説明

インクジェット用インク

【課題】インクジェット用インクで用いる色材とインクpHを制御することで、高濃度で長期の射出安定性、保存安定性にすぐれたインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】少なくとも水及び水溶性染料を含有し、該水溶性染料の少なくとも1種は、スルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料であり、25℃におけるインクpHが5.0以上、7.0以下であることを特徴とするインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性のインクジェット用インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式により画像形成を行う印刷方法は、インクジェット用インクの微小液滴をインクジェット記録ヘッドより飛翔させ、対象となる記録媒体に付着させて印刷を行う方法である。インクジェット方式は、その機構が比較的簡便で、安価であり、かつ高精細で高品位な画像を形成させることが利点を備えている。この様なインクジェット記録方法では、高品位な画像を形成する上においては、インクジェット用インクの吐出安定性が重要な要素となっている。インクジェット用インクの吐出が不安定であると、形成される画像の画像濃度の低下やスジ状の画像ムラ等が生じ、得られる画像の品位を損なう結果となる。
【0003】
この様な射出安定性を劣化させる要因としては、例えば、長期間にわたりインクジェット用インクを保存した際に凝集物が発生し、この凝集物によりインクジェット記録ヘッドのノズル部を詰まらせて射出不良を起こすこと、インクジェット記録ヘッドのノズル部でインクジェット用インクのメニスカス部でのインクの蒸発やインク付着により射出不良を起こすこと、あるいは、インクジェット記録ヘッド内で長期間にわたりインクジェット用インクを保存した際に、インク中から発生する気体(泡等)により射出不良を起こすこと等が知られている。
【0004】
上記各要因の中で、インクジェット記録ヘッド内で長期間にわたりインクジェット用インクを保存した際に、インク中の溶存空気(特に、窒素)等による気泡発生を防止する方法として、70℃で一定時間処理することで、アゾ染料から発生する窒素量を一定濃度以下に制御したインクジェット記録用インクが開示されている(特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、本発明者が更に検討を重ねた結果、スルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料においては、上記提案されている方法を適用しても、形成する画像濃度とインクジェット用インクの長期保存安定性との両立することが困難であることが判明した。
【特許文献1】特許第2696992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、高濃度で長期の射出安定性、保存安定性に優れたインクジェット用インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0008】
1.少なくとも水及び水溶性染料を含有し、該水溶性染料の少なくとも1種は、スルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料であり、25℃におけるインクpHが5.0以上、7.0以下であることを特徴とするインクジェット用インク。
【0009】
2.前記インクpHが、5.5以上、6.5以下であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット用インク。
【0010】
3.前記アゾ染料の純度が、82%以上、99%以下であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット用インク。
【0011】
4.前記アゾ染料の純度が、93%以上、99%以下であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット用インク。
【0012】
5.前記アゾ染料が、C.I.アシッドレッド447であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、インクジェット用インクで用いる色材とインクpHを制御することで、高濃度で長期の射出安定性、保存安定性にすぐれたインクジェット用インクを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、少なくとも水及び水溶性染料を含有し、該水溶性染料の少なくとも1種は、スルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料であり、インクpHが5.0以上、7.0以下であることを特徴とするインクジェット用インクにより、高濃度で長期の射出安定性、保存安定性に優れたインクジェット用インクを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0016】
以下、本発明のインクジェット用インクの詳細について、説明する。
【0017】
〔水溶性染料〕
本発明のインクジェット用インク(以下、単にインクともいう)は、色材として水溶性染料用い、水溶性染料の少なくとも1種が、スルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料であることを特徴の一つとする。
