説明

インクジェットプリンタ

【課題】記録媒体の縁に塗り残しが発生することのない印刷が可能なインクジェットプリンタを提供することを課題とする。
【解決手段】記録媒体に対し、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、記録媒体を搬送する記録媒体搬送手段221と、印刷ヘッドを往復移動させるヘッドキャリッジ手段202と、記録媒体の縁端より外側に外れて吐出された印刷ヘッドのインクを、記録媒体より下側の位置で受けるインク回収手段211と、記録媒体における搬送方向の縁端より外側に外れる位置まではみ出して設定された印刷範囲に基づいて、記録媒体への印刷を実行させる印刷駆動制御手段100と、印刷ヘッドの対向位置において記録媒体を支持するガイドリブ214と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式の印刷ヘッドを備えたプリンタに関するものである。さらに詳しくは、本発明はテープ等の記録媒体の表面を隙間なく塗りつぶすことの可能なインクジェットプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタとしては各種のものが知られている。これらのプリンタは、規定の記録媒体サイズに対し、印刷できる範囲が個々に設定されており、通常、印刷範囲は、記録媒体サイズから若干内側の範囲内に収まるように、上、下、右、左マージンとして規定されている。各マージンは約3乃至13mmの範囲内の値に設定されている。従って、記録媒体の縁端まで印刷可能な仕様のものは提案されていない。
【0003】
また、インクジェットプリンタとしては、記録媒体としての各色のテープに対してカラー印刷するように構成された小型プリンタが提案されている。この形式の小型のインクジェットプリンタは、インクジェット式の印刷ヘッドに対して、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の各色のインクタンクからインクを供給することにより、テープ上にカラー印刷を行うことができる。
【0004】
テープとしては、テープ裏面側には粘着層が形成され、その粘着層が剥離紙により覆われていて、印刷後に切断して一定の長さとし、剥離紙を剥がすことにより、希望する場所にラベルとして貼り付けることができるものがある。このようなテープへの印刷を行うプリンタは、ラベルプリンタ、ラベルワープロ等と呼ばれ、近年市場に出回っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このインクジェットプリンタを用いて、記録媒体、例えばテープに隙間なく塗り潰すような印刷(ベタ塗り印刷)を行なった場合は、テープの縁端(例えば幅方向)に塗り残りができることがあるという問題点がある。
【0006】
すなわち、印刷ヘッドを例えばテープの幅方向に往復移動させてテープ幅方向の縁端に塗り残りをなくすようにベタ塗り印刷を行なうとすれば、テープの幅方向の印刷開始側の縁端に合わせて印刷ヘッドによる印刷動作を開始し、同じくテープの幅方向の印刷終了側の縁端に合わせて印刷動作を停止する必要がある。
【0007】
しかし、印刷ヘッドを駆動してその印刷開始位置において正確に印刷を開始し、あるいは印刷停止位置において正確に印刷を停止することは一般的に困難である。テープの搬送位置が幅方向に僅かにずれたり、あるいは、印刷ヘッドの往復移動とそのインク滴の吐出動作のずれ等の影響があるためである。
【0008】
正確な印刷動作を実現できないと、例えば、印刷動作の開始が、印刷ヘッドがテープの縁端に位置した時点よりも遅れると、テープの幅方向の縁の部分に塗り残りが発生してしまう。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、テープ等の記録媒体の縁に塗り残しが発生することなく、記録媒体の縁端の一部、全幅、全長あるいは全面を隙間無く塗りつぶす印刷(以下において、このような印刷動作を「ベタ塗り印刷」として総称するものとする。)を行うことの可能なインクジェットプリンタを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のインクジェットプリンタは、一方向に搬送されてゆく記録媒体に対し、その搬送方向に直交する方向に往復移動する印刷ヘッドにより、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、記録媒体を搬送する記録媒体搬送手段と、印刷ヘッドを搭載すると共に印刷ヘッドを往復移動させるヘッドキャリッジ手段と、記録媒体の縁端より外側に外れて吐出された印刷ヘッドのインクを、記録媒体より下側の位置で受けるインク回収手段と、記録媒体搬送手段、ヘッドキャリッジ手段および印刷ヘッドを制御し、記録媒体における搬送方向の縁端より外側に外れる位置まではみ出して設定された印刷範囲に基づいて、記録媒体への印刷を実行させる印刷駆動制御手段と、を備え、記録媒体が印刷ヘッドの対向位置においてガイドリブに支持されると共に、記録媒体における搬送方向の縁端がインク回収手段に対向するタイミングで、縁端の外側に設定された印刷範囲に係るインクの吐出を許容することを特徴とする。
