説明

インクジェット式記録装置及びインクジェット式記録方法

【課題】 ドロップボリュームのサイズを大きく変化させても連続印字安定性、印字品質、吐出速度バラツキ、駆動周波数等の特性を劣化させることがなく安定的に印字することができるインクジェット式記録装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 圧電セラミックスプレートにノズル開口に連通し且つインクの充填されたチャンバを複数併設すると共に各チャンバの両側の側壁に電極が設けられたインクジェットヘッドを具備し、前記電極を介して前記側壁に前記チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスとチャンバ内の容積を一時的に圧縮する駆動電圧パルスを印加することでインクを吐出させるインクジェットヘッド記録装置において、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスを印加する前にチャンバ内の容積を一時的に圧縮させる駆動電圧パルスを少なくとも一つの吐出するチャンバに対して印加する駆動電圧パルス制御手段を具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プリンタ、ファックスなどに適用されるインクジェット式記録装置及びインクジェット式記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクを吐出する複数のノズルを有するインクジェットヘッドを用いて被記録媒体に文字や画像を記録するインクジェット式記録装置が知られている。かかるインクジェット式記録装置では、インクジェットヘッドのノズルが被記録媒体に対向するようにヘッドホルダに設けられ、このヘッドホルダはキャリッジに搭載され被記録媒体の搬送方向とは直交する方向に走査されるようになっている。
【0003】
このようなインクジェットヘッドの一つとして、特許公開2003−311950号に開示されているものがあり、このインクジェットヘッドのヘッドチップの一例の分解概略を図12に、また、断面図を図13に示す。
【0004】
図12及び図13に示すように、圧電セラミックスプレート101には、複数のチャンバ102が並設され、各チャンバ102は、側壁103で分離されている。各チャンバ102の長手方向一端部は圧電セラミックスプレート101の一端面まで延設されており、他端部は、他端面までは延びておらず、深さが徐々に浅くなっている。このような各チャンバ102内の両側壁103の開口側表面には、長手方向に亘って、駆動電界印加用の電極105が形成されている。
【0005】
また、圧電セラミックスプレート101のチャンバ102の開口側には、カバープレート107が接着剤109を介して接合されている。このカバープレート107には、各チャンバ102の浅くなった他端部と連通する凹部となる共通インク室111と、この共通インク室111の底部からチャンバ102とは反対方向に貫通するインク供給口112とを有する。
【0006】
さらに、圧電セラミックスプレート101とカバープレート107との接合体のチャンバ102が開口している端面には、ノズルプレート115が接合されており、ノズルプレート115の各チャンバ102に対向する位置にはノズル開口117が形成されている。
【0007】
なお、圧電セラミックプレート101のノズルプレート115とは反対側でカバープレート107とは反対側の面には、配線基板120が固着されている。配線基板120には、各電極105とボンディングワイヤ121等で接続された配線122が形成され、この配線122を介して電極105に駆動電圧を印加できるようになっている。
【0008】
このように構成されるヘッドチップでは、インク供給口112から各チャンバ102内にインクを充填し、所定のチャンバ102の両側の側壁103に電極105を介して所定の駆動電界を作用させると、側壁103が撓み変形してチャンバ102内の容積が一時的に膨張、圧縮し、これにより、チャンバ102内のインクがノズル開口117から吐出する。また、この時のチャンバ内の圧力変動(平均)の様子や駆動電圧パルスの様子については、図14に示す。また、このうち膨張している状態を維持する時間を膨張維持時間(t)という。膨張維持時間(t)の長さは、第1駆動パルスの幅で決まる。チャンバに生じる圧力波がチャンバの長手方向を片道伝達する時間をAPという。チャンバの長さをL、インク中の音速をaとすると、AP=L/aと表せる。膨張維持時間(t)は、圧力波伝達時間APの1〜2倍で最も有効に圧力変動(平均)を増大することができ、吐出効率が上がる。したがって、好ましい膨張維持時間(t)は、t=k・AP(k=1〜2)と表せる。この係数kは、メニスカスの挙動に依存する。また、次に与えられる圧縮している状態を維持する時間については、tの2倍が最適とされている。
