説明

インクジェットプリンタ

【課題】インクタンク内を二つの空間に分け、一方の空間をインク循環経路の一部としてインクタンク内のインク総量を変えずに主として循環するインクの量を低減し、インクの温調効率を向上させること。
【解決手段】インクを貯留するインクタンク4と、インクを吐出するインクヘッドと、インクタンク4からインクヘッドまでを接続するインク供給経路と、インクヘッドからインクタンク4までを接続するインク帰還経路とからなるインク循環経路と、インクを循環させるポンプと、循環するインクの温度を調整する熱交換器とを備えるインクジェットプリンタにおいて、インクタンク4内に、互いに連通するとともにインク液面高さが等しくなるようにこのインクタンク4内を二つの空間26,27に分ける仕切り21を設け、インク排出口25を有する一方の空間(循環空間)26をインク循環経路の一部とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク循環経路内を循環するインクを吐出して印字するインク循環式のインクジェットプリンタにおいて、インクタンク内のインク総量を変えずに主として循環するインクの量を減らしてインクの温調効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクヘッドのノズルからインクを吐出して印刷用紙などの記録媒体に印字するインクジェットプリンタには、インクの冷却やインク経路内のゴミなどを取り除くために、印字状態のときなどにインクを循環させるインク循環式のものがある。
【0003】
インク循環式のインクジェットプリンタでは、インクが規定温度範囲外のときはインクの吐出安定性が損なわれ、良好な印字品質を確保することができない。例えばピエゾ素子(圧電素子)を備えたインクヘッドでは、インク粘度の増加又は低下によりインクヘッド対応範囲外となり、例えばインク粘度が増加した場合にはインクの不吐出が生じ、印刷物に白スジがあらわれるなどの不具合が発生する。そのため、ヒータやファンなどを用いて循環するインクを規定温度範囲内となるように加熱又は冷却する必要がある。
【0004】
また、インク循環式のインクジェットプリンタには高速印字が可能な高速ライン方式のものがある。高速ライン方式のインクジェットプリンタでは、インクヘッドにかかる電圧を上げて圧電素子を高速駆動するため、インクヘッドが発熱する。この発熱を抑えるためにもインクを循環させてインクヘッドの熱を冷ますことが不可欠である。
【0005】
図1には高速ライン方式のインクジェットプリンタの一般的な構成を示している。図1に示すように、高速ライン方式のインクジェットプリンタ1は、インクを貯留するインクタンク4と、インクを吐出する複数のノズル9を有する少なくとも一つのインクヘッド3とを備え、インクタンク4からインクヘッド3までを接続するインク供給経路6aと、インクヘッド3からインクタンク4までを接続するインク帰還経路6bとからなるインク循環経路6を備えている。なお、インクタンク4は二つからなり、一方がインクヘッド3の上方に配置された上方インクタンク4aとなり、他方がインクヘッド3の下方に配置された下方インクタンク4bとなる。
【0006】
また、図5には図1に示すようなインクジェットプリンタ1が備えるインクタンク4(4a,4b)の一般的な構成を示している。図5に示すように、インクタンク4の上部には大気開放チューブ11が設けられている。インクタンク4は、大気開放チューブ11が図示しないエアフィルタなどを介して大気に通じることにより、大気開放されている。なお、大気開放チューブ11の途中にはこのチューブ11を開閉制御するための電磁弁12が設けられている(図1参照)。また、インクタンク4は、インクタンク4内のインクの量を検出するために液面検出センサ31を備えている。液面検出センサ31は、インクタンク4内に配設されたフロート32と、インクタンク4外にてフロート32と対向して配設された検出部(ホール素子)33とにより構成されている。液面検出センサ31では、ホール素子33がフロート32に設けられたマグネット34の磁界に反応してインク液面高さを検出し、検出した液面高さに基づいてインクの量を検出する。なお、図5における符号の24はインクタンク4内にインクを供給するためのインク供給口、25はインクタンク4内からインクを排出するためのインク排出口である。
【0007】
