説明

インクジェット記録ヘッドの製造方法

【課題】吐出口がフォトリソグラフィー技術を用いて形成可能であり、記録速度の高速化を図り主滴と副滴の着弾位置のずれを抑え、画像の高品質化を実現できるインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】複数の吐出口から記録媒体に対して液滴を吐出するインクジェット記録装置において、明細書中に定義される平面の法線が、該記録媒体に記録する際の該記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向を向いて各吐出口の軸線に対して傾斜しているインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、基板上に感光性樹脂材料を塗布し感光性樹脂層を形成する工程と、該感光性樹脂層にその感光性樹脂層表面に対して傾斜する面を有する凹みを形成する工程と、該傾斜する面に該複数の吐出口を形成する工程とを含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液滴を吐出可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、一般的に複数の吐出口を備えたインクジェット記録ヘッドと、記録媒体上でインクジェット記録ヘッドを走査するためのキャリッジから成る。そして、インクジェット記録ヘッドを記録媒体上で移動させながらノズルからインク滴を吐出させて記録を行う。
【0003】
インクジェット記録方式において、ノズルから吐出されるインク滴には、主滴と主滴から分離して生成する副滴がある。副滴は、主滴に比べてインク滴が小さく、吐出速度が遅い。そのため、一般的に副滴は記録媒体上に主滴と異なる位置に着弾し、記録画像の品質低下の原因となることがある。
【0004】
従来は、このような主滴と副滴の着弾位置のずれを小さく抑えるために、インクジェット記録ヘッドの吐出口が位置する吐出口面と記録媒体との間の距離を短くしたり、あるいは液滴の吐出速度を高めたりしていた。
【0005】
一方、特許文献1では、インクジェット記録ヘッドと記録媒体との相対移動方向に関連付けて、主滴と副滴の吐出方向が異なるインクジェット記録ヘッドが開示されている。この特許文献1のインクジェット記録装置では、インクジェット記録ヘッドが記録媒体と相対移動可能な位置に装着され、吐出口面が記録媒体を基準とした時のインクジェット記録ヘッドの相対移動方向を向いて傾斜されている。この傾斜により、主滴の吐出方向を傾斜させ、副滴との着弾位置のずれを小さくすることを特徴としている。
【0006】
また、特許文献2では、フォトリソグラフィーによって、樹脂に曲面を有する窪みを形成し、前記曲面に吐出口を形成することで、インク拭き取り時に生じるノズル出口形状の損傷を少なくする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−283720号公報
【特許文献2】特表2007−514201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載のインクジェット記録ヘッドでは、吐出口と流路を含むノズル周面の形成材料に有機物質の感光性樹脂材料が使用されている。しかし、天板やヒーターボード等の吐出口部の大部分を占める材料がシリコン等の無機物質で形成されているため、研磨による吐出口面の加工が可能である。しかしながら、吐出口面が有機物質の感光性樹脂材料により形成されていて、その吐出口をフォトリソグラフィー技術を用いて形成するようなインクジェット記録ヘッドでは、研磨による加工は困難な場合がある。
【0009】
また、上記特許文献2に記載のインクジェット記録ヘッドでは、形成した各窪みに対して、一つの吐出口を配置するため、窪みの大きさの分だけ吐出口間の距離が離れてしまい、ノズルの高配列化が困難になる可能性がある。
【0010】
そこで本発明の目的は以下の通りである。吐出口がフォトリソグラフィー技術を用いて高密度に形成可能であり、記録速度の高速化を図りつつ主滴と副滴との着弾位置のずれを抑え、画像の高品質化を実現できるインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
複数の吐出口から記録媒体に対して液滴を吐出するインクジェット記録装置において、
