インクジェット記録ヘッドの製造方法
【課題】ヘッド基板に反りがある場合でも、各記録素子基板の吐出特性に差が生じることなく、高品位な記録が可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、ヘッド基板の主面の高さを少なくとも3つの測定点で測定する工程(S101)と、測定点のうち、主面上の2点を通る基準面を設定する工程(S103)とを有する。また、基準面内に含まれる2点以外の測定点の基準面からの距離をそれぞれ求める工程(S104)を有する。そして、記録素子基板をヘッド基板に設けられた複数の配置部にそれぞれ配置し、基準面から所定の距離離れた位置に該基準面に平行に記録媒体を配置したと想定し、着弾のずれ量を算出する工程(S106)を有する。さらに、着弾のずれ量に応じて各配置部の位置を補正して、各記録素子基板のヘッド基板上での配置位置を決定する工程(S107)とを少なくとも含む。
【解決手段】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、ヘッド基板の主面の高さを少なくとも3つの測定点で測定する工程(S101)と、測定点のうち、主面上の2点を通る基準面を設定する工程(S103)とを有する。また、基準面内に含まれる2点以外の測定点の基準面からの距離をそれぞれ求める工程(S104)を有する。そして、記録素子基板をヘッド基板に設けられた複数の配置部にそれぞれ配置し、基準面から所定の距離離れた位置に該基準面に平行に記録媒体を配置したと想定し、着弾のずれ量を算出する工程(S106)を有する。さらに、着弾のずれ量に応じて各配置部の位置を補正して、各記録素子基板のヘッド基板上での配置位置を決定する工程(S107)とを少なくとも含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等を吐出して記録動作を行う記録装置に適用されるインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置の1つであるインクジェット記録装置(以下「記録装置」と称する)は、コンピュータに接続された出力機器等に幅広く利用され、商品化されている。近年では、より高速に高画質な記録をするため、より記録幅の長いインクジェット記録ヘッド(以下「記録ヘッド」と称する)が望まれている。
【0003】
一般的な記録装置としては、インクを吐出する吐出口を有する記録ヘッドがインクの吐出を行いながら、紙などの被記録媒体に対して走査して記録を行う方式が広く知られている。また、記録幅の長いヘッドの場合、被記録媒体を搬送ベルト上に固定し、被記録媒体を走査させることで、高速に記録を行うことのできる記録装置が知られている。
【0004】
このように長い記録幅をもった記録ヘッドを、1枚の記録素子基板で構成しようとすると、記録素子基板を長くする必要があるが、不良品が発生する可能性が高くなり、記録素子基板自体の歩留まりが低下してしまう等の問題が発生してしまう。そのため、適度な長さの(つまり、適度なノズル数を有する)記録素子基板を、記録幅と同等以上の長さのヘッド基板上に複数個配列して、全体として長い記録幅の記録ヘッドを実現する構成が考えられている。
【0005】
ところが、ヘッド基板が長くなると、ヘッド基板自体に反りやうねりが生じることがある。そのため、記録素子基板をヘッド基板面に沿うように固定すると、記録素子基板毎にインク吐出方向が変わってしまい、インクの着弾精度が低下してしまう。また、個々の記録素子基板の厚さにばらつきがあると、吐出口から被記録媒体までの距離が記録素子基板毎に変わってしまうため、インクの着弾精度が低下してしまう。
【0006】
そこで、特許文献1では、ヘッド基板と記録素子基板を接着する接着剤の厚さを、記録素子基板毎に変えて、各記録素子基板のインクの吐出口形成面が同一平面上に位置するようにする構成が提案されている。特許文献1(特に図3(A)参照)によると、長尺基板(ヘッド基板)上に、記録ヘッドユニット(記録素子基板)が、接着剤にて接着固定されている。このとき、長尺基板に反りが生じている場合、または、個々の記録ヘッドユニットの厚さにばらつきがある場合であっても、各記録ヘッドユニット下の接着剤の厚さを変えることにより吐出口形成面を同一面にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−256051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記先行技術には、以下のような問題があった。
【0009】
特許文献1の方法では、インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子として、電気熱変換素子を用いた場合、インク吐出のために発生させた熱がヘッド基板へ伝導する際に、接着剤の厚さの差により、記録素子基板毎に熱伝導が異なってしまう。即ち、記録素子基板毎に放熱特性が異なり、その結果、インクの吐出量やインクの吐出速度が記録素子基板同士で異なり、記録品位が低下してしまう。
【0010】
そこで、本発明は、上記先行技術が有する問題点に鑑み、ヘッド基板に反りがある場合においても、各記録素子基板の吐出特性に差が生じることなく、高品位な記録が可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、ヘッド基板の主面の高さを少なくとも3つの測定点で測定する工程と、測定点のうち、主面上の2点を通る基準面を設定する工程とを有する。また、基準面内に含まれる2点以外の測定点の基準面からの距離をそれぞれ求める工程を有する。そして、記録素子基板をヘッド基板に設けられた複数の配置部にそれぞれ配置し、基準面から所定の距離離れた位置に該基準面に平行に記録媒体を配置したと想定する。この想定で、記録媒体上の、基準面と直交する方向に記録素子基板から延ばした直線が記録媒体と交わる位置と、記録素子基板のインクの吐出口が向いている方向の延長線が前記記録媒体と交わる位置との差である着弾のずれ量を算出する工程を有する。さらに、着弾のずれ量に応じて各配置部の位置を補正して、各記録素子基板のヘッド基板上での配置位置を決定する工程と、を少なくとも含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各記録素子基板から吐出し被記録媒体に着弾したインク滴の着弾位置が、所定の着弾位置からずれる量を小さくすることができる。その結果、高品位な記録が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ベースプレートの形状測定装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第1の実施形態であり、記録素子基板のヘッド基板上の配置位置を決定するフローチャートである。
【図3】ベースプレートの概略上面図である。
【図4】記録素子基板が、厚さ測定装置の基板台に搭載された状態を示す図である。
【図5】基準面を設定する工程を説明する図である。
【図6】各配置部の傾きを算出する工程を説明する図である。
【図7】各配置部の反り量を算出する工程を説明する図である。
【図8】着弾のずれ量を算出する工程を説明する図である。
【図9】各記録素子基板の実際の配置位置を算出する工程を説明する図である。
【図10】第2の実施形態において、測定しなかった箇所の高さ補間方法について説明する図である。
【図11】第3の実施形態における板材の変形を説明するための図である。
【図12】第4の実施形態における記録ヘッドの概略構成図である。
【図13】固定台に取り付けられたベースプレートの、記録素子基板接着面6を下側としたときの側面図である。
【図14】第5の本実施形態における記録ヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図15】記録用紙にインクが着弾した状態の記録用紙の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、ベースプレートの形状測定装置の概略構成図である。
【0016】
この形状測定装置において、被測定物であるヘッド基板(以降、「ベースプレート」と称する)1が搭載されるプレート台2は、ステージ4上に搭載されており、ベースプレート1の長手方向(図中の矢印方向)に移動可能である。また、プレート台2には、逃がし穴7が設けられている。そして、プレート台2の、ベースプレート1が配置される位置の上方には、変位センサ5が設けられ、図示しない支持手段に支持されている。
【0017】
図2は、本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第1の実施形態であり、記録素子基板のヘッド基板上の配置位置を決定するフローチャートである。
【0018】
始めに、ベースプレートの形状測定を行う(S101)。この工程S101について、図1、図3を参照して説明する。
【0019】
ベースプレート1が第1の主面である記録素子基板接着面6を上にして、プレート台2に載せられている。ベースプレート1の、記録素子基板接着面6の反対側の面13を第2の主面とする。また、ベースプレート1の両端には、記録ヘッドを記録装置に固定するためのボルト穴3が4箇所設けられている。なお、ベースプレート1の形状は、平坦ではなく、厚さ方向に多少の反りが生じている場合がある。上述したように、プレート台2に逃がし穴7が設けられているので、ベースプレート1がプレート台2側に凸となるように反っていた場合においても、ベースプレート1がプレート台2上で安定するようになっている。
【0020】
次に、ベースプレート1の形状を測定する位置について説明する。なお、本実施形態の記録ヘッドは、1つのベースプレート1に複数の記録素子基板、具体的には10個の記録素子基板を配置するものとして説明する。
【0021】
図3に、ベースプレート1の概略上面図を示す。複数配置される配置部8a〜8jは各記録素子基板9(図4参照)が配置される位置を示している。
【0022】
ここで、配置部8a〜8jを具体的に説明する。ベースプレート1の一方の端(図3では左端)を基点Sとして、配置部8aの基点S側の端部を、基点Sから所定距離Lだけ離れた位置A1とし、A1から一定のピッチP離れた位置を、配置部8bの基点S側の端部の位置A2とする(図3(a)参照)。以降、同様に、ピッチP毎にA3〜A10とする。ピッチPは記録素子基板9の長さに、記録素子基板9同士の間の所定の間隔を加えた長さである。また、各配置部8a〜8jの基点Sから遠い側の端部をB1〜B10とし(図3(b)参照)、各配置部8a〜8jの中心位置をC1〜C10とする(図3(c)参照)。本実施形態では、これらの位置A1〜A10、B1〜B10、およびC1〜C10を測定点とする。
【0023】
ステージ4を走査させ、変位センサ5のセンシング位置が各測定点、すなわちA1〜A10、B1〜B10、および、C1〜C10の各位置となった際に、各位置における、変位センサ5から記録素子基板接着面6の各位置までの距離を測定する。そして、変位センサ5からプレート台2の上面までの距離を測定する。両測定値の差から、記録素子基板接着面6の高さが得られる。
【0024】
なお、ベースプレート1の全域において、ベースプレート1がほぼ平坦であり、凹凸が無いような場合は、ベースプレート1を裏向きに搭載して、記録素子基板接着面6の反対側の面13(第2の主面)を測定しても良い。
【0025】
次に、各記録素子基板9a〜9jの厚さを測定する(S102)。この工程S102について、図4を参照して説明する。記録素子基板9a〜9jの厚さの測定に用いられる厚さ測定装置は、前記した形状測定装置と同様に、移動可能な基板台11と変位センサ12を有している。図4は、記録素子基板9を吐出口10が形成された面を上にして、移動機構が付いた基板台11に搭載した状態を示している。また、記録素子基板9の上方、つまり吐出口10と対向する側に、変位センサ12が設置されている。変位センサ12にて、変位センサ12から記録素子基板9の吐出口10形成面、および、基板台11上面までの距離をそれぞれ測定し、両測定値の差より、記録素子基板9の厚さが得られる。
【0026】
先述したように、本実施形態では、1つのベースプレート1に記録素子基板9を10個配置するため、10個全ての記録素子基板9の厚さを測定する。なお、図3(a)の配置部8aに配置する記録素子基板を9a、配置部8bに配置する記録素子基板を9b、以降同様に、配置部8jに配置する記録素子基板を9jの符号で表す。また、記録素子基板9aの厚さをTa、記録素子基板9bの厚さをTb、以降同様に、記録素子基板9jの厚さをTjと称する。
【0027】
なお、フォトリソグラフィ技術を用いて、1枚のシリコン基板上に多数個分の記録素子を形成し、それを切断して多数個の記録素子基板9とした場合には、同一シリコン基板から切り出した各記録素子基板9の厚さは略均一となっている。従って、1つのベースプレート1に配置する各記録素子基板9が全て同一シリコン基板から切り出された場合は、個々の記録素子基板9の厚さ測定を省略することができる。その際は、記録素子基板9の各厚さTa〜Tjを記録素子基板9の設計厚さにて代用すれば良い。
【0028】
次に、仮想の基準面を設定する(S103)。この工程S103について、図5を参照して説明する。図5(a)は、記録素子基板接着面6を下側とした、ベースプレート1の側面図であり、ベースプレート1が凸状に反っている状態を表している。工程S101の第1の主面上の測定点A1とB10、即ち、配置部8a〜8jの最も起点Sに近い測定点であるA1と最も遠い測定点であるB10の高さ方向の位置が、同一水平面内となるように、ベースプレート1の傾きを調整した面を仮想する。この仮想した面を基準面20とする。また、図5(b)は、ベースプレート1が凹状に反っている状態を表しているが、基準面の設定方法は、上述のベースプレート1が凸状に反っている状態と同様である。以降の工程においても、ベースプレート1の反り方向や形状がどのようであっても、同様の処理を行うため、図5(a)のベースプレート1が凸状に反っている形状にて説明する。
【0029】
次に、図示しない制御装置が各配置部8a〜8jの傾きを算出する(S104)。この工程S104について、図6を参照して説明する。図6(a)は、記録素子基板接着面6を下側とした、ベースプレート1全体の側面図である。
【0030】
先ず、基点Sに最も近くに位置する、記録素子基板9の配置部8aの傾き算出について説明する。図6(b)は、図6(a)における、配置部8a周辺を拡大した図である。工程S101で測定した、測定点A1およびB1における記録素子基板接着面6の高さ測定値より、測定点A1と測定点B1の高さの差が求められる。また、測定点A1と測定点B1の距離は、配置部8aの幅となる。そのため、測定点A1と測定点B1の高さの差と、測定点A1と測定点B1の距離から、配置部8aと基準面20との角度θaを算出する。また、配置部8bの傾きθbは、配置部8bと基準面20のなす角度となる。なお、θbの説明を分かりやすくするため、基準面20に平行な面21を、図6(b)に記載した。傾きθbの求め方は、θaと同様である。以降同様に配置部8jまで、10箇所の各配置部8a〜8jと基準面20との角度について算出する。それぞれ算出した角度をθa〜θjとする。なお、角度の符号は、基準面20(平行な面21も含む)に対して、記録素子基板接着面6が右上がりの傾斜の場合は正値、右下がり傾斜の場合は負値とする。例えば、図6(c)は、図6(b)の反り形状が正反対の場合を表しているが、その際の記録素子基板配置部8aおよび8bの傾き角度は負値となる。
【0031】
次に、各配置部8a〜8jの反り量を算出する(S105)。この工程S105について、図7を参照して説明する。図7(a)は、ベースプレート1の記録素子基板接着面6を下側とした際の側面図であり、図7(b)は、配置部8aおよび8b周辺の拡大図である。各配置部8a〜8jの反り量は、各配置部8a〜8jの中心位置C1〜C10における、記録素子基板接着面6から基準面20までの最短距離とし、配置部8aの反り量をRa、配置部8bの反り量をRbとする。以降同様に、配置部8jの反り量をRjとする(不図示)。
【0032】
次に、インクの着弾のずれ量を算出する(S106)。この工程S106について図8を参照して説明する。図8(a)は、工程S101にて説明した所定位置に、各記録素子基板9a〜9jを記録素子基板接着面6に押し付けて配置して、基準面20に平行かつ所定の距離Kだけ離れた位置の記録媒体31にインクを吐出した場合を想定した側面図である。また、図8(b)は、記録素子基板9a、9b周辺の拡大図である。各記録素子基板9a〜9jは、厚さtの接着剤30を使用して接着したものと仮定して着弾のずれ量の算出を行う。ただし、実際には、ベースプレート1に記録素子基板9a〜9jを取り付ける前に、工程106を行う。
【0033】
インクの吐出方向は、吐出口が向いている方向、即ち、基準面20と直交する方向より工程S104にて算出した配置部の傾きθ分ずれた方向となる。そのため、各記録素子基板9から吐出したインク滴の着弾位置が、反り(傾きθ)が存在しないと仮定したときのインク滴の着弾位置、すなわち、基準面20と直交する方向に記録素子基板9から延ばした直線が記録媒体31と交わる位置(所定位置)からずれる。この着弾のずれ量Xの算出は、次式にて算出される。
【0034】
着弾のずれ量X=(K+R−T−t)×tanθ
ここで、K:基準面と記録紙との間の距離
R:工程S105で算出した、記録素子基板配置部の反り量
T:工程S102で測定した、記録素子基板の厚さ
t:接着剤の厚さ
θ:工程S104で算出した、記録素子基板配置部の傾き
である。
【0035】
上記の式を用いて、記録素子基板9a〜9jについて算出した、各々の着弾のずれ量をXa〜Xjとする。なお、着弾のずれ量Xの符号が正値の場合は、着弾位置が記録素子基板配置部8の中心位置Cよりも基点Sとは反対側(図中右側)にずれ、負値の場合は中心位置Cよりも基点S側(図中左側)にずれることになる。
【0036】
図8(c)のようにベースプレートが下に凸状となっている場合は、図8(d)の拡大図のように、記録素子基板9aからの着弾位置はC1よりも基点S側(図中左側)にずれ、ずれ量Xaは負値となる。
【0037】
最後に、各記録素子基板9a〜9jの実際の配置位置8a’〜8j’を算出する(S107)。この工程S107について、図9を参照して説明する。先ず、記録素子基板9aを配置する配置部8aの位置(基点Sに近い側の端部位置)は、図3(a)のA1、即ち、基点Sからの所定距離であったLよりも、工程S106で算出した着弾のずれ量のXaに相当する距離分、補正(加減算)した位置A1’となる。次に、配置部8bの位置は、所定位置のA2よりも、Xbの距離分補正した位置A2’となる。以降同様に、記録素子基板9c〜9jを配置する位置は、A3’〜A10’となる。なお、補正前の配置位置8a〜8j同士の間の間隔が、工程S107における配置位置の補正を許容する大きさとなるように、ピッチPは大きめに設定されている。
【0038】
以上の工程により補正した実際の配置位置8a’〜8j’に、各記録素子基板9a〜9jを接着固定して製造された記録ヘッドによる記録は、ベースプレート1の反り、記録素子基板9a〜9jの厚さのばらつきなどの影響を受けずに良好に行える。そのため、高い記録品位が実現する。
【0039】
また、従来技術では、各記録素子基板をベースプレートに接着する接着剤の厚さが不均一であったため、記録素子基板ごとに熱伝導率が異なっていた。しかしながら、本発明では、各記録素子基板9をベースプレート1に接着する接着剤の厚さtを均一にすることができるので、記録素子基板ごとの熱伝導率を均一にすることができる。
【0040】
[第2の実施形態]
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態は、図2のフローチャートに示す第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態と比較して、工程S101におけるベースプレート1の形状を測定する測定点の数が異なる。なお、本実施形態でも1つのベースプレート1に10個の記録素子基板9a〜9jを配置するものとして説明する。
【0041】
本実施形態のベースプレートの形状測定工程S101を説明するための図は、第1の実施形態の工程S101で使用した図3と同じため、図3を参照して説明する。第1の実施形態では、1個の記録素子基板あたり、各配置部8a〜8jの両端および中央の3箇所、即ち、ベースプレート1全体では30箇所の高さを測定していた。本実施形態では、ペースプレート1の一方の端部に最も近い位置に配置されている配置部の一方の端部側の端部の高さと、ベースプレート1の他方の端部に最も近い位置に配置されている配置部の他方の端部側の端部の高さを求める。さらに、ベースプレート1の中央付近に配置される配置部の両端部のどちらか一方の端部の高さを求める。具体的には、図3の測定点A1、A6、B10の3箇所のみの高さを測定する。この3箇所は、基点Sから最も近い測定点A1と、最も離れた測定点B10と、中央付近の測定点A6(測定点A6の代わりにB5にしてもよい)である。測定しなかった27箇所については、測定した3箇所の測定値を基に計算により補間した値を用いて以降の工程を実施する。
【0042】
次に、測定しなかった箇所の高さ補間方法について、図10を参照して説明する。図10は、測定した3箇所(A1、A6、B10)の高さをプロットし、プロット点を直線で結んだグラフである。横軸は、基点Sからの距離、縦軸は、高さを示している。測定していない箇所の基点Sからの距離は、所定位置として、予め決まっているため、図10のグラフから、各測定点の高さ推測値を得ることができる。
【0043】
この方法は、ベースプレート1の反りの傾向が、極大または極小点が1箇所のような比較的単純な形状の場合には、測定に要する時間が短縮できるため有効である。次の工程S102以降は、第1の実施形態と同じ工程を行うことにより、良好な記録ができる。
【0044】
なお、本実施形態では、3箇所の高さを測定して、残りをグラフから求めることとしたが、測定点は3つ以上であればよい。測定点の数を増やせば、精度はより向上する。
【0045】
[第3の実施形態]
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第3の実施形態を説明する。第3の実施形態は図2のフローチャートに示す第1の実施形態と同様であるが、ベースプレート1の形状測定工程S101の内容が異なる。その他については、第1の実施形態と同様のため説明を省略する。
【0046】
本実施形態では、ベースプレート1の形状を測定する際は、記録装置にて記録する際の記録ヘッドと同様な状態で測定を行う。第1の実施形態におけるベースプレート1の形状測定は、記録ヘッドを製造する環境の温度(約25℃)下にて、ベースプレート1をプレート台2に載せた状態で測定していた。記録ヘッドを実際に記録する際は、ベースプレート1の両端に設けられたボルト穴3にボルトを挿入し、記録装置のヘッド取り付け部に締め付けて固定される。また、記録時は、インクを35℃に保温した状態で使用している。そこで、本実施形態では、ベースプレート1の形状を測定する際も実際の使用環境温度下と同様の状態にするため、ベースプレート1の両端をボルトで固定し、35℃の温度環境下にて測定する。その必要性について以下に説明する。
【0047】
図11は、板材101の変形を説明するための図であり、(a)は製造時の温度環境下による板材101の形状を示している。図11(b)は、使用時の温度が、製造時の温度よりも高い場合に、熱膨張により伸びた状態を示している。なお、同図では、板材101の長手方向の両端には何も障害物などが無く、熱膨張を妨げる要因が無い場合の状態である。そして、図11(c)は、製造時の温度環境下において、板材101の両端を固定治具105で挟み、ボルト106で固定した状態で、使用時の温度まで上昇した状態を示している。図11(b)では、図11(a)に比べて板材101の長さが長くなったが、図11(c)では、板材101の両端が固定されているため、長手方向には長くならず、反りとして変形する。なお、図11(c)では、図中、上側に凸となるように反っているが、実際は下側に凸となることもある。また、製造時の温度環境下で既に反っていた場合は、その反り量が更に大きくなる。
【0048】
したがって、本実施形態における、ベースプレート1の形状測定工程S101は、図1に示すベースプレート1の形状測定装置の全体を恒温ケース(不図示)で囲う。さらに、恒温ケース内を25℃に保った状態にてベースプレート1の両端をプレート台2に不図示のボルトで固定し、その後、恒温ケース内を35℃に保ってから測定を行う。このように、ベースプレート1を固定した後で、測定環境温度を上昇させると、熱膨張によりベースプレート1に変形が生じるが、両端が固定されているため、長さが単純に伸びる訳ではなく、反りとして変形する。なお、ベースプレート1の形状を測定する位置および、以降の工程S102は、第1の実施形態と同様である。本実施形態によれば、実際の使用環境の下で測定を行うので、記録した際の着弾位置をより高精度にすることが可能となる。
【0049】
なお、本実施形態では、記録装置への記録ヘッド取り付けがベースプレート両端のボルト固定であったため、測定時も同様に固定したが、これに限定される訳ではなく、記録装置への取り付けと同様、または、類似した方法で測定することが重要である。
【0050】
[第4の実施形態]
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第4の実施形態を説明する。第4の実施形態は、図2のフローチャートに示す第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態と比較して、ベースプレート形状測定工程S101と、基準面の設定工程S103が異なる。その他については、第1の実施形態と同様のため、説明を省略する。また、第1の実施形態と同じものを表す際は、第1の実施形態と同じ符号を用いることとする。
【0051】
本実施形態によって製造した記録ヘッドの概略構成図を図12に示す。図12(a)は、ベースプレート1をベースプレート固定台50(以下、「固定台」と称する)に固定した状態を示した斜視図であり、図12(b)は、その平面図である。本実施形態の記録ヘッドを記録装置に搭載する際は、ベースプレート1の両端と固定台50をボルトにて固定し、固定台50の両端付近に設けられた位置決めピン51が記録装置内の不図示のヘッド受け部に当接するように固定される。また、位置決めピン51は、先端が球形状になっている。
【0052】
このような構成における、配置部8a〜8jは、一方の端(図12では左側)の位置決めピン51の中心を基点Sとして、所定距離L2離れた位置に配置部8aの基点S側の端部A1が位置し、以降、所定ピッチP毎に配置部8b〜8jが配置されている。
【0053】
本実施形態における、ベースプレート1の形状測定工程S101は、記録ヘッドを記録装置に搭載すると同様に、ベースプレート1の両端と固定台50をボルトで固定し、図2と同様の構成の測定装置を使用して、各配置部8a〜8jの高さを測定する。その際、2つの位置決めピン51の先端高さも併せて測定する。さらに、第3の実施形態で説明したように、測定環境温度を、記録時と同じ温度下(35℃)にして測定することが好ましい。
【0054】
次に、本実施形態における、基準面の設定工程S103について図13を参照して説明する。図13は、固定台50に取り付けられたベースプレート1の、記録素子基板接着面6を下側としたときの側面図である。第1の実施形態の基準面は、配置部8の最外部の高さを同一面としたが、本実施形態では、2つの位置決めピン51の先端部同士が同一面となるようにした面を基準面20とする。
【0055】
記録素子基板の厚さ測定工程S102、および、工程S104以降の工程は、第1の実施形態と同様である。このような工程を実施することにより、記録ヘッドを記録装置に搭載する際の位置を決める部位が、記録素子基板から離れている場合においても良好な記録ができる。
【0056】
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態を説明する。第1〜第4の実施形態では、実際にインク吐出を行わずに着弾位置を算出したが、本実施形態では、実際にインク吐出を行った結果より、以降に製造する際の記録素子基板配置位置を補正する。以下、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第1の実施形態と同じものを表す場合は、第1の実施形態と同じ符号を用いる。
【0057】
本実施形態における記録ヘッドの製造方法のフローチャートを図14に示す。
【0058】
始めに、着弾位置確認用記録ヘッドを製造する(S501)。この工程S501について説明する。ベースプレート1に各記録素子基板9a〜9jを所定位置に配置し、記録ヘッドを完成させる。ここで、所定位置とは、第1の実施形態の工程S101にて説明した、図3に示す所定位置であるため、ここでの説明を省略する。
【0059】
次に、着弾位置を測定する(S502)。この工程S502について説明する。工程S502では、工程S501で製造した記録ヘッドを記録装置に搭載し、全吐出口から記録媒体へ実際にインクを吐出する。
【0060】
記録用紙にインクが着弾した状態の平面図を図15に示す。図15(a)は、着弾ドット全体を示している。記録素子基板9aから吐出して着弾したドットを41a、記録素子基板9bからの着弾ドットを41b、以降同様に、41c〜41jとなっている。図15(b)は、着弾ドット41b周辺を拡大したものである。なお、説明を分かり易くするため、同一の記録素子基板9からの着弾ドット間隔は、全て同じ間隔Dとしている。図15(b)より、隣接する記録素子基板(例えば記録素子基板9aと記録素子基板9b)の着弾ドット間隔は、ベースプレート1の反りなどにより、一定間隔Dとは異なった間隔となっている。記録素子基板9aと9b間の着弾ドット間隔をDabとし、記録素子基板9bと9c間の着弾ドット間隔をDbc、以降同様に、記録素子基板9iと9j間の着弾ドット間隔をDijとする。各着弾ドット間隔Dab〜Dijを、顕微鏡などを使用して正確に測定する。
【0061】
次に、記録素子基板9a〜9jの補正位置を算出する(S503)。この工程について説明する。本実施形態では、配置部8aの位置を固定して、残りの配置部8b〜8jの位置を補正する方法について説明するが、例えば、中央付近の配置部8eを基準としてその他の配置部8a〜d、8f〜8jの位置を補正しても良い。
【0062】
先ず、配置部8bの補正位置を算出するにあたり、着弾ドット間隔Dabの一定間隔Dからのずれ量Δabを算出する。その結果、Δabが0ならば配置部8bは現状通りの位置とし、プラス値ならば配置部8bをΔabだけ、配置部8aに近寄せる。逆に、マイナス値ならば配置部8bをΔabだけ、配置部8aから遠ざける。このようにして算出した位置を配置部8bの補正後の位置とする。
【0063】
次に、配置部8cの補正位置を算出する。ここで一定間隔Dと比較する距離は、工程S502で測定したDbcに、先に求めた配置部8bの補正量Δabを加算した値をΔbcとして用いる。そして、上記と同様に、配置部8cの補正位置を算出する。その結果、Δbcが0ならば配置部8cは現状通りの位置とし、プラス値ならば配置部8cをΔbcだけ、配置部8bに近寄せる。逆に、マイナス値ならば配置部8bをΔbcだけ、配置部8bから遠ざける。以降同様の方法にて、各配置部8d〜8jを補正する位置を算出する。
【0064】
そして、以降に製造する記録ヘッドにおいて、各補正後の位置に記録素子基板を配置すれば、各記録素子基板9a〜9j同士間の着弾ドット間隔を一定間隔Dにすることができ、良好な記録が得られる。
【0065】
本実施形態は、着弾位置確認用記録ヘッド以外は測定する必要がないため、各ベースプレート1の形状、および、変形について固体差が小さい場合は、時間的に有利である。
【符号の説明】
【0066】
1 ベースプレート(ヘッド基板)
6 記録素子基板接着面(第1の主面)
8(8a〜8j)配置部
8’(8a’〜8j’)配置位置
9(9a〜9j)記録素子基板
20基準面
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等を吐出して記録動作を行う記録装置に適用されるインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置の1つであるインクジェット記録装置(以下「記録装置」と称する)は、コンピュータに接続された出力機器等に幅広く利用され、商品化されている。近年では、より高速に高画質な記録をするため、より記録幅の長いインクジェット記録ヘッド(以下「記録ヘッド」と称する)が望まれている。
【0003】
一般的な記録装置としては、インクを吐出する吐出口を有する記録ヘッドがインクの吐出を行いながら、紙などの被記録媒体に対して走査して記録を行う方式が広く知られている。また、記録幅の長いヘッドの場合、被記録媒体を搬送ベルト上に固定し、被記録媒体を走査させることで、高速に記録を行うことのできる記録装置が知られている。
【0004】
このように長い記録幅をもった記録ヘッドを、1枚の記録素子基板で構成しようとすると、記録素子基板を長くする必要があるが、不良品が発生する可能性が高くなり、記録素子基板自体の歩留まりが低下してしまう等の問題が発生してしまう。そのため、適度な長さの(つまり、適度なノズル数を有する)記録素子基板を、記録幅と同等以上の長さのヘッド基板上に複数個配列して、全体として長い記録幅の記録ヘッドを実現する構成が考えられている。
【0005】
ところが、ヘッド基板が長くなると、ヘッド基板自体に反りやうねりが生じることがある。そのため、記録素子基板をヘッド基板面に沿うように固定すると、記録素子基板毎にインク吐出方向が変わってしまい、インクの着弾精度が低下してしまう。また、個々の記録素子基板の厚さにばらつきがあると、吐出口から被記録媒体までの距離が記録素子基板毎に変わってしまうため、インクの着弾精度が低下してしまう。
【0006】
そこで、特許文献1では、ヘッド基板と記録素子基板を接着する接着剤の厚さを、記録素子基板毎に変えて、各記録素子基板のインクの吐出口形成面が同一平面上に位置するようにする構成が提案されている。特許文献1(特に図3(A)参照)によると、長尺基板(ヘッド基板)上に、記録ヘッドユニット(記録素子基板)が、接着剤にて接着固定されている。このとき、長尺基板に反りが生じている場合、または、個々の記録ヘッドユニットの厚さにばらつきがある場合であっても、各記録ヘッドユニット下の接着剤の厚さを変えることにより吐出口形成面を同一面にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−256051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記先行技術には、以下のような問題があった。
【0009】
特許文献1の方法では、インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子として、電気熱変換素子を用いた場合、インク吐出のために発生させた熱がヘッド基板へ伝導する際に、接着剤の厚さの差により、記録素子基板毎に熱伝導が異なってしまう。即ち、記録素子基板毎に放熱特性が異なり、その結果、インクの吐出量やインクの吐出速度が記録素子基板同士で異なり、記録品位が低下してしまう。
【0010】
そこで、本発明は、上記先行技術が有する問題点に鑑み、ヘッド基板に反りがある場合においても、各記録素子基板の吐出特性に差が生じることなく、高品位な記録が可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、ヘッド基板の主面の高さを少なくとも3つの測定点で測定する工程と、測定点のうち、主面上の2点を通る基準面を設定する工程とを有する。また、基準面内に含まれる2点以外の測定点の基準面からの距離をそれぞれ求める工程を有する。そして、記録素子基板をヘッド基板に設けられた複数の配置部にそれぞれ配置し、基準面から所定の距離離れた位置に該基準面に平行に記録媒体を配置したと想定する。この想定で、記録媒体上の、基準面と直交する方向に記録素子基板から延ばした直線が記録媒体と交わる位置と、記録素子基板のインクの吐出口が向いている方向の延長線が前記記録媒体と交わる位置との差である着弾のずれ量を算出する工程を有する。さらに、着弾のずれ量に応じて各配置部の位置を補正して、各記録素子基板のヘッド基板上での配置位置を決定する工程と、を少なくとも含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各記録素子基板から吐出し被記録媒体に着弾したインク滴の着弾位置が、所定の着弾位置からずれる量を小さくすることができる。その結果、高品位な記録が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ベースプレートの形状測定装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第1の実施形態であり、記録素子基板のヘッド基板上の配置位置を決定するフローチャートである。
【図3】ベースプレートの概略上面図である。
【図4】記録素子基板が、厚さ測定装置の基板台に搭載された状態を示す図である。
【図5】基準面を設定する工程を説明する図である。
【図6】各配置部の傾きを算出する工程を説明する図である。
【図7】各配置部の反り量を算出する工程を説明する図である。
【図8】着弾のずれ量を算出する工程を説明する図である。
【図9】各記録素子基板の実際の配置位置を算出する工程を説明する図である。
【図10】第2の実施形態において、測定しなかった箇所の高さ補間方法について説明する図である。
【図11】第3の実施形態における板材の変形を説明するための図である。
【図12】第4の実施形態における記録ヘッドの概略構成図である。
【図13】固定台に取り付けられたベースプレートの、記録素子基板接着面6を下側としたときの側面図である。
【図14】第5の本実施形態における記録ヘッドの製造方法のフローチャートである。
【図15】記録用紙にインクが着弾した状態の記録用紙の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、ベースプレートの形状測定装置の概略構成図である。
【0016】
この形状測定装置において、被測定物であるヘッド基板(以降、「ベースプレート」と称する)1が搭載されるプレート台2は、ステージ4上に搭載されており、ベースプレート1の長手方向(図中の矢印方向)に移動可能である。また、プレート台2には、逃がし穴7が設けられている。そして、プレート台2の、ベースプレート1が配置される位置の上方には、変位センサ5が設けられ、図示しない支持手段に支持されている。
【0017】
図2は、本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第1の実施形態であり、記録素子基板のヘッド基板上の配置位置を決定するフローチャートである。
【0018】
始めに、ベースプレートの形状測定を行う(S101)。この工程S101について、図1、図3を参照して説明する。
【0019】
ベースプレート1が第1の主面である記録素子基板接着面6を上にして、プレート台2に載せられている。ベースプレート1の、記録素子基板接着面6の反対側の面13を第2の主面とする。また、ベースプレート1の両端には、記録ヘッドを記録装置に固定するためのボルト穴3が4箇所設けられている。なお、ベースプレート1の形状は、平坦ではなく、厚さ方向に多少の反りが生じている場合がある。上述したように、プレート台2に逃がし穴7が設けられているので、ベースプレート1がプレート台2側に凸となるように反っていた場合においても、ベースプレート1がプレート台2上で安定するようになっている。
【0020】
次に、ベースプレート1の形状を測定する位置について説明する。なお、本実施形態の記録ヘッドは、1つのベースプレート1に複数の記録素子基板、具体的には10個の記録素子基板を配置するものとして説明する。
【0021】
図3に、ベースプレート1の概略上面図を示す。複数配置される配置部8a〜8jは各記録素子基板9(図4参照)が配置される位置を示している。
【0022】
ここで、配置部8a〜8jを具体的に説明する。ベースプレート1の一方の端(図3では左端)を基点Sとして、配置部8aの基点S側の端部を、基点Sから所定距離Lだけ離れた位置A1とし、A1から一定のピッチP離れた位置を、配置部8bの基点S側の端部の位置A2とする(図3(a)参照)。以降、同様に、ピッチP毎にA3〜A10とする。ピッチPは記録素子基板9の長さに、記録素子基板9同士の間の所定の間隔を加えた長さである。また、各配置部8a〜8jの基点Sから遠い側の端部をB1〜B10とし(図3(b)参照)、各配置部8a〜8jの中心位置をC1〜C10とする(図3(c)参照)。本実施形態では、これらの位置A1〜A10、B1〜B10、およびC1〜C10を測定点とする。
【0023】
ステージ4を走査させ、変位センサ5のセンシング位置が各測定点、すなわちA1〜A10、B1〜B10、および、C1〜C10の各位置となった際に、各位置における、変位センサ5から記録素子基板接着面6の各位置までの距離を測定する。そして、変位センサ5からプレート台2の上面までの距離を測定する。両測定値の差から、記録素子基板接着面6の高さが得られる。
【0024】
なお、ベースプレート1の全域において、ベースプレート1がほぼ平坦であり、凹凸が無いような場合は、ベースプレート1を裏向きに搭載して、記録素子基板接着面6の反対側の面13(第2の主面)を測定しても良い。
【0025】
次に、各記録素子基板9a〜9jの厚さを測定する(S102)。この工程S102について、図4を参照して説明する。記録素子基板9a〜9jの厚さの測定に用いられる厚さ測定装置は、前記した形状測定装置と同様に、移動可能な基板台11と変位センサ12を有している。図4は、記録素子基板9を吐出口10が形成された面を上にして、移動機構が付いた基板台11に搭載した状態を示している。また、記録素子基板9の上方、つまり吐出口10と対向する側に、変位センサ12が設置されている。変位センサ12にて、変位センサ12から記録素子基板9の吐出口10形成面、および、基板台11上面までの距離をそれぞれ測定し、両測定値の差より、記録素子基板9の厚さが得られる。
【0026】
先述したように、本実施形態では、1つのベースプレート1に記録素子基板9を10個配置するため、10個全ての記録素子基板9の厚さを測定する。なお、図3(a)の配置部8aに配置する記録素子基板を9a、配置部8bに配置する記録素子基板を9b、以降同様に、配置部8jに配置する記録素子基板を9jの符号で表す。また、記録素子基板9aの厚さをTa、記録素子基板9bの厚さをTb、以降同様に、記録素子基板9jの厚さをTjと称する。
【0027】
なお、フォトリソグラフィ技術を用いて、1枚のシリコン基板上に多数個分の記録素子を形成し、それを切断して多数個の記録素子基板9とした場合には、同一シリコン基板から切り出した各記録素子基板9の厚さは略均一となっている。従って、1つのベースプレート1に配置する各記録素子基板9が全て同一シリコン基板から切り出された場合は、個々の記録素子基板9の厚さ測定を省略することができる。その際は、記録素子基板9の各厚さTa〜Tjを記録素子基板9の設計厚さにて代用すれば良い。
【0028】
次に、仮想の基準面を設定する(S103)。この工程S103について、図5を参照して説明する。図5(a)は、記録素子基板接着面6を下側とした、ベースプレート1の側面図であり、ベースプレート1が凸状に反っている状態を表している。工程S101の第1の主面上の測定点A1とB10、即ち、配置部8a〜8jの最も起点Sに近い測定点であるA1と最も遠い測定点であるB10の高さ方向の位置が、同一水平面内となるように、ベースプレート1の傾きを調整した面を仮想する。この仮想した面を基準面20とする。また、図5(b)は、ベースプレート1が凹状に反っている状態を表しているが、基準面の設定方法は、上述のベースプレート1が凸状に反っている状態と同様である。以降の工程においても、ベースプレート1の反り方向や形状がどのようであっても、同様の処理を行うため、図5(a)のベースプレート1が凸状に反っている形状にて説明する。
【0029】
次に、図示しない制御装置が各配置部8a〜8jの傾きを算出する(S104)。この工程S104について、図6を参照して説明する。図6(a)は、記録素子基板接着面6を下側とした、ベースプレート1全体の側面図である。
【0030】
先ず、基点Sに最も近くに位置する、記録素子基板9の配置部8aの傾き算出について説明する。図6(b)は、図6(a)における、配置部8a周辺を拡大した図である。工程S101で測定した、測定点A1およびB1における記録素子基板接着面6の高さ測定値より、測定点A1と測定点B1の高さの差が求められる。また、測定点A1と測定点B1の距離は、配置部8aの幅となる。そのため、測定点A1と測定点B1の高さの差と、測定点A1と測定点B1の距離から、配置部8aと基準面20との角度θaを算出する。また、配置部8bの傾きθbは、配置部8bと基準面20のなす角度となる。なお、θbの説明を分かりやすくするため、基準面20に平行な面21を、図6(b)に記載した。傾きθbの求め方は、θaと同様である。以降同様に配置部8jまで、10箇所の各配置部8a〜8jと基準面20との角度について算出する。それぞれ算出した角度をθa〜θjとする。なお、角度の符号は、基準面20(平行な面21も含む)に対して、記録素子基板接着面6が右上がりの傾斜の場合は正値、右下がり傾斜の場合は負値とする。例えば、図6(c)は、図6(b)の反り形状が正反対の場合を表しているが、その際の記録素子基板配置部8aおよび8bの傾き角度は負値となる。
【0031】
次に、各配置部8a〜8jの反り量を算出する(S105)。この工程S105について、図7を参照して説明する。図7(a)は、ベースプレート1の記録素子基板接着面6を下側とした際の側面図であり、図7(b)は、配置部8aおよび8b周辺の拡大図である。各配置部8a〜8jの反り量は、各配置部8a〜8jの中心位置C1〜C10における、記録素子基板接着面6から基準面20までの最短距離とし、配置部8aの反り量をRa、配置部8bの反り量をRbとする。以降同様に、配置部8jの反り量をRjとする(不図示)。
【0032】
次に、インクの着弾のずれ量を算出する(S106)。この工程S106について図8を参照して説明する。図8(a)は、工程S101にて説明した所定位置に、各記録素子基板9a〜9jを記録素子基板接着面6に押し付けて配置して、基準面20に平行かつ所定の距離Kだけ離れた位置の記録媒体31にインクを吐出した場合を想定した側面図である。また、図8(b)は、記録素子基板9a、9b周辺の拡大図である。各記録素子基板9a〜9jは、厚さtの接着剤30を使用して接着したものと仮定して着弾のずれ量の算出を行う。ただし、実際には、ベースプレート1に記録素子基板9a〜9jを取り付ける前に、工程106を行う。
【0033】
インクの吐出方向は、吐出口が向いている方向、即ち、基準面20と直交する方向より工程S104にて算出した配置部の傾きθ分ずれた方向となる。そのため、各記録素子基板9から吐出したインク滴の着弾位置が、反り(傾きθ)が存在しないと仮定したときのインク滴の着弾位置、すなわち、基準面20と直交する方向に記録素子基板9から延ばした直線が記録媒体31と交わる位置(所定位置)からずれる。この着弾のずれ量Xの算出は、次式にて算出される。
【0034】
着弾のずれ量X=(K+R−T−t)×tanθ
ここで、K:基準面と記録紙との間の距離
R:工程S105で算出した、記録素子基板配置部の反り量
T:工程S102で測定した、記録素子基板の厚さ
t:接着剤の厚さ
θ:工程S104で算出した、記録素子基板配置部の傾き
である。
【0035】
上記の式を用いて、記録素子基板9a〜9jについて算出した、各々の着弾のずれ量をXa〜Xjとする。なお、着弾のずれ量Xの符号が正値の場合は、着弾位置が記録素子基板配置部8の中心位置Cよりも基点Sとは反対側(図中右側)にずれ、負値の場合は中心位置Cよりも基点S側(図中左側)にずれることになる。
【0036】
図8(c)のようにベースプレートが下に凸状となっている場合は、図8(d)の拡大図のように、記録素子基板9aからの着弾位置はC1よりも基点S側(図中左側)にずれ、ずれ量Xaは負値となる。
【0037】
最後に、各記録素子基板9a〜9jの実際の配置位置8a’〜8j’を算出する(S107)。この工程S107について、図9を参照して説明する。先ず、記録素子基板9aを配置する配置部8aの位置(基点Sに近い側の端部位置)は、図3(a)のA1、即ち、基点Sからの所定距離であったLよりも、工程S106で算出した着弾のずれ量のXaに相当する距離分、補正(加減算)した位置A1’となる。次に、配置部8bの位置は、所定位置のA2よりも、Xbの距離分補正した位置A2’となる。以降同様に、記録素子基板9c〜9jを配置する位置は、A3’〜A10’となる。なお、補正前の配置位置8a〜8j同士の間の間隔が、工程S107における配置位置の補正を許容する大きさとなるように、ピッチPは大きめに設定されている。
【0038】
以上の工程により補正した実際の配置位置8a’〜8j’に、各記録素子基板9a〜9jを接着固定して製造された記録ヘッドによる記録は、ベースプレート1の反り、記録素子基板9a〜9jの厚さのばらつきなどの影響を受けずに良好に行える。そのため、高い記録品位が実現する。
【0039】
また、従来技術では、各記録素子基板をベースプレートに接着する接着剤の厚さが不均一であったため、記録素子基板ごとに熱伝導率が異なっていた。しかしながら、本発明では、各記録素子基板9をベースプレート1に接着する接着剤の厚さtを均一にすることができるので、記録素子基板ごとの熱伝導率を均一にすることができる。
【0040】
[第2の実施形態]
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態は、図2のフローチャートに示す第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態と比較して、工程S101におけるベースプレート1の形状を測定する測定点の数が異なる。なお、本実施形態でも1つのベースプレート1に10個の記録素子基板9a〜9jを配置するものとして説明する。
【0041】
本実施形態のベースプレートの形状測定工程S101を説明するための図は、第1の実施形態の工程S101で使用した図3と同じため、図3を参照して説明する。第1の実施形態では、1個の記録素子基板あたり、各配置部8a〜8jの両端および中央の3箇所、即ち、ベースプレート1全体では30箇所の高さを測定していた。本実施形態では、ペースプレート1の一方の端部に最も近い位置に配置されている配置部の一方の端部側の端部の高さと、ベースプレート1の他方の端部に最も近い位置に配置されている配置部の他方の端部側の端部の高さを求める。さらに、ベースプレート1の中央付近に配置される配置部の両端部のどちらか一方の端部の高さを求める。具体的には、図3の測定点A1、A6、B10の3箇所のみの高さを測定する。この3箇所は、基点Sから最も近い測定点A1と、最も離れた測定点B10と、中央付近の測定点A6(測定点A6の代わりにB5にしてもよい)である。測定しなかった27箇所については、測定した3箇所の測定値を基に計算により補間した値を用いて以降の工程を実施する。
【0042】
次に、測定しなかった箇所の高さ補間方法について、図10を参照して説明する。図10は、測定した3箇所(A1、A6、B10)の高さをプロットし、プロット点を直線で結んだグラフである。横軸は、基点Sからの距離、縦軸は、高さを示している。測定していない箇所の基点Sからの距離は、所定位置として、予め決まっているため、図10のグラフから、各測定点の高さ推測値を得ることができる。
【0043】
この方法は、ベースプレート1の反りの傾向が、極大または極小点が1箇所のような比較的単純な形状の場合には、測定に要する時間が短縮できるため有効である。次の工程S102以降は、第1の実施形態と同じ工程を行うことにより、良好な記録ができる。
【0044】
なお、本実施形態では、3箇所の高さを測定して、残りをグラフから求めることとしたが、測定点は3つ以上であればよい。測定点の数を増やせば、精度はより向上する。
【0045】
[第3の実施形態]
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第3の実施形態を説明する。第3の実施形態は図2のフローチャートに示す第1の実施形態と同様であるが、ベースプレート1の形状測定工程S101の内容が異なる。その他については、第1の実施形態と同様のため説明を省略する。
【0046】
本実施形態では、ベースプレート1の形状を測定する際は、記録装置にて記録する際の記録ヘッドと同様な状態で測定を行う。第1の実施形態におけるベースプレート1の形状測定は、記録ヘッドを製造する環境の温度(約25℃)下にて、ベースプレート1をプレート台2に載せた状態で測定していた。記録ヘッドを実際に記録する際は、ベースプレート1の両端に設けられたボルト穴3にボルトを挿入し、記録装置のヘッド取り付け部に締め付けて固定される。また、記録時は、インクを35℃に保温した状態で使用している。そこで、本実施形態では、ベースプレート1の形状を測定する際も実際の使用環境温度下と同様の状態にするため、ベースプレート1の両端をボルトで固定し、35℃の温度環境下にて測定する。その必要性について以下に説明する。
【0047】
図11は、板材101の変形を説明するための図であり、(a)は製造時の温度環境下による板材101の形状を示している。図11(b)は、使用時の温度が、製造時の温度よりも高い場合に、熱膨張により伸びた状態を示している。なお、同図では、板材101の長手方向の両端には何も障害物などが無く、熱膨張を妨げる要因が無い場合の状態である。そして、図11(c)は、製造時の温度環境下において、板材101の両端を固定治具105で挟み、ボルト106で固定した状態で、使用時の温度まで上昇した状態を示している。図11(b)では、図11(a)に比べて板材101の長さが長くなったが、図11(c)では、板材101の両端が固定されているため、長手方向には長くならず、反りとして変形する。なお、図11(c)では、図中、上側に凸となるように反っているが、実際は下側に凸となることもある。また、製造時の温度環境下で既に反っていた場合は、その反り量が更に大きくなる。
【0048】
したがって、本実施形態における、ベースプレート1の形状測定工程S101は、図1に示すベースプレート1の形状測定装置の全体を恒温ケース(不図示)で囲う。さらに、恒温ケース内を25℃に保った状態にてベースプレート1の両端をプレート台2に不図示のボルトで固定し、その後、恒温ケース内を35℃に保ってから測定を行う。このように、ベースプレート1を固定した後で、測定環境温度を上昇させると、熱膨張によりベースプレート1に変形が生じるが、両端が固定されているため、長さが単純に伸びる訳ではなく、反りとして変形する。なお、ベースプレート1の形状を測定する位置および、以降の工程S102は、第1の実施形態と同様である。本実施形態によれば、実際の使用環境の下で測定を行うので、記録した際の着弾位置をより高精度にすることが可能となる。
【0049】
なお、本実施形態では、記録装置への記録ヘッド取り付けがベースプレート両端のボルト固定であったため、測定時も同様に固定したが、これに限定される訳ではなく、記録装置への取り付けと同様、または、類似した方法で測定することが重要である。
【0050】
[第4の実施形態]
本発明に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の第4の実施形態を説明する。第4の実施形態は、図2のフローチャートに示す第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態と比較して、ベースプレート形状測定工程S101と、基準面の設定工程S103が異なる。その他については、第1の実施形態と同様のため、説明を省略する。また、第1の実施形態と同じものを表す際は、第1の実施形態と同じ符号を用いることとする。
【0051】
本実施形態によって製造した記録ヘッドの概略構成図を図12に示す。図12(a)は、ベースプレート1をベースプレート固定台50(以下、「固定台」と称する)に固定した状態を示した斜視図であり、図12(b)は、その平面図である。本実施形態の記録ヘッドを記録装置に搭載する際は、ベースプレート1の両端と固定台50をボルトにて固定し、固定台50の両端付近に設けられた位置決めピン51が記録装置内の不図示のヘッド受け部に当接するように固定される。また、位置決めピン51は、先端が球形状になっている。
【0052】
このような構成における、配置部8a〜8jは、一方の端(図12では左側)の位置決めピン51の中心を基点Sとして、所定距離L2離れた位置に配置部8aの基点S側の端部A1が位置し、以降、所定ピッチP毎に配置部8b〜8jが配置されている。
【0053】
本実施形態における、ベースプレート1の形状測定工程S101は、記録ヘッドを記録装置に搭載すると同様に、ベースプレート1の両端と固定台50をボルトで固定し、図2と同様の構成の測定装置を使用して、各配置部8a〜8jの高さを測定する。その際、2つの位置決めピン51の先端高さも併せて測定する。さらに、第3の実施形態で説明したように、測定環境温度を、記録時と同じ温度下(35℃)にして測定することが好ましい。
【0054】
次に、本実施形態における、基準面の設定工程S103について図13を参照して説明する。図13は、固定台50に取り付けられたベースプレート1の、記録素子基板接着面6を下側としたときの側面図である。第1の実施形態の基準面は、配置部8の最外部の高さを同一面としたが、本実施形態では、2つの位置決めピン51の先端部同士が同一面となるようにした面を基準面20とする。
【0055】
記録素子基板の厚さ測定工程S102、および、工程S104以降の工程は、第1の実施形態と同様である。このような工程を実施することにより、記録ヘッドを記録装置に搭載する際の位置を決める部位が、記録素子基板から離れている場合においても良好な記録ができる。
【0056】
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態を説明する。第1〜第4の実施形態では、実際にインク吐出を行わずに着弾位置を算出したが、本実施形態では、実際にインク吐出を行った結果より、以降に製造する際の記録素子基板配置位置を補正する。以下、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第1の実施形態と同じものを表す場合は、第1の実施形態と同じ符号を用いる。
【0057】
本実施形態における記録ヘッドの製造方法のフローチャートを図14に示す。
【0058】
始めに、着弾位置確認用記録ヘッドを製造する(S501)。この工程S501について説明する。ベースプレート1に各記録素子基板9a〜9jを所定位置に配置し、記録ヘッドを完成させる。ここで、所定位置とは、第1の実施形態の工程S101にて説明した、図3に示す所定位置であるため、ここでの説明を省略する。
【0059】
次に、着弾位置を測定する(S502)。この工程S502について説明する。工程S502では、工程S501で製造した記録ヘッドを記録装置に搭載し、全吐出口から記録媒体へ実際にインクを吐出する。
【0060】
記録用紙にインクが着弾した状態の平面図を図15に示す。図15(a)は、着弾ドット全体を示している。記録素子基板9aから吐出して着弾したドットを41a、記録素子基板9bからの着弾ドットを41b、以降同様に、41c〜41jとなっている。図15(b)は、着弾ドット41b周辺を拡大したものである。なお、説明を分かり易くするため、同一の記録素子基板9からの着弾ドット間隔は、全て同じ間隔Dとしている。図15(b)より、隣接する記録素子基板(例えば記録素子基板9aと記録素子基板9b)の着弾ドット間隔は、ベースプレート1の反りなどにより、一定間隔Dとは異なった間隔となっている。記録素子基板9aと9b間の着弾ドット間隔をDabとし、記録素子基板9bと9c間の着弾ドット間隔をDbc、以降同様に、記録素子基板9iと9j間の着弾ドット間隔をDijとする。各着弾ドット間隔Dab〜Dijを、顕微鏡などを使用して正確に測定する。
【0061】
次に、記録素子基板9a〜9jの補正位置を算出する(S503)。この工程について説明する。本実施形態では、配置部8aの位置を固定して、残りの配置部8b〜8jの位置を補正する方法について説明するが、例えば、中央付近の配置部8eを基準としてその他の配置部8a〜d、8f〜8jの位置を補正しても良い。
【0062】
先ず、配置部8bの補正位置を算出するにあたり、着弾ドット間隔Dabの一定間隔Dからのずれ量Δabを算出する。その結果、Δabが0ならば配置部8bは現状通りの位置とし、プラス値ならば配置部8bをΔabだけ、配置部8aに近寄せる。逆に、マイナス値ならば配置部8bをΔabだけ、配置部8aから遠ざける。このようにして算出した位置を配置部8bの補正後の位置とする。
【0063】
次に、配置部8cの補正位置を算出する。ここで一定間隔Dと比較する距離は、工程S502で測定したDbcに、先に求めた配置部8bの補正量Δabを加算した値をΔbcとして用いる。そして、上記と同様に、配置部8cの補正位置を算出する。その結果、Δbcが0ならば配置部8cは現状通りの位置とし、プラス値ならば配置部8cをΔbcだけ、配置部8bに近寄せる。逆に、マイナス値ならば配置部8bをΔbcだけ、配置部8bから遠ざける。以降同様の方法にて、各配置部8d〜8jを補正する位置を算出する。
【0064】
そして、以降に製造する記録ヘッドにおいて、各補正後の位置に記録素子基板を配置すれば、各記録素子基板9a〜9j同士間の着弾ドット間隔を一定間隔Dにすることができ、良好な記録が得られる。
【0065】
本実施形態は、着弾位置確認用記録ヘッド以外は測定する必要がないため、各ベースプレート1の形状、および、変形について固体差が小さい場合は、時間的に有利である。
【符号の説明】
【0066】
1 ベースプレート(ヘッド基板)
6 記録素子基板接着面(第1の主面)
8(8a〜8j)配置部
8’(8a’〜8j’)配置位置
9(9a〜9j)記録素子基板
20基準面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド基板上にインクを吐出するための記録素子基板が複数配置されているインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記ヘッド基板の主面の高さを少なくとも3つの測定点で測定する工程と、
前記測定点のうち、前記主面の2つの測定点を通る基準面を設定する工程と、
前記基準面に含まれる前記2つの測定点ではない前記測定点の前記基準面からの距離をそれぞれ求める工程と、
前記記録素子基板を前記ヘッド基板に設けられた複数の配置部にそれぞれ配置し、前記基準面から所定の距離だけ離れた位置に該基準面に平行に記録媒体を配置したと想定した場合に、前記記録媒体の、前記基準面と直交する方向に前記記録素子基板から延ばした直線が前記記録媒体と交わる位置と、前記記録素子基板のインクの吐出口が向いている方向から延ばした線と前記記録媒体と交わる位置との差である着弾のずれ量を算出する工程と、
前記着弾のずれ量に応じて各前記配置部の位置を補正して、各前記記録素子基板の前記ヘッド基板上での配置位置を決定する工程と、
を少なくとも含む、インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記主面は、前記記録素子基板が配置される面である、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記基準面は、前記記録素子基板の一方の端部に最も近い位置の前記配置部の、一方の端部側の端部と、前記記録素子基板の他方の端部に最も近い位置の前記配置部の、他方の端部側の端部とが同一水平面に位置する面である、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記配置部を、前記ヘッド基板上に等しいピッチで設ける、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記配置部の反り量として、前記基準面から、各前記配置部の中心位置までの最短距離を求める、請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
少なくとも、前記ヘッド基板の一方の端部に最も近い位置に配置されている前記配置部の一方の端部側の端部の高さと、前記ヘッド基板の他方の端部に最も近い位置に配置されている前記配置部の他方の端部側の端部の高さと、前記ヘッド基板の中央付近に配置される前記配置部の両端部のどちらか一方の端部の高さとを求める、請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記基準面から前記記録媒体までの前記所定の距離をK、前記記録素子基板の反り量をR、前記記録素子基板の厚さをT、接着剤の厚さをt、前記配置部の傾きをθ、前記着弾のずれ量をXとすると、前記着弾のずれ量Xを、
X=(K+R−T−t)×tanθ
で求める、請求項6に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記着弾のずれ量Xに応じて各前記配置部の位置を補正して、各前記記録素子基板の配置位置を決める、請求項7に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記ヘッド基板の主面の高さを測定する工程と、前記基準面を設定する工程と、前記測定点の前記基準面からの距離を求める工程と、前記着弾のずれ量を算出する工程と、前記配置位置を決定する工程と、を
ヘッド基板の両端部を固定して行う、請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
実際の使用環境温度の下で、
前記ヘッド基板の主面の高さを測定する工程と、前記基準面を設定する工程と、前記測定点の前記基準面からの距離を求める工程と、前記着弾のずれ量を算出する工程と、前記配置位置を決定する工程と、を行う、請求項1から9のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
ヘッド基板上にインクを吐出するための記録素子基板が複数配置されているインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
予め製造した前記インクジェット記録ヘッドによる記録媒体へのインクの着弾位置を測定し、該着弾位置より前記記録素子基板を前記ヘッド基板に配置する位置を補正したインクジェット記録ヘッドを製造する、インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記ヘッド基板の一方の端部の最も近くに位置する配置部に配置されている記録素子基板の着弾ドットの間隔の値から、前記配置部と前記配置部に隣接する配置部の着弾ドットの間隔の値を引き、差が0ならば、前記配置部の位置を変えず、差が正ならば、前記隣接する配置部を前記一方の端部の最も近くに位置する配置部に差の分だけ近づけ、差が負ならば、前記隣接する配置部を前記一方の端部の最も近くに位置する配置部から遠ざけ、
全ての配置部に同様のこと順に行う、請求項11に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項1】
ヘッド基板上にインクを吐出するための記録素子基板が複数配置されているインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記ヘッド基板の主面の高さを少なくとも3つの測定点で測定する工程と、
前記測定点のうち、前記主面の2つの測定点を通る基準面を設定する工程と、
前記基準面に含まれる前記2つの測定点ではない前記測定点の前記基準面からの距離をそれぞれ求める工程と、
前記記録素子基板を前記ヘッド基板に設けられた複数の配置部にそれぞれ配置し、前記基準面から所定の距離だけ離れた位置に該基準面に平行に記録媒体を配置したと想定した場合に、前記記録媒体の、前記基準面と直交する方向に前記記録素子基板から延ばした直線が前記記録媒体と交わる位置と、前記記録素子基板のインクの吐出口が向いている方向から延ばした線と前記記録媒体と交わる位置との差である着弾のずれ量を算出する工程と、
前記着弾のずれ量に応じて各前記配置部の位置を補正して、各前記記録素子基板の前記ヘッド基板上での配置位置を決定する工程と、
を少なくとも含む、インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記主面は、前記記録素子基板が配置される面である、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記基準面は、前記記録素子基板の一方の端部に最も近い位置の前記配置部の、一方の端部側の端部と、前記記録素子基板の他方の端部に最も近い位置の前記配置部の、他方の端部側の端部とが同一水平面に位置する面である、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記配置部を、前記ヘッド基板上に等しいピッチで設ける、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記配置部の反り量として、前記基準面から、各前記配置部の中心位置までの最短距離を求める、請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
少なくとも、前記ヘッド基板の一方の端部に最も近い位置に配置されている前記配置部の一方の端部側の端部の高さと、前記ヘッド基板の他方の端部に最も近い位置に配置されている前記配置部の他方の端部側の端部の高さと、前記ヘッド基板の中央付近に配置される前記配置部の両端部のどちらか一方の端部の高さとを求める、請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記基準面から前記記録媒体までの前記所定の距離をK、前記記録素子基板の反り量をR、前記記録素子基板の厚さをT、接着剤の厚さをt、前記配置部の傾きをθ、前記着弾のずれ量をXとすると、前記着弾のずれ量Xを、
X=(K+R−T−t)×tanθ
で求める、請求項6に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記着弾のずれ量Xに応じて各前記配置部の位置を補正して、各前記記録素子基板の配置位置を決める、請求項7に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記ヘッド基板の主面の高さを測定する工程と、前記基準面を設定する工程と、前記測定点の前記基準面からの距離を求める工程と、前記着弾のずれ量を算出する工程と、前記配置位置を決定する工程と、を
ヘッド基板の両端部を固定して行う、請求項1から8のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
実際の使用環境温度の下で、
前記ヘッド基板の主面の高さを測定する工程と、前記基準面を設定する工程と、前記測定点の前記基準面からの距離を求める工程と、前記着弾のずれ量を算出する工程と、前記配置位置を決定する工程と、を行う、請求項1から9のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
ヘッド基板上にインクを吐出するための記録素子基板が複数配置されているインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
予め製造した前記インクジェット記録ヘッドによる記録媒体へのインクの着弾位置を測定し、該着弾位置より前記記録素子基板を前記ヘッド基板に配置する位置を補正したインクジェット記録ヘッドを製造する、インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記ヘッド基板の一方の端部の最も近くに位置する配置部に配置されている記録素子基板の着弾ドットの間隔の値から、前記配置部と前記配置部に隣接する配置部の着弾ドットの間隔の値を引き、差が0ならば、前記配置部の位置を変えず、差が正ならば、前記隣接する配置部を前記一方の端部の最も近くに位置する配置部に差の分だけ近づけ、差が負ならば、前記隣接する配置部を前記一方の端部の最も近くに位置する配置部から遠ざけ、
全ての配置部に同様のこと順に行う、請求項11に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−194596(P2011−194596A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60846(P2010−60846)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]