(作用)
【0011】
例えば、本発明のインクジェットプリンタにより記録媒体の幅方向あるいは長さ方向を隙間無く塗りつぶすべた塗り印字を行う場合には、印刷駆動制御手段によって、記録媒体の幅あるいは長さよりも広い印刷範囲が設定される。従って、印刷ヘッドによる印刷が、搬送される記録媒体の印刷開始側の縁端に到る前から開始され、記録媒体の印刷終了側の縁端を通過した後の時点で終了するように行われる。印刷の開始位置を印刷開始側の縁端よりも充分な距離だけ手前の位置とし、印刷終了位置を印刷終了側の縁端から充分な距離だけ通過した位置にすることにより、記録媒体の幅方向および長手方向の縁端に塗り残こしの状態が発生することはない。
【0012】
ここで、記録媒体の手前およびその通過後における印刷動作時に印刷ヘッドから吐出したインク滴は、インク回収手段によって回収される。したがって、このようなはみ出し印刷時に吐出したインク滴が、例えば印刷ヘッドに対向配置されている案内部材の表面に付着して、後続の記録媒体を汚してしまう等の弊害を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した実施例1のインクジェットプリンタの外観斜視図である。
【図2】図1のプリンタをII−II線で切断した部分の概略断面図である。
【図3】図1のプリンタの主要部分の構成を示す概略構成図である。
【図4】図1のインクジェットプリンタの主要部分を上側から見た状態の構成を示す概略構成図である。
【図5】図1のプリンタの紙案内のみを取り出して示す構成図である。
【図6】図1のインクジェットプリンタの制御系を示す概略構成図である。
【図7】本発明の実施例2のインクジェットプリンタの主要部分の構成を示す概略構成図である。
【図8】図7のプリンタのインク回収容器を取り出して示す構成図である。
【図9】図7のプリンタの印刷動作を説明するための説明図である。
【図10】図7のプリンタの変形例であるインクジェットプリンタの主要部分を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
(第1の実施例)
【0015】
図1は本発明を適用したインクジェットプリンタの外観斜視図であり、図2はそのII−II線で切断した部分の概略断面図である。本例のインクジェットプリンタ1は、例えば、裏面側に剥離紙で覆われた粘着層を備えたテープの表面に印刷を行う「ラベルプリンタ」、「ラベルワープロ」等と呼ばれている形式のものである。
【0016】
図1および図2を参照して説明すると、インクジェットプリンタ1は、全体として薄い直方体形状のケーシング101を有しており、その上面の前側半分の部分が操作面102となっている。ここには、各種のキーが配列されており、印刷動作を指示するための印刷ボタン103、電源ボタン104等も含まれている。ケーシング101の後側半分の部分には、開閉蓋105が取付けられている。この開閉蓋105は操作面102の側からみて内部が開放されるようにその後端を中心として開閉することができ、操作面102に配列された蓋開閉ボタン106を操作することによりそのロックを解除して開けることができる。
【0017】
この蓋105を開けると、内部には後述するテープカートリッジ3の装着部23が形成されている。したがって、この蓋を開くことにより、テープカートリッジ3の着脱を行うことができる。蓋105には透明の窓105aが取付けられており、ここを介して、テープカートリッジ3の装着の有無を確認することができる。この蓋105の隣接位置には、操作面102のキーを介して入力した文字情報等を表示するための液晶表示部107が配置されている。
【0018】
一方、ケーシング101の裏側側面101aには、テープ排出口101bが形成されており、印刷後のテープがここを介して外部に排出されるようになっている。ここから排出されるテープは、テープ排出用ガイド板108によって案内される。なお、操作面102の裏面側におけるケーシング101の内部には、電源ユニット112、ニッカド電池等の電池113等が搭載されている。
【0019】
