説明

インクジェット記録体の製造方法

【課題】 キャスト塗工法により、低透気性又は非透気性の支持体を使用して、光沢性およびインク吸収性に優れたインクジェット記録体を製造できるインクジェット記録体の製造方法を提供する。
【解決手段】 低透気性又は非透気性の支持体2上にインク受容層3が設けられてなる基材4を光沢ロール5とプレスロール6との間に配置し、該インク受容層3上に光沢層を形成するための塗布液7を供給した後、基材4を、プレスロール6で加圧しながら、加熱された光沢ロール5とプレスロール6との間を通過させることにより塗布液7をプレス塗工して塗布液層8を形成し、塗布液層8が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに、該塗布液層8を光沢ロール5から剥離して移動させた後、塗布液層8を光沢ロール5に再接触させ、その状態で基材4を移動させた後、塗布液層8を光沢ロール5から剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクを微細なノズルから噴出して記録体に画像を形成させるインクジェット記録方式は、記録時の騒音が少ないこと、カラー化が容易であること、高速記録が可能であること、また、他の印刷装置より安価であること等の理由から、端末用プリンタ、ファクシミリ、プロッタ、あるいは帳票印刷等で広く利用されている。
近年、プリンタの急速な普及や高精細・高速化、さらにはデジタルカメラの登場により、インクジェット記録方式において用いられる記録体にも高度な特性が要望されるようになっている。すなわち、速いインク吸収性、高い記録濃度、優れた耐水性や保存性等の記録特性、特に、銀塩写真に匹敵する画質と表面光沢とを兼ね備えたインクジェット記録体の実現が強く求められている。
【0003】
インクジェット記録体に光沢を付与する方法の1つとして、表面が鏡面である加熱された光沢ロールに湿潤塗工層を圧着させ、乾燥することによりその鏡面を写し取る、いわゆるキャスト塗工法が知られている(例えば特許文献1,2参照)。
キャスト塗工法としては、
(1)顔料等の微粒子および接着剤を主成分とする微粒子組成物(塗工液)を原紙上に塗工後、塗工層が湿潤状態にある間に加熱された光沢ロールに圧接、乾燥させて光沢仕上げするウェットキャスト法、
(2)湿潤状態の塗工層を酸や塩、熱によりゲル状態とし、これを加熱された光沢ロールに圧接、乾燥させて光沢仕上げするゲル化キャスト法、
(3)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥した後、これを再湿潤液で湿潤可塑化し、これを加熱された光沢ロールに圧接、乾燥させて光沢仕上げするリウェットキャスト法等が一般に知られている。
これらのキャスト塗工法は、当業者間では、それぞれ別個の技術として認知されているものではあるが、いずれも湿潤可塑化状態にある塗工層表面を、加熱された光沢ロールに圧接、乾燥し、光沢ロールから離型して鏡面を写し取る点において共通するものである。
キャスト塗工法により得られるキャスト塗工紙は、高い表面光沢と優れた表面平滑性を有し、優れた印刷効果が得られることから高級印刷物等の用途に専ら利用されている。
【0004】
しかし、キャスト塗工法においては、湿潤した塗工液を加熱された光沢ロールに接触させ、その状態で乾燥させるため、塗工液中の水分は、蒸気として、支持体を通って裏面に抜けることが必要である。そのため、樹脂被覆紙やフィルムのような、著しく透気性の低い支持体を使用すると、蒸気が塗工層内部に滞留する。蒸気の体積は、蒸発前の水の体積と比較し、非常に大きいため、逃げ場のなくなった蒸気は支持体を持ち上げる。そのときに、塗工層が破壊されて光沢むら等が生じ、光沢性が低下する。例えば、塗工層の光沢ロールに対する接着が弱い場合は、塗工層が光沢ロールとの界面で剥離し、光沢ロールの鏡面を充分に写し取ることができず、充分な光沢性が得られない。また、塗工層の光沢ロールに対する接着力が強い場合には、塗工層が、塗工層内部の最も弱い部分で破断して、光沢むらが生じたり、塗工層の一部が光沢ロールの表面に残って光沢ロール汚れを引き起こすなど、品質上、操業上のトラブルとなる。
したがって、樹脂被覆紙やフィルムのような、低透気性又は非透気性の支持体を使用してキャスト塗工紙を得ることには非常に大きな困難が伴う。
【0005】
一方、インクジェット記録においては、印字した時に、インク中に含まれる水分等の溶媒の影響で記録体が伸びて波打つ、いわゆるコックリングという欠陥が観察されることが知られている。コックリングは、印字物の外観を損なうのみならず、コックリングした記録体と記録ヘッドが接触して記録体を汚したり、甚だしい場合は記録体が破れ、または記録ヘッドの故障を引き起こす場合がある。
コックリングを抑えるには、インク中の溶媒により伸びたりしないフィルムや、紙等の透気性の支持体上にインク中の溶媒を通さない樹脂層を設けた樹脂被覆紙等の低透気性又は非透気性の支持体を使用することが効果的である。
しかし、上述したように、低透気性又は非透気性の支持体を使用してキャスト塗工紙を得ることは困難であり、コックリングを起こさないキャスト塗工紙を得ることは困難である。
【0006】
このような問題に対し、本出願人は、特許文献3において、低透気性又は非透気性の支持体を使用して、銀塩写真並の高い表面光沢を有し、かつインク吸収性等の記録特性にも優れ、さらにインク溶媒によるコックリングを防止できるインクジェット記録体を開示している。特許文献3において、インクジェット記録体の製造は、図6に示すように行われる。すなわち、まず、低透気性又は非透気性の支持体102上にインク受容層103を設け、支持体102を、インク受容層103が光沢ロール105に接するように、光沢ロール105とプレスロール106との間に配置し、インク受容層103上に、光沢層を形成するための塗布液104を供給して塗布液溜まりを形成する。そして、支持体102を、塗布液104が供給された面が光沢ロール105に接するように光沢ロール105とプレスロール106との間を通過させて塗布液104をプレス塗工し、塗布液層107を形成した後、直ちに光沢ロール105から塗布液層107を剥離し、ドライヤー109を用いて乾燥して、支持体102、インク受容層103、光沢層108からなるインクジェット記録体101を得る。
【特許文献1】米国特許第5275846号明細書
【特許文献2】特開平7−89220号公報
【特許文献3】国際公開第03/039881号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、インクジェット記録の高精細化や高速化、多色化等がますます進むなか、さらなる光沢性およびインク吸収性の向上が求められている。
