説明

イメージセンサを有する撮像機器、イメージセンサの温度検出方法

【課題】イメージセンサの温度を十分な精度で簡単に検出する。
【解決手段】各光電素子の電荷量を初期化した後に、少なくとも一部の光電素子については、遮光状態を保ったまま、電荷の蓄積量を監視して、電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでに要する蓄積時間を検出する。そして、得られた蓄積時間に基づいて、イメージセンサの温度を検出する。遮光された光電素子では、光に起因する電荷は発生しないが、暗電流による電荷が発生しており、暗電流の大きさは光電素子の温度に依存する。従って、暗電流によって蓄積された電荷が所定の閾値電荷量に達するまでの時間を計測することで、微弱な暗電流を、簡単に且つ精度良く検出することができる。その結果、イメージセンサの温度を十分な精度で簡単に検出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージセンサを用いて映像を電子的な信号として取り出す技術に関し、より詳しくは、映像の電子的な信号に影響を与えるイメージセンサの温度を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
受光した光の強さに応じた電荷を発生する光電素子がマトリックス状に配列されたイメージセンサが開発されている。このイメージセンサを用いれば、映像を電子的な信号として取り出すことが可能であり、今日では、デジタルカメラやビデオカメラなどに組み込まれて広く普及している。
【0003】
通常、光電素子は、光を受けると電荷を発生する特性(光電特性)が温度によって変化する。このためイメージセンサでは、センサ出力を温度によって補正する必要が生じることがある。例えば、イメージセンサには多数の光電素子が組み込まれているので、これら光電素子の製造バラツキに起因して、イメージセンサで得られた画像中に「白傷」と呼ばれるノイズが発生することがある。この「白傷」は温度が高くなるほどハッキリと現れることから、白傷の補正には、イメージセンサの温度を考慮することが必要となる。
【0004】
そこで、光電素子に発生する暗電流を検出することで、イメージセンサの温度を検出しようとする技術が提案されている(特許文献1)。暗電流とは、光電素子の中の電子の熱的な揺らぎなどに起因して発生する電流のことである。光電素子の温度が高くなるほど暗電流は大きくなるので、暗電流の大きさを検出することで、イメージセンサの温度を検出することが可能である。
【0005】
【特許文献1】特開平11−317516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、暗電流は微弱な電流であるため、十分なSN比を確保することができず、イメージセンサの温度を精度良く検出することが困難であるという問題があった。上述した従来の技術では、光電素子の大きさを大きくすることでSN比を改善しようとしているが、光電素子の大きさを大きくすることにも限界があるため十分なSN比を確保することができず、結果として、イメージセンサの温度を実用的な精度で検出することは依然として困難であるという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、イメージセンサの温度を、十分な精度で簡単に検出可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の撮像機器は次の構成を採用した。すなわち、
受光した光を電荷に変換して蓄積する複数の光電素子が二次元的に配列されるとともに、各々の該光電素子に蓄積された電荷量に影響を与えることなく、該電荷量の分布を検出可能に構成されたイメージセンサを有する撮像機器であって、
各々の前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化する蓄積電荷量初期化手段と、
前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化した後、所定期間、該光電素子を露光することによって発生した前記電荷量の分布を、映像信号として読み出す映像信号読出手段と、
前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化した後、少なくとも一部の該光電素子については、遮光した状態で電荷を蓄積しながら電荷量を監視することにより、該電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでに要する蓄積時間を検出する蓄積時間検出手段と、
