説明

インクカートリッジ及び該インクカートリッジを装着した記録装置

【課題】沈降しやすい顔料インク組成物を用いた場合でも、インク組成物中の顔料の沈降によって発生する濃度ムラに影響されることなく、均一で安定した印字品質を得ることのできるインクカートリッジ、及び該インクカートリッジを装着したインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクパックを内部に収容したインクカートリッジであって、該インクパックは、少なくとも水と、顔料と、樹脂エマルジョンとを含むインク組成物が充填されてなり、かつ、インクジェット記録装置に装着した状態において、該インク組成物の流れ出る方向が該顔料の沈降方向とは異なる方向となるように形成されたインク取出口と、該インク組成物が該インク取出口から流れ出るのに伴って、該インク組成物中の顔料の沈降方向とは異なる方向に凋むように形成された側壁部と、を備えたことを特徴とするインクカートリッジにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクカートリッジ及び該インクカートリッジを装着したインクジェット記録装置に関し、更に詳細には、顔料が沈降しやすいインク組成物を用いた場合でも、インク組成物中の顔料の沈降によって発生する濃度ムラに影響されることなく、均一で安定した印字品質を得ることの可能なインクカートリッジ及び該インクカートリッジを装着したインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置などへのインク供給手段の1つとして、インクパックが利用されている。このインクパックは、変形可能な合成樹脂フィルムからなる袋体であり、一端にインク取出口を有する。一般的には、2枚の長方形状シートを重ね合わせ、四周をシールして製造することが可能な形状であり、その内部にインクを充填している際には、ほぼ最大体積に膨張し、偏平な直方体様の形状となる。インクパックは、インクが流れ出るのに伴って凋んでいき、最終的にはほぼ2枚のシートを重ね合わせた状態にまで凋む。
【0003】
また、インクパックは、一般に剛性材料からなるインクカートリッジの内部に収容した状態で記録装置に装着されて使用される。従って、インクカートリッジは、インクパックの最大膨張体積よりもやや広い内部容積を有し、インクパックの凋みを妨げない形状をとる。
【0004】
一方、インクジェット記録方法においては、特に、大量のインクを必要とする大型紙用記録装置のインク供給手段としてインクパックを内部に収容したインクカートリッジが採用される事が多い。また、このような大型紙用記録装置を用いた記録物には、記録物の保存性(耐光性、耐ガス性、耐水性等)が求められるため、記録物の保存性に関して染料インクよりも有利な顔料インクの使用が拡がっている。
【0005】
しかしながら、顔料インクは顔料粒子を分散させた分散液であるため、顔料粒子の沈降という問題がある。例えば、倉庫や販売店の棚上などにて長期間放置されると、顔料粒子が徐々に沈降するので、重力方向に顔料粒子の濃度傾斜が発生し、底部には、顔料粒子濃度が高く、過度に色の濃い層が生じ、上部には顔料粒子濃度が低く、過度に色の薄い層が生じる。そして、そのような顔料インクを充填したインクパックを収容したインクカートリッジを記録装置に装着して印刷を開始すると、均一な顔料濃度のインクを安定に供給する目的を達成することができなくなるおそれがある。
【0006】
従って、顔料インクを用いる場合には、記録装置への装着前に、インクパックや、インクパックを内部に収容したインクカートリッジをよく振って内部のインクを再分散させる操作をユーザーに要求する必要があった。
【0007】
また、記録装置への装着前に、インクパックをよく振って内部のインクを再分散させる操作を行った場合でも、記録装置に装着した状態が長期間継続すると、インクパック内部で顔料粒子の沈降が進行する。従って、この場合も、適正な顔料粒子濃度を有していないインクがインクパックから供給され、均一な顔料濃度のインクを安定に供給する目的を達成することができなくなるおそれがある。
【0008】
そこで、インクパックを記録装置に装着した後も、時間の経過と共に、使用前にインクパックや、インクパックを内部に収容したインクカートリッジを取り外してよく振り、内部のインクを再分散させる操作をユーザーに要求する必要性が生じるが、インクパックを記録装置に装着した後では、インクパックのインク取出口に設けたシール部が除去され、インク取出口の密閉部も、記録装置に設けたインク吸入用刺針によって破断されるため、ユーザーに対して、インクパックを記録装置から取り外して、インクパックを振る操作を要求するのは、その操作自体が煩雑であるだけでなく、インク漏れ防止手段を考慮する必要が生じるなどの点で、避けることが賢明である。一方、顔料インク組成物の中には、発色性や吐出安定性等は非常に優れているが、顔料が沈降しやすいがために、実用性に乏しいものがある。
【0009】
この問題を解決するために、インクパック中の顔料の沈降を防止するための手段が種々検討されている。例えば、インクパックの上面及び底面を重力方向に交互に逆転させる回転運動を可能にする従動軸部を有することにより、インクパック内における顔料インク沈降による濃度ムラの発生を防止するインクパック用のインクカートリッジが開示されている(特許文献1)。また、インクパックの壁面に変形部を設け、押圧力付与手段がその変形部を押圧し、インクパックの底部に沈降している顔料粒子を効率的に拡散させ、分散状態を均一化するインクパック用のインクカートリッジが開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−200764号公報
【特許文献2】特開2002−200767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、インクパックに外力を加えてインクを撹拌するタイプのインクカートリッジは、外力を加えるための装置を回転させる動力が必要であった。また、部品点数が増えてしまうため、インクカートリッジを装着するスペースを多く必要とするという問題があった。