各吐出口の周上に位置しフェイス面から最も近い距離にある点を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線と、各吐出口の周上に位置し前記フェイス面から最も遠い距離にある点を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線とからつくられる平面の法線が、前記記録媒体に記録する際の前記記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向を向いて各吐出口の軸線に対して傾斜しているインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
基板上に感光性樹脂材料を塗布し、感光性樹脂層を形成する工程と、
前記感光性樹脂層に、この感光性樹脂層表面に対して傾斜する面を有する凹みを形成する工程と、
前記傾斜する面に前記複数の吐出口を形成する工程と
を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、吐出口がフォトリソグラフィー技術を用いて形成可能であり、記録速度の高速化を図りつつ主滴と副滴との着弾位置のずれを抑え、画像の高品質化を実現できるインクジェット記録ヘッドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一形態に係るインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【図2】本発明の一形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の各工程を説明するための図である。
【図3】本発明の一形態に係るインクジェット記録ヘッドの吐出口の周上に位置し、フェイス面から最も近い点および最も離れた点を含む平面の法線の吐出口の軸線に対する傾斜角度の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特許文献1に記載されているように、インクジェット記録ヘッドを用いて記録媒体に記録する際、インクはその表面張力によって主滴と副滴に分離しつつ、吐出口より記録媒体に向かって飛翔する。なお、シリアルスキャンタイプおよびフルラインタイプのどちらのインクジェット記録装置においても、インクジェット記録ヘッドは記録媒体に対して相対的に移動して、液体を吐出する。
【0015】
ここで、シリアルスキャンタイプとはインクジェット記録ヘッドが走査方向に移動しつつ液体を吐出するタイプである。一方、フルラインタイプとはインクジェット記録ヘッドを固定したまま、記録媒体を連続的に搬送させつつインクジェット記録ヘッドから液体を吐出するタイプである。
【0016】
このように、インクジェット記録ヘッドは記録媒体に対して平行方向に相対的に移動しているため、これらの主滴と副滴とが記録媒体上にずれて着弾することがある。
【0017】
しかし、本発明によれば、複数の吐出口が有機物質である感光性樹脂材料の硬化物に形成されているインクジェット記録ヘッドの場合においても、以下のようにすることができる。
【0018】
即ち、図3(b)に示すように、平面15の法線17を、記録媒体16に記録する際の記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向(X方向)を向いて前記吐出口の軸線18に対して傾斜させて作製することができる。図3(b)では、複数の吐出口のうちの1つの吐出口が記載されているが、前記法線17は、複数の吐出口の各吐出口の軸線に対してX方向を向いて傾斜している。
【0019】
なお、平面15は、各吐出口13の周上に位置しフェイス面24から最も近い距離にある点20および最も離れた距離にある点21を含む。また、平面15は、図1に示すように、点20を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線22と、点21を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線23とからつくられる平面である。
【0020】
なお、吐出口の周上とは、凹み9の傾斜面に吐出口13が形成する図形(例えば、楕円)の周上を意味する。吐出口の周は、この傾斜面における感光性樹脂材料の硬化物14と吐出口13との境界部分であることができ、吐出口13の縁であることができる。なお、凹み9は、フェイス面24に形成される。
【0021】
また、フェイス面24とは、感光性樹脂材料の硬化物14のおもて面(基板側の面(裏面)に対向する面であり、図2では、撥水層形成用材料層5の硬化物のおもて面を指す)を意味し、凹み9の内面は含まれない。
【0022】
