インクジェットヘッド
【課題】チャネルの高密度化のために絶縁性保護膜の膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極を充分に保護することが可能なインクジェットヘッドの提供。
【解決手段】チャネル14内から入口を経て後面にかけて連続するチップ側電極が形成されてなるヘッドチップ1と、ヘッドチップ1の後面に接合され、チャネル14の入口を露出させる開口部32を有すると共に、ヘッドチップ1に配向される面に、後面に露出しているチップ側電極と電気的に接続される配線電極を有する配線基板3とを有するインクジェットヘッドにおいて、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度が45°以上88°以下の範囲であり、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極及び配線電極の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜が連続的に形成されていることを特徴とする。
【解決手段】チャネル14内から入口を経て後面にかけて連続するチップ側電極が形成されてなるヘッドチップ1と、ヘッドチップ1の後面に接合され、チャネル14の入口を露出させる開口部32を有すると共に、ヘッドチップ1に配向される面に、後面に露出しているチップ側電極と電気的に接続される配線電極を有する配線基板3とを有するインクジェットヘッドにおいて、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度が45°以上88°以下の範囲であり、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極及び配線電極の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜が連続的に形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに関し、詳しくは、絶縁性保護膜の膜厚を低下させてもピンホールを生じず電極が充分に保護され、ノズルの高密度化を実現できるインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドには、分極処理された圧電素子にチャネルを研削して、該チャネルを区画する駆動壁に駆動電極を形成し、該駆動電極に電圧を印加することにより駆動壁をくの字状にせん断変形させてチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたせん断モードのインクジェットヘッドが知られている。
【0003】
その中でも、インクを吐出させるためのアクチュエータを、圧電素子からなる駆動壁とチャネルとが交互に並設されると共に前面及び後面にそれぞれチャネルの出口と入口とが配置される所謂ハーモニカ型のヘッドチップにより構成したインクジェットヘッド(特許文献1)が知られている。
【0004】
近年、印刷画像の高画質化のために、ノズルをより高密度に並設することが要求されており、ハーモニカ型のヘッドチップを有するインクジェットヘッドの場合では、チャネル幅をより細幅状に形成し、チャネル密度を高密度にすることで、ノズルの高密度化の要求に応えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−83705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、チャネル内部やインク供給路となる部位の壁面は、インクと直に接触するため、特に水系インクを使用した場合、これらの部位に電極が露出していると、電極の腐食を引き起こす問題がある。このため、少なくとも電極が露出する部位には、絶縁性保護膜を被覆形成することでインクからの保護を行うようにしている。
【0007】
しかし、このように絶縁性保護膜を被覆形成したインクジェットヘッドにおいて、チャネル幅を更に細幅状に形成してノズルの高密度化を図ろうとすると、新たな問題があることがわかった。
【0008】
以下に図11〜13を用いて説明する。
【0009】
図11(a)は、ハーモニカ型ヘッドチップのチャネル密度を180dpiとした場合の一つのチャネルをインクの吐出方向から見た図であり、図11(b)は、同じくハーモニカ型ヘッドチップのチャネル密度を300dpiに高密度化した場合を示している。
【0010】
前者の180dpiの場合、チャネル幅は82μm程度まで確保されるのに対し、後者の300dpiの場合、チャネル幅は42μmまで縮小される。これらいずれの場合でも、チャネルの出口に配置されるノズル621の径は、所定のインク滴径やインクの吐出特性を維持するため、所定のノズル径を維持する必要があり、ここではいずれも26μmに形成されている。また、いずれのチャネルの内面にも、ここでは3μmの厚みの駆動電極615が形成されている。
【0011】
ここで、チャネル内面の駆動電極615を保護するために絶縁性保護膜Mを形成すると、前者の180dpiの場合では、充分な厚み(具体的には7μm±15%程度)で形成することができた。
【0012】
しかしながら、後者の300dpiの場合では、42μmの幅を有するチャネルの内面に駆動電極615が3μmの厚みで形成されると、チャネル内面に形成可能な絶縁性保護膜Mの膜厚は3μmが限度となってしまう。これは、ノズルプレートを貼着する際にノズル621の位置の誤差が±2μm程度生じることを考慮した場合、絶縁性保護膜Mの膜厚が3μmを超えると、該絶縁性保護膜Mがノズル621の部分までかかってしまい、最悪の場合ノズル621が塞がれてしまうおそれがあるからである。
【0013】
このように絶縁性保護膜Mの膜厚が3μmという薄い膜厚の絶縁性保護膜Mを成膜した場合、電極の保護が部分的に不十分となり、電極の腐食が発生する問題が生じ、このことが、ノズルの高密度化、即ち印刷画像の高画質化を妨げていた。
【0014】
本発明者は、従来技術における3μmという薄い膜厚で絶縁性保護膜を成膜した場合に電極が充分に保護されない原因の解明を試みた。その結果、ヘッドチップの後面に接合される配線基板との接合部位において、絶縁保護膜の成膜が不十分になる箇所が発生することを見出した。
【0015】
すなわち、ハーモニカ型のヘッドチップの後面には、各チャネル内の駆動電極に対して駆動回路からの電圧を印加するため、各チャネルの内部からヘッドチップの後面まで引き出された電極を介して電圧印加のための外部配線部材(FPC)を接続させるための配線基板が接合される。
【0016】
図12はこのような配線基板を接合したヘッドチップの断面図であり、601はハーモニカ型のヘッドチップ、602はヘッドチップ601の前面に接合されたノズルプレート、603はヘッドチップ601の後面に接合された配線基板である。
【0017】
ヘッドチップ601は複数並設されたチャネル614を有し、その内面には駆動電極615が形成されている。チャネル614は、ヘッドチップ621の前面及び後面にそれぞれチャネル614の出口642と入口641とが配置され、また、ヘッドチップ601の後面には、チャネル614の内面の駆動電極615と導通し、入口641を経て後面にかけて形成された接続電極616が形成されている。各接続電極616は、各チャネル614の入口641からヘッドチップ601の外側に向けて延びている。
【0018】
配線基板603には、ヘッドチップ601との接合される面に、接続電極616を介して駆動電極615に駆動回路からの電圧を印加するための配線電極633が形成され、ヘッドチップ601の後面に接合されることで、配線電極633と接続電極616との電気的接続が図られている。
【0019】
この配線基板603には、ヘッドチップ601の後面に全チャネル614の入口641が露呈するように開口する開口部632が形成されている。この開口部632の形成は、通常サンドブラスト処理によってなされるが、サンドブラスト処理は、切削が表面から内部に進むにつれて加工効率が低下する性質を有するため、従来は、配線基板603に対して効率的に切削加工を行うために、両面からサンドブラスト処理を行っている。
【0020】
このサンドブラスト処理は、切削が表面から内部に進むにつれて加工範囲が狭くなる性質を有する。そのため、図12における領域Aの部分拡大図である図13に示す通り、両面からサンドブラスト処理により開口部632を形成すると、開口部632の内壁面634は、図示するように「く」の字状に突出する形状となる。
【0021】
「く」の字状に突出する形状では、開口部632のヘッドチップ601に配向される面636側の周縁部635において、配線基板603におけるヘッドチップ601に配向される面636から開口部632の内壁面634にかけて成す角度αが90°以上の鈍角となるので、絶縁性保護膜Mを形成すべき部位は逆に入り組んだ形状となり、絶縁性保護膜Mの被膜成分が行き渡らず、絶縁性保護膜Mの形成が不安定となってピンホールが生じやすくなっていた。
【0022】
絶縁性保護膜Mにピンホールが形成されていると、接着剤にインクが浸み込んで長期使用によって接着強度を低下させてしまう問題もある。
【0023】
この知見に基づいて、本発明者は、この角度αと絶縁性保護膜Mの成膜状態との関係に着目して鋭意検討を行い、角度αを所定の範囲で鋭角とすることにより、上述したような薄い絶縁性保護膜Mを成膜する際においても、ピンホールを生じることなく充分な成膜が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0024】
そこで、本発明の課題は、チャネルの高密度化のために絶縁性保護膜の膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極を充分に保護することが可能なインクジェットヘッドを提供することにある。
【0025】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0027】
請求項1記載の発明は、複数並設されるチャネルを有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口と入口とが配置されると共に前記チャネル内から該チャネルの入口を経て前記後面にかけて連続するチップ側電極が形成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップのインクを供給させる前記チャネルの入口を露出させる開口部を有すると共に、前記ヘッドチップに配向される面に、前記ヘッドチップの後面に露出している前記チップ側電極と電気的に接続される配線電極を有する配線基板とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記配線基板における前記ヘッドチップに配向される面から前記開口部の内壁面にかけて成す角度が45°以上88°以下の範囲であり、
少なくとも前記ヘッドチップの前記チャネル内から前記配線基板の前記開口部の内壁面にかけて、前記チップ側電極及び前記配線電極の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜が連続的に形成されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0028】
