説明

インクジェットプリンタおよび印刷方法

【課題】インクジェットプリンタにおいて、印刷品質を向上する。
【解決手段】インクジェットプリンタのヘッド21では、それぞれが複数の吐出口を走査方向に交差する方向に配列して有する複数の吐出口列が走査方向に配列される。各吐出口は、吐出制御部44による異なる駆動信号の入力により複数サイズのドットを印刷用紙上に形成可能である。インクジェットプリンタでは、吐出制御部44の制御により、複数の吐出口列のうちの一部の吐出口列により複数サイズのうちの一のサイズのドットのみが形成され、他の吐出口列により他の一のサイズのドットのみが形成される。このように、各吐出口列内の複数の吐出口が一のサイズのドットのみを形成することにより、サテライト液滴等の発生を低減して印刷品質を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数サイズのドットを対象物上に形成可能なインクジェットプリンタ、および、インクジェットプリンタにおける印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の吐出口(ノズル)が配列されたヘッドが設けられ、印刷用紙に対してヘッドを相対的に走査しつつ各吐出口からのインク液滴の吐出のON/OFFを制御することにより印刷を行うインクジェットプリンタが従来より用いられている。また、近年では、このようなインクジェットプリンタにおいて、高精細な画像を印刷するために、吐出される液滴の更なる微小化や、吐出口の配列の高密度化が図られている。
【0003】
このようなインクジェットプリンタにおいて、吐出口間のクロストークにより印刷画像においてムラが発生することも知られている。特許文献1では、複数の吐出口が走査方向に垂直な幅方向に配列される各吐出口列にて、印刷が行われている間、幅方向において連続して休止状態とされる各吐出口群に含まれる吐出口の数を1以上所定数以下とし、幅方向において連続して休止状態とされない各吐出口群に含まれる吐出口の数を1以上所定数以下とすることにより、吐出口間のクロストークによるムラの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各吐出口が複数サイズのドットを形成可能なインクジェットプリンタでは、吐出口列内の複数の吐出口が異なるサイズのドットを形成する場合に意図しないサテライト液滴(ミスト状のものを含む。)等が生じることがあり、この場合、インクジェットプリンタにおける印刷品質が低下してしまう。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、複数サイズのドットを形成可能なインクジェットプリンタにおいて、印刷品質を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、インクジェットプリンタであって、それぞれが複数の吐出口を所定の走査方向に交差する方向に配列して有する複数の吐出口列が前記走査方向に配列されたヘッドと、前記走査方向へと対象物を前記ヘッドに対して相対的に移動する走査機構と、前記対象物の前記ヘッドに対する相対移動に並行して、前記ヘッドからのインクの吐出制御を行う吐出制御部とを備え、前記複数の吐出口のそれぞれが、前記吐出制御部による異なる駆動信号の入力により複数サイズのドットを前記対象物上に形成可能であり、前記吐出制御部の制御により、前記複数の吐出口列のうち少なくとも1つの吐出口列が前記複数サイズのうちの一のサイズのドットのみを形成し、他の吐出口列が少なくとも他の一のサイズのドットを形成する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットプリンタであって、前記他の吐出口列のそれぞれが、前記一のサイズを除くサイズのドットのみを形成する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のインクジェットプリンタであって、前記一のサイズのドットが、前記複数サイズのうちの最大サイズのドットである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェットプリンタであって、前記複数の吐出口のそれぞれに対し圧電素子が設けられる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、インクジェットプリンタにおける印刷方法であって、a)それぞれが複数の吐出口を所定の走査方向に交差する方向に配列して有する複数の吐出口列が前記走査方向に配列されたヘッドに対して、前記走査方向へと対象物を相対的に移動する工程と、b)前記a)工程に並行して、前記ヘッドからのインクの吐出制御を行う工程とを備え、前記複数の吐出口のそれぞれが、異なる駆動信号の入力により複数サイズのドットを前記対象物上に形成可能であり、前記b)工程において、前記複数の吐出口列のうち少なくとも1つの吐出口列により前記複数サイズのうちの一のサイズのドットのみが形成され、他の吐出口列により少なくとも他の一のサイズのドットが形成される。