説明

インクジェット印刷板ガラスの製造方法

【課題】 耐候性および耐久性を有し、かつ、絵柄層の色調が所望のデザインイメージとマッチングするインクジェット印刷板ガラス製造方法を提供する。
【解決手段】 板ガラス10上に、インクジェット式印刷により紫外線硬化性樹脂インクからなる絵柄層20を形成し、紫外線照射により該紫外線硬化性樹脂インクを硬化させ、さらに、該絵柄層20上に透明の電子線硬化性樹脂を塗布し、その後、該電子線硬化性樹脂上から電子線を照射して、前記絵柄層20の紫外線硬化性樹脂インクおよび該電子線硬化性樹脂を硬化させた後、主波長が260nm以上、380nm以下の紫外線を照射してインクジェット印刷板ガラス1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷板ガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット式の印刷により印刷されたインクジェット印刷物はよく知られている。例えば、特許文献1に、インクジェット印刷機とその印刷方法が開示されている。
【0003】
ところで、上記のインクジェット式の印刷により形成された絵柄層を有するインクジェット印刷物にあっては、その表面の耐候性や耐久性に乏しいという問題があった。かかる問題を解決すべく、紫外線硬化性のインクを採用し、紫外線を照射して表面の耐久性向上を図ることも提案されている。さらには、紫外線硬化性樹脂を保護層として形成し、耐久性を向上させようとすることも提案されている。
【0004】
また、板ガラスに比較的高エネルギーの電磁波(X線やγ線等)を照射すると、ガラスが励起し遊離電子が発生する。これら遊離電子は殆どが元に戻るが、その一部はガラス中の不純物により捕らわれ構造上の欠陥となり特定の波長域を吸収するために、板ガラスが着色することが知られている。尚、この欠陥はカラーセンターと呼ばれる。例えば、ソーダライムシリケートガラスに比較的高エネルギーの電磁波(X線やγ線等)を照射すると、珪素と結合した酸素が励起し、酸素より電子が遊離した非架橋酸素ホールセンターにより、茶色に着色することが知られている。
【0005】
特許文献2には、100℃以上の加熱によって、カラーセンターによる板ガラスの着色を消色させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−34995号公報
【特許文献2】特開2003−48748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、紫外線硬化性樹脂を保護層として形成し、耐久性を向上させようとするという上記提案にあっては、前記インクに含まれる顔料が紫外線の吸収を妨げ、該インクが硬化しにくいという問題があった。このため、依然、インクジェット印刷物は、他の印刷方式による印刷物に比して耐候性や耐久性が低く、改善が求められていた。
【0008】
しかしながら、耐候性や耐久性を向上させるため、印刷物表面に電子線硬化性樹脂による表面保護層を形成する際に、電子線硬化性樹脂を硬化させるため電子線を照射すると、板ガラス中にカラーセンターが生成され茶色に着色するため、絵柄層の色調が、所望の色調と異なって見えるという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題を解決する、耐候性および耐久性に優れ、かつ、絵柄層の色調が所望の色調となり、所望のデザインイメージとマッチングするインクジェット印刷板ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
インクジェット印刷板ガラスの耐候性や耐久性を向上させるため、電子線硬化性樹脂による表面保護を設ける際、硬化のために電子線を照射すると、板ガラス中にカラーセンターが生成され茶色に着色し、インクジェット印刷板ガラスの絵柄層の色調が、所望の色調と異なって見えるという問題は、本発明のインクジェット印刷物の製造方法において、電子線を照射した後で、板ガラスに紫外線を照射し板ガラスを励起状態にして、電子線照射によって板ガラス中に生成されたカラーセンターを消失させることで解決した。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためのインクジェット印刷板ガラスの製造方法であって、基材としての板ガラス上に、紫外線硬化性樹脂インクを用いたインクジェット式印刷を行うとともに該インクに紫外線を照射して、硬化した絵柄層を形成し、該絵柄層を紫外線照射によって硬化させ、さらに、紫外線照射後の該絵柄層上に透明の電子線硬化性樹脂層を形成し、その後、該電子線硬化性樹脂層上から電子線を照射して、該電子線硬化性樹脂層の電子線硬化性樹脂と前記絵柄層の紫外線硬化性樹脂インクとを硬化させることにより、前記絵柄層を完全硬化させるとともに、該電子線硬化性樹脂を完全硬化させて前記透明保護層と形成した後、再度紫外線を照射することを特徴とするインクジェット印刷板ガラスの製造方法である。
