説明

インクジェット用記録媒体

【課題】顔料インクを用いたときの印字適性(印字濃度及び印字ムラ)に優れたインクジェット用記録媒体を提供する。
【解決手段】填料となる炭酸カルシウムとパルプとを含有する基紙の少なくとも一方の面に、顔料及び結着剤を含むインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット用記録媒体であって、基紙中における炭酸カルシウムの灰分が15〜30質量%であり、かつインク受理層は、顔料として一次粒子径30〜70nmで一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0であるコロイダルシリカを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高光沢を有するインクジェット用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用記録媒体は、紙等の支持体表面に、シリカ、アルミナなどの多孔質の顔料と結着剤とを含有するインク受理層を設けた構成になっていて、このインク受理層にインクの液滴が定着するようになっている。そして、近年のインクジェットプリンターの目覚しい進歩や、デジタルカメラの著しい普及により、インクジェット用記録媒体に要求される品質も年々高くなってきている。特に、従来の銀塩写真に匹敵する光沢を有するインクジェット用記録媒体においては、品質要求が厳しく、技術開発が活発に行われている。
【0003】
このような高い光沢を有するインクジェット用記録媒体は、製造コストの点からキャストコーターを用いるキャストコート法で製造するのが一般的である。キャストコート法は、顔料と結着剤とを主成分とする塗工液を基紙上に塗工して塗工層を設け、キャストドラムを用いて上記塗工層を光沢仕上げする方法であり、この光沢塗工層が上記インク受理層となる。キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着して乾燥するウェットキャスト法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥あるいは半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェット法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャスト法(凝固法)、の3種類が一般に知られている。各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同一である。
【0004】
そして、このような光沢インクジェット用記録媒体に要求される品質特性としては、記録媒体表面の光沢感が高いこと、印字濃度が高いこと、インクの溢れや滲みがないこと、印字ムラ(濃淡ムラ)が少ないこと等が挙げられ、これら特性を向上するため、インク受理層の改善が行われている。例えば、インク受理層を1層以上の層構成とし、少なくとも1層が300nm以下の平均粒径を有するコロイド粒子とカチオン性樹脂を含有する技術が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
又、キャスト塗工層中に、一次粒子径が30〜100nmで、かつ一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜2.5であるコロイダルシリカを含有することにより、印字ムラを防止する技術が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、灰分13.5%の紙基材にキャスト塗被層を設け、高光沢で、印字ムラの少ないインクジェット記録用紙が報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−209965号公報
【特許文献2】特開2004−270104号公報
【特許文献3】特開平4−195795号公報(表1、段落0118)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2,3には、染料インクを用いた時の印字ムラ改善は記載されているが(これらの文献の実施例に記載されたインクジェットプリンターPM950C,PM970Cは染料インク用である)、顔料インクを用いたときの印字適性(印字濃度及び印字ムラ)を改善する技術が記載されていない。
従って本発明の目的は、光沢感に優れ、顔料インクを用いたときの印字適性(印字濃度及び印字ムラ)に優れたインクジェット用記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、既に上記特許文献2において、印字ムラの原因がキャストコート法で設けた塗工層の表面の微細な亀裂に起因することを述べ、所定のコロイダルシリカを用いることで染料インクに対する印字ムラを防止できることを開示している。さらに、本発明者らは顔料インクを用いた時の特有の問題として、インク吸収性が小さいと、顔料インクの溶媒がインク受容層に滞留している間に表面張力により着色顔料が凝集し、やはり印字ムラが発生することを突き止めた。
そこで、本発明者らが種々検討した結果、所定の一次粒子径及び二次粒子径を持つコロイダルシリカを顔料として用いると共に、基紙の内添填料として灰分15〜30%の炭酸カルシウムを含有することで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明のインクジェット用記録媒体は、填料となる炭酸カルシウムとパルプとを含有する基紙の少なくとも一方の面に、顔料及び結着剤を含むインク受理層をキャストコート法により設け、前記基紙中における前記炭酸カルシウムの灰分が15〜30質量%であり、かつ前記インク受理層は、前記顔料として一次粒子径30〜70nmで前記一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0であるコロイダルシリカを含有する。