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の印刷方法であって、前記他の吐出口列のそれぞれが、前記一のサイズを除くサイズのドットのみを形成する。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の印刷方法であって、前記一のサイズのドットが、前記複数サイズのうちの最大サイズのドットである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、印刷品質を向上することができる。また、請求項2、3、6および7の発明では、印刷品質をさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】インクジェットプリンタの構成を示す図である。
【図2】吐出口列を示す図である。
【図3】印刷用紙上のドットの形成位置を示す図である。
【図4】本体制御部の機能構成を示すブロック図である。
【図5】インクジェットプリンタが印刷を行う動作の流れを示す図である。
【図6】閾値マトリクスおよび元画像を抽象的に示す図である。
【図7】比較例のインクジェットプリンタによる印刷画像を示す図である。
【図8】インクジェットプリンタによる印刷画像を示す図である。
【図9】比較例のインクジェットプリンタによる印刷画像を示す図である。
【図10】比較例のインクジェットプリンタによる印刷画像を示す図である。
【図11】インクジェットプリンタによる印刷画像を示す図である。
【図12】インクジェットプリンタによる印刷画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の一の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1の構成を示す図である。インクジェットプリンタ1は、連続紙である印刷用紙9上に複数の色成分の画像を重ねて記録する画像記録装置である。インクジェットプリンタ1の本体12は、インクの微小液滴を印刷用紙9に向けて吐出するヘッドユニット2、ヘッドユニット2を図1中のX方向へと印刷用紙9に沿って移動するヘッド移動機構22、ヘッドユニット2の下方にてX方向に垂直なY方向へと印刷用紙9を移動する紙送り機構3、並びに、ヘッドユニット2、ヘッド移動機構22および紙送り機構3に接続される本体制御部4を備える。本体制御部4には、各種演算処理を行うCPUや各種情報を記憶するメモリ等を有するコンピュータ11が接続される。インクジェットプリンタ1では、本体12がコンピュータ11からの信号を受けて印刷用紙9上にハーフトーン画像(網点画像)を印刷する。
【0017】
紙送り機構3は、図示省略のモータに接続された2つのベルトローラ31、および、2つのベルトローラ31の間に掛けられたベルト32を有する。印刷用紙9は(−Y)側のベルトローラ31の上方に設けられたローラ33を介してベルト32上へと導かれて保持され、ベルト32と共にヘッドユニット2の下方を通過して(+Y)側へと移動する。
【0018】
ヘッド移動機構22には、X方向に細長い環状に設けられたタイミングベルト222が設けられ、モータ221がタイミングベルト222を往復移動することにより、印刷用紙9の送り方向(図1中のY方向であり、以下、「走査方向」ともいう。)に垂直かつ印刷用紙9に沿う方向(図1中のX方向であり、印刷用紙9の幅に対応する方向であるため、以下、「幅方向」という。)にヘッドユニット2が滑らかに移動する。
【0019】
ヘッドユニット2には、複数のヘッド21がY方向に配列されており、各ヘッド21は複数の色のインクのうち一の色のインクが吐出可能である。図2に示すようにヘッド21には、それぞれがインクの微小液滴を印刷用紙9に向けて(図1中の(−Z)方向に)吐出する複数の吐出口231が一定のサイズにて形成され、複数の吐出口231は印刷用紙9に平行な面(XY平面に平行な面)上に配置される。図2中のX方向におよそ沿う方向(幅方向から僅かに傾斜した方向であり、以下、「配列方向」という。)に並ぶ複数の吐出口231の集合を吐出口列23と呼ぶと、複数の(図2では4個の)吐出口列23が走査方向に配列される。各吐出口列23では、配列方向に一定のピッチ(例えば、180dpi(dot per inch)に相当する0.14ミリメートル(mm)のピッチ)にて吐出口231が配列される。なお、走査方向における吐出口列23間の距離は、配列方向における各吐出口列23内の吐出口231間の距離よりも十分に大きい。
