説明

イソシアネートプレポリマー及びポリウレタンエラストマー

【課題】
イソシアネートプレポリマー、及びポリウレタンエラストマーにおいて、機械強度、耐溶剤性等の物性を低下させることなく、高い生分解性を付与する。
【解決手段】
ポリエステルポリオールの原料であるカルボン酸としてコハク酸を用い、アルコール成分としてエチレングリコール及び/又はそのオリゴマーを用いることで、低融点、低粘度且つ生分解性の高いポリエステルポリオールが得られ、それをポリウレタンエラストマーの原料に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアネートプレポリマー及びポリウレタンエラストマーに関する。詳しくは、特定のポリエステルポリオール及びそれを用いたイソシアネートプレポリマーを用いることにより、生分解性、機械的強度、耐溶剤性に優れたポリウレタンエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンエラストマーは、機械的強度、耐摩耗性、低温特性等に優れるとともに、幅広い硬度や弾性が得られることから、防水材、床材、舗装材、接着剤、封止材等の様々な産業機器の構成部材として使用されている。
【0003】
ポリウレタンエラストマーの一般的な製造方法としては、ワンショット法、プレポリマー法等が挙げられる。ワンショット法は、ポリイソシアネート成分(a)、ポリオール成分(b)、架橋剤(d)及び必要に応じてその他助剤を一度に反応させてポリウレタンエラストマーを得る方法である。ワンショット法はこれらの成分を一度に反応させるため、ウレタン化等の高分子化反応時に多量の発熱を伴い、安定した物理特性が得られない欠点がある。プレポリマー法はポリイソシアネート成分(a)、ポリオール成分(b)及び必要に応じてその他助剤を反応させてイソシアネートプレポリマー(c)を製造し、次いで架橋剤(d)及び必要に応じてその他の助剤をさらに反応させてポリウレタンエラストマーを得る方法である。一方、プレポリマー法はイソシアネートプレポリマー(c)の粘度が高いと、成形時に脱泡不良となり、成形作業が困難になるという欠点があるものの、ワンショット法に比べ、安定した物理特性をもったポリウレタンエラストマーが得られるという特徴がある。
【0004】
得られるポリウレタンエラストマーの機械的物性は、ポリオール成分(b)の組成及び構造的特徴に依存する部分が大きい。ポリオール成分(b)としてはエーテル系ではポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、エステル系では1,4−ブタンジオールアジペート、ラクトン系ではポリカプロラクトン等の数平均分子量が500〜5000程度のもの等が汎用的に用いられる。(特開平5−339335)
【0005】
しかしこれらのポリオール成分は融点が20〜60℃程度と高く、常温以下では固体となるために取扱いが困難となり、一方、比較的低粘度のポリオール成分を用いると、例えば、ポリウレタンエラストマーの機械的強度が低下する傾向にあるため、選択しうるポリオール成分には限界があった。
【0006】
また、近年では、環境に対する配慮、取り組みから植物由来の原料や生分解性を有する原料が多く使用されるようになってきており、ポリウレタンエラストマーにおいても、生分解性向上が求められている。
【特許文献1】特開平5−339335
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、機械的強度、耐溶剤性等の物理特性を持ち、且つ、高い生分解性を持ったポリウレタンエラストマー及び、そのためのイソシアネートプレポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的を達成すべく、発明者は鋭意検討した結果、特定の構造的特徴をもつポリエステルポリオールをポリウレタンエラストマーの原料として用いることにより、上記課題を解決できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。即ち、ポリエステルポリオールの原料であるカルボン酸成分としてコハク酸を用い、アルコール成分としてエチレングリコール及び/又はそのオリゴマーを用いることで、低融点、低粘度、且つ、生分解性の高いポリエステルポリオールが得られ、それをポリウレタンエラストマーの原料に用いることにより、機械的強度、耐溶剤性を持ち、且つ、高い生分解性を付与できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下を特徴とする要旨を有するものである。
(1)少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)とを反応して得られるイソシアネートプレポリマー(c)であって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるイソシアネートプレポリマー(c)において、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてエチレングリコール及び/又はそのオリゴマーを用いることを特徴とするイソシアネートプレポリマー(c)。
