説明

インクジェット記録ヘッド

【課題】 吐出口列内の温度格差に起因する画像の濃度ムラを低減する記録の高速化・高密度化によるヘッドの昇温を抑制する。
【解決手段】 本発明のインクジェット記録ヘッドは、記録素子基板21と支持板10との支持部における、支持部に対して記録素子基板から離間する方向の熱抵抗を、吐出口列51,52方向の中心部領域と、端部領域と、で異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して記録動作を行うインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インクジェット記録ヘッドの吐出口からインクを吐出し、記録媒体に付着させて画像記録を行うものであり、高精細な画像を高速で記録することができる。
【0003】
近年、1つの記録素子基板に形成される吐出口列の長尺化、多列化によって、より低コストかつ省スペースでのカラー画像記録が可能になってきている。
【0004】
このようなインクジェット記録へッドを図4に示す。この記録ヘッドは、多数の吐出口列を備えた記録素子基板の複数を、1つの支持板に千鳥状に列状に配列し、さらにこの列を複数配列することで、記録媒体の全幅に相当する吐出口列を形成した、フルライン型インクジェット記録ヘッドである。
【0005】
図5のインクジェット記録へッドは、2列の吐出口列5を備えた6枚の記録素子基板21〜26が支持板10の固定面11に千鳥配列で接着固定されている。記録の実行に伴って記録素子基板21〜26に発生する熱は、支持板10を介して外部へ放熱される。
【0006】
記録媒体は、図5の左側から右に向かって不図示の搬送手段によって、固定面11に対して対面しつつ、記録素子基板21〜26の吐出口列5に対して直交する方向に搬送される。記録媒体が記録ヘッド直下を通過する際に、まず奇数列の記録素子基板21,23,25の各吐出口列からインク滴が吐出されて記録媒体上にドットを形成する。次いで、その隙間を補完するように偶数列の記録素子基板22,24,26の各吐出口列からインク滴が吐出されて記録媒体上にドットを形成する。このような同動作を繰り返すことにより、画記録が実行されていく。奇数列の記録素子基板と、偶数列の記録素子基板は互いにある一定量オーバーラップしており、そのオーバーラップ部分の画像は補完処理が行なわれ、画像品位を保つようになっている。
【0007】
図6は、図5の支持板10を記録素子基板が配された面とは反対側の面から見た図である。インク供給路111、121、131、141、151、161を経て、それぞれ対応する記録素子基板21〜26へ、不図示のインクタンクからインクが供給される。2列の吐出口列は、1つのインク供給口の両側に1列ずつ配置され、1つの記録素子基板に1つのインク供給路が設けられている。
【0008】
図7は、記録素子基板21を説明する模式図である。図7(a)は吐出口列が配された側を見た平面図であり、図7(b)は図7(a)のA−A断面図であり、図7(c)は図7(a)のB−B断面図である。
【0009】
記録素子基板21には2列の吐出口列51、52が形成され、対を成してインク供給口41を共有し、支持板10に設けられたインク供給路111を通じてインクが供給される。吐出口列51、52に供給されたインクは、ヒータ61、62に印加されるパルス信号によって発する熱エネルギーを受けて、吐出口から吐出される。
【0010】
不図示の記録媒体は吐出口列52側から搬送され、記録媒体上に吐出口列52、51の順にインク滴を重ね打ちして記録画像が形成される。
他の記録素子基板22〜26に関しても同様である。
【特許文献1】特開2003−305853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような構造のインクジェット記録ヘッドの場合、吐出口列中央部には熱がこもり易く、記録素子基板内の均熱の妨げになる恐れがある。
【0012】
ヒータ61、62によって発生した熱は、インク供給口41を避けて拡散して支持板10に伝わる。したがって、吐出口列51、52のヒータによって発生した熱は、記録素子基板の長辺側両端から支持板10に伝わる。
【0013】
一方、吐出口列51、52端部付近のヒータによって発生した熱は、記録素子基板の長辺側両端から支持板10に伝わるのに加えて、記録素子基板の短辺側端部からも支持板10に伝わる。そのため、吐出口列端部は中央に比べて昇温が抑えられ、吐出口列内において、その位置における温度格差が発生する。
【0014】
一般に記録素子基板が高温になるほどインク吐出量は増大するため、吐出口のある位置間で温度格差が生じると、インク吐出量にも差が生じてしまう。従って、上述したような吐出口列内の温度格差が発生すると画像の濃度ムラの原因となり、画像品位に悪影響を及ぼしてしまうという問題があった。
【0015】