【0011】
従って、本発明の課題は、沈降しやすいインク組成物を用いた場合でも、インクパックに外力を加えるための装置を必要とせず、インクパック内における、インク組成物中の顔料の沈降によって発生する濃度ムラの影響を受けることなく、均一で安定した印字品質を得ることのできるインクパックを内部に収容したインクカートリッジ、及び該インクカートリッジを装着したインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、インクジェット記録装置におけるインクカートリッジの設置状態を規定値の範囲内にすることにより、上記課題を解決し得るとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、インクパックを内部に収容したインクカートリッジであって、該インクパックは、少なくとも水と、顔料と、樹脂エマルジョンとを含むインク組成物が充填されてなり、かつ、インクジェット記録装置に装着した状態において、該インク組成物の流れ出る方向が、該顔料の沈降方向とは異なる方向となるように形成されたインク取出口と、該インク組成物が該インク取出口から流れ出るのに伴って、該インク組成物中の顔料の沈降方向とは異なる方向に凋むように形成された側壁部と、を備えたことを特徴とするインクカートリッジを提供するものである。
【0013】
このような構成により、沈降しやすいインク組成物を用いた場合でも、インクパックに外力を加えるための装置を必要とせず、インクパック内におけるインク組成物中の顔料の沈降によって発生する濃度ムラに影響されることなく、均一で安定した印字品質を得ることができる。
【0014】
上記発明の好ましい態様は次の通りである。前記インクパックの側壁部の凋む方向は、前記顔料の沈降方向に対し45〜90度であることが好ましい。
【0015】
前記インクパックの側壁部の凋む方向は、前記顔料の沈降方向に対し垂直(90度)であることが好ましい。
【0016】
前記インク組成物が流れ出る方向は、前記顔料の沈降方向に対し60〜120度であることが好ましい。
【0017】
前記インク組成物が流れ出る方向は、前記顔料の沈降方向に対し垂直(90度)であることが好ましい。
【0018】
前記インク組成物は、前記樹脂エマルジョンの体積平均粒径/前記顔料の50%体積平均粒径の値が、0.5以上であることが好ましい。
【0019】
前記顔料はカーボンブラックであることが好ましい。
【0020】
前記カーボンブラックは、一次粒子径が10〜30nmであり、DBP吸油量が150〜250ml/100gであり、BET比表面積(m2/g)/DBP吸油量(ml/100g)の値が0.3〜2.5であり、分散液中の50%体積平均粒径が100〜250nmであり、前記樹脂エマルジョンは、ガラス転移点(Tg)が0℃以下であることが好ましい。
【0021】
前記樹脂エマルジョンの含有量は、前記インク組成物の全量を基準(100重量%)としたときに、1〜10重量%であることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、上記いずれかに記載のインクカートリッジを装着したインクジェット記録装置を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ更に詳細に説明する。本実施形態のインクカートリッジの1態様を図1及び図2に示す。図1は、本実施形態のインクカートリッジ20に、インクパック10を収容した状態を示す模式的斜視図であり、図2はその平面図である。図1及び図2において、インクパック10を破線で示す。インクパック10は、インクの経時保存安定性等を得るために、インクパック内部を気密状態に保持することが可能な気密性インクパックであることが好ましい。
【0024】
図3に示すように、インクパック10は、一般に、四周をシール部11で気密に封止され、一端部にインク取出口12を有する。インクパック10は、その内部にインクを最大量で充填している際には、変形可能側壁部13が膨らんで最大体積に膨張し、ほぼ偏平な直方体様の形状となる(図2参照)。インクパック10は、インク取出口12からインクが流れ出るのに伴って変形可能側壁部13が凋んでいき、最終的にはほぼ2枚のシートを重ね合わせた状態にまで凋む。
【0025】
図4は、インクパック10のインク取出口12を正面から見たときの図である。本実施形態のインクカートリッジ20は、インクジェット記録装置内で、顔料の沈降方向であるA−A線と、インクパック10の変形可能側壁部13の凋み方向であるC−C線が異なる方向になるように装着される。インクパック10の変形可能側壁部13の凋み方向であるC−C線は、図4(a)に示すように、顔料の沈降方向であるA−A線に対して、90度となる方向に装着されることがもっとも好ましい。なお、本発明の効果を得ることができればインクパック10の変形可能側壁部13の凋み方向(即ちC−C線)を適宜変更することができる。例えば、図4(b)は、図面左方向に傾斜させた場合、顔料の沈降方向であるA−A線に対して、C−C線を45度まで傾斜させた状態を示す。また、図示しないが、図面右方向に傾斜させた場合も同様である。本実施形態において、インクパック10の側壁部の凋む方向は、図面左右いずれかに傾斜させる場合、顔料の沈降方向に対し45〜90度の範囲で傾斜させることが好ましい。
【0026】
ここで、本実施形態において使用されるインクパック10のインク取出口12は、図3に示すように、インクパック10の一端部に形成されている。図5は、インク組成物の流れ出る方向を説明するためのインクパック10の側面図である。図5に示すように、インクジェット記録装置に装着した状態において、インク組成物が流れ出るB−B線方向が、顔料の沈降方向であるA−A線方向と異なる方向となるようにインク取出口12が形成される。インク組成物が流れ出るB−B線方向は、図5(a)に示すように、顔料の沈降方向であるA−A線に対して、90度となる方向に装着されることがもっとも好ましい。なお、本発明の効果を得ることができれば、インク組成物が流れ出るB−B線方向を適宜変更することができる。例えば、図5(b)は、インク組成物が流れ出るB−B線方向が、顔料の沈降方向であるA−A線に対して60度とした状態を示し、また、図5(c)は、顔料の沈降方向であるA−A線に対して120度とした状態を示す。即ち、インクパック10のインク取出口12は、図面上下方向のいずれかに傾斜させる場合、顔料の沈降方向に対し60〜120度の範囲で傾斜させることが好ましい。