【0009】
前記インク受理層中の全ての前記顔料に対する前記コロイダルシリカの含有割合が20〜80質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光沢感に優れ、顔料インクを用いたときの印字適性(印字濃度及び印字ムラ)に優れたインクジェット用記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明の実施形態について説明する。本発明のインクジェット用記録媒体は、基紙の少なくとも一方の面に、顔料及び結着剤を含むインク受理層をキャストコート法により設けたものである。
【0012】
(基紙)
本発明に使用される基紙は、透気性を有する塗工紙、未塗工紙等の紙が用いられる。前記紙の原料パルプとしては、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)、機械パルプ(グランドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等)、脱墨パルプ等を単独または任意の割合で混合して使用することが可能である。本発明においては、原料パルプとして針葉樹パルプが含有されていることが好ましい。基紙中に針葉樹パルプを配合すると、原紙の強度が向上するほか、インク受理層の光沢感が向上する傾向にある。但し、針葉樹パルプの含有量が多くなると基紙の表面性が低下する傾向にあるため、針葉樹パルプの含有量は全パルプ中30質量%以下であることが好ましい。尚、前記紙のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも良い。
インクジェット用記録媒体の生産効率の点から基、紙の透気度は1000秒以下であることが好ましく、又、塗工性の点から基紙のステキヒトサイズ度は5秒以上であることが望ましい。
【0013】
(填料)
基紙中に、填料として炭酸カルシウムを灰分15〜30質量%の割合で含有する。炭酸カルシウムを高灰分で含有することにより、顔料インクで印字した場合の印字ムラを抑制することができる。この理由は明らかではないが、次のように考えられる。
まず、インク受理層に以下のように規定したコロイダルシリカを含有することにより、キャストコート法により形成されたインク受理層表面の大きな亀裂を抑制できる。そして、基紙中における炭酸カルシウムの灰分を15〜25質量%とすることで、インク受理層用塗工液を基紙に塗布する際、インク受理層用塗工液中の結着剤成分が基紙へ均一に染み込み、このため、インク受理層の表面の微少なヒビ(小さな亀裂)を抑制できる。その結果、インク受理層表面に亀裂が殆ど存在せず、特に顔料インク印字時の印字ムラが大幅に低減する。また、表面亀裂が存在しないため、インク受理層中に顔料が均一に存在し、そのため高いインク吸収性を保つことが可能となり、表面張力による着色顔料の凝集に起因する印字ムラも抑制することが可能となる。
基紙中の炭酸カルシウムの灰分が15質量%未満であると、上記した微細な表面亀裂が発生し、顔料インク印字時に印字ムラが顕著に発生する。一方、基紙中の炭酸カルシウムの灰分が高いほど、顔料インク印字時の印字ムラ抑制効果が高くなるが、灰分が30質量%を超えると粉落ちが発生したり基紙の強度が低下する。又、製造コストと効果のバランスを考慮すると灰分は25質量%以下であることが好ましい。
なお、灰分はJIS−P8251に記載された方法で測定できる。
【0014】
前記炭酸カルシウムは、平均粒子径0.1〜5μmの微粒子であり、石灰石等を機械的に粉砕して得られる重質炭酸カルシウムと、塩化カルシウムとソーダ灰とを反応させる方法等で合成して得られる軽質炭酸カルシウムとがあり、いずれを用いてもよい。但し、粒径や粒子の形状が均質な微粒子が得られ易いという点で、本発明においては軽質炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
又、本発明の効果を損なわない範囲で、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂微粒子等、公知の填料の中から適宜選択して炭酸カルシウムと併用することができる。白色度が高い基紙を安価に得るためには、炭酸カルシウム以外の填料は填料全体の30質量%以下であることが好ましく、炭酸カルシウム以外の填料が含有されないことがより好ましい。
【0015】
(インク受理層の顔料)
インク受理層中の顔料として、一次粒子径が30〜70nmであり、一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0であるコロイダルシリカを含有する。コロイダルシリカの一次粒子径が30nm未満であると、インク受理層の透明性は高いが、塗工層の表面に微細な亀裂が生じ、顔料インク印字時に印字ムラが発生し印字濃度が低下する。一次粒子径が大きいほど亀裂が減少し、顔料インク使用時の印字ムラが少なくなる傾向にある。
特に、インク中に粒子径30〜150nm程度の着色粒子を含有する顔料インクを用いたインクジェットプリンターで印字する場合、コロイダルシリカの一次粒子径が30nm以上であることが有効である。
一方、一次粒子径が70nmを超えると、インク受理層の透明性が低下して染料インク印字時の印字濃度が大幅に低下し、染料インク適性が劣る。
【0016】
前記コロイダルシリカの一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5未満であるとインク受理層のインク吸収が低下し、3.0を超えるとインク受理層の光沢が低下するからである。コロイダルシリカの一次粒子径はBET法で測定でき、二次粒子径は動的光散乱法等で測定できる。
