説明

インク、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置

【課題】キャップにおけるインクの滞留が抑制され、保存安定性に優れるというインクの信頼性と、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れる画像特性とを、両立することができるインクの提供。
【解決手段】自己分散顔料、塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び水溶性有機溶剤を含み、自己分散顔料が、ホスホン酸基を含む官能基が粒子表面に結合している顔料で、該官能基の導入量が0.10〜0.33mmol/gであり、塩が、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンなどのカチオンと、Cl-、SO42-、HCOO-などのアニオンとが結合して構成され、インク中の塩のアニオンの濃度×アニオンの価数が0.005〜0.06mol/Lであり、水溶性有機溶剤がグリセリンを含み、インク中のグリセリンの含有量がインク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して占める割合が、35〜78質量%であるインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用のインク、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法に用いるインクには、近年、記録した画像における画像濃度や耐ブリーディング性をより一層向上させることが求められている。画像を記録する記録媒体の中でも普通紙にはインクの浸透性が異なる様々な種類のものが存在し、その違いは画像特性に影響を及ぼす。特に、インクの浸透性が高い記録媒体は、画像濃度が低下しやすく、また、耐ブリーディング性も低下する傾向がある。インクジェット記録方法の普及が著しい近年にあっては、このような浸透性が高い記録媒体を含め、記録媒体の種類によらずに、記録した画像が、上記の各性能を高いレベルで両立することが要求されている。
【0003】
上記要求に対し、カルシウムとの反応性の指標であるカルシウム指数値に基づいて、カルシウムとの反応性の高い官能基を顔料粒子の表面に結合した自己分散顔料を含有してなるインクによって、画像濃度を向上させることに関する提案がある(特許文献1参照)。また、顔料粒子の表面にカルボン酸基などの官能基を結合させた自己分散顔料と塩とを含有するインクによって、画像濃度や耐ブリーディング性を向上させることに関する提案がある(特許文献2〜4参照)。そして、特許文献3及び4には、顔料粒子の表面における官能基の密度を高めることで、記録画像の画像濃度を向上することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−515007号公報
【特許文献2】特開2000−198955号公報
【特許文献3】特開2008−001891号公報
【特許文献4】特開2006−089735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記したように、インクジェット用のインクに対して、画像濃度や耐ブリーディング性などの画像特性を高めるための様々な検討を行った。その一方で、信頼性の面でも十分に優れた特性を満たすインクを提供することが必要であるとの認識に至った。例えば、先に挙げた特許文献1に記載された自己分散顔料を使用することで、画像濃度の向上はある程度期待される。しかしながら、耐ブリーディング性は未だ向上の余地があり、加えて記録媒体の種類によらずに優れた画像濃度を与えることはできていないことがわかった。そこで、本発明者らは、特許文献1記載の自己分散顔料を使用した場合に、前記特性を満たすために、顔料の凝集を促進させるための塩をインクに含有させることや、また、水溶性有機溶剤の種類や含有量に着目して検討を進めた。しかし、このような自己分散顔料を用いた場合、併用する塩や水溶性有機溶剤などの種類や含有量によっては、インクの保存安定性が低下する場合があることがわかった。また、インクジェット記録装置に設けられた、記録ヘッドを覆うためのキャップに、インクが滞留したりするなどの信頼性が不十分となることがわかった。また、前記した特許文献2〜4に記載のインクでは、インクの保存安定性やキャップにおけるインクの滞留などの信頼性に関しては問題ないレベルではあるが、画像濃度については、さらなる向上が必要であることもわかった。なお、以下、インクジェット記録装置に設けられた記録ヘッドを覆うためのキャップのことを単に「キャップ」と呼ぶ。
【0006】
したがって、本発明の目的は、インクの信頼性と画像特性とを両立できる新規なインクを提供することにある。すなわち、キャップにおけるインクの滞留が抑制され、インクの保存安定性に優れるというインクの信頼性と、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れる画像を記録できるという画像特性とを、両立することができるインクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクを用いることで、その信頼性が確保され、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れる画像を安定して得ることができる、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクは、自己分散顔料、塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用のインクであって、前記自己分散顔料が、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が粒子表面に結合している顔料であり、かつ、前記自己分散顔料に結合している官能基の導入量が、0.10mmol/g以上0.33mmol/g以下であり、前記塩が、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、Cl-、Br-、I-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、NO2-、NO3-、SO42-、CO32-、HCO3-、HCOO-、(COO-2、COOH(COO-)、CH3COO-、C24(COO-2、C65COO-、C64(COO-2、PO43-、HPO42-、及びH2PO4-からなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンとが結合して構成され、かつ、インク中の該塩のアニオンの濃度×アニオンの価数が0.005mol/L以上0.06mol/L以下であり、前記水溶性有機溶剤がグリセリンを含み、かつ、インク中の前記グリセリンの含有量がインク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して占める割合が、35質量%以上78質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクの信頼性と画像特性とを両立できる新規なインクの提供が可能になる。