説明

インクジェット装置及びインクジェットヘッドの管理方法

【課題】時間の経過やメンテナンスにより不良であったノズルが回復することがあるという性質を考慮して、インクジェットヘッドの交換タイミングを判別する。
【解決手段】ノズル6の吐出不良検査を行い不良ノズルを検査項目と対応つけて特定する検査装置10と、不良と判定された場合に有効となるメンテナンスを検査項目と対応つけて複数記憶している対応データベース14と、過去に実行されたメンテナンス及びその実行回数を記憶する履歴データベース15とを備えている。対応データベース14及び吐出不良検査の結果に基づいてメンテナンスが選択される。選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されているか否かを履歴データベース15に基づいて判定し、所定回数実行されている場合、当該メンテナンスと対応つけられている検査項目について不良であると特定された不良ノズルを、交換対象ノズルであると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するノズルが複数形成されているインクジェットヘッドを備えたインクジェット装置及びインクジェットヘッドの管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイには、色形成の中核を成す部材としてカラーフィルタが用いられている。カラーフィルタは、ガラス基板上に微細なR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3色が多数並べられて形成されている。
このカラーフィルタを製造する装置として、ガラス基板上に形成された多数の微細な画素部に、R、G、Bの各インクをインクジェットヘッドから吐出して、R、G、Bの色画素を形成するインクジェット装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
インクジェットヘッドにはインクを吐出する複数のノズルが形成されており、これらノズルからインクが正常に吐出されていないと、色抜けや混色のあるカラーフィルタとなってしまう。つまり、ノズルからのインクの吐出が不安定であったり、何らかの原因でノズルが吐出不能であったりすると、当該ノズルを機能させる指令が出されても、ガラス基板に対してインクを正常に吐出することができず、製造されるカラーフィルタの品質を低下させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−268995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のとおり、インクジェットヘッド(ノズル)からのインクの吐出状態の良否は、カラーフィルタの品質に大きな影響を与える。このため、各ノズルから実際にインクを吐出(滴下)させ、その状態をカメラを用いて観察する吐出不良検査が行われている。この検査の結果、例えば不良ノズルが多く存在しており、適切な塗布ができないと判定されると、従来では、その時点でインクジェットヘッドごと交換している。なお、一つのインクジェットヘッドでは一種類(一色)のインクが吐出される。
【0006】
しかし、このようなインクジェット装置では、ある程度の不良ノズルの発生は想定内であり、このために一つのインクジェットヘッドに複数のノズルが形成されており、使用可能なノズルからインクを吐出させればよい。また、インクジェット装置では、不良とされたノズルも、時間が経過すると回復することがある。例えば、固化したインクが詰まることで不良ノズルとなるが、この不良ノズルはインク圧送等のメンテナンスにより改善することがある。
【0007】
従来、一定量以上のノズルが不良であると判定されると、その時点で当該ノズルが形成されているインクジェットヘッドを交換しているが、前記のように、時間の経過やメンテナンスによりノズルが回復することもあるため、この交換は不経済であるという問題点がある。
なお、前記特許文献1に記載のインクジェット装置では、インクジェットヘッドの駆動条件の履歴やメンテナンス履歴に基づいて、寿命の推定又は判定をすることができる。
【0008】