次に、図3には、ケーシング101内に搭載されているインクジェットプリンタ1の主要部分の概略構成を示してある。図において、2は各部品を搭載するためのベースであり、ケーシング101の底板上に取付けられている。この上には、テープカートリッジ3、3個のインクタンク4(4C、4M、4Y)、およびインクジェト式の印刷ヘッド5が配置されている。印刷ヘッド5はヘッドキャリッジ6に担持されており、ヘッドキャリッジ6は、ベース2の左右両側壁21、22の間に架け渡したリードねじ7によって支持されている。キャリッジ6は、リードねじ7と平行に配置されたガイド軸(図示せず)によって回転不可の状態で左右(リードねじの軸線方向)に移動自在に支持されている。したがって、リードねじ7を回転することにより、ヘッドキャリッジ6およびそこに担持されている印刷ヘッド5を図において矢印A、Bで示す左右方向(第1の方向)に往復移動させることができる。
【0020】
印刷ヘッド5の移動範囲の中央には、印刷ヘッド5に対向する状態にテープ案内部材8が配置されている。このテープ案内部材8は、サーマルプリンタ等の他の印刷形式の印刷ヘッドに対向配置されているプラテンに対応する部材であり、印刷ヘッド5による印刷位置を規定している。
【0021】
ここで、本例では、この案内部材8によってインク回収手段が構成されている。図5に示すように、本例の案内部材8の表面はインクを吸収通過可能な長方形のインクフィルタ81によって形成されている。このインクフィルタ81は、例えばステンレススチール製のメッシュフィルタから構成することができる。このインクフィルタ81は、インク吸収材から構成した直方体形状のインク吸収部82の表面に取付けられている。したがって、案内部材8の表面に付着したインクはインクフィルタ81を通って、インク吸収体82の側に吸収される。
【0022】
再び図3において、この案内部材8よりも側壁22の側の位置には、ヘッドキャップ機構9が配置されている。このヘッドキャップ機構9は、印刷ヘッド5の印刷時の往復移動範囲よりも外側に外れた位置にある。印刷ヘッド5は不使用状態においては、ヘッドキャップ機構9の位置まで移動して、このキャップ機構9のキャップ面91によって封鎖された状態に保持される。テープカートリッジ3の側方位置には、印刷開始前等において、インクタンク4から印刷ヘッド5に対して手動により強制的にインクを供給するためのインクポンプ11が配置されている。
【0023】
次に、図4には、図3のインクジェットプリンタ1の主要構成部分を上から見た場合の配置構成を示してある。この図も参照して、本例のインクジェットプリンタ1の主要部分の構成を詳しく説明する。
【0024】
まず、テープカートリッジ3は、一定の厚さのケース31と、この中に回転自在に収容されている芯軸32と、この外周に巻き取られている一定の幅W1のテープTを有している。ケース31の前端面の上半部分は前方に突き出ており、この部分には、PETフィルムから形成されたテープガイド33と、この表面に一定の弾性力で押しつけられたテープ押さえローラ34から構成されるテープ繰り出し部とが形成されている。テープTの先端は、これらの間に挟まれた状態に初期設定される。テープ押さえローラ34の支持部材35は、コイルばね36を介して、テープガイド33に対して上下に移動可能な状態でケース31の側に支持されている。また、この支持部材35はレバー37に連結されている。このレバー37は、ケース31の上面から外部に突き出た先端面37aを有している。この先端面37aを押し込むと、これに連動して、テープ押さえローラ34がテープガイド33の側に押しつけられる。さらに、ケース31の上面には、内蔵のテープTの幅寸法を表示するための6個の表示部38が形成されている。
【0025】
この構成のテープカートリッジ3が着脱可能に装着されるインクジェットプリンタ本体の側には、これを装着するための装着部23が形成されている。この装着部23において、テープカートリッジ3のテープ繰り出し部を規定しているテープガイド33の直下となる位置には、テープ送りローラ12が配置されている。このローラ12は大径部分と小径部分とが交互に形成された形状をしている。また、テープカートリッジ3の直上には、前述したように、この装着部23に対してテープカートリッジを着脱するための開閉蓋105が取付けられている。
【0026】
このように本例では、記録媒体供給源が、テープTが収納されたテープカートリッジ3とこれが装着されている装着部23とによって基本的に構成される。
【0027】
