説明

インク、インクジェット記録方法、及びインクカートリッジ

【課題】自己分散顔料を含有するインクにおいて、得られる画像の耐水性が良好であり、かつ、吐出口面へのインクの付着による吐出ヨレの発生が抑制されたインクの提供。
【解決手段】コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下である自己分散顔料、下記一般式(1)で表される化合物、水及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用顔料インク。
n(2n+1)SO3M (1)
(一般式(1)中、nは4乃至6の数であり、Mはアルカリ金属である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク、インクジェット記録方法、及びインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インクの色材として、耐水性や耐光性などの堅牢性に優れた顔料が広く用いられている。インクジェット用のインクにおいても、得られる画像の堅牢性のより一層の向上を目指して、インクの色材に顔料を採用することの検討が活発となってきている。ところで、顔料をインクジェット用の水性インクの色材として用いるためには、水性媒体中に顔料を安定に分散させることが肝要である。一般に、顔料を水性媒体中に分散するためには、分散剤、例えば樹脂分散剤が用いられている。かかる樹脂分散剤は、水性媒体中に顔料を安定に分散させるための親水性基と、疎水性である顔料粒子の表面に物理的に吸着するための疎水性基とを有する水溶性樹脂である。このような樹脂分散顔料を含有するインクによって得られる画像は、樹脂分散剤の存在により、記録媒体、特に普通紙に記録した場合に良好な耐水性を発現できる。
【0003】
また、インクジェット記録方法によって、高品位な画像を安定して形成するためには、記録ヘッドの微細な吐出口から、インクを安定な液滴として吐出させることが重要である。具体的に述べれば、例えば記録ヘッドの吐出口において、インクが乾燥及び固化しないことが安定なインクジェット記録を行う上で重要である。しかし、上記したような樹脂分散剤によって水性媒体中に顔料を分散させているインクジェット用のインクは、この点において課題を抱えている。すなわち、上記したようなインク中には、顔料粒子の表面に吸着せずに、インク中に溶解状態で存在している樹脂分散剤が相当量あると考えられている。そのため、そのような樹脂分散剤が記録ヘッドの吐出口などに付着することによって吐出口の目詰まりを生じさせやすい場合がある。
【0004】
上記したような課題に対し、顔料インクの信頼性を改善する方法が種々提案されている(特許文献1及び2参照)。具体的には、カーボンブラック粒子の表面に親水性基を導入することによって、分散剤を使用することなく安定に分散させることのできる自己分散顔料を色材として用いたインクが開示されている。
【0005】
また、一方で樹脂分散顔料を用いたインク(特許文献3参照)では、ノニオン性の界面活性剤を含有させることで、記録ヘッドの吐出口が形成された面(以下、吐出口面と呼ぶ)へのインクの付着による吐出ヨレを改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−3498号公報
【特許文献2】特開平10−195360号公報
【特許文献3】特開2009−7556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
色材として自己分散顔料を用いたインクでは、顔料粒子の表面への親水性基の導入量が少ない場合には、その理由は詳細には後述するが、吐出ヨレを生じる場合がある。一方、顔料粒子の表面への親水性基の導入量が多すぎると、記録ヘッドの吐出口面へのインクの付着は生じにくいが、特定の条件においては普通紙における耐水性が発現しにくいといった課題があることが明らかになった。
【0008】
従来、記録ヘッドの吐出口面へのインクの付着による吐出ヨレを改善する試みはなされているが、いずれも樹脂を含むインクについての検討であり、かかる検討の結果、そのインク組成を工夫することによって上記吐出ヨレを低減している。これらのインク組成によれば、樹脂分散顔料を含有するインクにおいては吐出ヨレの低減効果が見られたが、自己分散顔料を含有するインクに上記組成を適用すると、耐水性が低下することがわかった。
【0009】
上記したように、特許文献3には、インクにノニオン性界面活性剤を含有させることが記載されている。自己分散顔料、特に親水性基の導入量の少ない自己分散顔料を含有するインクに、特許文献3に記載されているようなノニオン性界面活性剤を添加した場合には、顔料粒子の表面における親水性基で覆われていない露出部分に該界面活性剤が吸着する。これにより、自己分散顔料の分散状態がさらに安定な方向となる。そのために、自己分散顔料における親水性基の導入量を少なくすることで実現していた、発色性や、特定の条件においては普通紙における耐水性が発現しにくくなるといった課題が生じてしまうことが明らかになった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、自己分散顔料を含有するインクにおいて、得られる画像の耐水性が良好であり、かつ、吐出口面へのインクの付着による吐出ヨレの発生が抑制されたインクジェット用のインクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクを用いることで、記録媒体に普通紙などを用いた場合に耐水性に優れた画像を安定して得ることができるインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット用のインクは、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下である自己分散顔料、下記一般式(1)で表される化合物、水及び水溶性有機溶剤を含有することを特徴とする。
