説明

イミノホスファゼニウム塩のイオン交換方法

【課題】中性のイミノホスファゼニウム塩をイオン交換して塩基性のイミノホスファゼニウム塩をより簡便で効率的に製造する方法の提供。
【解決手段】一般式(1)


[式中、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭化水素基、または同士が互いに結合して環構造を表す。]で示されるイミノホスファゼニウム塩を、溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲である溶媒中、塩基性化合物A[式中、Xは、ヒドロキシアニオンなどを表し、Aは対カチオンを表す。]と反応させ、塩化物イオンをイオン交換して塩基性のイミノホスファゼニウム塩とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性のイミノホスファゼニウム塩をイオン交換して、塩基性のイミノホスファゼニウム塩を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性のホスファゼニウム塩は、有機反応や高分子反応において有機塩基触媒として利用できるため、工業的にも有用な化合物であることが知られている(例えば、特許文献1参照)。この塩基性ホスファゼニウム塩を製造する方法は、中性のホスファゼニウム塩を製造する工程と、中性のホスファゼニウム塩を塩基性のホスファゼニウム塩へイオン交換する工程の2工程に大別できる。
【0003】
中性のホスファゼニウム塩を塩基性のホスファゼニウム塩へイオン交換する方法として、例えば、特許文献1には、中性のホスファゼニウム塩をイオン交換樹脂で処理する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、この方法では、イオン交換樹脂が高価であるため、イオン交換後にイオン交換樹脂を塩基性水酸化物で再生する必要があり、一連の操作が煩雑になる。また、イオン交換を行う際に大量の溶媒を使用するため、目的とするホスファゼニウム塩の単離に時間がかかり、生産性の面においても問題も抱えている。
【0005】
その他のイオン交換方法として、例えば、中性のホスファゼニウム塩を塩基性化合物で処理する方法が知られている(例えば、特許文献2、3参照)。この方法では、ホスファゼニウム塩を溶解するための溶媒と、塩基性化合物を溶解するための溶媒が異なる。そのため、反応条件が煩雑になることに加え、目的とするホスファゼニウム塩を単離するための溶媒除去工程において、回収される溶媒を分離する必要があり、プロセス面での課題を抱えている。
【0006】
一方、イミノホスファゼニウム塩は、前記ホスファゼニウム塩同様、有用な有機塩基触媒として知られている(例えば、特許文献4参照)。特許文献4には、中性のイミノホスファゼニウム塩をテトラフルオロホウ酸ナトリウムで処理し、テトラフルオロホウ酸塩とした後、メタノール/ジエチルエーテル混合溶媒中、水酸化カリウムで処理することによって、塩基性のイミノホスファゼニウム塩を製造する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、この方法は、特許文献2、3に記載の方法と同様に、2種類の溶媒を用いる必要があることに加え、中性のイミノホスファゼニウム塩から塩基性のイミノホスファゼニウム塩を得るために、2段階での反応が必要となり、操作が煩雑であるという問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3497054号明細書
【特許文献2】特開2001−31689号公報
【特許文献3】特開2001−89487号公報
【特許文献4】ドイツ国特許出願公開第102006010034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、中性のイミノホスファゼニウム塩をイオン交換して塩基性のイミノホスファゼニウム塩を製造するための、より簡便で効率的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、中性のイミノホスファゼニウム塩を、特定の溶解度パラメータを有する溶媒中、特定の塩基性化合物と反応させることにより、塩基性のイミノホスファゼニウム塩へ効率良くイオン交換できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりの塩基性のイミノホスファゼニウム塩の製造方法である。
【0012】
[1]下記一般式(1)
【0013】
【化1】

[上記一般式(1)中、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。なお、RとRが互いに結合して環構造を形成していても良いし、R同士又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。]
で示されるイミノホスファゼニウム塩を、溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲である溶媒中、塩基性化合物A
[上記式中、Xは、ヒドロキシアニオン、炭素数1〜4のアルコキシアニオン、カルボキシアニオン、炭素数2〜5のアルキルカルボキシアニオン、又は炭酸水素アニオンを表し、Aは対カチオンを表す。]
と反応させ、下記一般式(2)
【0014】
【化2】