【0020】
幅方向のみに着目した場合に、ヘッド21では、一の吐出口列23において隣接する2つの吐出口231の間には、他の各吐出口列23における一の吐出口231が配置される。したがって、各吐出口231からのインクの吐出タイミングを調整することにより、図3に示すように、走査方向(Y方向)の各位置において、ヘッド21に含まれる全ての吐出口231により(理想的には)幅方向に一列に並ぶ複数の位置91にドットが形成可能である。このように、インクジェットプリンタ1では、印刷用紙9上において幅方向の複数の位置が、ヘッド21に含まれる全ての吐出口231にそれぞれ対応付けられる。なお、吐出口列23の幅方向に対する傾斜は僅かであるため、各吐出口列23において互いに隣接する吐出口231におけるインクの吐出タイミングの相違は僅かである。
【0021】
ヘッド21では、各吐出口231に対して圧電素子が設けられており、互いに異なる波形の駆動信号を用いて圧電素子を駆動することにより、当該吐出口231から異なる量のインクの微小液滴が吐出可能である。すなわち、各吐出口231は、異なる駆動信号の入力により複数サイズのドットを印刷用紙9上に形成可能である。なお、ヘッド21は、いわゆるサーマル方式にてインクを吐出するものであってもよい。
【0022】
実際には、ヘッド21の長手方向に沿って各吐出口列23の複数の吐出口231が並んでおり、ヘッド21の長手方向を幅方向に対して僅かに傾けてヘッド21をヘッドユニット2に取り付けることにより、図2に示す吐出口231の配列が実現される。また、各吐出口列23における複数の吐出口231は幅方向に関して印刷用紙9上の印刷領域の全体に亘って(すなわち、印刷用紙9の有効印刷領域以上の範囲にて)設けられる。なお、ヘッド21は必ずしも1つの部材にて構成される必要はなく、例えば、複数のヘッド要素部材を幅方向および走査方向に配列することにより、印刷領域の幅全体に亘って複数の吐出口231が並ぶ複数の吐出口列23が走査方向に配列されてもよい。
【0023】
インクジェットプリンタ1における非印刷時には、ヘッド移動機構22によりヘッドユニット2は所定の退避位置に配置され、退避位置において複数の吐出口231が蓋部材にて閉塞されることにより、吐出口近傍のインクが乾燥して吐出口231が詰まることが防止される。本実施の形態では、説明の便宜上、ヘッドユニット2がブラック、シアン、マゼンタおよびイエローのインクを吐出するものとするが、もちろん、インクジェットプリンタ1はライトシアン等の他の色成分のインクも吐出するものであってもよい。
【0024】
図4は、本体制御部4の機能構成を示すブロック図である。本体制御部4は、カラーの元画像のデータを記憶する画像メモリ41、複数の色成分の閾値マトリクスをそれぞれ記憶するメモリである複数のマトリクス記憶部42(SPM(Screen Pattern Memory)とも呼ばれる。)、多階調の元画像と閾値マトリクスとを色成分毎に比較する比較器43(すなわち、ハーフトーン化回路)、印刷用紙9のヘッドユニット2に対する相対移動を制御する移動制御部45、および、印刷用紙9の相対移動に同期して各ヘッド21の複数の吐出口231からのインクの吐出を制御する吐出制御部44を備える。なお、図4では、図示の都合上、1つのヘッド21のみを示している。
【0025】
次に、インクジェットプリンタ1が印刷を行う動作について図5を参照しつつ説明する。インクジェットプリンタ1にて印刷が行われる際には、まず、実際の印刷に用いられる閾値マトリクスがコンピュータ11から本体制御部4に出力され(予め出力されていてもよい。)、マトリクス記憶部42に記憶されて準備される(ステップS11)。なお、以下の説明ではブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの4つの色に対してそれぞれ準備される4つの閾値マトリクスのうち一の色用の閾値マトリクスのみについて着目するが、他の色用の閾値マトリクスについても同様のデータ構造となり、同様に取り扱われる。
【0026】
図6は閾値マトリクス81および元画像70を抽象的に示す図である。閾値マトリクス81は、幅方向に対応する行方向(図6中にてx方向として示す。)、および、走査方向に対応する列方向(図6中にてy方向として示す。)に複数の要素が配列された2次元配列である。また、閾値マトリクス81における行方向の位置の数(すなわち、行方向に並ぶ要素数)はヘッドユニット2の各ヘッド21に含まれる複数の吐出口231と同数であり、行方向の複数の位置は複数の吐出口231にそれぞれ対応付けられる。なお、閾値マトリクスの詳細については後述する。
