説明

インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法

【課題】高精度な寸法で、高い歩留りで形成できるインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】インクジェットヘッド10では、高剛性のアルミナ等のセラミックスからなる圧力室支持部材30上に、金属製の圧力室プレート40を接着している。圧力室プレート40には圧力室43が形成され、圧力室支持部材30には、圧力室43にインクを供給するインク供給路31と、圧力室43からインクをノズルプレート20に形成したノズル孔21に吐出するインク出口孔33とを形成している。そして、圧力室プレート40上には、ダイアフラム50を設け、当該ダイアフラム50上に、圧電素子ユニット60を設けて、圧電素子ユニット60の圧電素子活性部により圧力室43のインクに圧力を付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法に関する。詳細には、加工精度が高精度で且つ価格を安くできるインクジェットヘッド、当該インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置及び当該インクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置では、複数のノズルからインクを噴射するためのインクジェットヘッドを備えている(例えば、特許文献1参照)。図8及び図9に示すように、従来のインクジェット記録装置のインクジェットヘッド110では、アルミナセラミックス等からなる圧力室プレート130に、圧力室143と、圧力室143にインクを供給するインク供給路131と、圧力室143からインクをノズルプレート120に形成したノズル孔121に送り出すインク流路133とを形成していた。そして、圧力室プレート130上には、ダイアフラム150を設け、当該ダイアフラム150上に、圧電素子ユニット160を設けて、圧電素子ユニット160の圧電素子活性部162により圧力室143のインクに圧力を付加するようになっていた。また、インクジェットヘッド110をインクジェット記録装置のキャリッジに固定するための第二ベース部材180とスペーサとしての第一ベース部材170とを備えていた。このインクジェットヘッド110では、ノズルプレート120に設けられた各ノズル孔121の先端部に良好なインクメニスカスを形成するようにインク内の圧力が設定されている。圧電素子活性部162の変形によって圧力室143のインクに付加される圧力の伝播によって、各ノズル孔121の先端部からインク液滴を吐出している。
【0003】
ところで、圧電素子(ピエゾ素子)を用いてインク室内のインクを加圧してインクを吐出させるピエゾタイプのインクジェットヘッドにおいて、高粘度大液滴のインク吐出のためにはインク室に大きな圧力を発生させるため、ピエゾ素子に大きな力を発生させる必要がある。一般的に圧電素子は発生する力は大きいが、変形量が小さいので、大きな変形量を得るために、図8及び図9に示すような積層タイプの圧電素子を用いることが多い。そのため、インク室の剛性が低いと、全チャネル同時に駆動したときなどにインク室全体が変形して、必要な圧力が得られなかったり、吐出が不安定になることがあった。そのため、従来の高粘度インク対応のインクジェットヘッド110では、インクの圧力室プレート130に高剛性材料であるアルミナセラミックスを用いて、ステンレスなどの一般的な金属材料に比べて高い剛性の圧力室143を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−240133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のインクジェットヘッドでは、圧力室プレートの微細形状を形成する工法として、アルミナセラミックス粉末に樹脂バインダーを混ぜたペレットを射出成形した後に高温で焼成するCIM(セラミックインジェクションモールド)工法によって製造していたので、収縮によって寸法の誤差を生じやすく、ミクロンオーダの高精度な部品精度を達成することが困難であるという問題点があった。