[上記一般式(2)中、R及びRは、上記一般式(1)のR及びRと同じ定義であり、Xは、上記塩基性化合物のXと同じ定義である。]
で示されるイミノホスファゼニウム塩へイオン交換することを特徴とする塩基性のイミノホスファゼニウム塩の製造方法。
【0015】
[2]溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲である溶媒が、アルコール単一溶媒であることを特徴とする上記[1]に記載の製造方法。
【0016】
[3]塩基性化合物A及び上記一般式(2)中のXが、ヒドロキシアニオンであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中性のホスファゼニウム塩から塩基性のイミノホスファゼニウム塩へのイオン交換を、1段階の反応で行うことができる。また、本発明によれば、イオン交換反応を単一溶媒中で行うことができる。
【0018】
このように本発明は、イミノホスファゼニウム塩のイオン交換を簡便で効率的な方法で行うことができるものであり、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明は、中性のホスファゼニウム塩である上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩を、溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲である溶媒中、上記塩基性化合物Aと反応させることにより、塩基性のイミノホスファゼニウム塩である上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩へイオン交換することをその特徴とする。
【0021】
本発明において使用する上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩のR及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。上記一般式(1)中、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。なお、RとRが互いに結合して環構造を形成していても良いし、R同士又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。
【0022】
炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、ビニル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、へプチル基、シクロヘプチル基、オクチル基、シクロオクチル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、シクロデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基等を挙げることができる。
【0023】
また、RとRが互いに結合し環構造を形成した場合としては、ピロリジニル基、ピロリル基、ピペリジニル基、インドリル基、イソインドリル基等を挙げることができる。
【0024】
また、R同士又はR同士が互いに結合して環構造を形成している場合としては、例えば、一方の置換基がエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基となって、他方の置換基と互いに結合し環構造を形成している場合を挙げることができる。
【0025】
これら炭化水素基の中で、R及びRとしては、原料であるグアニジン類の入手が容易という点から、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好ましい。
【0026】
本発明において使用する上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩は、例えば、下記一般式(3)
【0027】
【化3】