(2)少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)とを反応して得られるイソシアネートプレポリマー(c)であって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるイソシアネートプレポリマー(c)において、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするイソシアネートプレポリマー(c)。
(3)少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)とを反応して得られるイソシアネートプレポリマー(c)であって、ポリオール成分(b)の全量として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるイソシアネートプレポリマー(c)において、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするイソシアネートプレポリマー(c)。
(4)少なくとも架橋剤(d)と(1)〜(3)のいずれかに記載のイソシアネートプレポリマー(c)とを反応して得られるポリウレタンエラストマー。
(5)少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)及び架橋剤(d)とを反応して得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるポリウレタンエラストマーにおいて、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてエチレングリコール及び/又はそのオリゴマーを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
(6)少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)及び架橋剤(d)とを反応して得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるポリウレタンエラストマーにおいて、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
(7)少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)及び架橋剤(d)とを反応して得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオール成分(b)の全量として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるポリウレタンエラストマーにおいて、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的強度、耐溶剤性を持ち、且つ、ポリウレタンエラストマーに高い生分解性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明におけるポリオール成分(b)としては、少なくともカルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)とを反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いることを特徴とする。
【0012】
本発明において、ポリエステルポリオール(b−3)の原料であるカルボン酸成分(b−1)としては、コハク酸を使用する。コハク酸の他、酢酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸のような脂肪族カルボン酸や、安息香酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸のような芳香族カルボン酸等、通常のポリエステルポリオールの合成に用いられるカルボン酸を併用することもできるが、目的とする生分解性、機械的強度、耐溶剤性を得るためには、コハク酸を除くその他のカルボン酸の使用量は全カルボン酸の割合の30モル%以下にすることが望ましく、カルボン酸成分(b−1)を全量コハク酸とすることが最も好ましい。
【0013】
これらのカルボン酸成分(b−1)は、無水フタル酸のような酸無水物であっても、コハク酸ジメチルのようなエステル誘導体であっても良いし、上記の通り、コハク酸を除くその他のカルボン酸の使用量が全カルボン酸の割合の30モル%以下となる条件であれば、コハク酸又はアジピン酸の製造工程で得られるようなクルード品、例えばアジピン酸、グルタル酸、コハク酸の混合物を用いても良い。また、これら酸無水物とエステル誘導体を2種以上併用することも可能である。
【0014】
本発明において、ポリエステルポリオール(b−3)の原料であるアルコール成分(b−2)として、エチレングリコール及び/又はそのオリゴマーを使用する。エチレングリコールのオリゴマーとは、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられ、ポリエチレングリコールのように分子量分布を持つものも含める。特にジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、それぞれ単独で使用しても良いし、両者を混合して使用してもよい。
【0015】
