説明

インクジェットインク用水性顔料分散体およびインクジェット記録用水性インク

【課題】 色剤として顔料を使用したインクジェット記録用水性インクであって、分散・保存安定性に優れ、印刷濃度が高く、特に専用紙を使用した場合に高い光沢の得られるインクジェット記録用水性インクを提供し、更に、該インク用の水性顔料分散体を提供する。
【解決手段】 (メタ)アクリル共重合体、顔料、塩基性物質とを含有するインクジェットインク用水性顔料分散体であって、(メタ)アクリル共重合体が、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを必須構成モノマーとし、該アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が85質量%以上であり、酸価40〜110mgKOH/gであるインクジェットインク用水性顔料分散体。及び、該インクジェットインク用水性顔料分散体を使用したインクジェット記録用水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材として顔料を使用したインクジェット記録用水性インクのための水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェット記録用水性インクには、色材に染料を用いた染料インクが使用されている。染料インクは、保存安定性に優れ、インクジェットプリンターのノズルを詰まらせにくく、更に得られる印刷物は光沢に優れるといった数々の利点がある。しかし、耐候性の不良により印刷物の長期間の保存ができないといったことや、耐水性、耐光性に劣るといった、染料由来の欠点が指摘されており、近年では、耐候性、耐水性、耐光性に優れた顔料を用いたインクジェット記録用水性インク(以下、顔料インクと略す)の開発が進められている。
【0003】
通常、顔料インクは、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて顔料を水性溶媒中に分散させた顔料分散体を水または水性溶媒で希釈し、これに必要に応じて乾燥抑止剤、浸透剤、あるいはその他の添加剤を添加して調製する。しかし、顔料の分散安定性、即ち顔料インクの保存安定性を確保しながら諸添加剤を使用してインクジェット記録用インク適性を付与するのは容易ではなかった。
また顔料粒子は、記録媒体の表面状態の影響を受けやすい欠点があった。例えば、普通紙や再生紙等の表面コーティングされていない紙のような記録媒体では、顔料粒子が該紙繊維の間に入り込んでしまい、紙表面上に残りずらく、印刷濃度が得られないといった欠点があった。また、該紙繊維の構成やサイズ剤等の処理剤の影響によりにじみや色むらが発生しやすく、にじみや色むらの程度もまちまちであるため、均一な品質を提供することが難しいといった欠点もあった。
また、写真印刷等に使用するインクジェット専用紙等の表面コーティングを有する記録媒体では、顔料粒子が繊維間に入り込まないため印刷濃度は保たれるが、最も高い要求特性である光沢性は十分でなく、印字dutyが異なる部分での光沢性に差があることがあった。
【0004】
印刷濃度の改良については、数々のアプローチがなされている。例えば、アニオン性基を直接顔料表面に結合させた自己分散型の顔料(例えばカーボンブラック)と、モノマー単位としてベンジルメタクリレートを含む(メタ)アクリル系共重合体からなる高分子分散剤によって水性溶媒に分散させた顔料とを水性溶媒中に分散状態で含むインクジェット記録用水性インクが知られている(特許文献1参照)。 また、水性インクと反応液との2液からなるインクジェット記録用水性インクであって、水性インクの高分子分散剤として、(メタ)アクリル系共重合体を主鎖とし、側鎖を構成する全てのモノマー単位の50質量%以上が、芳香族ビニル化合物由来の疎水性官能基を有するモノマー単位であるグラフトポリマーを使用するインクジェット記録用水性インクも知られている(特許文献2参照)。
【0005】
しかし、該文献に記載のインクで使用する高分子分散剤はいずれも酸価が高い(特許文献1の実施例は400、特許文献2の実施例は計算的に400位)。通常、(メタ)アクリル系共重合体をベースとする高分子分散剤は、水溶性を保つ目的から酸価を高めに設定する。しかし酸価の高い高分子分散剤は粘度が高く、低粘度に調整するインクジェットインクには添加量が制約されるため、顔料の種類によっては分散させずらいといったことや、分散安定性、保存安定性に劣るといった問題があった。また、いずれの文献に記載のインクも、インクジェット専用紙に印字すると光沢感がでないといった問題もある。
【0006】
顔料インク用に使用する低酸価の高分子分散剤としては、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸ベンジル系単量体との合計が40〜80モル%であり、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸ベンジル系単量体との合計モル数に対するスチレン系単量体のモル数が40〜90%であり、かつ、酸価85〜135のスチレン−アクリル系共重合体が知られている(特許文献3)。(メタ)アクリル系共重合体の構成成分を絞ったことで、低酸価でも分散安定性に優れ、かつ印刷濃度に優れたインクジェット記録用水性インクが得られる。
しかし該インクも、インクジェット専用紙に印字した場合、光沢感がでないといった問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−88,287号公報
【特許文献2】特開2004−255,870号公報
【特許文献3】特開2004−217,916号公報
【0008】
