説明

イチゴ栽培システムおよび栽培槽およびヒートパイプ保持用治具

【課題】イチゴ株の加温にかかるコストを節減しながらイチゴの収量を増加させることのできるイチゴ栽培システムを提供する。
【解決手段】温室と、この温室内に並列される複数列の栽培棚と、この栽培棚上に載置される少なくとも1つの樋状の栽培槽と、この栽培槽内で,かつ,この栽培槽の長手方向を縦断するように配設される少なくとも1本のヒートパイプと、温室内に配設され,ヒートパイプに加温用流体を供給するための温室配管と、ヒートパイプと温室配管とをつなぐ連結部と、加温用流体を加熱するための加熱設備と、加温流体を温室配管およびヒートパイプに循環送給させるための流体送給設備と、を有し、栽培棚は、その伸長方向と直交する方向にスライド可能であり、栽培槽は、合成樹脂製で,その厚みは2〜6mmの範囲内であり、ヒートパイプは、栽培槽内に植え付けられるイチゴ株のクラウン下に配設されることを特徴とするイチゴ栽培システムによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室内における加温設備を利用したイチゴ栽培システムおよびそのための栽培槽およびそのためのヒートパイプ保持用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、イチゴを露地植えする場合、その収穫の最盛期は初夏ごろであるが、クリスマスシーズンに大きなイチゴの需要があるため、寒冷季に温室で加温しながらイチゴを栽培している。
イチゴの自然適応の姿は、低温に耐えて越冬するために休眠し、その後一定の低温にあって休眠から覚め、春季に生育を再開する。イチゴは、この休眠に入る段階において、一定の低温条件や短日条件や低栄養条件により、花芽が分化する。この生態を利用し、上述クリスマス需要に対応する促成栽培作型では、冬期に温室内で加温栽培することにより、連続したイチゴの収穫が可能となり、収量の増加することが知られている。このため、効率よくイチゴ株を加温するための技術が多数開示されている。
【0003】
従来技術において、例えば、イチゴ株を植え付ける培地の表面近傍の上方にヒートパイプ等の加温設備を設置してイチゴ株のクラウン(一般的な植物でいう茎部)を加温してその生育と花芽を促進させる技術としては、例えば、特許文献1として開示される「超促成発芽システム及び超促成栽培システム」、特許文献2として開示される「超促成栽培システム」及び特許文献3として開示される「栽培装置」が知られている。
また、イチゴ株のクラウンに直に接触させてこの部分を加温する技術としては、例えば、特許文献4として開示される「植物栽培方法及び植物栽培装置」が知られている。
そして、イチゴ株を植え付ける培土の表面を加温して、直接又は間接的にクラウンを加温する技術としては、先の特許文献1及び特許文献2に加えて、特許文献5として開示される「イチゴ類栽培補助用長尺ピロ−」、特許文献6として開示される「イチゴの栽培方法及び栽培装置」が知られている。
さらに、イチゴ株を植え付ける培地の表層にヒートパイプ等の加温設備を埋設する技術としては、特許文献7として開示される「イチゴの栽培方法」が知られている。
また、イチゴ株を植え付ける培地の鉛直深さ方向の中央部分にヒートパイプ等を配設して、その温度調整を行う技術としては、特許文献8として開示される「高設ベッド栽培装置」、特許文献9として開示される「栽培棚」及び特許文献10として開示される「イチゴの栽培方法」が知られている。
そして、イチゴ株を植え付ける培地の鉛直深さ方向の底部にヒートパイプ等を設けて、その温度調整を行う技術としては、先の特許文献8に加えて、特許文献11として開示される「苺の栽培槽とその形成方法」、特許文献12として開示される「隔離栽培ベット」、特許文献13として開示される「ビニールハウス内冷暖房及び消毒用土壌ベッド」及び特許文献14として開示される「いちごの高設温床栽培装置」が知られている。
さらに、イチゴ株を植え付ける栽培槽の外(真下)に加温設備を設けて温度調整を行う技術としては、例えば、特許文献15として開示される「いちご栽培装置」が知られている。
また、イチゴ株を植えた栽培槽の支持する栽培棚の棚下を加温する技術としては、例えば、先の特許文献14や、特許文献16として開示される「高床式栽培方法と植物栽培床用シート」が知られている。
そして、上述のような特許文献1乃至16に開示される発明によれば、温室内においてイチゴ株のクラウンや、イチゴ株の栽培槽及び温室内の温度を適宜調整することにより、イチゴ株の花芽の分化を促進してその収量を増加させるという効果が期待できる。
【0004】
また、上述のような先行技術とは別に、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積を増加させて収量を増加させることを目的する先行技術としては、特許文献17として開示される「高設栽培装置とこれを設けたハウス栽培施設」(本願発明と同じ出願人による)が知られている。特許文献17に開示される発明によれば、温室内において栽培棚をスライド移動させることができ、この結果、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積を増加させることができるので、イチゴの収量を増加させることができる。
さらに、温室内における作業性を向上させる技術としては、特許文献18として開示される「農業用隔離ベッド栽培における温水配管方法」が知られている。特許文献18に開示される発明によれば、施設(温室)内の配管を全て作業者の頭上に配置することで、農業用隔離ベッドに温水循環設備を設けた場合でもその作業性を向上することができる。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−113613号公報
【特許文献2】特開2008−11730号公報
【特許文献3】特開平11−289869号公報
【特許文献4】特開2005−237371号公報
【特許文献5】特開2007−300908号公報
【特許文献6】特開平8−051857号公報
【特許文献7】特開平6−90614号公報
【特許文献8】特開2002−360083号公報
【特許文献9】実登3070740号公報
【特許文献10】特開平6−22643号公報
【特許文献11】特開2000−37135号公報
【特許文献12】特開2003−71号公報
【特許文献13】特開平11−75574号公報
【特許文献14】実登3074395号公報
【特許文献15】特開2009−33980号公報
【特許文献16】特開平9−9785号公報
【特許文献17】特開2004−187615号公報
【特許文献18】特開2003−204726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、イチゴ株のクラウンを15℃程度に加温することでその花芽の分化を促進することができ、それによりイチゴの収量を増加させることができることが知られている。
また、イチゴ株の生育を促進するには、寒冷季における温室内の温度を最低でも8〜10℃程度に維持することが望ましい。これは、イチゴ株周辺の温度が8℃を下回ると、休眠活動に入り、イチゴ株の生育が停滞するためである。
このため、冬季においてイチゴ株を栽培する場合、温室内の空気を、加温設備等を用いたり、あるいは、日中の日照を有効に利用して温室内の温度をイチゴ株の生育に適した温度保つ工夫等がなされてきた。
つまり、上述の特許文献1〜16に開示される発明において、特に培地の表面や上層部に加温設備を配設した場合には、クラウンが直接または間接的に加温されてその花芽の分化を促進することができる。
また、特に培地(主に根の周辺)を直接又は間接的に(栽培槽の外部から)加温した場合には、クラウンへの加温効果は小さくなるものの、根を含む培地が加温されるため、イチゴ株の生理活性が保たれて生育が促進され、収量増加効果が発揮される。
【0008】
しかしながら、イチゴ株は、根、クラウン、茎葉が一体となって一つの植物体を構成しているため、そのいずれか1つについて慎重に温度管理を行ったからといって大幅な収量の増加が見込めるものではない。
すなわち、イチゴ株のクラウンのみを慎重に15℃程度に維持したとしても、根の温度が8℃を下回った場合には収量の増加は見込めなくなってしまうし、葉茎が冷気に触れて損傷を受けた場合も同様に収量の増加は見込めなくなってしまうのである。
このため、従来技術においては、クラウンを直接又は間接的に加温する場合でも、温室内の温度を最低でも8〜10℃程度に維持することは不可欠であり、クラウンの加温とイチゴ株を取り囲む外気の加温を同時に行うことで、収量の増加が実現されていた。しかしながら、そのために特殊な設備を設けたり、温室内の空気を加温する必要があるため、費用対効果の点からは必ずしも効率よく収量を増加させることができているとは言い難かった。
