説明

インクジェット印刷方法およびインクセット

【課題】インクジェット印刷方法を、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、長時間の乾燥や高負荷の乾燥システム無しに、インクを印刷媒体上へ吐出させても印刷媒体にカール等の変形を生じさせることがなく、滲みや裏抜けを抑制することが可能なものとする。
【解決手段】前処理液を、少なくとも無機粒子と水と溶剤を含んでなり、無機粒子がレーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径が1〜20μmであって、前処理液全量に対して20質量%よりも多く含み、前処理液中の水分量が前処理液全量に対して55質量%以下であり、溶解度パラメータ(SP値)が8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下の溶剤を前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲で含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適したインクジェット印刷方法およびインクジェット用前処理液とインクがセットされたインクセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷システムにおいては、近年、記録媒体の制約を受けずに高速でフルカラー印刷が行えることが益々要求されている。この要求に応えるためには、ラインヘッド方式のインクジェットプリンタの使用が適しており、その場合、普通紙への浸透が早く、かつ、印刷濃度が高く、滲みや裏抜けの少ない高画質な印刷画像の得られるインクが必要となる。
【0003】
インクジェット印刷方式に用いられるインクジェットインクは、水性インクと非水性インクに大別される。水性インクは溶媒として水を含有するため、特に印刷媒体として普通紙を用いた場合、溶媒は印刷媒体に容易に浸透するが、色材は印刷媒体の表面に留まり易いため、高濃度・高画質の印刷画像が得られ易いという利点を有する。一方、水を含有するために、印刷媒体がカールやコックリングを起こし易く、印刷媒体の搬送性に悪影響を及ぼし、高速印刷の弊害となるという問題がある。
【0004】
非水性インクは、主として高揮発性の有機溶剤を溶媒として含有する溶剤インクと、主として低揮発性の有機溶剤を溶媒として含有する油性インクに大別される。溶剤インクは、乾燥性に優れているが、溶媒が大量に揮発するため使用環境が制限される。一方で、油性インクは印刷媒体として普通紙を用いた場合、印刷媒体への浸透性および乾燥性に優れ、水性インクおよび溶剤インクよりも溶媒が揮発し難いため、インクノズルにおける目詰まりが生じにくく、インクノズルのクリーニング回数が少なくて済むといった利点があり、高速印刷、特にラインヘッド方式の高速インクジェット印刷に適している。
【0005】
しかし、油性インクは印刷媒体上での色材と溶媒の離脱性が悪く、特に印刷媒体として普通紙を用いた場合、色材と溶媒が一緒に印刷媒体の繊維間隙に浸透し易く、画像濃度の低下、裏抜けの増大、印刷ドットの滲みが生じ、印刷画像の画質が悪化するという問題がある。
【0006】
従来から、色材を紙表面に留め、印刷ドットの滲みを抑制するために、無機粒子や定着樹脂で構成されたインク受容層を表面に備えた専用紙は各種存在する。しかし、普通紙で同様の効果を得るには、印刷時に色材を紙表面に留める手段が必要となる。水性インクでは、色材を溶媒と一緒に浸透させずに普通紙表面に留める方法として、インクに重ねて処理液を吐出し、インクと処理液に含まれる物質を紙表面で反応させることにより色材を凝集させ、浸透しにくくする方法が既に提案されている(特許文献1、2および3)。また、カチオン性の無機粒子を含む前処理液を印刷前に普通紙表面に処理し、アニオン性染料を含む水性インクを反応させて定着させる方法も提案されている(特許文献4)。しかし、これらの方法は色材を紙表面に留め、印刷ドットの滲みを抑制するという効果は有するものの、処理液とインク両方が水分を多く含むため、特に普通紙に対する印刷においては印刷媒体がカールやコックリングを起こし易く、高速印刷への弊害となるという問題がある。
【0007】
非水性インクでは、特許文献5に、アニオン性官能基を有する高分子化合物を含む第1のインクと、1級および/または2級アミノ基を有する高分子化合物を含む第2のインクとを重ねて吐出し、紙表面で両物質を反応させることにより、色材を凝集させ、浸透しにくくする方法が提案されている。しかし、この方法では常に2種のインクを一定量重ねて印刷する必要があるため、画像率が高い印刷物を多枚数印刷する場合、インクを大量に消費するという課題がある。
【0008】
本発明者らは特許文献6において、特定の平均粒子径を有する無機粒子と所定の割合で水溶性有機溶剤と水とを含む前処理液を印刷媒体へ塗布した後、油性インクを印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行う油性インクジェット印刷方法を提案している。この印刷方法によれば、前処理液で印刷媒体の表面を処理することで、印刷媒体の表面が目止めされて、印刷された油性インク中の色材が印刷媒体上に留まるとともに、色材の印刷媒体への浸透が抑制され、印刷濃度が向上すると同時に裏抜けと滲みを防止することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−198263号公報
【特許文献2】特開2003−326829号公報
【特許文献3】特開2009−208437号公報
【特許文献4】特開2007−276387号公報
【特許文献5】特開2011−012149号公報
