説明

インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法

【課題】記録ヘッドの小面積化を可能としたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】インク液の供給を受ける圧力発生室10と、圧力発生室10に連通するノズル開口部62と、圧力発生室10に面する振動膜20と、を備え、圧力発生室10内の圧力変化によりインク液をノズル開口部62から吐出するインクジェット式記録ヘッド100であって、ノズルプレート60の圧力発生室10を挟んで振動膜20と対向する領域に形成されたドライバ回路64、を備える。このような構成であれば、圧力発生室10とドライバ回路64とが断面視で縦方向(即ち、厚さ方向)に重なるように配置されているので、記録ヘッド100の面積を小さくすることができ、その小型化が可能となる。また、ドライバ回路64で生じた熱が流動するインク液によって奪われ易いので、放熱が容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法に関し、特に、記録ヘッドの小面積化を可能とした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電素子を駆動するための回路(以下、ドライバ回路という。)はIC素子として別基板に製造されたものが記録ヘッドに装着され、各圧電素子とIC素子との接続はワイヤーボンディングで行われている。しかしながら、インク液を吐出するノズル開口部は高密度化が進んでおり、ワイヤーボンディングによる上記の接続は限界に近づきつつある。このような問題に対し、ドライバ回路を別基板に形成するのではなく、例えば特許文献1に開示されているように、記録ヘッドを構成する流路形成基板に直接形成することを行えば、ワイヤーボンディングに依らずにドライバ回路と圧電素子とを電気的に接続することが可能となるので、ノズル開口部の高密度化に対応することが可能となる。
【特許文献1】特開2001−205815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に開示されたインクジェット式記録ヘッドによれば、ドライバ回路と圧電素子とが断面視で横方向に並んだ配置となっているため、記録ヘッドの面積が大きく、小型化の妨げとなる可能性があった。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、集積回路の配置位置を工夫して記録ヘッドの小面積化を可能としたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置、インクジェット式記録ヘッドの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
〔発明1〜6〕 発明1のインクジェット式記録ヘッドは、インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、前記圧力発生室に面する振動膜と、前記圧力発生室に面する基板の該圧力発生室を挟んで前記振動膜と対向する領域に形成された集積回路と、を備えることを特徴とするものである。ここで、本発明の「集積回路」は、例えば、インクジェット式記録ヘッドを駆動するためのドライバ回路である。
発明2のインクジェット式記録ヘッドは、発明1のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記基板は、前記圧力発生室が形成された第1基板と、前記第1基板の一方の面に接合された第2基板と、を有し、前記振動膜は前記第1基板の他方の面に形成されており、前記集積回路は、前記第2基板の前記圧力発生室を挟んで前記振動膜と対向する領域に形成されていることを特徴とするものである。
【0005】
発明3のインクジェット式記録ヘッドは、発明2のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記ノズル開口部は、前記第2基板に形成されており、前記集積回路は前記ノズル開口部を避けて形成されていることを特徴とするものである。
発明4のインクジェット式記録ヘッドは、発明2又は発明3のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記振動膜を介して前記第1基板の他方の面に形成された圧電素子と、前記圧電素子と前記集積回路とを接続する配線と、をさらに備え、前記配線は、前記第1基板を貫いて形成されていることを特徴とするものである。
【0006】
発明5のインクジェット式記録ヘッドは、発明2から発明4の何れか一のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記第1基板の他方の面に接合された第3基板、をさらに備え、前記第3基板には凹部が形成されており、前記凹部内に前記圧電素子が封止されていることを特徴とするものである。
発明6のインクジェット式記録ヘッドは、発明5のインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記圧力発生室に連通するリザーバ、をさらに備え、前記リザーバは前記第3基板に形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