【0027】
図1及び図2に示すとおり、本実施形態のインクカートリッジ20は、従来公知のインクカートリッジと同様に、インクパック10の最大膨張体積よりもやや広い内部容積を有し、全体的な外形が偏平な直方体様の形状である。また、従来公知のインクカートリッジと同様に、インクパック10を保護するものであり、通常の使用条件下では変形しない剛性材料からなり、その一端にインクパック10のインク取出口12を嵌め込むことができるように形成されている。
【0028】
次に、本実施形態のインクカートリッジ20において、インク取出口12から流れ出るインク組成物の濃度が均一化される原理について、図3を用いて説明する。
【0029】
インク組成物の濃度が均一化される原理は不明な部分もあるが、概ね以下の通りである。インク組成物がインク取出口12から流れ出ると、変形可能側壁部13がC−C線方向に凋んでいく。このインクパックの凋み方向であるC−C線方向が、顔料の沈降方向であるA−A線方向と異なる方向、換言すれば、A−A線方向と同方向でなく、且つ逆方向でない方向にインクが流れ出るように、インク取出し口12が形成された場合には、インクパック10の内部でインク組成物の対流が起こり、インクパック内の上方の顔料低濃度部分と、下方に沈降していた顔料高濃度部分とが撹拌され、均一な濃度のインク組成物がインク取出口12から流れ出ると推定される。そして、最終的にはほぼ2枚のシートを重ね合わせた状態に凋むまで上記の操作が繰り返されると考えられる。
【0030】
次に、本実施形態に用いられる好ましいインク組成物について説明する。本実施形態のインクカートリッジに好適なインク組成物は、少なくとも水と、カーボンブラックと、樹脂エマルジョンとを含むブラックインク組成物であって、該カーボンブラックは、一次粒子径が10〜30nmであり、DBP吸油量が150〜250ml/100gであり、BET比表面積(m2/g)/DBP吸油量(ml/100g)の値が0.3〜2.5であり、分散液中の50%体積平均粒径が100〜250nmであり、該樹脂エマルジョンは、ガラス転移点(Tg)が0℃以下であり、該樹脂エマルジョンの体積平均粒径/該カーボンブラックの50%体積平均粒径の値が、0.5以上である。
【0031】
[カーボンブラック]
本実施形態に用いられるブラックインク組成物に用いられるカーボンブラックは、一次粒子径が10〜30nmであり、DBP吸油量が150〜250ml/100gであり、BET比表面積(m2/g)/DBP吸油量(ml/100g)の値が0.3〜2.5であるものが用いられる。これらパラメータを有するカーボンブラックを使用することにより、高いOD値を有した記録物を得ることができるブラックインク組成物を実現できる。以下、各パラメータについて説明する。
【0032】
カーボンブラックは、その一次粒子径が10〜30nmであるものを使用する。カーボンブラックの一次粒子径としては、その製法上一般に10〜100nmの範囲で製造することができるが、30nm以下であればブラックインク組成物中での顔料粒子の沈降を抑制することができ、好適である。
【0033】
本実施形態において、「一次粒子径」とは、単結晶又はそれに近い結晶子が集まって形成している粒子の大きさをいう。顔料の一次粒子径の測定は、電子顕微鏡法による。これは電子顕微鏡写真から顔料粒子の大きさを計測するもので、顔料を有機溶媒に分散し、支持膜に固定して透過型電子顕微鏡写真から画像処理し計測することにより、より信頼性がある値を求めることができる。具体的には、個々の一次粒子径の短軸径と長軸径を計測し、その面積と等しい円の直径を算術的に求めそれを一次粒子径とし、一定の視野から50個以上の顔料粒子をランダムに選択して平均値を求める。他の測定法でも同等の信頼性が得られれば差し支えないが、数値に実質的な差がある場合は上記の方法で求めた値を採用する。
【0034】
また、カーボンブラックは、記録物のOD値を高めるという観点から、そのDBP吸油量が150〜250ml/100gであるものが使用され、180〜250ml/100gであることが好ましく、180〜230ml/100gであることがより好ましい。
【0035】
カーボンブラックのDBP吸油量が150ml/100g未満である場合、水性分散液にしてインク組成物として用いた場合に記録物の十分なOD値が得られない可能性がある。また、カーボンブラックのDBP吸油量が高いほど、水性分散液にしてインク組成物として用いた場合に記録物のOD値が高くなるが、その一方、DBP吸油量が250ml/100gを超えると、得られるインク組成物の粘度が高くなり好ましくない。なお、DBP吸油量の測定はJIS K−6221による。
【0036】
また、カーボンブラックは、記録物のOD値を高めるという観点から、BET比表面積(m2/g)/DBP吸油量(ml/100g)の値が0.3〜2.5であり、0.3〜1.75であることがより好ましい。
【0037】
本実施形態において、「BET比表面積」は、GEMINI2360(マイクロメリティックス社製のBET比表面積測定装置)を使用して測定した値をいう。同等の測定値を求めることができる他の機種を用いても差し支えないが、測定値に差がある場合は上記の機種で求めた値を採用するものとする。測定方法は、あらかじめ、サンプルセルに顔料を入れて窒素ガスで置換しつつ、150℃で1.5時間乾燥させて水分を除去する。より詳細には、顔料の質量と測定時の気圧を測定し、この気圧の0.1、0.15、0.2、0.25、0.3倍の相対気圧5点での1gあたりの窒素吸着量を測定する。この5点の窒素吸収量からBET法にて計算し、比表面積を算出する。
【0038】
