説明

イニシエータ用点火薬とその製造方法及びそれを用いたイニシエータの製造方法

【課題】 ガス発生器、特にシートベルトプリテンショナーやエアバックインフレータを作動させる場合に好適な電気式ガス発生器のイニシータ用点火薬とその製造方法及びそれを用いたイニシエータの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のイニシエータ用点火薬は、電気信号が与えられた場合に一対の電流伝達ピンを介して接続された発熱体の発熱によって点火薬が発火する点火機構を有するイニシエータにおいて、前記点火薬は燃料成分がジルコニウムであり、酸化剤成分が過塩素酸カリウムである混合物を主とするスラリー状点火薬であって、バインダー成分はニトロセルロースであり、その配合量はジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対して外割0.1重量%以上0.5重量%以下であり、溶剤は酢酸イソアミルであり、その配合量はジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対し12.5重量%以上14.0重量%以下であり、これを前記発熱体に塗布乾燥することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器、特にシートベルトプリテンショナーやエアバックインフレータを作動させる場合に好適な電気式ガス発生器のイニシータ用点火薬とその製造方法及びそれを用いたイニシエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に自動車等の車両には、衝突の際の衝撃から運転者や同乗者を保護するためにシートベルトやエアバック等の安全装置が設けられている。例えばシートベルトにおいては、ベルトの巻取装置に急速巻取手段が付設され、事故等の緊急時にはこの急速巻取手段を作動させ、シートベルトを瞬時に巻き取ることによって衝突の際の衝撃から運転者及び同乗者を確実に保護するようにしている。
【0003】
この種の急速巻取手段としては、火薬の燃焼によってガスを発生させるようにしたガス発生器を適用したものが多く普及している。すなわち、衝突の際の衝撃で作動する一対の電流通電ピンを含んだ電気点火具によってガス発生器内の火薬を燃焼させ、その際に発生する燃焼ガスの圧力でシリンダのピストンや回転体を瞬時に駆動することにより、ベルトを急速に巻き取るようにしたものである。
【0004】
この電気式イニシエータには点火薬を用いているが、従来には温度に鋭感なトリシネートを主とする鉛を含有する点火薬を用いていた。
しかし、昨今においては環境負荷物質である鉛を含有した点火薬の使用規制が明確になり、鉛を含有しないジルコニウムなどから成る燃料物質と鉛を含有しない過塩素酸カリウムなどからなる酸化剤の混合物を用いた点火薬が利用されている。
【0005】
このような点火薬では、ジルコニウムなどから成る粉末状の燃料物質と過塩素酸カリウムなどから成る粉末状の酸化剤に、バインダーと溶剤を加え、らいかい機などを用いて造粒した後に整粒して顆粒とした点火薬を所定量計量して発熱体上に圧搾する方法がある。
【0006】
一方、例えば特許文献1,2に開示されるように、溶媒中に燃料物質と酸化剤を分散させ、スラリーとした後に、これを発熱体上に滴下、乾燥させて点火薬を形成する方法がある。
【0007】
これらの方法で形成された発熱体状の点火薬は、ケースやピン、樹脂モールドを配すことでイニシエータとなる。
【0008】
上記のように構成されたイニシエータでは、衝突の際の衝撃が電気信号として一対の電流伝達ピンに与えられると、これら電流伝達ピンの間の発熱体が発熱するようになり、この発熱によって点火薬が発火し、次にシートベルトプリテンショナー用ガス発生器やエアバック用インフレータが作動する。
【0009】
シートベルトプリテンショナー用ガス発生器が作動すると、この燃焼ガスの圧力によってシートベルトの急速巻取手段が瞬時に作動することになる。
また、エアバック用インフレータが作動すると、この燃焼ガスの圧力によってエアバックが瞬時に膨らむことになる。
【特許文献1】特開2004−115001公報
【特許文献2】特開平9−210596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、従来のイニシエータに用いる点火薬は、ジルコニウムなどから成る粉末状の燃料物質と過塩素酸カリウムなどから成る粉末状の酸化剤にバインダーと溶剤を加え、らいかい機などを用いて造粒した後に整粒して顆粒としている。さらにこの点火薬を所定量計量した後に発熱体上に圧搾している。