インクジェットプリンタ1では、インクカートリッジ2からのインク補給時にはインク補給弁8を開放し、インクカートリッジ2から下方インクタンク4bにインクを供給する。通常、インク補給開始後、一定時間経過した後も下方インクタンク4bの液面検出センサ31がインク液面を検出しない場合はインクカートリッジ2内にインクが無いと判断し、インク切れとして検知して装置を停止する。ところが、インク切れを検知するまで装置は印字を続けるため、インク切れを検知するまでの間に消費される量のインクを下方インクタンク4bに保持しておく必要がある。また、メンテナンス時には圧力制御手段13によりインク循環経路6内が加圧され、下方インクタンク4b内の空気が圧縮された分だけ上方インクタンク4a内のインクが下方インクタンク4bへ移動する。そのため、この移動分の量のインクを上方インクタンク4aに保持しておく必要がある。
【0008】
このように、従来の高速ライン方式のインクジェットプリンタでは、各インクタンク内に予備的にインクを保持しなければならないため、インク循環経路内のインク総量が多くなり、インクを規定温度にするための温度調整に時間がかかるという不具合があった。これを受けて、下記特許文献1などには、インク循環経路内の循環インクの量を可変とすることにより、インクを規定温度にするために要する時間を短縮する技術が開示されている。
【0009】
下記特許文献1に開示されるインクジェットプリンタは、温度検知手段がインク循環経路内の循環インクを規定温度外として検知すると、インクタンク内を二区画に分割する仕切り板(インク循環量変更手段)が所定角度回転してインクタンクを通過する循環インクの量を適宜変更するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−196208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来の高速ライン方式のインクジェットプリンタにおいて、上述した温度調整に時間がかかるという不具合を解消するために温度調整の能力を上げようとすると、温度調整に用いるヒータやファンを大きくするなどの対策が必要となり、コストや消費電力が上がるという問題があった。また、インクタンクにはインクを保持するためにも大型のものが必要で、これにより、インクタンク及び装置全体が大型化し、装置が高価になるという問題があった。
【0012】
また、上記特許文献1に開示されるインクジェットプリンタでは、インクタンク内に設けられたインク循環量変更手段としての仕切り板が回転するため、インクタンク内にその回転スペースなどが必要となり、インクタンクが大型化し、これにより、装置全体も大型化するという上記同様の問題があった。なお、インク液面高さを検出する液面検出センサがインクタンク内に配置されるフロートなどから構成される場合には、フロートが仕切り板の回転を妨げないようにインクタンクを更に大型化する必要がある。
【0013】
そこで本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、インクタンク内を互いに連通する二つの空間に分けて、一方の空間をインク循環経路の一部とすることにより、インクタンク内のインク総量を変えずに主として循環するインクの量が低減することになるため、インクの温調効率が向上し、これにより、コストや消費電力を抑制可能になるとともに、インクタンク及び装置全体の大型化を抑えて安価となるインクジェットプリンタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明に係る請求項1記載のインクジェットプリンタは、インクを貯留するインクタンク4(上方インクタンク4a、下方インクタンク4b)と、
インクを吐出する複数のノズル9を有する少なくとも一つのインクヘッド3と、
前記インクタンク4(上方インクタンク4a)から前記インクヘッド3までを接続するインク供給経路6aと、前記インクヘッド3から前記インクタンク4(下方インクタンク4b)までを接続するインク帰還経路6bとからなるインク循環経路6と、
前記インク循環経路6内のインクを循環させるインク循環手段41と、
前記インク循環経路6のいずれかの位置に配設し、該インク循環経路6内のインク温度を調整するインク温調手段51と、を備えるインクジェットプリンタ1において、
前記インクタンク4(上方インクタンク4a、下方インクタンク4b)内に、互いに連通するとともにインク液面高さが等しくなるように該インクタンク4(上方インクタンク4a、下方インクタンク4b)内を二つの空間26,27に分ける仕切り21を設け、前記インクタンク4(上方インクタンク4a、下方インクタンク4b)からインクを排出するためのインク排出口25を有する一方の空間26を前記インク循環経路6の一部とすることを特徴としている。
