説明

インクジェット式記録装置

【課題】記録媒体がインクによって汚れるのを低減する。
【解決手段】排出筐体45の下端面に、隣り合う排出孔51c〜54cの間に、排出孔51c〜54cに連通する凹部45aを形成する。記録ヘッド30が、回復処理を行った位置から、記録媒体に記録する領域に移動する際に、記録ヘッド30のノズル開口面及び排出筐体の下端面をワイパー部材131にて順に払拭する。このとき、ワイパー部材131によってインクが払拭されず、排出筐体45の下端面に付着して残るインクは、排出孔51c〜54cに連通する凹部45a内に毛細管作用で流れ込み、前記下端面でのインクの盛り上がりがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット式記録装置として、記録ヘッドを保持する箱形状のヘッドホルダに、インク貯留室を有するインクタンクと、インク貯留室内のインクから分離したエアを排出する排出通路を内部に有する排出筐体とが搭載されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。そのインク貯留室は、インクを導き出すインク導出路を介して記録ヘッドのインク流入口部と接続されている。また、排出筐体は、下端面に排出通路を外部へ開口する排出孔を有するとともに、ヘッドホルダ外に設けた操作部材によって前記排出通路を開閉する弁体を有しており、記録ヘッドの側方近傍に排出筐体の下端面が配置されている。
【0003】
そして、そのようなものにおいては、記録ヘッドのノズルからインクを吸引する等によって回復動作をした後、ワイパー部材によって、記録ヘッドのノズル開口面が払拭され、回復動作によってノズル開口面に付着したインクが除去されるようになっている。また、排出筐体の下端面も、エアとともに排出されるインクが付着するので、ワイパー部材によって、記録ヘッドのノズル開口面の払拭と連続して払拭される。
【特許文献1】特開2005−271552号公報(図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、そのようなインクジェット式記録装置においては、排出筐体の下端面に開口した排出孔は、弁体を開閉操作するだけの大きさに形成されており、ワイパ部材で払拭したとき、ワイパ部材の一部が排出孔内に落ち込むため、ワイパー部材がふらつき、安定したワイピング動作を行うことができないことがある。
【0005】
また、排出筐体がヘッドホルダと別部品として製作される場合には、ヘッドホルダと排出筐体の下端部との間に隙間あるいは段差が形成される。そのため、記録ヘッドのノズル開口面から排出筐体の下端面にかけて、ワイパー部材がインクを払拭する際に、ワイパー部材がふらつき、安定したワイピング動作を行うことができない。
【0006】
このように、ワイピング動作が安定して行えないと、ワイピング動作後にインクが薄く引き延ばされるものの、インクを払拭により除去することができず最終的に表面張力によりインク滴となり、そのインク滴が記録用紙に接触して記録用紙の紙面を汚すおそれがある。
【0007】
特に、排出筐体の下端面の撥水性が高いと、インク滴の高さが高くなり、記録用紙の汚れの発生率が高くなる。
【0008】
本発明は、排出筐体の下端面に、前述したような残留したインクの盛り上がりを防止する対策を施すことで、記録媒体(記録用紙)の、インクによる汚れを低減したインクジェット式記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、記録ヘッドを保持する箱形状のヘッドホルダに、インク貯留室を有するインクタンクと、前記インク貯留室内のインクもしくはそのインクから分離したエアを排出する排出通路を内部に有する排出筐体とが搭載され、前記インク貯留室が、そのインク貯留室からインクを導き出すインク導出路を介して前記記録ヘッドのインク流入口部と接続され、前記排出筐体が、下端面に前記排出通路を外部へ開口する排出孔を有するとともに、前記ヘッドホルダ外に設けた操作部材によって前記排出通路を開閉する弁体を有し、前記記録ヘッドの側方近傍に前記排出筐体の下端面が配置され、前記ヘッドホルダ外に設けられたワイパー部材によって、前記記録ヘッド及び前記排出筐体の下端面が払拭されるインクジェット式記録装置において、前記排出筐体の下端面に、前記下端面に付着するインクの盛り上がりを防止する対策が施されていることを特徴とする。ここで、前記下端面に付着するインクの盛り上がりを防止する対策とは、前記下端面に付着したインクが表面張力によりインク滴となり記録媒体側に盛り上がるのを回避する対策で、その表面張力の影響を少なくする対策や、前記下端面に付着したインクを前記下端面から他の部分へ移動させる対策などが含まれる。