【0012】
インクジェット印刷板ガラスの製造工程で、再度紫外線を照射する際、印刷処理されていないガラス面側から紫外線の照射を行うことで、板ガラスが大部分の紫外線を吸収し、電子線硬化型樹脂層の劣化(黄変)を誘起することなく、カラーセンターによる板ガラスの着色が消色される。
【0013】
さらに、本発明は、再度紫外線を照射する際、紫外線をガラス面より照射することを特徴とする上記のインクジェット印刷物の製造方法である。
【0014】
また、260nmより波長の短い紫外線を用いて紫外線照射を行うと、フォトン(光量子)の有するエネルギーが大き過ぎて、さらに板ガラス中にカラーセンターが発生し可視域での吸収が増し、逆に着色が濃くなる。また、380nm以上の波長の長い光、言い換えれば、可視光線を照射すると、板ガラスを励起状態にさせるにはフォトンの有するエネルギーが足りなくて、板ガラス中に生成された電子線照射によるカラーセンターを消失させて消色することができない。よって、本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造法において、再度紫外線を照射する際の紫外線の主波長が260nm以上、380nm未満である。
【0015】
さらに、本発明は、再度紫外線を照射する際の紫外線の主波長が260nm以上、380nm未満であることを特徴とする上記のインクジェット印刷物の製造方法である。
【0016】
さらに、本発明は、上記のインクジェット印刷物の製造方法によって製造されたインクジェット印刷物である。
【発明の効果】
【0017】
[作用]
本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法の特徴である、絵柄層および透明保護層を完全硬化させた後に再度紫外線を照射することで、電子線照射により板ガラス中に生成されたカラーセンターが消失した。このようにして、電子線硬化性樹脂を硬化させるために電子線を照射すると、板ガラス中にカラーセンターが生成され茶色に着色し、絵柄層の色調が所望の色調と異なって見えるという問題は、当該紫外線の再照射の作用により解決した。
【0018】
また、前記絵柄層は、紫外線硬化性樹脂インクからなるため、紫外線照射により硬化するが、該絵柄層は顔料を含むため、該紫外線照射だけでは表面のみ硬化して内部は完全に硬化しない。このように、完全には硬化していない状態(すなわち、未反応モノマーを含む状態)の絵柄層上に電子線硬化性樹脂を塗布し、該電子線硬化性樹脂の上方から電子線を照射すると、該電子線硬化性樹脂が硬化して透明保護層が硬化されることは勿論のこと、該電子線硬化性樹脂の下方に配された前記絵柄層内部まで硬化することになる(すなわち、絵柄層の未反応モノマーを反応させることができる)。
【0019】
また、透明保護層を形成するための前記電子線は、絵柄層を完全に硬化する役割も果たしており、透明保護層の形成と同時に絵柄層の耐候性および耐久性を向上させることができ、屋内外を問わず長期に亘って初期の印刷色調、印刷風合いを維持することができる。
【0020】
また、電子線照射の工程だけで、電子線硬化性樹脂からなる電子線硬化性樹脂層を硬化させて透明保護層を形成することができるとともに、未反応モノマーを含む絵柄層を完全硬化することができるため、製造効率が良い。
[効果]
本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法において、電子線照射後の板ガラスに紫外線を照射することで、電子線照射によって着色した板ガラスが消色し、絵柄層の色調が所望のデザインイメージとマッチングする。
【0021】
本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法によるインクジェット印刷板ガラスは、電子線硬化性樹脂からなる透明保護層が表面に形成されているため、耐候性および耐久性に優れている。また、インクジェット式印刷によって形成された絵柄層は紫外線硬化性インクからなるため、透明保護層を表面に形成する際の電子線照射により、該絵柄層の内部まで完全硬化することとなり、印刷物としての耐候性および耐久性が飛躍的に向上した。