請求項2記載の発明は、前記開口部は、全ての前記チャネルの入口を露出させる1つの開口部であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0029】
請求項3記載の発明は、前記開口部は、前記チャネルの入口をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0030】
請求項4記載の発明は、前記ヘッドチップは、複数のチャネル列を有しており、
前記開口部は、前記チャネル列毎に設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0031】
請求項5記載の発明は、前記複数並設されるチャネルは、インクを吐出するインクチャネルと、インクを吐出しないダミーチャネルとが交互に並設されており、
前記開口部は、前記インクチャネルの入口を露出させ、前記ダミーチャネルの入口を露出させないように設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0032】
請求項6記載の発明は、前記絶縁性保護膜の膜厚は、1μm以上3μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【0033】
請求項7記載の発明は、前記絶縁性保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【0034】
請求項8記載の発明は、前記配線基板は、厚さが300μm以上700μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【0035】
請求項9記載の発明は、前記配線基板は、ガラス、セラミックス又はアルミナからなることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、チャネルの高密度化のために絶縁性保護膜の膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極を充分に保護することが可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図
【図2】図1におけるii−ii線断面図
【図3】図2における領域Aの部分拡大図
【図4】配線基板の開口縁における角度αの形成方法の一例を説明する図
【図5】配線基板の他の態様を説明する断面図
【図6】配線基板の更に他の態様を説明する断面図
【図7】本発明に係るインクジェットヘッドの他の態様を示す後面図
【図8】図7におけるviii−viii線断面図
【図9】本発明に係るインクジェットヘッドの更なる他の態様を示す後面図
【図10】本発明に係るインクジェットヘッドの更にまた他の態様を示す後面図
【図11】チャネル密度とチャネル幅の関係を説明する図
【図12】従来技術に係るインクジェットヘッドの一例を示す要部断面図
【図13】図12における領域Aの部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0039】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図である。
【0040】
インクジェットヘッドは、ヘッドチップ1、ヘッドチップ1の前面に接合されるノズルプレート2、ヘッドチップ1の後面に接合される配線基板3、配線基板3に接合される外部配線基板であるフレキシブルプリント基板(FPC)4、及び、配線基板3の後面に接合されるインクマニホールド5を備えている。
【0041】
なお、本明細書においては、ヘッドチップ1からインクが吐出される側の面を「前面」といい、その反対側の面を「後面」という。また、ヘッドチップ1を前面又は後面から見て、並設されるチャネルを挟んで上下に位置する外側面をそれぞれ「上面」及び「下面」という。
【0042】
ヘッドチップ1は、圧電素子からなる駆動壁13とチャネル14とが交互に並設されている。なお、この態様では、全てのチャネル14がインクを吐出するインクチャネルであり、全てのチャネル14にインクマニホールド5からインクが供給される。
【0043】
このヘッドチップ1において、各チャネル14は図1において上下に2列となるチャネル列を有しており、また、各チャネル列はそれぞれ6個のチャネル14からなるが、ヘッドチップ1中のチャネル列の数及び各チャネル列を構成するチャネル14の数は何ら限定されない。
【0044】
図2は、図1におけるii−ii線断面図であり、ノズルプレート2、ヘッドチップ1、配線基板3を拡大して示している。
【0045】
図2に示すように、チャネル14の形状は、各チャネル14は入口141から出口142に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。すなわち、両側壁が上面及び下面に対してほぼ垂直に立ち上がっており、チャネル14、14、・・は互いに平行である。
【0046】
また、ヘッドチップ1の前面及び後面にはそれぞれ各チャネル14の出口142と入口141とが配置される。
【0047】
ヘッドチップ1の内面には、少なくとも駆動壁13と密着するように、それぞれ駆動電極15が形成されており、ヘッドチップ1の後面には、各チャネル14の内面から入口141を経てヘッドチップ1の後面にかけて、各駆動電極15と導通する接続電極16が形成されている。これら駆動電極15及び接続電極16は本発明におけるチップ側電極である。
【0048】
ヘッドチップ1の前面に貼着されるノズルプレート2は、各チャネル14の出口142に対応するように、それぞれノズル21が開設されている。
【0049】
ヘッドチップ1の後面に接合される配線基板3には、ヘッドチップ1と接合される面に、ヘッドチップ1の後面に露出する接続電極16を介して、各駆動電極15に駆動回路からの電圧を印加するための配線電極33が形成されている。また、ヘッドチップ1のチャネル列に対応する領域に、ヘッドチップ1の後面に開口する全チャネル14の入口141が露呈するように、平面視矩形状となる開口部32が表裏に貫通するように形成されている。図2では、2列のチャネル列に対して、これらを全て含む大きさの1つの開口部32が形成されているが、開口部32は、チャネル列毎にそれぞれ形成されていてもよい。
【0050】
配線基板3は、ヘッドチップ1とインクマニホールド5との連結部を成すと同時に、FPC4との接続部位を提供するため、ある程度の強度を有する必要があり、好ましくは、厚さが300μm以上700μm以下の範囲に形成されている。配線基板3の材質としては、ガラス、セラミックス又はアルミナ等を好ましく例示できる。特にガラス(耐熱ガラス)が、安価で加工も容易であるために好ましい。
【0051】
配線基板3の大きさ(面積)は、ヘッドチップ1の後面の面積よりも十分に大きく、これにより、ヘッドチップ1の側方(上面側及び下面側)に大きく張り出すFPC4との接側領域が確保されている。一方、開口部32の大きさ(開口面積)は、ヘッドチップ1との接合代が形成されるように、ヘッドチップ1の後面の面積よりも小さいが、ヘッドチップ1の後面に対する接合位置に若干のずれが発生しても、配線基板3の基板部分がヘッドチップ14の入口141を塞ぐことのないようにすることを考慮して、全チャネル14の入口141が含まれる領域よりも若干大きめに形成されている。
【0052】
これにより、配線基板3がヘッドチップ1の後面に接合された際、開口部32におけるヘッドチップ1に配向される側の開口部周縁35は、ヘッドチップ1の後面におけるチャネル14の入口141の周縁143よりも外側に位置しており、両者の間には300μm程度の離間距離Dが形成されている(図3参照)。このため、ヘッドチップ1の後面側から見た場合、開口部32内には、前記チャネル14の入口141と、その周囲のヘッドチップ1の後面部分が、全入口141を取り囲むように露出している。
【0053】
これらヘッドチップ1と配線基板3との接合は、接続電極16と配線電極33との間に、導電性接着剤を介層することによってなされている。導電性接着剤としては、格別限定されないが、ニッケル粒子を分散させた接着剤を好ましく例示できる。
【0054】
インクマニホールド5は、配線基板3のヘッドチップ1と反対側の面に接合されている。52はインクマニホールド5へのインク流入口である。
【0055】
絶縁性保護膜Mは、ヘッドチップ1と配線基板3とが接合された後の、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて連続的に形成される。すなわち絶縁性保護膜Mは、駆動電極15、接続電極16及び配線電極33のそれぞれの露出部位を被覆している。
【0056】
「駆動電極15、接続電極16及び配線電極33のそれぞれの露出部位」とは、駆動電極15の露出部位は、チャネル14の内面全面である。また、接続電極16の露出部位は、チャネル14の入口周縁143から配線電極33との電気的接続部位との間の該配線電極33と重なり合っていない部位であり、配線電極33の露出部位は、電気的に接続された接続電極16の表面と配線基板33のヘッドチップ1に配向される面36との間で、開口部32側に向いた側面(配線電極33の厚みを形成する側面)である。
【0057】
絶縁性保護膜Mが連続的に形成されるとは、これら駆動電極15、接続電極16及び配線電極33とに亘って被覆される部位に、部分的な途切れ部が存在していないことである。
【0058】
本発明において、絶縁性保護膜Mは、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition、以下CVDという場合がある)等のように気相からの蒸着により形成される膜であることが好ましく、特にポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜が好適である。
【0059】
絶縁性保護膜Mの膜厚は、チャネル14の内面における膜厚として、1μm以上3μm以下、好ましくは、2μm以上3μm以下の範囲であることが好ましい。3μmを超えると、チャネル14の高密度化、即ち印刷画像の高画質化を実現する上で障害となり易く、1μmに満たないと、十分な保護機能を発現できない場合がある。
【0060】
ここで、図2のA部分拡大図である図3に示す通り、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度α(以下、開口縁断面角度αという場合がある。)は、45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下となっている。これにより、接続電極16と配線電極33との電気的接続部位の周辺部分は、ヘッドチップ1の後面から配線基板3の後方に向けて広く拡開して開放された形状となり、後方側から開口部32内を見た場合、影となる部位が形成されにくくなる。
【0061】
このため、気相等から絶縁性保護膜Mを形成する際に、保護膜成分を含む流体が、配線基板3の後方側から開口部32に入り込んだ際、開口部周縁35近傍にまで流れ込み易くなり、膜厚としてノズル径を考慮して1μm以上3μm以下の薄膜を形成しても、開口部32の開口部周縁35近傍において保護膜成分の不足に起因するピンホールの発生が防止される。これにより、駆動電極15、接続電極16及び配線電極33、並びに、導電性接着剤を、絶縁性保護膜Mによってインクから確実に隔離することができ、電極の腐食や接着剤の強度低下の問題は解決され、長期に亘ってインクジェットヘッドの性能維持を図ることができる。