なお、本実施形態において、カーボンブラックのBET比表面積という場合には、後述する表面処理型顔料、およびその原料とされる表面未改質の顔料のいずれの態様のカーボンブラックに基づくBET比表面積も包含されるものとする。また、表面処理型顔料のBET比表面積と、表面未改質の顔料のBET比表面積とは、実質的に同じであり、ほぼ同等の値を示すと推定される。
【0039】
また、DBP吸油量(ml/100g)は、カーボンブラック100gにより吸収されるフタル酸ジブチル(DBP)量として表される値であり、JIS K6221に規定されている測定法に従って求めることができる。なお、前記測定法によれば、アブソープトメーターを使用し、カーボンブラックにDBPを添加した時の最大トルクの70%から求めた100g当たりのDBP吸収量が求められる。
【0040】
[顔料分散液]
本実施形態における特に好ましい顔料分散液として、前述の特定のパラメータを有するカーボンブラックの表面に、多数の親水性官能基および/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させた、いわゆる表面処理型顔料を用いた顔料分散液を挙げることができる。
【0041】
表面処理型顔料は、分散剤なしに水に分散及び/または溶解が可能であり、カーボンブラックが分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な最小粒子径で安定に存在している。前記カーボンブラックの表面に結合される分散性付与基としては、カルボキシル基、ラクトン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホン基、燐酸基および第4級アンモニウム、およびそれらの塩等が例示できる。
【0042】
前記表面処理型顔料分散液は、インク組成物として用いた場合、通常の顔料を分散させるために含有させる分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下や発泡がほとんど無く、取り扱いが容易であり、かつ印刷に用いる場合の印字安定性が優れるインクが調製しやすい。またカーボンブラック自身の黒色度が高いのみならず、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり、OD値をさらに高めることができる。
【0043】
本実施形態において、カーボンブラックの分散液中の50%体積平均粒径は、高OD値及び沈降抑制の観点から、100〜250nmであり、100〜200nmであることが好ましく、120〜200nmであることがより好ましい。カーボンブラックの分散液中の50%体積平均粒径が100nm未満の場合、インク組成物として用いた際に記録物の所望のOD値を確保できない場合がある。一方、カーボンブラックの分散液中の50%体積平均粒径が250nmを超える場合は、顔料粒子の沈降を生じやすいという問題がある。
【0044】
[樹脂エマルジョン]
本実施形態において、樹脂エマルジョンは、記録物の定着性の観点から、ガラス転移点(Tg)が0℃以下のものが使用される。このような樹脂エマルジョンを用いることにより、記録媒体上で樹脂が広がり、顔料であるカーボンブラックを記録媒体上に良好に定着させることができる。樹脂エマルジョンのガラス転移点(Tg)は、上記のように0℃以下のものが使用されるが、その効果を有効に発現するためには、0℃以下、−80℃以上、特に、−10℃以下、−80℃以上であることが好ましい。
【0045】
なお、本実施形態において、ガラス転移点(Tg)は、通常の方法、例えば、示差走査熱量計(DSC)等の熱分析装置を用いて測定することができる。熱分析装置としては、例えば、セイコー電子社製SSC5000が挙げられる。また、ガラス転移点(Tg)は、樹脂エマルジョンが共重合体の場合、ガラス転移点(Tg)及びその評価の方法論は以下の通りである。特定の単量体組成を有する共重合体のガラス転移点(Tg)は、フォックス(Fox)の式により求めることができる。ここで、フォックスの式とは、共重合体を形成する個々の単量体について、その単量体の単独重合体のTgに基づいて、共重合体のTgを算出するためのものであり、その詳細は、ブルテン・オブ・ザ・アメリカン・フィジカル・ソサエティー,シリーズ2(Bulletin of the American Society, Series 2)1巻・3号・123頁(1956年)に記載されている。フォックスの式による共重合体のTgを計算するための基礎となる各種モノマーについての単独共重合体のTgは、例えば、高分子データ・ハンドブック基礎編(高分子学会編)525〜546頁に記載されている数値又は通常の方法で測定した実測値を採用することができる。
【0046】
本実施形態に使用される樹脂エマルジョンに適用できる樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが特に限定されない。これらの樹脂は、使用に際して1種または2種以上で用いることができる。
【0047】
また、本実施形態に使用される樹脂エマルジョンは、不飽和単量体の乳化重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョン(例えば、いわゆる「アクリルエマルジョン」)の形態でインク組成物中に配合されることが好ましい。その理由は、樹脂粒子のままインク組成物中に添加しても該樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるため、インク組成物の製造上エマルジョンの形態が好ましいからである。また、樹脂エマルジョンとしては、インク組成物の保存安定性の観点から、アクリルエマルジョンであることが好ましい。
【0048】
樹脂エマルジョン(アクリルエマルジョン等)は、公知の乳化重合法により得ることができる。例えば、不飽和単量体(不飽和ビニルモノマー等)を重合開始剤、及び界面活性剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0049】
不飽和単量体としては、一般に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、及び酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0050】