従って、焼成時に寸法の誤差が生じて、製品の歩留まりが低下し、部品コストが高くなるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高精度な寸法で、高い歩留りで形成できるインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様のインクジェットヘッドでは、外部にインクを吐出する複数のノズルと、当該複数のノズルからインクを吐出するのに必要な圧力を前記インクに加えるための複数の圧力室と、前記各圧力室に圧力を各々与える複数の圧力発生部を備えたアクチュエータを有するインクジェットヘッドであって、前記圧力室は、金属製の圧力室プレートに形成され、当該圧力室プレートに対して前記アクチュエータとは反対側に、当該圧力室プレートを支持する圧力室支持部材が設けられ、当該圧力室支持部材は前記圧力室プレートよりも大きいヤング率の材料によって形成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成のインクジェットヘッドでは、圧力室は金属製の圧力室プレートに形成されるので、高精度な寸法精度を実現でき、高い歩留まりを実現できる。また、圧力室支持部材には圧力室が無く、圧力室支持部材は圧力室プレートよりも大きいヤング率の材料によって形成されるので、高精度な加工が不要になり、従来の加工法で高剛性を実現できる。
【0009】
また、前記圧力室プレートを42合金又はステンレス鋼で形成しても良い。42合金は熱膨張係数が金属の中で低く、硬質ガラスやセラミックスに近い事から、セラミックス等と接合しても温度変化による反りや剥離が起こりにくい圧力室プレートを実現できる。また、ステンレス鋼は耐食性が高いため、使用可能なインクの選択範囲を広く取ることができる。
【0010】
また、前記圧力室支持部材を炭化ケイ素、アルミナ、窒化ケイ素の少なくとも一つを含む高剛性セラミックス材料で形成しても良い。この場合には、圧力室支持部材を高剛性セラミックス材料で形成しても、圧力室を高剛性セラミックス材料に形成しないので、微細加工が不要になる。従って、部品のコストを大幅に低減できる。
【0011】
また、前記圧力室支持部材をタングステン、モリブデン、超硬合金の少なくとも一つを含む高剛性金属材料で形成しても良い。これらの材料は加工性が悪いので、高精度な微細加工は困難であるが、この場合には、圧力室支持部材を高剛性金属材料で形成しても、圧力室を高剛性金属材料に形成しないので、微細加工が不要になる。従って、部品のコストを大幅に低減できる。
【0012】
また、前記圧力室の深さが前記圧力室プレートの厚さよりも小さくても良い。この場合には、個々の圧力室の壁面が圧力室の底部で繋がることにより、圧力室プレート単体でも圧力室形状を維持することができ、圧力室プレートを圧力室支持部材上に位置決めし、組み付ける際の取扱いが容易になる。すなわち、圧力室プレートを圧力室支持部材に組み付ける際に、圧力室プレートにかかる負荷を気にする必要がなく、作業効率を向上することができる。
【0013】
また、前記圧力室の深さが前記圧力室プレートの厚さに等しくても良い。この場合には、圧力室プレートの圧力室の溝は厚さ方向に貫通させれば良いので、圧力室プレートの加工が容易になる。また、板厚の精度で圧力室の深さが決まるので、高精度でばらつきの小さい深さ寸法を、安定して容易に達成できる。
【0014】
また、本発明の第2の態様のインクジェット記録装置では、上記のインクジェットヘッドを備えている。
【0015】
また、本発明の第3の態様のインクジェットヘッドの製造方法では、外部にインクを吐出する複数のノズルと、当該複数のノズルからインクを吐出するのに必要な圧力を前記インクに加えるための複数の圧力室と、前記各圧力室に圧力を各々与える複数の圧力発生部を備えたアクチュエータを有するインクジェットヘッドの製造方法であって、前記圧力室となる部分を、金属製の圧力室プレートに形成する形成工程と、前記圧力室プレートに対して前記アクチュエータと反対側に位置するように、前記圧力室プレートよりも大きいヤング率の材料からなる圧力室支持部材を固定する固定工程とを備えたことを特徴とする。
【0016】
このインクジェットヘッドの製造方法では、圧力室は金属製の圧力室プレートに形成されるので、圧力室プレートを高精度な寸法精度で形成でき、高い歩留まりを実現できる。また、圧力室支持部材には圧力室が無く、圧力室支持部材は、圧力室プレートよりも大きいヤング率の材料によって形成されるので、高精度な加工が不要になり、従来の加工法で高剛性を実現できる。
【0017】
また、前記形成工程において、前記圧力室となる部分を、前記圧力室プレートをエッチング加工することによって形成しても良い。この場合には、圧力室プレートをエッチング加工することにより、容易に高精度な圧力室のパターン形成が可能となる。また、エッチング加工の時間で圧力室の深さを制御でき、したがって、圧力室の深さの設計自由度を高くできる。