すなわち、本発明のインクによれば、キャップにおけるインクの滞留が抑制され、インクの保存安定性に優れるというインクの信頼性と、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れる画像を記録することができるという画像特性とを両立することが可能になる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクを用いることで、その信頼性が確保され、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れる画像を安定して得ることができる、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】インクジェット記録装置のクリーニング部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、以下の記載で、インクジェット用のインクのことを、単に「インク」と省略して記載することがある。また、官能基の構造中にホスホン酸基を有する顔料を「ホスホン酸型自己分散顔料」と記載することがある。本発明において、各種の物性値は、特に断りのない限り、25℃における値である。
【0011】
本発明者らの検討によると、ホスホン酸型自己分散顔料をインクの色材とした場合、インクの保存安定性は、インクのpH、また、インク中の水溶性有機溶剤や塩による影響を受けやすいことがわかった。これは、上記顔料の構造中にあるホスホン酸基は、複数のpKaを有し、しかも、それらがインクの一般的なpHの範囲内に存在するため、顔料の分散安定性、すなわち、インクの保存安定性は、インクのpH、水溶性有機溶剤や塩に関して敏感となるためである。つまり、ホスホン酸型自己分散顔料を含有するインクの保存安定性は、pHやインク組成によって影響を受けやすくなる。
【0012】
本発明者らは、検討の結果、後述するインクの構成によって、キャップにおけるインクの滞留が抑制され、インクの保存安定性にも優れ、かつ、画像濃度及び耐ブリーディング性に優れる画像が得られることを見出して本発明に至った。このような効果が得られる本発明のインクは、以下の構成を有することを特徴とする。すなわち、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が粒子表面に結合している自己分散顔料、特定の塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び、グリセリンを含む複数の水溶性有機溶剤、を含有してなることを特徴とする。そして、自己分散顔料に結合している官能基の導入量が0.10mmol/g以上0.33mmol/g以下であり、インク中の塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値が0.005mol/L以上0.06mol/L以下であることを要する。さらに、本発明のインクは、インク中のグリセリンの含有量がインク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して占める割合が、35質量%以上78質量%以下であることを要する。
【0013】
本発明者らは、上記本発明の構成によって先に述べた効果が得られる理由を、以下のように推測している。先ず、キャップにおけるインクの滞留の抑制が達成される点に関しては、下記のように考えている。先に述べた通り、ホスホン酸型自己分散顔料を含有するインクは、そのインク組成により影響を受けやすく、また、環境要因からも影響を受けやすい。例えば、インクの蒸発などによってインク組成は変化し、また、インクのpHが低下すると、顔料粒子の表面の官能基に含まれるホスホン酸基が解離型からH型に変化し、電荷の減少に伴ってホスホン酸型自己分散顔料の分散安定性が低下する。
【0014】
このようなホスホン酸基に対して、インク中に含有させる水溶性有機溶剤として、特にグリセリンを使用することで、ホスホン酸型自己分散顔料の凝集が緩和されると考えられる。すなわち、グリセリンは、その分子構造により、複数の顔料粒子間に存在しやすいことや、保湿剤として作用することなどの複合要因で、優れた画像特性を維持しながら、ホスホン酸型自己分散顔料の凝集を緩和すると考えられる。
【0015】
次に、顔料の凝集について考察する。画像特性を向上するためには、顔料の凝集を促進することが重要であり、一方、キャップにおけるインクの滞留を抑制するためには、顔料の凝集を緩和することが重要である。つまり、画像特性の向上と、キャップにおけるインクの滞留の抑制とは、顔料の凝集という点においてトレードオフの関係にある。記録媒体における顔料の凝集は、インクが記録媒体に付与された後の、インク中の塩、顔料に対する親和性が低い水溶性有機溶剤などによって促進される固液分離によって生じる。また、インクが記録媒体に付与された後のインク中の水分などの蒸発、さらには、官能基に含まれるホスホン酸基と記録媒体に含まれるカルシウムとの相互作用によっても生じる。一方、キャップにおけるインクの滞留を抑制するためには、上述のような相互作用を生じさせるカルシウムが存在せず、また、インクがある程度の水分を含有している状態における顔料の凝集が抑制されればよい。つまり、これらの2つの現象は、インクの状態が異なる場合における顔料の凝集の促進/緩和であるため、前記した構成を有する本発明のインクにおいて、画像特性とキャップにおけるインクの滞留の抑制が両立できたものと考えられる。
【0016】
また、本発明において、インクを構成する自己分散顔料は、顔料粒子の表面に結合している官能基の導入量が0.10mmol/g以上0.33mmol/g以下であることが必要である。官能基の導入量が0.10mmol/g未満である場合、インクの保存安定性が得られず、一方、0.33mmol/gを超える場合、キャップにおけるインクの滞留が抑制できない。ホスホン酸型自己分散顔料ではない、先に述べた特許文献3及び4において検討されているような、カルボン酸基などのイオン性基が結合している従来の自己分散顔料の場合は、官能基導入量をより高めることにより、画像濃度の向上が図られていた。これは、官能基による立体障害の影響と、インク中の水溶性有機溶剤との親和性がある、顔料粒子の表面における官能基が結合していない部分の面積を小さくすることで、顔料に対して水溶性有機溶剤を溶媒和させにくくすることができるためである。さらに、本発明者らの検討によれば、カルボン酸基などのイオン性基が結合している従来の自己分散顔料では、画像濃度の向上を図る目的で官能基導入量をより高めても、キャップにおけるインクの滞留は生じていないことがわかった。
【0017】
しかし、本発明者らの検討によれば、ホスホン酸型自己分散顔料とグリセリンを含有するインクにおいては、ホスホン酸基導入量が高過ぎると、キャップにインクが滞留しやすくなる場合があることがわかった。これは、前述したように、ホスホン酸基は複数のpKaを有するが、それらがインクの一般的なpHの範囲内に存在することによる。すなわち、このことが原因して、ホスホン酸基が多く存在する場合、つまり、ホスホン酸基導入量が高くなると、特にインクのpH変化に対して敏感となるためであると考えられる。