【特許文献6】特開2011−098454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ラインヘッド式のインクジェット印刷システムにおいて前処理を行う場合、印刷の高速性が要求されるため、前処理された印刷媒体を長時間乾燥することは難しい。短時間で乾燥させるためには、前処理された印刷媒体に対して高熱を送風する方法、加熱ロールを印刷媒体に接触させて乾燥する方法などが考えられるが、システムへの負荷、消費電力の増加が懸念されるため好ましくない。乾燥速度を速めるために、前処理液の溶媒として高揮発性の有機溶剤を使用することもできるが、使用環境が制限されるため好ましくない。
【0011】
上記特許文献6の印刷方法の場合、前処理液が水溶性有機溶剤と水とを所定の割合で含有するので、前処理液で印刷媒体の表面を処理した場合でも、印刷媒体にカール等の変形を生じさせることは軽減され、印刷媒体の搬送性を良好に保つことが可能である。しかし、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、直ちに油性インクを印刷媒体上へ吐出させるといったさらなる高速性に対応できることが望まれる。また、特許文献6の印刷方法に用いられるインクは油性インクであるが、水分量の多い水性インクの場合にも高速搬送に対応できることが望まれる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、長時間の乾燥や高負荷の乾燥システム無しに、インクを印刷媒体上へ吐出させても印刷媒体にカール等の変形を生じさせることがなく、印刷媒体の搬送性が良好に確保できるとともに、滲みや裏抜けを抑制して印刷物の印刷濃度を高めることが可能なインクジェット印刷方法およびインクセットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のインクジェット印刷方法は、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、少なくとも顔料および溶剤を含んでなるインクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行うインクジェット印刷方法において、前記前処理液が少なくとも無機粒子と水と溶剤を含んでなり、前記無機粒子のレーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径が1〜20μmであって、該無機粒子を前記前処理液全量に対して20質量%よりも多く含み、前記前処理液中の水分量が前記前処理液全量に対して55質量%以下であり、溶解度パラメータ(以下、SP値ともいう)が8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下の溶剤を前記前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲で含むことを特徴とするものである。
【0014】
前記前処理液を、該前処理液量が10〜15g/m2となるように前記印刷媒体に塗工することが好ましい。
前記インクはラインヘッド方式のインクジェットプリンタにより前記印刷媒体上へ吐出されることが好ましい。
【0015】
本発明のインクセットは、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、少なくとも顔料および溶剤を含んでなるインクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行うインクジェット印刷に使用するインクセットであって、少なくとも顔料および溶剤を含んでなるインクと、少なくとも無機粒子と水と溶剤を含んでなる前処理液とからなり、前記無機粒子のレーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径が1〜20μmであって、該無機粒子を前記前処理液全量に対して20質量%よりも多く含み、前記前処理液中の水分量が前記前処理液全量に対して55質量%以下であり、SP値が8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下の溶剤を前記前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲で含むことを特徴とするものである。
【0016】
前記前処理液が10〜15g/m2の塗布量で使用されるように用意されていることが好ましい。
前記インクはラインヘッド方式のインクジェットプリンタにより前記印刷媒体上へ吐出されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のインクジェット印刷方法およびインクセットは、前処理液が、レーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径が1〜20μmの無機粒子を、前処理液全量に対して20質量%よりも多く含むので、印刷媒体の表面が目止めされ、印刷されたインク中の顔料の浸透が抑制されるために、顔料が印刷媒体表面上に留まり、印刷濃度が向上すると同時に裏抜けと滲みが防止することができる。また、SP値が8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下の溶剤を前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲にすることで、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、長時間の乾燥や高負荷の乾燥システム無しにインクを印刷しても、印刷ドットの滲みを十分に抑制でき、写真画像や文字の滲みのない、シャープで高濃度な印刷画像を得ることができる。
【0018】
