説明

イミド化メタクリル系樹脂組成物およびこれを用いる成形体

【課題】 成形加工性、耐折曲げ性に優れ、透明性、低複屈折性、耐熱性が良好なイミド化メタクリル系樹脂組成物が求められていた。
【解決手段】 特定組成からなるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下に、特定組成のメタクリル酸エステル系重合体(A)を重合して得られるメタクリル系樹脂組成物(C)を、イミド化剤で処理して得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物を提供した。成形加工性、耐折曲げ性に優れ、更に透明性、低配向複屈折性、耐熱性が良好であり、有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形加工性、耐折曲げ性に優れ、透明性、耐熱性が良好なイミド化メタクリル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特長を生かし、多様な用途で用いられるようになってきている。一方、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの分野では画面の大型化に伴う重量増を抑制することも要求されている。
【0003】
上述のような電子機器をはじめとする、透明性が要求される用途においては、従来ガラスが使用されていた部材を透明性が良好な樹脂へ置き換える流れが進んでいる。
ポリメタクリル酸メチルを代表とする種々の透明樹脂は、ガラスと比較して成形性、加工性が良好で、割れにくい、さらに軽量、安価という特徴などから、液晶ディスプレイや光ディスク、ピックアップレンズなどへの展開が検討され、一部実用化されている。
【0004】
自動車用ヘッドランプカバーや液晶ディスプレイ用部材など、用途の拡大に従って、透明樹脂は透明性に加え、耐熱性も求められるようになっている。ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンは透明性が良好であり、価格も比較的安価である特徴を有しているものの、耐熱性が低いため、このような用途においては適用範囲が制限される。
【0005】
そのためポリメタクリル酸メチルの耐熱性を改善する方法として、ポリメチルメタクリレートやメチルメタクリレート−スチレン共重合体に一級アミンを処理して、イミド化することで耐熱性を向上させるという技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。これらのポリメチルメタクリレート等に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は透明性や耐熱性が良好であり、各種用途、例えば光学用途などで有効に使用できる可能性がある。しかしながら、このようにして得られる高耐熱性を示すイミド樹脂は溶融粘度も高くなり、複雑な形をした成形品や、薄膜フィルムなどの精密な成形が必要とされる加工には適していない、ことが課題として挙げられる。さらに、上述したイミド樹脂は非常に脆いことがあり耐折曲げ性に劣ることも課題であった。
【特許文献1】米国特許第4246374号
【特許文献2】米国特許第4727117号
【特許文献3】米国特許4,954,574号
【特許文献4】米国特許5,004,777号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、成形加工性、耐折曲げ性に優れ、透明性、低配向複屈折性、耐熱性が良好なイミド化メタクリル系樹脂組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を鑑み鋭意検討した結果、メタクリル酸エステル系重合体(A)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜99重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜49重量%、芳香族ビニル単量体1〜50重量%、重合開始剤0.03〜3.5重量%および連鎖移動剤0.02〜2.2重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られ、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物と、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られ、さらに、メタクリル酸エステル系重合体(A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下において重合することより得られるメタクリル系樹脂組成物(C)を、
イミド化剤で処理することにより改質されたイミド化メタクリル系樹脂組成物を提供した。これによれば、成形加工性、耐折曲げ性、透明性、低配向複屈折性および耐熱性に優れることを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば成形加工性、耐折曲げ性、透明性、低複屈折性および耐熱性に優れたイミド化メタクリル系樹脂組成物を提供することが可能となり、従来耐熱性の問題でポリメチルメタクリレートではガラスの置換ができなかった成形体への展開が可能となる可能性があり、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本実施形態では、下記一般式(1)で表される繰り返し単位からなる架橋弾性体粒子(コア層)(以下、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)という)に、下記一般式(1)で表される繰り返し単位および下記一般式(2)で表される繰り返し単位をシェル層(メタクリル酸エステル系重合体(A))として有するコアシェル系メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(以下、メタクリル系重合組成物(C)という)を、イミド化剤と処理する方法により得られる、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)で表される繰り返し単位と、下記一般式(3)で表される繰り返し単位とを含有するイミド化樹脂(以下、イミド化メタアクリル系樹脂組成物)について説明する。
【0010】
【化1】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0011】