なお、本発明におけるコロイダルシリカは、通常その分散状態を顕微鏡で観察すると、球状の単一コロイダルシリカ(一次粒子)が2〜3個連なったものが多数観察される。これを便宜上、ピーナツ状と表す。この一次粒子連結個数を平均した値は、上記比にほぼ対応する。そして、本発明におけるコロイダルシリカは、鎖状(又はパールネックレス状)のコロイダルシリカ、房状のコロイダルシリカ(顕微鏡観察すると、球状の単一コロイダルシリカが少なくとも5個以上、通常は10個以上連なって凝集しているもの、上記比も5以上となる)を主とするものは含まない。ここでいう含まない、とは、顕微鏡観察した際に、房状のコロイダルシリカがまったく観察されないことをいうのでなく、一部房状のコロイダルシリカが観察されていてもよいが、マクロ的な物性である一次粒子径に対する二次粒子径の比を測定した値が3を超える(通常は5以上)ことをいう。
【0017】
前記コロイダルシリカは、アルコキシシランを原料としてゾルゲル法により合成し、合成条件によって一次粒子径(BET法粒子径)や二次粒子径(動的光散乱法粒子径)をコントロールするようにすることが好ましく、二次粒子となった合成シリカを機械的に粉砕して二次粒子径を調整した粉砕シリカを用いることは好ましくない。本発明で好ましく用いることができるコロイダルシリカとしては、扶桑化学工業社製の商品名クォートロンシリーズを上げることができる。
【0018】
コロイダルシリカの配合量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して20〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜70質量部である。コロイダルシリカの配合量が全顔料の20質量部未満の場合には、光沢感が低下するだけでなく、インクジェット印字の際のインク吸収性や発色性向上の効果が不充分となり、又、印字ムラを改善できなくなる場合がある。また、配合量が80質量部を越える場合には、塗工した際の操業性が低下する場合がある。
【0019】
インク受理層中における上記コロイダルシリカ以外の顔料として、合成非晶質シリカを用いることができる。合成非晶質シリカはその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカとに大別できる。湿式法で製造された合成非晶質シリカは、顔料の透明性が気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、湿式法シリカは、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の(結着剤に対する)顔料の割合を高くすることができ、インク受理層の吸収性を高くできるので、インク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上できる。高い光沢感を得るという点から上記合成非晶質シリカ(コロイダルシリカ以外の合成シリカ)の好ましい二次粒子径は1〜5μmであることが好ましい。また、BET比表面積は150〜500m/gであることが好ましい。
【0020】
インク受理層中の全顔料に対し、合成非晶質シリカの配合割合が多くなると、インク吸収性が向上するが、着色顔料がインク受理層内部に入り込みやすくなるため顔料インク印字時の発色性向上の効果が不充分となる傾向がある。また、合成非晶質シリカの配合割合が少ない場合にはインク吸収性が低下し、結果として印字ムラが大きくなる傾向がある。
なお、インク受理層中の顔料としては、上記コロイダルシリカと合成非晶質シリカを混合したものを用いるのが最もよい。
【0021】
インク受理層中における上記コロイダルシリカ以外の顔料として、インクジェット記録した際のインク吸収性、発色性および光沢感を損なわない範囲で他の顔料、例えば水酸化アルミニウム、アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等のアルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)やアルミナ水和物、合成シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、酸化亜鉛等を併用しても良い。
【0022】
(インク受理層の結着剤)
インク受理層中の結着剤として、皮膜形成が可能な高分子化合物を用いることができる。例えば、結着剤として、澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂及びこれらの誘導体等を単独又は併用して用いることができる。結着剤の配合量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して、5質量部〜30質量部であることが好ましいが、必要な塗工層強度が得られる限り、特に限定されるものではない。
【0023】
結着剤として用いる高分子化合物は水系であることが好ましい。「水系」とは、水又は水と少量の有機溶剤からなる媒体中で樹脂が溶解又は分散し、安定化すること(水溶性又は/及び水分散性の樹脂エマルジョン)を意味する。これらの結着剤は、支持体に塗工する塗工液中では溶解又は粒子となって分散しているが、塗工し乾燥した後に顔料の結着剤となり、インク受理層を形成する。
特に、水系高分子化合物として、部分鹸化のポリビニルアルコールを用いることが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、インク受理層中の全顔料100質量部に対して3質量部から30質量部であることが好ましい。
【0024】
