説明

インクジェット記録ヘッド及び記録装置

【課題】記録装置内を浮遊するミストや紙粉による記録装置内の汚れやセンサの汚れや出力品位の低下を防ぐ。
【解決手段】インク滴を吐出するための吐出口が形成されたフェイス面に、前記吐出口を含むフラットな面を有する周囲領域と、前記周囲領域から退避するようにインク滴の吐出方向とは反対側に段差部が形成され、当該段差部から外側に広がる退避領域とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して記録媒体へ記録を行うインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録ヘッドを用いた記録装置に関し、詳しくは記録ヘッドのフェイス面形状に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の記録装置はランニングコストが安く、記録時の静粛性に優れるというメリットがある。また、インク滴を吐出するための圧力発生素子として気泡発生素子を用いた、いわゆるバブルジェット(登録商標)方式は素子を高密度に配列するのが比較的容易で、そのため高解像度の印字を行うのに有利な方式である。インクジェット記録ヘッドを備えた記録装置としては、大きく分けて、記録ヘッドを搭載したキャリッジの主走査方向の往復移動と、記録媒体の間欠的な副走査方向への搬送を繰り返して画像を形成するシリアルプリンタと、記録ヘッドを記録媒体上に固定し、記録媒体を連続的に搬送して記録を行うラインプリンタがある。これらに用いる記録ヘッドでは、ワイパブレードによる記録ヘッドのノズル面のワイプする際に、ワイパブレードの変形をスムースにする為ノズル面に傾斜を設けたものがある(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−160377
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記に掲載した従来例の場合、ノズル面近傍の構造的な工夫の目的がクリーニングのためのワイパブレードを緩やかに変形させることであるから、インク滴の吐出時に生じるミスト(滴のサイズが極小さく霧状となったインク)や記録媒体の搬送時に生じる紙粉が記録ヘッドのノズル近傍を浮遊する状態を積極的に避ける構造としては派生的に効果は得られるものの、充分といえるものではない。
【0004】
本発明は、以上に鑑みてなされたものであり、記録装置内を浮遊するミストや紙粉による記録装置内の汚れやセンサの汚れや出力品位の低下を抑制できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明のインクジェット記録ヘッドは、インク滴を吐出するための吐出口57が形成されたフェイス面51に、前記吐出口を含むフラットな面を有する周囲領域52,53と、前記周囲領域から退避するようにインク滴の吐出方向とは反対側に段差部54が形成され、当該段差部から外側に広がる退避領域55とを設けた。
【0006】
また、好ましくは、前記周囲領域は、前記吐出口を含む連続した面を形成する吐出口周囲領域52と、前記吐出口周囲領域の外側に隣接したフラットな面を有する外周領域53とを備え、前記段差部は前記外周領域に隣接して形成され、前記退避領域は、前記段差部から前記インク滴の吐出方向とは反対側に徐々に退避するように傾斜している。
【0007】
また、好ましくは、前記外周領域の幅が1.0mm以下である。
【0008】
また、好ましくは、前記退避領域は親水性を有する。
【0009】
また、本発明のインクジェット記録装置は、上記インクジェット記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを不動の状態とし、記録媒体を前記吐出口の配列方向と直交する方向に移動させることにより記録を行う。
【0010】
また、好ましくは、前記周囲領域を拭く拭き部材を有し、前記拭き部材は、前記退避領域に接触しない状態で前周囲領域を拭く。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、フェイス面にインク吐出口を有する周囲領域とインク吐出方向とは反対側に退避する退避領域を設けたので、印字にともなって発生するミストや紙粉を退避領域にトラップすることが可能となる。更には、プラテンとの間の摺動によって発生する記録媒体の振動を緩和し、吐出したインクの着弾精度を向上することが可能となる。
【0012】
また、ワイピングブレードの記録ヘッドへの当接部分を小さくすることができるので、ワイピングブレードの小型化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
尚、以下に説明する実施の形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正又は変更されるべきものであり、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。図2は、本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図である。
【0015】
図1及び図2において、110はセラミックプレートであり、気泡発生素子、ノズル、インク吐出口を備えた吐出エレメント150と電気配線基板120がセラミックプレート110上に配置される。吐出エレメント150はインク通路部材210に接続され、インクタンクからインクが供給される。

図5はインクジェット記録ヘッドのフェイス面領域の断面拡大図を示し、記録媒体と対向するフェイス面51に、ノズル58に連通した吐出口57を含む連続したフラットな面である吐出口周囲領域52と、その外側に隣接した幅1.0mm以下のフラットな面の外周領域53と、さらに外側に隣接した非連続な段差部54と、さらに外側に隣接しインク吐出方向とは反対側に退避(後退)した退避領域55とが設けられている。言い換えると、吐出口周囲領域52と外周領域53を、退避領域55からインク滴の吐出方向に所定の段差寸法だけ突出するように形成している。また、退避領域55は、段差部54からインク滴の吐出方向とは反対側に徐々に退避するように傾斜している。
【0016】