すなわち、本発明は、キャスト塗工法により、低透気性又は非透気性の支持体を使用して、光沢性およびインク吸収性に優れたインクジェット記録体を製造できるインクジェット記録体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、プレス塗工により形成した塗布液層を光沢ロールから剥離した後、該塗布液層を加熱された光沢ロールに再接触させ、再接触状態を保持した後再度剥離することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記の態様を有する。
[1]低透気性または非透気性の支持体上に、インク受容層と、該インク受容層上に設けられた平均一次粒子径3〜100nmの微粒子を含有する光沢層とを有するインクジェット記録体の製造方法であって、
前記光沢層を、下記工程(1)〜(3)を含む工程により形成することを特徴とするインクジェット記録体の製造方法。
工程(1):前記支持体上に前記インク受容層を設けてなる基材の前記インク受容層上に、前記光沢層を形成するための塗布液を供給し、前記基材を、加熱された光沢ロールとプレスロールとの間を、前記塗布液が供給された側の面が光沢ロールに接触するように通過させることにより前記塗布液をプレス塗工して塗布液層を形成する工程
工程(2):前記塗布液層が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに前記塗布液層を前記光沢ロールから剥離し、剥離状態を保持する工程
工程(3):前記塗布液層を加熱された光沢ロールに再接触させ、再接触状態を保持した後、前記塗布液層を前記光沢ロールから剥離する工程
[2]前記工程(1)における前記光沢ロールの温度が80〜120℃、前記基材を前記光沢ロールとプレスロールとの間を通過させる移動速度が20〜250m/分、ニップ幅が15〜40mmであり、
前記工程(2)における前記塗布液層の剥離が、前記プレス塗工の終了位置から前記光沢ロールの外周に沿って1cm未満の位置で行われる[1]記載のインクジェット記録体の製造方法。
[3]前記工程(1)における前記光沢ロールの温度が80〜120℃、前記基材を前記光沢ロールとプレスロールとの間を通過させる移動速度が20〜250m/分、ニップ幅が15〜40mmであり、
前記工程(2)における前記塗布液層の剥離が、前記プレス塗工の終了位置から前記光沢ロールの外周に沿って1〜40cmの位置で行われる[1]記載のインクジェット記録体の製造方法。
[4]前記工程(1)における前記基材を前記光沢ロールとプレスロールとの間を通過させる移動速度が20〜250m/分であり、
前記工程(3)における前記光沢ロールの温度が80〜120℃であり、前記塗布液層の剥離が、再接触した位置から前記光沢ロールの外周に沿って50〜500cmの位置で行われる[1]〜[3]のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[5]前記プレス塗工に用いる光沢ロールと、前記塗布液層を再接触させる光沢ロールとが同一である[1]〜[4]のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[6]前記光沢ロールの直径が200〜350cmである[5]記載のインクジェット記録体の製造方法。
[7]前記工程(3)の後、さらに、前記塗布液層を乾燥する工程を行う[1]〜[6]のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
[8]前記支持体がフイルムまたは樹脂被覆紙である[1]〜[7]のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェット記録体の製造方法によれば、低透気性又は非透気性の支持体を使用して、光沢性およびインク吸収性に優れたインクジェット記録体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
≪第一実施形態≫
以下、本発明の第一実施形態を図1,2を用いて説明する。
本実施形態においては、まず、低透気性又は非透気性の支持体2上に少なくとも一層のインク受容層3が設けられてなる基材4を用意する(準備工程)。
次に、該基材4を光沢ロール5とプレスロール6との間に、インク受容層3が光沢ロール5に接するように配置する。そして、基材4のインク受容層3上に、光沢層を形成するための塗布液7を供給し、光沢ロール5とインク受容層3とが接触する交点の上部に塗布液溜まりを形成する。そして、塗布液7が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに、基材4を、プレスロール6で加圧しながら、加熱された光沢ロール5とプレスロール6との間を通過させることにより塗布液7をプレス塗工して塗布液層8を形成する(工程(1))。
次に、塗布液層8が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに、該塗布液層8を光沢ロール5から剥離し、剥離ロール10を介して移動させることにより剥離状態を保持する(工程(2))。
次に、剥離状態の塗布液層8を光沢ロール5に再接触させ、その状態で基材4を移動させることにより塗布液層8の再接触状態を保持した後、剥離ロール11を用いて塗布液層8を光沢ロール5から剥離する(工程(3))。
工程(3)の後、適宜、ドライヤー等の乾燥装置12を用いて塗布液層8の乾燥を行う乾燥工程を行っても良い。
これらの工程により、支持体2、インク受容層3および光沢層13からなるインクジェット記録体1を得る。
【0011】
以下、各工程につき、より詳細に説明する。
<準備工程>
本工程では、低透気性又は非透気性の支持体2上にインク受容層3が設けられてなる基材4を用意する。
(低透気性又は非透気性の支持体2)
本発明において、低透気性又は非透気性の支持体とは、透気度が500秒以上の支持体を意味する。支持体の透気度は好ましくは1000秒以上である。透気度は、一般に、紙や不織布などの多孔性を評価する項目として知られている。透気度は、空気100mlが面積645mmの試験片を通過するのに要する時間で表され、JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)に規定されている。
前述のとおり、従来、キャスト塗工においては、キャスト塗工層の乾燥時、塗料の水分は蒸気となり、支持体を通って裏面に抜けるため、キャスト塗工に用いられる支持体の透気度は高い方が好ましかった。しかし、本発明においては、透気度に拘る必要はない。逆に、コックリングを抑えるためには、支持体は、水分や水蒸気を通さないことが好ましい。したがって、本発明で用いられる支持体は、平滑な表面を持つ低透気性又は非透気性のものであれば、特に材質は問わない。