【特許文献1】特許公開2003−311950号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来のインクジェット式記録装置に搭載されるインクジェットヘッドでは、ドロップボリュームを大きくする場合、駆動電圧を高くする必要がある。しかし、この場合には安定的に吐出できる駆動電圧範囲を狭くし、しかも最悪の場合には、エネルギーのかけ過ぎによりドット抜け、偏向、ミスト、サテライト等の印字品質を劣化させる不具合を発生させる恐れがあり問題である。
【0010】
一方、この他にもドロップボリュームを大きくする方法としてマルチドロップ方式と言われる方法がある。この方法は、一つのチャンバから複数滴を連続吐出する方法であるが、この場合には、例えば8階調を表現するために7ドロップをチャンッバから吐出する必要があるため、吐出周期が長くなってしまい、インクジェットヘッドの駆動周波数が小さくなるという問題点がある。また、この方法の場合、電位差の上下変動が階調により様々であるため、チャンバ間の温度差が大きく、チャンバ間に吐出速度のバラツキを生じさせてしまい、最悪の場合には、印字品質を劣化させる問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、ドロップボリュームのサイズを大きく変化させても連続印字安定性、印字品質、吐出速度バラツキ、駆動周波数等の特性を劣化させることがなく安定的に印字することができるインクジェット式記録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、圧電セラミックスプレートにノズル開口に連通し且つインクの充填されたチャンバを複数併設すると共に各チャンバの両側の側壁に電極が設けられたインクジェットヘッドを具備し、前記電極を介して前記側壁に前記チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスとチャンバ内の容積を一時的に圧縮する駆動電圧パルスを印加することでインクを吐出させるインクジェット式記録装置において、チャンバの容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスを印加する前にチャンバ内の容積を一時的に圧縮させる駆動電圧パルスを少なくとも一つの吐出するチャンバに対して印加する駆動電圧パルス制御手段を具備することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時間(z)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスの印加時間(t)の0.01倍〜0.5倍であることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルス印加時間(t)の印加開始時から(t−(t×0.2))時間〜(t+(t×0.2))時間離れた範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0015】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルス印加開始時からt時間離れていることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスが、吐出する全てのチャンバに対して印加されることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、チャンバのそれぞれの間に、前記インクの充填されないダミーチャンバが設けられ該ダミーチャンバ内の側壁に前記電極が設けられていることを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0018】
本発明の第7の態様は、圧電セラミックスプレートにノズル開口に連通し且つインクの充填されたチャンバを複数併設すると共に各チャンバの両側の側壁に電極が設けられたインクジェットヘッドを具備し、前記電極を介して前記側壁に前記チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスとチャンバ内の容積を一時的に圧縮する駆動電圧パルスを印加することでインクを吐出させるインクジェット式記録方法において、チャンバの容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスを印加する前にチャンバ内の容積を一時的に圧縮させる駆動電圧パルスを少なくとも一つの吐出するチャンバに対して印加することを特徴とするインクジェット式記録方法にある。
【0019】