n(2n+1)SO3M (1)
(一般式(1)中、nは4乃至6の数であり、Mはアルカリ金属である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自己分散顔料を含有するインクにおいて、得られる画像の耐水性が良好であり、かつ、吐出口面へのインクの付着による吐出ヨレの発生が抑制されたインクジェット用のインクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクを用いることで、耐水性に優れた画像を安定して得ることができるインクカートリッジ及びインクジェット記録方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】記録ヘッドの一構成例を示す斜視図である。
【図2】ヘッドユニットの一構成例を示す分解斜視図である。
【図3】一色のインクについての吐出口列付近の構造を部分的に破断して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に至った経緯を説明する。
上述の通り、顔料粒子の表面への親水性基の導入量が少ない自己分散顔料を含有するインクをインクジェット記録方式に用いると、吐出ヨレを生じる場合がある。一方、顔料粒子の表面への親水性基の導入量が多い自己分散顔料を含有するインクを用いると、記録ヘッドの吐出口面へのインクの付着は生じにくいが、特定の条件においては普通紙における耐水性が発現しにくくなる。これらのメカニズムについて詳細に説明する。
【0015】
顔料粒子の表面への親水性基の導入量が少ない自己分散顔料は、親水性基により覆われていない顔料粒子の表面の露出部分が多い。顔料粒子の表面は疎水性であるため、露出した疎水性の顔料粒子の表面が記録ヘッドの吐出口面に付着して、吐出口面の状態が不均一となる。このような状態の吐出口面にはインクが付着しやすく、吐出されるインク滴が、付着したインクに引っ張られるような状態となり、インクの吐出方向がずれるため、吐出ヨレが生じると考えられる。一方、顔料粒子の表面への親水性基の導入量が多い自己分散顔料は、顔料粒子の表面が親水性基により覆われているため、疎水性の顔料粒子の表面が露出しにくくなるので、吐出口面に付着しにくくなり、吐出ヨレも生じにくい。しかしながら、顔料粒子の表面の多くが親水性基に覆われてしまうと、水への親和性が強くなりすぎるため、耐水性に優れた顔料といえども特定の条件においては耐水性が発現しにくくなることがわかった。本発明者らの検討の結果、耐水性が発現しにくくなった環境は低湿環境(相対湿度10%程度)、特に低温低湿環境(温度15℃程度、相対湿度10%程度)であることが明らかとなった。低温低湿環境において耐水性が発現しにくくなるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0016】
通常の温度や湿度(温度25℃程度、相対湿度50%程度)の環境においては、記録媒体(普通紙)が空気中の水分を吸湿するので、吸湿した水分により、記録媒体の表面は弱いながらも親水性を示す。このため、付与されたインクに含まれる水及び水溶性有機溶剤は、弱い親水性を示す記録媒体の表面に対してなじみやすく、記録媒体の内部にまで浸透する。これに対して、水及び水溶性有機溶剤に比べて親水性の低い顔料は、記録媒体の表面近傍に残ると考えられる。これにより、顔料は記録媒体の表面近傍に存在することになり、水と水溶性有機溶剤は記録媒体の内部に存在することになるので、記録媒体において、顔料と、水及び水溶性有機溶剤とは、それぞれ離れた位置に存在すると考えられる。
【0017】
一方、低湿環境に置かれた記録媒体は、その表面や内部から水分が抜けきっているため、記録媒体を構成する繊維は弱い疎水性を示すものと考えられる。そのため、インク中の水分や水溶性有機溶剤は、記録媒体の表面はもとより内部にもなじみづらくなるので浸透が遅くなり、記録媒体の表面近傍に顔料と、水及び水溶性有機溶剤とが、とどまるものと考えられる。その後、低湿環境により水は蒸発するが、インクジェット用のインクに使用される水溶性有機溶剤は水よりも蒸気圧が低いものが多いため、蒸発せずに顔料の周りに存在し続ける。このため、記録直後に画像に水をたらした場合には、水溶性有機溶剤とともに顔料が流れ出すので、耐水性が発現しにくくなるものと考えられる。
【0018】
特許文献3には、吐出ヨレの低減のためにノニオン性界面活性剤をインクに添加することが記載されている。しかし、親水性基の導入量が少ない自己分散顔料を含有するインクにこのようなノニオン性界面活性剤を添加すると、顔料粒子の表面における親水性基で覆われていない部分に該ノニオン性界面活性剤が吸着する。これにより、自己分散顔料の分散状態をさらに安定化してしまい、親水性基の導入量を少なくした自己分散顔料により達成していた、発色性や、記録直後の耐水性を低下させてしまう。
【0019】