図2から分かるように、この開閉蓋105には、これを閉じたときに、テープカートリッジの上面から突き出ているレバー37の先端面37aを押し込み可能な押し込み部105bが形成されている。また、テープカートリッジ3のケース上面に形成されているテープ幅寸法を表示するための表示部38に対峙する開閉蓋105には、これらを検知するための検知部105cが形成されている。
【0028】
次に、テープカートリッジ3から繰り出されるテープTの搬送路を説明する。テープTはテープ送りローラ12を回転することにより繰り出される。このテープ送りローラ12における小径部分の外周に接した状態で、PETフィルムからなる複数枚のテープガイド片13が配置されている。これらのテープガイド片13によって、テープTの先端が確実に搬送方向の前方側に向けて案内される。これらのテープガイド片13の搬送方向の前方側には、ステンレススチール製のテープガイド14が配置されている。このガイド14と、これに対峙させたガイド15によって、テープTは印字位置に向けて案内される。印刷位置は、印刷ヘッド5とこれに対峙させた案内部材8によって規定される。案内部材8の表面はメッシュフィルタ81となっており、これが、インク吸収材から形成されたインク吸収部82の表面に配置されている。この印刷位置を通過したテープTは、テープ押さえローラ15によって、テープガイド16の側に押さえ付けられながら、テープ切断位置17を通過して、テープ排出口101bから外部に搬出される。
【0029】
上述したテープ送りローラ12、および印刷ヘッド5を担持したヘッドキャリッジ6の駆動力伝達系を説明する。図3および図4に示すように、ベース2の側壁22の内側には、テープ送りモータ18が取付けられている。このモータ出力軸18aは、歯車列181を介して、テープ送りローラ12の回転軸121の端に連結されている。本例では、この歯車列181は、動力切り換え機能を備えており、ヘッドキャリッジ6が側壁22の側に移動して、そこから内部に突出している突起182を押すと、動力伝達経路が切り換わり、モータ18の動力がキャップ機構9の側に伝達されるように構成されている。このように本例では、記録媒体であるテープの搬送手段が、テープ送りローラ12と、この駆動源であるモータ18と、モータ18からローラ12への動力伝達用の歯車列181によって基本的に構成されている。
【0030】
一方、ベース上の他方の側壁21の内側には、ヘッド駆動モータ19が配置されている。このモータ出力軸19aは、歯車列から構成される減速機構191を介して、リードねじ7の端部に連結されている。
【0031】
次に、インク供給手段は、インクタンク4と、ここからインクを印刷ヘッド5の側に供給するための3本のインクチューブ41(41Y,41M,41C)と、インクの供給を手動によって強制的に行うためのインクポンプ11から基本的に構成されている。3個のインクタンク4C,4M,4Yには、それぞれシアン、マゼンタ、イエローの各色のインクが貯留されており、これらを用いて、カラー印刷が可能となっている。
【0032】
ここで、本例のインクジェットプリンタ1においては、装着可能なテープTの最大幅は、図4に示すようにW(max)に設定されている。そして、印刷ヘッド5によるテープ幅方向(印刷ヘッド5の移動方向)の印刷可能範囲W(p)は、この最大テープ幅W(max)よりも左右に僅かに広い範囲とされている。そして、この印刷可能範囲に渡って、上述した案内部材8の表面を規定しているメッシュフィルタ81が配置されている。
【0033】
したがって、図に示す例の場合には、装着されたテープ幅がW1であるので、印刷ヘッド5による印刷可能範囲はこれを包含する範囲W(p1)に設定されることになる。
【0034】
装着されるテープカートリッジ3におけるテープ幅は、そのケース31の上面に配置されている6個の表示部38を読み取ることにより、検出することができる。例えば、各表示部38に孔を開けるか否かにより、テープ幅寸法を表示し、これらの表示部の孔の有無を、インクジェットプリンタの側の検出部105cを構成する機械的なセンサあるいは光学的なセンサによって検出すればよい。
【0035】
図6には、本例のインクジェットプリンタ1の制御系の概略構成を示してある。図において100はマイクロコンピュータから構成される制御回路であり、この入力側には、インクジェットプリンタ1の操作面102に配置されているキー群から構成される入力部110が接続されている。また、テープ幅を検出するための検出部105cが接続されている。制御回路100の出力側には、各種の表示を行うための液晶表示装置などの表示部107、印刷ヘッド5による印刷動作を制御するためのプリンタコントローラ140、各モータ18、19を駆動制御するためのモータドライバ150、160が接続されている。制御回路100のROM内に予め格納された制御プログラムに基づき、この制御回路100の制御の下に、装着されたテープカートリッジ3に収納されているテープ幅に対応した印刷可能範囲が設定され、以下に述べるベタ塗り印字等の動作が行われる。このように、本例では、制御回路100を中心として、印刷駆動制御手段が構成されている。