かかる本発明では、前記電極を介して前記側壁に前記チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスを印加する前にチャンバ内の容積を一時的に圧縮させる駆動電圧パルスを印加することで、図7に示す圧力変動(平均)ΔXを発生させることができる。このΔXの発生により図14に示す従来の圧力変動(平均)よりも大きなエネルギーをインクに与えることができるためドロップボリュームを大きくすることができる。また、この方法では駆動電圧パルスを高くする必要がないため一時的にB領域(図7、図14)の初めに大きな圧力変動(平均)をインクに与えることがない。そのため、駆動電圧パルスを高くした場合に比べドット抜けや偏向やミストやサテライト等の印字品質の劣化を生じさせることがない、しかも安定的にインクを吐出させる駆動電圧範囲も狭くなることがなく極めて優れた特性を示す。また、駆動電圧パスルとしては、一つ追加するだけであるためマルチドロップ方式のように駆動周波数が小さくなることがない。また、電位差の上下変動がマルチドロップ方式に比べ均一であるためチャンバ間の温度差が小さく、チャンバ間の吐出速度のバラツキが小さくてすむため印字品質の劣化を防ぎことができる。
【0020】
また、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時間(z)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスの印加時間(t)の0.01倍より小さい場合には、ΔXを増加させることがほとんど出来ないため好ましくない。また、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時間が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスの印加時間(t)の0.5倍以上の場合には、ΔXが大きすぎメニスカスを破壊し、ドット抜けを発生させるために好ましくない。つまり、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時間は、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスの印加時間(t)の0.01倍〜0.5倍が最も好ましい。また、この範囲では、印加時間が長くなるほどΔXが徐々に大きくなるためドロップボリュームの大きさを制御することもできる。
【0021】
また、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスから(t−(t×0.2))時間以上離れていないとΔXが減少するので好ましくない。また、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスから(t+(t×0.2))時間以上離れているとこれもまたΔXが減少するので好ましくない。つまり、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスから(t−(t×0.2))時間〜(t+(t×0.2))時間離れた範囲にあると吐出効率が上がり好ましい。
【0022】
また、チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内の容積を膨張させる前記駆動電圧パルスからt時間離れていると最もΔXを大きくすることができるため吐出効率が最大になり好ましい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、図7のA領域に60a、60cで示されるような駆動電圧パルスを加えることで、ドロップボリュームの大きさを大きくすることができる。しかも、その大きさを制御することもできる。また、この方法に従えば、連続印字安定性、印字品質、吐出速度バラツキ、駆動周波数等の特性を劣化させることがなく安定的な印字することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態のインクジェット式記録装置10は、ヘッドが走査されるシリアル方式のインクジェット式記録装置であり、インクを吐出させるインクジェットヘッド20が設けられたヘッドユニット100を具備する。このヘッドユニット100はキャリッジ11上に固定されており、キャリッジ11は一対のガイドレール12a、12b上に軸方向に移動自在に搭載されている。
【0027】
また、ガイドレール12a、12bの一端側には駆動モータ13が設けられており、この駆動モータ13による駆動力が、当該駆動モータ13に連結されたプーリ14aと、ガイドレール12a、12bの他端側に設けられたプーリ14bとの間に掛け渡されたタイミングベルト15に沿って移動されるようになっている。
【0028】
さらに、キャリッジ11の搬送方向と直交する方向の両端部側には、ガイドレール12a、12bに沿ってそれぞれ一対の搬送ローラ16、17が設けられている。これらの搬送ローラ16、17は、キャリッジ11の下方に当該キャリッジ11の搬送方向とは直交する方向に被記録媒体Sを搬送するものである。
【0029】