複数の吐出口は、典型的には、凹み9の傾斜面において直線上に配列され、吐出口配列とは、典型的には、各吐出口が直線上に並んだ配列を意味する。
また、吐出口配列の長手方向とは、複数の吐出口が配列される方向であることができ、図1においては、吐出口が並んでいるY方向を意味する。
【0023】
なお、吐出口13は、図2および3に示すように、典型的には感光性樹脂材料の硬化物(感光性樹脂層)を、記録媒体16に対して垂直に貫通する貫通孔として形成される。このため、吐出口の軸線は、典型的には、記録媒体に対して垂直方向(Z方向)に伸びた吐出口の中心軸を通る直線とされる。
【0024】
これにより印刷時、記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向に応じて、主滴と副滴との吐出方向を異ならせることが可能となり、結果として、主滴と副滴との着弾位置のずれを抑えることができ、高品質な画像の形成が可能となる。なお、主滴とは、吐出口から主として吐出される径の揃った副滴と比較して相対的に大きい液滴である。副滴とは、液滴がノズルから飛翔する際に、主滴から分離して形成される相対的に小さな液滴である。
【0025】
なお、典型的には、図1に示すように、点20および21がそれぞれ互いに平行な直線22および23を形成し、それらの直線が平面15を形成するように、複数の吐出口13は作製される。また、典型的には、複数の吐出口13はいずれも、図3に示すように記録媒体に対して垂直方向(Z方向)の凹みにより形成され、これらの吐出口が凹み9の傾斜面に規則正しく配置される。
【0026】
特許文献1では、インクジェット記録ヘッドの吐出口と流路を含むノズル周面の形成材料にのみ感光性樹脂材料が用いられていたが、本発明では、感光性樹脂層に吐出口を形成するため、ノズル周面以外の他の部分も感光性樹脂材料により形成されている。
【0027】
本発明により得られるインクジェット記録ヘッドはインク等の液滴を吐出することができ、インクジェット記録装置に装着して用いることができる。その際、インクジェット記録ヘッドは、記録媒体と相対移動可能な位置に装着される。なお、図3中のθは、前記平面15の法線17を前記相対移動方向に向けて傾斜させた際の、吐出口の軸線18に対する法線17の傾斜角度を表し、法線17が軸線18と平行な場合、傾斜角度θは0°となる。この傾斜角度θは、印刷する際の、記録媒体とインクジェット記録ヘッドの相対移動速度等を考慮して設定することができる。しかし、傾斜角度θが非常に大きいと、上手くメニスカスが形成できない場合があるため、傾斜角度θは80°以下とすることが好ましい。
【0028】
インクジェット記録ヘッドにおいて、感光性樹脂層に、その感光性樹脂層表面に対して傾斜する面を有する凹みを形成し、前記凹みの傾斜側面に吐出口を形成するプロセスについて、詳細に説明する。なお、図3(a)に示すように、傾斜側面のうちの吐出口が位置する部分において、感光性樹脂層おもて面に対する傾斜側面の傾斜角度、より具体的にはフェイス面24に対する平面15の傾斜角度は、θとなる。
【0029】
図1は本発明の一形態に係るインクジェット記録ヘッドの斜視図である。このインクジェット記録ヘッドでは、基板上に配された感光性樹脂材料の硬化物14に傾斜面を有する凹み9が形成され、その傾斜面に複数の吐出口13が形成されている。必要に応じてインクジェット記録ヘッドの表面は撥水性とすることができる。例えば、感光性樹脂層を2層構成とし、その2層のうちの表面側の層を撥水層とすることで、インクジェット記録ヘッド表面に撥水性を有することができる。このように、感光性樹脂層は1層構成でも2層以上の構成でも良く、2層以上の構成の場合、各層の組成は異なっていても同じであっても良い。
【0030】
図1のインクジェット記録ヘッドはY方向に沿った溝状の凹み9を形成し、前記凹みの傾斜面に沿って吐出口13を形成したものである。この図において、X方向は記録媒体に記録する際の記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向を表し、Y方向は吐出口が配列する方向を表し、Z方向は前記記録媒体に対する垂直方向を表す。なお、溝状とは、吐出口配列の長手方向(図1ではY方向)に沿って幅および深さが均一に伸びる凹みの形状を表す。
【0031】
複数の吐出口13のうちの1つの吐出口に着目し、図1のA−B断面図を用いて、凹み9の傾斜面に吐出口13を形成する本発明の製造方法を説明する(図2)。まず始めに、吐出口を形成する感光性樹脂層の下地の形成について説明する。
【0032】