そこで、インクジェットヘッドの寿命の推定又は判定を行い、インクジェットヘッドの交換の予報又は催促を行うことは有用ではあるが、本発明は、時間の経過やメンテナンスにより不良であったノズルが回復することがあるという特有の性質を考慮して、交換タイミングを判別することができる新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインクジェット装置は、複数のノズルを有し当該ノズルからインクを吐出して塗布対象物にインクを塗布する複数のインクジェットヘッドと、複数種類の検査項目について吐出不良検査を行い、不良ノズルを当該検査項目と対応つけて特定する検査装置と、前記吐出不良検査で不良と判定された場合に有効となるメンテナンスを、前記検査項目と対応つけて複数記憶している対応データベースと、前記対応データベースに記憶されている複数の前記メンテナンスのうち、過去に実行されたメンテナンス及びその実行回数を記憶する履歴データベースと、前記対応データベース及び前記吐出不良検査の結果に基づいて有効となるメンテナンスを選択する選択部と、前記選択部によって選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されているか否かを前記履歴データベースに基づいて判定し、所定回数実行されている場合は、当該メンテナンスと対応つけられている前記検査項目について不良であると特定された不良ノズルを交換対象ノズルであると判定する管理部とを備えていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、複数のノズルを有し当該ノズルからインクを吐出して塗布対象物にインクを塗布する複数のインクジェットヘッドの管理方法であって、複数種類の検査項目が設定されている吐出不良検査で不良と判定された場合に有効となるメンテナンスが、当該検査項目と対応つけて対応データベースに複数記憶されており、前記対応データベースに記憶されている複数の前記メンテナンスのうち、過去に実行されたメンテナンス及びその実行回数が、履歴データベースに記憶されており、前記複数種類の検査項目について前記吐出不良検査を行い、不良ノズルを当該検査項目と対応つけて特定し、前記対応データベース及び前記吐出不良検査の結果に基づいて有効となるメンテナンスを選択し、選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されているか否かを前記履歴データベースに基づいて判定し、所定回数実行されている場合は、当該メンテナンスと対応つけられている前記検査項目について不良であると特定された不良ノズルを交換対象ノズルであると判定することを特徴とする。
【0011】
これら本発明によれば、吐出不良検査で不良と判定された場合に有効となるメンテナンスを検査項目と対応つけて複数記憶している対応データベース、及び、吐出不良検査の結果に基づいて、有効となるメンテナンスが選択されることから、吐出不良検査で不良とされた検査項目に応じて有効となるメンテナンスを実行させることが可能となる。
そして、選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されていると判定された場合は、当該メンテナンスと対応つけられている検査項目について不良であると特定された不良ノズルを交換対象ノズルと判定する。つまり、この場合は、同じメンテナンスが過去に所定回数実行され、さらに、今回、当該メンテナンスが選択されていることから、同じ検査項目が不良のままであり、この検査項目で不良を引き起こしている原因は回復していないと考えられ、当該検査項目について不良であると特定された不良ノズルを交換対象ノズルと判定している。このように、複数回にわたって同じ検査項目について不良であると特定されることにより初めて、当該不良であるノズルが交換対象ノズルと判定される。
すなわち、インクジェット装置では、その特有の性質によりノズルが回復することもあり得ることから、不良ノズルであると判定されると直ぐにそのノズルを含むインクジェットヘッドが交換されてしまうというように、無駄にノズル(インクジェットヘッド)が交換されてしまうのを防止し、ノズル本来の寿命までノズルを含むインクジェットヘッドを使用することができる。
【0012】
また、前記インクジェット装置において、前記選択部によって複数種類のメンテナンスが選択され、かつ、当該選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されていないと前記管理部が判定した場合、当該管理部は、当該選択されたメンテナンスを実行させ、前記履歴データベースは、実行された前記メンテナンスを記憶することで更新されるのが好ましい。このようにして、履歴データベースは更新され、この履歴データベースが、後の機会に実行される管理部の処理に活用される。
【0013】