アルコール成分(b−2)は全量をジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールとすることが望ましいが、これら以外に併用できるアルコールとしては、エチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ソルビトール等の脂肪族及び脂環族アルコールや、フェノール、2−フェノキシエタノールのような芳香族アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン/オキシプロピレン共重合グリコール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等の長鎖ポリエーテルポリオール等、通常のポリエステルポリオールの合成に用いられるアルコールを併用することができる。目的とする生分解性、機械的強度、耐溶剤性を得るためには、ジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを除くその他のアルコールの使用量の割合が使用する全アルコールの30モル%以下にすることが望ましい。
【0016】
本発明におけるポリエステルポリオール(b−3)の水酸基価は、30〜300mgKOH/gの範囲であり、好ましくは35〜250mgKOH/g、さらに好ましくは40〜200mgKOH/gの範囲である。水酸基価が30mgKOH/gより小さいと、粘度が上昇し取り扱いが困難になる可能性があり、一方、300mgKOH/gより大きいと、未反応のアルコールが多い分子量分布となり、ポリウレタンエラストマーの脆性等、物性を低下させる可能性がある。
【0017】
本発明におけるポリエステルポリオール(b−3)は25℃で液状であることが好ましい。B型粘度計で測定した25℃での粘度は、200mPa・s以上30000mPa・s以下であれば取扱いが容易であり、好ましくは500mPa・s以上27000mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以上25000mPa・s以下である。200mPa・sよりも低い場合は取り扱い上の問題はないが、30000mPa・sよりも高い場合、取り扱いが困難になる可能性がある。
【0018】
本発明におけるポリエステルポリオール(b−3)の平均官能基数は、通常、1.5〜3.0の範囲である。好ましくは1.8〜2.5の範囲である。平均官能基数が1.5より小さいと、得られるポリウレタンエラストマーの機械的強度が低下する可能性がある。一方、3.0より大きいと、ポリエステルポリオール(b−3)の粘度が上昇し、取り扱いが困難になる可能性がある。最も好ましい平均官能基数は2.0である。
【0019】
本発明におけるポリエステルポリオール(b−3)の合成においては、通常、エステル化触媒を使用する。エステル化触媒には、一般に酸触媒が用いられることが多い。ルイス酸には、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のオルトチタン酸エステルや、ジエチル錫オキシド、ジブチル錫オキシド等の錫系化合物や、酸化亜鉛等の金属化合物が用いられる。また、ルイス酸の他には、パラトルエンスルホン酸等のブレンステッド酸を用いることもできる。
【0020】
ポリエステルポリオール(b−3)の合成に用いる触媒は、ウレタン化反応の反応挙動に影響を及ぼさない方が望ましい。そのため、上記のエステル化触媒の中では、オルトチタン酸エステルが好ましく、その使用量は、原料に用いるカルボン酸成分とアルコール成分の合計に対して、通常、0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下で、通常、0.001重量%以上、好ましくは 0.003重量%以上である。場合によっては、これらのエステル化触媒を用いないで反応してもよく、反応後に失活処理を施したり、精製等で取り除いてもよい。
【0021】
エステル化反応の反応温度は、通常、150℃から250℃まで、好ましくは180℃から230℃までの範囲で行う。例えば、150℃で反応を開始し、反応の進行に伴って230℃まで徐々に昇温するような条件であれば、反応を制御し易い。一方、反応圧力は常圧でも可能であるが、副生する水を系外に除去し、反応を速やかに完結させるためには反応の進行に伴って、徐々に減圧すると良い。ここで、反応時の減圧度が不足するとエステル化反応の完結度が低くなり、酸価の高いポリエステルポリオールが生成してしまう。一方、反応時に過度に減圧すると、アルコール成分が系外に留去され収率を損なうだけでなく、高分子量のポリエステルポリオールを形成し、得られたポリエステルポリオールの粘度を著しく上昇させる場合がある。従って、最適な到達反応圧力は、反応温度によっても異なるが、例えば、反応温度が200℃の場合においては、圧力は、通常、1kPa以上、好ましくは3kPa以上で、通常、50kPa以下、好ましくは30kPa以下であるが、目標とするポリエステルポリオールの粘度や水酸基価、用いるアルコールの種類、使用量によっては、上記の反応圧力範囲以外の条件で反応を行うことも可能である。また、減圧する代わりに、トルエン、キシレン等の有機溶媒を少量併用して、副生する水を系外に共沸させて除去する方法を用いることも可能である。
【0022】