また、特許文献17に開示される発明の場合、温室内において栽培棚を移動可能にすることで、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積を増やすことができるものの、栽培棚を固定式にした場合に比べて、日中の日照による栽培棚下空間への蓄熱量が減少し、この結果、特に夜間に栽培槽の温度低下が生じやすくなり、かえって暖房費が嵩み、暖房費の増加に見合うほどの収量の増加は見込めなかった。
また、夜間の温室内の暖房費を抑えるために、栽培槽や栽培棚の下にヒートパイプ等の加温設備を配設して、局所的な加温を行った場合、栽培棚の周囲に配設される配管が収穫作業等の妨げとなって作業性を著しく低下させたり、あるいは、栽培棚の移動の妨げになり好ましくなかった。
さらに、特許文献18に開示される発明によれば、栽培棚周辺の配管を作業者の頭上に配置することで、栽培棚周辺における作業性を向上することができるものの、作業者の頭上に配設された配管設備から,スライド移動する栽培槽に設けられるヒートパイプに効率よく加温流体を供給するための具体的な構成については何ら開示されていなかった。
つまり、当業者が上述の特許文献1〜18をいかに組み合わせたとしても、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積を大幅に増加させつつ、温室内空気の暖房費を削減し、かつ、温室内における作業性を損なうことなく、イチゴ株全体を8℃以上に保つことができ、さらに、クラウンを15℃程度に継続して加温することのできるイチゴ栽培システムに想到することはできなかった。
【0009】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、温室内における作業性を損なうことなく、かつ、イチゴ株のクラウンを15℃程度に加温することでそれに付随する根や葉の生理活性を高め、さらに、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積を増加させることができ、しかも、イチゴ株の加温にかかるコストを削減することのできるイチゴ栽培システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明であるイチゴ栽培システムは、外気から遮蔽された空間を形成する温室と、この温室内に並列される複数列の栽培棚と、この栽培棚上に載置される少なくとも1つの樋状の栽培槽と、この栽培槽内で,かつ,この栽培槽の長手方向を縦断するように配設される少なくとも1本のヒートパイプと、温室内に配設され,ヒートパイプに加温用流体を供給するための温室配管と、ヒートパイプと温室配管とをつなぐ連結部と、加温用流体を加熱するための加熱設備と、加温流体を温室配管およびヒートパイプに循環送給させるための流体送給設備と、を有し、栽培棚は、その伸長方向と直交する方向にスライド可能であり、栽培槽は、合成樹脂製で,その厚みは2〜6mmの範囲内であり、ヒートパイプは、栽培槽内に植え付けられるイチゴ株のクラウン下に配設されることを特徴とするものである。
上記構成の発明において、温室は栽培棚がスライド可能に配置される空間を外気から遮蔽するという作用を有する。栽培棚は、イチゴ株を植え付けるための栽培槽を載置面上に保持して、作業者のイチゴ株に対する管理作業や収穫作業を容易にするという作用を有する。
また、栽培槽は、イチゴ株、培地、ヒートパイプを収容保持するという作用を有する。ヒートパイプは、その中空部に加温用流体を流動する加温流体から放射される熱により、その周囲を加温するという作用を有する。温室配管は、ヒートパイプに加温用流体を供給するとともに、熱交換済の加温流体を回収して加熱設備に送給するという作用を有する。連結部は、温室配管からヒートパイプへの,また,その逆方向に加温流体を流入させるという作用を有する。さらに、加熱設備は、加温流体の温度を上昇させるという作用を有する。さらに、流体送給設備は、加温流体を、温室配管と、ヒートパイプと、加温設備の間を循環させるという作用を有する。
そして、栽培棚をその伸長方向と直交する向きにスライド可能とすることで、温室内に栽培棚を密に配置させるという作用を有する。これにより、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積を増加させるという作用を有する。温室内に配置される栽培棚の数を増やすことで、温室内に配設されるヒートパイプの延べ長さを増加させるという作用を有する。
また、栽培槽を合成樹脂製とし、その厚みを2〜6mmとすることで、栽培槽に、培地,ヒートパイプおよびイチゴ株を継続して収容保持するのに必要かつ十分な強度を付与するとともに、ヒートパイプから放射された熱を、栽培槽を介して温室内に放熱しやすくするという作用を有する。つまり、ヒートパイプを収容保持する栽培槽自体を、温室の加温設備として機能させるという作用を有する。
そして、ヒートパイプをイチゴ株の特にクラウン下に配設することで、クラウンを効率よく加温して花芽の分化を促進するとともに、培地も加温してイチゴ株の根の生理活性を高めて養分の吸収を促進させるという作用を有する。また、栽培槽が温室内において密に配置されるので、培地および栽培槽から放射された熱がイチゴ株の周辺の空気を8℃以上に保つという作用を有する。
すなわち、ヒートパイプによる局所的な加温のみで、イチゴ株のクラウンの温度は15℃程度に、また、根や葉の周囲の温度を8℃以上に保つという作用を有する。
【0011】
請求項2記載の発明であるイチゴ栽培システムは、請求項1記載のイチゴ栽培システムであって、温室配管は、温室内において栽培棚よりも鉛直上方側に配設され、連結部は、栽培槽が温室内をスライド移動した際に,温室配管からヒートパイプの外れを防止するために可撓性又は撓み又は伸縮性のいずれか1つ,あるいは,これらのうちの少なくとも1つ以上の組合せを具備することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1記載の発明と同じ作用に加えて、温室内において栽培棚よりも鉛直上方側に温室配管を配設することで、その下を潜って作業者が移動することを可能にするという作用を有する。また、ヒートパイプと温室配管の連結部を、可撓性又は撓み又は伸縮性のいずれか1つ,あるいは,これらのうちの少なくとも1つ以上の組合せを具備した構成とすることで、ヒートパイプと温室配管とを接続したままの状態で栽培棚のスライド移動を可能にするという作用を有する。
【0012】
請求項3記載の発明であるイチゴ栽培システムは、請求項1又は請求項2に記載のイチゴ栽培システムであって、温室内において作業者が通行できる通路は、栽培槽の伸長方向と平行に1本のみ形成可能であることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明と同じ作用に加えて、温室内に収容される栽培棚の数を最大にするという作用を有する。この結果、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積が最大になる。これにより、温室内に収容されるヒートパイプの延長さが最大となり、ヒートパイプと栽培槽とからなる本願発明独自の温室加温構造による温室空気の加温作用が最大となる。
【0013】
請求項4記載の発明であるイチゴ栽培システムは、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムであって、温室配管は、手動弁を備えて加熱設備に接続された後に流体送給設備に接続される第1の温室配管と、この第1の温室配管から分岐して加熱設備をバイパスして流体送給設備に接続される第2の温室配管と、第1の温室配管と第2の温室配管の分岐点よりも上流側で分岐し,遠隔操作可能な弁を備えて加熱設備に接続された後に流体送給設備に接続される第3の温室配管とを有し、遠隔操作可能な弁はイチゴ株のクラウン下の培地の温度を検出して開閉制御されることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1乃至請求項4のそれぞれに記載の発明と同じ作用に加えて、第1の温室配管を流動する加温流体を加熱設備で加熱しただけではイチゴ株の十分な加温効果が発揮されない場合に、第2の温室配管を通じてより多くの加温流体を加熱設備に送給して、ヒートパイプに供給される加温流体の温度上昇を促進するという作用を有する。また、第3の温室配管は、第1,第2の温室配管に流入しなかった加温流体をバイパスして加熱設備の下流側に送給するという作用を有する。
つまり、請求項4記載の発明は、加温流体の全てを加熱設備で加温するのではなく、加温流体の一部を取り出して加熱設備で高温に加熱し、高温になった加温流体と,加温されなかった加温流体とを混ぜ合わせて目的とする温度を有する加温流体とする思想である。
このような請求項4記載の発明は、手動弁の他に遠隔操作可能な弁を1つのみ備える簡素な設備で、イチゴ株のクラウン下の培地の温度を所望の温度領域内に維持させるという作用を有する。
【0014】