従って、色剤として顔料を使用したインクジェット記録用水性インクであって、分散・保存安定性に優れ、印刷濃度が高く、特に専用紙を使用した場合に高い光沢の得られるインクジェット記録用水性インクは未だ得られていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、色剤として顔料を使用したインクジェット記録用水性インクであって、分散・保存安定性に優れ、印刷濃度が高く、特に専用紙を使用した場合に高い光沢の得られるインクジェット記録用水性インクを提供し、更に、該インク用の水性顔料分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の比率からなる、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを必須構成モノマーとを特定比率で共重合させた(メタ)アクリル共重合体が、顔料分散性に優れ、インクジェット記録用水性インクとして上記諸物性を兼ね備えることができ、前記課題を解決できることを見いだした。
即ち本発明は、(メタ)アクリル共重合体、顔料、及び塩基性物質を含有するインクジェットインク用水性顔料分散体であって、(メタ)アクリル共重合体が、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを必須構成モノマーとし、該アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が85質量%以上であり、酸価40〜110mgKOH/gであるインクジェットインク用水性顔料分散体を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記記載のインクジェットインク用水性顔料分散体を使用するインクジェット記録用水性インクを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性顔料分散体は、低酸価であるので分散・保存安定性に優れる。また、高い印刷濃度を有し、特にインクジェット専用紙を使用した場合に優れた光沢性を有する印刷物を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸との両方を包含する技術用語である。同様に本発明における(メタ)アクリル共重合体とは、(メタ)アクリル酸ベンジル系単量体と(メタ)アクリル酸とを必須成分として重合した共重合体を意味する技術用語である。水性溶媒とは、水のみ又は水と水溶性有機溶剤との混合物で質量換算で60%以上の水を含有するものを言う。
【0014】
((メタ)アクリル共重合体)
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体は、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを必須構成モノマーとし、該アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が85質量%以上であり、酸価40〜110mgKOH/gである。
ベンジル(メタ)アクリレートとしては、ベンジルアクリレートとベンジルメタクリレートがあるが、ベンジルメタクリレートが、本発明の効果をより発現でき、且つ容易に入手でき安価である点で好ましい。
(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸とメタクリル酸がある。(メタ)アクリル酸は、塩基により中和した場合の水に対する溶解度を広く制御することができ、入手がしやすく安価であるため好ましい。
【0015】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体の構成モノマーとして、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸以外に汎用のモノマーを使用してもよいが、その使用量は15質量%未満とすることが必要である。
使用する汎用モノマーとしては、各種(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、アルキルビニルエーテル、酢酸ビニルなどのビニル系単量体など、公知のビニル重合性単量体を挙げることができる。本発明の水性顔料分散体は、該(メタ)アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が85質量%以上を占めており、15%未満である汎用モノマー固有の性質はあまり発現しないので、大半の汎用モノマーを使用することができる。しかし、水酸基を有するモノマーは、酸価が比較的高い領域(100mgKOH/g前後)の組成において使用すると、得られる(メタ)アクリル共重合体の親水性が高くなりすぎてしまい、インクジェット記録用水性インク調製時に使用する水性溶媒の種類によっては、浸透性が高くなりすぎ、発色濃度、光沢等の印字特性が低下することがまれにある。これは、使用する水性溶媒の種類を適宜選択することで回避できることではあるが、(メタ)アクリル共重合体の水酸基価を少なくとも20.0mgKOH/g以下となるように設計しておくと、そのような問題を回避でき、使用する水性溶媒の種類も増え好ましい。
また、炭素原子数14以上の長鎖脂肪族炭化水素基を有するモノマーは、発色濃度や光沢値が安定しないことがまれにある。従って炭素原子数14以上の長鎖脂肪族炭化水素基を有するモノマーも、極力使用しないことが好ましい。
【0016】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体の好ましい例としては、メタクリル酸ベンジルとメタクリル酸とを合計95質量%以上使用した(メタ)アクリル共重合体が挙げられる。95質量%以上とすると、本発明の効果である印字濃度に特に優れるインクジェット記録用水性インクを得ることができる。中でも、メタクリル酸ベンジルとメタクリル酸とを合計100%使用したメタクリル共重合体が最も好ましい。
【0017】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体の酸価は、酸価40〜110mgKOH/gの範囲とすることで、該共重合体の水への親和性を高めることが出来、水性溶媒への共重合体の分散性や、水性顔料分散体とした際の顔料の分散安定性をより高めることができる。中でも60〜90mgKOH/gの範囲が好ましく、50〜85mgKOH/gの範囲がなお好ましい。酸価が小さすぎると、顔料の分散安定性が低下する傾向にあり、酸価が110を越えて大きすぎると着色画像の耐水性や着色画像濃度も低下する傾向にあるあり、いずれも好ましくない。