【0015】
請求項2記載のインクジェットプリンタは、更に、前記インク循環経路6の一部となる前記一方の空間26が前記インクタンク4(上方インクタンク4a、下方インクタンク4b)にインクを供給するためのインク供給口24を有することを特徴としている。
【0016】
請求項3記載のインクジェットプリンタは、前記インクタンク4(上方インクタンク4a、下方インクタンク4b)内の前記二つの空間26,27のうちのインクが略滞留する他方の空間27側に該インクタンク4(上方インクタンク4a、下方インクタンク4b)内のインク液面高さを検出する液面検出センサ31を配設することを特徴としている。
【0017】
請求項4記載のインクジェットプリンタは、前記仕切り21は空気流通口22とインク流通口23を有し、該空気流通口22及びインク流通口23により前記二つの空間26,27が連通することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るインクジェットプリンタによれば、インクタンク内を二つの空間に分けて一方の空間をインク循環経路の一部とし、この循環空間のインクが主として循環するインクとなることにより、インクタンク内のインク総量を変えずに循環するインクを実質的に低減可能となる。これにより、インクの温調効率を向上させることができる。また、インクの温調効率を上げるためにヒータやファンを高機能化させる必要がないため、コストや消費電力を抑えることができる。さらに、インクタンク内の他方の空間にはインクを保持することが可能となり、インクタンク及び装置全体が大型化することを抑え、装置が安価となる。また、インクタンク内の二つの空間は連通しており、二つの空間におけるインク液面の高さが等しいため、他方の空間、つまり、インクが略滞留するこの滞留空間にインクタンク内におけるインク切れを検知するための液面検出センサが配設されてもインク切れの誤検知などの不具合が発生することはない。
【0019】
また、インク循環経路の一部となる一方の空間(循環空間)にインク供給口を有することにより、他方の空間(滞留空間)にてインク供給時のインク液面高さのブレなどが低減し、インク切れを検知するための液面検出センサの動作に影響を与えることがなくなり、上記同様にインク切れの誤検知などの不具合の発生を防止することができる。
【0020】
さらに、インクタンク内を二つの空間に分けるための仕切りがインク流通口を有することにより、インク循環時にはインク流通口を介してインクが他方の空間(滞留空間)から一方の空間(循環空間)へと流動し、インクタンク内のインク液面高さなどが等しくなる。このとき、仕切りが空気流通口を有することにより、空気が二つの空間を流動してインクの流動がスムーズになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】インクジェットプリンタの一構成例を示す図である。
【図2】インクタンクを示す正面図である。
【図3】(a)〜(c)インクタンク内の仕切りを示す図である。
【図4】インクジェットプリンタの他の構成例を示す図である。
【図5】従来のインクタンクを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して具体的に説明する。
この実施の形態は、主に印字中にインクを絶えず循環するインク循環式のインクジェットプリンタであり、その中でも、インクヘッドに設けられたピエゾ素子(圧電素子)を高速駆動することにより高速印字を可能とした高速ライン方式のインクジェットプリンタである。
【0023】
図1において、符号の1はインクジェットプリンタ、2は交換可能なインクカートリッジ、3はインクを吐出して印刷用紙などの記録媒体に印字するインクヘッド、4はインクタンクである。なお、後述するが、図1に示す構成例では、インクタンク4は上方インクタンク4aと下方インクタンク4bの二つのタンクからなる。また、インクカートリッジ2と下方インクタンク4bとの間はインク補給経路5によって接続されるとともに、上方インクタンク4aからインクヘッド3まではインク供給経路6aによって接続され、インクヘッド3から下方インクタンク4bまではインク帰還経路6bによって接続されている。また、下方インクタンク4bと上方インクタンク4aとの間の経路はインク帰還経路6bとなる。インク供給経路6aと、インク帰還経路6bとはインクが循環するインク循環経路6を形成する。