そして、これら搬送ローラ16、17によって被記録媒体Sを送りつつキャリッジ11をその送り方向とは直交方向に走査することにより、インクジェットヘッド20によって被記録媒体S上に文字及び画像等が記録される。
【0030】
ここで、インクを吐出させるインクジェットヘッドの一例について説明する。なお、図2は、本発明の実施形態1に係るインクジェットヘッドの分解斜視図であり、図3は、ヘッドチップの分解斜視図であり、図4は、インクジェットヘッドの組立工程を示す概略斜視図である。
【0031】
図2に示すように、本実施形態のインクジェットヘッド20は、ヘッドチップ21と、このヘッドチップ21の一方面側に設けられるベースプレート22と、ヘッドチップ21の他方面側に設けられるヘッドカバー23と、ヘッドチップ21を駆動するための駆動回路24が搭載された配線基板25とを有する。
【0032】
まず、ヘッドチップ21について詳しく説明する。図3及び図4に示すように、ヘッドチップ21を構成する圧電セラミックスプレート26には、ノズル開口27に連通してインクを吐出させるチャンバ28が複数並設され、各チャンバ28は、側壁29で分離されている。
【0033】
各チャンバ28の長手方向一端部は、圧電セラミックスプレート26の一端面まで延設されており、他端部は、他端面までは延びておらず、深さが徐々に浅くなっている。なお、各チャンバ28は、例えば、円盤状のダイスカッターにより形成され、深さが徐々に浅くなった部分は、ダイスカッターの形状を利用して形成される。
【0034】
また、各チャンバ28内の両側の側壁28の開口側表面には、長手方向に亘って、チャンバ28毎に独立した駆動信号が出力される一対の個別電極30がそれぞれ形成されている。この一対の個別電極30は、例えば、公知の斜め方向からの蒸着によって各チャンバ28内の各側壁29にそれぞれ形成される。
【0035】
さらに、圧電セラミックスプレート26のチャンバ28の開口側には、インク室プレート31が接合されている。このインク室プレート31には、各チャンバ28の浅くなった他端部のみと連通する凹部となるインク室32と、このインク室32の底部からチャンバ28とは反対方向に貫通するインク供給口33とが設けられている。
【0036】
ここで、本実施形態では、各チャンバ28は、ブラック(B)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色のインクに対応したグループに分かれており、インク室32及びインク供給口33は、それぞれ4つずつ設けられている。
【0037】
なお、インク室プレート31は、例えば、セラミックスプレート、金属プレート等で形成することができるが、圧電セラミックスプレート26との接合後の変形等を考えると、熱膨張率の近似したセラミックスプレートを用いるのが好ましい。
【0038】
また、圧電セラミックスプレート26とインク室プレート31の接合体とのチャンバ28が開口している端面には、ノズルプレート34が接合されている。このノズルプレート34の各チャンバ28に対向する位置にはノズル開口27が形成されている。
【0039】
さらに、ノズルプレート34は、圧電セラミックスプレート26とインク室プレート31との接合体のチャンバ28が開口している端面の面積よりも大きくなっている。このノズルプレート34は、ポリイミドフィルムなどに、例えば、エキシマレーザ装置を用いてノズル開口27を形成したものである。また、図示しないが、ノズルプレート34の被印刷物に対向する面には、インクの付着等を防止するために撥水性を有する撥水膜が設けられている。
【0040】
なお、本実施形態では、圧電セラミックスプレート26とインク室プレート31との接合体のチャンバ28が開口している端部の周囲には、ノズル支持プレート35が配置されている。このノズル支持プレート35は、ノズルプレート34の接合体端面の外側と接合されて、ノズルプレート34を安定して保持するためのものである。
【0041】
ここで、このようなヘッドチップ21を具備するインクジェットヘッド20について詳細に説明する。
【0042】
図2及び図4に示すように、インクジェットヘッド20は、ヘッドチップ21を構成する圧電セラミックプレート26のノズル開口27側とは反対側の端部に、例えば、ボンディングワイヤ等を介して一対の個別電極30に接続される図示しない配線パターンが形成されている。
【0043】
また、圧電セラミックスプレート26とインク室プレート31との接合体のノズル支持プレート35の後端側には、圧電セラミックスプレート26側のアルミニウム製のベースプレート22と、インク室プレート31側のヘッドカバー23とが組み付けられる。このヘッドカバー23には、インク室プレート31のインク供給口33のそれぞれに連通するインク導入路36が設けられている。
【0044】
そして、ベースプレート22及びヘッドカバー23は、ベースプレート22の係止孔22aにヘッドカバー23の係止シャフト23aを係合することにより固定され、両者で圧電セラミックプレート26とインク室プレート31との接合体を挟持する。