請求項5記載の発明であるイチゴ栽培システムは、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムであって、ヒートパイプの上面からイチゴ株のクラウンの最下部までの距離は2cm以内であることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項1に記載される構成をより具体的に示したものである。従って、請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項5のそれぞれに記載の発明と同じ作用に加えて、ヒートパイプの上面からイチゴ株のクラウンの最下部までの距離を2cm以内と規定することで、クラウン、根及び葉を効率よく加温するという作用を有する。これにより、クラウンにおける花芽分化を促進し、かつ、根における養分の吸収作用を促進し、さらに葉が冷気によりダメージを受けるのを防ぐという作用を有する。
【0015】
請求項6記載の発明である栽培槽は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムに用いるための栽培槽であって、栽培槽は、その内部においてヒートパイプを所望の高さに維持しながら支持するための治具を、栽培槽と一体又は別体に備えることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、栽培槽と一体又は別体に、ヒートパイプを支持するための治具を備えることで、栽培槽内におけるヒートパイプの取付位置を一定に保つという作用を有する。これにより、イチゴ株のクラウン下へのヒートパイプの配設を容易にするという作用を有する。この結果、クラウンの加温効果を確実に発揮させるという作用を有する。
【0016】
請求項7記載の発明である栽培槽は、請求項6記載の栽培槽であって、治具は、栽培槽内に一定間隔毎に,栽培槽の側面と底面とをつなぎながら栽培槽に一体に立設される補強用リブであり、この補強用リブは、その上端に,ヒートパイプを掛止するための切欠き部を備えることを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項6記載の発明をより明確に記載したものである。
つまり、補強用リブは、栽培槽を補強するとともにヒートパイプを所望の位置に支持固定するという作用を有する。また、補強用リブに形成される切欠き部は、その内側にヒートパイプを掛止させるという作用を有する。
すなわち、請求項7記載の発明では、栽培槽を補強するための補強用リブと、ヒートパイプを保持するための治具を兼ねた構成にすることで、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムに使用される栽培槽の製造及び供給を容易にするという作用を有する。
【0017】
請求項8記載の発明であるヒートパイプ保持用治具は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムに用いるためのヒートパイプ保持用治具であって、このヒートパイプ保持用治具は、培養槽内にヒートパイプを所望の高さに維持しながら支持する支持部と、この支持部を栽培槽内に着脱可能に固定するための装着部とを有することを特徴とするものである。
上記構成の発明は、請求項6記載の発明に記載されるヒートパイプを支持固定するための治具を独立した「物」として捉えたものである。
このような請求項8記載の発明において、支持部は栽培槽内においてヒートパイプを所望の高さに維持しながら支持するという作用を有する。また、装着部は、支持部を栽培槽内に着脱可能に固定するという作用を有する。
そして、請求項8記載のヒートパイプ保持用治具によれば、栽培槽にヒートパイプを支持固定するため構成が何ら設けられていない場合であっても、栽培槽内の所望の位置にヒートパイプを支持することを可能にするという作用を有する。この結果、栽培槽がヒートパイプを支持するための構成を備えない場合であっても、請求項8記載の発明を用いることにより、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムの効果を確実に発揮させるという作用を有する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、栽培棚をスライド可能にすることで、温室内に収容される栽培棚の数が増加し、これにより、栽培棚を密に配設することができる(効果1)。また、栽培槽を合成樹脂製とし,かつ, その厚みを2〜6mmとすることで、ヒートパイプから培地に放射される熱を栽培槽の外に効率的に逃がすことができる(効果2)。
そして、上述の効果1及び効果2が組み合わされることで、温室内に配設される栽培槽自体が温室の空気を加温するための加温設備として機能するので、ヒートパイプから放射される熱によりイチゴ株の局所の加温と、イチゴ株の周囲の空気の加温を同時に行うことができる。この結果、寒冷季に温室内の気温が6℃程度に低下した場合でも、温室の暖房を行うことなく、イチゴ株の生育を促進して収量を増加させることができる。これにより、寒冷季の暖房費を大幅に削減することができる。
また、上述の効果1の発揮に伴い、温室内におけるイチゴ株の植え付け本数を増加させることができるので、温室内におけるイチゴ株の植え付け面積を増加させるとともに、植え付けられた全てのイチゴ株の生育を促進することができる。
よって、この点からも収量の増加が期待できる。
さらに、ヒートパイプを、特にイチゴ株のクラウン下に配置することで、クラウンを効率よく加温することができるとともに、イチゴ株の根や葉についても成育に適した温度に保つことができる。前者の効果により、花芽の分化が促進され、また、後者の効果により、イチゴ株自体の生育が促進されるので、これらの効果が組み合わされて、効率的に収量を増加させることができる。
つまり、請求項1記載の発明によれば、栽培棚の配置と、栽培槽の材質及びその厚み、及び、栽培槽内におけるヒートパイプの配設位置を特定することで、イチゴ株の生育促進効果を最大にしつつ、その一方で加温のためのコストを削減し、かつ、温室内におけるイチゴ株の植え付け本数を増加させることができるという独自で有用な効果が発揮されるのである。
すなわち、従来技術においてはイチゴの収量を増加させるためにはその栽培コストの削減が困難であったのに対して、本願請求項1記載の発明によれば、イチゴ株の加温にかかるコストを削減しながら、イチゴの収量を増加させることができる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、温室配管とヒートパイプを連結したままの状態で栽培棚をスライド移動させることができるという効果を有する。
また、温室配管が栽培棚上に配置されることで、作業者はその下を潜って移動することができるので、温室配管及び連結部が温室における作業の妨げになるのを防止することができる。
この結果、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同じ効果に加えて、温室内における作業者の作業性を大幅に向上することができるという効果を有する。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明と同じ効果に加えて、温室内に収容される栽培棚の数を最大にすることができる。また、これにより、ヒートパイプと栽培槽からなる温室加温構造による温室内の加温効果を最大にすることができる。
この結果、暖房費の節減効果を最大にしながら、収量増加効果を最大にすることができる。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のそれぞれに記載の発明と同じ効果に加えて、特殊な設備を設けることなしに、ヒートパイプに送給される加温流体の温度を適切な範囲に保つことができるという効果を有する。
この結果、請求項4記載のイチゴ栽培システムを設置するための費用並びにそのメンテナンスにかかるコストを節減すことができる。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4記載のそれぞれに記載の発明と同じ効果に加えて、イチゴ株の最下部からヒートパイプの上面までの距離を2cm以内と規定することで、ヒートパイプから放射される熱により効率よくクラウンを加温することができる。
また、同じくヒートパイプから放射される熱により効率よく根及び茎葉を加温することができる。
すなわち、ヒートパイプの配置をクラウン下2cm以内とした場合のみ、クラウンとヒートパイプとの距離を最少にしてクラウンへの加温効果を最大にしつつ、クラウンよりも鉛直上方にある葉も、クラウンよりも鉛直下方にある根もヒートパイプから放射される熱で適切な温度に加温することができるのである。
従って、加温流体による加温効率をよくすることができる。この結果、イチゴ株の加温にかかる燃料費等のコストを最小限度にすることができる。
【0023】