【0010】
このようにすれば、ワイパー部材によるワイピング動作後に、そのワイピング動作によって除去されず排出弁手段の筐体の下端面に付着して残るインクは、記録媒体に向かっての盛り上がりが防止されるので、前記下端面に付着して残るインクが、記録媒体(例えば、記録用紙)に接触して、記録媒体がインクによって汚れるのが低減される。
【0011】
請求項2に記載のように、請求項1のインクジェット式記録装置において、前記ヘッドホルダは、底壁部とその底壁部の周囲に立ち上がった側壁部とを有し、前記インクタンクは、前記ヘッドホルダ又はそのヘッドホルダに固定された記録ヘッドに固定され、前記排出筐体は、前記インクタンクから側方へ前記インクタンクから突出して設けられ、前記排出筐体は、前記ヘッドホルダの、前記開閉操作方向と平行な1つの側壁部に沿って延びている構成とすることができる。
【0012】
このようにすれば、排出筐体は、ヘッドホルダの、操作部材の開閉操作方向と平行な1つの側壁に沿って延びているので、弁体を開閉操作するための操作力が小さくてよくなる。
【0013】
請求項3に記載のように、請求項1または2のインクジェット式記録装置において、前記ヘッドホルダは、記録媒体に沿って移動可能に設けられ、前記記録ヘッドは、前記ヘッドホルダにその下方へ露出して固定され、前記排出筐体の、前記インクタンクと接続された側の端部とは反対側の端部は、前記記録ヘッドの側方近傍に位置し、前記記録ヘッドが前記記録媒体と対向する位置の外において、前記記録ヘッドと対向してその記録ヘッドのノズルから排出したインクを受ける回復機構部と、前記操作部材とが隣接して配置され、前記回復機構部の、前記操作部材とは反対側に隣接して前記ワイパー部材が配置されている構成とすることができる。
【0014】
このようにすれば、排出筐体の、インクタンクと接続された側の端部とは反対側の端部が、前記記録ヘッドの側方近傍に位置するので、前記記録ヘッドと対向してその記録ヘッドのノズルから排出したインクを受ける回復機構部と、前記操作部材と、ワイパー部材とを隣接して配置することができ、コンパクト化が図れる。
【0015】
請求項4に記載のように、請求項3のインクジェット式記録装置において、前記記録ヘッドが前記記録媒体と対向する位置の外において、前記操作部材を囲んで、前記排出筐体の排出孔から排出された前記インクもしくは前記エアの排出とともに排出したインクを受けるキャップが配置されていることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、前記排出筐体の排出孔から排出された前記インクもしくは前記エアの排出とともに排出されるインクを、操作部材を囲むキャップによって受けることができる。
【0017】
請求項5に記載のように、請求項1〜4のいずれかのインクジェット式記録装置において、前記対策は、前記排出孔に連通する凹部あるいは溝部とすることができる。
【0018】
このようにすれば、排出筐体の下端面に付着するインクは、排出孔に連通する凹部あるいは溝部内に流れ込んで溜まるので、インクの盛り上がりが防止される。また、排出孔はスペース的に余裕があるので、流れ込んできたインクを溜める上で有利である。
【0019】
請求項6に記載のように、請求項1〜4のいずれかのインクジェット式記録装置において、前記対策は、前記下端面に、その下端面に対するインクの接触角を低下させる親水処理を施すこととすることができる。
【0020】
このようにすれば、排出筐体の下端面に親水処理が施されているので、下端面に対するインクの接触角を低下させ、インクの盛り上がりが防止される。
【0021】
請求項7に記載のように、請求項6のインクジェット式記録装置において、前記親水処理は、面粗度を粗くする処理とすることができる。
【0022】