【0036】
このように構成した本例のインクジェットプリンタ1により、テープTの全幅をインクで塗りつぶすベタ塗り印刷を説明する。この場合には、テープTの幅方向の両端にはマージンが設定されず、印刷範囲は、テープ幅W1よりも広い範囲W(p1)に設定される。モータ18を駆動してテープ送りローラ12を回転することにより、テープTはテープカートリッジ3から繰り出されて印刷位置に向けて搬送される。テープTの搬送動作に同期させてモータ19によってリードねじ7を回転させて、キャリッジ6によって印刷ヘッド5を移動させる。印刷ヘッド5を図の矢印Aで示す方向に移動させて、印刷位置に搬送されたテープTの縁端T1に到る手間の時点、図4におけるT0の時点から印刷を開始する。また、この往動による印刷の終了時点は、テープTの他方の縁端T2を通過した後の時点、図4におけるT3の時点である。
【0037】
このように、本例のインクジェットプリンタ1においては、搬送されるテープ幅W1よりも広い印刷範囲で印刷を行うので、テープTの縁端T1あるいはT2の部分に、塗り残しが発生することはない。
【0038】
ここで、このような印刷を行うと、テープTの縁端T1の手前側での印刷動作、およびテープTの縁端T2を通過した後での印刷動作において、印刷ヘッドから吐出したインク滴は、テープT上に付着することなく、案内部材8の側に飛翔する。本例では、案内部材8の表面81を、印刷可能範囲に渡って配置してあるので、吐出したインク滴が他の部分に飛翔してそこに付着することがなく、案内部材の表面81に付着する。さらに、本例では、案内部材8は、メッシュフィルタ81と、これに連続したインク吸収部82から構成されている。したがって、案内部材の表面81に向けて吐出され、ここに付着したインク滴は、このメッシュフィルタ81を通過して、後ろ側のインク吸収部82に至り、ここに吸収保持される。よって、案内部材表面にインク滴が付着したままの状態になり、後に搬送されてくるテープTが、インク滴によって汚れてしまうことがない。
【0039】
このようにして、本例のインクジェットプリンタ1を用いれば、テープ全幅のベタ塗り印刷を、塗り残しを発生することなく、またインク滴によってテープの他の部分等を汚すことなく、行うことが可能である。
【0040】
印刷終了後に、印刷ヘッド5を担持しているヘッドキャリッジ6が矢印Bの方向に移動して、図に示すように端まで戻ると、キャリッジ6に搭載されているロータリーカッタ61が駆動され、この状態でキャリッジ6が矢印A方向に移動する。これにより、テープTは一定の長さに切断されて、外部に排出される。
【0041】
この後は、モータ18によってローラ12が逆回転して、テープTの先端が印刷位置の直前まで戻される。また、キャリッジ6が他方の側壁22まで移動して、その側面によって突起182を外側に押す。これにより、モータ18とテープ送りローラ12との連結が切れ、ローラ12が停止する。代わりに、キャップ機構9が駆動され、印刷ヘッド5にキャップがされた状態になる。
【0042】
なお、テープカートリッジ3を交換するために、この装着部23を覆っている開閉蓋105を開けると、印刷位置手前に先端が位置しているテープTが巻き戻されて、その先端が、テープカートリッジのテープ繰り出し部を規定している押さえローラ34とテープガイド33の間まで戻るようになっている。
【0043】
以上説明したように、本例のインクジェットプリンタ1においては、装着されたテープ幅よりも左右に広い印刷範囲を設定して、テープ全幅のベタ塗り印刷を行うようにすると共に、案内部材として、印刷可能な範囲を含む範囲にわたってインクを吸収可能なインク吸収面を備えたものを採用している。したがって、テープの両端部分に塗り残しを生ずることなくベタ塗りを行うことができる。また、テープの両端から外れた位置での印刷によって吐出されたインク滴は、案内部材によって吸収されてしまうので、搬送されるテープが汚れることもない。
【0044】
なお、テープ表面おける幅方向の一方の縁端側のみをベタ塗り印刷する場合には、その縁端の手前の時点から、あるいはこの縁端を通過した時点まで印刷動作を行うように印刷範囲を設定すればよい。
【0045】