【0022】
また、絵柄層の印刷はインクジェット式であるため、他の印刷方式に比して印刷物の製造コストが低い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】インクジェット印刷板ガラスの断面図である。
【図2】、主波長は365nmの紫外線を照射した経過時間に対しての、クリアー部(インクジェット印刷板ガラスの印刷が無い部分)の黄色度YI値の変化を表したグラフである。
【図3】主波長が254nmの紫外線を照射した経過時間に対してのクリアー部(インクジェット印刷板ガラスの印刷が無い部分)の黄色度YI値の変化を表したグラフである。
【図4】140℃での加熱下における経過時間に対しての、クリアー部(インクジェット印刷ガラスの印刷が無い部分)の黄色度YI値の変化を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〈インクジェット印刷板ガラス〉
本発明のインクジェット印刷板ガラスは、例えば広告看板、案内板、デザイン間仕切り板、デザイン手すり板、建築用デザインガラスパネル、車両用デザインガラスパネル、家具用化粧パネル、家電用化粧パネル、またはパチンコ前面板等に使用できる。また、本発明は、耐候性および耐久性に優れたインクジェット印刷板ガラスを提供する技術として非常に有用である。
〈板ガラス〉
本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法に用いる板ガラスは、例えば、ソーダライムシリケートガラス、またはその他の板ガラスが採用される。本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法は、特に、ソーダライムシリケートガラスへの電子線照射による茶色の着色を消色するのに有効である。
〈インクジェット式印刷〉
本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法に使用するインクジェット式印刷は、高画質で高速印刷が可能な公知のインクジェットプリンターが用いられる。例えば、特開2005−34995号公報に開示されている構成であっても良いし、例えば、ミマキエンジニアリング製(型番JF1631)のフルカラーオンデマンドインクジェットプリンターを使用してもよい。
〈紫外線硬化性樹脂インク〉
また、本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法におけるインクジェット式印刷には、紫外線硬化性樹脂インクを用いる。該紫外線硬化性樹脂インクとしては、例えば、アクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリマレイン酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエポキシ系樹脂、並びに、放射線硬化性オリゴマーおよびモノマーのうちいずれかから選ばれる樹脂のいずれか1種を使用することができ、また、上述のオリゴマーまたはモノマーのうち2種以上を混ぜたものを使用することができる。
【0025】
前記紫外線硬化性樹脂インクに含まれる顔料は、インクジェット用の顔料であって、カーボンブラックおよび酸化チタン以外の有機顔料が用いられる。例えば、耐候性に優れた公知の有機顔料が選択されうる。
【0026】
例えば青色の場合は、銅フタロシアニン(ピグメントブルー15)、金属フタロシアニン、インダススレンブルー(ピグメントブルー22)、バットブルー4、6、20が望ましい。緑色の場合は、ピグメントグリーン1、2、7、10、12、36、37、38、バットグリーン1、Ingrain green3が望ましい。紫色の場合は、ジオキサジンバイオレット、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット122、ピグメントバイオレット1、ピグメントバイオレット2、ピグメントバイオレット3、ピグメントバイオレット5、バットバイオレット1、バットバイオレット3、バットバイオレット10が望ましい。
【0027】
