説明

インクジェットヘッド及びその製造方法

【課題】インクジェットヘッドの圧電素子とFPCとの間の接着部周辺の耐溶剤性を向上させる。
【解決手段】本発明のインクジェットヘッド1は、インクの流路が内部に形成されたインクジェットヘッドマニホールド2と、インクジェットヘッドマニホールド2に接合された複合板4の振動要素部4aの外側に、接着層73、74を介して順次接着されたFPC5及び圧電素子6と、圧電素子6のさらに外側からこの圧電素子6とFPC5との間の接着層74を覆うように複合板4が折り返された状態で振動要素部4aに対して縁部が溶接された複合板4の有する保護要素部4bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに用いられるインクジェットヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク流路形成用の開口部を設けた複数の金属平板を拡散接合により積層一体化したインクジェットヘッドマニホールドを有するインクジェットヘッドが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記文献のインクジェットヘッドは、個々のインク吐出孔に各々対応する複数の電極が形成された圧電素子をフレキシブル基板を介して電気的に駆動することで、この際生じるポンプ作用によってインク吐出孔からインクを吐出させる。
【0004】
ところで、この種のインクジェットヘッドでは、上述したフレキシブル基板と圧電素子との間の接合に例えば接着剤などが利用される。したがって、接着剤による接着部分に耐溶剤性を持たせるために接着部分の周辺を耐溶剤性の高い保護膜で被覆することなどが行われている。このような保護膜は、液状の被膜材料のスプレー塗布や被膜材料を蒸着することなどで成膜される。
【特許文献1】特開2006−231688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来のインクジェットヘッドは、フレキシブル基板と圧電素子との間の接着部周辺の狭隘部分全体に対し満遍なく保護膜を被着させることが非常に難しくこの点において課題を抱えている。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、構成部品どうしが接合される特に接着部周辺の耐溶剤性に優れたインクジェットヘッド及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るインクジェットヘッドは、インクの流路が内部に形成されたヘッド本体と、前記ヘッド本体に接合されこのヘッド本体に押圧力を付与する振動板と、前記ヘッド本体に接合された前記振動板の外側に各々接着層を介して順次接着され、前記振動板を電気的に駆動する回路基板及び圧電素子と、前記圧電素子のさらに外側からこの圧電素子と前記回路基板との間の前記接着層を少なくとも覆う、前記振動板に対して溶接された保護板と、を具備することを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明によれば、ヘッド本体に接合された振動板とこの振動板に溶接された保護板との間で、圧電素子及び回路基板間の接着層を外側から挟み込むように覆っているので、この圧電素子及び回路基板間の接着部周辺に対し優れた耐溶剤性を付与することができる。
【0009】
ここで、本発明において、前記振動板及び前記保護板を、前記振動板として機能する振動要素部と前記保護板として機能する保護要素部とを備えた複合板として単一の板材により一体で構成し、さらに、前記振動要素部と前記保護要素部とが、前記各接着層と共に前記回路基板及び前記圧電素子を挟んで対向するように当該複合板本体を折り返した状態で前記保護要素部の縁部を前記振動要素部に溶接してもよい。
【0010】
また、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、インクの流路が内部に形成されたヘッド本体を作製するヘッド本体作製工程と、前記作製されたヘッド本体に押圧力を付与する振動板をこのヘッド本体上に接合する振動板接合工程と、前記ヘッド本体に接合された前記振動板を電気的に駆動する回路基板及び圧電素子を前記振動板の外側に各々接着層を介して順次接着する接着工程と、前記接着された圧電素子のさらに外側からこの圧電素子と前記回路基板との間の前記接着層を少なくとも覆う保護板を前記振動板に対して溶接する溶接工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように本発明によれば、構成部品どうしが接合される特に接着部周辺の耐溶剤性に優れたインクジェットヘッド及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットヘッド1の外観を示す斜視図である。また、図2は、このインクジェットヘッド1を概略的に示す平面(上面)図であり、図3は、インクジェットヘッド1を概略的に示す底面図である。さらに、図4は、図3に示したインクジェットヘッド1のA−A断面図であり、図5は、このインクジェットヘッド1の構造を示す分解斜視図である。なお、図4のA−A断面図では、インクジェットヘッドマニホールド2内のインクの流路やオリフィスプレート3上のインク吐出孔3aなどの図示を省略している。
