説明

イソシアネートの製造方法

本発明は、気相中で第一級アミンと化学量論的に過剰のホスゲンとを反応させることによるイソシアネートの製造方法であって、過剰のホスゲンを回収して反応に再循環させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中で第一級アミンと化学量論的に過剰のホスゲンとを反応させることによるイソシアネートの製造方法であって、過剰のホスゲンを回収して反応に再循環させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネートは、大量に製造され、ポリウレタンを製造するための出発物質として主に使用されている。イソシアネートは通常、適当なアミンとホスゲンとの反応によって製造され、ホスゲンは化学量論的に過剰な量で使用される。アミンとホスゲンとの反応は、気相または液相のいずれかで実施することができる。この合成方法において、過剰ホスゲンの少なくとも一部は通常、反応で遊離された副生物である気体状塩化水素と一緒に得られるので、イソシアネート合成の経済的な実施には、過剰ホスゲンを、副生物である塩化水素から分離して反応に再循環させることが不可欠である。
【0003】
本発明は特に、気相ホスゲン化におけるアミンおよびホスゲンからのイソシアネートの製造において得られる過剰ホスゲンの回収方法、並びに気相反応器への回収ホスゲンの再循環方法に関する。
【0004】
気相におけるアミンとホスゲンとの反応によるイソシアネートの様々な製造方法は、先行技術から知られている。
【0005】
EP−A−289 840は、ホスゲンを過剰に使用する、気相ホスゲン化による脂肪族ジイソシアネートの製造方法を記載している。同特許公報は、反応を終えた気体流から過剰ホスゲンを自体既知の方法で取り出せることを記載しており、−10℃〜8℃の温度での溶媒への吸収または冷却トラップ、或いは活性炭への吸着および加水分解に言及している。実施例1では、活性炭塔における吸着によって、反応を終えた気体流からホスゲンを取り出している。同特許公報は、反応チャンバーへの供給ラインと反応チャンバーからの出口の間に差圧を設けることによって、反応チャンバーにおける流量を調節できることは教示しているが、どのように差圧を発生させるのかは開示していない。開示されている方法の特有の欠点は、そのような処理では過剰ホスゲンが分解され、もはや反応に使用できなくなるので、運転が経済的ではないことである。
【0006】
EP−A−570 799は、ジアミンの沸点より高温で、管型反応器において平均接触時間0.5〜5秒で、適当なジアミンと過剰のホスゲンとの反応を実施することを特徴とする、芳香族ジイソシアネートの製造方法に関する。同特許公報は、反応器の凝縮段階を終えた気体混合物からホスゲンを自体既知の方法で取り出せることを記載しており、冷却トラップ、冷溶媒への吸収、並びに活性炭への吸着および加水分解に言及している。実施例では、水による過剰ホスゲンの加水分解が記載されている。過剰ホスゲンの分解は、経済的手法の面では不利である。
【0007】
GB−A−1 165 831は、気相におけるイソシアネートの製造方法であって、加熱ジャケットにより温度を一定に保つことのできる機械的撹拌機付き管型反応器において、150℃〜300℃の温度で、アミン蒸気とホスゲンとの反応を実施する方法を記載している。開示されている方法の1つの欠点は、高速撹拌機と、反応器壁を貫通する軸を介した高速撹拌機用外部駆動装置の使用である。なぜなら、ホスゲンを使用する際、安全規定を順守する必要のある、このタイプの撹拌機の密閉に非常に費用がかかるからである。実施例には、反応器から離れた蒸気を、冷モノクロロベンゼンに吸収させることが記載されている。溶媒に吸収されたホスゲンを反応に再使用できるのかどうか、またどのように再使用できるのかについては教示されていない。
【0008】
GB 737 442は、HClおよびホスゲン含有気体混合物からの液体ホスゲンの回収方法であって、気体混合物が−40〜−60℃に冷却された冷却器を通って上流に向かって流れ、ホスゲンが凝縮して貯蔵槽に流入する方法を記載している。同特許公報は、気相反応において回収液体ホスゲンがどのように使用できるのかを開示していない。開示されている方法の1つの欠点は、冷却器を離れたHClガスが有意な量のホスゲンをなお含有し、このホスゲンがホスゲン化反応に使用されないことである。別の欠点は、凝縮を実施する温度レベルが非常に低く、従って、エネルギーの面からコスト高なことである。
【0009】
US 2 764 607は、クロロホルメートの製造に由来するHCl含有気体混合物からのホスゲンの回収方法を記載している。この目的のため、まず、反応器に取り付けられた冷却器を離れた気体を冷溶媒と接触させ、ホスゲンを溶媒に吸収させる。次いで、蒸留塔において、部分的に共吸収されたHClを伴ったホスゲンを溶媒から連続的に分離する抽出工程を実施する。続いて、溶媒の凝縮によって、得られた気体流を精製し、その後、ホスゲンを液化して液体貯蔵容器に導く。同特許公報は、吸収工程と抽出工程との圧力比がどのような値であれば有効であるのかを教示していない。開示されている方法の欠点は、液体ホスゲンの貯蔵が高い潜在的リスクを有することである。
【0010】
EP 1 849 767の教示によれば、経済的なイソシアネートの製造方法には、HClカップリング生成物から過剰ホスゲンが分離および回収できること、また、更に処理しなくても別の合成や応用分野に使用できる程度に十分な純度でHClが得られることが不可欠である。この目的のため、同特許公報は、気体混合物を二段階で溶媒に吸収させる方法であって、第一段階を等温的に実施し、第二段階を断熱的に実施する方法を開示している。これにより、吸収媒体中ホスゲン溶液と、所望の純度を有するHClガスとが得られる。同特許公報は、気相法によるイソシアネート製造について、得られたホスゲン溶液を後の工程で脱着できることを記載している。EP 1 849 767の教示によれば、低温および高圧で吸収を実施することが好ましく、高温および低圧で脱着を実施することが好ましい。
【0011】
DE 102 600 84は、塩化水素とホスゲンからなる気体混合物の別の分離方法を記載している。同特許公報は、高圧下でホスゲンを凝縮し、続く工程段階で、ホスゲン底部生成物から(すなわち液相において)塩化水素を除去するために凝縮相をストリップする方法を開示している。有意な量のHClが、高圧の故に凝縮液に溶解し、同特許公報の教示によればホスゲン化反応において悪影響を及ぼすので、ストリッピングは必要である。開示されている方法の欠点は、存在する凝縮圧力の故に、溶解HClを分離するために更なる工程段階が必要なことである。同特許公報は、気体ホスゲンの回収については記載していない。安全性リスクは高くなるが、高圧下でHCl/ホスゲン分離を実施できることは記載している。更に、高圧下での製造方法はエネルギーの面でコスト高である。別の態様として、極めて低い温度での分離が記載されているが、この方法もまた、エネルギーコストが高く、ホスゲン含有液相中に多量のHClが含まれる。
【0012】
WO 2007 014 936は、ジアミンと化学量論的に過剰のホスゲンとを反応させることによるジイソシアネートの製造方法であって、過剰ホスゲンの少なくとも一部を反応に再循環させ、アミンとの混合前に、反応器に入るホスゲン流が15重量%未満のHClを含有する方法を開示している。同特許公報は、アミン塩酸塩の沈澱が減少することにより、反応器の可使時間の向上が期待されることを教示している。ホスゲンガス中の不活性HClガスの含量が高いことの欠点は、大きい装置が必要とされ、従って、プラント建設費が高くなることである。更に、ホスゲンガス中の不活性HClガスにより、循環流が増加し、運転費が高くなる。従って通常、この製造方法では、不活性ガス量を最少にすることが常に望まれている。まず、過剰ホスゲンおよび生じた塩化水素を、本質的に気体状の反応混合物から分離し、次いで、過剰ホスゲンの少なくとも一部を反応に再循環させ、アミン流との混合前にホスゲン流が15重量%未満のHClを含有するように塩化水素を再循環ホスゲンから分離する態様が記載されている。同特許公報は、蒸留と洗浄との組み合わせによる分離が好ましいこと、塩化水素含有流から分離したホスゲンを洗浄するために洗浄剤を使用すること、好ましくは、この使用済み洗浄媒体から、ホスゲンおよび塩化水素を蒸留によって分離することを記載している。同特許公報によれば、洗浄および蒸留は、1〜10baraの圧力で実施することができる。同特許公報は、洗浄と蒸留との相対圧力比を開示していない。
【0013】
WO 2008 086 922の教示によれば、高温に起因する材料脆化の危険性が存在するので、気相ホスゲン化反応では、アミンとの混合前にホスゲンは1000重量ppm超の塩素を含有してはならない。同特許公報の教示によれば、高温でのホスゲンの分解に起因して、一定量の塩素が常に生じるので、この塩素を分離する必要がある。この目的のため、同特許公報は、各々の場合に0.1〜20baraの圧力で、ホスゲン、HClおよび塩素を含有する気体混合物を部分的に凝縮し(第18頁第30行)、洗浄する(第19頁第18行)方法を開示している。これにより、ホスゲン、洗浄用媒体、HClおよび塩素を含有する液相が生じ、この液相から、1〜5baraの圧力での精留により低沸点物質(塩素およびHCl)を除去する。続く工程で、1〜5baraの圧力での精留によりホスゲンおよび洗浄用媒体を互いに分離し(第21頁第2行)、ホスゲン化に再使用できる望ましい塩素純度を有するホスゲン流を得る。同特許公報の一般的教示によれば、精留工程より高い圧力下で、部分的凝縮および洗浄を実施することが有利である。更に、同特許公報の教示によれば、ホスゲン含有洗浄媒体から、ホスゲン化反応に十分な純度の気体ホスゲンを得るためには、二段階蒸留工程が必要である。
【0014】