まず、インクを吐出するエネルギーを発生するエネルギー発生素子2を設けた基板1(図2A)上に、吐出口13に連通するインク流路の型となるインク流路形成用材料層3を形成する(図2B)。なお、このインク流路の型は後に溶解除去するため、インク流路形成用材料層3は、ポジ型感光性樹脂材料を用いて作製することが好ましい。ポジ型感光性樹脂材料としては、具体的には、例えばポリメチルイソプロペニルケトン、ポリビニルケトン等のビニルケトン系光崩壊性高分子化合物が挙げられる。
【0033】
次に、前記インク流路形成用材料層3の上に吐出口を形成するための第1の感光性樹脂層である感光性樹脂層4を形成する(図2C)。前記感光性樹脂層4は、汎用的なスピンコート法、スリットコート法、ロールコート法等の塗布方法によって感光性樹脂材料を塗布することにより形成できる。
【0034】
ここで、感光性樹脂材料としては、カチオン重合性光硬化型樹脂材料を用いることが好ましい。また、感光性樹脂層には、高い機械的強度、下地との強い密着性が求められるため、特にそれらの特性を有するエポキシ樹脂を含むカチオン重合性光硬化型樹脂材料を用いることが好適である。
【0035】
なお、カチオン重合性光硬化型樹脂材料におけるエポキシ樹脂の含有量は、20質量%以上とすることが好ましい。エポキシ樹脂の含有量が20質量%以上の場合は、感光性樹脂層の膜厚が薄くなってしまうことを容易に防ぎ、吐出口を形成するための適度な厚さを容易に得ることができる。また、エポキシ樹脂の含有量における上限に対しては、重合開始剤や密着向上剤などの添加剤の量によって適宜決定することができる。
【0036】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社からSU8の商品名で販売されている樹脂材料、あるいはダイセル化学工業株式会社からEHPE3150の商品名で販売されている樹脂材料等がある。
【0037】
又、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは2000以下、更に好ましくは1000以下であるとよい。これは、エポキシ樹脂のエポキシ当量が2000以下であると、感光性樹脂材料の硬化反応の際に架橋密度が低下することを容易に防ぎ、感光性樹脂材料の硬化物のガラス転移温度が低下することや、密着性が低下することを容易に防ぐことができる。なお、エポキシ当量とは、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の分子量で定義される。
【0038】
又、塗膜の流動性が高いことによる解像性の低下を容易に防ぐ観点から、感光性樹脂層は、常温で固体状であるエポキシ樹脂を用いることが好ましい。なお、本発明における常温とは、日本工業規格(JIS Z 8703)の規定と同じく、20℃±15℃の範囲、つまり5℃以上35℃以下の範囲にある温度状態をいう。なお、常温で固体とは、融点が35℃より高い温度である物質を指す。
【0039】
また、カチオン重合性光硬化型樹脂材料は、上記エポキシ樹脂と、そのエポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤とを含有することが好ましい。光カチオン重合開始剤としては、芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルホニウム塩が挙げられ、光カチオン重合開始剤は複数併用することも可能である。
【0040】
なお、芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、みどり化学株式会社よりDPI−105、MPI−103、105の商品名で販売されているもの等が挙げられる。芳香族スルホニウム塩としては、例えば、株式会社アデカからアデカオプトマーSP−170、SP−172の商品名で販売されているもの等が挙げられる。
【0041】
更に、上述の光カチオン重合開始剤に、還元剤を併用することもでき、加熱することによって、カチオン重合をより促進することができる。上記の還元剤としては、反応性とエポキシ樹脂への溶解性を考慮して銅トリフラートが好適に用いられる。
【0042】
次に、インクジェット記録ヘッドの表面に撥水性を付与するために、前記感光性樹脂層4の上に、第2の感光性樹脂層である撥水層形成用材料層5を形成する(図2C)。前記撥水層形成用材料層5は、汎用的なスピンコート法、スリットコート法、ロールコート法等の塗布方法によって感光性樹脂材料を塗布することにより形成できる。
【0043】