前記蓄積時間に基づいて、前記イメージセンサの温度を検出する温度検出手段と
を備えることを要旨とする。
【0009】
また、上記の撮像機器に対応する本発明のイメージセンサの温度検出方法は、
受光した光を電荷に変換して蓄積する複数の光電素子が二次元的に配列されるとともに、各々の該光電素子に蓄積された電荷量に影響を与えることなく、該電荷量の分布を検出可能に構成されたイメージセンサの温度検出方法であって、
各々の前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化する第1の工程と、
前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化した後、少なくとも一部の該光電素子については、遮光した状態で電荷を蓄積する第2の工程と、
前記遮光した状態で蓄積される電荷量を監視することにより、該電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでに要する蓄積時間を検出する第3の工程と、
前記蓄積時間に基づいて、前記イメージセンサの温度を検出する第4の工程と
を備えることを要旨とする。
【0010】
かかる本発明の撮像機器およびイメージセンサの温度検出方法においては、イメージセンサ中の各光電素子の電荷量を初期化した後に、所定時間露光させて、各光電素子に蓄積された電荷量の分布を読み出すことによって映像信号を生成可能となっている。また、イメージセンサ中の少なくとも一部の光電素子については、電荷の初期化後も露光させることなく遮光状態を保ったままとしておき、この状態で蓄積される電荷量を監視する。そして、電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでに要する蓄積時間を検出する。イメージセンサは、光電素子に蓄積されている電荷量に影響を与えることなく、電荷量を検出することができるので、電荷を蓄積しながら監視することで、容易に蓄積時間を検出することができる。こうして得られた蓄積時間に基づいて、イメージセンサの温度を検出する。
【0011】
遮光された光電素子では、光に起因する電荷は発生しないが、暗電流による電荷が発生して、この電荷が時間の経過とともに蓄積される。上述したように暗電流とは、光電素子内の電子の熱的な揺らぎなどに起因して発生する電流である。暗電流の大きさは光電素子の温度に依存するので、暗電流に起因して蓄積される電荷量を検出すれば、光電素子の温度を検出することが可能である。もちろん、暗電流は微弱な電流であるため、正確な電流量を検出することは容易ではないが、本発明では、暗電流の大きさを直接検出するのではなく、暗電流によって発生する電荷を蓄積しながら電荷量を監視し、所定の閾値電荷量が蓄積されるまでに要する蓄積時間を検出している。このため、暗電流の大きさを正確に検出することが可能となり、その結果、撮像機器に搭載されたイメージセンサの温度を精度良く検出することが可能となる。また、イメージセンサを用いれば、光電素子に蓄積された電荷量を読み出すことは極めて容易である。従って、電荷量を読み出すことによって温度を検出することができるので、本発明ではイメージセンサの温度を、簡単に且つ精度良く検出することが可能となる。
【0012】
尚、温度を検出するために遮光状態で電荷を蓄積する光電素子も、映像信号を読み出すために所定期間露光されて電荷を蓄積する光電素子も、素子自体の構造は何ら変わるところがない。従って、通常時には、映像信号を読み出すために露光されて電荷が蓄積される光電素子を、撮影を行わない時には遮光状態に保って暗電流による電荷を蓄積させることによって、温度を検出するために用いることも可能である。
【0013】
また、かかる本発明の撮像機器は、次のような構成のイメージセンサを用いることも可能である。すなわち、イメージセンサ中に、複数の光電素子が二次元的に配列された領域を、露光領域と遮光領域とに区分して形成する。ここで、露光領域とは、露光可能に形成されて映像信号が読み出される光電素子によって構成された領域であり、遮光領域とは、遮光された状態で電荷を蓄積する光電素子によって構成された領域である。そして、光電素子の電荷量を初期化するに際しては、全ての光電素子の電荷量を初期化することも可能であるが、遮光領域内の光電素子については初期化を留保したまま(すなわち、初期化することなく)、露光領域内の光電素子を初期化可能としてもよい。