さらに、選択部によって複数種類のメンテナンスが選択され、かつ、当該選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されていないと前記管理部が判定した場合において、前記管理部は、不良ノズルの数が所定レベルに回復するまで、前記選択部によって選択された複数のメンテナンスを、種類を変えてそれぞれ実行させ、さらに、当該選択された複数のメンテナンスが実行し尽くされると、エラー処理を実行するのが好ましい。
すなわち、選択された複数のメンテナンスがすべて実行し尽くされても、不良ノズルの数が所定レベルに回復していない場合に、エラー処理が実行される。この場合は、想定外の不具合が装置に生じている可能性があり、全く異なる特殊な処置が必要であることも考えられるため、エラー処理として、例えば、エラー情報を装置の管理者に報知する処理を実行する。これにより、迅速に処置を行うことが可能となり、塗布作業の停止状態が継続するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数回にわたって同じ検査項目について不良であると特定されることにより初めて、当該不良であるノズルが交換対象ノズルと判定されることから、不良ノズルであると判定されても直ぐにそのノズルを含むインクジェットヘッドを交換するのではなく、ノズルの回復を待ちながら交換タイミングを判別することが可能となる。このため、交換が無駄に行われるのを抑えることができ、経済的となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のインクジェット装置の概略構成を説明する説明図である。
【図2】対応データベースの一例を説明している説明図である。
【図3】履歴データベースの一例を説明している説明図である。
【図4】インクジェットヘッドの管理方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のインクジェット装置の概略構成を説明する説明図である。このインクジェット装置は、例えばカラー液晶ディスプレイに用いられるカラーフィルタを製造するための装置であり、ベース部1と、このベース部1上に設けられ基板Wが載置されるステージ2と、ベース部1上を移動する塗布ガントリ3と、ベース部1上を移動するカメラガントリ4と、これら各機器を制御する制御装置7とを備えている。
【0017】
ステージ2は、図示していない吸引ポンプによって基板Wをその上面に吸着して保持することができる。
塗布ガントリ3は、インクジェットヘッドバー3aを有しており、このインクジェットヘッドバー3aに、複数のインクジェットヘッド5(以下、ヘッド5という)がX軸方向及びY軸方向に整列して搭載されている。各ヘッド5は、その下面側に、インクを吐出する複数のノズル6を有している。そして、本実施形態では、塗布ガントリ3が、図示しない駆動機構、ガイドによってX軸方向に移動しながら、ステージ2上で固定されている基板Wに対してインクの塗布を行う。
【0018】
各ヘッド5は、複数の微細なノズル6を有しており、各ノズル6はヘッド5を内外貫通する孔からなる。各ノズル6には、相互が離れて配置され電圧を加えることで相互が接近するように変形するピエゾ素子(図示せず)が設けられ、当該ピエゾ素子を相互接近させるように変形させることで、ヘッド5内のインクをノズル6から押し出すようにして外へと吐出(滴下)させる。これにより、塗布対象物である基板Wにインクを塗布する。なお、ピエゾ素子の動作制御、塗布ガントリ3及びカメラガントリ4の動作制御は、前記制御装置7が行う。
【0019】
制御装置7は、処理装置(CPU)及び記憶装置を有するコンピュータによって構成されており、記憶装置には、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムが記憶されている。このコンピュータプログラムを前記処理装置が実行することで、各種の機能が実行される。制御装置7は、実行する機能部として、検査部11、選択部12、管理部13及び塗布処理部16を有している。
【0020】
カメラガントリ4は、ノズル6から吐出されたインクを撮像するためのカメラ8を搭載し、カメラガントリ4は、吐出されたインクの撮像のために、図示しない駆動機構、ガイドによってX軸方向に移動することができる。また、カメラ8は、図示しない駆動機構、ガイドによって、カメラガントリ4上をY軸方向に移動することができる。