発明1〜6のインクジェット式記録ヘッドによれば、圧力発生室と集積回路とが断面視で縦方向(即ち、厚さ方向)に重なるように配置されているので、記録ヘッドの面積を小さくすることができ、その小型化が可能となる。また、インクジェット式記録ヘッドの動作時は、インク液が圧力発生室内を流れ、当該圧力発生室に面する基板(例えば、第2基板)に形成された集積回路では、その回路動作により生じた熱が流動するインク液によって奪われ易い。このため、集積回路からの放熱が容易であり、熱に起因する不具合を低減することができる。よって、記録ヘッドの信頼性を向上させることができる。
【0008】
〔発明7〕 発明7のインクジェット式記録装置は、発明1から発明6の何れか一のインクジェット式記録ヘッドを具備したことを特徴とするものである。
このような構成であれば、発明1から発明6のインクジェット式記録ヘッドが応用されるので、インクジェット式記録装置の小型化と、信頼性の向上が可能である。
〔発明8〕 発明8のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、前記圧力発生室に面する振動膜と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、前記圧力発生室に面する基板の該圧力発生室を挟んで前記振動膜と対向する領域に集積回路を形成することを特徴とするものである。
このような方法によれば、記録ヘッドの面積を小さくすることができ、その小型化が可能となる。また、集積回路からの放熱が容易であるため、熱に起因する不具合を低減することができ、記録ヘッドの信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す断面図である。図1に示すように、このインクジェット式記録ヘッド100は、例えば、流路形成基板1と、この流路形成基板1の表面上に形成された振動膜20と、振動膜20上に形成された圧電素子(即ち、ピエゾ素子)30と、流路形成基板1の表面側に接合された封止板40と、流路形成基板1の裏面側に接合されたノズルプレート60と、を備える。
これらの中で、流路形成基板1は、例えば面方位(100)のバルクシリコン基板である。この流路形成基板1は、例えば、50μm〜500μmの厚さを有し、個々に区画された複数のインク流路が形成されている。ここで、インク流路とは、インク液が流れる経路のことであり、圧力発生室10が含まれる。
【0010】
振動膜20は弾性膜であり、流路形成基板1の表面上に形成されて圧力発生室10を覆っている。また、圧電素子30は、振動膜20を介して圧力発生室10の真上に形成されている。この圧電素子30は、下部電極31と、下部電極31上に形成された圧電体32と、圧電体32上に形成された上部電極33とを有する。ここで、下部電極31は、例えば複数の圧電素子30にわたる共通の電極である。また、圧電体32は、電圧を加えると伸長、収縮する、又は、歪みが生じるような誘電体であり、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。さらに、上部電極33は、下部電極31とは異なり共通の電極ではなく、個々の圧電体と1:1で対応した個別の電極である。このような構成の圧電素子30は、個々の圧力発生室10の真上にそれぞれ設けられている。また、圧電素子30に繋がる配線35等が流路形成基板1の表面上に形成されている。図1に示す配線35は上部電極33を引き出すための配線であるが、下部電極31を引き出すための配線(図示せず)も流路形成基板1の表面上に形成されている。
【0011】
封止板40は、例えば面方位(110)のバルクシリコン基板からなる(但し、図3(a)に示す、貫通穴からなるリザーバ45をウェットエッチングで形成する場合は、面方位(110)のバルクシリコン基板が封止板40に適している。また、リザーバ45の形成をドライエッチングで行う場合は、面方位(100)のバルクシリコン基板が封止板40に適している。)。この封止板40の表面であって圧電素子30と対向する領域には、圧電素子30を封止するための凹部42が設けられている。図1に示すように、封止板40の表面は流路形成基板1の表面に図示しない接着剤等を介して接合されており、圧電素子30は、その運動を阻害しない程度の空間が確保された状態で凹部42内に封止(即ち、密封)されている。
【0012】
また、この封止板40には、その表面から裏面にかけて形成された貫通穴が形成されている。この貫通穴が、外部からインク液の供給を受けるリザーバ45である。リザーバ45は、前述の全ての圧力発生室10の容積よりも十分に大きい容積を持つように、大きく形成されている。
一方、流路形成基板1の裏面には、図示しない接着剤等を介してノズルプレート60の表面が接合されている。このノズルプレート60は、例えば面方位(100)のバルクシリコン基板からなる。ノズルプレート60には、その表面から裏面にかけて貫通孔が設けられている。この貫通孔がノズル開口部62である。ノズル開口部62は圧力発生室10に連通している。なお、インク液に圧力を与える圧力発生室10の容積と、ノズル開口部62の大きさは、インク液の吐出量とその吐出スピード、吐出周波数などに応じて最適化されている。
【0013】
また、ノズルプレート60の表面であって、圧力発生室10を挟んで振動膜20と対向する領域には、圧電素子30を駆動するためのドライバ回路64が一体に形成されている。ドライバ回路64の能動面(即ち、回路形成面)には複数個のパッド電極(図示せず)が形成されている。そして、これらパッド電極上には、流路形成基板1を貫通するコンタクトホールがそれぞれ配置されており、該コンタクトホール内を埋め込むように貫通電極37が設けられている。この貫通電極37が、上部電極33を引き出すための配線35とドライバ回路64とを繋いでおり、これにより、上部電極33とドライバ回路64とが電気的に接続されている。同様に、図示しない他の貫通電極37が、下部電極31を引き出すための配線(図示せず)とドライバ回路64とを繋いでおり、これにより、下部電極31とドライバ回路64とが電気的に接続されている。
