説明

インクジェットヘッドおよびそれを搭載したインクジェット装置

【課題】液滴を吐出する液滴吐出装置において、長時間の液滴吐出停止を行った際に、ノズルを詰まらせず、装置を大型また複雑にせずに産業用途へ適用できる液滴吐出ヘッドおよびそれを搭載したインクジェット装置を提供すること。
【解決手段】液滴を吐出するノズル近傍に、気体を噴流する噴流口を設けて、長時間の吐出を停止する際に気体を噴流する口から気体を流し、ノズル近傍へ周囲からの気流が直接当たらないようにすることで、記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出安定化へ向けた液滴吐出装置の構造に関し、特にインクジェットヘッドおよびそれを搭載した装置に適用される。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドおよびそれを搭載した装置は、民生用の印刷機としてパーソナルコンピュータとともに普及し、発展してきた。近年では民生用の技術をもとに、テキスタイル分野、エレクトロニクス分野、バイオロジー分野など広く産業用途へ展開され、一部は実用化されている。
【0003】
産業用途へ展開された理由として、インクジェット装置を用いることで必要とされる場所に必要な量だけ塗布出来る、いわゆるダイレクトパターニングが可能という利点が挙げられる。エレクトロニクス分野で言えば、フォトリソグラフィーなどのウェットプロセスに比べて、材料利用効率の向上、プロセスの短縮、製造期間の短縮などの利点が挙げられる。
【0004】
エレクトロニクス分野での具体的な適用例としては、例えば、銀や銅など金属をナノ粒子化したインクを用いた微細な配線形成や、液晶ディスプレイのカラーフィルターや配向膜の作成、有機EL素子、有機半導体、有機太陽電池などの有機材料を用いた電子デバイス作成などが挙げられる。
【0005】
一般にインクジェット装置は、有機化合物や微粒子化した無機化合物など機能材料を有機溶媒や水などに溶解または分散させたインクに、圧電素子の変形やサーマル素子によって発生させた気泡を用いて運動エネルギーを与える。そして15〜45μmほどのノズル孔から断続的に微小液滴を吐出し、目的とする基材へ液滴を塗布する装置である。
【0006】
このようなインクジェットに代表される滴滴吐出装置では、液滴を吐出している以外ではノズル孔の部分からインクを構成する溶媒が常に蒸発している。そのために時間経過とともに、ノズル近傍の材料粘度が上昇する。この粘度上昇により、まず吐出液滴の速度低下や吐出量の減少、飛翔方向異常などの吐出不良が見られる。さらに蒸発が進むとノズル孔が詰まってしまい不吐出という現象が観察される。このような現象が起きた場合には、一般的にヘッド内部のインクをインク供給側から加圧したり、ノズル外側から吸引したりすることでノズル孔に詰まった材料を取り除く操作を行う。
【0007】
しかしながら、詰まりの程度が高い場合では、この操作を行なっても詰まりを取り除けないことがある。全てのノズル孔を使用できないことで、塗布回数が増えて生産性が低下し、ノズル孔が詰まっている箇所の周辺は、吐出量が少なくなるので塗布した膜面にスジやムラなどの不良現象が発生する。つまり一部のノズルが詰まるだけで要求される生産性と品質を満足させることができなくノズルヘッド交換が必要となり、装置稼動コストが増大する。
【0008】
そのために、従来から液滴の吐出を行なわない場合にノズル孔の乾燥を防ぐことは重要であり、例えば、ノズルを有するノズルヘッド全体へキャップを行う方法が知られている。更に、そのキャップ内へ溶媒を供給することで、ノズル孔の乾燥を防ぐ方法が開示されている。
【0009】
この方法を図1にて説明する。図1において、1はノズルヘッド、2はヘッドキャップ、3はインク吸湿剤、4は加熱部材、5はインク排出チューブ、6はインク排出ポンプ、7は弁、8は第2インク供給チューブ、9は第2インク供給ポンプ、10は第2インクタンク、11は第2インク、12はヘッドキャップ押し付け機構である。
【0010】