カメラ8は、前記検査部11によって実行される後述の吐出不良検査に用いられるものであり、テストパターンフィルム9上に各ノズル6から着弾させたインクを撮像する。テストパターンフィルム9は、ベース部1上に設けられている。
【0021】
カメラ8が撮像した画像を、前記検査部11は画像解析することができ、また、制御装置7のモニタ(図示せず)に表示させることができる。この画像に基づいて、ヘッド5の各ノズル6からインクが正常に吐出されているか否かの吐出不良検査が行われる。
また、検査部11は、カメラ8の位置と当該位置で取得された画像とを対応つけて管理しており、また、各ノズル6の位置も管理していることから、テストパターンフィルム9に着弾させた各インクを吐出したノズル6と検査結果とを対応つけることができる。つまり、検査部11は、ノズル6を個別に特定することができ、各ノズル6からインクが正常に吐出されているか否かを判定し、正常ノズル又は不良ノズルを判別することができる。
【0022】
吐出不良検査には、インクを吐出できていないノズルを検査するノズル欠検査の他、インクが所定のサイズ及び形状に着弾されているか否かを検出するインクの着弾サイズ検査及び着弾形状検査、インクが所定の位置に着弾されているか否かを検出するインクの着弾位置検査が含まれる。これら各検査は、ノズル6毎に行われ、各検査は、検査部11が画像解析を行うことにより実現できる。
このように、カメラ8及び検査部11によって検査装置10が構成されており、この検査装置10によれば、複数種類の検査項目について吐出不良検査を行い、不良ノズルを当該検査項目と対応つけて特定することができる。
【0023】
制御装置7の記憶装置にはデータベースが記憶されており、対応データベース14と履歴データベース15とが設定されている。
前記対応データベース14は、前記吐出不良検査で不良と判定された場合に、当該不良を解消するために有効となるメンテナンスを、前記検査項目と対応つけて複数記憶している。図2は、対応データベース14の一例を説明する説明図である。対応データベース14には、検査項目の欄とメンテナンス(メンテナンスの種類)の欄とが設定されており、例えば、検査項目の一つとして「ノズル欠検査」で液滴(インク)の吐出が無いと判定された場合、その有効なメンテナンスとして、「ノズル欠検査」と実線により結ばれている「圧送とノズルの拭き取りA」が対応つけられている。なお、図2では、不良の原因の情報として、インクの「固着詰まり」等も記憶されているように示しているが、この原因に関する情報は記憶されていなくてもよい。また、図2で実線により結ばれている対応関係は、優先順位が高いものであり、破線により結ばれている対応関係は、優先順位が低いものであることを意味している。
【0024】
前記履歴データベース15は、前記対応データベース14に記憶されている複数のメンテナンスのうち、過去に実行されたメンテナンス及びその実行回数を記憶する。図3は、履歴データベース15の一例を説明する説明図である。図3(a)はメンテナンスについての履歴が蓄積されたデータベース部分であり、本実施形態ではメンテナンスとして「圧送とノズルの拭き取りA」が過去に3回実行され、「ノズルの拭き取りB」が過去に2回実行されており、その他のメンテナンスは過去に1回実行されている。
また、履歴データベース15には、前記検査装置10による吐出不良検査の結果に関する情報も蓄積される。図3(b)は吐出不良検査の結果が蓄積されたデータベース部分である。図3(b)によれば、全てのノズル毎に設定されているIDと、ノズル毎のIDに対応させた検査結果の良否についての情報が、検査項目毎に蓄積されている。
【0025】
制御装置7が有している前記選択部12は、対応データベース14及び前記検査装置10による吐出不良検査の結果に基づいて有効となるメンテナンスを選択する機能を有している。例えば、選択部12は、対応データベース14を参照することにより「ノズル欠検査」において液滴吐出が無いと判定された場合、これを解決するために有効なメンテナンスとして「圧送とノズルの拭き取りA」を選択することができる。
【0026】
制御装置7が有している前記管理部13は、選択部12によって選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されているか否かを履歴データベース15に基づいて判定する機能と、その判定した結果に基づいて交換対象となるノズル(これを交換対象ノズルと呼ぶ)を選定する機能とを有している。つまり、選択部12によって選択されたメンテナンスが過去に所定回数以上実行されていると管理部13が判定した場合は、当該メンテナンスと対応つけられている検査項目について不良であると検査装置10によって特定された不良ノズルを、交換対象ノズルであると判定する。