【0014】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド100は、図示しない外部インク供給手段からリザーバ45にインク液を取り込み、図中の矢印で示すように、リザーバ45からノズル開口部62に至るまでの間をインク液で満たしておく。そして、ドライバ回路64からの記録信号に従い、圧電素子30の上部電極33と下部電極31との間に電圧を印加して圧電体32を伸長、収縮させ、又は、歪みを生じさせる。これにより、振動膜20が変形して圧力発生室10内の圧力が高まり、ノズル開口部62からインク液が吐出される。
【0015】
ところで、このインクジェット式記録ヘッド100では、圧力発生室10とドライバ回路64とが断面視で縦方向(即ち、厚さ方向)に重なるように配置されている。これにより、記録ヘッド100の面積を小さくすることができる。また、インクジェット式記録ヘッド100の動作時は、インク液が圧力発生室10内を流れる。このため、ノズルプレート60に形成されたドライバ回路64では、その回路動作により生じた熱が流動するインク液によって奪われ易い。
【0016】
次に、上記のインクジェット式記録ヘッド100の製造方法について説明する。図2〜図7は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す断面図である。この製造方法は、封止板40の形成工程と、流路形成基板1側の形成工程と、ノズルプレート60の形成工程と、流路形成基板1に対して封止板40とノズルプレート60とをそれぞれ接合する工程(以下、単に接合工程ともいう。)と、に大別されるが、ここでは、封止板40の形成工程と、流路形成基板1側の形成工程と、ノズルプレート60の形成工程とについて順に説明し、最後に、接合工程について説明する。
【0017】
まず、封止板40の形成工程では、図2(a)に示すように、封止板40として例えばバルクシリコンからなる基板を用意する。なお、この基板はシリコン基板に限定されるものではなく、シリコン以外の他の材料からなる基板であっても良い。次に、図3(a)に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、封止板40の表面を部分的にエッチングして、圧電素子を封止するための凹部42を形成する。ここでは、例えば、凹部42の平面視による形状が圧電素子と相似形で且つその面積が大きく、しかも、凹部42の深さが圧電素子の厚さよりも大きくなるように、凹部42を形成する。これにより、圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、圧電素子を封止可能な凹部42を形成することができる。なお、本発明では、圧電素子を個別に封止するのではなく、複数個の圧電素子を1つの凹部42内に配置し、これにより、複数個の圧電素子を1つの凹部42でまとめて封止するようにしても良い。この場合は、複数の圧電素子をまとめて封止できるように、凹部42を広く形成すれば良い。
【0018】
次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、封止板40を部分的にエッチングして貫通させ、貫通穴からなるリザーバ45を形成する。ここでは、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウェットエッチング、又は、ドライエッチングにより、リザーバ45を形成する。なお、ここでは、凹部42を形成した後でリザーバ45を形成する場合について説明したが、形成の順番はこれに限定されるものではない。例えば、凹部42を形成する前にリザーバ45を形成しても良く、また、凹部42とリザーバ45とを同時に形成しても良い。このようにして、封止板40が完成する。
次に、流路形成基板1側の形成工程では、図2(b)に示すように、流路形成基板1として例えばバルクシリコンからなる基板を用意する。なお、この基板はシリコン基板に限定されるものではなく、シリコン以外の他の材料からなる基板であっても良い。
【0019】
次に、図3(b)に示すように、流路形成基板1の表面上に振動膜20を形成する。振動膜20は上述したように弾性膜であり、例えばSiO2膜又は酸化ジルコニウム(ZrO2)、若しくはこれらを積層した膜からなり、その厚さは例えば1〜2μmである。振動膜20にZrO2を用いる場合は、例えば、O2を含んだプラズマでジルコニウム(Zr)をスパッタ成膜(反応性スパッタ成膜)することにより、ZrO2を形成する。あるいは、流路形成基板1の表面上にZrを形成し、その後、Zrを500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより、ZrO2を形成すれば良い。なお、振動膜20の材料は上記の種類に限定されないが、流路形成基板1をエッチングして圧力発生室を形成する工程で、エッチングされない若しくはエッチングされにくい材料を用いることが好ましい。
【0020】