【0018】
また、前記形成工程において、前記圧力室プレートに対するエッチング加工量を前記圧力室プレートの厚さよりも小さくしても良い。この場合には、個々の圧力室の壁面が圧力室の底部で繋がることにより、圧力室プレート単体でも圧力室形状を維持することができ、圧力室プレートを圧力室支持部材上に位置決めし、組み付ける際の取扱いが容易になる。すなわち、圧力室プレートを圧力室支持部材に組み付ける際に、圧力室プレートにかかる負荷を気にする必要がなく、作業効率を向上することができる。
【0019】
また、前記形成工程において、前記圧力室プレートに対するエッチング加工により前記圧力室プレートを板厚方向に貫通しても良い。この場合には、圧力室プレートの圧力室の溝は貫通させれば良いので、圧力室プレートの加工が容易になる。また、板厚の精度で圧力室の深さが決まるので、高精度でばらつきの小さい深さ寸法を、安定して容易に達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】インクジェット記録装置1の全体的な構成を示した斜視図である。
【図2】インクジェットヘッド10の分解斜視図である。
【図3】インクジェットヘッド10の図2に示すX−Xにおける断面図である。
【図4】インクジェットヘッド10の図2に示すY−Yにおける断面図である。
【図5】第二実施の形態のインクジェットヘッド10の図2に示すX−Xにおける断面図である。
【図6】第二実施の形態のインクジェットヘッド10の図2に示すY−Yにおける断面図である。
【図7】インクジェットヘッド10の製造工程を示すフローチャートである。
【図8】従来のインクジェットヘッド110の断面図である。
【図9】従来のインクジェットヘッド110の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。第1の実施の形態では、本発明に係るインクジェットヘッド、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの製造方法を、公知の布帛印刷用のインクジェット記録装置1(図1参照)として実装した場合を例に説明する。
【0022】
まず、図1を参照して、Tシャツ等の布帛を印刷するインクジェット記録装置1について説明する。図1に示すように、インクジェット記録装置1は、左右方向を長手方向とする略直方体形状の筐体3を有し、その底面の略中央に、前後方向に向かう二本のレール4が列設されている。二本のレール4は、筐体3の垂直方向に立ち上げられた図示外の基部上にそれぞれ支持されており、その上部に、レール4に沿って筐体3の前後方向に移動可能な平板状のプラテン支持台(図示外)を支えている。そして、プラテン支持台の略中央に垂直に立ち上げられた支柱の上端には、取り換え可能なプラテン5が固定されている。
【0023】
プラテン5は、平面視、筐体3の前後方向を長手方向とする略長方形状の板体であり、その上面に、例えばTシャツなどの布帛からなる被記録媒体を水平に載置するためのものである。そして、プラテン支持台を移動させるためにレール4が設けられたプラテン駆動機構の後端部にはプラテン駆動モータ7が設けられて、このプラテン駆動モータ7の駆動によって、プラテン支持台がレール4に沿って筐体3の前後方向に移動する。
【0024】
また、筐体3の前後方向の略中央で、かつ、プラテン5の上方の位置にて、筐体3の両側面間には、インクジェットヘッドユニット2を搭載したキャリッジ22の移動を案内するためのガイドレール9が架設されている。インクジェットヘッドユニット2は、第二ベース部材80を介してキャリッジ22に螺子止め固定されている。そして、ガイドレール9の左端付近に設けられたキャリッジモータ24の駆動によって、キャリッジ22がガイドレール9に沿って筐体3の左右方向に往復移動される。
【0025】
また、本実施形態のインクジェット記録装置1では、シアンインク,マゼンタインク,イエローインク,ブラックインクが用いられている。そこで、インクジェット記録装置1の左側面には、各インクを収容した4つのインクカートリッジを装着可能に収容するためのインクカートリッジ収容部8が設けられている。そして、各インクカートリッジ収容部8にはそれぞれ可撓性を有するインク供給用チューブ6が連結されており、各インク供給用チューブ6を介して各色のインクジェットヘッドユニット2に供給される。
【0026】