本発明者らが検討したところ、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下である自己分散顔料と、特定のパーフルオロアルキルスルホン酸塩と、水と、水溶性有機溶剤とを含有するという本発明のインクの構成を見出した。これにより、得られる画像の耐水性が良好で、かつ、吐出口面へのインクの付着による吐出ヨレの発生が低減された、インクジェット記録方式に好適なインクを提供することが可能となった。本発明のインクがこのような特性を有する理由について、本発明者らは、以下のように推測している。
【0020】
先ず、吐出ヨレの抑制が図られるメカニズムについては以下のように考えられる。コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下であることにより規定される、本発明のインクに含有させる自己分散顔料は親水性基の導入量が少ないものである。このような顔料粒子の表面における、親水性基が結合していない疎水性の部分には、パーフルオロアルキルスルホン酸塩の疎水基が吸着し、親水性基や該パーフルオロアルキルスルホン酸塩によって顔料粒子の表面が覆われる。このため、記録ヘッドの吐出口面への顔料への付着を抑えることが可能になる。ここで、パーフルオロアルキルスルホン酸塩の炭素数、すなわち、後述する一般式(1)におけるnが3以下の場合には、顔料への吸着が起こりにくいため、顔料が吐出口面に付着しやすく、吐出ヨレの発生を抑制することができない。一方、パーフルオロアルキルスルホン酸塩の炭素鎖、すなわちnが7以上の場合には、パーフルオロアルキルスルホン酸塩の疎水性が強すぎてしまう。このため、パーフルオロアルキルスルホン酸塩そのものが吐出口面に付着しやすくなり、吐出ヨレを生じると考えられる。
【0021】
また、画像の耐水性が向上するメカニズムは以下のように考えられる。パーフルオロアルキルスルホン酸塩は、強い撥水性を示す疎水性基であるパーフルオロアルキル基と、強い親水性基であるスルホン酸塩と、がコンパクトな分子構造として形成されている。水や水溶性有機溶剤を含有するインク中においては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩は、パーフルオロアルキル基が顔料粒子の表面に、また、スルホン酸塩が外側となるように配向している。記録ヘッドの吐出口面では、インク中の水が蒸発しても水溶性有機溶剤が存在し、上記の配向状態が維持されるため、吐出口面への顔料の付着が抑制される。一方、記録媒体にインクが付与された後には、水の蒸発、及び、水溶性有機溶剤の記録媒体内部への浸透が生ずるので、顔料と水溶性有機溶剤が互いに離れて存在するため、顔料が空気中に露出することになる。その場合、顔料粒子の表面に配向していたパーフルオロアルキル基は外側に配向し、顔料粒子の表面から離れる。このため、顔料粒子の表面が露出するようになることで、画像の耐水性が発現されるものと考えられる。
【0022】
<インク>
本発明のインクジェット用インクは、特定の自己分散顔料と、特定のパーフルオロアルキルスルホン酸塩を含有することを特徴とする。それ以外は、従来のインクと同様の構成とすればよい。下記に、本発明にかかるインクを構成する各成分について説明する。
【0023】
(自己分散顔料)
本発明のインクに用いる色材は顔料である。本発明で用いることができる顔料の種類は特に限定されず、公知の無機顔料や有機顔料をいずれも用いることができる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラックなどの無機顔料、フタロシアニン、キナクドリンなどの有機顔料が挙げられる。
【0024】
本発明のインクにおいては、上記顔料が、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下である自己分散顔料であることを要する。つまり、顔料粒子の表面に、親水性基が直接又は他の原子団を介して化学的に結合しており、コロイド滴定により求められる表面電荷量として示される顔料1g当たりの前記親水性基の量が0.20mmol/g以下であることを要する。自己分散顔料を用いることにより、顔料をインク中に分散するための分散剤の添加が不要となる、又は分散剤の添加量を少量とすることができる。
【0025】
自己分散顔料は、顔料粒子の表面における親水性基の導入量が多すぎると、前述した理由により画像の耐水性が低下する。したがって、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下である必要がある。逆に、親水性基の導入量が少なくなると、親水性基を導入することによる発色性の向上効果はやや得られにくくなる傾向があるが、画像の耐水性は向上するため、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.10mmol/g以上であることが好ましい。
【0026】
本発明で必要となる自己分散顔料の表面電荷量の測定は、コロイド滴定法により行う。後述する実施例においては、流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置AT−510(京都電子工業製)を用いて測定した。また、滴定試薬としてメチルグリコールキトサンを用いた電位差滴定により、顔料分散液中の自己分散顔料の表面電荷量を測定した。
【0027】
