説明

イリジウム錯体及びこれを用いた有機発光素子

【課題】極めて高効率で、かつ高輝度な光を出力する有機発光素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持される有機化合物層とから構成され、該有機化合物層のうち少なくとも一層に、下記一般式(1)で示されるイリジウム錯体が含まれることを特徴とする、有機発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,イリジウム錯体及びこれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極との間に蛍光性有機化合物又は燐光性有機化合物を含む薄膜を挟持する素子である。また、各電極から電子及びホール(正孔)を注入し蛍光性化合物又は燐光性化合物の励起子を生成させることにより、この励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放射する。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、発光デバイスの薄型・軽量化が可能であることが挙げられる。このことから、有機発光素子は広汎な用途への可能性が示唆されている。
【0004】
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気等による劣化等の耐久性の面で未だ多くの問題がある。さらにフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合には色純度のよい青、緑、赤の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分解決されたとは言えない。
【0005】
ところで近年、燐光性化合物を発光材料として用い、三重項状態のエネルギーをEL発光に用いる研究が多くなされ、その実例となる有機発光素子が多数提案されている。例えば、プリンストン大学のグループにより、イリジウム錯体を発光材料として用いた有機発光素子が、高い発光効率を示すことが報告されている(非特許文献1)。また、一価のイリジウム錯体をEL発光に用いる検討もなされている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nature,395,151(1998)
【非特許文献2】Chem.Eur.J.,13,2686(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、極めて高効率で、かつ高輝度な光を出力する有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイリジウム錯体は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0009】
【化1】

(式(1)において、Irは、1価のイリジウムイオンであり、Xは、置換あるいは無置換のアルキレン基、置換あるいは無置換のアルケニレン基又は置換あるいは無置換のアリーレン基を表す。R1乃至R4は、それぞれ置換あるいは無置換のアルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極めて高効率で、かつ高輝度な光を出力する有機発光素子を提供することができる。また本発明の有機発光素子は、真空蒸着、キャステイング法等を用いて作製が可能であるため、比較的安価で大面積のものを容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の有機発光素子における第1の実施形態を示す断面模式図である。
【図2】本発明の有機発光素子における第2の実施形態を示す断面模式図である。
【図3】本発明の有機発光素子における第3の実施形態を示す断面模式図である。
【図4】本発明の有機発光素子における第4の実施形態を示す断面模式図である。
【図5】本発明の有機発光素子における第5の実施形態を示す断面模式図である。
【図6】本発明の有機発光素子における第6の実施形態を示す断面模式図である。
【図7】実施例1で合成した例示化合物Ir−1の結晶状態のPLスペクトルを示す図である。
【図8】実施例6で作製した有機発光素子を電圧印加した時におけるELスペクトルを示す図である。
【図9】実施例7で作製した有機発光素子を電圧印加した時におけるELスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のイリジウム錯体は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0013】
【化2】