インク受理層は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜添加することができる。
【0025】
支持体上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコータ、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、あるいはオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0026】
インク受理層の塗工量は、基紙の表面を覆い、かつ充分なインク吸収性が得られる範囲で任意に調整することができるが、記録濃度及びインク吸収性を両立させる観点から、片面当たり、固形分換算で5〜30g/mであることが好ましく、特に、生産性をも加味すると10〜25g/mであることが好ましい。30g/mを超えると、キャストドラム鏡面仕上げ面からの剥離性が低下し塗工層が鏡面仕上げ面に付着するなどの問題を生じることがある。
【0027】
本発明において、インク受理層の塗工量を多く必要とする場合には、インク受理層を多層にすることも可能である。また、基紙とインク受理層の間にインク吸収性、接着性その他の各種機能を有するアンダーコート層を設けても良い。さらに、インク受理層を設けた面の反対側にさらにインク吸収性、筆記性、プリンター印字適性他各種機能を有するバックコート層を設けても良い。
【0028】
(インク受理層の形成)
本発明においては、最表面のインク受理層をキャストコート法で形成することによって光沢を付与する。ここで、キャストコート法とは、塗工後の湿潤状態にある塗工面を加熱した仕上げ面に圧着して乾燥する方法である。好ましくは、銀塩写真に匹敵する面感、光沢を付与することが可能であるという点でゲル化キャストコート法(凝固法)を用いてインク受理層を形成させることが好ましい。
【0029】
キャストコート法は、例えば以下のようにして行う。まず、インク受理層となる塗工液を基紙に塗布する。次に、塗工液中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する処理液を塗工層に塗布し、塗工層を湿潤状態にさせる。そして、湿潤状態の塗工層を、加熱した鏡面仕上げ面に圧着し乾燥することにより、インク受理層を形成し、その表面に光沢を付与する。処理液を塗布する際の塗工層は、湿潤状態であっても乾燥状態であっても良いが、特に湿潤状態とした場合には鏡面仕上げ面を写し取りやすく、塗工層表面の微小な凹凸を少なくすることができるので、得られたインク受理層に銀塩写真並の光沢感を付与させ易くなる。処理液を塗布する方法としてはロール、スプレー、カーテン方式等があげられるが、特に限定されない。
【0030】
次に、ゲル化キャスト法を用いる場合について説明する。この方法は、上記キャストコート法において、上記塗工層を塗布後、未乾燥の塗工層を凝固液によってゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥するものである。凝固液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくいため、未乾燥の塗工層に凝固液を塗布する。
凝固液は、湿潤状態の塗工層中の水系結着剤を凝固する作用を持ち、例えば、蟻酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、塩酸、硫酸等のカルシウム、亜鉛、マグネシウム等の各種の塩が用いられる。特に、水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固液としてホウ酸とホウ酸塩とを含有する液を用いることが好ましい。ホウ酸とホウ酸塩とを混合して用いることにより、凝固時の固さを適度なものとすることが容易となり、インク受理層に良好な光沢感を付与できる。
凝固液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えばロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0031】
又、上記塗工層及び/又は凝固液には、必要に応じて剥離剤を添加することができる。剥離剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、剥離剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、剥離剤としての能力が最大限に発揮される。剥離剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。
【0032】
<実施例1>
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
又、以下のコロイダルシリカの一次粒子径、及び一次粒子径に対する二次粒子径の比(粒径比)は、メーカーの実測値(カタログ値もほぼ同様)である。
【実施例1】
【0033】
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)90部と針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)10部とからなり叩解度350mlのパルプスラリ−に対し、軽質炭酸カルシウム(TP−121:奥多摩工業株式会社製の商品名)を灰分20%となるように添加し、さらに硫酸アルミニウム1.0部、AKD0.15部、歩留向上剤0.05部を添加した。
このスラリ−を抄紙機で抄紙し、さらにこの原紙の両面に5%のデンプン及び0.2%の表面サイズ剤(AKD)を、固形分で1.5g/m2となるように塗布し、180g/m2の基紙を得た。