【化2】

(ここで、R4は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R5は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0012】
【化3】

(ここで、R6およびR7は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
本発明は、メタクリル酸エステル系重合体(A)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜99重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜49重量%、芳香族ビニル単量体1〜50重量%、開始剤0.03〜3.5重量%および連鎖移動剤0.02〜2.2重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られ、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物と、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られ、さらに、メタクリル酸エステル系重合体(A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下において重合することより得られるメタクリル系樹脂組成物(C)を、
イミド化剤で処理することにより改質されたイミド化メタクリル系樹脂組成物が好ましい。
【0013】
上述した特定範囲の組成で得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物は、260℃、122秒-1における溶融粘度を20000Poise以下に制御可能であり、成形加工性、耐折曲げ性等に優れたイミド化メタクリル系樹脂組成物を得ることができる。
【0014】
本発明における溶融粘度とは、熱可塑性樹脂が熱により溶融した時の流れ特性であり、剪断応力と剪断速度との比をいう。単位はPoiseで表す。溶融粘度が20000Poise以上の場合には、得られるイミド樹脂の溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪化し、精密な成形品を得ることができない。また、溶融粘度の高いイミド樹脂を高温度で加工することで溶融粘度を低減した場合、樹脂の熱分解により成形加工性の悪化が生じてしまう。
【0015】
本発明における成形加工性とは、射出成形、溶融押出フィルム成形、ブロー成形、圧縮成形、紡糸成形などのような各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工する際に、転写不良、シルバー、フィッシュアイ、ダイライン、厚みむら、発泡などの欠陥が発生し難く、精密な成形が容易である特性のことをいう。
【0016】
本発明において用いられるメタクリル酸エステル系重合体(A)は、一般式(1)で表される繰り返し単位であるメタクリル酸アルキルエステル50〜99重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜49重量%、および一般式(2)で表される繰り返し単位1〜50重量%を含む単量体混合物を少なくとも1段以上で重合させてなるものである。より好ましい単量体組成は、一般式(1)で表される繰り返し単位であるメタクリル酸アルキルエステル60〜99重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜39重量%および一般式(2)で表される繰り返し単位1〜40重量%を含むものである。アクリル酸アルキルエステルが49重量%を超えると、得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物から形成しうる成形体の耐薬品性、耐熱性および硬度が低下する傾向がある。一般式(2)で表される繰り返し単位が50重量%を超えると、低配向複屈折を発現させるために必要なイミド化率が高くなり、得られるフィルムの透明性および耐折曲げ性が悪化する傾向があり、一般式(2)で表される繰り返し単位が1重量%に満たない場合には、低配向複屈折を発現させるために必要なイミド化率が低くなり、得られるフィルムの耐熱性が低下する傾向がある。
【0017】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(A)を構成するメタクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点から、アルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等があげられ、これらの単量体は単独で使用してもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0018】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(A)を構成するアクリル酸アルキルエステルは、重合反応性やコストの点からアルキル基の炭素数が1〜12であるものが好ましく、また直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられ、これらの単量体は1種で使用してもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0019】
本発明のメタクリル酸エステル系重合体(A)を構成する一般式(2)で表される繰り返し単位は、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体があげられ、これらの単量体は単独で使用してもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0020】