【0027】
続いて、画像データ生成部である図4の比較器43では、各色成分に関して画像メモリ41にて記憶される元画像70と、マトリクス記憶部42にて記憶される閾値マトリクス81とを比較することにより、元画像70がハーフトーン化され、インクジェットプリンタ1における印刷にて用いられるハーフトーン画像のデータ(以下、単に「ハーフトーン画像」とも呼ぶ。)が生成される(ステップS12)。
【0028】
元画像70では、幅方向に対応する方向(以下、閾値マトリクス81と同様に行方向と呼ぶ。)に関して画素数が閾値マトリクス81の行方向の位置の数と同数であり(または、同数となるように元画像70が変換されており)、元画像70は走査方向に対応する方向(以下、閾値マトリクス81と同様に列方向と呼ぶ。)に分割されて、ハーフトーン化の単位となる繰り返し領域71(図6中において太線にて示す。)が設定される。このとき、繰り返し領域71の列方向の長さは、閾値マトリクス81の列方向の長さと同じであり、1つの繰り返し領域71に含まれる複数の画素が、閾値マトリクス81の複数の要素にそれぞれ対応する。
【0029】
元画像のハーフトーン化の際には、元画像の繰り返し領域71内の各画素の画素値(画素の階調レベル)と閾値マトリクス81の対応する要素の閾値とが比較されることにより、ハーフトーン画像におけるその画素の位置(アドレス)の画素値が決定される。詳細には、閾値マトリクス81の各要素は、Mサイズのドット形成用の閾値、および、Mサイズよりも大きいLサイズのドット形成用の閾値を有する。そして、図6に示す元画像70(の一部)において、画素値が閾値マトリクス81の対応する要素におけるLサイズのドット用の閾値よりも大きい位置には、例えば、画素値「2」が付与され、Mサイズのドット用の閾値よりも大きい位置には、例えば、画素値「1」が付与され、残りの画素には画素値「0」が付与される。なお、画素値が、Lサイズのドット用の閾値およびMサイズのドット用の閾値の双方よりも大きい位置には、画素値「2」が付与される。
【0030】
このようにして、本体制御部4では、元画像70が閾値マトリクス81を用いてハーフトーン化され、後述する印刷時における複数の吐出口231からのインクの吐出量を示すハーフトーン画像データが生成される。なお、上記処理は、Mサイズのドット形成用の閾値マトリクス、および、Lサイズのドット形成用の閾値マトリクスと元画像との比較と捉えられてもよい。
【0031】
図1のインクジェットプリンタ1では、元画像70において最初に印刷される部分(例えば、最も(+y)側の繰り返し領域71)のハーフトーン画像データが各色に対して生成されると、移動制御部45が、紙送り機構3を駆動することにより印刷用紙9の走査方向への移動が開始され(ステップS13)、印刷用紙9の移動に並行して、各ヘッド21に含まれる複数の吐出口231からのインクの吐出制御が吐出制御部44により行われる(ステップS14)。
【0032】
ここで、ハーフトーン画像は印刷用紙9上に印刷される画像であるため、ハーフトーン画像の複数の画素は印刷用紙9上に配列して設定されていると捉えることができる。吐出制御部44では、ヘッド21の印刷用紙9に対する相対移動に同期して、各吐出口231の印刷用紙9上の吐出位置に対応するハーフトーン画像の画素値が「2」である場合には当該吐出位置にLサイズのドットが形成され、ハーフトーン画像の画素値が「1」である場合には当該吐出位置にMサイズのドットが形成され、ハーフトーン画像の画素値が「0」である場合には当該吐出位置にはドットは形成されない。このようにして、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれのヘッド21に関して、各吐出口231の印刷用紙9上の吐出位置に対応するハーフトーン画像の画素値に従って、当該吐出口231からのインクの吐出が制御される。これにより、印刷用紙9上にカラーの元画像を表現するカラーのハーフトーン画像(印刷画像)が印刷される。印刷用紙9上にハーフトーン画像の全体が印刷されると、印刷用紙9の移動が停止し、インクジェットプリンタ1における印刷動作が終了する(ステップS15)。
【0033】