【0062】
この角度αが45°に満たない場合は、配線基板3が開口部周縁35の近傍において強度不足となり、特にヘッドチップ1との接合時(熱圧着等)において破損を生じやすく、一方、88°を超える場合は、開口部周縁35近傍において保護膜成分の入れ込みが不足しがちとなり、ピンホールの発生を有効に防止することができなくなる。
【0063】
これらの結果、絶縁性保護膜Mを薄く成膜することが可能となるので、ノズルの高密度化、即ち印刷画像の高画質化を実現することが可能となる。
【0064】
次に、このような配線基板33の開口部32の開口部周縁35に角度αを形成する方法の一例について、図4を用いて説明する。
【0065】
配線基板3における角度αの形成方法は、格別限定されるものではないが、サンドブラストにより形成する方法、ダイシングソーで加工する方法、超音波加工機で加工する方法、焼結前のセラミックスを型成形し、焼成する方法等が挙げられる。中でもサンドブラストにより形成する方法が、角度αの調整が容易であるために好ましい。ここではガラス基板にサンドブラストによって形成する場合を例示する。
【0066】
まず、配線基板3となる一枚の平板状のガラス基板300を用意し(図4(a))、その一方の面に、開口部32を形成すべき領域以外の非加工領域にマスキング材301を被覆して、ステージにセットする(図4(b))。
【0067】
次いで、ガラス基板300に対し、マスキング材301を被覆した面から研磨剤拭き付け装置302により、ガラス基板300に向けて研磨剤を吹き付け、マスキングされていない部位を削り取る(図4(c))。
【0068】
サンドブラスト処理は、加工が表面から深さ方向に進むにつれて加工範囲が狭くなる性質を有する。そのため、加工部位が貫通するまで吹き付け処理を行うと、ガラス基板300には、貫通孔からなる開口部32が形成されると共に、その内壁面34は深くなるに従って徐々に狭くなるテーパ状に形成され、その開口部周縁35の角度αは、90°未満となる(図4(d))。
【0069】
この角度αは、一方の面のみからのサンドブラスト処理の処理強度や処理時間により調整することができるので、これらを適宜調整することにより、45°以上88°以下の範囲となるように調整することができる。
【0070】
この後、マスキング材301を除去することにより、開口部32を有する配線基板3が作製される(図4(e))。
【0071】
なお、配線電極33は、開口部32の加工前又は加工後のいずれで行ってもよい。配線電極33は、スパッタリング法や蒸着法等の適宜公知の方法によってパターニングすることができる。
【0072】
以上の態様では、配線基板3が一枚板からなるものについて説明したが、配線基板3は複数枚の基板を積層して形成したものであってもよい。この場合は、ヘッドチップ1側に積層される基板3aにおいて、ヘッドチップに配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αが45°以上88°以下の範囲に調整されていれば、電極保護の目的を達成することができる。
【0073】
従って、図5に示すように、例えば2枚の基板3a、3bからなる配線基板3の場合、ヘッドチップに配向される面36から開口部32の内壁面34aにかけて成す角度αが45°以上88°以下の範囲であれば、基板3b側の内壁面34bを同程度の角度のテーパを持ったものとしてもよく、また、図6に示すように、ヘッドチップ1と反対側に積層される基板3bは、異なる角度のテーパを持ったものとしてもよい。
【0074】
但し、ヘッドチップ1と反対側に積層される基板3b側の開口部32の部分は、ヘッドチップ1側に配置される基板3a側の開口部32の部分にかからないように形成されることが望ましい。
【0075】
また、ヘッドチップ1と配線基板3とを接合する接着剤層を絶縁性保護膜Mによってより好適に保護する観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0076】
以上に示した態様においては、配線基板3に設けられた1つの開口部32が、ヘッドチップ1が備える全てのチャネル14の入口141を露出させる構成を示したが、本発明はかかる構成に限定されるものではない。
【0077】
図7は、本発明に係るインクジェットヘッドの他の態様を示す図(ヘッドチップ1の後面側から見た図)であり、開口部32が、チャネル14の入口141をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられる態様を示している。この態様において、チャネル14と開口部32とは、1対1に対応している。
【0078】
図8は、図7におけるviii−viii線断面図であり、インクジェットヘッドにおけるヘッドチップ1、配線基板3を拡大して示している。なお、37はヘッドチップ1と配線基板3とを接合する接着剤層である。
【0079】
図8に示す通り、本態様においても、各々の開口部32において、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αが45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下の範囲とされている。
【0080】
そして、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極(駆動電極15、接続電極16)及び配線電極33の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜Mが連続的に形成されている。
【0081】
これにより、図1〜3に示した態様と同様に、チャネル14の高密度化のために絶縁性保護膜Mの膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極(駆動電極15、接続電極16及び配線電極33)を充分に保護することが可能となる効果を奏する。
【0082】
なお、この態様では特に、各チャネル14の入口141の周囲が配線基板3の開口部32によって取り囲まれるため、絶縁性保護膜Mによる接着剤層37の保護を図る観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0083】
また、図9は、本発明に係るインクジェットヘッドの更なる他の態様を示す図(ヘッドチップ1の後面側から見た図)である。
【0084】
図示の態様において、開口部32a、32bは、チャネル列140a、140b毎に独立して設けられている。また、この態様において、2つの開口部32a、32bは、それぞれ1つのチャネル列140a又は140bを構成する全てのチャネル14の入口141を露出するように形成されている。更にまた、この態様において、チャネル列140a、140bと開口部32a、32bとは、1対1に対応している。
【0085】
本態様においても、図7及び図8の態様と同様に、各々の開口部32において、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度が45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下の範囲とされている。
【0086】
そして、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極(駆動電極15、接続電極16)及び配線電極33の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜Mが連続的に形成されている。
【0087】
これにより、図1〜3に示した態様と同様に、チャネル14の高密度化のために絶縁性保護膜Mの膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極(駆動電極15、接続電極16及び配線電極33)を充分に保護することが可能となる効果を奏する。
【0088】
また、この態様においても、絶縁性保護膜Mによる接着剤層37の保護を図る観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0089】
また、本発明においては、インクジェットヘッドの印字品質や印字速度の向上等のために、ヘッドチップ1に複数並設されるチャネル14が、インクを吐出するインクチャネルと、インクを吐出しないダミーチャネルとが交互に並設されたものであってもよい。
【0090】
図10は、本発明に係るインクジェットヘッドの更にまた他の態様を示す図(ヘッドチップ1の後面側から見た図)であり、ヘッドチップ1において、ダミーチャネルとして設けられたエアチャネル14Bが、インクチャネル14Aに隣接して交互に形成されている態様を示している。
【0091】
このように、インクチャネル14A間にエアチャネル14Bが介在することにより、他のインクチャンネル14Aに影響を与えることなく所望のインクチャンネル14Aからインクを噴射することができ、さらに、インクチャネル14Aに隣接する駆動壁13の駆動性を向上できるため、印字品質及び印字速度の向上を図ることができる。
【0092】
このようにエアチャネル14Bを備えるインクジェットヘッド1においては、エアチャネル14B内へのインクの流入を防ぐために、エアチャネル14Bの入口を配線基板3により閉鎖してインクに露出させないようにすると共に、インクが供給されるインクチャネル14Aの入口141のみを露出させるように、開口部32が形成されている。
【0093】
また、図示の態様では、開口部32は、インクチャネル14Aの入口141をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられている。従って、この態様では、開口部32は、インクを吐出するインクチャネル14Aのみと1対1に対応している。
【0094】
本態様においても、図7及び図8の態様と同様に、各々の開口部32において、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度が45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下の範囲とされている。
【0095】
そして、少なくともヘッドチップ1のインクチャネル14A内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極(駆動電極15、接続電極16)及び配線電極33の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜Mが連続的に形成されている。
【0096】
これにより、図1〜3に示した態様と同様に、インクチャネル14Aの高密度化のために絶縁性保護膜Mの膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極(駆動電極15、接続電極16及び配線電極33)を充分に保護することが可能となる効果を奏する。
【0097】