請求項6,7記載の栽培槽、及び、請求項8記載のヒートパイプ保持用治具を用いることによれば、栽培槽内におけるヒートパイプの設置高さを一定に保つことができるので、イチゴ株のクラウン下に確実にヒートパイプを配置させることができる。この結果、イチゴ株の花芽分化促進効果と、成育促進効果を確実に発揮させることができるので、イチゴの収量を確実に増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a),(b)はいずれも本発明の実施例1に係るイチゴ栽培システムの平面図である。
【図2】図1中の符号Aで示す方向から見た場合の矢視図である。
【図3】(a)は本発明の実施例1に係る栽培槽の概念図であり、(b)は本発明の実施例1に係る栽培槽のB−B線矢視断面図である。
【図4】本発明の実施例1に係る栽培槽にイチゴ苗を植えた状態を示す部分断面図である。
【図5】本発明の実施例1に係る栽培槽に植えたイチゴ苗が成長してイチゴ株になった状態を示す部分断面図である。
【図6】(a)は本発明の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具の側面図であり、(b)は本発明の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具の使用状態を示す栽培槽の断面図である。
【図7】(a)は本発明の実施例3に係るヒートパイプ保持用治具の側面図であり、(b)は本発明の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具を鉛直下側から見た平面図であり、(c)は本発明の実施例3に係るヒートパイプ保持用治具の使用状態を示す栽培槽の断面図である。
【図8】本発明の実施例4に係るイチゴ栽培システムのシステム構成図である。
【図9】本発明の実施例4に係るイチゴ栽培システムにおけるセンサの取付け位置を示す断面図である。
【図10】発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム)と、従来型高設栽培システムのそれぞれにおけるイチゴの収量の積算値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施の形態に係るイチゴ栽培システム及びそのための栽培槽およびヒートパイプ保持用治具について実施例1乃至4を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の実施例1に係るイチゴ栽培システムについて図1乃至図5を参照しながら説明する。
図1(a),(b)はいずれも本発明の実施例1に係るイチゴ栽培システムの平面図であり、図2は図1中の符号Aで示す方向から見た場合の矢視図である。
実施例1に係るイチゴ栽培システム1は、イチゴ株を外気から遮蔽するための温室2内に、栽培棚3が複数列並列され、この栽培棚3はその伸長方向と直交する(略直交の概念も含む)方向にスライド可能に構成されるものである。
このように、実施例1に係るイチゴ栽培システム1においては、温室2において栽培棚3をスライド可能とすることにより、栽培棚3の側方に必要な場合にのみ通路7を形成することができるので、栽培棚3上の栽培槽に植え付けられるイチゴ株に対して、手入れや収穫等の作業が特に必要ない場合には、栽培棚3同士の間隔を最小にして、それによって空いたスペースに可能な限り多くの栽培棚3を収容することができる。
これにより、温室2内におけるイチゴ株の植え付け面積を大きくすることができる。従って、従来技術のように栽培棚3を固定式とした場合に、作業用の通路としてしか利用されていなかった温室2内のエリアを有効に利用することができる。
【0027】
そして、実施例1に係るイチゴ栽培システム1における栽培棚3は、例えば、図2に示すように、設置面17上において栽培棚3の伸張方向と直交する向きにスライド移動させるスライド棚本体8と、このスライド棚本体8上に載置されてイチゴ株、その培地及びヒートパイプ5を収容する栽培槽9とにより構成される。
なお、栽培槽9は、個別に独立した容器状の形態としてもよいし、複数連結してその両端部に、例えば、キャップ状の培地流出止め具(図示せず)を装着して、全体として1つの容器体をなす形態としてもよい。つまり、栽培槽は、断面コ字型(略コ字型の概念も含む)や、断面U字型(略U字型の概念も含む)であり、その内部空間にイチゴ株を植え付けるための培地をこぼすことなく収容できるよう構成され、また、長期間培地を収容したままでも変形や破損することがないよう構成されるものであればその形態は特に問題としない。
【0028】
また、実施例1に係るイチゴ栽培システム1における栽培槽9の上部開口近傍には、栽培槽9の底から一定(略一定の概念も含む)の高さを保ちながらヒートパイプ5が配設され、栽培槽9から導出されるヒートパイプ5の端部5aは、温室2内に配設される温室配管4に接続部6を介して接続されており、この温室配管4から図示しない加温流体がヒートパイプ5内に流入して、栽培槽9内を加温する仕組みになっている。
より具体的には、例えば、図1及び図2に示すように、温室配管4の供給口4aから連結部6を介してヒートパイプ5に送給された加温流体は、栽培槽9の端部まで到達した後、折り返し部35を介して再び栽培槽9内のヒートパイプ5に流入して栽培槽9の反対側の端部まで流動して端部5aから連結部6を介して温室配管4の返送口4bへと送給される。
なお、栽培槽9内におけるヒートパイプ5の平面方向における配置は、必ずしも図1や図2に示されるものに限定する必要はなく、例えば、栽培槽9の長手方向にヒートパイプ5を縦断させて、折り返し部35を設けることなくヒートパイプ5から導出される加温流体を温室配管4に返送してもよい。
また、本実施の形態においては、栽培槽9内に配設され中空管体内に液体又は気体からなる加温流体を流動させてその周囲を加温するものを総称してヒートパイプ5と定義している。このヒートパイプ5は、従来の施設栽培等の分野において、栽培用ベッドや、耕地を加温等する際に用いる温湯管を含む概念である。
【0029】
なお、温室2内において栽培棚3をスライド移動させる機構としては、例えば、図2に示すように、温室2内の設置面17上に栽培棚3の伸長方向に対して直交するように複数本のレール10を互いに平行に(略平行の概念も含む)配設し、そのレール10上を、スライド棚本体8が走行するように構成してもよい。
より具体的には、スライド棚本体8は、例えば、デッキ部11及び架材12からなり、レール10とデッキ部11の接触部分に移動用のコロ13を設けた台車46上に、栽培槽9を支持するのに十分な本数の支柱14を立設してその頭部を支持部15で固定し、この支持部15上に浅型トレイ状の載置部16を載置して、載置部16上に少なくとも1つの栽培槽9を載置するよう構成してもよい。
なお、本実施の形態においては、レール10上をスライド棚本体8が走行するよう構成した場合を例に挙げて説明しているが、スライド棚本体8は必ずしも図2に記載されるものに限定される必要はなく、例えば、台車46に代えて、支柱14の下端に車輪又はキャスター等を設けて、設置面17上を、スライド棚本体8が直接移動するよう構成してもよい。
すなわち、スライド棚本体8が温室2内の設置面17上を、栽培棚3の伸張方向と直交する向きにスライド移動可能に構成されるものであれば、その機構については特に問題としない。
【0030】
このように、本実施の形態に係るイチゴ栽培システム1においては、温室2内において栽培棚3をスライド可能に構成することにより、先の図1(a)に示すように温室2の中央部付近に配設される栽培棚3,3の間に通路7を形成することもでき、また、図1(b)に示すように、温室2内の右端側に通路7を形成することもできる。すなわち、通路7内における栽培棚3と栽培棚3の間の所望の位置に、あるいは、栽培棚3群の長手方向左右側に通路7を形成することができる。
また、このような栽培棚3のスライド機構を採用することにより、温室2内に配設される栽培棚3と栽培棚3の間に通路7を常設しておく必要がなくなるので、作業に最低限度必要な通路7用のエリアを確保した上で、それ以外のエリアには栽培棚3を設置することができる。
この結果、温室2内に栽培棚3を密に配置することができ、これにより、温室2内におけるイチゴ株の植え付け面積を大幅に増やすことができるので、イチゴの収量を増加させることができる。
【0031】
また、温室2内における栽培棚3の収容数が増えるということはすなわち、温室2内に配設されるヒートパイプ5の延べ長さも増加することを意味している。
発明者はこの点に注目して、ヒートパイプ5を栽培槽9に植え付けられるイチゴ株の局所の加温にのみに用いるのではなく、温室2の空気を加温する加温構造としても利用できるよう工夫した。なお、ヒートパイプ5を温室加温構造としても利用する際の具体的な構成については後段において詳細に説明する。
従って、本実施の形態に係るイチゴ栽培システム1においては、温室2内に設置する栽培棚3をスライド可能として、温室2内に密に栽培棚3を収容することにより、イチゴの収量増加効果に加えて、温室2内の暖房費の節減効果についても発揮させることができる。