【0013】
図1に示すように、本実施形態のインクジェットヘッド1は、いわゆるピエゾ方式を採用するインクジェットヘッドであって、ヘッド本体(ヘッド筐体)としての金属製のインクジェットヘッドマニホールド2を備えている。このインクジェットヘッドマニホールド2は、図3及び図4に示すように、インクの流路を内部に備える共にインク吐出口37の開口するインク吐出面2dを有する。
【0014】
インクジェットヘッドマニホールド2は、図1及び図5に示すように、複数の種類(図5に示す例では大別して9種類)の金属製の第1流路形成積層板21〜第9流路形成積層板29を複数枚(例えば、25〜250枚)積層して構成されている。これらの第1流路形成積層板21〜第9流路形成積層板29は、厚さが例えば0.02mm〜0.2mmの金属製(例えば、SUS304など)の板材から構成されており、これらを拡散接合などによって互いに圧着することで、ブロック状に形成されている。また、第1流路形成積層板21〜第9流路形成積層板29に開口されたインク流路は、例えばエッチング加工やブラスト加工によって形成されている。第1流路形成積層板21〜第9流路形成積層板29の外形は、エッチング加工やブラスト加工の他、打ち抜き加工によっても成形することができる。
【0015】
また、インクジェットヘッドマニホールド2の底面には、図3〜図5に示すように、複数のインク吐出孔3a(例えば直径0.01mm〜0.1mm)の形成されたオリフィス部材としてのオリフィスプレート3が、上記した拡散接合などによって接合されている。このオリフィスプレート3は、例えば幅4mm、厚さ0.08mmで形成(厚さは例えば0.05mm〜0.2mmの範囲内で形成されていてもよい)されており、その構成材料としては、インクジェットヘッドマニホールド2と同一の材料(例えば、SUS304など)が適用されている。インク吐出孔3aは、図3、図5に示すように、オリフィスプレート3上に例えば一列に配置されている。このインク吐出孔3aは、例えばパンチング加工、レーザ加工、エッチング加工などによって形成されている。
【0016】
また、インクジェットヘッドマニホールド2の各側面で構成されるヘッド押圧面2cには、図1〜図5に示すように、振動要素部4a及び保護要素部4bを各々有する一対の複合板4が、拡散接合などによって接合されている。この複合板4は、インクジェットヘッドマニホールド2と同一の材料(例えば、SUS304など)から構成されており、例えば厚さ0.01mm〜0.05mmで形成されている。また、複合板4は、レーザ加工やエッチング加工などによって加工成形されている。このような各複合板4の振動要素部4aは、一対のヘッド押圧面2c側からインクジェットヘッドマニホールド2を挟んだ状態で押圧力を付与する。
【0017】
さらに、この一対の複合板4の個々の振動要素部4aの外側面には、図1〜図5に示すように、所定形状の導体パターンが形成された回路基板(フレキシブル基板)である一対のFPC(Flexible Printed Circuit)5が、接着層73を介して接着されている。さらに、これらのFPC5の各外側面には、接着層74を介して一対の圧電素子6が接着されている。圧電素子6は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの材質で構成されたピエゾ素子であって例えば0.2mm〜2mmの厚さを有する。これらの圧電素子6には、各インク吐出孔3aにそれぞれ対応する複数の電極が、蒸着などの方法で形成されており、これらの電極は、FPC5に形成された導体パターンとそれぞれ電気的に接続されている。すなわち、圧電素子6をFPC5を介して電気的に駆動することで、複合板4の振動要素部4aが振動し、この際生じるポンプ作用によってインク吐出孔3aからインクが吐出することになる。
【0018】