(式(1)において、Irは、1価のイリジウムイオンであり、Xは、置換あるいは無置換のアルキレン基、置換あるいは無置換のアルケニレン基又は置換あるいは無置換のアリーレン基を表す。R1乃至R4は、それぞれ置換あるいは無置換のアルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。)
【0014】
次に、式(1)に示される置換基について説明する。
【0015】
Xで表されるアルキレン基として、メチレン基、エチレン基、ノルマルプロピレン基、イソプロピレン基、ノルマルブチレン基等が挙げられる。
【0016】
Xで表されるアルケニレン基として、ビニレン基、プロペニレン基等が挙げられる。
【0017】
Xで表されるアリーレン基として、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0018】
上記アルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基がさらに有してもよい置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0019】
1乃至R4で表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0020】
1乃至R4で表されるアリール基として、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられる。
【0021】
上記アルキル基及びアリール基がさらに有してもよい置換基として、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0022】
ところで有機発光素子を構成する発光層が、りん光発光性材料からなる場合、三重項励起子からのりん光発光にいたる主な過程は、以下のいくつかの過程からなる。
1.周辺材料での電子・ホールの輸送
2.発光層内での電子・ホールの輸送
3.周辺材料及び発光層内での励起子生成
4.周辺材料からりん光発光性材料への励起エネルギー移動
5.りん光発光性材料の三重項励起子生成
6.りん光発光性材料の三重項励起子→基底状態時のりん光発光
【0023】
それぞれの過程における所望のエネルギー移動や発光は、様々な失活過程と競争しながら起るものである。ここで有機発光素子の発光効率を高めるためには、発光中心材料そのものの発光量子収率が大きいことは言うまでもない。しかしながら、周辺材料からりん光発光性材料へのエネルギー移動が如何に効率的にできるかも大きな問題となる。また、通電による発光劣化は今のところ原因は明らかではないが、少なくとも発光中心材料そのもの、又はその周辺材料による発光材料の環境変化に関連したものと想定される。
【0024】
そこで本発明者らは種々の検討を行い、一般式(1)で示される本発明のイリジウム錯体を見出した。
【0025】
以下、本発明のイリジウム錯体の具体的な構造式を下記に示す。但し、これらはあくまでも代表例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、式中のPhはフェニル基を表し、Cyはシクロヘキシル基を表す。
【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
次に、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
【0030】
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、陽極と陰極との間に挟持される有機化合物層とから構成される。そして有機化合物層のうち少なくとも一層に本発明のイリジウム錯体が含まれる。本発明の有機発光素子は、好ましくは、陽極と陰極との間に電圧を印加することにより発光する電界発光素子である。
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機発光素子を詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の有機発光素子における第一の実施形態を示す断面模式図である。図1の有機発光素子10は、基板1上に、陽極2、発光層3及び陰極4が順次設けられている。この有機発光素子10は、発光層3が、ホール輸送能、エレクトロン輸送能及び発光性の性能を全て有する有機化合物で構成されている場合に有用である。またホール輸送能、エレクトロン輸送能及び発光性の性能のいずれかの特性を有する有機化合物を混合して構成される場合にも有用である。
【0033】
図2は、本発明の有機発光素子における第二の実施形態を示す断面模式図である。図2の有機発光素子20は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、電子輸送層6及び陰極4が順次設けられている。この有機発光素子20は、ホール輸送性及び電子輸送性のいずれかを備える発光性の有機化合物と電子輸送性のみ又はホール輸送性のみを備える有機化合物とを組み合わせて用いる場合に有用である。また、有機発光素子20は、ホール輸送層5又は電子輸送層6が発光層を兼ねている。
【0034】
図3は、本発明の有機発光素子における第三の実施形態を示す断面模式図である。図3の有機発光素子30は、図2の有機発光素子20において、ホール輸送層5と電子輸送層6との間に発光層3を挿入したものである。この有機発光素子30は、キャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、ホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した有機化合物を適宜組み合わせて用いることができる。このため、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の有機化合物が使用できるので、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層3にキャリアあるいは励起子を有効に閉じこめて有機発光素子30の発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0035】
図4は、本発明の有機発光素子における第四の実施形態を示す断面模式図である。図4の有機発光素子40は、図3の有機発光素子30において、陽極2とホール輸送層5との間にホール注入層7を設けたものである。この有機発光素子40は、ホール注入層7を設けることにより、陽極2とホール輸送層5との間の密着性又はホールの注入性が改善されるので低電圧化に効果的である。
【0036】