また、この態様においても特に、各チャネル14の入口141の周囲が配線基板3の開口部32によって取り囲まれるため、絶縁性保護膜Mによる接着剤層37の保護を図る観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0098】
以上、図7〜10に示す配線基板3も、図4と同様にして作製することができる。
【実施例】
【0099】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0100】
(実施例1)
チャネル幅が42μmとなる300dpiのハーモニカ型ヘッドチップを作製し、そのチャネルの内面(駆動壁)に厚さが3μmとなるように駆動電極を形成すると共に、ヘッドチップの後面に各駆動電極と導通する接続電極を形成した。
【0101】
厚み300μmのガラス板に、その片面のみからサンドブラスト処理により、ヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αが45°となる開口部を形成することにより配線基板を作製し、その片面に配線電極とを形成した後、配線電極とヘッドチップの後面の接続電極とが電気的に接続されるように、ニッケルを分散させた導電性接着剤を用いて熱圧着により接合した。
【0102】
次いで、チャネルの内部から配線基板の開口部の内壁面にかけて連続する絶縁性保護膜(ポリパラキシリレン膜)を、CVD法によって膜厚が3μmとなるように被覆形成した。
【0103】
次いで、ヘッドチップの前面にノズル(直径26μm)を有するノズルプレートを貼着し、ヘッドチップの後面に配線基板を介してインクマニホールドを接合し、更に、配線基板の端部にFPCを接続し、インクジェットヘッドを得た。
【0104】
<評価方法>
1.保護膜リーク電流の測定
インクジェットヘッドを、100℃において1時間加熱処理した後、各チャネルに10mS/mの導電率の検査液を充填し、検査液と電極(配線電極の部位)との間に電位を印加して、絶縁性保護膜からのリーク電流を測定した。
【0105】
絶縁性保護膜にピンホールや断絶部があれば、検査液と電極との間に電流が流れるため、この電流を測定することによって、絶縁性保護膜の成膜状態を確認することができる。
【0106】
評価は以下の基準で行った。
○:リーク電流が1nA/V未満
×:リーク電流が1nA/V以上
その結果を表1に示す。
【0107】
2.電極腐食発生の観察
絶縁性保護膜の膜剥がれに起因する電極腐食を調べた。
【0108】
各チャネルにインク(マゼンタ)を充填したインクジェットヘッドのノズルをインクの入った容器に浸漬した状態で、60℃において1ヶ月間放置した後、インクに対して配線電極から駆動電極に+10Vの直流電圧を印加してリーク電流があるかを調べた。
【0109】
絶縁性保護膜に膜剥がれがあると、電極の腐食が進行し、インクに電流がリークするため、この電流を測定することによって、絶縁性保護膜の膜剥がれに起因する電極腐食発生の有無を確認することができる。
【0110】
評価は以下の基準で行った。
○:リーク電流が1nA未満
×:リーク電流が1nA以上
その結果を表1に示す。
【0111】
3.接着剤層染色の観察
絶縁性保護膜の膜剥がれに起因する接着剤層への影響(染色)の有無を調べた。
【0112】
各チャネルにインク(マゼンタ)を充填したインクジェットヘッドのノズルをインクの入った容器に浸漬した状態で、60℃において1ヶ月間放置した後、インクを排出し、インクジェットヘッドを分解して配線基板とヘッドチップとの間の接着剤の着色の有無を観察した。
【0113】
絶縁性保護膜に膜剥がれがあると、接着剤層がインクと接触して膨潤し、マゼンタに染色されるため、マゼンタに染色されているか否かを配線基板のガラスを通して観察した。
【0114】
評価は以下の基準で行った。
○:染色が確認されない
×:染色が確認された
その結果を表1に示す。
【0115】
4.配線基板の強度の観察
角度αの大きさによる配線基板の強度について調べた。
【0116】
ヘッドチップの後面に配線基板を熱圧着した際に、配線基板の開口部周縁において破損の発生の有無を観察した。
【0117】
評価は以下の基準で行った。
○:破損がなかった
×:破損が発生していた
その結果を表1に示す。
【0118】
(実施例2)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを50°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
(実施例3)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを60°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(実施例4)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを70°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(実施例5)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを88°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例6)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
(実施例7)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを50°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
(実施例8)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを60°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例9)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを80°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(実施例10)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを88°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
(比較例1)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを40°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
(比較例2)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを90°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
以上のように、角度αが45°以上88°以下の範囲である実施例1〜10のインクジェットヘッドは、絶縁保護膜が、チャネル内面における膜厚として2〜3μmという薄さであるにも関わらず、保護膜リーク電流の測定、及び、電極腐食発生の観察において、リーク電流が認められず、接着剤層の観察においても接着剤のインクによる染色が認められなかったことから、絶縁保護膜にピンホールや断絶部が発生することなく、電極が確実に保護(インクから隔離)されていることがわかる。また、ヘッドチップとの接合時において、配線基板の開口部周縁における破損も生じなかった。
【0131】
これに対して、角度αが40°の比較例1では、ヘッドチップとの接合時において、配線基板に破損が生じ、強度が低下するため不適であることがわかる。
【0132】
一方、角度αが90°の比較例2では、保護膜リーク電流の測定、及び、電極腐食発生の観察において、リーク電流が認められ、接着剤層の観察においても接着剤のインクによる染色が認められたことから、絶縁性保護膜にピンホールや断絶部が発生し、電極の保護が不十分となることがわかる。
【0133】
また、絶縁性保護膜のチャネル内面における膜厚を更に薄く2μmとした実施例6〜10では、一部のインクジェットヘッドにおいて実用上問題のない範囲で導電性接着剤のインクによる染色が認められたが、角度αが45°以上80°以下の範囲である実施例6〜9では染色が認められなかった。このことから、角度αが45°以上80°以下の範囲であることにより、絶縁性保護膜による保護機能がより好適に発現していることがわかる。
【符号の説明】
【0134】
1:ヘッドチップ
14:チャネル
14A:インクチャネル
14B:エアチャネル
15:駆動電極
16:接続電極
2:ノズルプレート
21:ノズル
3:配線基板
32:開口部
33:配線電極
34:開口部の内壁面
35:開口部周縁
36:ヘッドチップに配向される面
4:FPC
5:インクマニホールド
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドに関し、詳しくは、絶縁性保護膜の膜厚を低下させてもピンホールを生じず電極が充分に保護され、ノズルの高密度化を実現できるインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドには、分極処理された圧電素子にチャネルを研削して、該チャネルを区画する駆動壁に駆動電極を形成し、該駆動電極に電圧を印加することにより駆動壁をくの字状にせん断変形させてチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたせん断モードのインクジェットヘッドが知られている。
【0003】
その中でも、インクを吐出させるためのアクチュエータを、圧電素子からなる駆動壁とチャネルとが交互に並設されると共に前面及び後面にそれぞれチャネルの出口と入口とが配置される所謂ハーモニカ型のヘッドチップにより構成したインクジェットヘッド(特許文献1)が知られている。
【0004】
近年、印刷画像の高画質化のために、ノズルをより高密度に並設することが要求されており、ハーモニカ型のヘッドチップを有するインクジェットヘッドの場合では、チャネル幅をより細幅状に形成し、チャネル密度を高密度にすることで、ノズルの高密度化の要求に応えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−83705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、チャネル内部やインク供給路となる部位の壁面は、インクと直に接触するため、特に水系インクを使用した場合、これらの部位に電極が露出していると、電極の腐食を引き起こす問題がある。このため、少なくとも電極が露出する部位には、絶縁性保護膜を被覆形成することでインクからの保護を行うようにしている。
【0007】
しかし、このように絶縁性保護膜を被覆形成したインクジェットヘッドにおいて、チャネル幅を更に細幅状に形成してノズルの高密度化を図ろうとすると、新たな問題があることがわかった。
【0008】
以下に図11〜13を用いて説明する。
【0009】