【0024】
図1に示すように、インクカートリッジ2には大気開放チューブ7が設けられている。インクカートリッジ2は、大気開放チューブ7が図示しないエアフィルタなどを介して大気に通じることにより、その内部を大気開放する。インクカートリッジ2は、インク補給経路5を通じて下方インクタンク4bにインクを供給する。インク補給経路5の途中には電磁弁からなるインク補給弁8が設けられている。下方インクタンク4bへのインク補給はこのインク補給弁8によって制御する。
【0025】
インクヘッド3は、インクを吐出する複数のノズル9を有し、少なくとも一つ設けられている。なお、図1に示す構成例では、インクヘッド3が一つ設けられているが、複数であってもよい。インクヘッド3は、インク供給側がインク供給経路6aに接続され、インク排出側がインク帰還経路6bに接続されている。インクヘッド3では、上方インクタンク4aから供給されたインクを各ノズル9に分配供給する。インクヘッド3内はインク循環構造となっており、各ノズル9から吐出されなかったインクを下方インクタンク4bに排出する。また、インクヘッド3には、インクヘッド3内を循環するインクの温度を検出してその検出温度を図示しない制御手段へと出力するヘッド温度サーミスタ10が設けられている。
【0026】
上述したように、インクタンク4は、インクヘッド3の上方に配置された上方インクタンク4aと、インクヘッド3の下方に配置された下方インクタンク4bとからなる。上方インクタンク4aには大気開放チューブ11が設けられており、大気開放チューブ11の途中には上方インクタンク4a内を大気開放するための電磁弁12が設けられている。大気開放チューブ11は途中から経路が分岐しており、分岐した経路14によって、メンテナンス時などにインク循環経路6内を加圧するための圧力制御手段13と上方インクタンク4aとを接続する。
【0027】
下方インクタンク4bには、上方インクタンク4aと同様に大気開放チューブ11が設けられており、大気開放チューブ11の途中には下方インクタンク4b内を大気開放するための電磁弁12が設けられている。
【0028】
ここで、インクタンク4(上方インクタンク4a及び下方インクタンク4b)の構成を詳しく説明する。なお、図1に示す構成例では、上方インクタンク4aと下方インクタンク4bとは同じものであるため、インクタンク4と総称していずれか一方だけを説明する。
【0029】
図2に示すように、インクタンク4内には仕切り21が設けられており、インクタンク4内を二つの空間に分けている。図3(a)に示すように、仕切り21(21a)は、略矩形板状に形成されており、仕切り21aの上部及び下部とインクタンク4の上面及び下面との間にはそれぞれ隙間が設けられている。仕切り21aの上部とインクタンク4の上面との隙間は空気流通口22(22a)となり、空気流通口22aを通じて空気がインクタンク4内の二つの空間を流動する。また、仕切り21aの下部とインクタンク4の下面との隙間はインク流通口23(23a)となり、インク流通口23aを通じてインクがインクタンク4内の二つの空間を流動する。すなわち、インクタンク4内の二つの空間は、空気流通口22a及びインク流通口23aによって連通するものとなる。
【0030】
インクタンク4は、インクタンク4内にインクを供給するためのインク供給口24と、インクタンク4内からインクを排出するためのインク排出口25とを有する。インクタンク4内の二つの空間は、少なくともインク排出口25を有する一方の空間26と、他方の空間27とからなる。一方の空間26は、インク循環経路6の一部となる空間(循環空間)となり、この循環空間26に存在するインクは主として循環するインクとなる。他方の空間27は、インクが略滞留する空間(滞留空間)となる。なお、循環空間26はインク供給口24をも有するが、滞留空間27にインク供給口24を有する構成としてもよい。ただし、インク供給口24には通常は異物混入などを防ぐために図示しないフィルタが設けられており、滞留空間27には液面検出センサ31のフロート32が配設されるため、フィルタがフロート32の動作を妨げないようにする必要がある。
【0031】
循環空間26と滞留空間27とに分ける仕切り21aの位置は、循環空間26が小さくなる位置ほど好ましいが、二つの空間26,27に存在するインクの液面高さが等しくなるような位置である必要がある。なお、循環空間26があまりに小さいと、大気圧の差により二つの空間26,27のインク液面高さが異なることがある。