【0014】
このようにイメージセンサ中に、映像信号を読み出すための露光領域と、温度を検出するための遮光領域とを区分しておき、遮光領域の光電素子については電荷量を初期化することなく、露光領域の光電素子の電荷量を初期化可能としておけば、遮光領域で温度を計測中にも、露光領域では何度も光電素子を初期化することができる。その結果、イメージセンサから映像信号を読み出しながら、これと並行して、イメージセンサの温度を検出することが可能となるので好ましい。
【0015】
また、こうした本発明の撮像機器においては、イメージセンサ中の光電素子を、次のようにして初期化することとしても良い。先ず、イメージセンサ中の光電素子を、縦方向および横方向のマトリックス状に配列しておく。また、縦方向または該横方向の何れか一方への光電素子の列を、素子列としてまとめることにより、マトリックス状に配列された光電素子を、複数本の素子列に区分するとともに、複数本の素子列の中から所定本数(1本以上)の素子列を選択して、遮光領域に設定する。そして、光電素子を初期化するに際しては、素子列毎に初期化することとしても良い。
【0016】
このように、縦方向あるいは横方向に光電素子が並んだ素子列毎に初期化することができれば、初期化動作が簡単となり、また初期化のための構造も簡素なものとすることが可能となる。
【0017】
また、上述した本発明の撮像機器においては、露光領域を挟んで、その両側に遮光領域が設けられたイメージセンサを用いることとしても良い。例えば、露光領域の左右、あるいは上下に遮光領域を設けたイメージセンサを用いることができる。
【0018】
こうすれば、たとえイメージセンサ中の露光領域の温度が均一でなく、温度勾配が生じている場合でも、両側の温度が反映された状態で温度を検出することができるので、適切な温度を検出することができる。尚、遮光領域での温度を検出するに際しては、両側の遮光領域で別々に温度を検出してもよいし、両側に設けられた遮光領域を一体の領域として扱って温度を検出しても良い。また、両側の遮光領域で別々に温度を検出した場合には、それらの温度を代表する温度を算出しても良いし、あるいは、露光領域の両側で得られた温度から露光領域内での場所毎の温度を補間によって求めることとしても良い。露光領域内の場所毎に温度を求めることができれば、たとえ、大きな温度勾配が発生した場合でも、各位置での温度を適切に検出することが可能であり、その結果、画像を適切に補正することが可能となる。
【0019】
更に本発明は、上述したイメージセンサの温度検出方法を実現するためのプログラムをコンピュータに読み込ませ、所定の機能を実行させることにより、コンピュータを用いて実現することも可能である。従って、本発明は次のようなプログラムとしての態様も含んでいる。すなわち、上述したイメージセンサの温度検出方法に対応する本発明のプログラムは、
受光した光を電荷に変換して蓄積する複数の光電素子が二次元的に配列されるとともに、各々の該光電素子に蓄積された電荷量に影響を与えることなく、該電荷量の分布を検出可能に構成されたイメージセンサの温度を検出する方法を、コンピュータを用いて実現するためのプログラムであって、
各々の前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化する第1の機能と、
前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化した後、少なくとも一部の該光電素子については、遮光した状態で電荷を蓄積する第2の機能と、
前記遮光した状態で蓄積される電荷量を監視することにより、該電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでに要する蓄積時間を検出する第3の機能と、
前記蓄積時間に基づいて、前記イメージセンサの温度を検出する第4の機能と
をコンピュータを用いて実現させることを要旨とする。
【0020】
このプログラムをコンピュータに読み込んで、上記の各機能を実現させれば、イメージセンサの温度を十分な精度で簡単に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.撮像処理:
C.変形例:
C−1.第1の変形例:
C−2.第2の変形例:
【0022】
A.装置構成 :