【0018】
本発明に係るスルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料としては、下記一般式(1)、(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
上記一般式(1)、(2)において、A、Bはそれぞれ独立に、置換または未置換のアリール基またはアゾ基を有する置換または未置換のアリール基を表す。
【0022】
1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、置換または未置換のアリール基または炭素数1〜3のアルキル基を表す。
【0023】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基が挙げられる。
【0024】
また、アリール基に置換可能な置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基等を挙げることができる。
【0025】
一般式(1)、(2)で表されるアゾ染料は、当該業者で公知の方法に従って合成することで得ることができ、あるいは市販品として入手することもできる。
【0026】
以下、本発明に係るスルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料の具体例を以下に示すが、本発明はこれら例示する化合物に限定されるものではない。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
本発明のインクにおいては、本発明に係るスルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料と共に、従来公知の染料を併用してもよい。
【0031】
本発明のインクにおいては、本発明に係る上記アゾ染料を1種以上含有するものであるが、本発明に係るアゾ染料のインク全質量に対する含有量としては0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.2〜13質量%の範囲がより好ましい。
【0032】
本発明に係るアゾ染料は市販品のまま使用してもよいが、本発明においては、スルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料は、純度が82%以上、99%以下であることが、本発明の目的効果をより発揮できる観点から好ましく、更に好ましくは、93%以上、99%以下である。
【0033】
本発明のインクにおいては、上記で規定する純度のアゾ染料を用いることにより、ノズル欠の発生を防止することができると共に、サテライトの発生を抑制し、プリントした画像の濃度低下、保存時のインク粘度上昇を抑制することができる。
【0034】
これらのアゾ染料の純度を制御することによる上記効果に関しては明らかではないが、アゾ染料の純度が低いと、残留している不純物によりアゾ染料の分解が促進され、分解物が析出したり、ガスが発生したりしているのではないかと推測される。
【0035】
ここで本発明でいう純度とは、水溶性のアゾ染料を水で希釈した溶液を調製し、この溶液の液体クロマトグラフ分析を行ったときの、最大ピークの面積比率を意味する。本発明では、具体的には下記に示す測定機器および測定条件により測定を行った。
【0036】
〈測定機器〉
日立ハイテクノロジーズ社製高速液体クロマトグラフELITE LaChrom
〈測定条件〉
カラム:ジーエルサイエンス社製InertsilODS−2 4.6Φ×150mm
流速:0.8ml/分
オーブン温度:40度
溶離液A:0.1モル/L酢酸ナトリウム水溶液
溶離液B:メタノール
リテンションタイム:40分
グラジエント:0分10%→30分B100%→40分B100%
また、本発明において、アゾ染料の純度を82%以上、99%以下とする方法としては、特に適用する精製方法に制限を加えるものではなく、例えば、公知の再結晶方法、洗浄等を用いることができる。精製方法及び精製処理に用いる有機溶媒は、アゾ染料の種類に応じて、適宜選択することが好ましい。更に、その他の精製方法としては、アゾ染料溶液を吸着剤(例えば、活性炭、ゼオライト、ケイソウ土等)もしくはイオン交換樹脂と混合、接触させ、攪拌した後、濾別、乾燥する方法、アゾ染料溶液を、吸着剤もしくはイオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)が充填されたカラム中を通過させる方法、あるいはアゾ染料を限外濾過装置によって脱塩精製を行なうなど、いずれの精製方法を、単独あるいは組み合わせて行うことも好ましい。
【0037】
〔インクpH〕
本発明のインクは、25℃におけるインクpHが5.0以上、7.0以下であることを特徴とする。
【0038】
インクpHが5.0以上であれば、インクのろ過圧の上昇を抑制することができ、またpH7.0以下であれば、射出中におけるノズル欠の発生を防止することができる。加えて、インクpHを5.5以上、6.5以下とすることにより、インクを高温環境下で長期間にわたり保存した際の安定性の向上を図ることができる。
【0039】
本発明において、インクのpHを上記で規定する範囲に調製する方法としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤を用いて、所望のインクpHに調整することができる。
【0040】
これらのpHを制御することによる上記効果に関しては明らかではないが、アゾ染料のpKaとインクpHになんらかの関係が有るものと思われる。インクpHがアゾ染料のpKaを越えてくるとアゾ染料が分解され、pkaより低すぎるとアゾ染料が析出してしまうものと推測している。