【0032】
インクタンク4内の滞留空間27側には、インクタンク4内のインクの量を検出するためにインク液面高さを検出する液面検出センサ31が配設されている。液面検出センサ31は、滞留空間27に設けられたフロート32と、インクタンク4の外側面にてフロート32と対向して設けられた検出部(ホール素子)33とからなる。液面検出センサ31では、ホール素子33がフロート32に設けられたマグネット34の磁界に反応してインク液面高さを検出し、インク液面高さに基づいてインクの量を検出する。このとき、液面検出センサ31がインク液面を検出しない場合は、インクカートリッジ2にインク無し、すなわち、インク切れとして検知し、インクジェットプリンタ1は装置を停止する。
【0033】
上述したインクタンク4では、インク供給口24から供給されたインクは循環空間26に入り、循環空間26が有するインク排出口25から排出されるようになる。このとき、滞留空間27に存在するインクはインク循環経路6から外れたインクとなり、インク循環経路6内のインクは実質的に低減するようになる。ところが、循環空間26と滞留空間27との間はインクが流動するため、インクタンク4内のインク総量は仕切り21aがないときと変わらない。
【0034】
なお、インクタンク4内を二つの空間26,27に分ける仕切り21は上述した形状以外のものでもよい。例えば、図3(b)に示すように、略矩形板状のものの上部及び下部に略円形の孔22b,23bが形成された仕切り21bでもよい。この場合、仕切り21bの上部の孔が空気流通口22bとなり、下部の孔がインク流通口23bとなる。また、例えば、図3(c)に示すように、略矩形板状のものに上部から下部にかけてスリットが形成された仕切り21cでもよい。この場合、スリットのインク液面よりも上方部分が空気流通口22cとなり、インク液面よりも下方部分がインク流通口23cとなる。
【0035】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1には、インク循環経路6のいずれかの位置にインク循環経路6内のインクを循環させるインク循環手段としてのポンプ41が配設されている。図1に示す構成例では、ポンプ41は、上方インクタンク4aと下方インクタンク4bとの間の経路、すなわち、インク帰還経路6bの途中に配設されている。なお、インク循環手段としてはポンプの他に、上方インクタンク4aのインク液面高さとインクヘッド3のノズル9の吐出面の高さの差(水頭差)を利用してインクを循環させる方法などがある。
【0036】
また、インクジェットプリンタ1には、インク循環経路6のいずれかの位置にインク循環経路6内のインク温度を調整するインク温調手段51が配設されている。図1に示す構成例では、インク温調手段51は、上方インクタンク4aと下方インクタンク4bとの間の経路、すなわち、インク帰還経路6bの途中に配設されている。インク温調手段は、加熱手段52と冷却手段53とを備えた熱交換器51からなる。また、加熱手段はヒータ52からなり、冷却手段はファン53と図示しないヒートシンクからなる。インク温調手段としての熱交換器51は、インクが規定温度以下のときにはヒータ52によりインクを加熱し、インクが規定温度以上のときにはファン53(及びヒートシンク)によりインクを冷却する。なお、インクジェットプリンタ1において、印字可能なインク温度範囲は25〜45度の間であり、その中でも規定温度とは印字に最適なインク温度のことである。ここでは、規定温度は35〜40度の間である。インクジェットプリンタ1では、例えばウォームアップ時に規定温度以下のインクを規定温度となるように加熱し、長時間の連続印字などで規定温度以上となったインクを規定温度となるように冷却する。
【0037】
上述した実施の形態によれば、上方インクタンク4a内と下方インクタンク4b内をそれぞれ二つの空間26,27に分けて、それぞれの循環空間26をインク循環経路の一部とし、循環空間26のインクが主として循環するインクとなることにより、上方インクタンク4a内と下方インクタンク4b内のインク総量を変えずに循環するインクを実質的に低減可能となる。これにより、インクの温調効率を向上させることができる。また、インクの温調効率を上げるためにヒータ52やファン53を高機能化させる必要がないため、コストや消費電力を抑えることができる。さらに、上方インクタンク4a内と下方インクタンク4b内のそれぞれの滞留空間27にはインクを保持することが可能となり、これにより、各インクタンク4a,4b及び装置全体が大型化することを抑え、装置が安価となる。また、各インクタンク4a,4b内の二つの空間26,27は連通しており、二つの空間26,27におけるインク液面の高さが等しいため、滞留空間27にインクタンク4a,4b内におけるインク切れを検知するための液面検出センサ31(フロート32)が配設されてもインク切れの誤検知などの不具合が発生することはない。