キャリッジ22には、4つのインクジェットヘッドユニット2が搭載されている。各インクジェットヘッドユニット2は、各インクを噴射するための、噴射チャンネル(図示外)を例えば128個ずつそれぞれ備えており、各噴射チャンネルには、各々個別に駆動される圧電アクチュエータ(図示外)が設けられ、各噴射チャンネルに対応してインクジェットヘッドユニット2の底面のノズルプレート20に孔設された微細なノズル孔21(図3)から下向きに、インク液滴が噴射されるように制御されている。
【0027】
次に、インクジェットヘッドユニット2に設けられるインクジェットヘッド10の構造について説明する。図1に示すように、インクジェットヘッドユニット2には、インク供給用チューブ6から供給されるインクを一時的に貯留するサブタンク25が設けられており、第二ベース部材80によりキャリッジ22に固定されている。そして、インクジェットヘッドユニット2の下部に図2に示すインクジェットヘッド10が設けられている。
【0028】
次に、図2から図7を参照して、第一及び第二実施の形態のインクジェットヘッド10の構造を説明する。インクジェットヘッド10は、ノズルプレート20、圧力室支持部材30、圧力室プレート40、ダイアフラム50、圧電素子ユニット60、第一ベース部材70及び第二ベース部材80を積層して構成されている。
【0029】
初めに、ノズルプレート20について説明する。図2に示すように、ノズルプレート20は、セラミック製の板状基板から構成されており、複数のノズル孔21が均等に2列に微細加工により形成されている。この複数のノズル孔21が形成されたノズルプレート20の表面(下面)が、インクを下方に向けて吐出するためのノズルとして機能する。
【0030】
次に、圧力室プレート40について説明する。圧力室プレート40は、図2に示すように平面視長方形の金属製の薄板から構成されている。圧力室プレート40には、図2及び図3に示すように、ノズル孔21にインクを供給するためのインク出口44がノズルプレート20のノズル孔21の配列に対応して均等に2列形成されている。また、インク出口44に各々接続された圧力室43が圧力室プレート40の長手方向と直交する方向に複数各々延設されている。図3に示すように、この圧力室43は、圧力室プレート40に形成された溝部であり、底部45を残した溝として形成しても良いし、図5及び図6に示す第二実施の形態のように、底部45がない圧力室プレート40の厚み方向に貫通した溝部としても良い。
【0031】
また、圧力室プレート40には、各圧力室43へインクを供給するインク供給路41が、圧力室プレート40の長辺に沿っての長手方向に2本各々延設されている。圧力室プレート40の材質の一例としては、ステンレス鋼板や42合金の金属板を使用する。42合金は、Ni:42w%で残りはFeの組成であり、不可避不純物としてCo、Si、Ti、Mo、Mn、C等が含まれている。42合金は42アロイ(42Alloy)と称されることもある。42合金は熱膨張係数が金属の中で低く、硬質ガラスやセラミックスに近い事から、セラミックス等と接合しても温度変化による反りや剥離が起こりにくい圧力室プレート40を実現できる。また、ステンレス鋼は耐食性が高いため、使用可能なインクの選択範囲を広く取ることができる。さらに、圧力室プレート40は、エッチング加工により、圧力室43の溝部、インク供給路41、インク出口44を一度に形成すれば高精度に各部分を形成できる。また、圧力室43を圧力室プレート40の板の厚み方向に貫通する場合には、前記圧力室プレート40に対するエッチング加工を圧力室プレート40を貫通するまで行えばよい。また、圧力室43の底部45を残す場合には、圧力室43の底部45を残す所望の深さまでエッチング加工をした後に、圧力室43部分をマスクして、インク供給路41及びインク出口44を圧力室プレート40の板の厚み方向に貫通するまでエッチング加工すれば良い。
【0032】
次に、圧力室支持部材30の構成について説明する。圧力室支持部材30は、図2に示すように、平面視長方形の高剛性セラミック部材の板材から構成され、圧力室プレート40を支えて変形を防止する。圧力室支持部材30には、図2及び図3に示すように、ノズル孔21にインクを供給するためのインク出口孔33がノズルプレート20のノズル孔21の配列に対応して均等に2列形成されている。このインク出口孔33は、圧力室支持部材30を板厚方向に貫通しており、ノズルプレート20とは反対の面で、圧力室プレート40のインク出口44に対応した位置に形成されている。また、圧力室支持部材30には、図2及び図3に示すように、インク供給路31が形成され、圧力室プレート40のインク供給路41とともに、圧力室43へインクを供給する共通インク室を構成している。
