説明

インクカートリッジ及び画像記録装置

【課題】インク供給部の構造を工夫することによって、ニードルが挿入されたときに記録ヘッド側へ流れるインクの量を少なくする手段を提供する。
【解決手段】インクカートリッジ30は、インクを貯留するインク室36と、インク室36とインク流路59を介してインクが流通可能に接続されたバルブ収容室58と、インク流路59に設けられた弁体61と、を具備する。バルブ収容室58は、その壁の少なくとも一部が、バルブ収容室58の容積が拡大するように変形可能なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニードルが挿入されることによって当該ニードルを通じて外部へインクを流出可能なインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるチューブ供給方式のインクジェット記録装置では、インクカートリッジが、記録ヘッドを搭載するキャリッジの外部に配置されており、このインクカートリッジと記録ヘッドとがチューブを介して接続されている。このインクカートリッジは、装置本体に設けられたカートリッジ装着部に対して着脱される。カートリッジ装着部にインクカートリッジが装着されると、インクカートリッジからカートリッジ装着部を経て記録ヘッドに至るインク流路が形成される。このインク流路を通じてインクカートリッジから記録ヘッドにインクが供給される(特許文献1参照)。
【0003】
インクカートリッジの内部には、インクを貯留するインク室と、弁やシールを介して外部と連通するインク供給部と、インク室とインク供給部とを連絡する流路とが設けられている。インク供給部には、弁やシールを収容する部屋(室)が設けられており、カートリッジ装着部へインクカートリッジが装着される際に、カートリッジ装着部に設けられたニードルなどがインク供給部の部屋へ挿入されて、弁が開く方向へ移動されたり、シールが破られたして、ニードルへインクが供給される。また、インク供給部からインク室へのインクの逆流を防止するために、これらを繋ぐ流路に逆止弁が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−23103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インク供給部の部屋へニードルが挿入されると、挿入されたニードルの体積分だけ部屋に貯留されるインクが押しやられ、部屋内の圧力が上昇する。そうすると、インク供給部の部屋からインク室又は外部へインクが移動しようとする。しかしながら、インク供給部の部屋からインク室への流路には逆止弁が設けられているので、インクはニードルを通じて記録ヘッドへ流れる。記録ヘッドのサブタンクの一部はフィルムにより構成されている。サブタンクにインクが流入すると、フィルムが変形して圧力変動が吸収される。サブタンクにおいて変形したフィルムが復元する過程において、サブタンクからインク供給部の部屋へインクが流れる。
【0006】
インク供給部の部屋からサブタンクへインクが流出してから、サブタンクからインク供給部の部屋へインクが戻るまでの間において、カートリッジ装着部からインクカートリッジから取り外されると、本来インク供給部の部屋に流れ込むはずのインクがニードルから滴り落ちるおそれがある。滴り落ちたインクは、カートリッジ装着部を汚染してインクカートリッジの外壁に付着する。また、インクカートリッジの外壁に付着したインクが、着脱時に飛散して装置本体の基板などに付着して、電気的なトラブルや腐食の原因となり得る。
【0007】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、インク供給部の構造を工夫することによって、ニードルが挿入されたときに記録ヘッド側へ流れるインクの量を少なくする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクカートリッジは、インクを貯留する第1インク室と、上記第1インク室と第1流路を介してインクが流通可能に接続されており、開口を通じて外部へインクを流出可能な第2インク室と、上記第1流路において、上記第1インク室から上記第2インク室へのインクの流れを許容し、かつ上記第2インク室から上記第1インク室へのインクの流れを制限するインク流量制御手段と、上記第2インク室(58)の圧力上昇を制御する圧力上昇制御手段と、具備する。