一定時間吐出を行わない時は、ヘッドキャップ2をノズルヘッド1に押し付けて密閉させることで、ノズルヘッド1にあるノズル孔(図示せず)の乾燥を防止する。更に、ノズル孔の乾燥防止効果を高めるために、インク吸湿剤3にノズルヘッド1で使用する第1インクを湿らせておく。さらにノズルヘッド1で使用する第1インクより揮発性の高い第2インクをキャップ2へ供給し、加熱部材4を加熱する。これによりインク吸湿剤3からの溶媒の蒸発を促進し、より短時間でヘッドキャップ内を溶媒の飽和蒸気で満たすことで、ノズル孔の乾燥を防止することができると開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−205412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、液滴吐出装置のノズル孔の乾燥を防ぐ方法として、この方法を産業用途に適用した場合には、問題があり実用化は困難であった。その理由を以下に説明する。
【0013】
一例としてエレクトロニクス分野での適用、例えば有機EL表示装置の作成にインクジェットを用いた場合を考える。
【0014】
有機EL表示装置は、有機化合物の電界発光現象を利用した発光表示装置である。典型的な有機EL表示装置は、基板上に駆動回路、陽極、発光機能層、陰極を積層することで作製される。発光機能層には、有機化合物からなる発光層と共に、電子注入層、電子輸送層、正孔注入層、正孔輸送など複数の機能層のうちの1つ以上が積層される。このような構成において、陽極および陰極から正孔輸送層などを介して発光層へ電荷が注入され、注入された電荷が発光層内で再結合することによって発光が生じる。
【0015】
インクジェットでこれらの発光機能層の材料を有機溶媒へと溶解させたインクを塗布し、乾燥させることで発光機能層が形成される。
【0016】
このような有機EL表示装置に用いられるインクジェットヘッドの長さは、マザーガラス基板からの多面取りが可能であり、一回の走査でテレビ全面を塗布できるサイズであると言う生産性を考慮すると、1m〜2m長必要であり、ヘッドキャップも同様の長さが必要である。
【0017】
また、有機溶媒を用いたインクを使用することで、ヘッドキャップ部分の液に接する箇所に樹脂材料を用いることは出来ない。これは有機溶媒により樹脂が溶解し、樹脂に含まれていた成分も同じく揮発して、塗布されるべき基材に汚染が起こり、デバイス性能が劣化するためである。また、直接的に有機溶媒に接していなくとも、揮発した有機溶媒蒸気により樹脂材料の溶解は起こる。そのためヘッドキャップは金属材料で作る必要があり、ヘッドキャップはかなりの重量物となる。この重量物のヘッドキャップを上下に動作させ、ノズルヘッド面と隙間なくまた傷をつけずにヘッドキャップをノズルヘッドに押し付けるためには、ヘッドキャップ側にバネ機構が必要である。
【0018】
このバネ機構とインクジェットヘッドの長さにより、装置として非常に大きく複雑な構造を取るために信頼性が低くなる。また、装置面積が広くなるので、面積生産性が劣ることになる。
【0019】
また、ノズルヘッド、若しくは、ヘッドキャップ側にOリングと呼ばれるゴム材料からなる弾性体を設けて、両者の密着性を上げると共に、押し付け時の衝撃を吸収している。有機EL表示装置の発光機能層に用いられる材料は、その化学構造内にベンゼン官能基を持つものが多く、これらの材料を溶かすにはトルエンやアニソールなど同じくベンゼン官能基を持つベンゼン誘導体を複数混合して使用する。これらに耐性があるゴム材料は一般的に少ない。フッ素原子を含有するものは、短期的には耐性があるが、長期的な劣化(溶解、膨潤、亀裂など)は避けられない。また、これらのフッ素系材料はその剛性から成形が難しいため、製品としての価格は高くなる。この高価な交換コストは装置を使う限り、永久に続く。
【0020】
すなわち、現状産業用途に用いているインクジェットヘッドのノズル孔の詰まりを防止しようとすると、非常に高価で、生産性に劣る装置となっている。この問題は、インクジェットだけに限らず、ダイコートやディスペンサーなどノズル孔が存在する塗布装置において、塗布していない時に共通して生じる問題であると考えられる。
