説明

イロペリドンの結晶を含有する注射用デポ製剤

【課題】本発明は、血漿への結晶成分の放出および吸収が結晶サイズに関連し得るイロペリドン(iloperidone)またはその代謝物の結晶を含む注射用デポ製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】(結晶のX50値が1〜200ミクロンであって、イロペリドンまたはその代謝物またはその医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物、多形体または立体異性体の結晶を含有する注射用デポ製剤を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血漿への結晶成分の放出および吸収が結晶サイズに関連し得るイロペリドン(iloperidone)またはその代謝物の結晶を含む注射用デポ製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の技術的背景
ポリ(d,l−ラクチド−コ−グリコリド)ミクロスフェアからの活性薬剤の制御された放出およびラクチド使用の一般的な現状は文献「L. M. Sanders et al., J. of Pharm. Sci., 73, No. 9, Sept. (1984); Controlled Release of a Luteininizing Hormone-Releasing Hormone Analogue from Poly(d,l-lactide-co-glycolide) Microspheres(黄体化ホルモン放出ホルモン誘導体のポリ(d,l−ラクチド−コ−グリコリド)ミクロスフェアからの制御された放出)」に記載されている。
【0003】
イロペリドンのマイクロカプセル化デポ製剤およびポリグリコリド・ポリアクチドグルコース・スターポリマーは2001年10月30日出願の米国特許出願第60/339036号および2001年10月30日出願の米国特許出願第60/339037号に開示されている。
【0004】
米国特許第5955459号は脂肪酸の抱合体とイロペリドンとを含有する統合失調症治療用組成物を記載している。好適な脂肪酸はシス−ドコサへキサン酸である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
できるだけ化学的に純粋で、ガンマ線照射のような滅菌操作に対して安定なイロペリドンまたはその代謝物のデポ製剤を開発することは有益であろう。さらに、このデポ製剤を患者に投与した後にはイロペリドンまたはその代謝物の信頼でき、再現性があり、一定な、血漿中濃度プロファイルを提供すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要約
本発明は平均粒子サイズ(X50値)が1〜200ミクロンである、イロペリドンまたはその代謝物またはその医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物、多形体または立体異性体の結晶を含有する注射用デポ製剤を提供する。
【0007】
他の側面では、本発明は構造式(I):
【化1】

[式中、Rは
【化2】

である]
を有し、X50値が1〜200ミクロンである結晶を含有する注射用デポ製剤を提供する。
【0008】
さらに別の側面では、本発明は、イロペリドンまたはその代謝物またはその医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物、多形体および立体異性体の結晶であって、結晶のX50値が1〜200ミクロンである結晶を提供する。
【0009】
本発明者は、予期せぬことに、イロペリドンまたはその代謝物の結晶を含有するデポ製剤には次の利点があることを確認した:(i)この結晶の血漿中への放出を結晶のサイズに相関させることができること;(ii)この結晶の血漿中への吸収は結晶のサイズに相関させることができること;(iii)この結晶の粒子サイズが結晶化技術および/または粉砕技術によって制御できること;および(iv)この結晶が貯蔵に対して安定であり、またガンマ線照射のような滅菌操作に対して安定であること。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、イロペリドン結晶の顕微鏡写真である。格子の1辺は100ミクロンに等しい。
【図2】図2は、粉砕したイロペリドン結晶の顕微鏡写真である。格子の1辺は250ミクロンに等しい。
【図3】図3は、雌性ウサギにおいて所定時間内に16ミクロンおよび30ミクロンのX50値を有するイロペリドン結晶デポ製剤の平均血漿中濃度を示すグラフである。
【図4】図4は、雌性ウサギにおいて所定時間内に170ミクロンのX50値を有するイロペリドン結晶デポ製剤による平均血漿中濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の記載
イロペリドンは1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトシキフェニル]エタノンである。本明細書で使用する「イロペリドン」にはその塩、水和物、溶媒和物、無晶形物のような多形体および/または立体異性体も含まれる。イロペリドンの代謝物は1−[4−[3−[4−(6−フルオロ(d)イソオキサゾール−3−イル)ピペリジン−1−イル]プロポキシ]−3−メトシキフェニル]エタノールである。本明細書で使用する「イロペリドンの代謝物」には、その塩、水和物、溶媒和物、無晶形のような多形体および/または立体異性体のいずれも包含するものとする。
【0012】
好ましくは、この結晶成分は構造式(I):
【化3】