【0038】
また、インク循環経路6の一部となる循環空間26にインク供給口24を有することにより、滞留空間27にてインク供給時のインク液面高さのブレなどが低減し、インク切れを検知するための液面検出センサ31(フロート32)の動作に影響を与えることがなくなり、インク切れの誤検知などの不具合の発生を防止することができる。
【0039】
さらに、上方インクタンク4a内と下方インクタンク4b内をそれぞれ二つの空間に分けるための仕切り21がインク流通口23を有することにより、インク循環時にはインク流通口23を介してインクが滞留空間27から循環空間26へと流動し、各インクタンク4a,4b内のインク液面高さなどが等しくなる。このとき、仕切り21が空気流通口22を有することにより、インクタンク4a,4b内の空気が二つの空間を流動してインクの流動がスムーズになる。
【0040】
さらに、インクタンク内を二つの空間に分けるための仕切りにインク流通口を有することにより、インク循環時にはインク流通口を介してインクが他方の空間(滞留空間)から一方の空間(循環空間)へと流動し、インクタンク内のインク液面高さなどが等しくなる。このとき、仕切りに空気流通口を有することにより、空気が二つの空間を流動してインクの流動がスムーズになる。
【0041】
なお、上述した実施の形態では、上方インクタンク4a内と下方インクタンク4b内のそれぞれを二つの空間(循環空間26と滞留空間27)に分ける構成としているが、いずれかのインクタンク4a(又は4b)内だけを二つの空間26,27に分ける構成としてもよい。この構成によっても上述した実施の形態と略同様の効果が得られる。
【0042】
また、図4にはインクジェットプリンタの他の構成例を示している。以下、このインクジェットプリンタについて簡単に説明する。なお、図4のインクジェットプリンタの構成において、上述した実施の形態と同一又は同等の箇所には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0043】
図4に示すように、インクジェットプリンタ61は、一つのインクタンク4を備えており、インクカートリッッジ2とインクタンク4との間はインク補給経路5によって接続されるとともに、インクタンク4からインクヘッド3まではインク供給経路6aによって接続され、インクヘッド3からインクタンク4まではインク帰還経路6bによって接続されている。インク供給経路6aと、インク帰還経路6bとはインクが循環するインク循環経路6を形成する。インクカートリッジ2は、インク補給経路5を通じてインクタンク4にインクを供給する。
【0044】
インクタンク4には大気開放チューブ11が設けられており、大気開放チューブ11の途中にはインクタンク4内を大気開放するための電磁弁12が設けられている。大気開放チューブ11は途中から経路が分岐しており、分岐した経路14によって、メンテナンス時などにインク循環経路6内を加圧するための圧力制御手段13とインクタンク4とを接続する。
【0045】
また、図4に示す構成例では、インクタンク4の詳細な構成は上述したインクタンク4(上方インクタンク4a及び下方インクタンク4b)と同等の構成となる(図2,3参照)。そのため、その説明は省略する。
【0046】
図1に示すように、インクジェットプリンタ61には、インク循環経路6のいずれかの位置にインク循環経路6内のインクを循環させるインク循環手段としてのポンプ41が配設されている。図4に示す構成例では、ポンプ41は、インクタンク4からインクヘッド3までを接続するインク供給経路6aの途中に配設されている。
【0047】
また、インクジェットプリンタ61には、インク循環経路6のいずれかの位置にインク循環経路6内のインク温度を調整するインク温調手段51が配設されている。図4に示す構成例では、インク温調手段としての熱交換器51は、インクタンク4からインクヘッド3までを接続するインク供給経路6aの途中に配設されている。
【0048】