さらに、上記の所定範囲のSP値を有する溶剤の含有量を15質量%以上25質量%以下の範囲にするとともに、前処理液中の水分量を55質量%以下とすることで、前処理液で印刷媒体の表面を処理した場合でも、処理直後の印刷媒体のカール等の変形を抑制することができ、印刷媒体の搬送性が良好に保たれるので、高速印刷および後工程を阻害することがない。また、前処理後に印刷した印刷物の数時間経過後の変形も抑制することができるため、高品質の印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のインクジェット印刷方法およびインクセットについて詳細に説明する。まず、本発明のインクジェット印刷方法およびインクセットにおける前処理液について説明する。
【0020】
本発明における前処理液は、少なくとも無機粒子と水と溶剤を含んでなる。
無機粒子は、レーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径が1〜20μmの範囲の無機粒子である。ここで、レーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径は、レーザー光回折散乱粒度分布測定装置により測定され、詳細には商品名:SALD−2000A(株式会社島津製作所製)により、レーザー光波長;680nm、測定温度;25℃、分散媒;水の条件により測定される。平均粒子径が1μmより小さい場合であっても、平均粒子径が20μmより大きい場合であっても、印刷媒体に対する目止め作用が発揮されず、印刷濃度の向上効果が十分に得られない。
【0021】
無機粒子としては、体質顔料として使用される無機粒子を使用することができ、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナホワイト、水酸化アルミニウム、白土、タルク、クレー、ケイソウ土、カオリン、マイカなどの無機粒子を好ましく挙げることができる。
【0022】
無機粒子は前処理液全量に対して20質量%よりも多く含み、好ましくは20〜50質量%、さらには25〜35質量%の範囲であることが好ましい。無機粒子の含有量が20質量%よりも少ないと、印刷媒体に対する目止め作用を十分に得るためには前処理液の塗工量を多くしなければならず、処理された印刷媒体の乾燥性が低下し、用紙変形が大きくなり印刷ドットの滲みも大きくなるため、高速印刷に適さなくなる。特に、インクとして水性インクを用いる場合にはさらに紙に転移する水分量が多くなるため印刷媒体の乾燥性がより低下することになって、用紙変形が大きくなる。
【0023】
前処理液は、前処理液量が10〜15g/m2となるように印刷媒体に塗工することが好ましく、より好ましくは11〜14g/m2、さらに好ましくは12〜13g/m2の範囲であることが望ましい。前処理液量が10g/m2よりも少ないと、印刷媒体の表面の目止め効果が低減し、印刷されたインク中の顔料が浸透しやすくなり、印刷濃度が低下する。一方、前処理液量が15g/m2よりも多いと、印刷媒体の用紙変形が大きくなり高速印刷時の搬送性を阻害する恐れがある。また、印刷ドットの滲みが小さくなりすぎ、解像度300×300dpi程度の印刷の際に、ベタを形成するのに十分なドットサイズにならない。そのため、裏抜けは抑制されるが高濃度の印刷物が得られない。
【0024】
前処理液中の水分量は前処理液全量に対して55質量%以下であることが必要である。ここで水分量とは、前処理液に溶媒として含まれる水の他、樹脂や分散剤、その他の添加剤等に含まれる水分量を合わせたものである。水分量が55質量%よりも多くなると、前処理液で印刷媒体の表面を処理した場合でも、処理直後の印刷媒体のカール等の変形を抑制することが困難となり、印刷媒体の搬送性が悪くなって高速印刷を行うことが難しくなる。前処理液中の水分量はより好ましくは30〜50質量%の範囲、さらには35〜45質量%の範囲であることが好ましい。水分量が30質量%よりも少なくなると、前処理液が乾燥しやすくなり、印刷画像の濃度が低下し裏抜けが悪化する怖れがある。
【0025】
溶剤は、SP値が8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下の溶剤(以下、特定溶剤ともいう)の含有量が、前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲であることが必要である。特定溶剤の含有量が25質量%よりも多い場合、前処理液を塗布後の印刷媒体の乾燥性が低下し、印刷ドットが大きく滲んでしまい、シャープで高濃度な印刷画像が得られなくなる。一方で、特定溶剤の含有量が15質量%よりも少ない場合、印刷媒体のカール等の変形が十分に抑制されず、印刷媒体の搬送不良が生じる恐れがある。
なお、SP値は、Fedorsの提唱した下記式(1)の計算方法で算出した値である。
δ=[Σ(ΔE1)/Σ(ΔV1)]1/2 ・・・式(1)
ΔE1:各単位官能基当たりの凝集エネルギー
ΔV1:各単位官能基当たりの分子容
【0026】
SP値の範囲は、8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下であることが好ましく、より好ましくは8.5(cal/cm31/2以上、10.0(cal/cm31/2以下であることが望ましい。SP値が8.5(cal/cm31/2未満の場合、特定溶剤の含有量が25質量%以下であっても、水に対する溶解性が低下し、前処理液の分散安定性が悪化してしまい、均一な塗工ができなくなる。一方、SP値が12.0(cal/cm31/2よりも大きくなると特定溶剤の含有量が15質量%以上であっても、印刷媒体のカール等の変形が十分に抑制されず、印刷媒体の搬送不良が生じる怖れがある。
【0027】