そこで本発明の目的は、記録素子基板の均熱特性を改善して、吐出口列内の温度格差に起因する画像の濃度ムラを低減するインクジェット記録ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成する本発明は、インクを吐出するための吐出口列を有する記録素子基板と、前記記録素子基板を支持する支持板と、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、前記記録素子基板を前記支持板へ固定する固定面の、前記吐出口列の配列方向中央部の熱伝導率を前記吐出口列の配列方向端部の熱伝導率よりも高くしたことを特徴とする。
【0017】
また、他の本発明は、インクを吐出するための吐出口列を有する記録素子基板と、前記記録素子基板を支持する支持板と、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、前記記録素子基板は前記支持板の固定面に接着によって固定され、該固定面における、前記記録素子基板または前記支持板の少なくとも一方の側の、前記複数の吐出口列の配列方向中心部以外の部位に、前記固定面に対して前記記録素子基板から離間する方向に溝を形成し、前記記録素子基板を前記固定面へ固定する際に、該溝に接着剤を充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、記録素子基板の均熱特性を改善して、吐出口列内の温度格差に起因する画像の濃度ムラを低減するインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの支持板10に接着固定された記録素子基板21を説明する図である。図1(a)は吐出口列が配された側を見た平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面図であり、図1(c)は図1(a)のB−B断面図である。インクジェット記録ヘッドの基本的な外願構成は、図5及び図6に示したものと同様である。
【0020】
図1において、記録素子基板21には吐出口列51、52がインク供給側と反対の面に形成されている。吐出口列51、52は対を成してインク供給口41を共有し、支持板10に設けられたインク供給路111を通じてインクが供給される。吐出口列51、52に供給されたインクはヒータ61、62に印加されるパルス信号によって発する熱エネルギーにより、吐出口から吐出される。
【0021】
支持板10のインク供給路41両側の部分101、102は、支持板10の他の部分よりも熱伝導率の高い材料で構成される。例えば、支持板10をアルミナ(Al、熱伝導率:32W/mK)で形成する。そして、支持板10のインク供給路41の両側の部分101、102を窒化アルミ(AlN、熱伝導率:170W/mK)やシリコンカーバイト(SiC、熱伝導率:220W/mK)などの高熱伝導性のセラミック材料で形成する。
【0022】
一方、記録素子基板21の支持板10との固定面(接着面)11において、吐出口列の配列方向両端部には、吐出口列の配列方向中央部を含む他の部分よりも熱伝導率の低い材料で高熱抵抗層81〜84が形成されている。この高熱抵抗層81〜84は、記録素子基板21と支持板10との接触する面(固定面)において、少なくとも記録素子基板21側か支持板10側かの一方に形成されていればよい。このようにして、固定面11における、記録素子基板21または支持板10の少なくとも一方側の、吐出口列の配列方向端部に、配列方向中央部から配列方向端部に向かって熱伝導率の低い材料を配している。同時に、吐出口列の配列方向中央部の熱伝導率を吐出口列の配列方向端部の熱伝導率よりも高くしている。高熱抵抗層81〜84の形成方法として、例えばシリコン(Si、熱伝導率:148W/mK)で形成された記録素子基板21の接着面に酸化シリコン層81(SiO、熱伝導率:3W/mK)を、酸素イオンの打ち込みによる表面改質処理により形成する。その他には、真空蒸着処理で形成することもできる。高熱抵抗層は、81〜84と段階的に熱伝導率を変化させてあり、高熱抵抗層81が一番熱伝導率が低い。高熱抵抗層81〜84はまた、吐出口列51、52の両端部を取り囲むように形成されている。
【0023】
本実施形態の記録素子基板21を用いて記録を実行すると、ヒータ61、62によって発生した熱は記録素子基板長辺方向の接着部を介して支持板10の高熱伝導率部101及び102に伝わる。このように、中心部のヒータによって発生した熱は同じ経路を通して拡散するので、吐出口列方向の中心部における温度格差はほとんど発生しない。
【0024】
一方、吐出口列両端部においては、記録素子基板長辺方向に中心部と同様に熱拡散が起こるのに加えて、記録素子基板短辺方向においても熱拡散が生じる。本実施形態においては、この短辺方向の熱拡散を、高熱抵抗層81によって抑制する。さらに、吐出口列最短部より少し内側のヒータから発生した熱においては、記録素子基板長辺部に拡散する拡散量を高熱抵抗層82〜84によって段階的に抑制する。