【0021】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、液滴を吐出していない時のノズル近傍の気流および溶媒雰囲気に着目して、重く大きく複雑な装置構造にならずしてもノズル孔の乾燥を防ぎ、安定に吐出できるインクジェットヘッドおよびそれを搭載したインクジェット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、以下に記載する液滴吐出装置、特にインクジェットヘッドおよび装置に関する。
【0023】
[1]液滴を吐出するノズルと、前記ノズル周辺にノズルを囲むように配置された気体を噴流する噴流口と、気体を噴流させる制御装置を有することを特徴とするインクジェット装置。
【0024】
[2]そして、液滴を吐出してない待機時間に、気体を噴流する噴流口から気体を噴流させることを特徴とするインクジェット装置。
【0025】
[3]そして、気体を噴流させる噴流口の形状が、丸孔や長孔など孔形状もしくはスリット状であることを特徴とするインクジェット装置。
【0026】
[4]そして、気体の噴流口からの気流が、ノズルを有するヘッド下部において交差させるように気体噴流口を設けたインクジェット装置。
【0027】
[5]そして、噴流させる気体に吐出する液体を構成する溶媒の蒸気を含ませることを特徴とする。
【0028】
[6]そして、噴流させる気体に吐出する液体を構成する数種類の溶媒のうち、沸点が低いものを含ませることを特徴とする。
【0029】
[7]液滴を吐出するノズルと、前記ノズル周辺にノズルを囲むように配置された気体を噴流する噴流口とその制御装置と、前記ノズル周辺に有機溶媒を含ませた気体を噴流する噴流口とその制御装置を有することを特徴とするインクジェット装置。
【0030】
[8]液滴を吐出しないときは、液滴を吐出する吐出ヘッドを、気体を噴流する気体噴流ヘッドへ収めることを特徴とするインクジェット装置。
【0031】
[9]そして、液滴を吐出してない待機時間に、気体を噴流する噴流口から気体を、吐出ヘッド周囲を覆うように噴流させることを特徴とするインクジェット装置。
【0032】
[10]そして、噴流させる気体に吐出する液体を構成する溶媒の蒸気を含ませることを特徴とする。
【0033】
[11]液滴を吐出するノズルと、前記ノズル片側に配置された気体を噴流する噴流口とその制御装置と、ノズルを介してノズル噴流口と逆側に気体を吸引する吸引口とその制御装置を有することを特徴とするインクジェット装置。
【0034】
[12]そして液滴を吐出してない待機時間に、気体を噴流する噴流口から気体を噴流させ、その気体を気体吸引口へと吸引することを特徴とするインクジェット装置。
【0035】
[13]そして噴流させる気体に吐出する液体を構成する溶媒の蒸気を含ませることを特徴とするインクジェット装置。
【発明の効果】
【0036】
本発明の構成によると、液滴を吐出していない状態でもノズル孔の乾燥を防ぐことが十分できるので、確実に不吐出を減らすことができる。その結果、ノズル交換コストを低減し、さらに安定に吐出できるので、歩留まりを上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ノズルの乾燥を防ぐ従来の方法を示す図
【図2】本発明の実施形態1における液滴吐出装置の構成を示す図
【図3A】本発明の液滴吐出ノズルの構成例を示す図
【図3B】本発明の液滴吐出ノズルの構成例を示す図
【図3C】本発明の液滴吐出ノズルの構成例を示す図
【図3D】本発明の液滴吐出ノズルの構成例を示す図
【図4A】本発明の実施形態1における動作フローを示す図
【図4B】本発明の実施形態1における動作フローを示す図
【図4C】本発明の実施形態1における動作フローを示す図
【図4D】本発明の実施形態1における動作フローを示す図
【図4E】本発明の実施形態1における動作フローを示す図
【図4F】本発明の実施形態1における動作フローを示す図
【図5A】本発明の気体噴流口の構成例を示す図
【図5B】本発明の気体噴流口の構成例を示す図
【図5C】本発明の気体噴流口の構成例を示す図