ポリエステルポリオール(b−3)の反応の終点は、通常、使用したカルボン酸成分(b−1)の未反応カルボキシル基の量で決定する。一方、ポリウレタンエラストマーの用途においては、ポリイソシアネート成分(a)とポリエステルポリオール(b−3)とのウレタン化反応に対して、酸の存在、すなわちポリエステルポリオール(b−3)の未反応カルボキシル基の量が多いと、ウレタン化反応の反応性を低下させるため、好ましくないだけでなく、ポリウレタンエラストマーの経時安定性を悪化させる場合もある。したがって、ポリエステルポリオール(b−3)の未反応のカルボン酸の量、すなわち酸価は出来るだけ低い方が好ましい。ポリウレタンエラストマーの用途において、酸価は、通常、5mgKOH/g以下、好ましくは3mgKOH/g以下、さらに好ましくは1mgKOH/g以下である。また、さらに厳しいウレタン化反応条件下では、0.5mgKOH/g以下が望まれる場合もある。
【0023】
ポリエステルポリオール(b−3)の平均官能基数を一定の目標値に保ち、及び/または水酸基価を一定の目標値に保つためには、エステル化反応中にエステル交換反応に伴って平衡状態にあるアルコールを極力反応系外に留出させないことが重要である。アルコールの留出が多すぎると、エステル化合物の平均官能基数が当初の製品設計に対して異なったものになったり、水酸基価が小さくなり、その結果、得られるポリエステルポリオール(b−3)の粘度が著しく高くなり好ましくない。従って、エステル化反応中に系外に留出するアルコールの量は、全アルコールに対して、通常、5モル%以下、好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下となるように制御することが好ましい。但し、目標とするポリエステルポリオールの粘度や水酸基価、用いるアルコールの使用量によっては、上記の範囲を超えてアルコールを留去しても構わない。
【0024】
反応開始時には、生成するポリエステルポリオール(b−3)の着色を防ぐために反応容器の空間部を窒素置換し、さらに反応液中の溶存酸素を除去することが好ましい。また、反応終了後に、適当な減圧条件下に、未反応のアルコール成分を系外に留去させて、ポリエステルポリオール(b−3)の物性や性能を調節してもよい。
【0025】
本発明におけるポリエステルポリオール(b−3)の反応形式は、通常のバッチ設備あるいは連続設備で適用できるが、反応時間が長時間に渡ること、及び得られるポリエステルポリオール(b−3)の粘度が原料に用いられたアルコールに比べてかなり高くなること等から、バッチ反応の方が好ましい
【0026】
本発明におけるポリウレタンエラストマーの一般的な製造方法としては、ワンショット法、プレポリマー法等が挙げられる。ワンショット法はポリイソシアネート成分(a)、ポリオール成分(b)、架橋剤(d)及び必要に応じてその他助剤を同時に反応させてポリウレタンエラストマーを得る方法であり、プレポリマー法はポリイソシアネート成分(a)、ポリオール成分(b)及び必要に応じてその他助剤を反応させてイソシアネートプレポリマー(c)を製造し、次いで架橋剤(d)及び必要に応じてその他の助剤をさらに反応させ、高分子量のポリウレタンエラストマーを得る方法である。安定した物理特性をもつポリウレタンエラストマーを製造する目的ではプレポリマー法が好ましい。
【0027】
本発明におけるイソシアネートプレポリマー(c)は、少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)とを反応して得られるイソシアネートプレポリマー(c)であって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部がカルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)とを反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるものである。プレポリマーは、ポリイソシアネート成分(a)由来のイソシアネート基を末端基として有し、その末端イソシアネート基の濃度は「%NCO」として、滴定により定量することが出来る。
【0028】
ポリイソシアネート成分(a)としては、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する有機化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族、イソホロンジイソシアネート等の脂環族及びキシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート、またはこれらの変性物が挙げられる。さらにこれらのカルボジイミド変性物やウレタン変性物等も包含される。好ましいポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0029】
ポリオール成分(b)としては、少なくとも上記のポリエステルポリオール(b−3)を使用する。それ以外に併用できるものとしては、ポリプロピレングリコール(PPG)やポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)のようなエーテル系ポリオール、アジピン酸エステルのようなエステル系ポリオール、ポリカプロラクトンのようなラクトン系ポリオール、カーボネート系ポリオール等が挙げられる。これらは数平均分子量500〜5000程度ものが好適に使用できる。本発明のポリエステルポリオール(b−3)と併用する場合には、その使用量は全ポリオールの割合の50重量%以下とすることが望ましい。ポリオール成分(b)の全量としてポリエステルポリオール(b−3)を用いることが最も望ましい。
【0030】