また、以上の説明においては、テープの両端に塗り残りが発生することのないように印刷を行う動作を説明した。勿論、テープの前後の縁端にも塗り残りが出来ないように印刷を行うこともできる。例えば、テープの前端にも塗り残りが発生することの無いようにするためには、テープの前端が印刷ヘッドによる印刷位置に到る前から印刷を開始すればよい。また、テープの後端に塗り残りが出来ないようにするためには、テープの後ろ端(印刷終了端)が印刷位置を通過した後まで印刷を継続し、印刷終了端の位置でテープを切断するようにすればよい。なお、この場合には、インク回収手段としては、テープ搬送方向に向けて必要な幅を備えたインク吸収面を有するものを採用すればよい。
(第2の実施例)
【0046】
図7、8、9には、ポスター等の大きな寸法の記録媒体に対してベタ塗り印刷を行うのに最も適したインクジェットプリンタの主要部分を示してある。但し、前述の実施例1中に取り上げたテープ等の比較的小さな寸法の記録媒体に対しても本例を適用できることは言うまでもない。
【0047】
本例のインクジェットプリンタ200は、記録媒体がポスター等の紙葉体である点、印字ヘッドのキャリッジ機構がベルト・プーリ式である点、および紙案内に形成したインク回収手段の構成が異なる点以外は、基本的には上記の実施例1と同一である。したがって、以下の説明においては、これらの相違部分のみを説明する。
【0048】
まず、図7に示すように、本例のインクジェットプリンタ200においては、その印刷ヘッドを下面に担持しているキャリッジ202は、3色のインクカートリッジ203Y、203M、203Cも担持している。このキャリッジ202は、一方の側がキャリッジガイド板204の表面に沿って、記録紙205の幅方向に向けて往復移動可能に支持されている。キャリッジ202の他方の側は、このガイド板204と平行に走っているキャリッジガイド軸206によって、同一方向に往復移動可能に支持されている。このように支持されているキャリッジ202は、駆動プーリ207および従動プーリ208の間に掛け渡したタイミングベルト209に連結されている。駆動プーリ207は、キャリッジモータ210の出力軸に取付けられている。したがって、モータ210を駆動することにより、キャリッジ202に担持されている印刷ヘッドを、搬送される記録紙205の幅方向に往復移動させることができる。
【0049】
印刷ヘッドが担持されているキャリッジ202に対して、記録紙205の搬送方向の手前(上流)側には、紙送りローラ221と、この外周面に押圧されている一対の紙押さえローラ222、223が配置されており、記録紙205は、これらの間を通って、印刷ヘッドによる印刷位置に向けて搬送される。
【0050】
印刷ヘッドの下側には、少なくとも印刷ヘッドの往復移動範囲に渡って、記録媒体205の案内部材が設けられ、その案内部材にはインク回収機構211が配置されている。図8に示すように、このインク回収機構211は、搬送される記録紙の幅よりも充分に幅広の長方形のインク回収容器212と、この内部に配置されたインク吸収材213と、搬送される記録紙を案内するための複数本のガイドリブ214を備えている。インク回収容器212は、底板212aと、この周囲から立ち上がっている前後左右の側壁212b,212c,212d,212eとを有し、上側は開放状態となっている。インク吸収材213は、インク回収容器212の底面212a上において、その後側壁212bから左右の側壁212c、212dに沿うように、コの字状に配置されている。そして、このインク吸収材213の三方内周縁と、インク回収容器の前側壁212eとによって囲まれた底壁212aからは、扇形のガイドリブ214が、幅方向に等しいピッチで垂直に突出した状態に形成されている。これらのリブ214の上端はインク回収容器212の上端面よりも僅かに上方に突出しており、したがって、このインク回収容器212の上を通過する記録紙205は、これらのリブ214の上端部分によって案内される。
【0051】
ここで、インク回収容器212の底壁212aには、インク排出手段が備わっている。すなわち、インク吸収管215が接続され、これがインク吸収材213の側に連通している。インク回収管215の他方の側はインク吸引ポンプ(図示せず)の側に接続されている。
【0052】
このようにインク回収機構が構成されている本例のプリンタにおいては、図9に示すように、左右のインク吸収材の部分は、搬送される記録紙205の両端部分の通過位置を含むと共に、記録紙205の最大幅W(max)よりも広く設定される印刷幅W(p)を含む幅に設定される。そして、実施例1と同様に、搬送される記録紙205の幅方向については、印刷ヘッドがその記録紙の端205Lに到る前の時点から印刷を開始し、記録紙の端205Rを通過した後まで印刷を継続することにより、両端に塗り残しのないベタ塗り印刷を行う。このような印刷を行った場合に、記録紙の表面に付着せずに、その裏面側まで飛翔したインク滴は、インク回収機構211のインク吸収材213の表面に至り、この内部に吸収される。よって、後続の記録紙が汚れてしまう等といった弊害は発生しない。