【図6】本発明の実施形態1における液滴吐出ノズルと気体噴流口の関係を示す断面図
【図7】本発明の実施形態1における液滴吐出ノズルと気体噴流口と溶媒蒸気噴流口の関係を示す断面図
【図8A】本発明の実施形態1における気体噴流口と溶媒蒸気噴流口の構成例を示す図
【図8B】本発明の実施形態1における気体噴流口と溶媒蒸気噴流口の構成例を示す図
【図8C】本発明の実施形態1における気体噴流口と溶媒蒸気噴流口の構成例を示す図
【図8D】本発明の実施形態1における気体噴流口と溶媒蒸気噴流口の構成例を示す図
【図9】本発明の実施形態2における液滴吐出装置の構成を示す図
【図10】本発明の実施形態2における液滴吐出時の状態を示す図
【図11】本発明の実施形態2における液滴吐出ノズルと気体噴流口の関係を示す断面図
【図12】本発明の実施形態2における液滴吐出ノズルと気体噴流口と溶媒蒸気噴流口の関係を示す断面図
【図13】本発明の実施形態1における集積化吐出ヘッドと気体噴流ヘッドとの構成を示す図
【図14】本発明の実施形態2における集積化吐出ヘッドと気体噴流ヘッドとの構成を示す図
【図15】本発明の実施形態3における液滴吐出ノズルと気体噴流口および吸引口との関係を示す断面図
【図16】本発明の実施形態3における気体の循環の構成を示す図
【図17】本発明の実施形態3における吐出ヘッドへ気体を流す位置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、この発明の好ましい実施形態について、添付図面2から17を参照しながら説明する。なお、参照する図面では、構成を分かりやすくするために実際の縮尺とは異なっている。
【0039】
(実施の形態1)
図2は、本実施の形態1に係る液滴吐出装置の構成を示す図であり、図2(1)は液滴吐出装置の断面図を示し、図2(2)は同装置の上面図である。
【0040】
図2において、吐出ヘッド100には液滴を吐出する複数の液滴吐出ノズル101が設けられている。吐出ヘッド100の周囲には、気体を流すための気体噴流ヘッド200が設けられている。気体噴流ヘッド200には、気体を流す気体噴流口201が設けられている。塗布される基材400を載せるステージ300、ステージ300を動かすステージ動作機構302が設けられている。ステージ300上には、基材400を塗布する前に吐出を安定させるために、捨て打ちエリア301、301´が設けられている。また、これらは装置カバー600内に設置され、装置カバー600内の換気を行なうために外部雰囲気流入口500と内部雰囲気排出口501が設けられている。
【0041】
なお、断面図では簡略のため、吐出ヘッド100の内部構造は、液滴吐出ノズル101のみ、気体噴流ヘッド200の内部構造は気体噴流口201のみを示している。
【0042】
液滴吐出装置が装置カバー600内に設けられている理由の1つ目としては、微小な液滴を吐出するので、外部からの気流を防がなければ液滴飛翔角度が変わるためである。2つ目としては、基材400へのパーティクルの付着を防ぐためである。3つ目としては、吐出するインクは主に有機溶媒からなるために、この有機溶媒蒸気の拡散を防ぐためである。4つ目としては、吐出ヘッド100やステージ300が温度変化を受けると、液滴の基材400に対する着弾精度が悪化するために、装置を温度一定にするためである。
【0043】
図3は、吐出ヘッド100と気体噴流ヘッド200の関係をノズルの吐出された側から見た状態を示す。
【0044】
図3Aに示すように、吐出ヘッド100の周囲に気体噴流ヘッド200が取り囲んでおり、液滴吐出ノズル101の周囲に、気体噴流口201を配置されている。また、液滴吐出ノズル101は、図3Bに示すように複数列並んでいても良い。図3Cや図3Dに示すようにノズルを互い違いに配列しても良い。なお、図3では液滴吐出ノズル101の形状を円状に示しているが楕円や正方形でも良い。
【0045】
以下、実施の形態1における動作を説明する。図4Aから図4Fに動作フローを示す。
【0046】