WO 2009 037 179は、気相中でのイソシアネートの製造方法であって、全工程段階でホスゲンが本質的に気体状であるので、液体ホスゲンを蒸発させるためのエネルギーを供給する必要のない方法を開示している。同特許公報の教示によれば、これは、特に中間凝縮を伴わずに、ホスゲン製造で得た気体ホスゲンを気相ホスゲン化に導入する方法により達成される。
【0015】
同特許公報はまた、HCl含有気体混合物からのホスゲンの分離、および洗浄と1〜10baraの圧力下で操作される多段階蒸留との組み合わせによる分離ホスゲンの気相ホスゲン化への再循環の方法を記載している。同特許公報は、洗浄と蒸留との相対圧力比を開示していない。
【0016】
同特許公報は、第一工程において、洗浄液で気体ホスゲン/HCl混合物を洗浄することにより、ホスゲンおよびHCl含有洗浄液が生じることを説明している。次いで、ホスゲン含有洗浄溶液から可能な限りHClを除去し、上流における洗浄工程へ再循環させる第一蒸留工程を実施する。続いて、先に得た洗浄溶液を、気体ホスゲンと、可能な限り少ないホスゲンを含有する洗浄液とに分離する第二蒸留工程を実施する。気体ホスゲンは気相ホスゲン化に投入し、洗浄液は気体ホスゲン/HCl混合物の洗浄に再使用する。同特許公報の一般的な教示によれば、ホスゲンおよびHCl含有気体混合物からホスゲンを回収し、気相ホスゲン化に回収ホスゲンを使用するためには、上流における洗浄へのHClの再循環を伴った二段階蒸留工程が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】EP−A−289 840
【特許文献2】EP−A−570 799
【特許文献3】GB−A−1 165 831
【特許文献4】GB 737 442
【特許文献5】US 2 764 607
【特許文献6】EP 1 849 767
【特許文献7】DE 102 600 84
【特許文献8】WO 2007 014 936
【特許文献9】WO 2008 086 922
【特許文献10】WO 2009 037 179
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
意外なことに、一連の2つの工程段階が、ホスゲンおよびHCl含有気体混合物(例えば、反応器において化学量論的に過剰のホスゲンと第一級アミンとを反応させることにより生じた混合物)からのホスゲンの回収、および続く回収ホスゲンの反応器への再循環に特に適していることが見出された。この方法の第一工程(HCl/ホスゲンの分離)では、反応器を離れたHClおよびホスゲン含有気体混合物を、本質的にHClを含有する気体流と、ホスゲン含有液体流とに分離し、第二工程(ホスゲンガスの製造)では、先に得た液体流の少なくとも一部を、ホスゲン含有気体流に転化し、第一工程段階の圧力は第二工程段階の圧力より低い。
【0019】
本発明の工程条件で本発明の方法を用いると、反応器に再循環されるホスゲンの気体流路における昇圧装置を省くことができる。このことは、製造プラントの安全性を高める。特に、ホスゲンガス空間全体で昇圧装置を省くことが可能であり、本発明の方法により、ホスゲンガス製造の第二工程段階からHCl/ホスゲン分離の第一工程段階へ気体流を再循環させる必要なしに、ホスゲンおよびHCl含有気体混合物から気体ホスゲンを回収することができる。これにより、装置の数が減り、方法のエネルギーコストが下がる。
【0020】
本発明の方法は、所要の工程条件との組み合わせにより、高いホスゲン回収率をもたらす。すなわち、ホスゲンおよびHCl含有気体混合物から、高い割合のホスゲンが分離され、反応に再循環される。これにより、ホスゲン損失が最少になり、方法の経済性が向上する。
【0021】
先行技術の教示に従って、例えば吸収媒体へのホスゲンの吸収および続く脱着による、気体HCl/ホスゲン混合物からのホスゲンの上流における分離より低い圧力で、液相から気相へのホスゲンの転化を(エネルギーの面から)有利に実施する場合に、本発明の方法において所要の操作条件と組み合わせて所要の工程順序を使用することは、特に意外である。
【0022】
この点について先行技術を考慮すると、HCl/ホスゲン分離とホスゲンガス製造の工程段階の間で圧力を逆にする手順により、エネルギーの面で方法全体が有利になることを、当業者は予期することができない。
【0023】
意外なことに、ホスゲンガス製造より低い圧力下で操作されるHCl/ホスゲン分離の第一工程段階が、低圧であるにもかかわらず、更なる加工に十分な純度を有するHClガスを生じることが見出された。先行技術の教示によれば、第一工程段階で生じるHClガスの純度は、この工程において一般的な圧力で高くなるので、このことは意外である。
【0024】
HCl/ホスゲン分離の第一工程段階における低い圧力にもかかわらず、HClおよびホスゲン含有気体混合物から可能な限り多量のホスゲンが分離できること、それによって、ホスゲン損失がこの工程段階において低くなることは、当業者にとって特に意外である。ホスゲンガス製造の第二工程段階からHCl/ホスゲン分離の第一工程段階へガスを再循環させる必要がないという事実に加えて、高いホスゲン回収率が達成される。
【0025】
HCl/ホスゲン分離の第一工程において生じる流れが、溶解HClおよび溶解不活性ガスを少量しか含有しないので、本発明の方法において規定されている工程順序を使用することが有利である。この使用により、ホスゲンガスの製造および反応の工程段階における装置において不活性ガス量が低減し、従って、装置をより小さく製作できるので、特に有利である。更に、続く工程段階におけるホスゲンガス製造のエネルギーコストが、溶解HClが少量であることに起因して低減するので有利である。また、HCl/ホスゲン分離へのHClガス流の再循環と共に(先行技術では必要とされた)二段階蒸留を省くことができ、ホスゲンガス製造の第二工程段階からHCl/ホスゲン分離の第一工程段階へ気体流を再循環させる必要はない。HCl/ホスゲン分離において適当な工程パラメーターを選択することによって、反応への悪影響が現れないように、第一工程段階において生じる液体流中の溶解HClおよび溶解不活性ガスの含量を調節することができる。
【0026】
高いホスゲン回収率は、本発明の工程条件と組み合わせた本発明の方法によって達成することができる。
【0027】
所要の工程条件で本発明の方法を使用することは、エネルギー面で有利なホスゲンの回収およびホスゲンのホスゲン化反応への再循環を可能にする一方で、方法の安全性を高める。または、本発明の方法は、より少ない装置数でのホスゲン回収およびホスゲン再循環の実施を可能にし、それによって、投資コストを下げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、気相中で第一級アミンと化学量論的に過剰のホスゲンとを反応させることによるイソシアネートの製造方法であって、
a)アミンの沸点より高温で、反応器においてアミンをホスゲンと反応させて、イソシアネート含有液体流と、HClおよびホスゲン含有気体流とを得、
b)まず、工程a)で得たHClおよびホスゲン含有気体流を、HCl含有気体流と、ホスゲン含有液体流とに分離し、
c)次いで、工程b)で得たホスゲン含有液体流の少なくとも一部を、ホスゲン含有気体流に転化し、
d)工程c)で得たホスゲン含有気体流を、工程a)の反応に再循環させ、
e)工程c)で得たホスゲン含有気体流の圧力は、工程b)で得たホスゲン含有液体流の圧力より高い
方法に関する。
【0029】
気相ホスゲン化工程(a))
工程a)におけるホスゲンとの反応による気相中でのアミンのホスゲン化は一般に、先行技術から知られている(例えば、EP−A−570 799、WO−A−2007/014936)。
【0030】
本発明では、第一級アミンを使用することが好ましい。本質的に分解せずに気相に転化され得るので、第一級芳香族アミン、特に第一級芳香族ジアミンが好適である。
【0031】
好ましい芳香族アミンの例は、トルイレンジアミン(TDA)、特に2,4−TDAおよび2,6−TDA並びにそれらの混合物、ジアミノベンゼン、ナフチルジアミン(NDA)、2,2’−メチレンジフェニルジアミン(MDA)、2,4’−メチレンジフェニルジアミンまたは4,4’−メチレンジフェニルジアミン或いはこれらの異性体混合物である。トルイレンジアミン(TDA)、特に2,4−TDAおよび2,6−TDA並びにそれらの混合物がとりわけ好ましい。
【0032】
別の適当な例は特に、脂肪族または脂環式C2〜18炭化水素に基づくアミン、とりわけジアミンである。特に適当なアミンは、1,6−ジアミノヘキサン、1−アミノ−3,3,5−トリメチル−5−アミノメチルシクロヘキサン(IPDA)および4,4’−ジアミノジシクロヘキシルアミンである。
【0033】
本発明の方法を実施する前に、通常、出発アミンを蒸発させ、200℃〜600℃、好ましくは200℃〜500℃、特に好ましくは250℃〜450℃に加熱し、場合により不活性ガス(例えばN、HeまたはAr)または不活性溶媒(例えば、場合によりハロゲン置換されていてよい芳香族炭化水素、例としてクロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼン)蒸気で希釈して、反応チャンバーに供給する。
【0034】
出発アミンは、既知の蒸発装置によって蒸発させることができる。少量の運転ホールドアップが流下膜式蒸発器を高い循環量で流通する蒸発システムが好ましい。そこでは、出発アミンへの熱応力を最小化するために、上記したような蒸発工程を、場合により不活性ガスおよび/または不活性溶媒蒸気の導入によって促進することもできる。別の態様として、例えばEP 1 754 698に記載されているような、極めて短い滞留時間を有する特定の蒸発装置で、蒸発を実施することもできる。
【0035】
本発明の方法では、反応させるアミン基に対して過剰なホスゲンを使用することが有利である。ホスゲンとアミン基とのモル比は、好ましくは1.1:1〜20:1、特に好ましくは1.2:1〜5:1である。ホスゲンを、200℃〜600℃の温度に維持し、場合により不活性ガス(例えば、N、HeまたはAr)または不活性溶媒(例えば、場合によりハロゲン置換されていてよい芳香族炭化水素、例としてクロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼン)蒸気で希釈して、反応チャンバーに供給する。