これに対して、選択部12によって選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されていないと管理部13が判定した場合は、当該メンテナンスと対応つけられている検査項目について不良であると検査装置10によって特定された不良ノズルであっても、交換対象ノズルであると判定せず、当該ノズル(当該ノズルを含むヘッド5)の使用を継続する。
【0027】
以上のように構成されたインクジェット装置において実行される、インクジェットヘッドの管理方法について、図4に沿って説明する。インクジェット装置が起動した状態で、検査装置10は、予め設定されている複数種類の検査項目について吐出不良検査を実行し、検査の結果が履歴データベース15(図3(b))に記憶される(ステップS1)。この検査結果の記憶は、検査部11によって、検査結果が不良であった不良ノズルが検査項目と対応つけて特定されていることを意味する。また、このステップS1によれば、使用可能ノズルの数、及び、不良ノズルの数を求めることができる。
制御装置7の塗布処理部16は、この履歴データベース15を参照することにより、吐出不良検査で不良となった不良ノズルのIDを取得することができるので、当該不良ノズルを除いた残りの使用可能ノズルによりマッピングを行う(ステップS2)。
【0028】
マッピングとは、基板Wに多数形成されている画素部すべてに対して、設定とおりに(つまり、適切位置にかつ適切量)インクを吐出可能であるか否かを、仮想的に行う処理である。つまり、現状の使用可能ノズルにより、基板Wの全ての画素部を正確に塗ることができるか否かをシミュレーションする処理である。
さらに説明すると、ステップS2では、塗布処理部16は、使用可能ノズルの位置情報並びに吐出量情報、及び、基板Wの画素部の位置及び大きさに関する情報を取得し、これらの情報に基づいて、基板Wに所望のパターンを形成するための色、吐出量及び吐出タイミング等に関する塗布処理の手順についての情報を作成する処理を行う。つまり、使用可能ノズルの中から実際に使用するノズルの選択と、選択された当該ノズルからのインクの吐出量及び吐出するタイミングの設定を行う。
【0029】
塗布処理部16は、マッピングを終えるとその良否を判定する(ステップS3)。つまり、使用可能ノズルの中から選択された実際に使用するノズルにより、塗布処理が完遂されるか否かを判定する。判定の結果、完遂可能である場合(ステップS3のYesの場合)、塗布処理部16は、前記マッピングのとおり塗布処理を実行させる(ステップS4)。塗布処理の実行を終える毎に、前記吐出不良検査、マッピングが実行される。
【0030】
これに対して、完遂不可であると判定された場合(ステップS3のNoの場合)、対応データベース14、及び、履歴データベース15に蓄積されている吐出不良検査の結果に基づいて、選択部12が、有効となるメンテナンスを選択する(ステップS5)。
図3(b)において、例えば、ノズル欠検査について、不良であると判定されたノズルの数が、予め設定されている閾値を超えている場合、選択部12は、対応データベース14(図2)に基づいて、有効となるメンテナンスとして優先順位の高い「圧送とノズルの拭き取りA」を選択する。
さらに、図3(b)において、着弾サイズ検査が不良であり、かつ、着弾形状検査が不良であると判定されたノズルの数が、予め設定されている閾値を超えている場合、選択部12は、さらに、有効となるメンテナンスとして優先順位の高い「ノズルの拭き取りB」を選択する。
その他の検査項目に関しては、それぞれ、不良であると判定されたノズルの数が、予め設定されている閾値以下であり、当該検査項目に対応しているメンテナンスは選択部12によって選択されない。なお、選択部12が選択するメンテナンスは一つであってもよいが、前記のように、選択部12は、複数のメンテナンスを選択することが可能である。
【0031】
そして、管理部13は、前記検査部11によって特定されている不良ノズルの中から、交換の対象となる交換対象ノズルを判定する処理を実行する(ステップS6)。なお、本実施形態では、交換対象ノズルが判定されると、ノズル単位で交換を行うのではなく、当該交換対象ノズルを含むインクジェットヘッド単位で交換が行われる。