ここで、図4に示すように、上述したFPC5と圧電素子6との間の接着層74には、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)が適用されている。このため、接着層74の耐溶剤性を確保するために、複合板4の保護要素部4bによって圧電素子6のさらに外側から少なくとも接着層74が覆われている。すなわち、複合板4は、振動要素部4aと保護要素部4bとが、上記の各接着層73、74と共にFPC5及び圧電素子6を挟んで対向するように当該複合板4本体を折曲部分4cから折り返した状態で保護要素部4bの縁部が振動要素部4aにレーザ溶接されている。具体的には、図1に示すように、振動要素部4aと対向する保護要素部4bの周縁部のうちで、上記の折曲部分4cを構成する辺部とFPC5に直接対向する部分とのそれぞれを避けた(除いた)部位が、振動要素部4aと保護要素部4bとの溶接部分77となっている。
【0019】
したがって、図1〜図4に示すように、本実施形態のインクジェットヘッド1では、インクジェットヘッドマニホールド2に接合された複合板4の振動要素部4aとこの振動要素部4aにレーザ溶接された保護要素部4bとの間で、圧電素子6及びFPC5間の少なくとも接着層74を外側から挟み込むように覆っているので、この圧電素子6及びFPC5間の狭隘部分(小さくて狭い部位)にある接着層74周辺に耐溶剤性を付与することができる。なお、圧電素子6とFPC5との間の上述した接着層74は、汎用の例えばメチルシアノアクリレートやエポキシ系、アクリル系の接着剤などを用いて構成されるものであってもよい。
【0020】
また、図5に示すように、上述した第1流路形成積層板21〜第9流路形成積層板29のうちで、中央部に配置される第5流路形成積層板25から一方の積層方向に積層される第6流路形成積層板26〜第9流路形成積層板29は、インク吐出孔3aの例えば奇数列の流路を形成するように配置されている。また、第5流路形成積層板25から他方の積層方向に積層される第4流路形成積層板24〜第1流路形成積層板21は、インク吐出孔3aの例えば偶数列の流路を形成するように配置されている。
【0021】
また、上記構成に代えて、第5流路形成積層板25から一方に積層される第6流路形成積層板26〜第9流路形成積層板29が、インク吐出孔3aの偶数列の流路を形成し、第5流路形成積層板25から他方に積層される第4流路形成積層板24〜第1流路形成積層板21が、インク吐出孔3aの奇数列の流路を形成するものであってもよい。そして、このようにして形成される奇数列の流路と偶数列の流路とで、図3に示すように、インク吐出孔3aが、オリフィスプレート3上に一列に配置される。
【0022】
上記したように、中央部に配置される第1流路形成積層板25には、インク供給流路31、インク溜め部32、空気抜き孔40、インク吐出口37を形成するための開口部が設けられている。また、第5流路形成積層板25の両外側に配置される第6流路形成積層板26及び第4流路形成積層板24には、インク供給流路31、インク溜め部32、空気抜き孔40を形成するための開口部と、下側インク流路36を形成するための開口部とが設けられている。
【0023】
ここで、インク溜め部32の内壁上部32aは、空気抜き孔40に向けて上り勾配となる傾斜面で形成されている。また、インク供給流路31は、インク供給口2aから一旦インク溜め部32の下方に延び、次いで上方に延びてインク溜め部32の底部に接続されるサイフォン構造を採っている。さらに、インク供給流路31と空気抜き孔40とは、インク溜め部32の長手方向の両側端部に接続されるように設けられている。
【0024】
さらに、上記第6流路形成積層板26及び第4流路形成積層板24のそれぞれの外側に配置される第7流路形成積層板27及び第3流路形成積層板23には、下側インク流路36と、上側共通インク流路33とを形成するための開口部が設けられている。さらに、第7流路形成積層板27及び第3流路形成積層板23のそれぞれの外側に配置される第8流路形成積層板28及び第2流路形成積層板22には、下側インク流路36と、上側個別インク流路34とを形成するための開口部が設けられている。また、最も外側に配置される第9流路形成積層板29及び第1流路形成積層板21には、上下方向インク流路35を形成するための開口部が設けられている。
【0025】
このように構成された所定枚数の第1流路形成積層板21〜第9流路形成積層板29を、所定の順序で積層一体化することで、インクジェットヘッドマニホールド2内には、インク供給流路31からインク吐出口37に至るインクの流路が、積層方向中央部から両側に向けて形成されると共に、図3及び図4に示すように、インクジェットヘッドマニホールド2の上側に、インク供給口2a、空気抜き口2bが開口した状態となる。また、積層一体化されたこれらの積層板の端面で、上述したインク吐出口37を開口させたインク吐出面2dが構成される。
【0026】