【0012】
好ましい支持体としては、例えば、ポリプロピレンを延伸し、特殊加工を施した、ユポ(ユポ・コーポレーション社製)に代表される合成紙、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル等のフィルムや、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの樹脂で、紙などの基体表面を被覆した樹脂被覆紙が挙げられる。特に、酸化チタンを練り込んだポリエチレン樹脂で紙表面を被覆した樹脂被覆紙は、仕上がった外観が写真印画紙と同等であるため、特に好ましく用いられる。
支持体が樹脂被覆紙の場合、樹脂層の厚みに特に制限はないが、例えばポリエチレン樹脂を被覆した樹脂被覆紙の場合、ポリエチレン樹脂層の厚みは、3〜50μmが好ましく、5〜40μmがより好ましい。ポリエチレン樹脂層の厚みが3μm未満の場合は、樹脂被覆時にポリエチレン樹脂層に穴等の欠陥が生じやすくなり、厚みのコントロールに困難がある場合が多くなり、平滑性も得にくくなる。逆に50μmを超えると、コストが増加する割には、得られる効果が小さく、不経済である。
また、後述するインク受容層との接着性を高めるため、樹脂層表面に、コロナ放電処理を施したり、アンカーコート層を設けることが好ましい。
【0013】
樹脂被覆紙の基体として紙を用いる場合、該紙としては、木材パルプを主材料として製造されたものが好ましく用いられる。木材パルプは、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等を適宜使用することができ、これらのパルプは紙力や平滑性、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整できる。叩解度は、特に限定しないが、一般に250〜550mL(CSF:JIS−P−8121)程度が好ましい範囲である。またいわゆるECF、TCFパルプ等の塩素フリーパルプも好ましく使用できる。
また、必要に応じて、木材パルプに填料を添加することができる。填料としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、焼成カオリン、シリカ、ゼオライト、二酸化チタン、プラスチックピグメント等が好ましく使用される。填料の添加により、不透明性や平滑度を高めることができるが、過剰に添加すると、紙力が低下する場合があり、填料の添加量は、対木材パルプ1〜20質量%程度が好ましい。
【0014】
(インク受容層3)
本発明において、インク受容層は、低透気性又は非透気性の支持体上に形成されている。本発明では、インク受容層は一層であっても多層であってもよい。インク受容層の少なくとも一層は、顔料等の微粒子と接着剤とを含有することが好ましい。
インク受容層が多層の場合、用いる微粒子や接着剤は各インク受容層毎に変えることができる。例えばインク受容層が二層構造の場合、光沢層と接するインク受容層(第1層)では、光沢度を高くするために非常に微細な微粒子を用い、支持体と接するインク受容層(第2層)にそれよりも大きな粒子径の微粒子を用いると、第1層のインク吸収性が低くても、第2層のインク吸収性が高くなるので、光沢度とインク吸収性を共に維持又は向上させることができる。
【0015】
インク受容層のうち、光沢層と接するインク受容層に使用される微粒子としては、コロイダルシリカ、無定形シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、ゼオライト等の無機顔料や、スチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント、べンゾグアナミン系プラスチックピグメント等の有機顔料が例示され、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
特に好ましい微粒子はコロイダルシリカ、アルミナ又は無定形シリカである。中でも、無定形シリカは、二次粒子であり、その内部に空隙を有しているので、一次粒子であるコロイダルシリカやアルミナを使用する場合より、インク吸収性に優れるので、特に好ましく用いられる。
無定形シリカとしては、窒素吸着法による比表面積が300m/g〜1000m/gで、細孔容積が0.4ml/g〜2.0ml/gであるシリカ微粒子がコロイド状に分散した液をシード液とし、該シード液に対し、アルカリの存在下、活性ケイ酸水溶液及び/又はアルコキシシランからなるフィード液を少量ずつ添加してシリカ微粒子を成長させて、窒素吸着法による比表面積が100m/g〜400m/g、平均二次粒子径が20nm〜300nm、かつ細孔容積が0.5ml〜2.0ml/gのシリカ微粒子がコロイド状に分散したシリカ微粒子分散液を用いても良い。
【0016】
光沢層と接するインク受容層に無定形シリカを使用する場合、好ましくは平均一次粒子径が3〜70nm、より好ましくは5〜40nmのものを用いる。
また、無定形シリカは、好ましくは平均二次粒子径が1.3μm以下、より好ましくは10〜700nmのものを用いる。平均二次粒子径が1.3μm以下であれば、細孔分布の表面積基準モード直径が100nm以下とすることができるので、ひび割れのない塗工層が得られやすく、ドット再現性、インク吸収性が良好で、かつ、インク受容層の透明性が向上するので、記録濃度も高い。
ここで、平均二次粒径とは、5%シリカ分散液をホモミキサーにて5000rpm、30分撹拌分散した直後に分散液を塗工してサンプルとし、電子顕微鏡(SEMとTEM)で観察し、1万〜40万倍の電子顕微鏡写真を撮り、5cm四方中の二次粒子のマーチン径を測定して平均したものである(「微粒子ハンドブック」、朝倉書店、p52、1991年参照)。
平均二次粒径1.3μm以下の微粒子の製造方法は、特に限定しないが、例えば、一般市販の合成無定型シリカなどの塊状原料や、液相での化学反応によって得られた沈殿物を機械的手段で粉砕する方法や、金属アルコキシドの加水分解によるゾル−ゲル法、気相での高温加水分解等の方法によって得ることができる。機械的手段としては、超音波、高速回転ミル、ローラミル、容器駆動媒体ミル、媒体撹拌ミル、ジェットミル、サンドグラインダー、ナノマイザー等が挙げられる。
【0017】
微粒子の比表面積は、特に限定されないが、150m/g以上であることが好ましい。ここで、微粒子の比表面積とは、微粒子を105℃にて乾燥し、得られた粉体試料の窒素吸脱着等温線をCoulter社製のSA3100型を用いて、200℃で2時間真空脱気した後測定し、比表面積をt法により算出したものである。比表面積は、微粒子の質量あたりの表面積であり、その値が大きいほど一次粒子が小さく、二次粒子の形状が複雑になりやすく、細孔内の容量が大きくなり、インク吸収性が向上すると考えられる。