また、紫外線硬化性樹脂インクには、活性剤を添加しても良い。該活性剤は、公知品の界面活性剤が採用される。例えば、イオン性(カチオン性、アニオン性、双生)、または非イオン性(ノニオン性)のものがあり、特に非イオン性(ノニオン性)のものが望ましい。具体的には、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルまたはエステルやポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルなどがある。
〈絵柄層〉
絵柄層の柄は、任意に設定でき、文字、幾何学模様、写真、地図情報、木目柄、大理石柄、抽象柄等が選択されうる。
〈電子線硬化性樹脂〉
本発明のインクジェット印刷板ガラスの製造方法に使用する電子線硬化性樹脂は、公知の構成が採用されうる。例えば、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合成性不飽和基、またはエポキシ基等のカチオン重合性官能基を有する単量体、プレポリマーまたはポリマーからなるものが提案される。これら単量体、プレポリマー、およびポリマーは、単体で用いるか、或いは複数種混合して用いられる。なお、(メタ)アクリレートとしては、アクリレートまたはメタアクリレートがある。
【0028】
さらに前記ラジカル重合成性不飽和基を有するプレポリマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、フッ素(メタ)アクリレート、メラミン(メタアクリレート)、トリアジン(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。このプレポリマーは、通常、分子量が10000程度以下のものが用いられる。分子量が10000を超えると硬化した樹脂層の耐擦傷性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性等の表面物性が不足する。上記のアクリレートとメタアクリレートは共用し得るが、電子線での架橋硬化速度という点ではアクリレートの方が早い為、高速度、短時間で能率よく硬化させるという目的ではアクリレートの方が有利である。
【0029】
また、前記カチオン重合性官能基を有するプレポリマーとしては、ビスフェーノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、脂肪族系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル、ウレタン系ビニルエーテル、エステル系ビニルエーテル等のビニルエーテル系樹脂、環状エーテル化合物、スピロ化合物等のプレポリマーが挙げられる。
【0030】
なお、本発明インクジェット印刷板ガラスの製造方法に用いられる電子線源としては、コックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、或いは、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速装置がある。かかる電子線照射により、電子線硬化性樹脂は架橋重合反応を起こし3次元の高分子構造に変化する。
〈紫外線照射装置〉
本発明インクジェット印刷板ガラスの製造方法に用いられる紫外線源としては、高圧水銀ランプ(例えばスガ試験機株式会社製 型式:HB−750F)、超高圧水銀ランプ、ブラックライト蛍光ランプ(例えば東芝ライテック株式会社製 形式:FL−15BLB)、メタルハライドランプ、キセノンランプ等が用いられ、電子線照射後の板ガラスに紫外線を照射することで、電子線照射によるカラーセンターの発生によって着色した板ガラスを消色する。
【0031】
図1に示すように、インクジェット印刷板ガラス1は、基材としての板ガラス10上に絵柄層20を備え、さらに、該絵柄層20上にあって、該インクジェット印刷板ガラス1の表面に形成された、透明保護層31を少なくとも備える。
〈実施例〉
以下、インクジェット印刷板ガラス1の実施例を説明する。なお、評価試験はJIS−R3221−2002「熱線反射ガラス」、JIS K7350−4−2008「プラスチック−実験室光源による暴露試験方法」に基づき実施した。
【0032】
図1に示すように、基材としてのソーダライムシリケートガラスからなる板ガラス10上に、ガラス用プライマー(シリコン塗料で構成されるソーダライムシリケートガラス用下塗り剤)をスプレーにて乾燥膜厚5〜10μmとなるようにスプレー塗布し、60℃で2時間乾燥させプライマー層15を設けた後、表面に紫外線硬化性樹脂インクをインクジェットプリンターでダイレクト印刷(インクジェット式印刷)して絵柄層20を形成した。そしてさらに、該絵柄層20にインクジエットプリンターに搭載された照射装置により紫外線を照射させて該絵柄層を硬化させた。