【0036】
別々に加熱した反応体を、少なくとも1つの混合デバイスを介して少なくとも1つの反応チャンバーに導入し、混合し、適当な反応時間を監視しながら好ましくは断熱的に反応させるよう、本発明の方法を実施する。次いで、対応するカルバミン酸塩化物(例えばTDAの場合はトルイレンジアミンの酸塩化物)の分解点より高い温度まで気体流を冷却することによりイソシアネートを凝縮する。
【0037】
イソシアネートを生成するためのアミン基とホスゲンとの反応に必要な滞留時間は、使用するアミンのタイプ、出発温度、反応チャンバー内の断熱温度上昇、使用するアミンとホスゲンとのモル比、不活性ガスによる反応体の希釈度、および選択した反応圧力に応じて、0.05〜15秒である。
【0038】
対象の系(使用するアミン、出発温度、断熱温度上昇、反応体のモル比、希釈ガス、反応圧力)について、予め確定した反応完了のための最短滞留時間を20%未満、好ましくは10%未満超えるだけであれば、二次反応生成物(例えばイソシアヌレートおよびカルボジイミド)の生成をかなり回避することができる。
【0039】
可能な限り均一な反応体の混合および更なる反応のいずれも、化学反応にとっては非常に狭い、この範囲の接触時間内で実施しなければならない。更なる反応は、好ましくは逆混合しないようにして実施する。なぜなら、逆混合により、接触時間が長くなり、従って、望ましくない副生物および二次生成物の形成が増加するからである。
【0040】
実際に方法を実施する際、反応体の混合に要する時間の故に、平均接触時間からの偏差が生じることがある。短い混合時間を実現する方法は基本的に知られており、適当な例は、可動式または静的混合要素或いはノズルを備えた、混合装置または混合チャンバーである。例えば、EP−A−1 362 847、EP−A−1 526 129またはEP−A−1 555 258に記載されているように、混合チャンバー内でスタティックミキサーを使用することが好ましい。本発明の方法では、EP−A−1 362 847の段落(0008)〜(0014)および(0023)〜(0026)、EP−A−1 526 129の段落(0008)〜(0013)および(0022)〜(0026)、またはEP−A−1 555 258の段落(0007)および(0024)〜(0025)に開示されている装置を使用することが好ましい。
【0041】
ジェットミキサーの原理によれば、場合により不活性ガスで希釈されていてよい気体出発物質が少なくとも1つの混合チャンバーに供給される、本質的に回転対称の反応チャンバーを有する反応器を使用することが特に好ましい(Chemie-Ing. Techn. 44 (1972) 第1055頁、図10)。供給された材料流は、好ましくは2〜20、特に好ましくは3〜15、非常に好ましくは4〜12の速度比で、反応器の少なくとも1つの混合チャンバーに入る。場合により不活性ガスで希釈されていてよいアミンを、より高い流量で、反応器の少なくとも1つの混合チャンバーに供給することが好ましい。
【0042】
好適には、反応チャンバーおよび混合装置または混合チャンバーのいずれも、二次反応(例えばイソシアヌレート生成またはカルボジイミド生成)をもたらす熱応力を発生させることがある加熱表面や、沈澱をもたらす凝縮を引き起こすことがある冷却表面を有さない。従って、放射損失および散逸損失を除けば、好適には成分は断熱的に反応し、混合装置および反応器の中または反応器単独の中における断熱温度上昇は、混合装置および反応器における、温度、組成、出発物質流の相対的比率、並びに滞留時間によって調節される。本発明の方法では、非断熱的に成分を反応させることもできる。
【0043】
反応チャンバー内でホスゲン化反応を実施した後、少なくとも1種のイソシアネート、ホスゲンおよび塩化水素を好ましくは含んでなる気体反応混合物から、生じたイソシアネートを取り出す。これは、例えば、別の気相ホスゲン化(EP−A−0 749 958)で既に推奨されているように、少なくとも1種のイソシアネート、ホスゲンおよび塩化水素を好ましくは含んでなる反応チャンバーから連続的に離れた混合物が、反応チャンバーを離れた後に不活性溶媒中で凝縮される手順によって実施することができる。
【0044】
しかしながら、以下のように凝縮を実施することが好ましい:本発明の方法で使用される反応チャンバーは、対応するイソシアネートを生成するための使用アミンとホスゲンとの反応を停止するために、1つ以上の適当な液体流(急冷液)が噴霧される領域を少なくとも1つ有する。EP−A−1 403 248に記載されているように、これは、冷表面を使用せず迅速に気体混合物を冷却できる。
【0045】
本発明の方法の1つの特に好ましい態様では、EP−A−1 403 248に開示されているように、少なくとも1つの領域(冷却領域)が急冷段階と統合されている。1つのとりわけ好適な態様では、複数の冷却領域を使用しており、これらの少なくとも2つの冷却領域は、急冷段階と統合され操作される。この設計および操作については、EP−A−1 935 875に開示されている。
【0046】
反応器の少なくとも1つの冷却領域と急冷段階との統合連結に代わる態様として、EP−A−1 935 875に開示されているように、複数の反応器の冷却領域と急冷段階との対応した統合連結を挙げることもできる。しかしながら、反応器の少なくとも1つの冷却領域と急冷段階との統合連結が好ましい。
【0047】
本発明の方法の1つの好ましい態様では、本発明に必要な反応条件で使用される反応器の処理能力は、1時間あたりアミン1トン超、好ましくは1時間あたりアミン2〜50トンである。これらの値は、特に好ましくは、トルイレンジアミン、1,6−ジアミノヘキサンおよびイソホロンジアミンに適用する。本発明において、処理能力とは、反応器において、1時間あたりに処理能力分のアミンが転化されることを意味すると理解される。
【0048】
選択した冷却のタイプとは無関係に、少なくとも1つの冷却領域の温度は好ましくは、一方では、イソシアネートに対応する塩化カルバモイルの分解点を超えるように、他方では、過剰ホスゲン、塩化水素および場合により希釈剤として併用された不活性ガスが、可能な限り凝縮せずにまたは溶解せずに凝縮または急冷段階を通過すると同時に、アミン蒸気流および/またはホスゲン流中のイソシアネートおよび場合により希釈剤として併用された溶媒が、可能な限り凝縮するかまたは可能な限り溶媒に溶解するように選択される。気体反応混合物から選択的にイソシアネートを得るためには、クロロベンゼンおよび/またはジクロロベンゼンのような溶媒を80〜200℃、好ましくは80〜180℃の温度で維持すること、或いはイソシアネートまたはイソシアネートとクロロベンゼンおよび/またはジクロロベンゼンとの混合物を上記温度範囲で維持することが特に適している。当業者であれば、所定の温度、圧力および組成についての物理データに基づいて、どの程度の重量割合のイソシアネートが急冷器で凝縮し、どの程度の重量割合のイソシアネートが急冷器を通過して凝縮されないかを容易に予想することができる。同様に、どの程度の重量割合の過剰ホスゲン、塩化水素および場合により希釈剤として使用されてよい不活性ガスが急冷器を通過して凝縮されず、急冷液に溶解するのかを容易に予想することができる。
【0049】
下流のガス洗浄器において、適当な洗浄液を用いて、凝縮または急冷段階を終えた気体混合物から残留イソシアネートを取り出すことが好ましい。
【0050】
次いで、凝縮または急冷段階からの溶液または混合物を蒸留処理することにより、イソシアネートを精製することが好適である。
【0051】
続いて、工程a)から得たHClおよびホスゲンを少なくとも含有する気体流を、工程b)において、HCl含有気体流と、ホスゲン含有液体流とに分離する。
【0052】
HCl/ホスゲン分離(工程b))
本発明によれば、工程a)を終えた、反応由来のHClと未反応過剰ホスゲンとを少なくとも含有する気体混合物を、工程b)のHCl/ホスゲン分離において、本質的にHClを含有する気体流と、ホスゲン含有液体流とに分離する。
【0053】
反応カップリング生成物、HClおよび未反応過剰ホスゲンと一緒に、工程a)から排出され、工程b)の分離に投入される気体混合物は、場合により、不活性ガスおよび/または溶媒および/または反応副生物および/または微量反応生成物を含有することもある。挙げることが可能な不活性ガスの例は、窒素、ヘリウム、アルゴン、ホスゲン製造由来過剰CO、およびCOである。挙げることが可能な反応副生物の例は、ホスゲン製造の副生物、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、モノクロロメタン、COおよびメタンである。
【0054】
工程b)の分離に投入される気体混合物は、気体混合物の重量に基づいて、通常1〜50重量%のHCl、好ましくは3〜40重量%のHCl、特に好ましくは5〜35重量%のHCl、非常に好ましくは7.5〜30重量%のHClを含有する。この気体混合物は、気体混合物の重量に基づいて、通常5〜90重量%のホスゲン、好ましくは15〜85重量%のホスゲン、特に好ましくは25〜80重量%のホスゲン、非常に好ましくは40〜75重量%のホスゲンを含有する。気体混合物の溶媒含量は、気体混合物の重量に基づいて、通常0.01〜60重量%、好ましくは0.05〜40重量%、特に好ましくは0.1〜10重量%である。溶媒は、蒸気状または液体状のいずれであってもよい。気体混合物はまた、気体混合物の重量に基づいて、通常合計して0〜10重量%、好ましくは0.0001〜8重量%、特に好ましくは0.001〜5重量%の不活性ガスを含有することができる。気体混合物は、気体混合物の重量に基づいて、通常0〜10重量%、好ましくは0.001〜7.5重量%、特に好ましくは0.05〜5重量%の反応生成物を含有することができる。
【0055】