次に、インクジェットプリンタ1における印刷時に用いられる閾値マトリクス81を生成する処理について述べる。閾値マトリクス81を生成する際には、例えば、所定のスクリーン用の閾値配列を、ヘッド21における複数の吐出口231の数に合わせて、行方向に繰返し並べたものが基礎マトリクスとして準備される。基礎マトリクスは、閾値マトリクス81と同じサイズであり、各要素はMサイズのドット用の閾値、および、Lサイズのドット用の閾値を有する。なお、閾値配列としては、規則的に配列されたドットセンタからドット領域が成長することにより階調表現が実現されるAM(Amplitude Modulated)スクリーン用の閾値配列や、ドットセンタが不規則に配列される、いわゆる、クラスタ型のスクリーン用の閾値配列、あるいは、不規則に配置される一定の大きさのドット領域の個数を変更することにより階調表現が実現されるFM(Frequency Modulated)スクリーン用の閾値配列等、様々な閾値配列が用いられてよい。
【0034】
続いて、基礎マトリクスにおいて、例えば行方向の一端から他端に向かって、行方向の全ての位置に1から昇順の番号を付し、行方向の番号が偶数となる全ての要素におけるMサイズのドット用の閾値が、元画像における階調範囲の最大の画素値(例えば、元画像が0〜255の階調範囲にて表現される場合には、255)に変更される。また、行方向の番号が奇数となる全ての要素におけるLサイズのドット用の閾値が、元画像における階調範囲の最大の画素値に変更される。これにより、インクジェットプリンタ1における印刷動作にて用いられる閾値マトリクス81が生成される。
【0035】
既述のように、図2のヘッド21では、幅方向のみに着目した場合に、各吐出口列23において隣接する2つの吐出口231の間に、他の各吐出口列23における一の吐出口231が配置される。したがって、閾値マトリクス81において、行方向の番号が(4N+1)(ただし、Nは0以上の整数)となる全ての要素が一の吐出口列23に含まれる吐出口231からのインクの吐出量の決定に用いられる。すなわち、行方向の番号が(4N+1)となる全ての要素が一の吐出口列23に対応する。同様に、行方向の番号が(4N+2)番となる全ての要素が他の一の吐出口列23に対応し、行方向の番号が(4N+3)番となる全ての要素がさらに他の一の吐出口列23に対応し、行方向の番号が(4N+4)番となる全ての要素が残りの一の吐出口列23に対応する。よって、行方向の番号が偶数となる全ての要素は、2つの吐出口列23(以下、「第1吐出口列群」という。)のいずれかに対応し、行方向の番号が奇数となる全ての要素は、残りの2つの吐出口列23(以下、「第2吐出口列群」という。)のいずれかに対応する。
【0036】
元画像のハーフトーン化では、元画像における画素値が閾値マトリクス81の対応する要素におけるMサイズのドット用の閾値よりも大きい位置に画素値「1」が付与される。また、既述のように、行方向の番号が偶数となる要素には、Mサイズのドット用の閾値として、元画像における階調範囲の最大の画素値が付与される。したがって、行方向の番号が偶数となる要素に対応するハーフトーン画像中の画素に、画素値「1」が付与されることはない。よって、ハーフトーン画像に基づく吐出制御部44の制御により、第1吐出口列群に含まれる吐出口231が、Mサイズのドットを印刷用紙9上に形成することはなく、Lサイズのドットのみを形成する。同様に、行方向の番号が奇数となる要素に対応するハーフトーン画像中の画素に、画素値「2」が付与されることはないため、第2吐出口列群に含まれる吐出口231が、Lサイズのドットを印刷用紙9上に形成することはなく、Mサイズのドットのみを形成する。
【0037】
ここで、図2と同様のヘッド21を有する比較例のインクジェットプリンタについて述べる。比較例のインクジェットプリンタでは、元画像のハーフトーン化において上記基礎マトリクスが用いられる。したがって、印刷用紙上にて幅方向に一列に並ぶ複数の位置へのインクの吐出の際に、比較例のインクジェットプリンタにおける各吐出口列では、元画像と基礎マトリクスとの比較結果に従ってMサイズのドットを形成する吐出口と、Lサイズのドットを形成する吐出口とが混在する。このように、各吐出口列内の複数の吐出口が異なるサイズのドットをおよそ同時に形成する場合、図7に示す印刷画像(ここでは、線画像)のように、意図しない多くのサテライト液滴が生じてしまい、印刷画像の質(すなわち、印刷品質)が低下してしまう。なお、各吐出口列内の複数の吐出口が異なるサイズのドットを形成する場合に、このような多くのサテライト液滴が生じる原因は明らかではないが、異なる駆動信号の混在による影響(吐出口間の干渉であるクロストーク)が一因として考えられる。
【0038】
図8は、インクジェットプリンタ1により印刷用紙9上に形成される印刷画像を示す図である。閾値マトリクス81を用いて生成されたハーフトーン画像に基づく図8の印刷画像では、図7の印刷画像に比較して、サテライト液滴等の発生が低減され、シャープな線が形成される。
【0039】