なお、温室2内において栽培棚3と栽培棚3の間に形成される通路7の数の上限を1本とした場合、温室2内におけるイチゴ株の植え付け面積が最大となり、しかも、温室2に収容されるヒートパイプ5の述べ長さも最大になるので、イチゴの収量増加効果を最大にしつつ、温室2の暖房にかかるコスト節減効果をも最大にすることができる。
【0032】
また、実施例1に係るイチゴ栽培システム1においては、図2に示すように、ヒートパイプ5に加温流体を供給する温室配管4を、栽培棚3よりも鉛直上方側に、より好ましくは、作業者の頭上に配設し、さらに、ヒートパイプ5とこの温室配管4との連結部6を、例えば、可撓管により構成し、かつ、連結部6に撓みを持たせた状態としている。
この場合、温室2内において栽培棚3をスライド移動させた際に、温室配管4における供給口4a又は返送口4bから,ヒートパイプ5の端部5aまでの距離が変わった場合でもその変化量を撓んだ連結部6が吸収して、支障なく温室配管4からヒートパイプ5に,あるいは,ヒートパイプ5から温室配管4に,加温流体を送給することが可能になる。
なお、図2には、温室配管4とヒートパイプ5の連結部6を、可撓管により構成し、かつ、連結部6に撓みを持たせた場合を例に挙げて説明しているが、栽培棚3をスライド移動させた際に温室配管4及びヒートパイプ5から連結部6が外れないように構成されるのであれば、連結部6の材質や構造や形態については特に限定しない。より具体的には、温室配管4とヒートパイプ5の連結部6は、可撓性又は撓み又は伸縮性のいずれか1つ,あるいは,これらのうちの少なくとも1つ以上の組合せを具備するよう構成しておくことが望ましい。
そして、図2に示すように、ヒートパイプ5に加温流体を供給するための温室配管4を栽培棚3よりも鉛直上方に配設し、かつ、ヒートパイプ5と温室配管4との連結部6を,栽培棚3をスライド移動させた場合でも外れないよう構成することで、温室2内における栽培棚3のスライド移動及び作業者の移動をスムースに行うことができるので、温室2内の作業性を大幅に向上することができる。
【0033】
ここで、図3乃至図5を参照しながら、スライド棚本体8上に載置される栽培槽9及び栽培槽9内におけるヒートパイプ5の配設位置について詳細に説明する。
図3(a)は本発明の実施例1に係る栽培槽の概念図であり、(b)は本発明の実施例1に係る栽培槽のB−B線矢視断面図である。なお、図1又は図2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図3(a),(b)に示すように、実施例1に係る栽培槽9は、断面U字状(略U字状の概念も含む)で樋状の本体部18の内側に一定間隔毎に、本体部18の側面18aと底面18bとをつなぐ仕切り板状の補強用リブ19が本体部18と一体に設けられ、この補強用リブ19の上端部19aに、ヒートパイプ5の外形と符合する形状の切欠き部21が形成されて、この切欠き部21にヒートパイプ5を掛止して着脱可能に固定できるよう構成されるものである。
すなわち、実施例1に係る栽培槽9は、その本体部18の底面18bから一定高さを維持しながらヒートパイプ5を着脱可能に支持するための治具を備えているといえる。
【0034】
このように、実施例1に係るイチゴ栽培システム1の栽培槽9によれば、栽培槽9内の所望の位置に管状のヒートパイプ5を固定することができるので、栽培槽9内に培地を収容してイチゴ苗を植え付けた場合に、イチゴ苗におけるクラウンとヒートパイプ5の位置関係を適切な状態に容易に保つことができる。
また、特に、図3に示すような栽培槽9の場合、本体部18の形状を保持するための補強用リブ19と、ヒートパイプ5を支持するための治具とを兼ねた構成にすることができるので、その製造も容易である。さらに、このような実施例1に係る栽培槽9は、従来のヒートパイプ5を支持するための治具を備えない栽培槽と比較して、その使用方法や取扱いが大きく変わらないので、作業者に対する負担も軽減できる。
なお、栽培槽9の本体部18内に設ける補強用リブ19の数は、図3に示される数に限定される必要はなく、図示されるものよりも多くても少なくてもよい。つまり、本体部18の補強効果が十分に発揮され、かつ、ヒートパイプ5が本体部18内において撓んだりすることのないよう支持されるのであれば、補強用リブ19の取り付け位置及びその数を自由に設定することができる。
また、栽培槽9内に配設されるヒートパイプ5を、形状保持性を有する(可撓性を有さない)円筒管にした場合は、本体部18の両端部近傍にのみ補強用リブ19を設けるだけでヒートパイプ5を好適に支持することができる。
また、栽培槽9の端部に、例えば連結部20を設け、この部分を重ねながら複数の栽培槽9を連結して、水平方向に長い一連の栽培槽9としてもよい。
この場合、温室2の大きさに応じて栽培棚3の長さを適宜調整することができるので、栽培槽9の汎用性を高めることができる。
【0035】
さらに、実施例1に係る栽培槽9の本体部18は、例えば、ポリエチレン等の合成樹脂製とし、特に、その厚みを2〜6mmの範囲内とすることが望ましい。
上記構成により、栽培槽9に培地を収容した状態での長期間の使用(場合によっては10年以上)に耐えられるよう,必要かつ十分な強度を本体部18に付与するとともに、ヒートパイプ5から栽培槽9内の培地に放射された熱を、栽培槽9から温室2内に放熱し易くさせることができる。つまり、本体部18の厚みが、6mmを超えると、栽培槽9の外への放熱性が低下するだけでなく製造時にコストもかかり好ましくない。他方、本体部18の厚みが2mmを下回る場合には、十分な強度及び耐久性が期待できなくなってしまう。
【0036】
つまり、栽培槽を断熱性の高い材質で構成した場合、栽培槽から温室2への放熱が妨げられるため、イチゴ株の根やクラウンに対する局所的な加温には適するものの、栽培槽9の外に熱が放射されないので、栽培槽9の周囲の空気を加温するためには別の加温手段を採用する必要が生じてしまう。
また、先にも述べたようにイチゴ株は、クラウンのみをいかに慎重に適切な温度に保ったとしても、栽培槽上に繁茂する葉が冷気に当たって害を受けてしまった場合には、イチゴ株の生育は著しく阻害されてしまい、収量の増加は見込めなくなってしまう。また、根の温度が8℃を下回った場合も同様である。
このため、従来のイチゴ栽培設備においては、寒冷時の温室2の温度を最低でも8〜10℃に保つ必要があると考えられており、そのために多大な暖房費を費やしていた。その上で、イチゴ株のクラウンの温度を15℃程度に保つことで、花芽の分化が促進されて収量の増加が見込まれることが知られるようになり、温室の加温とは別に、栽培槽9の表層部やイチゴ株のクラウンを直接加温する技術が開発されるに至ったのである。
この場合、温室空気の加温以外に、イチゴ株のクラウンに対しても加温を行う必要があり、結果として、イチゴ株に対して二重に加温を実施する必要があり、イチゴの収量を増加させることができたとしても、費用対効果の観点からは望ましいとはいえなかった。
【0037】
そこで発明者らは鋭意研究の結果、栽培槽9内にイチゴ苗を植え付けた場合の、ヒートパイプ5の配置をクラウン下とし、より具体的には、イチゴ苗又はイチゴ株のクラウンの最下部からヒートパイプ5の上面までの距離を2cm以下と規定し、かつ、栽培槽9を構成する本体部18の材質を合成樹脂製として,その厚みを特に2〜6mmの範囲内と規定することで、ヒートパイプ5から放射される熱を栽培槽9の外に効率よく放熱させて、栽培槽9にごく近い空間を加温することに成功したのである。そして、この効果は、温室2内に栽培棚3を密に配置することで、その効果を一層高めることができるのである。
つまり、栽培槽9からの放熱量は僅かであり、温室2内全体を8℃以上に維持することはできないが、栽培槽9を含むイチゴ株の周囲だけを8℃以上に維持するのには十分である。そして、イチゴ株が加温されてさえいれば、温室2内の全ての空気を8℃以上に維持しておく必要はないので、結果として、暖房費を節減することができるのである。
すなわち、ヒートパイプ5から放射される熱をイチゴ株のクラウンの加温にのみ用いるのではなく、培地内に伸びる根や、栽培槽9上に繁茂する葉部の加温にも用いることができるよう栽培槽9の厚みを規定し、栽培棚3の配置を工夫したのである。
このように、本実施の形態に係るイチゴ栽培システム1によれば、クラウン下に配設されるヒートパイプ5のみを用いて、イチゴ株のクラウンも根も葉も効率良く加温することができるので、温室内の気温が6℃に低下した場合でも、栽培槽9から放射される熱により、イチゴ株の葉の周辺を常に8℃以上に保つことができる。
【0038】
従来技術は、イチゴ株の局所を限定的に加温するか、あるいは、イチゴ株の外側からその中心部(クラウン近傍)に向って加温するという技術思想であったのに対し、本願発明に係るイチゴ栽培システム1は、イチゴ株の中心部(クラウン近傍又はクラウン下部)から葉部や根に向って、すなわち、外側に向って加温するという技術思想であるため、従来技術とは根本的にその技術的思想を異にするものである。