図11(a)は、ハーモニカ型ヘッドチップのチャネル密度を180dpiとした場合の一つのチャネルをインクの吐出方向から見た図であり、図11(b)は、同じくハーモニカ型ヘッドチップのチャネル密度を300dpiに高密度化した場合を示している。
【0010】
前者の180dpiの場合、チャネル幅は82μm程度まで確保されるのに対し、後者の300dpiの場合、チャネル幅は42μmまで縮小される。これらいずれの場合でも、チャネルの出口に配置されるノズル621の径は、所定のインク滴径やインクの吐出特性を維持するため、所定のノズル径を維持する必要があり、ここではいずれも26μmに形成されている。また、いずれのチャネルの内面にも、ここでは3μmの厚みの駆動電極615が形成されている。
【0011】
ここで、チャネル内面の駆動電極615を保護するために絶縁性保護膜Mを形成すると、前者の180dpiの場合では、充分な厚み(具体的には7μm±15%程度)で形成することができた。
【0012】
しかしながら、後者の300dpiの場合では、42μmの幅を有するチャネルの内面に駆動電極615が3μmの厚みで形成されると、チャネル内面に形成可能な絶縁性保護膜Mの膜厚は3μmが限度となってしまう。これは、ノズルプレートを貼着する際にノズル621の位置の誤差が±2μm程度生じることを考慮した場合、絶縁性保護膜Mの膜厚が3μmを超えると、該絶縁性保護膜Mがノズル621の部分までかかってしまい、最悪の場合ノズル621が塞がれてしまうおそれがあるからである。
【0013】
このように絶縁性保護膜Mの膜厚が3μmという薄い膜厚の絶縁性保護膜Mを成膜した場合、電極の保護が部分的に不十分となり、電極の腐食が発生する問題が生じ、このことが、ノズルの高密度化、即ち印刷画像の高画質化を妨げていた。
【0014】
本発明者は、従来技術における3μmという薄い膜厚で絶縁性保護膜を成膜した場合に電極が充分に保護されない原因の解明を試みた。その結果、ヘッドチップの後面に接合される配線基板との接合部位において、絶縁保護膜の成膜が不十分になる箇所が発生することを見出した。
【0015】
すなわち、ハーモニカ型のヘッドチップの後面には、各チャネル内の駆動電極に対して駆動回路からの電圧を印加するため、各チャネルの内部からヘッドチップの後面まで引き出された電極を介して電圧印加のための外部配線部材(FPC)を接続させるための配線基板が接合される。
【0016】
図12はこのような配線基板を接合したヘッドチップの断面図であり、601はハーモニカ型のヘッドチップ、602はヘッドチップ601の前面に接合されたノズルプレート、603はヘッドチップ601の後面に接合された配線基板である。
【0017】
ヘッドチップ601は複数並設されたチャネル614を有し、その内面には駆動電極615が形成されている。チャネル614は、ヘッドチップ621の前面及び後面にそれぞれチャネル614の出口642と入口641とが配置され、また、ヘッドチップ601の後面には、チャネル614の内面の駆動電極615と導通し、入口641を経て後面にかけて形成された接続電極616が形成されている。各接続電極616は、各チャネル614の入口641からヘッドチップ601の外側に向けて延びている。
【0018】
配線基板603には、ヘッドチップ601との接合される面に、接続電極616を介して駆動電極615に駆動回路からの電圧を印加するための配線電極633が形成され、ヘッドチップ601の後面に接合されることで、配線電極633と接続電極616との電気的接続が図られている。
【0019】
この配線基板603には、ヘッドチップ601の後面に全チャネル614の入口641が露呈するように開口する開口部632が形成されている。この開口部632の形成は、通常サンドブラスト処理によってなされるが、サンドブラスト処理は、切削が表面から内部に進むにつれて加工効率が低下する性質を有するため、従来は、配線基板603に対して効率的に切削加工を行うために、両面からサンドブラスト処理を行っている。
【0020】
このサンドブラスト処理は、切削が表面から内部に進むにつれて加工範囲が狭くなる性質を有する。そのため、図12における領域Aの部分拡大図である図13に示す通り、両面からサンドブラスト処理により開口部632を形成すると、開口部632の内壁面634は、図示するように「く」の字状に突出する形状となる。
【0021】
「く」の字状に突出する形状では、開口部632のヘッドチップ601に配向される面636側の周縁部635において、配線基板603におけるヘッドチップ601に配向される面636から開口部632の内壁面634にかけて成す角度αが90°以上の鈍角となるので、絶縁性保護膜Mを形成すべき部位は逆に入り組んだ形状となり、絶縁性保護膜Mの被膜成分が行き渡らず、絶縁性保護膜Mの形成が不安定となってピンホールが生じやすくなっていた。
【0022】
絶縁性保護膜Mにピンホールが形成されていると、接着剤にインクが浸み込んで長期使用によって接着強度を低下させてしまう問題もある。
【0023】
この知見に基づいて、本発明者は、この角度αと絶縁性保護膜Mの成膜状態との関係に着目して鋭意検討を行い、角度αを所定の範囲で鋭角とすることにより、上述したような薄い絶縁性保護膜Mを成膜する際においても、ピンホールを生じることなく充分な成膜が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0024】
そこで、本発明の課題は、チャネルの高密度化のために絶縁性保護膜の膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極を充分に保護することが可能なインクジェットヘッドを提供することにある。
【0025】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0027】
請求項1記載の発明は、複数並設されるチャネルを有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口と入口とが配置されると共に前記チャネル内から該チャネルの入口を経て前記後面にかけて連続するチップ側電極が形成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップのインクを供給させる前記チャネルの入口を露出させる開口部を有すると共に、前記ヘッドチップに配向される面に、前記ヘッドチップの後面に露出している前記チップ側電極と電気的に接続される配線電極を有する配線基板とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記配線基板における前記ヘッドチップに配向される面から前記開口部の内壁面にかけて成す角度が45°以上88°以下の範囲であり、
少なくとも前記ヘッドチップの前記チャネル内から前記配線基板の前記開口部の内壁面にかけて、前記チップ側電極及び前記配線電極の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜が連続的に形成されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0028】
請求項2記載の発明は、前記開口部は、全ての前記チャネルの入口を露出させる1つの開口部であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0029】
請求項3記載の発明は、前記開口部は、前記チャネルの入口をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0030】
請求項4記載の発明は、前記ヘッドチップは、複数のチャネル列を有しており、
前記開口部は、前記チャネル列毎に設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0031】
請求項5記載の発明は、前記複数並設されるチャネルは、インクを吐出するインクチャネルと、インクを吐出しないダミーチャネルとが交互に並設されており、
前記開口部は、前記インクチャネルの入口を露出させ、前記ダミーチャネルの入口を露出させないように設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0032】
請求項6記載の発明は、前記絶縁性保護膜の膜厚は、1μm以上3μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【0033】
請求項7記載の発明は、前記絶縁性保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【0034】
請求項8記載の発明は、前記配線基板は、厚さが300μm以上700μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【0035】
請求項9記載の発明は、前記配線基板は、ガラス、セラミックス又はアルミナからなることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のインクジェットヘッドである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、チャネルの高密度化のために絶縁性保護膜の膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極を充分に保護することが可能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図
【図2】図1におけるii−ii線断面図
【図3】図2における領域Aの部分拡大図
【図4】配線基板の開口縁における角度αの形成方法の一例を説明する図
【図5】配線基板の他の態様を説明する断面図
【図6】配線基板の更に他の態様を説明する断面図
【図7】本発明に係るインクジェットヘッドの他の態様を示す後面図
【図8】図7におけるviii−viii線断面図
【図9】本発明に係るインクジェットヘッドの更なる他の態様を示す後面図
【図10】本発明に係るインクジェットヘッドの更にまた他の態様を示す後面図
【図11】チャネル密度とチャネル幅の関係を説明する図
【図12】従来技術に係るインクジェットヘッドの一例を示す要部断面図
【図13】図12における領域Aの部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0039】
図1は、本発明に係るインクジェットヘッドの一例を示す分解斜視図である。
【0040】
インクジェットヘッドは、ヘッドチップ1、ヘッドチップ1の前面に接合されるノズルプレート2、ヘッドチップ1の後面に接合される配線基板3、配線基板3に接合される外部配線基板であるフレキシブルプリント基板(FPC)4、及び、配線基板3の後面に接合されるインクマニホールド5を備えている。
【0041】
なお、本明細書においては、ヘッドチップ1からインクが吐出される側の面を「前面」といい、その反対側の面を「後面」という。また、ヘッドチップ1を前面又は後面から見て、並設されるチャネルを挟んで上下に位置する外側面をそれぞれ「上面」及び「下面」という。
【0042】
ヘッドチップ1は、圧電素子からなる駆動壁13とチャネル14とが交互に並設されている。なお、この態様では、全てのチャネル14がインクを吐出するインクチャネルであり、全てのチャネル14にインクマニホールド5からインクが供給される。