次に、図4(b)に示すように、個々の圧力発生室10に対応して振動膜20上に圧電素子30を形成する。ここでは、例えば、スパッタリング法により振動膜20上に下部電極膜を形成する。この下部電極膜の材料としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等が好適である。その理由は、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。下部電極膜の材料には、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持することができるような材料を選択して用いる必要がある。特に、圧電体膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないような材料を選択して用いることが望ましい。このような条件を満たす材料として、Pt、Ir等が好適である。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、下部電極膜を部分的にエッチングして、共通電極としての形状を有した下部電極31を形成する。
【0021】
そして、圧電体膜を成膜する。ここでは、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布し乾燥してゲル化し、さらに高温で焼結すること(即ち、ゾルーゲル法)で圧電体膜を形成する。圧電体膜の材料としては、PZT系の材料が好適であり、その場合の焼結温度は例えば700℃程度である。なお、この圧電体膜の成膜方法は、ゾルーゲル法に限定されず、例えば、スパッタリング法、又は、MOD法(有機金属熱塗布分解法)などのスピンコート法により成膜しても良い。或いは、ゾルーゲル法又はスパッタリング法若しくはMOD法等によりPZTの前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法により成膜しても良い。このような方法により形成される圧電体膜の厚さは、例えば0.2〜5μmである。
【0022】
次に、上部電極膜を成膜する。上部電極膜は、導電性の高い材料であれば良く、Al、金(Au)、ニッケル(Ni)、Pt等の金属膜や、導電性酸化物等を使用することができる。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、上部電極膜及び圧電体膜を順次、部分的にエッチングして、所定形状の上部電極33と圧電体32とを形成する。これにより、振動膜20上に、下部電極31と圧電体32と上部電極33とからなる圧電素子30が完成する。
【0023】
なお、本実施形態では、下部電極31を圧電素子30の共通電極とし、上部電極33を圧電素子30の個別電極としているが、ドライバ回路64や配線の都合でこれを逆にしても良い。つまり、下部電極31を個別電極とし、上部電極33を共通電極としても良い。
次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、振動膜20を部分的にエッチングし、さらに、振動膜20下から露出した流路形成基板1をエッチングして、コンタクトホールを形成する。続いて、このコンタクトホールを埋め込むように流路形成基板1上に導電膜を形成する。そして、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、この導電膜を部分的にエッチングして、コンタクトホール以外の領域から導電膜を取り除く。これにより、貫通電極37を形成する。
【0024】
次に、流路形成基板1の表面全体に導電膜を形成する。この導電膜には、例えば、Al、Au、Ni、Pt等の金属膜を使用することができる。次に、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、導電膜を部分的にエッチングする。これにより、共通の電極である下部電極31を流路形成基板1の表面に引き出す配線(図示せず)と、個々の圧電素子30の上部電極33を流路形成基板1の表面に引き出す配線35とを形成する。図1に示すように、配線35は、貫通電極37と繋がるように形成される。また、下部電極31を引き出す配線は、図示しない他の貫通電極37と繋がるように形成される。
【0025】
なお、本実施形態では、図示しないが、配線35等を形成する前に、圧電素子30を覆うように保護膜を形成しても良い。保護膜は例えばアルミナ(Al23)であり、その形成は例えばスパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)、又は、MOCVD(Metal Organic CVD)で行うことができる。このように、圧電素子30を覆う保護膜を形成する場合は、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、保護膜を部分的にエッチングして下部電極31上及び上部電極33上にそれぞれコンタクトホールを形成し、このコンタクトホールを埋め込むように配線35等を形成すれば良い。
【0026】
次に、図4(b)に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、振動膜20を部分的にエッチングして、リザーバ45と対向する領域に流路形成基板1の表面を底面とする開口部11を形成する。そして、これ以降の工程(即ち、圧力発生室10を形成する工程)は、流路形成基板1に封止板40を接合した後で行う。よって、その説明は、接合工程と共に行う。
【0027】