また、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体も使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを単独または二種以上混合して使用することができる。
【0051】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤及び界面活性剤の他に、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。特に中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。
【0052】
本実施形態において、樹脂エマルジョンの含有量は、本実施形態のインク組成物の全量を基準(100重量%)としたときに、1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜7重量%であることがより好ましく、1〜6重量%であることが更に好ましい。
【0053】
樹脂エマルジョンの含有量の好適範囲は、インク組成物のインクジェット適正物性値、信頼性(目詰まりや吐出安定性等)の観点から上限値を規定し、本発明の効果(高OD値、定着性等)をより有効に得る観点から下限値を規定したものである。
【0054】
樹脂エマルジョンは、インク組成物中における分散安定性の観点から、その平均粒子径が30〜175nm、特に30〜120nmであることが好ましい。
【0055】
また、樹脂エマルジョンの樹脂粒子としては、単相構造及び複相構造(コアシェル型)の何れのものも使用できる。
【0056】
本実施形態において、「樹脂粒子」とは、水に不溶性の樹脂が主として水からなる分散媒中に粒子状に分散しているもの、あるいは水に不溶性の樹脂を主として水からなる分散媒中に粒子状に分散させたもの、更にはその乾燥物をも包含したものを意味する。
【0057】
また、本実施形態において、「樹脂エマルジョン」というときは、ディスパージョン、ラテックス、サスペンジョンと呼ばれる固/液の分散体をも包含したものを意味するものとする。
【0058】
また、樹脂エマルジョンは、カーボンブラックの分散安定性向上の観点から、アニオン性であることが好ましい。尚、同様の観点から、表面がカチオン性の顔料(例えば、表面処理によりカチオン基で分散させたもの)を用いる場合は、エマルジョンはカチオン性であることが好ましい。
【0059】
本実施形態のインクカートリッジにおいては、インク組成物中の顔料粒子が沈降しやすい場合であっても、均一で安定した印字品質を得ることができる。従って、これまで、顔料分散液中の樹脂エマルジョンの体積平均粒径/カーボンブラックの50%体積平均粒径の値が0.5以上であるとき、安定した吐出性が確保できるものの、顔料の沈降による印刷時の濃度ムラが大きいという課題があったが、本実施形態によれば、均一で安定した印字品質を得ることができる。すなわち、顔料分散液中の樹脂エマルジョンの体積平均粒径/カーボンブラックの50%体積平均粒径の値が0.5以上、より好ましくは0.7以上とすることにより、吐出安定性に優れ、かつ、安定した印字品質を得ることが可能となる。
【0060】
なお、上記の値は、樹脂エマルジョンの体積平均粒径が30〜175nm、カーボンブラックの50%体積平均粒径が100〜250nmであるときの値とする。
【0061】
[その他のインク成分]
本実施形態に使用されるインク組成物は、水を主溶媒とすることが好ましい。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、インク組成物を長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0062】
本実施形態の好ましい態様においては、インク組成物は、前記した顔料分散液を含んでなるものであって、記録媒体へのインク組成物の塗布量が1mg/cm2であるとき、インク組成物の浸透時間が1秒未満であるような浸透性を有するものであることが好ましい。
【0063】
ここで、塗布量が1mg/cm2であるときの浸透時間が1秒未満であるような浸透性とは、具体的には、例えば360dpi(ドット/インチ)×360dpiの面積に50ngのインク組成物を普通紙に塗布した場合に、印刷面を触ってもインク組成物で汚れなくなるまでの時間が1秒未満である場合をいう。このとき、普通紙としては、中性普通紙、例えばゼロックス−P(商品名、富士ゼロックス株式会社製)を用いる。
【0064】
このようなインク組成物の浸透性は、水溶液の表面張力を低下させる水溶性有機溶剤もしくは界面活性剤のような浸透促進剤を添加することによって、記録媒体への濡れ性を向上することにより得ることができる。
【0065】
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカルビトール類、および、1,2−ヘキサンジオ−ル、1,2−オクタンジオール等の1,2−アルキルジオール類が挙げられる。
【0066】
本実施形態の更に好ましい態様においては、浸透促進剤として使用される水溶性有機溶剤としては、グリコールブチルエーテル系の水溶性有機溶剤がより好ましい。このようなグリコールブチルエーテル系の水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、およびトリエチレングリコール−n−ブチルエーテル等が挙げられる。
【0067】
前記のような界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0068】