図1は、本実施例のイメージセンサを搭載した撮像機器100の大まかな構成を示した説明図である。図示されるように撮像機器100には、複数のレンズや、光学絞り、シャッターなどから構成される光学系10と、光学系10によって結像された被写体の像を電子的な映像信号に変換する本実施例のイメージセンサ20と、撮像機器100の動作を制御する制御部30などから構成されている。制御部30は、イメージセンサ20の動作を制御するとともに、イメージセンサ20から出力された各種の信号を受け取って、所定の処理を加えた後、画像データとして外部に出力したり、メモリカードなどの記録媒体に出力する機能を有している。
【0023】
図2は、本実施例のイメージセンサ20の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、本実施例のイメージセンサ20は、受光した光を電荷として蓄積する電荷蓄積部を中心として、その周囲に、電荷蓄積部を駆動するための各種回路が併設されて構成されている。電荷蓄積部は、複数の微細な光電素子が二次元的に配列された構造となっており、各光電素子に蓄積されている電荷量は、電荷蓄積部の周囲に設けられた信号読出部によって読み出されるようになっている。ここで、本実施例のイメージセンサ20に設けられた信号読出部は、各光電素子に蓄えられた電荷を直接読み出すのではなく、各光電素子に蓄えられた電荷によって生じる電位を検出することにより、電荷量を間接的に検出する方式を採用している。このため、光電素子に蓄えられている電荷量に影響を与えることなく、すなわち電荷を蓄積している途中でも、電荷量を検出することが可能となっている。
【0024】
図示されているように、電荷蓄積部の周囲には、各光電素子に蓄えられた電荷を初期化するための回路(初期化部)も設けられている。電荷蓄積部の各光電素子に蓄えられている電荷を、初期化部を用いて初期化した後、光学系10を用いて電荷蓄積部に結像させて、所定の露光時間だけ電荷を蓄積する。その後、各光電素子に蓄えられた電荷量を信号読出部によって読み出してやれば、電荷蓄積部に結像した映像を、電子的な映像信号として読み出すことが可能である。
【0025】
また、電荷蓄積部の外周部には、光学系10からの光が遮光された遮光領域が設けられている。図2では、遮光領域の光電素子に斜線を付して表示している。遮光領域に蓄積された電荷量は、信号読出部で読み出された後、温度検出部に送られる。温度検出部も、電荷蓄積部の周囲に設けられた回路によって構成することが可能であるが、本実施例では、制御部30の一機能として実現されているものとして説明する。そして、温度検出部(ここでは、制御部30)は、後述する方法によってイメージセンサ20の温度を検出し、温度信号を出力する。このため、制御部30は、信号読出部によって読み出された映像信号を、イメージセンサ20の温度に基づいて補正した後、適切な画像データを出力することが可能となっている。以下では、イメージセンサ20を用いて、映像信号および温度信号を取得するために、制御部30が実行する撮像処理について説明する。
【0026】
B.撮像処理 :
図3は、本実施例のイメージセンサ20によって映像信号を取得すると共に、イメージセンサ20の温度を検出する処理(撮像処理)の流れを示す説明図である。本実施例の撮像機器100に搭載された制御部30は、撮像処理を開始すると先ず初めに、イメージセンサ20の全ての光電素子に蓄積されている電荷を初期化する(ステップS100)。光電素子の初期化は、個々の光電素子を指定して素子毎に行ってもよいが、本実施例では、ライン毎(図2に示した例では、縦横のマトリックス状に配列された複数の光電素子の横一列毎)に初期化が可能となっており、電荷蓄積部を構成する全ラインの初期化を行う。
【0027】
次に、光学系10に組み込まれたシャッターを、所定の露光時間だけ開けて、イメージセンサ20の露光を行う(ステップS102)。その結果、イメージセンサ20の露光領域に設けられた各光電素子には、受光した光の強さに応じた電荷が蓄積されて、電荷分布が形成されることになる。尚、光学系10のシャッターを開いても、遮光領域には光が届かない。このため遮光領域の光電素子には、光に起因した電荷が蓄積されることはない。
【0028】
続いて、こうして露光領域の各光電素子に蓄積された電荷分布を、映像信号として読み出す処理を行う(ステップS104)。読み出された映像信号は、制御部30内で所定の処理が施された後、画像データとして外部に出力される。
【0029】