このステップS6では、管理部13は、選択部12によって選択されたメンテナンスが過去に所定回数以上実行されているか否かを、履歴データベース15(図3(a))に基づいて判定し、所定回数以上実行されている場合は(ステップS6のYesの場合)、当該メンテナンスと対応つけられている検査項目について不良であると特定された不良ノズルを、交換対象ノズルであると判定する。
つまり、管理部13には、メンテナンスの回数に関する閾値として所定の値が設定されており、管理部13は、この閾値と、選択部12によって選択されたメンテナンスに関して履歴データベース15に蓄積されている過去の実績回数とを比較する。その結果、少なくとも一つのメンテナンスの実績回数が、閾値以上である場合、当該閾値以上実行されているメンテナンスと対応つけられている検査項目について不良であると特定されている不良ノズルを、交換対象ノズルであると判定する。
【0032】
〔第一の実施形態〕
ステップS6でYesの場合について具体例を説明する。履歴データベース15によれば、過去のメンテナンスの実績として「圧送とノズルの拭き取りA」が既に3回実行されており、「ノズルの拭き取りB」が既に2回実行されており、その他のメンテナンスは1回ずつ実行されている。本実施形態では、管理部13に設定されている、メンテナンスの回数に関する閾値を3回とする。
そこで、管理部13は、この閾値(3回)と、選択部12によって選択されたメンテナンスに関して履歴データベース15に蓄積されている過去の実績回数とを比較する。その結果、「圧送とノズルの拭き取りA」の実績回数(3回)が、閾値(3回)以上であるため、当該「圧送とノズルの拭き取りA」と対応つけられている検査項目「ノズル欠検査」について不良であると特定されている不良ノズルを、交換対象ノズルであると判定する(ステップS6のYes、ステップS7)。
また、履歴データベース15によれば、過去の実績として「ノズルの拭き取りB」は2回実行されているが、閾値(3回)未満であるため、「ノズルの拭き取りB」と対応つけられている検査項目「着弾サイズ検査」及び「着弾形状検査」について不良であると特定されている不良ノズルは、交換対象ノズルではないと判定される。
【0033】
〔第二の実施形態〕
前記第一の実施形態では、メンテナンスの回数に関する閾値を3回としたが、第二の実施形態では、当該閾値が4回に設定されているとする。
この場合、ステップS6において、選択部12によって選択されたメンテナンスに関して履歴データベース15に蓄積されている過去の実績回数が、設定されている閾値(4回)と比較された結果、すべてメンテナンスの実績回数が閾値未満であるため(ステップS6のNoの場合)、管理部13は、選択されたメンテナンスのうちの一つを実行させる処理を行い、実行したメンテナンスを履歴データベース15に蓄積させ、履歴データベース15を更新させる(ステップS8)。本実施形態では、「ノズル欠検査」で不良とされたノズルの数の方が、「着弾サイズ検査」及び「着弾形状検査」の双方で不良とされたノズルの数よりも多いため、ステップS5において、選択部12は、選択する複数のメンテナンスの優先順位として、「圧送とノズルの拭き取りA」を優先順位の上位に設定している。このため、ステップS8では「圧送とノズルの拭き取りA」を実行させる処理を行い、履歴データベース15において、実行したメンテナンスとして「圧送とノズルの拭き取りA」の回数に「1」を加算する。
【0034】
そして、メンテナンスの実行を終えると、検査装置10によって、再度、複数種類の検査項目について吐出不良検査が実行され、検査の結果が、履歴データベース15に蓄積される(ステップS9)。
検査結果が履歴データベース15に蓄積されると、管理部13は、前記ステップS1と同様に、使用可能ノズルの数を求めることができ、使用可能ノズルの数と、予め設定されている使用可能ノズルに関する閾値(X%)とを比較する(ステップS10)。全てのヘッド5に存在しているノズルの全数に対する、使用可能ノズルの数が、閾値(X%)以上であれば(ステップS10のYesの場合)、前記ステップS2へと進み、当該使用可能ノズルによるマッピングの作成が実行される。
【0035】
しかし、ステップS8でメンテナンスとして「圧送とノズルの拭き取りA」が実行されているにもかかわらず、使用可能ノズルの数が、閾値(X%)未満であれば(ステップS10のNoの場合)、管理部13は、選択部12によって選択されたメンテナンスがすべて実行し尽くされたか否かの判定を行う(ステップS11)。本実施形態では、まだ、「ノズルの拭き取りB」の実行を終えていないため(ステップS11でNo)、選択部12によって、実行を終えた「圧送とノズルの拭き取りA」とは別のメンテナンスである「ノズルの拭き取りB」が選択される(ステップS12)。