なお、酸価とは、(メタ)アクリル共重合体1gを中和するために必要な水酸化カリウムのmg数を意味する。
実質的には、ベンジル(メタ)アクリレート:(メタ)アクリル酸が83:17〜95:5の範囲で使用すると、該酸価の範囲となる。
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体は、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸が構成成分の85%以上を占める。ベンジル(メタ)アクリレートは疎水性の成分であるが、該範囲の酸価で中和させても十分水溶性樹脂の形態となる。
【0018】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体の分子量は、質量平均分子量で5000〜100000の範囲内であることが好ましく、10000〜50000の範囲が特に好ましい。質量平均分子量が5000未満である場合分散安定性が低下する傾向にあり、また、分散剤の質量平均分子量が50000を超える場合は、該樹脂を使用して得られるインクジェット記録用水性インクの粘度が高くなり、インクジェット記録時に、インク噴射ノズルからの該インクの吐出性が低下し、印字濃度の低下を招く傾向にある。なお、上記の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する。)法で測定される値である。
【0019】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体は、公知の重合方法で得ることが出来る。例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、あるいは乳化重合などが挙げられる。また重合形態は、ラジカル重合、イオン重合、あるいは光重合のいずれもよい。一般的には、ラジカル重合開始剤を使用して、溶液重合で重合させた後、後述の(3)塩基性物質で中和させ、水性溶媒中へ分散させて水性顔料分散体として使用する。
【0020】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体を使用した水性顔料分散体が、何故印刷濃度と光沢性の両物性を兼ね備えられるのかについては定かではないが、アクリル共重合体を構成するベンジル(メタ)アクリレートが該物性に何らかの影響を与えていると推定している。
ベンジル(メタ)アクリレートは、インクジェット記録用インクの顔料分散体の構成モノマーとしては公知であり、顔料分散性や、インクジェットノズルのオリフィス面に対するインク濡れ性に効果があることは知られている。
しかし、本発明のように、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを必須構成モノマーとし、該アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が85質量%以上である構成を有する(メタ)アクリル共重合体を使用することで、(特に専用紙に印字したときに)印刷濃度と光沢性の両方を兼ね備えたインクジェット記録用水性インクが得られることは、今発明で初めて明らかとなったことである。これは、本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体は、ベンジル基を多量に導入しているので、顔料インクとの親和性の高い親油性部分と、該インク媒体である水性溶媒との親和性の高い親水性部分とのバランスがとれたためと考えている。
【0021】
一般に、顔料粒子が記録媒体表面に付着していれば、高い印刷濃度が得られると考えられている。そのためにはインク浸透性がある程度抑制されていることが望ましい。
また、光沢性は、印字物表面の平滑性を保つことで得られると考えられる。このためには、印字面定着後の顔料の空隙を埋めるような樹脂成分の存在が好ましい。
一方でインクジェットインクは印字後すぐに乾燥、即ち、水性溶媒等の液成分は浸透又は蒸発することが求められる。
【0022】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体は、分散安定性は保ち、且つ、印字後は、水性溶媒と容易に分離するような親油性と親水性のバランスを有すると考えられる。従って、分散安定性と乾燥性の両方を保つことができると考えられる。水性溶媒と容易に分離するので、印字後は、記録媒体に浸透することなく顔料を取り囲むように記録媒体表面に残って定着すると考えられ、印字濃度と光沢性の両方を得ることができたと考えられる。
【0023】
これは、ベンジル基以外の芳香族基では上手くいかない。理由は定かではないが、例えば、ベンジル(メタ)アクリレートの代わりにスチレンを使用した場合、印刷濃度は保たれるが光沢値が下がってしまう。
【0024】
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体のTgは、30〜80℃の範囲にあることが、前記分散性や分散安定性が良好で、またインクジェット記録用水性インクの調製に使用した場合の印字安定性が良く、着色画像の耐水性も良好な上、耐摩擦性、耐棒積み性等の画像保存性も良好となるので好ましい。ここで、共重合体のTgは、各単量体のホモポリマーのTgから算術的に求められる計算値である。
【0025】
(顔料)
本発明の水性顔料分散体の調製に用いる顔料としては、硫酸バリウム、硫酸鉛、酸化チタン、黄色鉛、ベンガラ、酸化クロム、カーボンブラック等の無機顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ジスアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、イソインドリン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料等が挙げられる。これらを単独または混合して用いることができる。
【0026】