[式中、Rは
【化4】

である]
で示される。
【0013】
Rが式:
【化5】

である場合には、結晶は(R)または(S)エナンチオマーのいずれかとしてまたはそのラセミ混合物として存在してもよい。(S)エナンチオマーは構造式(II):
【化6】

で示される。
(R)エナンチオマーは構造式(III):
【化7】

で示される。
【0014】
結晶は針状晶、三方晶、正方晶、平板な棒状晶、立方晶、平行六面体晶または板状晶の形であってもよい。結晶の平均粒径(X50値)は、好ましくは約1〜約200ミクロン、より好ましくは10〜170ミクロンであって、この結晶を含有するデポ製剤は標準的ゲージ(典型的には18ゲージまたは20ゲージ)の注射針を使用して患者に投与することができる。最も好ましくは結晶の平均粒径(X50値)は15〜70ミクロンである。
【0015】
この結晶は、結晶の成長技術または技術操作によって直接的に所望の結晶サイズに調製してもよい。あるいは、結晶をデポ製剤に所望されるものよりも大きな結晶サイズに調製してもよい。この場合、結晶を粉砕または磨砕して所望するサイズ範囲内の結晶を調製してもよい。このような粉砕工程は、たとえば結晶サイズについて所望する分布を達成するために重要である。原理的にはたとえばピンミルなど、どのような粉砕機でも使用できる。粉砕後、結晶を要すればスクリーンスタック(screen stack)するか、または篩を通して所望サイズの結晶を保持する一方で、所望範囲外の結晶(細かすぎまたは大きすぎのどちらか)を排除してもよい。
【0016】
適当な溶媒中の懸濁液を本発明のデポ製剤として提供することも本発明の範囲内にある。水に懸濁した結晶のような水性懸濁液は好適である。本発明者は懸濁液の場合、結晶を追加的成分1種またはそれ以上と共に投与するのが好ましいことも確認した。
【0017】
本発明のデポ製剤に使用してもよい追加的成分には、医薬組成物製造に通常に使用される天然および/または人工の成分が含まれる。追加的成分の例には界面活性剤、溶解剤、乳化剤、保存剤、等張剤、分散剤、湿潤剤、充填剤、溶媒、緩衝剤、安定化剤、滑沢剤および濃稠化剤が含まれる。追加的成分の組み合わせを使用してもよい。好適な追加的成分は界面活性剤、等張剤および濃稠化剤である。一般に、この成分とその非経腸投与製剤中の濃度は当業者に知られており、それ故ここには追加的成分の好適例のみを記載するが、本発明のデポ製剤では下記の好適な追加的成分の例に限定されるべきものではない。
【0018】
界面活性剤の例には次を含む:すなわち、ソルビタントリオレエートのようなソルビタン脂肪酸エステル、レシチンのようなホスファチド、アラビアゴム、トラガカント、ポリオキシエチル化ソルビタンモノオレエートおよびその他のソルビタンのエトキシル化脂肪酸エステル、プルロニックス(PLURONICS)の商標名で入手できる特にプルロニックスF68のようなプロピレングリコールのポリオキシアルキレン誘導体;ポリオキシエチル化脂肪、ポリオキシエチル化オレオトリグリセリド、リノル化オレオトリグリセリド、および脂肪アルコール、アルキルフェノールまたは脂肪酸または1−メチル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリドン−(2)のポリエチレンオキシド縮合産物。本明細書では「ポリオキシエチル化」は問題の産物がポリオキシエチレン鎖を持ち、その多量体化の程度は一般に2〜40、好ましくは10〜20であることを意味する。好適な界面活性剤はBASFから購入できるプルロニックスF68のようなプロピレングリコールのポリオキシアルキレン誘導体である。
【0019】
本発明のデポ製剤における界面活性剤の量は非経腸投与用製剤の分野で知られている範囲内、好ましくは約0.5〜約10mg/mLである。
【0020】
濃稠化剤の例にはクロスカメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびヒドロキシプロピルセルロースを含む。好適な濃稠化剤はカルボキシメチルセルロースナトリウムである。
【0021】
本発明によるデポ製剤中の濃稠化剤の量は非経腸投与について当技術分野で知られている範囲、好ましくは約2〜約25mg/mLである。
【0022】
等張剤の例は細胞膜を通過する水流総量を防ぐためにデポ製剤に浸透圧を与えるもので、塩化ナトリウムのような塩類;デキストロース、マンニトールおよび乳糖のような糖類を含む。マンニトールは好適な等張剤である。
【0023】
本発明デポ製剤に入れる等張剤の量は非経腸製剤の技術で公知の範囲内である。
【0024】
デポ製剤に入れるイロペリドンまたはその代謝物の用量は処置すべき病状の重度に依存して変動する。本発明のデポ製剤は好ましくは注射用であって、筋肉内注射または皮下注射によって投与してもよい。注射投与されたデポ製剤は、たとえば約2〜約8週間と長期間にわたって疾患の有効な処置を提供する。デポ製剤は結晶の溶解によってイロペリドンまたはその代謝物の制御された放出を可能にし、それ故長期間にわたってイロペリドンまたはその代謝物の安定な濃度が得られる。
【0025】
イロペリドンまたはその代謝物の注射1回あたり投与量は、好ましくは約10mg〜約1000mgである。さらに好ましくは、イロペリドンまたはその代謝物の注射1回あたり投与量は約100mg〜約750mgである。
【0026】
本発明の一態様では、所定サイズの結晶をガラス製バイアルに充填し、窒素を吹き込み、ゴム製の栓で密封する。このバイアル剤を、好ましくは25〜35kGyの範囲のガンマ線で最終滅菌をするか、または無菌条件下で生産し得る。
【0027】
本発明の一態様では、イロペリドンの結晶を体内に注射する。
【0028】
本発明の一態様では、イロペリドン代謝物の結晶を体内に注射する。
【0029】
本発明の別の態様では、イロペリドン結晶を水に懸濁し、その懸濁液を体内に注射する。
【0030】
本発明の別の態様では、イロペリドン代謝物の結晶を水に懸濁し、その懸濁液を体内に注射する。
【0031】
本発明のデポ製剤は中枢神経系疾患、たとえば統合失調症のような精神疾患を処置するために有用である。本発明はまたデポ製剤を入れた容器と患者の統合失調症をこのデポ製剤を使用して処置するための指示書とを入れたパッケージを提供する。
【0032】
以下の実施例は本発明の実施に使用する材料および方法をさらに記載する。実施例は本発明の範囲を限定することを意図して提供されたものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1
次式で示される1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンズイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトシキフェニル]エタノンの製造:
【化8】