しかしながら、この方法においては造粒時の溶剤量を少なくしなければならないため、らいかい機などの摩擦によって点火薬の製造中に発火する危険が高かった。また、圧搾により発熱体と点火薬を密着させるため着火信頼性は高いが、顆粒状の乾燥薬を用いて圧搾するため、造粒工程と同じく摩擦により発火する危険が高く、製造上の安全性を確保することが大きな課題であった。
【0011】
また、前述のように、溶媒中に燃料物質と酸化剤を分散させ、スラリーとした後に、これを発熱体上に滴下、乾燥させて点火薬を形成する方法が特許文献1,2などにて提案されている。
しかしながら、この方法においては溶剤量が多く、スラリーになっているため、混和時の摩擦の影響は大いに緩和できるが、スラリー中の溶剤量が多すぎる場合には、発熱体部に滴下した点火薬の溶剤が乾燥する時に発熱体部との接触部に空隙や穴の発生が生じ、着火信頼性が著しく低下するものであった。一方、スラリー中の溶剤量が少なすぎる場合には、混和の均一性を確保できないばかりか、滴下することが困難なため、発熱体部との接触の信頼性についても著しく低下していた。そのため、特許文献1,2に開示された組成範囲では上記のような課題が発生してしまっていた。
【0012】
そこで、本発明は、点火薬製造時の安全性と着火信頼性を両立させることを目的とするイニシータ用点火薬とその製造方法及びそれを用いたイニシエータの製造方法を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、以下のような発明である。
(1)電気信号が与えられた場合に一対の電流伝達ピンを介して接続された発熱体の発熱によって点火薬が発火する点火機構を有するイニシエータにおいて、前記点火薬は燃料成分がジルコニウムであり、酸化剤成分が過塩素酸カリウムである混合物を主とするスラリー状点火薬であって、バインダー成分はニトロセルロースであり、その配合量はジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対して外割0.1%重量以上0.5重量%以下であり、溶剤は酢酸イソアミルであり、その配合量はジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対し12.5重量%以上14.0重量%以下であり、これを前記発熱体に塗布乾燥することを特徴とするイニシエータ用点火薬。
(2)点火薬に用いられるジルコニウムと過塩素酸カリウムの重量比がジルコニウムは50〜70%、過塩素酸カリウムが30〜50%で構成される前記(1)に記載のイニシエータ用点火薬。
(3)前記(1)又は(2)に記載の点火薬を製造する方法であって、ジルコニウムは酢酸イソアミルでスラリーにした状態で取り扱うことを特徴とするイニシエータ用点火薬の製造方法。
(4)前記(1)又は(2)に記載の点火薬を用いたイニシエータの製造方法であって、シリンジに投入した点火薬をディスペンサで発熱体に塗布し、乾燥を常温又は加温にて行うことを特徴とするイニシエータの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のイニシエータ用点火薬は、電気信号が与えられた場合に一対の電流伝達ピンを介して接続された発熱体の発熱によって点火薬が発火する点火機構を有するイニシエータにおいて、高い信頼性と高い安全性を有するイニシエータ用点火薬を提供できる。
【0015】
また、本発明のイニシエータ用点火薬の製造方法は、ジルコニウムは酢酸イソアミルでスラリーにした状態で取り扱うので、製造時の静電気に対し鈍性化が可能なため、高い安全性を有する製造が可能になる。
【0016】
さらに、本発明のイニシエータの製造方法は、シリンジに投入した点火薬をディスペンサで発熱体に塗布し、乾燥を常温又は加温にて行うので、品質的に安定で且つ高い安全性を有するイニシエータの製造が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における点火薬は、燃料成分としてジルコニウムを用い、酸化剤成分として過塩素酸カリウムを用いるスラリー状点火薬であり、ジルコニウムと過塩素酸カリウムの重量比はジルコニウムが50〜70%、過塩素酸カリウムは30〜50%が好ましい。ジルコニウムと過塩素酸カリウムのジルコニウムが50%未満の場合及び過塩素酸カリウムが50%よりも多い場合は、ガス発生剤への伝火性能が低下するためガス発生器の作動時間が遅くなり好ましくない。一方、ジルコニウムが70%よりも多い場合及び過塩素酸カリウムが30%未満の場合は、点火薬の着火性が低下するためガス発生器の作動時間が遅くなり好ましくない。
【0018】