1)第1ステップでは、吐出ヘッド100が吐出しない状態に有り、図4Aに示すように気体噴流口201から気体202が流れている。気体噴流口201から気体202の流れは、吐出ヘッド100の周囲を覆い鉛直下向きに向かっている。この気体202の流れにより、ヘッドへ直接当たる気流の流れが抑制される。
【0047】
通常、カバー600内の環境を保つために、外部雰囲気流入口500によって装置内吸気が行なわれ、内部雰囲気排出口501から排気を行なっている。排出された有機溶媒の蒸気は活性炭などで吸着されて再度雰囲気流入口500からカバー600内へ戻される。このために装置内には気流が発生している。またステージ300が基板400を乗せるためや、基板400のアライメントマークを読み取るためなどに動作することにより、装置カバー600内で気流が発生し、吐出ヘッド100に微小ながら気流が当たるようになっている。この気流の流れにより、ノズル孔部分からインクを形成している有機溶媒が蒸発を始めることで、液滴吐出ノズル101内の材料粘度が上昇し、ノズル孔の詰まりが発生する。
【0048】
しかしながら、本発明を用いればこれらの装置内の吸排気に伴う気流や、ステージ300が動作することによる気流が、吐出を停止している液滴吐出ノズル101に触れることが無いので、ノズル孔の乾燥を防ぐことができる。
【0049】
2)第2ステップでは、図4Bに示すように、基材400を乗せたステージ300が移動を行ない、捨て打ちエリア301がヘッド100の下部に来たときに、気体202の噴流を止めて液滴吐出を行い、液滴102が吐出される。捨て打ちエリア301を過ぎる時には、再び、吐出は停止する。
【0050】
3)第3ステップでは、図4Cに示すように、基材400に到着したときに、目的とする塗布パターンとなるように液滴102の吐出を行なう。液滴102の吐出タイミングを目的とする塗布パターンに合せて基板400に着弾させることで、塗布パターン103が得られる。
【0051】
4)第4ステップでは、図4Dに示すように、捨て打ちエリア301´に再び吐出を行い吐出停止する。
【0052】
この状態で、基材400全面に塗布できていれば、図4Aの示すようにステージ300が待機位置に戻り、吐出ヘッド100からの吐出を止めて気体噴流口201から気体202を噴流させて次の基材400が投入されるまで、この状態を維持する。また、基材400に対して、複数回塗布する必要がある場合は、第4ステップに第5ステップを追加する。
【0053】
5)第5ステップでは、図4Eに示すように、吐出ヘッド100が捨て打ちエリア301´の吐出が終った後に、吐出ヘッド100の吐出を停止して、吐出ヘッド100をY方向(紙面奥側)へ移動させる。
【0054】
そして第2ステップから第4ステップを繰り返し、基板400全面で目的とする塗布パターン103を形成する。そして基材400全面に塗布できていれば、図4Aの示すように、ステージ300が待機位置に戻り、吐出ノズル100の停止を止めて気体噴流口201から気体202を噴流させて、次の基材400が投入されるまでこの状態を維持する。
【0055】
この気体202の流れは、整流であり流速は0.1m/sから0.5m/sが好ましい。0.1m/s以上あれば、カバー600内の急排気に伴い発生する気流やステージ300が動作することによる起きる気流より大きいので、ノズル面に気流が当たるのを確実に防ぐことができる。0.5m/s以上であると、装置内のパーティクルを撒き散らすことになり好ましくない。また、気体噴流口の形状であるが、図5Aや図5Bに示すように、丸孔や長孔など孔状で無く複数のスリットを設けた気体噴流スリット203を用意しても良い。なお、吐出ノズルの配置は先に示した図3Aから図3Dでもよい。
【0056】
更に、気体噴流ヘッド200から気体を噴流する向きは、吐出ヘッド100下部において、図6に示すように気体204が交差する向きに設けるとより効果がある。このことで液滴吐出ノズル101が、装置内の吸排気に伴う気流やステージ300の動作による気流の影響を受けないようになる。さらにこの気体204によって、液滴を吐出していないときに液滴吐出ノズル101から僅かに蒸発している溶媒蒸気を気体204と吐出ヘッド100に囲まれる内部に留めることができる。この両者の効果により、液滴吐出ノズル101の乾燥を防ぐ方法として確実である。