以上のようにして、露光領域の光電素子を露光した後、発生した電荷の分布を映像信号として読み出したら、今度は、遮光領域の光電素子に蓄積された電荷量を検出して、所定の閾値電荷量に達したか否かを判断する(ステップS106)。上述したように遮光領域には光は届かないので、光に起因する電荷が蓄積されることはない。しかし、光電素子の熱的な揺らぎによる暗電流に起因して、遮光領域の光電素子にも少しずつ電荷が蓄積されていく。もっとも、暗電流はたいへん微弱な電流であり、暗電流によって生じる電荷もごく僅かであるため、遮光領域に蓄積された電荷量が閾値電荷量に達するまでには、ある程度の時間が必要である。そこで、ステップS100において、全ての光電素子の電荷が初期化された後、暫くの間は、遮光領域の電荷量は閾値電荷量に達していないと判断されるが(ステップS106:no)、電荷量を検出しながら判断を繰り返しているうちに、少しずつ電荷量が増加して、やがて閾値電荷量に達したと判断される(ステップS106:yes)。前述したように、本実施例のイメージセンサ20では、各光電素子に蓄えられた電荷を直接読み出すのではなく、各光電素子に蓄えられた電荷によって生じる電位を検出して、間接的に電荷量を検出しているので、光電素子に蓄えられている電荷量に影響を与えることなく、電荷量を検出することができる。このため、遮光領域の光電素子で暗電流による電荷を蓄積したまま、電荷量が閾値電荷量に達したか否かを絶えず監視しておくことが可能となっている。
【0030】
その結果、電荷量が閾値電荷量に達したと判断されたら(ステップS106:yes)、蓄積時間を検出する(ステップS108)。蓄積時間は、全ての光電素子の電荷を初期化してから、遮光領域に蓄積された電荷量が閾値電荷量に達するまでに要した時間である。上述したように、本実施例のイメージセンサ20では、光電素子に蓄積した電荷量を何度でも検出して、電荷量を検出することができるので、正確な蓄積時間を検出することが可能である。
【0031】
また、暗電流の大きさは光電素子の温度が高くなるほど大きくなり、暗電流が大きくなるほど、光電素子には多くの電荷が蓄積される。従って、素子の温度が高くなるほど、蓄積される電荷量が閾値電荷量に達するまでに要する時間(蓄積時間)は短くなることになる。そこで、光電素子の温度と、蓄積時間との対応関係を予め調べておき、検出した蓄積時間から、光電素子の温度(センサ温度)を決定する(ステップS110)。こうして決定した光電素子の温度を示す温度信号を出力して(ステップS112)、図3に示す撮像処理を終了する。
【0032】
図4は、本実施例のイメージセンサ20がセンサ温度を検出する様子を、概念的に示した説明図である。図4(a)には、遮光領域で暗電流による電荷が蓄積される様子が概念的に示されている。また、図4(b)には、電荷の蓄積時間から光電素子の温度(センサ温度)を決定する様子が概念的に示されている。
【0033】
図4(a)に示されるように、先ず始めに全ての光電素子の電荷量を初期化した後、露光領域については所定時間の間、露光を行って、受光した光の強さに応じた電荷を蓄積する。図4(a)では、この露光の期間を、斜線を付して示している。露光領域では、露光の終了後、各光電素子に蓄積された電荷量の分布を読み出した後、次の露光に備えて、蓄積した電荷を初期化する。
【0034】
一方、遮光領域の光電素子については、露光期間中も遮光された状態に保たれている。このため、暗電流に起因する電荷が少しずつ蓄積していく。そして、露光領域の光電素子が初期化される際にも初期化されることなく、電荷の蓄積が継続される。この間、蓄積した電荷量が検出されて、電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでの蓄積時間が計測される。閾値電荷量は、イメージセンサ20の常用出力範囲、すなわち、映像信号を十分な精度で出力可能な電荷量に設定されている。図4(a)に示した例では、閾値電荷量は、光電素子の飽和電荷量の約半分程度の電荷量に設定されている。暗電流によって発生する電荷量はたいへんに少ないが、十分な精度で検出可能な電荷量になるまで、時間をかけて蓄積してやれば正確に検出することができる。加えて、本実施例のイメージセンサ20では、電荷量をモニタしながら電荷を蓄積することができるので、閾値電荷量に達するまでに要した時間を正確に検出することが可能である。
【0035】
また、図4(b)に示されているように、電荷の蓄積時間と、光電素子の温度(センサ温度)との間には対応関係が存在している。従って、蓄積時間が求められれば、図示されるような対応関係に基づいて、光電素子の温度(センサ温度)を直ちに求めることが可能となる。
【0036】