【0033】
次に、圧力室支持部材30を構成する高剛性セラミック部材について表1を参照して説明する。圧力室支持部材30としては、圧力室プレート40よりもヤング率の高いセラミック部材を用いる。例えば、圧力室プレート40にステンレス(ヤング率:200Gpa)や42合金(ヤング率:150Gpa)を用いる場合には、これより、ヤング率の高い高剛性セラミック部材を用いる。例えば、炭化ケイ素(ヤング率:430Gpa)、アルミナ(ヤング率:370Gpa)、窒化ケイ素(ヤング率:290Gpa)等を用いることができる。この場合には、圧力室支持部材30のヤング率を圧力室プレート40よりも大きくして圧力室支持部材30を高剛性化し、圧力室プレート40の変形を防止できる。尚、タングステン(ヤング率:407Gpa)、モリブデン(ヤング率:330Gpa)、超硬合金(ヤング率:500〜640Gpa)といった高剛性金属材料も圧力室支持部材30に使用することはできるが、価格が高く、また、加工しにくいという問題点がある。
【表1】

【0034】
また、異種材料2層の貼り合せでは、熱膨張係数の違いによる寸法精度の不良や反りの問題が考えられる。ステンレス(線膨張係数:17×10−6/℃)を圧力室プレート40に用いた場合には、圧力室支持部材30に、炭化ケイ素(線膨張係数:6.6×10−6/℃)やアルミナ(線膨張係数:7.2×10−6/℃)を用いれば、熱膨張係数の差は2〜3倍程度なので、低温での貼り合せや熱膨張を見込んだ設計によって寸法精度の不良や反りを防止できる。また、42合金(線膨張係数:4.5〜6×10−6/℃)を圧力室プレート40に用いた場合には、線膨張係数が低く、炭化ケイ素(線膨張係数:6.6×10−6/℃)やアルミナ(線膨張係数:7.2×10−6/℃)、窒化ケイ素(線膨張係数:2.6×10−6/℃)のいずれとも熱膨張係数の差が小さいので、炭化ケイ素、アルミナ、窒化ケイ素を圧力室支持部材30に用いれば、熱膨張係数の違いによる寸法精度の不良や反りの問題が生じにくい。
【0035】
次に、ダイアフラム50について説明する。図2及び図3に示すように、ダイアフラム50は、平面視長方形の薄板材から構成され、圧力室プレート40の圧力室43の蓋の役割と、振動板の役割を果たすものである。ダイアフラム50としては、金属の薄板を用いることができ、一例としては、銅板やステンレスの薄板等を用いることができる。ダイアフラム50には、圧力室支持部材30のインク供給路31へのインクを通過させるインク通過口51が4箇所四隅に設けられている。
【0036】
次に、圧電素子ユニット60について説明する。図2及び図3に示すように、圧電素子ユニット60は、平面視長方形の板状に形成され、圧力室プレート40の各圧力室43に対応する位置に各々圧電素子活性部62が設けられており、電圧の印加によりアクチュエータとしてダイアフラム50を変形させて圧力室43のインクに対して加圧又は減圧するようになっている。この圧電素子ユニット60には、圧力室支持部材30のインク供給路31へのインクを通過させるインク通過口61が4箇所四隅に設けられている。圧電素子活性部62が圧力発生部に相当し、圧電素子ユニット60がアクチュエータに相当する。
【0037】
次に、第一ベース部材70について説明する。図2及び図3に示すように、第一ベース部材70は、平面視長方形の板状に形成され、圧電素子ユニット60を第二ベース部材80に固定するスペーサの役目と第二ベース部材80のインク通過口81からのインクを圧電素子ユニット60のインク通過口61に振り分ける流路の役目をするものである。第一ベース部材70には、圧電素子ユニット60の各インク通過口61へインクを通過させるインク流路71が第一ベース部材70の長手方向の端部近傍に各々に設けられている。
【0038】
次に、第二ベース部材80について説明する。図2及び図3に示すように、第二ベース部材80は、平面視長方形の部分と長方形の部分の長手方向の端部から各々延設された部分とからなる金属製の板材である。また、第二ベース部材80の長手方向の端部近傍には、各々、U字状の切欠84及び螺子孔83が設けられている。第二ベース部材80は、切欠84及び螺子孔83を利用してインクジェットヘッド10をキャリッジ22に固定する固定部材の役目を果たすものである。第二ベース部材80の材質の一例としては、剛性のあるステンレス鋼板等を用いれば良い。第二ベース部材80には、第一ベース部材70の各インク流路71にインクを通過させるインク通過口81が第二ベース部材80の長手方向の端部近傍に各々に設けられている。尚、上記のインクジェットヘッド10には、圧電素子ユニット60に対する図示外の配線等がなされている。