【0041】
本発明でいうインクpHは、25℃において、ガラス電極を用いるpHメーターで、電極をインク中に浸漬して測定した値であり、市販のpHメーター、例えば、東亜電波工業(株)(現:東亜ディーケーケー(株))のデジタルpHメーターHM−30S等を使用することができる。
【0042】
〔その他のインク構成要素〕
本発明のインクジェット用インクには、水及び本発明に係るアゾ染料の他に、様々な添加剤を用いることができる。
【0043】
(水溶性有機溶媒)
本発明に適用可能な水溶性有機溶媒としては、例えば、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エタノール等)、一価アルコール類(例えばメタノール、エタノール、ブタノール等)、多価アルコールのアルキルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等)、2,2′−チオジエタノール、アミド類(例えばN,N−ジメチルホルムアミド等)、複素環類(2−ピロリドン等)、アセトニトリル等が挙げられる。
【0044】
水溶性有機溶媒量としては全インク質量に対して10〜60質量%が好ましい。
【0045】
(無機塩)
インクの粘度や染料を安定に保つため、あるいは発色をよくするために、インク中に無機塩を添加してもかまわない。無機塩としてはたとえば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、硫化マグネシウム等が挙げられる。本発明を実施する場合、これらに限定されるものではない。
【0046】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性のいずれも用いることができる。
【0047】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0048】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0049】
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0050】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、花王社製のエマルゲン911)、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、三洋化成工業社製のニューポールPE−62)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等が挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
これらの界面活性剤を使用する場合、単独又は2種類以上を混合して用いることができ、インク全質量に対して、0.001〜1.0質量%の範囲で添加することができる。
【0052】
(キレート剤)
本発明のインクには、必要に応じてキレート剤を添加することができる。本発明で好ましく用いられるキレート剤としては、市販のよく知られているキレート剤、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸、ジアミノプロパン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、1,1−ジホスホノエタン−2−カルボン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシ−1−ホスホノプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、カテコール−3,5−ジホスホン酸、ピロリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸及びこれらの金属塩、有機塩基塩等が挙げられ、特に好ましくはエチレンジアミンテトラ酢酸四ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロ三酢酸等である。
【0053】
キレート剤の具体例として、二つの酸性基をもった配位子としては、例えば、マロン酸、シュウ酸、フタル酸、グリコール酸、サリチル酸がある。一つの酸性基と一つの非酸性配位基をもった配位子として、例えば、8−キノリノール、アセチルアセトン、トリフルオロアセトン、ジメチルグリオキシム、ジチゾン、サリチルアルデヒドがある。二つの非酸性配位基をもった配位子としてエチレンジアミン、2,2′−ビピリジン、1,10−フェナントロリンがある。アミノポリカルボン酸としてエチレンジアミン四酢酸、プロピレンジアミン四酢酸、ブチレンジアミン四酢酸、ペンチレンジアミン四酢酸及びこれらのナトリウム塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。
【0054】
(防腐剤、防黴剤)
本発明においては、インクの長期保存安定性を維持する観点から、防腐剤、防黴剤を添加することができる。防腐剤、防黴剤としては、芳香族ハロゲン化合物(例えば、バイエル社製のPreventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、アビシア株式会社製のPROXEL GXL)などが挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
〔記録媒体〕