【0025】
図2は、吐出口列方向の温度分布をグラフ化した図で、ライン91は従来例を示しており、ライン92は、本実施形態の実施後の状態を示している。2つを比べると明らかなように、両端部の温度低下が、改善されている。
【0026】
以上、本実施形態で示したような構成にすることで、吐出口列51、52の温度を吐出口列端部まで含めて均一にすることができ、記録素子基板における画像の濃度ムラを解消して画像品位を向上させることができる。
【0027】
なお、支持板10の一部に高伝導率材料を用いて構成されているが、すべてに同一材料を用いてもかまわない。その場合においても、吐出口列の温度分布を均一にすることは、高抵抗層81〜84の熱伝導率を調整することで可能である。しかしながら、支持板10の熱伝導率が低いと、記録素子基板全体の排熱効率が低下して、記録素子基板の温度が上がってしまうことに注意する必要がある。
【0028】
また、記録素子基板21の長辺および短辺を短縮して高熱抵抗層81〜84の支持板10との接着部面積を減らすことによって接着部の熱抵抗を高めることも可能である。しかしながら、支持板10に対する記録素子基板21の位置決め誤差の許容限界と接着強度限界の関係上、接着部面積の縮小にはリスクが伴うため、接着部の熱抵抗を高めるには高熱抵抗層81の厚みを増すことで対処するのが望ましい。
【0029】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの支持板10に接着固定された記録素子基板21を説明する図である。図3(a)は吐出口列が配された側を見た平面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A断面図であり、図3(c)は図3(a)のB−B断面図である。インクジェット記録ヘッドの基本的な外願構成は、図5及び図6に示したものと同様である。
【0030】
また本実施形態では、記録素子基板21の接着面(固定面)に高熱抵抗層の代わりに溝85〜88を設け、それ以外の構成は、支持板10一部を他の部分と同じ材料で構成したのを除いて第1の実施形態と同様である。
【0031】
本実施形態の記録ヘッドは、固定面11における、記録素子基板21または支持板10の少なくとも一方の側の、複数の吐出口列の配列方向中心部以外の部位に、固定面に対して記録素子基板21から離間する方向に溝85〜88を形成している。そして、記録素子基板21を固定面11へ固定する際に、溝85〜88に接着剤を充填するものである。
【0032】
図3において、記録素子基板21の支持板10との固定面11における、両端部には、他の部分よりも一段下がった溝85〜88が段階的に形成されている。溝85〜88は、例えば、フォトリソグラフィによるマスキングを施したエッチング処理等によって形成される。
【0033】
溝85〜88には、記録素子基板21を支持板10に接着固定する際に、接着剤が流れ込む。溝85〜88に流れ込んだ接着剤がインク供給路内部や記録素子基板周辺にはみ出さない様、溝85〜88の縁は全て記録素子基板の接着面と同一高さとなっている。硬化後の接着剤は、シリコン(Si、熱伝導率:148W/mK)等で形成された記録素子基板21に対して、熱伝導率が例えば1.0W/mKと極めて低い。そのため、溝85〜88に溜まった接着剤は、高熱抵抗層として機能する。
【0034】
上述のように構成された記録素子基板21において記録を実行すると、ヒータ61,62によって発生した熱は記録素子基板21の長辺方向の接着部を介して支持板10に伝わる。
【0035】
これに対して、吐出口列両端部においては、記録素子基板21の長辺方向に中心部と同様に熱拡散が起こるのに加えて、記録素子基板21の短辺方向においても熱拡散が生じる。第2の実施形態においては、この短辺方向の熱拡散を、主に高熱抵抗層85によって抑制する。さらに、吐出口列最短部より少し内側のヒータから発生した熱においては、記録素子基板長辺部に拡散する拡散量を高熱抵抗層86〜88によって段階的に抑制する。
【0036】
以上、本実施形態で示したような構成にすることで、吐出口列51、52の温度を吐出口列端部まで含めて均一にすることができ、複数の吐出口列を備えた記録素子基板における画像の濃度ムラを解消して画像品位を向上させることができる。
【0037】
なお、本実施形態では溝85〜88は記録素子基板の接着面に設けたが、同等のものを支持板10の接着面に設けても構わない。この溝は、少なくとも、記録素子基板の接着面と支持板との一方に設けられていればよい。その場合に、この溝は、切削加工の他に、放電加工や型成型によっても形成することができる。
【0038】
(第3の実施形態)