図5は、本発明の有機発光素子における第五の実施形態を示す断面模式図である。図5の有機発光素子50は、図3の有機発光素子30において、ホール又は励起子(エキシトン)を陰極4側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層8)を、発光層3と電子輸送層6との間に挿入したものである。イオン化ポテンシャルの非常に高い有機化合物をホール/エキシトンブロッキング層8として用いることにより、有機発光素子50の発光効率が向上する。
【0037】
図6は、本発明の有機発光素子における第六の実施形態を示す断面模式図である。図6の有機発光素子60は、図4の有機発光素子40において、ホール/エキシトンブロッキング層8を発光層3と電子輸送層6との間に挿入したものである。イオン化ポテンシャルの非常に高い有機化合物をホール/エキシトンブロッキング層8として用いることにより、有機発光素子60の発光効率が向上する。
【0038】
ただし、図1乃至図6はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明の縮合環芳香族化合物を含有する有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層の界面に絶縁性層、接着層又は干渉層を設けてもよい。また、ホール輸送層5がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成されてもよい。
【0039】
本発明のイリジウム錯体は、高い発光効率を示すので発光材料に適している。ここで本発明のイリジウム錯体を発光層3の構成材料(発光材料)として使用する場合、その含有量は、好ましくは、発光層3を構成する材料全体の重量に対して0.1重量%以上100重量%以下である。ところで本発明のイリジウム錯体を発光層3内において高濃度で用いた場合、発光材料分子間の相互作用によって、基底状態において会合体を形成すること、あるいは励起会合体を形成する濃度消光現象が起こることが懸念される。また、三重項励起子−三重項励起子消滅による効率の低下も懸念される。従って、本発明のイリジウム錯体は、発光層3がホストとゲストとからなり、本発明のイリジウム錯体がゲストであることが好ましい。ここで本発明の錯体を発光層のゲストとして使用する場合、その含有量は、好ましくは、発光層を構成する材料全体の重量に対して0.1重量%以上50重量%以下である。また、濃度消光及び三重項励起子−三重項励起子消滅の観点からより好ましくは、0.1重量%以上20重量%以下である。
【0040】
本発明のイリジウム錯体は、有機発光素子を構成する発光層の構成材料として使用するのが好ましいが、必要に応じ、発光層のホストとして使用してもよい。また発光層3以外の有機化合物層、例えば、正孔注入層7、正孔輸送層5、電子注入層、電子輸送層6、電子障壁層、ホール/エキシトンブロッキング層8等にも含まれていてもよい。
【0041】
本発明の有機発光素子は、好ましくは、発光層に含ませる発光材料として、燐光発光するイリジウム錯体を使用するものである。ただしこれまで知られているホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物等を必要に応じて一緒に使用することもできる。以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
陽極2の構成材料は、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極材料は1種類を単独で使用してもよいし、複数種類の材料を併用して使用してもよい。
【0047】
一方、陰極4の構成材料は、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体又はこれらの合金が使用できる。また、酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物も使用可能である。また、陰極は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0048】
本発明の有機発光素子で使用される基板1は、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールすることも可能である。
【0049】
尚、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッソ樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0050】
本発明の有機発光素子において、有機化合物層は、一般には真空蒸着法又は適当な溶媒に溶解させて塗布法により薄膜を形成する。特に塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0051】
上記結着樹脂としては広範囲な結着性樹脂より選択でき、例えばポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独又は共重合体ポリマーとして1種又は2種以上混合してもよい。
【0052】
本発明の有機発光素子において、本発明のイリジウム錯体を含む層の膜厚は10μmより薄く、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.01μm以上0.5μm以下にする。
【0053】
また本発明の有機発光素子は、有機発光素子に電圧を印加する手段であるスイッチング素子と組み合わせて表示装置として用いることが好ましい。本発明の有機発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライト等が考えられる。表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。また、プリンターの光源としては、現在広く用いられているレーザビームプリンタのレーザー光源部を、本発明の発光素子に置き換えることができる。独立にアドレスできる素子をアレイ上に配置し、感光ドラムに所望の露光を行うことで、画像形成する。本発明の素子を用いることで、装置体積を大幅に減少することができる。照明装置やバックライトに関しては、本発明による省エネルギー効果が期待できる。
【0054】
ディスプレイへの応用では、スイッチング素子としてはTFT(Thin Film Transistor)素子等を用いて駆動する方式が考えられる。
【0055】
本発明は、スイッチング素子に特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等でも容易に応用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中のPhはフェニル基を表し、Cyはシクロヘキシル基を表す。
【0057】
[実施例1](例示化合物Ir−1の合成)
【0058】
【化10】

