分解方法が記載されている。固体状のTDI残渣の加水分解が、アンモニア水溶液、第一級アミン又は第二級アミンの水溶液又はTDA水溶液を用いて行われる。
【0011】
特許文献6には、第1工程でTDI残渣をTDAと反応させて固形物を生成し、第2工程でこの中間体を水で加水分解する加水分解方法が記載されている。
【0012】
加水分解により、残渣に含まれる有用な生成物の大部分を回収することが可能である。しかしながら、完全に変換することは公知の方法では不可能であるため、有用な生成物は依然として失われる。
【0013】
特許文献7には、イソシアネート残渣を後処理する方法であって、まずListドライヤー内で残渣からイソシアネートモノマーを分離して、得られた残渣をアンモニアで処理する後処理方法が記載されている。この方法でもまた、有用な物質を不完全にしか回収することができず、またアンモニアは取扱いが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US−A4091009
【特許文献2】DE−A2942678
【特許文献3】特開昭58−201751
【特許文献4】DE−A1962598
【特許文献5】DE−A2703313
【特許文献6】US−A4654443
【特許文献7】WO2006/134137
【特許文献8】EP1706370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、イソシアネートの製造で生じる残渣を後処理する方法であって、より高い収率が達成され且つ管理が容易な後処理方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、本目的は、まず残渣を加水分解に付し、次いで加水分解の反応生成物を、伝熱面を有する混合機に、好ましくは押出機又は混練機に導入することにより達成することができる。
【0017】
したがって、本発明は、イソシアネートの製造で生じる残渣の後処理方法であって、以下の工程:
a) 前記残渣を、水を用いて加水分解する工程、
b) 工程a)で生じた反応生成物を、伝熱面を有する混合機、好ましくは混練機又は押出機に導入する工程、
c) 工程b)で生じた生成物からアミン及び水を分離する工程、
d) 水とアミンを分離する工程、
を含む後処理方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この場合、工程a)とb)との間で、工程a)の反応生成物から水の全部又は一部を分離することができる。
【0019】
また、工程a)とb)との間で、工程a)で生成したアミンの一部を反応生成物から分離することができる。
【0020】
反応混合物から生成物の一部を分離することにより、工程b)で処理する生成物の量を減らすことが可能となる。これにより、工程b)で使用する反応装置をより小さくすることが可能となる。
【0021】
分離するアミン及び/又は水の量は、混合物が、ポンプで送ることが可能な状態を維持し、且つ支障なく工程b)で使用する装置に移すことができる量にすべきである。したがって、混合物の粘度は通常500mPas未満とすべきである。
【0022】
好ましい実施の形態では、工程a)、工程b)又は両方の工程は塩基の存在下で行ってよい。この塩基は、本発明の方法の目的とする生成物であるアミンとは異なるものである。
【0023】
工程a)の塩基は、本発明の方法の目的とする生成物であるアミンの塩基強度(塩基性度)よりも大きい塩基強度を有すべきである。
【0024】
工程b)で使用する塩基の塩基強度も、本発明の方法の目的とする生成物のアミンの塩基強度よりも大きい必要がある。本発明方法のこの実施態様において、塩基を工程a)で使用した場合、工程b)で使用する塩基の塩基強度は、工程a)で使用する全ての塩基の塩基強度よりも大きい必要がある。
【0025】
工程a)及びb)で使用する塩基は、塩基性の、金属の酸化物又は水酸化物であってよい。好ましくは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物であり、特にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物である。水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを固体又は濃縮した溶液として使用することが特に好ましい。
【0026】
本発明の更なる実施の形態では、窒素を含む化合物を塩基として使用する。この化合物は、第1級、第2級及び第3級アミン、アンモニア並びにイミダゾール等の複素環窒素化合物からなる群から選択することが好ましい。
【0027】
塩基は、2つの工程において反応前でも反応中でも添加することができる。
【0028】
本発明の方法の特別な実施の形態では、アミンの製造過程で生じる蒸留底物(distillation bottoms;蒸留ボトム)から得られるアミノ基を含む混合物を、塩基として使用し、その場合、単独でも、上述した塩基と組み合わせても使用することができる。この蒸留底物は、好ましくは、工程a)で用いる残渣が生じるイソシアネートの製造のために使用するアミンの製造で生じる残渣であることが好ましい。このアミン残渣は特に蒸留によるアミンの後処理において得られ、例えば特許文献8に記載されている。しかしながら、他のアミン含有流も使用可能である。アミン残渣は、他の塩基と組み合わせて使用することが好ましい。アミン残渣の塩基性度が、加水分解で生成するアミンの塩基性度よりも低い場合、より強い塩基、好ましくは上記の種類の塩基が存在する。
【0029】
加水分解の残渣1kg当たり0.1〜15molの塩基を混練機又は押出機に導入することが通常である。加水分解の残渣1kg当たり0.2〜5molの塩基を混練機又は押出機に導入することが特に好ましい。
【0030】
本方法は、最も強い塩基を最後に使用し、有機塩基を無機塩基の前に使用するように構成することが好ましい。
【0031】
この方法で生じる生成物から塩基を除去することは必要でないので行わない。
【0032】
加水分解はバッチ式でも連続式でも行うことができる。これについての判断は何よりもまず、それぞれのイソシアネート製造工程において得られる残渣の量次第である。
【0033】
イソシアネート付加物と水との反応は、100〜500℃、好ましくは100〜400℃、特に好ましくは100〜250℃の温度において、20〜500バール、好ましくは30〜400バール、特に好ましくは30〜380バールの圧力で行うことが好ましい。
【0034】
水は、開裂すべき結合に対して少なくとも等モル量で存在する必要がある。少なくとも10%のモル過剰量で用いることが好ましい。残渣の組成は、製造過程における反応条件に強く依存し、分析によって正確には測定することができないので、以下では水の量は質量%で示す。本発明の方法の出発成分中の水の割合は、加水分解の反応混合物に対して10〜90質量%、好ましくは30〜70質量%であることが好ましい。
【0035】
工程a)の反応生成物を通常、反応器から連続的に取り出し、連続的に後処理を行う。溶媒を用いない(含まない)方法では、反応が完了した段階で反応生成物は単一相からなる。