本発明のインクを用いた画像形成に用いる記録媒体としては、特に制限はなく、様々な記録媒体を適用することができるが、その中でも、本発明の効果をより発揮できる記録媒体は、インクジェット捺染方式に用いられる記録媒体であり、例えば、紙、布帛、不織布等が使用できる。
【0056】
記録媒体として布帛を使用する場合の好ましい素材としては、ポリアミド繊維を含有するものである。中でもナイロン、絹、羊毛が好ましい。上記繊維は織物、編物、不織布等いずれの形態でも使用できる。
【0057】
布帛は、ポリアミド繊維100%のものが好適であるが、混紡率30%以上、好ましくは、50%以上であれば、ポリアミド繊維と他の素材、例えばレーヨン、綿、アセテート、ポリウレタン、アクリル等との混紡織布又は混紡不織布等も本発明の捺染用布帛として使用することができる。
【0058】
布帛を構成するポリアミド繊維及び該繊維からなる糸の物理特性としては、好適な範囲があり、例えばナイロンの場合、ナイロン繊維の平均太さが1〜10d(デニール)、更に好ましくは、2〜6dに制御され、該ナイロン繊維から構成されるナイロン糸の平均太さが20〜100d、更に好ましくは、25〜80d、更に好ましくは、30〜70dに制御されたものが好ましく用いられる。
【0059】
又、絹の場合は、繊維自体の特性として、絹繊維の平均太さが2.5〜3.5d、更に好ましくは2.7〜3.3dに制御され、該絹繊維から構成される絹糸の平均太さが14〜147d、更に好ましくは14〜105dに制御され、公知の方法により布帛としたものが好ましく用いられる。
【0060】
上記のような本発明において使用する捺染用布帛は、必要に応じて従来の前処理方法を併用することができる。特に、尿素、水溶性金属塩、水溶性高分子等を、0.01〜20質量%含有させたものがより好ましい。
【0061】
水溶性高分子の例としては、トウモロコシ、小麦等のデンプン物質、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、タマリンド種子等の多糖類、ゼラチン、カゼイン等のタンパク質物質、タンニン系物質、リグニン系物質等の公知の天然水溶性高分子が挙げられる。又、合成高分子としては、例えば、公知のポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系水溶性高分子、無水マレイン酸系水溶性高分子等が挙げられる。これらの中でも多糖類系高分子やセルロース系高分子が好ましい。
【0062】
水溶性金属塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物のように、典型的なイオン結晶を形成するものであって、pH4〜10である化合物が挙げられる。かかる化合物の代表的な例としては、例えば、アルカリ金属では、NaCl、Na2SO4、KCl、CH3COONa等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、CaCl2、MgCl2等が挙げられる。中でも、Na、K、Caの塩類が好ましい。
【0063】
撥水剤としては、例えば、パラフィン系、フッ素系化合物、ピリジニウム塩類、N−メチロールアルキルアミド、アルキルエチレン尿素、オキザリン誘導体、シリコーン系化合物、トリアジン系化合物、ジルコニウム系化合物、或はこれらの混合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの撥水剤の中でも、パラフィン系及びフッ素系撥水剤は、滲み防止、濃度の点において特に好ましい。撥水剤は布帛に対して0.05〜40質量%付与することが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲である。これは、0.05質量%以上であれば、インクの過度の浸透を防止することができ、40質量%以下であれば、所望の効果を十分に発揮させることができる。界面活性剤としては、アニオン系、非イオン系や両性界面活性剤等が使用できる。
【0064】
アニオン系の界面活性剤としては、スルホン酸型、カルボン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型等が挙げられ、スルホン酸型としては、アルキルスルホネート系、アルキルアリルスルホネートエステル系のスルホネート系界面活性剤等、カルボン酸型としては、石鹸、脂肪蛋白質縮合物等、硫酸エステル型としては、高級アルコール硫酸エステル、高級アルコールEO付加物硫酸エステル、オレフィンの硫酸エステル、脂肪酸の硫酸エステル等、リン酸エステル型としては、高級アルコールリン酸エステル、高級アルコールEO付加物リン酸エステル等が挙げられる。
【0065】
非イオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル、アセチレングリコール等のエーテル型や、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のエステル型、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアミノエーテル型、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型等を使用することができる。特にHLB12.5以上、好ましくは14以上の非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0066】