【0045】
また、図4(a)に示すように、圧電セラミックスプレート26の後端側に突出したベースプレート22上には配線基板25が固着されている。この配線基板25上には、ヘッドチップ21を駆動するための駆動ICを有する駆動回路24が搭載され、後述する駆動回路24とフレキシブルケーブルとが異方性導電膜37を介して接続される。これにより、図4(b)のインクジェットヘッド20が完成する。
【0046】
さらに、上述したインクジェットヘッド20は、インクカートリッジを保持するタンクホルダ40に組み付けられてヘッドユニット100が形成される。
【0047】
ここで、インクジェットヘッド20を組み付けるタンクホルダ40の一例について図5を参照して説明する。なお、図5は、本実施形態に係るタンクホルダの一例を示す概略斜視図である。
【0048】
図5に示すように、タンクホルダ40は、一方面が開口した略箱形形状を有し、インクカートリッジが着脱自在に保持可能なものである。
【0049】
また、タンクホルダ40の底壁上面には、インクカートリッジの底部に形成された開口部と、インク導入路36とを連結させる連結部41が設けられている。この連結部41は、例えば、ブラック(B)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色のインク毎に設けられている。
【0050】
さらに、連結部41内には図示しないインク流路が形成され、その開口となる連結部41の先端には、フィルタ42が設けられている。
【0051】
この連結部41内に形成されたインク流路は、底壁の裏面側まで連通して形成されており、各インク流路は、タンクホルダ40の裏面側に設けられた流路基板43の側壁に開口するヘッド連結口44に連通している。
【0052】
また、タンクホルダ40の側面には、上述したインクジェットヘッド20を保持固定するヘッド保持部45が設けられている。
【0053】
このようなヘッド保持部45には、配線基板25上に設けられた駆動回路24を包囲する略コ字状に立設された包囲壁46と、この包囲壁46内にあってインクジェットヘッド20のベースプレート22及び配線基板25に設けられた係止孔22bと係合する係合シャフト47が立設されている。
【0054】
そして、上述したタンクホルダ40のヘッド保持部45にインクジェットヘッド20が搭載されることでヘッドユニット100が完成する。このとき、ヘッドカバー23に形成されたインク導入路36は、流路基板43のヘッド連結口44に連結されている。
【0055】
ここで、各チャンバ28内の側壁29に設けられた一対の個別電極30に駆動信号を出力する駆動手段を駆動回路24に表して詳細に説明する。なお、図6は、駆動回路とヘッドチップとの配線の接続状態を示す概略図である。
【0056】
図6に示すように、駆動回路24には、外部からの電源と、印刷信号等の外部信号とからなる外部回路50とが外部配線51を介して接続されている。これにより、外部信号が外部配線51を介して外部回路50から駆動回路24に出力される。
【0057】
また、駆動回路24は、フレキシブルケーブル38を介して各チャンバ28内の側壁29に設けられた一対の個別電極30にそれぞれ接続されている。これにより、駆動回路24に入力された外部信号は、各チャンバ28内の一対の個別電極30に駆動信号としてそれぞれ出力されることになる。
【0058】
なお、本実施形態では、各チャンバ28の側壁29を形成する圧電セラミックスプレート26の分極方向は、チャンバ28の底部からインク室プレート31側に向かって各側壁29が突出する方向と同一方向である。
【0059】
ここで、インクジェット式記録装置10の駆動方法について詳細に説明する。なお、図7は、圧電セラミックプレートの断面図及び一対の個別電極に付与される駆動電圧パルスを示す図であり、図8は、チャンバの両側の側壁の動きを説明する圧電セラミックスプレートの断面図である。図7に示す駆動電圧パルス60a〜60cは、各チャンバ28a〜28c内の一対の電極30にそれぞれ印加される駆動電圧パルスを示す。
【0060】
本実施形態では、このような圧力変動(平均)61によってチャンバ28b(ノズル開口27)からインク滴を吐出する。
【0061】
以下、インクを吐出させる際の各チャンバの両側の側壁の動きについて詳細に説明する。
まず初めにインク滴が吐出しないチャンバ28a、28cに印刷信号の入力に伴い、駆動電圧パルス60a、60cのA領域でチャンバ28a、28c内に設けられた一対の個別電極30に本発明の駆動電圧パルスが印加されて、チャンバ28a、29cの図8の側壁1、2に駆動電界が発生する。これにより、チャンバ28bの各側壁1,2が、その中央部が内側に向かって接近するように撓み変形してチャンバ28b内の容積を一時的に圧縮される。(図8(b)参照)。そして、この時、チャンバ28b内では、瞬間的に圧力が上がり、次に徐々に圧力が減少し最終的には、初期値よりも低い圧力状態になる。