インクジェットヘッドマニホールド2へのインクの供給は、図5に示すように、インク供給口2aから行われる。このインク供給口2aから供給されたインクは、インク供給流路31を通って、インク溜め部32に導入され、このインク溜め部32から、上側共通インク流路33、上側個別インク流路34、上下方向インク流路35、下側インク流路36をこの順で通過して、インク吐出口37内にまで充填される。
【0027】
また、上記のようにインクジェットヘッドマニホールド2内にインクが充填された状態で、FPC5を介して圧電素子6に駆動信号が加わると、駆動信号が加わった部分の圧電素子6が変形することで、複合板4における振動要素部4a上の対応する部位が振動し、さらにこれに対応する部分の上下方向インク流路35内のインクを押圧し、オリフィスプレート3の対応するインク吐出孔3aから所定量のインクが吐出されることになる。
【0028】
ここで、上記したインク供給流路31は、サイフォン構造で構成されているため、インク供給口2aから供給されるインク供給量及び供給圧が仮に安定していなくとも、インク溜め部32内のインクの状態を安定に保つことができ、インクの吐出不良が発生することを防止できる。また、インク溜め部32には、上述したように、空気抜き孔40が設けられており、インク溜め部32の内壁上部32aは、空気抜き孔40に向けて上り勾配となる傾斜面とされているので、インク溜め部32内に進入した空気を、速やかにこの空気抜き孔40から排出させることができ、これにより、前記同様、インク吐出不良の発生を抑制することができる。
【0029】
次に、本実施形態に係るインクジェットヘッド1の製造方法について説明する。ここでは、まず、インクジェットヘッドマニホールド2の製造方法を図6及び図7に基づき説明する。なお、上述した第1流路形成積層板21〜第9流路形成積層板29は、以下、積層板65として説明を行う。上記の図6は、積層板65どうしを拡散接合するための熱圧着装置55を概略的に示す図であり、また、図7は、積層板65を形成するための母材プレート50を示す斜視図である。
【0030】
図6に示すように、熱圧着装置55は、複数の積層板65を熱圧着により積層一体化したインクジェットヘッドマニホールド2を作製するための装置である。熱圧着装置55は、高温真空炉56と、この高温真空炉56の床上に設置された金属製の支え台57と、この支え台57上に設置されたあて板58と、このあて板58上に配置された複数の積層板65を上方から支え台57側に押圧するあて板59を備えた金属製の圧着冶具63と、この圧着冶具63を駆動するアクチュエータ64と、一対の金属製の位置決めピン61、62と、で主に構成される。
【0031】
ここで、上記した図1、図2及び図6に示すように、金属製(本実施形態ではSUS304製)の複数の積層板65の各々には、一対の貫通穴(位置決め穴)7、8が形成されている。この貫通穴7、8は、積層板65の積層一体化後インクの流路になる開口部(インク供給流路31及びインク溜め部32など)と同一のステージで形成され、このインク流路形成用の開口部との相対的な位置精度が確保されている。ここで、上記した位置決めピン61、62は、積層板65の貫通穴7、8に対し挿抜自在に嵌合される。
【0032】
つまり、熱圧着装置55では、貫通穴7、8に位置決めピン61、62を挿通させた状態で、熱圧着により積層板65どうしを拡散接合する。なお、積層板65の貫通穴7、8の内壁面と位置決めピン61、62とが拡散現象により接合してしまうことなどを抑制するために、位置決めピン61、62の外周面に例えばアルミナ層などを形成することが好ましい。
【0033】
高温真空炉56は、その炉内を最大1300℃程度まで昇温させることが可能である。また、高温真空炉56では、その炉内に接続されたターボ分子ポンプ(図示せず)などを通じて10-1〜10-10Pa程度の真空度を得ることができる。さらに、高温真空炉56は、炉内を窒素などの不活性ガス雰囲気にすることも可能である。
【0034】
支え台57の上面に設けられたあて板58、及び圧着冶具63の下端部に設けられたあて板59は、熱圧着時の金属材料間での拡散現象により、支え台57(又は圧着冶具63)と積層板65とが接合してしまうことを防止するために設けられている。つまり、あて板58、59は、例えば析出硬化型ステンレス鋼などで形成されている。また、本実施形態では、支え台57上には、上述したように、位置決めピン61、62を挿通させた状態で、複数の積層板65が搭載されることになる。ここで、あて板59には、圧着冶具63が下降して支え台57上のこれら積層板65を熱圧着する際に、積層板65の上方から突出する位置決めピン61、62の形状を避けるように一対の凹部60が設けられている。
【0035】