また、本発明のメタクリル酸エステル系重合体(A)には、必要に応じて、一般式(1)で表される繰り返し単位であるメタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルと共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。共重合可能なエチレン系不飽和単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられる。これらの単量体は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明において用いられるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)は、一般式(1)で表される繰り返し単位であるアクリル酸アルキルエステル50〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物および、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体からなる混合物を、少なくとも1段以上で共重合させてなるものである。より好ましい単量体混合物組成は、アクリル酸アルキルエステル60〜100重量%およびメタクリル酸アルキルエステル40〜0重量%を含むものである。メタクリル酸アルキルエステルが50重量%を超えると、得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物から形成しうる成形体の耐折曲げ性が低下する傾向がある。
【0022】
また、本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)は、必要に応じて、一般式(1)で表される繰り返し単位であるメタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルと共重合可能なエチレン系不飽和単量体を共重合してもかまわない。
【0023】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)は、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体が共重合されているため、得られる重合体が架橋弾性を示す。また、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の重合時に反応せずに残った一方の反応性官能基(二重結合)がグラフト交叉点となって、一定割合のメタクリル酸エステル系共重合体(A)が、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)にグラフト化される。このことにより、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が、メタクリル酸エステル系共重合体(A)中に不連続かつ均一に分散する。
【0024】
本発明において用いられる多官能性単量体としては、アリルメタクリレ−ト、アリルアクリレ−ト、トリアリルシアヌレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルフタレ−ト、ジアリルマレ−ト、ジビニルアジペ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジビニルベンゼンエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、ジエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジメタクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジアクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリアクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラメタクリレ−ト、テトラメチロ−ルメタンテトラアクリレ−ト、ジプロピレングリコ−ルジメタクリレ−トおよびジプロピレングリコ−ルジアクリレ−ト等があげられる。これらの多官能性単量体は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明のアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)で用いられるアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよびこれらと共重合可能なエチレン系不飽和単量体の具体例は、前記メタクリル酸エステル系重合体(A)に使用したものがあげられる。
【0026】
本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)は、メタクリル酸エステル系重合体(A)を、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下において重合することにより得られる。
【0027】
本発明において用いられるメタクリル系樹脂組成物(C)の製造方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法などが適用可能であるが、乳化重合法が特に好ましい。
【0028】
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)およびメタクリル酸エステル系共重合体(A)の重合における開始剤としては、公知の有機系過酸化物、無機系過酸化物、アゾ化合物などの開始剤を使用することができる。具体的には、例えば、t−ブチルハイドロパ−オキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパ−オキサイド、スクシン酸パ−オキサイド、パ−オキシマレイン酸t−ブチルエステル、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリル等の油溶性開始剤も使用される。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体なとの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
【0029】
前記有機系過酸化物は、重合系にそのまま添加する方法、単量体に混合して添加する方法、乳化剤水溶液に分散させて添加する方法など、公知の添加法で添加することができるが、透明性の点から、単量体に混合して添加する方法あるいは乳化剤水溶液に分散させて添加する方法が好ましい。
【0030】
また、前記有機系過酸化物は、重合安定性、粒子径制御の点から、2価の鉄塩等の無機系還元剤および/またはホルムアルデヒドスルホキシル酸ソ−ダ、還元糖、アスコルビン酸等の有機系還元剤と組み合わせたレドックス系開始剤として使用するのが好ましい。