より好ましい界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。これらはイオン性の界面活性剤に比較してインクの発泡を低減できる点から有利である。このようなノニオン性界面活性剤の具体例としては、ニッサンノニオンK−211、K−220、P−213、E−215、E−220、S−215、S−220、HS−220、NS−212、およびNS−220(以上いずれも商品名、日本油脂社製)等が挙げられる。さらに好ましい界面活性剤の例としては、ノニオン性界面活性剤の中で、サーフィノール61、82、104、440、465、485(以上いずれも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)等のアセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。これらを、インク組成物に添加すると、発泡がほとんど生じなくなるため、インク組成物をインクジェット記録方法において使用する場合には特に好適である。
【0069】
本実施形態においては、浸透促進剤として、前記したような水溶性有機溶剤もしくは界面活性剤を単独で、またはそれらを併用して使用することによって、インク組成物の表面張力を、40mN/m未満、好ましくは35mN/m未満に調整することが望ましい。
【0070】
本実施形態におけるインク組成物は、インクジェット記録方法に用いた場合に、インクを吐出するノズルの先端のインク乾燥防止を目的として、保湿剤をさらに含んでなることができる。
【0071】
このような保湿剤は、通常、水溶性かつ吸湿性の高い材料から選択される。具体的には、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等のポリオール類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類、マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等の糖類が挙げられる。
【0072】
これらの保湿剤は、他のインク添加剤と併用することによって、インク組成物の粘度を25℃で25mPa・s以下になるような量で本実施形態のインク組成物に添加することができる。
【0073】
本実施形態におけるインク組成物には、必要に応じて、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤および防かび剤等をさらに添加することができる。
【0074】
定着剤としては、水溶性の樹脂類を用いることができる。そのような定着剤としては、例えば、水溶性ロジン類、アルギン酸類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、スチレン−アクリル酸樹脂、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−マレイン酸半エステル樹脂、アクリル酸−アクリル酸エステル樹脂、イソブチレン−マレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、アラビアゴムスターチ、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0075】
pH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアルカリ金属の水酸化物あるいはアミン類が挙げられる。
【0076】
酸化防止剤および紫外線吸収剤としては、例えば、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024、またはランタニドの酸化物等が挙げられる。
【0077】
防腐剤および防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などが挙げられる。
【0078】
本実施形態に使用されるインク組成物は、従来公知の装置、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して、従来のインク組成物と同様に調製することができる。調製に際しては、ノズルの目詰まり防止の観点から粗大粒子を除去することが好ましい。粗大粒子の除去は、例えば前記各成分を混合して得られたインクをメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、好ましくは10μm以上、より好ましくは5μm以上の粒子を除去することにより行われる。
【実施例】
【0079】
(顔料分散液の調製)
ファーネス法で調製した一次粒子径=18nm、BET比表面積=185m2/g、DBP吸油量=200mL/100g、BET比表面積/DBP吸油量=0.93のカーボンブラック原末200gを、イオン交換水1500gに加え、ディゾルバーで攪拌しながら50℃まで昇温した。その後、次亜塩素酸ナトリウム2220g(有効塩素濃度12%)の水溶液を50〜60℃で3.5時間かけて滴下し、滴下終了直後に直径3mmのガラスビーズを加え、50℃で30分間撹拌し、カーボンブラックが含まれている反応液を得た。この反応液を400メッシュ金網で濾過し、ガラスビーズ及び未反応カーボンブラックと反応液とを分別した。分別して得た反応液にNaOH 5%水溶液を加えpH=7.5に調整した後、限外濾過膜で電導度が1.5mS/cmになるまで脱塩及び精製し、更にカーボンブラック濃度が17重量%になるまで濃縮した。この濃縮液を遠心分離機にかけ、粗大粒子を取り除き、0.6μmフィルターで濾過を行った。得た濾液にイオン交換水を加え、カーボンブラックを濃度13重量%になるまで希釈し、所望の顔料分散液を得た。
【0080】
この顔料分散液を2.31g精秤し、1000mLメスフラスコで希釈した分散体(カーボンブラック濃度に換算すると0.30g/L)を作製し、粒度分析計MICROTRAC9340−UPA(マイクロトラック社製)を用いて50%体積平均粒径を測定したところ、190nmであった。
【0081】
(樹脂エマルジョンAの調製)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水1000g及びラウリル硫酸ナトリウム2.5gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
【0082】
得られた樹脂エマルジョンにおける樹脂粒子の体積平均粒径は80nmであり、ガラス転移温度(Tg)は−15℃であった。
【0083】