特定溶剤としては、1,2−ヘキサンジオール(SP値=11.5)、ジエチレングリコール−m−エチルエーテル(SP値=10.9)、ジエチレングリコール−m−ブチルエーテル(SP値=10.7)、トリエチレングリコール−m−メチルエーテル(SP値=11.0)、トリエチレングリコール−m−エチルエーテル(SP値=10.8)、トリエチレングリコール−m−ブチルエーテル(SP値=10.5)、ジプロピレングリコール−m−メチルエーテル(SP値=10.6)、トリプロピレングリコール−m−メチルエーテル(SP値=10.2)、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(SP値=10.5)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(SP値=8.7)等を好ましく挙げることができる。これらの溶剤は前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲であれば2種類以上を適宜混合して用いることができる。
【0028】
前処理液には特定溶剤以外の溶剤を含んでいてもよい。この場合、特定溶剤と特定溶剤以外の溶剤との質量比((特定溶剤以外の溶剤の含有量(質量%))/(特定溶剤の含有量(質量%))は0.4以下であることが好ましい。特定溶剤以外の溶剤を質量比0.4よりも多く含むと、用紙変形を抑制する効果が低下する怖れがある。特定溶剤以外の溶剤としては、エチレングリコール(SP値=14.2)、ジエチレングリコール(SP値=12.1)、プロピレングリコール(SP値13.3)ブチレングリコール(SP値=13.8)などのグリコール類、グリセリン(SP値=16.5)、1,3-プロパンジオール(SP値=13.5)、ブタンジオール(SP値=13.6)などのジオール類などを用いることができる。
【0029】
本発明で使用する前処理液には、その性状に悪影響を与えない限り、上記溶剤、無機粒子以外に、例えば、分散剤、界面活性剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。特に、定着剤は、前処理液塗工層の耐久性を付与し、さらに印刷画像の滲みを防止するために有用である。定着剤としては、各種の水溶性高分子または水分散性の高分子粒子などが使用可能である。高分子の種類としては、アクリル酸系共重合体、アクリル/スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、デンプン、アルキド樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアセタール等が好ましい。
【0030】
本発明で使用する前処理液は、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括または分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め溶剤の一部と顔料の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0031】
本発明のインクジェット印刷方法あるいはインクセットにおけるインクについて説明する。インクとしては油性インク、水性インクのいずれも用いることができる。まず、油性インクについて説明する。
【0032】
本発明で使用する油性インクは、溶剤および顔料から主として構成される。
溶剤は、インクの溶媒すなわちビヒクルとして機能するものであれば特に限定されず、揮発性溶剤および難揮発性溶剤の何れであってもよい。しかしながら、本発明では環境上の観点から、溶剤は、難揮発性溶剤を主体として含有することが好ましい。難揮発性溶剤の沸点は、200℃以上が好ましく、より好ましくは240℃以上である。
【0033】
溶剤としては、非極性有機溶剤および極性有機溶剤の何れの有機溶剤も使用できる。これらは、単独で使用してもよく、または、単一の相を形成する限り、2種以上組み合わせて使用できる。本発明では、非極性有機溶剤および極性有機溶剤を組み合わせて使用することが好ましく、20〜80質量%の非極性溶剤と80〜20質量%の極性溶剤とから溶剤を構成することが好ましく、30〜45質量%の非極性溶剤と70〜55質量%の極性溶剤とから溶剤を構成することがより好ましい。
【0034】
非極性有機溶剤としては、ナフテン系、パラフィン系、イソパラフィン系等の石油系炭化水素溶剤を使用でき、具体的には、ドデカンなどの脂肪族飽和炭化水素類、エクソンモービル社製「アイソパー、エクソール」(いずれも商品名)、新日本石油社製「AFソルベント」(商品名)、サン石油社製「サンセン、サンパー」(いずれも商品名)等が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0035】
極性有機溶剤としては、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤などが挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
エステル系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が5以上、好ましくは9以上、より好ましくは12乃至32の高級脂肪酸エステル類が挙げられ、例えば、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸イソノニル、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソステアリル、イソパルミチン酸イソオクチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2−オクチルドデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2エチルヘキサン酸グリセリルなどが挙げられる。
【0037】
アルコール系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が12以上の脂肪族高級アルコール類が挙げられ、具体的には、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコールが挙げられる。