圧力上昇制御手段は、第2インク室(58)の圧力が所定以上となると、その圧力を逃がすように作用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第2インク室へニードルが挿入されたことによって上昇する圧力に対して、その第2インク室内の圧力を逃がすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプリンタ10の内部構造を模式的に示す模式断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るインクカートリッジ30の外観構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るインクカートリッジ30の内部構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るインクカートリッジ30の内部構成を示す右側面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るインクカートリッジ30の内部構成を示す分解斜視図である。
【図6】図4におけるVI-VI切断線の断面構造を示す拡大斜視図である。
【図7】図6の矢視VIIからみた平面図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係るバルブ収容室58へインクニードル111が挿入された状態を示す拡大斜視図である。
【図9】図8の矢視IXからみた平面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係るインクカートリッジの構成を示す斜視図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係るインクカートリッジ30の内部構成を示す右側面図である。
【図12】図11におけるX11-X11切断線の断面構造を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面が参照されつつ本発明の実施形態が説明される。なお、以下に説明される実施形態は本発明が具体化された一例にすぎず、本発明の要旨が変更されない範囲で実施形態が適宜変更されてもよいことは言うまでもない。
【0012】
[第1実施形態]
プリンタ10は、インクジェット記録方式に基づいて、記録用紙に対してインク滴を選択的に吐出することにより画像を記録するものである。プリンタ10は、本発明に係る画像記録装置の一例である。
【0013】
図1に示されるように、プリンタ10は、インク供給装置100を備えている。インク供給装置100には、カートリッジケース110が設けられており、このカートリッジケース110に4つのインクカートリッジ30が保持可能である。カートリッジケース110には、その一面が外部に開放された開口112が設けられている。4つのインクカートリッジ30は、開口112を介してカートリッジケース110にほぼ水平方向(図1における左右方向)へ挿入され、或いはカートリッジケース110から抜き出される。カートリッジケース110に装着されたインクカートリッジ30は、インクニードル111を通じて、インク室36内のインクをインクチューブ20へ供給する。インクチューブ20により構成される流路が、本発明における第3流路に相当する。
【0014】
開口112は、プリンタ部10のフレームなどに軸支されたカバー19によって覆われている。カバー19は、開口112の下端部の下方で軸支されている。カバー19は、倒伏可能に軸支されており、開口112を開放する開放姿勢と閉塞する閉塞姿勢とに姿勢変化する。
【0015】
各インクカートリッジ30には、プリンタ10で使用可能なインクが貯留されている。具体的には、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色のインクがそれぞれの色に対応するインクカートリッジ30に貯留されている。
【0016】
図1に示されるように、キャリッジ21には、記録ヘッド29及びサブタンク28が設けられている。記録ヘッド29は、各インク色毎に設けられたインクチューブ20及びインク流路27によって各インクカートリッジ30と接続されている。記録ヘッド29は、各インクカートリッジ30から供給されたインクを微少なインク滴として選択的に吐出する。インクチューブ20及びインク流路27が、本発明における第3流路に相当する。
【0017】
キャリッジ21には各インク色毎にサブタンク28がそれぞれ設けられている。各サブタンク28には、各インクカートリッジ30からインクチューブ20を通じて、供給された各インク色のインクが一時的に貯留される。サブタンク28の上壁は可撓性のフィルムによって構成されている。このフィルムの撓みによって、サブタンク28は、インクからの圧力に応じて容積が変化して、サブタンク28内の圧力変動を吸収する。このサブタンク28が、本発明における第4インク室に相当する。