【0018】
さらに、その効果との兼ね合いにおいて、本発明のインク中のグリセリンの含有量がインク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して占める割合が、35質量%以上78質量%以下であることを要する。この割合が35質量%未満である場合や78質量%を超える場合、キャップにおけるインクの滞留の抑制と画像性能、特に、耐ブリーディング性との両立が困難である。なお、この割合は、小数点以下第一位を四捨五入した値として考えるものとする。
【0019】
また、本発明のインクは、界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有することを必要とする。これは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをインクに含有させることで、記録媒体の種類によらず優れた画像濃度を与えることができるようになるためである。
【0020】
本発明のインクは、インク中の塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値が特定の範囲内にあることを要する。次に、本発明者らが、塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値に着目した理由について説明する。
イオン性基が顔料粒子の表面に結合している自己分散顔料は、一般にカウンターイオンを有し、このカウンターイオンはインクに添加する塩のカチオンと同種である場合がある。さらに、イオン性基が顔料粒子の表面に結合している自己分散顔料のカウンターイオンの濃度は、ホスホン酸型自己分散顔料の場合、インクのpHによって変動し得る。したがって、塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値に着目することで、画像特性やインクの信頼性との関係を、より的確に把握することができる。このため、本発明のインクにおいては、インク中の塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値が特定の範囲内にあるとの規定を採用し、その効果の発現を確実なものとしている。なお、塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値は、いわゆる規定度に相当する。そして、本発明においては、本発明のインク中の塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値が0.005mol/L以上0.06mol/L以下であることが必要である。この値が0.005mol/L未満であると画像特性が得られず、また、0.06mol/Lを超えるとグリセリンを上記の関係を満たすように含有していても、キャップにおけるインクの滞留が抑制できない。本発明においては、インク中の塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値が、0.01mol/L以上0.03mol/L以下であることが特に好ましい。
【0021】
<インク>
以下、本発明のインクを構成する各成分やインクの物性について詳細に説明する。
【0022】
(顔料)
顔料の種類としては、例えば、有機顔料や、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられ、インクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。また、調色などの目的のために、顔料に加えてさらに染料などを併用してもよい。本発明においては、顔料としてカーボンブラックを用いたブラックのインクとすることが特に好ましい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明のインクに用いる顔料は、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が顔料粒子の表面に結合している自己分散顔料である。このような自己分散顔料を用いることにより、顔料をインク中に分散するための分散剤の添加が不要となる、又は分散剤の添加量を少量とすることができる。
【0024】
インク中において、ホスホン酸基−PO(O〔M1〕)2は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。つまり、ホスホン酸基は、−PO32(酸型)、−PO3-1+(一塩基塩)、及び−PO32-(M1+2(二塩基塩)のいずれかの形態を取り得る。ここで、M1はそれぞれ独立に、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。本発明においては、官能基に2つのホスホン酸基が含まれていることが好ましい。モノホスホン酸型自己分散顔料を用いても、画像濃度を向上することは勿論可能であるが、より好ましくは、ビスホスホン酸型自己分散顔料を用いることで画像の耐ブリーディング性をより向上することができる。なお、トリスホスホン酸型自己分散顔料を用いると、インクの保存安定性が十分に得られない場合があるので、あまり好ましくない。
【0025】
また、ホスホン酸基が官能基の末端にあること、つまり、顔料粒子の表面とホスホン酸基の間に他の原子団が存在することが好ましい。前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基、アミド基、スルホン基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基が挙げられる。また、これらの基を組み合わせた基などが挙げられる。さらには、前記他の原子団が、前記アルキレン基及び前記アリーレン基の少なくとも一方と、水素結合性を有する基(アミド基、スルホン基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基)と、を含むことが特に好ましい。本発明においては、官能基に−C64−CONH−(ベンズアミド構造)が含まれることが特に好ましい。
【0026】
本発明においては、顔料粒子の表面に結合させる官能基に、−CQ(PO3〔M122の構造が含まれていることがより好ましい。ここで、式中のQは、水素原子、R、OR、SR、及びNR2のいずれかであり、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アラルキル基、及びアリール基のいずれかである。Rが炭素原子を含む基である場合、その基に含まれる炭素原子の数は1乃至18であることが好ましい。具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基など、アシル基としてはアセチル基、ベンゾイル基など、アラルキル基としてはベンジル基など、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基など、がそれぞれ挙げられる。また、M1はそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。本発明においては、前記Qが水素原子である、−CH(PO3〔M122の構造を含む官能基を顔料粒子の表面に結合させることが特に好ましい。