[上記一般式(3)中、R、及びRは、上記一般式(1)のR、及びRと同じ定義である。]
で表されるグアニジン類と五塩化リンとを反応させることにより合成することができる。
【0028】
本発明において使用する塩基性化合物Aとしては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド、カルボン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸水素化物等を挙げることができる。
【0029】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物としては、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が例示される。
【0030】
また、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシドとしては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のメトキシド、エトキシド、n−プロポキシド、イソプロポキシド、n−ブトキシド、イソブトキシド、t−ブトキシド等を挙げることができる。
【0031】
また、カルボン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のギ酸塩(カルボキシド)、酢酸塩(メチルカルボキシド)、プロピオン酸塩(エチルカルボキシド)、酪酸塩(n−プロピルカルボキシド)、イソ酪酸塩(イソプロピルカルボキシド)、吉草酸塩(n−ブチルカルボキシド)、イソ吉草酸塩(イソブチルカルボキシド)、ピバル酸塩(t−ブチルカルボキシド)等を挙げることができる。
【0032】
これら中で、入手が容易で塩基性が強いという点から、塩基性化合物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0033】
本発明において使用する塩基性化合物において、Xとして用いられる、炭素数1〜4のアルコキシアニオンとしては、例えば、メトキシアニオン、エトキシアニオン、n−プロポキシアニオン、イソプロポキシアニオン、n−ブトキシアニオン、イソブトキシアニオン、t−ブトキシアニオン等が挙げられる。
【0034】
また、炭素数2〜5のアルキルカルボキシアニオンとしては、例えば、アセトキシアニオン、エチルカルボキシアニオン、n−プロピルカルボキシアニオン、イソプロピルカルボキシアニオン、n−ブチルカルボキシアニオン、イソブチルカルボキシアニオン、t−ブチルカルボキシアニオン等が挙げられる。
【0035】
これらの中で、本発明において得られる、上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩の塩基性が強いという点から、Xとしては、ヒドロキシアニオンが好ましい。
【0036】
本発明において使用する塩基性化合物の量は、上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩に対し、通常0.8〜1.3モルの範囲、好ましくは0.9〜1.2モルの範囲である。0.8モル未満では、生成物中に上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩が残存し、触媒として使用する際の単位重量当たりの活性が低下するおそれがある。一方、1.3モルを超えると、生成物中に塩基性化合物が残存し、触媒として使用する際に副反応を招くおそれがある。
【0037】
本発明において得られる、上記一般式(2)中のR及びRは、上記一般式(1)中のR及びRと同じ定義である。また、上記一般式(2)中のXは、上記塩基性化合物中のXと同じ定義である。
【0038】
本発明において使用する溶媒の溶解度パラメータは、10〜15[cal/cm1/2の範囲であることが肝要であり、好ましくは10〜13[cal/cm1/2の範囲である。溶解度パラメータが10[cal/cm1/2未満の溶媒では、上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩及び塩基性化合物の溶解性が低下し、十分な反応率を得るために反応温度を高温にする必要が生じたり、生成する上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩の純度が低下したりするため、好ましくない。一方、溶解度パラメータが15[cal/cm1/2を超える溶媒では、目的のイオン交換反応が進行した際に副生する塩の溶解性が増加し、目的とするイオン交換反応の平衡が生成側に偏り、反応率が低下するため、好ましくない。
【0039】
本発明において使用する溶媒は、溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲内あれば、特に制限はなく、単一で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、ネオペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール等のモノアルコール;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等の多価アルコール;エチレンジアミン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル等の含窒素化合物等を挙げることができる。これらの中で、入手が容易で、目的とするイオン交換反応の反応率が高いという点から、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等のモノアルコールが好ましい。
【0041】
本発明において使用する溶媒は、上記したとおりであり、単一溶媒として又は混合溶媒として、溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲内であればよい。すなわち、ある溶媒の溶解度パラメータが10[cal/cm1/2未満であっても、溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の溶媒と混合することで、混合溶媒としての溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2となるよう調製したものを用いても良い。
【0042】
溶解度パラメータが10[cal/cm1/2未満の溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジn−ブチルエーテル等のエーテル等を挙げることができる。
【0043】
例えば、溶解度パラメータが8.9[cal/cm1/2であるトルエンと、溶解度パラメータが14.5[cal/cm1/2であるメタノールとの混合溶媒の場合、トルエン/メタノール=8/2(重量比)とすることで、溶解度パラメータが10.0[cal/cm1/2となり、トルエン:メタノール=1/99(重量比)とすることで、溶解度パラメータが14.4[cal/cm1/2となる。したがって、トルエン/メタノール=8/2(重量比)以下の範囲で混合した混合溶媒を、本発明に用いることができる。混合溶媒として用いる場合は、トルエン/メタノール=1/99(重量比)以上の範囲とすることが好ましい。
【0044】
本発明において、上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩の、上記溶媒中の濃度は、通常0.05〜5.0mol/Lの範囲、好ましくは0.15〜3.0mol/Lの範囲である。0.05mol/L未満では、目的とする上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩を単離するための溶媒除去に時間がかかるおそれがある。一方、5.0mol/Lを超えると、反応液の粘度が上昇し、攪拌や溶液の移送が困難になるおそれがある。
【0045】
本発明の方法は、通常、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行う。イミノホスファゼニウム塩の酸化劣化を低減するためには、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0046】
本発明において、反応温度は、特に限定するものではないが、通常0〜130℃の範囲、好ましくは20〜80℃の範囲である。0℃未満では、反応率の低下を招くおそれがある。一方、130℃以上では、生成する上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩が分解するおそれがある。
【0047】
本発明において、反応時間は、特に限定するものではないが、通常1分〜24時間の範囲、好ましくは5分〜4時間の範囲である。1分未満では、反応率が低下するおそれがある。一方、24時間を越えても、反応率に変化はないが、生産効率の低下を招くおそれがある。
【0048】
本発明において、反応終了後、目的とする上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩から、目的のイオン交換反応が進行した際に副生する塩を除去するため、通常、濾過を行う。この濾過工程は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は空気下で行うことができる。また、加圧下で行うことも、減圧下で行うこともできる。
【0049】
本発明において、生成物中の、上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩が占める割合は、特に限定するものではないが、通常80重量%以上、好ましくは85重量%以上である。80重量%未満では、イミノホスファゼニウム塩の塩基性の低下を招き塩基触媒としての活性が低下したり、触媒として使用する際に副反応を招くおそれがある。
【0050】
このようにして得られた、上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩は、有機反応や高分子反応に使用することができる。例えば、活性プロトンを有する開始剤を、上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩で処理した後、アルキレンオキサイドを反応させることにより、ポリアルキレングリコールを製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を説明するが、本実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0052】