このようにすれば、親水処理は、面粗度を粗くする処理であるので、簡単に行うことができる。
【0023】
請求項8に記載のように、請求項7のインクジェット式記録装置において、前記親水処理は、プラズマ処理、オゾン処理、コロナ処理又はイトロ処理とすることができる。
【0024】
このようにすれば、親水処理は、プラズマ処理、オゾン処理、コロナ処理又はイトロ処理であるので、簡単に親水処理を行うことができる。
【0025】
請求項9に記載のように、請求項1〜4のいずれかのインクジェット式記録装置において、前記対策は、前記排出筐体の、前記ワイパー部材の拭き終わり側の側面部に設けられ前記開閉操作方向と平行な複数のリブとすることができる。
【0026】
このようにすれば、排出筐体の下端面に付着するインクは、リブの間の隙間に流れ込んで溜まるので、インクの盛り上がりが防止される。
【0027】
請求項10に記載のように、請求項1〜9のいずれかのインクジェット式記録装置において、前記インクタンクには、複数の前記インク貯留室が設けられ、前記各インク貯留室には、インクを種類別に収容するインク供給源から、各インクを種類別にインク供給チューブを介して供給され、前記各インク貯留室から前記記録ヘッドにインクを供給し、前記複数のインク貯留室及び前記記録ヘッドを記録媒体に対して走査しながらインクを吐出する構成とされ、前記排出筐体は、前記各インク貯留室ごとに設けられている構成とすることができる。
【0028】
このようにすれば、インクタンクからインク供給チューブを介してインク貯留室、記録ヘッドにインクが供給されるタイプのものにおいて、請求項1〜9の発明が実現される。
【発明の効果】
【0029】
以上のように構成したから、本発明は、ワイパー部材によるワイピング動作後に、そのワイピング動作によって除去されず排出筐体の下端面に付着して残るインクが、記録媒体に向かって盛り上がるのを防止するので、前記下端面に付着して残るインクが、記録媒体に接触して、記録媒体がインクによって汚れるのを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0031】
図1は本発明に係るインクジェット式記録装置の主要構成を平面的に示す説明図である。
【0032】
図1に示すように、インクジェット式記録装置1は、その内部において、2本のガイド軸6,7が前後に平行に設けられ、そのガイド軸6,7に、キャリッジを兼用するヘッドホルダ9が取付けられている。ヘッドホルダ9には、記録媒体(図示せず)に対し、インクを吐出して記録を行う記録ヘッド30が保持されている。ヘッドホルダ9には、複数のインク貯留室12,13,14,15(図4(a)参照)を有するインクタンク40が搭載され、各インク貯留室12〜15から記録ヘッドにインクが供給される。ヘッドホルダ9は、回転駆動される無端ベルト11に連結され、このベルト11の回転駆動により、ガイド軸6,7上を記録媒体に沿って移動可能に設けられ、記録ヘッド30が記録媒体に対して走査しながらインクを吐出する構成とされている。なお、各インク貯留室12〜15には、ヘッドホルダ9外に設けられインクを種類別に収容するインク供給源(例えば、複数のインクカートリッジ)から、各インクを種類別に可撓性のインク供給チューブを介して供給される。
【0033】
ヘッドホルダ9は、図4に示すように、底壁部9cとその底壁部9cの周囲に立ち上がった側壁部9dとを有する箱形状に形成され、上面が開口されている。記録ヘッド30は底壁部9cの下面に下方へ露出して固定されている。記録ヘッド30は、下面に多数のノズル35,36,37,38の列を記録ヘッド30の走査方向Xに並べて有するキャビティユニット32と、そのノズル内のインクに選択的に吐出圧力を付与する圧電アクチュエータ31とを積層して有する。なお、圧電アクチュエータ31の上面には、圧電アクチュエータ31に駆動電圧を印加するフレキシブルフラットケーブル(図示せず)の基端部分が固定されている。
【0034】
また、キャビティユニット32の上側には、四角枠状の補強フレーム33が接着固定されている。つまり、記録ヘッド30は、その上面に四角枠状の補強フレーム33を介在させて、ヘッドホルダ9の底壁部9cの下面との間に注入した接着剤(図示せず)により固定される。記録ヘッド30と補強フレーム33との間の下面側における段差を解消し記録ヘッド30を保護するために、記録ヘッド30の周囲に位置する保護カバー34が、補強フレーム33の下側に取り付けられている。