本明細書に記載されている組成の全ては、対応箇所に特に定義されていない限り、特定の流れ全体の重量に対する、特定の成分の重量に基づく。
【0056】
工程a)を終えた、反応由来のHClおよび未反応過剰ホスゲンを含有する気体流の、本発明に従った分離は、様々な態様をとることができる。1つの適当な方法は、部分凝縮と、それに続く洗浄である。完全または部分的な凝縮と、それに続くストリッピングも適している。この工程段階の別の適当な態様は、溶媒への吸収である。特に、急冷にも使用される溶媒に、吸収させる。急冷に使用する溶媒と同じ溶媒を使用することが、とりわけ好ましい。
【0057】
1つの好ましい態様では、吸収によって工程b)を実施する。1つの特に好ましい態様では、少なくとも1つの吸収段階は等温で実施し、少なくとも1つの吸収段階は断熱的に実施する、一連の少なくとも2つの吸収段階で吸収を実施する。第一吸収工程を等温で実施し、続く吸収段階を断熱的に実施することが特に好ましい。好ましい態様では、反応に使用した溶媒に吸収させる。1つの特に好ましい態様では、断熱吸収工程および等温吸収工程のいずれにおいても、反応に使用した溶媒と同じ溶媒を使用する。別の好ましい態様では、熱交換器を用いて冷却することにより微量の残留ホスゲンおよび溶媒を凝縮させて、最後の吸収工程を終えたガスを更に精製する。1つの好ましい態様では、等温吸収および続く断熱吸収を1つの装置内で実施する。同じ装置を、吸収工程を終えた気体流の冷却に使用することが特に好ましい。これは、フランジの数が減り、ホスゲンを取り扱う際の安全性が高まるという利点を有する。1つの装置におけるコンパクトな設計により、接続管におけるエネルギー損失を最少にすることができるので、エネルギーを節約するという利点も有する。
【0058】
1つの特に好ましい態様では、工程a)を終えた気体混合物を、吸収工程への投入前に部分的に凝縮して、液体流および気体流を得る。この凝縮を、液体流がホスゲン、任意に溶媒および少量溶解HClを含有し、気相流がHCl、任意にホスゲンおよび不活性ガスを含有するよう実施することが好ましい。部分凝縮で得た気体流を、吸収段階に供給する。凝縮段階は、好ましくは−40〜0℃の温度、特に好ましくは−20〜0℃の温度で実施する。管型熱交換器、特に縦型管型熱交換器で凝縮を実施することが好ましい。装置の頂部から底部に向かって流れを流通させることが特に好適である。凝縮作用を改善するために、場合により溶媒を添加することもできる。溶媒温度は、好ましくは10℃未満、特に好ましくは0℃未満である。溶媒はホスゲンを含有していても含有していなくてもよい。
【0059】
別の特に好ましい態様では、凝縮段階からの蒸気を、続いて、反応に使用した溶媒に向流で流通させ、それによって、場合によりHClおよび/または不活性ガスおよび/または反応副生物の微量を伴うことがあるホスゲンを、溶媒に吸収させる。底部から頂部に向けて気体が吸収段階を上昇し、頂部から底部に向けて重力により溶媒が吸収段階を下降することが好ましい。1つの特に好ましい態様では、凝縮段階で得た液体流を、吸収段階から流出した液体流と装置底部で混合する。
【0060】
別の好ましい態様では、断熱吸収工程のために、−40〜0℃、好ましくは−20〜−10℃の温度で溶媒を使用する。更に好適には、この溶媒は、1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、特に好ましくは250ppm未満のホスゲンを含有する。1つの特に好ましい態様では、断熱吸収工程からの既にホスゲンを含有する溶媒を等温吸収工程に使用する。しかしながら、別のホスゲン含有溶媒流(例えば、ホスゲン化プラントの蒸留段階で得た溶媒流)を付加的にまたはもっぱら用いて等温吸収工程を実施することも考えられる。1つの好ましい態様では、断熱温度上昇は0.1〜20℃、特に2〜5℃である。
【0061】
吸収工程に導入する溶媒量は、工程段階a)に導入する気体混合物重量の0.1〜5倍、好ましくは0.15〜3倍である。場合により工程パラメーター(例えばHCl/ホスゲン分離における圧力および温度)の調整と組み合わせた、導入量、温度および使用する溶媒組成の選択は、工程b)の吸収段階から流出する気体流の特性および工程b)を終えたホスゲン含有液体流の組成に影響を及ぼすことができる。
【0062】
等温吸収工程は、管型熱交換器、特に縦型管型熱交換器で実施することが好ましい。それによって、洗浄液への吸収による放出熱は、発生すると直ちに熱交換器表面に直接移動し、放散される。好適には、装置をジャケット側で冷却し、冷却媒体を−40〜0℃、特に好ましくは−25〜−10℃の温度で導入する。管の数は広範に変化することができ、管を製造する技術能力によってしか制限されない。1〜10m、好ましくは3〜8mの長さの管を100〜6000本有する装置が考えられる。管径は10〜200mmの間で変化することができるが、20〜100mmの範囲が好ましい。接触面積を大きくするため、場合により、完全にまたは部分的に充填材で管を満たしてもよい。種々の適当な充填材または充填材系が当業者に知られている。
【0063】
等温吸収工程を終えた気体流は好ましくは、未吸収の残留ホスゲンと共に、HClおよび不活性ガスを本質的に含有する。気体の温度は通常−20℃〜10℃、好ましくは−20℃〜0℃である。等温吸収工程を終えた気体流は、各々の場合に気体混合物の重量に基づいて、通常5重量%まで、好ましくは4重量%まで、特に好ましくは3重量%までのホスゲンを含有する。等温吸収工程を終えた気体流は、各々の場合に気体混合物の重量に基づいて、通常0.05重量%超、好ましくは0.1重量%超、特に0.15重量%超のホスゲンを含有する。
【0064】
好ましくは等温吸収工程に続く断熱吸収工程は、塔で実施することが好ましく、塔は、板、充填物(パッキング)または充填材を有してよい。断熱吸収工程は、1〜50の理論段数であることが好ましく、2〜40の理論段数であることが特に好ましい。吸収塔は、2〜25m、好ましくは3〜18mの長さを有することができる。塔径は塔を製造する技術能力によってしか制限されないが、通常250〜5000mmの範囲、好ましくは500〜4000mmの範囲である。
【0065】
1つの好ましい態様では、等温吸収段階および断熱吸収段階にわたる全圧力損失は、250mbar未満、好ましくは200mbar未満、特に好ましくは150mbar未満である。このことは、等温吸収段階に投入される気体の圧力が、断熱吸収段階に投入される気体の圧力より250mbarを超えて、好ましくは200mbarを超えて、特に好ましくは150mbarを超えて高くならないことを意味する。
【0066】
吸収段階および凝縮段階から流出する液体流は、好ましくは、極めて少量の溶解HClおよび/または溶解不活性ガスしか含有せず、更なる精製なしに本発明の第二工程段階(すなわちホスゲンガス製造)に送ることができる。好適には、凝縮段階および吸収段階から流出した流れを混合し、工程c)におけるホスゲンガス製造の第二工程段階に一般的な流れとして送る。
【0067】
別の好ましい態様では、工程b)を塔内での吸収によって実施し、吸収熱を外部冷却器によって放散させる。この特定の態様では、工程a)を終えた気体混合物を、まず部分的に凝縮する。残留気体流を吸収塔底部に導入し、溶媒を用いて向流で洗浄し、吸収熱を外部熱交換器によって放散させる。これは、好ましくは、吸収塔において幾つかの点で全てまたは一部の、好ましくは全ての液体を取り出し、その液体を外部冷却器によって冷却することによって実施でき、液体は好ましくは5℃超、特に10℃超冷却する。次いで、各取り出し点より下方の吸収塔に液体をフィードバックすることが好ましい。吸収塔は通常1〜50の理論段数、好ましくは1〜30の理論段数を有する。吸収塔は、充填物、充填材または板、好ましくは充填物および板を有することができる。塔内での吸収は、液体取り出し点の間で断熱的に実施されることが好ましく、断熱温度上昇は、通常0.1〜20℃、好ましくは0.1〜10℃の範囲である。
【0068】
工程b)を実施する別の可能な態様は、ホスゲンの部分的または完全凝縮、次いで、ホスゲン塔底生成物から溶解HClを除去するための、塔内での蒸留またはストリッピング、続いて、凝縮後の気体流に残留するホスゲンを吸収させるための、第一工程で得たHCl塔頂生成物の溶媒での洗浄である。
【0069】
この態様では、工程a)を終えた気体混合物は、まず、場合より異なった温度レベルであってよい1つ以上の装置において完全にまたは部分的に凝縮される。部分的または完全凝縮は、−40〜0℃、好ましくは−40〜−10℃の温度で実施する。これにより、溶解不活性ガスおよび溶解HClと一緒にホスゲンおよび/または溶媒および/または反応副生物を含有する液体流と、HClおよび未凝縮ホスゲンを本質的に含有する気体流とが生じる。
【0070】
液体流は過剰量の溶解HClおよび/または溶解不活性ガスをなお含有するので、溶解HClおよび/または溶解不活性ガスの割合を少なくするために、続く工程段階における装置を不必要に大きくすること、ストリッピングまたは蒸留が必要とされる。また、凝縮で得たHClガス流は過剰量の未凝縮ホスゲンをなお含有するので、HClを更に精製する必要があり、この流れを洗浄しなければならない。
【0071】
好ましくは、両方の流れは、一緒にまたは別々に蒸留塔を通過させる。塔は好ましくは濃縮部またはストリッピング部を有する。好適には、濃縮部は1〜20の理論段数を有し、ストリッピング部もまた1〜20の理論段数を有する。蒸留塔は、板、充填物または充填材を有することができる。塔のストリッピング部と濃縮部との間に流れを供給することが好ましい。好適には、溶解HClおよび/または溶解不活性ガスを除去するための蒸留は、5〜150℃、好ましくは5〜50℃の塔底温度で実施する。塔頂蒸留温度は、通常−20〜30℃、好ましくは−10〜0℃の範囲である。好適には、蒸留塔内の差圧、すなわち最も低い分離要素と最も高い分離要素との圧力差は、250mbar未満、好ましくは200mbar未満である。
【0072】
蒸留に代わるものとして、例えば窒素を用いて、液体流をストリップすることもできる。