プレポリマー法は、ポリイソシアネート(a)とポリオール成分(b)を反応させ、イソシアネートプレポリマー(c)を得た後、架橋剤(d)と必要に応じてその他助剤を反応させてポリウレタンエラストマーを得る方法である。
【0031】
プレポリマー法としては、例えば以下の手順で行われる。
(1)ポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)をポリオール成分(b)1モルに対し、ポリイソシアネート成分(a)を1.1〜5モル倍(NCO基/OH基比)を添加して反応させてイソシアネートプレポリマー(c)を合成する。このときの反応温度は60〜120℃程度、反応時間は1〜8時間程度である。
(2)イソシアネートプレポリマー(c)と架橋剤(d)を混合、撹拌して減圧脱泡する。このときの撹拌時間は20〜60秒、温度は60〜120℃程度である。
(3)あらかじめ加熱しておいた成型金型にイソシアネートプレポリマー(c)と架橋剤(d)との混合液を注型し、加熱して硬化させる。このときの温度は60〜200℃程度、時間は2〜48時間程度である。
(4)金型からポリウレタンエラストマーを脱型し、必要に応じてポリウレタンエラストマーを加熱したり、常温状態に保持してキュアさせる。
【0032】
架橋剤(d)としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール及びグリセリン等のアルコールや、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等、活性水素を1分子中に2個以上有する化合物が用いられる。好ましい架橋剤としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールが挙げられる。なお、架橋剤(d)の使用量は、所望のNCO/OH比となるよう適宜選択される。
【0033】
必要に応じてその他助剤を用いる。その他助剤の使用目的は主にウレタン化反応を促進、あるいは減速させるための触媒、反応性調整剤や、ポリウレタンエラストマーの物性を調整するための可塑剤、充填材、酸化防止剤、脱泡剤、界面活性剤等である。これらの添加剤、助剤については、特に限定されるものではなく、通常のポリウレタンエラストマーにおいて物性向上や操作性向上等の目的で用いられるもので、本発明の効果が得られる範囲内において使用してもよい。
【0034】
本発明において、ポリオール(b−3)を用いてワンショット法により、目的とするポリウレタンエラストマーを得てもよい。この場合、上記したポリイソシアネート成分(a)、ポリオール成分(b)、架橋剤(d)及び必要に応じてその他助剤を用い、同時に反応させてポリウレタンエラストマーを得ることができる。なお、各成分の使用量は上記プレポリマー法に準じた範囲内で適宜選択される。
【0035】
以下、実施例により本発明の具体的態様をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に断りのないかぎり、実施例中の「部」、及び「%」はそれぞれ「重量部」、及び「重量%」を意味する。
【実施例】
【0036】
本発明で使用するポリオール成分(b)は以下のとおりである。それぞれカルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)の組成と酸価、水酸基価、粘度、数平均分子量を表1に示す。
尚、「ポリオール−1〜7、10」は以下の「参考例」に従って合成し、「ポリオール−8、9」は以下のものを用いた。
ポリオール−8:ポリテトラメチレンエーテルグリコール 三菱化学株式会社製「PTMG1000」
ポリオール−9:ポリテトラメチレンエーテルグリコール 三菱化学株式会社製「PTMG2000」
【0037】
【表1】

【0038】
「参考例」
[ポリエステルポリオールの合成]
以下に示す方法で、ポリエステルポリオール(b−3)の合成、及び評価を行った。
<合成方法>
攪拌機、還流冷却機、温度計、圧力計、オイルバスなどを装備した、容積が2リットルのガラス製反応器に、カルボン酸、アルコールを表1に記載の組成比に応じて仕込み、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、反応器の加熱を開始した。反応器内温が150℃程度に達した時点で、エステル化反応が開始し副生水が留出し始めた。その後副生水の留出量を見ながら2時間程度かけて内温を210℃まで加熱昇温し、触媒としてテトライソプロピルチタネートを0.01%(対仕込総量)を反応器内に添加した。その後反応が終了するまでこの温度は210℃を保持した。反応器内の圧力は、内温が150℃から内温が210℃に達するまでは、約88kPaに維持した。その後、4時間程度かけて徐々に13から3.0kPaまで減圧し、反応が終了するまでこの圧力を保持した。反応の進行に伴い、反応混合物は均一な溶液になることが、目視観察された。反応進行中に、反応混合物の一部を反応器から抜き出して、抜き出した試料の酸価を測定して反応の進行状況確認の指標とした。反応は、酸価が0.5程度となり、かつ、反応混合物が均一な溶液となった時点で終了とした。反応終了後、加熱を停止して約100℃まで冷却し、反応生成物を抜き出した。ここで得られたポリエステルポリオールを「ポリオール−1〜7、10」として、表1に示した。
【0039】
<評価方法>
(1)酸価
JIS K15571970に準拠して測定した。
(2)水酸基価
JIS K15571970に準拠して測定した。