【0033】
なお、前記板ガラスは、厚さ3mm、長さ300mm、幅75mmであり、前記絵柄層の絵柄は50mm角の正方形4個を等間隔に並べたものである。そして、第1の正方形の色はシアンとし、第2の正方形の色はイエローとし、第3の正方形の色はマゼンタとし、第4の正方形の色はブラックとした。シアン、イエロー、マゼンタ、およびブラックは、それぞれインクジェットプリンターインクの基本色である。
【0034】
次いで、該絵柄層上に、電子線硬化ウレタンアクリレートに対して1,6HD−A(1,6ヘキサンジアクリレート)を希釈剤とした透明性アクリル系電子線硬化性樹脂塗料を膜厚30〜40μmでスプレー塗布し、2.5Mradの条件で電子線を照射して該電子線硬化樹脂性塗料を硬化させ、下塗り層30とした。さらに、下塗り層30(硬化した第一電子線硬化性樹脂層)の上面を番手が400番のサンディングペーパーで研磨し、該表面上に上記電子線硬化性樹脂塗料を膜厚50〜60μmでスプレー塗布し、電子線硬化性樹脂層を最上層に形成した。そして、該電子線硬化性樹脂層上から3.0Mradの条件で電子線を照射して該電子線硬化性樹脂塗料を完全硬化させて、上塗り層としての透明保護層31を形成した。
【0035】
上記製造方法により、図1に示されるような、板ガラス10と該板ガラス10上に形成されたプライマー層15と、該プライマー層15上に形成された絵柄層20と、該絵柄層20上に形成された下塗り層30と、該第下塗り層30上に形成された透明保護層31とを有するインクジェット印刷板ガラス1が得られた。
【0036】
なお、上記製造方法にあって、紫外線照射の直後は、絵柄層20は完全には硬化していない状態(すなわち、未反応モノマーを含む状態)であるが、上記の2.5Mradの電子線、および3.0Mradの電子線の照射により、該絵柄層20は内部まで完全硬化させる(すなわち、絵柄層20の未反応モノマーが反応する)。
【0037】
このようにして得られたインクジェット印刷板ガラス1に、スガ試験機株式会社製のガラス用紫外線照射装置(型式H75)に使用されている、消費電力750Wの高圧水銀ランプ(型式HB−750F)の紫外線を、インクジェット印刷板ガラス1のガラス面側より照射した。尚、高圧水銀ランプの発光スペクトルの主波長は365nmである。このとき、高圧水銀ランプとインクジェット印刷板ガラス1の距離を230mmに保った状態で照射した。
【0038】
図2に、主波長が365nmの紫外線を照射した経過時間に対しての、クリアー部(インクジェット印刷板ガラス1の印刷が無い部分)の黄色度YI値の変化を表したグラフを示す
主波長が365nmの紫外線照射前におけるインクジェット印刷ガラス1のクリアー部のYI値は12.6であった。インクジェット印刷ガラス1のクリアー部のYI値は、紫外線照射時間の経過に伴い減少し、30分経過後、11.4、60分経過後、10.5、90分経過後、9.9、180分経過後が9.2であった。さらに紫外線照射を40時間まで継続したところ、インクジェット印刷板ガラス1のYI値は6.3まで減少した。
【0039】
このように、紫外線の照射に伴い、目視ではほとんど際が分からない程度にまで、インクジェット印刷板ガラス1の着色が消色した。尚、電子線を照射していない厚さ、3mmのソーダライムシリケート板ガラス1のYI値は4.5である。
【0040】
このことは、紫外線の照射によって板ガラスが励起状態となることで、電子線照射によって生成された板ガラス中のカラーセンター、即ち、ソーダライムシリケートガラスの非架橋酸素ホールセンターに遊離電子が戻り、可視域での吸収ピークが無くなったためである。
【0041】
また、インクジェット印刷板ガラス1の印刷処理されていないガラス面側から紫外線の照射を行うことで、板ガラスが大部分の紫外線を吸収するため、電子線硬化型樹脂による下塗り層30および表面保護層31の劣化(黄変)を誘起することなく、板ガラスが消色された。
【0042】