【0059】
(1)中間体1の合成
反応容器内に、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
塩化メチレン:5ml
ジ−・−クロロ−ビス(1,5−シクロオクタジエン)ジイリジウム(i):5.02g(7.47mmol)
【0060】
次に、上記反応容器とは別の容器内に、下記に示す試薬、溶媒を仕込んで混合溶液を調製した。
2−(1H−テトラゾール−5−イル)ピリジン:2.20g(14.94mmol)
メタノール:65ml
水酸化ナトリウム:1.20g(29.88mmol)
水:45mL
【0061】
次に、上記混合溶液を室温で30分攪拌した後、ロータリーエバポレーターでメタノールを除去した。次に、メタノールを除去した混合溶液を反応溶液中に滴下した。次に、反応溶液が均一になるまでメタノールを滴下した後、反応溶液を室温で15分激しく攪拌した。次に、析出した結晶をろ過し、水、氷冷したメタノールで順次洗浄した後、減圧真空化で乾燥することにより、中間体1を6.49g(収率97%)得た。
【0062】
(2)例示化合物Ir−1の合成
反応容器内に、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間体1:200mg(0.448mmol)
テトラヒドロフラン:20mL
【0063】
次に、反応溶液中に、cis−1,2−ビス(ジフェニルフォスフィノ)エチレン179mg(0.452mmol)とテトラヒドロフラン7mLとを混合して調製した溶液を滴下した後、反応溶液を室温で10分間激しく攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物を、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:テトラヒドロフラン)により精製することにより、例示化合物Ir−1を136mg(収率41%)を得た。
【0064】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0065】
1H−NMR(δH,500MHz,CD2Cl2) 8.57(m,1H,py−H6);8.14(m,1H,py−H3);7.96(m,1H,py−H4);7.87−7.82(m,8H,o−Ph);7.47−7.36(m,12H,m−Ph,p−Ph);7.47(ddd,1H,J=49.5,13.6,8.7,PCH=);7.30(ddd,1H,J=50.3,13.4,8.7,PCH=);7.01(m,1H,py−H5).
【0066】
13C−NMR(δC,126MHz,CD2Cl2) 166.4(t,3CP=1.7,tert−C);153.7(d,3CP=4.3,py−C6);150.5(br,py−C2);150.3(dd,1CP=53.0,2CP=25.0,PCH=);148.1(dd,1CP=52.6,2CP=25.0,PCH=);139.7(py−C4);134.8(d,1CP=58.0,i−Ph);134.0(d,2CP=11.5,o−Ph);133.7(d,2CP=11.3,o−Ph);133.0(d,1CP=51.5,i−Ph);131.0(d,4CP=2.1,p−Ph);130.6(d,4CP=2.3,p−Ph);129.3(d,3CP=10.0,m−Ph);128.8(d,3CP=10.5,m−Ph);126.2(d,4CP=2.6,py−C5);122.3(d,4CP=2.0,py−C3).
【0067】
31P−NMR(δP,162MHz,CD2Cl2) 52.8(d,J=5.3),47.4(d,J=5.6).
【0068】
また、質量分析によりこの化合物の構造を確認した。
【0069】
m/z(EI,70eV) Found:M+=735
【0070】
また得られた結晶に、365nmのブラックライトを照射したところ、赤色発光が確認された。ここで粉末のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを測定した。その結果、図7に示されるスペクトルが得られた。
【0071】
[実施例2](例示化合物Ir−14の合成)
【0072】
【化11】