磁気攪拌機と還流冷却機とを装着した2Lエルレンマイヤーフラスコに窒素雰囲気下、外温20〜25℃でイロペリドン250gと酢酸ブチル1050gとを加えた。明褐色懸濁液を内温80℃に加熱すると褐色溶液が形成された。溶液をセルフロック(Cellflock)で濾過し、ブレード攪拌機および還流冷却器を装着し、予熱した2.5Lガラス容器に窒素雰囲気下に入れた。エルレンマイヤーフラスコとフィルターを温酢酸ブチル(約70℃)で洗浄した。褐色溶液を内温80℃に再加熱し、5〜10分間攪拌した。溶液を0.75K/分で内温65℃まで冷却し、酢酸ブチル7.5g中で超音波処理した粉砕イロペリドンの結晶種2.5gを加えた。
【0034】
この懸濁液を撹拌速度0.25K/分で内温0℃まで冷却し、内圧0℃で2〜12時間撹拌した。この懸濁液をガラス製ヌッチェ(○=110mm)で15秒間に濾過した。フィルターケーキ(ケーキ厚=4cm)に母液および冷酢酸ブチル(0℃)275gを2部に分けて洗った。
【0035】
湿った明褐色フィルターケーキとしてイロペリドン315gが得られた。この湿った生成物を外温50〜60℃で2mbar以下の真空下に約16〜24時間に乾燥した。イロペリドン238.3gを得た。理論収率は94.4%であった。
【0036】
実施例2
実施例1で製造した粒子サイズX50=32μmのイロペリドン結晶120mgをナトリウムカルボキシメチルセルロース、プルロニックス(Pluronics)F68およびマンニトールを含有する混合物1mL中で振盪して再構築し、均質な懸濁液を得た。この懸濁液をバイアルから注射器で吸い出し、ウサギに注射した。
【0037】
実施例3
実施例1で製造した粒子サイズX50=15μmのイロペリドン結晶850mgをナトリウムカルボキシメチルセルロース、プルロニックスF68およびマンニトールを含有する混合物2mL中で振盪または撹拌して再構築し、均質な懸濁液を得た。このペースト状懸濁液をバイアルから注射器で吸い出し、ウサギに注射した。
【0038】
実施例4
実施例1で製造した粒子サイズX50=51μmのイロペリドン結晶850mgカルボキシメチルセルロースナトリウム、プルロニックスF68およびマンニトールを含有する混合物2mL中で振盪して再構築し、均質な懸濁液を得た。この懸濁液をバイアルから注射器で吸い出し、ウサギに注射した。
【0039】
実施例5
図面に関して、図3はX50値16ミクロンおよび30ミクロンを持つイロペリドン結晶デポ製剤の雌性ウサギにおける平均血漿中濃度の所定時間にわたるグラフである。製剤は各ウサギkgあたりイロペリドン20mgになるように用量を標準化した。各製剤をウサギ6匹に注射した。図3はX50=16ミクロンを持つイロペリドン結晶を用いて調製したデポ製剤はウサギ血漿中に少なくとも16日間残存したことを示す。X50値=30ミクロンを持つイロペリドン結晶で調製したデポ製剤はウサギの血漿中に少なくとも25日間残存した。血漿中のイロペリドンの薬動力学的パラメータで標準化した平均用量を各結晶サイズについて表Iに要約する。
【0040】
【表1】