【0039】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法について、図7に示すインクジェットヘッド10の製造工程のフローチャートを参照して説明する。このインクジェットヘッド10の製造工程では、まず、圧力室プレート形成工程を行う(S11)。この圧力室プレート形成工程では、圧力室プレート40を金属シート材をエッチング加工して形成する。圧力室プレート40の材質としては、ステンレス鋼板や42合金のシート材を用いる。シート材の厚みは、形成する圧力室の深さに対応したものを用いる。ここで、圧力室プレート40のエッチング加工は、図3及び図4に示すように、エッチング加工量を圧力室プレート40の厚さよりも小さくして圧力室43の底部45を残すハーフエッチングとしても良い。また、エッチング加工量を圧力室プレート40の厚さと同じにして底部45を残さず、圧力室プレート40の板厚方向に圧力室43を貫通するフルエッチングとしても良い。
【0040】
次に、圧力室プレート形成工程(S11)で形成した圧力室プレート40と、予め高剛性セラミック素材をCIM(セラミックインジェクションモールド)工法によって形成した圧力室支持部材30との接着による固定工程を行う(S12)。接着剤の一例としては、エポキシ系の接着剤を用いることができる。
【0041】
インクジェットヘッド10の製造工程では、上記の2つの工程と平行して、予め形成しておいた第一ベース部材70と第二ベース部材80との接着工程を行う(S21)。接着剤の一例としては、エポキシ系の接着剤を用いれば良い。次に、第二ベース部材80に接着した第一ベース部材70に圧電素子ユニット60を接着する(S22)。その後、圧電素子ユニット60にダイアフラム50を接着する(S23)。
【0042】
次いで、一体化工程(S31)を行う。上記のS11とS12で形成した圧力室支持部材30を接着した圧力室プレート40と、S21、S22、S23の工程で形成したものを一体化になるように接着する(S31)。接着剤の一例としては、エポキシ系の接着剤を用いれば良い。次いで、一体化したユニットの圧力室支持部材30の下面側にノズルプレート20を接着する(S32)。接着剤の一例としては、エポキシ系の接着剤を用いれば良い。
【0043】
以上説明したインクジェットヘッド10の製造方法により、図2から図4に示す第一実施の形態のインクジェットヘッド10及び図5及び図6に示す第二実施の形態のインクジェットヘッド10が製造できる。
【0044】
上記の実施の形態のインクジェットヘッド10では、圧力室プレート40を金属シート材のエッチングによって形成することにより、高精度な寸法精度の圧力室43を形成できる。また、圧力室プレート40を高い歩留りで低コストに形成できる。さらに、従来と異なり圧力室43が圧力室支持部材30に形成されないので、圧力室支持部材30には、高精度な加工が不要となり、圧力室支持部材30は高剛性なアルミナ等のセラミック材料で形成できる。従って、従来の微細加工のために高コストとなっていた部品コストを大幅に低減できる。また、異種材料2層の貼り合せでは、熱膨張係数の違いによる寸法精度の不良や反りの問題が起こるが、低温での貼り合せや熱膨張を見込んだ設計によって解決することができ、低コストで高精度且つ剛性の高いインク室が得られる。これによって、高粘度インクに対応可能なインクジェットヘッドのコストダウンが実現できる。
【0045】
なお、本発明は、以上詳述した実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能なことはいうまでもない。
【0046】
例えば、上記実施形態では、インクジェットヘッド10を用いるインクジェット記録装置1は、布帛を印刷するものを例に説明したが、インクジェット記録装置1は、布帛を印刷するものに限られず各種用途のインクジェット記録装置に適用できる。
【0047】
また、図7に示すインクジェットヘッド10の製造工程は、一例に過ぎず、S21からS23の工程をS11及びS12の工程より先にやっても良いし、同時にやっても良い。また、圧力室支持部材30や圧力室プレート40は、上記の例に限られず、圧力室支持部材30のヤング率が圧力室プレート40のヤング率より大きくなるもので、線膨張係数の差が大きくないものを選べば適宜の材料を使用できる。また、圧力室支持部材30は、炭化ケイ素、アルミナ、窒化ケイ素の何れか一つを焼成したものでも、また、これらの少なくとも一つを主成分とし、他の成分を含むものでも良い。