撥水層には、インクに対する撥水性と、ワイパー等による接触を伴う拭き取りに対する高い機械的強度が求められる。このため、撥水層を形成するための撥水層形成用材料層5には、フッ素、ケイ素等の撥水性を有する官能基を含有するネガ型感光性樹脂材料が好適に用いられる。また、撥水層形成用材料層5には、フッ素含有基を有する加水分解性シラン化合物と、カチオン重合性基を有する加水分解性シラン化合物とからつくられる縮合生成物も好適に用いられる。撥水層形成用材料層5にこれらのネガ型感光性樹脂を用いた場合、前記感光性樹脂層4と一括でパターニング、および硬化を行うことができる。
【0044】
更に、マスク8を介して前記感光性樹脂層4および撥水層形成用材料層5を露光し、その際、第1の部分6は露光し露光部分とし、前記凹み9に対応する部分である第2の部分7は露光せず非露光部分とした(図2D)。
【0045】
ここで、露光工程で放射される電磁波のエネルギーは、感光性樹脂層4および撥水層形成用材料層5に用いた感光性樹脂材料の感光領域に合わせて適切な電磁波を選択することができる。
【0046】
また、露光工程における照射量は、層4および5に使用する感光性樹脂材料、凹みの形状や深さなどに合わせて経験的に決定することができる。なお、凹み9の形状や深さは、非露光部分である第2の部分7のX方向のパターン幅Wにも依存する。なお、パターン幅Wは、20μm以上200μm以下とすることが好ましい。凹みの深さ(図3に示すH)は、前記感光性樹脂層4の膜厚以下とすることが好ましい。なお、図2Dおよび後述する図2F中の矢印は、マスクを介して照射される電磁波を表す。
【0047】
露光した際に芳香族ヨードニウム塩などから発生した酸により、前記層4および5をベークする工程(図2E)で露光部分である第1の部分6に架橋が生じる。架橋が生じる露光部分と、非露光部分との界面は、互いに溶け合うため、非露光部分の未反応成分が露光部分へ移動し、非露光部分の表面に溝状の凹み9ができる。
【0048】
ここで、前記凹みを形成するための適切なベーク温度は、非露光部分7の感光性樹脂材料が十分に移動できるように、非露光部分の樹脂材料のガラス転移温度または融点よりも高いことが好ましい。感光性樹脂層を2層以上の構成としている場合は、全ての感光性樹脂層の非露光部分の感光性材料のガラス転移温度または融点よりも高い温度にてベークを行うことが好ましい。
【0049】
例えば、図2では、2層の感光性樹脂材料層(符号4および5)それぞれの非露光部分のガラス転移温度または融点よりも高い温度にてベークを行うことが好ましい。又、熱による樹脂材料中の応力の発生を容易に防ぐために、ベークは80℃以上120℃以下の範囲の温度で行うとよりよい。
【0050】
又、非露光部分7の感光性樹脂材料と比較してより低いガラス転移温度または融点を持つ低分子量成分を、感光性樹脂層に添加してもよい。例えば、セロキサイド2021P、セロキサイド2000(商品名、ダイセル化学工業株式会社)等の脂環エポキシや後述するエポキシ化合物A−187(商品名、ジーイー東芝シリコーン株式会社)等を感光性樹脂層に添加しても良い。
【0051】
ここで、高密度印字を行うためには、吐出口間の距離が近い方が好ましいことから、凹み9の形状はY軸方向に溝状に伸びた凹みとすることが好ましい。
【0052】
次に、この実施形態における2層の感光性樹脂層の表面に形成した凹み9の傾斜面に吐出口13を形成する方法を示す。
【0053】
凹み9は、図3に示すように、その凹みの最深部(図3では、凹みの中心d1)を境に、記録する際の前記記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向(X方向)、およびその相対移動方向と逆方向(−X方向)にそれぞれ傾斜面を有する。そして、吐出口13がその逆方向の傾斜面に位置するように、前記層4および5における第4の部分12が非露光部分となり、第3の部分11が露光部分となるようにマスク10を介して露光する(図2F)。
【0054】
ついで、層4および5のベーク(図2G)、現像を行い、非露光部分である第4の部分12を除去することで、凹み9の傾斜面に吐出口13が形成される(図2H)。なお、露光の際、空気と層4および5とで形成される凹み9の界面において、光の屈折率の違いから入射光が屈折するが、凹みの傾斜が浅いため、吐出口およびノズルの形状への影響は考えなくてもよい。符号19は、吐出口表面を表す。
【0055】
また、図2(F)と(G)の露光工程とベーク工程は、図2(D)と(E)の工程と同様の条件でよい。
現像工程では、層4および5に使用した感光性樹脂材料に適した溶剤を用いて現像する。
【0056】