従来技術は、イチゴの栽培時に暖房や局所加温を行ってコストをかけることで、収量の増加を実現していたのに対し、本願発明は、イチゴ株の局所加温と全体の加温を一元的に行って確実に収量を増加させながら、暖房費を大幅に削減することができるという独自で優れた効果を有するものである。
このことはすなわち、従来、イチゴの栽培に不可欠とされてきた加温のための燃料費を削減することであり、ひいてはイチゴ生産時に排出される温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を削減することにもつながり有用である。
【0039】
図4は本発明の実施例1に係る栽培槽にイチゴ苗を植えた状態を示す部分断面図であり、図5は本発明の実施例1に係る栽培槽に植えたイチゴ苗が成長してイチゴ株となった状態を示す部分断面図である。なお、図1乃至図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例1に係るイチゴ栽培システム1における栽培槽9には、栽培槽9内の所定の位置にヒートパイプ5を支持固定した後、栽培槽9内に配設されるヒートパイプ5の上面が培地36で覆われる程度に培地36を満たしてから、ヒートパイプ5の近傍(横)にイチゴ苗22Aを植え付ければよい。なお、本願発明に使用される培地36としては、従来公知の様々な培地を支障なく使用可能であり、その一例を挙げると、例えば、ピートモス、バーク、ロックウールを混合したものを使用しても良い。
イチゴ苗22Aにおいてクラウン22aは、他の植物における茎にあたり、このクラウン22aから葉柄部22dが伸びて葉部22cが展開するとともに、花芽が分化して、図4には特に図示しないがイチゴが結実する。このため、イチゴ苗22Aの定植時には、クラウン22aを培地上面30から裸出させた状態にしておくことが望ましい。
【0040】
そして、図4の状態でヒートパイプ5に約15℃に加熱した加温流体を送給しながらイチゴ苗22Aを栽培すると、ヒートパイプ5から放射される熱によってクラウン22aの成育が促進されて、図5に示すように、ヒートパイプ5上に乗り上がるようにクラウン22aが発達したイチゴ株22Bとなり、このクラウン22aから花芽が分化する。
そして、イチゴの収穫期ごろには、ヒートパイプ5上にクラウン22aが跨るように発達するとともに、ヒートパイプ5を抱え込むように培地36の内に根22bが発達する。この時、ヒートパイプ5の上面からイチゴ株22Bのクラウン22aの最下部までの距離C(図5を参照)を2cm以下とすることで、クラウン22aへの加温効果が確実に発揮されて、クラウン22aを加温することなくイチゴ株22Bを栽培した場合と比較してイチゴの収量を増加させることができる。
このように、本実施の形態に係るイチゴ栽培システム1においては、イチゴ苗22Aの成育の特性を把握した上で、ヒートパイプ5の近傍にイチゴ苗22Aを植えて栽培することで、結果として、イチゴ株22Bの中心部に(クラウン下に)ヒートパイプ5を配設することが可能になり、これにより、イチゴ株22Bの中心部(クラウン22a)から、外部(根22bや葉部22c)への効率的な加温が可能になるのである。
【0041】
なお、図3に示す栽培槽9に培地36を収容した際に、培地上面30位置の目安となるよう、基準線を本体部18の内側に断面凸状、又は、凹状の線として形成しておいてもよい。
この場合、栽培槽9を培地36で満たした場合の培地上面30の位置が規定されるとともに、栽培槽9の底面18bからヒートパイプ5の上面までの高さが規定されることで、イチゴ苗22Aを培地36に植え付けた際に、クラウン22aとヒートパイプ5の鉛直方向における位置関係を適切にすることができる。
この結果、ヒートパイプ5によるイチゴ株22Bのクラウン22aの加温効果を確実に発揮させることができるので、イチゴの収量増加効果を確実に発揮させることができる。
【実施例2】
【0042】
本発明の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具について図6を参照しながら詳細に説明する。
実施例2に係るヒートパイプ保持用治具は、上述の実施例1に係るイチゴ栽培システム1に用いる栽培槽のための付属品である。つまり、実施例1に係るイチゴ栽培システム1に用いる栽培槽が、図3に示すようなヒートパイプ5の支持構造を有さない場合に、栽培槽とは別体にヒートパイプ保持用治具を設けることで、その栽培槽内においてヒートパイプ5を所定の位置に着脱可能に保定することを可能にするものである。
図6(a)は本発明の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具の側面図であり、(b)は本発明の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具の使用状態を示す栽培槽の断面図である。なお、図1乃至図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
まず、図3に示すようなヒートパイプ5の支持構造を有さない栽培槽27について簡単に説明する。このような栽培槽27は、例えば、断面コ字型(略コ字型の概念も含む)又は断面U字型(略U字型の概念も含む)の樋状の本体部28内に、その側面28aと底面28bとをつなぐように,かつ,仕切り板を立設するように補強リブ29が本体部28と一体に設けられるものである。
【0043】
図3に示す実施例1に係る栽培槽9と、図6(b)に示す栽培槽27の違いは、補強用リブ29の上端部29aに、ヒートパイプ5を支持固定するための切欠き部21が形成されない点のみである。なお、栽培槽27は、合成樹脂製で、その厚みは2〜6mmの範囲内であることが望ましい。
そして、このようなヒートパイプ5の支持構造を有さない栽培槽27を用いて実施例1に係るイチゴ栽培システム1を構成する場合、イチゴ株22Bのクラウン22aとヒートパイプ5の位置関係が適切な範囲内にならず、とりわけ、クラウン22aの加温効果が発揮されにくいという課題があった。
このような事情に鑑み、発明者は図6(b)に示すような栽培槽27を用いても本発明に係るイチゴ栽培システム1を実現することができるよう、図6(a),(b)に示すようなヒートパイプ保持用治具23aを用いることを考えたのである。
【0044】
従って、実施例2に係るヒートパイプ保持用治具23aは、栽培槽27の本体部28内において,底面28bから所定の高さにヒートパイプ5を支持するための支持部として,ヒートパイプ5の断面形状と嵌合する形状に湾曲された係止部25と、この係止部25を、例えば、栽培槽27の開口端部に(側面28aの上端部に)着脱可能に装着させるための、例えば、フック状の装着部26から構成されるものである。また、実施例2に係るヒートパイプ保持用治具23aは、例えば、金属製のワイヤ、又は、合成樹脂製のワイヤを成形したものでもよい。
なお、係止部25は、ヒートパイプ5の断面形状と必ずしも符合する形状とする必要はなく、ヒートパイプ5を保定することができればその形態は特に問題としない。
このような実施例2に係るヒートパイプ保持用治具23aを用いることによれば、ヒートパイプ5の支持構造を有さない栽培槽27についても、先に述べたような実施例1に係るイチゴ栽培システム1に用いることができる。
この結果、栽培槽27の利用性を高めることができるとともに、実施例1に係るイチゴ栽培システム1を実施する際に、栽培槽27を支障なく用いて、イチゴの収量増加効果と、温室2の暖房用コストの削減効果を同時に発揮させることができる。
【実施例3】
【0045】
実施例3に係るヒートパイプ保持用治具について図7を参照しながら詳細に説明する。実施例3に係るヒートパイプ保持用治具は、実施例2に係るヒートパイプ保持用治具と同じ効果、ずなわち、図6(b)に示すような栽培槽27に装着されてヒートパイプ5の保持効果を発揮するものであるが、その形態が実施例2に係るヒートパイプ保持用治具23aと異なる。
図7(a)は本発明の実施例3に係るヒートパイプ保持用治具の側面図であり、(b)は本発明の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具を鉛直下側から見た平面図であり、(c)は本発明の実施例3に係るヒートパイプ保持用治具の使用状態を示す栽培槽の断面図である。なお、図1乃至図6に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図7(a)に示すように、実施例3に係るヒートパイプ保持用治具23bは、板状で栽培槽27の伸長方向と直交する向きの断面形状47の一部と符合する形状を有する治具本体31の上端31aに、ヒートパイプ5を保持するための支持部32を、また、図6(b)に示すような従来技術に係る栽培槽27に治具本体31を着脱可能に保持させるための装着部33を、治具本体31の左右両端部に備えるものである。