次に、ノズルプレート60の形成工程では、図2(c)に示すように、ノズルプレート60として例えばバルクシリコンからなる基板を用意する。なお、この基板はシリコン基板に限定されるものではなく、シリコン以外の他の材料からなる基板であっても良い。次に、図3(c)に示すように、ノズルプレート60の表面に圧電素子を駆動するためのドライバ回路64を形成する。このドライバ回路64の形成は半導体プロセス(即ち、成膜工程、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程など)で行う。そして、図4(c)に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、ノズルプレート60の表面を部分的にエッチングして、ノズル開口部となる領域に溝部61を形成する。溝部61はドライバ回路64を避けて形成される。次に、ノズルプレート60の裏面全体を例えば数百μm研削して溝部61の底面を開口させる。図5(b)に示すように、この研削によりノズル開口部62が形成され、ノズルプレート60が完成する。
【0028】
次に、流路形成基板1に封止板40とノズルプレート60とを接合する工程(即ち、接合工程)では、図5(a)に示すように、リザーバ45が形成された封止板40を図示しない接着剤等を介して流路形成基板1の表面に接合する。ここでは、凹部42が圧電素子30と正しく重なり、且つ、リザーバ45が開口部11と正しく重なるように、封止板40と流路形成基板1とを位置合わせする。そして、このように位置合わせした状態で、封止板40の表面を流路形成基板1の表面に接合する。これにより、圧電素子30は凹部42内に配置されて封止される共に、リザーバ45が開口部11と対向して配置される。
なお、封止板40と流路形成基板1との接合は、上述したように接着剤を用いて行うことができるが、接合の方法はこれに限定されるものではなく、接着剤以外の他の方法により接合を行っても良い。
【0029】
例えば、封止板40がガラス(SiO2)からなり、流路形成基板1がシリコンからなる場合は、上記の接合を陽極接合で行っても良い。ここで、陽極接合とは、シリコンとガラスとを接合する方法の一つであり、具体的には、ガラスとシリコンとを接触させ、この状態で両者(即ち、ガラスとシリコン)を加熱してガラス側を軟化させると同時に、シリコン側を陽極として両者間に高電圧を印加し、これにより、両者を接合する方法のことである。陽極接合における加熱温度は例えば300〜500℃である。また、両者間に印加する電圧は例えば500v〜1kvである。
【0030】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板1の裏面全体を例えば数百μm研削して貫通電極37の一端を露出させる。そして、図7(a)に示すように、フォトリソグラフィー及びエッチング技術により、流路形成基板1の裏面を部分的にエッチングして、圧力発生室10を形成する。ここでは、例えば振動膜20をエッチングストッパとして用いることができ、その場合は、圧電素子30にエッチングダメージが及ばないようにすることができる。
【0031】
次に、図7(a)及び(b)において、ノズル開口部62が形成されたノズルプレート60を、接着剤等を介して流路形成基板1の裏面に接合する。ここでは、ノズル開口部62が圧力発生室10の端部と正しく重なり、且つ、ドライバ回路64に形成されたパッド電極が貫通電極37と正しく重なるように、ノズルプレート60と流路形成基板1とを位置合わせする。そして、このように位置合わせした状態で、ノズルプレート60の表面を流路形成基板1の裏面に接合する。これにより、圧力発生室10にノズル開口部62が連通すると共に、上部電極33を引き出すための配線35や、下部電極31を引き出すための配線(図示せず)が、ドライバ回路64と電気的に接続される。以上のような工程を経て、図1に示したインクジェット式記録ヘッド100が完成する。
【0032】
このように、本発明の実施形態によれば、圧力発生室10とドライバ回路64とが断面視で縦方向(即ち、厚さ方向)に重なるように配置されているので、記録ヘッド100の面積を小さくすることができ、その小型化が可能となる。また、インクジェット式記録ヘッド100の動作時は、インク液が圧力発生室10内を流れ、ノズルプレート60に形成されたドライバ回路64では、その回路動作により生じた熱が流動するインク液によって奪われ易い。このため、ドライバ回路64からの放熱が容易であり、熱に起因する不具合を低減することができる。よって、インクジェット式記録ヘッド100の信頼性を向上させることができる。
【0033】
また、このようなインクジェット式記録ヘッド100を具備したインクジェット式記録装置によれば、その小型化と信頼性の向上が可能である。
この実施形態では、流路形成基板1が本発明の「第1基板」に対応し、流路形成基板1の裏面が本発明の「第1基板の一方の面」に対応し、流路形成基板1の表面が本発明の「第1基板の他方の面」に対応している。また、ノズルプレート60が本発明の「第2基板」に対応し、封止板40が本発明の「第3基板」に対応している。そして、配線35と貫通電極37の組み合わせが本発明の「配線」に対応し、ドライバ回路64が本発明の集積回路に対応している。
【0034】
なお、上述の実施形態では、ノズルプレート60の表面にドライバ回路64を形成する場合について説明したが、本発明のドライバ回路64の形成位置はこれに限定されない。例えば図8に示すように、圧力発生室10の端部の真下からその外側にかけてドライバ回路64を形成しても良い。このような構成であっても、ドライバ回路64は、ノズルプレート60の表面であって振動膜20と対向する領域にあり、圧力発生室10とドライバ回路64とが断面視で縦方向に重なるように配置されているので、記録ヘッド100の小面積化、小型化が可能である。