【0073】
蒸留またはストリッピングの塔底生成物として得られた液体流は、少量の溶解したHClおよび/または不活性ガスしか含有せず、工程c)に送ることができる。
【0074】
HClの他に、蒸留またはストリッピング塔から生じた蒸気流は有意な量のホスゲンも含有するので、可能な限り多量のホスゲンを回収するならば、この蒸気流を更に処理することが適当である。1つの可能な態様では、凝縮段階で得た気体流と一緒に、塔からの蒸気流を溶媒で洗浄する。好適には、ホスゲン化反応に使用した溶媒と同じ溶媒を用いて洗浄する。これは、好ましくは、気体と溶媒とを向流で接触させることによって実施し、特に好ましくは、塔頂から塔底に向けて重力により溶媒を流通させながら、塔底から塔頂に向けて気体を流通させる。洗浄は、通常−40〜10℃、好ましくは−15〜0℃の塔頂温度で、好適には断熱的に実施し、断熱による温度上昇は、通常0.1〜20℃、好ましくは0.1〜10℃の範囲である。別の態様として、外部冷却器による(例えば、1以上の点で液体の全てまたは一部を取り出して、それを冷却した後に再循環させることによる)吸収熱の放散も可能である。洗浄器は、充填物、充填材または板を有することもできる。洗浄器は、通常1〜25の理論段数を有する。溶媒およびホスゲンを本質的に含有する液体流は、洗浄器底部で得られ、HClおよび/または微量ホスゲンおよび/または微量溶媒を本質的に含有する気体流は、洗浄器頂部で得られる。気体流の純度を更に高めるために、熱交換器において更に流れを冷却することにより、微量のホスゲンおよび/または溶媒を凝縮することが有利である。
【0075】
この態様では、洗浄器から得た液体流を蒸留塔底部から得た液体流と混合し、混合流として工程c)に送ることが好ましい。
【0076】
工程b)を実施するために記載される別の方法は全て、気体流および液体流を生じる。HCl含有気体流は、十分高純度であり、一般に、付加的な精製なしに更なる処理を実施することができる。
【0077】
工程b)を終えたHCl含有気体流は、HClおよび任意に微量のホスゲンを本質的に含有する。HClの他に、流れは、微量の反応副生物と一緒に、不活性ガスおよび/または溶媒を含有する場合もある。流れは、HCl含有気体流の重量に基づいて、80〜100重量%、好ましくは90〜100重量%、特に好ましくは95〜100重量%のHClを含有する。この気体流は、HCl含有気体流の重量に基づいて、最大0.8重量%、好ましくは最大0.4重量%、特に好ましくは最大0.2重量%のホスゲンを含有する。エネルギー最適化のため、工程b)を終えた気体流中に、HCl含有気体流の重量に基づいて、少なくとも1重量ppmのホスゲン、好ましくは少なくとも5重量ppmのホスゲンが存在することが好ましい場合もある。この流れは、HCl含有気体流の重量に基づいて、0〜10重量%、好ましくは0.01〜7.5重量%、特に好ましくは0.05〜5重量%の不活性ガス、並びにHCl含有気体流の重量に基づいて、0〜1重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%、特に好ましくは0.05〜0.2重量%の溶媒を含有することもできる。反応副生物の可能な含量は、HCl含有気体流の重量に基づいて、通常最大1重量%、好ましくは最大0.5重量%、特に好ましくは0.25重量%である。
【0078】
工程b)から流出する気体流は、通常1〜4bara、好ましくは1.01〜3bara、特に好ましくは1.02〜2baraの圧力下、通常−40〜30℃、好ましくは−20〜20℃、特に好ましくは−15〜10℃の温度で存在する。工程段階からの出口とは、この工程段階に属する最終装置の気体排気口を意味すると理解される。
【0079】
ホスゲンの他に、工程b)を終えたホスゲン含有液体流は通常、任意に溶解反応副生物と一緒に、溶媒および/または溶解HClおよび/または溶解不活性ガスを含有することもできる。この流れは、ホスゲン含有液体流の重量に基づいて、30〜90重量%、好ましくは35〜85重量%、特に好ましくは38〜75重量%、極めて特に好ましくは40〜70重量%のホスゲンを含有する。この流れは、ホスゲン含有液体流の重量に基づいて、10〜70重量%、好ましくは15〜65重量%、特に好ましくは25〜60重量%の溶媒、並びにホスゲン含有液体流の重量に基づいて、0〜5重量%、好ましくは0.1〜3.5重量%、特に好ましくは最大0.5〜2.5重量%の溶解HClを含有することもできる。この液体流は任意に、ホスゲン含有液体流の重量に基づいて、最大1重量%、好ましくは最大0.5重量%、特に好ましくは0.1重量%の総量で、溶解不活性ガスを含有することもある。この流れは、ホスゲン含有液体流の重量に基づいて、1重量ppm、好ましくは10重量ppmの総量で、溶解不活性ガスを含有する。存在する反応副生物の含量は、ホスゲン含有液体流の重量に基づいて、通常0〜5重量%、好ましくは0.001〜3重量%、特に好ましくは0.05〜2.5重量%である。
【0080】
第一工程段階から流出するホスゲン含有液体流は、通常−40〜20℃、好ましくは−25〜15℃、特に好ましくは−20〜10℃、極めて特に好ましくは−15〜8℃の温度で存在する。工程段階からの流出時、この流れは、通常1〜4bara、好ましくは1.01〜3bara、特に好ましくは1.02〜2baraの圧力下で存在する。ホスゲン含有液体流についての工程段階からの出口とは、この工程段階に属する装置の液体排出口を意味すると理解され、この排出口で測定される圧力は、装置における液柱の静水圧に対して補正される。
【0081】
本発明における、工程b)で生じたホスゲン含有液体流中の、溶解HClおよび/または溶解不活性ガス含量の低さは、工程c)のホスゲンガス製造において、エネルギーの面で有利な効果をもたらす。なぜなら、工程c)で生じる気体の総量が結果的により少なくなり、工程c)におけるエネルギー消費量がより少なくなるからでさる。更に、本発明における、工程b)で生じたホスゲン含有液体流中の、溶解HClおよび/または溶解不活性ガス含量の低さは、ホスゲンガス流路に沿った下流の装置において、許容できない不活性ガス量をもたらさない。
【0082】
ホスゲンガス製造(工程c))
本発明によれば、工程b)のHCl/ホスゲン分離から得たホスゲン含有液体流は、工程c)のホスゲンガス製造に送られる。本発明によれば、工程c)のホスゲンガス製造を終えたガスは、工程b)のHCl/ホスゲン分離を終えたホスゲン含有液体流より高い圧力下にあるので、工程b)から工程c)に送られる液体流は、圧力差を克服しなければならない。これは、異なった高さでうまく装置を配置することにより重力によって、または気体圧力を加えることによって実施することができる。ポンプを用いて実施することが好ましい。液体流は、工程b)から工程c)に連続的にまたは回分式で、好ましくは連続的に移動することができる。
【0083】
本発明によれば、工程c)のホスゲンガス製造は、工程b)から得たホスゲン含有液体流が工程c)において気体流と液体流とに分離されるように実施する。これは、好ましくは、蒸留または部分蒸発によって実施することができる。
【0084】
1つの好ましい態様では、工程c)のホスゲンガス製造は、工程b)からのホスゲン含有液体流がホスゲンおよび不活性ガスを本質的に含有する気体流と液体流とに分離されるように実施する。本発明によれば、この工程段階(工程c))における圧力は、HCl/ホスゲン分離(工程b))で得た液体流の圧力より高い。
【0085】
1つの好ましい態様では、工程c)のホスゲンガス製造は、1〜80の理論段数、好ましくは2〜45の理論段数を有する蒸留塔で実施する。塔は、ストリッピング部および/または濃縮部を有することができるが、好ましくは両方を有する。好適には、ストリッピング部は、1〜40の理論段数、特に好ましくは1〜20の理論段数を有し、濃縮部は、1〜40の理論段数、特に好ましくは1〜20の理論段数を有する。蒸留塔は、板、充填物または充填材を有することができるが、板または充填物を有することが好ましい。適当な板または充填物は当業者に知られており、例として、金属薄板または構造化織布充填物、またはバブルキャッップ、篩板または弁板を挙げることができるが、それらに限定されない。
【0086】
塔は、通常100〜250℃、好ましくは120〜230℃、特に好ましくは140〜220℃の塔底温度で操作する。
【0087】
蒸留塔内の差圧は、通常400mbar未満、好ましくは300mbar未満、特に200mbar未満である。本発明において差圧とは、塔頂と塔底の圧力差を意味すると理解される。
【0088】
1つの好ましい態様では、塔は塔頂冷却器を備えており、塔頂冷却器が塔内に挿入されていることが特に好ましい。塔頂冷却器は、通常−40〜20℃、好ましくは−30〜10℃、特に好ましくは−25〜0℃の冷却媒体入口温度で操作する。1つの特に好ましい態様では、塔頂冷却器を横断する気体の差圧は150mbar未満、特に好ましくは100mbar未満である。塔頂冷却器によって生じた凝縮物の全てまたは一部は、塔に再循環させるおよび/または取り出すことができ、凝縮物の全てを塔に再循環させることが好ましい。
【0089】
塔底でのエネルギーは、あらゆる蒸発器により供給することができ、その例は、自然循環蒸発器、上昇膜式蒸発器および流下膜式蒸発器である。流下膜式蒸発器が特に好ましい。
【0090】
1つの好ましい態様では、工程b)から得た液体流を、好ましくは塔の濃縮部とストリッピング部の間の、塔中間部に供給する。
【0091】
1つの特に好ましい態様では、塔は付加的に塔頂供給部を有し、この供給部が濃縮部より上方に位置することが好ましい。1つの特に好ましい態様では、これは液体供給部である。1つのとりわけ好ましい態様では、この供給部を介して液体ホスゲンを導入する。
【0092】
場合により塔頂に供給されてよい液体ホスゲンは、通常−30〜10℃、好ましくは−20〜0℃の温度で存在する。この流れは通常、ホスゲンを本質的に含有する。すなわち、ホスゲン含量は、この流れの重量に基づいて、95〜100重量%、好ましくは98〜100重量%である。塔頂への液体ホスゲンの供給によって、エネルギー必要量を減らすことができる。