【0027】
〔官能基導入量〕
本発明のインクは、前述した通り、自己分散顔料に結合している官能基の導入量が、0.10mmol/g以上0.33mmol/g以下であることが必要であり、さらには、0.25mmol/g以上0.31mmol/g以下であることが特に好ましい。なお、官能基導入量の単位は、顔料固形分1g当たりの官能基のミリモル数である。
【0028】
自己分散顔料に結合している官能基の導入量は、下記のようにしてリンを定量することで測定することができる。詳しくは、先ず、顔料(固形分)の含有量が0.03質量%程度になるように顔料分散液を純水で希釈してA液を調製する。また、5℃で、80,000rpm、15時間の条件で顔料分散液について超遠心分離を行い、顔料が除去された上澄みの液体を採取し、これを純水で80倍程度に希釈してB液を調製する。得られたA液及びB液について、ICP発光分光分析装置などにより、リンの定量をそれぞれに行い、これらA液及びB液について測定値から求められるリン量の差分から、ホスホン酸基の量を算出することができる。そして、顔料への官能基導入量は、ホスホン酸基の量/n(nは1つの官能基に含まれるホスホン酸基の数を示し、モノなら1、ビスなら2、トリスなら3となる)により算出することができる。ここで、官能基に含まれるホスホン酸基の数が不明である場合には、NMRなどによりその構造を解析することで知ることができる。なお、上記では顔料分散液を用いて測定する方法について述べたが、インクを用いても同様に測定することができるし、勿論、官能基導入量の測定方法は上記のものに限られるものではない。
【0029】
(カチオンとアニオンとが結合して構成される塩)
本発明のインクはカチオンとアニオンとが結合して構成される塩を含有する。そして、前記カチオンは、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。さらに、前記アニオンは、Cl-、Br-、I-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、NO2-、NO3-、SO42-、CO32-、HCO3-、HCOO-、(COO-2、COOH(COO-)、CH3COO-、C24(COO-2、C65COO-、C64(COO-2、PO43-、HPO42-、H2PO4-からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを要する。インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、又は全てが解離した状態のいずれの形態であってもよい。このような塩を使用することで、インクの信頼性と画像特性とを高いレベルで両立することができるようになる。
【0030】
本発明のインクに用いることができるカチオンとアニオンとが結合して構成される塩としては、以下のものが挙げられる。例えば、(M2)Cl、(M2)Br、(M2)I、(M2)ClO、(M2)ClO2、(M2)ClO3、(M2)ClO4、(M2)NO2、(M2)NO3、(M22SO4、(M22CO3、(M2)HCO3、HCOO(M2)、(COOM22、COOH(COOM2)、CH3COOM2、C24(COOM22、C65COOM2、C64(COOM22、(M23PO4、(M22HPO4、(M2)H2PO4が挙げられる。なお、上記M2は、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。
【0031】
本発明においては、塩が、C64(COO(Na))2、C64(COO(K))2、C64(COO(NH4))2、及び(NH42SO4からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらにはC64(COO(K))2、C64(COO(NH4))2、及び(NH42SO4からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。これらの塩は、キャップにおけるインクの滞留がより生じにくくなるため好適である。本発明においては特に、塩として、水100mLに対する溶解度が、25℃において10g以上であるものを用いることが好ましい。これは、シュウ酸水素カリウムなどの溶解度が10g未満の塩を使用すると、キャップにおけるインクの蒸発に伴い、塩が析出する場合があり、キャップにおけるインクの滞留が十分に抑制できない場合があるからである。
【0032】
前記したように、本発明のインクは、インク中の塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値が、0.005mol/L以上0.06mol/L以下であることを要する。この単位は上述の通り、いわゆる規定度に相当する。なお、インクに複数種の塩を含有させる場合には、各塩について塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値を求め、その合計を本発明で規定する値として考えるものとする。塩の分子量によっても異なるが、インク中の塩の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.05質量%未満であると、浸透性の高い記録媒体における画像濃度及び耐ブリーディング性を高いレベルで両立できない場合があり、2.0質量%を超えると、インクの保存安定性などが得られない場合がある。
【0033】
(水性媒体)
本発明のインクには、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができるが、水溶性有機溶剤として、グリセリンを少なくとも含有してなることを要する。さらに、本発明では、インク中のグリセリンの含有量がインク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して占める割合が、35質量%以上78質量%以下であることが必要である。また、グリセリンの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、6.0質量%以上25.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以上20.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