【0035】
ヘッドホルダ9内の底壁部9cの上には、図4および図5に示すように、インクタンク40が収容され、ヘッドホルダ9に固定されている。なお、インクタンク40は、ヘッドホルダ9に代えて、ヘッドホルダ9に固定された記録ヘッド30に固定することも可能である。
【0036】
インクタンク40は、上側タンク部40Aと下側タンク部40Bとが接合されてなり、上側タンク部40Aにイエローインク、マゼンタインクのインク貯留室12,13が、下側タンク部40Bにシアンインク、ブラックインクのインク貯留室14,15がそれぞれ上下に積層状に形成されている。各インク貯留室12〜15は、インクの圧力変動を緩和するように一面を可撓性のフィルム81で覆うことで画定されている。
【0037】
また、インクタンク40の一側には、各インク貯留室12〜15の数に対応する数のインク導出路91〜94を記録ヘッド30の走査方向Xに並べて有する。インク導出路91〜94は、それぞれほぼ同じ長さでタンク上下方向に延び、その側面にインク貯留室12〜15がそれぞれ接続されている。インク導出路91〜94の下端は記録ヘッド30の各インク流入口部(図示せず)に接続されており、これにより各インク貯留室12〜15からノズル35〜38に列ごとにインクが供給される。このとき、インク導出路91〜94の上部空間が、インクに含まれていたエアが分離されて一時的に蓄積される蓄積部として機能するようになっている。なお、この蓄積されたエアは、後述する排出通路95〜98を通じて外部に排出される。
【0038】
排出通路95〜98は、上側タンク部40Aの上面に各インク導出路91〜94ごとに凹溝として形成され、その一端がインク導出路91〜94の上部空間にそれぞれ接続されている。各排出通路95〜98の下流端は、その排出通路ごとに設けた排出弁手段47内の排出通路51〜54の上端にそれぞれ接続されている。各排出通路51〜54は、上下方向に延び、その下端開口である排出孔51c〜54cを、記録ヘッド30のノズル開口面とほぼ同一平面においてノズルの列と平行に並べて開放している。なお、各排出通路95〜98は、それらの開放上面を、最上層のインク貯留室12を覆う可撓性のフィルム81の延長部分で覆うことで画定されている。
【0039】
各排出弁手段47は、排出通路51〜54を内部に有する排出筐体45と、その内部に収納した弁体102とから構成されている。各筐体45は、記録ヘッド30の走査方向Xと直交する方向に並んで相互に連続した形状に形成されている。上側タンク部40Aは、ヘッドホルダ9の側壁部9dを越えて側方へ突出して設けられる連接部74Aを有し、各筐体45は、この連接部74Aの下に垂下状態に接続され、側壁部9dに沿って下方向に延びている。つまり、各筐体45は、図4(a)に示すように、インクタンク40の側面から側壁部9dを越えて側方へ突出して設けられている。各排出通路95〜98は、インク導出路91〜94の上端に対応する位置から連接部74A上に延びて形成され、連接部74Aを貫通して筐体45内の対応する排出通路51〜54に接続している。側壁部9dは、後述する、排出弁手段47を開閉操作する操作部材としての突出軸部121の開閉操作方向と平行である。
【0040】
そして、各筐体45の、インクタンク40と接続された側の上端部とは反対側の下端面は、記録ヘッド30の側方近傍に、記録ヘッドのノズル35〜38が開口する下面とほぼ同一平面上に位置している。その下端面には、排出孔51c〜54cが開口し、図2に示すように、隣り合う排出孔51c〜54cの間に十字形状の凹部45a(あるいは溝部)が、下方へ開口して設けられている。各凹部45aは、それの両側に位置する排出孔51c〜54cに連通している。また、一方の端に位置する排出孔51cに対してはそれに連通する十字形状の凹部45bが、それと隣り合う排出孔52cとは反対側に設けられている。他方の端に位置する排出孔54cに対してはそれに連通する直線状の凹部45cが、それと隣り合う排出孔53cとは反対側に設けられている。
【0041】