【0018】
インク受容層が多層、例えば二層の場合、光沢層と接していないインク受容層は、光沢層と接するインク受容層に使用される微粒子と同様の微粒子を含有していてもよい。
特に好ましい微粒子は無定形シリカであり、光沢層と接していないインク受容層に無定形シリカを使用する場合、平均一次粒子径3〜70nm且つ平均二次粒子径20μm以下のものが好ましく、平均一次粒子径5〜40nm且つ平均二次粒子径1.3μm以下のものがより好ましい。
また、光沢層と接していないインク受容層に使用される無定形シリカの平均二次粒子径は、光沢層と接するインク受容層に使用される無定形シリカの平均二次粒子径より大きいことが好ましい。これは、光沢層と接していないインク受容層に使用される無定形シリカの平均二次粒子径が、光沢層と接するインク受容層に使用される無定形シリカの平均二次粒子径より小さい場合は、インク吸収性が低下する場合があるためである。
【0019】
インク受容層に使用される接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール(以下、PVAという)、ポリビニルアセタール、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドなどの水溶性樹脂や、アクリル系重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系重合体ラテックスなどの水分散性樹脂から適宜選択して使用することができる。なかでも、バインダー効果に優れていることから、PVAが好ましい。
接着剤として例えばPVAを用いる場合、重合度が好ましくは3000〜5000のものが好ましく用いられる。重合度が上記範囲内のPVAを用いることにより、インク受容層のひび割れを少なくすることができ、しかもインクの溶剤による膨潤も少ないため、インク吸収速度の低下が少ない。また、PVAのケン化度の好ましい範囲は90〜100%であり、より好ましくは95〜100%である。ケン化度が90%を下まわると、インクの溶剤によるPVAの膨潤により、インク吸収速度の低下のおそれがある。
接着剤の含有量としては、微粒子の質量に対し、好ましくは、3〜100質量%、より好ましくは5〜30質量%程度が好ましい。接着剤が3質量%より少ないとインク受容層にひび割れが生じやすく、100質量%より多いと、微粒子により形成される細孔を接着剤が塞ぎ、インク吸収容量の低下を招いてしまう可能性がある。
【0020】
インク受容層には、必要に応じて、後述する光沢層と同様、インク中の染料を固着し、耐水性を付与し、記録濃度を向上させるために、カチオン性化合物を添加することができる。カチオン性化合物については後述するが、光沢層に添加できるものがそのまま例示できる。また、光沢層とインク受容層では、異なる種類のカチオン性化合物を適宜選択でき、更に、複数のカチオン性化合物を併用することも可能である。
【0021】
インク受容層には、光沢層と同様、記録体表面を光沢ロールからスムーズに安定して剥離するように、必要に応じて離型剤を添加することができる。離型剤については後述するが、光沢層に添加できるものがそのまま例示できる。また、光沢層とインク受容層では、異なる種類の離型剤を適宜選択でき、更に、複数の離型剤を併用することも可能である。
【0022】
また、インク受容層には、上記のほかに、一般的に塗工紙の製造において使用される各種顔料、分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤を適宜添加してもよい。
【0023】
インク受容層は、上述した微粒子、接着剤等の成分を分散媒に分散させた塗工液を支持体に塗工し、乾燥させることによって形成できる。
塗工液の分散媒としては、特に限定はないが、塗工適性などの理由で、水が好ましい。
インク受容層の塗工量の合計は、5〜70g/mが好ましく、10〜50g/mがより好ましく、15〜40g/mが更に好ましい。また、塗工層の厚みの合計は、7〜105μmが好ましく、15〜75μmがより好ましく、22〜60μmがさらに好ましい。塗工量が5g/m未満の場合、光沢層が十分に形成できない可能性があるのみならず、インク吸収性が低下し、記録適性が劣る場合があり、塗工量が70g/mを超えると、塗工層の強度が低下し、記録体の断裁加工時や、プリンタでの記録体の搬送時に、トラブルを起こしやすくなるおそれがある。
塗工工程は1回行ってもよく、また、複数回行ってもよい。塗工液を複数回に分けて塗工することで、ひび割れの発生を抑制しながら多くの塗工液を塗工することができ、インク受容層のインク吸収容量を大きくすることができる。
【0024】
インク受容層の塗工装置としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター等、各種公知の塗工装置が利用できる。特に、エアナイフコーターは、幅広い塗料物性、塗工量に対応可能なため、好適に用いられる。また、ダイコーターやカーテンコーターは、塗工量の均一性に優れる他、同時多層塗工が容易であるため、特に高精細な記録を目的とする光沢タイプのインクジェット記録体には、好ましい塗工方法である。
塗膜の乾燥方法としては、特に限定はないが、従来から公知公用の熱風乾燥、ガスヒータ乾燥、高周波乾燥、電気ヒータ乾燥、赤外線ヒータ乾燥、レーザ乾燥、電子線乾燥等の各種加熱乾燥方式が適宜採用される。
【0025】
本発明において、光沢層と接するインク受容層は、細孔分布の比表面積基準モード直径が100nm以下のみであることが好ましい。
本発明において、細孔分布の比表面積基準モード直径とは、以下に述べる方法によって求めた細孔直径分布の極大値を示す。
細孔直径分布の測定方法としては、支持体の影響を避けるために、インク受容層をカッター等で剥がし取り測定に用いる。フィルム上で測定する場合、フィルム自体の細孔分布が無視できるフィルムを使用する。細孔直径分布は、マイクロメトリックス・ポアザイザー9320(島津製作所製)を用い、水銀圧入法により求める。水銀圧入法による細孔直径の測定は、細孔の断面を円形と仮定して導かれる下記の式を使って行われる。
R=−2γCOSθ/P
ただし、式中、Rは細孔半径(2R=細孔直径)、γは水銀の表面張力、θは接触角、Pは圧力を示す。
水銀の表面張力は482.536dyn/cmとし、接触角は130°を使用し、水銀圧力の低圧部(0〜30psia、測定細孔半径180〜3μm)と高圧部(0〜30000psia、測定細孔半径3〜0.003μm)にて測定する。