したがって、熱圧着装置55を用いて、実際に積層板65どうしを接合する場合には、まず、酸浸漬などによる洗浄処理により、SUS304製の各積層板65の表層にあるクロムの酸化膜(不動態皮膜)を除去する。次に、図6に示すように、各積層板65の一対の貫通穴7、8に対し、位置決めピン61、62を挿通させることで、複数の積層板65どうしをその板面に沿った方向に位置決めする。
【0036】
次いで、貫通穴7、8に位置決めピン61、62を挿通させた状態の複数の積層板65を熱圧着装置55における高温真空炉56内の支え台57上に載置する。さらに、位置決めピン61、62の外形部分(例えばアルミナ層)を貫通穴7、8の内壁面に接触させることにより位置決めされた複数の積層板65を、所定温度に加熱しつつ、さらに圧着冶具63を通じて加圧し、当該積層板65どうしを拡散接合する。この熱圧着時の条件は、例えば、加熱温度950℃〜1050℃、圧力0.5〜2kg/cm2、炉内の真空度を0.0001Paとし、この状態を2時間維持し、この後さらに24時間かけて除冷処理を行う。これにより、インクジェットヘッドマニホールド2が作製される。
【0037】
ここで、上述した態様では、積層板65の本体部分(製品部分)どうしを直接積層する製法について例示したが、これに代えて、図7に示すように、積層板65の外側にあるブランク部(捨て部材)51、52を有する状態の積層板65どうしを積層一体化するようにしてもよい。図7に示すように、積層板65は、例えばSUS304製の母材プレート50を加工成形することで得られる。詳細には、非製品部分であるブランク部51、52は、各積層板65の外形部分のさらに外側に配置され且つ積層板65どうしの拡散接合後に除去されるものであって、積層板65と一体で加工成形される。このようなブランク部51、52は、積層板65本体を例えばハンドリングする場合などに有用となる。なお、ブランク部51、52と積層板65とのつなぎ部分に、ハーフエッチングなどによって切れ込みを入れておくことで、積層板65の積層一体化後、ブランク部51、52を容易に除去して、インクジェットヘッドマニホールド2を得ることができる。
【0038】
次に、このようにして作製されたインクジェットヘッドマニホールド2に対し、複合板4、オリフィスプレート3、FPC5、圧電素子6を接合して行くことで製造されるインクジェットヘッド1の具体的な製造方法について図8A〜図8Fに基づき説明を行う。ここで、図8Aは、インクジェットヘッドマニホールド2に対し複合板4の振動要素部4a、及びオリフィスプレート3を接合する直前の状態を示す斜視図であり、図8Bは、図8Aの複合板4の振動要素部4a及びオリフィスプレート3が接合されたインクジェットヘッドマニホールド2を示す斜視図である。また、図8Cは、図8Bのインクジェットヘッドマニホールド2に接合された各複合板4の振動要素部4aの外側に一対のFPC5及び圧電素子6を接着層73、74を介して順次接着する直前の状態を示す斜視図である。
【0039】
さらに、図8Dは、図8CのFPC5及び圧電素子6が各々接着された複合板4を折り返す直前の状態を示す斜視図であり、図8Eは、図8Dの複合板4を折り返した状態を示す斜視図である。また、図8Fは、図8Eの複合板4を折り返した状態で保護要素部4bの縁部を振動要素部4aにレーザ溶接している状態を示す斜視図である。なお、図8A〜図8Fでは、接着層73、並びに一方の複合板4、FPC5及び圧電素子6の図示を省略している。
【0040】
まず、図8A、8Bに示すように、インクジェットヘッドマニホールド2のインク吐出面2d上に、インク吐出口37及びインク吐出孔3aを位置合せした状態でオリフィスプレート3を接合する。さらに、インクジェットヘッドマニホールド2を両側から挟んだ状態で押圧力を付与することの可能な一対の複合板4の振動要素部4aを、当該インクジェットヘッドマニホールド2上の一対のヘッド押圧面2cに接合する。ここで、インクジェットヘッドマニホールド2(積層板65)、オリフィスプレート3、及び複合板4は、互いに同一の構成材料であるSUS304で形成されており、インクジェットヘッドマニホールド2と、各複合板4の振動要素部4a及びオリフィスプレート3と、の接合には、上記図5の積層板65どうしの積層一体化に利用された拡散接合が適用される。また、オリフィスプレート3の拡散接合前には、インク吐出口37内への異物の混入を防止したうえで、インクジェットヘッドマニホールド2の(積層板65の個々の端面で構成される)インク吐出面2dを平坦に研磨することが望ましい。
【0041】