黒色顔料としては、耐光性に優れ、隠蔽力の高いファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラックを使用するのが好ましい。具体的には、たとえば、ラーベン(Raven) 7000、ラーベン 5750、ラーベン 5250、ラーベン 5000 ウルトラ(ULTRA)II、ラーベン 3500、ラーベン 2500 ウルトラ、ラーベン 2000、ラーベン 1500、ラーベン 1255、ラーベン1250、ラーベン 1200、ラーベン 1190 ウルトラII、ラーベン 1170、ラーベン 1080 ウルトラ、ラーベン1060 ウルトラ、ラーベン 790 ウルトラ、ラーベン 780 ウルトラ、ラーベン 760 ウルトラ(以上、コロンビアン・カーボン社製)、リーガル(Regal) 400R、リーガル 330R、リーガル 660R、モーグル(Mogul) L、モナーク(Monarch) 700、モナーク(Monarch) 800、モナーク 880、モナーク 900、モナーク 1000、モナーク 1100、モナーク 1300、モナーク 1400(以上、キャボット社製)、カラー ブラック FW1、カラー ブラック FW2、カラー ブラック FW2V、カラー ブラック 18、カラー ブラック FW200、カラー ブラックS150、カラー ブラック S160、カラー ブラック S170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャル ブラック 6、スペシャル ブラック 5、スペシャル ブラック 4A、スペシャル ブラック4(以上、デグッサ社製)、No. 25、No. 33、No. 40、No. 45、No. 45L、No. 47、No. 52、No. 900、No. 960、No. 2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)、などが挙げられる。
【0027】
さらに、色の三原色である、シアン、マゼンタ、およびイエローの代表的な有機顔料の中で、本発明において好適に使用できる顔料を以下に例示する。
シアンの顔料としては、たとえば、C.I.ピグメント ブルー 1、C.I.ピグメント ブルー 2、C.I.ピグメント ブルー 3、C.I.ピグメント ブルー 15、C.I.ピグメント ブルー 15:1、C.I.ピグメント ブルー 15:3、C.I.ピグメント ブルー 15:34、C.I.ピグメント ブルー 16、C.I.ピグメント ブルー 22、C.I.ピグメント ブルー 60、などが挙げられる。
【0028】
マゼンタの顔料としては、たとえば、C.I.ピグメント レッド 5、C.I.ピグメント レッド 7、C.I.ピグメント レッド 12、C.I.ピグメント レッド 48、C.I.ピグメント レッド 48:1、C.I.ピグメント レッド 57、C.I.ピグメント レッド 112、C.I.ピグメント レッド 122、C.I.ピグメント レッド 123、C.I.ピグメント レッド 146、C.I.ピグメント レッド 168、C.I.ピグメント レッド 184、C.I.ピグメント レッド 202、などが挙げられる。
【0029】
イエローの顔料としては、たとえば、C.I.ピグメント イエロー 1、C.I.ピグメント イエロー 2、C.I.ピグメント イエロー 3、C.I.ピグメント イエロー 12、C.I.ピグメント イエロー 13、C.I.ピグメント イエロー 14、C.I.ピグメント イエロー 16、C.I.ピグメント イエロー 17、C.I.ピグメント イエロー 73、C.I.ピグメント イエロー 74、C.I.ピグメント イエロー 75、C.I.ピグメント イエロー 83、C.I.ピグメント イエロー 93、C.I.ピグメント イエロー 95、C.I.ピグメント イエロー 97、C.I.ピグメント イエロー 98、C.I.ピグメント イエロー 114、C.I.ピグメント イエロー 128、C.I.ピグメント イエロー 129、C.I.ピグメント イエロー 151、C.I.ピグメント イエロー 154、などが挙げられる。
【0030】
顔料の粒子径は、一次粒子径が1〜500nmの範囲にあるのが好ましく、さらに好ましいのは20〜200nmの範囲である。また、媒体中に分散した後の顔料の粒子径は、10〜300nmの範囲にあるのが好ましく、さらに好ましいのは、50〜150nmの範囲である。顔料の一次粒子径の測定は、電子顕微鏡や、ガスまたは溶質による吸着法、空気流通法、X線小角散乱法などで行うことができる。分散後の顔料粒子径の測定は、公知慣用の遠心沈降方式、レーザー回折方式(光散乱方式)、ESA方式、キャピラリー方式、電子顕微鏡方式などで行うことができる。好ましいのは、動的光散乱法を利用したマイクロトラックUPAによる測定である。
【0031】
(塩基性物質)
本発明で使用する(メタ)アクリル共重合体は、カルボキシル基の少なくとも一部を塩基性物質によってイオン化された形態とすることで、該共重合体の水性溶媒中への分散性や、顔料粒子の分散安定性を発現させる。
イオン化されたカルボキシル基の最適割合は、通常30〜100%、特に70〜100%の範囲に設定されることが好ましい。このイオン化されたカルボキシル基の含有割合は、カルボキシル基と塩基性物質のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。カルボキシル基は、化学量論的に当量の強塩基性物質を用いても解離平衡によりイオン化された基(カルボキシラート基)の含有割合は100%未満であって、カルボキシラート基とカルボキシル基の混在状態である。
【0032】
前記塩基性物質に特に限定はなく、公知慣用のものを使用できる。具体的には、例えば、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン等の有機アミン、又はアルカリ金属水酸化物等が挙げられる。
【0033】
前記塩基性物質で前記(メタ)アクリル共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部をイオン化することにより、カルボキシラート基の対イオンは、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンからなる群から選ばれるカチオンとなる。