水溶性有機溶剤としては、グリセリンの他に、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。また、これらの水溶性有機化合物は、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。本発明においては、グリセリンの他に、2−ピロリドン、トリメチロールプロパン、及び、トリエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが特に好ましい。なお、本発明において規定する、水溶性有機溶剤の合計含有量に占めるグリセリンの含有量の割合を算出する際の、分母となる水溶性有機溶剤には、後述するような添加剤及び先に述べた塩は含まないものとする。また、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温(25℃)で固体の水溶性有機化合物は、その水溶液が一般的な水溶性有機溶剤と同様に、他のインク成分の溶媒ないしは分散媒としての挙動を示す。このため、本発明においては、常温(25℃)で固体の水溶性有機化合物も、上述の水溶性有機溶剤の合計含有量に含めるものとする。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、20.0質量%以上25.0質量%以下であることが好ましい。なお、この含有量はグリセリンを含む値である。また、水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、40.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0035】
〔ポリオキシエチレンアルキルエーテル〕
本発明のインクには、界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有させることが必要である。本発明のインクは、25℃において、寿命時間50m秒における動的表面張力が、40mN/m以上であることが好ましく、さらには45mN/m以上であることが好ましい。このような特性を満足することにより、記録媒体の表面上に顔料を特に効率よく存在させることができ、記録媒体の種類によらずに高い画像濃度を得ることができる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、本発明のインクが上述の動的表面張力の特性を満足するようにするために使用するものである。本発明のインクに用いるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、そのグリフィン法により求められるHLB値が13以上20以下であり、アルキル基の炭素原子数が12以上20以下のものが特に好適である。そして、インク中のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明においては、インクの動的表面張力の測定には最大泡圧法を採用した。この方法では、測定対象の液体中に浸したプローブ(細管)の先端部分から押し出された気泡を放出するのに必要な最大圧力を測定して、表面張力を求める。また、本発明において、「寿命時間」とは、最大泡圧法測定においてプローブの先端部分から気泡が形成される際の、気泡が離れた後に新しい表面が形成されてから最大泡圧時(気泡の曲率半径とプローブ先端部分の半径が等しくなったとき)までの時間を意味する。
【0037】
(その他の添加剤)
本発明のインクには、必要に応じて、前記したポリオキシエチレンアルキルエーテル以外の界面活性剤、樹脂、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、キレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0038】
(インクの物性)
本発明においては、インクの25℃における粘度は、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上3.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、インクの25℃における静的表面張力が、28mN/m以上45mN/m以下であることが好ましい。また、インクの25℃におけるpHは、5以上9以下であることが好ましい。
【0039】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、負圧によりインクを含浸した状態で保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室、及び、負圧発生部材により含浸されない状態でインクを収容するインク収容室で構成されるものが挙げられる。または、上記のようなインク収容室を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸した状態で保持する構成や、負圧発生部材を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸されない状態で収容する構成のインク収容部としてもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0040】
<インクジェット記録方法、及び、インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドの吐出口から吐出させて記録媒体に画像を記録する工程、及び、前記記録ヘッドの吐出口をキャップにより覆う工程、を有する。また、本発明のインクジェット記録装置は、インクが内部に収容されたインク収容部、インクジェット方式の記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録媒体に画像を記録する手段、及び、記録ヘッドの吐出口を覆うキャップ、を具備する。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式やインクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法が有する工程やインクジェット記録装置に設けることができる手段は、公知のものとすればよい。
【0041】
以下、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置における、記録ヘッドの吐出口を覆う構成について説明する。なお、以下の説明では簡単のために(1の)吐出口として記載するが、通常、インクジェット記録装置では、1のインクを吐出するための吐出口が複数個設けられ、吐出口列を構成する。複数種のインクを用いる場合には、インクの数に応じて吐出口列が設けられる。本発明においては、上記で説明した本発明のインク(色材が顔料であるブラックインク)と組み合わせてインクセットとするためのインクとして、色材が染料であるカラーインクを用いることが特に好ましい。
【0042】
図1はインクジェット記録装置のクリーニング部を示す模式図である。クリーニング部は、キャップM5010を記録ヘッド(不図示)の吐出口を有する面に当接させることで、吐出口を覆い、これによりインクの蒸発を抑制することができる。より詳細には、不図示の上下可動機構により、キャップホルダM5060を上昇させて、キャップM5010を記録ヘッドの吐出口を有する面に適当な密着力で当接させて、キャッピングが行われる。キャッピングされた状態でポンプM5000を作動させると、吐出口を有する面とキャップM5010との間に負圧が発生する。この負圧によって、吸引口M5070及びM5080に接続されたチューブM5090及びM5100を介して、吐出口からインクが吸引され、記録ヘッドのクリーニングが行われる。また、吸引室M5020及びM5030に対してインクを吐出(予備吐出)させることや、また、キャップM5010を開いた状態でキャップM5010上に存在するインクを吸引することで、記録ヘッドへのインクの固着やその他の弊害を抑制し得る。吸引室の内部には、インク吸収部材などが設けられていてもよい。