【0057】
また、気体202や204の発生源としては、ドライエアーやドライ窒素ガスが良い。これは、装置カバー600内の湿度環境を保つためであり、有機EL材料などは湿気により劣化する材料であるからである。更にこの気体202や204にインクに含まれる溶媒を含ませるとより効果的である。例えば、2種類の溶媒を含むインクであれば、低沸点側の有機溶媒を気体202や204に含ませて、吐出停止時に流せば、吐出ヘッド100近傍が素早く溶媒雰囲気なるために、液滴吐出ノズル101の乾燥を更に遅くすることができる。
【0058】
また、気体202、204に含ませずとも、例えば図7に示すように、気体噴流ヘッド200内に溶媒蒸気噴流口205を設けて、溶媒蒸気206を噴流させても良い。
【0059】
図8Aから図8Dにこの吐出ヘッド100と気体噴流ヘッド200と溶媒蒸気噴流口205の関係を、ノズルの液滴が吐出された側から見た状態を示す。
【0060】
吐出ヘッド100の周りに、気体噴流ヘッド200が設けられており、気体噴流ヘッドには気体噴流口201、若しくは気体噴流スリット203、溶媒蒸気噴流口205、若しくは溶媒蒸気噴流スリット207が形成されている。なお、液滴吐出ノズルの配置は、先に示した図3Aから図3Dでのいずれでもよい。
【0061】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について説明する。
【0062】
図9は、本実施の形態2に係る液滴吐出装置の構成を示す図であり、図9(1)は該液滴吐出装置の断面図を示し、図9(2)は同装置の上面図を示すものである。なお、本実施の形態の実施の形態1との違いは、気体噴流ヘッド200と吐出ヘッド100を別に分離した状態である。その他は基本的に同様な構成である。
【0063】
吐出ヘッド100には、液滴を吐出する複数の液滴吐出ノズル101が設けられている。気体噴流ヘッド200には、気体を流す気体噴流口201が設けられている。気体噴流ヘッド200は、気体噴流ヘッド動作機構700に固定されている。塗布される基材400を載せるステージ300、ステージ300を動かすステージ動作機構302が設けられている。ステージ300上には初期吐出を行い、塗布を安定させるために捨て打ちエリア301、301´が設けられている。またこれらは装置カバー600内に設置され、装置600内の換気を行なうために外部雰囲気流入口500と内部雰囲気排出口501が設けられている。
【0064】
実施の形態2における動作は実施の形態1と基本的に同じ構成である。吐出を停止した状態では図10のように、気体噴流ヘッド800が気体噴流ヘッド動作機構700によって吐出ヘッド100を覆うように移動する。そして、気体噴流ヘッド800の気体噴流口801から気体802を噴流する。
【0065】
また、捨て打ちエリア300や300´や基材400へ塗布する際には、図9に示すように気体噴流ヘッド800は気体噴流ヘッド動作機構700によって、ステージ300と衝突しない位置に戻る。気体噴流ヘッド800から噴流される気体の向きであるが、図11に示すように吐出ヘッド100の下部にて交差する向きに気体噴流口801を設けて、吐出ヘッド100全周が、気体802によって囲まれるようにすると良い。これにより、装置カバー600内の吸排気に伴う気流やステージ300を動かすことによる気流が、吐出を停止している液滴吐出ノズル101に触れることが無いので、ノズル孔の乾燥を防ぐことができる。
【0066】
なお、この気体802に実施の形態1と同様に溶媒蒸気を含ませても良い。図12に示すように、気体噴流ヘッド800内に溶媒蒸気噴流口803を設けて、溶媒蒸気804を噴流させても良い。
【0067】
実施形態1および2において、吐出ヘッド100を集積化した集積化吐出ヘッド900を用いる場合には、図13や図14に示すように集積化吐出ヘッド900の周囲に気体噴流ヘッド200や800を設ければよい。
【0068】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3について説明する。