この凹部45a〜45cは、インクを毛細管作用によって内部に保持できる程度の幅に形成されており、各筐体45の下端面に付着するインクの一部が、凹部42a〜45a内あるいは排出孔51c〜54c内に収容されて保持されるようになり、前記下端面上に残るインクの量が少なくなるので、結果として前記下端面に付着するインクの盛り上がりが防止される。
【0042】
排出弁手段47は、通常、各筐体45内の排出通路51〜54の外部への開放を遮断した状態にある。この排出弁手段47を駆動制御して適宜開放動作させることにより、インク導出路91〜94内の上部のインク、もしくはその上部空間に蓄積されるエアを、排出通路95〜98および各筐体45内の排出通路51〜54を通じて外部に排出することができる。
【0043】
各排出弁手段47の内部構造は、各排出通路51〜54のいずれも同様の構成であるので、以下、図4(a)(b)を参照して、イエローインクについてのみ説明する。
【0044】
筐体45内の排出通路52は、上下方向に長くかつ上下に開口するもので、上端が排出通路92に連通する一方、下端が外部に排出孔52cとして開口し、弁体102が摺動可能である弁室として機能する。排出通路52は、上側の大径孔部52aと、下側に位置する小径孔部52bとを有している。また、小径孔部52bの下側にそれに連通して、外部への開放部分として機能する排出孔52cもそれらと同軸状に有している。
【0045】
弁体102は、大径の弁部102aと、その下端に一体に連接した小径のバルブロッド102bと、弁部102aに接触する位置でバルブロッド102bに嵌合されたリング状のシール材102cとを備える。排出通路52の大径孔部52aには大径の弁部102aが、小径孔部52bにはバルブロッド102bが、それぞれインクもしくはエアの流通を可能にする隙間を残して挿入されている。バルブロッド102bは、後述するように弁開放時に、メンテナンスユニット120に設けられた突出軸部121によって押し上げられるため、それの下端が(弁閉止状態で)排出孔52c近傍に位置するようになっている。
【0046】
また、弁体102は、連接部74A下面の係合凸部40Aaとの間に設けたコイルスプリング103によって、弁部102aをシール材102cを介して大径部52aと小径部52bとの間の段状の弁座面に当接する方向に付勢されている。後述する突出軸部121による押し上げ力が弁体102に作用しない通常時は、排出弁手段47は、排出通路52の外部への連通を遮断した弁閉止状態となる。
【0047】
記録ヘッド30の回復処理、及びインクタンク40内のエア除去処理を行うメンテナンスユニット120について以下説明する。メンテナンスユニット120は、記録ヘッド30のノズル35〜38の開口面を開閉可能に覆う第1のキャップ部材122(回復機構部)と、各排出筐体45の下端面(すなわち排出孔51c〜54c)を開閉可能に覆う第2のキャップ部材123とを隣接して備える。また、第1のキャップ部材122の、第2のキャップ部材123とは反対側に隣接して、公知のように弾性材からなる板形状のワイパー部材131が配置されている。このメンテナンスユニット120は、記録媒体と記録ヘッド30が対向する位置外の位置において、ヘッドホルダ9外のインクジェット式記録装置の本体に設けられている。
【0048】
第1のキャップ部材122は、記録ヘッド30と対向してその記録ヘッド30のノズルから排出したインクを受けるものである。第2のキャップ部材123は、排出弁手段47を開閉操作する操作部材としての突出軸部121を囲んで、筐体45の排出孔51c〜54cから排出されるインク、もしくはエアの排出とともに排出されるインクを受けるものである。ワイパー部材131は、記録ヘッド30のノズル開口面及び排出筐体45の下端面を払拭するものである。
【0049】
両キャップ部材122,123は、公知のメンテナンスユニットと同様の上下移動機構124により、上下移動可能に支持される。記録ヘッド30が、記録媒体と対向しない待機位置に移動したときに、記録ヘッド30のノズル開口面及び排出弁手段47の筐体45の下端面に密着する上昇位置にキャップ部材122,123がそれぞれ移動し、他の位置ではそれらの面から離隔するように下降位置に移動する。また第1のキャップ部材122と第2のキャップ部材123は、切替弁126により択一的に吸引ポンプ125に接続される。