脂肪酸系溶剤としては、例えば、1分子中の炭素数が4以上、好ましくは9乃至22の脂肪酸類が挙げられ、イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などが挙げられる、
【0038】
エーテル系溶剤としては、ジエチルグリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのグリコールエーテル類の他、グリコールエーテル類のアセタートなどが挙げられる。
【0039】
顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
顔料は、油性インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0040】
油性インク中における顔料の分散を良好にするために、油性インクに顔料分散剤を添加することが好ましい。本発明で使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が好適に使用され、そのうち、高分子分散剤を使用するのが好ましい。
【0041】
顔料分散剤の具体例としては、日本ルーブリゾール社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000、18000(脂肪酸アミン系)、11200、22000、24000、28000」(いずれも商品名)、Efka CHEMICALS社製「エフカ400、401、402、403、450、451、453(変性ポリアクリレート)、46,47,48,49,4010,4055(変性ポリウレタン)」(いずれも商品名)、花王社製「デモールP、EP、ポイズ520、521、530、ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)」(いずれも商品名)、楠本化成社製「ディスパロンKS−860、KS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩)」(いずれも商品名)、第一工業製薬社製「ディスコール202、206、OA−202、OA−600(多鎖型高分子非イオン系)」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0042】
上記顔料分散剤のうち、ポリエステル鎖からなる側鎖を複数備える櫛形構造のポリアミド系分散剤が好ましく使用される。ポリエステル鎖からなる側鎖を複数備える櫛形構造のポリアミド系分散剤とは、ポリエチレンイミンのような主鎖に多数の窒素原子を備え、窒素原子を介してアミド結合した側鎖を複数備える化合物であって、側鎖がポリエステル鎖であるものをいい、例えば、特開平5−177123号公報に開示されているような、ポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミンからなる主鎖一分子当り3〜80個のポリ(カルボニル―C3〜C6―アルキレンオキシ)鎖がアミド架橋によって側鎖として結合している構造の分散剤が挙げられる。なお、かかる櫛形構造のポリアミド系分散剤としては、上記日本ルーブリゾール社製ソルスパース11200、ソルスパース28000(何れも商品名)が該当する。
顔料分散剤の含有量は、上記顔料を十分に上記有機溶剤中に分散可能な量であれば足り、適宜設定できる。
【0043】
油性インクには、インクの性状に悪影響を与えない限り、上記有機溶剤、顔料、顔料分散剤以外に、例えば、染料、界面活性剤、定着剤、防腐剤等の他の成分を添加できる。
【0044】
油性インクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括または分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め溶剤の一部と顔料の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0045】
本発明で使用する水性インクは、溶剤および顔料から主として構成される。
溶剤としては水溶性有機溶剤が使用される。水溶性有機溶剤としては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、などのグリコール類、グリセリン、アセチン類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコール誘導体、トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオグリコール、スルホランなどを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。水溶性有機溶剤は、インク全量に対し1〜80質量%含まれていることが好ましく、10〜60質量%含まれていることがより好ましい。
【0046】
顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。これらの顔料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0047】
さらに、化学的または物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された自己分散性顔料を用いることが好ましい。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性またはカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基などが好ましい。
【0048】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理などが挙げられる。
顔料はインク全量に対し1〜30質量%含まれていることが好ましく、1〜15質量%含まれていることがより好ましい。
【0049】