次に、図8C、図8Dに示すように、インクジェットヘッドマニホールド2に接合された各複合板4の振動要素部4aを電気的に駆動するそれぞれ一対のFPC5及び圧電素子6を振動要素部4aの外側に接着層73、74を介して順次接着する。ここで、FPC5と各圧電素子6との間の接着層74には、上述した異方性導電フィルム(ACF)が適用される。続いて、図8D、図8Eに示すように、複合板4の保護要素部4bにより圧電素子6の外側から少なくとも接着層74が覆われるように、振動要素部4aと保護要素部4bとが、上記の各接着層73、74と共にFPC5及び圧電素子6を挟んで対向する状態まで複合板4を折り返す(折り曲げる)。ここで、複合板4は、インクジェットヘッドマニホールド2のインク吐出面2d側に折曲部分4cが配置されるように折り曲げられる。
【0042】
さらに、図8Fに示すように、複合板4本体を折曲部分4cから折り返した状態で、レーザ照射装置80を用いて、保護要素部4bの縁部を振動要素部4aにレーザ溶接する。レーザ照射装置80としては、例えばYAGレーザやCO2(炭酸ガス)レーザなどを照射可能な装置が例示される。また、レーザ照射装置80は、照射スポット位置を3軸方向に移動させることの可能な機構を有する。このようなレーザ照射装置80を用い、複合板4の振動要素部4aと対向する保護要素部4bの周縁部のうちで、上記の折曲部分4cを構成する辺部とFPC5に直接対向する部分とのそれぞれを避けた部位を、振動要素部4aと保護要素部4bとの溶接部分77としてレーザ溶接を行う。またこの場合、溶接部分77において、間欠的(スポット的)にレーザ溶接を行うのではなく、溶接部分77において、振動要素部4aと保護要素部4bとの間に間隙が生じないように、連続的(例えば直線的)にレーザ溶接を行う。このような溶接工程を経て、図1〜図4に示したインクジェットヘッド1を得ることができる。
【0043】
既述したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド1及びその製造方法によれば、インクジェットヘッドマニホールド2に接合された複合板4の振動要素部4aとこの振動要素部4aにレーザ溶接された保護要素部4bとの間で、圧電素子6及びFPC5間の少なくとも接着層74を外側から挟み込むように覆っているので、この圧電素子6及びFPC5間の狭隘部分にある接着層74周辺に優れた耐溶剤性を付与することができる。
【0044】
以上、本発明を上記実施形態により具体的に説明したが、本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。すなわち、上述した実施形態では、振動要素部4aと保護要素部4bとが複合板4として単一の板材により一体で構成されていたが、これに代えて、図9A〜図9Cに示すように、複合板4の振動要素部4aとして機能する振動板84と、複合板4の保護要素部4bとして機能する保護板85とを各々別体のプレート(板材)で構成してもよい。ここで、図9Aは、インクジェットヘッドマニホールド2に対し、振動板84、オリフィスプレート3、FPC5及び圧電素子6を接合する直前の状態を示す斜視図である。また、図9Bは、図9Aの圧電素子6のさらに外側から保護板85を溶接する直前の状態を示す斜視図である。さらに、図9Cは、図9Bのインクジェットヘッドマニホールド2上の圧電素子6のさらに外側からこの圧電素子6とFPC5との間の接着層74を少なくとも覆う保護板85を振動板84に対してレーザ溶接している状態を示す斜視図である。
【0045】
すなわち、図9A、図9Bに示すように、インクジェットヘッドマニホールド2上に振動板84及びオリフィスプレート3を拡散接合し、さらに振動板84上にFPC5及び圧電素子6を接着層73、74を介して接着した後、圧電素子6のさらに外側からこの圧電素子6とFPC5との間の接着層74を少なくとも覆う保護板85の縁部を振動板84に対してレーザ溶接することで、上記のインクジェットヘッド1と構造が一部異なるインクジェットヘッド91を得ることができる。
【0046】
具体的には、図9Cに示すように、インクジェットヘッド91は、インクジェットヘッドマニホールド2上の振動板84との間で、接着層73、74と共にFPC5及び圧電素子6を挟んで対向する保護板85の周縁部のうちで、FPC5に直接対向しない部位を、振動板84と保護板85との間の溶接部分87としてレーザ溶接を行うことで作製される。したがって、このようなインクジェットヘッド91においても、圧電素子6及びFPC5間の接着層74周辺に対し所望の耐溶剤性を与えることができる。ここで、振動板84及び保護板85の構成材料として、共にSUS304などの同一の材料を適用することで、溶接部分87における接合強度を高めることができる。また、インクジェットヘッド91では、インクジェットヘッドマニホールド2を押圧する部材(上記振動板84)と接着層74を覆う部材(保護板85)とが別体で構成されているので、レーザ溶接時の部材どうしの位置合せについての自由度を向上させることができる。