(3)粘度
JIS K15571970に準拠して回転粘度計(B型粘度計)を使用し、25℃で測定した。
【0040】
[イソシアネートプレポリマーの合成]
表2に示す原料、配合でイソシアネートプレポリマー「プレポリマー−1〜9」を合成した。また、そのイソシアネートプレポリマーの%NCO(末端イソシアネート基濃度)を測定し、表2に示した(実施例1〜3及び比較例1〜6)。なお、原料は以下のものを用いた。
ポリオール−1〜9:前述のポリオール
ポリイソシアネート:ジフェニルメタンジイソシアネート 日本ポリウレタン工業株式会社製「ミリオネートMT」
反応性調整剤:リン酸エステル 城北化学株式会社製「JP−504」
<合成方法>
攪拌機、温度計、圧力計、オイルバスなどを装備した、容積が1リットルのガラス製反応器に、ポリオール、ポリイソシアネート、反応性調整剤を表2に記載の配合比に応じて仕込み、系内を減圧して脱泡行った。その後、反応器の空間部を窒素ガス置換した後、常圧にて反応器の加熱を開始した。内温が80℃に達した時点を反応開始として、30分毎に系内を減圧して脱泡しながら2時間反応させた。ここで得られたイソシアネートプレポリマーを「プレポリマー−1〜9」として、表2に示した。
【0041】
【表2】

【0042】
<評価方法>
%NCO(末端イソシアネート基濃度)
溶媒にジメチルホルムアミドを用い、JIS K15561968に準拠して測定した。
【0043】
以下に示す方法でポリウレタンエラストマーのシートを成型と評価を行った(実施例4〜7及び比較例7〜15)。なお、原料は以下のものを用いた。
プレポリマー1〜9:前述のプレポリマー
架橋剤:1,4−ブタンジオール 特級試薬 和光純薬株式会社製
[ポリウレタンエラストマーのシート成型]
<成型方法>
80℃に予熱したプレポリマーをSUS製反応器に所定量計り採り、所定量の架橋剤をシリンジで加えた後に直ちに真空攪拌装置にセットして、減圧下、脱泡しつつ30秒攪拌を行った。その後、80℃に予熱しておいた2mm厚みシートの成型金型に流し込み、120℃のオーブンで1昼夜加熱硬化させた。その後、ポリウレタンエラストマーのシートを脱型し、2日間以上室内に保管した後に評価に用いた。なお、プレポリマーと架橋剤の配合比は、イソシアネートインデックス(NCO基/OH基のモル比)で1.05とした。
<金型>
アルミ製 内寸 200mm×200mm×2mm 下記離型剤を使用
フッ素系離型剤スプレー:ダイキン工業株式会社製「ダイフリー GA−6010」
【0044】
得られたポリウレタンエラストマーの評価は、下記の方法で行い、結果を表3、表4に示した。
<評価方法>
(1)機械的強度
機械的強度はJIS A73111995に準拠して測定した結果を表3、表4、表5に示した。引張及び引裂試験片は以下のものを使用した。
引張試験片 : JIS K7113 2号
引裂試験片 : JIS K7311 3号
なお、引張試験結果(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス及び弾性率)と引裂試験結果(引裂強度)の算術平均を強度平均として表4、表5に示した。
(2)生分解性
機械強度測定用の試験片を水(60℃)に1週間浸漬した後に機械強度を測定し、加水分解により元の機械強度がどの程度失われたかを評価して、生分解性の目安とした。結果は浸漬前の値に対する、浸漬後の値(%)で示した。
(3)耐溶剤性
機械的強度測定用の試験片をトルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコールに1週間浸漬した後に、重量変化と機械的強度を測定し、どの程度膨潤したかと、元の機械強度がどの程度失われたかを評価して、耐溶剤性の目安とした。結果はそれぞれ浸漬前の値に対する、浸漬後の値(%)で示した。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
表1〜表5より、主に次のことが明らかである。
(1)ポリオール−1〜3とポリオール−4、5及びポリオール−8、9、10の比較結果
表1より、コハク酸、又はアジピン酸と1,4−ブタンジオールを用いて合成したポリオール4、5、10やポリオール−8、9のようなポリテトラメチレンエーテルグリコールが25℃で固体であるのに対し、本発明のカルボン酸としてコハク酸を用い、アルコールとしてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いて合成したポリオール1〜3は25℃でも液状を保つ。
【0049】
(2)実施例4〜6と比較例7〜12の比較結果
表3より、ポリウレタンエラストマーの機械的強度評価(破断強度、破断伸び、100%モジュラス、200%モジュラス、300%モジュラス、弾性率及び引裂強度)において、本発明のカルボン酸としてコハク酸を用い、アルコールとしてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いて合成したポリオール1〜3を用いた実施例4〜6の場合、汎用的に用いられるポリオール4〜9を用いた比較例7〜12と比べ、特に遜色のない物性を有する。
【0050】
(3)実施例7、8と比較例13〜15の比較結果