インクセットのインクに含まれる水分散性樹脂は、水に安定に分散させるために必要な親水成分が導入された自己乳化型のものでもよいし、外部乳化剤の使用により水分散性となるものでもよい。水分散性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル−酢酸ビニル樹脂等を好ましく挙げることができ、これらは単独であるいは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。より具体的には、例えば、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックスシリーズのなかのスーパーフレックス460、460s、470、500M、610、700、株式会社アデカ製アデカボンタイターシリーズのなかのアデカボンタイターHUX−380、290K、290H、三井化学ポリウレタン株式会社製タケラックW−512A6等が挙げられる。これらは、ウレタン骨格を有する水分散性樹脂である。また、ニチゴー・モビニール株式会社製モビニール965、モビニール8055A等が挙げられる。これらは、スチレン−アクリル樹脂である。水分散性樹脂は、インク全量に対し1〜15質量%含まれていることが好ましく、3〜10質量%含まれていることがより好ましい。
【0050】
水は、粘度調整の観点から、インク中に20〜80質量%含まれていることが好ましく、30〜70質量%含まれていることがより好ましい。
インクの粘度は、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1〜30mPa・sであることが好ましく、3〜15mPa・sであることがより好ましく、さらには約5mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用としては望ましい。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0051】
水性インクには、必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲内で、当該分野において通常用いられている各種添加剤を含ませることができる。具体的には、顔料分散剤、消泡剤、表面張力低下剤等として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤をインクに含有させることができる。
水性インクは、上記油性インクと同様の方法で調製することができる。
【0052】
本発明のインクジェット印刷方法は、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、インクを印刷媒体上へ吐出させることにより行われる。前処理液の印刷媒体への塗布は、刷毛、ローラー、バーコーター等を使用して印刷媒体の表面を均一にコーティングすることによって行ってもよく、または、インクジェット印刷およびグラビア印刷などの印刷手段によって画像を印刷することで行ってもよい。例えば、塗工ローラーを印字部より手前に配置し、印刷媒体全面に前処理液を塗布した後、直ちにこれに重ねてインクを連続的に吐出させることにより印刷を行うことができる。このように、本発明では、前処理液を印刷媒体に塗布した後、塗布された処理液が乾燥する前に直ちにインクを吐出させることが可能である。
【0053】
本発明のインクジェット印刷方法を容易に実施できるように、上記前処理液と油性インクまたは水性インクを少なくとも含むインクセットを構成して販売すると好都合である。ここでインクセットとは、前処理液カートリッジとインクカートリッジが複数一体になっているインクカートリッジ自体はもちろんのこと、単独の前処理液カートリッジとインクカートリッジを複数組み合わせて使用する場合も含み、さらに、前処理液カートリッジとインクカートリッジと記録ヘッドを一体としたものも含まれる。
【0054】
本発明において、印刷媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシートなどが使用できる。とりわけ、本発明によれば、普通紙に印刷する場合でも、顔料が印刷用紙に浸透せずに印刷用紙の表面に留まるので、印字濃度が向上し、裏抜けや滲みが低減し、また、印刷中の印刷用紙のカールが防止され、高速印刷を阻害しないという大きなメリットが得られる。
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0055】
(前処理液の作製)
表1および2に示す各成分を表1および2に示す割合でプレミックスし、その後、超音波分散機にて1分間分散し、得られた分散液を前処理液とした。なお、表1および2の無機粒子の数値はレーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径、溶媒の数値はSP値である。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
尚、表1記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
シーホスターKE−P100:株式会社日本触媒製シリカ粒子
ミズカシルP−73、P−758C、P−78F:水澤化学工業株式会社製シリカ粒子
ソルスパース27000:日本ルーブリゾール社製高分子分散剤
JMR−10M:日本酢ビ・ポバール株式会社製ポリビニルアルコール
モビニール966A:日本合成化学株式会社製スチレン/アクリル系エマルション樹脂
スラウト33:日本エンバイロケミカル株式会社製防腐剤
サーフィノールDF−58:日信化学工業株式会社製シリコーン変性消泡剤
アロンSD−10東亞合成株式会社製分散剤「アロンSD−10(商品名)」(ポリアクリル酸系共重合体・固形分40%)
エリーテルKZT−0507:ユニチカ株式会社製「エリーテKZT−0507(商品名)」(ポリエステル樹脂エマルション・固形分30%)