顔料粒子の表面に、直接又は他の原子団を介して化学的に結合している親水性基としては、例えば、−COOM、−SO3M、−PO3HM、−PO32(一般式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。)などが挙げられる。また、前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基、フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基、アミド基、スルホン酸基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基が挙げられる。また、これらの基を組み合わせた基などが挙げられる。Mとして表されるアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、Kなどが挙げられる。親水性基が塩を形成している場合、インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、又は全てが解離した状態のいずれの形態であってもよい。
【0028】
インク中の自己分散顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには0.2質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。インクには、自己分散顔料の他に公知の染料などその他の色材が含まれていてもよい。
【0029】
本発明に用いる自己分散顔料としては、その他、表面酸化処理が施された自己分散顔料であってもよく、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下であれば用いることができる。このような自己分散顔料としては、次亜塩素酸ソーダによる酸化処理、水中オゾン処理、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式酸化し、粒子表面を改質するなどの方法によって得られるものが挙げられる。本発明においては、本発明の効果が得られる範囲で、他の分散方式の顔料(樹脂分散顔料、マイクロカプセル顔料、樹脂結合型自己分散顔料など)をさらに併用してもよい。
【0030】
(一般式(1)で表される化合物)
本発明のインクには、下記一般式(1)で表される化合物(パーフルオロアルキルスルホン酸塩)を含有させる。一般式(1)におけるMはアルカリ金属であり、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。インク中の一般式(1)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。インク中におけるパーフルオロアルキル酸塩の形態は、その一部が解離した状態、又は全てが解離した状態のいずれの形態であってもよい。
【0031】
n(2n+1)SO3M (1)
(一般式(1)中、nは4乃至6の数であり、Mはアルカリ金属である。)
【0032】
本発明者らの検討の結果、インク中の一般式(1)で表される化合物の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましいことがわかった。上記含有量の範囲内にある場合、吐出口面に付着したインク中の水が蒸発する際、インク滴は真円に近い形となって蒸発する。インク滴が真円に近い形で蒸発していくことは、吐出口面においてインクが良好に弾かれており、付着が生じていない状態であることを示している。
【0033】
一方、一般式(1)で表される化合物の含有量が3.0質量%を超えると、含有量が多すぎるため、顔料粒子の表面を覆うのに必要なパーフルオロアルキルスルホン酸塩より過剰なものは、インク中に塩として存在してしまう。その塩としての量が多すぎるために、吐出口面に付着したインクから水が蒸発するのに伴って、電解質濃度が上昇し、顔料の凝集を生じさせる。その凝集物が吐出口面にランダムに付着することで、インクが蒸発する際の液滴の形状がいびつな形となる。また、この吐出口面上でのインクの蒸発に伴い生成した上記凝集物中の顔料は、水分が蒸発した後にもその周りに水溶性有機溶剤が存在することで、顔料粒子の表面に、パーフルオロアルキルスルホン酸塩が水分蒸発前と同じように吸着した形態で存在している。そのために、顔料、及び顔料凝集物のいずれも、表面が親水性となった状態で存在し、吐出口面との付着は非常に弱いために液滴はいびつであるが、吐出ヨレは生じないと考えられる。
【0034】
また、一般式(1)で表される化合物の含有量が0.5質量%未満であると、顔料粒子の表面の被覆が十分に行われないため、吐出口面においてインクを良好にはじく効果が得られない場合がある。しかし、顔料粒子の表面における疎水性の部分には少ないながらもパーフルオロアルキルスルホン酸塩が吸着しているため、顔料の疎水性部分と吐出口面とが直接接触することはない。そのため、顔料が吐出口面への付着力は弱いために液滴はいびつであるが、吐出ヨレは生じないと考えられる。
【0035】
(水性媒体)