【0018】
給紙トレイ15には、複数枚の記録用紙が積載されている。給紙ローラ23によって搬送路24へ送給された記録用紙は、搬送ローラ対25によってプラテン26上へ搬送される。記録ヘッド29は、キャリッジ21と共に記録用紙の搬送方向と直交し、かつ記録面に水平な方向へ移動しながら、プラテン26上の記録用紙に対してインクを選択的に吐出する。これにより、記録用紙に画像が記録される。プラテン26を通過した記録用紙は、排出ローラ対22によって、搬送路24の最下流側に設けられた排紙トレイ16に排出される。
【0019】
[インクカートリッジ30]
以下、インクカートリッジ30の構成が詳細に説明される。
【0020】
インクカートリッジ30はインクが貯留される容器である。インクカートリッジ30は、図2に示された起立状態において、下側の面を底面とし、上側の面を上面として、カートリッジケース110に対して矢印104で示される向き(以下「挿入向き104」と称する。)に挿入される。カートリッジケース110に装着された状態において、インクカートリッジ30は、起立姿勢に維持される。
【0021】
図2に示されるように、インクカートリッジ30は、略直方体形状に形成されている。インクカートリッジ30は、幅方向101に細く、且つ、高さ方向102及び奥行き方向103が幅方向101よりも大きい扁平形状である。本実施形態では、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色に対応するそれぞれのインクカートリッジ30が同じ形状に形成されている。インクカートリッジ30は、フレーム32及びフィルム33,34などの内部の構成部材が外装材31によって覆われている。
【0022】
図3から図5に示されるように、インクカートリッジ30の内部には、フレーム32、フィルム33,34、大気連通バルブ50及びインク供給バルブ60が設けられている。フレーム32及びフィルム33,34に囲まれて、インクを貯留可能なインク室36が形成されている。このインク室36が、本発明における第1インク室に相当する。また、フィルム33が、本発明における圧力上昇制御手段に相当する。なお、インク室36の内部には、強度を保つ為のリブや、残量検知を行う為の構造があるが、これらは、本発明に直接に関連しないので、ここでは詳細な説明が省略される。
【0023】
フレーム32は、光センサから出射される光、例えば赤外線に対して透光性のある樹脂材料で構成されている。フレーム32は、透光性を有するものであれば如何なる樹脂で構成されていてもよく、例えば、透明或いは半透明の樹脂で構成することも可能である。樹脂材料としては、ポリアセタールやナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。フレーム32には、前壁41、上壁42、後壁43、下壁44が概ね沿って環状に連続して形成されている。これら各壁が環状に連結されて、フレーム32の左面45及び右面46に開口がそれぞれ形成されている。
【0024】
フレーム32の左面45、右面46それぞれに、透明な樹脂で構成された薄肉のフィルム33,34が貼り付けられている。このフィルムは、可撓性、伸縮性又は弾性を有するものである。フィルム33,34は、フレーム32の左面45、右面46の外縁部分に超音波溶着されている。フィルム33,34によって左面45及び右面46の開口が閉塞される。これにより、フレーム32とフィルム33,34とによって囲まれた空間がインク室36として区画される。インク室36はインクを貯留可能である。もちろん、超音波溶着に代えて熱溶着が用いられてもよい。
【0025】
なお、本実施形態においては、フィルム33,34がフレーム32に溶着されて、フレーム32の左面45、右面46の開口が閉塞されてインク室36が構成されているが、フレーム32の左面45又は右面46のいずれか一方が樹脂によって閉塞されており、他方のみにフィルムが溶着されてインク室36が構成されていてもよい。つまり、左面45、右面46のいずれか一方が開口された箱形状とし、その開口にフィルムが溶着されてインク室が構成されてもよい。
【0026】
フレーム32の前壁41の上部から突出するように円筒形のバルブ収容室48が設けられている。バルブ収容室48において、前壁41から突出先端には、円形の開口47が設けられている。バルブ収容室48の一部はフレーム32の内部側へ進入して、カートリッジ本体20の奥行き方向103へ延設されている。バルブ収容室48は、その奥部においてインク室36に連通している。バルブ収容室48に、大気連通バルブ50が収容されている。
【0027】