以上に説明したように、インクジェットプリンタ1では、吐出制御部44の制御により、複数の吐出口列23のうちの一部の吐出口列23により複数サイズのうちの一のサイズのドットのみが形成され、他の吐出口列23により他の一のサイズのドットのみが形成される。このように、各吐出口列23内の複数の吐出口231が一のサイズのドットのみを形成することにより、サテライト液滴等の発生を低減して印刷品質を向上することができる。
【0040】
なお、上記基礎マトリクスを用いて印刷された印刷画像に比べて、閾値マトリクス81を用いて印刷された印刷画像では濃度が低下するため、閾値マトリクス81において行方向の番号が偶数となる要素におけるLサイズのドット用の閾値を一定値だけ低くし、行方向の番号が奇数となる要素におけるMサイズのドット用の閾値を一定値だけ低くして、印刷画像における濃度が調整されてもよい。また、インクジェットプリンタ1では、行方向の要素数が吐出口列23の個数の整数倍であり、かつ、元画像の行方向の画素数よりも少ない閾値マトリクスが準備され、元画像のハーフトーン化において、この閾値マトリクスを、行方向に繰返し適用することにより、各吐出口列23に一のサイズのドットのみを形成させるハーフトーン画像が生成されてもよい。
【0041】
上記処理例において、例えば、第1吐出口列群によりLサイズのドットのみが形成され、第2吐出口列群によりMサイズおよびLサイズのドットが形成されてもよい。この場合も、第1吐出口列群が一のサイズのドットのみを形成することにより、印刷品質をある程度向上することができる。以上のように、インクジェットプリンタ1では、複数の吐出口列23のうち一部の吐出口列23が複数サイズのうちの一のサイズのドットのみを形成し、他の吐出口列23が少なくとも他の一のサイズのドットを形成すればよい。
【0042】
ところで、各吐出口列23内の複数の吐出口231が同一サイズのドットのみを形成する場合であっても、全ての吐出口列23が同一サイズのドットを形成するときには、印刷品質が僅かに低下することがある。例えば、印刷用紙9上において所定の間隔を空けて幅方向に並ぶドットの各列を、Lサイズのドットのみを形成する全ての吐出口列23を用いて形成すると、図9に示すように、一の列に含まれるドットの位置が走査方向(図9中の縦方向)に僅かにばらつく(すなわち、幅方向に伸びる線が曲がる)ことがある。したがって、全ての吐出口列23がLサイズのドットのみを形成しつつ記録した図10に示す印刷画像(線画像)では、幅方向(図10の横方向)に線状に伸びる部分(図10中にて符号B1を付す部分)において僅かな乱れが生じている。なお、全ての吐出口列23がLサイズのドットのみを形成する際に印刷品質が低下する理由は明らかではない。
【0043】
既述のように、例えば、第1吐出口列群によりLサイズのドットのみを形成し、第2吐出口列群によりMサイズおよびLサイズのドットを形成する場合、印刷する画像によっては、Lサイズのドットが大半となり、図10に示す印刷画像と類似の現象が生じる可能性がある。
【0044】
一方、印刷用紙9上において所定の間隔を空けて幅方向に並ぶドットの各列を、Lサイズのドットのみを形成する一の吐出口列23のみにより形成する場合には、図11に示すように、一の列に含まれるドットの位置のばらつきが抑制される。なお、図11では、ドットの形成に使用する吐出口列23を3列毎に切り換えている。したがって、上記実施の形態のように、複数の吐出口列23のうちLサイズのドットを形成する吐出口列23を第1吐出口列群に限定し、残りの吐出口列23(第2吐出口列群)は、Mサイズのドットのみを形成することにより、図10と同様の文字を記録した図12の印刷画像では、幅方向に線状に伸びる部分(図12中にて符号B2を付す部分)における乱れが抑制される。全ての吐出口列23がMサイズのドットを形成する際に印刷品質が低下する場合も同様である。
【0045】
以上のように、全ての吐出口列23が一のサイズのドットのみを形成する場合に印刷品質が低下するときには、当該サイズのドットを形成する吐出口列23を制限することが好ましい(当該サイズのドットを間引いていると捉えることもできる。)。換言すれば、複数の吐出口列23のうち一部の吐出口列23が当該サイズのドットのみを形成し、他の吐出口列23のそれぞれが、当該サイズを除くサイズのドットのみを形成することが好ましく、これにより、液滴の飛翔曲がり等を抑制して印刷品質をさらに向上することができる(各吐出口231がSサイズ、MサイズおよびLサイズのドットを形成可能である後述の例において同様)。
【0046】
インクジェットプリンタ1の各吐出口231では、MサイズおよびLサイズのドットに加えて、これらのサイズよりも小さいSサイズのドットが形成可能であってもよい。この場合、例えば、上記基礎マトリクスの各要素が、Sサイズのドット用の閾値、Mサイズのドット用の閾値、および、Lサイズのドット用の閾値を有する。そして、第1吐出口列群に対応する全ての要素におけるSサイズのドット用の閾値、および、Mサイズのドット用の閾値が、元画像における階調範囲の最大の画素値に変更され、第2吐出口列群に対応する全ての要素におけるLサイズのドット用の閾値が、元画像における階調範囲の最大の画素値に変更され、閾値マトリクスが生成される。