本発明のインクには、水及び水溶性有機溶剤で構成される水性媒体を含有させる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、30.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。適量の水をインクに含有させることで、インクジェット方式による安定な吐出を可能とするために適切な粘度を持たせ、かつ、記録ヘッドにおける目詰まりも抑制されたインクとすることができる。また、水溶性有機溶剤としては、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素原子数が1〜4程度のアルキレングリコール類、数平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。本発明においては、水溶性有機溶剤の中でも、常温(25℃)における蒸気圧が水よりも高いものを用いることが特に好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
【0036】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分以外にも必要に応じて、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0037】
(総カチオン濃度)
また、本発明者らの検討によると、インク中の総カチオン濃度が0.10mmol/L未満であることが好ましいことが判明した。総カチオン濃度が0.10mmol/L以上では、吐出口面に付着したインク中の水が蒸発するのに伴って、電解質濃度が上昇し、顔料の凝集を生じさせる場合がある。その凝集物が、吐出口面にランダムに付着することで、インクが蒸発する際の液滴の形状がいびつな形となる場合がある。この吐出口面上でのインクの蒸発に伴い生成した上記凝集物は、水分が蒸発した後にもその周りに水溶性有機溶剤が存在することで、顔料粒子の表面に、パーフルオロアルキルスルホン酸塩が水分蒸発前と同じように吸着した形態で存在している。そのために、顔料、及び顔料凝集物のいずれも、表面が親水性となった状態で存在し、吐出口面との付着は非常に弱いために液滴はいびつであるが、吐出ヨレは生じないと考えられる。
【0038】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えてなり、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。または、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0039】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドにより上記で説明した本発明のインクを吐出して、記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式やインクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0040】
図1は記録ヘッドの一構成例を示す斜視図、図2は記録ヘッドの構成要素であるヘッドユニットの一構成例を示す分解斜視図である。
【0041】
図1に示すように、記録ヘッド1は、インクを吐出する吐出口列を有したヘッドユニット400と、インクを貯蔵し、ヘッドユニット400にインクを供給するインクカートリッジ410とを有している。記録ヘッド1は、ヘッドユニット400に設けられた吐出口列が記録媒体と対向し、かつその配列方向が主走査方向と異なる方向(例えば記録媒体の搬送方向である副走査方向)に一致するようにキャリッジに搭載される。吐出口列及びインクカートリッジ410の組は、使用するインク種に対応した数を設けることができる。図示の例では6色(例えばブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、淡シアン(LC)及び淡マゼンタ(LM))に対応して6組設けられている。ここに示す記録ヘッド1では、各色独立のインクカートリッジ410が用意されており、それぞれがヘッドユニット400に対して着脱自在となっている。
【0042】
図2に示すように、ヘッドユニット400は、記録素子基板420、第1のプレート430、電気配線基板440、第2のプレート450、カートリッジホルダ460、インク流路461及び流路形成部材470から構成されている。各色インクの吐出口列を有する記録素子基板420は、酸化アルミニウム(Al23)などを構成材料とする第1のプレート430上に接着固定されており、ここには記録素子基板420にインクを供給するためのインク供給口431が形成されている。さらに、第1のプレート430には、開口部を有する第2のプレート450が接着固定されている。この第2のプレート450は、インクを吐出するための電気信号を印加する電気配線基板440と記録素子基板420とが電気的に接続されるように電気配線基板440を保持している。一方、インクカートリッジ410を脱着可能に保持するカートリッジホルダ460には流路形成部材470が超音波溶着され、インクカートリッジ410から第1のプレート430にわたるインク流路(不図示)を形成している。
【0043】
図3は、図2に示す記録素子基板において、一色のインクについての吐出口列付近の構造を部分的に破断して示す斜視図である。図3において、421はインクを吐出するために利用されるエネルギーとして、通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギーを発生する発熱素子(ヒータ)である。また、ヒータ421が実装される基体423上には、ヘッドユニット400の温度を検出する温度センサ428と、当該検出温度に応じてヘッドないしインクを保温するためのサブヒータ(不図示)とが設けられる。422は吐出口、424はインク供給口、426はインク流路壁である。425は各ヒータに対向した状態で吐出口422が形成されたプレートであり、樹脂の被膜層427を介して基体423上に配設される。また、プレート425の記録媒体と対向する面、すなわち吐出口面は、撥水処理が行われていてもよい。