上記の原理を利用して、水銀に加える圧力を除々に変化させ、その時に細孔内に侵入した水銀の体積すなわち細孔容量Vを測定し、上記式に従って換算した細孔直径(2R)と細孔容量Vとの関係曲線を描き、この関係曲線の微分係数(dV/d(2R))を求めて縦軸とし、細孔直径2Rを横軸にすることで細孔直径分布曲線が求められる。インク受容層の細孔直径分布曲線は、通常、1〜数個のピークが認められる。これらのピークのうち、細孔直径(2R)の増加に対して微分係数(dV/d(2R))が増加から減少に転じるピークが極大であり、該極大における微分係数(dV/d(2R))が細孔直径分布の極大値である。
細孔直径が小さいほど、記録層の光沢度は高い。本発明においては、銀塩写真様の高い光沢度のインクジェット記録体を得るために、細孔直径分布の極大値が存在するのは100nm以下のみであることが好ましく、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下である。100nmより大きい極大値が存在すると、光沢度やドット再現性が低下し、さらに、記録層がひび割れしやすくなってしまうおそれがある。
【0026】
本発明において、光沢層と接するインク受容層は、細孔分布の比表面積基準モード直径が100nm以下のみであり、かつ平均二次粒子径が1.3μm以下の微粒子を主成分とすることが好ましい。
ここで、「主成分とする」とは、固形分比率で50質量%以上を意味する。
【0027】
インク受容層は、空隙率aが、インクを十分に吸収できるように、45<a<80%であることが好ましい。より好ましくは55≦a≦75%である。空隙率aが45%を下回るとインク吸収速度が低下するおそれがあり、80%を越えるとインク受容層がもろくなり、インク受容層や、その上に設けられる光沢層の剥がれが生じるおそれがある。
空隙率は、前述した水銀圧注入法により空隙量が測定できるため、容易に測定できる。
【0028】
<工程(1)>
次に工程(1)を行う。工程(1)では、まず、基材4を光沢ロール5とプレスロール6との間に、インク受容層3が光沢ロール5に接するように配置する。そして、基材4のインク受容層3上に、光沢層を形成するための塗布液7を供給し、光沢ロール5とインク受容層3とが接触する交点の上部に塗布液溜まりを形成する。そして、塗布液7が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに、基材4を、プレスロール6で加圧しながら、加熱された光沢ロール5とプレスロール6との間を通過させることにより塗布液7をプレス塗工して塗布液層8を形成する。これにより、支持体2、インク受容層3および塗布液層8からなる積層体9を得る。
【0029】
(光沢層を形成するための塗布液7)
本工程において用いられる光沢層を形成するための塗布液(以下、光沢層形成用塗布液ということがある)は、平均一次粒子径3〜100nmの微粒子を含有する。
光沢層形成用塗布液に含有される微粒子としては、平均一次粒子径が3〜100nmであればよく、たとえばコロイダルシリカ、無定形シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機顔料や有機顔料が例示される。これらの内で特に好ましい微粒子は、コロイダルシリカ、アルミナまたは無定形シリカである。
コロイダルシリカまたはアルミナを使用すると、光沢性が向上するため、特に好ましく用いられる。コロイダルシリカまたはアルミナは、平均一次粒子径5〜100nmが好ましく、10〜80nmがより好ましい。さらに好ましくは20〜70nmである。平均粒子径が5nm未満の場合は、インク吸収性が低下する場合があり、平均粒子径が100nmを超えると、透明性が低下するため、印字濃度が低下する傾向がある。
無定形シリカを使用する場合、好ましくは平均一次粒子径5〜100nm、より好ましくは5〜40nmのものを用いる。また、無定形シリカは、好ましくは平均二次粒子径1μm以下、より好ましくは10〜700nm、さらに好ましくは10〜500nmのものを用いる。
【0030】
光沢層形成用塗布液は、水性樹脂、カチオン性化合物、離型剤などの任意のその他の成分を含有してもよい。
水性樹脂は、インク吸収性を低下させるおそれがあるが、インクジェット記録体に樹脂系光沢が必要な場合等に適宜用いることができる。
水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびその共重合物、ポリメチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、酸化澱粉、カチオン化澱粉等の変性澱粉類、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類、ポリスチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の水性樹脂およびそれらの共重合物、変性物等が挙げられ、単独または組み合わせて使用でき、特に、スチレン・アクリル系共重合体が好ましい。
水性樹脂は、平均粒子径が20〜150nmの範囲のものが好ましい。平均粒子径が20nm未満の場合はインク吸収性が低下する場合があり、150nmを超える場合は透明性や印字濃度が低下する場合がある。
水性樹脂は、ガラス転移温度が50〜150℃の範囲のものが好ましい。ガラス転移温度が50℃より低い場合は、乾燥時に光沢層の成膜が進みすぎ、光沢層の多孔性が低下し、インク吸収性が低下する場合があり、150℃より高い場合は、成膜が不足し、光沢や強度が不足する場合がある。
水性樹脂の配合量は、微粒子100質量部に対し、0〜50質量部の範囲内であることが好ましく、0〜10質量部がより好ましい。
【0031】
光沢層形成用塗布液には、必要に応じて、インク受容層と同様、インク中の染料を固着し、耐水性を付与し、記録濃度を向上させるために、カチオン性化合物を添加することができる。
カチオン性化合物としては、ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、第2、3級アミン基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ポリビニルアミン類、ポリビニルアミジン類、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン樹脂、ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−二酸化イオウ共重合物、ジアリルアミン塩−二酸化イオウ共重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミン(メタ)アクリレート4級塩重合物、アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合物等のカチオン性化合物、アクリロニトリルとN−ビニルアクリルアミジン塩酸重合体、及び、その加水分解物、ポリアミジン系樹脂が例示でき、単独または数種類を組み合わせて使用しても良い。