【0031】
前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。具体的には、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコ−ル類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0032】
メタクリル酸エステル系共重合体(A)の重合における開始剤の添加量はモノマー成分全量に対し0.03〜3.5重量%の範囲が好ましく、0.1〜2.5重量%がより好ましく、0.3〜1.5重量%がさらに好ましい。開始剤の添加量がこの範囲より多い場合、得られるイミド化メタクリル組成物は非常に脆く機械強度が不足することがある。この範囲より少ない場合、得られるイミド化メタクリル組成物の成形加工性が悪化する傾向がある。
【0033】
また、メタクリル酸エステル系共重合体(A)の分子量を制御するために、連鎖移動剤を使用することが可能である。連鎖移動剤としては例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、エチルチオグリコレート、メルカプトエタノール、チオ-β-ナフトール、チオフェノール、ジメチルジスルフィド等が用いられ、モノマー成分全量に対し通常0.02〜2.2重量%の範囲が好ましく、0.1〜1.5重量%がより好ましく、0.2〜1.0重量%がさらに好ましい。連鎖移動剤の添加量がこの範囲より多い場合、得られるイミド化メタクリル組成物は非常に脆く機械強度が不足する傾向がある。この範囲より少ない場合、得られるイミド化メタクリル組成物の成形加工性が悪化する傾向がある。
【0034】
また、メタクリル系樹脂組成物(C)に含まれるアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の含有量は5〜40重量%が好ましい。この範囲より多い場合、得られるイミド化メタクリル組成物の成形加工性が悪化する傾向がある。この範囲より少ない場合、得られるイミド化メタクリル組成物は非常に脆く、耐折曲性が不足する傾向がある。
【0035】
得られたメタクリル系樹脂組成物(C)ラテックスは、通常の凝固、洗浄および乾燥の操作により、または、スプレー乾燥、凍結乾燥などによる処理により、メタクリル系樹脂組成物(C)が分離、回収される。
【0036】
本発明のイミド化メタクリル系樹脂組成物は、メタクリル系樹脂組成物(C)を、公知の技術を用いてイミド化することにより得られる。
【0037】
すなわち、(1)押出機などを用い、溶融状態にあるメタクリル系樹脂組成物(C)をイミド化剤と反応させたり(連続式反応)、(2)メタクリル系樹脂組成物(C)を溶解できる、イミド化反応に対して非反応性溶媒を用いて、溶液状態のメタクリル系樹脂組成物(C)にイミド化剤と反応させる(バッチ式反応)こと等により、得られる。
【0038】
本発明に用いる押出機としては、単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機等があげられるが、メタクリル系樹脂組成物(C)に対するイミド化剤の混合を促進できる押出機としては、特に二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式が含まれる。噛合い型同方向回転式は、高速回転が可能であり、メタクリル系樹脂組成物(C)に対するイミド化剤の混合を促進できるので好ましい。これらの押出機は、単独で用いても、直列につないでも構わない。
【0039】
本発明における押出機中でのイミド化とは、例えば、原料であるメタクリル系樹脂組成物(C)を押出機の原料投入部から投入し、該樹脂を溶融させ、シリンダ内を充満させた後、添加ポンプを用いてイミド化剤を押出機中に注入することにより、押出機中でイミド化反応を進行させるものである。
【0040】
本発明の押出機中でのイミド化は、押出機中での反応ゾーンの温度(樹脂温度)を180℃〜270℃にて行うことが好ましく、さらに200〜250℃にて行うことがより好ましい。反応ゾーンの温度(樹脂温度)が180℃未満では、イミド化反応がほとんど進行せず、耐薬品性および耐熱性が低下する傾向にある。反応ゾーン温度が270℃を超えると、樹脂の分解が著しくなることから、得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物から形成しうるフィルムの耐折曲性が低下する傾向がある。ここで、押出機中での反応ゾーンとは、押出機のシリンダにおいて、イミド化剤の注入位置から樹脂吐出口(ダイス部)までの間の領域をいう。
【0041】
押出機の反応ゾーン内での反応時間を長くすることにより、イミド化を進行させることができる。押出機の反応ゾーン内の反応時間は10秒より長くするのが好ましく、さらには30秒より長くするのがより好ましい。10秒以下の反応時間ではイミド化がほとんど進行しない。
【0042】
押出機での樹脂圧力は、通常、大気圧〜50MPaの範囲内であり、さらには1MPa〜30MPaの範囲内が好ましい。1MPa以下ではイミド化剤の溶解性が低く、反応の進行が抑えられる傾向がある。また、50MPa以上では通常の押出機の機械耐圧の限界である。
【0043】
また、本発明に用いる押出機には、未反応のイミド化剤や副生物を除去するために、大気圧以下に減圧可能なベント孔を装着することが好ましい。
【0044】
本発明のイミド化には、押出機の代わりに、例えば、住友重機械工業(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0045】
本発明のバッチ式反応におけるバッチ式反応槽(圧力容器)は、メタクリル系樹脂組成物(C)を溶解した溶液を加熱、撹拌でき、イミド化剤を添加できる構造であれば特に制限ないが、反応の進行によりポリマー溶液の粘度が上昇することもあり、撹拌効率が良好なものがよい。例えば、住友重機械工業(株)製の撹拌槽マックスブレンドなどを例示することができる。イミド化反応に対する非反応性溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の脂肪族アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、クロロトルエン、エーテル系化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また少なくとも2種を混合したものであってもよい。これらの中で、トルエン、およびトルエンとメチルアルコールとの混合溶媒が好ましい。