【0043】
このヘッドチップ1において、各チャネル14は図1において上下に2列となるチャネル列を有しており、また、各チャネル列はそれぞれ6個のチャネル14からなるが、ヘッドチップ1中のチャネル列の数及び各チャネル列を構成するチャネル14の数は何ら限定されない。
【0044】
図2は、図1におけるii−ii線断面図であり、ノズルプレート2、ヘッドチップ1、配線基板3を拡大して示している。
【0045】
図2に示すように、チャネル14の形状は、各チャネル14は入口141から出口142に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。すなわち、両側壁が上面及び下面に対してほぼ垂直に立ち上がっており、チャネル14、14、・・は互いに平行である。
【0046】
また、ヘッドチップ1の前面及び後面にはそれぞれ各チャネル14の出口142と入口141とが配置される。
【0047】
ヘッドチップ1の内面には、少なくとも駆動壁13と密着するように、それぞれ駆動電極15が形成されており、ヘッドチップ1の後面には、各チャネル14の内面から入口141を経てヘッドチップ1の後面にかけて、各駆動電極15と導通する接続電極16が形成されている。これら駆動電極15及び接続電極16は本発明におけるチップ側電極である。
【0048】
ヘッドチップ1の前面に貼着されるノズルプレート2は、各チャネル14の出口142に対応するように、それぞれノズル21が開設されている。
【0049】
ヘッドチップ1の後面に接合される配線基板3には、ヘッドチップ1と接合される面に、ヘッドチップ1の後面に露出する接続電極16を介して、各駆動電極15に駆動回路からの電圧を印加するための配線電極33が形成されている。また、ヘッドチップ1のチャネル列に対応する領域に、ヘッドチップ1の後面に開口する全チャネル14の入口141が露呈するように、平面視矩形状となる開口部32が表裏に貫通するように形成されている。図2では、2列のチャネル列に対して、これらを全て含む大きさの1つの開口部32が形成されているが、開口部32は、チャネル列毎にそれぞれ形成されていてもよい。
【0050】
配線基板3は、ヘッドチップ1とインクマニホールド5との連結部を成すと同時に、FPC4との接続部位を提供するため、ある程度の強度を有する必要があり、好ましくは、厚さが300μm以上700μm以下の範囲に形成されている。配線基板3の材質としては、ガラス、セラミックス又はアルミナ等を好ましく例示できる。特にガラス(耐熱ガラス)が、安価で加工も容易であるために好ましい。
【0051】
配線基板3の大きさ(面積)は、ヘッドチップ1の後面の面積よりも十分に大きく、これにより、ヘッドチップ1の側方(上面側及び下面側)に大きく張り出すFPC4との接側領域が確保されている。一方、開口部32の大きさ(開口面積)は、ヘッドチップ1との接合代が形成されるように、ヘッドチップ1の後面の面積よりも小さいが、ヘッドチップ1の後面に対する接合位置に若干のずれが発生しても、配線基板3の基板部分がヘッドチップ14の入口141を塞ぐことのないようにすることを考慮して、全チャネル14の入口141が含まれる領域よりも若干大きめに形成されている。
【0052】
これにより、配線基板3がヘッドチップ1の後面に接合された際、開口部32におけるヘッドチップ1に配向される側の開口部周縁35は、ヘッドチップ1の後面におけるチャネル14の入口141の周縁143よりも外側に位置しており、両者の間には300μm程度の離間距離Dが形成されている(図3参照)。このため、ヘッドチップ1の後面側から見た場合、開口部32内には、前記チャネル14の入口141と、その周囲のヘッドチップ1の後面部分が、全入口141を取り囲むように露出している。
【0053】
これらヘッドチップ1と配線基板3との接合は、接続電極16と配線電極33との間に、導電性接着剤を介層することによってなされている。導電性接着剤としては、格別限定されないが、ニッケル粒子を分散させた接着剤を好ましく例示できる。
【0054】
インクマニホールド5は、配線基板3のヘッドチップ1と反対側の面に接合されている。52はインクマニホールド5へのインク流入口である。
【0055】
絶縁性保護膜Mは、ヘッドチップ1と配線基板3とが接合された後の、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて連続的に形成される。すなわち絶縁性保護膜Mは、駆動電極15、接続電極16及び配線電極33のそれぞれの露出部位を被覆している。
【0056】
「駆動電極15、接続電極16及び配線電極33のそれぞれの露出部位」とは、駆動電極15の露出部位は、チャネル14の内面全面である。また、接続電極16の露出部位は、チャネル14の入口周縁143から配線電極33との電気的接続部位との間の該配線電極33と重なり合っていない部位であり、配線電極33の露出部位は、電気的に接続された接続電極16の表面と配線基板33のヘッドチップ1に配向される面36との間で、開口部32側に向いた側面(配線電極33の厚みを形成する側面)である。
【0057】
絶縁性保護膜Mが連続的に形成されるとは、これら駆動電極15、接続電極16及び配線電極33とに亘って被覆される部位に、部分的な途切れ部が存在していないことである。
【0058】
本発明において、絶縁性保護膜Mは、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition、以下CVDという場合がある)等のように気相からの蒸着により形成される膜であることが好ましく、特にポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜が好適である。
【0059】
絶縁性保護膜Mの膜厚は、チャネル14の内面における膜厚として、1μm以上3μm以下、好ましくは、2μm以上3μm以下の範囲であることが好ましい。3μmを超えると、チャネル14の高密度化、即ち印刷画像の高画質化を実現する上で障害となり易く、1μmに満たないと、十分な保護機能を発現できない場合がある。
【0060】
ここで、図2のA部分拡大図である図3に示す通り、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度α(以下、開口縁断面角度αという場合がある。)は、45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下となっている。これにより、接続電極16と配線電極33との電気的接続部位の周辺部分は、ヘッドチップ1の後面から配線基板3の後方に向けて広く拡開して開放された形状となり、後方側から開口部32内を見た場合、影となる部位が形成されにくくなる。
【0061】
このため、気相等から絶縁性保護膜Mを形成する際に、保護膜成分を含む流体が、配線基板3の後方側から開口部32に入り込んだ際、開口部周縁35近傍にまで流れ込み易くなり、膜厚としてノズル径を考慮して1μm以上3μm以下の薄膜を形成しても、開口部32の開口部周縁35近傍において保護膜成分の不足に起因するピンホールの発生が防止される。これにより、駆動電極15、接続電極16及び配線電極33、並びに、導電性接着剤を、絶縁性保護膜Mによってインクから確実に隔離することができ、電極の腐食や接着剤の強度低下の問題は解決され、長期に亘ってインクジェットヘッドの性能維持を図ることができる。
【0062】
この角度αが45°に満たない場合は、配線基板3が開口部周縁35の近傍において強度不足となり、特にヘッドチップ1との接合時(熱圧着等)において破損を生じやすく、一方、88°を超える場合は、開口部周縁35近傍において保護膜成分の入れ込みが不足しがちとなり、ピンホールの発生を有効に防止することができなくなる。
【0063】
これらの結果、絶縁性保護膜Mを薄く成膜することが可能となるので、ノズルの高密度化、即ち印刷画像の高画質化を実現することが可能となる。
【0064】
次に、このような配線基板33の開口部32の開口部周縁35に角度αを形成する方法の一例について、図4を用いて説明する。
【0065】
配線基板3における角度αの形成方法は、格別限定されるものではないが、サンドブラストにより形成する方法、ダイシングソーで加工する方法、超音波加工機で加工する方法、焼結前のセラミックスを型成形し、焼成する方法等が挙げられる。中でもサンドブラストにより形成する方法が、角度αの調整が容易であるために好ましい。ここではガラス基板にサンドブラストによって形成する場合を例示する。
【0066】
まず、配線基板3となる一枚の平板状のガラス基板300を用意し(図4(a))、その一方の面に、開口部32を形成すべき領域以外の非加工領域にマスキング材301を被覆して、ステージにセットする(図4(b))。
【0067】
次いで、ガラス基板300に対し、マスキング材301を被覆した面から研磨剤拭き付け装置302により、ガラス基板300に向けて研磨剤を吹き付け、マスキングされていない部位を削り取る(図4(c))。
【0068】
サンドブラスト処理は、加工が表面から深さ方向に進むにつれて加工範囲が狭くなる性質を有する。そのため、加工部位が貫通するまで吹き付け処理を行うと、ガラス基板300には、貫通孔からなる開口部32が形成されると共に、その内壁面34は深くなるに従って徐々に狭くなるテーパ状に形成され、その開口部周縁35の角度αは、90°未満となる(図4(d))。
【0069】
この角度αは、一方の面のみからのサンドブラスト処理の処理強度や処理時間により調整することができるので、これらを適宜調整することにより、45°以上88°以下の範囲となるように調整することができる。
【0070】
この後、マスキング材301を除去することにより、開口部32を有する配線基板3が作製される(図4(e))。
【0071】
なお、配線電極33は、開口部32の加工前又は加工後のいずれで行ってもよい。配線電極33は、スパッタリング法や蒸着法等の適宜公知の方法によってパターニングすることができる。
【0072】
以上の態様では、配線基板3が一枚板からなるものについて説明したが、配線基板3は複数枚の基板を積層して形成したものであってもよい。この場合は、ヘッドチップ1側に積層される基板3aにおいて、ヘッドチップに配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αが45°以上88°以下の範囲に調整されていれば、電極保護の目的を達成することができる。
【0073】
従って、図5に示すように、例えば2枚の基板3a、3bからなる配線基板3の場合、ヘッドチップに配向される面36から開口部32の内壁面34aにかけて成す角度αが45°以上88°以下の範囲であれば、基板3b側の内壁面34bを同程度の角度のテーパを持ったものとしてもよく、また、図6に示すように、ヘッドチップ1と反対側に積層される基板3bは、異なる角度のテーパを持ったものとしてもよい。
【0074】
但し、ヘッドチップ1と反対側に積層される基板3b側の開口部32の部分は、ヘッドチップ1側に配置される基板3a側の開口部32の部分にかからないように形成されることが望ましい。
【0075】
また、ヘッドチップ1と配線基板3とを接合する接着剤層を絶縁性保護膜Mによってより好適に保護する観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0076】