【0043】
上述の通り、図1では、周壁部M5040で形成される吸引室が、仕切壁M5050で同等の体積を有する2つの吸引室、M5020及びM5030に区切られている構成について示した。しかし、これらの吸引室の体積はそれぞれ異なっていてもよく、また、仕切壁を有さずに1つの吸引室で構成されていてもよい。さらに、複数種のインクを吐出させるそれぞれの吐出口列をまとめて1つのキャップで覆う構成としてもよく、又は、複数種のインクを吐出させるそれぞれの吐出口列ごとにキャップを設けてもよい。
【実施例】
【0044】
次に、実施例、参考例、及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」、及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0045】
<顔料分散液の調製>
(顔料の官能基導入量)
先ず、顔料の官能基導入量を測定する方法を説明する。測定対象である顔料の含有量が0.03%程度になるように顔料分散液を純水で希釈してA液を調製する。また、5℃で、80,000rpm、15時間の条件で顔料分散液について超遠心分離を行い、ホスホン酸型自己分散顔料が除去された上澄みの液体を採取し、これを純水で80倍程度に希釈してB液を調製した。上記のようにして得た測定用試料のA液及びB液について、ICP発光分光分析装置(SPS5100;SIIナノテクノロジー製)を用いてリンの定量を行った。そして、得られたA液及びB液におけるリン量の差分からホスホン酸基の量を求め、1つの官能基に含まれるホスホン酸基の数で割ることで、顔料粒子の表面への官能基導入量を算出した。
【0046】
(顔料分散液1)
20g(固形分)のカーボンブラック、7mmolの((4−アミノベンゾイルアミノ)−メタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸の一ナトリウム塩(処理剤)、20mmolの硝酸、及び200mLの純水を混合した。この際、カーボンブラックには、比表面積220m2/g、DBP吸油量105mL/100gのものを用い、混合は、シルヴァーソン混合機を用いて、室温で6,000rpmにて混合した。30分後、この混合物に少量の水に溶解させた20mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。この混合によって混合物の温度は60℃に達し、この状態で1時間反応させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、混合物のpHを10に調整した。30分後、20mLの純水を加え、スペクトラムメンブランを用いてダイアフィルトレーションを行い、その後、イオン交換法によりナトリウムイオンをアンモニウムイオンに置換して、顔料の含有量が10.0%となるようにして、分散液を得た。このようにして、顔料粒子の表面に、カウンターイオンがアンモニウムである((4−アミノベンゾイルアミノ)−メタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液1を得た。また、官能基の導入量は0.27mmol/gであった。
【0047】
(顔料分散液2)
アレンドロン酸ナトリウムを用いて、(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウムを合成した。この際、アレンドロン酸ナトリウムには、(4−アミノ−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸の一ナトリウム塩(Zentiva製)を用いた。500mLのビーカーを用いて、34g(104mmol)のアレンドロン酸塩を150mLの純水中に加え、濃水酸化ナトリウム水溶液を用いて液体のpHを11に調整して溶解させた。これに、100mLのテトラヒドロフラン中に溶解させた25g(110mmol)のニトロフェニルスルホニルクロライドを滴下した。この際、水酸化ナトリウム水溶液をさらに加えて、液体のpHを10〜11に保った。滴下が終わった後、この液体を室温でさらに2時間撹拌した。その後、真空中でテトラヒドロフランを蒸発させ、そして、この液体のpHを4になるように調整し、固体を析出させた。4℃にて一晩冷却した後、この固体をろ過して、純水で洗浄、乾燥させることで、(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウムを得た。
【0048】
20g(固形分)のカーボンブラック、7mmolの上記で得た(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウム(処理剤)、20mmolの硝酸、及び200mLの純水を混合した。この際、カーボンブラックには、比表面積220m2/g、DBP吸油量105mL/100gのものを用い、混合は、シルヴァーソン混合機を用いて、室温で6,000rpmにて混合した。30分後、この混合物に少量の水に溶解させた20mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。この混合によって混合物の温度は60℃に達し、この状態で1時間反応させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、混合物のpHを10に調整した。30分後、20mLの純水を加え、スペクトラムメンブランを用いてダイアフィルトレーションを行い、その後、イオン交換法によりナトリウムイオンをアンモニウムイオンに置換して、顔料の含有量が10.0%となるようにして、分散液を得た。このようにして、顔料粒子の表面に、カウンターイオンがアンモニウムである(4−(4−アミノベンゼンスルホニルアミノ)−1−ヒドロキシブタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液2を得た。官能基の導入量は0.26mmol/gであった。
【0049】
(顔料分散液3)
先の顔料分散液1の調製において、用いた処理剤の量を7mmolから9mmolに変えた以外は同様にして、顔料分散液3を得た。官能基の導入量は0.33mmol/gであった。
【0050】
(顔料分散液4)
先の顔料分散液1の調製において、用いた処理剤の量を7mmolから1mmolに変えた以外は同様にして、顔料分散液4を得た。官能基の導入量は0.10mmol/gであった。
【0051】
(顔料分散液5)
先の顔料分散液1の調製において、用いた処理剤の量を7mmolから10mmolに変えた以外は同様にして、顔料分散液5を得た。官能基の導入量は0.35mmol/gであった。