(樹脂エマルジョンBの調製)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水800g及びドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.48gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら75℃まで昇温した。内温を75℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム5gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム2gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、メタクリル酸30g、及びエチレングリコールジメタクリレート2gを撹拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分40重量%、pH8に調整した。
【0084】
得られた樹脂エマルジョンにおける樹脂粒子の体積平均粒径は200nmであり、ガラス転移温度(Tg)は−15℃であった。
【0085】
(ブラックインク組成物の調製)
表1に示す顔料分散液をそれぞれ8部(固形分換算)、各樹脂エマルジョンをそれぞれ3部(固形分換算)、グリセリン5部、2−ピロリドン5部、エタノール2部、オルフィンE1010(日信化学工業社製)1部、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル3部、1,2−ヘキサンジオール5部、プロキセルXL−2(AVECIA社製)0.3部、次いでpHが7.5になるようにトリエタノールアミンを加え、全量が100部になるように超純水を添加した。この混合液を室温にて2時間攪拌した後、ポリテトラフルオロエチレン製、孔径5μmのメンブランフィルター(ミリポア社製)により濾過して、ブラックインク組成物1及び2を得た。なお、表1中、「EMφ/顔料φ」は樹脂エマルジョンの体積平均粒径/顔料の50%体積平均粒径」を意味する。
【0086】
【表1】

【0087】
(インクカートリッジ及びインクジェット記録装置)
表1に示す各ブラックインク組成物を充填したインクパックを内部に収容したインクカートリッジを、インクパックの側壁部の凋み方向及びインクの流れ出る方向が顔料の沈降方向に対して表2中の角度となるようにインクジェット記録装置に装着した。そして、インクパックの側壁部の凋み方向及びインクの流れ出る方向に応じて、実施例1〜10および比較例1〜3とした。なお、インクパックの側壁部の凋み方向は、図4に示すように、顔料の沈降方向を示すA−A線に対する、インクパック10の側壁部の凋み方向を示すC−C線の角度として表示した。また、インクの流れ出る方向は、図5に示すように、顔料の沈降方向を示すA−A線に対する、インクの流れ出る方向を示すB−B線の角度として表示した。従って、表2において、「90度」はインクパックの側壁部の凋み方向又はインクの流れ出る方向と顔料の沈降方向とが垂直であることを意味し、「0度」及び「180度」はインクパックの側壁部の凋み方向又はインクの流れ出る方向と顔料の沈降方向とが同じであることを意味する。
【0088】
[試験例1]光学濃度値(OD値)の評価
実施例1〜10および比較例1〜3のインクカートリッジを装着した各インクジェット記録装置を用いて、100%べた印刷を行った。記録媒体は、中性普通紙としてゼロックスP、ゼロックス4024(以上、富士ゼロックス社製)、酸性普通紙としてEPP(セイコーエプソン社製)、再生紙としてゼロックスR(富士ゼロックス社製)の4種類を用い、記録物を得た。印刷後、各記録物を一般環境で1時間放置した後、グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いてべた部分のOD値を測定した。そして、4種の記録物の平均値を求め、算出した平均OD値につき、以下の評価基準で光学濃度値(OD値)を評価した。結果を表2に示す。
A:OD値が1.40以上
B:OD値が1.30以上1.40未満
C:OD値が1.30未満
【0089】
[試験例2]定着性の評価
実施例1〜10および比較例1〜3のインクカートリッジを装着した各インクジェット記録装置を用いて、べた及び文字の含まれるパターンを印刷した。得られた記録物を24時間自然乾燥させた後、ゼブラ社製のイエロー水性蛍光ペンZEBRA PEN2(商標)を用いて、印刷文字を筆圧300g/15mm2で擦り、ペン先に付着した汚れの有無を目視で観察した。その結果を以下の基準に基づいて評価した。結果を表2に示す。
A:同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない
B:1回の擦りまでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが生じる
C:1回の擦りで汚れが生じる
【0090】
[試験例3]インク沈降率の評価
使用したインク組成物が沈降しやすいものであることを確認するため、以下の要領でインク沈降率の評価を行った。表1に示す各ブラックインク組成物30gを沈降管に封入し、11000Gの重力加速度で10分間遠心分離処理を行った。その上澄み液4gを精秤した後、1Lメスフラスコで希釈した。さらにこの希釈液を5mLホールピペットに計り取り、100mLメスフラスコで希釈した。この液の500nm波長における吸光度W1、及び遠心処理前のブラックインク組成物を同様に希釈したときの吸光度W0を測定し、下記計算式により沈降率Sを算出した。
沈降率S(%)=〔1−(吸光度W1)/(吸光度W0)〕×100
【0091】
そして、算出した沈降率S(%)につき、下記の評価基準に基づいてブラックインク組成物の沈降率を評価した。結果を表2に示す。
A:20%未満
B:20%以上30%未満
C:30%以上
【0092】
[試験例4]経時後の濃度変化の評価
各インクジェット記録装置に設置する実施例1〜10および比較例1〜3のインクカートリッジを、予め下記の条件で遠心処理した。
・回転半径:20cm
・遠心加速度:600r.p.m.