図5に示されるように、大気連通バルブ50は、開口47からインク室36の空気層に至る経路を開放又は閉塞する弁機構として構成されている。大気連通バルブ50は、圧縮コイルバネ51と、バルブ本体52と、シール部材53と、キャップ54とを有している。これらの各部材は、ポリアセタールやシリコンゴムなどの樹脂で構成されている。
【0028】
大気連通バルブ50は、上記各構成部材(圧縮コイルバネ51、バルブ本体52、シール部材53、キャップ54)が順次組み付けられて構成される。大気連通バルブ50を構成する部材のうち、圧縮コイルバネ51及びバルブ本体52がバルブ収容室48に収容され、シール部材53及びキャップ54は、開口47の周縁に取り付けられる。
【0029】
バルブ本体52は、バルブ収容室48において、カートリッジ本体20の奥行き方向103へ移動可能に設けられている。バルブ本体52は、蓋55とロッド56とを有する。ロッド56は、蓋55の中心軸から開口47の中心を通って開口47の外側へ突出している。開口47の外縁部分にシール部材53を介してキャップ54が取り付けられている。キャップ54及びシール部材53には貫通孔が設けられている。ロッド56は、この貫通孔を通じてバルブ収容室48の外側へ突出されている。
【0030】
圧縮コイルバネ51は、蓋55をシール部材53に近づける方向へバルブ本体52を押圧している。このため、蓋55がシール部材53に密着している。したがって、大気連通バルブ50は、常時は、バルブ収容室48から外部に至る通路を閉塞している。カートリッジケース110へインクカートリッジ10が挿入される過程で、ロッド56がバルブ収容室48の奥部側へ向けて押圧される。これにより、圧縮コイルバネ51の付勢力に抗してバルブ本体52の蓋55がシール部材53から離隔する。その結果、バルブ収容室48から外部に至る通路が開放される。この状態では、開口47を通じてインク室36内に大気が流入するので、インク室36内の空気層が大気圧と同圧になる。この大気圧連通バルブ50は、インク室36が負圧に維持されるときには必要ではない。また、大気連通バルブ50に代えて、少なくともインク室36と外気とが連通される通路が備わっていてもよい。
【0031】
カートリッジ本体20の前壁41の下部に円筒形のバルブ収容室58が設けられている。バルブ収容室58において、前壁41から突出先端には、円形の開口57が設けられている。バルブ収容室58の一部はフレーム32の内部側へ進入して、カートリッジ本体20の奥行き方向103へ延設されている。バルブ収容室58は、その奥部においてインク室36に連通している。バルブ収容室58に、インク供給バルブ60が収容されている。このバルブ収容室58が、本発明における第2インク室に相当する。
【0032】
図6及び図7に示されるように、バルブ収容室58は、インク室36とインク流路59を通じてインクを流通可能に連続されている。インク流路59は、バルブ収容室58とインク室36とを区画する壁49に形成された孔である。インク供給バルブ60は、インク流路59を開放又は閉塞する弁機構として構成されている。インク流路59が、本発明における第1インク流路に相当する。
【0033】
図5及び図6に示されるように、インク供給バルブ60は、弁体61と、弁座62と、圧縮コイルバネ63と、バルブ本体64と、シール部材65と、キャップ66とを有している。これらの各部材は、ポリアセタールやシリコンゴムなどの樹脂で構成されている。
【0034】
インク供給バルブ60は、上記各構成部材(弁体61、弁座62、圧縮コイルバネ63、バルブ本体64、シール部材65、キャップ66)が順次組み付けられてなる。上記各構成部材のうち、弁体61、弁座62、圧縮コイルバネ63、バルブ本体64がバルブ収容室54に収容される。シール部材65及びキャップ66は、開口57の周縁に取り付けられる。
【0035】
図6に示されるように、バルブ収容室54の奥部に弁体61が設けられている。弁体61は、弁座62に保持された状態で、壁49に接離可能に弾性変形可能である。弁体61は、壁49に形成されたインク流路59を開閉する逆止弁であり、例えばシリコンゴムを射出成形することにより得られる。弁体61は、筒形状に形成されており、その奥部側の開口は壁67によってほぼ閉塞されている。ここで、ほぼ閉塞されているとは、壁67に形成された貫通孔68によって、壁67をインクが通過可能なことをいう。壁67の中央には、半球部69が形成されている。壁67の弾性変形によって、半球部69が移動して壁49のインク流路59を開閉する。
【0036】