【0036】
そして、ステップS6に戻り、管理部13は、履歴データベース15を参照し、過去の実績として「ノズルの拭き取りB」は2回実行されており、この実績回数は閾値(4回)未満であるため、管理部13は、「ノズルの拭き取りB」と対応つけられている検査項目「着弾サイズ検査」及び「着弾形状検査」について不良であると特定されている不良ノズルは、交換対象ノズルではないと判定する(ステップS6のNo)。
さらに、管理部13は、前記ステップS5で選択されたメンテナンスのうちの残りの一つである「ノズルの拭き取りB」を実行させる処理を行い、実行したメンテナンスを履歴データベース15に蓄積させる(ステップS8)。
【0037】
そして、メンテナンスの実行を終えると、検査装置10によって、再度、複数種類の検査項目について吐出不良検査が実行され、検査の結果が、履歴データベース15に蓄積される(ステップS9)。
検査結果が履歴データベース15に蓄積されると、管理部13は、前記の場合と同様に、使用可能ノズルの数を特定することができ、使用可能ノズルの数と、予め設定されている使用可能ノズルに関する閾値(X%)とを比較する(ステップS10)
【0038】
ステップS8で、メンテナンスとして「ノズルの拭き取りB」が実行されているにもかかわらず、使用可能ノズルの数が、閾値(X%)未満であれば(ステップS10のNoの場合)、管理部13は、選択部12によって選択されたメンテナンスがすべて実行し尽くされたか否かの判定を行う(ステップS11)。本実施形態では、ステップS5で「圧送とノズルの拭き取りA」及び「ノズルの拭き取りB」が選択部12によって選択されており、これらメンテナンスそれぞれが実行されているので(ステップS11でYes)、管理部13は、エラー処理を実行する(ステップS13)。
【0039】
このように、ステップS10及びステップS11では、管理部13は、不良ノズルの数が所定レベル(X%以上)に回復するまで、選択部12によって選択された複数のメンテナンスを、種類を変えてそれぞれ実行させ、さらに、当該選択された複数のメンテナンスが実行し尽くされると、エラー処理を実行する。
すなわち、選択された複数のメンテナンスがすべて実行し尽くされても、不良ノズルの数が所定レベル(X%以上)に回復していない場合に(ステップS10でNoの場合に)、エラー処理が実行される。この場合は、想定外の不具合がインクジェット装置に生じている可能性があり、全く異なる特殊な処置が必要であることも考えられるため、エラー処理として、例えば、エラー情報を制御装置7のモニタに表示させる等の、管理者に異常を報知する処理を実行する。これにより、エラーを解除するための処置を迅速に行うことが可能となり、塗布作業の停止状態が継続することを防ぐことができる。
【0040】
以上のように構成した本実施形態のインクジェット装置によれば、対応データベース14(図2)には、吐出不良検査においてノズルが不良であると判定された場合に、これを解消するのに有効となるメンテナンスが検査項目と対応つけて複数記憶されていることから、この対応データベース14及び検査装置10による吐出不良検査の結果に基づいて、選択部12が、有効となるメンテナンスを選択することから(図4のステップS5)、吐出不良検査で不良とされた検査項目に応じて有効となるメンテナンスを、後のステップS8で実行させることが可能となる。このため、所定のメンテナンスを行うことで早期に不良ノズルを回復させることができる。
【0041】
そして、選択されたメンテナンスが、過去に所定回数実行されていると管理部13によって判定された場合は(ステップS6のYes)、当該メンテナンスと対応つけられている検査項目について不良であると特定された不良ノズルを、交換対象ノズルと判定する。つまり、この場合は、同じメンテナンスが過去に所定回数以上実行され、さらに、今回、当該メンテナンスが再び選択されていることから、同じ検査項目が不良のままであり、この検査項目で不良を引き起こしている原因は回復していないと考えられる。
そこで、管理部13は、当該検査項目について不良であると特定されている不良ノズルを、交換対象ノズルと判定している。このように、複数回にわたって同じ検査項目について不良であると特定されることにより初めて、当該不良であるノズルが交換対象ノズルと判定される。
【0042】
そして、図1に示したインクジェット装置では、あるタイミングでノズルからのインクの吐出に不具合が生じていても、その後、当該ノズルは突然回復することもあり得る。例えば、あるタイミングで、固化したインクが詰まることで不良ノズルとなるが、この固化したインクが圧送により解消されることがある。