本発明における点火薬にバインダー成分として用いるニトロセルロースの配合量は、ジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対して外割0.1重量%以上0.5重量%以下が好ましい。ニトロセルロースの配合比が外割0.1重量%未満の場合は、スラリーとしての流動性を確保できない。一方、外割0.5重量%よりも多い場合は、スラリー乾燥時に空洞が発生するため最も重要な品質要求である着火信頼性が低下すると同時に、点火薬スラリーをディスペンサ塗布する場合において、粘調性が強すぎるため量産性に欠ける。
【0019】
本発明における点火薬に溶剤として用いる酢酸イソアミルの配合量は、ジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対して12.5重量%以上14.0重量%以下である。12.5%未満の場合は、スラリーとしての流動性を確保できない。一方、14.0重量%よりも多い場合は、空洞が発生するため最も重要な品質要求である着火信頼性が低下すると同時に、スラリー中で沈降によりジルコニウムと過塩素酸カリウムの成分分離が発生するため好ましくない。
【0020】
前記バインダーのニトロセルロースは、あらかじめ前記溶剤である酢酸イソアミルに溶解しておくことが好ましい。
【0021】
また、本発明の点火薬の製造方法において、ジルコニウムは酢酸イソアミルでスラリーにした状態で取り扱うが、その理由は、ジルコニウム粉末は乾燥状態においては静電気感度に対し著しく鋭感なため、点火薬製造時中の発火事故をまねく恐れがあるからである。そのため、製造中の安全確保には有益である。
【0022】
さらに、本発明のイニシエータの製造方法は、点火薬塗布において、半導体などの分野で一般的に用いられるディスペンサを用いた塗布工程が可能である。また、溶剤の酢酸イソアミルの乾燥は常温で行うことができ安全確保には有益である。加温にて乾燥する場合は、点火薬の品質や安全性を考慮して行えばよい。
【実施例】
【0023】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る電気発火式イニシエータの実施形態を概念的に示した断面図である。
ここで例示するイニシエータは、先に説明したシートベルトやエアバッグ等の車両用安全装置に適用されるものであり、車両とのインターフェイスになるピン1を2本備えている。一対のピン1はステム2の一部である。ステム2のインナー側のピン1には発熱部を具備した基板3が配され、発熱部(図示せず)の両端部はそれぞれのピン1と半田で接合される。基板3の発熱部の上にはスラリー状の点火薬4を塗布した後に乾燥する。一方、樹脂ケース6に挿入した金属ケース5に着火薬7を所定量投入する。
【0024】
着火薬7が入った金属ケース5に点火薬4を塗布・乾燥したステム2を挿入し、カシメによって固定した後、シートベルト用ガス発生器やエアバック用インフレータに固定するための形状を有した樹脂モールド8を施す。
以上の工程により、イニシエータは構成される。
【0025】
図2は、点火薬の製造方法を示すブロック図である。
まず、所定量計量した溶剤の酢酸イソアミル11に、所定量計量したバインダーのニトロセルロース12を加え、バインダー溶解15を行う。次に、所定量のジルコニウムに対して所定量に調整された酢酸イソアミルを用いたジルコニウムスラリー13を、バインダー溶解15されたバインダー溶液に加え、燃料混和16を行う。続いて、所定量計量した過塩素酸カリウム14を、燃料混和16を施したスラリーに加え、酸化剤混和17を行い、点火薬スラリー18が完成する。
【0026】
図3は、ジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対するバインダーのニトロセルロースの配合量と空洞発生率を示したグラフである。
バインダーのニトロセルロースの配合量が外割0.5重量%よりも多い場合は、空洞が発生し、着火信頼性が低下するため好ましくない。一方、バインダーのニトロセルロース配合量が外割0.1重量%以下の場合は、スラリーとしての流動性を確保できず好ましくない。
【0027】
図4は、ジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対する溶剤の酢酸イソアミルの配合量と空洞発生率を示したグラフである。
溶剤の酢酸イソアミルの配合量が14.0重量%よりも多い場合は、空洞が発生し、着火信頼性が低下するため好ましくない。一方、溶剤の酢酸イソアミルの配合量が12.5重量%未満の場合は、スラリーとしての流動性を確保できない。
【0028】
図5は、ジルコニウムと過塩素酸カリウムの重量比と着火時間並びに伝火性の尺度になるガス発生器としての作動待ち時間を示したグラフであり、ジルコニウム重量比が60%及び過塩素酸カリウム配合比が40%の時をそれぞれ100として示している。