上記インクジェット印刷板ガラス1について、JIS K 7350−4−2008「プラスチック―実験室光源による暴露試験方法―第4部:オープンフレームカーボンアークランプ」に準ずるカーボン式サンシャインウェザーメーターによる加速耐久試験(3000時間)を行った。そして、試験前後におけるインクジェットインクの各基本色による各絵柄層20の色差△Eを、日本電色工業株式会社製の簡易型分光色差計(型番:NF333)で測定した。試験試料数は3枚とし、各試験試料について、試験前後でのインクジェットインクの各基本色による各絵柄層20の色差をそれぞれ測定した。測定結果は、下記の表1の通りである。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、第1の正方形(色:シアン)においては、色差は2.6≦△E≦2.9であった。第2の正方形(色:イエロー)において、色差は2.4≦△E≦3.2であった。第3の正方形(色:マゼンタ)において、色差は6.1≦△E≦6.3であった。第4の正方形(色:ブラック)において、色差は3.2≦△E≦6.6であった。
【0045】
すなわち、試験前後におけるインクジェットインクによる各絵柄層20色差は2.3≦△E≦6.6であり、全基本色について、試験前後におけるインクジェットインクによる各絵柄層20の色差は10未満であり、本発明のインクジェット印刷板ガラス1が優れた耐候性能を有することが確認できた。
【0046】
次いで、上記インクジェット印刷板ガラス1について、JIS R 3221−2002「熱線反射ガラス」に記載されている耐光性試験に基づき1000時間の紫外線照射試験を行った。試験機としてスガ試験機株式会社製ガラス用紫外線照射装置(型番:H75)を用いた。試験試料数は3枚とし、各試験試料についいて、試験前後でのインクジェットインクの各基本色による各絵柄層20の色差をそれぞれ測定した。測定結果は、下記の表2の通りである。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、第1の正方形(色:シアン)においては、色差は1.9≦△E≦2.4であった。第2の正方形(色:イエロー)において、色差は2.3≦△E≦2.6であった。第3の正方形(色:マゼンタ)において、色差は4.0≦△E≦5.0であった。第4の正方形(色:ブラック)において、色差は1.5≦△E≦1.9であった。
【0049】
すなわち、試験前後におけるインクジェットインクによる各絵柄層20の色差は、1.9≦△E≦5.0の範囲にあり、全基本色について、試験前後におけるインクジェットインクによる各絵柄層20の色差は10未満であり、本発明のインクジェット印刷板ガラス1が優れた耐光性能を有することが確認できた。
【0050】
また、上記インクジェット印刷板ガラス1について、JIS R 3221−2002「熱線反射ガラス」に順ずる耐光性試験における1000時間後において、全基本色における試験前後の可視光線透過率の変化率△Tvを測定した。試験試料数は3枚とし、各試験試料についての測定結果は、下記の表3の通りである。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示すように、第1の正方形(色:シアン)においては、可視光線透過率の変化率は1.7%≦△Tv≦〜2.3%であった。第2の正方形(色:イエロー)において、色可視光線透過率の変化率は1.8%≦△Tv≦2.8%であった。第3の正方形(色:マゼンタ)において、可視光線透過率の変化率は2.3%≦△Tv≦2.5%であった。第4の正方形(色:ブラック)において、可視光線透過率の変化率は1.0%≦△Tv≦1.8%であった。
【0053】
すなわち、試験前後の各絵柄層20可視光線透過率の変化率は、1.0%≦△Tv≦2.5%の範囲にあり、全基本色について、JIS R 3221−2002「熱線反射ガラス」で定められた、試験前後の可視光線透過率の変化量≦4%を満たし、熱反射ガラス並みの耐光性能を有するインクジェット印刷板ガラスが得られた。
【0054】
以下に比較例を示す。
〈比較例1〉
電子線照射後に照射する紫外線源を低圧水銀ランプ(東芝ライテック株式会社製 型式:GL−15)に変更した以外は実施例と同条件で作製したインクジェット印刷物を得た。低圧水銀灯の発光スペクトルの主波長は254nmである。
【0055】
図3に、主波長が254nmの紫外線を照射した経過時間に対してのクリアー部(インクジェット印刷板ガラス1の印刷が無い部分)の黄色度YI値の変化を表したグラフを示す。
【0056】
紫外線照射前におけるインクジェット印刷ガラス1のクリアー部のYI値は11.5であった。インクジェット印刷ガラス1のクリアー部のYI値は、紫外線照射時間の経過に伴い増加し、30分経過後、11.6、60分経過後、11.9、90分経過後、12.2、240分経過後で12.5であった。