この構成例によれば、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。すなわち、インクタンク4をそれぞれ二つの空間26,27に分けて、循環空間26をインク循環経路の一部とし、循環空間26のインクが主として循環するインクとなることにより、インクタンク4内のインク総量を変えずに循環するインクを実質的に低減可能となる。これにより、インクの温調効率を向上させることができる。また、インクの温調効率を上げるためにヒータ52やファン53を高機能化させる必要がないため、コストや消費電力を抑えることができる。さらに、インクタンク4の滞留空間27にはインクを保持することが可能となり、これにより、インクタンク4及び装置全体が大型化することを抑え、装置が安価となる。また、インクタンク4内の二つの空間26,27は連通しており、二つの空間26,27におけるインク液面の高さが等しいため、滞留空間27にインクタンク4内におけるインク切れを検知するための液面検出センサ31(フロート32)が配設されてもインク切れの誤検知などの不具合が発生することはない。
【0049】
また、インク循環経路6の一部となる循環空間26にインク供給口24を有することにより、滞留空間27にてインク供給時のインク液面高さのブレなどが低減し、インク切れを検知するための液面検出センサ31(フロート32)の動作に影響を与えることがなくなり、インク切れの誤検知などの不具合の発生を防止することができる。
【0050】
さらに、インクタンク4内を二つの空間に分けるための仕切り21がインク流通口23を有することにより、インク循環時にはインク流通口23を介してインクが滞留空間27から循環空間26へと流動し、インクタンク4内のインク液面高さなどが等しくなる。このとき、仕切り21が空気流通口22を有することにより、インクタンク4内の空気が二つの空間を流動してインクの流動がスムーズになる。
【符号の説明】
【0051】
1…インクジェットプリンタ
3…インクヘッド
4…インクタンク
4a…上方インクタンク
4b…下方インクタンク
6…インク循環経路
6a…インク供給経路
6b…インク帰還経路
9…ノズル
21…仕切り
22…空気流通口
23…インク流通口
24…インク供給口
25…インク排出口
26…一方の空間(循環空間)
27…他方の空間(滞留空間)
31…液面検出センサ
41…インク循環手段としてのポンプ
51…インク温調手段としての熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するインクタンクと、
インクを吐出する複数のノズルを有する少なくとも一つのインクヘッドと、
前記インクタンクから前記インクヘッドまでを接続するインク供給経路と、前記インクヘッドから前記インクタンクまでを接続するインク帰還経路とからなるインク循環経路と、
前記インク循環経路内のインクを循環させるインク循環手段と、
前記インク循環経路のいずれかの位置に配設し、該インク循環経路内のインク温度を調整するインク温調手段と、を備えるインクジェットプリンタにおいて、
前記インクタンク内に、互いに連通するとともにインク液面高さが等しくなるように該インクタンク内を二つの空間に分ける仕切りを設け、前記インクタンクからインクを排出するためのインク排出口を有する一方の空間を前記インク循環経路の一部とすることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
更に、前記インク循環経路の一部となる前記一方の空間が前記インクタンクにインクを供給するためのインク供給口を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記インクタンク内の前記二つの空間のうちのインクが略滞留する他方の空間側に該インクタンク内のインク液面高さを検出する液面検出センサを配設することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記仕切りは空気流通口とインク流通口を有し、該空気流通口及びインク流通口により前記二つの空間が連通することを特徴とする請求項1又は2又は3記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−71526(P2012−71526A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219227(P2010−219227)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】