また、記録装置内の適当な位置にキャッピングゴム910が配置され、フェイス面51側に隆起した隆起部911が外周領域53に当接してノズル58内のインクの乾燥を防ぐ。確実なキャッピングのためには外周領域53のキャッピングゴム910の隆起部911との当接部分に平面度が必要となるので、精度を保つために外周領域53の幅は1.0mm以下であることが望ましい。キャッピングゴム910は連通口56を介して図示しないインクポンプに接続され、ノズル58内に残存するインクを吸引する。
【0017】
図3及び図4は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドを搭載した記録装置の一例を示し、500は搬送装置、100はインクジェット記録ヘッド、600はヘッドキャリッジ、700はインクジェット記録ヘッドにインクを供給するインクタンク、900はヘッド回復ユニット、1000は記録媒体としての記録紙である。本実施形態のインクジェット記録ヘッド100はインクを吐出する複数のインク吐出口が記録紙1000の幅方向(搬送方向Zと直交する方向)に配列されており、記録ヘッド100を固定した不動の状態で、記録紙を連続的に搬送して記録を行うラインプリンタに搭載される。
【0018】
搬送装置500には、記録紙1000を検知するセンサS10、S20を備え、記録紙1000を搬送するためのローラ510,530、搬送ローラ510,530上に位置し、インクジェットヘッド100のインク吐出部分に空間が設けられたプラテン515、および搬送ローラ510を記録紙1000と接離可能に支持する支持軸511、搬送ローラ510を記録紙1000に当接させる当接バネ512、搬送ローラ510を記録紙1000から離間させる離間ソレノイド513、を備えている。
【0019】
ヘッドキャリッジ600は、インクジェットヘッド100を保持する回動可能なヘッドガイド610、ヘッドキャリッジ600を図中H方向に移動可能に支持するキャリッジ軸620、前記キャリッジシャフト上を駆動させるアクチュエータ630、アクチュエータ630の駆動をヘッドキャリッジ600へ伝える伝達ベルト635により構成される。
【0020】
ヘッド回復ユニット900はインク吐出口を含む周囲領域をキャッピングするキャッピングゴム910、ヘッドフェイス面を拭くワイピングブレード920、またキャッピングゴム910を保持してインクジェットヘッド100から吐出されたり、図示しないインクポンプにより吸出されたインクをキャッチする回復桶930を備えている。
【0021】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置の動作について説明する。
【0022】
ユーザからの印字指令を受けた記録装置は、図示しない中央演算装置により、ヘッド回復ユニット上に待機中のインクジェットヘッドを、アクチュエータ630により、搬送装置500上に移動する。次にユーザはセンサS10に記録紙1000を投入すると搬送ローラ510、530は駆動を開始して、記録紙1000を図中Zへ搬送する、記録紙1000は次第に移動し、センサS20を通過する。センサS20を検知した記録装置は、検知された位置から算出し、記録紙1000がインクジェットヘッド100が待機する位置まで移動したタイミングで記録データに基づきインクジェットヘッドヘッド100のインク吐出口より、インクを吐出し、記録紙1000上に所望の画像を形成する。記録の終了した記録紙はさらに、搬送装置500により搬送され、印字は繰り返されていく。
【0023】
図6は、プラテン上でインクジェット記録ヘッド100が記録紙1000に対してインクを吐出する部分を拡大した図であり、印字中は記録紙1000が連続的に矢印Zの方向へ搬送され、それに伴いプラテン64上では搬送と同方向に気流が生じる。記録ヘッド100のフェイス面51と記録媒体1000の間隔は退避領域55で広く、吐出口周囲領域52及び外周領域53で狭くなるので、フェイス面51付近の空気の流れは矢印Aのようになる。ノズル58からのインク滴61の吐出の際に発生したミスト62はこの矢印Aの空気の流れに沿って流れ、搬送方向Zの下流側の段差部54及び退避領域55に付着するので装置内に飛散することがない。
【0024】
一方、図7に示す従来の記録ヘッドの場合、フェイス面151付近の空気の流れは矢印Bのようになるので、発生したミスト62は飛散してしまうものが多くなり、装置内のセンサや記録紙1000に付着して汚す原因となる。
【0025】
また、本実施形態のヘッド構成によれば、フェイス面51付近の空気の流れによって、記録紙1000から剥離した紙の繊維や表面コート剤である紙粉をトラップすることが可能である。すなわち、図8に示すように、記録紙1000の搬送によって発生し浮遊した紙粉81は矢印Aの空気の流れに沿って流され、搬送方向Zの下流側の段差部54及び退避領域55に接触する。搬送方向Zの下流側の段差部54及び退避領域55は前述したようにミストが付着して湿潤状態となっているので、紙粉81は吸着され装置内に飛散することがない。
【0026】
さらには図9に示すようにフェイス面付近の空気の流れによって記録紙1000の振動を緩和することが可能である。ラインプリンタは印字中に記録紙1000が連続して搬送されるため、プラテン64との間の摺動によって記録紙1000に振動が発生するが、吐出口周囲領域52及び外周領域53に対向する部分は空気の流速が他の部分よりも速くなるため、記録紙1000にプラテン64から浮かせる方向(矢印C)に力が加わる。これにより記録紙1000の印字領域ではプラテン64との摺動による振動が緩和されインク滴の着弾精度が向上するので、印字画質の向上を図ることが可能となる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1実施形態のインクジェット記録ヘッドの段差部54及び退避領域55に親水処理を施した例である。
【0027】
例えば、段差部54及び退避領域55に短波長紫外線(UV)照射などによる親水処理を施すことにより表面のぬれ性が向上し、ミストが付着した際にインク滴が広がって保持性が良くなる。これにより段差部54及び退避領域55に付着したミストがフェイス面付近の空気の流れによって移動し、再飛散してしまうことを防ぐことが可能となる。
【0028】
また、ぬれ性の向上により退避領域55を効率的に湿潤状態に保つことができるので、ミストや紙粉をより吸着しやすくすることができる。