より具体的には、実施例3に係るヒートパイプ保持用治具23bにおいて、装着部33は、治具本体31の上端31aに、ヒートパイプ5を掛着保持するための切欠き48が形成され、また、図7(b)に示すように、治具本体31の下端31bから側端31cにかけて,栽培槽27の補強リブ29の上端部29aを収容可能なスリット34が形成されるものである。
このような実施例3に係るヒートパイプ保持用治具23bを、図6(b)に示すような栽培槽27の内側に装着した状態を示す栽培槽27の断面図が図7(c)である。
【0046】
図7(c)に示すように、実施例3に係るヒートパイプ保持用治具23bは、治具本体31に形成されるスリット34内に、栽培槽27内に形成される補強リブ29の上端部が入り込んで、スリット34の上端34aにおいて係止することで栽培槽27に装着される。
そして、この状態で治具本体31の上端31aに形成される切欠き48にヒートパイプ5を装着することで、栽培槽27内におけるヒートパイプ5の取り付け高さを一定に保つことができるのである。
なお、ヒートパイプ保持用治具23bにおいては、治具本体31の肉厚部内に形成されるスリット34におけるスリット34の上端34aの位置が決まれば、栽培槽27の断面におけるヒートパイプ5の固定位置が決まるので、スリット34の上端34a以外の部分については、補強リブ29の上端が侵入可能であればその大きさや形状は特に問題としない。
また、実施例2又は実施例3に係るヒートパイプ保持用治具23a,23bを装着する栽培槽27の側面28aの内側に、培地36の収容量の上限を示す規準線(図示せず)を設けた場合、栽培槽27にイチゴ苗22Aを植え付けた場合の、クラウン22aとヒートパイプ5の位置関係を適切な範囲内にすることができるので好ましい。
このような実施例3に係るヒートパイプ保持用治具23bによれば、上述の実施例2に係るヒートパイプ保持用治具23aと同じ効果を有する。
【0047】
なお、上述の実施例2,3においては、ワイヤ状及び平板状のヒートパイプ保持用治具について具体例を挙げて説明したが、本発明に係るヒートパイプ保持用治具は、図6や図7に示す形態に必ずしも限定される必要はなく栽培槽27内においてヒートパイプ5を一定の高さに保持するための支持部と、この支持部を栽培槽27に着脱可能に固定するための装着部を備えるものであれば、その形態は特に問題としない。また、実施例2に係るヒートパイプ保持用治具23a,23bにおいては、1つのヒートパイプ保持用治具23a,23bに2箇所のヒートパイプ5の支持部を設ける場合を例に挙げて説明したが、1箇所の支持部に対して1つの装着部を有する構造にして、1つのヒートパイプ保持用治具によりヒートパイプ5を1本のみ支持できるようにしてもよい。この場合も、実施例2,3に示すヒートパイプ保持用治具23a,23bと同じ効果が期待できる。
【実施例4】
【0048】
本発明の実施例4に係るイチゴ栽培システム1について図8及び図9を参照しながら詳細に説明する。
実施例4に係るイチゴ栽培システムは、上述の実施例1に係るイチゴ栽培システム1における温室配管4,および,温室配管4とヒートパイプ5の間を循環する加温流体の加熱設備及びその送給手段等の配置を具体的に示したものである。
図8は本発明の実施例4に係るイチゴ栽培システムのシステム構成図であり、図9は本発明の実施例4に係るイチゴ栽培システムにおけるセンサの取付け位置を示す断面図である。なお、図1乃至図7に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図8に示すように、実施例4に係るイチゴ栽培システム1aは、ヒートパイプ5から返送された加温流体を還送させるための還送路4dと,手動弁39と,加熱設備37と,流体送給設備38と,加温済の加温流体をヒートパイプ5に送給するための供給路4cとを,この順序で直列に接続する第1の温室配管40(図8中において二重線で示す部分)と、この第1の温室配管40から分岐して加熱設備37をバイパスして加温流体を流体送給設備38に送給する第2の温室配管42と、先の第1の温室配管40と第2の温室配管42の分岐点52の上流側に配置される分岐点53から分岐し,遠隔操作可能な弁43を備えて加熱設備37に加温流体を送球する第3の温室配管44とを有するものである。なお、必要に応じて、第2の温室配管42に手動弁41を、第3の温室配管44に設けられる弁43と加熱設備37の間に手動弁45を備えてもよい。
また、温室2の中央部に配置される栽培槽9に植え付けられるイチゴ株22Bの株元にセンサ50,51が設けられている(図9を参照)。なお、栽培槽9中に設置されるセンサ50は、培地36の温度が15℃を超えているか否かを検知するものであり、センサ51は、培地36の温度が13℃を超えているか否かを検知するものである。
また、加熱設備37においては、例えば、サーモスタッド方式等により第1の温室配管40や、第3の温室配管44から流入する加温流体の温度が60℃程度に保たれるように設定されている。
なお、加温流体としては、水を想定しているが、水以外にも油や空気、蒸気等の流体が支障なく使用可能である。
また、実施例4では、イチゴ栽培システム1aにおけるヒートパイプ5内の加温流体の温度制御の仕組みが理解され易いよう、センサ50とセンサ51を別々にした場合を例に挙げて説明しているが、1つでセンサ50とセンサ51の機能を兼ねるような図示しないセンサを1つ用いてもよい。
【0049】
上述のような実施例4に係るイチゴ栽培システム1aにおいて、ヒートパイプ5に送給する加温流体の温度の制御方法は下記の通りである。
栽培槽9中に設置されるセンサ50により検出される培地36の温度が15℃を超えている場合は、流体送給設備38は作動せず、温室配管4中の加温流体は流動しない(制御0)。
他方、温室2内の気温の低下に伴って栽培槽9内の培地36の温度が低下し、センサ50により培地36の温度が15℃を下回ったことが検出されると、この検出信号に基づいて流体送給設備38が作動を開始し、加温流体による培地36の加温が開始される(制御1)。
より具体的には、還送路4dに集められた加温流体の一部は第1の温室配管40を介して加熱設備37に送給され、そこで60℃程度に加熱されて合流点54に送給される一方、還送路4dに集められた他の加温流体は、分岐点52から第2の温室配管42を介して加熱設備37に送給されることなく合流点54へと送給される。この結果、合流点54において加熱設備37において加熱された加温流体と、加熱されなかった加温流体とが混合されて、20℃程度の温度に調整された温済み加温流体となり、供給路4c及び連結部6を介して栽培槽9内に配設されるヒートパイプ5に送給されて、栽培槽9内の培地36が加温される。
【0050】
さらに、上述のように培地36の温を行った場合でも温室2内の気温の低下がさらに進んで栽培槽9内に収容される培地36の温度を15℃以上に維持することができず、センサ51において培地36の温度が13℃を下回ったことが検出された場合には、この検出信号に基づいて、今度は弁43が遠隔操作により開動作して、分岐点53から加温流体が第3の温室配管44に引き込まれて、第1の温室配管40に加えて、第3の温室配管44からも加熱設備37に加温流体が送給される。この結果、先の制御1の場合よりも、さらに合流点54における加温済み加温流体の温度が上昇する(制御2)。
そして、この後、加温流体による培地36の加温が進み、センサ51において培地36の温度が13℃以上になったことが検出されると、この検出信号に基づいて弁43は遠隔操作により閉動作されて、再び、第1の温室配管40のみから加熱設備37に加温流体が供給される制御1が実施される。
さらにこの後、センサ50において培地36の温度が15℃以上になったことが検知されると、この検知信号に基づいて流体送給設備38の作動が停止し、温室配管4中の加温流体の流動も停止して制御0の状態に戻る。
【0051】
すなわち、実施例4に係るイチゴ栽培システム1aにおいては、栽培槽9内に収容される培地36の温度が15℃以上の場合は、培地36の加温は行われず(制御0)、培地36の温度が13℃以上15℃未満の場合は制御1が実施され、この制御1が実施されたにも関わらず培地36の温度が13℃を下回った場合には、制御2が実施される仕組みになっている。
【0052】
上述のような実施例4に係るイチゴ栽培システム1aによれば、栽培槽9内に収容される培地36の温度を13〜15℃の範囲内に維持することができるという効果を有する。また、そのための設備として、温室栽培に使用される温室暖房用の従来公知の燃料燃焼型のボイラーと、手動弁と、遠隔操作可能な弁43と、センサ50,51及び温室配管4のみからなる簡素な構成により上記効果を実現することができる。
この場合、実施例4に係るイチゴ栽培システム1aを実施するための設備を建設する際のコストを抑えることができ、かつ、その実施時のメンテナンスにかかるコストについても抑えることができるという効果を有する。
すなわち、実施例4に係るイチゴ栽培システム1aによれば、イチゴ株22Bの栽培面積を増加させることができ、その加温にかかるコストを節減することができ、かつ、イチゴの収量を確実に増加させることのできるイチゴ栽培システム1aをより少ない投資により実施可能にすることができるという効果を有する。