得られた基紙の片面に、塗工液Aをロールコーターで15g/m2塗工し、塗工層が湿潤状態にある間に、凝固液Bを塗布して塗工層を凝固させ、次いでプレスロールを介して加熱された鏡面仕上げ面に塗工層を圧着して鏡面を写し取り、195g/m2のインクジェット用記録媒体を得た。
【0034】
塗工液A:顔料として、コロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名、一次粒子径50nmで一次粒子径に対する二次粒子径の比が2.2)60部、気相法合成非晶質シリカ(アエロジル200V:日本アエロジル株式会社製の)20部、及び湿式法合成非晶質シリカ(ファインシールX−37B:トクヤマ株式会社製)20部を添加し、結着剤としてポリビニールアルコール(PVA224:クラレ株式会社製の商品名)12部を添加し、さらに、蛍光染料(BLANKOPHORPliquid01:LANXESS社製の商品名)1.5部、離型剤(メイカテックスHP68:明成化学工業社製の商品名)0.5部、消泡剤(SNデフォーマー480:サンノプコ社製の商品名)0.1部を配合して濃度25%の塗工液を調整した。
凝固液B:硼砂2%、ホウ酸4%(硼砂/ホウ酸の質量比=1/2、NaおよびHBO換算で計算)、リンゴ酸0.2%、離型剤(メイカテックスHP68:明成化学工業社製の商品名)0.5部、消泡剤(SNデフォーマー480:サンノプコ社製の商品名)0.01%を配合して凝固液を調整した。
【実施例2】
【0035】
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)をコロイダルシリカ(クォートロンPL−3:扶桑化学工業社製の商品名、一次粒子径30nmで一次粒子径に対する二次粒子径の比が2.3)に変更して塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【実施例3】
【0036】
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)をコロイダルシリカ(クォートロンPL−7:扶桑化学工業社製の商品名、一次粒子径70nmで一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.7)に変更して塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【実施例4】
【0037】
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)の配合量を30部に変更し、さらに他のコロイダルシリカ(クォートロンPL−3:扶桑化学工業社製の商品名、一次粒子径30nmで一次粒子径に対する二次粒子径の比が2.3)を30部配合して塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
なお、実施例4におけるコロイダルシリカは2種類の混合であるが、混合してもそれぞれのコロイダルシリカ粒子の分散状態は変わらないので、混合物の配合割合を重み付けした平均値を、一次粒子径(二次粒子径)及び粒径比とした。
【実施例5】
【0038】
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)の配合量を40部に変更し、気相法合成非晶質シリカ(アエロジル200V:日本アエロジル株式会社製)の配合量を10部に変更し、さらに湿式法合成非晶質シリカ(ファインシールX−37B:トクヤマ株式会社製)の配合量を50部に変更して塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【実施例6】
【0039】
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)の配合量を80部に変更し、気相法合成非晶質シリカ(アエロジル200V:日本アエロジル株式会社製)の配合量を10部に変更し、さらに湿式法合成非晶質シリカ(ファインシールX−37B:トクヤマ株式会社製)の配合量を10部に変更して塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【実施例7】
【0040】
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)の配合量を20部に変更し、気相法合成非晶質シリカ(アエロジル200V:日本アエロジル株式会社製)の配合量を10部に変更し、さらに湿式法合成非晶質シリカ(ファインシールX−37B:トクヤマ株式会社製)の配合量を70部に変更して塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【実施例8】
【0041】
実施例1において、基紙中の軽質炭酸カルシウム(TP−121:奥多摩工業株式会社製の商品名)の配合量を灰分15%となるように変更したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0042】
<比較例1>
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)を用いずに、替わりにコロイダルシリカ(クォートロンPL−2:扶桑化学工業社製の商品名、一次粒子径20nmで一次粒子径に対する二次粒子径の比が2.5)を60部配合し、塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0043】
<比較例2>
実施例1において、塗工液A中のコロイダルシリカ(クォートロンPL−5:扶桑化学工業社製の商品名)を用いずに、替わりにコロイダルシリカ(クォートロンPL−10:扶桑化学工業社製の商品名、一次粒子径100nmで一次粒子径に対する二次粒子径の比が2.1)を60部配合し、塗工液を調整したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0044】