【符号の説明】
【0048】
1 インクジェット記録装置
2 インクジェットヘッドユニット
10 インクジェットヘッド
20 ノズルプレート
21 ノズル孔
30 圧力室支持部材
31 インク供給路
33 インク出口孔
40 圧力室プレート
41 インク供給路
43 圧力室
44 インク出口
45 底部
50 ダイアフラム
60 圧電素子ユニット
62 圧電素子活性部
70 第一ベース部材
80 第二ベース部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部にインクを吐出する複数のノズルと、当該複数のノズルからインクを吐出するのに必要な圧力を前記インクに加えるための複数の圧力室と、前記各圧力室に圧力を各々与える複数の圧力発生部を備えたアクチュエータを有するインクジェットヘッドであって、
前記圧力室は、金属製の圧力室プレートに形成され、
当該圧力室プレートに対して前記アクチュエータとは反対側に、当該圧力室プレートを支持する圧力室支持部材が設けられ、
当該圧力室支持部材は前記圧力室プレートよりも大きいヤング率の材料によって形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記圧力室プレートを42合金又はステンレス鋼で形成したことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記圧力室支持部材を炭化ケイ素、アルミナ、窒化ケイ素の少なくとも一つを含む高剛性セラミックス材料で形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記圧力室支持部材をタングステン、モリブデン、超硬合金の少なくとも一つを含む高剛性金属材料で形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記圧力室の深さが前記圧力室プレートの厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記圧力室の深さが前記圧力室プレートの厚さに等しいことを特徴とする請求項1乃至4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載のインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置。
【請求項8】
外部にインクを吐出する複数のノズルと、当該複数のノズルからインクを吐出するのに必要な圧力を前記インクに加えるための複数の圧力室と、前記各圧力室に圧力を各々与える複数の圧力発生部とを備えたアクチュエータを有するインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記圧力室となる部分を、金属製の圧力室プレートに形成する形成工程と、
前記圧力室プレートに対して前記アクチュエータと反対側に位置するように、前記圧力室プレートよりも大きいヤング率の材質からなる圧力室支持部材を固定する固定工程とを備えたことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記形成工程において、前記圧力室となる部分を、前記圧力室プレートをエッチング加工することによって形成することを特徴とする請求項8に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記形成工程において、前記圧力室プレートに対するエッチング加工量を前記圧力室プレートの厚さよりも小さくしたことを特徴とする請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記形成工程において、前記圧力室プレートに対するエッチング加工を前記圧力室プレートを貫通するまで行うことを特徴とする請求項9に記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−207098(P2011−207098A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77836(P2010−77836)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】