【0073】
反応容器内に、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間体1:100mg(0.224mmol)
テトラヒドロフラン:10mL
【0074】
次に、反応溶液中に、1,2−ビス(メチルフォスフィノ)エタン39μL(0.226mmol)とテトラヒドロフラン5mLとを混合して調製した溶液を滴下した後、反応溶液を室温で10分間激しく攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去することにより、例示化合物Ir−14を深赤色結晶として得た。
【0075】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0076】
1H−NMR(δH,400MHz,THF−d8) 8.56(d,1H,J=4.8,py−H6);8.09(d,1H,J=7.7,py−H3);7.68(td,1H,J=7.5,1.8,py−H4);7.14(m,1H,py−H5);2.46(m,2H,PCH2);2.14(m,2H,PCH2);1.48(d,6H,2HP=7.2,2×CH3);1.29(d,6H,2HP=7.2,2×CH3).
31P−NMR(δP,162MHz,THF−d8) 13.4(s).
また、質量分析によりこの化合物の構造を確認した。
【0077】
m/z(EI,70eV) Found:489[M+].
また得られた深赤色結晶に、365nmのブラックライトを照射したところ、深赤色発光が確認された。
【0078】
[実施例3](例示化合物Ir−2の合成)
【0079】
【化12】

【0080】
反応容器内に、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間体1:50mg(0.112mmol)
テトラヒドロフラン:5mL
【0081】
次に、反応溶液中に、1,2−ビス(ジフェニルフォスフィノ)エタン45mg(0.113mmol)とテトラヒドロフラン2.6mLとを混合して調製した溶液を滴下した後、反応溶液を室温で10分間激しく攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去することにより、例示化合物Ir−2を深赤色結晶として得た。
【0082】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0083】
31P−NMR(δP,162MHz,THF−d8) 50.3(d,obscured),41.0(d,J=5.9).
【0084】
また、質量分析によりこの化合物の構造を確認した。
【0085】
m/z(EI,70eV)737[M+].
また得られた深赤色結晶に、365nmのブラックライトを照射したところ、深赤色発光が確認された。
【0086】
[実施例4](例示化合物Ir−3の合成)
【0087】
【化13】

【0088】
反応容器内に、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間体1:50mg(0.112mmol)
テトラヒドロフラン:5mL
【0089】
次に、反応溶液中に、1,2−ビス(ジフェニルフォスフィノ)ベンゼン50mg(0.113mmol)とテトラヒドロフラン2.6mLとを混合して調製した溶液を滴下した後、反応溶液を室温で10分間激しく攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去することにより、例示化合物Ir−3を深赤色結晶として得た。
【0090】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0091】
31P−NMR(dP,162MHz,THF−d8) 47.4(d,J=8.9),42.8(d,J=8.0).
また、質量分析によりこの化合物の構造を確認した。
【0092】
m/z(EI,70eV)785[M+].
また得られた深赤色結晶に、365nmのブラックライトを照射したところ、深赤色発光が確認された。
【0093】
[実施例5](例示化合物Ir−11の合成)
【0094】
【化14】

【0095】
反応容器内に、下記に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間体1:200mg(0.448mmol)
テトラヒドロフラン:20mL
【0096】
次に、反応溶液中に、1,2−ビス(ジシクロヘキシルフォスフィノ)エタン191(0.452mmol)とテトラヒドロフラン7mLとを混合して調製した溶液を滴下した後、反応溶液を室温で10分間激しく攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物を、フロリジルクロマトグラフィー(展開溶媒:テトラヒドロフラン)で精製することにより、例示化合物Ir−11を深赤色結晶として287mg(収率84%)得た。
【0097】
NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
【0098】
1H−NMR(δH,400MHz,THF−d8) 8.96(brs,1H,py−H6);8.11(m,2H,py−H3+H4);7.34(t,1H,J=6.2,py−H5);2.59(m,2H,cy−CHP);2.08(m,2H,cy−CHP);2.00−1.00(m,44H,cy−CH2+PCH2).
【0099】
13C−NMR(δC,101MHz,THF−d8) 166.5(tert−C);154.7(py−C6);152.0(py−C2);139.2(py−C4);125.9(py−C5);122.3(py−C3);36.9(cy−CH2);36.6(cy−CHP);31.4−31.2(m,cy−CH2);30.2−29.9(m,cy−CH2);28.5−27.9(m,cy−CH2);27.5(d,JCP=19.8,cy−CH2);26.3(m,PCH2);23.0(dd,3CP=31.8,10.1,PCH2).
【0100】
31P−NMR(δP,162MHz,THF−d8) 60.9(s),58.0(s).
【0101】
また得られた深赤色結晶に、365nmのブラックライトを照射したところ、深赤色発光が確認された。
【0102】
[実施例6](有機発光素子の作製)
図3に示される有機発光素子を、以下に示す方法により作製した。
【0103】
まず基板上1にITO(透明電極、陽極2)が成膜されている透明導電性支持基板上に、PEDOT/PSS溶液(Stark社製)を滴下し、回転数5000rpm、回転時間60秒でスピンコートした。次に、基板を145℃で10分間乾燥することにより、ホール輸送層5を形成した。このときホール輸送層5の膜厚は38nmであった。
【0104】
次に、下記に示す試薬、溶媒を混合してクロロベンゼン溶液を調製した。
ポリビニルカルバゾール(MW=1,100,000、Aldrich社製):6mg
例示化合物Ir−1:1mg
PBD:4mg
クロロベンゼン:1ml
下記に、PBDの構造式を示す。
【0105】
【化15】