なお、以下の実施例において、生成物の成分分析は以下のとおり行った。
【0053】
まず、核磁気共鳴(NMR)測定により生成物のイミノホスファゼニウム塩骨格としての純度を算出した。続いて、カリウム量測定により生成物中の水酸化カリウム残量を算出し、塩素イオン濃度測定により生成物中の上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩(イミノホスファゼニウム塩の塩化物体)残量を算出した。これらの値から生成物中の上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩(塩基性イミノホスファゼニウム塩)量を算出した。詳細を以下に示す。
【0054】
(1)イミノホスファゼニウム塩の純度(単位:重量%).
核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定装置(日本電子社製、製品名:GSX270WB)を用い、重溶媒に重水を使用して、反応生成物のH−NMRを測定した。2.60〜3.10ppmの範囲のピークの面積中の2.85ppmのピークの面積の割合により、反応生成物中のイミノホスファゼニウム塩の純度を算出した。
【0055】
ここで、このイミノホスファゼニウム塩の純度は、反応生成物から、イミノホスファゼニウム塩の分解物量を差し引いた重量%に該当する。
【0056】
(2)反応生成物中の塩基性化合物(水酸化カリウム)残量(単位:重量%).
反応生成物に塩化セシウムを添加して試験溶液とし、原子吸光装置(パーキンエルマー社製、製品名:AA−800)を用い、測定波長776.5nmで、反応生成物中のカリウム濃度(重量%)を測定した。
【0057】
このカリウム濃度をカリウムの原子量で除し、反応生成物中のカリウム原子のモル%を算出した。そして、このカリウム原子のモル%に水酸化カリウムの分子量を掛けることにより、反応生成物中の水酸化カリウムの濃度(重量%)を算出した。
【0058】
ここで、この水酸化カリウムの濃度は、反応生成物中の未反応の塩基性化合物(原料)の重量%に該当する。
【0059】
(3)反応生成物中の、上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩(イミノホスファゼニウム塩の塩化物体)残量(単位:重量%).
イオンクロマトグラフィー装置(DIONEX社製、製品名:SERIES2000i/SP)を用い、カラムとして、外径4.6mm、長さ35mmのイオンクロマトグラフィーカラム(東ソー社製、製品名:TSK−GEL IC−ANION−PWXL)を用い、キャリア液に1mmol/L炭酸ナトリウムと0.25mmol/L炭酸水素ナトリウムの混合液を用い、流速1ml/minにて、反応生成物中の塩素イオン濃度(重量%)を測定した。
【0060】
この塩素イオン濃度を塩素の原子量で除し、反応生成物中の塩素原子のモル%を算出した。そして、この塩素原子のモル%にイミノホスファゼニウム塩の塩化物体の分子量を掛けることにより、反応生成物中の、上記一般式(1)で示されるイミノホスファゼニウム塩(イミノホスファゼニウム塩の塩化物体)の濃度(重量%)を算出した。
【0061】
ここで、このイミノホスファゼニウム塩の塩化物体の濃度は、反応生成物中の未反応のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体(原料)の重量%に該当する。
【0062】
(4)イオン交換反応の生成物中の、上記一般式(2)で示されるイミノホスファゼニウム塩(塩基性のイミノホスファゼニウム塩)量(単位:重量%).
反応生成物中には、以下の4成分が含まれる。
【0063】
・イミノホスファゼニウム塩の分解物、
・水酸化カリウム(原料)、
・イミノホスファゼニウム塩の塩化物体(原料)、及び
・塩基性のイミノホスファゼニウム塩(目的物)。
【0064】
したがって、(1)で算出したイミノホスファゼニウム塩の純度(重量%)から、(2)で算出した水酸化カリウム残量(重量%)を差し引き、さらに(3)で算出したイミノホスファゼニウム塩の塩化物体の濃度(重量%)を差し引くことにより、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量を算出することができる。
【0065】
参考例1 イミノホスファゼニウム塩の塩化物体の合成.
攪拌翼を付した200mlの4つ口フラスコを窒素雰囲気とし、五塩化リン2.3g(11mmol)とトルエン23mLを加え、−20℃で攪拌した。フラスコ内を−20℃に維持したまま、テトラメチルグアニジン13g(110mmol)を滴下し、−20℃で1時間攪拌を継続した。さらに、110℃に昇温し15時間攪拌をおこなった。得られた白色懸濁液を濾過し、濾物として白色固体を得た。この白色固体をアセトンに溶解し、濾過をおこない、無色透明の濾液を得た。得られた濾液を濃縮し、目的とするイミノホスファゼニウム塩の塩化物体の粗生成物を白色固体として得た。得られた粗生成物をクロロホルムと水で分液抽出した。クロロホルム相を濃縮し、目的とするイミノホスファゼニウム塩の塩化物体を5.1g(9.7mmol;収率88%)得た。NMR測定、塩素イオン濃度測定から、生成物は目的とするイミノホスファゼニウム塩の塩化物体であることを確認した。
【0066】
実施例1.
磁気回転子を付した50mlのシュレンクフラスコに、イミノホスファゼニウム塩の塩化物体1.5g(2.9mmol)を加え、フラスコ内を窒素雰囲気とした。そこへ水酸化カリウム0.19g(2.9mmol)、エタノール5.7mL(反応濃度:0.5mol/L相当)を加え、室温中で30分間攪拌した。反応終了後、白色固体を含む懸濁溶液が得られた。この懸濁溶液を濾過し、目的とする塩基性イミノホスファゼニウム塩と副生塩などの不純物とを分離した。濾液側から得られる生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は99.6重量%、水酸化カリウム残量は0.8重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は6.0重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は92.8重量%であった。
【0067】
実施例2.
実施例1において、反応濃度を0.5mol/Lから2.2mol/Lに変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は99.5重量%、水酸化カリウム残量は0.1重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は4.1重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は95.3重量%であった。
【0068】
実施例3.
実施例1において、水酸化カリウム量をイミノホスファゼニウム塩の塩化物体に対し、1.0当量から1.1当量に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は99.0重量%、水酸化カリウム残量は1.8重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は3.4重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は93.8重量%であった。
【0069】
実施例4.
実施例1において、水酸化カリウム量をイミノホスファゼニウム塩の塩化物体に対し、1.0当量から0.9当量に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は99.6重量%、水酸化カリウム残量は0.2重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は10.7重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は88.7重量%であった。
【0070】
実施例5.
実施例1において、反応条件を25℃、0.5時間から80℃、3時間に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は98.5%、水酸化カリウム残量は1.2重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は3.6重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は93.7重量%であった。
【0071】
実施例6.
実施例1において、溶媒をエタノール(溶解度パラメータ=12.7[cal/cm1/2)からメタノール(溶解度パラメータ=14.5[cal/cm1/2)に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は99.8重量%、水酸化カリウム残量は2.4重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は12.1重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は85.3重量%であった。
【0072】
実施例7.
実施例5において、溶媒をエタノール(溶解度パラメータ=12.7[cal/cm1/2)からt−ブタノール(溶解度パラメータ=10.6[cal/cm1/2)に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は97.3重量%、水酸化カリウム残量は0.3重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は2.8重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は94.2重量%であった。
【0073】
実施例8
実施例5において、溶媒をエタノール(溶解度パラメータ=12.7[cal/cm1/2)からメタノール/トルエン=1/2の混合溶媒(溶解度パラメータ=10.5[cal/cm1/2)に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は98.4重量%、水酸化カリウム残量は0.3重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は4.5重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は93.6重量%であった。
【0074】
上記実施例1〜実施例8の結果を表1に併せて示す。
【0075】
【表1】