弁座62は、弁体61を内部に嵌め込むことができる筒形状であり、例えばポリプロピレン樹脂を射出成形することにより得られる。弁座62は、弁座基部70と弁座受け部71とを備える。弁座基部70は、筒形状であり、圧縮コイルバネ96に挿入されるようにして、圧縮コイルバネと係合される。また、弁座基部70は、バルブ本体64をスライド可能に支持する。
【0037】
弁座受け部71は、弁座基部70の一端側に外側から嵌め込まれている。弁座受け部71は、バルブ収容室58の内面形状に合致した円筒形状であり、壁49と接触する側において内側へ突出するフランジ72が形成されている。このフランジによって、弁座受け部71と弁座基部70との間に弁体61が嵌め入れられる。
【0038】
インク供給バルブ60が組み付けられると、弁座受け部72は、圧縮コイルバネ63からの付勢力を受けて壁49に密着される。弁体61と壁49との間に弁座受け部72が介在されることによって、弁体61の壁67と壁49との間に空間が生じ、半球部69がインク流路59から離れる。つまり、弁体61がインク流路59を開放する。したがって、インク室36から、インク流路59及び弁体61の貫通孔68を通じて、バルブ収容室58へインクが流れ込む。
【0039】
バルブ収容室58からインク室36側へインクが流れ込むと、弁体61の壁67が壁49側へ変形して、半球部69がインク流路59に密接する。これにより、インク流路59が閉塞されて、バルブ収容室58からインク室36へインクが流れ込むことが防止される。バルブ収容室58からインク室36側へインクが流れなくなると、弁体61の弾性力により半球部69が元の位置に復帰してインク流路59から離間する。このように、弁体61は、インク室36からバルブ収容室58へのインクの流れを許容し、かつバルブ収容室58からインク室36へのインクの流れを抑制する逆止弁として機能する。この弁体61が、本発明におけるインク流量制御手段に相当する。
【0040】
図6に示されるように、バルブ収容室54に圧縮コイルバネ63が設けられている。圧縮コイルバネ63は、弁座基部70とバルブ本体64との間に収縮された状態で配置されている。この圧縮コイルバネ63によって、弁座基部70及び弁座受け部71が壁49側へ弾性付勢され、また、バルブ本体64がシール部材65側へ弾性付勢されている。
【0041】
バルブ本体64は、円盤部74からロッド部75が延出された形状である。円盤部74は、シール部材65と対向して配置されており、圧縮コイルバネ63に付勢されてシール部材65に密着される。ロッド部75は、弁座基部70の内部空間に挿入されている。ロッド部75が弁座基部70によって案内されて、円盤部74がシール部材65と接離する方向へスライドされる。
【0042】
シール部材65は、キャップ66によってバルブ収容室54の開口57に密着されている。シール部材65は、弾性変形可能なゴムなどの樹脂で構成された密封性の高いものである。シール部材65は、中央に孔73が形成された円板形状である。シール部材65にバルブ本体65が密接することによって、孔73が閉塞されている。圧縮コイルバネ63の付勢力に抗して、バルブ本体65がシール部材65から離れると、孔73が開放される。
【0043】
シール部材65の孔73にインクニードル111が挿入されると、圧縮コイルバネ63の付勢力に抗してバルブ本体64の円盤部74がシール部材65から離間される。これにより、孔73が開放されて、孔73を通じてインクが外部へ流出される。
【0044】
インク供給バルブ60には、各構成部材の組み付け部分等にインクが流通可能な隙間等が形成されており、インク室36からバルブ収容室58へ流入したインクは、インク供給バルブ60内を通過してシール部材65へ到達する。そして、シール部材65の孔73が開放されると、バルブ収容室58内のインクが外部へ流出する。なお、孔73の内周の直径はインクニードル111の外周面の直径に比べて小さいので、インクニードル111の外周面と孔73とが弾性的に接する。これにより、孔73とインクニードル49との隙間からインクが漏れることはない。
【0045】
バルブ収容室58には、右面46側の壁の一部に開口78が形成されている。開口78を通じて、右面46側に開口する空間76と連続している。空間76は、バルブ収容室58から下方へ延びており、空間76の縁77は、フレーム32の前壁41、上壁42、後壁43、下壁44とともに右面46を構成する。この縁77にフィルム33が超音波溶着されて、空間76が閉塞されている。縁77に溶着されたフィルム33によって構成される壁面が、バルブ収容室58とインクが流通可能な空間を構成する平面形状の壁面のうち最大面積である。フィルム33は、縁77に溶着された状態において、バルブ収容室58の容積が拡大する向きへ、つまり外側へ膨らむように変形可能である。空間76を閉塞するフィルム33によって、本発明における変形可能な壁が構成されている。