【0044】
本発明のインクを使用する場合、プレート425の吐出口面の表面特性は撥水性であることが好ましい。記録ヘッドの吐出口面が撥水性であることにより、吐出口面へのインクの付着による吐出ヨレがより効果的に抑制される。記録ヘッドの吐出口面を撥水性とするためには、例えば、プレート425を撥水性材料で構成すればよい。撥水性材料としては、ポリオレフイン系、シリコン系、フッ素系などの各種の材料が好ましく用いられる。さらに、吐出口面へのインクの付着による吐出ヨレをより効果的に抑制するためには、吐出口面の表面特性が撥油性であることが好ましい。記録ヘッドの吐出口面を撥油性にするには、例えば、プレート425を撥油性材料で構成すればよい。撥油性材料としては、フッ素系などの材料が好ましく用いられる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、文中、成分量に関し「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0046】
<顔料分散液の準備>
(自己分散顔料の表面電荷量)
先ず、自己分散顔料の表面電荷量を測定する方法を説明する。流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置AT−510(京都電子工業製)を用い、滴定試薬としてメチルグリコールキトサンを用いた電位差滴定により、顔料分散液中の自己分散顔料の表面電荷量を測定した。
【0047】
(顔料分散液A)
5.5gの水に2.5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で0.8gのp−アミノ安息香酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに、5℃の水9gに0.9gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラック9gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、顔料粒子の表面に−C64−COONa基が結合している自己分散顔料Aを調製した。得られた自己分散顔料Aに水を加えて顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液Bを調製した。自己分散顔料Aのコロイド滴定により求められる表面電荷量は0.16mmol/gであった。
【0048】
(顔料分散液B)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で1.55gのp−アミノ安息香酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに、5℃の水9gに1.8gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、顔料粒子の表面に−C64−COONa基が結合している自己分散顔料Bを調製した。得られた自己分散顔料Bに水を加えて顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液Bを調製した。自己分散顔料Bのコロイド滴定により求められる表面電荷量は0.21mmol/gであった。
【0049】
(顔料分散液C)
10gの顔料(C.I.ピグメントレッド122)及び4.0gのスルファニル酸を混合した。この混合物の入った容器を70℃のウォーターバスに入れた。この混合物に、74.32gの水に1.68gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を撹拌下で加えた。さらに、塩酸を加え、スラリーのpHを2に調節し、70℃で1時間撹拌した。その後、粒子を乾燥させ、顔料粒子の表面に−C64−SO3Na基が結合している自己分散顔料Cを調製した。得られた自己分散顔料Cに水を加えて顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液Cを調製した。自己分散顔料Cのコロイド滴定により求められる表面電荷量は0.15mmol/gであった。
【0050】
(顔料分散液D)
7gの顔料、7mmolの((4−アミノベンゾイルアミノ)−メタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸の一ナトリウム塩、20mmolの硝酸、及び200mLの純水を混合した。この際、顔料としては、C.I.ピグメントイエロー74を用い、混合は、シルバーソン混合機(シルバーソン製)を用いて、室温で6,000rpmにて混合した。30分後、この混合物に少量の水に溶解させた20mmolの亜硝酸ナトリウムをゆっくり添加した。この混合によって混合物の温度60℃に達し、この状態で1時間反応させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、混合物のpHを10に調整した。30分後、20mLの純水を加え、スペクトラムメンブランを用いてダイアフィルトレーションを行い、さらに、水を加えて顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液Dを調製した。このようにして、顔料粒子の表面にカウンターイオンがナトリウムである((4−アミノベンゾイルアミノ)−メタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸基が結合している自己分散顔料Dが水中に分散された状態の顔料分散液Dを得た。自己分散顔料Dのコロイド滴定により求められる表面電荷量は0.11mmol/gであった。