【0050】
ワイパー部材131も、同様に、図示しない上下移動機構により、上下移動可能に支持される。記録ヘッド30が、第1および第2のキャップ122,123と対向する位置に移動したときに、記録ヘッド30のノズル開口面及び排出筐体45の下端面を払拭する上昇位置に移動し、記録ヘッド30が回復処理後に記録媒体と対向する位置に戻る際にノズル開口面及び排出筐体45の下端面を順に払拭し、他の位置ではそれらから離隔するように下降位置に移動する。
【0051】
第2のキャップ部材123は、そのキャップ部材123よりも突出した突出軸部121を各排出孔51c〜54cと対向する位置にそれぞれ有する。第2のキャップ部材123が筐体45の下端面に密着したとき、突出軸部121は、弁体102をコイルスプリング103の付勢力に抗して押し上げ、弁部102aをシール材102cとともに弁座面から離す弁開放状態にする。
【0052】
上記装置によれば、記録が行われている通常時には、排出弁手段47は、上記のように弁閉止状態にあり、各インク貯留部12〜15から記録ヘッド30のノズル列にインク色毎にインクが供給され、各ノズル列から記録媒体に吐出される。一方、記録ヘッド30が待機位置に移動したときには、第2のキャップ部材123が排出筐体45の下端面に密着することで、バルブロッド102bが突出軸部121(操作部材)によって上方に押し上げられ、弁開放状態となる。この状態で、第2のキャップ部材123と吸引ポンプ125を切替弁126により接続し、吸引ポンプ125を駆動することにより、各インク導出路91〜94内の上部のインクもしくはその上部空間内に蓄積したエアを一括して吸引し外部に排出する。その後、切替弁126を切り替えて第1キャップ部材122と吸引ポンプ125を接続し、吸引ポンプ125を駆動することにより、記録ヘッド30のノズル35〜38内のインクを吸引して排出する。
【0053】
その後、記録ヘッド30を、第1および第2のキャップ122,123と対向する位置から、記録媒体に記録する領域へ移動させる。その移動の際に、インクによって濡れた状態にある記録ヘッド30のノズル開口面及び排出筐体45の下端面がワイパー部材131にて順に払拭される。
【0054】
このとき、記録ヘッド30のノズル開口面上からインクが運ばれ、かつヘッドホルダ9と排出筐体45との間には隙間、あるいは段差があったり、また、排出筐体45の下端面の排出孔51c〜54cは、突出軸部121が挿入されるされる大きさである。このため、薄い板形状のワイパー部材131は、これらの隙間、段差あるいは孔によりふらつき、インクを完全には払拭できず、図5(a)(b)に示すように、排出筐体45の下端面にインクSが付着して残る場合がある。しかし、そのインクSは、毛細管作用により、排出孔52cに連通する凹部45a〜45c内に流れ込んで、最終的には図6(a)(b)に示すように凹部45a〜45cおよび排出孔52c内に保持されることになる。これにより、排出弁手段47の筐体45の下端面そのものに付着して残るインクSは大幅に低減され、インクSの盛り上がりが防止される。よって、盛り上がったインクが記録媒体に接触して、記録媒体がインクによって汚れるのが低減される。
【0055】
また、排出孔52cはスペース的に余裕があるので、流れ込んできたインクを溜める上で有利である。排出孔52c内に溜まったインクは、次のメンテナンス時に、吸引排出される。
【0056】
前述した実施の形態のほか、本発明は、次にように構成することも可能である。
【0057】
(i)前記実施の形態では、端に位置する排出孔51c,54cに対し、それと隣り合う排出孔52c,53cとは反対側に凹部45b,45cを設けているが、前記隣り合う排出孔52c,53cとは反対側にあまりスペースがない場合には、それらを省略することができる。また、凹部45a〜45cは十字形状や直線状としているが、凹部の形状をそれらに限定されるものではなく、排出孔に連通させることができるものであれば、各種形状を採用することができるのはいうまでもない。
【0058】