これによれば、ジルコニウムの配合比が50%未満の場合及び過塩素酸カリウムが50%よりも多い場合は、作動待ち時間が長くなり好ましくない。一方、ジルコニウムが70%よりも多い場合及び過塩素酸カリウムが30%未満の場合は、点火薬の着火性が低下するため好ましくない。
【0029】
図6は、イニシエータの発熱部に点火薬スラリーを塗布、乾燥し、点火薬を構成するブロック図を示している。
点火薬スラリー18をシリンジ投入19工程でシリンジに投入し、ディスペンサ装置にセットする。セットされたシリンジには、ディスペンサから定時間定圧で圧力を供給し、イニシエータの発熱部に点火薬スラリー18をディスペンサ塗布20する。これを常温乾燥21して発熱体に点火薬を配す。これによれば、点火薬スラリーを一定条件で塗布することが可能なため、バラツキが小さく、品質を向上せしめたイニシエータを提供することが可能になる。また、取り扱い時は、スラリー上のため製造上の安全性も確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る電気発火式イニシエータの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る点火薬の製造方法を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る点火薬のジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対するバインダーのニトロセルロースの配合量と空洞発生率を示したグラフである。
【図4】本発明に係る点火薬のジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対する溶剤の酢酸イソアミルの配合量と空洞発生率を示したグラフである。
【図5】本発明に係る点火薬のジルコニウムと過塩素酸カリウムの重量比と着火時間並びに伝火性の尺度になるガス発生器としての作動待ち時間を示したグラフである。
【図6】本発明に係るイニシエータの発熱部に点火薬スラリーを塗布、乾燥し、点火薬を構成するブロック図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ピン
2 ステム
3 基板
4 点火薬
5 金属ケース
6 樹脂ケース
7 着火薬
11 酢酸イソアミル
12 ニトロセルロース
13 ジルコニウムスラリー
14 過塩素酸カリウム
15 バインダー溶解
16 燃料混和
17 酸化剤混和
18 点火薬スラリー
19 シリンジ投入
20 ディスペンサ塗布
21 常温乾燥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号が与えられた場合に一対の電流伝達ピンを介して接続された発熱体の発熱によって点火薬が発火する点火機構を有するイニシエータにおいて、前記点火薬は燃料成分がジルコニウムであり、酸化剤成分が過塩素酸カリウムである混合物を主とするスラリー状点火薬であって、バインダー成分はニトロセルロースであり、その配合量はジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対して外割0.1重量%以上0.5重量%以下であり、溶剤は酢酸イソアミルであり、その配合量はジルコニウムと過塩素酸カリウムの合算量に対し12.5重量%以上14.0重量%以下であり、これを前記発熱体に塗布乾燥することを特徴とするイニシエータ用点火薬
【請求項2】
点火薬に用いられるジルコニウムと過塩素酸カリウムの重量比がジルコニウムは50〜70%、過塩素酸カリウムが30〜50%で構成される請求項1に記載のイニシエータ用点火薬。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイニシエータ用点火薬を製造する方法であって、ジルコニウムは酢酸イソアミルでスラリーにした状態で取り扱うことを特徴とするイニシエータ用点火薬の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の点火薬を用いたイニシエータの製造方法であって、シリンジに投入した点火薬をディスペンサで発熱体に塗布し、乾燥を常温又は加温にて行うことを特徴とするイニシエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−176739(P2007−176739A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377184(P2005−377184)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(390034382)昭和金属工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】