本実施形態では、さらに、図4に示すように、記録素子基板21、23、25の配列方向の両側、及び記録素子基板22、24、26の配列方向の両側に沿ってヒートパイプが位置するように、支持板10の内部にヒートパイプ31、32、33が配されている。つまり、各記録素子基板のそれぞれの吐出口列配列方向に沿って、その列の側方の支持板にヒートパイプを配した構成である。
【0039】
本実施形態によると、吐出口列の配列方向に沿って側方にヒートパイプが延在しているので、吐出口列両端部と吐出口列中央部温度差を僅少化することができる。
【0040】
なお、上述の第1及び第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドの支持板に、本実施形態のヒートパイプの配置構成を適用することで、さらに第1及び第2の実施形態の効果を大きくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの記録素子基板を説明する図である。
【図2】図1の記録ヘッドと従来の記録ヘッドとの吐出口列方向の温度分布を示したグラフである。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの記録素子基板を説明する図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの記録素子基板を説明する図である。
【図5】従来例のインクジェット記録へッドを説明する斜視図である。
【図6】図5の支持板をその反対側の面から見た図である。
【図7】図5の記録素子基板を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0042】
10 支持板
21〜26 記録素子基板
31〜33 ヒートパイプ
41 インク供給口
51、52 吐出口列
61、62 ヒータ
81〜84 高熱抵抗層
85〜88 溝
111 インク供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための吐出口列を有する記録素子基板と、前記記録素子基板を支持する支持板と、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記記録素子基板を前記支持板へ固定する固定面の、前記吐出口列の配列方向中央部の熱伝導率を前記吐出口列の配列方向端部の熱伝導率よりも高くしたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記記録素子基板を前記支持板へ固定する固定面における、前記記録素子基板または前記支持板の少なくとも一方側の、前記吐出口列の配列方向端部に、前記配列方向中央部から前記配列方向端部に向かって熱伝導率の低い材料を配したことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口列の配列方向の温度差が僅少化されるように、熱伝導率を段階的に変化させて形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記記録素子基板は前記支持板に複数の列状に配され、各列の両側に列方向に沿って、前記支持板の内部にヒートパイプが延在していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
インクを吐出するための吐出口列を有する記録素子基板と、前記記録素子基板を支持する支持板と、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記記録素子基板は前記支持板の固定面に接着によって固定され、該固定面における、前記記録素子基板または前記支持板の少なくとも一方の側の、前記複数の吐出口列の配列方向中心部以外の部位に、前記固定面に対して前記記録素子基板から離間する方向に溝を形成し、前記記録素子基板を前記固定面へ固定する際に、該溝に接着剤を充填することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記吐出口列の配列方向の温度差が僅少化されるように、熱伝導率を段階的に変化させて形成したことを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記記録素子基板は前記支持板に複数の列状に配され、各列の両側に列方向に沿って、前記支持板の内部にヒートパイプが延在していることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−137022(P2009−137022A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312404(P2007−312404)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】