【0093】
別の態様では、塔は付加的に気体流供給部を有することができる。この供給部は、好ましくは、濃縮部の下方または上方或いはストリッピング部の下方に位置する。
【0094】
別の可能な態様では、工程c)のホスゲンガス製造は、工程b)からのホスゲン含有液体流が、部分蒸発により、ホスゲンおよび任意の不活性ガス含有気体流と液体流とに分離されるように実施する。本発明によれば、工程c)のホスゲンガス製造における圧力は、HCl/ホスゲン分離(工程b))で得た液体流の圧力より高い。
【0095】
この目的のために、工程b)から得た液体流を、外部加熱媒体により加熱されている蒸発器に供給する。蒸発器の底部温度は、30〜250℃、好ましくは70〜230℃、特に好ましくは100〜220℃の範囲である。
【0096】
工程b)からの液体流に加えて、別の液体ホスゲン流を蒸発器に導入することもできる。この別の液体ホスゲン流は、通常−30〜10℃、好ましくは−20〜0℃の温度で存在する。この流れは通常、ホスゲンを本質的に含有する。すなわち、ホスゲン含量は、この流れの重量に基づいて、95〜100重量%、好ましくは98〜100重量%である。
【0097】
液体は蒸発器において部分的に蒸発される。すなわち、蒸発器から液体が不連続的に、または好ましくは連続的に排出される。
【0098】
様々な態様において、例えば窒素のような不活性ガスを吹き込むことによって、ホスゲンガス製造を促進させることも可能である。
【0099】
工程c)のホスゲンガス製造で得た気体流は、ホスゲンを本質的に含有する。ホスゲンの他に、この流れは、不活性ガスおよび/または溶媒および/または反応副生物および/またはHClを含有することもできる。流れは、気体流の重量に基づいて、通常80〜100重量%、好ましくは85〜99.9重量%、特に好ましくは90〜99.8重量%、極めて特に好ましくは92〜99.7重量%のホスゲンを含有する。この流れは、気体流の重量に基づいて、20重量%までの蒸気溶媒、好ましくは15重量%まで、特に好ましくは5重量%〜10重量%の溶媒を含有することもできる。エネルギー供給量を最適化するために、この気体流に一定量の溶媒を含有させることが適当であり、その量は、気体流の重量に基づいて、通常少なくとも5重量ppm、好ましくは少なくとも10重量ppm、特に好ましくは少なくとも25重量ppmである。この流れは、気体流の重量に基づいて、通常最大1重量%、好ましくは最大0.5重量%、特に好ましくは0.1重量%の総量で、不活性ガスを含有することができる。流れは、気体流の重量に基づいて、最大5重量%、好ましくは最大4.0重量%、特に好ましくは最大3.5重量%のHClを含有することもできる。存在する反応副生物の含量は、気体流の重量に基づいて、通常5重量%まで、好ましくは4重量%まで、特に好ましくは2.5重量%までである。
【0100】
ホスゲンガス製造で得たホスゲン含有気体流は、この工程段階を終えた時点で、通常−10〜100℃、好ましくは0〜80℃、特に好ましくは5〜70℃の温度で存在する。得られた気体流の圧力は、この工程段階を終えた時点で、通常1.05〜6bara、好ましくは1.3〜6bara、特に好ましくは1.6〜6barである。この工程段階からの出口とは、工程c)を実施する装置の気体排出部を意味すると理解される。
【0101】
本発明によれば、工程c)で得たホスゲン含有気体流の圧力は通常、工程b)で得たホスゲン含有液体流の圧力より高く、工程c)を実施する装置の出口におけるホスゲン含有気体流の圧力と、工程b)を実施する装置の出口における工程b)で得たホスゲン含有液体流の圧力とに関する所要の圧力差は、装置における液柱の静水圧に対して補正される。通常この圧力差は、好ましくは少なくとも50mbar、特に好ましくは少なくとも100mbar、とりわけ好ましくは少なくとも250mbarであり、一般に100barを超えない。圧力差は好ましくは、工程b)で得たホスゲン含有液体流のためのポンプを用いて適用することができ、このポンプは好ましくは、工程b)およびc)を実施する装置の間に位置する。
【0102】
更に、工程c)で得たホスゲン含有気体流の圧力は、好ましくは常に、工程b)で得たHCl含有気体流の圧力より高く、工程c)からの気体流の出口と工程b)からのHCl含有気体流の出口との圧力差は、好ましくは少なくとも50mbar、好適には少なくとも100mbar、特に好ましくは少なくとも250mbarである。工程b)と工程c)との圧力差は、一般に100barを超えない。
【0103】
従って、工程d)では、この加圧の結果として、工程c)のホスゲンガス製造を終えたホスゲン含有気体流を、好ましくは、気体流路において昇圧装置を用いずに、工程a)の反応に送ることができる。気体流路における昇圧装置を省くことにより、安全規制の面で困難な気密シールを回転部に適用する必要がなくなるので、方法の安全性が向上する。同様に、工程a)の反応で生じた気体流の全てまたは一部を、好ましくは、昇圧装置を用いずに、工程b)のHCl/ホスゲン分離に送ることができる。このように、気体側について、ホスゲン循環(工程a)〜d))のための昇圧装置の使用を完全に省くことが特に好ましい。
【0104】
工程c)のホスゲンガス製造で得た液体流は、溶媒を本質的に含有する。溶媒に加えて、この流れは、反応副生物を含有することもできる。流れは一定量のホスゲンを更に含有することもできる。この液体流は、液体流の重量に基づいて、通常80〜100重量%、好ましくは85〜99.9重量%、特に好ましくは90〜99.8重量%、極めて特に好ましくは95〜99.7重量%の溶媒を含有する。
【0105】
この流れは、液体流の重量に基づいて、20重量%まで、好ましくは15重量%まで、特に好ましくは10重量%まで、極めて特に好ましくは7重量%までの溶解ホスゲンを含有することもできる。エネルギー供給量を最適化するために、この液体流に一定量のホスゲンを含有させることが適当であり、その量は、液体流の重量に基づいて、通常少なくとも1重量ppm、好ましくは少なくとも3重量ppm、特に好ましくは少なくとも8重量ppmである。この流れは、液体流の重量に基づいて、通常最大0.5重量%、好ましくは最大0.1重量%、特に好ましくは0.05重量%の総量で、溶解不活性ガスを含有する。流れは、液体流の重量に基づいて、最大1重量%、好ましくは最大0.1重量%、特に好ましくは最大0.05重量%のHClを含有することもできる。存在する反応副生物の含量は、液体流の重量に基づいて、通常5重量%まで、好ましくは4重量%まで、特に好ましくは2.5重量%までである。
【0106】
本発明の工程段階のエネルギー消費量を最適化するために、場合により、工程b)のHCl/ホスゲン分離で得たホスゲン含有液体流を、工程c)のホスゲンガス製造に直接(すなわち更なる工程技術上の変更を伴わずに)送るか、または間接的に(すなわち更なる工程技術上の変更の後に)送ることが適切である。
【0107】
工程技術上の変更とは、本明細書において、組成、圧力または温度の変更を意味すると理解される。
【0108】
好適には、工程b)から得た液体流を、工程c)のホスゲンガス製造に間接的に送る。特に好適には、液体流の温度を変更し、好ましくは上昇させる。工程b)からの出口と工程c)への入口の間の温度上昇は、通常0.5〜220℃、好ましくは1〜200℃、特に好ましくは5〜175℃である。
【0109】
特に好ましくは、温度は、プラントにおける少なくとも1種の別の液状物質流との熱交換によって上昇させる。この熱交換は、好ましくは管型熱交換器または板型熱交換器のような熱交換器で、好適には管型熱交換器で実施する。
【0110】
装置の費用、すなわち投資コストを最少にするために、工程技術における上記変更を流れに適用する装置の総数を制限することが適当である。一般に、工程技術の変更は、一連の15個以下の装置、好ましくは一連の10個以下の装置、特に好ましくは一連の8個以下の装置において適用される。この制限により、接続管およびフランジの数が減り、その結果、漏出の危険性が減り、従って、方法の安全性が高まる。
【0111】
本発明の工程段階のエネルギー消費量を最適化するために、場合により、工程c)で得た液体流について、工程全体でそれを更に使用する前に、工程技術を変更することが適当である。
【0112】
この流れの全てまたは一部は場合により、工程b)のHCl/ホスゲン分離において溶媒として使用することができる。これは、工程b)で得た気体流と一緒に低沸点反応生成物を工程から除去するのに特に有利である。
【0113】
本発明の方法により、高いホスゲン回収率を達成することができる。ホスゲン回収率とは、反応器を離れ、反応に由来するHClおよび未反応過剰ホスゲンを少なくとも含有する気体混合物から本発明の工程b)によって分離されて、工程c)で得られる気体流を介して工程a)の反応に再循環されるホスゲンの割合を意味すると理解される。
【0114】
ホスゲン回収率は、工程段階b)に投入される気体流中のホスゲン量および工程段階c)から排出される気体流中のホスゲン量の割合(単位:パーセント)を求め、供給される新しいホスゲン量を減ずることによって算出される。
【0115】
一般に、ホスゲン回収率は、90%超、特に93%超、好ましくは95%超、特に好ましくは98%超である。
【0116】
本発明の方法は、ホスゲンガス空間全体で気体ホスゲン用昇圧装置の使用を省くという有利な可能性をもたらす。これらの装置の好ましい除外は、製造プラントの安全性を高める。なぜなら、そのような装置はしばしば軸封を有し、軸封は、気体ホスゲンを使用する場合、技術の面で高価であり安全規制の面で問題を含むからである。更に、昇圧装置の使用はしばしばエネルギーを大量に消費するので、プラントのエネルギー消費は昇圧装置の除外によって改善される。
【0117】