【0053】
また、本例においては、記録紙205の搬送方向の前後端も塗り残しができないようにベタ塗りを行うために次のようにしている。印刷ヘッドによる印刷位置を、図9においてラインPで示してある。この印刷位置は、インク吸収材における搬送方向の幅(ラインL1とL2の間)のほぼ中間に位置するように設定されている。記録紙205の前端205FがラインPに至る手前(上流)の時点で印刷ヘッドによる印刷を開始する。また、記録紙205の後ろ端205RがラインPを通過した後まで印刷を継続する。このように印刷を行うことにより、記録紙205の前後端(搬送方向の下流側端および上流側端)にも塗り残りの発生しないベタ塗り印刷を行うことができる。また、このような印刷を行ったとしても、記録紙に付着せずに飛翔したインク滴は、確実にその裏面側のインク吸収材によって捕捉されて、その内部に吸収される。よって、インク滴が不所望な部分に付着して、後続の記録紙を汚してしまうといった弊害を回避できる。
【0054】
ここで、本例では、インク吸収材213をコの字状に配置している。勿論、インク回収容器212の底面の全面に渡って矩形のインク吸収材213を配置してもよい。さらには、枠状に配置してもよい。しかし、本例では、インク滴が飛翔してくる部分のみにインク吸収材213を配置してあるので、その使用量が少なくて済むので経済的である。また、インク吸収材の設置スペースが少なくて済む。このように使用量を少なくしても、次に述べるように、本例ではインク排出手段を備えているので、問題はない。
【0055】
すなわち、本例では、インク吸収材213には、インク回収管215を接続してあり、ここに溜まったインクを回収して排除できるようになっている。故に、インク吸収材213にインクが過剰に溜まって、その回収効率が低下する等の弊害を回避できる。
【0056】
なお、本例においては、記録紙205の幅寸法の検出を次のように行っている。すなわち、ヘッドキャリッジ202の側面に反射型光学センサ231を取付けておく。このセンサ231によって、搬送される記録紙の幅寸法、あるいは、記録紙の幅方向の端が通過する位置を検出する。この検出結果に基づき、記録紙の両端よりも広い範囲に渡る印字範囲を設定するようになっている。センサ231は、キャリッジの両側に設置して、両方のセンサの検出結果に基づき両端位置を検出すればよい。あるいは、1個のセンサを用いる場合には、印刷前にキャリッジを幅方向に移動させることにより、記録紙の両端位置を検出するようにすればよい。
(第2の実施例の変形例)
【0057】
図10には、上記の実施例2におけるインク回収機構の変形例を示してある。本例のインク回収機構311も、インク回収容器312と、この内部に配置されたインク吸収材313から構成されているが、それ自体が、キャリッジ314によって、印刷ヘッドキャリッジ315と一体となって往復移動するように構成されている。
【0058】
すなわち、インク回収機構311は、キャリッジ314によって支持されており、このキャリッジ314は、平行に延びる一対のガイド軸316、317によって往復移動可能に支持されている。このキャリッジ314は、タイミングベルト318に連結されており、タイミングベルト318は、駆動プーリ319および従動プーリ320の間に掛け渡されている。駆動プーリ319は、減速歯車列321を介してキャリッジモータ322の出力軸に連結されている。一方、印刷ヘッドを担持しているヘッドキャリッジ315は、上記の実施例2の場合と同様に、ガイド板332、ガイド軸333によって、往復移動可能に支持されている。そして、駆動プーリ334、従動プーリ335の間に掛け渡したタイミングベルト336に連結されている。駆動プーリ334は、歯車列337を介して、上記のキャリッジモータ322の出力軸に連結されている。本例においては、2本のタイミングベルト318、336を同期させて駆動することにより、インク回収機構311を、印刷ヘッドと一体に往復移動させるようになっている。
【0059】
ヘッドキャリッジ315とインク回収機構314の間には、最大印刷幅よりも幅広の案内部材361が配置されており、この案内部材361は記録紙362の搬送方向の手前(上流)側に向けて所定の長さだけ延びている。
【0060】