【0059】
(油性インクの作製)
表3に示す各成分を表3に示す割合でプレミックスし、その後、ビーズミル(直径(φ)0.5mmのジルコニアビーズ使用)にて分散し、得られた分散液をメンブレンフィルター(開口径3μm)でろ過し、油性インクを得た。なお、表3記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
カーボンブラック:三菱化学社製カーボンブラック MA−11(商品名)
ソルスパース28000(商品名):ルーブリゾール社製顔料分散剤
オレイン酸メチル:花王株式会社製エキセパールM−OL
ミリスチン酸イソプロピル:花王株式会社製エキセパールIPM
炭化水素溶剤:新日本石油製ノルマルパラフィンH
【0060】
【表3】

【0061】
(実施例1〜8および比較例1〜6)
表3に記載の油性インクを、理想科学工業株式会社製インクジェットプリンタ「HC5500(商品名)」の吐出経路に導入し、印刷用紙として理想科学工業株式会社製「理想用紙薄口(商品名)」を用い、この印刷用紙の片面全面に表1および2に記載の前処理液を、塗工液量が11〜12g/m2になるように、バーコーターで塗布した後、30秒後に印刷用紙の処理表面上に油性インクを吐出させ、ベタ画像および複数の細線を印刷した。印刷は、解像度300×300dpiにて、1ドット当りのインク量が36plの吐出条件で行った。
【0062】
(評価)
(印刷物の印刷濃度)
上記で得られた印刷物を1晩放置後、ベタ画像の表面の印刷画像濃度(OD)を、光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用いて測定した。
◎:1.30≦OD
○:1.25≦OD<1.30
×:OD<1.25
【0063】
(印刷物の裏抜け)
上記で得られた印刷物を1晩放置後、ベタ画像の裏面の印刷画像濃度(OD)を、光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用いて測定した。得られた測定値から印刷用紙の非印刷部のOD値を差し引いた値ΔODを、印刷物の裏抜けとした。
○:ΔOD<0.10
×:0.10≦ΔOD
【0064】
(印刷物の滲み)
上記で得られた印刷物を1晩放置後、細線が複数並んだ画像を印刷した印刷物を目視で観察し、線の太り・滲みの度合いを、下記基準で評価した。
○:滲みがない
△:やや滲んでいる
×:大きく滲んでいる
【0065】
(用紙変形)
理想用紙薄口を10cm×15cmにカットしたものの一辺を台紙に両面テープで固定し、この用紙の片面全面に表1および2に記載の前処理液を、塗工液量が11〜12g/m2になるようにバーコーターで塗布した後、印刷した印刷物の用紙変形量を、前処理液を塗布してから30秒後と1日後について下記の基準で評価した。なお、用紙変形量は環境の影響を受けやすいため、室温23℃、湿度50%の環境で評価した。下記変形量は、用紙が静置面から見て凸に変形した場合の最も高い部分の値を正の変形量、凹に変形した場合の最も高い部分の値を負の変形量として評価したものである。
前処理液塗布後30秒の用紙変形量
◎:−20mm≦用紙変形量<20mm
○:−26mm≦用紙変形量<−20mm,20mm≦用紙変形量<26mm
×:用紙変形量<−26mm、26mm<用紙変形量
前処理液塗布後に印刷した印刷物の1日後の用紙変形量
◎:−2mm≦用紙変形量≦2mm
○:−9mm≦用紙変形量<−2mm,2mm≦用紙変形量<9mm
×:用紙変形量<−9mm、9mm<用紙変形量
評価結果を前処理液の構成とともに表4および表5に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
表4に示すように、実施例1〜8は、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、30秒後にインクを印刷しても、印刷ドットの滲みを十分に抑制でき、写真画像や文字の滲みのない、シャープで高濃度な印刷画像を得ることができた。また、処理直後の印刷媒体のカール等の変形が抑制されるとともに、前処理液処理後に印刷した印刷物の数時間経過後の変形も抑制することができており、高品質の印刷物が得られた。
【0069】
一方、前処理剤を使用していない比較例1は、用紙変形は生じなかったが、印刷媒体に対する目止め効果がないため、裏抜けが顕著で、結果印刷濃度が低く、滲みも生じた。シリカ粒子を含んでいてもその含有量が少ない比較例2は、印刷画像が悪かった。水分量が55質量%よりも多い比較例3は、印刷画像の裏抜けおよび滲みが悪く、用紙変形が生じた。特定溶剤を含まない、または本発明の範囲より少ない量を含む比較例4および5は、印刷画像は比較的良好であったが、用紙変形が生じた。特定溶剤の含有量が本発明の範囲より多い比較例6は、用紙変形は良好であったが印刷画像が悪かった。シリカ粒子の含有量は本発明の範囲内であるが、粒子の平均粒子径が本発明の範囲外である比較例7は、用紙変形は良好であったが、印刷濃度が低かった。
【0070】
(水性インクの作製)
表6に示す各成分を表6に示す割合でミックスし、その後、得られた分散液をメンブレンフィルター(開口径3μm)でろ過し、水性インクを得た。なお、表6記載の原材料の詳細は下記のとおりである。
CAB−O−JET300(商品名):CABOT社製自己分散カーボンブラック分散体
サーフィノール465(商品名):エアープロダクツ社製浸透剤
【0071】
【表6】

【0072】
(実施例9〜11および比較例7〜9)
表6に記載の水性インクを、印刷用紙として理想科学工業株式会社製「理想用紙薄口(商品名)」を10×15cmにカットしたものを用い、この印刷用紙の片面全面に表1および2に記載の前処理液を、塗工液量が12〜13g/m2になるようにバーコーターで塗布した後、30秒後に印刷用紙の処理表面上に表6に記載の水性インクを、インク転移量として11g/m2になるようにベタ画像をインクジェット印刷した。