本明細書において、昇圧装置とは、気体流の圧力を高める工業用装置を意味すると理解される。これは、装置に投入される気体の圧力が、装置から排出される気体の圧力より低いことを意味する。考えられる昇圧装置の例は、コンプレッサー、凝縮器またはジェットである。
【0118】
本発明では、ホスゲンガス空間とは、有意な量のホスゲンが気体状で存在するガス空間を意味すると理解される。有意な量のホスゲンとは、ガス空間のホスゲン含量が1重量%超であることを意味すると理解される。特に、ホスゲンガス空間全体とは、ホスゲンガス製造(工程c))からホスゲン再循環(工程d))、ホスゲン化(工程a))およびHCl/ホスゲン分離(工程b))の工程部門をはじめホスゲン製造の領域を意味すると理解される。
【0119】
ホスゲン再循環(工程d))
本発明の方法において工程c)から得た気体流の全てまたは一部を、工程a)の反応に再循環させる。好ましくは、この流れの全てを、工程a)の反応に再循環させる。特に、工程c)で得た気体流の一部を、HCl/ホスゲン分離(工程b))に再循環させる必要はない。
【0120】
工程c)で得た気体流を、調節しながらまたは調節せずに反応器に分配することが考えられる。調節しながら分配することが好ましい。ホスゲン製造で得た気体流と場合により組み合わせてよい工程c)から得た気体流を導入する反応器の個数は、少なくとも1個でなければならない。しかしながら、多数の反応器を考えることもでき、その個数は好ましくは20未満である。2個以上の反応器を使用する場合、1個以上の反応器に新しいホスゲンをもっぱら供給し、残りの反応器に、工程c)のホスゲンガス製造から得た気体流をもっぱら供給することも考えられる。
【0121】
工程a)の複数の反応器から得られた気体流を、工程b)のHCl/ホスゲン分離に送る前に混合することもまた可能である。好ましくは、工程a)を終えた各気体流を含有する20個までの反応器は、工程b)の通常のHCl/ホスゲン分離と関連する。この目的のために、気体流を、一緒に工程段階b)に送り、独立してまたは部分的に混合することができる。工程段階a)で調製されたイソシアネートは、同一または異なっていてよい。
【0122】
ホスゲン化に必要な新しいホスゲン、すなわち塩素と一酸化炭素との反応により普通に調製されたホスゲンは、様々な方法で、本発明の方法に導入することができる。本明細書では、新しいホスゲンとは、本発明の方法から直接生じないホスゲンを意味すると理解される。新しいホスゲンは、通常は塩素および一酸化炭素からの、ホスゲン合成の後に、ホスゲン合成で調製されたホスゲンの転化率の5%超のホスゲン転化を伴う反応段階を経ないホスゲンであることが好ましい。
【0123】
1つの態様では、気体状の新たなホスゲンを使用することができる。この気体ホスゲンは、工程c)のホスゲンガス製造から得た気体流と混合し、工程a)のホスゲン化反応器に通常の流れとして送ることができる。これは、先行技術、例えばEP−A−2 028 179から知られている。工程c)のホスゲン製造で得た気体流と場合により組み合わせてよい新しい気体ホスゲンは、一緒にまたは独立して、工程a)のホスゲン化反応のための反応器に送ることができる。
【0124】
反応器を離れた流れと一緒に、ホスゲン製造で得た新しい気体ホスゲン流を、工程b)のHCl/ホスゲン分離に送ることもできる。EP−A−1 849 767の教示によれば、これは、HClから不純物をストリッピングして特に純粋なHCl流を得る場合に有利である。
【0125】
新しい気体ホスゲンを、工程c)のホスゲンガス製造に送ることもまた可能である。これは、気体の導入がストリッピング効果の故にこの工程段階における液体流の蒸発を促進するので、有利である。
【0126】
新しいホスゲンを本発明の方法に気体状で導入するならば、ホスゲン製造における圧力は、工程c)で得た気体流の圧力より高くなる。通常、ホスゲン製造における圧力は、工程c)における圧力より少なくとも50mbar超、好ましくは少なくとも80mbar超、特に好ましくは少なくとも100mbar超高い。ホスゲン製造と工程c)で得た気体流との圧力差は、通常100bar以下である。
【0127】
別の態様では、まず新しいホスゲンを液化し、それによって可能な限り多量の不活性ガスおよびホスゲン調製の副生物を除去することにより新しいホスゲンを精製することもできる。この場合、得られる液体ホスゲンを、工程b)のHCl/ホスゲン分離に送ることができる。しかしながら、この液体ホスゲンを、工程c)のホスゲンガス製造に送ることもできる。このように生成された液体ホスゲンを分離装置で蒸発させて、気体ホスゲン流を得ることも可能である。気体ホスゲン流は、先の段落で記載した可能性に従って、本発明の方法に導入することもできる。
【0128】
新しいホスゲンを最初に液化するならば、ホスゲン製造における圧力は、工程c)における圧力(すなわちホスゲン製造における圧力)とは無関係であり、工程c)における圧力より高いか、等しいかまたは低い。通常は、ホスゲン製造における(新しいホスゲン)圧力は、工程c)における圧力より高い。唯一不可欠な特徴は、液化された新しいホスゲンを本発明の工程に供給することである。これは、異なった高さでうまく装置を配置することにより重力によって、または気体圧力を加えることによって実施することができる。ポンプを用いて実施することが好ましい。液化された新しいホスゲンは、連続的にまたは回分式で、好ましくは連続的に、本発明の方法に移すことができる。
【0129】
好ましくは、記載したようにホスゲン製造と本発明の方法とを関連付けることによって、気体流路において昇圧装置を使用せずに、新しいホスゲンを本発明の方法に供給することができる。気体流路における昇圧装置を省くことにより、安全規制の面で困難な気密シールを回転部に適用する必要がなくなるので、方法の安全性が向上する。
【0130】
本発明によれば、工程c)で得たホスゲン含有気体流の圧力は常に、工程b)で得たホスゲン含有液体流の圧力より高い。更に、工程c)で得た気体の圧力は、好ましくは常に、工程b)で得た気体の圧力より高い。また、工程a)における圧力は、工程c)で得た気体の圧力より低い。更に、工程a)における圧力は、工程b)で得た気体の圧力より高い。従って、工程a)(気相ホスゲン化)、工程b)(HCl/ホスゲン分離)および工程c)(ホスゲンガス製造)からなる方法全体について、工程c)における圧力が最も高く、工程b)における圧力が最も低く、工程a)における圧力は工程c)における圧力とb)における圧力の間であるということになる。この本発明の方法により、ホスゲンガス空間全体で気体ホスゲン用昇圧装置の使用を省くことが可能になり、従って、プラントの安全性を改善することができる。
【0131】
工程c)からの気体流の出口と、工程b)からのHCl含有気体流の出口との間に通常存在する圧力差は、少なくとも50mbar、好ましくは少なくとも100mbar、特に好ましくは少なくとも250mbarであり、この圧力差により、付加的昇圧装置を用いなくても気体がホスゲンガス製造(工程c))から気相ホスゲン化(工程a))を経てHCl/ホスゲン分離(工程b))へと流通することが確実になる。工程c)と工程a)との圧力差が少なくとも20mbarであり、工程a)と工程b)との圧力差が少なくとも20mbarであるならば、工程c)と工程b)との圧力差をどのように分配するかは本発明の必須の特徴ではない。この圧力差により、気体流が、ホスゲンガス空間において昇圧装置の使用を省くことができる程度に十分迅速であることが確実となる。
【実施例】
【0132】
本出願の構成において、ppm単位のデータは重量による(重量ppm)と理解される。mbara単位のデータは、mbar単位の絶対圧力を示す。
【0133】
実施例1(本発明):
下流のイソシアネート凝縮段階を伴う管型反応器において、気体状2,4−トルイレンジアミンおよび2,6−トルイレンジアミン並びに不活性ガスとしての窒素からなる混合物を、ノズル内で混合することによってホスゲン気体流と反応させた。反応器圧力は、1600mbaraであり、反応温度は約450℃であった。2,4−トルイレンジイソシアネートおよび2,6−トルイレンジイソシアネート含有液体流およびホスゲンおよびHCl含有気体流を得た。イソシアネート含有流を蒸留によって精製し、純トルイレンジイソシアネートを得た。
【0134】
HClおよびホスゲン含有気体流を、三段階の手順によりHCl気体流とホスゲン含有液体流とに分離した。まず、流れを部分的に凝縮させ、次いで残留ガスを等温吸収工程に、続いて断熱吸収工程に流通させた。−11℃の温度で冷溶媒を断熱吸収工程の頂部に供給し、気体と向流で吸収工程に流通させた。50重量ppm未満のホスゲン含量を有するHClガスを、吸収塔頂部から取り出し、約1400mbaraの圧力下、吸収塔底部で、液体状で、ODBおよびホスゲンからなる溶液を得た。吸収塔頂部でのHClガスの圧力は、1300mbaraであった。
【0135】
得られたホスゲン溶液を、脱着塔の形態をとるホスゲンガス製造にポンプ輸送した。塔のストリッピング部および濃縮部の間に、流入を配置した。94.4重量%のホスゲンおよび4.4重量%のHClを含有する気体流を、1800mbaraの圧力下、塔頂部から取り出した。この流れを、ホスゲン製造からのホスゲン気体流(新しいホスゲン)と気体状で混合し、管型反応器のノズルに送った。
【0136】
ホスゲンガス空間全体において、昇圧装置を使用しなかった。ホスゲン回収率は98.3%であった。
【0137】
実施例2(本発明):
気相ホスゲン化によるジイソシアネート製造のための2ラインプラントの第一ホスゲン化ラインでは、下流のイソシアネート凝縮段階を伴う管型反応器において、気体イソホロンジアミンおよび不活性ガスとしての窒素からなる混合物を、ノズル内で混合することによって、ホスゲン製造から直接導入されたホスゲン気体流と反応させた。反応器圧力は、1300mbaraであり、反応温度は約400℃であった。溶媒の添加を伴ってまたは伴わずに、熱の除去によって反応混合物をかなり冷却し、冷却ゾーンからの出口でイソホロンジイソシアネートを本質的に含有する液相と、過剰ホスゲンおよびHCl副生物を本質的に含有するイソシアネート不含有気相とを得た。イソシアネート含有流を蒸留によって精製し、純イソホロンジイソシアネートを得た。