【0047】
閾値マトリクスを用いて生成されるハーフトーン画像に基づく吐出制御部44の制御では、第1吐出口列群に含まれる吐出口231が、SサイズおよびMサイズのドットを印刷用紙9上に形成することはなく、Lサイズのドットのみを形成する。また、第2吐出口列群に含まれる吐出口231が、Lサイズのドットを印刷用紙9上に形成することはなく、SサイズおよびMサイズのドットのみを形成する。これにより、質の高い印刷画像を印刷用紙9上に形成することが可能となる。
【0048】
なお、要求される印刷品質によっては、第2吐出口列群により、Sサイズ、MサイズおよびLサイズのドットが形成されてもよい。また、Lサイズのドットのみを形成する吐出口列23に加えて、Sサイズのドットのみを形成する吐出口列23や、Mサイズのドットのみを形成する吐出口列23、あるいは、SサイズおよびLサイズのドットのみを形成する吐出口列23や、MサイズおよびLサイズのドットのみを形成する吐出口列23が、ヘッド21の複数の吐出口列23に含まれてもよい。さらに、各吐出口231において4種類以上のサイズのドットが形成可能であってもよい。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0050】
上記実施の形態では、一のサイズのドットのみを形成する2個の吐出口列23が設定されるが、一のサイズのドットのみを形成する1個の吐出口列23、または、3個以上の吐出口列23が設定されてもよい。すなわち、インクジェットプリンタ1では、複数の吐出口列23のうち少なくとも1つの吐出口列23が複数サイズのうちの一のサイズのドットのみを形成し、他の吐出口列23が少なくとも他の一のサイズのドットを形成することが重要となる。
【0051】
上記実施の形態において、複数の吐出口列23のうち少なくとも1つの吐出口列23によりMサイズ(またはSサイズ)のドットのみが形成され、他の吐出口列23により少なくとも他の一のサイズのドットが形成されてもよい。ただし、複数サイズのうちの最大サイズのドットは印刷品質への影響が大きいため、印刷品質をさらに向上するという観点では、複数の吐出口列23のうち少なくとも1つの吐出口列23により最大サイズのドットのみが形成され、他の吐出口列23により少なくとも他の一のサイズのドットが形成されることが好ましい。
【0052】
少なくとも1つの吐出口列23に一のサイズのドットのみを形成させ、他の吐出口列23に少なくとも他の一のサイズのドットを形成させる制御は、閾値を変更した閾値マトリクス81を用いる手法以外により実現されてもよい。例えば、基礎マトリクスを用いてハーフトーン画像を生成し、当該ハーフトーン画像に従って各吐出口231に対する駆動信号を生成する際に、少なくとも1つの吐出口列23が一のサイズのドットのみを形成し、他の吐出口列23が少なくとも他の一のサイズのドットを形成するように、吐出制御部44により各吐出口231に入力される駆動信号が変更されてもよい。
【0053】
インクジェットプリンタ1では、印刷用紙9上における走査方向の各位置において幅方向に並ぶドットの列が全ての吐出口列23を用いて形成されるが、例えば、図2のヘッド21における(−Y)側の2つの吐出口列23と(+Y)側の2つの吐出口列23とにより、ドットの列が走査方向に交互に形成されてもよい。この場合、走査方向に隣接するドットの列において、幅方向におけるドットの位置が互いに相違する。もちろん、(−Y)側の2つの吐出口列23における吐出口231と、(+Y)側の2つの吐出口列23における吐出口231とを幅方向の同位置に配置することにより、走査方向に隣接するドットの列において、幅方向におけるドットの位置が一致してもよい。
【0054】
ヘッド21における吐出口列23の個数は2以上である限り、任意に決定されてよい。また、各吐出口列23において複数の吐出口231が幅方向に平行に配列されてもよく、複数の吐出口231は走査方向に交差する方向に配列されていればよい。
【0055】
インクジェットプリンタ1では、走査機構である紙送り機構3により印刷用紙9がヘッド21に対して走査方向に移動するが、ヘッド21をY方向に移動する走査機構が設けられてもよい。また、印刷用紙9がローラにて保持され、当該ローラを回転するモータにより印刷用紙9がヘッド21に対して走査方向に移動してもよい。このように、印刷用紙9をヘッド21に対して相対的に走査方向に移動する走査機構は様々な構成にて実現可能である。