中でも、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの様なアルカリ金属水酸化物を使用すると、水性顔料分散体中の顔料粒子の分散安定性が特に良好となるので好ましい。
アンモニアや前記有機アミン等の揮発性の高い塩基性物質は、印字後の乾燥性に優れ、あるいはインクジェット記録用水性インクの調製直後の吐出安定性に優れるが、長時間放置及び/又は高温雰囲気下で揮散するため、水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インク中の分散粒子の分散安定性が徐々に損なわれていき、分散粒子の沈降が観察される場合がある。長期保存あるいは高温雰囲気下で使用する場合は、他の塩基性物質を選択するのが好ましい。
【0034】
本発明の水性顔料分散体は、水性溶媒中に、前記(メタ)アクリル共重合体、顔料、及び塩基性物質を含有する。
本発明の水性顔料分散体において、前記(メタ)アクリル共重合体は、主に顔料を分散させる役割を有するが、一部が自ら粒子となって存在していてもよい。また、顔料は、そのまま粒子として存在する他、前記(メタ)アクリル共重合体により被覆されていてもよく、存在形態に特に限定はない。
水性顔料分散体には、前記分散粒子が、平均分散粒径(メディアン径)が50〜200nmとなる様に分散していると、保存安定性や、インクの透明性に優れ好ましい。
【0035】
本発明の水性顔料分散体で使用する水性溶媒としては、水、あるいは、水と水との相溶性を有する水溶性有機溶剤からなる混合溶媒が好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトン及び炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。これらの水溶性有機溶剤は、前記共重合体溶液として用いても良く、別途独立に分散工程中において前記混合物中に含有させても良い。
【0036】
該水性顔料分散体中の不揮発分濃度は、10〜35質量%が好ましく、より好ましくは10〜25質量%の範囲である。不揮発分濃度が10質量%未満の場合は、顔料の分散が低下し、35質量%を超えると水性顔料分散体の保存安定性が低下する傾向にある。
【0037】
本発明の水性顔料分散体には、上記成分以外に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、一般の水性顔料分散体に使用される各種添加剤を添加してもよい。添加剤としては、たとえば、ポリビニルアルコール等の高分子分散剤、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0038】
本発明においては、前記(メタ)アクリル共重合体、前記顔料、及び前記塩基性物質、水性溶媒、および必要に応じて使用する添加剤を、公知慣用の混合機あるいは分散機を使用して水性顔料分散体を製造する。具体的な製造方法には、たとえば、
(a)塩基性物質で中和した前記(メタ)アクリル共重合体の水溶液もしくは水性溶媒溶液に顔料を添加した後、各種の撹拌、分散装置を用いて顔料を分散させた後、必要に応じて添加剤を添加して水性顔料分散体とする方法、
【0039】
(b)顔料と、中和前の前記(メタ)アクリル共重合体とを、ニーダー、2本ロール、あるいは押出式混練機等を使用して溶融混練した後、得られた混練物を粉砕する。粉砕した混練物を、必要量の塩基性物質を含有する水中に投入し、撹拌、分散装置を用いて顔料分散液を調製した後、必要に応じて添加剤を添加して水性顔料分散体とする方法、
【0040】
(c)メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどの、水との相溶性を有する有機溶剤に、中和前の(メタ)アクリル共重合体を溶解させた溶液中に、撹拌・分散装置を用いて顔料を分散させた後、攪拌しながら、必要量の塩基性物質を含有する水を加えて転相乳化させる。次いで減圧下に前記有機溶剤を留去した後、必要に応じて添加剤を添加して水性顔料分散体とする方法、
などがある。
【0041】
顔料を分散させるための攪拌・分散装置としては、たとえば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザーなど、公知慣用の各種分散機を使用することができる。
【0042】
(インクジェット記録用水性インク)
本発明のインクジェット記録用水性インクは、本発明の水性顔料分散体を前記水または水性溶媒で希釈し、これに必要に応じて乾燥抑止剤、浸透剤、あるいはその他の添加剤を添加して調製する。
【0043】
乾燥抑止剤は、インクジェットプリンターヘッドのインク噴射ノズル口におけるインクジェット記録用水性インクの乾燥を抑止する効果を与えるものである。通常、水の沸点以上の沸点を有する水溶性有機溶剤を使用する。
乾燥抑止剤として使用できる水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン類、アミド類、ジメチルスルホキシド、イミダゾリジノン等を挙げることができる。乾燥抑止剤の使用量は、溶媒が水の場合、水100部に対して1〜150部の範囲で使用するのが好ましい。
【0044】
浸透剤は、インクジェットプリンターヘッドのインク噴射ノズルから噴射され、記録媒体に付着したインクジェット記録用水性インクが、該記録媒体へ浸透しやすくするために使用される。浸透剤を使用することで、水性溶媒が記録媒体に対して素早く浸透し、画像の滲みが少ない記録物を得ることができる。