【0057】
このように、紫外線照射前と比べて主波長が254nmの紫外線照射後のインクジェット印刷ガラス1のクリアー部は黄色味は増した。
【0058】
このことは、波長の短い紫外線を用いた場合、エネルギーの大きいフォトンの光照射によって、板ガラス中にカラーセンターが発生し、可視域での吸収が増したためと考えられる。
(比較例2)
電子線照射後に紫外線を照射しない以外は実施例と同条件で作成したインクジェット印刷物を得た。そして、電子線照射後に紫外線を照射する代わりに、インクジェット印刷物を140℃のオーブン内で加熱した。
【0059】
図4に、140℃での加熱かにおける経過時間に対しての、クリアー部(インクジェット印刷ガラス1の印刷が無い部分)の黄色度YI値の変化を表したグラフを示す。
【0060】
加熱前のインクジェット印刷ガラス1のクリアー部のYI値は12.2であった。インクジェット印刷ガラス1のクリアー部のYI値は、加熱時間の経過に従い、10分経過後に10.0と減少したものの、その後、加熱を続けると、30分経過後で11.6、60分経過後で13.4と増加した。
【0061】
このことは、加熱初期では、ガラス中のカラーセンターの個数が減少してYI値が低下するものの、加熱時間が経過するにつれて、電子線硬化性樹脂が劣化して、新たな黄変の原因となっているものと推察される。つまり、特許文献2に記載される100℃以上での加熱は、ガラス中のカラーセンターの個数を減少させる効果はあるものの、インクジェット印刷物ガラス1では、電子線硬化性樹脂の劣化を招き、新たな黄変の原因となるため適用できない。
【0062】
なお、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、上記実施例に限定されるものでない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のインクジェット印刷物の製造方法は、例えば、広告看板、案内板、デザイン間仕切り板、デザイン手摺り板、建築用デザインガラスパネル、車両用デザインガラスパネル、家具用化粧パネル、家電用化粧パネル、パチンコ用前面板等に適用できる。また、本発明は、耐候性、耐久性に優れたインクジェット印刷物を提供する技術として非常に有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 インクジェット印刷板ガラス(インクジェット印刷物)
10 板ガラス(基材)
15 プライマー層
20 絵柄層
30 下塗り層
31 透明保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としての板ガラス上に、紫外線硬化性樹脂インクを用いたインクジェット式印刷を行うと共に該インクに紫外線を照射して、硬化した絵柄層を形成し、該絵柄層を紫外線照射によって硬化させ、さらに、紫外線照射後の該絵柄層上に透明の電子線硬化性樹脂層を形成し、その後、該電子線硬化性樹脂層上から電子線を照射して、該電子線硬化性樹脂層の電子線硬化性樹脂と前記絵柄層の紫外線硬化性樹脂インクとを硬化させることにより、前記絵柄層を完全硬化させると共に、該電子線硬化性樹脂を完全硬化させて前記透明保護層と形成した後、
再度紫外線を照射することを特徴とするインクジェット印刷板ガラスの製造方法。
【請求項2】
再度紫外線を照射する際、紫外線をガラス面より照射することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷板ガラスの製造方法。
【請求項3】
再度紫外線を照射する際の紫外線の主波長が260nm以上、380nm未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット印刷板ガラスの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット印刷板ガラスの製造方法によって製造されたインクジェット印刷板ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−11953(P2011−11953A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158596(P2009−158596)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(304038426)株式会社アーテック (5)
【Fターム(参考)】