【0046】
[カートリッジケース110]
図2に示されるように、カートリッジケース110には、インクカートリッジ30が収容される。本実施形態では、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色に対応する4つのインクカートリッジ110が、それぞれカートリッジケース110に収容されるが、インク色が異なっても各カートリッジケース110の構成は同じである。
【0047】
カートリッジケース110は、その前面に開口112を有する。開口112を通じてカートリッジケース110内にインクカートリッジ30が挿入される。インクカートリッジ30は、カートリッジケース110内において、前述された起立姿勢に保持される。
【0048】
[インクニードル122]
図7に示されるように、カートリッジケース110の奥部には、樹脂製の管状のインクニードル111が設けられている。インクニードル122は、開口122へ向けて突出された管・円筒形状である。インクニードル111にはインクチューブ20(図1参照)が接続されている。カートリッジケース110にインクカートリッジ30が装着されると、インクニードル122がインク供給バルブ60の孔73に挿入される。インクニードル111の先端には、切欠き113が設けられている。この切欠き113を通じて、インクニードル111の内部空間とインク供給バルブ60におけるバルブ本体64との間にインクが流れる。
【0049】
カートリッジケース110にインクカートリッジ30が装着されると、インクニードル111がインク供給バルブ60のシール部材75の孔73に挿入されて、孔73を閉塞していたバルブ本体64が、圧縮コイルバネ63の付勢力に抗してシール部材75から離間する。これにより、インクニードル111の先端側がバルブ収容室58に進入する。
【0050】
バルブ収容室58においては、挿入されたインクニードル111の体積分だけインクが収容できる空間が減少するので、バルブ収容室58に収容されるインクの圧力が上昇する。そのインクの圧力によって、弁体61が弾性変形して、半球部69がインク流路59を閉塞する。これにより、バルブ収容室58からインク室36へインクが流れ込むことが防止される。また、図8における鎖線で示されるように、インクの圧力によって、空間76を閉塞しているフィルム33が外側へ膨らんでバルブ収容室58の容積が拡大される。その結果、インクニードル111の挿入によって上昇したバルブ収容室58内のインクの圧力が元に戻る。
【0051】
[第1実施形態の作用効果]
第1実施形態によれば、バルブ収容室58へインクニードル111が挿入されたことによって容積が減少されると、フィルム33が変形してバルブ収容室58の容積を拡大させるので、バルブ収容室58においてインクの圧力上昇が抑制されて、バルブ収容室58からインクニードル111を通じてチューブへインクが流出されることが抑制される。これにより、キャリッジ21にサブタンク28が設けられていても、インクカートリッジ30の装着に際して、サブタンク28にインクが流入し、その反動によってサブタンク28からインクニードル111へインクが戻されることがない。また、サブタンク28へ流入するインクの量が抑えられ、記録ヘッド29内における圧力上昇が小さくなるので、記録ヘッド29においてインクのメニスカスが壊される可能性が低減される。
【0052】
また、縁77に溶着されたフィルム33によって、本発明における変形可能な壁が簡易かつ低コストに実現されている。
【0053】
また、縁77に溶着されたフィルム33によって構成される壁面が、バルブ収容室58を構成する平面形状の壁面のうち最大面積の壁なので、フィルム33の撓み又は弾性によって拡大されるバルブ収容室58の容量が大きい。
【0054】
縁77の内側におけるフィルム33の面積を大きくするほど、撓み、伸縮又は弾性によって拡大される容積が大きくなるので、最大面積の壁が変形可能な壁とされることが効率的である。
【0055】
また、フィルム33は、インク室36を構成する壁でもあるので、インク室36の壁とバルブ収容室58における変形可能な壁とが1枚のフィルム33で実現され、インクカートリッジ30の製造工程が簡略化される。
【0056】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態が説明される。第2実施形態においては、第1実施形態における空間76に代えて、バルブ収容室58と流路82を介してインクが流通可能に接続されたインクバッファ室80が設けられている点において、第1実施形態と異なり、その他の構成は、上記実施形態と同様である。したがって、第2実施形態においては、インクバッファ室80近傍の構成について詳細な説明がなされ、その他の構成についての説明が省略される。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同じ参照符号によって示される構成は、第1実施形態と同様の構成である。インクバッファ室80が、本発明における圧力上昇制御手段としての第3インク室に相当する。流路82が、本発明における第2流路に相当する。