両性界面活性剤としてはベタイン型等を使用することができる。界面活性剤は布帛に対して0.01〜30質量%付与することが好ましい。更に、使用する染料の特性等に応じて還元防止剤、酸化防止剤、均染剤、濃染剤、キャリヤー、還元剤、酸化剤といった添加剤を入れることが好ましい。
【0067】
前処理において上記物質等を布帛に含有させる方法は、特に制限されないが、通常行われる浸漬法、パッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等を挙げることができる。
【0068】
布帛に印字を行うインクジェット捺染方法は、インク出射後印字された布帛を巻き取り、加熱により発色し、布帛を洗浄、乾燥させることが望ましい。インクジェット捺染において、インクを布帛に印字しただ放置しておくだけではうまく染着しない。また長尺の布帛に長時間印字し続ける場合などは、布帛が延々と出てくるため床などに、印字した布帛が重なっていき場所をとるしそれは不安全でありまた予期せず汚れてしまう場合がある。そのために印字後、巻き取る操作が必要となる。この操作時に布帛と布帛の間に紙や布、ビニール等の印字に関わらない媒体を挟んでもかまわない。ただし途中で切断する場合や短い布帛に対しては必ずしも巻き取る必要はない。
【0069】
インクの付着を受けた布帛は、好ましくは後処理に付され、酸性染料の繊維への定着を促進させ、その後定着しなかった着色剤、その他のインク成分、前処理剤を十分除去することが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、後処理はいくつかの工程に別れる。まず、インク組成物を布帛に付着させた後、この布帛を常温〜150℃に0.5〜30分放置し、インク組成物を予備乾燥することが好ましい。この予備乾燥により印捺濃度を向上させ、かつ滲みを有効に防止出来る。なお、この予備乾燥とはインク組成物が布帛中に浸透することも含む。
【0070】
本発明のインクを用いた捺染方式においては、前記予備乾燥を連続工程で加熱乾燥することも可能である。布帛をロール状にしてインクジェット印捺機に供給し、印捺し、その後印捺布を巻き取る以前に乾燥工程を通す。乾燥機は印捺機に直結してもよく、分離したものであってもよい。乾燥機における乾燥は150℃以下で0.5〜30分行われることが好ましい。また、好ましい乾燥方法としては、空気対流方式、加熱ロール直付け方式、照射方式等が挙げられる。
【0071】
後処理工程のうち定着工程は、布帛の種類によってその条件、特に、その時間、を変化させることが好ましい。例えば、布帛が羊毛である場合、時間は20〜120分が好ましく、より好ましくは30〜90分程度である。また、布帛が絹である場合、時間は5〜40分が好ましく、より好ましくは15〜30分程度である。さらに、布帛がナイロンである場合、5〜90分程度が好ましく、より好ましくは10〜60分程度である。
【0072】
このようにしてインクジェット記録されたインクのうちの大部分の染料は布帛に固着するが、この中の一部の染料は繊維に染着しないものがある。この未固着染料は洗い流しておくことが好ましい。未固着染料の除去は従来公知の洗浄方法が採用できる。数10℃から100℃のお湯を使用したり、アニオン、ノニオン系のソーピング剤を使用することが好ましい。未固着の色材が完全に除去されていないと、洗濯堅牢性、耐水堅牢性、耐汗堅牢性において良好な結果が得られない場合がある。
【0073】
洗浄後は乾燥が必要である。洗浄した布帛を絞ったり脱水した後、干したりあるいは乾燥機、ヒートロール、アイロン等を使用して乾燥させる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0075】
《インクの調製》
〔アゾ染料の合成〕
例示染料1は、市販品のC.I.アシッドレッド447を用い、例示染料2は、市販品のC.I.アシッドブラック34を用いた。
【0076】
例示染料3〜6は、特開平4−227968号公報の実施例に記載の合成方法に準じて合成を行った。
【0077】
各アゾ染料については、市販品及び合成品について、アゾ染料溶液を調製した後、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂)が充填されたカラム中を通過させ、更に限外濾過装置による脱塩精製を行って、表1、2に記載の純度の各アゾ染料を調製した。なお、各アゾ染料は、上記処理回数を適宜調整することにより純度をコンロトールした。
【0078】
〔インクA1〜J6の調製〕
上記調製した純度の異なる各アゾ染料を用いて、下記の組成からなる各インク(A1〜J6の60種)を調製した。
【0079】
アゾ染料(表1、表2に記載の種類、純度) 8.0質量%
エチレングリコール 10.0質量%
グリセリン 10.0質量部
プロピレングリコール 10.0質量部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5.0質量%
スルホ琥珀酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム
インク表面張力を30〜35mN/mに調整するのに必要な量
防腐剤:プロキセルGXL(関東化学社製) 0.5質量%
クエン酸または水酸化ナトリウム
インクpHを表1、2に記載の値に調整するのに必要な量
最後の純水を用いて100質量%に仕上げて、A1〜J6を調製した。
【0080】
インクA1〜J1 アゾ染料:例示染料1(C.I.アシッドレッド447)
インクA2〜J2 アゾ染料:例示染料2(C.I.アシッドブラック34)
インクA3〜J3 アゾ染料:例示染料3
インクA4〜J4 アゾ染料:例示染料4
インクA5〜J5 アゾ染料:例示染料5
インクA5〜J5 アゾ染料:例示染料6
《インクの評価》
〔インク保存安定性の評価〕
(評価1)
各インクをガラスビンに入れて密栓した後、40℃の恒温槽中で3日間保存した後、ガラスビンに異物が発生するか否かを目視確認し、下記の基準に則りインク保存安定性の評価1を行った。
【0081】
◎:インク中に異物の発生が認められない
○:インク中に微量の異物の発生が認められるが、実用上問題がない
×:インク中に、明らかに異物の発生がみとめられ、実用上問題となる品質
(評価2)
樹脂製の透明パック袋に気泡が混入しないように各インクを充填して密閉した後、50℃の恒温槽中で1ヶ月間保存した後、透明パック袋中での気泡発生の有無を目視観察し、気泡の発生が認められないものを○、気泡の発生が認められたものを×と判定した。
【0082】
〔プリント画像の形成及び評価〕
(絹布の前処理)
絹布(120g/m2)に、20g/Lのアルギン酸ナトリウム及び100g/Lの尿素を含む水溶液をパッド塗布(絞り率:70%)した後、乾燥した。
【0083】
(プリンタ)
上記調製した各インクを用いて、インクジェットプリンタNassennger−V(コニカミノルタ社製 ヘッド駆動周波数8kHZ、インク出射量20ng/drop)を用いて、上記前処理した絹布上にベタ画像をプリントした。
【0084】
(定着処理)
上記プリントした絹布を25℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置した後、103℃の飽和蒸気中で12分間の定着処理を行い、次いで冷水で10分、ソーピング剤、炭酸ナトリウム処理した40℃の溶液で5分、40℃の温水で5分、更に冷水で10分すすいだ後、乾燥して、定着処理を行って、プリント画像を形成した。
【0085】
(プリントの画像濃度の測定)
未プリントの絹布を、上記プリントした絹布と同様の定着処理を行い、この未プリントの絹布を20枚重ねた上に、プリントした絹布を乗せ、濃度計としてX−Rite938Spectordensitometerを用いて、レスポンスTにおける画像濃度を測定し、下記の基準に則り画像濃度の判定を行った。
【0086】
◎:画像濃度が1.5以上であり、品質上問題のない品質である
○:画像濃度が1.0以上、1.5未満であり品質上許容範囲にある
△:画像濃度が0.5以上、1.0未満であり、品質上やや問題がある
×:画像濃度が0.4未満で、実用に耐えない品質である
(サテライト耐性の評価)
ノズル径20μm、駆動周波数30kHz、液滴体積4ng/drop、ノズル数が128個のインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタで100ドットを記録した。サテライトの判定基準として、主ドットから離れて記録されている主トッドに比較して小さいドットの個数を数えて評価した。記録媒体には上記絹布を用いて、以下の基準で評価した。
【0087】
◎:サテライトが全く発生していない
○:サテライトが1個以上、10個未満発生している
△:サテライトが10個以上、50個未満発生しており、実用上やや問題がある
×:サテライトが50個以上で実用に耐えない品質である
(飛翔曲がり耐性の評価)
ノズル径20μm、駆動周波数30kHz、液滴体積4ng/drop、ノズル数が128個のインクジェットヘッドから各インクを吐出させ、吐出状態をストロボ発光方式の観察装置を用いて吐出と発光の同期をとることにより観察した。この時のノズルプレートとの垂線方向からの角度のズレが3度以上あるノズルを曲がりがある状態として、以下のランク付けを行った。
【0088】
◎:128個のノズル全てで曲がりがなく正常である
○:1〜5個のノズルで曲がりがある
△:6〜10個のノズルで曲がりがあり、実用上やや問題がある
×:11個以上のノズルで曲がりがあり実用に耐えない品質である
以上により得られた結果を、表1、表2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1、表2に記載の結果より明らかな様に、本発明のインクは、比較例に対し、インク保存安定性に優れ、かつ形成した画像濃度が高く、インクジェット液滴のサテライト発生が少なく、射出安定性に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水及び水溶性染料を含有し、該水溶性染料の少なくとも1種は、スルファモイル基またはスルホンアミド基と、ナフトール基とを有するアゾ染料であり、25℃におけるインクpHが5.0以上、7.0以下であることを特徴とするインクジェット用インク。
【請求項2】
前記インクpHが、5.5以上、6.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記アゾ染料の純度が、82%以上、99%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記アゾ染料の純度が、93%以上、99%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記アゾ染料が、C.I.アシッドレッド447であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。

【公開番号】特開2009−126989(P2009−126989A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305566(P2007−305566)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】