また、カチオン化コロイダルシリカは、インク吸収速度や印字濃度が良好であるため、特に好ましく用いられる。
【0032】
光沢層形成用塗布液には、上記成分の他、更に、形成された塗布液層の表面を光沢ロールからスムーズに安定して剥離させるために、離型剤を添加することが好ましい。
離型剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸等の脂肪酸類、およびそれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、アンモニウム等の塩類、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドおよびメチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素類、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、ロート油、レシチン等の油脂類や脂質類、含フッ素界面活性剤等の各種界面活性剤、四フッ化エチレンポリマーやエチレン−四フッ化エチレンポリマー等のフッ素系ポリマー等が例示される。
これらの内、特に、脂肪族炭化水素またはその誘導体や変性物、脂肪酸またはその塩、脂質類が好ましく、中でも、脂肪族炭化水素としてはポリエチレンワックスが、脂肪酸としてはステアリン酸またはオレイン酸が、脂質としてはレシチンの使用がより好ましい。
【0033】
光沢層形成用塗布液には、上記のほかに、一般的に塗工紙の製造において使用される各種顔料、分散剤、増粘剤、消泡剤、着色剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤を適宜添加してもよい。
【0034】
光沢層形成用塗布液は、上述した微粒子、接着剤等の成分を分散媒に分散させることにより調製できる。
光沢層形成用塗布液を調製するために用いられる分散媒としては、特に限定はないが、塗工適性などの理由で、水が好ましい。
光沢層形成用塗布液中の総固形分濃度は、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。
【0035】
(プレス塗工)
塗布液7のプレス塗工は、塗布液7が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに、基材4を、プレスロール6で加圧しながら、加熱された光沢ロール5とプレスロール6との間を通過させることにより行われる。
光沢ロールの表面温度は、乾燥条件等の操業性、インク受容層への密着性、光沢層表面の光沢性から、80〜120℃の範囲が好ましく、90〜110℃の範囲がより好ましい。光沢ロールの表面温度が、80℃未満の場合は、塗布液層中の接着剤が成膜し難かったり、インク受容層中の接着剤が再膨潤しにくく、インクジェット記録体の表面強度が低下するおそれや、インク受容層への密着性が悪化したりする。120℃を超える場合は、光沢層形成用塗布液層中の接着剤の成膜が進みすぎるためインク吸収性が低下したり、光沢層形成用塗布液が沸騰し、光沢面が悪化するおそれがある。
光沢ロールは、耐熱性がよく、優れた鏡面性が得られることから、金属ロールであることが好ましい。また、表面に微細な凹凸をつけて光沢性を低下させるいわゆる半光沢紙にする場合、金属ロールに微細な凹凸をつけてもよい。光沢ロールの平均線中心粗さRaは、目標とする光沢によって変わるが、例えば、10μm以下である。
光沢ロールの直径は、200〜350cmが好ましく、250〜300cmがより好ましい。直径が200cm以上であると光沢ロールの表面温度を安定に保ち易く、また350cm以下であると、製造コスト面で有利である。
【0036】
プレスロールの材質は、上述のような光沢ロールとの間での加圧を均一にするために、樹脂等の弾性体が用いられる。特に、光沢ロールによって加熱されることから、耐熱樹脂製のプレスロールが好ましい。耐熱樹脂の硬度はショアA硬度95〜100であることが好ましい。
プレスロールによる加圧は、光沢ロールとプレスロールの間の線圧が、好ましくは50〜3500N/cm、より好ましくは200〜3000N/cmになるように行うことが好ましい。光沢ロールとプレスロールの間の線圧が、50N/cm未満の場合は、線圧が均一になり難く光沢性が低下したり、塗布液層のインク受容層に対する密着性が低下し、表面がひび割れたりするおそれがあり、3500N/cmを超える場合は、インクジェット記録体を過度に加圧するためにインク受容層および塗布液層内の空隙が破壊されてインク吸収性が低下するおそれがある。
プレスロールの直径は、25〜100cmが好ましく、45〜80cmがより好ましい。
【0037】
プレス塗工においては、ニップ幅が15〜40mmであることが好ましく、15〜30mmがより好ましい。これにより、高いインク吸収性と表面光沢を達成できる。
ここで、ニップ幅とは、プレス塗工の開始位置、すなわちプレスロールにより光沢ロールの表面への加圧が開始する位置(図2中のAの位置)から、プレス塗工の終了位置、すなわちプレスロールによる光沢ロールの表面への加圧が終了する位置(図2中のB)までの、光沢ロールの外周に沿った距離(図2中のW)を意味する。
ニップ幅は、プレスロールの硬さ、光沢ロールとプレスロールの間の線圧、光沢ロールの直径やプレスロールの直径等を調節することにより調節できる。たとえば光沢ロールやプレスロールの直径が大きいほどニップ幅は大きくなる。
【0038】
基材4を光沢ロール5とプレスロール6との間を通過させる移動速度は、特に限定されない。インク吸収性、表面光沢、コスト等を考慮すると、20〜250m/分が好ましく50〜200m/分がより好ましい。
なお、本工程における移動速度と、以降の全行程において基材4を移動させる速度とはほぼ同じである。
【0039】
プレス塗工により形成される塗布液層8の塗工量は、乾燥質量として、0.01〜3g/mが好ましく、0.03〜2g/mがより好ましく、0.05〜1g/mが更に好ましい。塗布量が0.01g/m未満の場合は、十分な光沢層を形成することが困難なために、光沢度が低くなりやすい。また、塗布量が3g/mを超えると、光沢度は得やすいが、インク吸収性や記録濃度が低下しやすい。
また、光沢層に微粒子としてコロイダルシリカやアルミナ等の一次粒子を用いる場合には、インク吸収速度が低くなりやすいため、塗布液層7の塗工量は、光沢層の厚みが好ましくは0.02〜4μm、より好ましくは0.05〜2μmとなる量とすることが好ましい。また、インク吸収容量とインク吸収速度との兼ね合いから、光沢層の厚みがインク受容層全体の厚みの1/10以下となる量とすることが好ましい。より好ましくは1/20以下、さらに好ましくは1/30以下である。