(ii)また、図7に示すように、前記筐体45’の、ワイパー部材131の拭き終わり側の側面部に、前記開閉操作方向と平行な複数のリブ45bを設け、そのリブ45bの間隔を、毛細管作用によりインクを保持できる大きさに設定することで、筐体45’の下端面に付着するインクの盛り上がりを防止することも可能である。この場合、ワイパー部材131によってインクが払拭されず、図8(a)(b)に示すように、筐体45の下端面にインクSが付着して残る場合があるが、そのインクSは、毛細管作用により、リブ45bの間の隙間内やリブ45bの上側に流れ込んで、最終的には図9(a)(b)に示すように凹部45a〜45cおよび排出孔52c内に溜まることになる。これにより、排出弁手段47の筐体45の下端面に付着して残るインクSは大幅に低減され、インクSの盛り上がりが防止される。
【0059】
(iii)前記排出孔に連通する凹部あるいは溝部に代えて、前記筐体の下端面に、その面に対するインクの接触角を低下させる親水処理を施すことで、前記下端面に付着するインクの盛り上がりを防止することも可能である。
【0060】
親水処理としては、例えば前記筐体の下端面に、面粗度を粗くする処理を施せばよい。具体的には、プラズマ処理、オゾン処理、コロナ処理又は、燃焼化学気相蒸着(CCVD)によりナノメーターオーダの超薄膜酸化珪素にて表面を被覆するイトロ処理を採用することができる。
【0061】
(iv) 前記実施の形態において、第2のキャップ部材123および吸引ポンプ125により各インク導出路91〜94の上部空間に蓄積したエアを専ら排出するようにしたり(その場合インクも少量排出される)、あるいは、インク供給源からインクタンクへインクを供給するインク供給チューブやインクタンクの上部で増粘したインクを排出するようにすることも可能である
(v)前記実施の形態では、エアの排出およびノズル35〜38からのインク吸引を連続して行うようにしているが、第1および第2のキャップ122,123を別々の上下移動機構により昇降させて、ノズルからのインク吸引のみ、または排出筐体を通じてのインクもしくはエアの排出のみを、それぞれ単独に行うこともできる。
【0062】
(vi)上記のように吸引ポンプ125の吸引動作に代えて、インク供給源すなわちインクカートリッジ側から、インクに正圧を加えて、インク貯留室12〜15内を加圧しノズルから増粘したインクや異物を排出したり、排出筐体を通じてインクもしくはエアを排出することもできる。あるいは、吸引動作とインクヘの正圧印加を併用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係るインクジェット式記録装置の主要構成を平面的に示す説明図である。
【図2】インクタンクが搭載されたヘッドホルダの底面図である。
【図3】同平面図である。
【図4】(a)は図2のA−A線における断面図、(b)は図4(a)のB部の拡大図である。
【図5】(a)(b)はそれぞれ動作説明図である。
【図6】(a)(b)はそれぞれ動作説明図である。
【図7】他の実施の形態についての図3と同様の図である。
【図8】(a)(b)は他の実施の形態についての動作説明図である。
【図9】(a)(b)は他の実施の形態についての動作説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 インクジェット式記録装置
9 ヘッドホルダ
9c 底壁部
9d 側壁部
12〜15 インク貯留室
30 記録ヘッド
40 インクタンク
45,45’ 筐体
45a,45b,45c 凹部
45d リブ
47 排出弁手段
51〜54 排出通路
51c〜54c 排出孔
91〜94 インク導出路
95〜98 排出通路
120 メンテナンスユニット
121 突出軸部(操作部材)
122 第1のキャップ部材(回復機構部)
123 第2のキャップ部材
131 ワイパー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドを保持する箱形状のヘッドホルダに、インク貯留室を有するインクタンクと、前記インク貯留室内のインクもしくはそのインクから分離したエアを排出する排出通路を内部に有する排出筐体とが搭載され、
前記インク貯留室が、そのインク貯留室からインクを導き出すインク導出路を介して前記記録ヘッドのインク流入口部と接続され、前記排出筐体が、下端面に前記排出通路を外部へ開口する排出孔を有するとともに、前記ヘッドホルダ外に設けた操作部材によって前記排出通路を開閉する弁体を有し、前記記録ヘッドの側方近傍に前記排出筐体の下端面が配置され、