【0052】
(顔料分散液6)
先の顔料分散液1の調製において、用いた処理剤の量を7mmolから0.8mmolに変えた以外は、顔料分散液1と同様の手順により、顔料分散液6を得た。官能基の導入量は0.08mmol/gであった。
【0053】
(顔料分散液7)
先の顔料分散液1の調製で用いた処理剤の量と種類を、6mmolの4−アミノベンジルホスホン酸に代えた以外は、顔料分散液1の場合と同様にして分散液を調製した。この際、4−アミノベンジルホスホン酸には、シグマアルドリッチ製のものを使用した。さらに、イオン交換法によりナトリウムイオンをカリウムイオンに置換して、顔料分散液1と同様の手順により、顔料粒子の表面に、−C64−(PO(OK)2)基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液7を得た。官能基の導入量は0.28mmol/gであった。
【0054】
(顔料分散液8)
先の顔料分散液1の調製において、イオン交換法によりナトリウムイオンをカリウムイオンに置換した以外は同様にして、顔料分散液8を調製した。得られた顔料分散液8の顔料粒子の表面には、カウンターイオンがカリウムである((4−アミノベンゾイルアミノ)−メタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸基が結合していた。官能基の導入量は0.27mmol/gであった。
【0055】
(顔料分散液9)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で1.5gの4−アミノフタル酸(処理剤)を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに2.2gの亜硝酸カリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、6g(固形分)のカーボンブラック(比表面積220m2/g、DBP吸油量105mL/100gのもの)を撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過し、粒子を十分に水冷し、110℃のオーブンで乾燥させた。これに水を足して、顔料の含有量が10.0%となるようにして、分散液を得た。このようにして、顔料粒子の表面に、−C63−(COOK)2基が結合している自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液9を得た。この顔料分散液9中のカリウムイオン濃度を、イオンメーター(DKK製)を用いて測定し、得られたカリウムイオン濃度から換算して求めた官能基の導入量は0.68mmol/gであった。
【0056】
<インクの調製>
表1の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが2.5μmであるポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過を行って、各インクを調製した。表1中の「NIKKOL BL−9EX」は、日光ケミカルズ製のポリオキシエチレンラウリルエーテルであり、グリフィン法により求められるHLB値が13.6、エチレンオキサイド基の付加モル数が9の界面活性剤である。また、表1中の「サーフィノール465」は、Air Products製のアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物であり、エチレンオキサイド基の付加モル数が10の界面活性剤である。
また、表1の下段には、各インクの特性についても合わせて示した。さらに、各インクについて、最大泡圧法を利用したBubble Pressure Tensiometer BP2 MK2(Kruss製)を用いて、25℃における動的表面張力を測定した。そして、寿命時間50m秒における動的表面張力が40mN/m以上であるものをA、40mN/m未満であるものをBとして、結果を表1に示した。
なお、表1中「塩のアニオンの濃度×アニオンの価数[mol/L]」は、塩のアニオンの濃度×アニオンの価数の値[mol/L]=アニオンの使用量/分子量×価数×10より算出した。
【0057】

【0058】

【0059】

【0060】

【0061】
<インクの評価>
(画像濃度)
上記で得られた各インクを充填したインクカートリッジを、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置PIXUS MP480(商品名;キヤノン製)にセットした。なお、上記のインクジェット記録装置では、解像度が600dpi×600dpiであり、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴当たりの質量が25ng±10%であるインク滴を1滴付与する条件を記録デューティが100%であると定義する。そして、次の3種の記録媒体(普通紙)に、記録デューティが100%であるベタ画像(2cm×2cm/1ライン)を記録した。記録媒体としては、GF−500、Canon Extra Multifunctional Paper(以上、キヤノン製)、Bright White InkjetPaper(ヒューレッドパッカード製)を用いた。記録の1日後に、反射濃度計(マクベスRD−918;マクベス製)を用いて、3種の記録媒体におけるベタ画像の画像濃度を測定し、その平均値及び最低値により画像濃度の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。本発明においては、下記の評価基準でAを許容できるレベル、B及びCを許容できないレベルとした。
A:平均値が1.5以上であり、かつ、最低値が1.3以上であった。
B:平均値が1.4以上1.5未満であり、かつ、最低値が1.3以上であった。
C:最低値が1.3未満であった。
【0062】
(耐ブリーディング性)
上記で得られた各インク(ブラックインク)、及び、BC−71 カラー(キヤノン製)のイエローインクを用いて、下記のようにして画像の耐ブリーディング性を評価した。なお、上記BC−71のイエローインクは、色材として染料を含有するカラーインクである。各色のインクを充填したインクカートリッジを、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置PIXUS MP450(商品名;キヤノン製)にセットした。なお、上記のインクジェット記録装置では、「記録デューティが100%」であることを以下のように定義する。ブラックインクについては、解像度が600dpi×600dpiであり、1/600インチ×1/600インチの単位領域に1滴当たりの質量が30ng±10%であるインク滴を1滴付与する条件を「記録デューティが100%」であると定義する。また、カラーインクについては、1滴あたりの質量が5.5ng±10%であるインク滴を2滴付与する条件を「記録デューティが100%」であると定義する。そして、記録媒体(GF−500;キヤノン製)に、記録デューティが100%であるブラックのベタ画像(2cm×2cm)及び記録デューティが70%であるイエローのベタ画像(2cm×2cm)が隣接した画像を記録した。そして、得られた画像を目視で確認して、耐ブリーディング性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示した。本発明においては、下記の評価基準でAA及びAを許容できるレベル、B及びCを許容できないレベルとした。