【0046】
本発明で使用されるイミド化剤は、メタクリル系樹脂組成物(C)をイミド化することができれば特に制限されないが、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、t−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱により、これらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、シクロヘキシルアミン、アンモニアが好ましく、中でもメチルアミンが特に好ましい。また、常温にてガス状のメチルアミンなどは、メタノールなどのアルコール類に溶解させた状態で使用してもよい。
【0047】
本発明におけるイミド化剤の添加量は、必要な物性を発現するためのイミド化メタクリル系樹脂組成物のイミド化率によって決定される。
【0048】
本発明においては、イミド化メタクリル系樹脂組成物のイミド化率は、低配向複屈折の発現を前提として、メタクリル系樹脂組成物(C)中の芳香族ビニル単量体の重量%との相関により決定される。すなわち、メタクリル系樹脂組成物(C)中の芳香族ビニル単量体組成(重量%)が大きくなると、イミド化メタクリル系樹脂組成物の配向複屈折は負の側へ大きくなり、一方、メタクリル系樹脂組成物(C)のイミド化率が大きくなると、配向複屈折は正の側へ大きくなることから、メタクリル系樹脂組成物(C)中の芳香族ビニル単量体組成(重量%)およびイミド化メタクリル系樹脂組成物(C)のイミド化率を最適化することにより、イミド化メタクリル系樹脂組成物の低配向複屈折が発現される。
【0049】
イミド化メタクリル系樹脂組成物のイミド化率は、5〜95%が好ましく、5〜70%がより好ましい。イミド化率が5%未満であると、得られる成形体の耐熱性が低下する傾向があり、イミド化率が95%を越えると、得られる成形体の透明性および耐折曲性が悪化する傾向がある。
【0050】
イミド化メタクリル系樹脂組成物の260℃、122秒-1における溶融粘度は20000Poise以下であることが好ましく、18000Poise以下がより好ましい。上記の溶融粘度を越えると、得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物の成形加工性が悪化する傾向がある。
【0051】
また、イミド化メタクリル系樹脂組成物に含まれるイミド化反応時に副生成物として生じるカルボキシル基等を必要に応じてエステル化剤などによりエステル基等に変換してもよい。
【0052】
エステル化剤としては、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0053】
イミド化メタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が110℃未満であると、高温環境下での樹脂の溶融等により得られる成形体もしくはフィルムにゆがみなどが生じ易く、安定した光学的特性が得られない傾向がある。メタクリル系樹脂組成物(C)をイミド化剤によりイミド化する際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤などの耐候性安定剤や、触媒、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤、抗菌・脱臭剤等を、単独または2種以上組み合わせて、本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。また、これらの添加剤は、イミド化メタクリル系樹脂組成物を成形加工する際に添加することも可能である。
【0054】
本発明のイミド化メタクリル系樹脂組成物は、グルタルイミド単位の含有量を調節する事で、光学異方性を小さくする事も可能である。ここでいう光学異方性が小さいことは、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが要求されることがある。すなわち、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、nz、フィルムの厚さをdとすると、面内位相差 Re=(nx−ny)×d 及び厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)がともに小さいことを意味している(理想となる、3次元方向について完全光学等方であるフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthともに0となる。)。
【0055】
本発明のイミド化メタクリル系樹脂組成物で得られるフィルムは、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下であることが好ましい。フィルムの面内位相差は、より好ましくは5nm以下である。厚み方向位相差は、より好ましくは10nm以下である。フィルムの面内位相差が10nmを超えたり、或いは厚み方向位相差が20nmを超える偏光子保護フィルムを偏光板として使用した場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
【0056】
本発明のイミド化メタクリル系樹脂組成物は、グルタルイミド単位の含有量を調節する事で実質的に配向複屈折を有さない特徴を付与する事も可能である(尚、必要に応じ、特定の配向複屈折に調整して使用することも可能である。)。配向複屈折とは所定の温度、所定の延伸倍率で延伸した場合に発現する複屈折の事をいう。本明細書中では、特にことわりのない限り、メタクリル系樹脂組成物のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折の事をいうものとする。ここで、配向複屈折は、前述のnx、nyを用いて、△n=nx−ny=Re/dで定義される、位相差計により測定される。
【0057】
配向複屈折の値としては、0〜0.1×10-3である事が好ましく、0〜0.01×10-3である事がより好ましい。配向複屈折が上記の範囲外の場合、環境の変化に対して、成形加工時に複屈折を生じやすく、安定した光学的特性を得る事が難しくなる。
【0058】
本発明で得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などの各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。