【0051】
(顔料分散液E)
15gの顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)及び4.0gのスルファニル酸を混合した。この混合物の入った容器を70℃のウォーターバスに入れた。この混合物に、74.32gの水に1.68gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を撹拌下で加えた。さらに、塩酸を加え、スラリーのpHを2に調節し、70℃で1時間撹拌した。その後、粒子を乾燥させ、顔料粒子の表面に−C64−SO3Na基が結合している自己分散顔料Eを調製した。得られた自己分散顔料Eに水を加えて顔料の含有量が10.0%となるように分散して顔料分散液Eを調製した。自己分散顔料Eのコロイド滴定により求められる表面電荷量は0.19mmol/gであった。
【0052】
<一般式(1)で表される化合物の合成>
(化合物1:パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム)
三口フラスコに、60gのパーフルオロオクチルヨージド、50gの重亜硫酸ナトリウム、100mLのジメチルホルムアミド、100mLの水を入れ、加熱により温度を70℃として、3時間撹拌し、反応させた。反応終了後、減圧により溶媒を留去し、得られた結晶をアセトンで抽出した。この抽出溶液を濃縮した後、320gの5%硫酸水溶液及び80mLの35%過酸化水素水を加え、室温で5時間撹拌した。その後、水層をヘキサンで洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液を用いて水層のpHを7に調整し、濃縮した。得られた結晶をアセトンで抽出した。そして、アセトン溶液を濃縮することにより、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム(化合物1)を得た。
【0053】
(化合物2:パーフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム)
化合物1の合成において、パーフルオロオクチルヨージドに代えて、パーフルオロヘキシルヨージドを用いた以外は化合物1と同様の手順により、パーフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム(化合物2)を得た。
【0054】
(化合物3:パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム)
化合物1の合成において、パーフルオロオクチルヨージドに代えて、パーフルオロブチルヨージドを用いた以外は化合物1と同様の手順により、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム(化合物3)を得た。
【0055】
(化合物4:パーフルオロエタンスルホン酸ナトリウム)
化合物1の合成において、パーフルオロオクチルヨージドに代えて、パーフルオロエチルヨージドを用いた以外は化合物1と同様の手順により、パーフルオロエタンスルホン酸ナトリウム(化合物4)を得た。
【0056】
<インクの調製>
表1の上段に示す各成分(単位:部)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、アセチレノールE100(川研ファインケミカル製)及びNIKKOL BC20(日光ケミカル製)はノニオン性界面活性剤であり、ポリエチレングリコールは数平均分子量600のものを用いた。
【0057】
表1の下段にはインク中の総カチオン濃度(mol/L)の値を示した。総カチオン濃度は顔料由来のカチオン濃度と、その他の成分由来のカチオン濃度の合計として算出した。顔料由来のカチオン濃度は、コロイド滴定により求められる表面電荷量とインク中の顔料の含有量から計算した値である。また、その他の成分由来のカチオン濃度は、使用した化合物の全てがイオン解離したと仮定して計算した値である。これらの各値から、インクの比重を1として計算した値をインク中の総カチオン濃度とした。
【0058】
以下、実施例1のインクを例に挙げて、インク中の総カチオン濃度(mol/L)の計算方法を示す。実施例1のインクの調製には、コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.16mmol/gである自己分散顔料を含み、顔料の含有量が10.0%である顔料分散液Aを50.0部使用した。したがって、顔料由来のカチオン量は、インクの比重を1として、インク1L(1,000g)中、顔料分散液Aの使用量50.0部、顔料の含有量10.0(%)、表面電荷量0.16(mmol/g)から、以下のように求められる。
1000(g)×50部(0.5)×10.0%×0.16(mmol/g)=8mmol
したがって、インク中の顔料由来のカチオン濃度は、0.008(mol/L)となる。