【0062】
続いて、従来の駆動波形と同様に駆動波形パルス60bがB領域でチャンバ28b内の一対の個別電極30に駆動電圧パルスが印加されて、チャンバ28bの両側の図8の側壁1、2に駆動電界が発生する。これにより、チャンバ28bの両側壁1,2が、その中央部が外側に向かって離れるように撓み変形してチャンバ28b内の容積を一時的に膨張する(図8(a)参照)。そして、この時、チャンバ28b内では、A領域で減少した圧力(ΔX)に加えてさらに瞬間的に圧力が減圧される。このため従来の圧力変動(平均)に比べ大きなを得ることができ、ドロップボリュームを増加させることができる。(従来の圧力変動(平均)については、図14参照)。また、A領域で発生する圧力変動(平均)ΔXの量を制御することによりドロップボリュームをコントロールすることができる。このΔXの量の制御方法としては、A領域で加える駆動電圧パルスの幅(z)を変えることで制御することができる。実際に測定した結果を図9に示す。この測定では、W=t時間固定としZ幅を変化させた時の結果である。この結果を見ると解るようにドロップボリュームは、Z幅が広くなるほど大きくなりZ幅を制御することでドロップボリュームをコントロールできることがわかる。
しかし、Z幅が0.5×tよりも大きいと吐出不安定となるためZ幅は、0.5×t以下であることが大切である。また、Z幅が、0.01×tより大きくないとドロップボリュームがほとんど変わらないので0.01×t以上であることが大切である。また、図10には、Z幅を0.2×tに固定しW量を変化させた時の測定結果を示す。この結果から解るようにW量が1×tの時が最も吐出効率が良く最適である。しかし、W量がtの±0.2tの範囲であればほとんど吐出効率が下がらないのでこの範囲で利用しても良い。尚、tについては、t=k・AP(k=1〜2)で表せる範囲であれば、これまで説明した効果と同様な特性を得ることができる。
【0063】
次に、従来の駆動電圧波形と同様に駆動電圧パルス60a、60cのC、D領域でチ ャンバ28a、28c内に設けられた一対の個別電極30に駆動電圧パルスが印加され 、チャンバ28a、28cの側壁1、2に駆動電界が発生する。これにより、チャンバ 28a、28cの各側壁1、2の中央部が内側に向かって近接するように撓み変形して チャンバ28b内の容積が増大している状態から一時的に圧縮し、ノズル開口27から インク滴が吐出されることになる(図8(b)参照)。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
【0065】
例えば、上述の本実施形態では、各チャンバ28a〜28f内の側壁29に一対の個別電極30を設けたインクジェットヘッドを例示して説明したが、本発明のインクジェット式記録装置に搭載されるインクジェットヘッドはこれに限定されるものではない。
【0066】
例えば、図11に示すように、各チャンバ28a〜28fの側壁29a〜29eに駆動信号がそれぞれ独立して出力される個別電極30Aを設けたタイプのインクジェットヘッドであってもよい。
【0067】
また、例えば、インクの充填されるチャンバのそれぞれの間にインクの充填されないダミーチャンバが設けられたタイプのインクジェットヘッドであってもよい。
【0068】
このような何れのタイプのインクジェットヘッドを用いた場合であっても、これまで説明したものと同様な効果を得ることができる。
【0069】
また、上述した実施形態では、インクジェットヘッドを走査するシリアル型のインクジェット式記録装置を例示して説明したが、本発明は、インクジェットヘッドが固定されたライン型のインクジェット式記録装置等の他のタイプのインクジェット式記録装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るヘッドチップの分解斜視図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るインクジェットヘッドの組立工程を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るタンクホルダの一例を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す図である。
【図7】本発明の実施形態1に係るインクジェットヘッドの駆動電圧パルスと圧力変動(平均)について示した図である。
【図8】本発明の実施形態1に係るチャンバの両側の動きを説明する圧電セラミックスプレートの断面図である。
【図9】本発明の実施形態1に係るインクジェットヘッドの圧縮駆動電圧パルス印加時間(Z)とドロップボリュームの関係について示したグラフである。
【図10】本発明の実施形態1に係るインクジェットヘッドの圧縮駆動電圧パルス印加時期(W)とドロップボリュームの関係について示したグラフである。