【0047】
また一方で、図1、図4及び図8に示したように、振動要素部4aと保護要素部4bとを一体の複合板4で構成したインクジェットヘッド1では、折曲部分4cにおけるレーザ溶接が不要となるので、溶接工程の簡略化を図ることができる。さらに、このインクジェットヘッド1では、レーザ溶接が不要な折曲部分4cが、インクジェットヘッドマニホールド2のインク吐出面2d側に配置されているので、インクジェットヘッド1の構成部品におけるインク吐出面2d側に、レーザ溶接を行うための領域を確保する必要がない。すなわち、インクジェットヘッド1によれば、図8Aに示したインクジェットヘッドマニホールド2上のインクの流路(上下方向インク流路35)や図8D〜図8Fに示した圧電素子6をインク吐出面2d側に極力寄せた部品レイアウトを選択できるので、圧電素子6によるインクジェットヘッドマニホールド2側への押圧部分とオリフィスプレート3上のインク吐出孔3aの開口端との間のインク吐出方向(オリフィスプレート3の厚さ方向)における間隔を短くすることができる。これにより、発生し得る駆動力(押圧力)が比較的小さい仕様の圧電素子を適用している場合であっても、インクジェットヘッドマニホールド内から効率的にインクを吐出させることができる。
【0048】
また、上記の実施形態では、複数の積層板65を積層一体化したインクジェットヘッドマニホールド2をヘッド本体(筐体)として用いていたが、無論、積層一体化構造を採らない1ブロック構造のインクジェットヘッドマニホールドも本発明に適用することができる。また、インクジェットヘッドマニホールド、並びに上記した振動板84及び保護板85をセラミック材料で構成してもよい。この場合、これらインクジェットヘッドマニホールド、振動板及び保護板の表面に金属層を形成することが必要となる。つまり例えば、インクジェットヘッドマニホールドと振動板との互いの接合面に、例えばステンレスなどの金属被膜をイオンプレーティングなどにより形成した後、各々を例えば拡散接合する。さらに、振動板と保護板との互いの接合面に、所定の下地層を形成すると共にその下地層の上に例えば金属めっきを施して比較的厚めの金属層を形成した後、振動板と保護板の縁部とをレーザ溶接することでインクジェットヘッドを作製してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットヘッドの外観を示す斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドを概略的に示す平面図。
【図3】図1のインクジェットヘッドを概略的に示す底面図。
【図4】図3のインクジェットヘッドのA−A断面図。
【図5】図1のインクジェットヘッドの構造を示す分解斜視図。
【図6】図1のインクジェットヘッドを構成する積層板どうしを拡散接合するための熱圧着装置を概略的に示す図。
【図7】図1のインクジェットヘッドを構成する積層板を形成するための母材プレートを示す斜視図。
【図8A】図1のインクジェットヘッドを構成するインクジェットヘッドマニホールドに複合板の振動要素部及びオリフィスプレートを接合する直前の状態を示す斜視図。
【図8B】図8Aの複合板の振動要素部及びオリフィスプレートが接合されたインクジェットヘッドマニホールドを示す斜視図。
【図8C】図8Bのインクジェットヘッドマニホールドに接合された複合板にFPC及び圧電素子を接着する直前の状態を示す斜視図。
【図8D】図8CのFPC及び圧電素子が各々接着された複合板を折り返す直前の状態を示す斜視図。
【図8E】図8Dの複合板を折り返した状態を示す斜視図。
【図8F】図8Eの複合板を折り返した状態で保護要素部の縁部を振動要素部にレーザ溶接している状態を示す斜視図。
【図9A】インクジェットヘッドマニホールドに対し振動板、オリフィスプレート、FPC及び圧電素子を接合する直前の状態を示す斜視図。
【図9B】図9Aの圧電素子の外側から保護板を溶接する直前の状態を示す斜視図。
【図9C】図9Bの圧電素子の外側から接着層を覆う保護板を振動板に対してレーザ溶接している状態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0050】
1,91…インクジェットヘッド、2…インクジェットヘッドマニホールド、2d…インク吐出面、4…複合板、4a…振動要素部、4b…保護要素部、4c…折曲部分、21…第1流路形成積層板、22…第2流路形成積層板、23…第3流路形成積層板、24…第4流路形成積層板、25…第5流路形成積層板、26…第6流路形成積層板、27…第7流路形成積層板、28…第8流路形成積層板、29…第9流路形成積層板、37…インク吐出口、65…積層板、73,74…接着層、77,87…溶接部分、80…レーザ照射装置、84…振動板、85…保護板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの流路が内部に形成されたヘッド本体と、