本発明に使用される浸透剤としては、エチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールなどの多価アルコール類、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール類、ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエーテル類、ジエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、などの多価アルコールの低級アルキルエーテル類エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、ジエチレングリコール−N−ブチルエーテル等のグリコールエーテル、プロピレングリコール誘導体等の水溶性有機溶媒、などがあげられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。2種以上を混合して使用することによって、より好ましい浸透性を得ることができる場合がある。
なお、浸透剤の選択によっては印字濃度にも影響がでることがあるので、本発明の(メタ)アクリル共重合体の構成や酸価により、該組成を調整することが好ましい。例えば、比較的酸価があり親水性の高い(メタ)アクリル共重合体を使用する場合は、疎水性が高く浸透性が小さい浸透剤を選択するのが好ましい。具体的には1,2−ヘキサンジオールや1,6−ヘキサンジオールなどのアルキルジオール類のような水溶性有機溶媒を使用すると、印字濃度を若干高くすることができる。
【0045】
本発明のインクジェット記録用水性インクは、顔料の分散剤として前記(メタ)アクリル共重合体を使用しており、顔料分散性を高める目的で界面活性剤を添加する必要はとくにないが、インクの表面張力等の物性を調整する目的で、若干量の界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、特に限定はなく、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩などのアニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤、その他、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤など、公知慣用の界面活性剤から適宜選択すればよい。これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、また、二種類以上を混合して用いることもできる。
その他の添加剤としては、たとえば、防腐剤、防黴剤、あるいはノズル目詰まり防止用のキレート化剤などが挙げられる。
【0046】
インクジェット記録用水性インク中に粗大粒子が存在すると、インクジェットプリンターのインク噴射ノズルが目詰まりする原因となるので、分散処理後に遠心分離または濾過等により粗大粒子を除去することが好ましい。
【0047】
このようにして得られる本発明のインクジェット記録用水性インクは、保存安定性、およびインクジェットプリンターヘッドのインク噴射ノズルからの吐出性に優れ、該インクを使用して記録媒体上に形成されたインク被膜は、高解像度で、かつ高濃度の均一な画像を形成できる。
【0048】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を具体的に説明するものであり、実施の態様がこれにより限定されるものではない。
また、合成例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は、いずれも質量換算である。
【0049】
[合成例1]
メチルエチルケトン(以下、MEKと略記する。)100部を、窒素気流中80℃に保ち、攪拌しながらメタクリル酸ベンジル87.8部、メタクリル酸12.2部、および重合開始剤(「パーブチル(登録商標)O」〔有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製〕)6部からなる混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、4時間ごとに「パーブチル(登録商標)O」0.5部を添加し、80℃で12時間攪拌した。このようにして、不揮発分52%の、カルボキシル基を有するアクリル系共重合体のMEK溶液(1−A)を得た。該樹脂の質量平均分子量は25000、酸価は80mgKOH/gであった。
【0050】
[合成例2]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル90.8部、メタクリル酸9.2部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価60mgKOH/g、不揮発分52%のアクリル系共重合体(1−B)のMEK溶液を得た。
【0051】
[合成例3]
メチルエチルケトン100部を用い、かつアクリル酸ベンジル89.8部、アクリル酸10.2部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価80mgKOH/g、不揮発分52%のアクリル系共重合体(1−C)のMEK溶液を得た。
【0052】
[合成例4]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル部82.8部、アクリル酸ブチル5部、メタクリル酸12.2部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価80mgKOH/g、不揮発分50%のアクリル系共重合体(1−D)のMEK溶液を得た。
【0053】
[合成例5]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル部80.3部、 メタクリル酸メチル7.5部、メタクリル酸12.2部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価80mgKOH/g、不揮発分52%のアクリル系共重合体(1−E)のMEK溶液を得た。
【0054】
[合成例6]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル75.8部、メタクリル酸メチル15部、メタクリル酸9.2部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価60mgKOH/g、不揮発分50%のアクリル系共重合体(1−F)のMEK溶液を得た。
【0055】