【0059】
本発明で得られるイミド化メタクリル系樹脂組成物は、特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等により良好に加工される。また、必要に応じて、イミド化メタクリル系樹脂組成物からフィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、特に、ガラス転移温度以上の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、フィルムの積層成形や二軸延伸によるフィルムの改質も可能である。
【0060】
また、本発明のメタクリル系樹脂組成物(C)には、必要に応じて、ポリグルタルイミド、無水グルタル酸樹脂、ラクトン環化メタクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等を配合することも可能である。ブレンドの方法は特に限定されず、公知の方法を用いることが可能である。
【0061】
本発明のイミド化メタクリル系樹脂組成物より得られたフィルムは、金属、プラスチックなどに積層して用いることができる。積層の方法としては、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネートや、ドライラミネート、エキストル−ジョンラミネート、ホットメルトラミネートなどが挙げられる。
【0062】
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するフィルムインサート成形、ラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するフィルムインモールド成形などがあげられる。
【0063】
本発明のイミド化メタクリル系樹脂組成物から得られる成形品としては、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏向子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具などに使用可能である。他方、本発明のイミド化メタクリル系樹脂組成物から得られるフィルムのラミネート積層品としては、自動車内外装材、日用雑貨品、壁紙、塗装代替用途、家具や電気機器のハウジング、ファクシミリなどのOA機器のハウジング、床材、電気または電子装置の部品、浴室設備などに使用することができる。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0066】
以下の製造例、実施例および比較例中の「部」は重量部、「%」は重量%を表す。略号は、それぞれ下記の物質を表す。
【0067】
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
St:スチレン
AlMA:アリルメタクリレート
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリードデシルメルカプタン。
【0068】
なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法は、次のとおりである。
【0069】
(1)イミド化率の測定
得られた生成物のペレットをそのまま用い、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度に対する、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度の比から、イミド化率を求めた。ここで、イミド化率とは、全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0070】
(2)ガラス転移温度(Tg)
得られた生成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)島津製作所製、DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0071】
(3)配向複屈折
得られたイミド化メタクリル系樹脂組成物を塩化メチレンに溶解(樹脂濃度25wt%)した後、PETフィルム上に塗布し、70℃からイミド化メタクリル系樹脂のTgまで5℃/5minの条件にて昇温し、該Tgにて12Hr放置の条件にて乾燥してフィルム(厚み約50mm)を作製した。得られたフィルムから、幅50mm×長さ150mmのサンプルを切り出し、該Tg+5℃の温度にて、長さ方向に延伸倍率100%で一軸延伸して、延伸フィルムを作成した。得られた一軸延伸フィルムの長さ方向の中央部から35mm×35mmの試験片を切り出した。得られた試験片を、位相差測定装置(王子計測機器製、KOBRA−21ADH)を用い、温度23±2℃および湿度50±5%にて、波長590nmおよび入射角0゜の条件で位相差を測定した。位相差測定値を、温度23℃±2℃、湿度60%±5%において、ミツトヨ製デジマティックインジケーターを用いて測定した試験片の厚みで割った値を、配向複屈折とした。
【0072】
(4)透明性
得られたイミド化メタクリル系樹脂組成物を、Tダイ付き40ミリφ押出機を用いてダイス温度260℃で成形し、厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムに対し、JIS K6714に準じ、温度23℃±2℃および湿度50%±5%にて、ヘーズ値を測定した。
【0073】
(5)耐折曲性
(4)と同様の方法にて得られたフィルムを180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視で評価した。
【0074】
○:割れが認められない
×:割れが認められる。
【0075】
(6)溶融粘度
260℃、122sec-1の条件でキャピラリーレオメーターを用いて測定した。
【0076】
(製造例1)メタクリル系樹脂組成物の製造
攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
【0077】
脱イオン水 200部
ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム 0.25部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.15部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.005部