比較例1
実施例1において、溶媒をエタノール(溶解度パラメータ=12.7[cal/cm1/2)から水(溶解度パラメータ=23.4[cal/cm1/2)に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は99.8重量%、水酸化カリウム残量は9.6重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は82.6重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は7.6重量%であった。
【0076】
比較例2
実施例5において、溶媒をエタノール(溶解度パラメータ=12.7[cal/cm1/2)からメタノール/トルエン=1/9の混合溶媒(溶解度パラメータ=9.5[cal/cm1/2)に変更した以外は同様の方法をおこなった。生成物を分析した結果、イミノホスファゼニウム塩の純度は45.8重量%、水酸化カリウム残量は0.3重量%、生成物中のイミノホスファゼニウム塩の塩化物体残量は3.4重量%であり、生成物中の塩基性イミノホスファゼニウム塩量は42.1重量%であった。
【0077】
上記比較例1、比較例2の結果を表2に併せて示す。
【0078】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

[上記一般式(1)中、R及びRは、各々独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。なお、RとRが互いに結合して環構造を形成していても良いし、R同士又はR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。]
で示されるイミノホスファゼニウム塩を、溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲である溶媒中、塩基性化合物A
[上記式中、Xは、ヒドロキシアニオン、炭素数1〜4のアルコキシアニオン、カルボキシアニオン、炭素数2〜5のアルキルカルボキシアニオン、又は炭酸水素アニオンを表し、Aは対カチオンを表す。]
と反応させ、下記一般式(2)
【化2】

[上記一般式(2)中、R及びRは、上記一般式(1)のR及びRと同じ定義であり、Xは、上記塩基性化合物のXと同じ定義である。]
で示されるイミノホスファゼニウム塩へイオン交換することを特徴とする塩基性のイミノホスファゼニウム塩の製造方法。
【請求項2】
溶解度パラメータが10〜15[cal/cm1/2の範囲である溶媒が、モノアルコール単一溶媒であることを特とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩基性化合物A及び上記一般式(2)中のXが、ヒドロキシアニオンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−132178(P2011−132178A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293434(P2009−293434)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】