・遠心時間:15時間
・セット方向:インクジェット記録装置に装着する際と同方向(遠心力方向を実際の顔料の沈降方向と同一にする。)
【0093】
得られた遠心済みインクカートリッジを振倒することなく、各インクジェット記録装置に装着し、100%べた印刷を連続して行った。記録媒体は中性普通紙であるゼロックスP(富士ゼロックス社製)とし、印刷はカートリッジ内のインクが終了し、完全に印刷が不能になるまで行った。印刷後、記録物を一般環境で1時間放置した後、得られた印刷物の各ページにおけるOD値をグレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、横軸に印刷ページ数、縦軸に測定OD値をプロットしたグラフを得た。そのグラフから最高/最低OD値を与えるページ数およびそのときのOD値を読み取り記録した。ここで得られたΔOD値(最高OD値−最低OD値)が、沈降によって1カートリッジ内で発生する最大のOD値変動である。そして、得られたΔOD値につき、下記の評価基準に基づいてブラックインク組成物の経時後の濃度変化を評価した。結果を表2に示す。
A:0.08未満
B:0.08以上0.12未満
C:0.12以上0.16未満
D:0.16以上0.20未満
E:0.20以上
【0094】
[試験例5]吐出安定性の評価
各インクジェット記録装置を用いて、温度が40℃の環境において、べた及び罫線の含まれるパターンを連続印刷した。印刷中にノズルの抜けやインクの飛行曲がり等による印字の乱れがあった場合は、その都度、記録装置に付属の復帰動作(クリーニング)を行った。そして、連続100ページ内に必要とされた上記クリーニングの回数を計測し、下記の評価基準に基づいて評価した。結果を表2に示す。
A:クリーニングを必要としなかった場合
B:5回未満のクリーニングを必要とした場合
C:5回以上のクリーニングを必要とした場合
【0095】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本実施形態のインクカートリッジ20に、インクパック10を収容した状態を示す模式的斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】インクパック10の斜視図である。
【図4】変形可能側壁部13の凋み方向を説明するための図である。
【図5】インク組成物の流れ出る方向を説明するための図である。
【符号の説明】
【0097】
10…インクパック、11…シール部、12…インク取出口、13…変形可能側壁部、20…インクカートリッジ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクパックを内部に収容したインクカートリッジであって、
該インクパックは、
少なくとも水と、顔料と、樹脂エマルジョンとを含むインク組成物が充填されてなり、
かつ、インクジェット記録装置に装着した状態において、
該インク組成物の流れ出る方向が該顔料の沈降方向とは異なる方向となるように形成されたインク取出口と、
該インク組成物が該インク取出口から流れ出るのに伴って、該インク組成物中の顔料の沈降方向とは異なる方向に凋むように形成された側壁部と、
を備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
前記インクパックの側壁部の凋む方向が、前記顔料の沈降方向に対し45〜90度であることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記インクパックの側壁部の凋む方向が、前記顔料の沈降方向に対し垂直(90度)であることを特徴とする請求項2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記インク組成物が流れ出る方向が、前記顔料の沈降方向に対し60〜120度であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
前記インク組成物が流れ出る方向が、前記顔料の沈降方向に対し垂直(90度)であることを特徴とする請求項4に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
前記インク組成物は、前記樹脂エマルジョンの体積平均粒径/前記顔料の50%体積平均粒径の値が、0.5以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項7】
前記顔料がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項8】
前記カーボンブラックは、
一次粒子径が10〜30nmであり、
DBP吸油量が150〜250ml/100gであり、
BET比表面積(m2/g)/DBP吸油量(ml/100g)の値が0.3〜2.5であり、
分散液中の50%体積平均粒径が100〜250nmであり、
前記樹脂エマルジョンは、
ガラス転移点(Tg)が0℃以下である
ことを特徴とする請求項7に記載のインクカートリッジ。
【請求項9】
前記樹脂エマルジョンの含有量が、前記インク組成物の全量を基準(100重量%)としたときに、1〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクカートリッジを装着したインクジェット記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−118255(P2007−118255A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310313(P2005−310313)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】