[合成例7]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル部75.8部、メタクリル酸メチル7.5部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル7.5部、メタクリル酸9.2部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価60mgKOH/g、水酸基価32.5mgKOH/g、不揮発分51%のアクリル系共重合体(1−G)のMEK溶液を得た。
【0056】
[合成例8]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル部79.7部、アクリル酸ブチル5部、メタクリル酸15.3部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価100mgKOH/g、不揮発分50%のアクリル系共重合体(1−H)のMEK溶液を得た。
【0057】
[合成例9]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル64.7部、メタクリル酸メチル20部、メタクリル酸15.3部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価100mgKOH/g、不揮発分52%のアクリル系共重合体(1−I)のMEK溶液を得た。
【0058】
[合成例10]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル57.8部、スチレン30部、メタクリル酸12.2部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価80mgKOH/g、不揮発分50%のスチレン−アクリル系共重合体(1−J)のMEK溶液を得た。
【0059】
[合成例11]
メチルエチルケトン100部を用い、かつメタクリル酸ベンジル69.4部、メタクリル酸30.6部及び「パーブチル(登録商標)O」6部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価200mgKOH/g、不揮発分52%のアクリル系共重合体(1−K)のMEK溶液を得た。
【0060】
[合成例12]
メチルエチルケトン100部を用い、かつスチレン87.8部、メタクリル酸12.2部及び「パーブチル(登録商標)O」4部の混合液を用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、酸価80mgKOH/g、不揮発分52%のアクリル系共重合体(1−L)のMEK溶液を得た。
【0061】
これら各合成例1〜8で合成された共重合体(1−A)〜共重合体(1−L)のモノマー組成比と酸価を表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
注)表1中のStはスチレン、BzMAはメタクリル酸ベンジル、BzAはアクリル酸ベンジル、BAはアクリル酸ブチル、MMAはメタクリル酸メチル、HEMAはメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、MAAはメタクリル酸、AAはアクリル酸を意味する。数字は、質量換算で全単量体を100部とした時の各単量体の部数を表している。また、MAA+BzMAは、共重合体に占める(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ベンジル系単量体との合計質量%を意味する。
【0064】
<実施例1>
合成例1で得た共重合体(1−A)、5%水酸化カリウム水溶液、Fastogen(登録商標)Blue TGR(大日本インク化学工業(株)社製銅フタロシアニン系顔料)を250mLのポリビンに仕込み、混合した。ここでそれぞれの仕込量は、銅フタロシアニン系顔料が10部、樹脂は顔料に対して不揮発分で50質量%の比率となる量、5%水酸化カリウム水溶液は共重合体(B−1)の酸価が100%中和される量、水は混合液の不揮発分を30%とするのに必要な量である。
混合液をペイントコンディショナー(直径0.5mmのジルコニアビーズ使用)で2時間分散した。分散終了後、ジルコニアビーズを除いて得られた液をエバポレーターでメチルエチルケトンを留去した後、遠心分離処理(8200 G、30分間)して粗大粒子を除去したのち、純水を加えて不揮発分を調整し、不揮発分20%の水性顔料分散体(1−A)を得た。
【0065】
<実施例2〜8>
合成例1で得た共重合体(1−A)に代えて、合成例2で得た共重合体(1−B)〜(1−H)に変更した以外は実施例1と同様にして不揮発分20%の水性顔料分散体(1−B)〜(1−H)を得た。
【0066】
<比較例1〜4>
合成例1で得た共重合体(1−A)に代えて、合成例5〜合成例8で得た共重合体(1−I)〜(1−L)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って不揮発分20%の水性顔料分散体(1−I)〜(1−L)を得た。
【0067】
実施例1で得られた水性顔料分散体(1−A)を使用し、下記組成に従い調整し、孔径6μmのフィルターで濾過して、ピエゾ方式インクジェット記録用水性インク(1−A)を調製した。
【0068】
水性顔料分散体(1−A) 25.0部
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 49.2部
【0069】
<実施例10〜16>
実施例1で得られた水性顔料分散体(1−A)に代えて実施例2〜8で得られた水性顔料分散体(1−B)〜(1−H)のの同量を用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用水性インク(1−B)〜(1−H)を調製した。
【0070】
<比較例5〜8>
実施例1で得られた水性顔料分散体(1−A)に代えて比較例1〜4で得られた水性顔料分散体(1−I)〜(1−L)の同量を用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、インクジェット記録用水性インク(1−I)〜(1−L)を調製した。