前記ヘッド本体に接合されこのヘッド本体に押圧力を付与する振動板と、
前記ヘッド本体に接合された前記振動板の外側に各々接着層を介して順次接着され、前記振動板を電気的に駆動する回路基板及び圧電素子と、
前記圧電素子のさらに外側からこの圧電素子と前記回路基板との間の前記接着層を少なくとも覆う、前記振動板に対して溶接された保護板と、
を具備することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記振動板及び前記保護板は、前記振動板として機能する振動要素部と前記保護板として機能する保護要素部とを備えた複合板として単一の板材により一体で構成され、
さらに前記複合板は、前記振動要素部と前記保護要素部とが、前記各接着層と共に前記回路基板及び前記圧電素子を挟んで対向するように当該複合板本体を折り返した状態で前記保護要素部の縁部が前記振動要素部に溶接されている
ことを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ヘッド本体は、インクの吐出口を開口させたインク吐出面を有し、
前記複合板は、当該複合板本体を折り返している折曲部分が、前記ヘッド本体の前記インク吐出面側に配置されている
ことを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記振動板と前記保護板、又は前記複合板の前記振動要素部と前記保護要素部とは、レーザ溶接により互いに接合されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記ヘッド本体は、複数の積層板を積層一体化して構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
インクの流路が内部に形成されたヘッド本体を作製するヘッド本体作製工程と、
前記作製されたヘッド本体に押圧力を付与する振動板をこのヘッド本体上に接合する振動板接合工程と、
前記ヘッド本体に接合された前記振動板を電気的に駆動する回路基板及び圧電素子を前記振動板の外側に各々接着層を介して順次接着する接着工程と、
前記接着された圧電素子のさらに外側からこの圧電素子と前記回路基板との間の前記接着層を少なくとも覆う保護板を前記振動板に対して溶接する溶接工程と、
を有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記振動板及び前記保護板は、前記振動板として機能する振動要素部と前記保護板として機能する保護要素部とを備えた複合板として単一の板材により一体で構成され、
前記振動板接合工程では、前記複合板の前記振動要素部を前記ヘッド本体上に接合し、
前記接着工程では、前記ヘッド本体に接合された前記複合板の前記振動要素部の外側に前記回路基板及び前記圧電素子を各々前記接着層を介して順次接着し、
前記溶接工程では、前記複合板の前記振動要素部と前記保護要素部とが、前記各接着層と共に前記回路基板及び前記圧電素子を挟んで対向するように前記複合板を折り返した状態で前記保護要素部の縁部を前記振動要素部に溶接する
ことを特徴とする請求項6記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記ヘッド本体は、インクの吐出口を開口させたインク吐出面を有し、
前記溶接工程では、前記複合板の折曲部分が前記ヘッド本体の前記インク吐出面側に配置されるように前記複合板を折り返す
ことを特徴とする請求項7記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記溶接工程では、前記振動板と前記保護板、又は前記複合板の前記振動要素部と前記保護要素部とを、レーザ溶接により互いに接合することを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記ヘッド本体作製工程では、複数の積層板を積層一体化して前記ヘッド本体を形成することを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【公開番号】特開2008−221695(P2008−221695A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64891(P2007−64891)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】