この結果、生産者の経済的負担を大幅に軽減するとともに、二酸化炭素排出量も削減することができる。
なお、図8では、温室2の外に加熱設備37や流体送給設備38等を設けた場合を例に挙げて説明しているが、これらは温室2内に設置してもよい。
【0053】
なお、本発明に係るイチゴ栽培システム1による効果を立証する目的で実施した試験結果について説明する。
I)まず、試験方法について説明する。
本試験は、山口県農林総合技術センター(山口県山口市)内に、従来型高設栽培システムおよび発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム1a)を設置し、イチゴ促成栽培における暖房用燃料(灯油)使用量および収量を平成19年および20年度に調査した。
従来型高設栽培システムは、間口7.6m×長さ25mの温室に設置し、発明した高設栽培システムは間口6.2m×長さ22mの温室に設置した。
本試験に採用した従来型高設栽培システム及び発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム1a)は、外成り型と内なり型の2方式とし、イチゴ品種は‘とよのか’を用い、培地36としてココピート、ロックウール粒状綿、バーク堆肥を等分混合したものを供試した。
II)次に、試験結果について説明する。
(1)収量について
図10は発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム)と、従来型高設栽培システムのそれぞれにおけるイチゴの収量の積算値を示すグラフである。
図10に示すように、外成り型と内成り型ともに、発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム1a)の場合、従来型高設栽培システムと比較して、10a(アール)当り収量は1.8〜2倍に増加した。
(2)省エネルギー効果について
イチゴ促成栽培では、イチゴ苗及びイチゴ株の生育を維持するために、冬季の温室内暖房は不可欠である。
以下の表1に、発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム)と、従来型高設栽培システムのそれぞれにおける暖房用燃料の使用量を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
従来型高設栽培システムでの栽培では、温風ボイラから温室内ダクトに温風を供給し、温室内最低気温8℃を確保している。これに対し、発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム)では、温湯ボイラ(加熱設備37)からイチゴ株元に設置した培地内温湯パイプ(ヒートパイプ5)に約20℃の温湯を供給して培地36の加温を行った。発明した高設栽培システム(本願発明に係るイチゴ栽培システム)では、株当たり暖房用燃料使用量を、従来型に対して約50%削減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明はイチゴ株の加温にかかるコストを節減しながらイチゴの収量を増加させることのできるイチゴ栽培システム及びそれに用いる栽培槽及びヒートパイプ保持用治具に関するものであり、農業の分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1,1a…イチゴ栽培システム 2…温室 3…栽培棚 4…温室配管 4a…供給口 4b…返送口 4c…供給路 4d…還送路 5…ヒートパイプ 5a…端部 6…連結部(接続部) 7…通路 8…スライド棚本体 9…栽培槽 10…レール 11…デッキ部 12…架材 13…コロ 14…支柱 15…支持部 16…載置部 17…設置面 18…本体部 18a…側面 18b…底面 19…補強用リブ 19a…上端部 20…連結部 21…切欠き部 22A…イチゴ苗 22B…イチゴ株 22a…クラウン 22b…根 22c…葉部 22d…葉柄部 23a,23b…ヒートパイプ保持用治具 24…治具本体 25…掛止部 26…装着部 27…栽培槽 28…本体部 28a…側面 28b…底面 29…補強リブ 29a…上端部 30…培地上面 31…治具本体 31a…上端 31b…下端 31c…側端 32…支持部(切欠き部) 33…装着部(嵌合部) 34…スリット 34a…上端 35…折り返し部 36…培地 37…加熱設備 38…流体送給設備 39…手動弁 40…第1の温室配管 41…手動弁 42…第2の温室配管 43…弁 44…第3の温室配管 45…手動弁 46…台車 47…断面形状 48…切欠き 50,51…センサ 52,53…分岐点 54…合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気から遮蔽された空間を形成する温室と、この温室内に並列される複数列の栽培棚と、この栽培棚上に載置される少なくとも1つの樋状の栽培槽と、この栽培槽内で,かつ,この栽培槽の長手方向を縦断するように配設される少なくとも1本のヒートパイプと、前記温室内に配設され,前記ヒートパイプに加温用流体を供給するための温室配管と、前記ヒートパイプと前記温室配管とをつなぐ連結部と、前記加温用流体を加熱するための加熱設備と、前記加温流体を前記温室配管および前記ヒートパイプに循環送給させるための流体送給設備と、を有し、
前記栽培棚は、その伸長方向と直交する方向にスライド可能であり、
前記栽培槽は、合成樹脂製で,その厚みは2〜6mmの範囲内であり、
前記ヒートパイプは、前記栽培槽内に植え付けられるイチゴ株のクラウン下に配設されることを特徴とするイチゴ栽培システム。
【請求項2】
前記温室配管は、前記温室内において前記栽培棚よりも鉛直上方側に配設され、
前記連結部は、前記栽培槽が前記温室内をスライド移動した際に,前記温室配管から前記ヒートパイプの外れを防止するために可撓性又は撓み又は伸縮性のいずれか1つ,あるいは,これらのうちの少なくとも1つ以上の組合せを具備することを特徴とする請求項1記載のイチゴ栽培システム。
【請求項3】
前記温室内において作業者が通行できる通路は、前記栽培槽の伸長方向と平行に1本のみ形成可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイチゴ栽培システム。
【請求項4】
前記温室配管は、手動弁を備えて前記加熱設備に接続された後に前記流体送給設備に接続される第1の温室配管と、この第1の温室配管から分岐して前記加熱設備をバイパスして前記流体送給設備に接続される第2の温室配管と、前記第1の温室配管と第2の温室配管の分岐点よりも上流側で分岐し,遠隔操作可能な弁を備えて前記加熱設備に接続された後に前記流体送給設備に接続される第3の温室配管とを有し、前記遠隔操作可能な弁は前記イチゴ株のクラウン下の培地の温度を検出して開閉制御されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システム。
【請求項5】
前記ヒートパイプの上面から前記イチゴ株のクラウンの最下部までの距離は2cm以内であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムに用いるための栽培槽であって、
前記栽培槽は、その内部において前記ヒートパイプを所望の高さに維持しながら支持するための治具を、前記栽培槽と一体又は別体に備えることを特徴とする栽培槽。
【請求項7】
前記治具は、前記栽培槽内に一定間隔毎に,前記栽培槽の側面と底面とをつなぎながら前記栽培槽に一体に立設される補強用リブであり、
この補強用リブは、その上端に,前記ヒートパイプを掛止するための切欠き部を備えることを特徴とする請求項6記載の栽培槽。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のイチゴ栽培システムに用いるためのヒートパイプ保持用治具であって、
このヒートパイプ保持用治具は、前記培養槽内に前記ヒートパイプを所望の高さに維持しながら支持する支持部と、この支持部を前記栽培槽内に着脱可能に固定するための装着部とを有することを特徴とするヒートパイプ保持用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−34660(P2012−34660A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179914(P2010−179914)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年度 施設園芸省エネ新技術等開発支援事業報告書 社団法人 日本施設園芸協会 平成22年4月26日
【出願人】(593030783)株式会社サンポリ (1)
【出願人】(391016082)山口県 (54)
【Fターム(参考)】