【図11】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略構成を示す図である。
【図12】従来技術に係るインクジェットヘッドのヘッドチップの概要を示す概略斜視図である。
【図13】従来技術に係るインクジェットヘッドのヘッドチップの概要を示す断面図である。
【図14】従来技術に係るインクジェットヘッドの駆動電圧パルスと圧力変動(平均)について示した図である。
【符号の説明】
【0071】
10 インクジェット式記録装置
20 インクジェットヘッド
21 ヘッドチップ
22 ベースプレート
23 ヘッドカバー
24 駆動回路
25 配線基板
26 圧電セラミックスプレート
27 ノズル開口
28、28a〜28f チャンバ
29、29a〜29e 側壁
30 一対の個別電極
30A 個別電極
34 ノズルプレート
40 タンクホルダ
50 外部回路
51 外部配線
60a〜60f 駆動波形
61 圧力変動(平均)
100 ヘッドユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミックスプレートにノズル開口に連通し且つインクの充填されたチャンバを複数併設すると共に各チャンバの両側の側壁に電極が設けられたインクジェットヘッドを具備し、前記電極を介して前記側壁に前記チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスとチャンバ内の容積を一時的に圧縮する駆動電圧パルスを印加することでインクを吐出させるインクジェット式記録装置において、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスを印加する前にチャンバ内の容積を一時的に圧縮させる駆動電圧パルスを少なくとも一つの吐出するチャンバに対して印加する駆動電圧パルス制御手段を具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項2】
チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時間(z)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルスの印加時間(t)の0.01倍〜0.5倍であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録装置。
【請求項3】
チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルス印加時間(t)の印加開始時から(t−(t×0.2))時間〜(t+(t×0.2))時間離れた範囲にあることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット式記録装置。
【請求項4】
チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスの印加時期(w)が、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる前記駆動電圧パルス印加開始時からt時間離れていることを特徴とする請求項3記載のインクジェット式記録装置。
【請求項5】
チャンバ内の容積を一時的に圧縮させる前記駆動電圧パルスが、吐出する全てのチャンバに対して印加されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
チャンバのそれぞれの間に、前記インクの充填されないダミーチャンバが設けられ該ダミーチャンバ内の側壁に前記電極が設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1つに記載のインクジェット式記録装置。
【請求項7】
圧電セラミックスプレートにノズル開口に連通し且つインクの充填されたチャンバを複数併設すると共に各チャンバの両側の側壁に電極が設けられたインクジェットヘッドを具備し、前記電極を介して前記側壁に前記チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスとチャンバ内の容積を一時的に圧縮する駆動電圧パルスを印加することでインクを吐出させるインクジェット式記録方法において、チャンバ内の容積を一時的に膨張させる駆動電圧パルスを印加する前にチャンバ内の容積を一時的に圧縮させる駆動電圧パルスを少なくとも一つの吐出するチャンバに対して印加することを特徴とするインクジェット式記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−159430(P2006−159430A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349753(P2004−349753)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】