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、第1及び/又は第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドを搭載する記録装置において、吐出口周囲領域52を拭くワイピングブレードが退避領域55に接触しないように構成した例である。
【0029】
図10は第3の実施形態としてのワイピングブレードの形状と記録ヘッドのフェイス面との位置関係を示し、ワイピングブレード920は記録ヘッドのフェイス面に当接しながら吐出口の配列方向に沿って移動し、印字後や予備吐出後、回復後に吐出口周囲領域52に付着するインク滴を拭き取る。本実施形態のように、ワイピングブレード920が吐出口周囲領域52および外周領域53にのみ当接するように構成することで、拭き領域を狭くすることが可能となる。これによりワイピングブレードの小型化が可能となる。また、ワイピングブレードが退避領域55に接触しないので、退避領域55にトラップされて増粘したインクや、紙粉がワイピングブレードに付着することが無く、吐出口に増粘インクや紙粉が再付着して吐出不良を引き起こすことを抑制できる。
【0030】
上記各実施形態によれば、記録紙とフェイス面の各領域との間隔が変化していることにより、プラテン上を連続的に記録紙が搬送されることにより記録紙上に生じる空気の流れの速度と方向を変化させ、退避領域に紙粉やミストを付着させる。これにより、記録装置内を浮遊するミストや紙粉による記録装置内の汚れやセンサの汚れや出力品位の低下を防ぐことが可能となる。
【0031】
また、インク滴を吐出する吐出口を含む吐出口周囲領域において記録ヘッドと記録紙の間隔が最も狭くなり、空気の流れの速度が最も速くなる。そして、この最狭部分では記録紙をプラテンから浮かせる方向に力が働くので、プラテンとの摺動により発生する振動が緩和され、インク滴の着弾精度の向上を図ることができる。
【0032】
更に、ワイピングブレードの記録ヘッドに当接する部分を小さくすることが可能となり、ワイピングブレードの小型化を図ることが可能となる。本発明は、インクに熱エネルギーを印加して吐出させるインクジェット記録装置のほか、ヒータに代えてピエゾ(圧電)素子を振動させてインクを吐出させるタイプにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【図2】本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッドの分解図である。
【図3】本発明に係る実施形態のインクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る実施形態のインクジェット記録装置の断面図である。
【図5】本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッドのフェイス面の断面図である。
【図6】本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッドにおけるフェイス面付近の空気の流れとミストの動きを説明する図である。
【図7】従来のインクジェット記録ヘッドにおけるフェイス面付近の空気の流れとミスとの動きを説明する図である。
【図8】本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッドにおけるフェイス面付近の空気の流れと紙粉の動きを説明する図である。
【図9】プラテン上を搬送される記録媒体に生じる力の説明図である。
【図10】ワイピングブレードの形状と記録ヘッドのフェイス面との位置関係を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
51 フェイス面
52 吐出口周囲領域
53 非連続段差領域
54 段差部
55 退避領域
57 インク吐出口
58 ノズル
61 インク滴
62 ミスト
64 プラテン
81 紙粉
100 インクジェット記録ヘッド
110 セラミックプレート
120 電気配線基板
150 吐出エレメント
210 インク通路部材
500 搬送装置
510 搬送ローラ
530 搬送ローラ
600 ヘッドキャリッジ
700 インクタンク
900 回復ユニット
1000 記録紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出するための吐出口が形成されたフェイス面に、前記吐出口を含むフラットな面を有する周囲領域と、前記周囲領域から退避するようにインク滴の吐出方向とは反対側に段差部が形成され、当該段差部から外側に広がる退避領域とを設けたことを特徴としたインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記周囲領域は、前記吐出口を含む連続した面を形成する吐出口周囲領域と、前記吐出口周囲領域の外側に隣接したフラットな面を有する外周領域とを備え、
前記段差部は前記外周領域に隣接して形成され、前記退避領域は、前記段差部から前記インク滴の吐出方向とは反対側に徐々に退避するように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記外周領域の幅が1.0mm以下であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記退避領域は親水性を有することを特徴とした請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドを有し、前記記録ヘッドを不動の状態とし、記録媒体を前記吐出口の配列方向と直交する方向に移動させることにより記録を行うことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記周囲領域を拭く拭き部材を有し、前記拭き部材は、前記退避領域に接触しない状態で前周囲領域を拭くことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−103275(P2006−103275A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296644(P2004−296644)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】