【0106】
次に、ホール輸送層5上に、上記クロロベンゼン溶液を滴下し、回転数1000rpm、回転時間60秒でスピンコートすることにより、発光層3を形成した。このとき発光層3の膜厚は66nmであった。
【0107】
次に、他の有機化合物層及び陰極となる電極層を、2×10-6Paの真空チャンバー内におかる抵抗加熱による真空蒸着により連続成膜を行った。具体的には、まず発光層3上に、下記に示すBCPを成膜して電子輸送層6を形成した。このとき電子輸送層6の膜厚を10nmとした。次に、Caを成膜して第一金属電極層を形成した。このとき第一金属電極層の膜厚を20nmとした。最後に、Alを成膜して第二金属電極層を形成した。このとき第二金属電極層の膜厚100nmで成膜した。尚、第一金属電極層及び第二金属電極層は陰極4として機能する。以上のようにして、有機発光素子を作製した。
【0108】
【化16】

【0109】
得られた有機発光素子に電圧を印加したところ、発光スペクトルから、イリジウム錯体である例示化合物Ir−1に由来する発光が確認された。図8は、本実施例で作製した有機発光素子を電圧印加した時におけるELスペクトルを示す図である。さらに、この素子に窒素雰囲気下で100時間電圧を印加したところ、良好な発光の継続が確認された。
【0110】
[実施例7](有機発光素子の作製)
実施例6において、下記に示す試薬、溶媒を混合して調製したクロロベンゼン溶液を用いて発光層3を形成したことを除いては、実施例6と同様の方法により有機発光素子を形成した。
【0111】
ポリビニルカルバゾール(MW=1,100,000、Aldrich社製):29.6mg
例示化合物Ir−11:2.6mg
PBD:17.5mg
クロロベンゼン:2ml
【0112】
得られた有機発光素子に電圧を印加したところ、発光スペクトルから、イリジウム錯体である例示化合物Ir−11に由来する発光が確認された。図9は、本実施例で作製した有機発光素子を電圧印加した時におけるELスペクトルを示す図である。さらに、この素子に窒素雰囲気下で100時間電圧を印加したところ、良好な発光の継続が確認された。
【符号の説明】
【0113】
1:基板、2:陽極、3:発光層、4:陰極、5:ホール輸送層、6:電子輸送層、7:ホール注入層、8:ホール/エキシトンブロッキング層、10(20、30、40、50、60):有機発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするイリジウム錯体。
【化1】

(式(1)において、Irは、1価のイリジウムイオンであり、Xは、置換あるいは無置換のアルキレン基、置換あるいは無置換のアルケニレン基又は置換あるいは無置換のアリーレン基を表す。R1乃至R4は、それぞれ置換あるいは無置換のアルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。)
【請求項2】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持される有機化合物層とから構成され、
該有機化合物層のうち少なくとも一層に、請求項1に記載のイリジウム錯体が含まれることを特徴とする、有機発光素子。
【請求項3】
前記イリジウム錯体が発光層に含まれることを特徴とする、請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記発光層がホストとゲストとからなり、該ゲストが前記イリジウム錯体であることを特徴とする、請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより発光する電界発光素子であることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と、
該有機発光素子に電圧を印加する手段と、を備えることを特徴とする、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−178727(P2011−178727A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45296(P2010−45296)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】