【0040】
上記工程(1)により、支持体2、インク受容層3および塗布液層8からなる積層体9を得る。
【0041】
<工程(2)>
次に、工程(2)を行う。工程(2)では、工程(1)で形成した塗布液層8が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに、該塗布液層8を光沢ロール5から剥離し、剥離ロール10を介して移動させることにより剥離状態を保持する。
【0042】
本実施形態においては、プレス塗工の終了後、直ちに塗布液層8を光沢ロール5から剥離し、その剥離状態を保持する。すなわち、図2に示すように、支持体2、インク受容層3および塗布液層8からなる積層体9がプレス塗工の終了位置Bを通過した後、該積層体9を、光沢ロール5の図2中のCの位置で、該位置Cにおける接線方向よりもプレスロール6側の方向に移動させることにより、塗布液層8が光沢ロール5から位置Cで剥離する。そして、積層体9を、剥離ロール10を介して移動させることにより剥離状態が保持される。
光沢ロール5により加熱された積層体9をプレス塗工後すぐに剥離して剥離状態を保持することにより、塗布液層8およびインク受容層3中の水分が、塗布液層8表面から速やかに蒸発していくため、光沢むらのない優れた光沢性を有するインクジェット記録体が得られる。すなわち、低透気性または非透気性の支持体を用いているため、積層体9を光沢ロール5に長時間接触させておくと、従来のキャスト塗工法と同様、塗布液層8中の水分の逃げ場がなく塗布液層8内部に滞留したまま蒸気となり、それによって塗布液層やインク受容層が破壊されて光沢ムラを生じるが、直ちに剥離することによって塗布液層8内部に滞留することなく蒸発し、光沢性に優れたインクジェット記録体が得られる。
ここで、「直ちに剥離する」の具体的態様は、上記のような効果が得られれば特に限定されないが、たとえば前記工程(1)における光沢ロール5の温度が80〜120℃、基材4を光沢ロール5とプレスロール6との間を通過させる移動速度が20〜250m/分、ニップ幅が15〜40mmである場合には、塗布液層8の剥離が、前記プレス塗工の終了位置Bから前記光沢ロールの外周に沿って1cm未満の位置で行われることが好ましい。
【0043】
塗布液層8の剥離状態を保持する時間としては、特に限定されないが、光沢ロール5により加熱された塗布液層8およびインク受容層3中の水分の蒸発に必要な時間や作業効率考慮すると、1〜60秒間が好ましく、5〜30秒間がより好ましい。
剥離状態を保持する時間は、たとえば次の工程で塗布液層を光沢ロールに再接触させるまでの移動距離等を調節することにより調節できる。
【0044】
<工程(3)>
次に、工程(3)を行う。工程(3)では、剥離状態の塗布液層8を光沢ロール5に再接触させ、その状態で基材4を移動させることにより塗布液層8の再接触状態を保持した後、剥離ロール11を用いて塗布液層8を光沢ロール5から再度剥離する。
塗布液層8が光沢ロール5に再接触した状態を保持することにより、光沢ロール5によって塗布液層8およびインク受容層3が加熱される。そのため、塗布液層8を光沢ロール5から再剥離した際に、塗布液層8およびインク受容層3中の水分の蒸発が効率よく行われる。そのため、充分な乾燥を行うことができ、塗布液層8およびインク受容層3中の空隙を確保できるため、インク吸収性が向上する。
充分に乾燥するだけであれば工程(2)の後にドライヤー等で充分な温度と時間をかけて乾燥させてもよいが、その場合、形成した光沢面が荒れて光沢性が低下する場合がある。本発明においては、塗布液層8が光沢ロール5に接触した状態で塗布液層8およびインク受容層3の加熱が行われるため、光沢ロール5によって得られる光沢を維持したままインク吸収性を向上させることができる。
なお、再接触させた状態においては、工程(1)のプレス塗工後の剥離状態の際に塗布液層8の乾燥が進んでいるため、多量の蒸気が発生することはない。また、再接触であるため、プレス塗工直後ほど塗布液層と光沢ロールとの密着性が高くない。したがって、この段階では、上述したような蒸気の滞留による光沢ムラは生じない。
【0045】
塗布液層8の再接着状態を保持する時間、すなわち塗布液層8を光沢ロール5に再接着してから再剥離するまでの時間としては、上記のような効果が得られる範囲であれば特に限定されず、光沢ロール5の温度、再接触長、基材の移動速度等を考慮して設定すればよい。
再接着状態を保持する時間は、たとえば基材4の移動距離等を調節することにより調節できる。
たとえば前記工程(1)における前記基材を前記光沢ロールとプレスロールとの間を通過させる移動速度が20〜250m/分であり、かつ前記工程(3)における前記光沢ロールの温度が80〜120℃である場合には、塗布液層の剥離が、再接触した位置から光沢ロールの外周に沿って50〜500cmの位置で行われることが好ましい。
【0046】
本工程において、光沢ロール5から再剥離した直後の塗布液層8およびインク受容層3中には水分が残存している。塗布液層8を光沢ロール5から剥離した後、ワインダーで巻き取るまでの間に平衡水分率(4〜6%程度)に達するような場合には乾燥工程は不要であるが、水分率が高い場合は、光沢ロール5から剥離してワインダーで巻き取るまでの間に乾燥工程を行うことが好ましい。
【0047】
<乾燥工程>
乾燥工程は、ドライヤー等の乾燥装置12を用いて行われる。乾燥工程は、必ずしも必須ではないが、本工程を行うことにより、さらに塗布液層(光沢層)およびインク受容層の乾燥を確実に進めることができ、これによって塗布液層(光沢層)およびインク受容層中の空隙率が向上してインク吸収性が高まる。
乾燥装置の能力や仕様は、塗布液層8が光沢ロール5から剥離された時点での塗布液層8およびインク受容層3中の水分率と平衡水分率との差等により、適宜設定される。
【0048】
なお、図1では、光沢ロール5とプレスロール6とを左右に並べて配置し、光沢ロール5とプレスロール6との接線の上部に塗布液溜まりを形成して、縦方向に支持体を通過させたが、例えば、光沢ロール5の下方にプレスロール6を配置し、基材4をインク受容層3を上側にして水平に配置し、インク受容層3上に塗布液7を供給して、基材4を、光沢ロール5とプレスロール6との間を横方向に通過させてもよい。
【0049】
≪第二実施形態≫
次に、本発明の第二実施形態を図3,4を用いて説明する。なお、以下に記載する実施形態において、第一実施形態に対応する構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