そこで、本実施形態によれば、前記のとおり、不良ノズルであると判定されても直ぐにそのノズルを含むインクジェットヘッドを交換するのではなく、ノズルの回復を待ちながらインクジェットヘッドの交換タイミングを判別することが可能となる。このため、インクジェットヘッドの交換が無駄に行われるのを抑えることができ、経済的となる。
【0043】
また、本発明は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良く、例えば、対応データベース14において、検査項目とメンテナンスの種類との対応関係を自由に変更することができ、また、新たに設定することができる。また、前記実施形態では、インクの塗布の際、塗布ガントリ3がX軸方向に移動する場合を説明したが、これ以外にヘッド5は固定状態にあり、基板WがX軸方向に移動してもよい。
【符号の説明】
【0044】
5:ヘッド(インクジェットヘッド)、 6:ノズル、 7:制御装置、 8:カメラ、 10:検査装置、 11:検査部、 12:選択部、 13:管理部、 14:対応データベース、 15:履歴データベース、 W:基板(塗布対象物)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有し当該ノズルからインクを吐出して塗布対象物にインクを塗布する複数のインクジェットヘッドと、
複数種類の検査項目について吐出不良検査を行い、不良ノズルを当該検査項目と対応つけて特定する検査装置と、
前記吐出不良検査で不良と判定された場合に有効となるメンテナンスを、前記検査項目と対応つけて複数記憶している対応データベースと、
前記対応データベースに記憶されている複数の前記メンテナンスのうち、過去に実行されたメンテナンス及びその実行回数を記憶する履歴データベースと、
前記対応データベース及び前記吐出不良検査の結果に基づいて有効となるメンテナンスを選択する選択部と、
前記選択部によって選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されているか否かを前記履歴データベースに基づいて判定し、所定回数実行されている場合は、当該メンテナンスと対応つけられている前記検査項目について不良であると特定された不良ノズルを交換対象ノズルであると判定する管理部と、
を備えていることを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
前記選択部によって複数種類のメンテナンスが選択され、かつ、当該選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されていないと前記管理部が判定した場合、当該管理部は、当該選択されたメンテナンスを実行させ、
前記履歴データベースは、実行された前記メンテナンスを記憶することで更新される請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項3】
前記管理部は、不良ノズルの数が所定レベルに回復するまで、前記選択部によって選択された複数のメンテナンスを、種類を変えてそれぞれ実行させ、さらに、当該選択された複数のメンテナンスが実行し尽くされると、エラー処理を実行する請求項2に記載のインクジェット装置。
【請求項4】
複数のノズルを有し当該ノズルからインクを吐出して塗布対象物にインクを塗布する複数のインクジェットヘッドの管理方法であって、
複数種類の検査項目が設定されている吐出不良検査で不良と判定された場合に有効となるメンテナンスが、当該検査項目と対応つけて対応データベースに複数記憶されており、
前記対応データベースに記憶されている複数の前記メンテナンスのうち、過去に実行されたメンテナンス及びその実行回数が、履歴データベースに記憶されており、
前記複数種類の検査項目について前記吐出不良検査を行い、不良ノズルを当該検査項目と対応つけて特定し、
前記対応データベース及び前記吐出不良検査の結果に基づいて有効となるメンテナンスを選択し、
選択されたメンテナンスが過去に所定回数実行されているか否かを前記履歴データベースに基づいて判定し、所定回数実行されている場合は、当該メンテナンスと対応つけられている前記検査項目について不良であると特定された不良ノズルを交換対象ノズルであると判定することを特徴とするインクジェットヘッドの管理方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate