説明

インクジェット記録ヘッドおよびこれを備えたインクジェット記録装置

【課題】信頼性が高く、形成する画像の高画質化に寄与するインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェット記録ヘッドは、インク供給口(不図示)が形成されたシリコン基板1を有している。また、シリコン基板1の表面に設けられ、並べて配置された複数の圧力室8および各圧力室8と外部空間とを連通している吐出口7が形成された流路形成部材3を有している。また、シリコン基板1の表面に設けられ、流路形成部材3の一部を保持している密着層4と、各吐出口7に対向して配置され、インクを吐出口7から吐出させる吐出エネルギー発生素子2と、を有している。各圧力室8は、シリコン基板1の表面をそれぞれ囲むように流路形成部材3に形成された流路6aまたは流路6bによって、インク供給口に連通されている。密着層4は、流路形成部材3を保持している部分から、シリコン基板1の表面の、流路6aの中の領域にわたって配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドおよびこれを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドは、一般的に、インクを吐出させる吐出エネルギーを発生させる素子を備えている。吐出エネルギー発生素子としては、たとえば、ヒータ等の電気熱変換素子や、圧電材料を用いて形成された圧電素子などが用いられる。吐出エネルギー発生素子は、たとえば、インクジェット記録ヘッドに半導体製造技術を用いて設けられた電気回路等によって駆動させられる。
【0003】
図6は従来のインクジェット記録ヘッドの流路およびその近傍を示す図である。図6(a)はそのインクジェット記録ヘッドの、流路におけるインクの流れ方向に直交する断面図、図6(b)は図6(a)のE−E´線に沿った断面図である。
【0004】
このインクジェット記録ヘッドは、インク供給口(不図示)が形成されたシリコン基板101と、シリコン基板101の上に設けられた流路形成部材103と、を有している。流路形成部材103によって、実質的に等間隔に配列された複数の圧力室108と、インク供給口と各圧力室108とを連通している流路106と、各圧力室108と外部空間とを連通している吐出口107と、が形成されている。
【0005】
また、各圧力室108には、吐出口107と対向する位置に、インクを吐出口107から吐出させる吐出エネルギー発生素子102が設けられている。このインクジェット記録ヘッドでは、吐出エネルギー発生素子102としてヒータを用いている。各流路106の、インク供給口側の端部には、流路106内へのゴミの混入を防ぐなどの目的により2本の柱状部材109が配置されている。このインクジェット記録ヘッドでは、各流路106や各圧力室108などは一括して同様の形状に形成されるため、各吐出口107は実質的に同様のインク吐出特性を有する。
【0006】
このインクジェット記録ヘッドでは、まず、インクがインク供給口から流路106に供給されると、インクは流路106を通って吐出口107の近傍まで送られる。そして、吐出エネルギー発生素子102に近接しているインクが、吐出エネルギー発生素子102に瞬間的に加熱されて沸騰することで発生する発泡圧によって、吐出口107に近接しているインクが吐出口107から吐出される。
【0007】
流路106および圧力室108は、シリコン基板101の表面と流路形成部材103とによって囲まれている。流路形成部材103は、インクが流れることよって加わる応力や、インクの溶媒成分が浸み込むことによる流路形成部材103の膨潤などが原因となって、シリコン基板101から剥離することがある。流路形成部材103がシリコン基板101から剥離すると、流路形成部材103のシリコン基板101から剥離した部分が、インクが流れることの妨げとなり、インク吐出特性が変化することにより、画像形成に悪影響を生じさせることがある。
【0008】
流路形成部材103がシリコン基板101から剥離することを防止するため、流路形成部材103よりもシリコン基板101への密着性が高い熱可塑性樹脂で形成された密着層104がシリコン基板101と流路形成部材103との間に配置されている。したがって、シリコン基板101から剥離しにくい密着層104が、流路形成部材103の一部を保持しているため、流路形成部材103がシリコン基板101から剥離することが抑制される。
【0009】
また、密着層104は、熱可塑性樹脂で形成されているため、吐出エネルギー発生素子102の近傍に配置されていると、吐出エネルギー発生素子102が発する熱により損傷を受けてシリコン基板101から剥離することがある。そのため、このインクジェット記録ヘッドでは、吐出エネルギー発生素子102が発する熱を密着層104に伝わりにくくすべく、密着層104が流路形成部材103の内側に収まるように配置されている。
【0010】
特許文献1には、密着層を形成する材料として、ポリエーテルアミド樹脂が有効であることが記載されている。また、特許文献2には、流路形成部材の、シリコン基板から剥離しやすい部分に密着層をより広く配置させることにより、流路形成部材がシリコン基板から剥離することが効果的に抑制されるインクジェット記録ヘッドが記載されている。
【0011】
また、インクジェット記録ヘッドは、これが搭載されたインクジェット記録装置の、形成する画像の高画質化、画像形成の高速化および小型化に寄与するように構成されていることが望ましい。
【0012】
インクジェット記録装置の画像形成の高速化およびインクジェット記録装置の小型化を図るためには、インクジェット記録ヘッドの吐出口を高密度に配列することが考えられる。一般的なインクジェット記録ヘッドでは、吐出口の配列密度はおよそ600dpi程度である。したがって、インクジェット記録ヘッドは、吐出口をさらに高密度に配置させることにより、インクジェット記録装置の画像形成の高速化およびインクジェット記録装置の小型化に寄与することができる。
【0013】
また、特許文献3には、吐出口をさらに高密度に配置させる手法によらずに、実質的に吐出口の配列密度の向上が図られたインクジェット記録ヘッドが記載されている。このインクジェット記録ヘッドでは、実質的に等間隔に配列された複数の吐出口が、インクを供給するインク供給口を挟んで、2列に配置されている。また、このインクジェット記録ヘッドでは、配列された吐出口の間隔の半分の距離だけ、2列の吐出口の列を、吐出口の配列方向に互いにずらして配置されている。これにより、吐出口の配列密度は、吐出口の列が1列のみの場合と比較して実質的に2倍になっている。したがって、1列における吐出口の配列密度が600dpiでも、このように構成することで、実質的に、吐出口の配列密度を2倍の1200dpiに向上させることができる。
【0014】
なお、インクジェット記録ヘッドの吐出口の配列密度を変更せずに、吐出口が配置される面の面積を拡大して、配置させる吐出口の数を増加させることによりインクジェット記録装置の画像形成の高速化を図ることもできる。
【0015】
また、インクジェット記録装置の形成する画像の高画質化は、形成する画像に応じて、大きいインク滴と小さいインク滴とを使い分けることができるように構成することによって実現できる。そのためには、インクジェット記録ヘッドは、同一の列の吐出口が互いに異なる複数のインク吐出特性を発揮できるように構成されている必要がある。
【特許文献1】特開平11−348290号公報
【特許文献2】特開2002−248771号公報
【特許文献3】特開2003−311964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
インクジェット記録装置の画像形成の高速化およびインクジェット記録装置の小型化を図るために、インクジェット記録ヘッドの吐出口を高密度に配列するには、それと同時に流路および圧力室も高密度に配列する必要がある。一方、インクを良好に吐出させるためには、流路および圧力室の配列方向の幅の大きさを確保しなければならないため、流路形成部材の、互いに隣り合う圧力室および流路を隔てている部分を薄く形成する必要がある。
【0017】
具体的には、同等の形状のインクジェット記録ヘッドにおいて、吐出口の配列密度を600dpiから1200dpiにすると、流路形成部材の、互いに隣り合う圧力室および流路を隔てている部分の厚さを3分の2以下にする必要があることがわかっている。
【0018】
そのため、流路形成部材がシリコン基板から剥離することを防止する密着層を設置することができる面積が大幅に小さくなるので、流路形成部材がシリコン基板から剥離しやすくなる。したがって、インクジェット記録ヘッドの信頼性や、インクジェット記録装置が形成する画質の低下につながる。
【0019】
また、インクジェット記録ヘッドの吐出口を高密度に配列するには、流路形成部材等の微細加工などの高度な技術が必要であるため、技術開発や新たな設備の導入などに多額の投資が必要である。したがって、インクジェット記録ヘッドの製造コストが増大する。
【0020】
また、インクジェット記録ヘッドの吐出口を高密度に配列するには、圧力室を狭く形成する必要があるため、圧力室に配置する吐出エネルギー発生素子を小型化する必要がある。このことにより、インクジェット記録ヘッドは十分な吐出性能を確保できない場合がある。
【0021】
また、上述のように、インクジェット記録ヘッドの吐出口を実際に高密度に配列させなくても、インク供給口を挟んで2列に配列された吐出口の列を、吐出口の配列方向に互いにずらして配置させることにより、配列密度を実質的に向上させることもできる。しかし、吐出口の配列密度をさらに向上させるためには、それぞれの吐出口の列において配列密度を向上させる必要がある。
【0022】
また、インクジェット記録装置の画像形成の高速化を図るために、インクジェット記録ヘッドの、吐出口が配置される面の面積を拡大して、配置させる吐出口の数を増加させるには、より大きいシリコン基板を用いる必要がある。そのため、インクジェット記録ヘッドが大型化し、かえってインクジェット記録装置の画像形成の高速化の妨げになることが考えられる。
【0023】
また、インクジェット記録装置が形成する画質を向上させるために、同一の列の吐出口が互いに異なる複数のインク吐出特性を発揮できるようにするには、それに合わせて流路の断面積などを変更することが必要になる。しかし、インクジェット記録ヘッドの製造工程において、通常、同一の列の各流路は一定のパターンで形成されるため実質的に同一の断面積を有する。
【0024】
上述の問題点に鑑み、本発明は、信頼性が高く、形成する画像の高画質化に寄与するインクジェット記録ヘッドおよびこれを用いたインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録ヘッドは、インク供給口が形成された基板と、前記基板の表面に設けられ、並べて配置された複数の圧力室および該各圧力室と外部空間とを連通している吐出口が形成された流路形成部材と、前記基板の表面に設けられ、前記流路形成部材の一部を保持している密着層と、前記各吐出口に対向して配置され、インクを前記吐出口から吐出させる吐出エネルギー発生素子と、を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記各圧力室は、前記基板の表面をそれぞれ囲むように前記流路形成部材に形成された第1の流路または第2の流路によって、前記インク供給口に連通されており、前記密着層は、前記流路形成部材の前記一部から、前記基板の表面の、前記第1の流路の中の領域にわたって配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、信頼性が高く、形成する画像の高画質化に寄与するインクジェット記録ヘッドおよびこれを用いたインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの、吐出エネルギー発生素子の付近の一部を断面で示す斜視図である。
【0028】
本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドは、インク供給口5が形成されたシリコン基板1と、シリコン基板1の上に設けられた流路形成部材3と、を有している。流路形成部材3によって、実質的に等間隔に配列された複数の圧力室8と、インク供給口5と各圧力室8とを連通している流路6と、各圧力室8と外部空間とを連通している吐出口7と、が形成されている。
【0029】
また、各圧力室8には、吐出口7と対向する位置に、インクを吐出口7から吐出させる吐出エネルギー発生素子2が設けられている。このインクジェット記録ヘッドでは、吐出エネルギー発生素子2としてヒータを用いている。
【0030】
このインクジェット記録ヘッドでは、まず、インクがインク供給口5から流路6に供給されると、インクは流路6を通って吐出口7の近傍まで送られる。そして、吐出エネルギー発生素子2に近接しているインクが、吐出エネルギー発生素子2に瞬間的に加熱されて沸騰することで発生する発泡圧によって、吐出口7に近接しているインクが吐出口7から吐出される。このように、このインクジェット記録ヘッドでは、吐出口7に対向して配置された被記録媒体に対して画像が形成される。
【0031】
このインクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせられた産業記録装置などに搭載することができる。また、このインクジェット記録ヘッドは、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなどの種々の被記録媒体への記録に対応することができる。なお、「記録」とは、文字や図形などの何らかの意味を有する画像を形成することだけでなく、抽象的な模様などの意味を有さない画像を形成することも含むものとする。
【0032】
図2は本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの流路およびその近傍を示す図である。図2(a)はそのインクジェット記録ヘッドの図1のA−A´線に沿った断面図、図2(b)は図2(a)のB−B´線に沿った断面図である。このインクジェット記録ヘッドの各流路6の、インク供給口5側の端部には、流路6内へのゴミの混入を防ぐなどの目的により2本の柱状部材9が配置されている。
【0033】
このインクジェット記録ヘッドでは、流路形成部材3がシリコン基板1から剥離することを防止するため、流路形成部材3よりもシリコン基板1への密着性が高い熱可塑性樹脂で形成された密着層4がシリコン基板1と流路形成部材3との間に配置されている。これにより、シリコン基板1から剥離しにくい密着層4が、流路形成部材3の一部を保持しているため、流路形成部材3がシリコン基板1から剥離することが抑制される。
【0034】
流路6は、第1の流路6aと第2の流路6bとに分類される。密着層4は、流路形成部材3を保持している部分から、シリコン基板1の表面の、流路6aの中の領域にわたって形成されている。一方、シリコン基板1の表面の、流路6bの中の領域には密着層4が形成されていない。また、説明の便宜上、流路6aからインクが送られる圧力室8および吐出口7を、それぞれ圧力室8aおよび吐出口7aとし、流路6bからインクが送られる圧力室8および吐出口7を、それぞれ圧力室8bおよび吐出口7bとする。
【0035】
図6に示した従来のインクジェット記録ヘッドでは、密着層104が流路形成部材103を保持している部分のみに配置されている。一方、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドでは、密着層4が、流路形成部材3を保持している部分から、シリコン基板1の表面の、流路6aの中の領域にわたって形成されている。
【0036】
したがって、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドでは、流路壁部材3が、密着層4に、流路壁部材3の内側から流路6aへ向けてより広く保持されている。これにより、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドでは、従来のインクジェット記録ヘッドよりも、流路形成部材がシリコン基板から剥離することが抑制される。そのため、このインクジェット記録ヘッドでは、吐出口をさらに高密度に配置させた場合にも画像形成への悪影響が生じることを抑制することができる。
【0037】
なお、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドでは、圧力室8a,8bには密着層4が配置されていないため、吐出エネルギー発生素子2が発する熱の影響を密着層4が受けて、密着層4がシリコン基板1から剥離することも抑制される。
【0038】
また、流路6a,6bは、流路6a,6bの配列方向の幅、インクの流れ方向の長さ、およびシリコン基板1の表面からシリコン基板1の表面に対向する内面までの高さが実質的に等しくなるようにパターニングされている。しかし、流路6aには密着層4が配置されているため、流路6aと流路6bとでは、流路6aの方が、密着層4の厚さの分だけ高さが低くなるため、その分、インクの流れ方向に直交する断面の面積が小さい。そのため、流路6aでは、流路6bよりもインクが流れる際の抵抗が大きくなるので、吐出口7aと吐出口7bとでは互いに異なったインク吐出特性を有する。
【0039】
さらに、吐出口7aにおけるインク吐出特性は、密着層4の厚さを変更することによって、画像形成に適するように調整することができる。
【0040】
このように本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドは、同一の列の吐出口が、画像形成に適した互いに異なる2種類のインク吐出特性を発揮することができるように調整可能であるため、インクジェット記録装置の形成する画像の高画質化に寄与する。
【0041】
次に図3を参照して本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法について説明する。図3は本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造過程における図1のC−C´線に沿った断面図である。
【0042】
図3(A)に示すように、シリコン基板1の表面には複数の吐出エネルギー発生素子2が実質的に等間隔に2列に配列されている。また、吐出エネルギー発生素子2の2つの列の間の、シリコン基板1の表面の中央領域には犠牲層10が設けられている。また、シリコン基板1、吐出エネルギー発生素子2および犠牲層10の表面全体を覆うように保護膜11が形成されている。
【0043】
犠牲層10は後に除去するため、犠牲層10を形成する材料としては、たとえば、強アルカリ溶液によって容易に溶出することができる多結晶シリコンが用いられる。また、強アルカリ溶液への溶解速度が速いアルミニウム,アルミニウムシリコン系合金,アルミニウム銅系合金,アルミニウム銅シリコン系合金などの金属材料や合金材料も適している。
【0044】
なお、図3(A)〜図3(F)の各図において、吐出エネルギー発生素子2に接続された配線や、吐出エネルギー発生素子2を駆動するための半導体素子は不図示である。また、シリコン基板1の基板面の結晶方位は<100>である。
【0045】
まず、図3(B)に示すように、シリコン基板1の表面および裏面に熱可塑性樹脂をスピンコート等によりそれぞれ塗布し、硬化させた後にパターニングすることによって、密着層4および熱可塑性樹脂層12を形成する。
【0046】
パターニングは、たとえば、ポジ型レジスト(不図示)をスピンコート等によって塗布、露光、現像した後に、ドライエッチングし、残ったポジ型レジストを除去することにより行うことができる。熱可塑性樹脂層12をパターニングする際、必要に応じてシリコン基板1の表面側を保護材で覆って保護する。
【0047】
次に、図3(C)に示すように、流路6および圧力室8になる部分に、型材13を配置する。型材13は後に除去するため、除去しやすい材料で形成する。型材13を形成する材料としては、たとえば、強アルカリ溶液によって容易に溶出させることができるポジ型レジストを用いる。本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドでは、型材13は、ポジ型レジストとして東京応化工業株式会社製のODUR(商品名)を用いて形成し、エッチングによりパターニングしている。
【0048】
次に、図3(D)に示すように、シリコン基板1の表面側に、被覆感光性樹脂をスピンコート等により塗布して流路形成部材3を形成する。さらに、形成した流路形成部材3上にドライフィルムをラミネート処理することにより撥水層14を形成する。流路形成部材3には、遠紫外線(DeepUV)等の紫外線などによる露光および現像を行うことによりインク吐出口7をパターニングする。
【0049】
次に、図3(E)に示すように、シリコン基板1の裏面以外の部分全体を被覆するように保護材15を形成する。保護材15は、たとえば、耐アルカリ性を有する樹脂をスピンコートによって塗布して、塗布した樹脂を硬化させることにより形成する。
【0050】
次に、図3(F)に示すように、インク供給口5を形成するために、シリコン基板1を、TMAH(水酸化四メチルアンモニウム)溶液などの強アルカリ溶液によってウェットエッチングする。このとき、熱可塑性樹脂層12および保護材15は耐アルカリ性を有しているため、撥水層14などを劣化させることなく、シリコン基板1の裏面の熱可塑性樹脂層12が配置されていない領域のみからエッチングが進む。また、シリコン基板1の基板面の結晶方位は<100>であるため、シリコン基板1には厚さ方向へ選択的に異方性エッチングが進む。
【0051】
シリコン基板1の裏面から異方性エッチングが進むと、やがてシリコン基板1を貫通し、犠牲層10に到達する。その後、引き続き、犠牲層10を強アルカリ水溶液により等方性エッチングして除去する。
【0052】
その後、保護膜11の犠牲層10の周囲に配置された部分、保護材15および熱可塑性樹脂層12を除去し、流路6および圧力室8を形成するために型材13をインク供給口5および吐出口7から強アルカリ溶液で溶出して除去する。型材13は、遠紫外線を全面照射しておくことにより容易に溶出させることができ、さらに、シリコン基板1を強アルカリ水溶液に超音波浸漬すると、より迅速かつ良好に溶出させることができる。
【0053】
その後、ダイシングソーを用いて個々のインクジェット記録ヘッドごとに分離し、駆動のために必要な電気的接合やインクを供給するチップタンク部材(不図示)の接続等を行い、インクジェット記録ヘッドが完成する。
(第2の実施形態)
図4は本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの流路およびその近傍を示す図である。図4(a)はそのインクジェット記録ヘッドの、流路におけるインクの流れ方向に直交する断面図、図4(b)は図4(a)のD−D´線に沿った断面図である。なお、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドは、以下に示す構成以外は、第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドと同様に構成されている。
【0054】
このインクジェット記録ヘッドには、流路形成部材3aによって、流路6c,6d、圧力室8c,8dおよび吐出口7c,7dが形成されている。流路6cおよび流路6dは、交互に配列されており、圧力室8dは、インク供給口から見て圧力室8cより奥に配置されている。また、流路6dには、圧力室8dよりも流路6c,6dの配列方向の幅が狭いネック部6eが形成されており、圧力室8cは、ネック部6eの、流路6c,6dの配列方向の両側に流路形成部材3aを介して配置されている。これにより、圧力室8c,8dは千鳥状に配置されている。このように圧力室を千鳥状に配列することによって、圧力室を直線的に配列するよりも、吐出口の配列密度を実質的に向上させることができる。
【0055】
さらに、このインクジェット記録ヘッドでは、吐出口の配列密度を実質的に向上させる際に、圧力室8c,8dを狭くする必要がなく、吐出エネルギー発生素子2aを小型化する必要がないため十分な吐出性能を確保できる。また、流路形成部材3aの厚さを薄くする必要もないため、流路形成部材等の微細加工などの必要がなく、技術開発や新たな設備の導入のための投資の必要がない。
【0056】
したがって、このインクジェット記録ヘッドでは、十分な吐出性能を確保しつつ、コストの増大を伴わずに、インクジェット記録装置の画像形成の高速化およびインクジェット記録装置の小型化に寄与することができる。
【0057】
また、密着層4aは、流路形成部材3aの一部を保持しており、流路形成部材3aを保持している部分から、シリコン基板1aの表面の、流路6cの中の領域にわたって形成されている。一方、シリコン基板1aの表面の、流路6dの中の領域には密着層4aが形成されていない。
【0058】
したがって、このインクジェット記録ヘッドでは、吐出口7cにおけるインク吐出特性を、密着層4aの厚さを変更することによって、画像形成に適するように調整することができる。よって、第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドと同様に、同一の列の吐出口が、画像形成に適した互いに異なる2種類のインク吐出特性を発揮することができるように調整可能である。したがって、このインクジェット記録ヘッドはインクジェット記録装置の形成する画像の高画質化に寄与する。
【0059】
一方、このインクジェット記録ヘッドでは、流路6cは流路6dよりインクの流れ方向の長さが長いため、密着層4aを流路6cに配置させない場合を仮定すると、流路6dの方が、流路6cよりもインクが流れる際の抵抗が大きい。しかし、このインクジェット記録ヘッドでは、吐出口7c,7dが同等のインク吐出特性を有することが望ましい場合には、密着層4aの厚さを変更することにより、流路6cのインクが流れる際の抵抗を、流路6dと同等になるように調整することができる。
(第3の実施形態)
次に、図5を参照して、本発明の第3の実施形態に係るインクジェット記録装置を説明する。図5は、本発明が適用可能なインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【0060】