また、その他の成分由来のカチオン濃度は、実施例1のインク中に含まれる、イオン解離する成分は化合物3(パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム)のみであるので、化合物3を考慮すればよい。化合物3の分子量は322.10、使用量は2.5部である。添加した化合物3の全てがイオン解離したとすると、その他の化合物由来のカチオン量は、インクの比重を1として、インク1L(1,000g)中、化合物3の使用量2.5部、化合物3の分子量322.10から、以下のように求められる。
1000(g)×2.5部(0.025)/322.10=0.078mol
したがって、インク中のその他の成分由来のカチオン濃度は0.078mol/Lとなる。
これらの値から、インク中の総カチオン濃度は、顔料由来のカチオン濃度0.008(mol/L)+その他の成分由来のカチオン濃度0.078(mol/L)=0.086mol/Lとなる。
【0059】

【0060】

【0061】
<評価>
上記で得られたインクをそれぞれインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置 PIXUS 850i(キヤノン製)を用いて、以下の評価を行った。なお、上記記録装置は解像度が600dpi×600dpiであり、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴あたりの吐出量が30ngであるインク滴を1滴付与して記録する画像の記録デューティを100%と定義するものである。本発明においては、各項目の評価基準で、AA及びAが許容できるレベル、Bが許容できないレベルとした。評価結果を表2に示す。
(吐出性)
吐出性の評価は、温度25℃、相対湿度50%の環境で、以下のようにして行った。上記記録装置のイエローインクのポジションにインクカートリッジを装着した。そして、普通紙(PB PAPER GF−500;キヤノン製)に、記録デューティが50%であるA4サイズのベタ画像を10枚記録した後、PIXUS 850iのノズルチェックパターンを記録し、記録ヘッドの吐出口面の状態を顕微鏡にて観察した。
AA:吐出口面のインク滴がほぼ真円で、かつ、ノズルチェックパターンに乱れがない。
A:吐出口面のインク滴は真円ではないが、インクは弾かれており、かつノズルチェックパターンに乱れがない。
B:吐出口面のインク滴がいびつな形状をして、インクで濡れた状態であり、かつノズルチェックパターンに乱れがみられる。
【0062】
(耐水性)
耐水性の評価は、以下のようにして行った。低温低湿の環境(温度15℃、相対湿度10%)で1晩以上なじませた記録媒体(普通紙)を用い、同温湿度の条件において、上記記録装置のブラックインクのポジションにインクカートリッジを装着した。そして、4種の普通紙(GF−500、SW−101、Office 70〔以上、キヤノン製〕、XEROX4200〔ゼロックス製〕)に、記録デューティが100%である、縦5mm×横150mmのベタ画像を記録した。記録1日後に紙を垂直に立てた状態で、ベタ画像の長辺に垂直となる方向から、1mLの純水をマイクロピペッターにより垂らし、画像のにじみを目視で確認した。
A:全ての記録媒体において画像のにじみがない。
B:一部の記録媒体において画像のにじみがみられる。
【0063】

【符号の説明】
【0064】
1:記録ヘッド
400:ヘッドユニット
410:インクカートリッジ
420:記録素子基板
421:発熱素子(ヒータ)
422:吐出口
423:基体
424:インク供給口
425:吐出口プレート
426:インク流路壁
427:被膜層
428:温度センサ
430:第1のプレート
431:インク供給口
440:電気配線基板
450:第2のプレート
460:カートリッジホルダ
461:インク流路
470:流路形成部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド滴定により求められる表面電荷量が0.20mmol/g以下である自己分散顔料、下記一般式(1)で表される化合物、水及び水溶性有機溶剤を含有することを特徴とするインクジェット用のインク。
n(2n+1)SO3M (1)
(一般式(1)中、nは4乃至6の数であり、Mはアルカリ金属である。)
【請求項2】
インク中の前記一般式(1)で表される化合物の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.5質量%以上3.0質量%以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
インク中の総カチオン濃度が0.10mmol/L未満である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジであって、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項5】
インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229308(P2012−229308A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97363(P2011−97363)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】