以上に説明したように、本実施例のイメージセンサ20では、光電素子に生じる暗電流の大きさを直接検出する代わりに、暗電流によって生じる電荷を蓄積し、電荷の蓄積量が一定量(閾値電荷量)に達するまでの時間(蓄積時間)を計測している。こうして蓄積時間に置き換えることで、微弱な暗電流の大きさを、間接的にではあるが、十分な精度で計測することが可能となる。加えて、本実施例のイメージセンサ20は、光電素子に電荷を蓄積しながら、電荷量をモニタできるので、蓄積時間を精度良く計測することができる。その結果、イメージセンサ20の温度を、簡単に且つ十分な精度で検出することが可能となるのである。
【0037】
C.変形例 :
上述した本実施例のイメージセンサ20には、幾つかの変形例が存在している。以下では、これら変形例について簡単に説明する。
【0038】
C−1.第1の変形例 :
上述した実施例では、電荷蓄積部に設けられた遮光領域をまとめて一つの領域として扱って、遮光領域内の各光電素子に蓄積されている平均的な電荷量を検出するものとして説明した。しかし、遮光領域を複数の小領域に分割して、小領域毎に、電荷量が閾値電荷量に達するまでの蓄積時間を求めた後、各小領域でのセンサ温度を決定しても良い。
【0039】
図5は、第1の変形例において、遮光領域を分割して求めた蓄積時間からセンサ温度を決定する様子を示した説明図である。図示した例では、電荷蓄積部に設けられた遮光領域が、上端側の遮光領域と、下端側の遮光領域とに分けられて、それぞれの遮光領域について、蓄積時間が求められた場合が示されている。この場合、イメージセンサ20の上端側と下端側とで温度勾配が発生していることになる。このように、遮光領域の複数の箇所で蓄積時間を検出してやれば、イメージセンサ20に温度勾配が発生している場合でも、より精度良く温度を検出することが可能となる。
【0040】
C−2.第2の変形例 :
また、上述した実施例では、電荷蓄積部の露光領域と遮光領域とは分けて設けられており、電荷蓄積部の光電素子は、映像信号を読み出すためか、あるいは、センサ温度を検出するためかの何れか一方にのみ用いられるものとして説明した。しかし、それぞれの光電素子は、素子自体の構造としては全く同じであり、一方の用途に用いられている光電素子を他方の用途に用いることも可能である。そこで、通常時には、電荷蓄積部の全ての光電素子を露光させて、映像信号を読み出すために使用し、センサ温度を検出する場合にだけ、それら光電素子の少なくとも一部を流用して、センサ温度を検出するようにしても良い。
【0041】
図6は、第2の変形例において、映像信号を読み出すための光電素子を用いてセンサ温度を検出する様子を概念的に示した説明図である。図示した例では、始めにイメージセンサ20の温度を検出した後に、撮影を行っている。センサ温度を検出するに際しては、光学系10のシャッターを閉じるなどして、イメージセンサ20の全ての光電素子を遮光状態としておく。そして、光電素子の電荷量を初期化した後、暗電流による電荷の蓄積を開始する。電荷の蓄積中は、全ての光電素子の電荷量を検出しても良いが、一部の光電素子の電荷量のみを検出することも可能である。そして、光電素子の電荷量が閾値電荷量に達したら、それまでに要した蓄積時間を計測して、センサ温度を検出する。このとき、イメージセンサ20の複数箇所での蓄積時間を計測した場合には、それぞれの箇所でのセンサ温度を検出して、イメージセンサ20での温度分布を検出することも可能である。こうして、センサ温度を検出したら、全ての光電素子の電荷量を一旦、初期化した後、所定時間だけ露光して、撮影を行う。
【0042】
以上に説明した第2の変形例では、イメージセンサ20に設けられた全ての光電素子を、映像信号を読み出すための素子として用いることができるので、より高い解像度で画像を撮影することができる。また、イメージセンサ20に設けられた全ての光電素子の温度を検出することができるので、イメージセンサ20に温度分布が生じている場合でも、温度分布を正確に検出することができる。その結果、イメージセンサ20で得られた画像に、白傷などが発生した場合でも、発生箇所に応じて適切に補正することが可能となる。
【0043】
以上、本発明のイメージセンサ20について実施例に基づいて説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施例のイメージセンサを搭載した撮像機器の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】本実施例のイメージセンサの大まかな構成を示した説明図である。