本実施形態は、プレス塗工の終了後、直ちに塗布液層8を光沢ロール5から剥離するのではなく、光沢ロール5上である程度接触状態を保持した後剥離する点で第一実施形態と異なっている。すなわち、図3,4に示すように、支持体2、インク受容層3および塗布液層8からなる積層体9がプレス塗工の終了位置Bを通過した後、該積層体9を、図2中のCの位置における接線方向に移動させることにより、塗布液層8が光沢ロール5に接触したまま、光沢ロール5の外周方向に沿って移動し、その後、位置Cで塗布液層8が剥離する。かかる操作を行うことにより、光沢ロール5によって塗布液層8およびインク受容層3が、第一実施形態の場合よりも長時間加熱される。その後、工程(2)において塗布液層8を剥離した際の塗布液層8およびインク受容層3の中の水分の蒸発が促進され、塗布液層8およびインク受容層3の空隙率が高まる。そのため、第一実施形態の場合よりもインク吸収性が向上する。
ここで、「ある程度接触状態を保持した後剥離する」の具体的態様は、上記のような効果が得られれば特に限定されないが、たとえば前記工程(1)における光沢ロール5の温度が80〜120℃、基材4を光沢ロール5とプレスロール6との間を通過させる移動速度が20〜250m/分、ニップ幅が15〜40mmである場合には、塗布液層8の剥離が、前記プレス塗工の終了位置Bから前記光沢ロールの外周に沿って1〜40cmの位置で行われることが好ましい。
【0050】
≪第三実施形態≫
次に、本発明の第三実施形態を図5を用いて説明する。
本実施形態は、塗布液層8の形成に用いる光沢ロールと、塗布液層8を再接触させる光沢ロールとが異なる点で第二実施形態と異なっている。すなわち、図5に示すように、プレス塗工に光沢ロール5aを用い、別の光沢ロール5bに塗布液層8を再接触させる。
光沢ロール5a,5bとしては、第一,二実施形態で用いられる光沢ロール5と同様のものが使用できる。
なお、本実施形態では、第二実施形態と同様、プレス塗工後、塗布液層8を、光沢ロール5上である程度接触状態を保持した後剥離する態様を示したが、本実施形態はこれに限定されず、第一実施形態と同様、プレス塗工後直ちに塗布液層を光沢ロールから剥離してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第一実施形態を説明する概略図である。
【図2】図1に示す概略図の部分拡大図である。
【図3】本発明の第二実施形態を説明する概略図である。
【図4】図2に示す概略図の部分拡大図である。
【図5】本発明の第三実施形態を説明するための概略図である。
【図6】従来のインクジェット記録体の製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1…インクジェット記録体、2…低透気性又は非透気性の支持体、3…インク受容層、4…基材、5…光沢ロール、6…プレスロール、7…光沢層を形成するための塗布液、8…塗布液層、9…積層体、10…剥離ロール、11…剥離ロール、12…乾燥装置、13…光沢層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低透気性または非透気性の支持体上に、インク受容層と、該インク受容層上に設けられた平均一次粒子径3〜100nmの微粒子を含有する光沢層とを有するインクジェット記録体の製造方法であって、
前記光沢層を、下記工程(1)〜(3)を含む工程により形成することを特徴とするインクジェット記録体の製造方法。
工程(1):前記支持体上に前記インク受容層を設けてなる基材の前記インク受容層上に、前記光沢層を形成するための塗布液を供給し、前記基材を、加熱された光沢ロールとプレスロールとの間を、前記塗布液が供給された側の面が光沢ロールに接触するように通過させることにより前記塗布液をプレス塗工して塗布液層を形成する工程
工程(2):前記塗布液層が湿潤状態または半乾燥状態にあるうちに前記塗布液層を前記光沢ロールから剥離し、剥離状態を保持する工程
工程(3):前記塗布液層を加熱された光沢ロールに再接触させ、再接触状態を保持した後、前記塗布液層を前記光沢ロールから剥離する工程
【請求項2】
前記工程(1)における前記光沢ロールの温度が80〜120℃、前記基材を前記光沢ロールとプレスロールとの間を通過させる移動速度が20〜250m/分、ニップ幅が15〜40mmであり、
前記工程(2)における前記塗布液層の剥離が、前記プレス塗工の終了位置から前記光沢ロールの外周に沿って1cm未満の位置で行われる請求項1記載のインクジェット記録体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)における前記光沢ロールの温度が80〜120℃、前記基材を前記光沢ロールとプレスロールとの間を通過させる移動速度が20〜250m/分、ニップ幅が15〜40mmであり、
前記工程(2)における前記塗布液層の剥離が、前記プレス塗工の終了位置から前記光沢ロールの外周に沿って1〜40cmの位置で行われる請求項1記載のインクジェット記録体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)における前記基材を前記光沢ロールとプレスロールとの間を通過させる移動速度が20〜250m/分であり、
前記工程(3)における前記光沢ロールの温度が80〜120℃であり、前記塗布液層の剥離が、再接触した位置から前記光沢ロールの外周に沿って50〜500cmの位置で行われる請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
【請求項5】
前記プレス塗工に用いる光沢ロールと、前記塗布液層を再接触させる光沢ロールとが同一である請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
【請求項6】
前記光沢ロールの直径が200〜350cmである請求項5記載のインクジェット記録体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(3)の後、さらに、前記塗布液層を乾燥する工程を行う請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。
【請求項8】
前記支持体がフイルムまたは樹脂被覆紙である請求項1〜7のいずれか一項に記載のインクジェット記録体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−21867(P2007−21867A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206723(P2005−206723)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】