以上に示した態様においては、配線基板3に設けられた1つの開口部32が、ヘッドチップ1が備える全てのチャネル14の入口141を露出させる構成を示したが、本発明はかかる構成に限定されるものではない。
【0077】
図7は、本発明に係るインクジェットヘッドの他の態様を示す図(ヘッドチップ1の後面側から見た図)であり、開口部32が、チャネル14の入口141をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられる態様を示している。この態様において、チャネル14と開口部32とは、1対1に対応している。
【0078】
図8は、図7におけるviii−viii線断面図であり、インクジェットヘッドにおけるヘッドチップ1、配線基板3を拡大して示している。なお、37はヘッドチップ1と配線基板3とを接合する接着剤層である。
【0079】
図8に示す通り、本態様においても、各々の開口部32において、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αが45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下の範囲とされている。
【0080】
そして、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極(駆動電極15、接続電極16)及び配線電極33の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜Mが連続的に形成されている。
【0081】
これにより、図1〜3に示した態様と同様に、チャネル14の高密度化のために絶縁性保護膜Mの膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極(駆動電極15、接続電極16及び配線電極33)を充分に保護することが可能となる効果を奏する。
【0082】
なお、この態様では特に、各チャネル14の入口141の周囲が配線基板3の開口部32によって取り囲まれるため、絶縁性保護膜Mによる接着剤層37の保護を図る観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0083】
また、図9は、本発明に係るインクジェットヘッドの更なる他の態様を示す図(ヘッドチップ1の後面側から見た図)である。
【0084】
図示の態様において、開口部32a、32bは、チャネル列140a、140b毎に独立して設けられている。また、この態様において、2つの開口部32a、32bは、それぞれ1つのチャネル列140a又は140bを構成する全てのチャネル14の入口141を露出するように形成されている。更にまた、この態様において、チャネル列140a、140bと開口部32a、32bとは、1対1に対応している。
【0085】
本態様においても、図7及び図8の態様と同様に、各々の開口部32において、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度が45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下の範囲とされている。
【0086】
そして、少なくともヘッドチップ1のチャネル14内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極(駆動電極15、接続電極16)及び配線電極33の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜Mが連続的に形成されている。
【0087】
これにより、図1〜3に示した態様と同様に、チャネル14の高密度化のために絶縁性保護膜Mの膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極(駆動電極15、接続電極16及び配線電極33)を充分に保護することが可能となる効果を奏する。
【0088】
また、この態様においても、絶縁性保護膜Mによる接着剤層37の保護を図る観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0089】
また、本発明においては、インクジェットヘッドの印字品質や印字速度の向上等のために、ヘッドチップ1に複数並設されるチャネル14が、インクを吐出するインクチャネルと、インクを吐出しないダミーチャネルとが交互に並設されたものであってもよい。
【0090】
図10は、本発明に係るインクジェットヘッドの更にまた他の態様を示す図(ヘッドチップ1の後面側から見た図)であり、ヘッドチップ1において、ダミーチャネルとして設けられたエアチャネル14Bが、インクチャネル14Aに隣接して交互に形成されている態様を示している。
【0091】
このように、インクチャネル14A間にエアチャネル14Bが介在することにより、他のインクチャンネル14Aに影響を与えることなく所望のインクチャンネル14Aからインクを噴射することができ、さらに、インクチャネル14Aに隣接する駆動壁13の駆動性を向上できるため、印字品質及び印字速度の向上を図ることができる。
【0092】
このようにエアチャネル14Bを備えるインクジェットヘッド1においては、エアチャネル14B内へのインクの流入を防ぐために、エアチャネル14Bの入口を配線基板3により閉鎖してインクに露出させないようにすると共に、インクが供給されるインクチャネル14Aの入口141のみを露出させるように、開口部32が形成されている。
【0093】
また、図示の態様では、開口部32は、インクチャネル14Aの入口141をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられている。従って、この態様では、開口部32は、インクを吐出するインクチャネル14Aのみと1対1に対応している。
【0094】
本態様においても、図7及び図8の態様と同様に、各々の開口部32において、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度が45°以上88°以下、好ましくは、60°以上80°以下の範囲とされている。
【0095】
そして、少なくともヘッドチップ1のインクチャネル14A内から配線基板3の開口部32の内壁面34にかけて、チップ側電極(駆動電極15、接続電極16)及び配線電極33の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜Mが連続的に形成されている。
【0096】
これにより、図1〜3に示した態様と同様に、インクチャネル14Aの高密度化のために絶縁性保護膜Mの膜厚を低下させてもピンホールを生じることなく電極(駆動電極15、接続電極16及び配線電極33)を充分に保護することが可能となる効果を奏する。
【0097】
また、この態様においても特に、各チャネル14の入口141の周囲が配線基板3の開口部32によって取り囲まれるため、絶縁性保護膜Mによる接着剤層37の保護を図る観点からも、配線基板3におけるヘッドチップ1に配向される面36から開口部32の内壁面34にかけて成す角度αは、開口部32の全周に亘って上記角度とすることが好ましい。
【0098】
以上、図7〜10に示す配線基板3も、図4と同様にして作製することができる。
【実施例】
【0099】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0100】
(実施例1)
チャネル幅が42μmとなる300dpiのハーモニカ型ヘッドチップを作製し、そのチャネルの内面(駆動壁)に厚さが3μmとなるように駆動電極を形成すると共に、ヘッドチップの後面に各駆動電極と導通する接続電極を形成した。
【0101】
厚み300μmのガラス板に、その片面のみからサンドブラスト処理により、ヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αが45°となる開口部を形成することにより配線基板を作製し、その片面に配線電極とを形成した後、配線電極とヘッドチップの後面の接続電極とが電気的に接続されるように、ニッケルを分散させた導電性接着剤を用いて熱圧着により接合した。
【0102】
次いで、チャネルの内部から配線基板の開口部の内壁面にかけて連続する絶縁性保護膜(ポリパラキシリレン膜)を、CVD法によって膜厚が3μmとなるように被覆形成した。
【0103】
次いで、ヘッドチップの前面にノズル(直径26μm)を有するノズルプレートを貼着し、ヘッドチップの後面に配線基板を介してインクマニホールドを接合し、更に、配線基板の端部にFPCを接続し、インクジェットヘッドを得た。
【0104】
<評価方法>
1.保護膜リーク電流の測定
インクジェットヘッドを、100℃において1時間加熱処理した後、各チャネルに10mS/mの導電率の検査液を充填し、検査液と電極(配線電極の部位)との間に電位を印加して、絶縁性保護膜からのリーク電流を測定した。
【0105】
絶縁性保護膜にピンホールや断絶部があれば、検査液と電極との間に電流が流れるため、この電流を測定することによって、絶縁性保護膜の成膜状態を確認することができる。
【0106】
評価は以下の基準で行った。
○:リーク電流が1nA/V未満
×:リーク電流が1nA/V以上
その結果を表1に示す。
【0107】
2.電極腐食発生の観察
絶縁性保護膜の膜剥がれに起因する電極腐食を調べた。
【0108】
各チャネルにインク(マゼンタ)を充填したインクジェットヘッドのノズルをインクの入った容器に浸漬した状態で、60℃において1ヶ月間放置した後、インクに対して配線電極から駆動電極に+10Vの直流電圧を印加してリーク電流があるかを調べた。
【0109】
絶縁性保護膜に膜剥がれがあると、電極の腐食が進行し、インクに電流がリークするため、この電流を測定することによって、絶縁性保護膜の膜剥がれに起因する電極腐食発生の有無を確認することができる。
【0110】
評価は以下の基準で行った。
○:リーク電流が1nA未満
×:リーク電流が1nA以上
その結果を表1に示す。
【0111】
3.接着剤層染色の観察
絶縁性保護膜の膜剥がれに起因する接着剤層への影響(染色)の有無を調べた。
【0112】
各チャネルにインク(マゼンタ)を充填したインクジェットヘッドのノズルをインクの入った容器に浸漬した状態で、60℃において1ヶ月間放置した後、インクを排出し、インクジェットヘッドを分解して配線基板とヘッドチップとの間の接着剤の着色の有無を観察した。
【0113】
絶縁性保護膜に膜剥がれがあると、接着剤層がインクと接触して膨潤し、マゼンタに染色されるため、マゼンタに染色されているか否かを配線基板のガラスを通して観察した。
【0114】
評価は以下の基準で行った。
○:染色が確認されない
×:染色が確認された
その結果を表1に示す。
【0115】
4.配線基板の強度の観察
角度αの大きさによる配線基板の強度について調べた。
【0116】
ヘッドチップの後面に配線基板を熱圧着した際に、配線基板の開口部周縁において破損の発生の有無を観察した。
【0117】
評価は以下の基準で行った。
○:破損がなかった
×:破損が発生していた
その結果を表1に示す。
【0118】