【0057】
図10から図12に示されるように、バルブ収容室58には、右面46側の壁の一部に開口する流路82が形成されている。流路82は、バルブ収容室58から上方へ細長く延びてから前壁41側へ折れ曲がり、さらに上方へ延びてインク室36の上側においてインクバッファ室80に連続している。インクバッファ室80及び流路82の縁81は、フレーム32の前壁41、上壁42、後壁43、下壁44とともに右面46を構成する。各図には現れていないが、この縁81にフィルム33(図3参照)が超音波溶着されている。縁81に溶着されたフィルム33によって構成される壁面が、バルブ収容室58を構成する平面形状の壁面のうち最大面積である。フィルム33は、縁81に溶着された状態において、インクバッファ室80の容積が拡大する向きへ、つまり外側へ膨らむように変形可能である。このフィルム33によって、本発明における変形可能な壁が構成されている。
【0058】
インクバッファ室80及び流路82には、インク吸収体83が充填されている。インク吸収体83は、インクを吸収して保持するものであり、例えば、スポンジや不織布などによって構成される。インク吸収体83によって、バルブ収容室58からインクバッファ室80及び流路82へ流れ出たインクが吸収されて保持されて、再びバルブ収容室58に戻ることが防止される。このインク吸収体83が、本発明における流出防止手段に相当する。
【0059】
第1実施形態において説明されたように、カートリッジケース110にインクカートリッジ30が装着されると、インクニードル111がインク供給バルブ60のシール部材75の孔73に挿入されて、孔73を閉塞していたバルブ本体64が、圧縮コイルバネ63の付勢力に抗してシール部材75から離間する。これにより、インクニードル111の先端側がバルブ収容室58に進入する。
【0060】
バルブ収容室58においては、挿入されたインクニードル111の体積分だけインクが収容できる空間が減少するので、バルブ収容室58に収容されるインクの圧力が上昇する。そのインクの圧力によって、弁体61が弾性変形して、半球部69がインク流路59を閉塞する。これにより、バルブ収容室58からインク室36へインクが流れ込むことが防止される。また、インクの圧力によって、バルブ収容室58から流路82を通じてインクバッファ室80へ向かってインクが流れ出す。流れ出たインクは、インクバッファ室80又は流路82において、インク吸収体83に吸収されて保持される。また、インクバッファ室80又は流路82の一壁面を構成するフィルム33が外側へ膨らんで、バルブ収容室58からインクが流通可能な空間の容積が拡大される。その結果、インクニードル111の挿入によって上昇したバルブ収容室58内のインクの圧力が元に戻る。これにより、第1実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0061】
また、インクバッファ室80の一壁面であるフィルム33により構成される壁は、インクカートリッジ30からインクが流出される姿勢において、その一部が、インク室36に予め充填されるインクの液面より高い位置に配置されるので、インクバッファ室80においてフィルム30が受けるインクからの圧力が小さくなる。これにより、バルブ収容室58のインクの圧力変動によるフィルム33の変形量を大きくすることができる。
【0062】
[第2実施形態の変形例]
なお、第2実施形態においては、本発明における流出防止手段として、インクバッファ室80及び流路82にインク吸収体83が設けられているが、このインク吸収体83に代えて、流路82において、バルブ収容室58からインクバッファ室80へのインクの流れを許容し、かつインクバッファ室80からバルブ収容室58へのインクの流れを制限する逆止弁が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10・・・プリンタ(画像記録装置)
20・・・インクチューブ(第3流路)
28・・・サブタンク(第4インク室)
29・・・記録ヘッド
30・・・インクカートリッジ
33・・・フィルム(圧力上昇制御手段、壁)
36・・・インク室(第1インク室)
57・・・開口
58・・・バルブ収容室(第2インク室)
59・・・インク流路(第1流路)