最後に、インク流路形成用材料層3をその材料層3に用いた感光性樹脂材料に適した溶剤を用いて現像して吐出口13に連通するインク流路を形成し、その後必要に応じて光、熱等による硬化促進を行ってインクジェット記録ヘッドを作製してもよい。
【実施例】
【0057】
〔実施例1〜8〕
以下、本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
図2の工程を用いてインクジェット記録ヘッドを作製した。図2(A)に示すように、エネルギー発生素子2を設けた基板1(図2A)上に、感光性樹脂材料であるポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業社製、商品名:ODUR−1010)を厚さ14μmで塗布した。次いで露光装置UX3000(商品名、ウシオ電機)を用いてインク流路の型となるインク流路形成用材料層3を形成した(図2B)。
【0058】
次に、図2(C)に示すように、表1に示す組成のカチオン重合性の光重合性樹脂材料を前記インク流路の型の上に基板表面(基板1の感光性樹脂層を設ける側の面)から25μmの厚さで塗布し、60℃で9分間熱処理した。これにより、吐出口を形成するための第1の感光性樹脂層である感光性樹脂層4を形成した。
【0059】
なお、使用したエポキシ樹脂のエポキシ当量は、規格値で170〜190である。更に、固形分比が7質量%となるように、硬化縮合生成物を2−ブタノール及びエタノールで希釈して前記感光性樹脂層4上に塗布した。なお、この硬化縮合生成物は、グリシドキシプロピルトリエトキシシランと、メチルトリエトキシシランと、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシランとからつくられる化合物である。
【0060】
ついで、70℃で3分間熱処理して前記希釈溶剤を揮発させ、第2の感光性樹脂層である撥水層形成用材料層5を形成した(図2C)。
【0061】
【表1】

【0062】
次に、図2(D)に示すように、I線露光ステッパー(キヤノン社製)を用いて、第2の部分7が非露光部分となるように、第1のフォトマスク8を介して250mJ/cm2の比較的低い照射量の放射エネルギーで露光した。この際、非露光部分のX方向のパターン幅Wは表2に示す通りである。更に、表2に示す温度で4分間熱処理をして凹み9を形成した(図2E)。作製した凹みの深さを、相対移動方向(X方向)に対して垂直方向であるY方向から観察した凹み断面のSEM写真から測定し、表2に記載の深さHで凹みが得られたことを確認した。
【0063】
次いで、I線露光ステッパー(キヤノン社製)を用いて、吐出口の直径が16μmとなるように、第2のフォトマスク10を介して350mJ/cm2で露光した(図2F)。この際、吐出口の位置は、図3(a)に示すように、凹みの中心(最深部に対応)d1から吐出口の中心軸d2(吐出口の軸線18に対応)までの距離Dが表2に示す値になるように設定した。なお、吐出口の直径にもよるが、吐出口が凹みの傾斜面に位置するように、距離Dは0μmよりも長くW/2以下とすることが好ましい。
【0064】
更に、90℃で4分間熱処理した(図2G)後、混合質量比がキシレン/メチルイソブチルケトン=6/4の溶媒で現像し、吐出口13を形成した(図2H)。
【0065】
次に、基板1の背面(感光性樹脂層を有する面に対向する面)にインク供給口を作製するためのマスク(不図示)を適切に配置し、基板1の表面をゴム膜(不図示)によって保護した後、シリコン基板の異方性エッチングによってインク供給口(不図示)を作製した。異方性エッチングの完了後、ゴム膜を取り去り、再びUX3000(商品名、ウシオ電機)を用いて表面全体に紫外線を照射することによって、インク流路形成用材料層3を分解し、乳酸メチルを用いてインク流路形成用材料層3を溶解除去した。前記感光性樹脂層4及び撥水層形成用材料層5をさらに硬化させるために、200℃で1時間加熱プロセスを実施した後、電気的な接続及びインク供給の手段を適宜配置してインクジェット記録ヘッドとした。
【0066】
図2(D)における非露光部分のX方向のパターン幅Wおよび図2(E)における凹みを形成するためのベーク条件、形成した凹みの深さH、さらに図3に示す吐出口の凹み中心(最深部に対応)からのずれDを表2に示した。前記平面15の法線の吐出口の軸線に対する傾斜角度θを吐出口断面のSEM写真から測定し、表2に記載の角度で傾斜した吐出口が得られたことを確認した。
【0067】
また、〔実施例1〜8〕のいずれにおいても、主滴の着弾位置内に副滴の着弾位置は収まり、印字が良好であることが示された。
【0068】
【表2】