表4より、ポリウレタンエラストマーの生分解性評価において、本発明のカルボン酸としてコハク酸を用い、アルコールとしてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いて合成したポリオール1、2を用いた実施例7、8の場合、水(60℃)に浸漬後の強度平均が浸漬前の40〜70%程度に低下しているのに対し、汎用的に用いられるポリオール4、6、8を用いた比較例13〜15では強度平均が80〜90%を保持している。このことから本発明のポリオールを用いた場合、ポリウレタンエラストマーの加水分解性(生分解性)が向上していることがわかる。
【0051】
(4)実施例7〜9と比較例13〜18の比較結果
表4、5より、ポリウレタンエラストマーの耐溶剤性評価において、本発明のカルボン酸としてコハク酸を用い、アルコールとしてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いて合成したポリオール1、2を用いた実施例7〜9の場合、溶剤浸漬後の強度平均は、汎用的に用いられるポリオール4、6、8を用いた比較例13〜18と比べても同等程度であり、一方、膨潤による重量の増加は小さくなっている。このことからポリウレタンエラストマーの耐溶剤性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、イソシアネートプレポリマー及びポリウレタンエラストマーにおいて、機械的強度、耐溶剤性等の物性を保持し、且つ、高い生分解性を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)とを反応して得られるイソシアネートプレポリマー(c)であって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるイソシアネートプレポリマー(c)において、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてエチレングリコール及び/又はそのオリゴマーを用いることを特徴とするイソシアネートプレポリマー(c)。
【請求項2】
少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)とを反応して得られるイソシアネートプレポリマー(c)であって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるイソシアネートプレポリマー(c)において、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするイソシアネートプレポリマー(c)。
【請求項3】
少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)とを反応して得られるイソシアネートプレポリマー(c)であって、ポリオール成分(b)の全量として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるイソシアネートプレポリマー(c)において、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするイソシアネートプレポリマー(c)。
【請求項4】
少なくとも架橋剤(d)と請求項1〜3のいずれか1項に記載のイソシアネートプレポリマー(c)とを反応して得られるポリウレタンエラストマー。
【請求項5】
少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)及び架橋剤(d)とを反応して得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるポリウレタンエラストマーにおいて、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてエチレングリコール及び/又はそのオリゴマーを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【請求項6】
少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)及び架橋剤(d)とを反応して得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオール成分(b)の少なくとも一部として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるポリウレタンエラストマーにおいて、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。
【請求項7】
少なくともポリイソシアネート成分(a)とポリオール成分(b)及び架橋剤(d)とを反応して得られるポリウレタンエラストマーであって、ポリオール成分(b)の全量として、カルボン酸成分(b−1)とアルコール成分(b−2)を反応して得られるポリエステルポリオール(b−3)を用いるポリウレタンエラストマーにおいて、カルボン酸成分(b−1)としてコハク酸を用い、アルコール成分(b−2)としてジエチレングリコール及び/又はトリエチレングリコールを用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー。

【公開番号】特開2009−96824(P2009−96824A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266823(P2007−266823)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】