【0036】
反応は、管型反応器内、容器内又は撹拌容器のカスケード内で行うことができる。滞留時間は30秒〜7時間が好ましく、10分〜5時間が特に好ましい。
【0037】
工程a)の反応生成物を、適宜上述した水とアミンの分離の後、工程b)の伝熱面(heat transfer surface)を有する混合機、好ましくは混練機又は押出機に移す。ここで、残渣の更なる減少が生じる。
【0038】
押出機又は混練機として、一軸押出機、二軸押出機、リング(環状)押出機、多軸押出機若しくは遊星歯車(planetary-gear)押出機、一軸混練機若しくは二軸混練機又はパドルドライヤーを使用することができる。
【0039】
List社製及びBuss−SMS社製の一軸混練機又は二軸混練機が特に好ましい。Coperion社のコンパウンディング押出機も好適である。
【0040】
伝熱面を有する混合機、特に押出機又は混練機内での塩基との反応は、20〜900ミリバールの減圧下、100〜250℃において行う。反応は、20〜100ミリバール、150〜245℃において行うことが好ましい。生成物の滞留時間は10分〜5時間である。
【0041】
アミン及び、まだ存在する場合には水を、工程b)の反応生成物から分離する。これは、例えば蒸留により行うことができる。分離したアミン又はアミン/水混合物は、必要な場合には、更なる後処理に付してもよい。これには、例えば、残留している水及び他の揮発性成分の除去が含まれる。これは蒸留によって行うことが好ましい。
【0042】
後処理したアミンは、イソシアネートの製造過程で再使用することができる。
【0043】
アミンと水を分離した後に残る残渣は排出して、埋立地に埋め立てるか焼却してもよい。
【0044】
イソシアネート、特にトリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(MDI)で生じる残渣は、本発明の方法により後処理することができる。後処理の収率は、本発明の方法によって更に向上させることができる。
【0045】
本方法を以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0046】
実施例1
TDI残渣の加水分解で生じたタール5kgを水酸化カリウム溶液(50質量%濃度)0.7kgと共に密閉混練機に導入した。この反応混合物を230℃において3時間混練した。この反応混合物は53質量%のTDAを含んでいた。最後に、TDAと水の混合物を、40ミリバール、230℃において混練機から蒸留除去し、次いでTDAと水に分離した。このようにして得られたTDAは、連続的処理で、ホスゲン化に再供給することが可能であった。
【0047】
実施例2
TDI残渣の加水分解で生じたタール5kg、水酸化カリウム溶液(50質量%濃度)0.7kg及びDNTからTDAへ水素化した後の後処理で生じた高沸点のTDA残渣5kgを、密閉混練機に導入した。この反応混合物を230℃において3時間混練した。最後に、TDAと水の混合物を、40ミリバール、230℃において混練機から蒸留除去し、次いでTDAと水に分離した。このようにして得られたTDAは、連続的処理で、ホスゲン化に再供給することが可能であった。
【0048】
実施例3
TDI残渣の加水分解で生じたタール5kg、水酸化カリウム溶液(50質量%濃度)0.7kg及びアルキルアミンの製造で生じた高沸点のアミン残渣5kgを、密閉混練機に導入した。この反応混合物を230℃において3時間混練した。最後に、TDAと水の混合物を、40ミリバール、230℃において混練機から蒸留除去し、次いでTDAと水に分離した。このようにして得られたTDAは、連続的処理で、ホスゲン化に再供給することが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネートの製造で生じる残渣の後処理方法であって、
以下の工程:
a) 前記残渣を、水により加水分解する工程、
b) 工程a)で生じた反応生成物を、伝熱面を有する混合機に導入する工程、
c) 工程b)で生じた生成物からアミン及び水を分離する工程、
d) 水とアミンを分離する工程、
を含む後処理方法。
【請求項2】
工程a)を、塩基性度が工程a)で生成するアミンの塩基性度よりも大きい塩基の存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)を、塩基性度が工程a)に存在する全ての塩基の塩基性度よりも大きい塩基の存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
塩基として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の酸化物及び/又は水酸化物を使用することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
塩基として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を使用することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
塩基として、窒素含有化合物を使用することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
窒素含有化合物が、第1級、第2級及び第3級アミン、アンモニア並びにイミダゾールを含む複素環窒素化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
伝熱面を有する混合機として、押出機又は混練機を使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
伝熱面を有する混合機として、一軸押出機、二軸押出機、リング押出機、多軸押出機若しくは遊星歯車押出機、一軸混練機若しくは二軸混練機又はパドルドライヤーを使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程a)とb)の間で、水の一部又は全部を分離することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程a)とb)の間で、工程a)で生成したアミンの一部を分離することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
塩基として、アミン製造過程で生じる蒸留底物から得られるアミノ基を含む混合物を使用することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。

【公表番号】特表2011−516593(P2011−516593A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504429(P2011−504429)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054287
【国際公開番号】WO2009/127591
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】