【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 インク流路形成用材料層
4 感光性樹脂層
5 撥水層形成用材料層
6 第1の部分
7 第2の部分
8 第1のフォトマスク
9 凹み
10 第2のフォトマスク
11 第3の部分
12 第4の部分
13 吐出口
14 感光性樹脂材料の硬化物
15 各吐出口の周上に位置する点20および点21を含む平面
16 記録媒体
17 各吐出口の周上に位置する点20および点21を含む平面の法線
18 吐出口の軸線
19 吐出口表面
20 吐出口の周上でフェイス面から最も近い距離にある点
21 吐出口の周上でフェイス面から最も離れた距離にある点
22 点20を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線
23 点21を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線
24 フェイス面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出口から記録媒体に対して液滴を吐出するインクジェット記録装置において、
各吐出口の周上に位置しフェイス面から最も近い距離にある点を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線と、各吐出口の周上に位置し前記フェイス面から最も遠い距離にある点を吐出口配列の長手方向に結んでできる直線とからつくられる平面の法線が、前記記録媒体に記録する際の前記記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向を向いて各吐出口の軸線に対して傾斜しているインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
基板上に感光性樹脂材料を塗布し、感光性樹脂層を形成する工程と、
前記感光性樹脂層に、この感光性樹脂層表面に対して傾斜する面を有する凹みを形成する工程と、
前記傾斜する面に前記複数の吐出口を形成する工程と
を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記感光性樹脂材料が、カチオン重合性光硬化型樹脂材料であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カチオン重合性光硬化型樹脂材料が、エポキシ当量が2000以下のエポキシ樹脂と、
芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルホニウム塩から選ばれる少なくとも1つの光カチオン重合開始剤とを含有することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、1000以下であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が、20℃±15℃の範囲の常温にて固体状であることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記感光性樹脂層に前記傾斜する面を有する凹みを形成する工程が、
マスクを介して前記感光性樹脂層を露光し、ただし前記凹みに対応する部分を非露光部分とする露光工程と、
その露光工程により得られた感光性樹脂層をベークする工程とを含み、
前記感光性樹脂層をベークする工程において、非露光部分の感光性樹脂層のガラス転移温度または融点よりも高い温度でベークすることにより前記凹みを形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記凹みが、吐出口配列の長手方向に沿って形成された溝状の凹みであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記凹みが、その凹みの最深部を境に、前記記録媒体に対するインクジェット記録ヘッドの相対移動方向、およびその相対移動方向と逆方向にそれぞれ前記傾斜する面を有し、
前記複数の吐出口が、その逆方向の面に配されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−81602(P2012−81602A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227493(P2010−227493)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】