【0056】
インクジェットプリンタは、枚葉の印刷用紙に画像を印刷するものであってもよい。例えば、ステージ上に印刷用紙を保持するインクジェットプリンタにおいて、幅方向に関して、複数の吐出口が配列される幅が印刷用紙の印刷領域よりも狭くされるとともに、ヘッドを走査方向および幅方向に印刷用紙に対して相対的に移動する走査機構が設けられる。そして、ヘッドがインクを吐出しつつ走査方向に相対移動(主走査)し、印刷用紙の端部へと到達した後に幅方向に所定距離だけ相対移動(副走査)し、その後、ヘッドがインクを吐出しつつ走査方向の直前の主走査とは逆向きに相対移動する。このように、上記インクジェットプリンタでは、ヘッドが印刷用紙に対して走査方向に主走査するとともに、主走査が完了する毎に、幅方向に間欠的に副走査することにより、印刷用紙の全体に画像が印刷される。
【0057】
インクジェットプリンタ1における印刷の対象物は、印刷用紙9以外にプラスチック等にて形成される板状またはフィルム状の基材等であってもよい。
【0058】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0059】
1 インクジェットプリンタ
3 紙送り機構
9 印刷用紙
21 ヘッド
23 吐出口列
44 吐出制御部
231 吐出口
S13〜S15 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットプリンタであって、
それぞれが複数の吐出口を所定の走査方向に交差する方向に配列して有する複数の吐出口列が前記走査方向に配列されたヘッドと、
前記走査方向へと対象物を前記ヘッドに対して相対的に移動する走査機構と、
前記対象物の前記ヘッドに対する相対移動に並行して、前記ヘッドからのインクの吐出制御を行う吐出制御部と、
を備え、
前記複数の吐出口のそれぞれが、前記吐出制御部による異なる駆動信号の入力により複数サイズのドットを前記対象物上に形成可能であり、
前記吐出制御部の制御により、前記複数の吐出口列のうち少なくとも1つの吐出口列が前記複数サイズのうちの一のサイズのドットのみを形成し、他の吐出口列が少なくとも他の一のサイズのドットを形成することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタであって、
前記他の吐出口列のそれぞれが、前記一のサイズを除くサイズのドットのみを形成することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェットプリンタであって、
前記一のサイズのドットが、前記複数サイズのうちの最大サイズのドットであることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のインクジェットプリンタであって、
前記複数の吐出口のそれぞれに対し圧電素子が設けられることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項5】
インクジェットプリンタにおける印刷方法であって、
a)それぞれが複数の吐出口を所定の走査方向に交差する方向に配列して有する複数の吐出口列が前記走査方向に配列されたヘッドに対して、前記走査方向へと対象物を相対的に移動する工程と、
b)前記a)工程に並行して、前記ヘッドからのインクの吐出制御を行う工程と、
を備え、
前記複数の吐出口のそれぞれが、異なる駆動信号の入力により複数サイズのドットを前記対象物上に形成可能であり、
前記b)工程において、前記複数の吐出口列のうち少なくとも1つの吐出口列により前記複数サイズのうちの一のサイズのドットのみが形成され、他の吐出口列により少なくとも他の一のサイズのドットが形成されることを特徴とする印刷方法。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷方法であって、
前記他の吐出口列のそれぞれが、前記一のサイズを除くサイズのドットのみを形成することを特徴とする印刷方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の印刷方法であって、
前記一のサイズのドットが、前記複数サイズのうちの最大サイズのドットであることを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−71311(P2013−71311A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211785(P2011−211785)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】