【0073】
(評価)
(印刷物の印刷濃度)
上記で得られた印刷物を1晩放置後、ベタ画像の表面の印刷画像濃度(OD)を、光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用いて測定した。
◎:1.30≦OD
○:1.25≦OD<1.30
×:OD<1.25
【0074】
(印刷物の裏抜け)
上記で得られた印刷物を1晩放置後、ベタ画像の裏面の印刷画像濃度(OD)を、光学濃度計(RD920:マクベス社製)を用いて測定した。得られた測定値から印刷用紙の非印刷部のOD値を差し引いた値ΔODを、印刷物の裏抜けとした。
○:ΔOD<0.12
×:0.12≦ΔOD
【0075】
(用紙変形)
理想用紙薄口を10cm×15cmにカットしたものの一辺を台紙に両面テープで固定し、この用紙の片面全面に表1および2に記載の前処理液を、塗工液量が11〜12g/m2になるようにバーコーターで塗布した後、印刷した印刷物の用紙変形量を、前処理液を塗布してから30秒後と1日後について下記の基準で評価した。なお、用紙変形量は環境の影響を受けやすいため、室温23℃、湿度50%の環境で評価した。下記変形量は、用紙が静置面から見て凸に変形した場合の最も高い部分の値を正の変形量、凹に変形した場合の最も高い部分の値を負の変形量として評価したものである。
前処理液塗布後30秒の用紙変形量
◎:−20mm≦用紙変形量<20mm
○:−25mm≦用紙変形量<−20mm,20mm≦用紙変形量<25mm
×:用紙変形量<−25mm、25mm<用紙変形量
前処理液塗布後に印刷した印刷物の1日後の用紙変形量
◎:−2mm≦用紙変形量≦2mm
○:−9mm≦用紙変形量<−2mm,2mm≦用紙変形量<9mm
×:用紙変形量<−9mm、9mm<用紙変形量
評価結果を前処理液の構成とともに表7に示す。
【0076】
【表7】

【0077】
表7に示すように、実施例9〜11は、前処理液を印刷媒体へ塗布した後、30秒後に水性インクを印刷しても、裏抜けのない高濃度な印刷画像を得ることができた。また、処理直後の印刷媒体のカール等の変形が抑制され、前処理液処理後に印刷した印刷物の数時間経過後の変形も抑制することができており、高品質の印刷物が得られた。一方、前処理剤を使用していない比較例1は前処理液処理直後に用紙変形が生じ、印刷媒体に対する目止め効果がないため、裏抜けが顕著で、結果印刷濃度が低かった。シリカ粒子の含有量が本発明の範囲外である比較例8は、印刷濃度が低く、裏抜けや印刷画像の滲みが悪かった。比較例9は特許文献6に記載の前処理液であるが、水性インクに対しては用紙変形の抑制効果が低いことがわかる。一方、比較例8は特定溶剤の含有量および水分量は本発明の範囲であったものの、シリカ粒子の濃度が低いために用紙変形の抑制効果が低く、印刷画像の品質も悪くなった。
【0078】
以上のように、本発明のインクジェット印刷方法およびインクセットは、所定粒子径の無機粒子を20質量%よりも多く、所定範囲のSP値を有する溶剤の含有量を15質量%以上25質量%以下の範囲にするとともに、前処理液中の水分量を55質量%以下とすることで、印刷媒体の表面が目止めされ、印刷されたインク中の顔料の浸透が抑制されるために、顔料が印刷媒体表面上に留まって高濃度な印刷画像を得ることができ、前処理液処理直後の印刷媒体のカール等の変形を抑制することができるので高速印刷が可能となり、高品質の印刷物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理液を印刷媒体へ塗布した後、少なくとも顔料および溶剤を含んでなるインクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行うインクジェット印刷方法において、
前記前処理液が少なくとも無機粒子と水と溶剤を含んでなり、前記無機粒子のレーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径が1〜20μmであって、該無機粒子を前記前処理液全量に対して20質量%よりも多く含み、前記前処理液中の水分量が前記前処理液全量に対して55質量%以下であり、溶解度パラメータ(SP値)が8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下の溶剤を前記前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲で含むことを特徴とするインクジェット印刷方法。
【請求項2】
前記前処理液を、該前処理液量が10〜15g/m2となるように前記印刷媒体に塗工することを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷方法。
【請求項3】
前処理液を印刷媒体へ塗布した後、少なくとも顔料および溶剤を含んでなるインクを前記印刷媒体上へ吐出させることにより印刷を行うインクジェット印刷に使用するインクセットであって、
少なくとも顔料および溶剤を含んでなるインクと、少なくとも無機粒子と水と溶剤を含んでなる前処理液とからなり、前記無機粒子のレーザー光回折散乱法により測定される平均粒子径が1〜20μmであって、該無機粒子を前記前処理液全量に対して20質量%よりも多く含み、前記前処理液中の水分量が前記前処理液全量に対して55質量%以下であり、溶解度パラメータ(SP値)が8.5(cal/cm31/2以上、12.0(cal/cm31/2以下の溶剤を前記前処理液全量に対して15質量%以上25質量%以下の範囲で含むことを特徴とするインクセット。

【公開番号】特開2013−94970(P2013−94970A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236770(P2011−236770)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】