【0071】
<性能試験および評価基準>
(インクジェット記録用水性インク中の顔料粒子径判定)
試料インクに水を加えて1000倍に希釈した後、粒度分析計(リーズ・アンド・ノースラップ社製「マイクロトラックUPA150」)を使用して、試料インク中に分散している顔料の粒子径を測定し、初期粒子径とし、次の3段階の基準で判定した。
○ 粒径120nm未満。
△ 粒径120nm以上150nm未満。
× 粒径150nm以上。
【0072】
(水性顔料分散体の保存安定性)
水性顔料分散体を60℃で30日間静置した後、前記粒度分析計を使用して、試料中に分散している顔料の粒子径を測定した。
測定値の初期粒子径に対する変化率が10%以下のものを「○」、10%を超えるものを「×」と評価した
【0073】
(インクジェット記録試験(印字濃度、光沢値))
ピエゾ方式のインクジェットプリンタ(EM-930C、セイコーエプソン(株)製)を使用して、記録媒体上に試料インクで描画し、印字濃度試験、及び光沢値試験を行った。記録媒体としては、普通紙として、Canon(株)製「Canon PBペーパー」、あるいはXerox社製「Xerox4024」を使用し、インクジェット専用紙としてセイコーエプソン(株)製「写真用紙光沢」を使用した。
【0074】
a)印字濃度
印字濃度は、専用紙について評価した。
インクジェット専用紙にベタ画像を印刷し、印字濃度測定機「GRETAG(登録商標) D196 グレタグマクベス社製」を使用し、単一サンプルの5点について着色画像濃度を測定し、それらを平均した値を印字濃度とした。数値が大きいほど印字濃度が良好であることを示しており、用紙別に次の4段階の基準で判定した。
セイコーエプソン(株)製「写真用紙光沢」
◎ 印字濃度2.7以上。
○ 印字濃度2.5以上2.7未満。
△ 印字濃度2.0以上2.5未満。
× 印字濃度2.0未満。
【0075】
b)画像の光沢値測定
専用紙にベタ画像を印刷し、光沢値測定機としてヘイズグロスメーター「BYK Gardner社製」を使用し、測定角度20度で着色画像の光沢を測定した。単一サンプルの3点について測定し、それらを平均した値を光沢値とした。数値が大きいほど光沢が良好であることを示しており、次の4段階の基準で判定した。
◎ 光沢値25以上
○ 光沢値20以上。
△ 光沢値10以上20未満。
× 光沢値10未満。
【0076】
c)目視光沢感判定
上記の印字試験で得た印刷物の光沢感の度合いを目視にて次の4段階の基準で判定した。
◎ つややかで乱反射がほぼない。
○ つややかであるが乱反射が少しある。
△ つやがあるが乱反射が大きい。
× つやがなくほとんど光を反射しない。
【0077】
本発明の水性顔料分散体、及びインクジェット記録用水性インクの性能試験結果をまとめて表2に示した。
【0078】
【表2】

【0079】
なお、表2中、分散粒径はインクジェット記録用水性インク中の顔料粒子径判定を、安定性は水性顔料分散体の保存安定性を、印字濃度は専用紙「写真用紙光沢」に印字したときの印字濃度、光沢値は画像の光沢測定、光沢感は目視光沢感判定を意味する。
【0080】
表2に示した結果から、本発明の(メタ)アクリル共重合体を使用した水性顔料分散体は、保存安定性に優れており、インクジェット記録用水性インクは、分散した顔料の粒子径が好適な範囲内にあり安定性に優れ、得られたインクジェット印刷物は、光沢により優れ、高い着色画像濃度を有することが判る。特に、共重合体に占める(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ベンジル系単量体との合計質量%が95質量%以上である実施例1〜4は、印字濃度が2.7以上であり、光沢値は25以上、光沢感共に非常に優れた値を示した。
これに対し、比較例1、比較例2はいずれも、(メタ)アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が85質量%未満である例であるが、これは印字濃度、光沢値共に低かった。比較例3は酸価が多い例であるが、比較例4はベンジル(メタ)アクリレートを含まない例であるが、これは印字濃度、及び光沢値ともに低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル共重合体、顔料、及び塩基性物質を含有するインクジェットインク用水性顔料分散体であって、(メタ)アクリル共重合体が、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とを必須構成モノマーとし、該アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が85質量%以上であり、酸価40〜110mgKOH/gであることを特徴とする、インクジェットインク用水性顔料分散体。
【請求項2】
前記該(メタ)アクリル共重合体を構成する全モノマー量に対するベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との合計が95質量%以上である、請求項1に記載のインクジェットインク用水性顔料分散体。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系共重合体の水酸基価が20.0mgKOH/g以下である、請求項1に記載のインクジェットインク用水性顔料分散体。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系共重合体が、(メタ)アクリル酸とメタクリル酸ベンジルからなる請求項1に記載のインクジェットインク用水性顔料分散体。
【請求項5】
請求項1に記載のインクジェットインク用水性顔料分散体を使用することを特徴とするインクジェット記録用水性インク。


【公開番号】特開2006−342294(P2006−342294A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170822(P2005−170822)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】