このように構成した本例のインク回収機構311は、印刷ヘッドと共に移動するので、実施例2のように、印刷ヘッドの往復移動範囲を含む幅に渡ってインク吸収材を配置する必要がない。よって、インク回収機構をコンパクトにすることができる。特に、大型のポスター等のように幅が1メートルもあるような記録紙を印刷するインクジェットプリンタでは、実施例2のように、その全幅に渡ってインク回収機構を構成するよりも、本例のように、インク回収機構を印刷ヘッドと一体となって移動するように構成する方が有利となる場合もある。
【0061】
なお、本例においても、インク吸収材313を、インク回収管341を介してインク回収ポンプ342により吸引して、インクタンク343に回収できるようにすることが望ましい。
(他の実施形態)
【0062】
以上の各実施例においては、いずれもカラー印刷を行うために、シアン、マゼンタ、イエローの3色の色インクがそれぞれ内蔵された3個のインクタンクが搭載されている。しかし、本発明は、カラープリンタに限定されるものではなく、例えば黒インクのタンクのみ、あるいは1色の色インクのタンクのみが搭載されたインクジェットプリンタにも適用できることは勿論である。
【0063】
また、カラー印刷を行う場合には、上記の各実施例の代わりに、シアン、マゼンタ、イエローの3色のインクに加えて、白色インクも使用するように構成することが望ましい。このようにすれば、記録媒体の地色が白色以外の場合においても、各色を再現性良く印刷することができる。
【0064】
すなわち、シアン、マゼンタ、イエローの各色を混合してできる色は、赤、緑、青、黒だけであり、それ以外の色はディザ法により面積階調をかけて表現している。したがって、これらの色は通常の印刷で表現される色に比べて見劣りがする場合が多く、色再現性が悪い。また、地色が白色でない記録媒体に印刷を行う場合には、黒文字は3色を混合することにより印刷できるが、白文字は、シアン、マゼンタ、イエローの3色を用いて再現できない。しかるに、これら3色に加えて白色インクを使用すれば、このような弊害を回避できる。
【0065】
一方、記録媒体としては、その地色については特に言及しなかった。基本的には、いずれの色の記録媒体も本発明のプリンタに用いることができる。上記のようにシアン、マゼンタ、イエローおよび白の4色のインクが搭載されたインクジェットプリンタの場合には、透明な記録媒体、例えば透明テープを用意しておけば、全てのカラーを再現できるので好ましい。
【符号の説明】
【0066】
1…インクジェットプリンタ、2…ベース、3…テープカートリッジ、38…テープ幅の表示部、4…インクタンク、5…インクジェット式印刷ヘッド、6…ヘッドキャリッジ、7…リードねじ、8…案内部材、81…メッシュスクリーン(紙案内表面)82…インク吸収部、120…テープ幅の検出部、T…テープ(記録媒体)、W1…テープ幅、W(p1)…ベタ塗り印刷時の印刷範囲、200…インクジェットプリンタ、211…インク回収機構、212…インク回収容器、213…インク吸収材、215…インク回収管、205…記録紙、311…インク回収機構、314…インク回収機構のキャリッジ、341…インク回収管、342…インク回収ポンプ、343…インクタンク、P…印刷位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に搬送されてゆく記録媒体に対し、その搬送方向に直交する方向に往復移動する印刷ヘッドにより、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
前記印刷ヘッドによる前記搬送方向の印刷範囲および前記搬送方向に直交する方向の印刷範囲を、前記記録媒体の縁端より外側に外れる位置まで設定して前記記録媒体への印刷を実行させる印刷駆動制御手段を備え、
前記記録媒体が前記印刷ヘッドの対向位置でガイドリブにより支持された状態で、前記搬送方向の縁端の外側に設定された印刷範囲に係るインク吐出がなされ、当該縁端の外側にはみ出して吐出されたインクが不所望な部分に付着して後続の記録媒体を汚してしまうことのないように、当該はみ出して吐出されたインクが前記記録媒体の下側の位置でインク回収手段によって回収されることを特徴とするインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−30307(P2010−30307A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231210(P2009−231210)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【分割の表示】特願2008−325243(P2008−325243)の分割
【原出願日】平成7年9月6日(1995.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】