前記ヘッドホルダ外に設けられたワイパー部材によって、前記記録ヘッド及び前記排出筐体の下端面が払拭されるインクジェット式記録装置において、
前記排出筐体の下端面に、前記下端面に付着するインクの盛り上がりを防止する対策が施されていることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【請求項2】
前記ヘッドホルダは、底壁部とその底壁部の周囲に立ち上がった側壁部とを有し、
前記インクタンクは、前記ヘッドホルダ又はそのヘッドホルダに固定された記録ヘッドに固定され、
前記排出筐体は、前記インクタンクから側方へ前記インクタンクから突出して設けられ、
前記排出筐体は、前記ヘッドホルダの、前記開閉操作方向と平行な1つの側壁部に沿って延びていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項3】
前記ヘッドホルダは、記録媒体に沿って移動可能に設けられ、前記記録ヘッドは、前記ヘッドホルダにその下方へ露出して固定され、前記排出筐体の、前記インクタンクと接続された側の端部とは反対側の端部は、前記記録ヘッドの側方近傍に位置し、
前記記録ヘッドが前記記録媒体と対向する位置の外において、前記記録ヘッドと対向してその記録ヘッドのノズルから排出したインクを受ける回復機構部と、前記操作部材とが隣接して配置され、
前記回復機構部の、前記操作部材とは反対側に隣接して前記ワイパー部材が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドが前記記録媒体と対向する位置の外において、前記操作部材を囲んで、前記排出筐体の排出孔から排出された前記インクもしくは前記エアの排出とともに排出したインクを受けるキャップが配置されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項5】
前記対策は、前記排出孔に連通する凹部あるいは溝部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット式記録装置。
【請求項6】
前記対策は、前記下端面に、その下端面に対するインクの接触角を低下させる親水処理を施すことであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット式記録装置。
【請求項7】
前記親水処理は、面粗度を粗くする処理であることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項8】
前記親水処理は、プラズマ処理、オゾン処理、コロナ処理又はイトロ処理であることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項9】
前記対策は、前記排出筐体の、前記ワイパー部材の拭き終わり側の側面部に設けられ前記開閉操作方向と平行な複数のリブであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット式記録装置。
【請求項10】
前記インクタンクには、複数の前記インク貯留室が設けられ、前記各インク貯留室には、インクを種類別に収容するインク供給源から、各インクを種類別にインク供給チューブを介して供給され、
前記各インク貯留室から前記記録ヘッドにインクを供給し、前記複数のインク貯留室及び前記記録ヘッドを記録媒体に対して走査しながらインクを吐出する構成とされ、
前記排出筐体は、前記各インク貯留室ごとに設けられていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のインクジェット式記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−194921(P2008−194921A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31588(P2007−31588)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】