61・・・弁体(インク流量制御手段、逆止弁)
80・・・インクバッファ室(第3インク室)
82・・・流路(第2流路)
83・・・インク吸収体(流出防止手段)
111・・・インクニードル(ニードル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留する第1インク室(36)と、
上記第1インク室(36)と第1流路(59)を介してインクが流通可能に接続されており、開口を通じて外部へインクを流出可能な第2インク室(58)と、
上記第1流路(59)において、上記第1インク室(36)から上記第2インク室(58)へのインクの流れを許容し、かつ上記第2インク室(58)から上記第1インク室(36)へのインクの流れを制限するインク流量制御手段(61)と、
上記第2インク室(58)の圧力上昇を制御する圧力上昇制御手段と、具備するインクカートリッジ。
【請求項2】
上記圧力上昇制御手段は、上記第2インク室(58)のインクが流通可能な空間の容積を拡大するように変形可能なものである請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
上記圧力上昇制御手段は、上記第2インク室(58)の壁(33)の少なくとも一部が、上記第2インク室(58)の容積が拡大するように変形可能なものである請求項1又は2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
上記変形可能な壁(33)は、フィルム(33)である請求項3に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
上記変形可能な壁(33)は、上記第2インク室(58)を構成する壁のうち最大面積の壁である請求項4に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
上記フィルム(33)は、上記第1インク室(36)の壁(33)をも構成するものである請求項4又は5に記載のインクカートリッジ。
【請求項7】
上記インク流量制御手段(61)は、逆止弁(61)である請求項3から6のいずれかに記載のインクカートリッジ。
【請求項8】
請求項3から7のいずれかに記載のインクカートリッジと、
上記第2インク室(58)の開口へ挿入されるニードル(111)と、
上記ニードル(111)から第3流路(20)を通じてインクが供給される記録ヘッド(29)と、
上記第3流路(20)に設けられており、インクからの圧力に応じて容積変化する第4インク室(28)と、を具備する画像記録装置。
【請求項9】
上記圧力上昇制御手段は、上記第2インク室(58)と第2流路(82)を介してインクが流通可能に接続された第3インク室(80)である請求項1又は2に記載のインクカートリッジ。
【請求項10】
上記第3インク室は、その壁の少なくとも一部が、上記第3インク室の容積が拡大するように変形可能である請求項9に記載のインクカートリッジ。
【請求項11】
上記変形可能な壁は、フィルムである請求項10に記載のインクカートリッジ。
【請求項12】
上記第2流路を介して上記第3インク室へ流入したインクが上記第2流路へ流出することを防止する流出防止手段を有する請求項9に記載のインクカートリッジ。
【請求項13】
上記流出防止手段は、上記第2流路において、上記第2インク室から上記第3インク室へのインクの流れを許容し、かつ上記第3インク室から上記第2インク室へのインクの流れを制限するものである請求項12に記載のインクカートリッジ。
【請求項14】
上記流出防止手段は、上記第3インク室に設けられて、上記第3インク室内のインクを吸収して保持するものである請求項12に記載のインクカートリッジ。
【請求項15】
上記インク流量制御手段(61)は、逆止弁(61)である請求項9から14のいずれかに記載のインクカートリッジ。
【請求項16】
請求項9から15のいずれかに記載のインクカートリッジと、
上記第2インク室(58)の開口へ挿入されるニードル(111)と、
上記ニードル(111)から第3流路(20)を通じてインクが供給される記録ヘッド(29)と、
上記第3流路(20)に設けられており、インクからの圧力に応じて容積変化する第4インク室(28)と、を具備する画像記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−860(P2012−860A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137812(P2010−137812)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】