【0035】
或いは、例えば図9に示すように、ノズルプレート60の裏面であって、圧力発生室10を挟んで振動膜20と対向する領域にドライバ回路64を形成しても良い。この場合は、配線35等と、貫通電極37と、ノズルプレート60を貫通する貫通電極38と、ノズルプレート60の裏面に形成された配線39とを介して、圧電素子30とドライバ回路64とが電気的に接続される。このような構成であっても、圧力発生室10とドライバ回路64とが断面視で縦方向に重なるように配置されているので、記録ヘッド100の小面積化、小型化が可能である。また、インク液の流動によってドライバ回路64が裏側(即ち、能動面とは反対側の面)から冷却されるので、上記の実施形態と同様、放熱が容易であり、熱に起因する不具合を低減することができる。
なお、図9では、配線35、39と貫通電極37、38の組み合わせが本発明の「配線」に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態に係るインクジェット式記録ヘッド100の構成例を示す図。
【図2】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その1)。
【図3】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その2)。
【図4】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その3)。
【図5】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その4)。
【図6】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その5)。
【図7】インクジェット式記録ヘッド100の製造方法を示す図(その6)。
【図8】インクジェット式記録ヘッド100の他の構成例を示す図(その1)。
【図9】インクジェット式記録ヘッド100の他の構成例を示す図(その2)。
【符号の説明】
【0037】
1 基板、10 圧力発生室、11 開口部、20 振動膜、30 圧電素子、31 下部電極、32 圧電体、33 上部電極、35、39 配線、37、38 貫通電極、40 封止板、42 ドライバ回路、45 リザーバ、42 凹部、60 ノズルプレート、62 ノズル開口部、100 インクジェット式記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、前記圧力発生室に面する振動膜と、
前記圧力発生室に面する基板の該圧力発生室を挟んで前記振動膜と対向する領域に形成された集積回路と、を備えることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】
前記基板は、
前記圧力発生室が形成された第1基板と、
前記第1基板の一方の面に接合された第2基板と、を有し、
前記振動膜は前記第1基板の他方の面に形成されており、
前記集積回路は、前記第2基板の前記圧力発生室を挟んで前記振動膜と対向する領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】
前記ノズル開口部は、前記第2基板に形成されており、
前記集積回路は前記ノズル開口部を避けて形成されていることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】
前記振動膜を介して前記第1基板の他方の面に形成された圧電素子と、
前記圧電素子と前記集積回路とを接続する配線と、をさらに備え、
前記配線は、前記第1基板を貫いて形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】
前記第1基板の他方の面に接合された第3基板、をさらに備え、
前記第3基板には凹部が形成されており、前記凹部内に前記圧電素子が封止されていることを特徴とする請求項2から請求項4の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】
前記圧力発生室に連通するリザーバ、をさらに備え、
前記リザーバは前記第3基板に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか一項に記載のインクジェット式記録ヘッドを具備したことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項8】
インク液の供給を受ける圧力発生室と、前記圧力発生室に連通するノズル開口部と、前記圧力発生室に面する振動膜と、を備えるインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、
前記圧力発生室に面する基板の該圧力発生室を挟んで前記振動膜と対向する領域に集積回路を形成することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−248355(P2009−248355A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95767(P2008−95767)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】