【図3】本実施例のイメージセンサによって映像信号を読み出しながら温度を検出する撮像処理の流れを示す説明図である。
【図4】本実施例のイメージセンサでセンサ温度を検出する様子を概念的に示した説明図である。
【図5】第1の変形例において遮光領域の複数の箇所で温度を決定する様子を示した説明図である。
【図6】第2の変形例において映像信号を読み出すための光電素子を用いて温度を検出する様子を概念的に示した説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10…光学系、 20…イメージセンサ、 30…制御部、 100…撮像機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光した光を電荷に変換して蓄積する複数の光電素子が二次元的に配列されるとともに、各々の該光電素子に蓄積された電荷量に影響を与えることなく、該電荷量の分布を検出可能に構成されたイメージセンサを有する撮像機器であって、
各々の前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化する蓄積電荷量初期化手段と、
前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化した後、所定期間、該光電素子を露光することによって発生した前記電荷量の分布を、映像信号として読み出す映像信号読出手段と、
前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化した後、少なくとも一部の該光電素子については、遮光した状態で電荷を蓄積しながら電荷量を監視することにより、該電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでに要する蓄積時間を検出する蓄積時間検出手段と、
前記蓄積時間に基づいて、前記イメージセンサの温度を検出する温度検出手段と
を備える撮像機器。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像機器であって、
前記イメージセンサ中で複数の前記光電素子が二次元的に配列された領域は、露光可能に形成されて前記映像信号が読み出される該光電素子によって構成された露光領域と、遮光された状態で電荷を蓄積する該光電素子によって構成された遮光領域とに区分されており、
前記蓄積電荷量初期化手段は、前記遮光領域内の前記光電素子の初期化を留保したまま、前記露光領域内の該光電素子を初期化可能な手段である撮像機器。
【請求項3】
請求項2に記載の撮像機器であって、
前記蓄積電荷量初期化手段は、縦方向および横方向のマトリックス状に配列された前記光電素子を、該縦方向または該横方向への該光電素子の列たる素子列毎に初期化する手段であり、
前記イメージセンサ中の前記遮光領域は、所定本数の前記素子列によって形成された領域である撮像機器。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の撮像機器であって、
前記イメージセンサ中の前記遮光領域が、前記露光領域を挟んで両側に設けられている撮像機器。
【請求項5】
受光した光を電荷に変換して蓄積する複数の光電素子が二次元的に配列されるとともに、各々の該光電素子に蓄積された電荷量に影響を与えることなく、該電荷量の分布を検出可能に構成されたイメージセンサの温度検出方法であって、
各々の前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化する第1の工程と、
前記光電素子に蓄積された電荷量を初期化した後、少なくとも一部の該光電素子については、遮光した状態で電荷を蓄積する第2の工程と、
前記遮光した状態で蓄積される電荷量を監視することにより、該電荷量が所定の閾値電荷量に達するまでに要する蓄積時間を検出する第3の工程と、
前記蓄積時間に基づいて、前記イメージセンサの温度を検出する第4の工程と
を備えるイメージセンサの温度検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−273089(P2009−273089A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124373(P2008−124373)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】