【0069】
図15は、実施の形態3を説明するための、吐出ヘッド100周囲の構成を示す断面図である。吐出ヘッド100の周囲に、気体噴流ヘッド200が配置され、気体噴流ヘッド200内の片側に気体噴流口201があり、液滴吐出ノズル101に対してその反対側に気体吸引口201´が配置されている。気体噴流口201は吐出ヘッド100より引き込んだ位置に有り、気体噴流口201から液滴吐出ノズル101まで滑らかな面となっている。また気体吸引口201´も吐出ヘッド100より引き込んだ位置に有り、液滴吐出ノズル101から気体吸入口201´までも滑らかな面で形成されている。実施の形態1の気体噴流ヘッド200との違いは、気体噴流ヘッド200内に気体の噴流口201と吸引口201´があることである。
【0070】
なお、本断面図では簡略のため、吐出ヘッド100の内部構造は液滴吐出ノズル101のみ、気体噴流ヘッド200の内部構造は気体噴流口201と気体噴流口201´のみを示している。
【0071】
実施の形態3における動作は、実施の形態1と同様ノズルから液滴を吐出していない状態にて、気体208を気体噴流口201から噴流する。気体208は、気体噴流口201から液滴吐出ノズル101まで形成された滑らかな面を気体が流れることにより起こるコアンダ効果によってこの面に沿って流れ、気体吸引口201´に向かう。この気体208の流れにより、液滴吐出ノズル101表面を気体208が覆うので、カバー600内の吸排気に伴い発生する気流やステージ300が動作することにより起きる気流を防ぐことができ、ノズル孔の乾燥を防ぐことができる。更に液滴吐出ノズル101表面を覆う気流により、ノズル孔へパーティクルが入りにくくもなる。さらに気体吸引口201´から気流を吸い込むことで、よりコアンダ効果が発揮され、ノズル孔の乾燥を防ぐことができる。
【0072】
更に、実施の形態1や実施の形態2にて言及したように、この気体208に溶媒を含ませて気体噴流口201から気体吸引口201´へと流しても良い。実施の形態3の方法によれば、噴流した溶媒雰囲気を吸引するので実施の形態1と2よりも、溶媒の拡散を少なくできると共に、消費量を抑えることができる。図16にこの構成を示す。気体吸引口201´と、ポンプ210と溶媒蒸気を発生させるバブラー209と、気体噴流口201とからなる循環系となっている。
【0073】
ポンプ210から出た気体は、バブラー209内の溶媒211に入り気泡212を発生させる。そしてバブラー209内に充満した溶媒蒸気を含んだ気体は、気体噴流口201へと導かれる。そして気体噴流口201から噴流した気体208は、コアンダ効果により、液滴吐出ノズル101表面を溶媒蒸気雰囲気にするので、ノズル孔にあるインクが乾きにくくなり詰まりを抑制する。そして溶媒蒸気を含んだ気体208は、気体吸引口201´からポンプへと戻る。
【0074】
液滴吐出ノズル101表面への溶媒蒸気量は、気体噴流口201上流のガス導入配管213からドライエアーやドライ窒素ガスを混合することで調整する。例えば、ノズルが結露してしまう場合では、ドライエアーやドライ窒素ガスを流し、溶媒蒸気分圧を下げる。逆にノズル孔が乾燥する場合では、ドライエアーやドライ窒素ガスを少なくして、溶媒蒸気分圧を上げる。さらにポンプ210にバイパス配管214を設けると、ノズルが基板に近接した場合などの付加変動に対して、影響を少なくすることができる。
【0075】
また、本実施の形態3の方法を用いれば、多面取り基板の塗布時に使用しないインクジェットヘッドのノズルが乾いて、不吐出ノズルになってしまうことを防止できる。図17に示すように、ノズルヘッド100に吐出するノズル群と吐出しないノズル群が存在する場合、吐出するノズル群の方には気体噴流口201から気体吸引口201´に気体を流さず、吐出を停止しているノズル群には、気体噴流口201から気体吸引口201´と気体を流す。ノズルよりも噴流口201と吸引口201´が共にノズルより引き込んだ位置にあるので、インクジェット塗布時に、基板に当たらない。
【0076】