AA:ブリーディングが確認できなかった。
A:ブリーディングが生じていたが、殆ど目立たなかった。
B:ブリーディングがかなり生じていた。
C:2色の画像の境界がわからないほどブリーディングが生じていた。
【0063】
(キャップにおけるインクの滞留抑制)
上記で得られた各インクをそれぞれ開放系の容器に入れ、10質量%蒸発させた液体(濃縮インク)をそれぞれ調製した。得られた濃縮インクを用いて、上記の画像濃度の評価で使用したものと同じインクジェット記録装置により、温度30℃、湿度10%RHの環境において、A4サイズの記録媒体に記録デューティが7%であるブラックのベタ画像を4分間隔で3,000枚記録した。この記録を行う際には、記録前に0.21mg±10%のインクがキャップに予備吐出され、また、クリーニング動作として、100枚に1回の割合で、記録ヘッドの吐出口を覆うキャップを介して、0.1g±30%のインクが吸引される。下記の評価基準による評価結果がBランクであったインクについては、さらに上記の記録を2,000枚分追加し、評価結果をAとした。さらに評価結果がAであったものに関しては、上記の記録を2,000枚分追加し、その時点でのキャップの状態を目視で確認してキャップにおけるインクの滞留が抑制されているかを評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示した。本発明においては、AA、A及びBを許容できるレベル、C及びDは、記録に問題が生じる場合があり、許容できないレベルとした。なお、濃縮インクを用いて評価を行ったのは、キャップにおけるインクの滞留をより厳しい条件で評価することで、本発明の実施例のインクがキャップにおける滞留の抑制の点で十分に優れる性能を有することを確認するためである。
AA:7,000枚分の記録後、キャップにおけるインクの滞留がなかった。
A:5,000枚分の記録後、キャップにおけるインクの滞留がなかった。
B:3,000枚分の記録後、キャップにおけるインクの滞留がなかった。
C:3,000枚分の記録後、キャップにおけるインクの滞留があった。
【0064】
(保存安定性)
上記で得られた各インクを温度80℃の環境で1週間保存した後、インクの調製の際に使用したものと同じフィルターを用いて再度ろ過を行い、保存前後(インク調製時及び保存後)のろ過性を比較することで、保存安定性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。保存後のろ過性が十分な性能を有すれば、インクの保存安定性も低下していないことが示される。本発明においては、下記の評価基準でA及びBを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。
A:保存前後のろ過性が同等であった。
B:保存前に比べて保存後のろ過性は低下したが、問題なくろ過できた。
C:保存前に比べて保存後のろ過性は低下し、保存後ではろ過の途中で目詰まりが生じた。
【0065】

【0066】

【0067】
上記実施例において使用したもの以外で、本発明で規定する各種アニオンの塩(水100mLに対する溶解度が、25℃において10g以上であるもの)を使用したインクについても、実施例2と同様にして評価を行った。具体的には、実施例2における塩のアニオンを異なるものとした以外は上記と同様の評価を行った。その結果、いずれのアニオンの塩の場合も、実施例2とほぼ同等の結果が得られた。
【符号の説明】
【0068】
M5000:ポンプ
M5010:キャップ
M5020:吸引室
M5030:吸引室
M5040:周壁部
M5050:仕切壁
M5060:キャップホルダ
M5070:吸引口
M5080:吸引口
M5090:チューブ
M5100:チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散顔料、塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用のインクであって、
前記自己分散顔料が、ホスホン酸基を少なくとも含む官能基が粒子表面に結合している顔料であり、かつ、前記自己分散顔料に結合している官能基の導入量が、0.10mmol/g以上0.33mmol/g以下であり、
前記塩が、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカチオンと、Cl-、Br-、I-、ClO-、ClO2-、ClO3-、ClO4-、NO2-、NO3-、SO42-、CO32-、HCO3-、HCOO-、(COO-2、COOH(COO-)、CH3COO-、C24(COO-2、C65COO-、C64(COO-2、PO43-、HPO42-、及びH2PO4-からなる群から選ばれる少なくとも1種のアニオンとが結合して構成され、かつ、インク中の該塩のアニオンの濃度×アニオンの価数が0.005mol/L以上0.06mol/L以下であり、
前記水溶性有機溶剤がグリセリンを含み、かつ、インク中の前記グリセリンの含有量がインク中の水溶性有機溶剤の合計含有量に対して占める割合が、35質量%以上78質量%以下であることを特徴とするインク。
【請求項2】
前記官能基が、少なくとも2つのホスホン酸基を含む請求項1に記載のインク。
【請求項3】
インク中の前記水溶性有機溶剤の含有量が、20.0質量%以上25.0質量%以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記塩の水100mLに対する溶解度が、25℃において10g以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項6】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドの吐出口から吐出させて記録媒体に画像を記録する工程、及び、前記記録ヘッドの吐出口をキャップにより覆う工程、を有するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項7】
インクが内部に収容されたインク収容部、インクジェット方式の記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録媒体に画像を記録する手段、及び、前記記録ヘッドの吐出口を覆うキャップ、を具備するインクジェット記録装置であって、
前記インクが、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−52097(P2012−52097A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144229(P2011−144229)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】