本実施形態のインクジェット記録装置は、被記録媒体Pを搬送する送りローラ24,25を有している。インクジェット記録装置内に挿入された被記録媒体Pは、送りローラ24,25によってインクジェット記録ヘッドユニット20の記録可能領域へ搬送される。
【0061】
インクジェット記録ヘッドユニット20は、2つのガイド軸22,23によって、それらの延在方向(主走査方向)に沿って移動可能にガイドされており、記録領域を往復走査する。本実施形態では、インクジェット記録ヘッドユニット20の走査方向が主走査方向であり、被記録媒体Pの搬送方向が副走査方向となる。インクジェット記録ヘッドユニット20には、図1に示した第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド26と、インク供給口5(図1参照)にインクを供給するインクタンク21とが搭載されている。インクジェット記録ヘッドユニット20には、例えば、ブラックインク用のインクタンク21B、シアンインク用のインクタンク21C、マゼンタインク用のインクタンク21M、イエローインク用のインクタンク21Yの4つのインクタンクが搭載される。これらの各色用のインクタンクは、インクジェット記録ヘッドユニット20に対して全て独立に交換可能な構成となっている。インクジェット記録ヘッドユニット(搭載部材)20には4つのインクジェット記録ヘッド26が搭載される。各々のインクジェット記録ヘッド26は各色用のインクタンクとそれぞれ接続され、インクジェット記録ヘッド26のインク供給口5にそれぞれの色のインクが供給される。
【0062】
また、インクジェット記録ヘッドユニット20が移動可能な領域の図示右端の下部には、回復系ユニット27が配備されている。回復系ユニット27は、非記録動作時にインクジェット記録ヘッド26の吐出口7の部分を回復処理する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの、吐出エネルギー発生素子の付近の一部を断面で示す斜視図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録ヘッドの流路およびその近傍を示す図である。
【図3】図1に示したインクジェット記録ヘッドの製造過程における図1のC−C´線に沿った断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの流路およびその近傍を示す図である。
【図5】本発明が適用可能なインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図6】従来のインクジェット記録ヘッドの流路およびその近傍を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1,1a シリコン基板
2,2a 吐出エネルギー発生素子
3,3a 流路形成部材
4,4a 密着層
5 インク供給口
6a,6b,6c,6d 流路
6e ネック部
7a,7b,7c,7d 吐出口
8a,8b,8c,8d 圧力室
9,9a 柱状部材
10 犠牲層
11 保護膜
12 熱可塑性樹脂層
13 型材
14 撥水層
15 保護材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク供給口が形成された基板と、
前記基板の表面に設けられ、並べて配置された複数の圧力室および該各圧力室と外部空間とを連通している吐出口が形成された流路形成部材と、
前記基板の表面に設けられ、前記流路形成部材の一部を保持している密着層と、
前記各吐出口に対向して配置され、インクを前記吐出口から吐出させる吐出エネルギー発生素子と、
を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記各圧力室は、前記基板の表面をそれぞれ囲むように前記流路形成部材に形成された第1の流路または第2の流路によって、前記インク供給口に連通されており、
前記密着層は、前記流路形成部材の前記一部から、前記基板の表面の、前記第1の流路の中の領域にわたって配置されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記第1の流路と前記第2の流路とが交互に配列されており、前記各第2の流路には、前記第1の流路と前記第2の流路とが配列された配列方向の幅が前記圧力室より狭いネック部が形成されており、前記インク供給口に前記第1の流路によって連通されている前記圧力室が、前記各ネック部の前記配列方向に前記流路形成部材によって隔てられて配置されている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッドを搭載するための搭載部材を具備するインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−292052(P2009−292052A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148132(P2008−148132)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】