<比較例3>
実施例1において、基紙中の軽質炭酸カルシウム(TP−121:奥多摩工業株式会社製の商品名)の配合量を灰分13%となるように変更したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0045】
<比較例4>
実施例1において、基紙中の軽質炭酸カルシウム(TP−121:奥多摩工業株式会社製の商品名)を用いずに、替わりに填料としてタルク(IRK−085:入来カオリン社製の商品名)を灰分15%となるように添加したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット用記録媒体を得た。
【0046】
<評価>
1.顔料インク印字適性
得られたインクジェット用記録媒体に対し、顔料インクジェットプリンター(PX−G900:エプソン株式会社製の商品名)を用いて所定のパターンを記録し、下記の基準によって評価した。
1−1.顔料インク印字時の鮮やかさ(印字濃度)
所定パターンの記録画像部の鮮やかさを目視で評価した。総合評価が○以上であれば実用上問題がない。
◎:非常に鮮やか
○:鮮やか
△:若干鮮やかさが劣る
×:鮮やかに見えない
1−2.顔料インク印字部のムラ
ベタ印字部分のムラの程度を4段階評価で目視評価した。目視評価◎が最も優れ(ムラがない)、目視評価×が最も劣る(著しいムラがある)ものとした。評価が△以上であれば実用上問題がない。
◎:ムラがない
○:若干ムラがある
△:ムラがある
×:著しいムラがある
【0047】
2.染料インク印字適性
得られたインクジェット用記録媒体に対し、染料インクジェットプリンター(PM―970C:エプソン株式会社製の商品名)を用いて所定のパターンを記録し、記録画像部の鮮やかさ(印字濃度)を目視で評価した。総合評価が○以上であれば実用上問題がない。
◎:非常に鮮やか
○:鮮やか
△:若干鮮やかさが劣る
×:鮮やかに見えない
3.20°光沢度
得られたインクジェット用記録媒体のインク受理層表面の未印字部分の20°光沢度をJIS−Z8741に従い、測定した。光沢度計(村上色彩技術研究所製、True GLOSS GM−26PRO)を用いて測定した。評価としては、20度光沢度が20%以上であれば実用上問題がないが、30%以上であることが好ましい。
【0048】
得られた結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、各実施例の場合、顔料インクを用いたときの印字適性(印字濃度及び印字ムラ)に優れ、さらに染料インクを用いたときの印字濃度にも優れていた。
なお、実施例8の場合、他の実施例に比べて基紙中の炭酸カルシウムの配合量が少ないため、顔料インク使用時のインクムラがやや増えた。但し、実施例8の場合も実用上は問題なかった。
又、同一の顔料を用いた実施例5と実施例6を比較すると、実施例5の方が顔料インク使用時のインクムラが少ない。これは、インク吸収性に優れる合成非晶質シリカの配合量が多くなると、インク受理層表面で顔料インクの色材が凝集することに起因するインクムラがなくなるためと考えられる。
但し、合成非晶質シリカの配合量をさらに多くし、コロイダルシリカの配合量をさらに少なくした実施例7の場合、光沢度が低下し、インクムラが増えた。これは、コロイダルシリカの配合量が少ないためにインク受理層表面の凹凸が増大し、これに起因したインクムラや印字濃度低下が生じたためと考えられる。但し、実施例7の場合も実用上は問題なかった。
以上のことから、インク受理層中のコロイダルシリカの配合量を30〜70部とすることが好ましいことがわかる。
【0051】
一方、インク受理層中のコロイダルシリカの一次粒子径が30nm未満である比較例1の場合、顔料インク印字適性が大幅に劣化した。これは、塗工層の表面に微細な亀裂が生じ、顔料インク中の着色顔料が亀裂内に落ち込んだ(流れ込んだ)ためと考えられる。
インク受理層中のコロイダルシリカの一次粒子径が70nmを超えた比較例2の場合、染料インク使用時の印字濃度が大幅に劣化した。これは、インク受理層の透明性が低下したためと考えられる。
基紙中の炭酸カルシウムの灰分が15質量%未満である比較例3の場合、及び基紙中に炭酸カルシウムを内填しなかった比較例4の場合、顔料インク印字適性が劣化した。これは、基紙中の炭酸カルシウムが少ない(又は含まない)ためにインク受理層塗工液からの結着剤の染み込みが不均一となってインク受理層表面に亀裂が生じたためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
填料となる炭酸カルシウムとパルプとを含有する基紙の少なくとも一方の面に、顔料及び結着剤を含むインク受理層をキャストコート法により設けたインクジェット用記録媒体であって、前記基紙中における前記炭酸カルシウムの灰分が15〜30質量%であり、かつ前記インク受理層は、前記顔料として一次粒子径30〜70nmで前記一次粒子径に対する二次粒子径の比が1.5〜3.0であるコロイダルシリカを含有するインクジェット用記録媒体。
【請求項2】
前記インク受理層中の全ての前記顔料に対する前記コロイダルシリカの含有割合が20〜80質量%である請求項1に記載されたインクジェット用記録媒体。

【公開番号】特開2009−83335(P2009−83335A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256918(P2007−256918)
【出願日】平成19年9月29日(2007.9.29)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】