【0138】
気相ホスゲン化によるジイソシアネート製造のための2ラインプラントの第二ホスゲン化ラインでは、下流のイソシアネート凝縮段階を伴う管型反応器において、気体1,6−ジアミノヘキサンおよび不活性ガスとしての窒素からなる混合物を、ノズル内で混合することによって、ホスゲン製造からのホスゲン気体流(新しいホスゲン)と脱着塔からのホスゲン気体流との混合物からなるホスゲン気体流と反応させた。反応器圧力は、1300mbaraであり、反応温度は約430℃であった。溶媒の添加を伴ってまたは伴わずに、熱の除去によって反応混合物をかなり冷却し、冷却ゾーンからの出口で1,6−ヘキサンジイソシアネートを本質的に含有する液相と、過剰ホスゲンおよびHCl副生物を本質的に含有するイソシアネート不含有気相とを得た。イソシアネート含有流を蒸留によって精製し、純1,6−ジイソシアナトヘキサンを得た。
【0139】
両方のホスゲン化ラインからのHClおよびホスゲン含有気体流を混合し、三段階の手順によりHCl気体流とホスゲン含有液体流とにまとめて分離した。まず、流れを部分的に凝縮させ、次いで残留ガスを等温吸収工程に、続いて断熱吸収工程に流通させた。−11℃の温度で冷溶媒を断熱吸収工程の頂部に供給し、気体と向流で吸収工程に流通させた。0.5重量%未満のホスゲン含量を有するHClガスを、吸収塔頂部から取り出し、約1150mbaraの圧力下、吸収塔底部で、液体状で、モノクロロベンゼン(MCB)およびホスゲンからなる溶液を得た。吸収塔頂部でのHClガスの圧力は、1080mbaraであった。
【0140】
得られたホスゲン溶液を、脱着塔の形態をとるホスゲンガス製造にポンプ輸送した。塔のストリッピング部および濃縮部の間に、流入を配置した。94.4重量%のホスゲンおよび4.4重量%のHClを含有する気体流を、1400mbaraの圧力下、塔頂部から取り出した。この流れを、ホスゲン製造からのホスゲン気体流(新しいホスゲン)と気体状で混合し、第二ホスゲン化ラインの管型反応器のノズルに送った。
【0141】
ホスゲンガス空間全体において、昇圧装置を使用しなかった。ホスゲン回収率は98.5%であった。
【0142】
実施例3(本発明):
実施例1に対応した管型反応器において、2,4−トルイレンジイソシアネートおよび2,6−トルイレンジイソシアネート含有液体流と、ホスゲンおよびHCl含有気体流とを得た。HClおよびホスゲン含有気体混合物を、実施例1に記載したように分離した。気体排出口で吸収塔を離れるHClガスの圧力は1300mbaraであり、液体排出口で測定され、静水の液柱に起因する圧力を差し引いた装置底部でのホスゲン溶液の圧力は1400mbaraであった。
【0143】
得られたホスゲン溶液を、脱着塔の形態をとるホスゲンガス製造にポンプ輸送した。塔のストリッピング部および濃縮部の間に、流入を配置した。塔の濃縮部上方に、新しい液体ホスゲンを供給した。97.6重量%のホスゲンおよび2.4重量%のHClを含有する気体流を、1900mbaraの圧力下、塔頂部から取り出し、反応に再循環させた。
【0144】
ホスゲンガス空間全体において、昇圧装置を使用しなかった。ホスゲン回収率は99%であった。
【0145】
実施例4(本発明):
実施例1に対応した管型反応器において、2,4−トルイレンジイソシアネートおよび2,6−トルイレンジイソシアネート含有液体流と、ホスゲンおよびHCl含有気体流とを得た。HClおよびホスゲン含有気体混合物を、実施例1に記載したように分離した。気体排出口で吸収塔を離れるHClガスの圧力は1300mbaraであり、液体排出口で測定され、静水の液柱に起因する圧力を差し引いた、装置底部でのホスゲン溶液の圧力は1400mbaraであった。
【0146】
得られたホスゲン溶液を、20の理論段数を有する濃縮部を1つだけ有する脱着塔に導入した。濃縮部の下方に、塔への供給を配置した。2000mbaraの圧力下、塔頂からホスゲンガスを取り出し、反応に再循環させた。約115℃の温度で、6.7重量%のホスゲンを含有するODBを塔底部から取り出した。
【0147】
ホスゲンガス空間全体において、昇圧装置を使用しなかった。ホスゲン回収率は95.6%であった。
【0148】
実施例5(本発明):
実施例1に対応した管型反応器において、2,4−トルイレンジイソシアネートおよび2,6−トルイレンジイソシアネート含有液体流と、ホスゲンおよびHCl含有気体流とを得た。HClおよびホスゲン含有気体混合物を、実施例1に記載したように分離した。気体排出口で吸収塔を離れるHClガスの圧力は1300mbaraであり、液体排出口で測定され、静水の液柱に起因する圧力を差し引いた、装置底部でのホスゲン溶液の圧力は1400mbaraであった。
【0149】
得られたホスゲン溶液を、20の理論段数を有するストリッピング塔の頂部に10℃未満の温度でポンプ輸送した。2000mbaraの圧力下、約0.2重量%の溶媒を含有するホスゲンガスをストリッピング塔頂部から、取り出した。約100重量ppmのホスゲンを含有する溶媒を、ストリッピング塔底部から取り出した。
【0150】
ホスゲンガス空間全体において、昇圧装置を使用しなかった。ホスゲン回収率は99%であった。
【0151】
実施例6(本発明):
下流のイソシアネート凝縮段階を伴う管型反応器において、気体1,6−ジアミノヘキサンおよび不活性ガスとしての窒素からなる混合物を、ノズル内で混合することによって、ホスゲン製造から直接導入されたホスゲン気体流と反応させた。反応器圧力は、1450mbaraであり、反応温度は約450℃であった。溶媒の添加を伴ってまたは伴わずに、熱の除去によって反応混合物をかなり冷却し、冷却ゾーンからの出口で1,6−ヘキサンジイソシアナトヘキサンを本質的に含有する液相と、過剰ホスゲンおよびHCl副生物を本質的に含有するイソシアネート不含有気相とを得た。イソシアネート含有流を蒸留によって精製し、純1,6−ジイソシアナトヘキサンを得た。
【0152】
HClおよびホスゲン含有気体流は、三段階の手順によりHCl気体流とホスゲン含有液体流とに分離した。まず、流れを部分的に凝縮させ、次いで残留ガスを等温吸収工程に、続いて断熱吸収工程に流通させた。−11℃の温度で冷溶媒を断熱吸収工程の頂部に供給し、気体と向流で吸収工程に流通させた。0.5重量%未満のホスゲン含量を有するHClガスを、吸収塔頂部から取り出し、約1250mbaraの圧力下、吸収塔底部で、液体状で、モノクロロベンゼン(MCB)およびホスゲンからなる溶液を得た。吸収塔頂部でのHClガスの圧力は、1200mbaraであった。
【0153】
得られたホスゲン溶液を、脱着塔の形態をとるホスゲンガス製造にポンプ輸送した。塔のストリッピング部および濃縮部の間に、流入を配置した。93.3重量%のホスゲンおよび6.7重量%のHClを含有する気体流を、1800mbaraの圧力下、塔頂部から取り出した。この流れを、ホスゲン製造からのホスゲン気体流(新しいホスゲン)と気体状で混合し、管型反応器のノズルに送った。
【0154】
ホスゲンガス空間全体において、昇圧装置を使用しなかった。ホスゲン回収率は98.5%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中で第一級アミンと化学量論的に過剰のホスゲンとを反応させることによるイソシアネートの製造方法であって、
a)アミンの沸点より高温で、反応器においてアミンをホスゲンと反応させて、イソシアネート含有液体流と、HClおよびホスゲン含有気体流とを得、
b)まず、工程a)で得たHClおよびホスゲン含有気体流を、HCl含有気体流と、ホスゲン含有液体流とに分離し、
c)次いで、工程b)で得たホスゲン含有液体流の少なくとも一部を、ホスゲン含有気体流に転化し、
d)工程c)で得たホスゲン含有気体流を、工程a)の反応に再循環させ、
e)工程c)で得たホスゲン含有気体流の圧力は、工程b)で得たホスゲン含有液体流の圧力より高い
方法。
【請求項2】
工程d)において、工程c)で得たホスゲン含有気体流の再循環を、昇圧装置を使用せずに実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)で得たホスゲン含有液体流の温度を、工程c)に送る前に0.5〜220℃上昇させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程c)で得たホスゲン含有気体流が、気体流の重量に基づいて80〜100重量%のホスゲンを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程b)で得たホスゲン含有液体流が、液体流の重量に基づいて30〜90重量%のホスゲンを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程e)における圧力差が少なくとも50mbarである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程a)で生じたHClおよびホスゲン含有気体流を、昇圧装置を使用せずに工程b)の分離に送る、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程b)で得たホスゲン含有液体流を、工程c)にポンプ輸送する、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2012−532160(P2012−532160A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518792(P2012−518792)
【出願日】平成22年6月26日(2010.6.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003916
【国際公開番号】WO2011/003532
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】