(実施例2)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを50°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
(実施例3)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを60°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(実施例4)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを70°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(実施例5)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを88°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例6)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
(実施例7)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを50°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0124】
(実施例8)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを60°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例9)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを80°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(実施例10)
絶縁性保護膜の膜厚を2μmとし、配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを88°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
(比較例1)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを40°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
(比較例2)
配線基板のヘッドチップに配向される面から開口部の内壁面にかけて成す角度αを90°とした以外は、実施例1と同様にして、インクジェットヘッドを得、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
以上のように、角度αが45°以上88°以下の範囲である実施例1〜10のインクジェットヘッドは、絶縁保護膜が、チャネル内面における膜厚として2〜3μmという薄さであるにも関わらず、保護膜リーク電流の測定、及び、電極腐食発生の観察において、リーク電流が認められず、接着剤層の観察においても接着剤のインクによる染色が認められなかったことから、絶縁保護膜にピンホールや断絶部が発生することなく、電極が確実に保護(インクから隔離)されていることがわかる。また、ヘッドチップとの接合時において、配線基板の開口部周縁における破損も生じなかった。
【0131】
これに対して、角度αが40°の比較例1では、ヘッドチップとの接合時において、配線基板に破損が生じ、強度が低下するため不適であることがわかる。
【0132】
一方、角度αが90°の比較例2では、保護膜リーク電流の測定、及び、電極腐食発生の観察において、リーク電流が認められ、接着剤層の観察においても接着剤のインクによる染色が認められたことから、絶縁性保護膜にピンホールや断絶部が発生し、電極の保護が不十分となることがわかる。
【0133】
また、絶縁性保護膜のチャネル内面における膜厚を更に薄く2μmとした実施例6〜10では、一部のインクジェットヘッドにおいて実用上問題のない範囲で導電性接着剤のインクによる染色が認められたが、角度αが45°以上80°以下の範囲である実施例6〜9では染色が認められなかった。このことから、角度αが45°以上80°以下の範囲であることにより、絶縁性保護膜による保護機能がより好適に発現していることがわかる。
【符号の説明】
【0134】
1:ヘッドチップ
14:チャネル
14A:インクチャネル
14B:エアチャネル
15:駆動電極
16:接続電極
2:ノズルプレート
21:ノズル
3:配線基板
32:開口部
33:配線電極
34:開口部の内壁面
35:開口部周縁
36:ヘッドチップに配向される面
4:FPC
5:インクマニホールド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数並設されるチャネルを有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口と入口とが配置されると共に前記チャネル内から該チャネルの入口を経て前記後面にかけて連続するチップ側電極が形成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップのインクを供給させる前記チャネルの入口を露出させる開口部を有すると共に、前記ヘッドチップに配向される面に、前記ヘッドチップの後面に露出している前記チップ側電極と電気的に接続される配線電極を有する配線基板とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記配線基板における前記ヘッドチップに配向される面から前記開口部の内壁面にかけて成す角度が45°以上88°以下の範囲であり、
少なくとも前記ヘッドチップの前記チャネル内から前記配線基板の前記開口部の内壁面にかけて、前記チップ側電極及び前記配線電極の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜が連続的に形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記開口部は、全ての前記チャネルの入口を露出させる1つの開口部であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記開口部は、前記チャネルの入口をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ヘッドチップは、複数のチャネル列を有しており、
前記開口部は、前記チャネル列毎に設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記複数並設されるチャネルは、インクを吐出するインクチャネルと、インクを吐出しないダミーチャネルとが交互に並設されており、
前記開口部は、前記インクチャネルの入口を露出させ、前記ダミーチャネルの入口を露出させないように設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記絶縁性保護膜の膜厚は、1μm以上3μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記絶縁性保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記配線基板は、厚さが300μm以上700μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記配線基板は、ガラス、セラミックス又はアルミナからなることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項1】
複数並設されるチャネルを有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの出口と入口とが配置されると共に前記チャネル内から該チャネルの入口を経て前記後面にかけて連続するチップ側電極が形成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップのインクを供給させる前記チャネルの入口を露出させる開口部を有すると共に、前記ヘッドチップに配向される面に、前記ヘッドチップの後面に露出している前記チップ側電極と電気的に接続される配線電極を有する配線基板とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記配線基板における前記ヘッドチップに配向される面から前記開口部の内壁面にかけて成す角度が45°以上88°以下の範囲であり、
少なくとも前記ヘッドチップの前記チャネル内から前記配線基板の前記開口部の内壁面にかけて、前記チップ側電極及び前記配線電極の露出部位を被覆するように、絶縁性保護膜が連続的に形成されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記開口部は、全ての前記チャネルの入口を露出させる1つの開口部であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記開口部は、前記チャネルの入口をそれぞれ独立して露出させるように複数設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ヘッドチップは、複数のチャネル列を有しており、
前記開口部は、前記チャネル列毎に設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記複数並設されるチャネルは、インクを吐出するインクチャネルと、インクを吐出しないダミーチャネルとが交互に並設されており、
前記開口部は、前記インクチャネルの入口を露出させ、前記ダミーチャネルの入口を露出させないように設けられていることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記絶縁性保護膜の膜厚は、1μm以上3μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記絶縁性保護膜は、ポリパラキシリレン又はその誘導体からなる膜であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記配線基板は、厚さが300μm以上700μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記配線基板は、ガラス、セラミックス又はアルミナからなることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のインクジェットヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−131175(P2012−131175A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286655(P2010−286655)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
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