【0041】
表Iの結果と図3のグラフは明らかにイロペリドンの平均血漿中濃度がイロペリドン結晶の粒子サイズに相関することを示す。
【0042】
実施例6
図面に関して、図4はX50値170ミクロンを持つイロペリドン結晶デポ製剤の雌性ウサギにおける平均血漿中濃度の所定時間にわたるグラフである。製剤は各ウサギの体重kgあたりイロペリドン20mgになるように用量を標準化した。各製剤をウサギ6匹に注射した。図4はX50=170ミクロンを持つイロペリドン結晶で調製したデポ製剤はウサギ血漿中に少なくとも30日間残留することを示す。血漿中のイロペリドンの薬動力学パラメータに標準化した平均用量を表IIに示す。
【0043】
【表2】

【0044】
イロペリドンまたはその代謝物の結晶を含有するデポ製剤は次の利点を示す:
(i)この結晶の血漿中への放出を結晶サイズに相関させることができること;
(ii)この結晶の血漿中への吸収を結晶サイズに相関させることができること;
(iii)この結晶の粒子サイズを結晶化技術および/または粉砕で制御できること;および
(iv)この結晶は保存に対して安定であり、またガンマ線照射のような滅菌操作に対して安定である。
【0045】
以上に本発明を態様の一部を特定的に参照して記載したが、当業者は、下記請求項の範囲および精神内で本発明の変更および修飾を行うことができることを理解するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶のX50値が1〜200ミクロンであって、イロペリドンまたはその代謝物またはその医薬上許容される塩、水和物、溶媒和物、多形体または立体異性体の結晶を含有する、注射用デポ製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−16849(P2011−16849A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236087(P2010−236087)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【分割の表示】特願2004−520629(P2004−520629)の分割
【原出願日】平成15年7月14日(2003.7.14)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】