なお、本実施の形態3であるが、実施の形態1と実施の形態2の違いのように、気体噴流ヘッド200と吐出100を分離して構成にしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、民生用の印刷だけでなく産業用途としてディスプレイや半導体、太陽電池などの製造工程に使用されるインクジェットヘッドおよび装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
100 吐出ヘッド
101 液滴吐出ノズル
102 液滴
103 塗布パターン
200 気体噴流ヘッド
201 気体噴流口
201´ 気体吸引口
203 気体噴流スリット
205 溶媒蒸気噴流口
207 溶媒蒸気噴流スリット
209 バブラー
210 ポンプ
211 溶媒
212 気泡
213 ガス導入配管
214 バイパス配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルと、前記ノズルの外側に配置されかつ前記ノズルを囲むように設けられた気体噴流口と、を備えるインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記気体噴流口の形状は、孔形状もしくはスリット状である、請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズルを挟んで対向して配置される気体噴流口の口径は、ヘッド内部に形成される口径に比べ小さく設けられている、請求項1又は2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ノズルを挟んで対向して配置される気体噴流口の形状は、前記ノズルから液滴が吐出される方向に向かってテーパ角を有している、請求項3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記ノズルの外側、かつ前記気体噴流口よりも内側に配置されると共に、前記ノズルを囲んで設けられる溶媒蒸気噴流口を備え、
前記溶媒蒸気噴流口から、有機溶媒を含ませた気体を噴流する、請求項1〜4の何れか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
液滴を吐出する複数のノズルと、前記ノズルの外側に気体噴流口を有し、前記ノズルを挟んで前記気体噴流口と対向する位置に気体吸引口を備え、前記気体噴流口から噴出する気体を前記気体吸引口で吸引する、インクジェットヘッド。
【請求項7】
前記請求項1〜6の何れか一項に記載のインクジェットヘッドを備え、
基材を載置するステージと、前記ステージを移動するステージ動作機構とを具備する、インクジェット装置。
【請求項8】
インクジェットヘッドに形成された複数のノズルから液滴を塗布することで、前記ヘッドに対向して配置された基材に液滴によるパターンを形成する方法において、
前記液滴を吐出しない待機時に、前記ノズルの外側に配置されかつ前記ノズルを囲むように設けられた気体噴流口から気体を噴流させること
を特徴とする塗布方法。
【請求項9】
前記気体噴流口から噴流させる気体に溶媒の蒸気を含ませる、請求項8記載の塗布方法。
【請求項10】
前記気体に含ませる溶媒は数種類で構成され、複数の溶媒のうち沸点が低い溶媒の蒸気を含ませる、請求項9記載の塗布方法。
【請求項11】
前記液滴を吐出しない待機時には、
前記ヘッドを気体を噴流する気体噴流ヘッドに収納する、請求項8〜10の何れか一項に記載の塗布方法。
【請求項12】
前記液滴を吐出しない待機時には、
前記気体噴流口から気体を、前記ヘッドの周囲を覆うように噴流させる、請求項8〜10の何れか一項に記載の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−251231(P2011−251231A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125582(P2010−125582)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】