硫酸第一鉄 0.0015部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、表1中(1)に示したアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の原料となる単量体混合物<すなわち、BA70%およびMMA30%からなる単量体混合物100部に対し、AlMA2部およびCHP0.5部からなる単量体混合物>20部を10部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)を得た。重合転化率は99.5%であり、平均粒子径は800Åであった。その後、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム0.3部を仕込んだ後、内温を60℃にし、表1中(1)に示したメタクリル酸エステル系重合体(A)の原料となる単量体混合物<すなわち、St10%、MMA90%からなる単量体混合物100部に対し、tDM0.8部およびCHP0.5部からなる単量体混合物>80部を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、メタクリル系樹脂組成物(C)を得た。重合転化率は99.0%であった。得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥してメタクリル系樹脂組成物(C)の樹脂粉末(1)を得た。さらに、40ミリφベント付き単軸押出機を用いてシリンダ温度を230℃に設定して溶融混練を行い、ペレット化した。
【0078】
(製造例2〜7)
表1中(1)に示したアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)およびメタクリル酸エステル系重合体(A)の組成により製造例1と同様に重合を行い、凝固、水洗、乾燥して得られたメタクリル系樹脂組成物(C)の樹脂粉末(2)〜(7)を、40ミリφベント付き単軸押出機を用いてペレット化した。
【0079】
(実施例1)
15mmφ噛合い型同方向回転式二軸押出機を用い、製造例1にて製造した樹脂粉末(1)をメタクリル系樹脂組成物(C)とし、メチルアミンをイミド化剤として、下記のように、イミド化メタクリル系樹脂組成物を製造した。メタクリル系樹脂組成物(C)を押出機のホッパーから吐出量1.5kg/時間の条件にて投入し、230℃に設定したニーディング・ゾーンに充満させた後、液添ポンプを用いてイミド化剤をメタクリル系樹脂組成物に対して10重量部注入した。反応後の副生成物および過剰のイミド化剤をベント口の圧力を−0.02MPaに減圧して脱揮した。押出機出口に設置したダイスから吐出された樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザにてペレット化した。
【0080】
得られたイミド化メタクリル系樹脂組成物の種々の特性を評価し、その結果をイミド化メタクリル系樹脂のイミド化率と併せて、表2に示した。
【0081】
(実施例2〜4および比較例1〜3)
メタクリル系樹脂組成物の種類、または、イミド化剤の供給量を表2に示したように変更した以外は、実施例1と同様に行った。すなわち、製造例2〜7にて製造した樹脂粉末(2)〜(7)をメタクリル系樹脂組成物(C)とし、メチルアミンをイミド化剤として、実施例1と同様にイミド化メタクリル系樹脂組成物を製造した。なお、各実施例において用いた樹脂粉末及びイミド化剤は表2に示すとおりである。
【0082】
得られたイミド化メタクリル系樹脂組成物の種々の特性を評価し、その結果をイミド化メタクリル系樹脂のイミド化率と併せて、表2に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸エステル系重合体(A)が、メタクリル酸アルキルエステル50〜99重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜49重量%、芳香族ビニル単量体1〜50重量%、開始剤0.03〜3.5重量%および連鎖移動剤0.02〜2.2重量%を含む単量体混合物を重合することにより得られ、
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が、アクリル酸アルキルエステル50〜100重量%、およびメタクリル酸アルキルエステル50〜0重量%を含む単量体混合物と、1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体を共重合することにより得られ、さらに、メタクリル酸エステル系重合体(A)をアクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)の存在下において重合することより得られるメタクリル系樹脂組成物(C)を、
イミド化剤で処理することにより改質されたイミド化メタクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)が5〜40重量%であることを特徴とする請求項1記載のイミド化メタクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
260℃、122秒-1における溶融粘度が20000Poise以下であることを特徴とする請求項1〜2に記載のイミド化メタクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
ガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載のイミド化メタクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
配向複屈折が0以上0.1×10-3以下である、請求項1〜4に記載のイミド化メタクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5記載のイミド化メタクリル系樹脂組成物からなる成形体。
【請求項7】
請求項1〜5記載のイミド化メタクリル系樹脂組成物からなるフィルム。

【公開番号】特開2006−328332(P2006−328332A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158207(P2005−158207)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】